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特開2024-159567エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159567
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/18 20060101AFI20241031BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08G59/18
C08J5/24 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065099
(22)【出願日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2023074055
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉本 篤希
(72)【発明者】
【氏名】坂田 宏明
(72)【発明者】
【氏名】林 柚希
【テーマコード(参考)】
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AD28
4F072AD31
4F072AE01
4F072AE02
4F072AF14
4F072AF19
4F072AF25
4F072AG03
4F072AL01
4J036AH05
4J036AH07
4J036AH10
4J036AH11
4J036AH13
4J036AJ17
4J036DB15
4J036DC10
4J036DC25
4J036DC31
4J036DC40
4J036DD05
4J036DD07
4J036FA10
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】
本発明では、硬化物の高温/湿潤弾性率、ゴム状態弾性率について、従来技術に対し優れた特性を示し得るエポキシ樹脂組成物、そのエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料およびその樹脂組成物が繊維基材に含浸されて成るプリプレグを提供する。
【解決手段】
少なくとも次の構成要素[A]~[D]を含んでなるエポキシ樹脂組成物であって、
全エポキシ樹脂100質量部に対して、構成要素[A]を60~100質量部含み、
構成要素[B]を13質量部以上45質量部以下含んでいる、エポキシ樹脂組成物。
[A]:1分子内に4個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
[B]:単官能フェノール類
[C]:硬化剤
[D]:硬化促進剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも次の構成要素[A]~[D]を含んでなるエポキシ樹脂組成物であって、
全エポキシ樹脂100質量部に対して、構成要素[A]を60~100質量部含み、
構成要素[B]を13質量部以上45質量部以下含んでいる、エポキシ樹脂組成物。
[A]:1分子内に4個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
[B]:単官能フェノール類
[C]:硬化剤
[D]:硬化促進剤
【請求項2】
構成要素[A]が、一般式(I)で表される、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(I)中、R、Rは、それぞれ炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、ハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。m、mはそれぞれ0~4の整数である。mまたはmが2以上である場合、複数のR、Rのそれぞれは、いずれも、同一であっても異なってもよい。Xは、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-SO-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-N=N-、で表されるいずれかの構造である。)
【請求項3】
構成要素[B]が、ヒドロキシフェニル化合物、ナフトール化合物またはヒドロキシビフェニル化合物のいずれかである、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
構成要素[B]が、一般式(II)、一般式(III)、一般式(IV)または一般式(V)で表される、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】
(上記一般式(II)中、R、Rは、それぞれ炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。mは0~4の整数であり、mは0~5の整数である。mまたはmが2以上である場合、複数のR、Rのそれぞれは、いずれも、同一であっても異なってもよい。Aは、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-SO-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-N=N-、で表されるいずれかの構造である。)
【化3】
(上記一般式(III)中、Rは、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。mは0~7の整数である。mが2以上である場合、複数のRは、いずれも、同一であっても異なってもよい。)
【化4】
(上記一般式(IV)中、R、Rは、それぞれ炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。mは0~4の整数であり、mは0~5の整数である。mまたはmが2以上である場合、複数のR、Rのそれぞれは、いずれも、同一であっても異なってもよい。)
【化5】
(上記一般式(V)中、Rは、それぞれ炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。mは0~5の整数である。mが2以上である場合、複数のRのそれぞれは、いずれも、同一であっても異なってもよい。)
【請求項5】
構成要素[C]が芳香族ポリアミンである、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
構成要素[A]のエポキシ当量が90g/eq、以上300g/eq以下であり、構成要素[B]のフェノール性水酸基由来の活性水素当量が100g/eq以上400g/eq以下である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなるプリプレグ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物、および強化繊維を含んでなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性に優れた繊維強化複合材料を与えるエポキシ樹脂組成物、そのエポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグおよび繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が、そしてマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特に炭素繊維との接着性、耐熱性、弾性率および耐薬品性を有し、硬化収縮が最小限であるエポキシ樹脂が多く用いられている。近年、繊維強化複合材料の使用例が増えるに従い、その要求特性は厳しくなっている。特に航空宇宙用途や車両などの構造材料に適用する場合には、例えば、引張強度や圧縮強度といった特徴の異なる物性を厳しい条件下でも十分保持することが要求される。これらの物性に関する要求を満たすために、マトリックス樹脂の改良がなされている。強化繊維複合材料の高温/湿潤条件下の圧縮強度向上には、圧縮荷重に対する強化繊維の座屈を抑制するためにマトリックス樹脂硬化物の高弾性率化が有効であることが知られている。一方で、引張強度向上のためには、強化繊維の引張強度利用率を高める必要があるが、マトリックス樹脂硬化物のゴム状態における弾性率を低下させると引張強度利用率が向上することが知られている。そして、マトリックス樹脂硬化物のゴム状態における弾性率の低下には、マトリックス樹脂硬化物の架橋点の密度(以下、架橋密度ということがある)を下げることが有効であると知られている。
【0003】
特許文献1では多官能エポキシ樹脂およびナフトールグリシジルエーテル類を使用したエポキシ樹脂組成物が提案されている。特許文献2では、ペンダント型エポキシ樹脂を使用したエポキシ樹脂組成物が提案されている。特許文献3では、特定の官能基を有するフェノール化合物を所定量使用したエポキシ樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/058766号公報
【特許文献2】国際公開第2010/109929号公報
【特許文献3】国際公開第2018/159574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたエポキシ樹脂組成物の硬化物は、高温/湿潤条件下での弾性率は高い値を示すものの、架橋密度が高い構造を有しているためゴム状態における弾性率も高く、結果として引張強度利用率の大きな向上には至っていない。一方、特許文献2に記載されたエポキシ樹脂組成物の硬化物は、高温/湿潤弾性率について、それ以前の一般的なエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物と比較して優れた高い値を示し、その上ゴム状態弾性率についてより低い値を示し得るものの、まだ不十分であった。また、特許文献3に記載されたエポキシ樹脂組成物の硬化物についても、高温/湿潤弾性率およびゴム状態弾性率としてはなお十分なものとはいえないものであった。
【0006】
そこで本発明では、硬化物の高温/湿潤弾性率、ゴム状態弾性率について、従来技術に対し優れた特性を示し得るエポキシ樹脂組成物、そのエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料およびその樹脂組成物が繊維基材に含浸されて成るプリプレグを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は次の構成要素を有するエポキシ樹脂組成物を提供する。
1.少なくとも次の構成要素[A]~[D]を含んでなるエポキシ樹脂組成物であって、
全エポキシ樹脂100質量部に対して、構成要素[A]を60~100質量部含み、
構成要素[B]を13質量部以上45質量部以下含んでいる、エポキシ樹脂組成物。
[A]:1分子内に4個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
[B]:単官能フェノール類
[C]:硬化剤
[D]:硬化促進剤
2. 構成要素[A]が、後述の一般式(I)で表される、上記1に記載のエポキシ樹脂組成物。
3. 構成要素[B]が、ヒドロキシフェニル化合物、ナフトール化合物またはヒドロキシビフェニル化合物である、上記1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
4. 構成要素[B]が、後述の一般式(II)、一般式(III)、一般式(IV)または一般式(V)で表される、上記1~3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
5. 構成要素[C]が芳香族ポリアミンである、上記1~4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
6. 構成要素[A]のエポキシ当量が90g/eq、以上300g/eq以下であり、構成要素[B]のフェノール性水酸基由来の活性水素当量が100g/eq以上400g/eq以下である、上記1~5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。 また、本発明に係るプリプレグは、上記1~6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなるものである。
【0008】
さらに、本発明に係る繊維強化複合材料は、上記1~6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物、および強化繊維を含んでなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、エポキシ樹脂硬化物の高温/湿潤条件下での優れた弾性率と低いゴム状態弾性率を兼ね揃えたエポキシ樹脂組成物を提供することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物を繊維基材と共に用いてなる繊維強化複合材料およびプリプレグは、上記のエポキシ樹脂組成物の優れた特性により、高温/湿潤条件下での優れた圧縮強度および優れた引張特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物における各構成要素について詳細を述べる。なお、本発明において、「芳香族」とは、芳香族炭化水素や共役不飽和複素環式化合物を化学構造中に含むものである。
【0011】
本発明で用いられる構成要素[A]は、1分子内に4個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂の具体例として、例えば 、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、メタキシレンジアミン型、フェノールノボラック型、テトラフェニロールエタン型、ナフタレン型、ビフェニル型、イソシアヌレート型のエポキシ樹脂およびそのハロゲン原子置換体、アルキル置換体、水添品などが挙げられる。本発明では、構成要素[A]1分子に含まれる4個以上のエポキシ基のうち1個または2個が、後述の単官能フェノール類(構成要素[B])のフェノール性水酸基と反応した分子構造を含むことで、エポキシ樹脂組成物の硬化物(以後、樹脂硬化物ということがある。)において、架橋点の密度が小さい構造(すなわち、低いゴム状態弾性率となり得る構造)でありながら、高温/湿潤条件下での高い弾性率を発現する。なお、高温/湿潤条件とは、高温かつ湿潤の条件を指す。従来技術に係る樹脂組成物の場合、通常は、架橋密度が低いことは、樹脂硬化物中に大きな自由体積が生じるため上記条件下での弾性率が低いことを意味する。しかし、本発明のエポキシ樹脂組成物の場合には、硬化物において、架橋密度が低いながらも、構成要素[B]由来の単官能フェノール類の残基を用いることで、上記従来技術においては生じるはずと考えられる自由体積が埋められる。このため、樹脂硬化物は高温/湿潤条件下での弾性率が低いことがない。すなわち、構成要素[A]の少なくとも一部においては、4個以上のエポキシ基のうち1個または2個は架橋点として機能せず、樹脂硬化物中の自由体積を埋める役割を果たし、残りのエポキシ基が構成要素[C]硬化剤と反応して架橋点として機能し、耐熱性を担保する。かかる反応による、耐熱性低下抑制および十分な強度の架橋構造形成の観点から、構成要素[A]は1分子内に4個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であることが重要である。構成要素[A]は、1分子内のエポキシ基の数が6個以下であると、樹脂硬化物の架橋点の密度が高くなりすぎず、ゴム状態弾性率が低い構造となるため好ましい。
【0012】
本発明において、樹脂硬化物の耐熱性、弾性率の観点から、構成要素[A]のエポキシ当量は、90g/eq以上300g/eq以下が好ましく、100g/eq以上200g/eq以下がより好ましい。エポキシ当量が300g/eq以下であると、樹脂硬化物の架橋密度が低くなり過ぎず、耐熱性および弾性率に優れるため好ましい。また、エポキシ当量が90g/eq以上であると、樹脂硬化物の架橋密度が高くなりすぎず、低いゴム状態弾性率となるため好ましい。構成要素[A]として複数のエポキシ樹脂を併用する場合、それぞれのエポキシ樹脂を構成要素[A]とすると、(式1)で計算される値を構成要素[A]のエポキシ当量とする。
【0013】
【数1】
【0014】
構成要素[A]の具体的な化学構造としては、下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。特に、Xは、-CH-や-O-であると、エポキシ樹脂が低粘度であるため取り扱いの観点から好ましい。
【0015】
【化1】
【0016】
(上記一般式(I)中、R、Rは、それぞれ炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。m、mはそれぞれ0~4の整数である。mまたはmが2以上である場合、複数のR、Rのそれぞれは、いずれも、同一であっても異なってもよい。Xは、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-SO-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-N=N-、で表されるいずれかの構造である。)
上記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-3,3’-ジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、テトラグリシジル-3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、テトラグリシジル-3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。例えば、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとしては、以下の市販品を用いることができる。“スミエポキシ”(登録商標)ELM-434(住友化学工業(株)製)、“jER”(登録商標)604(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト”(登録商標)MY721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製、などが挙げられる。
【0017】
本発明において、樹脂硬化物の耐熱性および硬化不良抑制、十分な強度の架橋構造形成という観点から、構成要素[A]を全エポキシ樹脂100質量部に対して60~100質量部含む必要があり、80~100質量部含むことがより好ましく、90~100質量部含むことがさらに好ましく、100質量部含むことが特に好ましい。全エポキシ樹脂中に対して、構成要素[A]をかかる比率で含むことで、より高い耐熱性を発現する樹脂硬化物が得られやすくなる。また、本発明において、発明の効果を妨げない範囲で構成要素[A]以外のエポキシ樹脂を含んでもよい。
【0018】
本発明で用いられる構成要素[B]は、単官能フェノール類である。ここで、単官能フェノール類とは、フェノール類であって、分子内に芳香環に結合した1個のフェノール性水酸基以外には構成要素[A]におけるエポキシ基と付加反応し得る官能基を有さない化合物である。構成要素[A]のエポキシ基と付加反応する官能基を1分子内に2個以上持たないことで、エポキシ基と反応した単官能フェノール類の残基自体は架橋点として機能せず、硬化物中で自由体積が埋められるため、高温/湿潤条件での高い弾性率を発現する。仮に、エポキシ基を含む構成要素[A]の官能基と付加反応し得る官能基をフェノール性水酸基と合わせて1分子内に2個以上含む場合には、樹脂硬化物中において構成要素[A]と反応して、架橋点として機能するため、硬化物内で自由体積が埋まるための機能は非常に小さく、一般には本発明で示される高温/湿潤条件での高い弾性率は発現しない。
【0019】
また、上記のフェノール性水酸基とエポキシ基の反応は、後述する構成要素[D]硬化促進剤の存在条件下において、通常、100℃程度の比較的低温から開始し、単官能フェノール類は、揮発するよりも先に構成要素[A]のエポキシ基と反応することでエポキシ樹脂として組成物に取り込まれ得るため、本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化する過程における揮発分(質量%)は、ペンダント型エポキシ樹脂といった従来技術のエポキシ樹脂を使用したエポキシ樹脂組成物と比較して低く抑えられる。硬化する過程での揮発分が多いと硬化物中にボイドが生じ、この箇所が破壊の起点となって樹脂強度低下が起こるため、揮発分は可能な限り低い方が好ましい。揮発分の目安としては、エポキシ樹脂組成物を160℃で30分間熱風オーブン内に静置させた際に、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3%質量以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
上記したように、硬化物中の自由体積が埋まり、高温/湿熱条件下の弾性率が向上することの観点、およびエポキシ樹脂組成物を硬化する過程における揮発分の低減という観点から、構成要素[B]は、フェノール性水酸基由来の活性水素当量(以下、P-OH当量ということがある。)が、100g/eq以上400g/eq以下であることが好ましく、120g/eq以上300g/eq以下がより好ましく、130g/eq以上260g/eq以下が更に好ましい。構成要素[B]として複数の単官能フェノール類を併用する場合、それぞれの単官能フェノール類を構成要素[B]とすると、(式2)も用いて計算される値を上記構成要素[B]のフェノール性水酸基由来の活性水素当量とする。
【0021】
【数2】
【0022】
単官能フェノール類として、1分子内に含まれる芳香環の数は限られるものではないが、2つ以上のものが挙げられ、中でも芳香環の数が2つのものが好適に用いられる。ただし、1分子内に含まれる芳香環の数が1つであってもよい。例としては、ヒドロキシフェニル化合物、ナフトール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物が挙げられる。具体的な例としては、4-ヒドロキシビフェニル、3-ヒドロキシビフェニル、2-ヒドロキシビフェニル、α-ナフトール、β-ナフトール、p-クミルフェノール、m-クミルフェノール、о-クミルフェノール、4-フェノキシフェノール、3-フェノキシフェノール、4-ベンジルフェノール、3-ベンジルフェノール、スチレン化フェノール、トリベンジルフェノール、2,6-ジーtert-ブチルー4-メチルフェノール、3―メチル-6-tert-ブチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノールが挙げられる。
【0023】
ヒドロキシフェニル化合物としては、下記一般式(II)や(V)で表される化合物が好ましく、また、ナフトール化合物としては、下記一般式(III)で表される化合物が好ましく、またヒドロキシビフェニル化合物としては下記一般式(IV)で表される化合物が好ましい。特に、エポキシ樹脂や汎用の有機溶剤への溶解性に優れるため、反応が容易という観点から、ヒドロキシフェニル化合物、ナフトール化合物は好ましい。特に、一般式(III)で表されるナフトール化合物は、樹脂硬化物の乾燥状態における室温弾性率が優れるという観点で好ましい。
【0024】
また、下記一般式(II)、(III)、(IV)において、粘度および耐熱性の観点から、m+m、m、m+mの各々は2以下であることが好ましく、m~mのいずれか少なくとも1つ、または全てが1以下であることが好ましく、0であることがより好ましい。下記一般式(V)において、揮発分低減及び耐熱性の観点から、mが1以上4以下であることが好ましく、2以上3以下であることがより好ましい。
【0025】
【化2】
【0026】
(上記一般式(II)中、R、Rは、それぞれ炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。mは0~4の整数であり、mは0~5の整数である。mまたはmが2以上である場合、複数のR、Rのそれぞれは、同一であっても異なってもよい。Aは、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-SO-、-CH-、―CH(CH)-、-C(CH-、-N=N-、で表されるいずれかの構造である。)
【0027】
【化3】
【0028】
(上記一般式(III)中、Rは、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。mは0~7の整数である。mが2以上である場合、複数のRは、同一であっても異なってもよい。)
【0029】
【化4】
【0030】
(上記一般式(IV)中、R、Rは、それぞれ炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。mは0~4の整数であり、mは0~5の整数である。mまたはmが2以上である場合、複数のR、Rのそれぞれは、同一であっても異なってもよい。)
【0031】
【化5】
【0032】
(上記一般式(V)中、Rは、それぞれ炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数3~6の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、アシル基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれた少なくとも一つを表す。mは0~5の整数である。mが2以上である場合、複数のRのそれぞれは、いずれも、同一であっても異なってもよい。)
本発明に係るエポキシ樹脂組成物において、全エポキシ樹脂100質量部に対する構成要素[B]の配合量としては、13質量部以上45質量部以下であり、好ましくは15質量部以上40質量部以下であり、より好ましくは17質量部以上35質量部以下である。構成要素[B]の配合量がこの範囲であれば、耐熱性低下を抑制しつつ、ゴム状態弾性率低減(架橋点の密度の低減)と高温/湿潤条件の高い弾性率発現の効果が得られる。また、構成要素[A]のエポキシ基当量に対する構成要素[B]のP-OH当量の比としては、1.00以上3.00以下が好ましく、1.05以上2.30以下がより好ましく、1.10以上2.00以下が更に好ましい。この範囲であれば上記効果がより得られる。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、構成要素[C]硬化剤を配合して用いることが必須である。ここで説明される硬化剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の硬化剤であり、エポキシ基と反応し得る活性基を少なくとも1分子内に2個以上有する化合物である。硬化剤としては、具体的には、ジシアンジアミド、芳香族ポリアミン、各種酸無水物、が挙げられる。芳香族ポリアミンを硬化剤として用いることにより、耐熱性の良好なエポキシ樹脂硬化物が得られる。特に、芳香族ポリアミンの中でも、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、剛直な化学構造を有するため、耐熱性および弾性率の良好なエポキシ樹脂硬化物が得られるという観点に加えて、電子求引性の官能基を有するため、アミンの求核性が適度に抑制され、樹脂調製工程やプリプレグ等の中間基材製造工程等での良好なポットライフが得られるという観点で、好適な硬化剤である。また、芳香族ポリアミンの内、ジアミノジフェニルメタン骨格にアルキル基が置換された化合物は、置換されたアルキル基の効果により、樹脂硬化物が低吸水率となるため高温/湿潤条件下の弾性率が優れるという観点で、好適な硬化剤である。
【0034】
芳香族ポリアミン硬化剤の市販品としては、セイカキュア-S(和歌山精化工業(株)製)、“JERキュア”(登録商標)W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’-DAS(三井化学(株)製)、“プリマキュア‘’(登録商標)M-DEA(アークサーダジャパン(株)製)、“プリマキュア‘’(登録商標)M-DIPA(アークサーダジャパン(株)製)、“プリマキュア‘’(登録商標)M-MIPA(アークサーダジャパン(株)製)、“プリマキュア‘’(登録商標)DETDA(アークサーダジャパン(株)製)などが挙げられる。これら芳香族ポリアミンは単独で用いても良いし、適宜2種類以上混合して用いてもよい。また、他成分との混合時は固体(粉体)、液体いずれの形態でもよく、両者を混合して用いても良い。
【0035】
構成要素[C]の好ましい配合量は、エポキシ樹脂組成物に配合される全てのエポキシ樹脂に由来するエポキシ基のモル数に対し、構成要素[B]と構成要素[C]の活性水素のモル数を含めた合計の活性水素のモル数の比が0.6~1.4倍となる量であることが、良好な機械物性を発現するエポキシ樹脂硬化物が得られる点から好ましい。上記モル比が0.8~1.2倍であると耐熱性が優れるので更に好ましい。上記モル比が1.1~1.5倍であると速硬化性が優れるので好ましい。
【0036】
また、エポキシ樹脂組成物の調製工程において、構成要素[C]は、構成要素[A]を含むエポキシ樹脂組成物の温度を100℃未満とした状態で混練させることが好ましく、上記温度は90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。上記構成要素[C]を混練する温度が100℃未満であると構成要素[A]と構成要素[C]の反応性が抑制されるため、混練中におけるエポキシ樹脂組成物の粘度上昇が低減できる。また、上記構成要素[C]を混練する温度の下限としては、50℃以上であることが好ましい。一般的に50℃以上の温度であれば樹脂組成物の粘度が過度に高すぎず、混練によって十分に構成要素[C]をエポキシ樹脂組成物中に分散させることができる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、構成要素[D]として硬化促進剤を配合することが必須である。構成要素[D]は、具体的には、エポキシ樹脂と単官能フェノール類との付加反応の促進剤として作用することができ、構成要素[A]と構成要素[B]の反応を促進する。一方で、構成要素[A]と構成要素[C]の反応を促進することがあってもよく、むしろ好ましい。硬化促進剤としては、エポキシ樹脂組成物の保存安定性と反応性を両立するという観点から、芳香族ウレア化合物、イミダゾール誘導体およびリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種類の硬化促進剤を用いることが好ましい。
【0038】
前記芳香族ウレア化合物としては、例えば、3-フェニル-1,1-ジメチルウレア、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、トルエンビスジメチルウレア等が挙げられる。また、芳香族ウレア化合物の市販品としては、DCMU-99(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“Omicure”(登録商標)24(ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)等を使用することができる。
【0039】
前記イミダゾール誘導体としては、例えば、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-エチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール等が挙げられる。また、イミダゾール誘導体の市販品としは、“キュアダクト”(登録商標)P-0505、1B2MZ、1B2PZ、2MZ-CN、2E4MZ-CN、2PZ-CN(以上、四国化成工業(株)製)等が挙げられる。
【0040】
前記リン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ-0―トリルホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。また、リン化合物の市販品としては、“ホクコ-TPP”(登録商標)、“TOTP”(登録商標)、“TPP-K”(登録商標)、“TPP-MK”(登録商標)、(以上、北興化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0041】
構成要素[D]である硬化促進剤の含有量は、樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1~8.0質量部であり、より好ましくは0.5~5.0質量部である。硬化促進剤をこの範囲で含有することにより、保存安定性と反応速度のバランスに優れ、物性が良好な樹脂硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を失わない範囲において、構成要素[E]として、組成物を構成するエポキシ樹脂のいずれかに常温で溶解する熱可塑性樹脂を前記したエポキシ樹脂に溶解させて、含有させることも好ましい。かかる熱可塑性樹脂は、得られるプリプレグのタック性の制御、プリプレグを加熱硬化する時のマトリックス樹脂の流動性の制御および得られる繊維強化複合材料の耐熱性や弾性率を損なうことなく靭性を付与するために、含有させることができる。かかる熱可塑性樹脂としては、ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルスルホンなどを挙げることができる。これらのポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂は単独で用いてもよいし、適宜併用して用いてもよい。中でも、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルイミドは、得られる繊維強化複合材料の耐熱性や力学物性を低下することなく靭性を付与することができるため、好ましく用いることができる。
【0043】
構成要素[E]としての熱可塑性樹脂は市販品を用いることができる。例えば、“スミカエクセル”(登録商標)5003P、5003PS、5900P、5400P、5200P、4800P、4100P、3600P、2603MP(住友化学工業(株)製)、PET、PBT((株)KDA製)、“J-POVAL”(登録商標)JC-25、JM-17、JP-03(日本酢ビ・ポバール(株)製)、“エスレック”(登録商標)BX-L、KS-1、KS-10(積水化学工業(株)製)、“ウルトラセン”(登録商標)515、530(東ソー(株)製)、“JPH-3800”(城北化学工業(株)製)、“YSポリスターUH130”(ヤスハラケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0044】
上記熱可塑性樹脂の配合量は、全エポキシ樹脂を100質量部とした場合、1~50質量部であることが、樹脂フィルム化の容易性および樹脂フィルムを繊維基材に含浸し作製したプリプレグのタック性の観点から好ましい。より好ましくは、2~20質量部である。
【0045】
本発明においては、熱可塑性樹脂を主成分とする粒子(以下、熱可塑性樹脂粒子という場合がある)を含有させることも好適である。かかる熱可塑性樹脂粒子は、本発明に係るプリプレグにおいて、エポキシ樹脂等の他の構成要素に溶解することがなく、粒子状を保つものであり、さらには、繊維強化複合材料とするために通常用いられる温度(例えば、180℃)で加熱しても、繊維強化複合材料内で溶解することがなく、なお粒子状を保つものである。かかる熱可塑性樹脂粒子を含有させることにより、本発明に係るプリプレグを積層して繊維強化複合材料としたときに、隣接した強化繊維の層間に形成される樹脂層の靱性が向上するため、耐衝撃性が向上する。
【0046】
熱可塑性樹脂粒子の樹脂種類としては、エポキシ樹脂組成物に混合して用い得る種類のものを使用することができる。中でも、ポリアミドは最も好ましく、ポリアミドの中でも、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド6/12共重合体や、特開2009-221460号公報の実施例1~7に記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)は、特に良好なエポキシ樹脂との接着強度を与える。
【0047】
熱可塑性樹脂粒子の形状、形態としては、球状粒子でも非球状粒子でもよく、多孔質粒子を用いることもできる。樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で、形状としては球状粒子が好ましい。
【0048】
ポリアミド粒子の市販品としては、SP-500、SP-10、TR-1、TR-2、842P-48、842P-80(以上、東レ(株)製)、“オルガソール”(登録商標)1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D、3502D、(以上、アルケマ(株)製)等を使用することができる。これらのポリアミド粒子は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、熱硬化性樹脂粒子、あるいはシリカゲル、カーボンブラック、クレー、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボン粒子、金属粉体といった無機フィラー等を含有させることができる。
【0050】
本発明のプリプレグは、本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなる。すなわち、本発明のプリプレグは、上述したエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂とし、このエポキシ樹脂組成物を強化繊維と複合させたものである。強化繊維として、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を好ましく挙げることができる。中でも炭素繊維が特に好ましい。炭素繊維は、引張弾性率が200~440GPaの範囲であることが好ましい。この範囲であると炭素繊維強化複合材料に剛性、強度のすべてが高いレベルでバランスするために好ましい。炭素繊維の引張伸度は、0.8~3.0%の範囲であることが好ましい。ここで、上記引張弾性率および引張伸度は、JIS R7601-2006に従い測定された値である。
【0051】
炭素繊維の市販品としては、“トレカ”(登録商標)T800G-24K、“トレカ”(登録商標)T800S-24K、“トレカ”(登録商標)T700G-24K、“トレカ”(登録商標)T300-3K、および“トレカ”(登録商標)T700S-12K(以上、東レ(株)製)などが挙げられる。
【0052】
炭素繊維の形態や配列については、一方向に引き揃えた長繊維や織物等から適宜選択できる。軽量で耐久性がより高い水準にある炭素繊維強化複合材料を得るためには、炭素繊維が、一方向に引き揃えた長繊維(繊維束)や織物等連続繊維の形態であることが好ましい。本発明のプリプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、マトリックス樹脂を有機溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維に含浸させるウェット法、あるいは、マトリックス樹脂を、有機溶媒を用いずに加熱により低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法などの方法により、プリプレグを製造することができる。ウェット法では、マトリックス樹脂を含む液体に強化繊維を浸漬した後に引き上げ、オーブンなどを用いて有機溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。
【0053】
また、ホットメルト法では、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を、直接、強化繊維に含浸させる方法、あるいは一旦マトリックス樹脂を離型紙などの上にコーティングした樹脂フィルム付きの離型紙シートをまず作製し、次いで強化繊維の両側あるいは片側から樹脂フィルムを強化繊維側に重ね、加熱加圧することにより強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させる方法などを用いることができる。
【0054】
本発明のプリプレグの製造方法としては、プリプレグ中に残留する有機溶媒が実質的に皆無となるため、有機溶媒を用いずにマトリックス樹脂を強化繊維に含浸させるホットメルト法が好ましい。
【0055】
本発明のプリプレグは、単位面積あたりの強化繊維量が30~2,000g/mであることが好ましい。かかる強化繊維量が30g/m以上であると、繊維強化複合材料成形の際に所定の厚みを得るための積層枚数を少なくすることができ、作業が簡便となりやすい。一方で、強化繊維量が2,000g/m以下であると、プリプレグのドレープ性が向上しやすくなる。
【0056】
本発明のプリプレグの繊維質量含有率は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、更に好ましくは40~80質量%である。繊維質量含有率が30質量%以上であると、樹脂の量が多くなりすぎず、比強度と比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が得られやすくなり、また、繊維強化複合材料の成形の際、硬化時の発熱量が高くなりすぎることが起きにくい。また、繊維質量含有率が90質量%以下であると、樹脂の含浸不良が生じにくく、得られる繊維強化複合材料のボイドが少なくなりやすい。
【0057】
本発明の繊維強化複合材料の第一の態様は、本発明のプリプレグを硬化させてなるものである。この態様の繊維強化複合材料は、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱して樹脂を硬化させる方法を一例として製造することができる。ここで熱および圧力を付与する方法には、例えば、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が採用される。
【0058】
本発明の繊維強化複合材料の第二の態様は、本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物、および、強化繊維を含んでなるものである。この態様の繊維強化複合材料は、プリプレグとする段階を経ることなく、本発明のエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させた後、加熱硬化する方法、例えば、ハンド・レイアップ法、フィラメント・ワインディング法、プルトルージョン法、レジン・インジェクション・モールディング法、レジン・トランスファー・モールディング法などの成形法によって作製することができる。
【0059】
なお、以上に記した数値範囲の上限および下限は、任意に組み合わせることができる。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものでは無い。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0061】
<実施例および比較例で用いられた原材料>
(1)構成要素[A]
・“スミエポキシ”(登録商標)ELM434(テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、住友化学(株)製)、エポキシ当量:122g/eq、1分子内に4個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
・3,4’-TGDDE(テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、東レファインケミカル(株)製)、エポキシ当量:106g/eq、1分子内に4個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
・4,4’-TGDDE(テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、東レファインケミカル(株)製)、エポキシ当量:106g/eq、1分子内に4個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
(2)構成要素[A]以外のエポキシ樹脂
・“EPICLON”(登録商標)830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、DIC(株)製)、エポキシ当量:170g/eq、1分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
・“TOREP”(登録商標)A-204E(N,N-ジグリシジル-p-フェノキシアニリン、東レ・ファインケミカル(株)製)1分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、エポキシ当量:162g/eq、1分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
・“EPICLON”(登録商標)HP4770(ビスナフタレン型エポキシ樹脂、DIC(株)製)、エポキシ当量:205g/eq、1分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
・“デナコール”(登録商標)EX-142(o-フェニルフェノールグリシジルエーテル、ナガセケムテックス(株)製)、エポキシ当量:240g/eq、1分子内に1個のエポキシ基を有する単官能エポキシ樹脂
(3)構成要素[B]
・p-クミルフェノール(三井化学ファイン(株)製)、P-OH当量:212g/eq、ヒドロキシフェニル化合物
・β-ナフトール(三井化学ファイン(株)製)、P-OH当量:144g/eq、ナフトール化合物
・ANTAGE SP(スチレン化フェノール、川口化学工業(株)製)、P-OH当量:308g/eq、ヒドロキシフェニル化合物
・TBP(トリベンジルフェノール、川口化学工業(株)製)、P-OH当量:348g/eq、ヒドロキシフェニル化合物
・2,3,6-TMP(2,3,6―トリメチルフェノール、本州化学工業(株)製)、P-OH当量:136g/eq、ヒドロキシフェニル化合物
・3M6B(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール、本州化学工業(株)製)、P-OH当量:164g/eq、ヒドロキシフェニル化合物
(4)構成要素[B]以外のフェノール類
・ビスフェノールF(東京化成工業(株)製)、フェノール性水酸基由来の活性水素当量:100g/eq、1分子内にフェノール性水酸基を2個有するフェノール化合物
(5)構成要素[C]
・セイカキュア-S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、融点178℃、和歌山精化(株)製)、アミノ基由来の活性水素等量:62g/eq
(6)構成要素[D]
・TPP-MK(テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、北興化学工業(株)製)
・“ホクコ-TPP”(登録商標)(トリフェニルホスフィン、北興化学工業(株)製)
<各種作製・評価法>
(7)エポキシ樹脂組成物の調製(実施例1~27および比較例1~19)
表1~4に示す配合比(表中の単位:質量部)で、構成要素[C]、構成要素[D]以外の成分を所定量加え、混練しつつ、130℃まで昇温し、130℃において30分間混練することで、粘調液を得た。次いで、混練しつつ70℃まで降温させた後、構成要素[C]、構成要素[D]を所定量加え、さらに混練し、エポキシ樹脂組成物を得た。
(8)エポキシ樹脂硬化物の作製
上記(7)に従い調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン”(登録商標)製スペーサーを用いて厚み2mmになるように設定したモールド中で、30℃から速度1.7℃/分で180℃まで昇温し、180℃で2時間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。
(9)室温/乾燥条件下の樹脂硬化物の曲げ弾性率測定
上記(8)に従い作製した樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの矩形の試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを2.5mm/分、サンプル数n=6、弾性率取得荷重範囲5-30Nで、JISK7171(1994)に従って3点曲げを実施し、弾性率の平均値を樹脂硬化物の室温/乾燥条件下の曲げ弾性率とした。
(10)高温/湿潤条件下の樹脂硬化物の曲げ弾性率測定
上記(8)に従い作製した樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの矩形の試験片を切り出し、98℃の沸騰水に24時間浸漬させた後、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、測定温度を82℃と変更したこと以外は(9)と同じ条件で3点曲げを実施し、弾性率の平均値を樹脂硬化物の高温/湿潤条件下の曲げ弾性率とした。繊維強化複合材料の高温/湿潤条件下圧縮強度の向上に十分な効果をもたらすと考えられる曲げ弾性率である2.8GPa以上の場合に合格とした。
(11)樹脂硬化物のゴム状態弾性率測定
上記(8)に従い作製した樹脂硬化物から、幅10mm、長さ35mmの矩形状に切り出し、試験片を得た。曲げDMA(Q800:TAインスツルメント社製)を用いて、測定周波数1.0Hz、昇温速度5℃/分、ひずみ0.1%、シングルカンチレバーモードの条件で、チャック間の距離を17.8mmとし、30℃から320℃まで昇温して貯蔵弾性率G’を測定した。縦軸をlogG’、横軸を温度とした貯蔵弾性率変化曲線において、昇温に伴いlogG’が急激に低下する前後における直線とみなすことができる2つの領域の直線部を延長したものの交点における温度をガラス転移温度とし、ガラス転移温度を50℃以上上回る温度であって、logG’の変化曲線が平坦部になった状態とみなせる温度におけるG’をゴム状態弾性率とした。前記2つの領域の直線部とは、上記昇温に伴い急激に貯蔵弾性率が低下する前の領域と、貯蔵弾性率が急激に低下する過程にあらわれる領域に示される直線領域または略直線領域である。繊維強度利用率向上に十分効果が見られるゴム状態弾性率である24MPa以下で合格とした。
(12)樹脂硬化物の吸水率測定
上記(8)に従い作製した樹脂硬化物から、幅10mm、長さ35mmの矩形状に3片切り出し、試験片を得た。98℃の沸騰水に浸漬前の試験片の質量、および98℃の沸騰水に48時間浸漬させた後の質量を測定し、次式により樹脂硬化物の吸水率を算出した。3試験片の平均値を樹脂硬化物の吸水率とした。
【0062】
吸水率(%)=(浸漬後試験片質量-浸漬前試験片質量)/(浸漬前試験片質量)×100
<実施例1~27、比較例1~19>
表1~4の配合比に従って上記(7)の手順でエポキシ樹脂組成物を調製し、上記の(8)の手順で樹脂硬化物を得た。樹脂硬化物について(9)~(12)に記載の測定を行った。
【0063】
各種測定結果は表1~4に示す通りである。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
<実施例1~27>
本発明のエポキシ樹脂組成物に必要な構成要素[A]~[D]の全てを含み、全エポキシ樹脂を100質量部とした際に構成要素[A]を60質量部以上、構成要素[B]を13質量部以上45質量部以下含んでいることで、樹脂硬化物が2.8GPa以上の優れた高温/湿潤条件下の曲げ弾性率と24MPa以下という優れたゴム状態弾性率を両立していることが分かる。また、実施例7などから分かるように、特に、構成要素[B]としてナフタレン環を含む化合物を用いると室温/乾燥条件下の曲げ弾性率が優れることが分かる。
<比較例1~4>
十分な量の構成要素[A]に加えて[C]および[D]を含み、構成要素[B]を含まない組成である。比較例1、2と比べると、比較例3、4では、高温/湿潤条件下の曲げ弾性率やゴム状態弾性率は、改善するものの、なお、どちらも不十分である。
<比較例5>
十分な量の構成要素[A]に加えて[C]および[D]を含み、全エポキシ樹脂を100質量部とした際に構成要素[A]を60質量部以上含んでいるが、構成要素[B]を含まない組成である。構成要素[A]以外のエポキシ樹脂として、“デナコール”(登録商標)EX-142(分子内に1個のエポキシ基を有する単官能のエポキシ樹脂)を構成要素[A]とともに併用した組成であり、硬化物中の自由体積の低減を図ったものであるが、この樹脂組成物は、硬化過程における揮発分が非常に多く、樹脂物性評価に値しないと判断した。EX-142のエポキシ基と構成要素[C]に含まれるアミンにおける活性水素との反応が遅いため、硬化過程において単官能のエポキシ樹脂が揮発したと理解できる。硬化物中における自由体積を埋める単官能成分として、構成要素[B]が重要であることが示唆される。
<比較例6、7>
十分な量の構成要素[A]に加えて[C]および[D]を含み、構成要素[B]を含まず、構成要素[B]以外のフェノール類として、ビスフェノールF(1分子内に2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物)を配合した組成である。高温/湿潤条件下の曲げ弾性率の向上やゴム状態弾性率の低減のどちらも不十分である。フェノール類がビスフェノールFの場合には、エポキシ樹脂架橋構造に取り込まれたとしても自由体積を埋める機能はないことや、架橋密度を上げてしまうことが分かる。
<比較例8>
構成要素[A]、[B]、[C]および[D]を含み、全エポキシ樹脂を100質量部とした際に構成要素[B]を13質量部以上45質量部以下含んでいるが、構成要素[A]が60質量部よりも少ない組成である。この樹脂組成物の硬化物は非常に脆く、樹脂物性評価に値しないと判断した。構成要素[A]の配合量が少ないために硬化物において十分な架橋構造が形成できなかったものと推定できる。
<比較例9、10、12、14、15、17~19>
十分な量の構成要素[A]に加えて[B]、[C]および[D]を含み、全エポキシ樹脂を100質量部とした際に構成要素[B]が13質量部よりも少ない組成である。比較例9、10、18、19においては、高温/湿潤条件下の曲げ弾性率は改善するが、構成要素[B]の配合量が少ないため、ゴム状態弾性率の低減は不十分である。比較例12、14、15、17においては、、高温/湿潤条件下の曲げ弾性率の向上、ゴム状態弾性率の低減のどちらも不十分である。
<比較例11、13、16>
十分な量の構成要素[A]に加えて[B]、[C]および[D]を含み、全エポキシ樹脂を100質量部とした際に構成要素[B]が45質量部よりも多い組成である。構成要素[B]の配合量が多いため、ゴム状態弾性率は非常に低く優れるが、十分な強度の架橋構造を形成できていないため、硬化物は脆く、特に高温/湿潤条件下の曲げ弾性率は非常に低い値であった。