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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159598
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】組成物及び蓄熱材
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C09K5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067832
(22)【出願日】2024-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2023072240
(32)【優先日】2023-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023121137
(32)【優先日】2023-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 優
(57)【要約】
【課題】優れた性能を有する組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のある形態は、水と、第1成分と、第2成分とを含み、前記第1成分は塩化アンモニウムであり、前記第2成分は水との共晶温度が-5.0℃以上の化合物である、蓄熱材用の組成物である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、第1成分と、第2成分とを含み、
前記第1成分は、塩化アンモニウムであり、
前記第2成分は、水との共晶温度が-5.0℃以上の化合物である
ことを特徴とする、蓄熱材用の組成物。
【請求項2】
水と、第1成分と、第2成分と、第3成分と、を含み、
前記第1成分は、塩化アンモニウムであり、
前記第2成分は、水との共晶温度が-5.0℃以上の化合物であり、
前記第3成分は、前記第1成分及び前記第2成分以外の化合物であり、
前記第1成分の結晶軸の最大長さa1と、前記第2成分の結晶軸の最大長さa2と、前記第3成分の結晶軸の最大長さa3との関係が、下記式(1)を満足する
ことを特徴とする蓄熱材用の組成物。
(式1) |a2-a3|<|a2-a1|
【請求項3】
前記第2成分が、硫酸塩、硝酸塩及び炭酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記第2成分が硝酸カリウムである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
容器と、前記容器内に収納された請求項1又は2に記載の組成物と、を備える蓄熱材。
【請求項6】
容器と、前記容器内に収納された請求項1又は2に記載の組成物と、を備える食品保冷用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び蓄熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の温度を保つための蓄熱材の一つに、相変化材料がある。相変化材料は、固相から液相への相変化時の潜熱を利用して温度を一定に保つ機能を有する材料のことを指す。
【0003】
蓄熱材は、生鮮食品、冷凍食品、医療品(医薬品)等の保冷に利用されることがあり、-15℃前後等の温度帯を保持することが求められる場合がある。
【0004】
このような温度帯に適した蓄熱材として、特許文献1には、塩化アンモニウムと塩化カリウムを混合させた水溶液であり、-17.5℃の保冷が可能な組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-371269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された組成物は、蓄熱材に適用された場合に要求される性能を十分に満たすものではなかった。
【0007】
そこで本発明は、優れた性能を有する蓄熱材用の組成物の提供を課題とする。
【0008】
本発明者は鋭意検討を行い、特定の成分を含有する組成物によって上記課題を解決可能なことを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の形態は、
水と、第1成分と、第2成分とを含み、
前記第1成分は、塩化アンモニウムであり、
前記第2成分は、水との共晶温度が-5.0℃以上の化合物である
ことを特徴とする、蓄熱材用の組成物である。
【0010】
本発明の第2の形態は、
水と、第1成分と、第2成分と、第3成分と、を含み、
前記第1成分は、塩化アンモニウムであり、
前記第2成分は、水との共晶温度が-5.0℃以上の化合物であり、
前記第3成分は、前記第1成分及び前記第2成分以外の化合物であり、
前記第1成分の結晶軸の最大長さa1と、前記第2成分の結晶軸の最大長さa2と、前記第3成分の結晶軸の最大長さa3との関係が、下記式(1)を満足する
ことを特徴とする蓄熱材用の組成物である。
(式1) |a2-a3|<|a2-a1|
【0011】
第1の形態及び第2の形態において、前記第2成分は、硫酸塩、硝酸塩及び炭酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
第1の形態及び第2の形態において、前記第2成分は、硝酸カリウムであることが好ましい。
【0012】
本発明の第3の形態は、
容器と、前記容器内に収納された第1の形態の組成物又は第2の形態の組成物と、を備える蓄熱材である。
【0013】
本発明の第4の形態は、
容器と、前記容器内に収納された第1の形態の組成物又は第2の形態の組成物と、を備える食品保冷用具である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた性能を有する蓄熱材用の組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、上限値と下限値とが別々に記載されている場合、任意の上限値と任意の下限値とを組み合わせた数値範囲が実質的に開示されているものとする。
【0016】
以下において、ある化合物が記載されている場合、その異性体も同時に記載されているものとする。
【0017】
以下において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(25℃)とし、また、常圧として実施する。
【0018】
以下、組成物の、成分、物性/性質、用途等について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0019】
<<成分>>
本開示に係る組成物は、水と第1成分と第2成分とを含むことが好ましい。
また、組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。
以下、各成分について説明する。
【0020】
<水>
水は、組成物中において、第1成分や第2成分の溶媒或いは分散媒等として機能する。
【0021】
水は、特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、RO(逆浸透膜)水等の純水や超純水等であってもよい。
【0022】
組成物中の水の含有量は、別の成分の濃度等を考慮して調整可能である。水の含有量は、例えば、組成物全量を100.0質量%としたときに、20.0質量%以上、30.0質量%以上、40.0質量%以上、50.0質量%以上、60.0質量%以上、又は、70.0質量%以上であることが好ましい。
【0023】
<第1成分>
第1成分は、塩化アンモニウムである。
【0024】
組成物全量を100.0質量%としたときの第1成分の含有量Mは、5.0質量%以上、8.0質量%以上、又は、10.0質量%以上であることが好ましく、また、30.0質量%以下、28.0質量%以下、又は、25.0質量%以下であることが好ましい。
【0025】
<第2成分>
第2成分は、水との共晶温度が-5.0℃以上となる化合物(特に、無機塩)である。なお、水と化合物との共晶温度は、状態図で示される公知の物性として参照される。また、水と化合物との共晶温度は計測することも可能である。水と化合物との共晶温度は、例えば、水及び化合物の共晶濃度の溶液を作製し、後述する示差走査熱量測定(DSC)に則り融解のピーク温度から計測可能である。仮に水及び化合物の共晶濃度が不明な場合であっても、濃度の異なる水溶液を作製し、各々DSC測定し単一の融解ピークが得られた場合はそのピーク温度から共晶温度を計測可能である。
【0026】
第2成分は、水との共晶温度が、-4.5℃以上、-4.0℃以上、-3.5℃以上、又は、-3.0℃以上であることが好ましく、また、-1.0℃以下、-1.5℃以下、又は、-2.0℃以下であることが好ましい。
【0027】
また別の観点では、水及び第1成分の共晶温度T(-15.8℃)と、水及び第2成分との共晶温度Tと、の差(|T-T|)が、11.0℃以上、11.5℃以上、12.0℃以上、又は、12.5℃以上であることが好ましい。
【0028】
第2成分としての具体例としては、硫酸ニッケル(共晶温度:-4.15℃、共晶潜熱:259J/g)、硫酸マグネシウム(共晶温度:-3.9℃、共晶潜熱:264J/g)、フッ化ナトリウム(共晶温度:-3.5℃、共晶潜熱:314J/g)、水酸化ナトリウム(共晶温度:-2.8℃、共晶潜熱:266J/g)、硝酸カリウム(共晶温度:-2.8℃、共晶潜熱:296J/g)、炭酸ナトリウム(共晶温度:-2.1℃、共晶潜熱:310J/g)、硫酸鉄(共晶温度:-1.8℃、共晶潜熱:287J/g)、硫酸銅(共晶温度:-1.6℃、共晶潜熱:291J/g)等が挙げられる。
【0029】
また、第2成分は、性能の安定性や安全性を高めるという観点から、硫酸塩、硝酸塩及び炭酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましく、硝酸カリウムであることがより好ましい。
【0030】
水と第1成分と第2成分とを含む組成物は、低温まで冷却した際に第2成分の析出が生じることで結晶核剤となり、蓄冷材全体の凍結が生じやすくなることから、過冷却が防止されやすい(例えば、融点から-2℃前後となる冷却条件であっても凝固されやすい)。また、第1成分と第2成分とを併用した場合に、高い潜熱量を有する組成物を得やすい。更に、水と第1成分と第2成分とを含む組成物は、均一な組成物となりやすいことから、安定して凝固されやすい。より具体的には、本開示に係る組成物は、一般的な家庭用冷蔵庫の冷凍室(庫内の平均温度は、通常、-18~-20℃等である。)において凍結が見込める組成物(特別な凍結設備を使用せずとも凍結され易い組成物)とすることも可能である。
【0031】
組成物全量を100.0質量%としたときの組成物中の第2成分の含有量Mは、1.0質量%以上、2.0質量%以上、3.0質量%以上、4.0質量%以上、又は、5.0質量%以上であることが好ましく、また、30.0質量%以下、25.0質量%以下、20.0質量%以下、又は、15.0質量%以下であることが好ましい。
【0032】
第1成分の含有量Mに対する第2成分の含有量Mの比(M/M)は、2.0以下、1.5以下、1.0以下、0.8以下、0.5以下、又は、0.4以下であることが好ましく、また、0.1以上、0.2以上、又は、0.3以上であることが好ましい。
【0033】
<その他の成分>
組成物は、増粘剤(ゲル化剤)、ゲル化補助剤、着色剤(染料、顔料)、抗菌剤、粘度調整剤、過冷却防止剤(例えば、氷核活性細菌、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、硼砂、活性炭、ヨウ化銀、鉱物系等の結晶核剤となりうるもの)、消泡剤、水以外の有機溶媒等の公知の成分を含んでいてもよい。
【0034】
組成物が増粘剤(ゲル化剤)を含む場合、増粘剤としては、従来公知のものを使用することが可能であり、例えば、多糖類、ゼラチン、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0035】
多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体、アルギン酸、寒天等が挙げられる。また、アルギン酸やカルボキシメチルセルロース等は、ナトリウム塩等の塩類の形態も含む。
【0036】
組成物中の増粘剤の含有量は、組成物が所定の粘度となるように調整可能であり、特に限定されない。組成物中の増粘剤の含有量は、例えば、水と第1成分と第2成分との合計量を100.0質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.5質量部以上、又は、1.0質量部以上であることが好ましく、また、10.0質量部以下、又は、5.0質量部以下であることが好ましい。
【0037】
組成物の潜熱量等を高めるという観点からは、組成物全量を100.0質量%としたときの増粘剤を除くその他の成分の含有量は、5.0質量部以下、3.0質量部以下、1.0質量部以下、0.5質量部以下、又は、0.1質量部以下であることが好ましい。
【0038】
<<物性/性質>>
<熱的性質>
本開示の組成物は、その融点を、-15.0℃以下、-15.5℃以下、-16.0℃以下、-16.5℃以下、又は、-17.0℃以下とすることができ、また、-18.0℃以上とすることができる。
【0039】
また、本開示の組成物は、その潜熱量を、100J/g以上、150J/g以上、200J/g以上、250J/g以上、又は、275J/g以上とすることができる。
【0040】
組成物の融点及び潜熱量は、示差走査熱量測定(DSC)により得られる。具体的には以下の通りである。
組成物をDSC測定用のアルミパンに10mg程度投入し、25℃まで昇温したあとに1℃/分の速度で-50℃まで降温し凝固させた後に、1℃/分の速度で25℃まで昇温する。相変化の際に現れるピークの頂点と面積から融点及び潜熱量を得る。組成物が複数のピーク(融解ピーク)を有する場合、最も低いピーク位置に対応する温度を組成物の融点とする。
【0041】
<粘度>
組成物の粘度は、用途に応じて適宜変更可能であり、特に限定されない。組成物がゲル成分を含む場合、組成物の粘度を、1.0Pa・s以上、2.0Pa・s以上、5.0Pa・s以上、10Pa・s以上、100Pa・s以上、又は、500Pa・s以上とすることができる。組成物の粘度の上限値は、特に限定されないが、例えば、2000Pa・s以下である。
【0042】
なお、組成物の粘度は、B型回転粘度計を使用して測定された、25℃の粘度である。
【0043】
<<用途>>
本開示に係る組成物は、蓄熱材用、食品保冷用具用、又は、医薬品保冷用具用とすることが好ましい。換言すれば、本開示に係る組成物の好ましい形態は、蓄熱材用、食品保冷用具用、又は、医薬品保冷用具用組成物である。
【0044】
以下、本開示に係る組成物の具体的な使用方法の一例として、本開示に係る組成物を備える蓄熱材、並びに、本開示に係る組成物を備える食品保冷用具及び医薬品保冷用具の好適例について説明する。
【0045】
<蓄熱材>
蓄熱材は、容器と、容器内に収納された組成物と、を備える。
【0046】
組成物については前述した通りであるので、詳細な説明を省略する。組成物は、前述した通り、ゲル化されたもの(ゲル成分を含むもの)であってもよい。ゲル化された組成物を用いることで、容器が破損した際の液体材料の漏れ等を抑制することができる。
【0047】
容器の材質は、組成物の相変化(凝固及び融解)に応じて変形可能な可撓性を有してもよい。
【0048】
蓄熱材は、樹脂フィルムや金属フィルム等の変形し易い部材により容器が構成された所謂ソフトタイプであってもよいし、厚みのある樹脂材料(例えば、中空成形体)等の変形し難い部材により構成された所謂ハードタイプであってもよい。
【0049】
蓄熱材は、容器内に少なくとも組成物が封止されていればよく、開閉可能な蓋部等を有するなどして容器を破壊せずに組成物を取り出し或いは注入することが可能なように構成してもよいし、容器を破壊する以外は組成物を取り出し困難なように構成してもよい。
【0050】
蓄熱材の大きさや形状は、蓄熱材の用途に応じて適宜変更可能である。
【0051】
蓄熱材は、容器及び組成物以外の構成要素を含んでいてもよい。
【0052】
<食品保冷用具及び医薬品保冷用具>
食品保冷用具、及び、医薬品保冷用具は、例えば、容器と、容器内に収納されている本開示に係る組成物と、を備える。
【0053】
組成物については前述した通りであるので、詳細な説明を省略する。
【0054】
容器は、例えば、箱状の物品であり、容器内部に食品等の保冷対象物を収容可能な空間を有する。容器の内側側面、内側底面、内側上面のいずれか1面以上又は全面に、本開示に係る組成物が収容された組成物収納部が配されている。組成物収納部は、容器から取り外し可能に構成されていてもよいし、容器と一体化されていてもよい。容器は、通常、開閉部を有し、開閉部が操作され、密閉状態又は開放状態となる。容器は、断熱性を有する部材によって構成されることが好ましい。組成物が凝固している状態で容器内部の空間に食品や医薬品等の保冷対象物を収容することで、保冷対象物を保冷することができる。
【0055】
食品保冷用具の保冷対象物としては、冷凍食品、アイスクリーム、野菜や果物等の青果品、ハムなどの加工食品等が挙げられる。
【0056】
医薬品保冷用具の保冷対象物としては、一部の低温保管が必要な医薬品、例えば、血液や検体、ワクチンなどが挙げられる。
【0057】
<<組成物の特定の形態>>
以上、本開示に係る好ましい組成物として、水と第1成分と第2成分とを含むものについて詳述した。以下では、このような組成物の特定の形態として、水と第1成分と第2成分とを含み、且つ、水、第1成分、及び第2成分以外の所定の成分である第3成分を更に含む組成物(特定形態の組成物)について詳述する。
【0058】
特定形態の組成物は、水、第1成分、第2成分、及び、第3成分以外の成分として、前述したその他の成分を更に含んでいてもよい。
【0059】
水、第1成分、第2成分及びその他の成分については前述の通りであるため、説明を省略する。
【0060】
<第3成分>
第3成分は、塩化アンモニウム以外の化合物であり、且つ、水との共晶温度が-5.0℃未満となる化合物である。
【0061】
第3成分は、第1成分の結晶軸の最大長さa1と、第2成分の結晶軸の最大長さa2と、第3成分の結晶軸の最大長さa3との関係が下記式(1)を満足する化合物であることが好ましい。
(式1) |a2-a3|<|a2-a1|
【0062】
第1成分と第2成分とを含む組成物に、更に上記式(1)を満足する第3成分を含有させることで、より融点の低い組成物を得易くなると共に、冷却時初期に析出し易い第2成分が第3成分にとっても有効な核剤となり得ることで核形成が起こり易くなるため、組成物全体の高い核形成率を維持したまま融点調整ができるものと推測される。
【0063】
なお、上記式(1)において、第2成分の結晶軸の最大長さa2と、第3成分の結晶軸の最大長さa3との差(|a2-a3|)が、5.00Å以下、4.00Å以下、3.00Å以下、又は、2.50Å以下であることが好ましい。
【0064】
前述の効果をより高めるという観点から、第1成分の結晶軸の最大長さa1と、第2成分の結晶軸の最大長さa2と、前記第3成分の結晶軸の最大長さa3とは、下記式(2)を満足することが好ましい。
(式2) a1<a3<a2
【0065】
第3成分は、カリウムハロゲン化物であることが好ましく、塩化カリウム又は臭化カリウムであることがより好ましく、臭化カリウムであることが特に好ましい。第3成分としてこのような化合物を用いることで、潜熱量を維持しつつも過冷却を防止するという効果を高めることが可能となる。なお、塩化カリウムの水との共晶温度は-11℃であり、臭化カリウムの水との共晶温度は-12℃である。
【0066】
また、別の観点では、第3成分は、尿素又は尿素誘導体であることが好ましく、尿素であることがより好ましい。なお、尿素の水との共晶温度は-11.5℃である。第3成分として尿素又は尿素誘導体を用いることで、組成物中の各成分(第1成分、第2成分)によって奏される効果を維持しつつ蓄熱材の性能を更に高め易い。
【0067】
尿素誘導体としては、1-メチル尿素、1,3-ジメチル尿素、2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、1,1‘-(4-メチル-m-フェンレン)-ビス-(3,3’-ジメチル)尿素、フェニルジメチルウレア等が挙げられる。
【0068】
組成物全量を100.0質量%としたときの組成物中の第3成分の含有量Mは、1.0質量%以上、2.0質量%以上、5.0質量%以上、8.0質量%以上、又は、10.0質量%以上であることが好ましく、また、40.0質量%以下、35.0質量%以下、30.0質量%以下、25.0質量%以下、又は、20.0質量%以下であることが好ましい。
【0069】
第1成分の含有量Mに対する第3成分の含有量Mの比(M/M)は、2.0以下、1.8以下、1.6以下、1.4以下、又は、1.2以下であることが好ましく、また、0.1以上、0.2以上、0.5以上、0.8以上、又は、1.0以上であることが好ましい。
【0070】
水、第1成分、第2成分、及びその他の成分についての組成物中の好ましい含有量は前述した通りである。なお、第1成分の含有量Mと第2成分の含有量Mと第3成分の含有量Mとは、M≦M≦Mを満たすことが好ましい。
【0071】
本特定形態の組成物は、より低温に融点を有するものとすることも可能である。より具体的には、本特定形態の組成物は、その融点を、-16.0℃以下、-18.0℃以下、-19.0℃以下、又は、-20.0℃以下とすることができ、また、-25.0℃以上、-24.0℃以上、又は、-22.0℃以上とすることができる。また、本特定形態の組成物は過冷却が防止され易くなっていることから、このような低温に融点を有する組成物としても、-25.0℃環境でも十分に凍結し得る。
【0072】
本特定形態の組成物のその他の構成(潜熱量、粘度、用途、並びに、蓄熱材、食品保冷用具及び医薬品保冷用具への適用等)は前述した通りである。
【0073】
本特定形態の組成物は、上記には限定されない。
本特定形態の別の組成物は、例えば、塩化アンモニウムである第1成分と、尿素又は尿素誘導体以外の化合物であり、且つ、水との共晶温度が-5.0℃以上となる化合物である第2成分と、尿素又は尿素誘導体である第3成分と、を含む組成物であってもよい。
組成物が尿素又は尿素誘導体を含む場合、尿素又は尿素誘導体由来の効果をより高める構成は以下の通りである。
組成物全量を100.0質量%としたときの組成物中の第3成分の含有量Mは、1.0質量%以上、2.0質量%以上、5.0質量%以上、又は、8.0質量%以上であることが好ましく、また、40.0質量%以下、30.0質量%以下、25.0質量%以下、20.0質量%以下、又は、18.0質量%以下であることが好ましい。
第1成分の含有量Mに対する第3成分の含有量Mの比(M/M)は、2.0以下、1.6以下、1.4以下、又は、1.1以下であることが好ましく、また、0.1以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、又は、0.6以上であることが好ましい。
第1成分の含有量Mと、第2成分の含有量Mと、第3成分の含有量Mとは、M≦M≦Mを満たすことが好ましい。
組成物の融点は、-18.0℃以下、-19.0℃以下、-20.0℃以下、又は、-21.0℃以下とすることができ、また、-25.0℃以上、-24.0℃以上、又は、-23.0℃以上とすることができる。
第1成分、第2成分、その他の成分、各成分の好ましい含有量、及び、その他の構成等は前述した通りである。
【実施例0074】
以下、実施例により、組成物(蓄熱材用組成物)を具体的に説明するが、本発明は以下には限定されない。
【0075】
<<<第1の実施例>>>
<<組成物の作製>>
表1に示す原料を、表1に示す配合量(質量部)にて配合し攪拌することで、実施例1~5及び比較例1~3に係る組成物を得た。なお、KClは、水との共晶温度が-11℃である。
【0076】
<<評価>>
<融点及び潜熱量>
前述した示差走査熱量測定に基づき、各組成物の、融点及び潜熱量を測定した。各項目の測定結果を表1に示す。
【0077】
<凍結試験>
-20℃の低温槽に組成物を5時間静置し、凍結が生じるか否か(凝固熱が生じるか否か)を確認した。凍結が生じる場合を「〇」とし、凍結が生じない場合を「-」とした。
【0078】
【表1】
【0079】
以上の結果より、各実施例に係る組成物は、-20℃、5時間の冷却条件でも安定して凝固可能であることから過冷却の防止性能に優れ、融点が十分に低く、且つ、潜熱量が十分に高いことが理解される。
【0080】
以下、組成物(蓄熱材用組成物)の別形態について詳述する。
【0081】
<<<第2の実施例>>>
<<組成物の作製>>
表2に示す原料を、表2に示す配合量(質量部)にて配合し攪拌することで、実施例6~15及び比較例4に係る組成物を得た。なお、塩化アンモニウムの結晶軸の最大長さ(a1)は3.87Åであり、硝酸カリウムの結晶軸の最大長さ(a2)は9.17Åであり、臭化カリウムの結晶軸の最大長さ(a3)は6.6Åであり、|a2-a3|<|a2-a1|という関係を満たす。
【0082】
<<評価>>
<融点及び潜熱量>
前述した示差走査熱量測定に基づき、各組成物の、融点及び潜熱量を測定した。各項目の測定結果を表2に示す。
【0083】
<凍結試験>
-25℃の低温槽に組成物を20時間静置し、凍結が生じるか否か(凝固熱が生じるか否か)を確認した。
各実施例及び比較例について、凍結が生じる場合を「〇」とし、凍結が生じない場合を「-」とした。
【0084】
【表2】
【0085】
なお、実施例12、実施例14、実施例15について、凍結完了時間(凍結試験において、試験開始時点から、相変化によって組成物の温度が一定に保たれる期間が終わった時点までの時間)を測定したところ、実施例12は452分、実施例14は390分、実施例15は317分であった。
【0086】
以上の結果より、各実施例に係る組成物は、-20~-22℃付近に融点を有しつつも-25℃、20時間の冷却条件で安定して凝固可能であることから、過冷却の防止性能に優れ、融点が十分に低く、潜熱量が十分に高いことが理解される。
【0087】
<<<第3の実施例>>>
<<組成物の作製>>
表3に示す原料を、表3に示す配合量(質量部)にて配合し攪拌することで、実施例16~22に係る組成物を得た。なお、塩化アンモニウムの結晶軸の最大長さ(a1)は3.87Åであり、硝酸カリウムの結晶軸の最大長さ(a2)は9.17Åであり、尿素の結晶軸の最大長さ(a3)は、4.73Åであり、|a2-a3|<|a2-a1|という関係を満たす。
【0088】
<<評価>>
<融点及び潜熱量>
前述した示差走査熱量測定に基づき、各組成物の、融点及び潜熱量を測定した。各項目の測定結果を表3に示す。
【0089】
<凍結試験>
-25℃の低温槽に組成物を20時間静置し、凍結が生じるか否か(凝固熱が生じるか否か)を確認した。
各実施例について、凍結が生じる場合を「〇」とし、凍結が生じない場合を「-」とした。
【0090】
【表3】
【0091】
以上の結果より、各実施例に係る組成物は、-21~-23℃付近に融点を有しつつも-25℃、20時間の冷却条件で安定して凝固可能であることから、過冷却の防止性能に優れ、融点が十分に低く、潜熱量が十分に高いことが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の組成物は、優れた性能を有する。そのため、蓄熱材用、食品保冷用具用、又は、医薬品保冷用具用等の種々の用途に適用可能である。