(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159608
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】光学積層体及びこれを備えた物品
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20241031BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20241031BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20241031BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20241031BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B1/18
G02B1/115
B32B7/023
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069031
(22)【出願日】2024-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2023074698
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024063462
(32)【優先日】2024-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】源田 尚太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昇平
(72)【発明者】
【氏名】厳 猛
(72)【発明者】
【氏名】薄井 直樹
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2K009AA03
2K009AA15
2K009CC09
2K009CC24
2K009CC42
2K009DD04
2K009EE05
4F100AA20B
4F100AH06B
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4F100BA10A
4F100BA10E
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4F100EH66D
4F100GB41
4F100JK08
4F100JK09
4F100JK12A
4F100JK12B
4F100JK12E
4F100JK17
4F100JL06E
4F100JL11C
4F100JN01A
4F100JN18D
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】優れた耐擦傷性を実現することができ、且つ耐屈曲性を更に向上させた光学積層体を提供する。
【解決手段】光学積層体102は、透明基材11と、ハードコート層12と、スパッタ膜からなる密着層13と、スパッタ膜からなる高屈折率層と、前記高屈折率層より屈折率の低い低屈折率層が交互に積層された光学機能層14と、防汚層15とをこの順に有する。ハードコート層12は、シリカフィラーを含有しており、光学積層体は、以下の条件1及び条件2を満たす。条件1:光学積層体防汚層側のマルテンス硬度(A)と、透明基材及びハードコート層のみを有する積層体のハードコート層側のマルテンス硬度(B)との比((A)/(B))が、3.6以下である。条件2:JIS L0849に準拠したスチールウールを用いた摩擦試験機を用い、摩擦前とスチールウールを200回水平往復運動させた摩擦後の水に対する接触角差が20°以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、ハードコート層と、スパッタ膜からなる密着層と、スパッタ膜からなる高屈折率層と、前記高屈折率層より屈折率の低い低屈折率層が交互に積層された光学機能層と、防汚層とをこの順に有する光学積層体において、
前記ハードコート層が、シリカフィラーを含有し、
以下の条件1及び条件2を満たす光学積層体。
条件1:前記光学積層体の前記防汚層側から測定されたマルテンス硬度(A)と、全前記透明基材及び前記ハードコート層のみを有する積層体の前記ハードコート層側から測定されたマルテンス硬度(B)との比((A)/(B))が3.6以下である。
条件2:JIS L0849に準拠したスチールウールを用いた摩擦試験機を用い、摩擦前とスチールウールを200回水平往復運動させた摩擦後の水に対する接触角差が20°以下である。
【請求項2】
前記シリカフィラーが、シラン化合物由来の官能基によって表面修飾されている、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記シラン化合物が、ビニル基含有シラン化合物、(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物、アミノ基含有シラン化合物、イソシアネート基含有シラン化合物、イソシアヌレート基含有シラン化合物、エポキシ基含有シラン化合物及びメルカプト基含有シラン化合物から選択される1種又は複数種である、請求項2に記載の光学積層体。
【請求項4】
前記シラン化合物が、(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物である、請求項2に記載の光学積層体。
【請求項5】
前記ハードコート層が、バインダー樹脂と、シリカフィラーとを含有し、
前記シラン化合物由来の官能基が、前記バインダー樹脂と同じ官能基を有する、請求項2に記載の光学積層体。
【請求項6】
前記バインダー樹脂が、(メタ)アクリレート化合物を含有し、
前記シラン化合物由来の官能基が、(メタ)アクリロイル基である、請求項5に記載の光学積層体。
【請求項7】
前記シリカフィラーの平均粒子径が、800nm以下である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項8】
前記ハードコート層の厚みが、0.5μm以上100μm以下である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項9】
前記光学積層体を前記防汚層の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用したときの、下記式(1)で算出される前記光学機能層の伸び率S(%)が、1.3≦Sを満たす、請求項1に記載の光学積層体。
S(%)={(R2/R1)-1}×100 ・・・(1)
(但し、R2は、前記マンドレルの軸中心から前記光学積層体の外側表面までの距離であり、R1は、前記マンドレルの軸中心から、前記光学積層体の総厚の1/2に相当する位置を示す仮想線までの距離である。)
【請求項10】
前記光学積層体を前記防汚層の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用したときの、下記式(2)で算出される前記光学機能層の圧縮率C(%)が、4.5≦Cを満たす、請求項9に記載の光学積層体。
C(%)={1-(R3/R1)}×100・・・(2)
(但し、R3は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の防汚層側表面までの距離であり、R1は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の総厚の1/2に相当する位置を示す仮想線までの距離である。)
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光学積層体を備えた、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体及びこれを備えた物品に関し、特にフレキシブルディスプレイなど、屈曲させて用いるディスプレイに好適な、反射防止フィルムとして用いられる光学積層体及びこれを備えた物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの携帯通信端末やノートPC等の情報機器に於いて、折り畳み式のディスプレイを備えたものが上市されている。これらのディスプレイに於いても、表面反射を低減させるべく、反射防止フィルム等の光学積層体が用いられることがある。折り畳み式のディスプレイに用いられる光学積層体では、折り畳み式ではないディスプレイと比して、屈曲に対する耐久性への要求が高くなっている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ハードコート層とスパッタ膜からなる光学機能層を有するハードコートフィルムに於いて、ハードコート層と光学機能層の厚みの比率を所定の範囲とすることで、耐屈曲性を向上させることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、ハードコート層、反射防止層を樹脂製とすることで、耐屈曲性を向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-185597号公報
【特許文献2】特開2020-74019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、ハードコートフィルムの耐摩耗性及び耐屈曲性の向上は図れるものの、耐擦傷性は評価されておらず、改善の余地がある。
また、特許文献2でも、反射防止フィルムの耐屈曲特性の向上は図れるものの、反射防止層が樹脂製であるため、耐擦傷性は劣るものとなる。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、優れた耐擦傷性を実現することができ、且つ耐屈曲性を更に向上させた光学積層体及びこれを備えた物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
[1]透明基材と、ハードコート層と、スパッタ膜からなる密着層と、スパッタ膜からなる高屈折率層と、前記高屈折率層より屈折率の低い低屈折率層が交互に積層された光学機能層と、防汚層とをこの順に有する光学積層体において、
前記ハードコート層が、シリカフィラーを含有し、
以下の条件1及び条件2を満たす光学積層体。
条件1:前記光学積層体の前記防汚層側から測定されたマルテンス硬度(A)と、前記透明基材及び前記ハードコート層のみを有する積層体の前記ハードコート層側から測定されたマルテンス硬度(B)との比((A)/(B))が、3.6以下である。
条件2:JIS L0849に準拠したスチールウールを用いた摩擦試験機を用い、摩擦前とスチールウールを200回水平往復運動させた摩擦後の水に対する接触角差が20°以下である。
【0009】
[2]前記シリカフィラーが、シラン化合物由来の官能基によって表面修飾されている、上記[1]に記載の光学積層体。
【0010】
[3]前記シラン化合物が、ビニル基含有シラン化合物、(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物、アミノ基含有シラン化合物、イソシアネート基含有シラン化合物、イソシアヌレート基含有シラン化合物、エポキシ基含有シラン化合物及びメルカプト基含有シラン化合物から選択される1種又は複数種である、上記[2]に記載の光学積層体。
【0011】
[4]前記シラン化合物が、(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物である、上記[2]に記載の光学積層体。
【0012】
[5]前記ハードコート層が、バインダー樹脂と、シリカフィラーとを含有し、
前記シラン化合物由来の官能基が、前記バインダー樹脂と同じ官能基を有する、上記[2]に記載の光学積層体。
【0013】
[6]前記バインダー樹脂が、(メタ)アクリレート化合物を含有し、
前記シラン化合物由来の官能基が、(メタ)アクリロイル基である、上記[5]に記載の光学積層体。
【0014】
[7]前記シリカフィラーの平均粒子径が、800nm以下である、上記[1]に記載の光学積層体。
【0015】
[8]前記ハードコート層の厚みが、0.5μm以上100μm以下である、上記[1]に記載の光学積層体。
【0016】
[9]前記光学積層体を前記防汚層の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用したときの、下記式(1)で算出される前記光学機能層の伸び率S(%)が、1.3≦Sを満たす、上記[1]に記載の光学積層体。
S(%)={(R2/R1)-1}×100 ・・・(1)
(但し、R2は、前記マンドレルの軸中心から前記光学積層体の外側表面までの距離であり、R1は、前記マンドレルの軸中心から、前記光学積層体の総厚の1/2に相当する位置を示す仮想線までの距離である。)
【0017】
[10]前記光学積層体を前記防汚層の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用したときの、下記式(2)で算出される前記光学機能層の圧縮率C(%)が、4.5≦Cを満たす、請求項9に記載の光学積層体。
C(%)={1-(R3/R1)}×100・・・(2)
(但し、R3は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の防汚層側表面までの距離であり、R1は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の総厚の1/2に相当する位置を示す仮想線までの距離である。)
【0018】
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の光学積層体を備えた、物品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた耐擦傷性を実現することができ、且つ耐屈曲性を更に向上させた光学積層体及びこれを備えた物品を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態の光学積層体の他の例を示した断面図である。
【
図2】本実施形態の光学積層体の他の例を示した断面図である。
【
図3】本実施形態の光学積層体の製造方法に用いることができる製造装置の一例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
[光学積層体]
図1は、本実施形態の光学積層体の他の例を示した断面図である。
図1に示す光学積層体102は、透明基材11と、ハードコート層12と、密着層13と、光学機能層14と、防汚層15とが順に積層されてなるものである。
密着層13は、ハードコート層12と光学機能層14との間の密着を発現させる層である。
光学機能層14は、光学機能を発現させる層である。光学機能とは、光の性質である反射と透過、屈折をコントロールする機能であり、例えば、反射防止機能、選択反射機能、レンズ機能などが挙げられる。
光学機能層14は、反射防止層及び選択反射層から選ばれるいずれか1種を含むことが好ましい。反射防止層及び選択反射層としては、公知のものを用いることができる。反射防止層、選択反射層は、いずれも単層であっても良く、複数の層の積層体であってよい。
【0023】
図2は、本実施形態の光学積層体の他の例を示した断面図である。
図2に示す光学積層体101は、
図1に示す光学積層体102における光学機能層14として、反射防止層が設けられているものである。光学機能層14(反射防止層)は、
図1に示すように、低屈折率層14bと高屈折率層14aとが交互に積層された積層体からなる。
図1に示す光学機能層14は、透明基材11側から順に、ハードコート層12、密着層13、高屈折率層14a、低屈折率層14b、高屈折率層14a、低屈折率層14b、防汚層15がこの順に積層されたものである。したがって、防汚層15は、光学機能層14の有する低屈折率層14bに接している。
【0024】
透明基材11は、可視光域の光を透過可能な透明材料から形成されればよい。例えば、透明基材11として、プラスチックフィルムが好適に用いられる。プラスチックフィルムの構成材料の具体例としては、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、が挙げられる。
【0025】
なお、本発明でいう「透明材料」とは、本発明の効果を損なわない範囲で、使用波長域の光の透過率が80%以上の材料であることをいう。
また、本実施形態において「(メタ)アクリル」は、メタクリル及びアクリルを意味する。
【0026】
光学特性を著しく損なわない限りにおいて、透明基材11には補強材料が含まれていても良い。補強材料は、例えば、セルロースナノファイバー、ナノシリカ等である。特に、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が、補強材料として、好適に用いられる。具体的には、トリアセチルセルロース(TAC)基材が、補強材料として、好適に用いられる。
また、透明基材11には、無機基材であるガラスフィルムを用いることもできる。
【0027】
プラスチックフィルムがTAC基材であると、その一面側にハードコート層12を形成したとき、ハードコート層12を構成する成分の一部が浸透してなる浸透層が形成される。その結果、透明基材11とハードコート層12との密着性が良好になるとともに、互いの層間の屈折率差に起因した干渉縞の発生を抑制できる。
【0028】
透明基材11は、光学的機能および/または物理的機能が付与されたフィルムであっても良い。光学的および/または物理的な機能を有するフィルムの例としては、偏光板、位相差補償フィルム、熱線遮断フィルム、透明導電フィルム、輝度向上フィルム、バリア性向上フィルムなどが挙げられる。
【0029】
透明基材11の厚みは、特に限定されないが、例えば、25μm以上であることが好ましい。透明基材11の膜厚は、40μm以上であることがより好ましい。
透明基材11の厚みが25μm以上であると、基材自体の剛性が確保され、光学積層体10に応力が加わっても皺が発生し難くなる。また、透明基材11の厚みが25μm以上であると、透明基材11上にハードコート層12を連続的に形成しても、皺が生じにくく製造上の懸念が少なく好ましい。透明基材11の厚みが40μm以上であると、より一層皺が生じにくく、好ましい。
【0030】
製造時において、ロールで実施する場合、透明基材11の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、600μm以下であることがより好ましい。透明基材11の厚みが1000μm以下であると、製造途中の光学積層体10および製造後の光学積層体10をロール状に巻きつけやすく、効率良く光学積層体10を製造できる。また、透明基材11の厚みが1000μm以下であると、光学積層体10の薄膜化、軽量化が可能となる。透明基材11の厚みが600μm以下であると、より効率良く光学積層体10を製造できるとともに、より一層の薄膜化、軽量化が可能となり、好ましい。
【0031】
透明基材11は、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化等のエッチング処理および/または下塗り処理が施されていてもよい。これらの処理が予め施されていることで、透明基材11の上に形成されるハードコート層12との密着性を向上させることができる。また、透明基材11上にハードコート層12を形成する前に、必要に応じて、透明基材11の表面に対して溶剤洗浄、超音波洗浄等を行うことにより、透明基材11の表面を除塵、清浄化させておくことも好ましい。
【0032】
ハードコート層12は、バインダー樹脂、フィラーを必須成分とし、任意成分として分散剤などの他の成分を含み得る。バインダー樹脂は、公知の物を用いることができる。フィラーは、透明性を損なわない範囲でバインダー樹脂に含有される。
フィラーとしては、有機物からなるものを用いてもよいし、無機物からなるものを用いてもよいし、有機物および無機物からなるものを用いてもよいが、硬度や耐屈曲性の観点からは無機物からなるものが好ましく、シリカからなるシリカ粒子がさらに好ましい。また、更には表面修飾が行われているシリカ粒子が特に好ましい。
【0033】
ハードコート層12に用いられるバインダー樹脂としては、透明性のものが好ましく、例えば、紫外線、電子線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。
【0034】
ハードコート層12のバインダー樹脂に用いる電離放射線硬化型樹脂としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等を挙げることができる。
また、2以上の不飽和結合を有する電離放射線硬化型樹脂である化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、アダマンチルジ(メタ)アクリレート、イソボロニルジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の多官能化合物等を挙げることができる。なかでも、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)及びペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)が好適に用いられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを指すものである。また、電離放射線硬化型樹脂として、上述した化合物をPO(プロピレンオキサイド)、EO(エチレンオキサイド)、CL(カプロラクトン)等で変性したものも使用できる。また、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーなども、ハードコート層の膜形成や粘弾性調整の観点から用いる事が出来る。
【0035】
ハードコート層12のバインダー樹脂に用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂及びゴム又はエラストマー等を挙げることができる。上記熱可塑性樹脂は、非結晶性で、かつ有機溶媒(特に複数のポリマー、硬化性化合物を溶解可能な共通溶媒)に可溶であることが好ましい。特に、透明性および耐候性という観点から、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類等)等が好ましい。
【0036】
ハードコート層12は、例えば、バインダー樹脂と、フィラーとしてのシリカ粒子を含む。シリカ粒子としては、あらかじめ表面修飾されているシリカ粒子を含んでいることが好ましい。
シラン化合物の具体例としては、ビニル基含有シラン化合物、(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物、アミノ基含有シラン化合物、イソシアネート基含有シラン化合物、イソシアヌレート基含有シラン化合物、エポキシ基含有シラン化合物、メルカプト基含有シラン化合物などが挙げられ、これらが1種で用いられてもよいし、複数種で用いられてもよい。シラン化合物は、バインダー樹脂の種類に応じて適宜選定されるが、バインダー樹脂に官能基が含まれる場合、バインダー樹脂と同じ官能基を有するシラン化合物が好ましい。例えば、バインダー樹脂が、電離放射線硬化型樹脂として(メタ)アクリレート化合物を含有する場合、シラン化合物は、(メタ)アクリロイル基含有アルコキシシラン化合物が好ましい。なお、「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及び/又はアクリレートを指すものである。また本発明ではメタアクリレートとアクリレートを、反応機構の面から、同じ物として取り扱う。表面修飾に用いるシラン化合物は、シリカ粒子表面に存在する水酸基との結合が良好となることから、アルコキシシリル基やシラノール基を末端に有することが好ましい。
シリカ粒子があらかじめ表面修飾されていることで、バインダー樹脂中の分散性の改善や、表面修飾に用いた表面処理剤とバインダー樹脂との反応によって、より強固にバインダー樹脂と結合し、光学積層体の硬度が向上する。
これらシリカ粒子は、ハードコート層12の光学機能層14側の表面に露出していてもよい。この場合、ハードコート層12と、光学機能層14とが、密着層13を介してより強く接合される。露出させる方法には、後述するグロー処理などが挙げられ、この場合には露出しているシリカ表面の表面修飾は除去される。
フィラーがハードコート層表面に露出し、その際に表面修飾が除去されることで、フィラー表面に生じる水酸基と、後述する密着層13との間に静電気的引力が生じ、密着性がより向上する。また、露出したフィラーがアンカーとして密着層13に食い込むことも密着性向上に寄与する。耐屈曲性の向上は、前述のシリカ表面の表面修飾によるバインダ樹脂との結合と、シリカと密着層の相互作用との組み合わせによって発生する。
【0037】
ハードコート層12のフィラー平均粒子径は、例えば、800nm以下、好ましくは780nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。フィラーの粒子径が当該範囲内とすると、光学積層体10全体のヘイズ値は2%以下となる。ヘイズが2%以下の光学積層体10は透明度が高く、いわゆるクリア型の反射防止フィルムとなる。
【0038】
ハードコート層12は、その表面を例えば、グロー放電処理、プラズマ処理、イオンエッチング、アルカリ処理などが施されることが好ましい。これらの中でも、大面積処理が可能であるため、グロー放電処理を用いることが好ましい。グロー放電処理の処理時の強度は、例えば、電極電力密度として100W/m2~11000W/m2で行うことができ、1600W/m2~7000W/m2で行う事が好ましい。
ハードコート層12の表面に対してグロー放電処理を行うことにより、ハードコート層12の表面がナノレベルで粗面化されるとともに、ハードコート層12の表面に存在する結合力の弱い物質が除去される。その結果、ハードコート層12と、ハードコート層12上に形成される密着層13との密着性が良好となる。また、ハードコート層12からシリカ粒子を露出させる効果もある。また、放電処理時の強度を上げると、後述する耐屈曲性が向上する傾向にあるものの、一定以上の放電強度になるとその効果は頭打ちになること、また、過剰のグロー放電強度では、ハードコート層を構成する樹脂の劣化にもつながることになることから、前述の範囲の放電強度でグロー放電処理を行なう事が好ましい。
【0039】
なお、アンチグレア型の光学積層体を得たい場合には、ハードコート層12のフィラーの平均粒子径は、例えば、0.5μm以上でもよい。当該サイズのフィラーとして、例えば、アクリル樹脂等の有機微粒子が好適に用いられる。フィラーの粒子径が当該範囲内とすると、光学積層体10全体のヘイズ値は2%超となる。ヘイズが2%超の光学積層体10は防眩性を有し、いわゆるアンチグレア(AG)型の反射防止フィルムとなる。この場合においても、フィラーの平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。
ハードコート層12に含有されるフィラーとして、ハードコート層12に強靭性を付与するために、光学特性を損なわない範囲で、各種補強材を用いることが出来る。補強材としては、例えば、セルロースナノファイバーが挙げられる。
【0040】
ハードコート層12の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上である。ハードコート層12の厚みは、100μm以下であることが好ましい。ハードコート層12の厚みが0.5μm以上であると、十分な硬度が得られるため、製造上のひっかき傷が発生し難くなる。また、ハードコート層12の厚みが100μm以下であると、光学積層体10の薄膜化、軽量化が可能となる。また、ハードコート層12の厚みが100μm以下であると、製造途中の光学積層体10が曲がった際に発生するハードコート層12のマイクロクラックが生じにくく、生産性が良好となる。
【0041】
ハードコート層12は、単一の層であってもよく、複数の層が積層されたものであってもよい。また、ハードコート層12には、例えば、紫外線吸収性能、帯電防止性能、屈折率調整機能、硬度調整機能など公知の機能が更に付与されていてもよい。
また、ハードコート層12に付与される機能は、単一のハードコート層中に付与されていてもよいし、複数の層に分割して付与されていてもよい。
【0042】
密着層13は、有機膜である透明基材11またはハードコート層12と、無機膜である光学機能層14との密着を良好にさせるために形成する層である。
図2に示す光学積層体10では、ハードコート層12と光学機能層14との間に、密着層13が備えられている。密着層13は、ハードコート層12と光学機能層14とを密着させる機能を有する。密着層13は、酸素欠損状態の金属酸化物もしくは金属からなるものであることが好ましい。酸素欠損状態の金属酸化物とは、化学量論組成よりも酸素数が不足した状態の金属酸化物をいう。酸素欠損状態の金属酸化物としては、例えば、SiOx、AlOx、TiOx、ZrOx、CeOx、MgOx、ZnOx、TaOx、SbOx、SnOx、MnOxなどが挙げられる。また、金属としては、Si、Al、Ti、Zr、Ce、Mg、Zn、Ta、Sb、Sn、Mn、Inなどが挙げられる。密着層13は、例えば、SiOxにおけるxが、0を超え2.0未満であるものであってもよい。また、密着層は複数種の金属または金属酸化物の混合物から形成されていても良い。
密着層の厚みは、透明性と光学機能層との密着性を維持し、良好な光学特性を得る観点から、0nm超え20nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることが特に好ましい。
【0043】
光学機能層14は、反射防止機能を発現させる積層体である。
図2に示す光学機能層14は、密着層13側から順に高屈折率層14aと低屈折率層14bとが交互に積層された合計4層の積層体である。高屈折率層14aと低屈折率層14bの層数は、特に限定されるものではなく、高屈折率層14aおよび低屈折率層14bの層数は、任意の層数とすることができる。
【0044】
図2に示す光学積層体10では、光学機能層14が、低屈折率層14bと高屈折率層14aとが交互に積層された積層体からなるものであるため、防汚層15側から入射した光が光学機能層14によって互いに干渉しあうことで、反射光の強度を低下させ、反射防止機能を発揮させることができる。したがって、防汚層15側から入射した光が、一方向に反射されることを防止する反射防止機能が得られる。
【0045】
低屈折率層14bは、例えば、金属の酸化物を含む。低屈折率層14bは、入手の容易さとコストの点からSiの酸化物を含んでもよく、SiO2(Siの酸化物)等を主成分とした層であることが好ましい。SiO2単層膜は、無色透明である。本実施形態において、低屈折率層14bの主成分とは、低屈折率層14b中に50質量%以上含まれる成分であることを意味する。
低屈折率層14bが、Siの酸化物を主成分とした層である場合、50質量%未満の別の元素を含んでも良い。Siの酸化物とは別の元素の含有量は、好ましくは10%以下である。別の元素としては、例えば、耐久性向上の目的でNa、硬度向上の目的でZr、Al、またN、耐アルカリ性向上の目的で、Zr、Alを含有できる。
【0046】
低屈折率層14bの屈折率は、好ましくは1.20~1.60であり、より好ましくは1.30~1.50である。低屈折率層14bに用いられる誘電体としては、フッ化マグネシウム(MgF2、屈折率1.38)などが挙げられる。
【0047】
高屈折率層14aの屈折率は、好ましくは2.00~2.60であり、より好ましくは2.10~2.45である。高屈折率層14aに用いられる誘電体としては、五酸化ニオブ(Nb2O5、屈折率2.33)、酸化チタン(TiO2、屈折率2.33~2.55)、酸化タングステン(WO3、屈折率2.2)、酸化セリウム(CeO2、屈折率2.2)、五酸化タンタル(Ta2O5、屈折率2.16)、酸化亜鉛(ZnO、屈折率2.1)、酸化インジウムスズ(ITO、屈折率2.06)、酸化ジルコニウム(ZrO2、屈折率2.2)などが挙げられる。
高屈折率層14aに導電特性を付与したい場合、例えば、ITO、酸化インジウム酸化亜鉛(IZO)を選択できる。
【0048】
光学機能層14は、例えば、高屈折率層14aとして五酸化ニオブ(Nb2O5、屈折率2.33)からなるものを用い、低屈折率層14bとしてSiO2からなるもの用いることが好ましい。
【0049】
低屈折率層14bの膜厚は、1nm以上200nm以下の範囲であればよく、反射防止機能を必要とする波長域に応じて適宜選択される。
高屈折率層14aの膜厚は、例えば、1nm以上200nm以下であればよく、反射防止機能を必要とする波長域に応じて適宜選択される。
高屈折率層14aおよび低屈折率層14bの膜厚は、それぞれ光学機能層14の設計に応じて適宜選択できる。
例えば、密着層13側から順に、5~50nmの高屈折率層14a、10~80nmの低屈折率層14b、20~200nmの高屈折率層14a、50~200nmの低屈折率層14bとすることができる。
【0050】
光学機能層14を形成している層のうち、防汚層15側には、低屈折率層14bが配置されている。光学機能層14の低屈折率層14bが防汚層15と接している場合、光学機能層14の反射防止性能が良好となるため、好ましい。
【0051】
防汚層15は、光学機能層14の最外面に形成され、光学機能層14の汚損を防止する。また、防汚層15は、タッチパネル等に適用する際に、耐摩耗性によって光学機能層14の損耗を抑制する。
本実施形態の防汚層15は、防汚性材料を蒸着させた蒸着膜からなる。本実施形態では、防汚層15は、光学機能層14を構成する低屈折率層14bの一面に、防汚性材料としてフッ素系有機化合物を真空蒸着することによって形成される。本実施形態では、防汚性材料が、フッ素系有機化合物を含むため、より一層耐摩擦性および耐アルカリ性の良好な光学積層体10となる。
【0052】
防汚層15を構成するフッ素系有機化合物としては、フッ素変性有機基と、反応性シリル基(例えば、アルコキシシラン)とからなる化合物が好ましく用いられる。市販品としては、オプツールDSX(ダイキン株式会社製)、KY-100シリーズ(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0053】
防汚層15を構成するフッ素系有機化合物としては、フッ素変性有機基と、反応性シリル基(例えば、アルコキシシラン)とからなる化合物を用い、防汚層15に接する光学機能層14の低屈折率層14bとして、SiO2からなるものを用いた場合、フッ素系有機化合物の骨格であるシラノール基とSiO2と間でシロキサン結合が形成される。このため、光学機能層14と防汚層15との密着性が良好となり、好ましい。
【0054】
防汚層15の光学厚みは、1nm以上、20nm以下の範囲であればよく、好ましくは3nm以上、10nm以下の範囲である。防汚層15の厚みが1nm以上であると、光学積層体10をタッチパネル用途などに適用した際に、耐摩耗性を十分に確保できる。また防汚層15の厚みが3nm以上であると、光学積層体10の耐液性等が向上する。また、防汚層15の厚みが20nm以下であると、蒸着に要する時間が短時間で済み、効率よく製造できる。
【0055】
上記のように構成される光学積層体10,102において、光学積層体10,102の防汚層15側から測定されたマルテンス硬度(A)と、透明基材11及びハードコート層12のみを有する積層体のハードコート層12側から測定されたマルテンス硬度との比((A)/(B))が、3.6以下である(条件1)。また、上記比((A)/(B))は、3.5以下であるのが好ましく、3.4以下であるのがより好ましい。上記比((A)/(B))が3.6以下であると、ハードコート層表面と防汚層表面との硬度差が小さくなることで変形が抑制され、その結果優れた耐擦傷性を実現することができ、且つ耐屈曲性を更に向上させることができる。
【0056】
また、上記のように構成される光学積層体10,102において、JIS L0849に準拠したスチールウールを用いた摩擦試験機を用い、摩擦前とスチールウールを200回水平往復運動させた摩擦後の水に対する接触角差が20°以下である(条件2)。光学積層体10,102の硬度が高いと、上記接触角差が20°以下となり優れた耐擦傷性を実現することができる。
【0057】
上記のように構成される光学積層体10,102において、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用したときの、下記式(1)で算出される光学機能層14の伸び率S(%)は、1.3≦Sを満たすのが好ましい。これにより、光学積層体10,102の耐屈曲性を更に向上させることができる。
S={(R2/R1)-1}×100 ・・・(1)
(但し、R2は、前記マンドレルの軸中心から前記光学積層体の外側表面までの距離であり、R1は、前記マンドレルの軸中心から、前記光学積層体の総厚の1/2に相当する位置を示す仮想線までの距離である。)
【0058】
また、光学積層体10,102において、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用したときの、下記式(2)で算出される光学機能層14の圧縮率C(%)は、4.5≦Cを満たすのが好ましく、5≦Cを満たすのがより好ましい。これにより、光学積層体10,102の耐屈曲性を更に向上させることができる。
C(%)={1-(R3/R1)}×100 ・・・(2)
(但し、R3は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の防汚層側表面までの距離であり、R1は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の総厚の1/2に相当する位置を示す仮想線までの距離である。)
【0059】
更に、光学機能層14は、伸び率S(%)の上記範囲及び圧縮率C(%)の上記範囲の双方を満たすのが好ましい。すなわち、光学積層体10,102において、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用したときの、下記式(1)で算出される光学機能層14の伸び率S(%)が1.3≦Sを満たし、且つ、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用したときの、上記式(2)で算出される光学機能層14の圧縮率C(%)が4.5≦Cを満たすのが好ましい。これにより、光学積層体10,102の耐屈曲性を更に向上させることができる。
【0060】
なお、上記の伸び率は基材をPETとし、厚みを50μmとしたときの値であり、この厚みが薄くなればこの値は変動しうる。
【0061】
上記のように構成される光学積層体10,102において、光学積層体のハードコート層の厚みが5μmの時に、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、4.0φmm以下であるのが好ましく、3.5φmm以下であるのがより好ましく、3.0φmm以下であるのが更に好ましい。
【0062】
また、光学積層体のハードコート層の厚みが5μmの時に、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、1.1φmm以下であるのが好ましく、1.0φmm未満であるのがより好ましい。
【0063】
更に、光学積層体のハードコート層の厚みが5μmの時に、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、4.0φmm以下であり、且つ、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、1.1φmm以下であるのがより好ましい。
【0064】
上記のように構成される光学積層体10,102において、光学積層体のハードコート層の厚みが10μmの時に、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、4.0φmm以下であるのが好ましく、3.5φmm以下であるのがより好ましく、3.0φmm以下であるのが更に好ましい。
【0065】
また、光学積層体のハードコート層の厚みが10μmの時に、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、1.4φmm以下であるのが好ましく、1.2φmm以下であるのがより好ましい。
【0066】
更に、光学積層体のハードコート層の厚みが10μmの時に、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、4.0φmm以下であり、且つ、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、1.4φmm以下であるのがより好ましい。
【0067】
上記のように構成される光学積層体10,102において、光学積層体のハードコート層の厚みが2μmの時に、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、4.0φmm以下であるのが好ましく、3.5φmm以下であるのがより好ましく、3.0φmm以下であるのが更に好ましい。
【0068】
また、光学積層体のハードコート層の厚みが2μmの時に、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、1.1φmm以下であるのが好ましく、1.0φmm未満であるのがより好ましい。
【0069】
更に、光学積層体のハードコート層の厚みが2μmの時に、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が外側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、4.0φmm以下であり、且つ、光学積層体10,102を防汚層15の形成された面が内側となるように180°折り曲げた場合に、マンドレルの直径を徐々に小さいものに交換し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径が、1.1φmm以下であるのがより好ましい。
【0070】
なお、上述のマンドレル径は、同一のサンプルを3つ切りだして測定し、3回の測定の平均値から算出するものとする。
【0071】
[光学積層体の製造方法]
図2に示す本実施形態の光学積層体10は、例えば、以下に示す方法により製造できる。
本実施形態では、光学積層体10の製造方法の一例として、ロール状に巻き付けられた透明基材11を用いて光学積層体10を製造する場合を例に挙げて説明する。
まず、ロール状に巻き付けられた透明基材11を巻き出す。そして、公知の方法により透明基材11上にハードコート層12となる材料を含むスラリーを塗布し、ハードコート層12となる材料に対応する公知の方法により硬化させる。使用されるスラリーとしては、例えばバインダー樹脂と、フィラーとしてのシリカ粒子を含む組成物が挙げられ、この組成物を、透明基材11上に塗布し、その後硬化させる。このことにより、透明基材11上にハードコート層12を形成する(ハードコート層形成工程)。上記組成物は、必要に応じて重合開始剤、レベリング剤等の1又は複数の添加剤を含有していてもよい。重合開始剤としては、例えば光重合開始剤が用いられる。その後、表面にハードコート層12の形成された透明基材11を、公知の方法によりロール状に巻き取る。
【0072】
次に、ハードコート層12上に、密着層13を形成する密着層形成工程、および光学機能層14を形成する光学機能層形成工程を行う。その後、光学機能層14上に防汚層15を形成する防汚層形成工程を行う。本実施形態では、光学機能層形成工程の前に、ハードコート層12の表面を処理する第1表面処理工程を行ってから、密着層形成工程および光学機能層形成工程を行うことが好ましい。また、本実施形態では、光学機能層形成工程の後に、光学機能層14の表面を処理する第2表面処理工程を行ってから、防汚層形成工程を行うことが好ましい。
【0073】
本実施形態の光学積層体10の製造方法において、第1表面処理工程と密着層形成工程と光学機能層形成工程と第2表面処理工程と防汚層形成工程とは、製造途中の光学積層体を減圧下の状態に維持したまま連続して行うことが好ましい。第1表面処理工程と密着層形成工程と光学機能層形成工程と第2表面処理工程と防汚層形成工程を、製造途中の光学積層体を減圧下の状態に維持したまま連続して行う場合、例えば、スパッタリング装置として特許文献4に記載された薄膜形成装置を備えた装置などを用いることができる。
【0074】
本実施形態の光学積層体の製造方法に用いることができる製造装置としては、具体的には、
図3に示す製造装置20が挙げられる。
図3に示す製造装置20は、ロール巻き出し装置4と、前処理装置2Aと、スパッタリング装置1と、前処理装置2Bと、蒸着装置3と、ロール巻き取り装置5とを備えている。
図3に示すように、これらの装置4、2A、1、2B、3、5は、この順に連結されている。
図3に示す製造装置20は、ロールから基材を巻き出し、連結された装置(
図3では、前処理装置2A、スパッタリング装置1、前処理装置2B、蒸着装置3)を連続して通過させた後に巻き取ることにより、基材上に複数層を連続的に形成するロールトゥロール方式の製造装置である。
【0075】
ロールトゥロール方式の製造装置を用いて光学積層体10を製造する場合、製造途中の光学積層体10の搬送速度(ラインスピード)は、適宜設定することができる。搬送速度は、例えば、0.5~20m/minとすることが好ましく、0.5~10m/minとすることがより好ましい。
【0076】
<ロール巻き出し装置>
図3に示すロール巻き出し装置4は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー34と、チャンバー34内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(
図3においては1つ)と、チャンバー34内に設置された巻き出しロール23およびガイドロール22を有する。
図3に示すように、チャンバー34は、スパッタリング装置1のチャンバー31と前処理装置2Aを介して連結されている。
巻き出しロール23には、表面にハードコート層12が形成された透明基材11が巻き付けられている。巻き出しロール23は、所定の搬送速度で、表面にハードコート層12の形成された透明基材11を、前処理装置2Aに供給する。
【0077】
<前処理装置2A>
図3に示す前処理装置2Aは、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー32と、キャンロール26と、複数(
図3では2つ)のガイドロール22と、プラズマ放電装置42とを有する。
図3に示すように、キャンロール26と、ガイドロール22と、プラズマ放電装置42は、チャンバー32内に設置されている。
図3に示すように、チャンバー32は、スパッタリング装置1のチャンバー31と連結されている。
【0078】
キャンロール26およびガイドロール22は、所定の搬送速度で、ロール巻き出し装置4から送られたハードコート層12が形成された透明基材11を搬送し、ハードコート層12の表面が処理された透明基材11をスパッタリング装置1に送り出す。
プラズマ放電装置42は、
図3に示すように、キャンロール26の外周面と所定の間隔で離間して対向配置されている。プラズマ放電装置42は、気体をグロー放電により電離させる。気体としては、安価かつ不活性で光学特性に影響を及ぼさないものが好ましく、例えば、アルゴンガス、酸素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス等を使用できる。本実施形態では、気体として、アルゴンガス又は酸素ガスを用いることが好ましい。
【0079】
<スパッタリング装置>
図3に示すスパッタリング装置1は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー31と、チャンバー31内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(
図3においては2つ)と、成膜ロール25と、複数(
図4では2つ)のガイドロール22と、複数(
図3に示す例では4つ)の成膜部41とを有する。
図3に示すように、成膜ロール25と、ガイドロール22と、成膜部41は、チャンバー31内に設置されている。
図3に示すように、チャンバー31は、前処理装置2Bのチャンバー32と連結されている。
【0080】
成膜ロール25およびガイドロール22は、所定の搬送速度で、前処理装置2Aから送られた表面が処理されたハードコート層12の形成された透明基材11を搬送し、ハードコート層12上に、密着層13および光学機能層14の形成された透明基材11を前処理装置2Bに供給する。
図3に示すスパッタリング装置1では、成膜ロール25上を走行する透明基材11のハードコート層12上に、スパッタリングによって密着層13が積層され、その上に高屈折率層14aと低屈折率層14bが交互に積層されて、光学機能層14が形成される。
【0081】
成膜部41は、
図3に示すように、成膜ロール25の外周面と所定の間隔で離間して対向配置され、成膜ロール25を囲むように複数設けられている。成膜部41の数は、密着層13と、光学機能層14を形成している高屈折率層14aと低屈折率層14bとの合計積層数に応じて決定される。密着層13および光学機能層14を形成している高屈折率層14aと低屈折率層14bの合計積層数が多いために、隣接する成膜部41間の距離を確保しにくい場合には、チャンバー31内に成膜ロール25を複数設け、各成膜ロール25の周囲に成膜部41を配置してもよい。成膜ロール25を複数設ける場合、必要に応じてさらにガイドロール22を設置してもよい。成膜ロール25と成膜部41が設けられたチャンバー31を複数台連結してもよい。また、隣接する成膜部41間の距離を確保しやすくするために、成膜ロール25の直径を適宜変更してもよい。
【0082】
各成膜部41には、それぞれ所定のターゲット(不図示)が設置されている。ターゲットには、公知の構造により、電圧が印加されるようになっている。本実施形態では、ターゲットの近傍に、ターゲットに所定の反応性ガスおよびキャリアガスを所定の流量で供給するガス供給部(不図示)と、ターゲットの表面に磁場を形成する公知の磁場発生源(不図示)とが設けられている。
【0083】
ターゲットの材料、および反応性ガスの種類および流量は、成膜部41と成膜ロール25との間を通過することによって透明基材11上に形成される密着層13、高屈折率層14a、低屈折率層14bの組成に応じて適宜決定される。例えば、SiO2からなる層を形成する場合、ターゲットとしてSiを用い、反応性ガスとしてO2を用いる。また、例えば、Nb2O5からなる層を形成する場合、ターゲットとしてNbを用い、反応性ガスとしてO2を用いる。低屈折率層14bは、0.5Pa未満の真空度で成膜することが好ましく、高屈折率層14aは、1.0Pa未満の真空度で成膜することが好ましい。これらの層を当該真空度で成膜すると、光学機能層14が緻密になり、水蒸気透過率が低下し、耐久性等が向上する。
【0084】
本実施形態では、成膜速度の高速化の観点から、スパッタ法として、マグネトロンスパッタ法を用いることが好ましい。
なお、スパッタ法は、マグネトロンスパッタ法に限定されるものではなく、直流グロー放電または高周波によって発生させたプラズマを利用する2極スパッタ方式、熱陰極を付加する3極スパッタ方式などを用いてもよい。
【0085】
スパッタリング装置1は、密着層13および光学機能層14となる各層を成膜した後に、光学特性を測定する測定部としての光学モニター(不図示)を備える。これにより、形成された密着層13および光学機能層14の品質を確認できる。スパッタリング装置1が、例えば、2つ以上のチャンバーを有する場合、各チャンバー内に光学モニターを設置することが好ましい。
【0086】
光学モニター(不図示)としては、例えば、幅方向にスキャン可能な光学ヘッドにより、ハードコート層12上に形成された密着層13および光学機能層14の幅方向の光学特性を測定するものが挙げられる。このような光学モニターが備えられている場合、例えば、光学特性として反射率のピーク波長を測定し、光学厚みに換算することにより、密着層13および光学機能層14の幅方向の光学厚み分布を測定できる。光学モニターを用いて光学特性を測定することにより、リアルタイムでスパッタ条件を調整しながら、最適な光学特性を有する密着層13および光学機能層14を備える光学積層体10を形成できる。
【0087】
<前処理装置2B>
図3に示す前処理装置2Bは、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー32と、キャンロール26と、複数(
図3では2つ)のガイドロール22と、プラズマ放電装置42とを有する。
図3に示すように、キャンロール26と、ガイドロール22と、プラズマ放電装置42は、チャンバー32内に設置されている。
図3に示すように、チャンバー32は、蒸着装置3のチャンバー33と連結されている。
【0088】
キャンロール26およびガイドロール22は、所定の搬送速度で、スパッタリング装置1から送られた光学機能層14までの各層が形成された透明基材11を搬送し、光学機能層14の表面が処理された透明基材11を蒸着装置3に送り出す。
プラズマ放電装置42としては、例えば、前処理装置2Aと同様のものを用いることができる。
【0089】
<蒸着装置>
図4に示す蒸着装置3は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー33と、チャンバー33内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(
図3においては1つ)と、複数(
図3では4つ)のガイドロール22と、蒸着源43と、加熱装置53とを有する。
図3に示すように、ガイドロール22と、蒸着源43は、チャンバー33内に設置されている。チャンバー33は、ロール巻き取り装置5のチャンバー35と連結されている。
【0090】
蒸着源43は、隣接する2つのガイドロール22間を略水平に搬送されている、光学機能層14の表面が処理された透明基材11と、対向して配置されている。蒸着源43は、防汚層15となる材料からなる蒸発ガスを、光学機能層14上に供給する。蒸着源43の向きは、任意に設定できる。
加熱装置53は、防汚層15となる材料を蒸気圧温度に加熱する。加熱装置53としては、抵抗加熱方式、ヒーター加熱方式、誘導加熱方式、電子ビーム方式で加熱するものなどを用いることができる。抵抗加熱方式では、防汚層15となる防汚性材料を収容する容器を抵抗体として通電加熱する。ヒーター加熱方式では、容器の外周に配置したヒーターで容器を加熱する。誘導加熱方式では、外部に設置した誘導コイルから電磁誘導作用によって容器又は防汚性材料を加熱する。
【0091】
図3に示す蒸着装置3は、蒸着源43で蒸発させた蒸着材料を所定の位置に導く案内板(不図示)と、蒸着により形成された防汚層15の厚みを観察する膜厚計(不図示)と、チャンバー33内の圧力を測定する真空圧計(不図示)と、電源装置(不図示)とを備えている。
案内板は、蒸発させた蒸着材料を、所望の位置に導くことができれば如何なる形状であってもよい。案内板は、必要でなければ備えなくとも差し支えない。
真空圧計としては、例えば、イオンゲージなどを用いることができる。
電源装置としては、例えば、高周波電源などが挙げられる。
【0092】
<ロール巻き取り装置>
図3に示すロール巻き取り装置5は、内部が所定の減圧雰囲気とされたチャンバー35と、チャンバー35内の気体を排出して減圧雰囲気とする1つまたは複数の真空ポンプ21(
図3においては1つ)と、チャンバー35内に設置された巻き取りロール24およびガイドロール22とを有する。
巻き取りロール24には、表面に防汚層15までの各層の形成された透明基材11(光学積層体10)が巻き付けられている。巻き取りロール24およびガイドロール22は、所定の巻き取り速度で、光学積層体10を巻き取る。
必要に応じ、キャリアフィルムも用いても良い。
【0093】
図4に示す製造装置20に備えられている真空ポンプ21としては、例えば、ドライポンプ、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプ、スパッタイオンポンプ、ゲッターポンプなどを用いることができる。真空ポンプ21は、各チャンバー31、32、33、34、35において、所望の減圧状態を作り出すために適宜選択し、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0094】
真空ポンプ21は、スパッタリング装置1のチャンバー31と蒸着装置3のチャンバー33の双方を所望の減圧状態に維持できればよく、製造装置20における真空ポンプ21の設置位置および数は特に限定されない。また、
図3に示す製造装置20では、ロール巻き出し装置4と前処理装置2Aとスパッタリング装置1と前処理装置2Bと蒸着装置3とロール巻き取り装置5とが、連結されている。このため、真空ポンプ21は、チャンバー31、32、33、34、35にそれぞれ設置されていてもよいし、スパッタリング装置1のチャンバー31と蒸着装置3のチャンバー33の双方を所望の減圧状態に維持できるのであれば、チャンバー31、32、33、34、35のうち、一部のチャンバーにのみ設置されていてもよい。
【0095】
次に、
図3に示す製造装置20を用いて、第1表面処理工程と密着層形成工程および光学機能層形成工程と第2表面処理工程と防汚層形成工程を、製造途中の光学積層体10を減圧下の状態に維持したまま連続して行う方法について、説明する。
まず、ロール巻き出し装置4のチャンバー34内に、表面にハードコート層12の形成された透明基材11が巻き付けられた巻き出しロール23を設置する。そして、巻き出しロール23およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、表面にハードコート層12の形成された透明基材11を、前処理装置2Aに送り出す。
【0096】
次に、前処理装置2Aのチャンバー32内で、密着層13および光学機能層14の形成される表面に対する前処理として、第1表面処理工程を行う。本実施形態では、ハードコート層12の形成された透明基材11に対して第1表面処理工程を行う。
第1表面処理工程では、キャンロール26およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、ハードコート層12の形成された透明基材11を搬送しながら、キャンロール26上を走行するハードコート層12の表面を処理する。
【0097】
ハードコート層12の表面処理方法としては、例えば、グロー放電処理、プラズマ処理、イオンエッチング、アルカリ処理などを用いることができる。前述の通り、これらの中でも、大面積処理が可能であるため、グロー放電処理を用いることが好ましい。
【0098】
次に、スパッタリング装置1のチャンバー31内で、密着層形成工程および光学機能層形成工程を行う。具体的には、成膜ロール25およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、ハードコート層12の形成された透明基材11を搬送しながら、成膜ロール25上を走行するハードコート層12上に、密着層13および光学機能層14を形成する。
【0099】
本実施形態では、各成膜部41に設置するターゲットの材料、またはガス供給部から供給する反応性ガスの種類および流量を変化させてスパッタリングすることによって、密着層13を形成し、その上に高屈折率層14aと低屈折率層14bとを交互に積層する。すなわち、密着層形成工程と光学機能層形成工程は、スパッタリング装置1内で連続して行われる。このことにより、密着層13と反射防止層である光学機能層14とを形成する。
高屈折率層14aと低屈折率層14bとは、それぞれ所定の真空度以下の条件で成膜する。具体的には、高屈折率層14aを1.0Pa未満の真空度で成膜し、低屈折率層14bを0.5Pa未満の真空度で成膜する。
【0100】
密着層13としてSiOx膜を成膜する場合、シリコンターゲットを用いて、酸素ガスとアルゴンガスの混合ガス雰囲気による反応性スパッタリングにより形成することが好ましい。
密着層13と高屈折率層14aと低屈折率層14bとをスパッタリングによって連続して積層する場合、密着層13の成膜時と高屈折率層14aの成膜時と低屈折率層14bの成膜時とでターゲットの材料を変えて成膜してもよい。また、例えば、1種類の材料をターゲットとして用い、スパッタリング時の酸素(反応性ガス)流量を変えることによって、ターゲット材料からなる層とターゲット材料の酸化物からなる層とを交互に形成し、密着層13と高屈折率層14aと低屈折率層14bとしても良い。
【0101】
密着層13および光学機能層14を形成するためのスパッタリング時の圧力は、スパッタする金属により異なるが、2Pa以下であってもよく、1Pa以下であることが好ましく、0.6Pa以下であることがより好ましく、0.2Pa以下であることが特に好ましい。スパッタリング時の圧力が1Pa以下の減圧下の状態であると、成膜分子の平均自由工程が長くなり、成膜分子のエネルギーが高いまま積層されるため、緻密でより良好な膜質となる。高屈折率層と低屈折率層のスパッタリング時の圧力は、異なっているほうが好ましい。成膜種ごとに平均自由工程が異なるためである。成膜種ごとに圧力を変えることで、より緻密な膜を成膜することができる。
【0102】
その後、ハードコート層12上に密着層13および光学機能層14の形成された透明基材11を、成膜ロール25およびガイドロール22の回転によって、前処理装置2Bに送り出す。
次に、前処理装置2Bのチャンバー32内で、防汚層15の形成される表面に対する前処理として、第2表面処理工程を行う。本実施形態では、光学機能層形成工程によって得られた光学機能層14の形成された透明基材11を、大気に触れさせることなく、減圧下の状態に維持したまま連続して第2表面処理工程を行う。
第2表面処理工程では、キャンロール26およびガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、光学機能層14までの各層が形成された透明基材11を搬送しながら、キャンロール26上を走行する光学機能層14の表面に、放電処理を行う。
【0103】
光学機能層14の表面処理方法としては、例えば、グロー放電処理、プラズマ処理、イオンエッチング、アルカリ処理などを用いることができる。これらの中でも、大面積処理が可能であるため、グロー放電処理を用いることが好ましい。
【0104】
光学機能層14の表面に放電処理を行うと、光学機能層14の表面がエッチングされ、光学機能層14の表面状態が変化する。光学機能層14の表面状態は、表面粗さRa又は要素の平均長さRSmで表される。例えば、光学機能層14のヘイズが2.0以下のクリア型の反射防止フィルムの場合は、光学機能層14の表面状態は表面粗さRaで定義しやすい。また例えば、光学機能層14のヘイズが2.0超のAG型の反射防止フィルムの場合は、光学機能層14の表面状態は要素の平均長さRSmで定義しやすい。表面粗さRa及び要素の平均長さRSmは、JIS B0601(ISO4287)に準拠して測定される。
【0105】
その後、光学機能層14の表面が処理された透明基材11を、キャンロール26およびガイドロール22の回転によって、蒸着装置3に送り出す。
次に、蒸着装置3のチャンバー33内で、防汚層形成工程を行う。本実施形態では、第2表面処理工程によって得られた光学機能層14の表面が処理された透明基材11を、大気に触れさせることなく、減圧下の状態に維持したまま連続して防汚層形成工程を行う。
防汚層形成工程では、ガイドロール22を回転させて、所定の搬送速度で、光学機能層14の表面が処理された透明基材11を搬送しながら、光学機能層14の表面に蒸着源43を蒸着する。
【0106】
本実施形態では、例えば、防汚層15となるフッ素系有機化合物からなる防汚性材料を、加熱装置53によって蒸気圧温度に加熱し、得られた蒸発ガスを減圧環境下において蒸着源43から供給し、表面が処理された光学機能層14に付着させ、防汚層15を真空蒸着によって形成する。
防汚層15の真空蒸着を行う際の圧力は、例えば、0.05Pa以下であることが好ましく、0.01Pa以下であることがより好ましく、0.001Pa以下であることが特に好ましい。真空蒸着を行う際の圧力が、0.05Pa以下の減圧下の状態であると、成膜分子の平均自由工程が長く、蒸着エネルギーが高くなるため、緻密でより良好な防汚層15が得られる。
【0107】
以上の方法により、スパッタリングによって形成された密着層13および光学機能層14上に、真空蒸着によって防汚層15が形成された光学積層体10が得られる。成膜後の防汚層15は、蛍光X線分析法(XRF)を用いて測定したフッ素の初期量が0.03以上であることが好ましい。
【0108】
その後、防汚層15までの各層が形成された透明基材11(光学積層体10)を、ガイドロール22の回転によって、ロール巻き取り装置5に送り出す。
そして、ロール巻き取り装置5のチャンバー35内で、巻き取りロール24およびガイドロール22の回転によって、光学積層体10を巻き取りロール24に巻き付ける。
【0109】
本実施形態では、光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを、減圧下で連続して行うことが好ましい。特に、
図3に示す製造装置20を用いる本実施形態の製造方法のように、光学積層体10をロールトゥロール方式で巻重体として連続的に製造する場合には、光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを、減圧状態を維持したままインラインで連続して行うことがより好ましい。インラインとは、光学機能層形成工程において形成した光学機能層14を大気に触れさせることなく、防汚層形成工程を行うことを意味する。光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを減圧下で連続して行うことにより、防汚層15を形成する前に、光学機能層形成工程において形成した光学機能層14上に、自然酸化膜が生成されることが抑制される。また、ロールを巻き取る際の異物などのコンタミネーションが、光学機能層14上に付着して、光学機能層14と防汚層15との密着性を阻害することを防止できる。したがって、光学機能層形成工程後、光学機能層14までの各層の形成された透明基材11を減圧状態のチャンバーから取り出し、その後、再びチャンバー内に設置して減圧下で防汚層形成工程を行う場合と比較して、光学機能層14と防汚層15との密着性が良好で、透明性に優れる光学積層体が得られる。
【0110】
また、本実施形態の光学積層体10の有する防汚層15は、蒸着膜であるため、例えば、塗布法により形成した防汚膜と比較して、高い耐摩耗性が得られる。これは、以下に示す理由によるものと推定される。すなわち、塗布法により形成した防汚膜中には、塗料に含まれている溶剤に起因する空隙が存在している。これに対し、蒸着膜には、溶剤に起因する空隙が存在しない。このため、蒸着膜は、塗布法により形成した防汚膜と比較して、高密度であり、高い耐摩耗性や耐アルカリ性が得られるものと推定される。
【0111】
本実施形態の光学積層体10の製造方法は、密着層13を形成する密着層形成工程と、高屈折率層14aと低屈折率層14bとを交互に積層することにより光学機能層14を形成する光学機能層形成工程と、光学機能層14の表面を処理する第2表面処理工程と、表面処理された光学機能層14上に防汚層15を形成する防汚層形成工程とを含む。このため、光学機能層14と、光学機能層14上に形成された防汚層15との密着性が良好であり、より一層摩擦性および耐アルカリ性の良好なものとなる。
【0112】
本実施形態において、第1表面処理工程と光学機能層形成工程と第2表面処理工程と防汚層形成工程を、製造途中の光学積層体を減圧下の状態に維持したまま連続して行う場合、各製造工程に支障のない範囲であれば、例えば、スパッタリング装置と蒸着装置とで、チャンバー内の減圧条件が異なっていても構わない。
【0113】
本実施形態においては、密着層形成工程、光学機能層形成工程、防汚層形成工程のいずれか1つ以上の工程において、経時的に成膜結果を測定器により測定し、その結果を後工程にあたる製造工程の条件にフィードバックすることが好ましい。このことにより、光学積層体全体の特性を最適化しやすくなり、光学積層体の面内での特性を均一にできる。また、測定器により同一工程における製造条件のフィードバックを行うこともできる。この場合、その工程で成膜された層が、均一で安定した特性を有するものとなる。
【0114】
本実施形態においては、光学機能層形成工程と防汚層形成工程との間に第2表面処理工程を行う場合を例に挙げて説明したが、第2表面処理工程は必要に応じて行えばよく、行わなくてもよい。第2表面処理工程を行わない場合においても、光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを、減圧下で連続して行うことが好ましい。
【0115】
また本実施形態における製造方法では、光学機能層を所定の真空度以下の条件で成膜する。そのため、光学機能層14が緻密になり、水蒸気透過率が低下し、耐摩擦性及び耐アルカリ性が向上する。さらに、防汚層の膜厚が所定の厚み以上であることで、十分な耐擦傷性及び耐アルカリ性を確保できる。
【0116】
本実施形態においては、前処理装置2Aと、スパッタリング装置1と、前処理装置2Bと、蒸着装置3と、ロール巻き出し装置4と、ロール巻き取り装置5とを備えている
図3に示す製造装置20を用いて、ロールトゥロール方式で光学積層体10を連続的に製造する場合を例に挙げて説明したが、光学積層体10を製造する製造装置は、
図3に示す製造装置20に限定されない。
例えば、前処理装置2Aおよび前処理装置2Bを含まず、ロール巻き出し装置4と、スパッタリング装置1と、蒸着装置3と、ロール巻き取り装置5とが、この順に連結された製造装置を用いてもよい。
【0117】
図3に示す製造装置20には、蒸着装置3のチャンバー33と前処理装置2Bのチャンバー32との間に、防汚層15の形成される光学機能層14の表面を洗浄するための前処理室(不図示)が設けられていてもよい。
図3に示す製造装置20には、蒸着装置3のチャンバー33とロール巻き取り装置5のチャンバー35との間に、防汚層15までの各層が形成された透明基材11の冷却および/または検査を行うための後処理室(不図示)が設けられていてもよい。
【0118】
図3に示す製造装置20には、ロール巻き出し装置4とスパッタリング装置1との間に、透明基材11の表面にハードコート層12を形成するためのハードコート層形成装置が設けられていてもよい。この場合、光学機能層14と防汚層15だけでなく、ハードコート層12も、ロールトゥロール方式で連続的に製造でき、好ましい。
【0119】
本実施形態においては、スパッタリング装置を用いて光学機能層形成工程を行い、蒸着装置を用いて防汚層形成工程を行う場合を例に挙げて説明したが、第2表面処理工程を行わない場合には、光学機能層形成工程と防汚層形成工程とを同じ装置(1つのチャンバー内)で行ってもよい。
【0120】
本実施形態の光学積層体10に於いて、透明基材の光学機能層などが形成された面と対向する面に、必要に応じて各種の層を設けてもよい。例えば、他の部材との接着に用いられる粘着剤層が設けられていても良い。また、この粘着剤層を介して他の光学フィルムが設けられていても良い。他の光学フィルムとしては、例えば偏光フィルム、位相差補償フィルム、1/2波長板、1/4波長板として機能するフィルムなどが挙げられる。
【0121】
また、透明基材の対向する面に、反射防止、選択反射、防眩、偏光、位相差補償、視野角補償又は拡大、導光、拡散、輝度向上、色相調整、導電などの機能を有する層が直接形成されていても良い。
また、光学積層体の形状は、平滑な形状であってもよいし、モスアイ、防眩機能を発現するナノオーダーの凹凸構造を有する形状でもよい。また、レンズ、プリズムなどのマイクロからミリオーダーの幾何学形状であっても良い。形状は、例えば、フォトリソグラフィーとエッチングの組み合わせ、形状転写、熱プレス等によって形成できる。本実施形態においては、蒸着等により成膜するため、基材に例えば凹凸形状がある場合でも、その凹凸形状を維持できる。
【0122】
本実施形態の物品は、例えば液晶表示パネル、有機EL表示パネルなど、画像表示部の表示面に上述した光学積層体10を設けたものである。これにより、例えば、スマートフォンや操作機器のタッチパネル表示部に対して、高い耐摩耗性および耐アルカリ性を付与することができ、耐久性に優れた、実使用に好適な画像表示装置を実現できる。
【0123】
また、物品としては画像表示装置に限定されず、例えば本実施形態の光学積層体が表面に設けられた窓ガラスやゴーグル、太陽電池の受光面、スマートフォンの画面やノートPCなどのディスプレイ、情報入力端末、タブレット端末、AR(拡張現実)デバイス、VR(仮想現実)デバイス、電光表示板、ガラステーブル表面、遊技機、航空機や電車などの運行支援装置、ナビゲーションシステム、計器盤、光学センサーの表面など光学積層体10が適用可能なものであれば、どのようなものでもよい。
【0124】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、ハードコート層12に代えて、アンチグレア層を形成したり、柔軟性を有するソフトコート層など、必要に応じて任意の機能層を付加したりすることができる。これらは積層されていても良い。
【実施例0125】
以下、本発明の実施例を説明する。尚、以下の実施例および比較例で作成される光学積層体は、反射防止フィルムとして機能する一例であり、本発明の趣旨はこれらに限定されるものではない。
【0126】
<ハードコート層用組成物の調製>
まず、平均粒径50nmのシリカ粒子(フィラー)の含有量が組成物の固形分全体に対し、28質量%である光硬化性の組成物1を準備した。組成物1は、表1に示すように、アクリレート(バインダー樹脂)、シリカ粒子及び光重合開始剤を溶剤に溶解させ、更にレベリング剤を加えて調整した。
【0127】
【0128】
CN968:ポリエステル骨格を有する6官能脂肪族ウレタンアクリレート
SR610:ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール鎖の平均分子量600
PGM-AC-4130Y:メタクリロイル基含有シラン化合物による表面修飾シリカゾル、分散媒 プロピレングリコールモノメチルエーテル
Ominirad 184:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン
【0129】
(実施例1)
透明基材として厚さ50μmのPETフィルムを用い、このPETフィルム上に上記組成物1をバーコーターによって塗布した後、組成物1を光重合させ、透明基材上に厚さ5μmのハードコート層を形成した。
【0130】
次に、ハードコート層の表面を、電極電力密度5500W/m2のグロー放電処理にて表面処理を行なった。続いて、ハードコート層上に、スパッタリングターゲットとしてSiターゲットとNbターゲットとを用い、ArガスとO2ガスとの混合ガスを用いて反応性スパッタ法により、密着層と、光学機能層とを連続して形成した。
すなわち、ハードコート層上に、3nmの、酸素欠乏があり得るSi酸化物(SiOx、0<x<2)からなる密着層と、厚み10nmのNb2O5からなる第1高屈折率材料層と、厚み26nmのSiO2からなる第1低屈折率材料層と、厚み110nmのNb2O5からなる第2高屈折率材料層と、厚み85nmのSiO2からなる第2低屈折率材料層とをこの順に成膜した。
【0131】
次に、蒸着チャンバー内圧力0.01Pa、蒸着温度230℃、保持時間7.2sで、光学機能層最上層のSiO2膜上にパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物(KY1903-1、信越化学工業社製)からなる厚さ3nmの防汚層を蒸着によって形成し、実施例の光学積層体(反射防止フィルム)を作製した。
【0132】
(実施例2)
グロー放電処理時の電極電力密度を5500W/m2から1100W/m2に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光学積層体を得た。
【0133】
(実施例3)
グロー放電処理の電極電力密度を5500W/m2から6600W/m2に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光学積層体を得た。
【0134】
(実施例4)
透明基材上に形成したハードコート層の厚さを2μmとした事以外は、実施例1と同様にして光学積層体を得た。
【0135】
(実施例5)
ハードコート層用組成物を組成物2に変更した事以外は、実施例1と同様にして光学積層体を得た。
【0136】
(実施例6)
ハードコート層用組成物を組成物3に変更した事以外は、実施例1と同様にして光学積層体を得た。
【0137】
(実施例7)
透明基材として厚さ50μmのPETフィルムに替えて23μmPETフィルムとした事以外は、実施例1と同様にして光学積層体を得た。
【0138】
(実施例8)
透明基材上に形成したハードコート層の厚さを10μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして光学積層体を得た。
【0139】
(実施例9)
グロー放電処理時の電極電力密度を5500W/m2から3300W/m2に変更したこと以外は、実施例8と同様にして光学積層体を得た。
【0140】
(実施例10)
グロー放電処理時の電極電力密度を5500W/m2から1100W/m2に変更したこと以外は、実施例8と同様にして光学積層体を得た。
【0141】
(実施例11)
グロー放電処理時の電極電力密度を5500W/m2から550W/m2に変更したこと以外は、実施例8と同様にして光学積層体を得た。
【0142】
(比較例1)
ハードコート層を形成する組成物1を、表1に示す組成物4に変更し、グロー放電電処理時の電極電力密度を5000W/m2としたこと以外は、実施例1と同様にして光学積層体を得た。
【0143】
(比較例2)
透明基材上に形成したハードコート層の厚さを10μmとしたことと、グロー放電処理時の電極電力密度を5000W/m2から1100W/m2に変更したこと以外は、比較例1と同様にして光学積層体を得た。
【0144】
次に、実施例1~11及び比較例1~2で得られた光学積層体を、以下の方法で測定、評価した。
【0145】
<屈曲試験>
サンプルとして、1cm×15cmに切断した光学積層体を用意した。光学積層体は切断面にクラックが無いことを確認した。
マンドレルがセット可能な折り曲げ試験機に、5.0mmのマンドレルをセットした。この試験機に、前述の光学積層体を、防汚層の形成された面が外側に折り曲げられるようにセットした。その後、2秒かけて試験機を折り曲げることで光学積層体を180°折り曲げ、10秒間保持した。その後、目視及び光学顕微鏡により防汚層のクラックの有無を確認した。
光学積層体の防汚層側表面に、目視及び光学顕微鏡でひび割れなどの異常が見られるまで、マンドレルの直径を小さいものに0.2mm毎に交換しながら上記の手順を繰り返し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径(φmm)を、屈曲試験の試験結果とした。
同様にして、上述の試験機に、光学積層体を、防汚層が形成された面が内側に折り曲げられるようにセットした場合についても同様に測定し、初めてクラックが発見されたマンドレルの直径よりも0.2mm大きいマンドレルの直径(φmm)を、屈曲試験の試験結果とした。
【0146】
また、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用した場合の、光学機能層の理論上の伸び率S(%)を算出した。伸び率Sは、以下のように算出した。
S(%)={(R2/R1)-1}×100
(但し、R2は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の外側表面までの距離であり、R1は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の総厚の1/2に相当する位置を示す仮想線までの距離である。)
【0147】
また、防汚層が形成された面が内側に折り曲げられるようにセットした場合について、クラックが発生しなかった最小の直径のマンドレルを使用した場合の、光学機能層の理論上の圧縮率C(%)を算出した。圧縮率Cは、以下のように算出した。
C(%)={1-(R3/R1)}×100
(但し、R3は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の防汚層側表面までの距離であり、R1は、上記マンドレルの軸中心から上記光学積層体の総厚の1/2に相当する位置を示す仮想線までの距離である。)
【0148】
なお、測定は各サンプルを3つずつ用意し、各値は3つの測定の平均値から求めた。 また、マンドレル径の最小のものは1.0φmmであり、伸び率の測定にあっては1.0φmmを用いているが、クラックは入らない為、屈曲試験の結果としては1.0φmm未満としている。
【0149】
<マルテンス硬度>
組成物1~4を用いて、透明基材上にハードコート層のみを形成した積層体(サンプル)をそれぞれ作製した。
実施例1~11及び比較例1~2で得られた光学積層体については、光学積層体の防汚層側のマルテンス硬度をそれぞれ測定した。ハードコート層のみを形成した積層体については、積層体のハードコート層側のマルテンス硬度を測定した。測定には、ISO14577-1に準拠して、微小圧縮試験機(エリオニクス社製、ENT-NEXUS、測定圧子:バーコビッチ圧子)を用いた。光学積層体については、押し込み深さ50nmの際の硬度を、ハードコート層のみを形成した積層体については、ハードコート層の厚みの1/10の深さまで押し込んだときの硬度をそれぞれ求めた。
また、上記で測定された光学積層体のマルテンス硬度を(A)、透明基材上にハードコート層のみを形成した積層体のマルテンス硬度を(B)とし、これらの比(A)/(B)を算出した。結果を表2に示す。
【0150】
また、実施例1~11及び比較例1~2で得られた光学積層体を、以下の方法で測定、評価した。
【0151】
<純水に対する接触角測定試験>
全自動接触角計DM-700(協和界面化学株式会社製)を用い、以下の条件で楕円フィッティング法によって測定した。純水をガラスシリンジに入れて、その先端にステンレス製の針を取り付けて、光学積層体(試験片)に純水を滴下した。
純水の滴下量:2.0μL
測定温度:25℃
積層体(サンプル)に純水を滴下して4秒経過後の接触角を、試験片表面の任意の6か所で測定し、その平均値を純水接触角とした。
【0152】
<スチールウール摺動試験>
JIS L0849に準拠した摩擦試験機I形を用いて、光学積層体(試験片)の表面に沿って、摩擦体を水平往復運動させ、試験片を得た。
摩擦体としてスチールウール(ボンスター株式会社製 #0000番)を用いた。試験設定は、荷重を1000g/cm2とし、摺動距離を50mm、摺動速度を60rpm(1往復/秒)、摺動回数を200回(100往復)とした。
摺動後のサンプルに対して、前述の純粋に対する接触角測定試験と同様の試験を行ない、試験前後の接触角の差を求めた。
結果を表3に示す。
【0153】
【0154】
【0155】
表2の結果から、実施例1~7のいずれでも、光学積層体の防汚層側のマルテンス硬度(A)と、透明基材及びハードコート層のみを有する積層体のハードコート層側のマルテンス硬度(B)との比((A)/(B))が3.6以下であるので、優れた硬度を実現しつつ、耐屈曲性を更に向上できることが分かった。特に、ハードコート層に含有されるシリカ粒子が、メタクリロイル基含有シラン化合物由来のメタクリロイル基によって表面修飾されていることで、メタクリロイル基がより強固にアクリレート(バインダー樹脂)と結合していると考えられ、その結果光学積層体の硬度が向上していることが分かった。更に、シリカ粒子表面のメタクリロイル基によってハードコート層と密着層、並びに密着層を介した光学機能層との間の密着性がより向上し、耐屈曲性が更に向上することが分かった。
また、実施例1~7のいずれにおいても、摩擦前とスチールウールを200回水平往復運動させた摩擦後の水に対する接触角差が20°以下であり、ハードコート層に含有されるシリカ粒子が、メタクリロイル基含有シラン化合物由来のメタクリロイル基によって表面修飾されていることで、メタクリロイル基がより強固にアクリレート(バインダー樹脂)と結合していると考えられ、その結果光学積層体の硬度が向上し、優れた耐擦傷性を実現できることが分かった。
【0156】
さらに、表3の結果から、実施例8~11のいずれにおいても、実施例1~7と同様、摩擦前とスチールウールを200回水平往復運動させた摩擦後の水に対する接触角差が20°以下であり、光学積層体の硬度が向上し、優れた耐擦傷性を実現できることが分かった。また、光学積層体の防汚層側のマルテンス硬度(A)と、透明基材及びハードコート層のみを有する積層体のハードコート層側のマルテンス硬度(B)との比((A)/(B))が3.6以下であるので、優れた硬度を実現しつつ、耐屈曲性を更に向上できることが分かった。
【0157】
一方、比較例1では、表面修飾していないシリカ粒子を含有する組成物4を用いてハードコート層を形成すると、上記比((A)/(B))が3.71となり、積層体の硬度が低くなった。また、伸び率S(外曲げ)が1.22、圧縮率C(内曲げ)が4.4であり、耐屈曲性が劣った。
【0158】
また、比較例2では、表面修飾していないシリカ粒子を含有する組成物2を用いてハードコート層を形成すると、接触角差が23.6°となり、耐擦傷性の低下が見られた。また、伸び率S(外曲げ)が1.29、圧縮率C(内曲げ)が3.63であり、耐屈曲性が劣った。