(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159617
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】新規化合物及びウイルスの検出用試薬並びにそれを用いたウイルスの検出方法
(51)【国際特許分類】
C07H 15/26 20060101AFI20241031BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C07H15/26 CSP
G01N33/569 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069441
(22)【出願日】2024-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2023074720
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)集会名 令和5年度 第1回 BVA創薬研究会 開催日 2023年5月18日 (2)集会名 大学見本市2023~イノベーション・ジャパン 開催日 2023年8月24,25日 (3)発行者名 静岡県立大学 刊行物名 糖鎖科学中部拠点 第19回「若手の力」フォーラム要旨集、第2頁及び第12頁 発行日 2023年9月21日 (4)集会名 糖鎖科学中部拠点 第19回「若手の力」フォーラム 開催日 2023年9月21日 (5)集会名 BioJapan 2023 開催日 2023年10月11~13日 (6)発行者名 山田 成樹 刊行物名 日本病院薬剤師会東海ブロック・日本薬学会東海支部 合同学術大会2023 講演要旨集、第199頁 発行日 2023年11月12日 (7)集会名 日本病院薬剤師会東海ブロック・日本薬学会東海支部 合同学術大会2023 開催日 2023年11月12日 (8)掲載アドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm144/top、https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm144/proceedings/list 掲載日 2024年3月5日 (9)集会名 日本薬学会第144年会 開催日 2024年3月28~31日
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】高橋 忠伸
(72)【発明者】
【氏名】紅林 佑希
(72)【発明者】
【氏名】成道 豊
(72)【発明者】
【氏名】竹内 英之
(72)【発明者】
【氏名】大坪 忠宗
(72)【発明者】
【氏名】池田 潔
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA18
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD03
4C057JJ55
4C057JJ57
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シアリダーゼを発現するウイルスのウイルス種を区別して検出することのできる検出用試薬を提供する。
【解決手段】本発明は、式(I)、式(III)等で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下式(I)、式(II)又は式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
【化1】
[式(II)中、R
1は、炭素数3~9の直鎖アルキル基又はイソプロピル基を示す。]
【請求項2】
シアリダーゼ活性を有するウイルス又はウイルスのシアリダーゼの検出用試薬であって、
以下式(I)、式(II)又は式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有することを特徴とする検出用試薬。
【化2】
[式(II)中、R
1は、炭素数3~9の直鎖アルキル基又はイソプロピル基を示す。]
【請求項3】
前記ウイルスがインフルエンザウイルスであり、
前記式(I)、式(II)又は式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、該式(II)中のR1は、イソプロピル基であることを特徴とする、請求項2に記載の検出用試薬。
【請求項4】
前記ウイルスがA型インフルエンザウイルスであり、
前記式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有することを特徴とする、請求項2に記載の検出用試薬。
【請求項5】
前記ウイルスが、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスであり、
前記式(II)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、該式(II)中のR1は、イソプロピル基であることを特徴とする、請求項2に記載の検出用試薬。
【請求項6】
前記ウイルスが、A型インフルエンザウイルス及びB型インフルエンザウイルスであり、
前記式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有することを特徴とする、請求項2に記載の検出用試薬。
【請求項7】
インフルエンザウイルスの検出方法であって、
請求項3に記載の検出用試薬を検体に添加する工程、及び
前記工程により生じる蛍光物質に基づいて、インフルエンザウイルスの存在の有無を判別することを特徴とする検出方法。
【請求項8】
インフルエンザウイルスの検出方法であって、
請求項3に記載の検出用試薬を用いて、インフルエンザウイルスの感染細胞を蛍光イメージングすることを特徴とする検出方法。
【請求項9】
前記ウイルスがムンプスウイルスであり、
前記式(II)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、該式(II)中のR1は、炭素数3~9の直鎖アルキル基であることを特徴とする、請求項2に記載の検出用試薬。
【請求項10】
前記ウイルスがムンプスウイルスであり、
前記式(II)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、該式(II)中のR1は、ヘプチル基であることを特徴とする、請求項2に記載の検出用試薬。
【請求項11】
ムンプスウイルスの検出方法であって、
請求項9又は10に記載の検出用試薬を検体に添加する工程、及び
前記工程により生じる蛍光物質に基づいて、ムンプスウイルスの存在の有無を判別することを特徴とする検出方法。
【請求項12】
ムンプスウイルスの検出方法であって、
請求項9又は10に記載の検出用試薬を用いて、ムンプスウイルスの感染細胞を蛍光イメージングすることを特徴とする検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)、式(II)及び式(III)で表される新規化合物並びにこの化合物を含有する、ウイルス又はウイルスのシアリダーゼの検出用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス、ムンプス(おたふく風邪)ウイルス及びヒトパラインフルエンザウイルスは流行性の高いヒト病原ウイルスである。インフルエンザウイルスについては、抗原検査薬による診断が実施されているが、ムンプスウイルス及びヒトパラインフルエンザウイルスについては、現状では、臨床で簡易に利用できる検査薬は導入されていない。
【0003】
また、この種のウイルスの流行状況の把握のため、公的な衛生検査機関では臨床検体からウイルスを分離培養し、ウイルスを同定することが行われている。ウイルスを分離培養する際に、感染細胞の形態変化(CPE)はウイルス種の推定に利用される培養確認法の一つであるが、形態変化そのものを明確に観察できないことがある。そのため、ウイルス感染細胞からのウイルス株の単離及びウイルスの同定には、培養上清の赤血球凝集活性によるウイルス培養の確認、遺伝子検査あるいは抗ウイルス抗体を利用したウイルスの同定等の検査が行われており、多数の検体を取り扱う際に、このような検査は大変な労力となっている。
【0004】
他方、本件発明者らは、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス及びヒトパラインフルエンザウイルス等のシアリダーゼ活性を有するウイルスを高感度に蛍光検出できる検出用試薬として、以下化学式に示す「BTP3-Neu5Ac」及び「mC9-yne-BTP-Neu5Ac(BTP9-Neu5Ac)」を開発した(非特許文献1及び特許文献1参照)。これらの検出用試薬は、シアリダーゼを発現するウイルス感染細胞を簡単に蛍光イメージングすることができる。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】高橋忠伸・紅林佑希・大坪忠宗・池田潔・南彰・鈴木隆、“シアリダーゼを利用したウイルス感染細胞の蛍光イメージング”、分析化学、2016年、第65巻、第12号、pp.689-701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス及びヒトパラインフルエンザウイルスの感染診断にあたり、臨床で簡易に利用できる検査薬や、衛生検査機関等においては、臨床検体からのウイルス種を簡易に判別したり、ウイルス株を簡易に単離する技術が求められている。
【0009】
他方、非特許文献1及び特許文献1で提案されたウイルス検出用試薬「BTP3-Neu5Ac」及び「mC9-yne-BTP-NeuAc(BTP9-Neu5Ac)」は、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス及びヒトパラインフルエンザウイルス等のシアリダーゼを発現するウイルスを高感度に検出するものの、各ウイルス種を区別して判定することはできないという問題があった。
【0010】
したがって、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、シアリダーゼを発現するウイルスのウイルス種を区別して検出することのできる検出用試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、シアリダーゼ基質構造のシアル酸(Neu5Ac)構造に着目し、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス等の各シアリダーゼの違いを区別して特異的に検出する新規シアル酸誘導体化合物を見出した。この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記課題を解決する本発明は、以下の式(I)、式(II)又は式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物であり、式(II)中、R1は、炭素数3~9の直鎖アルキル基又はイソプロピル基を示している。
【0013】
【0014】
これら式(I)、式(II)又は式(III)で表される化合物は、シアリダーゼを発現するウイルスの各シアリダーゼの違いを区別して特異的に反応するシアリダーゼ基質化合物である。そのため、シアリダーゼ活性を有するウイルス種を区別して検出することができる。より具体的には、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス及びヒトパラインフルエンザウイルスを区別して蛍光検出することができ、A型インフルエンザウイルス、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス、A型若しくはB型のインフルエンザウイルス又はムンプスウイルスの存在の有無を判別することができる。これにより、臨床検査薬や、臨床検体からのウイルス種の判別、ウイルスの分離培養及びウイルス株の単離にこの化合物を活用することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明の検出用試薬は、シアリダーゼ活性を有するウイルス又はウイルスのシアリダーゼの検出用試薬であって、以下の式(I)、式(II)又は式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、式(II)中、R1は、炭素数3~9の直鎖アルキル基又はイソプロピル基を示している。
【0016】
【0017】
上述の化合物は、シアリダーゼを発現するウイルスの各シアリダーゼの違いを区別して特異的に反応するシアリダーゼ基質化合物である。そのため、シアリダーゼ活性を有するウイルス種及びそのシアリダーゼを区別して検出することができる。より具体的には、A型インフルエンザウイルス、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス、A型若しくはB型のインフルエンザウイルス又はムンプスウイルス及びそれらウイルスのシアリダーゼを区別して検出することができる。また、これらの化合物により、ウイルス感染細胞におけるシアリダーゼ活性の存在部位を組織化学的に蛍光イメージングすることができる。また、ウイルス感染細胞のライブイメージングを行うことができるため、ウイルス感染細胞からのウイルスの分離培養及びウイルス株の単離も容易とすることができる。
【0018】
また、本発明の検出用試薬は、検出対象のウイルスがインフルエンザウイルスであり、上述した式(I)、式(II)又は式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、この式(II)中のR1は、イソプロピル基であることも好ましい。式(I)に係る化合物は、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとその他ウイルス種のシアリダーゼとの違いを区別して、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応するシアリダーゼ基質化合物である。そのため、A型インフルエンザウイルス及びそのシアリダーゼを、他のウイルス種と区別して検出することができる。また、式(II)に係る化合物は、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとNA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスとの違いを区別して、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと反応するシアリダーゼ基質化合物である。そのため、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス及びそのシアリダーゼを、NA亜型がN2のA型インフルエンザウイルス及びそのシアリダーゼと区別して検出することができる。式(III)に係る化合物は、A型又はB型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとその他ウイルス種のシアリダーゼとの違いを区別して、A型又はB型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応するシアリダーゼ基質化合物である。そのため、A型及びB型インフルエンザウイルス並びにそのシアリダーゼを、他のウイルス種と区別して検出することができる。
【0019】
また、本発明の検出用試薬は、検出対象のウイルスがA型インフルエンザウイルスであり、上述した式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有することも好ましい。式(I)に係る化合物は、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとその他ウイルス種のシアリダーゼとの違いを区別して、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応するシアリダーゼ基質化合物である。そのため、A型インフルエンザウイルス及びそのシアリダーゼを、他のウイルス種と区別して検出することができる。
【0020】
また、本発明の検出用試薬は、検出対象のウイルスが、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスであり、式(II)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、この式(II)中のR1は、イソプロピル基であることも好ましい。式(II)に係る化合物は、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとNA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとの違いを区別して、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと反応するシアリダーゼ基質化合物である。そのため、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス及びそのシアリダーゼを、NA亜型がN2のA型インフルエンザウイルス及びそのシアリダーゼと区別して検出することができる。
【0021】
また、本発明の検出用試薬は、検出対象のウイルスが、A型インフルエンザウイルス及びB型インフルエンザウイルスであり、式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有することも好ましい。式(III)に係る化合物は、A型又はB型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとその他ウイルス種のシアリダーゼとの違いを区別して、A型又はB型のシアリダーゼと特異的に反応するシアリダーゼ基質化合物である。そのため、A型及びB型インフルエンザウイルス並びにそのシアリダーゼを、他のウイルス種と区別して検出することができる。
【0022】
また、本発明の検出方法は、インフルエンザウイルスの検出方法であって、上述した式(I)、式(II)又は式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、該式(II)中のR1は、イソプロピル基である検出用試薬を検体に添加する工程、及びこの工程により生じる蛍光物質に基づいて、インフルエンザウイルスの存在の有無を判別する。式(I)に係る化合物は、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとその他ウイルス種のシアリダーゼとの違いを区別して、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応して蛍光物質であるBTP3[(2-ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノール]を生じさせる。そのため、A型インフルエンザウイルスを他のウイルス種と区別して検出することができる。式(II)に係る化合物は、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとNA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとの違いを区別して、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと反応して蛍光物質であるBTP3を生じさせる。そのため、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスを、NA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスと区別して検出することができる。式(III)に係る化合物は、A型又はB型のインフルエンザウイルスのシアリダーゼとその他ウイルス種のシアリダーゼとの違いを区別して、A型又はB型のインフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応して蛍光物質であるBTP3を生じさせる。そのため、A型及びB型のインフルエンザウイルスを他のウイルス種と区別して検出することができる。
【0023】
また、本発明の検出方法は、インフルエンザウイルスの検出方法であって、上述した式(I)、式(II)又は式(III)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、該式(II)中のR1は、イソプロピル基である検出用試薬を用いて、インフルエンザウイルスの感染細胞を蛍光イメージングする。式(I)に係る化合物は、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応して蛍光物質であるBTP3を生じさせるところ、感染細胞中におけるA型インフルエンザウイルスの存在部位が、このBTP3によって組織化学的に蛍光イメージングされる。式(II)に係る化合物は、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと反応して蛍光物質であるBTP3を生じさせるところ、感染細胞中におけるNA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスの存在部位が、このBTP3によって組織化学的に蛍光イメージングされる。式(III)に係る化合物は、A型又はB型のインフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応して蛍光物質であるBTP3を生じさせるところ、感染細胞中におけるA型又はB型のインフルエンザウイルスの存在部位が、このBTP3によって組織化学的に蛍光イメージングされる。
【0024】
また、本発明の検出用試薬は、検出対象のウイルスがムンプスウイルスであり、上述した式(II)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、式(II)中のR1は、炭素数3~9の直鎖アルキル基であることも好ましい。これらの化合物は、ムンプスウイルスのシアリダーゼとその他ウイルス種のシアリダーゼとの違いを区別して、ムンプスウイルスのシアリダーゼと特異的に反応するシアリダーゼ基質化合物である。そのため、ムンプスウイルス及びそのシアリダーゼを、他のウイルス種と区別して検出することができる。
【0025】
また、本発明の検出用試薬は、検出対象のウイルスがムンプスウイルスであり、上述した式(II)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有し、式(II)中のR1は、ヘプチル基であることも好ましい。この化合物は、ムンプスウイルスのシアリダーゼとその他ウイルス種のシアリダーゼとの違いを区別して、ムンプスウイルスのシアリダーゼと特異的に反応すると共に、反応性も高いシアリダーゼ基質化合物である。そのため、ムンプスウイルス及びそのシアリダーゼを、他のウイルス種と区別して検出することができる。
【0026】
また、本発明の検出方法は、ムンプスウイルスの検出方法であって、上述した式(II)で表され、式(II)中のR1は、炭素数3~9の直鎖アルキル基である化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する検出用試薬を検体に添加する工程、及びこの工程により生じる蛍光物質に基づいて、ムンプスウイルスの存在の有無を判別する。これらの化合物は、ムンプスウイルスのシアリダーゼとその他ウイルス種のシアリダーゼとの違いを区別して、ムンプスウイルスのシアリダーゼと特異的に反応して蛍光物質であるBTP3[(2-ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノール]を生じさせる。そのため、ムンプスウイルスを他のウイルス種と区別して検出することができる。
【0027】
また、本発明の検出方法は、ムンプスウイルスの検出方法であって、上述した式(II)で表され、式(II)中のR1は、炭素数3~9の直鎖アルキル基である化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する検出用試薬を用いて、ムンプスウイルスの感染細胞を蛍光イメージングする。これらの化合物は、ムンプスウイルスのシアリダーゼと特異的に反応して蛍光物質であるBTP3を生じさせるところ、感染細胞中におけるムンプスウイルスの存在部位が、このBTP3によって組織化学的に蛍光イメージングされる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有するウイルスの検出用試薬及びウイルスの検出方法を提供することができる。
(1)本発明に係る化合物を検体に添加することにより、容易に、シアリダーゼ活性を有するウイルス種及びそのシアリダーゼを区別して検出することができる。
(2)化合物自体の合成が比較的容易である。
(3)ウイルス感染細胞におけるウイルスの存在部位を組織化学的に蛍光イメージングすることができる。
(4)ウイルス感染細胞のライブイメージングを行うことができるため、ウイルス感染細胞からのウイルスの分離培養及びウイルス株の単離が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施例1における、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを検出する化合物のスクリーニング結果を示すグラフである。
【
図2】実施例2における、化合物b(22-001a)及び化合物a(陽性対照、BTP3-Neu5Ac)の他のウイルス種のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図3】実施例3における、化合物b(22-001a)及び化合物a(陽性対照、BTP3-Neu5Ac)のNA亜型が異なるA型インフルエンザウイルス又は他のウイルス種のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図4】実施例4における、化合物b(22-001a)及び化合物a(陽性対照、BTP3-Neu5Ac)による、ウイルス感染細胞の蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図5】実施例5における、化合物b(22-001a)による、A型及びB型インフルエンザウイルス株の感染細胞の蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図6】実施例6における、化合物b(22-001a)による、A型インフルエンザウイルスのフォーカスの蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図7】実施例7における、化合物b(22-001a)及び化合物a(陽性対照、BTP3-Neu5Ac)による、ウイルスのフォーカスの蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図8】実施例8における、化合物k(23-139b)、化合物l(23-136b4)、化合物a(陽性対照;BTP3-Neu5Ac)及び化合物b(22-001a)のA型インフルエンザウイルス(A/PR/8/1934 H1N1株)のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図9】実施例8における、化合物k(23-139b)、化合物l(23-136b4)、化合物a(BTP3-Neu5Ac)及び化合物b(22-001a)のB型インフルエンザウイルス(B/Lee/1940株)のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図10】実施例8における、化合物k(23-139b)、化合物l(23-136b4)及び化合物a(BTP3-Neu5Ac)のA型インフルエンザウイルス(A/Shizuoka/838/2009 H1N1株、A/Shizuoka/738/2008 H1N1株及びA/Memphis/1/1971 H3N2株)のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図11】実施例8における、化合物k(23-139b)、化合物l(23-136b4)及び化合物a(BTP3-Neu5Ac)の他のウイルス種のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図12】実施例9における、化合物k(23-139b)及び化合物a(陽性対照、BTP3-Neu5Ac)による、ウイルス感染細胞の蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図13】実施例10における、化合物c(22-002b_i)、化合物e(22-002b_t)、化合物f(22-005b_c)、化合物g(22-005b_b)及び化合物a(陽性対照、BTP3-Neu5Ac)のNA亜型が異なるA型インフルエンザウイルス及びB型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図14】実施例11における、化合物c(22-002b_i)及び化合物a(陽性対照、BTP3-Neu5Ac)による、ウイルス感染細胞の蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図15】実施例12における、ムンプスウイルスのシアリダーゼを検出する化合物のスクリーニング結果を示すグラフである。
【
図16】実施例13における、他のウイルス種のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフであって、(a)化合物f(22-005b_c)、(b)化合物d(22-002b_4)、(c)化合物c(22-002b_i)、(d)化合物h(22-005b_8)、(e)化合物i(22-005b_6)及び(f)化合物j(22-005b_7)の試験結果を示すグラフである。
【
図17】実施例14における、化合物h(22-005b_8)及び化合物a(陽性対照、BTP3-Neu5Ac)による、ウイルス感染細胞の蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図18】実施例15における各化合物の(a)ムンプスウイルス 13V165E2株のシアリダーゼに対する反応性、(b)A型インフルエンザウイルス A/Shizuoka/738/2008 H1N1株のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図19】実施例15における各化合物の(a)B型インフルエンザウイルス B/Lee/1940株のシアリダーゼに対する反応性、(b)ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型 C35株のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図20】実施例15における各化合物のヒトパラインフルエンザウイルス血清3型 C243株のシアリダーゼに対する反応性を示すグラフである。
【
図21】実施例16における、各化合物による(a)ムンプスウイルス感染細胞の蛍光イメージング像、(b)A型インフルエンザウイルス感染細胞の蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図22】実施例16における、各化合物による(a)B型インフルエンザウイルス感染細胞の蛍光イメージング像、(b)ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型感染細胞の蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図23】実施例16における、各化合物による、ヒトパラインフルエンザウイルス血清3型感染細胞の蛍光イメージング像を示す写真である。
【
図24】実施例17における、各化合物による、ムンプスウイルス感染細胞の蛍光イメージング像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る新規化合物、ウイルスの検出用試薬及びウイルスの検出方法について、詳細に説明する。
【0031】
本発明に係るウイルスの検出用試薬には以下式(I)、式(II)又は式(III)で表されるシアル酸誘導体が含まれている。本発明に係るシアル酸誘導体に係る化合物は塩であってもよく、薬理学的に許容される塩であることが好ましい。この化合物の薬理学的に許容される塩としては、酸又は塩基と形成される塩であればよく、特に限定されない。また、この化合物又はその塩は、溶媒和物であってもよく、特に限定されないが、例えば、水和物、エタノール等の有機溶媒和物が挙げられる。
【0032】
【0033】
上述した化合物を表す式(I)の化合物名は、以下の通りである。
・式(I):5-アセトアミド-2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-6-((2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)(ヒドロキシ)メチル)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
【0034】
また、上述した化合物を表す式(II)中、R1で示される原子又は分子としては、炭素数3~9の直鎖アルキル基又はイソプロピル基が挙げられる。上述の式(II)で表される化合物は、具体的には、以下式に示される化合物(1)~(8)である。各式の化合物名は次の通りである。
・式(1):2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-ブチルアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
・式(2):2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-ペンタンアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
・式(3):2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-ヘキサンアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
・式(4):2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-ヘプタンアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
・式(5):2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-オクタンアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
・式(6):2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-ノナンアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
・式(7):2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-デカンアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
・式(8):2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-イソブチルアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
上述した化合物を表す式(III)の化合物名は、以下の通りである。
・式(III):5-アセトアミド-2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-6-((2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)(ヒドロキシ)メチル)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸。
【0044】
また、各式で表わされる化合物のうち、A型インフルエンザウイルス又はそのシアリダーゼの検出用試薬に含有される化合物は、式(I)に示す、5-アセトアミド-2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-6-((2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)(ヒドロキシ)メチル)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸である。
【0045】
式(I)に示す化合物は、例えば以下式に示す合成経路により合成することができる。一例として、既知化合物X(PLOS ONE、2014年、第9巻、第1号、e81941参照)のメタノール溶液にナトリウムメトキシドを加えて反応させ、テトラヒドロキシ体を得た後、得られたテトラヒドロキシ体をアセトンに懸濁し、アセトンジメチルアセタール(DMP)とパラトルエンスルホン酸ピリジニウム(PPTS)を加えて反応させて以下式に示す化合物Yを得る。化合物Yにメタノールと水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応させることで式(I)に示す化合物を得ることができる。
【0046】
【0047】
また、各式で表わされる化合物のうち、A型及びB型のインフルエンザウイルス並びにそのシアリダーゼの検出用試薬に含有される化合物は、式(III)に示す、5-アセトアミド-2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-6-((2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)(ヒドロキシ)メチル)-4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸である。
【0048】
式(III)に示す化合物は、例えば以下式に示す合成経路により合成することができる。一例として、既知化合物X(PLOS ONE、2014年、第9巻、第1号、e81941参照)のメタノール溶液にナトリウムメトキシドを加えて反応させ、テトラヒドロキシ体を得た後、得られたテトラヒドロキシ体をアセトニトリル(またはDMF)に溶解し、カンファースルホン酸(CSA)を含む、対応するケトン-ケトンジメチルアセタール溶液を加えて反応させ、アセタール体のメチルエステルを得る。得られたメチルエステル体にメタノールと水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応させることで式(III)に示す化合物を得ることができる。なお、カンファースルホン酸(CSA)を含有する、対応するケトン-ケトンジメチルアセタール溶液は、例えば、以下式に示す対応するケトンとオルトギ酸トリメチルの混合溶液にカンファースルホン酸(CSA)を加えることにより、ケトン-ケトンジメチルアセタール-CSA溶液として調製され得る。
【0049】
【0050】
また、各式で表わされる化合物のうち、ムンプスウイルス又はそのシアリダーゼの検出用試薬に含有される化合物は、式(1)~式(7)に示す化合物であることが好ましく、特異的な検出性に優れると共に検出時における蛍光強度にも優れる観点から、式(2)~式(6)に示す化合物であることがより好ましく、式(5)に示す2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-オクタンアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸が特に好ましい。
【0051】
また、各式で表わされる化合物のうち、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス又はそのシアリダーゼの検出用試薬に含有される化合物は、式(8)に示す、2-(2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノキシ)-4-ヒドロキシ-5-イソブチルアミド-6-(1,2,3-トリヒドロキシプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸である。
【0052】
式(1)~式(8)に示す化合物は、例えば以下式に示す合成経路により合成することができる。一例として、式(1)に係る化合物は、既知化合物X(PLOS ONE、2014年、第9巻、第1号、e81941参照)のテトラヒドロフラン(THF)溶液にBoc2O、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を加えて60℃で反応させた後、その反応液にN,N-ジメチルエチレンジアミンを加えて反応させ、化合物Zを得る。化合物Zにトリフルオロ酢酸(TFA)を加えて脱保護体をTFA塩として得た後、酢酸エチルに溶解し、水と炭酸水素ナトリウムを加え、反応試薬として酪酸無水物を加えて反応させ、化合物E(1)を得る。得られた化合物E(1)にメタノールとナトリウムメトキシドを加えて反応させた後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応させることで、化合物(1)を得ることができる。ここで用いた反応試薬の酪酸無水物の替わりに、反応試薬化合物を適宜選択することにより、式(1)に示す化合物と同様にして、式(2)~(8)に示す化合物を得ることができる。
【0053】
【0054】
本発明における検出用試薬は、シアリダーゼ活性を有するウイルス又はウイルスのシアリダーゼを検出するための検出用試薬である。シアリダーゼ活性を有するウイルスには、インフルエンザウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、ニューカッスル病ウイルス及びセンダイウイルスがあり、これらのウイルスは全て、一本鎖マイナス鎖RNAウイルスであり、インフルエンザウイルスはオルトミクソウイルス科に属し、それ以外のウイルスはパラミクソウイルス科に属している。本発明における検出用試薬は、このうち、A型インフルエンザウイルス、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス、A型若しくはB型のインフルエンザウイルス又はムンプスウイルス及びそれらのシアリダーゼを区別して検出することができる。また、本発明に係る検出用試薬は、ウイルス感染細胞におけるウイルスの存在部位を組織化学的に蛍光イメージングすることができ、ウイルス感染細胞のライブイメージングを行うことができる。そのため、本発明における検出用試薬は、単なる蛍光測定試薬として用いられるだけでなく、蛍光イメージング剤として用いることができる。
【0055】
また、本発明における検出用試薬には、本発明の作用効果を損なわない範囲において、上述した以外の他の成分が含まれていてもよい。例えば、溶媒、pH調整剤、pH緩衝剤、無機塩類等が挙げられる。また、本発明に係る検出用試薬は、研究用試薬及び臨床検査薬、臨床分析薬等あらゆる場面で使用され得る。
【0056】
本発明に係る式(I)に示す化合物を含有する検出用試薬を用いた、A型インフルエンザウイルス又はA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼの検出方法について説明する。まず、検出用試薬としては、式(I)に示す化合物を含有する検出用試薬を用いる。これを検体に添加すると、検体中にA型インフルエンザウイルス又はA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼが存在する場合には、式(I)に示す化合物がそのA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応し、蛍光物質であるBTP3が生じる。ここで、式(I)に示す化合物は、A型インフルエンザウイルス以外のウイルスやA型インフルエンザウイルス以外のシアリダーゼとは反応せず、蛍光物質は生じない。そのため、式(I)に示す化合物を含有する検出用試薬を検体に添加することにより、蛍光物質であるBTP3による蛍光が検出された場合には、A型インフルエンザウイルス又はそのシアリダーゼが存在する旨判別することができる。式(I)に示す化合物の反応濃度は、検体及び使用態様によっても異なるが、5μM~100mMとすることが好ましく、10μM~10mMとすることがより好ましい。また、反応時間としては、化合物の濃度や添加する検体の状態にもよるが、一例として、懸濁液や培養液に添加する場合には、数分~1時間程度が好ましく、5分~30分程度がより好ましい。また、寒天培地等の検体に添加する場合には、数時間~1日程度が好ましく、3時間~12時間程度がより好ましい。
【0057】
また、本発明に係るA型インフルエンザウイルスの感染細胞の蛍光イメージングによる検出方法について説明する。式(I)に示す化合物を含有する検出用試薬を検体に添加すると、検体中にA型インフルエンザウイルスの感染細胞が存在する場合には、A型インフルエンザウイルスが発現しているシアリダーゼと式(I)に示す化合物とが特異的に反応し、蛍光物質であるBTP3が生じる。BTP3は水に不溶性の蛍光物質であり、局所染色性を有している。ここで、式(I)に示す化合物は、A型インフルエンザウイルス以外のウイルスが発現しているシアリダーゼとは反応せず、蛍光物質は生じない。そのため、検体中にA型インフルエンザウイルスの感染細胞が含まれている場合には、その感染細胞が存在する部位が組織化学的に蛍光イメージングされる。式(I)に示す化合物の反応濃度は、検体及び使用態様によっても異なるが、5μM~100mMとすることが好ましく、10μM~10mMとすることがより好ましい。また、反応時間としては、化合物の濃度や添加する検体の状態にもよるが、一例として、培養液に添加する場合には、数分~1時間程度が好ましく、5分~30分程度がより好ましい。また、寒天培地等の検体に添加する場合には、数時間~1日程度が好ましく、3時間~12時間程度がより好ましい。さらに、この蛍光イメージングはライブイメージングにて行うことができるため、この蛍光イメージングを利用して、さまざまなウイルス種が混在するような検体についても、A型インフルエンザウイルス株の単離を容易に行うことができる。
【0058】
次に、本発明に係る式(III)に示す化合物を含有する検出用試薬を用いた、A型及びB型インフルエンザウイルス並びにこれらのシアリダーゼの検出方法について説明する。まず、検出用試薬としては、式(III)に示す化合物を含有する検出用試薬を用いる。これを検体に添加すると、検体中にA型インフルエンザウイルス若しくはB型インフルエンザウイルス、またはこれらのインフルエンザウイルスのシアリダーゼが存在する場合には、式(III)に示す化合物が、そのA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼ又はB型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応し、蛍光物質であるBTP3が生じる。ここで、式(III)に示す化合物は、A型及びB型のインフルエンザウイルス以外のウイルスやA型及びB型インフルエンザウイルス以外のシアリダーゼとはほとんど反応しない。そのため、式(III)に示す化合物を含有する検出用試薬を検体に添加することにより、蛍光物質であるBTP3による蛍光が検出された場合には、A型インフルエンザウイルス若しくはB型インフルエンザウイルス又はこれらのシアリダーゼが存在する旨判別することができる。式(III)に示す化合物の反応濃度は、検体及び使用態様によっても異なるが、5μM~100mMとすることが好ましく、10μM~10mMとすることがより好ましい。また、反応時間としては、化合物の濃度や添加する検体の状態にもよるが、一例として、懸濁液や培養液に添加する場合には、数分~1時間程度が好ましく、5分~30分程度がより好ましい。また、寒天培地等の検体に添加する場合には、数時間~1日程度が好ましく、3時間~12時間程度がより好ましい。
【0059】
また、本発明に係るA型又はB型インフルエンザウイルスの感染細胞の蛍光イメージングによる検出方法について説明する。式(III)に示す化合物を含有する検出用試薬を検体に添加すると、検体中にA型又はB型のインフルエンザウイルスの感染細胞が存在する場合には、A型又はB型のインフルエンザウイルスが発現しているシアリダーゼと式(III)に示す化合物とが特異的に反応し、蛍光物質であるBTP3が生じる。BTP3は水に不溶性の蛍光物質であり、局所染色性を有している。ここで、式(III)に示す化合物は、A型又はB型のインフルエンザウイルス以外のウイルスが発現しているシアリダーゼとはほとんど反応しない。そのため、検体中にA型又はB型のインフルエンザウイルスの感染細胞が含まれている場合には、その感染細胞が存在する部位が組織化学的に蛍光イメージングされる。式(III)に示す化合物の反応濃度は、検体及び使用態様によっても異なるが、5μM~100mMとすることが好ましく、10μM~10mMとすることがより好ましい。また、反応時間としては、化合物の濃度や添加する検体の状態にもよるが、一例として、培養液に添加する場合には、数分~1時間程度が好ましく、5分~30分程度がより好ましい。また、寒天培地等の検体に添加する場合には、数時間~1日程度が好ましく、3時間~12時間程度がより好ましい。
【0060】
次に、本発明に係る式(8)に示す化合物を含有する検出用試薬を用いた、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス又はそのシアリダーゼの検出方法について説明する。まず、検出用試薬としては、式(8)に示す化合物を含有する検出用試薬を用いる。これを検体に添加すると、検体中にNA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス又はそのシアリダーゼが存在する場合には、式(8)に示す化合物がそのNA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと反応し、蛍光物質であるBTP3が生じる。ここで、式(8)に示す化合物は、NA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとは反応せず、蛍光物質は生じない。そのため、式(8)に示す化合物を含有する検出用試薬を検体に添加することにより、蛍光物質であるBTP3による蛍光が検出された場合には、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス又はそのシアリダーゼが存在する旨判別することができる。なお、式(8)に示す化合物は、ムンプスウイルスのシアリダーゼ及びヒトパラインフルエンザウイルスのシアリダーゼに対しても若干反応するため、予めA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを特異的に検出可能である式(I)又は式(III)に示す化合物を用いてスクリーニングを行った後、その亜型を識別するために、式(8)に示す化合物を用いて検出を行うことが好ましい。式(8)に示す化合物の反応濃度は、検体及び使用態様によっても異なるが、5μM~100mMとすることが好ましく、10μM~10mMとすることがより好ましい。また、反応時間としては、化合物の濃度や添加する検体の状態にもよるが、一例として、懸濁液や培養液に添加する場合には、数分~1時間程度が好ましく、5分~30分程度がより好ましい。また、寒天培地等の検体に添加する場合には、数時間~1日程度が好ましく、3時間~12時間程度がより好ましい。
【0061】
また、本発明に係るNA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスの感染細胞の蛍光イメージングによる検出方法について説明する。式(8)に示す化合物を含有する検出用試薬を検体に添加すると、検体中にNA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスの感染細胞が存在する場合には、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスが発現しているシアリダーゼと式(8)に示す化合物とが反応し、蛍光物質であるBTP3が生じる。BTP3は水に不溶性の蛍光物質であり、局所染色性を有している。ここで、式(8)に示す化合物は、NA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスが発現しているシアリダーゼとは反応せず、蛍光物質は生じない。そのため、検体中にNA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスの感染細胞が含まれている場合には、その感染細胞が存在する部位が組織化学的に蛍光イメージングされる。式(8)に示す化合物の反応濃度は、検体及び使用態様によっても異なるが、5μM~100mMとすることが好ましく、10μM~10mMとすることがより好ましい。また、反応時間としては、化合物の濃度や添加する検体の状態にもよるが、一例として、培養液に添加する場合には、数分~1時間程度が好ましく、5分~30分程度がより好ましい。また、寒天培地等の検体に添加する場合には、数時間~1日程度が好ましく、3時間~12時間程度がより好ましい。
【0062】
次に、本発明に係るムンプスウイルス又はムンプスウイルスのシアリダーゼの検出方法について説明する。まず、検出用試薬としては、上述した式(1)~(7)に示す化合物を含有する検出用試薬を用いる。これを検体に添加すると、検体中にムンプスウイルス又はそのシアリダーゼが存在する場合には、式(1)~(7)に示す化合物がムンプスウイルスのシアリダーゼと特異的に反応し、蛍光物質であるBTP3が生じる。ここで、式(1)~(7)に示す化合物は、ムンプスウイルス以外のウイルスやムンプスウイルス以外のシアリダーゼとは反応せず、蛍光物質は生じない。そのため、式(1)~(7)に示す化合物を含有する検出用試薬を検体に添加することにより、蛍光物質であるBTP3による蛍光が検出された場合には、ムンプスウイルス又はそのシアリダーゼが存在する旨判別することができる。式(1)~(7)に示す化合物の反応濃度は、検体及び使用態様によっても異なるが、5μM~100mMとすることが好ましく、10μM~10mMとすることがより好ましい。また、反応時間としては、化合物の濃度や添加する検体の状態にもよるが、一例として、懸濁液や培養液に添加する場合には、数分~1時間程度が好ましく、5分~30分程度がより好ましい。また、寒天培地等の検体に添加する場合には、数時間~1日程度が好ましく、3時間~12時間程度がより好ましい。
【0063】
また、本発明に係るムンプスウイルスの感染細胞の蛍光イメージングによる検出方法について説明する。式(1)~(7)に示す化合物を含有する検出用試薬を検体に添加すると、検体中にムンプスウイルスの感染細胞が存在する場合には、ムンプスウイルスが発現しているシアリダーゼと式(1)~(7)に示す化合物とが特異的に反応し、蛍光物質であるBTP3が生じる。BTP3は水に不溶性の蛍光物質であり、局所染色性を有している。ここで、式(1)~(7)に示す化合物は、ムンプスウイルス以外のウイルスが発現しているシアリダーゼとは反応せず、蛍光物質は生じない。そのため、検体中にムンプスウイルスの感染細胞が含まれている場合には、その感染細胞が存在する部位が組織化学的に蛍光イメージングされる。式(1)~(7)に示す化合物の反応濃度は、検体及び使用態様によっても異なるが、5μM~100mMとすることが好ましく、10μM~10mMとすることがより好ましい。また、反応時間としては、化合物の濃度や添加する検体の状態にもよるが、一例として、培養液に添加する場合には、数分~1時間程度が好ましく、5分~30分程度がより好ましい。また、寒天培地等の検体に添加する場合には、数時間~1日程度が好ましく、3時間~12時間程度がより好ましい。さらに、この蛍光イメージングはライブイメージングにて行うことができるため、この蛍光イメージングを利用して、さまざまなウイルス種が混在するような検体についても、ムンプスウイルス株の単離を容易に行うことができる。
【0064】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0065】
[実施例1]
1.A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを検出する化合物のスクリーニング
本実施例では、スクリーニング対象化合物として、公知のシアリダーゼ基質であるBTP3-Neu5Acのシアル酸構造部分を改変した誘導体を選択した。スクリーニング対象化合物を以下表1に示す。A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを検出することができる化合物の探索は、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼ活性の測定試験により行った。具体的には、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとスクリーニング対象化合物とを反応させた際に、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに加水分解されて生じる蛍光物質である、BTP3[(2-ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノール]の蛍光強度を測定することにより行った。試験にあたっては、陽性対照としてBTP3-Neu5Ac(化合物a)を用いた。化合物aのBTP3-Neu5Acは、東京化成工業株式会社製を用いた。また、以下表1に示すb~hに示す化合物は、以下のようにして合成した。合成により得た化合物(中間体を含む)が目的物であることは、高分解能質量分析(HRMS)にて確認を行った。高分解能質量分析は、日本電子株式会社製のAccuTOF(JMS-T100LC)を用い、ES(エレクトロスプレーイオン源)を接続してポジティブモードで測定した。
【0066】
【0067】
[化合物b(22-001a)の合成]
化合物bは、以下式に基づき、合成した。
【0068】
【0069】
既知化合物X(PLOS ONE、2014年、第9巻、第1号、e81941参照)14.93g(19.2mmol)のメタノール溶液(150mL)に、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、4.0mL)を加えて室温で2時間攪拌した。薄層クロマトグラフィーを確認しながら1時間毎にナトリウムメトキシド(1.5mL)を2回加えた。原料消失を確認後、酢酸(1.5mL)を加えて反応を停止した。反応液を減圧濃縮して残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル100%)で精製してテトラヒドロキシ体(6.68g、収率57%)を白色固体として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C25H27
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 633.05183; Found: 633.05172, Calcd for C25H27
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 635.04979; Found: 635.05115.
【0070】
引き続いて、得られたテトラヒドロキシ体(6.68g、10.9mmol)をアセトン(90mL)に懸濁し、アセトンジメチルアセタール(DMP、6.68mL、5.0eq.)、パラトルエンスルホン酸ピリジニウム(PPTS、549mg、0.2eq.)を順次加えて室温で3時間攪拌した。DMP(6.68mL)、PPTS(560mg)を追加してさらに攪拌し、薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20mL)を加えて反応を停止した。酢酸エチルで希釈し、有機層を水(3回)、飽和食塩水(1回)で順次洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別して減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=7:1)で精製して化合物Yを白色固体(5.30g,収率75%)として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C28H31
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 673.08313; Found: 673.08363, Calcd for C28H31
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 675.08109; Found: 675.08145.
【0071】
引き続いて、化合物Y(163mg、0.25mmol)にメタノール(1mL)、水酸化ナトリウム水溶液(2.5M、150μL)を順次加えて室温で一晩攪拌した。反応液に酢酸(15μL)を加えて反応を停止し、高速液体クロマトグラフィーで精製して化合物b(93.8mg、収率59%)を白色固体として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C27H29
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 659.06748; Found: 659.06992, Calcd for C27H29
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 661.06544; Found: 661.06630.
【0072】
[化合物c~hの合成]
化合物c~hは、以下式に基づき、合成した。なお、以下式において、化合物Ec及び化合物cにおけるRはイソプロピル基であり、化合物Ed及び化合物dにおけるRはプロピル基であり、化合物Ee及び化合物eにおけるRはtert-ブチル基であり、化合物Ef及び化合物fにおけるRはメトキシ基であり、化合物Eg及び化合物gにおけるRはフェニル基であり、化合物Eh及び化合物hにおけるRはヘプチル基である。
【0073】
【0074】
[化合物c(22-002b_i)の合成]
既知化合物X(PLOS ONE、2014年、第9巻、第1号、e81941参照)15.84g(20.3mmol)のテトラヒドロフラン溶液(150mL)にBoc2O(6.87g、1.5eq.)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、249mg、0.1eq.)を加えて60℃で一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、放冷した。反応液にN,N-ジメチルエチレンジアミン(4.5mL、2.0eq.)を加えて、室温で一晩攪拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を水(3回)、飽和食塩水(1回)で順次洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別して減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製して化合物Zを白色泡状物(8.25g、収率49%)として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C36H41
79BrN2NaO14S [M+Na]+ 859.13596; Found 859.13463, Calcd for C36H41
81BrN2NaO14S [M+Na]+ 861.13391; Found 861.13193.
【0075】
引き続いて、化合物Z(838mg、1mmol)にトリフルオロ酢酸(10mL)を加えて室温で30分攪拌した。溶媒を減圧濃縮して脱保護体をTFA塩として得た。得られた未精製の脱保護体を酢酸エチル(40mL)に溶解した。原料アミンTFA塩の酢酸エチル溶液(10mL)に水(10mL)、炭酸水素ナトリウム(840mg、10mmol)を加え、イソ酪酸無水物(63μL、1.5eq.)を加えて14時間攪拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を水(3回)、飽和食塩水(1回)で順次洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別して減圧濃縮して化合物Ec(208mg)を得た。得られた化合物は精製せずに次の反応に用いた。
【0076】
未精製の化合物Ec(200mg)にメタノール(1mL)、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、0.5mL)を順次加えて20分攪拌した。続いて水酸化ナトリウム水溶液(5M、0.2mL)を加えて一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、酢酸(200μL)を加えて反応を停止し、高速液体クロマトグラフィーで精製して化合物c(14.2mg)を白色粉末として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C26H30
79BrN2O9S [M+H]+: 625.08554; Found: 625.08823, Calcd for C26H30
81BrN2O9S [M+H]+: 627.08349; Found: 627.08348, Calcd for C26H29
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 647.06748; Found: 647.06603, Calcd for C26H29
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 649.06544; Found: 649.06682.
【0077】
[化合物d(22-002b_4)の合成]
化合物dは、次のようにして合成した。上述した化合物cの合成方法における、化合物Ecの合成経路中で用いたイソ酪酸無水物の代わりに酪酸無水物(61μL)を用いた以外は、化合物cの合成方法と同様の材料及び反応を行って化合物Ed(233mg)を得た。得られた化合物は、精製せずに次の反応に用いた。未精製の化合物Ed(200mg)をメタノール(1mL)、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、0.5mL)を順次加えて20分攪拌した。続いて水酸化ナトリウム水溶液(5M、0.2mL)を加えて一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、酢酸(200μL)を加えて反応を停止し、高速液体クロマトグラフィーで精製して化合物d(20.7mg)を白色粉末として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C26H30
79BrN2O9S [M+H]+: 625.08554; Found: 625.08433, Calcd for C26H30
81BrN2O9S [M+H]+: 627.08349; Found: 627.08151, Calcd for C26H29
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 647.06748; Found: 647.06345, Calcd for C26H29
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 649.06544; Found: 649.06531.
【0078】
[化合物e(22-002b_t)の合成]
化合物eは、次のようにして合成した。上述した化合物cの合成方法における、化合物Ecの合成経路中で用いたイソ酪酸無水物の代わりに塩化ピバロイル(46μL)を用いた以外は、化合物cの合成方法と同様の材料及び反応を行って化合物Ee(194mg)を得た。得られた化合物は、精製せずに次の反応に用いた。未精製の化合物Ee(194mg)をメタノール(1mL)、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、0.5mL)を順次加えて20分攪拌した。続いて水酸化ナトリウム水溶液(5M、0.2mL)を加えて一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、酢酸(200μL)を加えて反応を停止し、高速液体クロマトグラフィーで精製して化合物e(25.6mg)を白色粉末として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C27H32
79BrN2O9S [M+H]+: 639.10119; Found: 639.09942, Calcd for C27H32
81BrN2O9S [M+H]+: 641.09914; Found: 641.09765.
【0079】
[化合物f(22-005b_c)の合成]
化合物fは、次のようにして合成した。上述した化合物cの合成方法における、化合物Ecの合成経路中で用いたイソ酪酸無水物の代わりにクロロギ酸メチル(100μL)を用いた以外は、化合物cの合成方法と同様の材料及び反応を行って化合物Ef(197mg)を得た。得られた化合物は、精製せずに次の反応に用いた。未精製の化合物Ef(197mg)をメタノール(1mL)、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、0.5mL)を順次加えて20分攪拌した。続いて水酸化ナトリウム水溶液(5M、0.2mL)を加えて一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、酢酸(200μL)を加えて反応を停止し、高速液体クロマトグラフィーで精製して化合物fを白色粉末として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C24H26
79BrN2O10S [M+H]+: 613.04915; Found: 613.05138, Calcd for C24H26
81BrN2O10S [M+H]+: 615.04711; Found: 615.04780, Calcd for C24H25
79BrN2NaO10S [M+Na]+: 635.03110; Found: 635.03255, Calcd for C24H25
81BrN2NaO10S [M+Na]+: 637.02905; Found: 637.02923.
【0080】
[化合物g(22-005b_b)の合成]
化合物gは、次のようにして合成した。上述した化合物cの合成方法における、化合物Ecの合成経路中で用いたイソ酪酸無水物の代わりに塩化ベンゾイル(100μL)を用いた以外は、化合物cの合成方法と同様の材料及び反応を行って化合物Eg(235mg)を得た。得られた化合物は、精製せずに次の反応に用いた。未精製の化合物Eg(200mg)をメタノール(1mL)、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、0.5mL)を順次加えて20分攪拌した。続いて水酸化ナトリウム水溶液(5M、0.2mL)を加えて一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、酢酸(200μL)を加えて反応を停止し、高速液体クロマトグラフィーで精製して化合物gを白色粉末として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C29H27
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 681.05183; Found: 681.05292, Calcd for C29H27
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 683.04979; Found: 683.04819, Calcd for C29H26
79BrN2Na2O9S [M-H+2Na]+: 703.03378; Found: 703.03642, Calcd for C29H26
81BrN2Na2O9S [M-H+2Na]+: 705.03173; Found: 705.03320.
【0081】
[化合物h(22-005b_8)の合成]
化合物hは、次のようにして合成した。上述した化合物cの合成方法における、化合物Ecの合成経路中で用いたイソ酪酸無水物の代わりに塩化オクタノイル(100μL)を用いた以外は、化合物cの合成方法と同様の材料及び反応を行って化合物Eh(258mg)を得た。得られた化合物は、精製せずに次の反応に用いた。未精製の化合物Eh(200mg)をメタノール(1mL)、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、0.5mL)を順次加えて20分攪拌した。続いて水酸化ナトリウム水溶液(5M、0.2mL)を加えて一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、酢酸(200μL)を加えて反応を停止し、高速液体クロマトグラフィーで精製して化合物h(26.5mg)を白色粉末として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C30H37
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 703.13008; Found: 703.12760, Calcd for C30H37
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 705.12804; Found: 705.12621, Calcd for C30H36
79BrN2NaO9S [M-H+2Na]+: 725.11203; Found: 725.10900, Calcd for C30H36
81BrN2NaO9S [M-H+2Na]+: 727.10998; Found: 727.10862.
【0082】
[A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼ活性の測定]
A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼ活性の測定は、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを発現する、A型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ(NA)発現細胞を調製し、そのNA発現細胞に各化合物を添加した際のシアリダーゼ活性を測定することによって行った。測定方法は具体的には次の通りである。
【0083】
細胞は、ヒト胎児腎細胞であるHEK293T細胞を用いた。HEK293T細胞の培養には、D-MEM培地(Dulbecco's modified essential medium)に10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用い、5%CO2条件下、37℃で培養した。また、プラスミドは、pCAGGSベクターにA型インフルエンザウイルスA/Hong Kong/1/1968 H3N2株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド、pCAGGS-HK68NAを用いた。化合物a(陽性対照)及びスクリーニング対象のb~hの各化合物は、DMSO(ジメチルスルホキシド)でそれぞれ溶解して100mM濃度の溶液とし、-30℃で保存した。
【0084】
まず、HEK293T細胞を6ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO2、37℃で一晩培養して70%コンフルエントの状態とした。トランスフェクション試薬(TransIT(登録商標)-293 Reagent、タカラバイオ株式会社製)のプロトコールに従い、上述したプラスミドpCAGGS-HK68NA(A型インフルエンザウイルス:Hong Kong/1/1968 H3N2株由来)を2.5μg/ウェルを用いて、HEK293T細胞をトランスフェクションし、5%CO2、37℃で48時間培養した。培地を除去後、リン酸緩衝液(131mM NaCl、14mM Na2HPO4、1.5mM KH2PO4、2.7mM KCl、pH 7.2、以下PBSと称する)を各ウェルに1mLずつ添加し、細胞を懸濁したのち遠心分離(4℃、800×g、10分間)して上清を除去した。遠心分離により沈降した細胞を100mM 酢酸緩衝液(pH4.5)に懸濁してNA発現細胞懸濁液とした。
【0085】
96ウェルの黒色プレートの各ウェルに、上述のようにして調製したNA発現細胞懸濁液50μLを加えて37℃で5分間静置した。各化合物a~hを100mM 酢酸緩衝液(pH 4.5)で100μMに希釈して、遠心分離(4℃、10,000×g、10分間)した後、その上清50μLを各ウェルに添加し、ウェル中のNA発現細胞懸濁液と混合した(各化合物の終濃度は50μM)。混合後、37℃で20分間反応させた。マイクロプレートリーダー(Infinite(登録商標)M200、テカンジャパン株式会社製)を用いて、シアリダーゼとの反応によって遊離したBTP3の励起波長372nm、測定波長526nm(Ex/Em=372nm/526nm)における蛍光強度を独立して3回測定した。Blankは、空プラスミドベクターpCAGGS・MCSをトランスフェクションした細胞における蛍光強度とした。シアリダーゼ活性は、独立した3回の測定において各化合物による蛍光強度からBlankを差し引いた値を使用して、陽性対照として用いた化合物a(BTP3-Neu5Ac)による蛍光強度を100%とした時の相対蛍光強度の平均値±標準誤差で示した。
【0086】
結果を
図1に示す。
図1の横軸は化合物No.を、縦軸は相対シアリダーゼ活性を示す。本発明者らは、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに対する反応性が高い基質化合物として、化合物b(22-001a)を見出した。この化合物b(22-001a)のシアリダーゼ活性は、陽性対照として用いたBTP3-Neu5Ac(化合物a)のシアリダーゼ活性の約7割程度を有しており、ウイルス検出用試薬、特に蛍光イメージング剤として適用され得る蛍光強度も十分に有していた。
【0087】
[実施例2]
2.他のウイルス種のシアリダーゼに対する反応性の検討
実施例1において、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに対する反応性が高く、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを検出することができる化合物として見出された化合物b(22-001a)について、他のウイルス種のシアリダーゼに対しても同様の反応性を有する化合物であるのかどうか確認する試験を行った。具体的には、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製し、そのシアリダーゼ発現細胞に化合物bを添加した際のシアリダーゼ活性を測定することで検討した。本実施例では、ウイルス種として、ムンプスウイルス(以下「MuV」ともいう)13V165E2株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清3型(以下「hPIV3」ともいう)C243株、ニューカッスル病ウイルス(以下「NDV」ともいう)D26株、実施例1でも用いたA型インフルエンザウイルス(以下「IAV」ともいう)A/Hong Kong/1/1968 H3N2株を選択し、これらのシアリダーゼ発現細胞を調製した。具体的には、プラスミドは以下のものを用いた。
【0088】
・pCAGGS-MuVHN:pCAGGSベクターにMuV 13V165E2株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGS-hPIV3HN:pCAGGSベクターにhPIV3 C243株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGS-NDV-D26HN:pCAGGSベクターにNDV D26株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGS-HK68NA:pCAGGSベクターにIAV A/Hong Kong/1/1968 H3N2株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド(実施例1で用いたものと同じ)。
【0089】
実施例1のシアリダーゼ活性試験において使用したプラスミドを、上述した4種のプラスミドにそれぞれ替えた以外は、実施例1と同様にして各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製した。実施例1と同様の材料及び方法により、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞に化合物a(BTP3-Neu5Ac)又は化合物b(22-001a)を添加した際のシアリダーゼ活性を測定した。Blankは、空プラスミドベクターpCAGGS・MCSをトランスフェクションした細胞における蛍光強度とした。シアリダーゼ活性は、独立した3回の測定において各化合物による蛍光強度からBlankを差し引いた値の平均値±標準誤差で示した。
【0090】
また、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞に替えて、アルスロバクター属細菌のArthrobacter ureafaciens由来のシアリダーゼを用いて、化合物a(BTP3-Neu5Ac)又は化合物b(22-001a)を添加した際のシアリダーゼ活性を測定した。Arthrobacter ureafaciens由来のシアリダーゼ(品番:10269611001、メルク株式会社製)は100mM酢酸緩衝液(pH 4.5)で0.1U/mLに調製して使用した。化合物a又はbを添加後、37℃で20分間反応させた際の蛍光強度を測定した。
【0091】
結果を
図2のグラフに示す。
図2の横軸は各シアリダーゼの由来ウイルス名又は細菌名を、縦軸はシアリダーゼ活性を示す。白色のカラムは陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)、黒色のカラムは化合物b(22-001a)の結果である。この結果によれば、陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)は、すべてのウイルス種及びアルスロバクター由来のシアリダーゼと反応するシアリダーゼ基質であるのに対し、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに特異的に反応するシアリダーゼ基質であることがわかった。このことから、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに対する特異性に優れた基質化合物であり、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを特異的に検出してA型インフルエンザウイルスの存在の有無を判別できる化合物であること、及びA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応することにより、十分な蛍光強度の蛍光物質を生じさせる化合物であることが明らかとなった。
【0092】
[実施例3]
3.NA亜型が異なるA型インフルエンザウイルス又は他のウイルス種のシアリダーゼに対する反応性の検討
実施例2において、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを特異的に検出できることが明らかとなった化合物b(22-001a)について、NA亜型が異なるA型インフルエンザウイルスやB型インフルエンザウイルスを含めた他のウイルス種のシアリダーゼに対する反応性を調べた。なお、本実施例では、反応液中の化合物bの終濃度を25μM、50μM及び100μMとし、濃度依存的な反応性がみられるかどうかについても調べた。具体的には、上述した実施例2と同様に、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製し、そのシアリダーゼ発現細胞に化合物bを添加した際のシアリダーゼ活性を測定することで検討した。本実施例では、ウイルス種として、実施例1,2でも用いたA型インフルエンザウイルス(以下「IAV」ともいう)A/Hong Kong/1/1968 H3N2株、A型インフルエンザウイルス A/PR/8/1934 H1N1株、B型インフルエンザウイルス(以下「IBV」ともいう)B/Lee/1940株、ムンプスウイルス(以下「MuV」ともいう)13V165E2株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型(以下「hPIV1」ともいう)C35株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清3型(以下「hPIV3」ともいう)C243株を選択し、これらのシアリダーゼ発現細胞を調製した。具体的には、プラスミドは以下のものを用いた。
【0093】
・pCAGGSベクターにIAV A/Hong Kong/1/1968 H3N2株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド(実施例1,2で用いたものと同じ)。
・pCAGGSベクターにIAV A/PR/8/1934 H1N1株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIBV B/Lee/1940株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにMuV 13V165E2株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド(実施例2で用いたものと同じ)
・pCAGGSベクターにhPIV1 C35株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド(実施例2で用いたものと同じ)
・pCAGGSベクターにhPIV3 C243株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド(実施例2で用いたものと同じ)
【0094】
細胞は、ヒト胎児腎細胞であるHEK293T細胞を用いた。HEK293T細胞の培養には、D-MEM培地(Dulbecco's modified essential medium)に10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用い、5%CO2条件下、37℃で培養した。まず、HEK293T細胞を6ウェルプレートの各ウェルに7.5×105cells/ウェルとなるように播種し、5%CO2、37℃で一晩培養して80~90%コンフルエントの状態とした。トランスフェクション試薬(TransIT(登録商標)-293 Reagent、タカラバイオ株式会社製)のプロトコールに従い、上述した各プラスミド2.5μg/ウェルを用いて、HEK293T細胞をそれぞれトランスフェクションし、5%CO2、37℃で72時間培養した。培地を除去後、リン酸緩衝液(131mM NaCl、14mM Na2HPO4、1.5mM KH2PO4、2.7mM KCl、pH 7.2、以下PBSと称する)を各ウェルに1mLずつ添加し、細胞を懸濁したのち遠心分離(4℃、1000×g、10分間)して上清を除去した。遠心分離により沈降した細胞を100mM 酢酸緩衝液(測定対象のシアリダーゼがIAV及びIBVの場合にはpH6.0、MuV、hPIV1及びhPIV3の場合にはpH4.5)に懸濁してウイルス種毎のNA発現細胞懸濁液とした。
【0095】
化合物bは、予め100mM濃度となるようにDMSOに溶解させておいたストック溶液を用い、100mM 酢酸緩衝液(測定対象のシアリダーゼがIAV及びIBVの場合にはpH6.0、MuV、hPIV1及びhPIV3の場合にはpH4.5)を用いて、その濃度が1mMとなるように希釈した。これを遠心分離(4℃、10,000×g、10分間)した後、その上清を回収し、化合物bの終濃度が25μM、50μM及び100μMとなるように段階希釈した。氷上で96ウェルの黒色プレートの各ウェルに、上述のようにして調製したNA発現細胞懸濁液40μLと化合物bの希釈液10μL(化合物bの終濃度:25μM、50μM及び100μM)を加えて5秒間プレートミキサーにかけた後、37℃で20分間反応させた。反応終了時、氷上で100mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH10.7)を50μL/ウェルで添加した。また、陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)についても、化合物bと同様の操作を行った。マイクロプレートリーダー(Infinite(登録商標)M200、テカンジャパン株式会社製)を用いて、シアリダーゼとの反応によって遊離したBTP3の励起波長372nm、測定波長526nm(Ex/Em=372nm/526nm)における蛍光強度を独立して3回測定した。Blankは、空プラスミドベクターpCAGGS・MCSをトランスフェクションした細胞における蛍光強度とした。シアリダーゼ活性は、独立した3回の測定において化合物bによる蛍光強度からBlankを差し引いた値の平均値±標準誤差で示した。
【0096】
結果を
図3のグラフに示す。
図3の横軸は化合物b及び陽性対照である化合物aの濃度を示す。白色のカラムは陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)、黒色のカラムは化合物b(22-001a)の結果である。この結果によれば、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスのうち、NA亜型がN1及びN2のいずれのタイプのシアリダーゼにも反応するが、B型インフルエンザウイルスをはじめ、他のウイルス種のシアリダーゼには全く反応しないことがわかった。また、化合物bのA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに対する反応性は濃度依存的であることがわかった。これらのことから、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに対する特異性に優れた基質化合物であり、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを特異的に検出してA型インフルエンザウイルスの存在の有無を判別できる化合物であること、及びA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと特異的に反応することにより、十分な蛍光強度の蛍光物質を生じさせる化合物であることが明らかとなった。
【0097】
[実施例4]
4.ウイルス感染細胞の蛍光イメージング(1)
実施例2及び3において、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを特異的に検出できることが確認された化合物b(22-001a)を用いて、A型インフルエンザウイルス感染細胞の蛍光イメージングを行った。また、化合物bがA型インフルエンザウイルス以外のウイルス種の感染細胞には蛍光イメージングしないことを確認するため、他のウイルス種の感染細胞についても同様の試験を行った。本実施例では、ウイルス種として、A型インフルエンザウイルス A/Hong Kong/1/1968 H3N2株、ムンプスウイルス 13V165E2株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型(以下「hPIV1」ともいう)C35株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清3型 C243株、ニューカッスル病ウイルス D26株を選択し、これらウイルスの感染細胞を調製した。
【0098】
宿主細胞には、IAVに対してはイヌ腎由来MDCK細胞、MuVに対してはアフリカミドリザル腎由来Vero細胞、NDV、hPIV1及びhPIV3に対してはアカゲザル腎由来LLC-MK2細胞を用いた。各細胞の培養には、5% FBS含有MEM培地(Minimum essential medium)を用い、5%CO2、37℃で培養した。
【0099】
細胞を48ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO2、37℃で一晩培養してコンフルエントの状態にした。細胞を200μL/ウェルのPBSで洗浄後、各ウイルスが200フォーカス形成ユニット(以下FFU)/ウェルとなるように、各ウイルス-無血清培地(Hybridoma-SFM、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、以下SFM)の懸濁液を200μL/ウェルで添加して、5%CO2、37℃で1時間静置し、対応する宿主細胞にウイルスを感染させた。200μL/ウェルのPBSで細胞を洗浄後、200μL/ウェルのSFMに置換して、5%CO2、37℃で培養した。なお、IAV、MuV及びNDV感染細胞は24時間、hPIV1及びhPIV3感染細胞は48時間培養した。
【0100】
観察当日、化合物a(BTP3-Neu5Ac)又は化合物b(22-001a)をSFMで50μMに希釈した。なお、MuV感染細胞への添加用SFM希釈液としては各化合物を100μMに希釈し、hPIV1感染細胞及びhPIV3感染細胞への添加用SFM希釈液としてはSFMを1N HClでpH4.5に用事調製した。これを遠心分離(4℃、10,000×g、10分間)した後、上清を回収して、非特異的に切断された蛍光物質を分離した。各感染細胞を200μL/ウェルのPBSで洗浄後、化合物a又は化合物b含有SFM上清を200μL/ウェルずつ添加して37℃で30分間反応させた。各感染細胞を200μL/ウェルのPBSで洗浄後、200μL/ウェルのPBSに置換して、蛍光顕微鏡(型番:BZ-X700、株式会社キーエンス製)でBTP特注フィルター(励起波長:360/40nm、吸収波長:525/50nm、ダイクロイックミラー波長:400nm)を用いて蛍光像を観察した。結果を
図4に示す。
【0101】
この結果によれば、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスの感染細胞を組織化学的に蛍光イメージングできることが示された。また、陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)は、すべてのウイルス種の感染細胞について、蛍光イメージングすることができるのに対し、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスの感染細胞のみを蛍光イメージングした。このことから、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスを特異的に蛍光イメージングすることができる化合物であること、A型インフルエンザウイルスの感染細胞を特異的に検出し、A型インフルエンザウイルスの存在の有無を判別できる化合物であることが明らかとなった。
【0102】
[実施例5]
5.ウイルス感染細胞の蛍光イメージング(2)
本実施例では、インフルエンザウイルスとして、実施例4で用いたウイルス株を含めた複数の異なるA型インフルエンザウイルス株とB型インフルエンザウイルス株とを用い、これらインフルエンザウイルス株の感染細胞に対する蛍光イメージングを行った。本実施例では、亜型又は宿主が異なるIAV株として、1968年パンデミック株であるA/Hong Kong(HK)/1/1968 H3N2株(実施例4で用いたものと同じ)、広く使用される実験株であるA/PR/8/1934 H1N1株、2009年新型パンデミック株であるA/Shizuoka/830/2009 H1N1株及び鳥インフルエンザウイルスであるA/duck/HK/313/4/1978 H5N3株と、B型インフルエンザウイルス株としてB/Lee/1940株と、を選択し、これらウイルスの感染細胞を調製した。
【0103】
実施例4のウイルス感染細胞の調製において、使用したウイルスを上述した5種のウイルスに替えた以外は、実施例4と同様にしてイヌ腎由来MDCK細胞を宿主細胞に用いて、IAV感染細胞及びIBV感染細胞を調製した。実施例4と同様の材料及び方法により、化合物b(22-001a)による各種ウイルスの蛍光イメージングを行った。結果を
図5に示す。
【0104】
この結果によれば、化合物b(22-001a)は、いずれのA型インフルエンザウイルス株の感染細胞についても、蛍光イメージング可能であった。他方、B型インフルエンザウイルスの感染細胞については、蛍光は全く観察されなかった。このことから、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスの特定株に限定されることなく、A型インフルエンザウイルスであれば、亜型や宿主が異なるものであっても、蛍光イメージングが可能であり、A型インフルエンザウイルスの存在の有無を検出できることが示された。さらに、化合物bは同じインフルエンザウイルスであっても、A型インフルエンザウイルスのみを蛍光イメージングすることから、化合物bを検出用試薬として用いることにより、A型インフルエンザウイルスとB型インフルエンザウイルスの識別が可能であることが明らかとなった。
【0105】
[実施例6]
6.A型インフルエンザウイルス株の単離の検討(1)
本実施例では、A型インフルエンザウイルスのフォーカス(ウイルス感染細胞集団)を蛍光イメージングすることによる、ウイルス株の単離方法について検討を行った。本実施例では、ウイルス種として、IAV A/Hong Kong/1/1968 H3N2株、MuV 13V165E2株、hPIV3 C243株、NDV D26株を選択し、これらウイルスの感染細胞を調製した。
【0106】
宿主細胞には、IAVに対してはイヌ腎由来MDCK細胞、MuVに対してはアフリカミドリザル腎由来Vero細胞、NDV及びhPIV3に対してはアカゲザル腎由来LLC-MK2細胞を用いた。各細胞の培養には、5% FBS含有MEM培地を用い、5%CO2、37℃で培養した。
【0107】
各細胞を6ウェルプレートの各ウェルに播種し、コンフルエントの状態にまで培養した。各細胞を2mL/ウェルのPBSで洗浄後、各ウイルスが1000FFU/ウェル、100FFU/ウェル又は10FFU/ウェルとなるように、各ウイルス-SFMの懸濁液を1mL/ウェルで添加して、5%CO
2、37℃で1時間静置し、対応する宿主細胞にウイルスを感染させた。他方、未感染細胞のウェルにはSFMを1mL/ウェル添加して、5%CO
2、37℃で1時間静置した。細胞を2mL/ウェルのPBSで洗浄後、2μg/mLのアセチル化トリプシンを含有した0.8%寒天(Bacto Agar、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)-SFM懸濁液4mL/ウェルで置換し、寒天培地が固化後、5%CO
2、37℃で96時間培養した。寒天培地上に2mMの化合物b(22-001a)含有SFMを200μL/ウェルで添加して、IAV感染細胞、MuV感染細胞及びNDV感染細胞は37℃で4時間、hPIV3感染細胞は37℃で6時間反応させた。トランスイルミネーター上で365nmの紫外線を照射して、フォーカスを蛍光イメージングした。結果を
図6に示す。
【0108】
この結果によれば、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスのフォーカスを特異的に蛍光イメージングできることが示された。このうち、ウイルス感染価が10FFU/mLの寒天培地からはウイルス株を単離可能な独立したフォーカスが蛍光イメージングされた。そこで、
図6中の白矢印で示す蛍光化フォーカスをピックアップして新しい宿主細胞に感染させたところ、このウイルス株を単離することができた。このことから、化合物b(22-001a)は、A型インフルエンザウイルスのフォーカスをライブイメージングすることができ、ライブイメージングされたフォーカスをピックアップすることにより、ウイルス株を容易に単離することができることが明らかとなった。
【0109】
[実施例7]
7.A型インフルエンザウイルス株の単離の検討(2)
上述した実施例6の結果を踏まえ、本実施例では、異なるウイルス種が混在する検体であっても、A型インフルエンザウイルスを単離できるかどうかについて検討を行った。本実施例では、ウイルス種として、IAV A/Hong Kong/1/1968 H3N2株とhPIV1 C35株とを選択し、IAV感染細胞、hPIV1感染細胞及びIAVとhPIV1の両方を感染させた細胞を調製した。
【0110】
宿主細胞にはアカゲザル腎由来LLC-MK2細胞を用いた。細胞の培養には、5% FBS含有MEM培地を用い、5%CO
2、37℃で培養した。LLC-MK2細胞を6ウェルプレートの各ウェルに播種し、コンフルエントの状態にまで培養した。細胞を2mL/ウェルのPBSで洗浄後、IAVとhPIV1がそれぞれ10FFU/ウェル、または各ウイルスのみで10FFU/ウェルとなるように、各ウイルス-SFMの懸濁液を2mL/ウェルで添加して、5%CO
2、37℃で1時間静置し、LLC-MK2細胞にウイルスを感染させた。細胞を2mL/ウェルのPBSで洗浄後、2μg/mLのアセチル化トリプシンを含有した0.8%寒天-SFM懸濁液4mL/ウェルで置換し、寒天培地が固化後、5%CO
2、37℃で96時間培養した。寒天培地上に、1mMの化合物a(BTP3-Neu5Ac)含有SFMを200μL/ウェル又は2mMの化合物b(22-001a)含有SFMを200μL/ウェルで添加して、37℃で7時間反応させた。なお、化合物bは37℃、4時間の反応時間でIAVのフォーカスを蛍光イメージング可能であるが(実施例6参照)、陽性対照として使用した化合物a(BTP3-Neu5Ac)によるhPIV1のフォーカスの蛍光イメージングに7時間を要したため、反応時間を7時間に統一した。反応7時間後、トランスイルミネーター上で365nmの紫外線を照射して、ウイルスのフォーカスを蛍光イメージングした。結果を
図7に示す。
【0111】
この結果によれば、陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)は、IAVのフォーカスもhPIV1のフォーカスも蛍光イメージングするのに対し、化合物bはIAVのフォーカスのみを蛍光イメージングすることが示された。このうち、IAVとhPIV1との両方のウイルスに感染した細胞(IAV+hPIV)において、化合物bにより蛍光イメージングされた蛍光化フォーカスをピックアップして新しい宿主細胞に感染させたところ、IAV株を単離することができた。このことから、化合物b(22-001a)によれば、異なるウイルス種が混在した検体であっても、A型インフルエンザウイルスのフォーカスのみをライブイメージングすることができ、ウイルス種が混在する検体からA型インフルエンザウイルス株のみを選択的に単離できることが明らかとなった。
【0112】
[実施例8]
8.インフルエンザウイルス等のシアリダーゼに対する化合物b(22-001a)誘導体の反応性の検討
上述した実施例1~7において、化合物b(22-001a)がA型インフルエンザウイルスを特異的に検出できることが示されたことから、本実施例では、化合物bの誘導体を作成し、その誘導体のインフルエンザウイルス等のシアリダーゼに対する反応性及び特異性を検討した。本検討において用いた化合物を以下表2に示す。表2に示す化合物のうち、化合物kと化合物l(エル)が化合物bの誘導体として新たに作成した化合物である。なお、以下表2に示す化合物bは実施例1で合成したものを用いた。
【0113】
【0114】
表2に示す化合物k(23-139b)及び化合物l(23-136b4)は、以下式に基づいて合成した。合成により得た化合物(中間体を含む)が目的物であることは、高分解能質量分析(HRMS)にて確認を行った。高分解能質量分析は、日本電子株式会社製のAccuTOF(JMS-T100LC)を用い、ES(エレクトロスプレーイオン源)を接続してポジティブモードで測定した。
【0115】
【0116】
[化合物k(23-139b)の合成]
既知化合物X(PLOS ONE、2014年、第9巻、第1号、e81941参照)14.93g(19.2mmol)のメタノール溶液(150mL)に、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、4.0mL)を加えて室温で2時間攪拌した。薄層クロマトグラフィーを確認しながら1時間毎にナトリウムメトキシド(1.5mL)を2回加えた。原料消失を確認後、酢酸(1.5mL)を加えて反応を停止した。反応液を減圧濃縮して残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル100%)で精製してテトラヒドロキシ体である化合物Y(6.68g、収率57%)を白色固体として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C25H27
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 633.05183; Found: 633.05172, Calcd for C25H27
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 635.04979; Found: 635.05115.
【0117】
引き続いて、2-ブタノン(3mL)、オルトギ酸トリメチル(1mL)、カンファースルホン酸(CSA;76mg,0.4mmol)の溶液を70℃で17時間攪拌して2-ブタノンジメチルアセタール溶液を調製した。得られた溶液(2mL)を、化合物Y(612mg)のDMF(4mL)溶液に加えた。反応をTLCで追跡し、2時間後にパラトルエンスルホン酸一水和物(100mg)を追加してさらに30分攪拌した。重曹水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出して、有機層を水で3回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、乾燥材を濾別して溶媒を減圧留去してメチルエステル中間体を得た。得られたメチルエステル中間体をメタノール(2mL)に溶解して水酸化ナトリウム水溶液(2.5M、1.4mL)を加えて15時間攪拌した。反応液に酢酸を加えて中和し、高速液体クロマトグラフィーを用いて精製して化合物k(235mg,収率36%)を無色アモルファスとして得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C28H32
79BrN2O9S [M+H]+: 651.10119; Found: 651.09970, Calcd for C28H32
81BrN2O9S [M+H]+: 653.09914; Found: 653.09785, Calcd for C28H31
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 673.08313; Found: 673.08028, Calcd for C28H31
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 675.08109; Found: 675.07871.
【0118】
[化合物l(23-136b4)の合成]
化合物lは、上述した化合物kの合成方法と同様の方法により、次のようにして合成した。上記式のうち、テトラヒドロキシ体である化合物Yからの合成経路において、3-プロパノン(3mL)、オルトギ酸トリメチル(1mL)、カンファースルホン酸(CSA;76mg,0.4mmol)の溶液を70℃で17時間攪拌して3-プロパノンジメチルアセタール溶液を調製した。得られた溶液(2mL)を、化合物Y(612mg)のアセトニトリル(2mL)溶液に加えて1.5時間攪拌した。トリエチルアミン(500μL)を加えて反応を停止し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣にメタノール(2mL)と水酸化ナトリウム水溶液(2.5M、1.4mL)を加えて19時間攪拌した。反応液に酢酸を加えて中和し、高速液体クロマトグラフィーを用いて精製して化合物l(113mg,収率17%)を無色アモルファスとして得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C29H34
79BrN2O9S [M+H]+: 665.11684; Found: 665.11673, Calcd for C29H34
81BrN2O9S [M+H]+: 667.11479; Found: 667.11515, Calcd for C29H33
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 687.09878; Found: 687.10009, Calcd for C29H33
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 689.09674; Found: 689.09816.
【0119】
[各種ウイルスのシアリダーゼに対する反応性の検討]
実施例3と同様の方法により、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製し、そのシアリダーゼ発現細胞に化合物k(23-139b)、化合物l(23-136b4)、化合物a(陽性対照;BTP3-Neu5Ac)及び化合物b(22-001a)をそれぞれ添加した際のシアリダーゼ活性を測定することで反応性を検討した。本実施例では、ウイルス種として、A型インフルエンザウイルスにはA/PR/8/1934 H1N1株、A/Shizuoka/838/2009 H1N1株、A/Shizuoka/738/2008 H1N1株及びA/Memphis/1/1971 H3N2株の4種類を選択した。また、IAV以外のウイルス種として、B型インフルエンザウイルス(IBV)B/Lee/1940株、ムンプスウイルス(MuV)13V165E2株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型(hPIV1)C35株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清3型(hPIV3)C243株を選択した。具体的には、各種ウイルスのシアリダーゼ発現のためのプラスミドは以下のものを用いた。
【0120】
・pCAGGSベクターにIAV A/PR/8/1934 H1N1株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIAV A/Shizuoka/838/2009 H1N1株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIAV A/Shizuoka/738/2008 H1N1株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIAV A/Memphis/1/1971 H3N2株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIBV B/Lee/1940株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにMuV 13V165E2株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにhPIV1 C35株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにhPIV3 C243株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
【0121】
NA発現細胞懸濁液に添加する化合物を化合物k(23-139b)及び化合物l(23-136b4)に替えた以外は、実施例3と同様の方法により、各種ウイルスのシアリダーゼ活性を測定した。また、なお、本実施例では、反応液中の各化合物の終濃度を25μM、50μM、100μM及び200μMとし、濃度依存的な反応性がみられるかどうかについても調べた。
【0122】
結果を
図8~
図11のグラフに示す。各グラフの縦軸はシアリダーゼ活性を示す蛍光強度であり、横軸は添加した化合物の終濃度(μM)である。これらの結果によれば、化合物k(23-139b)は、A型インフルエンザウイルスであるA/PR/8/1934 H1N1株、A/Shizuoka/838/2009 H1N1株、A/Shizuoka/738/2008 H1N1株及びA/Memphis/1/1971 H3N2株のシアリダーゼとすべて反応するシアリダーゼ基質であることがわかった(
図8及び
図10)。また、上述した実施例3において、化合物bはB型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとは反応しないことが明らかとなっているが、化合物kは、
図9に示すように、B型インフルエンザウイルスのシアリダーゼとも反応するシアリダーゼ基質であることが明らかとなった。さらに、化合物kは、ムンプスウイルスのシアリダーゼとはわずかに反応するものの、ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型及び3型のシアリダーゼとは反応しなかった(
図11)。他方、化合物l(23-136b4)は、各種ウイルスのシアリダーゼとほとんど反応せず、シアリダーゼ基質として認識されないことがわかった。これらのことから、化合物k(23-139b)は、A型インフルエンザウイルス及びB型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに対する特異性に優れた基質化合物であり、A型及びB型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを特異的に検出して、A型又はB型インフルエンザウイルスの存在の有無を判別できる化合物であることが明らかとなった。
【0123】
[実施例9]
9.ウイルス感染細胞の蛍光イメージング(3)
本実施例では、化合物k(23-139b)を用いて、A型インフルエンザウイルス感染細胞及びB型インフルエンザウイルス感染細胞の蛍光イメージングを行った。また、化合物kがA型及びB型インフルエンザウイルス以外のウイルス種の感染細胞には蛍光イメージングしないことを確認するため、他のウイルス種の感染細胞についても同様の試験を行った。本実施例では、ウイルス種として、A型インフルエンザウイルス(IAV)には、A/PR/8/1934 H1N1株、A/Shizuoka/738/2008 H1N1株及びA/Memphis/1/1971 H3N2株を、B型インフルエンザウイルス(IBV)にはB/Lee/1940株を用いた。また、他のウイルス種には、ムンプスウイルス(MuV)13V165E2株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型(hPIV1)C35株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清3型(hPIV3)C243株を選択し、これらウイルスの感染細胞を調製した。
【0124】
宿主細胞には、IAV及びIBVに対してはイヌ腎由来MDCK細胞、MuVに対してはアフリカミドリザル腎由来Vero細胞、hPIV1及びhPIV3に対してはアカゲザル腎由来LLC-MK2細胞を用いた。各細胞の培養には、5% FBS含有MEM培地(Minimum essential medium)を用い、5%CO2、37℃で培養した。
【0125】
細胞を96ウェルプレートの各ウェルに2×104cells/ウェルとなるように播種し(100μL/ウェル)、5%CO2、37℃で一晩培養してコンフルエントの状態にした。細胞を50μL/ウェルのPBSで洗浄後、各ウイルスが100フォーカス形成ユニット(以下FFU)/ウェルとなるように、各ウイルス-無血清培地(Hybridoma-SFM、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、以下SFM)の懸濁液を50μL/ウェルで添加して、5%CO2、37℃で1時間静置し、対応する宿主細胞にウイルスを感染させた。50μL/ウェルのPBSで細胞を洗浄後、50μL/ウェルのSFMに置換して、5%CO2、37℃で培養した。なお、IAV、IBV及びMuV感染細胞は24時間、hPIV1及びhPIV3感染細胞は48時間培養した。
【0126】
観察直前に、化合物k(23-139b)又は陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)をSFM(pH7.4)で200μMに希釈した。なお、hPIV1感染細胞及びhPIV3感染細胞への添加用SFM希釈液としてはSFMを1N HClでpH4.5に用事調製した。これを遠心分離(4℃、10,000×g、10分間)した後、上清を回収して、非特異的に切断された蛍光物質を分離した。氷上で各感染細胞上のSFMを除去し、200μMの化合物k又は化合物a含有SFM上清に置換して37℃で20分間反応させた。反応終了時に、氷上で化合物k又は化合物a含有SFM上清を除去し、各感染細胞を50μL/ウェルのPBSで洗浄後、50μL/ウェルのSFMに置換した。蛍光顕微鏡(型番:BZ-X700、株式会社キーエンス製)でBTP特注フィルター(励起波長:360/40nm、吸収波長:525/50nm、ダイクロイックミラー波長:400nm)を用いて蛍光像を観察した(対物レンズ20倍、撮影設定は高感度モード・露光時間1/4秒)。結果を
図12に示す。
【0127】
この結果によれば、化合物k(23-139b)は、A型インフルエンザウイルスの感染細胞を組織化学的に蛍光イメージングできることが示された。また、化合物kはB型インフルエンザウイルスの感染細胞においても明らかな蛍光が観察され、B型インフルエンザウイルスの感染細胞に対しても、組織化学的に蛍光イメージングできることが示された。また、陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)は、すべてのウイルス種の感染細胞について、蛍光イメージングすることができるのに対し、化合物k(23-139b)は、A型及びB型インフルエンザウイルスの感染細胞のみを蛍光イメージングした。このことから、化合物k(23-139b)は、A型及びB型インフルエンザウイルスを特異的に蛍光イメージングすることができる化合物であること、A型及びB型インフルエンザウイルスの感染細胞を特異的に検出し、A型又はB型インフルエンザウイルスの存在の有無を判別できる化合物であることが明らかとなった。
【0128】
[実施例10]
10.NA亜型が異なるA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを識別可能な化合物の検討
A型インフルエンザウイルスは、16種のヘマグルチニン(HA)と9種のノイラミニダーゼ(NA)の組み合わせによって亜型に分類される。このうち、ヒトに感染するA型インフルエンザウイルスのNA亜型は主にN1とN2であるため、両者を識別できる検出用試薬が望まれている。そこで、A型インフルエンザウイルスのNA亜型のうち、N1とN2を識別可能な化合物について検討を行った。本検討において用いた化合物を以下表3に示す。なお、以下表3に示す化合物c(22-002b_i)、化合物e(22-002b_t)、化合物f(22-005b_c)及び化合物g(22-005b_b)は実施例1で合成したものを用いた。
【0129】
【0130】
[各種ウイルスのシアリダーゼに対する反応性の検討]
実施例3と同様の方法により、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製し、そのシアリダーゼ発現細胞に化合物c(22-002b_i)、化合物e(22-002b_t)、化合物f(22-005b_c)、化合物g(22-005b_b)及び化合物a(陽性対照;BTP3-Neu5Ac)をそれぞれ添加した際のシアリダーゼ活性を測定することで反応性を検討した。本実施例では、ウイルス種として、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスにはA/PR/8/1934 H1N1株とA/Shizuoka/738/2008 H1N1株を用いた。また、NA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスにはA/Memphis/1/1971 H3N2株を用いた。また、IAV以外のウイルス種として、B型インフルエンザウイルス(IBV)B/Lee/1940株を選択した。具体的には、各種ウイルスのシアリダーゼ発現のためのプラスミドは以下のものを用いた。
【0131】
・pCAGGSベクターにIAV A/PR/8/1934 H1N1株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIAV A/Shizuoka/738/2008 H1N1株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIAV A/Memphis/1/1971 H3N2株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIBV B/Lee/1940株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
【0132】
NA発現細胞懸濁液に添加する化合物を、表3に示す各化合物に替えた以外は、実施例8と同様の方法により、各種ウイルスのシアリダーゼ活性を測定した。
【0133】
結果を
図13のグラフに示す。各グラフの縦軸はシアリダーゼ活性を示す蛍光強度であり、横軸は添加した各化合物の終濃度(μM)である。これらの結果によれば、化合物c(22-002b_i)は、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼには反応するが、N2のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼには反応が著しく弱くなり、B型インフルエンザウイルスのシアリダーゼには全く反応しないことがわかった。他方、化合物e(22-002b_t)と化合物g(22-005b_b)は、いずれのインフルエンザウイルスのシアリダーゼにも反応せず、化合物f(22-005b_c)は化合物a(陽性対照;BTP3-Neu5Ac)と同様にすべての種類のインフルエンザウイルスのシアリダーゼと反応した。このことから、化合物c(22-002b_i)は、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと、N2のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを識別できる化合物であることが示された。なお、後述する実施例13の結果(
図16)にも示されるように、化合物c(22-002b_i)は、MuVのシアリダーゼ及びhPIVのシアリダーゼに対しても反応するため、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを特異的に検出することはできないが、A型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを特異的に検出できる化合物b(22-001a)や化合物k(23-139b)を用いてスクリーニングを行った後、そのNA亜型を識別するために、化合物c(22-002b_i)を用いて検出を行うことが好ましい。
【0134】
[実施例11]
11.ウイルス感染細胞の蛍光イメージング(4)
本実施例では、実施例10において、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼと、NA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼを識別できる化合物であることが確認された化合物c(22-002b_i)を用いて、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルス感染細胞とNA亜型がN2のA型インフルエンザウイルス感染細胞の蛍光イメージングを行った。本実施例では、ウイルス種として、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスには、A/Shizuoka/738/2008 H1N1株を、NA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスには、A/Memphis/1/1971 H3N2株を用い、これらウイルスの感染細胞を調製した。
【0135】
実施例9のウイルス感染細胞の調製において、使用したウイルスを上述した2種のA型インフルエンザウイルスに替えた以外は、実施例9と同様にしてA型インフルエンザウイルス感染細胞を調製した。実施例9と同様の材料及び方法により、陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)と化合物c(22-002b_i)によるNA亜型がN1又はN2のA型インフルエンザウイルスの蛍光イメージングをそれぞれ行った。結果を
図14に示す。
【0136】
この結果によれば、化合物c(22-002b_i)は、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスの感染細胞に対しては組織化学的に蛍光イメージングしたが、NA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスの感染細胞に対しては蛍光イメージングしないことが示された。このことから、実施例10で検討したA型インフルエンザウイルスのシアリダーゼに対する反応性の結果と、本実施例で検討したA型インフルエンザウイルス感染細胞の蛍光イメージングの結果は一致することが明らかとなった。これらのことから、化合物c(22-002b_i)は、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスを蛍光イメージングすることができる化合物であること、NA亜型がN1のA型インフルエンザウイルスの感染細胞とNA亜型がN2のA型インフルエンザウイルスの感染細胞を識別できる化合物であることが明らかとなった。
【0137】
[実施例12]
12.ムンプスウイルスのシアリダーゼを検出する化合物のスクリーニング
本実施例では、スクリーニング対象化合物として、公知のシアリダーゼ基質であるBTP3-Neu5Acのシアル酸構造部分を改変した誘導体を選択した。ムンプスウイルスのシアリダーゼを検出することができる化合物の探索は、ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性の測定試験により行った。具体的には、ムンプスウイルスのシアリダーゼとスクリーニング対象化合物とを反応させた際に、ムンプスウイルスのシアリダーゼに加水分解されて生じる蛍光物質である、BTP3[(2-ベンゾチアゾール-2-イル)-4-ブロモフェノール]の蛍光強度を測定することにより行った。試験にあたっては、陽性対照としてBTP3-Neu5Ac(化合物a)を用いた。スクリーニング対象化合物を以下表4に示す。化合物aのBTP3-Neu5Acは、東京化成工業株式会社製を用いた。また、以下表4に示すb~d、f~hに示す化合物は、実施例1で合成したものを用いた。
【0138】
【0139】
[ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性の測定]
ムンプスウイルスのシアリダーゼ活性の測定は、ムンプスウイルスのシアリダーゼを発現する、ムンプスウイルスのヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)発現細胞を調製し、そのHN発現細胞に各化合物を添加した際のシアリダーゼ活性を測定することによって行った。測定方法は具体的には次の通りである。
【0140】
細胞は、ヒト胎児腎細胞であるHEK293T細胞を用いた。HEK293T細胞の培養には、D-MEM培地(Dulbecco's modified essential medium)に10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用い、5%CO2条件下、37℃で培養した。また、プラスミドは、pCAGGSベクターにムンプスウイルス 13V165E2株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド、pCAGGS-MuVHNを用いた。化合物a(陽性対照)及びスクリーニング対象のb~d、f~hの各化合物は、DMSOでそれぞれ溶解して100mM濃度の溶液とし、-30℃で保存した。
【0141】
まず、HEK293T細胞を6ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO2、37℃で一晩培養して70%コンフルエントの状態とした。トランスフェクション試薬(TransIT(登録商標)-293 Reagent、タカラバイオ株式会社製)のプロトコールに従い、上述したプラスミドpCAGGS-MuVHN(ムンプスウイルス:13V165E2株由来)を2.5μg/ウェルを用いて、HEK293T細胞をトランスフェクションし、5%CO2、37℃で48時間培養した。培地を除去後、PBSを各ウェルに1mLずつ添加し、細胞を懸濁したのち遠心分離(4℃、800×g、10分間)して上清を除去した。遠心分離により沈降した細胞を100mM 酢酸緩衝液(pH4.5)に懸濁してHN発現細胞懸濁液とした。
【0142】
96ウェルの黒色プレートの各ウェルに、上述のようにして調製したHN発現細胞懸濁液50μLを加えて37℃で5分間静置した。各化合物を100mM 酢酸緩衝液(pH4.5)で100μMに希釈して、遠心分離(4℃、10,000×g、10分間)した後、その上清50μLを各ウェルに添加し、ウェル中のHN発現細胞懸濁液と混合した(各化合物の終濃度は50μM)。混合後、37℃で20分間反応させた。マイクロプレートリーダー(Infinite(登録商標)M200、テカンジャパン株式会社製)を用いて、シアリダーゼとの反応によって遊離したBTP3の励起波長372nm、測定波長526nm(Ex/Em=372nm/526nm)における蛍光強度を独立して3回測定した。Blankは、空プラスミドベクターpCAGGS・MCSをトランスフェクションした細胞における蛍光強度とした。シアリダーゼ活性は、独立した3回の測定において各化合物による蛍光強度からBlankを差し引いた値を使用して、陽性対照として用いた化合物a(BTP3-Neu5Ac)による蛍光強度を100%とした時の相対蛍光強度の平均値±標準誤差で示した。
【0143】
結果を
図15に示す。
図15の横軸は化合物No.を、縦軸は相対シアリダーゼ活性を示す。本発明者らは、ムンプスウイルスのシアリダーゼに対する反応性が高い基質化合物として、化合物f(22-005b_c)、化合物d(22-002b_4)、化合物c(22-002b_i)及び化合物h(22-005b_8)を見出した。これらの化合物のシアリダーゼ活性は陽性対照として用いたBTP3-Neu5Ac(化合物a)のシアリダーゼ活性の約3~5割程度を有しており、ウイルス検出用試薬、特に蛍光イメージング剤として適用され得る蛍光強度も十分に有していた。
【0144】
[実施例13]
13.他のウイルス種のシアリダーゼに対する反応性の検討
実施例12において、ムンプスウイルスのシアリダーゼに対する反応性が高く、ムンプスウイルスのシアリダーゼを検出することができる化合物として見出された化合物f(22-005b_c)、化合物d(22-002b_4)、化合物c(22-002b_i)及び化合物h(22-005b_8)について、他のウイルス種のシアリダーゼに対しても同様の反応性を有する化合物であるのかどうか確認する試験を行った。具体的には、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製し、そのシアリダーゼ発現細胞にこれらの化合物を添加した際のシアリダーゼ活性を測定することで検討した。また、化合物h(22-005b_8)の誘導体として、以下式に示される化合物i及び化合物jについても同様の試験を行った。なお、化合物i(22-005b_6)及び化合物j(22-005b_7)は、次のようにして合成した。また、合成により得た化合物(中間体を含む)が目的物であることは、高分解能質量分析(HRMS)にて確認を行った。高分解能質量分析は、日本電子株式会社製のAccuTOF(JMS-T100LC)を用い、ES(エレクトロスプレーイオン源)を接続してポジティブモードで測定した。
【0145】
【0146】
[化合物i(22-005b_6)の合成]
化合物iは、実施例1において上述した化合物cの合成方法に基づいて合成した。なお、化合物cの合成方法に係る式において、化合物Ei及び化合物iにおけるRはペンチル基である。上述した化合物cの合成方法における、化合物Ecの合成経路中で用いたイソ酪酸無水物の代わりに塩化カプロイル(137μL)を用い、反応スケールを半分にした以外は、化合物cの合成方法と同様の材料及び反応を行って化合物Eiを得た。得られた化合物は、精製せずに次の反応に用いた。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C37H43
79BrN2O13S [M+H]+: 857.15669; Found: 857.15601, Calcd for C37H43
81BrN2O13S [M+H]+: 859.15464; Found: 859.15630.
【0147】
未精製の化合物Eiをメタノール(0.5mL)、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、0.25mL)を順次加えて20分攪拌した。続いて水酸化ナトリウム水溶液(5M、0.1mL)を加えて一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、酢酸(100μL)を加えて反応を停止し、高速液体クロマトグラフィーで精製して化合物i(22.9mg)を白色粉末として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C28H32
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 697.08073; Found: 697.08042, Calcd for C28H32
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 699.07868; Found: 699.07863.
【0148】
[化合物j(22-005b_7)の合成]
化合物jは、実施例1において上述した化合物cの合成方法に基づいて合成した。なお、化合物cの合成方法に係る式において、化合物Ej及び化合物jにおけるRはヘキシル基である。上述した化合物cの合成方法における、化合物Ecの合成経路中で用いたイソ酪酸無水物の代わりに塩化ヘプタノイル(155μL)を用い、反応スケールを半分にした以外は、化合物cの合成方法と同様の材料及び反応を行って化合物Ejを得た。得られた化合物は、精製せずに次の反応に用いた。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C38H45
79BrN2O13S [M+H]+: 871.17234; Found: 871.17366, Calcd for C38H45
81BrN2O13S [M+H]+: 873.17029; Found: 873.17027.
【0149】
未精製の化合物Ejの半量をメタノール(0.5mL)、ナトリウムメトキシド溶液(5M in MeOH、0.25mL)を順次加えて20分攪拌した。続いて水酸化ナトリウム水溶液(5M、0.1mL)を加えて一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、酢酸(100μL)を加えて反応を停止し、高速液体クロマトグラフィーで精製して化合物j(13.0mg)を白色粉末として得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C29H34
79BrN2Na2O9S [M-H+2Na]+: 711.09638; Found: 711.09579, Calcd for C29H34
81BrN2Na2O9S [M-H+2Na]+: 713.09433; Found: 713.09398.
【0150】
[各種ウイルスのシアリダーゼ活性の測定]
本実施例では、ウイルス種として、ムンプスウイルス 13V165E2株、A型インフルエンザウイルス A/Hong Kong/1/1968 H3N2株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清3型 C243株及びヒトパラインフルエンザウイルス血清1型 C35株を選択し、これらのシアリダーゼ発現細胞を調製した。具体的には、プラスミドは以下のものを用いた。
【0151】
・pCAGGS-MuVHN:pCAGGSベクターにMuV 13V165E2株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGS-HK68NA:pCAGGSベクターにIAV A/Hong Kong/1/1968 H3N2株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGS-hPIV3HN:pCAGGSベクターにhPIV3 C243株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド。
・pCAGGS-hPIV1HN:pCAGGSベクターにhPIV1 C35株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド。
【0152】
実施例12のシアリダーゼ活性試験において使用したプラスミドを、上述した4種のプラスミドにそれぞれ替えた以外は、実施例12と同様にして各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製した。そして、実施例12と同様の材料及び方法により、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞に陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)、化合物f(22-005b_c)、化合物d(22-002b_4)、化合物c(22-002b_i)、化合物h(22-005b_8)、化合物i(22-005b_6)又は化合物j(22-005b_7)を添加した際のシアリダーゼ活性を測定した。なお、hPIV1のシアリダーゼに対する試験は、化合物a(BTP3-Neu5Ac)、化合物h(22-005b_8)、化合物i(22-005b_6)及び化合物j(22-005b_7)についてのみ行った。Blankは、空プラスミドベクターpCAGGS・MCSをトランスフェクションした細胞における蛍光強度とした。シアリダーゼ活性は、独立した3回の測定において各化合物による蛍光強度からBlankを差し引いた値の平均値±標準誤差で示した。
【0153】
結果を
図16のグラフに示す。各図の横軸は各シアリダーゼの由来ウイルス名を、縦軸はシアリダーゼ活性を示す。白色のカラムは陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)、黒色のカラムは各化合物の結果である。この結果によれば、陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)は、すべてのウイルス種のシアリダーゼと反応するシアリダーゼ基質であるのに対し、化合物d(22-002b_4)、化合物h(22-005b_8)、化合物i(22-005b_6)及び化合物j(22-005b_7)はムンプスウイルスのシアリダーゼに特異的に反応するシアリダーゼ基質であることがわかった。なお、化合物c(22-002b_i)はムンプスウイルスよりもヒトパラインフルエンザウイルス1型のシアリダーゼに対する反応性が高かった。このことから、化合物d(22-002b_4)、化合物h(22-005b_8)、化合物i(22-005b_6)及び化合物j(22-005b_7)は、ムンプスウイルスのシアリダーゼに対する特異性に優れた基質化合物であり、ムンプスウイルスのシアリダーゼを特異的に検出してムンプスウイルスの存在の有無を判別できる化合物であること、及びムンプスウイルスのシアリダーゼと特異的に反応することにより、十分な蛍光強度の蛍光物質を生じさせる化合物であることが明らかとなった。また、これらの化合物のうち、特に化合物h(22-005b_8)は、ムンプスウイルスのシアリダーゼの特異的な検出作用に優れると共に、シアリダーゼ検出時における蛍光強度にも優れることがわかった。
【0154】
[実施例14]
14.ムンプスウイルス感染細胞の蛍光イメージング(1)
実施例13において、ムンプスウイルスのシアリダーゼを特異的に検出できることが確認された化合物h(22-005b_8)を用いて、ムンプスウイルス感染細胞の蛍光イメージングを行った。また、化合物hがムンプスウイルス以外のウイルス種の感染細胞には蛍光イメージングしないことを確認するため、他のウイルス種の感染細胞についても同様の試験を行った。本実施例では、ウイルス種として、ムンプスウイルス 13V165E2株、A型インフルエンザウイルス A/Hong Kong/1/1968 H3N2株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型 C35株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清3型 C243株を選択し、これらウイルスの感染細胞を調製した。
【0155】
宿主細胞には、IAVに対してはイヌ腎由来MDCK細胞、MuVに対してはアフリカミドリザル腎由来Vero細胞、hPIV1及びhPIV3に対してはアカゲザル腎由来LLC-MK2細胞を用いた。各細胞の培養には、5% FBS含有MEM培地(Minimum essential medium)で5%CO2、37℃で培養した。
【0156】
細胞を48ウェルプレートの各ウェルに播種し、5%CO2、37℃で一晩培養してコンフルエントの状態にした。細胞を200μL/ウェルのPBSで洗浄後、各ウイルスが200フォーカス形成ユニット(以下FFU)/ウェルとなるように、各ウイルス-無血清培地(Hybridoma-SFM、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、以下SFM)の懸濁液を200μL/ウェルで添加して、5%CO2、37℃で1時間静置し、対応する宿主細胞にウイルスを感染させた。200μL/ウェルのPBSで細胞を洗浄後、200μL/ウェルのSFMに置換して、5%CO2、37℃で培養した。なお、IAV及びMuV感染細胞は24時間、hPIV1及びhPIV3感染細胞は48時間培養した。
【0157】
観察当日、化合物a(BTP3-Neu5Ac)又は化合物h(22-005b_8)をSFMで50μMに希釈した。なお、MuV感染細胞への添加用SFM希釈液としては各化合物を100μMに希釈し、hPIV1感染細胞及びhPIV3感染細胞への添加用SFM希釈液としてはSFMを1N HClでpH4.5に用事調製した。これを遠心分離(4℃、10,000×g、10分間)した後、上清を回収して、非特異的に切断された蛍光物質を分離した。各感染細胞を200μL/ウェルのPBSで洗浄後、化合物a又は化合物h含有SFM上清を200μL/ウェルずつ添加して37℃で30分間反応させた。各感染細胞を200μL/ウェルのPBSで洗浄後、200μL/ウェルのPBSに置換して、蛍光顕微鏡(型番:BZ-X700、株式会社キーエンス製)でBTP特注フィルター(励起波長:360/40nm、吸収波長:525/50nm、ダイクロイックミラー波長:400nm)を用いて蛍光像を観察した。結果を
図17に示す。
【0158】
この結果によれば、化合物h(22-005b_8)は、ムンプスウイルスの感染細胞を組織化学的に蛍光イメージングできることが示された。また、陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)は、すべてのウイルス種の感染細胞について、蛍光イメージングすることができるのに対し、化合物h(22-005b_8)は、ムンプスウイルスの感染細胞のみを蛍光イメージングした。このことから、化合物h(22-005b_8)は、ムンプスウイルスを特異的に蛍光イメージングすることができる化合物であること、ムンプスウイルスの感染細胞を特異的に検出し、ムンプスウイルスの存在の有無を判別できる化合物であることが明らかとなった。
【0159】
[実施例15]
15.ムンプスウイルスのシアリダーゼを検出する化合物のスクリーニング
上述した実施例13において、化合物d(22-002b_4)、化合物h(22-005b_8)、化合物i(22-005b_6)及び化合物j(22-005b_7)がムンプスウイルスを特異的に検出できることが示されたことから、本実施例では、これらの化合物の誘導体、すなわち、シアル酸骨格のC5位N―アセチル基を直鎖アルキル基とした化合物を作成し、その誘導体のムンプスウイルスのシアリダーゼに対する特異性を検討した。本検討において用いた化合物を以下表5に示す。表5に示す化合物のうち、化合物m、n、o及びpが新たに作成した化合物である。なお、以下表5に示す化合物d、h、i及びjは実施例1及び実施例13で合成したものを用いた。
【0160】
【0161】
化合物m(22-114a_3)、化合物n(22-114a_5)、化合物o(22-114a_10)及び化合物p(22-114a_12)は、以下式に基づいて合成した。合成により得た化合物(中間体を含む)が目的物であることは、高分解能質量分析(HRMS)にて確認を行った。高分解能質量分析は、日本電子株式会社製のAccuTOF(JMS-T100LC)を用い、ES(エレクトロスプレーイオン源)を接続してポジティブモードで測定した。
【0162】
【0163】
[化合物m(22-114a_3)の合成]
既知化合物X(PLOS ONE、2014年、第9巻、第1号、e81941参照)のテトラヒドロフラン溶液にBoc2O、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を加えて60℃で一晩攪拌した。薄層クロマトグラフィーで原料消失を確認後、放冷した。反応液にN,N-ジエチルエチレンジアミンを加えて、室温で一晩攪拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を水(3回)、飽和食塩水(1回)で順次洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別して減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製して化合物Zを白色泡状物として得た。化合物Z(2.45g)のジクロロメタン(10mL)溶液にトリフルオロ酢酸(10mL)を加えて、室温で1時間攪拌した。溶媒を減圧留去して得られた残渣に1,4-ジオキサンと塩酸を加えて凍結乾燥して脱保護体の塩酸塩である化合物Aを得た。
【0164】
化合物AのTHF溶液(225μmol/2mL)にトリエチルアミン(300μL)を加え、続いてプロピオン酸無水物(120μL)を加えて22時間攪拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を水で1回、重曹水溶液で1回、水で1回、飽和食塩水で1回、順次洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾別して、溶媒を減圧留去して得られた残渣にナトリウムメトキシドのメタノール溶液(0.25M、4mL)を加えて1.5時間攪拌した後、弱酸性陽イオン交換樹脂0.6g(型番:FPC3500、オルガノ株式会社)を加えて反応を停止した。樹脂を濾別して溶媒を減圧留去してテトラオール体を得た。得られたテトラオール体(169μmol)にメタノール(1mL)、水(400μL)、ナトリウムメトキシドメタノール溶液(5M、200μL)を順次加えて17時間攪拌した。酢酸を加えて中和し、高速液体クロマトグラフィーで精製して目的物(60.6mg,4段階収率57%)を無色アモルファスとして得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C25H27
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 633.05183; Found: 633.05009, Calcd for C25H27
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 635.04979; Found: 635.04874.
【0165】
[化合物n(22-114a_5)の合成]
化合物nは、次のようにして合成した。上述した化合物mの合成方法において、プロピオン酸無水物に替えて吉草酸クロリド(100μL)を用いた以外は、化合物mの合成方法と同様の材料及び反応を行い、目的物である化合物n(70.9mg、4段階収率64%)を無色アモルファスとして得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C27H31
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 661.08313; Found: 661.08218, Calcd for C27H31
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 663.08109; Found: 663.08082.
【0166】
[化合物o(22-114a_10)の合成]
化合物oは、次のようにして合成した。上述した化合物mの合成方法において、プロピオン酸無水物に替えてカプリン酸クロリド(170μL)を用いた以外は、化合物mの合成方法と同様の材料及び反応を行い、目的物である化合物o(70.9mg、4段階収率64%)を無色アモルファスとして得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C32H42
79BrN2O9S [M+H]+: 709.17944; Found: 709.17697, Calcd for C32H42
81BrN2O9S [M+H]+: 711.177139; Found: 711.17742, Calcd for C32H41
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 731.16138; Found: 731.16402, Calcd for C32H41
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 733.15934; Found: 733.15820.
【0167】
[化合物p(22-114a_12)の合成]
化合物pは、次のようにして合成した。上述した化合物mの合成方法において、プロピオン酸無水物に替えてラウリン酸クロリド(170μL)を用いた以外は、化合物mの合成方法と同様の材料及び反応を行い、目的物である化合物p(25.0mg、4段階収率20%)を無色アモルファスとして得た。
HRMS (ESI-TOF) Calcd for C34H46
79BrN2O9S [M+H]+: 737.21074; Found: 737.20932, Calcd for C34H46
81BrN2O9S [M+H]+: 739.20869; Found: 739.21024, Calcd for C34H45
79BrN2NaO9S [M+Na]+: 759.19268; Found: 759.19594, Calcd for C34H45
81BrN2NaO9S [M+Na]+: 761.19064; Found: 761.19039.
【0168】
[各種ウイルスのシアリダーゼに対する反応性の検討]
実施例13と同様の方法により、各種ウイルスのシアリダーゼ発現細胞を調製し、そのシアリダーゼ発現細胞に化合物d(22-002b_4)、化合物h(22-005b_8)、化合物i(22-005b_6)、化合物j(22-005b_7)、化合物m(22-114a_3)、化合物n(22-114a_5)、化合物o(22-114a_10)、化合物p(22-114a_12)及び化合物a(陽性対照;BTP3-Neu5Ac)をそれぞれ添加した際のシアリダーゼ活性を測定することで反応性を検討した。本実施例では、ウイルス種として、ムンプスウイルス 13V165E2株、A型インフルエンザウイルス A/Shizuoka/738/2008 H1N1株、B型インフルエンザウイルス B/Lee/1940株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型 C35株及びヒトパラインフルエンザウイルス血清3型 C243株を選択し、これらのシアリダーゼ発現細胞を調製した。具体的には、プラスミドは以下のものを用いた。
【0169】
・pCAGGSベクターにMuV 13V165E2株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIAV A/Shizuoka/738/2008 H1N1株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにIBV B/Lee/1940株のノイラミニダーゼ(NA)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにhPIV1 C35株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
・pCAGGSベクターにhPIV3 C243株のヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)配列を組み込んだプラスミド
【0170】
細胞は、ヒト胎児腎細胞であるHEK293T細胞を用いた。HEK293T細胞の培養には、D-MEM培地(Dulbecco's modified essential medium)に10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用い、5%CO2条件下、37℃で培養した。まず、HEK293T細胞を6ウェルプレートの各ウェルに7.5×105cells/ウェルとなるように播種し、5%CO2、37℃で一晩培養して80~90%コンフルエントの状態とした。トランスフェクション試薬(TransIT(登録商標)-293 Reagent、タカラバイオ株式会社製)のプロトコールに従い、上述した各プラスミド2.5μg/ウェルを用いて、HEK293T細胞をそれぞれトランスフェクションし、5%CO2、37℃で72時間培養した。培地を除去後、リン酸緩衝液(131mM NaCl、14mM Na2HPO4、1.5mM KH2PO4、2.7mM KCl、pH 7.2、以下PBSと称する)を各ウェルに1mLずつ添加し、細胞を懸濁したのち遠心分離(4℃、1000×g、10分間)して上清を除去した。遠心分離により沈降した細胞を100mM 酢酸緩衝液(測定対象のシアリダーゼがIAV及びIBVの場合にはpH6.0、MuV、hPIV1及びhPIV3の場合にはpH4.5)に懸濁してウイルス種毎のNA発現細胞懸濁液とした。
【0171】
各化合物は、予め100mM濃度となるようにDMSOに溶解させておいたストック溶液を用い、100mM 酢酸緩衝液(測定対象のシアリダーゼがIAV及びIBVの場合にはpH6.0、MuV、hPIV1及びhPIV3の場合にはpH4.5)を用いて、その濃度が1mMとなるようにそれぞれ希釈した。これを遠心分離(4℃、10,000×g、10分間)した後、その上清を回収し、添加する化合物の終濃度が25μM、50μM、100μM及び200μMとなるように段階希釈した。氷上で96ウェルの黒色プレートの各ウェルに、上述のようにして調製したNA発現細胞懸濁液40μLと化合物の希釈液10μL(化合物の終濃度:25μM、50μM、100μM及び200μM)を加えて5秒間プレートミキサーにかけた後、37℃で20分間反応させた。反応終了時、氷上で100mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH10.7)を50μL/ウェルで添加した。マイクロプレートリーダー(Infinite(登録商標)M200、テカンジャパン株式会社製)を用いて、シアリダーゼとの反応によって遊離したBTP3の励起波長372nm、測定波長526nm(Ex/Em=372nm/526nm)における蛍光強度を独立して3回測定した。Blankは、空プラスミドベクターpCAGGS・MCSをトランスフェクションした細胞における蛍光強度とした。シアリダーゼ活性は、独立した3回の測定において各化合物による蛍光強度からBlankを差し引いた値の平均値±標準誤差で示した。
【0172】
結果を
図18~
図20のグラフに示す。各グラフの縦軸はシアリダーゼ活性を示す蛍光強度であり、横軸は添加した化合物の終濃度(μM)である。これらの結果によれば、シアル酸骨格のC5位N―アセチル基を直鎖アルキル基とした化合物のうち、直鎖アルキル基の炭素鎖の炭素数によって、ムンプスウイルスのシアリダーゼに対する反応性が変化することが明らかとなった(
図18(a))。より具体的には、
図18(a)に示すように、化合物のC5位直鎖アルキル基の炭素数が多くなるほど(化合物mの炭素数は3、化合物dの炭素数は4、化合物nの炭素数は5、化合物iの炭素数は6、化合物jの炭素数は7、化合物hの炭素数は8、化合物oの炭素数10、化合物pの炭素数12)、ムンプスウイルスのシアリダーゼに対する反応性は低下する傾向がみられたが、炭素数8の化合物h(22-005b_8)では反応性は上昇した。また、
図18(b)、
図19及び
図20に示すように、化合物m(22-114a_3:炭素数3)は、いずれのウイルスのシアリダーゼに対しても高い反応性を示した。これらのことから、化合物のC5位直鎖アルキル基の炭素数が4~10の化合物がムンプスウイルスのシアリダーゼに対する特異性を有する基質化合物であり、このうち、化合物のC5位直鎖アルキル基の炭素数が5~10の化合物、すなわち、化合物n(22-114a_5)、化合物i(22-005b_6)、化合物j(22-005b_7)、化合物h(22-005b_8)、化合物o(22-114a_10)が特に優れた特異性を有する基質化合物であり、ムンプスウイルスのシアリダーゼを特異的に検出して、ムンプスエンザウイルスの存在の有無を判別できる化合物であることが明らかとなった。また、これらのC5位直鎖アルキル基の炭素数が5~10の化合物は、ムンプスウイルスのシアリダーゼと特異的に反応することにより、十分な蛍光強度の蛍光物質が生じていることから、ムンプスウイルスのシアリダーゼの特異的な検出作用に優れると共に、シアリダーゼ検出時における蛍光強度にも優れることがわかった。
【0173】
[実施例16]
16.ムンプスウイルス感染細胞の蛍光イメージング(2)
実施例15において、ムンプスウイルスのシアリダーゼを検出できることが確認された、C5位直鎖アルキル基の炭素数が4~10の化合物、化合物d(22-002b_4)、化合物n(22-114a_5)、化合物i(22-005b_6)、化合物j(22-005b_7)、化合物h(22-005b_8)、化合物o(22-114a_10)を用いて、ムンプスウイルス感染細胞の蛍光イメージングを行った。また、これらの化合物がムンプスウイルス以外のウイルス種の感染細胞には蛍光イメージングしないことを確認するため、他のウイルス種の感染細胞についても同様の試験を行った。本実施例では、ウイルス種として、ムンプスウイルス 13V165E2株、A型インフルエンザウイルス A/Shizuoka/738/2008 H1N1株、B型インフルエンザウイルス B/Lee/1940株、ヒトパラインフルエンザウイルス血清1型 C35株及びヒトパラインフルエンザウイルス血清3型 C243株を選択し、これらウイルスの感染細胞を調製した。
【0174】
宿主細胞には、MuVに対してはアフリカミドリザル腎由来Vero細胞、IAV及びIBVに対してはイヌ腎由来MDCK細胞、hPIV1及びhPIV3に対してはアカゲザル腎由来LLC-MK2細胞を用いた。各細胞の培養には、5% FBS含有MEM培地(Minimum essential medium)を用い、5%CO2、37℃で培養した。
【0175】
細胞を96ウェルプレートの各ウェルに2×104cells/ウェルとなるように播種し(100μL/ウェル)、5%CO2、37℃で一晩培養してコンフルエントの状態にした。細胞を50μL/ウェルのPBSで洗浄後、各ウイルスが100フォーカス形成ユニット(以下FFU)/ウェルとなるように、各ウイルス-無血清培地(Hybridoma-SFM、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、以下SFM)の懸濁液を50μL/ウェルで添加して、5%CO2、37℃で1時間静置し、対応する宿主細胞にウイルスを感染させた。50μL/ウェルのPBSで細胞を洗浄後、50μL/ウェルのSFMに置換して、5%CO2、37℃で培養した。なお、IAV及びIBV感染細胞は24時間、MuV、hPIV1及びhPIV3の感染細胞は48時間培養した。
【0176】
観察直前に、陽性対照である化合物a(BTP3-Neu5Ac)又は各化合物をSFM(pH7.4)で200μMに希釈した。なお、hPIV1感染細胞及びhPIV3感染細胞への添加用SFM希釈液としてはSFMを1N HClでpH4.5に用事調製した。これを遠心分離(4℃、10,000×g、10分間)した後、上清を回収して、非特異的に切断された蛍光物質を分離した。氷上で各感染細胞上のSFMを除去し、200μMの各化合物含有SFM上清に置換して37℃で20分間反応させた。反応終了時に、氷上で各化合物含有SFM上清を除去し、各感染細胞を50μL/ウェルのPBSで洗浄後、50μL/ウェルのSFMに置換した。蛍光顕微鏡(型番:BZ-X700、株式会社キーエンス製)でBTP特注フィルター(励起波長:360/40nm、吸収波長:525/50nm、ダイクロイックミラー波長:400nm)を用いて蛍光像を観察した(対物レンズ20倍、撮影設定は高感度モード・露光時間1/4秒)。結果を
図21~23に示す。
【0177】
この結果によれば、C5位直鎖アルキル基の炭素数が4~10の化合物、化合物d(22-002b_4)、化合物n(22-114a_5)、化合物i(22-005b_6)、化合物j(22-005b_7)、化合物h(22-005b_8)及び化合物o(22-114a_10)は、ムンプスウイルスの感染細胞を組織化学的に蛍光イメージングできることが示された(
図21(a))。このうち、炭素数が4の化合物d(22-002b_4)は若干ではあるが、hPIV3及びhPIV1感染細胞についても蛍光を示すことがわかった。他方、C5位直鎖アルキル基の炭素数が5~10の化合物は、ムンプスウイルスの感染細胞のみを蛍光イメージングした。このことから、C5位直鎖アルキル基の炭素数が5~10の化合物、すなわち、化合物n(22-114a_5)、化合物i(22-005b_6)、化合物j(22-005b_7)、化合物h(22-005b_8)及び化合物o(22-114a_10)は、ムンプスウイルスを特異的に蛍光イメージングすることができる化合物であること、ムンプスウイルスの感染細胞を特異的に検出し、ムンプスウイルスの存在の有無を判別できる化合物であることが明らかとなった。
【0178】
[実施例17]
17.ムンプスウイルス感染細胞の蛍光イメージング(3)
本実施例では、上述した実施例で用いたムンプスウイルス株とは異なるムンプスウイルス株についても、C5位直鎖アルキル基の炭素数が4~10の化合物(化合物d、n、i、j、h及びo)が蛍光イメージング可能かどうか、検討を行った。本実施例では、ウイルス種として、ムンプスウイルス 13V165E2株(静岡市環境保健研究所で2013年に分離された株)のほか、ムンプスウイルス Torii株(ATCC VR-1880;日本で1969年に分離された株)、ムンプスウイルス lowa.US/2006株(ATCC VR-1899;米国アイオワ州で2006年に分離された株)を選択し、これらウイルスの感染細胞を調製した。
【0179】
実施例16のウイルス感染細胞の調製において、使用したウイルスを上述した3種のムンプスウイルスに替えた以外は、実施例16と同様にしてムンプスウイルス感染細胞を調製した。実施例16と同様の材料及び方法により、各化合物によるムンプスウイルスの蛍光イメージングを行った。結果を
図24に示す。
【0180】
この結果によれば、C5位直鎖アルキル基の炭素数が4~10の化合物である、化合物d(22-002b_4)、化合物n(22-114a_5)、化合物i(22-005b_6)、化合物j(22-005b_7)、化合物h(22-005b_8)及び化合物o(22-114a_10)は、ムンプスウイルスの13V165E2株、Torii株及びlowa株の感染細胞に対しても、組織化学的に蛍光イメージングできることが示された。これらのことから、化合物d(22-002b_4)、化合物n(22-114a_5)、化合物i(22-005b_6)、化合物j(22-005b_7)、化合物h(22-005b_8)及び化合物o(22-114a_10)は、ムンプスウイルス株に限定されることなく、ムンプスウイルスを蛍光イメージングできることがわかった。
【0181】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。
本発明は、ウイルスの検出用試薬及びこれを用いたウイルスの検出方法を提供するものであり、ウイルス研究及びウイルス診断、医療等の分野の産業において幅広く役立つものである。