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特開2024-159629含ハロゲン物質の吸収装置、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法、吸収剤キット、及び含ハロゲン物質の吸収方法
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  • 特開-含ハロゲン物質の吸収装置、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法、吸収剤キット、及び含ハロゲン物質の吸収方法 図1
  • 特開-含ハロゲン物質の吸収装置、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法、吸収剤キット、及び含ハロゲン物質の吸収方法 図2
  • 特開-含ハロゲン物質の吸収装置、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法、吸収剤キット、及び含ハロゲン物質の吸収方法 図3
  • 特開-含ハロゲン物質の吸収装置、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法、吸収剤キット、及び含ハロゲン物質の吸収方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159629
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】含ハロゲン物質の吸収装置、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法、吸収剤キット、及び含ハロゲン物質の吸収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/68 20060101AFI20241031BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B01D53/68 200
B01D53/82 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070424
(22)【出願日】2024-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2023072309
(32)【優先日】2023-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】市丸 広志
(72)【発明者】
【氏名】田井中 正弘
【テーマコード(参考)】
4D002
【Fターム(参考)】
4D002AA18
4D002AA22
4D002AC07
4D002BA03
4D002CA07
4D002DA02
4D002DA03
4D002DA05
4D002DA11
4D002DA12
4D002EA03
4D002GA01
4D002GA02
4D002GB08
4D002GB11
4D002GB12
4D002HA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルカリ性固体の単位体積当たりの含ハロゲン物質の処理量を増大させることができる、含ハロゲン物質の吸収装置等を提供する。
【解決手段】第一気体が導入される導入口2と、内部空間3と、装置内での含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を排出する排出口4とを有する筒状体1を含み、内部空間3は、粒状の第一アルカリ性固体5からなる第一粒群によって形成された第一層6と、粒状の第二アルカリ性固体7からなる第二粒群によって形成された第二層8とを含み、各層は、導入口2から排出口4に向かう方向に形成され、第一層6は、第二層8よりも、導入口側にあり、第一アルカリ性固体5の水分量は、第二アルカリ性固体7の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収装置10、当該装置の製造方法、当該吸収装置の再生方法、当該吸収剤を含むキット、並びに当該装置を用いる含ハロゲン物質の吸収方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含ハロゲン物質を含む第一気体から前記含ハロゲン物質を吸収するための装置であって、
前記装置は、前記第一気体が導入される導入口と、内部空間と、前記装置内での前記含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を排出する排出口とを有する筒状体を含み、
前記内部空間は、粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層とを含み、
前記第一層及び前記第二層の各層は、前記導入口から前記排出口に向かう方向に形成されており、
前記第一層は、前記第二層よりも、前記導入口側にあり、
前記第一アルカリ性固体と前記第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、前記第一アルカリ性固体の水分量は、前記第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収装置。
【請求項2】
前記第一アルカリ性固体及び前記第二アルカリ性固体は、それぞれ、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物である、請求項1に記載の含ハロゲン物質の吸収装置。
【請求項3】
前記第一アルカリ性固体及び前記第二アルカリ性固体の少なくとも一方が、ソーダライムである、請求項1又は2に記載の含ハロゲン物質の吸収装置。
【請求項4】
含ハロゲン物質を含む第一気体から前記含ハロゲン物質を吸収するための装置の製造方法であって、
前記装置は、前記第一気体が導入される導入口と、内部空間と、前記装置内での前記含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を排出する排出口とを有する筒状体を含み、
前記内部空間に、粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層とを、それぞれ、前記導入口から前記排出口に向かう方向に、かつ、前記第一層を前記第二層よりも前記導入口側に形成する工程を含み、
前記第一アルカリ性固体と前記第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、前記第一アルカリ性固体の水分量は、前記第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法であって、
使用済の前記第一アルカリ性固体を取り出し、未使用の前記第一アルカリ性固体を充填する工程a、及び、使用済の前記第二アルカリ性固体を取り出し、未使用の前記第二アルカリ性固体を充填する工程bの少なくとも一方を含む、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法。
【請求項6】
前記第一アルカリ性固体及び前記第二アルカリ性固体は、それぞれ、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物である、請求項4に記載の含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法。
【請求項7】
前記第一アルカリ性固体及び前記第二アルカリ性固体の少なくとも一方が、ソーダライムである、請求項4に記載の含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法。
【請求項8】
粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群と、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群とを含む、含ハロゲン物質を吸収するための吸収剤キットであって、
前記第一アルカリ性固体の水分量は、2質量%未満であり、
前記第二アルカリ性固体の水分量は、2質量%以上である、吸収剤キット。
【請求項9】
前記第一アルカリ性固体及び前記第二アルカリ性固体は、それぞれ、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物である、請求項8に記載の吸収剤キット。
【請求項10】
前記含ハロゲン物質が気体である、請求項8又は9に記載の吸収剤キット。
【請求項11】
含ハロゲン物質を含む第一気体を、粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と接触させる工程と、
前記第一層と接触させた後の前記第一気体を、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層と接触させる工程とを含み、
前記第一アルカリ性固体と前記第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、前記第一アルカリ性固体の水分量は、前記第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収方法。
【請求項12】
前記第一アルカリ性固体及び前記第二アルカリ性固体は、それぞれ、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物である、請求項11に記載の含ハロゲン物質の吸収方法。
【請求項13】
前記第一アルカリ性固体及び前記第二アルカリ性固体の少なくとも一方が、ソーダライムである、請求項11又は12に記載の含ハロゲン物質の吸収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、含ハロゲン物質の吸収装置、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法、吸収剤キット、及び含ハロゲン物質の吸収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
含ハロゲン物質を含む気体(「含ハロゲンガス」ともいう。)は、例えば、半導体、液晶、太陽電池等の各種製造工場で、エッチングガス、クリーニングガス、配線や薄膜の材料ガス等として使用されている。これら含ハロゲンガスの未使用ガス、及びこれらと反応により生成した別の含ハロゲンガスには毒性を有するものがあり、これらをそのまま大気放出することは環境汚染となる。たとえば、FでSiをエッチングした場合は、下記式(1)で表される反応が起こり、別の含ハロゲンガスであるSiFが生成する。
2F+Si→SiF (1)
そのため、これらを使用する製造工場においては、排気する際にこれらガスの除去処理を実施しなければならない。
【0003】
含ハロゲンガスの除去処理には、アルカリ性固体を使用する方式が広く採用されており、例えばソーダライムは含ハロゲンガスと反応し、その除去も容易である。
特許文献1には、含ハロゲンガスであるフッ素ガスをソーダライムで除去する方法が開示されており、さらにソーダライムの温度を70℃以上に加熱することが記載されている。
特許文献2では、水酸化カルシウム及び水酸化カリウムの混合物を用いることで含ハロゲンガスを効率よく反応させ除去量を増大させることができることが記載されており、特許文献3では、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの混合物を用いることで含ハロゲンガスを効率よく反応させ除去量を増大させることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61―101231号公報
【特許文献2】特開平08-215538号公報
【特許文献3】特開平08-215539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
含ハロゲン物質の除去処理は水や薬液を使用する湿式処理と、アルカリ性固体を使用する乾式処理に大別される。一般的に、湿式処理の設備は比較的高価ではあるが、多量に含ハロゲン物質の除去処理をする場合には含ハロゲン物質処理量毎の単価は低くなる傾向がある。一方、乾式処理の設備は比較的安価であるが、含ハロゲン物質処理量毎の単価は高くなる傾向がある。
【0006】
本開示は、含ハロゲン物質除去の乾式処理において、含ハロゲン物質処理量毎の単価を低くする、すなわちアルカリ性固体の単位体積当たりの含ハロゲン物質の処理量を増大させることができる、含ハロゲン物質の吸収装置、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法、吸収剤キット、及び含ハロゲン物質の吸収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示者らが上記課題に対して鋭意検討を行ったところ、含ハロゲン物質をアルカリ性固体で効率よく除去するために、アルカリ性固体の水分量が低いものと高いものとを使用することにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
[1]
含ハロゲン物質を含む第一気体から前記含ハロゲン物質を吸収するための装置であって、
前記装置は、前記第一気体が導入される導入口と、内部空間と、前記装置内での前記含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を排出する排出口とを有する筒状体を含み、
前記内部空間は、粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層とを含み、
前記第一層及び前記第二層の各層は、前記導入口から前記排出口に向かう方向に形成されており、
前記第一層は、前記第二層よりも、前記導入口側にあり、
前記第一アルカリ性固体と前記第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、前記第一アルカリ性固体の水分量は、前記第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収装置。
[2]
前記第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体は、それぞれ、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物である、[1]に記載の含ハロゲン物質の吸収装置。[3]
前記第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体の少なくとも一方が、ソーダライムである、[1]又は[2]に記載の含ハロゲン物質の吸収装置。
[4]
含ハロゲン物質を含む第一気体から前記含ハロゲン物質を吸収するための装置の製造方法であって、
前記装置は、前記第一気体が導入される導入口と、内部空間と、前記装置内での前記含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を排出する排出口とを有する筒状体を含み、
前記内部空間に、粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層とを、それぞれ、前記導入口から前記排出口に向かう方向に、かつ、前記第一層を前記第二層よりも前記導入口側に形成する工程を含み、
前記第一アルカリ性固体と前記第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、前記第一アルカリ性固体の水分量は、前記第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法。
[5]
[1]~[3]のいずれか1つに記載の含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法であって、
使用済の前記第一アルカリ性固体を取り出し、未使用の前記第一アルカリ性固体を充填する工程a、及び、使用済の前記第二アルカリ性固体を取り出し、未使用の前記第二アルカリ性固体を充填する工程bの少なくとも一方を含む、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法。
[6]
前記第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体は、それぞれ、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物である、[4]又は[5]に記載の含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法。
[7]
前記第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体の少なくとも一方が、ソーダライムである、[4]又は[5]に記載の含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法。
[8]
粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群と、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群とを含む、含ハロゲン物質を吸収するための吸収剤キットであって、
前記第一アルカリ性固体の水分量は、2質量%未満であり、
前記第二アルカリ性固体の水分量は、2質量%以上である、吸収剤キット。
[9]
前記第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体は、それぞれ、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物である、[8]に記載の吸収剤キット。
[10]
前記含ハロゲン物質が気体である、[8]又は[9]に記載の吸収剤キット。
[11]
含ハロゲン物質を含む第一気体を、粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と接触させる工程と、
前記第一層と接触させた後の前記第一気体を、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層と接触させる工程とを含み、
前記第一アルカリ性固体と前記第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、前記第一アルカリ性固体の水分量は、前記第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収方法。
[12]
前記第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体は、それぞれ、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物である、[11]に記載の含ハロゲン物質の吸収方法。
[13]
前記第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体の少なくとも一方が、ソーダライムである、[11]又は[12]に記載の含ハロゲン物質の吸収方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、含ハロゲン物質除去の乾式処理において、含ハロゲン物質処理量毎の単価を低くする、すなわちアルカリ性固体の単位体積当たりの含ハロゲン物質の処理量を増大させることができる、含ハロゲン物質の吸収装置、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法、吸収剤キット、及び含ハロゲン物質の吸収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】含ハロゲン物質の吸収装置の一例の概略図である。
図2】含ハロゲン物質の吸収装置の一例の概略図である。
図3】含ハロゲン物質の吸収装置の一例の概略図である。
図4】含ハロゲン物質の処理量測定システムの一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。
【0013】
[含ハロゲン物質の吸収装置]
本開示の含ハロゲン物質の吸収装置は、
含ハロゲン物質を含む第一気体から前記含ハロゲン物質を吸収するための装置であって、
前記装置は、前記第一気体が導入される導入口と、内部空間と、前記装置内での前記含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を排出する排出口とを有する筒状体を含み、
前記内部空間は、粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層とを含み、
前記第一層及び前記第二層の各層は、前記導入口から前記排出口に向かう方向に形成されており、
前記第一層は、前記第二層よりも、前記導入口側にあり、
前記第一アルカリ性固体と前記第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、前記第一アルカリ性固体の水分量は、前記第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収装置である。
【0014】
図1は、本開示の含ハロゲン物質の吸収装置の一例の概略図である。
本開示の含ハロゲン物質の吸収装置の筒状体(含ハロゲンガス除去筒)は、含ハロゲン物質を含む第一気体が導入される導入口と、内部空間と、含ハロゲン物質の吸収装置内での含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を排出する排出口とを有する。
図1の含ハロゲン物質の吸収装置10は、筒状体1を含む。筒状体1は、含ハロゲン物質を含む第一気体が導入される導入口2と、内部空間3と、含ハロゲン物質の吸収装置10内での含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を排出する排出口4とを有する。導入口2には、含ハロゲン物質を含む第一気体を供給するための配管が接続されていてもよい。排出口4には、含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を系外に排出するための配管が接続されていてもよい。導入口2と排出口4には、バルブが設けられていてもよい。
筒状体1の内部空間3は、粒状の第一アルカリ性固体5からなる第一粒群によって形成された第一層6と、粒状の第二アルカリ性固体7からなる第二粒群によって形成された第二層8とを含む。第一層6及び第二層8の各層は、導入口2から排出口4に向かう方向に形成されている。すなわち、第一層6は、粒状の第一アルカリ性固体5が導入口2から排出口4に向かう方向に積み重なって形成され、第二層8は、粒状の第二アルカリ性固体7が導入口2から排出口4に向かう方向に積み重なって形成されている。第一層6は、第二層8よりも、導入口2側にある。
第一アルカリ性固体5と第二アルカリ性固体7とは、水分量が異なっており、第一アルカリ性固体5の水分量は、第二アルカリ性固体7の水分量よりも少ない。
【0015】
第一層と第二層とは、接していてもよいし、離れていてもよい。第一層と第二層とを離して設ける手段は特に限定されないが、例えば、第一層と第二層の間にセパレータを設けることや、第一層を形成する部分と第二層を形成する部分とが離れている形状の筒状体を用いることなどが挙げられる。
【0016】
図2は、本開示の含ハロゲン物質の吸収装置の別の一例の概略図である。
図2の含ハロゲン物質の吸収装置20は、第一層6と第二層8の間に、セパレータ21が設けられていること以外は、図1の含ハロゲン物質の吸収装置10と同様である。セパレータ21には含ハロゲンガスが流通するための機構(例えば、1つ以上の貫通孔など)が設けられている。
【0017】
図3は、本開示の含ハロゲン物質の吸収装置の別の一例の概略図である。
図3の含ハロゲン物質の吸収装置30は、筒状体1の第一層6が形成されている部分と第二層8が形成されている部分とが分かれていて、かつ、第一層6が形成されている部分よりも第二層8が形成されている部分の径が大きいこと以外は、図1の含ハロゲン物質の吸収装置10と同様である。
【0018】
また、第一層と第二層が切り離せるように、連結されていてもよい。第一層と第二層の連結部分に配管が設けられていてもよく、バルブがあってもよい。バルブがあることで、第一層及び第二層の片方のみを交換することが容易になる。
【0019】
(筒状体)
筒状体の材質は特に限定されないが、金属が好ましく、ステンレス、ハステロイ(登録商標)やインコネル(登録商標)等のその他ニッケル合金、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄等が特に好ましい。
筒状体の形状は特に限定されないが、筒の胴部が柱状であり、内径を含む断面が、円形、楕円形又は多角形であってもよい。
筒状体の大きさは特に限定されないが、内径1cm~500cm、高さ10cm~1000cmであってもよい。
【0020】
(アルカリ性固体)
本開示では、アルカリ性固体として、水分量の異なる少なくとも2種のアルカリ性固体を用いる。
第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体としては、一般的に使用されているアルカリ性固体を用いることができる。第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物を用いてもよく、カルシウムの水酸化物や酸化物、及びこれらにナトリウムやカリウムの水酸化物等が混合したものであってもよい。
第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体は粉体でも、複数成分の粉体を混合して造粒したものでもよく、形状は特に限定されない。粒径は小さいほど表面積が大きく処理性能が向上するが、圧力損失が増加し易くなる場合もあるため、例えば粒径が1~10mmの範囲内とすることが好ましい。より好ましくは粒径1~5mmである。
上記の粒径は、JIS Z8801-1(2019)に準拠する試験用篩いを複数用いて測定することができる。例えば、目開き2.8mmの篩いを通過し、目開き1.18mmの篩いを通過しなかったものを、粒径2mmのアルカリ性固体として使用できる。
第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体の少なくとも一方はソーダライムであることが好ましく、JIS K8603(2011年)に準拠するソーダライムを含むものであることが好ましい。ソーダライムの主成分は水酸化カルシウムで、他に酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水分等が含まれる。
ソーダライムの含有率は、水を除いたアルカリ性固体の質量を百としたとき、水酸化カルシウムが70%以上としてもよく、80%以上としてもよく、90%以上としてもよく、95%以上としてもよい。
【0021】
(アルカリ性固体の水分量)
第一アルカリ性固体と第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、第一アルカリ性固体の水分量は、第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない。
第一アルカリ性固体の水分量は、例えば、2質量%未満であってもよく、0~1.5質量%であってもよい。上記第一アルカリ性固体の水分量は、水を含む第一アルカリ性固体の質量を百とした場合の第一アルカリ性固体中に含まれる水の質量の割合である。
第二アルカリ性固体の水分量は、例えば、2質量%以上であってもよく、2~25質量%であってもよく、5~20質量%であってもよく、10~18質量%であってもよい。上記第二アルカリ性固体の水分量は、水を含む第二アルカリ性固体の質量を百とした場合の第二アルカリ性固体中に含まれる水の質量の割合である。
第二アルカリ性固体の水分量から第一アルカリ性固体の水分量を引いた値は、5質量%ポイント以上であってもよく、10質量%ポイント以上であってもよく、14質量%ポイント以上であってもよい。
アルカリ性固体の水分量は、例えば、乾燥機での加熱乾燥や、窒素乾燥により調整することができる。窒素乾燥は、金属の筒にアルカリ性固体を充填し、窒素ボンベと接続し窒素を流通させて乾燥する方法である。窒素乾燥では加熱は行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0022】
第一アルカリ性固体/第二アルカリ性固体は、体積比で、20/80体積%~95/5体積%が好ましく、40/60体積%~90/10体積%がより好ましく、60/40体積%~80/20体積%が特に好ましい。
【0023】
アルカリ性固体の水分量は、下記<1>~<4>の手順で測定する。
<1>アルカリ性固体の質量(乾燥前質量)を測定する。なお、採取するアルカリ性固体のサンプル量は100g程度としてもよい。
<2>アルカリ性固体を乾燥機(150℃)で4時間加熱後、そのまま金属容器に入れて密閉する(空気と遮断し、空気中の水分と二酸化炭素の吸収を回避するため)。
<3>室温(20℃)まで戻した後、再びアルカリ性固体の質量(乾燥後質量)を測定する。
<4>乾燥前後の質量の減少量より、アルカリ性固体の水分量を算出する。
【0024】
(含ハロゲン物質)
本開示の吸収装置によって吸収される(除去される)含ハロゲン物質は、ハロゲン原子を含む物質であれば特に制限はない。含ハロゲン物質は、単体のハロゲンでもよいし、ハロゲン原子を含む化合物(ハロゲン化合物)でもよい。含ハロゲン物質としては、例えば、SiF、F、Cl、HF、ClF、WF、TiF、BF、BCl、MoF、HClなどが挙げられる。
本開示の吸収装置によって吸収される(除去される)含ハロゲン物質は、25℃、101325Paで気体であることが好ましい。
上記第一気体は含ハロゲン物質のみからなっていてもよいし、含ハロゲン物質に加えて、含ハロゲン物質以外の化合物を含んでいてもよい。例えば、含ハロゲン物質を他の気体(例えば窒素)で希釈したものを第一気体として、筒状体に導入してもよい。
【0025】
(含ハロゲン物質とアルカリ性固体との反応)
含ハロゲン物質とアルカリ性固体との反応によって、別の含ハロゲン物質が生成され、筒状体1内に吸収(固定化)される。例えば、含ハロゲン物質としてSiFを、アルカリ性固体としてソーダライム(主成分は水酸化カルシウム 化学式:Ca(OH))を用いた場合、下記式(2)で表される反応が起こり、CaFとSiOとして固定化されると考えられる。
3/4SiF+3/2Ca(OH)→3/2CaF+3/2HO+3/4SiO (2)
また、含ハロゲン物質は、アルカリ性固体中の水分と反応する場合もある。例えば、含ハロゲン物質としてSiFを、アルカリ性固体としてソーダライムを用いた場合、筒状体1に導入されたSiFは、先に水分と反応しフッ化水素(化学式:HF)を生成し、その後アルカリ性固体で固定化されるため下記式(3)、式(4)で表される反応が起こり、前記式(2)と同様にCaFとSiOとして固定化されると考えられる。
SiF+2HO→SiO+4HF (3)
2HF+Ca(OH)→CaF+2HO (4)
含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体は排出口から排出される。含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体とは、含ハロゲン物質を含む第一気体が粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層および粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層を通過した後に排出される気体である。
【0026】
[含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法]
本開示の含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法は、
含ハロゲン物質を含む第一気体から前記含ハロゲン物質を吸収するための装置の製造方法であって、
前記装置は、前記第一気体が導入される導入口と、内部空間と、前記装置内での前記含ハロゲン物質の吸収により生じた第二気体を排出する排出口とを有する筒状体を含み、
前記内部空間に、粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層とを、それぞれ、前記導入口から前記排出口に向かう方向に、かつ、前記第一層を前記第二層よりも前記導入口側に形成する工程を含み、
前記第一アルカリ性固体と前記第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、前記第一アルカリ性固体の水分量は、前記第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収装置の製造方法である。
筒状体、第一アルカリ性固体、第二アルカリ性固体及び含ハロゲン物質の説明については前述したものと同様である。
【0027】
[含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法]
本開示の含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法は、
前述した含ハロゲン物質の吸収装置を再生する方法であって、
使用済の前記第一アルカリ性固体を取り出し、未使用の前記第一アルカリ性固体を充填する工程a、及び、使用済の前記第二アルカリ性固体を取り出し、未使用の前記第二アルカリ性固体を充填する工程bの少なくとも一方を含む、含ハロゲン物質の吸収装置の再生方法である。
ここで、「使用済」とは、アルカリ性固体が含ハロゲン物質を吸収し一部が反応により別の固体となり、残りのアルカリ性固体により排出ガス中の含ハロゲン物質の濃度を所定の濃度以下にできない状態をいう。所定の濃度とは、例えば排出ガス中の含ハロゲン物質の許容濃度が1体積ppmであれば、その濃度である。
「未使用」とは、アルカリ性固体が含ハロゲン物質を全く吸収していない状態をいう。
【0028】
[吸収剤キット]
本開示の吸収剤キットは、
粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群と、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群とを含む、含ハロゲン物質を吸収するための吸収剤キットであって、
前記第一アルカリ性固体の水分量は、2質量%未満であり、
前記第二アルカリ性固体の水分量は、2質量%以上である、吸収剤キットである。
本開示の吸収剤キットを用いて、第一アルカリ性固体を先に含ハロゲン物質と接触させ(好ましくは粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と接触させ)、その後で第二アルカリ性固体を含ハロゲン物質と接触させ(好ましくは粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層と接触させ)ることで、含ハロゲン物質を効率的に吸収することができる。
第一アルカリ性固体、第二アルカリ性固体及び含ハロゲン物質の説明については前述したものと同様である。
本開示の吸収剤キットの第一粒群と第二粒群とを前述した筒状体に充填して使用してもよいが、筒状体に限らず、任意の形状の容器に充填して使用してもよい。また、第一粒群と第二粒群と同一の容器に充填してもよいし、それぞれ異なる容器に充填し、容器同士を管で接続して気体が通れるようにしてもよい。また、第一粒群と第二粒群とをカートリッジに充填して使用してもよい。カートリッジの場合は使用済になった際に交換が容易である。
【0029】
[含ハロゲン物質の吸収方法]
本開示の含ハロゲン物質の吸収方法は、
含ハロゲン物質を含む第一気体を、粒状の第一アルカリ性固体からなる第一粒群によって形成された第一層と接触させる工程と、
前記第一層と接触させた後の前記第一気体を、粒状の第二アルカリ性固体からなる第二粒群によって形成された第二層と接触させる工程とを含み、
前記第一アルカリ性固体と前記第二アルカリ性固体とは、水分量が異なっており、前記第一アルカリ性固体の水分量は、前記第二アルカリ性固体の水分量よりも少ない、含ハロゲン物質の吸収方法である。
第一アルカリ性固体、第二アルカリ性固体及び含ハロゲン物質の説明については前述したものと同様である。
本開示の含ハロゲン物質の吸収方法の第一粒群と第二粒群とを前述した筒状体に充填して使用してもよいが、筒状体に限らず、任意の形状の容器に充填して使用してもよい。また、第一粒群と第二粒群と同一の容器に充填してもよいし、それぞれ異なる容器に充填し、容器同士を管で接続して気体が通れるようにしてもよい。また、第一粒群と第二粒群とをカートリッジに充填して使用してもよい。カートリッジの場合は使用済になった際に交換が容易である。
【実施例0030】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はかかる実施例により限定されるものではない。
【0031】
図4は、含ハロゲン物質の処理量測定システムの一例の概略図である。実施例では、図4の含ハロゲン物質の処理量測定システム40を用いた。含ハロゲン物質の処理量測定システム40は、図1の含ハロゲン物質の吸収装置10を含み、更に、筒状体の外壁に温度計11を有することで、温度測定が可能である。温度計11は測定位置が可変であるし、また、複数設けることも可能である。温度計11はカスタム製接触式温度計で、-200~1370℃の表面温度が測定できる。測定された温度は筒状体の外壁温度であり、筒状体の内部空間に充填されているアルカリ性固体の温度とは一致しないものではあるが、強い相関があることが考えられ、含ハロゲン物質とアルカリ性固体との反応で生じた反応熱による温度上昇及び反応状況を確認できる。筒状体の内部に充填されているアルカリ性固体上の点であって導入口に最も近い点の位置をS1とする。温度計11による測定で最高温度を示す位置をS2とする。S1とS2の距離をH1とする。各実施例及び比較例でH1を求めた。
含ハロゲン物質の吸収装置10の筒状体の導入口は、含ハロゲン物質12及び窒素ガス13からなる第一気体(導入ガス)と配管により接続されている。含ハロゲン物質及び窒素ガスは任意に設定された流量で筒状体に導入される。導入ガスは、導入口側(上流側)から排出口側(下流側)に向かって流す。
使用した筒状体は、内径22mmで長さ300mmの円筒形の縦型であり、材質はステンレスである。
筒状体に導入された含ハロゲン物質の除去については、ガス検知器14により確認される。ガス検知器14としては、理研計器株式会社製の定電位電解式のものであり、1体積ppmの含ハロゲン物質を検出できるガス検知器を用いた。筒状体から排出されるガスのうち、ガス検知器でサンプリングされたもの以外の排出ガスは、排気15より系外に排出される。
【0032】
[実施例1A]
第一アルカリ性固体及び第二アルカリ性固体として、JIS K8603(2011年)に準拠する、粒径2mmのソーダライムを使用した。上記粒径2mmのソーダライムは、JIS Z8801-1(2019)に準拠する試験用篩いを複数用い、目開き2.8mmの篩いを通過し、目開き1.18mmの篩いを通過しなかったものを用いた。
筒状体の内部空間に、第二アルカリ性固体(排出口側のアルカリ性固体)としてソーダライムを充填層高100mmで充填して第二層を形成し、第一アルカリ性固体(導入口側のアルカリ性固体)としてソーダライムを充填層高100mmで充填して第一層を形成した。第一アルカリ性固体として充填されたソーダライム中の水分量は0質量%(100重量ppm未満)とし、第二アルカリ性固体として充填されたソーダライム中の水分量は15質量%とした。
筒状体の導入口から含ハロゲン物質としてSiFを流量10.5cc/min、窒素ガスを流量700cc/minで導入した。その結果、SiFの処理量が14.0gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は37℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は80mmであった。筒状体において第一アルカリ性固体(導入口側のアルカリ性固体)の温度上昇が大きく、ソーダライム中の水分量が0質量%での反応が活発であったことが推測される。SiFの処理量は14.0gであった。
【0033】
[実施例2A]
第一アルカリ性固体(導入口側のアルカリ性固体)としてソーダライムを充填層高140mmで充填し、第二アルカリ性固体(排出口側のアルカリ性固体)としてソーダライムを充填層高60mmで充填した以外の条件は実施例1Aと同様にして実施した。その結果、SiFの処理量が15.0gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は40℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は70mmであった。実施例1Aより筒状体においてさらに高い位置での温度上昇が大きく、ソーダライム中の水分量が0質量%での反応が活発であったことが推測される。SiFの処理量も実施例1Aに比べ多くなった。
【0034】
[実施例3A]
第一アルカリ性固体(導入口側のアルカリ性固体)としてソーダライムを充填層高180mmで充填し、第二アルカリ性固体(排出口側のアルカリ性固体)としてソーダライムを充填層高20mmで充填した以外の条件は実施例1Aと同様にして実施した。その結果、SiFの処理量が13.0gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は40℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は70mmであった。SiFの処理量は実施例1A及び2Aに比べ少なくなった。この結果から、ソーダライム中の水分量が0質量%での反応が活発であったものの、SiFと水分との反応が不充分となり、除去できないSiFが排出されたことが推測される。
【0035】
[実施例4A]
第一アルカリ性固体(導入口側のアルカリ性固体)として水分量が1.5質量%のソーダライムを用いた以外の条件は実施例2Aと同様にして実施した。その結果、SiFの処理量が14.5gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は39℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は70mmであった。SiFの処理量は実施例2Aに比べ少なくなった。この結果から、ソーダライム中の水分量が1.5質量%での反応が活発であったものの、実施例2Aに比べ第一層において水分の影響で反応が不充分であったことが推測される。
【0036】
[実施例5A]
第二アルカリ性固体(排出口側のアルカリ性固体)として水分量が10質量%のソーダライムを用いた以外の条件は実施例2Aと同様にして実施した。その結果、SiFの処理量が14.5gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は40℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は70mmであった。SiFの処理量は実施例2Aに比べ少なくなった。この結果から、ソーダライム中の水分量が0質量%での反応が活発であったものの、実施例2Aに比べ第二層においてSiFと水分との反応が不充分となり、除去できないSiFが排出されたことが推測される。
【0037】
[実施例6A]
第二アルカリ性固体(排出口側のアルカリ性固体)として水分量が20質量%のソーダライムを用いた以外の条件は実施例2Aと同様にして実施した。その結果、SiFの処理量が14.5gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は39℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は70mmであった。SiFの処理量は実施例2Aに比べ少なくなった。この結果から、ソーダライム中の水分量が0質量%での反応が活発であったものの、実施例2Aに比べ第二層のソーダライム中の水分量が多く、含ハロゲン物質と水との反応によりフッ化水素(化学式:HF)は同様に生成されるものの、その後の固定化においてソーダライム成分である水酸化カルシウム(化学式:Ca(OH))等との反応が水分により阻害され、SiFの処理量が少なくなったことが推測される。
【0038】
[比較例1A]
筒状体の内部空間に、アルカリ性固体として、水分量が15質量%のソーダライムを充填層高200mmで充填した以外の条件は実施例1Aと同様にして実施した。その結果、SiFの処理量が12.0gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は30℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は170mmであった。
【0039】
[比較例2A]
アルカリ性固体として、水分量が0質量%のソーダライムを充填層高200mmで充填した以外の条件は実施例1Aと同様にして実施した。その結果、SiFの処理量が10.0gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は40℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は70mmであった。SiFの処理量は実施例1A~6Aに比べ少なくなった。この結果から、ソーダライム中の水分量が0質量%での反応が活発であったものの、SiFと水分との反応がなく、除去できないSiFが排出されたことが推測される。
【0040】
[比較例3A]
第一アルカリ性固体(導入口側のアルカリ性固体)として水分量が15質量%のソーダライムを充填層高60mmで充填し、第二アルカリ性固体(排出口側のアルカリ性固体)として水分量が0質量%のソーダライムを充填層高140mmで充填した。その他の条件は実施例1Aと同様にして実施した。その結果、SiFの処理量が6.0gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は30℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は120mmであった。この結果から、上流側に水分を含むソーダライム、下流側に水分を含まないソーダライムを充填した場合、高濃度の含ハロゲン物質を水分を含むソーダライムで、低濃度の含ハロゲン物質を水分を含まないソーダライムで処理することとなり、SiFの処理量が実施例2Aに比べ著しく少なくなったことが推測される。
【0041】
[比較例4A]
第一アルカリ性固体(導入口側のアルカリ性固体)として水分量が0質量%のソーダライムを充填層高140mmで充填し、第二アルカリ性固体(排出口側のアルカリ性固体)として水分量が15質量%のソーダライムを充填層高60mmで充填した後、含ハロゲン物質の吸収を行わずに、一旦取り出し前記2種のソーダライムを混合して再度充填した以外の条件は実施例1Aと同様にして実施した。その結果、SiFの処理量が7.0gとなった時点で、ガス検知器にSiFが1体積ppm検出され、除去処理を終了した。処理中の温度計の最高温度は32℃であった。最高温度を示した位置S2の上記S1からの距離H1は150mmであった。この結果より、2種のソーダライムを分離せずに混合したことにより、温度上昇が抑えられ、かつ水分の吸着が部分的、空間的に不充分の箇所があり、SiFの処理量が実施例2Aに比べ著しく少なくなったことが推測される。
【0042】
実施例1A~6A、比較例1A~4Aの結果を下記表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
[実施例2B、比較例1B~4B]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくFであること以外は、それぞれ実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がFである場合、第一層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。
+Ca(OH)→CaF+HO+1/2O
含ハロゲン物質がFである場合、第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。水があっても瞬時に全てが水と反応しHFが生成されるのではなく、一部そのままの形で水に溶解し、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
+HO→2HF+1/2O
2HF+Ca(OH)→CaF+2H
下記表2には、実施例2B、比較例1B~4Bの結果を示す。
【0045】
【表2】
【0046】
[実施例2C、比較例1C~4C]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくClであること以外は、それぞれ実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がClである場合、第一層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。
Cl+Ca(OH)→CaCl+HO+1/2O
含ハロゲン物質がClである場合、第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。水があっても瞬時に全てが水と反応しHClが生成されるのではなく、一部そのままの形で水に溶解し、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
Cl+HO→2HCl+1/2O
2HCl+Ca(OH)→CaCl+2H
下記表3には、実施例2C、比較例1C~4Cの結果を示す。
【0047】
【表3】
【0048】
[実施例2D、比較例1D~4D]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくHFであること以外は実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がHFである場合、第一層及び第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。HFは水に溶解した後に反応するが、一部水に溶解しないで、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
HF+1/2Ca(OH)→1/2CaF+H
下記表4には、実施例2D、比較例1D~4Dの結果を示す。
【0049】
【表4】
【0050】
[実施例2E、比較例1E~4E]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくClFであること以外は、それぞれ実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がClFである場合、第一層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。
2ClF+4Ca(OH)→3CaF+CaCl+4HO+2O
含ハロゲン物質がClFである場合、第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。水があっても瞬時に全てが水と反応しHClが生成されるのではなく、一部そのままの形で水に溶解し、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
ClF+2HO→3HF+HCl+O
3HF+3/2Ca(OH)→3/2CaF+3H
HCl+1/2Ca(OH)→1/2CaCl+H
下記表5には、実施例2E、比較例1E~4Eの結果を示す。
【0051】
【表5】
【0052】
[実施例2F、比較例1F~4F]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくWFであること以外は、それぞれ実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がWFである場合、第一層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。
WF+3Ca(OH)→3CaF+WO+3H
含ハロゲン物質がWFである場合、第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。水があっても瞬時に全てが水と反応しHFが生成されるのではなく、一部そのままの形で水に溶解し、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
WF+3HO→6HF+WO
6HF+3Ca(OH)→3CaF+6H
下記表6には、実施例2F、比較例1F~4Fの結果を示す。
【0053】
【表6】
【0054】
[実施例2G、比較例1G~4G]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくTiFであること以外は、それぞれ実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がTiFである場合、第一層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。
TiF+2Ca(OH)→2CaF+TiO+2H
含ハロゲン物質がTiFである場合、第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。水があっても瞬時に全てが水と反応しHFが生成されるのではなく、一部そのままの形で水に溶解し、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
TiF+2HO→4HF+TiO
4HF+2Ca(OH)→2CaF+4H
下記表7には、実施例2G、比較例1G~4Gの結果を示す。
【0055】
【表7】
【0056】
[実施例2H、比較例1H~4H]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくBFであること以外は、それぞれ実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がBFである場合、第一層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。
2BF+3Ca(OH)→3CaF+B+3H
含ハロゲン物質がBFである場合、第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。水があっても瞬時に全てが水と反応しHFが生成されるのではなく、一部そのままの形で水に溶解し、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
BF+3HO→3HF+B(OH)
3HF+3/2Ca(OH)→3/2CaF+3H
下記表8には、実施例2H、比較例1H~4Hの結果を示す。
【0057】
【表8】
【0058】
[実施例2I、比較例1I~4I]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくBClであること以外は、それぞれ実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がBClである場合、第一層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。
2BCl+3Ca(OH)→3CaCl+B+3H
含ハロゲン物質がBClである場合、第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。水があっても瞬時に全てが水と反応しHClが生成されるのではなく、一部そのままの形で水に溶解し、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
BCl+3HO→3HCl+B(OH)
3HCl+3/2Ca(OH)→3/2CaCl+3H
下記表9には、実施例2I、比較例1I~4Iの結果を示す。
【0059】
【表9】
【0060】
[実施例2J、比較例1J~4J]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくMoFであること以外は、それぞれ実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がMoFである場合、第一層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。
MoF+3Ca(OH)→3CaF+MoO+3H
含ハロゲン物質がMoFである場合、第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。水があっても瞬時に全てが水と反応しHFが生成されるのではなく、一部そのままの形で水に溶解し、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
MoF+3HO→6HF+MoO
6HF+3Ca(OH)→3CaF+6H
下記表10には、実施例2J、比較例1J~4Jの結果を示す。
【0061】
【表10】
【0062】
[実施例2K、比較例1K~4K]
使用した含ハロゲン物質がSiFではなくHClであること以外は、それぞれ実施例2A、比較例1A~4Aと同様に実施した。
<含ハロゲン物質と第一層及び第二層のソーダライム(主成分は水酸化カルシウム)との反応>
含ハロゲン物質がHClである場合、第一層及び第二層では、下記式で表される反応が起こると考えられる。HClは水に溶解した後に反応するが、一部水に溶解しないで、そのままソーダライムと反応すると考えられる。
HCl+1/2Ca(OH)→1/2CaCl+H
下記表11には、実施例2K、比較例1K~4Kの結果を示す。
【0063】
【表11】
【0064】
実施例1A~6Aでは、水分量の異なるアルカリ性固体を分離充填することにより(より具体的には、上流側に水分を含まない又は水分量の少ないソーダライムを、下流側に水分をより多く含むソーダライムを充填することにより)、効率良く含ハロゲン物質の処理ができた。比較例3Aでは水分量の異なるアルカリ性固体を使用したことは実施例1A~6Aと同様ではあるが、上流側に水分を含むソーダライムを、下流側に水分を含まないソーダライムを充填したため、SiFの処理量が実施例1A~6Aに比べ著しく少なくなった。比較例4Aではアルカリ性固体を分離せずに混合したため、SiFの処理量が実施例1A~6Aに比べ著しく少なくなった。
含ハロゲン物質を変えて行った他の実施例及び比較例についても同様の傾向となった。
【符号の説明】
【0065】
1・・・筒状体
2・・・導入口
3・・・内部空間
4・・・排出口
5・・・第一アルカリ性固体
6・・・第一層
7・・・第二アルカリ性固体
8・・・第二層
10、20、30・・・含ハロゲン物質の吸収装置
11・・・温度計
12・・・含ハロゲン物質
13・・・窒素ガス
14・・・ガス検知器
15・・・排気
21・・・セパレータ
40・・・含ハロゲン物質の処理量測定システム
S1・・・アルカリ性固体上の点であって導入口に最も近い点の位置
S2・・・最高温度を示す位置
H1・・・S1とS2の距離
図1
図2
図3
図4