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特開2024-159649心理的不調を予防又は緩和するための剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159649
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】心理的不調を予防又は緩和するための剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/66 20060101AFI20241031BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20241031BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K31/66
A61P25/22
A61P25/28
A61P25/18
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071296
(22)【出願日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2023074915
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504059429
【氏名又は名称】ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古屋敷 智之
(72)【発明者】
【氏名】篠原 亮太
(72)【発明者】
【氏名】藤本 哲太
(72)【発明者】
【氏名】氏原 大
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 直孝
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 克仁
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018MD08
4B018MD18
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA05
4C086ZA15
4C086ZA18
(57)【要約】
【課題】慢性的なストレスにつながりうる心理的不調の新たな予防又は緩和剤を提供すること。
【解決手段】有効成分としてホスホエタノールアミン又はその塩を含む、心理的不調を予防又は緩和するための剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてホスホエタノールアミン又はその塩を含有する心理的不調の予防又は緩和剤。
【請求項2】
前記心理的不調が、心理的ストレスに起因する状態である、請求項1に記載の予防又は緩和剤。
【請求項3】
前記心理的不調が、認知機能の不調、社会活動の不調、及び、精神的不調からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の予防又は緩和剤。
【請求項4】
経口摂取用、又は、注射投与用である、請求項1に記載の予防又は緩和剤。
【請求項5】
飲食品又は医薬品である、請求項1に記載の予防又は緩和剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心理的不調を予防又は緩和するための剤に関する。
【背景技術】
【0002】
心理的不調としてのうつ病や抑うつ状態は、気分障害の一種であり、世界中で3億人以上もの罹患者がいるといわれている。また、そのような心理疾患とは診断されないものの心理状態に異常をきたしている状態も含めるとさらに非常に多くの人がうつ病又はうつ病につながりうる心理状態に苦しんでいる。そういった心理状態に異常をきたしている状態によって長期休業者数や自殺数は増加を続けており、経済的な背景や社会構造の破綻などが危惧されており、多方面から援助や支援が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-58747
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Psychiatry and Clinical Neurosciences 2018; 72: 349-361
【非特許文献2】精神経誌2010;112:10:1003-1008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、心理的不調の新たな予防又は緩和剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる状況の下、本発明者らは、鋭意検討した結果、ホスホエタノールアミン又はその塩が、心理的不調の予防又は緩和に有効であることを見出した。本発明はかかる新規の知見に基づくものである。従って、本発明は以下の項を提供する:
項1.有効成分としてホスホエタノールアミン又はその塩を含有する心理的不調の予防又は緩和剤。
【0007】
項2.前記心理的不調が、心理的ストレスに起因する状態である、項1に記載の予防又は緩和剤。
【0008】
項3.前記心理的不調が、認知機能の不調、社会活動の不調、及び、精神的不調からなる群より選択される少なくとも一種である、項1に記載の予防又は緩和剤。
【0009】
項4.経口摂取用、又は、注射投与用である、項1に記載の予防又は緩和剤。
【0010】
項5.飲食品又は医薬品である、項1に記載の予防又は緩和剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、心理的不調の新たな予防又は緩和剤を提供する。
【0012】
近年、感染症の蔓延や自然災害の増加、生活環境や職場環境の多様化、人間関係の複雑化などによる種々のストレスから、精神障害などの疾病にまでは至らないまでも、心理的な不安や不調(メンタルヘルス不全)が増加している。また、このためにQOLが低下して苦痛を感じている人が年々増えている。このようなメンタルヘルス不全が長期間継続すると、抑うつや認知機能低下などの異常をきたす可能性があり、メンタルヘルス不全を適切にケアする必要がある。病的な水準であれば医療機関に相談し、医薬品の使用やカウンセリングなどを受けることが出来るが、治療を受ける状態までに至らずとも日常的に気分がすぐれないなどの心理的不調を感じている人において、簡便で有効的な手段の確保が重要となる。よって、日常的にメンタルヘルス不全をケアするために、気軽に摂取可能なメンタルヘルス不全の改善に有効な飲食品又は医薬品の需要と供給が存在する。
【0013】
これまでにうつ病患者の血漿において、健常者と比較してエタノールアミンリン酸(ホスホエタノールアミン、PEA)が減少していることが報告されている(特許文献1および非特許文献1)。また、当該文献には、リン酸アナンダミドが分解し、PEAとアナンダミドになることが記載されている。アナンダミドは脳の神経伝達物質の一つで、「快感」、「喜び」等の感情に関わることが知られている。従って、体内のアナンダミドの量が増加するとうつ症状が抑制され、アナンダミドの量が減少するとうつ症状が悪化することが予想される。また、大うつ病患者の体内ではリン酸アナンダミドが減少し、それに伴いアナンダミドが生じにくくなっていることが予想されていた。従って、ホスホエタノールアミンは、それ自体が大うつ病等の心理疾患等に対し作用するのではなく、アナンダミドの副生成物であり、アナンダミドであったり、リン酸アナンダミドの体内での量の指標として考えられていた。
【0014】
これまでにうつと認知症は大きく関連していることが知られている(非特許文献2)。認知とは、思考、経験および感覚を通して知識および理解を得る精神的な行為またはプロセスのことである。認知障害(認知低下とも呼ばれる)は、特定の代謝異常(アミロイド)や多種の理由から誘引されるうつ病、神経変性症状(例えば、アルツハイマー病におけるもの)による脳への損傷、傷害による脳への損傷、感染症、物質乱用、物質離脱、精神病、ビタミンおよび他の重要な栄養分の欠乏、ホルモンの問題、代謝不均衡または薬剤の副作用によって引き起こされ得る。認知障害は、加齢による自然なプロセスとしても生じる。認知障害は、幻覚、人格の変化、うつ症候、不安症候、自己喪失および錯乱に関係し得る。世界的に高齢者数が増加していることに起因しているともいわれるが、若年層でも引き起こされ、かつ、認知障害及び認知症は若年期のうつ病等が起因していることも報告されている。
【0015】
本発明者らは、多くの検討の結果、ホスホエタノールアミン自体が心理的不調の予防、緩和に役立つことを見いだした。
【0016】
上記の点に加え、そもそも、一般論としても、マーカー物質には様々なものがあるため、マーカー物質として有用なものが治療薬として有効と限らないことは本発明が属する分野における技術常識である。したがって、本発明の効果は従来技術から予想しえないものである。認知障害、運動障害、慢性疼痛、意欲の低下、食欲減退など他の症状を未病の状態から判定するための方法も提供されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】慢性社会ストレスによる行動変化へのPEA腹腔内投与の効果(1)
図2】慢性社会ストレスによる行動変化へのPEA腹腔内投与の効果(2)
図3】慢性社会ストレスによる行動変化へのPEA腹腔内投与の効果(3)
図4】慢性社会ストレスによる行動変化へのPEA経口投与の効果(1)
図5】慢性社会ストレスによる行動変化へのPEA経口投与の効果(2)
図6】慢性社会ストレスによる行動変化へのPEA経口投与の効果(3)
図7】慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA腹腔内投与の効果(4)
図8】慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA腹腔内投与の効果(5)
図9】慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA腹腔内投与の効果(6)
図10】慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA腹腔内投与の効果(7)
図11】慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA経口投与の効果(4)
図12】慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA経口投与の効果(5)
図13】慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA経口投与の効果(6)
図14】慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA経口投与の効果(7)
図15】慢性社会ストレスによるフィブリノーゲン/フィブリン沈着へのPEAの効果
図16】慢性社会ストレスによる骨髄血管透過性亢進へのPEAの効果
図17】慢性社会挫折ストレス後に実施した社会的相互作用試験の結果
【発明を実施するための形態】
【0018】
心理的不調を予防又は緩和するための組成物
本発明は有効成分としてホスホエタノールアミン(PEA)又はその塩を含む、心理的不調を予防又は緩和するための剤を提供する。以下、本明細書において、有効成分としてホスホエタノールアミン(PEA)又はその塩を含む、心理的不調を予防又は緩和するための剤を、単に本発明の予防又は緩和剤と示すこともある。
【0019】
本発明の有効成分であるホスホエタノールアミンは、以下の構造を有する公知の化合物である:
【0020】
【化1】
【0021】
本発明において、ホスホエタノールアミンは塩の形態で使用してもよい。当該実施形態において、塩とは、薬学的又は食品として許容され得る塩を意図する。また、ホスホエタノールアミンの塩は、酸付加塩と塩基との塩を包含する。酸付加塩の具体例として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩、及びグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等の酸性アミノ酸塩が挙げられる。塩基との塩の具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩又はカルシウム塩のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、ピリジン塩、トリエチルアミン塩のような有機塩基との塩、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。
【0022】
本発明が対象とする心理的不調とは、抑うつ、不安、認知機能低下等の前駆的な心理的不調をきたしている状態を意味する。また、本発明の対象とする心理的不調は、抑うつ、不安、認知機能障害等の心理疾患だけでなく、当該心理疾患とは診断されないものの心理に異常をきたしている状態も包含する。本発明における心理的不調ならびに心理的ストレスに包含されるものとしては、例えば、慢性ストレス、慢性ストレスからなる慢性疲労感、うつ病、周産期うつ、適応障害、不安障害、双極性障害、強迫性障害等が挙げられ、典型的には、うつ病等が挙げられる。本発明において疾患とは診断されない未病状態での心理的不調をきたしている状態としては、例えば、抑うつ、憂うつ感、興味の減退、喜びの減退、焦燥感、疲労感、無価値感、不適切な罪責感、思考や集中の減退、決断困難、希死念慮、意欲の減退、睡眠障害、食欲低下、倦怠感、不定愁訴、社会的敗北感、意欲低下、モチベーション低下、活力低下、自信低下、好奇心低下、落ち込んだ気持ちが回復せず前向きになれない、泣きやすくなる等が挙げられ、それが1つもしくは複数が同時に生じていることをいう。本発明は、心理的不調のうち、特に慢性ストレスに起因する心理的不調に対し特に有効である。
また、本発明において、「心理的不調の予防又は緩和」には、心理状態を悪化させずに維持すること、具体的には、例えば、前向きな気分の維持、認知機能の維持(認知機能の一部(例えば、空間認識力、言葉や図形などを覚え、思い出す能力の維持も含む)される。;心理状態の一時的悪化を抑制、軽減、緩和等すること、具体的には、一時的な不安感、気分の落ち込み、困惑等を軽減すること、一時的に落ち込んだ気分を前向きにすること等が包含される。
【0023】
本発明においては、本発明の有効成分であるホスホエタノールアミン又はその塩そのものを本発明の予防又は緩和剤として用いても、当該ホスホエタノールアミン又はその塩と、薬学的に許容される、もしくは食品に添加され得る各種担体(例えば、等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤、賦形剤、結合剤等)とを組み合わせた固形製剤、半固形製剤もしくは液状製剤として用いてもよい。当該実施形態において、予防又は緩和剤組成物中のホスホエタノールアミン又はその塩の含有量は限定されないが、例えば、ホスホエタノールアミンの量として、0.01質量%以上、0.1質量%以上、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上等の範囲で適宜設定できる。
【0024】
等張化剤としては、例えば、グルコース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩類等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
キレート剤としては、例えば、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム等のエデト酸塩類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、ヘキサメタリン酸ソーダ、クエン酸等が挙げられる。これらのキレート剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
安定化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
pH調節剤としては、例えば、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモール等の塩基等が挙げられる。これらのpH調節剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられる。これらの防腐剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、濃縮混合トコフェロール等が挙げられる。これらの抗酸化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
溶解補助剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、グリセリン、D-ソルビトール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、D-マンニトール等が挙げられる。これらの溶解補助剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
粘稠化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの粘稠化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、L-システイン、トレハロース、マルチトール、ソルビトール等が挙げられる。これらの賦形剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
結合剤としては、例えば、結晶セルロース、デンプン、ショ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム末、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、各種誘導体等が挙げられる。これらの結合剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
また、上記組成物は、ホスホエタノールアミン又はその塩以外に、心理的不調の予防又は緩和機能を有することが知られている物質をさらに含んでいてもよい。心理的不調の予防又は緩和機能を有することが知られている物質としては、例えば、GABA、3-ヒドロキシ酪酸、2-アミノ酪酸、L-テアニン、フラボノイド配糖体、乳酸菌等が挙げられる。これらの物質は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる
【0035】
本発明の予防又は緩和剤を対象(好ましくはヒト等の哺乳動物)が摂取することにより、心理的不調の予防又は緩和効果がもたらされる。本発明の予防又は緩和剤の摂取量は限定されないが、有効成分であるホスホエタノールアミンの1日摂取量として、例えば、10~5000mg程度、より好ましくは100~1000mgの範囲が好ましい。
【0036】
本発明の予防又は緩和剤には、飲食品、医薬組等が包含される。本発明において飲食品には、保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品)等も包含される。通常の意味の食品が全て含まれ、上記食品などの当該技術分野で公知の用語と混用されてもよい。
【0037】
飲食品としては、コーヒー、茶、果汁、炭酸水、植物由来等の飲料、清涼飲料水類、アルコール類、各種スープ類;肉類、魚肉類、ソーセージ類、ピザやパン類、麺類、菓子類、ガム類、グミ類、チョコレート類、キャンディー類、ゼリーなどの寒天やゼラチンを利用した食品、アイスクリームやヨーグルトなどの乳製品等が挙げられる。飲食品の実施形態において、本発明の予防又は緩和剤には、サプリメント(錠剤型、粉末型等)等も包含される。また、動物用の飼料として用いられる食品も含まれる。
【0038】
本発明が適用される動物としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ等の哺乳動物等が挙げられる。
【0039】
以下に、実施例及び比較例を用いて、本発明の特定の実施形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例0040】
[方法]
1.マウス
すべての動物飼育及び実験手順はNational Institutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsに準拠し、神戸大学大学院医学研究科の動物飼育・使用委員会の承認を得た。雄のC57BL/6Nおよび繁殖から引退した雄のICR退役(リタイア)マウスは、日本SLC(Hamamatsu, Japan)から購入した。マウスは特定の病原体を有さず、温度と湿度が制御された動物施設において、12時間の明暗サイクル(6:00から18:00の間に点灯)のもと餌と水を自由に摂取できる環境で飼育した。日本SLCから購入したC57BL/6Nは実験に使用する前に少なくとも1週間神戸大学大学院医学研究科の動物実験施設で飼育した。動物の苦痛を軽減するため、十分に訓練された実験者が承認されたプロトコルに従い、実験中すべてのマウスの健康状態を継続的に監視した。マウスは組織採取前または実験終了時、あるいは人道的エンドポイントにおいてイソフルランを用いた深部麻酔または致死量のペントバルビタールナトリウムの注射により安楽死させた。
【0041】
2.ホスホエタノールアミン及びperoxisome proliferator-activated receptorδ(PPARδ)拮抗薬(GSK3787)の投与
ホスホエタノールアミン(PEA)(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)は、腹腔内投与又は経口投与をした。腹腔内投与群については、生理食塩水(Otsuka Normal Saline, Otsuka Pharmaceutical Co. Ltd., Tokyo, Japan)にPEAを10 mg/kgとなるよう溶解し、10 mg/kgをマウスの体重1kgあたり10 mLの容量で腹腔内投与した。PPARδ拮抗薬を投与した実験では、PPARδ拮抗薬(GSK3787, Cayman Chemical, 15219)とPEAを5%ジメチルスルホキシド/生理食塩水に溶解し、GSK3787は20 mg/kg、PEAは10 mg/kgを10 mL/kgの容量で腹腔内投与した。経口投与では、ホスホエタノールアミンを0.5 w/v%メチルセルロース400溶液(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, Osaka, Japan)で10 mg/kgとなるよう溶解し、マウスの体重1kgあたり10 mLの容量で経口ゾンデで投与した。投与は1日1回、ストレス期間中は社会挫折ストレスの約30分前、行動試験期間中は行動試験実施後に行った。対照群(ビヒクル群)マウスには、生理食塩水(腹腔内投与)又は0.5 w/v%メチルセルロース400溶液(経口投与)を、PEA投与群と同じタイミングで投与した。また、血液や組織採取の30分前にも投与を行った。
【0042】
3.慢性社会挫折ストレス
以下の論文に従ってマウスに慢性社会挫折ストレスを与えた(Ishikawa et al., Br J Pharmacol, 2021)。攻撃用のICRマウスは、雄のC57BL/6Nマウスに対する180秒間の攻撃潜時および攻撃回数に基づき選出した。実験対照である雄のC57BL/6Nマウスおよび対照群のマウスは1ケージあたり3匹で群飼し、9週齢で慢性社会挫折ストレスに供した。攻撃用のICRマウスを6日間連続でC57BL/6Nマウスのケージに1日あたり2時間導入し、社会挫折を与えた。10分以内にICRマウスが攻撃を開始しない場合、新しいICRマウスに変更した。連日異なるICRマウスを使用した。各セッションにおいてC57BL/6Nマウスが服従の姿勢を示すことを観察した。2時間の社会挫折の後、ICRマウスをケージから除き、翌日の社会挫折までホームケージで静置した。対照群のケージにはICRマウスを導入せず6日間の実験期間中はそのまま静置した。上記方法により慢性社会挫折ストレスを与えたマウス及び対照群のマウスに対し、下記行動試験を行った。
【0043】
4.行動試験
社会的相互作用試験および尾懸垂試験によりうつ様行動を、新奇物体認識試験を用いて認知機能障害を評価した。すべての行動試験を、防音室に各試験の前の1時間慣らした後の明期の期間中に行った。
【0044】
社会的相互作用試験:社会的相互作用試験は以下の論文に従い実施した(Ishikawa et al., Br J Pharmacol, 2021)。10 Luxの赤色光で照らしたオープンフィールドチャンバー(幅 42 cm x 奥行き 42 cm x 高さ 40 cm)の一端にワイヤーメッシュの檻(幅10 cm x 奥行き 6 cm; O'Hara, Tokyo, Japan)を配置した。ここにC57BL/6Nマウスを導入し、社会刺激のないオープンフィールドチャンバーに150秒間馴化させた。その後、新規ICRマウスを入れたワイヤーメッシュの檻を設置したオープンフィールドチャンバーにC57BL/6Nマウスを150秒間導入した。マウスの行動をビデオ記録し、SMARTビデオ追跡システム(Harvard Apparatus; Holliston, MA, USA)でマウスの歩行の軌跡を自動検出した。C57BL/6Nマウスが相互作用ゾーン(ワイヤーメッシュの檻の周囲8 cm)と社会忌避ゾーン(ワイヤーメッシュの檻の反対側のフィールドの隅 9 cm x 9 cmの2つの正方形)に滞在した割合を求め、それぞれを社会的相互作用と社会忌避の行動指標として使用した。
【0045】
新奇物体認識試験:新奇物体認識試験は若干の修正を加え、以下の論文に従い実施した(Leger et al., Nat Protoc, 2013)。15 Luxの白色光で照らしたオープンフィールドチャンバー(幅 42 cm x 奥行き 42 cm x 高さ 40 cm)にC57BL/6Nマウスを入れ、2個の同一物体を自由に探索させた。2つの物体の探索時間の合計が20秒に達するか、10分間経過した時点で探索を終了させた。4時間のインターバルの後、片方の物体を新奇の物体に変え、再度マウスをオープンフィールドチャンバーに入れ、自由に探索させた。1回目のセッションと同様に、2つの物体の探索時間の合計が20秒に達するか、10分経過した時点で試験を終了した。新奇物体選択率は、新奇物体探索時間を2つの物体の探索時間の合計で除算し、100を掛けて算出した。
【0046】
尾懸垂試験:尾懸垂試験は若干の修正を加え、以下の論文に従い実施した(Can et al., J Vis Exp, 2012)。床から50 cmの位置に設置した鉄棒に粘着テープでC57BL/6Nマウスの尾をつるし、6分間マウスの行動をビデオカメラで記録した。マウスの尾をプラスチックチュープに通し、マウスが自分の尾に登らないようにした。試験中に落下したマウスは解析から除外した。6分間の試験期間中に無動で過ごした時間を、実験条件を盲検化してスコア化した。
【0047】
5.血液、骨髄、脾臓、および脳からの細胞の単離
血液、骨髄、および脾臓の細胞は、若干の修正を加え、以下の論文に従い単離した(Engler et al., J Neuroimmunol, 2004; Katayama et al., Cell, 2006)。対照群もしくは慢性社会ストレスに供したC57BL/6Nマウスを、イソフルランの吸入またはペントバルビタールナトリウムの注射により深麻酔した。EDTAを塗布した注射器を用いて、心臓から末梢血を採取した。白血球数と血小板数は全自動血球計数器(Nihon Kohden, Tokyo, Japan)を用いて測定した。大腿骨から850 μL氷冷RPMI(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, Osaka, Japan)で骨髄を洗い流し、血球計算盤(MEK-6558, Wakenbtech, Kyoto, Japan)を用いて細胞の総数を計測した。脾臓は氷冷RPMI中で回収し70 μmのセルストレーナーで軽く圧搾して単一細胞懸濁液を得た。赤血球を赤血球溶解バッファー(150-mM NH4Cl, 10-mM NaHCO3, and 1-mM EDTA)で溶解し、白血球の総数を血球計算盤で測定した。脳はマウスを氷冷PBSで灌流した後回収し、70 μmのセルストレーナーで軽く圧搾して細胞懸濁液を得た。RPMIで洗浄し、Percoll(GE HealthCare, Chicago, IL, USA)による密度勾配液を用いて800 g、25分間、4℃で遠心分離し、好中球を含む細胞分画を回収した。さらに細胞分画を600 g、6分間、4℃で遠心分離し上清を除去し、細胞ペレットを0.5% BSA, 0.5M EDTAを含むPBSで懸濁し、400 g、6分間、4℃で遠心分離し上清を除去した。さらに細胞ペレットを0.5% BSA, 0.5M EDTAを含むPBSで再懸濁し、好中球を含む単一細胞懸濁液を得た。組織と血液は午前8時から正午の間に採取した。
【0048】
6.フローサイトメトリー
フローサイトメトリーは以下の論文に従い実施した(Kawano et al., Blood, 2017; Ishikawa et al., Br J Pharmacol, 2021)。抗体のFc受容体への非特異的結合をブロックするため、血液細胞、骨髄細胞、脾臓細胞、および脳細胞を抗CD16/CD32抗体(clone 93, BioLegend, SanDiego, CA, USA)とともに10分間氷上でインキュベートし、次に以下の表1に示す蛍光標識抗体とともに氷上で15分間インキュベートした。
【0049】
【表1】
非特異的結合は、アイソタイプ・コントロール抗体もしくは適切なコントロール抗体を用いて評価した。蛍光シグナルはCytoFLEX S(Beckman Coulter, Brea, CA, USA)を用いて測定した。データ解析はFlowJoソフトウェア(FlowJo LLC, BD Biosciences; RRID:SCR_008520)を用いて行った。
【0050】
7.免疫組織化学染色
慢性社会挫折ストレスから約15時間後、マウスをイソフルランで深麻酔し、60 mLの冷PBS、続いて30 mLの冷4%パラホルムアルデヒド(PFA)・0.1 Mリン酸緩衝液で灌流した。その後、脳を採取し、4%PFA・リン酸緩衝液で4℃、1晩固定した後、30%スクロース・PBS溶液で48時間浸漬し、凍結保護を行なった。その後、脳をO.C.T.コンパウンド(Sakura Finetek)に包埋し、クライオスタット(Leica)で30 μm厚の冠状切片を作製した。脳切片をPBSで10分間3回洗浄し、ブロッキングバッファー(5%BSA/0.3%Triron X-100/PBS溶液)により室温で1時間ブロッキングした。その後、脳切片は1%BSA/0.1%Triron X-100/PBS溶液に溶解した一次抗体(ウサギ抗フィブリノーゲン抗体、1:1000希釈、DAKO、A0080; ラット抗CD31抗体、1:150希釈、BD Pharmingen、550274)と4℃で1晩インキュベートした。0.1%Triron X-100/PBS溶液で5分間3回洗浄した後、脳切片を0.1%Triron X-100/PBS溶液に溶解した二次抗体(Alexa Fluor 488標識ロバ抗ウサギIgG、1:1000希釈、Thermo Fisher Scientific、A21206; Alexa Fluor 555標識ロバ坑ラットIgG、1:1000希釈、Abcam、ab150154)と室温で1時間インキュベートした。脳切片をPBSで再度3回洗浄し、Hoechst 33342(1:5000希釈、Thermo Fisher Scientific、H3570)と室温で15分間インキュベートし、細胞核を可視化した。PBSで脳切片を洗浄した後、APSコートスライドガラスに貼り付け、ProLong Gold Antifade Regent(Thermo Fisher Scientific)でカバーガラス下に封入した。蛍光画像はBZ-X710(Keyence)及びLSM700共焦点レーザー顕微鏡(Carl Zeiss)を用い、10倍もしくは63倍の対物レンズで撮影した。各マウスから前頭前野、側坐核、海馬、体性感覚野の画像を6枚ずつ取得した。フィブリノーゲン/フィブリンの沈着面積はImage Jソフトフェアを用いて定量した。
【0051】
8.骨髄血管透過性評価
骨髄血管透過性は、若干の修正を加え、以下の論文に従いEvans Blue(エバンスブルー)色素アッセイにより評価した(Bowers et al., Nat Med, 2018; Matsumoto et al., Exp Hematol, 2021)。マウスをイソフルランにより麻酔し、慢性社会挫折ストレスから約14時間後、生理食塩水に溶解した2%エバンスブルー(Sigma-Aldrich)を10 mL/kgの容量で眼窩静脈叢投与した。投与から20分後、片方の大腿骨を摘出し、21Gの注射針を取り付けた1 mLシリンジを用いて500 μLの冷PBSで大腿骨内を洗浄した。懸濁液を遠心し(1500 rpm、4℃、5分間)、上清を回収した。吸光度マイクロプレートリーダー(iMARKTM, Bio-Rad Laboratories)を用いて96ウェルプレート中のエバンスブルーの量を620 nmの吸光度により測定した。
【0052】
9.統計解析
データを平均値±SEMとして示した。統計的有意差の検定には2元配置分散分析を使用した。少なくとも1つの因子の主効果または2つの因子の相互作用が統計的に有意である場合は、Bonferroniの多重比較検定によりペアワイズ比較を行った。P < 0.05を有意であるとした。統計解析はGraphPad Prism 9ソフトウェア(GraphPad Software, La Jolla, CA, USA)を用いて行った。
[結果]
社会的相互作用試験の結果を図1および図4に示す。縦軸は150秒間の試験のうち、忌避行動ゾーンに滞在した時間の割合を示す。ビヒクル群においては、慢性社会挫折ストレスを与えたマウスは、慢性社会挫折ストレスを与えていないマウスと比較して社会忌避行動が増加した。これに対し、PEA投与群においては、慢性社会挫折ストレスを与えたマウスは、慢性社会挫折ストレスを与えていないマウスと比較して社会忌避行動の誘導が抑制されていた。
【0053】
新奇物体認識試験の結果を図2および図5に示す。縦軸は新奇物体選択率を示す。ビヒクル群においては、慢性社会挫折ストレスを与えたマウスは、慢性社会挫折ストレスを与えていないマウスと比較して新奇物体選択率が低下した。これに対し、PEA投与群においては、慢性社会挫折ストレスを与えたマウスは、慢性社会挫折ストレスを与えていないマウスと比較して新奇物体選択率の低下が認められなかった。
【0054】
尾懸垂試験の結果を図3および図6に示す。縦軸は無動時間を示す。ビヒクル群においては、慢性社会挫折ストレスを与えたマウスは、慢性社会挫折ストレスを与えていないマウスと比較して無動時間が増加した。これに対し、PEA投与群においては、慢性社会挫折ストレスを与えたマウスは、慢性社会挫折ストレスを与えていないマウスと比較して無動時間の増加が抑制されていた。
【0055】
慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA腹腔内投与の効果を図7図10に示す。慢性社会挫折ストレス後の骨髄の好中球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより骨髄の好中球数が増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の骨髄の単球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の脾臓の好中球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の脾臓の単球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の脾臓細胞数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の循環血液中の好中球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の循環血液中の単球数はPEA投与群では溶媒投与群と比較して慢性社会挫折ストレス後の単球数が減少していた。慢性社会挫折ストレス後の脳の好中球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。
【0056】
慢性社会ストレスによる血球細胞変化へのPEA経口投与の効果を図11図14に示す。慢性社会挫折ストレス後の骨髄の好中球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の脾臓の好中球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の脾臓の単球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の循環血液中の好中球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の循環血液中の白血球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の循環血液中の血小板数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。慢性社会挫折ストレス後の脳の好中球数は溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより増加するが、PEA投与群では増加が抑制されていた。
【0057】
慢性社会ストレスによるフィブリノーゲン/フィブリン沈着へのPEAの効果を図15に示す。慢性社会挫折ストレス後の脳切片におけるフィブリノーゲン/フィブリン沈着の代表的な免疫蛍光染色像を図15(A)に、冠状断面アトラスに沈着を描写した図を図15(B)に示す。溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより脳全体でフィブリノーゲン/フィブリンの沈着が誘導されるが、PEA投与では沈着が減弱されている。
図15(C)に前頭前野、側坐核、海馬、及び体性感覚野におけるフィブリノーゲン/フィブリン沈着(緑)の代表的な免疫蛍光染色像を示す。血管と核はそれぞれ抗CD31抗体(赤)とHoechst(青)で標識されている。慢性社会挫折ストレスによるフィブリノーゲン/フィブリンの沈着は体性感覚野など大脳皮質背側外側部に多く見られ、ストレスに関与する脳領域である前頭前野、側坐核、海馬などでも観察された。内皮細胞マーカーCD31との共染色では、大部分のフィブリノーゲン/フィブリン沈着は血管膜や内腔に局在し、一部の沈着は脳実質中にも認められることから、脳血管障害や血液脳関門の障害が示唆される。
【0058】
図15(D)-(G)に、慢性社会挫折ストレス後およびPEA投与後の各脳領域におけるフィブリノーゲン/フィブリン沈着の定量化について示した。前頭前野(図15(D))、側坐核(図15(E))、海馬(図15(F))、体性感覚野(図15(G))において、溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスによりフィブリノーゲン/フィブリン沈着の面積が増加したが、PEA投与群では沈着面積が減少した。
【0059】
慢性社会ストレスによる骨髄血管透過性亢進へのPEAの効果を図16に示す。具体的には、図16に、慢性社会挫折ストレス後の骨髄へのエバンスブルーの漏出量を示す。溶媒投与群では慢性社会挫折ストレスにより骨髄へのエバンスブルーの漏出量が増加し、血管透過性の亢進が示唆されるが、PEA投与群では漏出が減弱した。
【0060】
慢性社会挫折ストレス後に実施した社会的相互作用試験の結果を図17に示す。縦軸は150秒間の試験のうち、忌避行動ゾーンに滞在した時間の割合を示す。慢性社会挫折ストレスによる社会忌避行動の増加はPEA投与により減弱するが、この抑制効果はPPARδ拮抗薬の同時投与により消失した。図17の結果から、PEAによる心理的不調の予防又は緩和効果にPPARδが関与していることが示唆される。
【0061】
上記実施例に示されるように、ホスホエタノールアミンは、抑うつや認知機能低下等につながりうる心理的不調の予防又は緩和に非常に有用である。また、上記実施例に示すように、ホスホエタノールアミンにより、好中球の動員が抑制され、それにより心理状態の緩和が見られた。ホスホエタノールアミンにより好中球の動員が抑制されることも、好中球の動員の抑制により心理的不調状態が緩和することもこれまで全く報告がない新たな知見である。従って、本発明は、これまでのうつ病治療薬として知られているものとは異なるメカニズムでうつ病などの心理状態を緩和することができるため、かかる点からも非常に有用である。
図1
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