(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159668
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/472 20060101AFI20241031BHJP
A61F 13/53 20060101ALI20241031BHJP
A61F 13/534 20060101ALI20241031BHJP
A61F 13/535 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61F13/472 200
A61F13/53 300
A61F13/534 100
A61F13/535 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071978
(22)【出願日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2023072802
(32)【優先日】2023-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507186551
【氏名又は名称】株式会社三井メディカルジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】三井 桂子
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA03
3B200BA01
3B200BA09
3B200CA12
3B200DA12
3B200DB01
3B200DB06
3B200DB12
3B200DB23
3B200DC05
(57)【要約】
【課題】骨盤臓器脱の防止機能も備えた吸収性物品を提供する。
【解決手段】本発明の吸収性物品1は、ベース部吸収体13を備えたベース部10に、骨盤臓器脱が生じる部位に密接する膨出部20を備えており、尿を吸収するためのパッドや生理用ナプキンなどの各種生理用品としての機能を有すると共に、膨出部20による骨盤臓器脱の防止を図る機能を有する。本発明の吸収性物品1は、手術や年齢等により尿漏れ頻度や尿漏れの量が多くなった際、あるいは月経期間中等において、それらの現象に対応しつつ、骨盤臓器脱の予防等を図ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液を吸収するベース部吸収体と、前記ベース部吸収体を挟んで肌側に位置し、液体を透過させる肌側当接層と、前記ベース部吸収体を挟んで前記肌側当接層の反対側に位置し、液体の漏出を抑制する裏面支持層とを有するベース部と、
前記ベース部の前記肌側当接層側から膨出し、使用時に骨盤臓器脱の生じる部位に密接する膨出部と
を有し、
前記膨出部は、前記ベース部の前記肌側当接層との境界から15~60mm突出し、前後の長さが15~80mm、幅が10~60mmの大きさを有し、前記ベース部に一体化されている吸収性物品。
【請求項2】
前記膨出部の表面の摩擦係数が、前記ベース部の前記肌側当接層の表面の摩擦係数と比較して同等以下である請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記膨出部は、頂部から下方に向かう垂直方向の距離で、前記膨出部の高さの1/10~1/2の距離に相当する範囲に含まれる部位が、当該部位より下方の部位と比較して柔軟性が高い請求項1記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記膨出部は、膨出構造部と、前記膨出構造部の表面を被覆するカバー層とを有する請求項1記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記膨出構造部が、体液を吸収する吸収機能を有する請求項4記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記カバー層の表面の摩擦係数が、前記ベース部の前記肌側当接層の表面の摩擦係数と比較して同等以下である請求項4記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記カバー層は、前記膨出構造部よりも柔軟性が高い請求項4記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記カバー層は、前記膨出部の頂部から下方に向かって、前記膨出部の垂直方向の距離で前記膨出部の高さの1/3以上の範囲が液体を通過させることが困難な素材から形成されている請求項4記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記膨出構造部が、前記ベース部吸収体と一体に成形されている請求項4記載の吸収性物品。
【請求項10】
前記ベース部の前記肌側当接層及び前記膨出部のうち、少なくとも一方に凹凸状の部分が設けられている請求項1記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿、経血、おりもの等の体液を吸収する生理用品として使用される吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
尿漏れや便漏れ用の失禁用パッド、紙おむつ、生理用ナプキン等の吸収性物品は、肌側に位置する透液性の肌側シートと、反対側に位置する不透液性の裏面シートと、両者間に積層配置される吸収体を備えている。また、必要に応じて、ギャザー状のサイドシートが肌側に設けられている(特許文献1,2参照)。
【0003】
一方、本発明者は先に、特許文献3として、女性器に向かう半球状や卵形等の部材と、その部材を女性器に密着させるように保持する保持部材を備え、骨盤臓器脱を防止する骨盤臓器脱防止具を提案している。また、特許文献4では、女性器との接触による痛みや違和感を軽減するため女性器に接触する受容部材を柔軟性材料から構成し、受容部材を支持する支持部材を相対的に剛性の高い材料から構成して、受容部材を支持部材に対して揺動可能又は伸縮可能とする骨盤臓器脱防止具を提案している。受容部材及び支持部材は特許文献3のものと同様に半球状や卵形等に形成されている。いずれも、半球状や卵形等に形成された部材から180度反対方向に延びる一対の突出片が設けられており、この突出片を下着の股部付近に、ベルト部材を介して支持される平板状の保持部材の差し込み穴に差し込むことによって取り付けられる。
【0004】
また、特許文献4では、下着の内側に配置できる所定の長さ及び幅を有する柔軟な固定シートを用いて取り付ける工夫を提案している。この固定シートは、肌側から順に、液体の浸透が不可逆性を有するさらさらした布からなる第1層、弾力性を有する第2層、体液の吸収性を有する素材からなる第3層、防水素材からなる第4層及び下着との間で滑り止め機能を有する第5層を備えた積層体として形成されており、長さ方向に所定間隔をおいて、第1層側から一対の切り込みが設けられている。この一対の切り込みに、上記の半球状や卵形の部材の一対の突出片をそれぞれ挿入し、下着内に配置して、上記受容部材を女性器に当接可能としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-86224号公報
【特許文献2】特開2020-36737号公報
【特許文献3】特許第4917151号公報
【特許文献4】特許第5138044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3及び4に示した骨盤臓器脱防止具は、半球状や卵形の部材を女性器に密接させて骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤、尿道瘤、小腸瘤、直腸瘤など)を防止し、さらには、骨盤底筋を支持する機能も発揮することができるものの、尿漏れ、月経に伴う経血等の体液を効果的に吸収するためのものではない。特許文献4で用いた固定シートのタイプは、吸収体を用いて製作することにより、そのような機能を持たせることも可能であるが、半球状や卵形の女性器に密接する部材とは別体であるため、取り付け作業が面倒である。また、固定シートの第1層は、さらさらした布から形成され、半球状や卵形の部材を含め、洗浄して再利用する設計となっている。そのため、尿漏れの頻度や尿量、あるいは経血量等によって交換頻度が高くなると、予備を複数準備する必要があるだけでなく、汚れたものを洗浄する頻度が増加し、また、外出先では汚れたまま持ち歩くことにもなりかねず、外出に不便を来す。この点、特許文献1及び2に示されているような使い捨てタイプの吸収性物品であれば、気軽に交換でき、外出先での取り扱いも容易である。
【0007】
ところで、先天的なリンパ管の機能障害のほか、癌の手術等において行われるリンパ管やリンパ節の切除等を要因として発症するリンパ浮腫という症状がある。子宮癌、卵巣癌の治療で骨盤内リンパ節郭清が行われると、下肢からのリンパ液が鼠径リンパ節を経由できず陰部へと逆流する。また、肛門からのリンパ流は、胸管を経由し左静脈への流入が阻害され、鼠径リンパ節を経由できず陰部へ逆流する。従って、会陰部等の女性器の周囲から鼠径部付近の部位を刺激できれば、その付近におけるリンパ液の滞りを抑制でき、また、手術等によって生じた傷口からのリンパ液の漏出の抑制も期待できる。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、尿漏れや月経等に対応できるだけでなく、骨盤臓器脱の防止機能や骨盤底筋の支持機能も備えた吸収性物品を提供することを課題とし、さらには、生殖器の周囲から鼠径部付近におけるリンパ液の滞留や漏出等を抑制することもできる吸収性物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の吸収性物品は、
体液を吸収するベース部吸収体と、前記ベース部吸収体を挟んで肌側に位置し、液体を透過させる肌側当接層と、前記ベース部吸収体を挟んで前記肌側当接層の反対側に位置し、液体の漏出を抑制する裏面支持層とを有するベース部と、
前記ベース部の前記肌側当接層側から膨出し、使用時に骨盤臓器脱の生じる部位に密接する膨出部と
を有し、
前記膨出部は、前記ベース部の前記肌側当接層との境界から15~60mm突出し、前後の長さが15~80mm、幅が10~60mmの大きさを有し、前記ベース部に一体化されている。
【0010】
前記膨出部の表面の摩擦係数が、前記ベース部の前記肌側当接層の表面の摩擦係数と比較して同等以下であることが好ましい。
【0011】
前記膨出部は、頂部から下方に向かう垂直方向の距離で、前記膨出部の高さの1/10~1/2の距離に相当する範囲に含まれる部位が、当該部位より下方の部位と比較して柔軟性が高いことが好ましい。
【0012】
前記膨出部は、膨出構造部と、前記膨出構造部の表面を被覆するカバー層とを有する構成とすることが好ましい。
【0013】
前記膨出構造部が、体液を吸収する吸収機能を有する構成とすることができる。
【0014】
前記カバー層の表面の摩擦係数が、前記ベース部の前記肌側当接層の表面の摩擦係数と比較して同等以下であることが好ましい。
前記カバー層は、前記膨出構造部よりも柔軟性が高いことがより好ましい。
前記カバー層は、前記膨出部の頂部から下方に向かって、前記膨出部の垂直方向の距離で前記膨出部の高さの1/3以上の範囲が液体を通過させることが困難な素材から形成されていることが好ましい。
【0015】
前記膨出構造部が、前記ベース部吸収体と一体に成形されていることが好ましい。
【0016】
前記ベース部の前記肌側当接層及び前記膨出部のうち、少なくとも一方に凹凸状の部分が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の吸収性物品は、ベース部吸収体を備えたベース部に、骨盤臓器脱の生じる部位に密接する膨出部を備えており、失禁用パッドや生理用ナプキンなどの各種生理用品として使用できるが、それに加え、膨出部を備えている。そのため、手術や年齢等により失禁の頻度が高くなったり、失禁時の尿の量や大便に含まれる水分量が多くなったりした際、あるいは月経期間中等において、それらの現象に対応しつつ、骨盤臓器脱の予防や治療、骨盤底筋の支持を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態に係る吸収性物品を示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、膨出部を膨出構造部とカバー層とに分けた態様の一例を示した図であり、
図3(b)は他の例を示した図である。
【
図4】
図4は、膨出部の位置を
図1の実施形態よりも後方に設けた例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、膣口付近と肛門付近の両方に対応する位置に膨出部を設けた例を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の他の実施形態に係る吸収性物品を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明のさらに他の実施形態に係る吸収性物品を示す図であって、膨出部を含む部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
図1及び
図2は、本発明の一の実施形態にかかる吸収性物品1を示した図である。これらの図に示したように、本実施形態の吸収性物品1は、ベース部10と膨出部20を有している。ベース部10は、
図2(a)~(c)の断面図に示したように、肌側当接層11、裏面支持層12及びベース部吸収体13を有して構成される。ベース部吸収体13は、中央に配置され、このベース部吸収体13を挟んで肌側当接層11及び裏面支持層12が積層されている。
【0020】
肌側当接層11は、裏面支持層12に対してベース部吸収体13を介して肌側に配置される。肌側当接層11は、液体を通過させる機能を有する。かかる機能を備えていれば、素材や構造は全く限定されるものではなく、失禁用パッド、紙おむつ、生理用ナプキン等の各種生理用品に適用されているものと同様のものを用いることができる。特許文献1,2と同様に、例えば、不織布や多孔性のプラスチックフィルムなどを用いることができ、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、あるいは、綿等の天然繊維を用いることができる。
【0021】
裏面支持層12は、液難透過性、遮水性、水蒸気透過性又は撥水性等の機能を有し、使用時においては下着側に配置される。肌側当接層11及びベース部吸収体13を通過した体液が漏れ出ることを抑制するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等、各種生理用品に適用されている種々のものを用いることができる。なお、裏面支持層12のうち、下着に対向する面には、一般の生理用ナプキンと同様に接着層が設けられている。
【0022】
ベース部吸収体13は、体液を吸収可能な材料から構成される。この材料も各種生理用品に適用されているものと同様のものを用いることができ、特許文献1,2に開示されているような吸水性ポリマー、パルプ繊維等の親水性繊維で構成された繊維集合体、あるいは、これらを適宜に組み合わせたもの等から構成することができる。
【0023】
ベース部10は、本実施形態では、失禁用パッド、生理用ナプキン等と同様の形状を有している。本実施形態では、
図1に示したように、所定の長さと幅を有し、長手方向の中央付近の幅が若干狭くなる平面視で略長方形に形成されている。形状は全くこれに限定されるものではなく、公知の各種失禁用パッドや生理用ナプキン等と同様の形状とすることもできる。パンツ形の紙おむつと同様の形状としてもよい。
【0024】
膨出部20は、ベース部10を所定の使用位置にセットしたときに骨盤臓器脱の生じる部位に略対向する位置に設けられる。ここで、骨盤臓器脱の生じる部位とは、子宮、膀胱、小腸、直腸などの膣内への下垂により膨出したり臓器が突出したりする膣口や膣口周囲のほか、直腸脱、痔核(内痔核の脱出等)が生じたり腫れたりする肛門や肛門周囲も含む。また、鼠径ヘルニアにより膨出する鼠径部も含む。
【0025】
本実施形態では、膨出部20は、膣口又は膣口周囲に対応するように、ベース部10の略中央付近に設けられている。膨出部20は、ベース部10の肌側当接層11側から膨出する形状を有し、使用時に膣口又は膣口周囲に接することで、膣からの臓器の脱出症状である骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤、尿道瘤、小腸瘤、直腸瘤など)を抑制する。膨出部20にかかる機能を持たせるため、肌側当接層11と膨出部20との境界(
図2の(b),(c)参照)からの高さHが15~60mmであることが好ましい。ベース部10の長手方向に沿った前後の長さLは、長手方向に最も離れた部位間の距離で15~80mmの範囲、幅Wは、幅方向に最も離れた部位間の距離で10~60mmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、高さHが20~40mm、長さLが30~60mmの範囲、幅Wが20~40mmの範囲である。形状は、特許文献3及び4に示されているものと同様に、略半球状、卵形等とすることができ、平面視では略楕円形、略円形等とすることができる。骨盤臓器脱の生じる部位は、膣口付近や肛門付近となるため、刺激や違和感の少ない丸みを帯びた形状とすることが好ましい。
【0026】
なお、直腸脱用等として膨出部20を肛門に対応させる場合、
図4に示したように、脱出部20Aを
図1で示した位置よりも後方に設けると共に、やや小さめのサイズとすることが好ましく、例えば、高さHが15~30mm、長さLが15~40mmの範囲、幅Wが10~30mmの範囲とすることが好ましい。また、
図5に示したように、膣口付近に対応する膨出部20と肛門付近に対応する膨出部20Aの両方を備え、いずれの骨盤臓器脱にも対応可能な構造とすることも可能である。さらに、例えば、ベース部10に対して膨出部20を前後方向に移動可能に設けることにより、膣口付近用、肛門付近用のいずれにも対応できる構成とすることもできる。鼠径部に当接させる場合には、ベース部10の幅方向中央を通過する長手方向に沿ったラインに対して左右に外れた位置に膨出部20を設ける構成とすることもできる。
【0027】
膨出部20は、ベース部10に一体化されている。失禁用パッドや生理用ナプキン等は、吸水性ポリマー等からなる吸収体により体液が吸収される度に、あるいは、体液の吸収量が所定量に至ったならば使い捨てされ、新たなものと交換使用される。本実施形態のベース部10も、この失禁用パッドや生理用ナプキン等と同様の使われ方をするいわゆる使い捨てタイプである。よって、このような使い捨てタイプのベース部10に設けられる膨出部20も使い捨てに適する構造とし、両者を一体化することが使用者にとって便利である。また、本実施形態の吸収性物品1は、骨盤臓器脱の予防や治療用として、特許文献3,4に示されたような洗浄して再利用するものを日常使用している者にとっては、月経期間中あるいは失禁用パッドが必要となる所定の術後、さらには加齢等により、日常的に使い捨てタイプの失禁用パッドや紙おむつなどを使用しなければならない状態となった場合等において、特許文献3,4に示されたものの代用品としても適する。
【0028】
膨出部20をこのような使い捨てに適する構造とするため、膨出部20は、低コストの材料でベース部10に容易に一体化できるものであることが好ましい。例えば、ポリウレタン等の合成樹脂を発泡成形したスポンジ状の略半球状や卵形等のものをベース部10の肌側当接層11に溶着等により固着して形成することができる。また、ベース部吸収体13と同様に吸水性ポリマー等を用いて略半球状や卵形等に成形し、これを肌側当接層11に固着することもできる。
【0029】
いずれの場合も、膨出部20は、膣口、膣口周囲、肛門あるいは肛門周囲に当接するように用いられるため、擦れによる痛みをできるだけ抑制できるように、表面が滑りやすく形成されていることが好ましい。ベース部10の肌側当接層11は、体液を速やかに流してベース部吸収体13に吸収させる必要があるため、従来、表面の摩擦係数の平均値(MIU)の低いものが用いられている。また、それにより肌に当接した際も滑りやすく違和感も小さくなる。一方、肌に当接した際の滑らかさをより高めるために、摩擦係数の平均偏差(MMD)の値の小さいものを採用することも行われている。よって、膨出部20の表面は、肌側当接層11として従来採用されているものと同等の摩擦係数(平均値:MIU)か、それ以下の摩擦係数とすることが好ましい。また、摩擦係数の平均偏差(MMD)も、肌側当接層11として用いられている従来のものと比較して、それらと同等かそれ以下の値とすることが好ましい。
【0030】
膨出部20の表面を上記のように摩擦係数の低い構成とするために、発泡ウレタンや吸水性ポリマー等のみでその条件を満たすことが困難な場合がある。そこで、
図3(a)に示したように、肌側当接層11から立ち上がる膨出構造部21と膨出構造部21の表面を被覆するカバー層22とを備えた構造とし、カバー層22として、表面の摩擦係数が上記のように低摩擦係数のもの、さらには、上記の摩擦係数の平均偏差が小さいものを採用する構造とすることが好ましい。材料としては、肌側当接層11と同様のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等を用いることができる。
【0031】
カバー層22を採用する場合、膨出構造部21は、ポリウレタン等の合成樹脂を発泡成形したスポンジ状の略半球状や卵形等のもの、吸水性ポリマー等を用いて略半球状や卵形等に成形したもの等を肌側当接層11に溶着等により固着して形成することができる。また、
図3(b)に示したように、膨出構造部21を、ベース部10のベース部吸収体13と一体成形し、すなわち、ベース部吸収体13を略平板状に成形すると共に、その略中央部に、ベース部吸収体13と同じ材料により型を用いるなどして一体成形する構成とすることもできる。また、カバー層22は、肌側当接層11とは別体でもよいが、
図3(b)に示したように、ベース部吸収体13と膨出構造部21をフィルムやシートで共に被覆することで、カバー層22が肌側当接層11と一体になった構成とすることもできる。
【0032】
カバー層22は、ベース部10の肌側当接層11と同様に、液体を通過させる機能を有する素材で構成してもよいし、液難透過性、遮水性、水蒸気透過性又は撥水性等、液体を通過させることが困難な素材で構成してもよい。膨出構造部21として吸収性ポリマーを有するものを用いる場合、液体を通過させる機能を有すれば、膨出構造部21においても体液が吸収される。液体を通過させることが困難な素材の場合でも、上記のように表面の摩擦係数が低いものを採用することにより、スムーズに骨盤臓器脱の生じる部位に向けて装着できると共に、体動等により経血などの体液が漏出した場合でも表面を速やかに伝わり、ベース部10の肌側当接層11に流れていき、ベース部吸収体13によって速やかに吸収される。また、カバー層22は、膨出構造部21の表面を全て被覆するように設けることもできるが、一部に膨出構造部21の表面を被覆していない部分を有する構成とすることもできる。例えば、カバー層22にスリットを有する構成としたり、膨出構造部21の下部付近を被覆していない構成としたりすることもできる。カバー層22を、液体を通過させることが困難な素材で形成した場合、このように膨出構造部21の表面を一部被覆していない構成であれば、膨出構造部21を吸水性ポリマーで形成した場合に、その被覆していない部位を通じて、速やかに体液を吸収させることができる。カバー層22として、液体を通過させる機能を有する素材で構成した場合、膨出構造部21がその頂部から湿潤し、剛性が低下して当接部位に対する押圧力が不足する可能性もあるため、カバー層22としては、膨出部20の頂部から下方に向かって、当該膨出部20の垂直方向の距離で当該膨出部20の高さHの1/3以上の範囲が液体を通過させることが困難な素材から形成されていることが好ましい。
【0033】
また、膨出部20は、頂部寄りの部位が、それよりも下方の部位と比較して柔軟性が高いことが好ましい。柔軟性が高いと、膣口等の骨盤臓器脱が生じる部位の形状差を吸収できると共に、体動にも追従しやすくなり、当接している部位との間での摩擦を軽減できる。膨出部20の頂部から下方に向かう垂直方向の距離で、膨出部20の高さHの1/10~1/2の距離に相当する範囲に含まれる部位が、当該部位より下方の部位と比較して柔軟性が高いことが好ましい。例えば、肌側当接層11からの膨出部20の突出高さが上記のように15~60mmの場合、頂部から1.5mm~30mmの範囲で柔軟性の高い部位が形成されていることが好ましい。
【0034】
膨出部20として、上記のようにカバー層22を設ける場合には、カバー層22が、膨出構造部21よりも柔軟性が高い構成とすることが好ましい。この場合も、カバー層22が膣口等の骨盤臓器脱が生じる部位の形状や体動に追従できるため、両者間での摩擦を軽減できる。
【0035】
本実施形態によれば、骨盤臓器脱が生じている部位に膨出部20が当接する位置となるように、裏面支持層12の接着層が施されている面を下着に対向させて当該下着に接着して使用される。それにより、本実施形態の吸収性物品1は、ベース部10における経血や尿等の体液の吸収機能に加え、膨出部20における骨盤臓器脱の予防・治療若しくは骨盤底筋の支持といった両方の機能を果たすことができる。しかも、本実施形態の吸収性物品1は、上記のように、膨出部20も使い捨てに適する素材から構成されているため、月経時や尿漏れの多い時期に使用した際には使い捨て可能であり、衛生的である。従って、骨盤臓器脱の予防や治療用等として、特許文献3,4に示されたような洗浄して再利用するものを日常使用している者が、月経期間中あるいは失禁用パッドが必要となる所定の術後等において使用するのに適する。
【0036】
図6及び
図7は、本発明の他の実施形態を示した図である。本実施形態では、ベース部10の肌側当接層11が凹凸状の部分11aを備えた構成である。その他の構成は、上記実施形態と同じである。
【0037】
肌側当接層11に凹凸状の部分11aを形成する手段は任意であり、本実施形態では、ベース部吸収体13の表面に凸部13aを形成することで実現している。肌側当接層11とベース部吸収体13との間に、粒状、小球状等に加工された柔軟性の高い発泡ウレタンや吸水性ポリマー等からなるものを挿入するようにしてもよい。肌側当接層11との境界を基準とした凸部13aの高さhは、2~10mmとすることが好ましく、さらには、4~8mmとすることがより好ましい。
【0038】
本実施形態によれば、骨盤臓器脱の生じる膣口等に当接する膨出部20の周囲の凹凸状の部分11aが生殖器の周囲の会陰部付近や鼠径部付近に当接する。体動と共に、凹凸状の部分11aが会陰部等に接したり離れたりするため、マッサージ効果が付与される。その結果、リンパ液の滞留や漏出等が抑制され、リンパ液の流れの改善効果を期待できる。
【0039】
図8は、本発明のさらに他の実施形態を示した図であり、膨出部20において、ベース部吸収体13の表面に凸部13bを形成し、膨出部20の表面に凹凸状の部分20aを設けている。本実施形態のものは、特に、膣内への骨盤臓器脱が生じている症状に適するものであり、膨出部20を膣口に密接させることで、膨出部20に設けられた凹凸状の部分20aが、膣口及びその周囲から膣の内側にかけて当接する。凹凸状の部分20aのうち凸部13bに対応する部位が膣口等に密接して押圧されることにより、その反力により、マッサージ効果をより高め、リンパ液の流れの改善効果を高める。
【0040】
なお、リンパ液の流れを改善するマッサージ効果を果たすベース部10に設けられる凹凸状の部分11a及び膨出部20に設けられる凹凸状の部分20aは、いずれか一方のみであってもよいが、より高いマッサージ効果を得るためには両方に設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 吸収性物品
10 ベース部
11 肌側当接層
11a 凹凸状の部分
12 裏面支持層
13 ベース部吸収体
13a,13b 凸部
20,20A 膨出部
20a 凹凸状の部分
21 膨出構造部
22 カバー層