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特開2024-159726ポリアミド構造または複素環構造を有する多分岐型樹脂、およびこれらを含むリソグラフィー膜形成組成物、ならびに製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159726
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ポリアミド構造または複素環構造を有する多分岐型樹脂、およびこれらを含むリソグラフィー膜形成組成物、ならびに製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/26 20060101AFI20241031BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20241031BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20241031BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08G69/26
G03F7/038 601
G03F7/11 503
G03F7/11 502
G03F7/20 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024072452
(22)【出願日】2024-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2023074687
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宏人
(72)【発明者】
【氏名】大松 禎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】越後 雅敏
【テーマコード(参考)】
2H197
2H225
4J001
【Fターム(参考)】
2H197CA06
2H197CA08
2H197CA09
2H197CA10
2H197CE01
2H197CE10
2H197GA01
2H197HA03
2H225AE03N
2H225AE03P
2H225AE04N
2H225AE04P
2H225AE05P
2H225AF12N
2H225AF12P
2H225AF16N
2H225AF16P
2H225AF24P
2H225AF43N
2H225AF43P
2H225AF44N
2H225AF64N
2H225AF64P
2H225AH17
2H225AJ13
2H225AJ54
2H225AJ59
2H225AM61P
2H225AM73N
2H225AM73P
2H225AM77P
2H225AM99N
2H225AM99P
2H225AN38N
2H225AN38P
2H225AN39N
2H225AN39P
2H225AN63P
2H225AN68N
2H225AN68P
2H225BA01N
2H225BA01P
2H225BA26P
2H225CA12
2H225CB18
2H225CC01
2H225CC17
2H225CD05
4J001DA01
4J001DB01
4J001DB06
4J001DC05
4J001DC14
4J001DD05
4J001EB67
4J001EC66
4J001ED46
4J001FB03
4J001FC03
4J001GA13
4J001GD02
4J001GD07
4J001GD08
4J001JA17
4J001JA20
4J001JB41
4J001JB44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】製膜性に優れた樹脂を提供する。
【解決手段】(I)式(A)で表されるジアミノ化合物と、式(B)で表されるトリカルボン酸系化合物とを準備する工程、

(式中、Yはフッ素を含んでいてもよいアルキレン基、Zは、独立して-OH、-SH、または-NH、Eは、-COOH、-COHal(Halはハロゲン原子)等。)
(II)これらの化合物を縮合反応してポリアミド構造を形成する工程、
を備える方法で製造された、ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)式(A)で表されるジアミノ化合物と、式(B)で表されるトリカルボン酸系化合物とを準備する工程、
【化1】
(式中、Yはフッ素を含んでいてもよいアルキレン基であり、
Zは、独立して-OH、-SH、または-NHであり、
Rは、各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~40のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数7~40のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~30のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2~30のアルキニル基、置換基を有していてもよい炭素数7~40のアリールアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボン酸基、チオール基または水酸基であり、前記アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルケニル基は、エーテル結合、ケトン結合、エステル結合またはウレタン結合を含んでいてもよく、
mはRが水素以外の基である場合の当該基の数であって1~3の整数であり、
Arは芳香族基を有する基であり、
Eは-COOH、-COHal、-O-R-COOHまたは-O-R-COHalであり、Halはハロゲン原子であり、Rは炭素数が1~6のアルキレン基である。)
(II)これらの化合物を縮合反応してポリアミド構造を形成する工程、
を備える方法で製造された、
ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂。
【請求項2】
前記Yが、分岐状アルキレン基である請求項1に記載の樹脂。
【請求項3】
前記Yが、フッ素化アルキレン基である、請求項1または2に記載の樹脂。
【請求項4】
(i)請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド構造を有する多分岐型樹脂を準備する工程、および
(ii)前記樹脂を分子内縮合して複素環構造を形成する工程、
を備える方法で製造された、
複素環構造を有する多分岐型樹脂。
【請求項5】
前記Yがアルキレン基である単位と、前記Yがフッ素化アルキレン基である単位が存在し、
当該アルキレン基:フッ素化アルキレン基のモル比が、1:(1.5~10)である、請求項4に記載の樹脂。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂を含有する、リソグラフィー膜形成組成物。
【請求項7】
請求項3に記載の樹脂を含有する、リソグラフィー下層膜形成組成物。
【請求項8】
溶媒を含有する、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
溶媒、酸発生剤、酸架橋剤、およびこれらの組合せからなる群から選択される成分を含む、請求項6~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
請求項7に記載の組成物を用いて形成される、リソグラフィー下層膜。
【請求項11】
請求項4または5に記載の樹脂を含む、リソグラフィー下層膜。
【請求項12】
基板上に、請求項7に記載の組成物を用いて下層膜前記体を形成し、当該前駆体を300℃以上に加熱して複素環構造を有する多分岐型樹脂を含有する下層膜を形成する工程、
当該下層膜上に、少なくとも1層のフォトレジスト層を形成する工程、および
当該フォトレジスト層の所定の領域に放射線を照射し、現像を行う工程、
を含む、レジストパターン形成方法。
【請求項13】
下記式(1-1)で表される:
【化2】
(式中、Yはフッ素を含んでいてもよいアルキレン基であり、
Xは芳香族基を有する基であり、
は-OH、-SH、-NH、またはこれらが保護基で保護された基であり、
Rは、各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~40のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数7~40のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~30のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2~30のアルキニル基、置換基を有していてもよい炭素数7~40のアリールアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボン酸基、チオール基又は水酸基であり、前記アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルケニル基は、エーテル結合、ケトン結合、エステル結合またはウレタン結合を含んでいてもよく、
mはRが水素以外の基である場合の当該基の数であって1~3の整数であり、
nは主鎖における繰り返し数であり、
rは分岐鎖における繰り返し数であり、n>rである。)
ポリアミド構造を有する、多分岐型樹脂。
【請求項14】
下記式(2)で表される:
【化3】
(式中、Yはフッ素化アルキレン基、Yはアルキレン基であり、
Z’は、独立に-O-、-S-、または-NH-であり、
Xは芳香族基を有する基であり、
Rは、各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~40のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数7~40のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~30のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2~30のアルキニル基、置換基を有していてもよい炭素数7~40のアリールアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボン酸基、チオール基又は水酸基であり、前記アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルケニル基は、エーテル結合、ケトン結合、エステル結合またはウレタン結合を含んでいてもよく、
mはRが水素以外の基である場合の当該基の数であって1~3の整数であり、
およびnは主鎖における繰り返し数であり、
およびrは分岐鎖における繰り返し数であり、n>rかつn>rである。)
複素環構造を有する多分岐型樹脂。
【請求項15】
前記Xが下記式のいずれかで表される、
【化4】
(Arは芳香族基であり、Rは炭素数が1~6のアルキレン基である)
請求項13または14に記載の樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド構造または複素環構造を有する多分岐型樹脂、およびこれらを含むリソグラフィー膜形成組成物、ならびに製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、および機械的特性を有することから、様々な用途での応用が期待されている。しかし、当該樹脂は剛直な構造を有するので、溶解性や成膜性に劣る。そこで、分岐鎖を導入したPBOが提案されている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hiroto Kudo et. al., Journal of Polymer Science Part A Polymer Chemistry 44(11):3640 - 3649 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載された樹脂は、非晶性であり溶媒への溶解性を示す。しかし、製膜性の点において改良の余地があった。かかる事情に鑑み、本発明は製膜性に優れた樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、特定構造の基が導入された樹脂が前記課題を解決することを見出した。
態様1
(I)後述する式(A)で表されるジアミノ化合物と、後述する式(B)で表されるトリカルボン酸系化合物とを準備する工程、
(II)これらの化合物を縮合反応してポリアミド構造を形成する工程、
を備える方法で製造された、
ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂。
態様2
前記式中のYが、分岐状アルキレン基である態様1に記載の樹脂。
態様3
前記式中のYが、フッ素化アルキレン基である、態様1または2に記載の樹脂。
態様4
(i)態様1~3のいずれかに記載のポリアミド構造を有する多分岐型樹脂を準備する工程、および
(ii)前記樹脂を分子内縮合して複素環構造を形成する工程、
を備える方法で製造された、
複素環構造を有する多分岐型樹脂。
態様5
前記Yがアルキレン基である単位と、前記Yがフッ素化アルキレン基である単位が存在し、
当該アルキレン基:フッ素化アルキレン基のモル比が、1:(1.5~10)である、態様4に記載の樹脂。
態様6
態様1~5のいずれかに記載の樹脂を含有する、リソグラフィー膜形成組成物。
態様7
態様3に記載の樹脂を含有する、リソグラフィー下層膜形成組成物。
態様8
溶媒を含有する、態様6または7に記載の組成物。
態様9
溶媒、酸発生剤、酸架橋剤、およびこれらの組合せからなる群から選択される成分を含む、態様6~8のいずれかに記載の組成物。
態様10
態様7に記載の組成物を用いて形成される、リソグラフィー下層膜。
態様11
態様4または5に記載の樹脂を含む、リソグラフィー下層膜。
態様12
基板上に、態様7に記載の組成物を用いて下層膜前記体を形成し、当該前駆体を300℃以上に加熱して複素環構造を有する多分岐型樹脂を含有する下層膜を形成する工程、
当該下層膜上に、少なくとも1層のフォトレジスト層を形成する工程、および
当該フォトレジスト層の所定の領域に放射線を照射し、現像を行う工程、
を含む、レジストパターン形成方法。
態様13
後述する式(1)で表される、ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂。
態様14
後述する式(2)で表される、複素環構造を有する多分岐型樹脂。
態様15
前記式におけるXが後述する式(X1)~(X4)のいずれかで表される、態様13または14に記載の樹脂。
【発明の効果】
【0006】
製膜性に優れた樹脂を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】トリカルボン酸(エステル体)のH-NMRおよび13C-NMRスペクトル
図1B】トリカルボン酸(エステル体)のFT-IRスペクトル
図2】トリカルボン酸系化合物のH-NMRスペクトル
図3A】多分岐型PA樹脂のH-NMRスペクトル
図3B】多分岐型PA樹脂のGPCチャート
図4】トリカルボン酸系化合物のH-NMRおよび13C-NMRスペクトル
図5A】多分岐型PA樹脂のH-NMRスペクトル
図5B】多分岐型PA樹脂のGPCチャート
図5C】多分岐型PA樹脂のTGA(熱重量測定)チャート
図6】多分岐型PA樹脂のGPCチャート
図7A】多分岐型PA樹脂のGPCチャート
図7B】多分岐型PA樹脂のFT-IRスペクトル
図8A】多分岐型PBO樹脂のFT-IRスペクトル
図8B】多分岐型PBO樹脂のTGA(熱重量測定)チャート
図9】多分岐型PA樹脂(保護体および非保護体)のH-NMRスペクトル
図10】多分岐型PA樹脂(保護体および非保護体)のFT-IRスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂
一実施態様において、ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂は、(A)で表されるジアミノ化合物と、式(B)で表されるトリカルボン酸系化合物と、を反応させて得られる。多分岐型樹脂とは、主鎖に結合している分岐鎖を有する樹脂であって、当該分岐鎖はゲルを形成するほどは長くない樹脂をいう。本開示において「X~Y」は、その端値を含む。
【0009】
(1)(A)ジアミノ化合物
式(A)で表されるジアミノ化合物(以下「化合物A」ともいう)は、2つのアミノ基を必須として含む化合物である。アミノ基は好ましくは1級アミノ基である。化合物Aは、上記2つのアミノ基に加えて、基Zを有する。基Zは、-OH、-SH、-NH、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0010】
【化1】
【0011】
Yはフッ素を含んでいてもよいアルキレン基である。Yとしては、例えば、炭素数が1~6のアルキレン基、および炭素数が1~6のフッ素化アルキレン基が挙げられる。これらの基の炭素数は、より好ましくは1~3である。Yは分岐状アルキレン基または分岐状のフッ素化アルキレン基であることが好ましい。入手容易性等の観点から、Yは、好ましくは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-CH(CF)-、および-C(CF-等である。
【0012】
Zは、独立して-OH、-SH、または-NHである。中でも、ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂溶媒への溶解性または入手容易性等の観点から、Zは好ましくは-OHである。
【0013】
Rは、各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~40のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数7~40のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~30のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2~30のアルキニル基、置換基を有していてもよい炭素数7~40のアリールアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボン酸基、チオール基または水酸基である。前記アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルケニル基は、エーテル結合、ケトン結合、エステル結合またはウレタン結合を含んでいてもよい。しかしながら、耐熱性等を考慮すると、Rは好ましくは水素原子である。
【0014】
mはRが水素以外の基である場合の当該基の数であって1~3の整数である。Rが水素以外の基である場合、耐熱性等を考慮すると、mは好ましくは1である。以下に好ましい態様の化合物Aを例示する。
【0015】
【化2】
【0016】
(2)(B)トリカルボン酸系化合物
式(B)で表されるトリカルボン酸系化合物(以下「化合物B」ともいう)は、3つのカルボキシル基またはその誘導基を有する化合物である。誘導基としては、酸ハライド基が好ましい。
【0017】
【化3】
【0018】
Arは芳香族基を有する基である。Arは限定されないが、芳香族化合物から水素原子を3つ取り除いて得られるアリールトリイル基、またはトリアリールアルカンの芳香環から水素原子を3つ取り除いて得られる基が挙げられる。
【0019】
Eは-COOH、-COHal、-O-R-COOHまたは-O-R-COHalである。Halはハロゲン原子であり、好ましくは塩素原子である。Rは炭素数が1~6のアルキレン基であり、好ましくは炭素数が1~3のアルキレン基である。より好ましくは、Rはメチレン基またはエチレン基である。以下に好ましい態様の化合物Bを例示する。
【0020】
【化4】
【0021】
(3)構造
前記樹脂(以下、便宜上「多分岐型PA樹脂」ともいう))は、化合物Aと化合物Bを縮合反応させて得られる。当該反応によって、アミド結合が生じ、ポリアミド構造を有する重合体となる。多分岐型PA樹脂の構造は以下で表される。
【0022】
【化5】
【0023】
式中、Y、Z,R、mは前述のとおり定義される。nは主鎖における繰り返し数であり、rは分岐鎖における繰り返し数であり、n>rである。nは、限定されないが好ましくは1~100、より好ましくは2~30である。rが過度に大きいとゲル化してしまい、rが過度に小さいと溶媒への溶解性が低下する。rは、多分岐型PA樹脂がゲル化せず、かつ溶解性を呈するように選択される。一態様においてrはnのおよそ10~60%程度でありうる。
【0024】
式(1)で表される多分岐型PA樹脂の基Zは、保護基で保護された基であってよい。すなわち、式(1)で表される多分岐型PA樹脂は、好ましい態様において式(1-1)で表されることができる。
【0025】
【化5A】
【0026】
式(1-1)中、Zは-OH、-SH、-NH、またはこれらが保護基で保護された基であり、Y、Z,R、m、n、rは前述のとおり定義される。本明細書において、保護基とは、特定の条件で解離する基を称し、解離性基ともいう。溶解性の観点からは、Zは-OH、-SH、-NHが保護基で保護された基であることが好ましい。当該基を有する樹脂は、例えば、リソグラフィー用途に多用される溶媒である、PGMEAやPGMEへの溶解性が向上するため、リソグラフィー材料として優れる。保護基としては、酸の存在下で解離する酸解離性基であることが好ましい。
【0027】
前記保護基で保護された基の好ましい例は、ヒドロキシ基が酸解離性基で保護された基である。酸解離性基としては、特に限定されないが、例えば、KrFやArF用の化学増幅型レジスト組成物に用いられるヒドロキシスチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂等において提案されているもののなかから適宜選択して用いることができる。特に限定されないが、例えば、置換メチル基、1-置換エチル基、1-置換-n-プロピル基、1-分岐アルキル基、シリル基、アシル基、1-置換アルコキシメチル基、環状エーテル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基などが挙げられる。
【0028】
酸解離性基の具体例としては、国際公開第2016/158168号に記載のものを挙げることができる。これらの酸解離性基のうち、高解像性の観点から、特に下記式で示される各基からなる群から選ばれる酸解離性基が好ましい。
【0029】
【化5B】
【0030】
上記式中、Rは、水素原子又は炭素数1~4の直鎖又は分岐アルキル基であり、Rは、水素、炭素数1~4の直鎖若しくは分岐アルキル基、シアノ基、ニトロ基、複素環基、ハロゲン原子又はカルボキシル基であり、n11は0~4の整数、n12は1~5の整数、n10は0~4の整数である。RはC1~6のアルキル基、C6~11のアリール基またはC7~12のアルカリール基である。
【0031】
(4)特性
多分岐型PA樹脂はYの存在によって屈曲性を有し、かつ分岐鎖によって適度に低い密度を有する。したがって、溶媒への溶解性が良好であり、かつ製膜性も良好である。さらに、Yの一部または全部がフッ素化アルキレン基であると、樹脂の密度が適度に低下し溶解性がより高まるので好ましい。さらに、Yの一部または全部がフッ素化アルキレン基であると、多分岐型PA樹脂を分子内縮合する際に、樹脂の劣化を回避できる。Yがアルキレン基である単位と、Yがフッ素化アルキレン基である単位が存在する場合、当該アルキレン基:フッ素化アルキレン基のモル比は、1:(1.5~10)であることが好ましく、1:(2~6)であることがより好ましい。
【0032】
当該樹脂はリソグラフィー材料として有用である。また当該樹脂は高い屈折率を有するので、光学部品としても有用である。さらに、アミノ基とZは反応して環を形成するので、多分岐型PA樹脂は複素環構造を有する樹脂に転化できる。複素環構造を有する樹脂は耐熱性が極めて高く、リソグラフィー膜、特にリソグラフィー下層膜として有用である。
【0033】
2.多分岐型PA樹脂の製造方法
多分岐型PA樹脂は、化合物Aと化合物Bを縮合させて得られる。仕込比は、所望の分子量および分岐鎖が生じるように選択される。両者の仕込比はアミド結合を形成する官能基当量の比として決定することができる。当該官能基当量比(化合物Aの官能基当量:化合物Bの官能基当量)は、好ましくは(1~2):1、より好ましくは(1.1~1.6):1である。反応温度は、ゲルが生じないように選択され、一態様において20~40℃である。反応時間も限定されず、例えば20~72時間程度とすることができる。
【0034】
溶媒の量が少ないとゲルが生じやすくなり、多いと製造効率が低下する。一態様において溶媒の量は、化合物AとBの総量1重量部に対し、8~10重量部である。溶媒は、好ましくはNMP(N-メチルピロリドン)やDMF(ジメチルホルムアミド)等の非プロトン性溶媒である。反応は不活性雰囲気下で実施されることが好ましい。また、縮合反応には公知の縮合剤を用いることもできる。
【0035】
3.複素環構造を有する多分岐型樹脂
当該樹脂(以下、便宜上「多分岐型複素環樹脂」ともいう))は、多分岐型PA樹脂を分子内縮合反応させて得られる。当該反応によって、アミノ基とZまたはZが複素環構造を形成する。多Zが保護基で保護された基である場合、脱保護反応を経て複素環構造が形成される。前述のとおり、Yの一部または全部がフッ素化アルキレン基であることが好ましい。Yがアルキレン基である単位と、Yがフッ素化アルキレン基である単位が存在する場合、当該アルキレン基:フッ素化アルキレン基のモル比は、1:(1.5~10)であることが好ましく、1:(2~6)であることがより好ましい。当該樹脂の構造は好ましくは以下で表される。
【0036】
【化6】
【0037】
およびYは、多分岐型PA樹脂のYに由来する。Yはフッ素化アルキレン基、Yはアルキレン基である。当該アルキレン基については多分岐型PA樹脂で説明したとおりである。
【0038】
Z’は、多分岐型PA樹脂のZまたはZに由来する。Z’は、独立に-O-、-S-、または-NH-である。合成のしやすさ等の観点から、Z’は-O-であることが好ましい。この場合、複素環はベンゾオキサゾール環であるので、この場合の樹脂は「多分岐型PBO樹脂」とも称される。
【0039】
Xは多分岐型PA樹脂のArに由来する芳香族基を有する基である。Xは好ましくは以下で表される基である。
【0040】
【化7】
【0041】
Arは芳香族基であり、多分岐型PA樹脂で説明したとおりである。Rは炭素数が1~6のアルキレン基であり、その好ましい態様は多分岐型PA樹脂で説明したとおりである。
【0042】
Rおよびmは、多分岐型PA樹脂で説明したとおりである。
【0043】
およびnは主鎖における繰り返し数である。rおよびrは分岐鎖における繰り返し数である。n>rかつn>rである。nおよびnの和は多分岐型PA樹脂のnに相当し、rおよびrの和は多分岐型PA樹脂のrに相当する。n:nおよびr:rの比率は、Y:Yの比率に依存する。例えば、多分岐型PA樹脂がYとしてフッ素化アルキレンを含まない場合、式(2)におけるnおよびrは0である。一態様においてrとrの合計は、nとnの合計のおよそ10~60%程度でありうる。
【0044】
4.多分岐型複素環樹脂の製造方法
当該樹脂は、(i)多分岐型PA樹脂を準備する工程、および(ii)前記樹脂を分子内縮合して複素環構造を形成する工程、を備える方法で製造される。工程(i)は前述のとおりである。工程(ii)は、多分岐型PA樹脂を250℃以上に加熱することで実施できる。当該温度は好ましくは300~320℃である。当該工程は不活性雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0045】
多分岐型複素環樹脂は、耐薬品性が極めて高い。そのため、前駆体である多分岐型PA樹脂をキャストする等して所望の形状(膜など)にし、その状態で本工程を実施することが好ましい。
【0046】
5.組成物
[組成物]
前記多分岐型樹脂は、リソグラフィー用途または光学物品用途に好適であるので、当該用途用の組成物に有用である。
【0047】
[リソグラフィー膜形成組成物]
リソグラフィー膜形成組成物は、前記多分岐型樹脂を必須成分として含む組成物であり、好ましくは溶媒を含む。当該組成物は、膜の欠陥低減(薄膜形成)が可能で、保存安定性が良好であり、高感度で特定の波長領域での高屈折率および耐熱性や耐薬品性を有し、かつ良好なレジストパターン形状を付与できる。溶媒への溶解性の観点から、多分岐型樹脂は好ましくは多分岐型PA樹脂である。
【0048】
(リソグラフィー膜形成組成物の物性等)
当該組成物は、スピンコート等の公知の方法によってアモルファス膜を形成することができる。また、用いる現像液の種類によって、ポジ型レジストパターンおよびネガ型レジストパターンのいずれかを作り分けることができる。以下、当該組成物をレジスト組成物として用いた場合について説明する。
【0049】
リソグラフィー膜形成組成物がポジ型レジストパターンの場合、スピンコートによって形成されたアモルファス膜の23℃における現像液に対する溶解速度は、5Å/sec以下が好ましく、0.0005~5Å/secがより好ましく、0.05~5Å/secが更に好ましい。当該溶解速度が5Å/sec以下であると現像液に不溶なレジストとすることができる。また0.0005Å/sec以上の溶解速度を有すると、解像性が向上する場合もある。これは前記樹脂の露光前後の溶解性の変化により、現像液に溶解する露光部と、現像液に溶解しない未露光部との界面のコントラストが大きくなるからと推測される。またラインエッジラフネスの低減、ディフェクトの低減効果がある。
【0050】
リソグラフィー膜形成組成物がネガ型レジストパターンの場合、スピンコートによって形成されたアモルファス膜の23℃における現像液に対する溶解速度は、10Å/sec以上であることが好ましい。当該溶解速度が10Å/sec以上であると現像液に易溶で、レジストに一層向いている。また10Å/sec以上の溶解速度を有すると、解像性が向上する場合もある。これは、前記樹脂のミクロの表面部位が溶解し、ラインエッジラフネスを低減するからと推測される。またディフェクトの低減効果がある。前記溶解速度は、23℃にて、アモルファス膜を所定時間現像液に浸漬させ、その浸漬前後の膜厚を、目視、エリプソメーターまたはQCM法等の公知の方法によって測定し決定できる。
【0051】
ポジ型レジストパターンの場合、スピンコートによって形成されたアモルファス膜のKrFエキシマレーザー、極端紫外線、電子線またはX線等の放射線により露光した部分の23℃における現像液に対する溶解速度は、10Å/sec以上であることが好ましい。当該溶解速度が10Å/sec以上であると現像液に易溶で、レジストにより好適である。また10Å/sec以上の溶解速度を有すると、解像性が向上する場合もある。これは、前記樹脂のミクロの表面部位が溶解し、ラインエッジラフネスを低減するからと推測される。またディフェクトの低減効果がある。
【0052】
ネガ型レジストパターンの場合、スピンコートによって形成されたアモルファス膜のKrFエキシマレーザー、極端紫外線、電子線またはX線等の放射線により露光した部分の23℃における現像液に対する溶解速度は、5Å/sec以下が好ましく、0.0005~5Å/secがより好ましく、0.05~5Å/secが更に好ましい。当該溶解速度が5Å/sec以下であると現像液に不溶なレジストとすることができる。また0.0005Å/sec以上の溶解速度を有すると、解像性が向上する場合もある。これは、前記樹脂の露光前後の溶解性の変化により、現像液に溶解する未露光部と、現像液に溶解しない露光部との界面のコントラストが大きくなるからと推測される。またラインエッジラフネスの低減、ディフェクトの低減効果がある。
【0053】
(他の成分)
リソグラフィー膜形成組成物に使用される溶媒は、特に限定されず、国際公開第2020/226150号に開示されたものを使用できる。溶媒は、安全溶媒であることが好ましく、より好ましくは、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、CHN(シクロヘキサノン)、CPN(シクロペンタノン)、2-ヘプタノン、アニソール、酢酸ブチル、プロピオン酸エチルおよび乳酸エチルから選ばれる少なくとも一種であり、更に好ましくはPGMEA、PGMEおよびCHNから選ばれる少なくとも一種である。また、それらの溶媒の組み合わせによる混合溶媒であってもよい。
【0054】
当該組成物において、固形成分の量と溶媒の量との関係は、特に限定されないが、固形成分および溶媒の合計重量を100重量%として、以下であってよい。
固形成分1~80重量%:溶媒20~99重量%
固形成分1~50重量%:溶媒50~99重量%
固形成分2~40重量%:溶媒60~98重量%
固形成分2~10重量%:溶媒90~98重量%
【0055】
当該組成物は、他の固形成分として、酸発生剤(C)、酸架橋剤(G)、酸拡散制御剤(E)およびその他の成分(F)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してもよい。
【0056】
当該組成物において、前記多分岐型樹脂の含有量は、特に限定されないが、固形成分の全重量(前記樹脂、酸発生剤(C)、架橋剤(G)、酸拡散制御剤(E)およびその他の成分(F)などの任意に使用される固形成分の総和、以下同様)の50~99.4重量%であることが好ましく、より好ましくは55~90重量%、更に好ましくは60~80重量%、特に好ましくは60~70重量%である。前記含有量の場合、解像度が一層向上し、ラインエッジラフネス(LER)が一層小さくなる。
【0057】
(酸発生剤(C))
当該組成物は、可視光線、紫外線、エキシマレーザー、電子線、極端紫外線(EUV)、X線およびイオンビームから選ばれるいずれかの放射線の照射により直接的または間接的に酸を発生する酸発生剤(C)を一種以上含有することが好ましい。
【0058】
この場合、当該組成物において、酸発生剤(C)の含有量は、固形成分の全重量の0.001~49重量%が好ましく、1~40重量%がより好ましく、3~30重量%が更に好ましく、10~25重量%が特に好ましい。前記含有量の範囲内で酸発生剤(C)を使用することにより、一層高感度でかつ一層低エッジラフネスのパターンプロファイルが得られる。
【0059】
当該組成物では、系内に酸が発生すれば、酸の発生方法は限定されない。g線、i線などの紫外線の代わりにエキシマレーザーを使用すれば、より微細加工が可能であるし、また高エネルギー線である電子線、極端紫外線、X線、イオンビームを使用すれば更に微細加工が可能である。
【0060】
前記酸発生剤(C)は、特に限定されず、例えば国際公開第2017/033943号に開示された化合物が挙げられる。酸発生剤(C)としては、芳香環を有する酸発生剤が好ましく、アリール基を有するスルホン酸イオンを有する酸発生剤がより好ましく、ジフェニルトリメチルフェニルスルホニウムp-トルエンスルホネート、トリフェニルスルホニウムp-トルエンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート、トリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホナートが特に好ましい。該酸発生剤を用いることで、ラインエッジラフネスを低減することができる。
【0061】
当該組成物は、酸発生剤として国際公開第2020/226150号に記載されたジアゾナフトキノン光活性化合物を更に含有することが好ましい。これらの中でも低ラフネスおよび溶解性の観点から、非ポリマー性ジアゾナフトキノン光活性化合物であることが好ましく、より好ましくは分子量1500以下の低分子化合物であり、さらに好ましくは分子量1200以下、特に好ましくは分子量1000以下である。このような非ポリマー性ジアゾナフトキノン光活性化合物の好ましい具体例としては、国際公開第2016/158881号に開示された非ポリマー性ジアゾナフトキノン光活性化合物が挙げられる。前記酸発生剤(C)は、単独でまたは2種以上を使用することができる。
【0062】
(架橋剤(G))
当該は、ネガ型レジスト材料として使用する場合やポジ型レジスト材料でもパターンの強度を増すための添加剤として使用する場合に、架橋剤(G)を一種以上含むことが好ましい。架橋剤は好ましくは酸架橋剤である。酸架橋剤(G)とは、酸発生剤(C)から発生した酸の存在下で、前記樹脂を分子内または分子間架橋し得る化合物である。このような酸架橋剤(G)は、特に限定されないが、例えば前記樹脂を架橋し得る1種以上の基(以下、「架橋性基」という。)を有する化合物を挙げることができる。
【0063】
このような架橋性基の具体例としては、特に限定されないが、国際公開第2020/226150号に記載されているものを例示できる。酸架橋剤(G)の架橋性基としては、ヒドロキシアルキル基、およびアルコキシアルキル基等が好ましく、特にアルコキシメチル基が好ましい。
【0064】
前記架橋性基を有する酸架橋剤(G)としては、特に限定されないが、国際公開第2020/226150号に記載されているものを例示できる。
【0065】
酸架橋剤(G)としては、更に、国際公開第2020/226150号に記載されているようなフェノール性水酸基を有する化合物、ならびにアルカリ可溶性樹脂中の酸性官能基に前記架橋性基を導入し、架橋性を付与した化合物および樹脂を使用することができる。
【0066】
当該組成物において酸架橋剤(G)は、アルコキシアルキル化ウレア化合物もしくはその樹脂、またはアルコキシアルキル化グリコールウリル化合物もしくはその樹脂(酸架橋剤(G1))、分子内にベンゼン環を1~6有し、ヒドロキシアルキル基またはアルコキシアルキル基を分子内全体に2以上有し、該ヒドロキシアルキル基またはアルコキシアルキル基が前記いずれかのベンゼン環に結合しているフェノール誘導体(酸架橋剤(G2))、少なくとも一つのα-ヒドロキシイソプロピル基を有する化合物(酸架橋剤(G3))が好ましい。例えば、国際公開第2017/033943号に開示された化合物が挙げられる。
【0067】
当該組成物において、酸架橋剤(G)の含有量は、固形成分の全重量の0.5~49重量%が好ましく、0.5~40重量%がより好ましく、1~30重量%が更に好ましく、2~20重量%が特に好ましい。前記酸架橋剤(G)の含有割合を0.5重量%以上とすると、レジスト膜のアルカリ現像液に対する溶解性の抑制効果を向上させ、残膜率が低下したり、パターンの膨潤や蛇行が生じたりするのを抑制することができるので好ましく、一方、49重量%以下とすると、レジストとしての耐熱性の低下を抑制できることから好ましい。
【0068】
また、前記酸架橋剤(G)中の前記酸架橋剤(G1)、前記酸架橋剤(G2)、前記酸架橋剤(G3)から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量も特に限定はなく、レジストパターンを形成する際に使用される基板の種類等によって種々の範囲とすることができる。
【0069】
(酸拡散制御剤(E))
当該組成物は、放射線照射により酸発生剤から生じた酸のレジスト膜中における拡散を制御して、未露光領域での好ましくない化学反応を阻止する作用等を有する酸拡散制御剤(E)を含有してもよい。この様な酸拡散制御剤(E)を使用することにより、当該組成物の貯蔵安定性が向上する。また解像度が一層向上するとともに、放射線照射前の引き置き時間、放射線照射後の引き置き時間の変動によるレジストパターンの線幅変化を抑えることができ、プロセス安定性に極めて優れたものとなる。
【0070】
このような酸拡散制御剤(E)は、特に限定されず、例えば、窒素原子含有塩基性化合物、塩基性スルホニウム化合物、塩基性ヨードニウム化合物等の放射線分解性塩基性化合物が挙げられる。酸拡散制御剤(E)としては、例えば、国際公開第2017/033943号に開示された化合物が挙げられる。酸拡散制御剤(E)は、単独でまたは2種以上を使用することができる。
【0071】
酸拡散制御剤(E)の含有量は、固形成分の全重量の0.001~49重量%が好ましく、0.01~10重量%がより好ましく、0.01~5重量%が更に好ましく、0.01~3重量%が特に好ましい。酸拡散制御剤(E)の含有量が前記範囲内であると、解像度の低下、パターン形状、寸法忠実度等の劣化を一層抑制できる。更に、電子線照射から放射線照射後加熱までの引き置き時間が長くなっても、パターン上層部の形状が劣化することがない。また、酸拡散制御剤(E)の含有量が10重量%以下であると、感度、未露光部の現像性等の低下を防ぐことができる。またこのような酸拡散制御剤を使用することにより、当該組成物の貯蔵安定性が向上し、また解像度が向上するとともに、放射線照射前の引き置き時間、放射線照射後の引き置き時間の変動によるレジストパターンの線幅変化を抑えることができ、プロセス安定性に極めて優れたものとなる。
【0072】
(その他の成分(F))
当該組成物には、本実施形態の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、その他の成分(F)として、溶解促進剤、溶解制御剤、増感剤、界面活性剤および有機カルボン酸またはリンのオキソ酸もしくはその誘導体等の各種添加剤を1種または2種以上添加することができる。その他の成分(F)としては、例えば、国際公開第2017/033943号に開示された化合物が挙げられる。
【0073】
その他の成分(F)の合計含有量は、固形成分の全重量の0~49重量%が好ましく、0~5重量%がより好ましく、0~1重量%が更に好ましく、0重量%が特に好ましい。
【0074】
当該組成物において、前記樹脂、酸発生剤(C)、酸拡散制御剤(E)、その他の成分(F)の含有量(前記樹脂/酸発生剤(C)/酸拡散制御剤(E)/その他の成分(F))は、固形物基準の重量%で、好ましくは50~99.4/0.001~49/0.001~49/0~49、より好ましくは55~90/1~40/0.01~10/0~5、更に好ましくは60~80/3~30/0.01~5/0~1、特に好ましくは60~70/10~25/0.01~3/0である。
各成分の含有割合は、その総和が100重量%になるように各範囲から選ばれる。前記含有割合にすると、感度、解像度、現像性等の性能に一層優れる。
【0075】
当該組成物の調製方法は、特に限定されず、例えば、使用時に各成分を溶媒に溶解して均一溶液とし、その後、必要に応じて、例えば孔径0.2μm程度のフィルター等でろ過する方法等が挙げられる。
【0076】
当該組成物は、効果を損なわない範囲で他の樹脂を含むことができる。当該他の樹脂は、特に限定されず、例えば、ノボラック樹脂、ポリビニルフェノール類、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸樹脂、およびアクリル酸、ビニルアルコール、またはビニルフェノールを単量体単位として含む重合体あるいはこれらの誘導体などが挙げられる。当該他の樹脂の含有量は、特に限定されず、種類に応じて適宜調節される。当該他の樹脂の含有量は、前記多分岐型樹脂100重量部当たり、30重量部以下が好ましく、より好ましくは10重量部以下、更に好ましくは5重量部以下、特に好ましくは0重量部である。
【0077】
[パターン形成方法]
パターン形成方法として、前記リソグラフィー膜形成組成物を基板上に塗布して膜(レジスト膜)を形成する膜形成工程と、形成された膜(レジスト膜)を露光する露光工程と、前記露光工程において露光された膜(レジスト膜)を現像してパターン(レジストパターン)を形成する現像工程とを備える方法が挙げられる。当該レジストパターンは、多層プロセスにおける上層レジストとして用いることもできる。
【0078】
(膜形成工程)
例えば、次のように本工程を実施できる。まず、従来公知の基板上に前記レジスト組成物を、回転塗布、流延塗布、ロール塗布等の塗布手段によって塗布することによりレジスト膜を形成する。従来公知の基板とは、特に限定されず、例えば、電子部品用の基板や、これに所定の配線パターンが形成されたもの等を例示することができる。より具体的には、特に限定されないが、例えば、シリコンウェハー、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属製の基板や、ガラス基板等が挙げられる。配線パターンの材料としては、特に限定されないが、例えば銅、アルミニウム、ニッケル、金等が挙げられる。また必要に応じて、前述基板上に無機系の膜または有機系の膜が設けられたものであってもよい。無機系の膜としては、特に限定されないが、例えば、無機反射防止膜(無機BARC)が挙げられる。有機系の膜としては、特に限定されないが、例えば、有機反射防止膜(有機BARC)が挙げられる。ヘキサメチレンジシラザン等による表面処理を行ってもよい。次に、必要に応じて、塗布した基板を加熱する。加熱条件は、前記組成物の組成等により変動するが、好ましくは20~250℃、より好ましくは20~150℃である。加熱することによって、レジストの基板に対する密着性が向上する場合があり好ましい。
【0079】
(露光工程)
例えば、次のように本工程を実施できる。可視光線、紫外線、エキシマレーザー、電子線、極端紫外線(EUV)、X線、およびイオンビームからなる群から選ばれるいずれかの放射線により、レジスト膜を所望のパターンに露光する。露光条件等は、前記組成物の組成等に応じて適宜選定される。レジストパターンの形成方法においては、露光における高精度の微細パターンを安定して形成するために、放射線照射後に加熱することが好ましい。加熱条件は、前記組成物の組成等により変動するが、好ましくは20~250℃、より好ましくは20~150℃である。
【0080】
(現像工程)
例えば、次のように本工程を実施できる。露光されたレジスト膜を現像液で現像することにより、所定のレジストパターンを形成する。前記現像液としては、前記樹脂に対して溶解度パラメーター(SP値)の近い溶剤を選択することが好ましい。好適な溶剤としては国際公開第2020/226150号に開示されているものを挙げることができる。
【0081】
現像液には、必要に応じて界面活性剤を適当量添加することができる。界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、イオン性や非イオン性のフッ素系またはシリコン系界面活性剤等を用いることができる。これらの界面活性剤としては、国際公開第2020/226150号に開示されているものを挙げることができる。非イオン性の界面活性剤としてフッ素系界面活性剤またはシリコン系界面活性剤を用いることが更に好ましい。
【0082】
界面活性剤の使用量は現像液の全量に対して、通常0.001~5重量%、好ましくは0.005~2重量%、更に好ましくは0.01~0.5重量%である。
【0083】
現像方法としては、たとえば、現像液が満たされた槽中に基板を一定時間浸漬する方法(ディップ法)、基板表面に現像液を表面張力によって盛り上げて一定時間静止することで現像する方法(パドル法)、基板表面に現像液を噴霧する方法(スプレー法)、一定速度で回転している基板上に一定速度で現像液塗出ノズルをスキャンしながら現像液を塗出しつづける方法(ダイナミックディスペンス法)などを適用することができる。パターンの現像を行なう時間には特に制限はないが、好ましくは10秒間~90秒間である。また、現像を行う工程の後に、他の溶媒に置換しながら、現像を停止する工程を実施してもよい。
【0084】
(他の工程)
現像の後には、有機溶剤を含むリンス液を用いて洗浄する工程を含むことが好ましい。現像後のリンス工程に用いるリンス液およびリンス方法としては、国際公開第2020/226150号に開示されているものを挙げることができる。
【0085】
レジストパターンを形成した後、エッチングすることによりパターン配線基板が得られる。エッチングの方法はプラズマガスを使用するドライエッチングおよびアルカリ溶液、塩化第二銅溶液、塩化第二鉄溶液等によるウェットエッチングなど公知の方法で行うことができる。
【0086】
レジストパターンを形成した後、めっきを行うこともできる。前記めっき法としては、特に限定されないが、例えば、銅めっき、はんだめっき、ニッケルめっき、金めっきなどがある。
【0087】
エッチング後の残存レジストパターンは有機溶剤で剥離することができる。前記有機溶剤および剥離方法としては国際公開第2020/226150号に開示されているものを挙げることができる。
【0088】
配線基板は、レジストパターン形成後、金属を真空中で蒸着し、その後レジストパターンを溶液で溶かす方法、すなわちリフトオフ法により形成することもできる。
【0089】
[リソグラフィー下層膜形成組成物、リソグラフィー下層膜、およびパターン形成方法]
(第一の実施形態)
<リソグラフィー下層膜形成組成物>
本実施形態に係るリソグラフィー下層膜形成組成物(以下「下層膜形成組成物」ともいう)は、前記多分岐型樹脂と、ケイ素含有化合物(例えば、加水分解性オルガノシラン、その加水分解物またはその加水分解縮合物)と、を含有する。下層膜形成組成物は、炭素濃度が比較的高く、酸素濃度が比較的低く、耐熱性が高く、溶媒溶解性も高い。このため、パターンの矩形性に優れる。また、膜の欠陥低減(薄膜形成)が可能で、保存安定性が良好であり、高感度で特定の波長領域での高屈折率および透明性を有し、かつ良好なレジストパターン形状を付与できる。
【0090】
下層膜形成組成物は、例えば、上層レジスト(フォトレジスト等)とハードマスクや有機下層膜などとの間に更にレジスト下層膜を備えた多層レジスト法に好適に用いることができる。このような多層レジスト法では、例えば、基板上の有機下層膜またはハードマスクを介してその上にレジスト下層膜を塗布法などによって形成し、そのレジスト下層膜上に上層レジスト(例えば、フォトレジスト、電子線レジスト、EUVレジスト)を形成する。そして、露光と現像とによってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンを用いてレジスト下層膜をドライエッチングしてパターンの転写を行い、有機下層膜をエッチングすることによりパターンを転写しその有機下層膜により基板の加工を行う。
【0091】
即ち、下層膜形成組成物を用いて形成されたリソグラフィー下層膜(レジスト下層膜)は、上層レジストとインターミキシングを起こしにくく、かつ耐熱性を有する。例えば、当該下層膜は、ハロゲン系(フッ素系)のエッチングガスに対するエッチング速度が、マスクとして用いられるパターニングされた上層レジストよりも大きいため、矩形で良好なパターンを得ることができる。更に、当該レジスト下層膜は酸素系エッチングガスに対する耐性が高いため、ハードマスクなど基材上に設けられた層のパターニング時には良好なマスクとして機能しうる。また、下層膜形成組成物は、レジスト下層膜を複数積層された態様にも用いることができる。この場合、当該レジスト下層膜の位置(何層目に積層されているか)は特に限定されず、上層レジストの直下であってもよく、一番基板側に位置する層であってもよいし、レジスト下層膜で挟まれた態様であってもよい。本開示において、リソグラフィー下層膜とレジスト下層膜との文言は互換的に使用される。
【0092】
微細なパターンを形成する上で、パターン倒れを防ぐためにレジスト膜厚が薄くなる傾向がある。レジストの薄膜化によりその下層に存在する膜にパターンを転写するためのドライエッチングは、上層の膜よりもエッチング速度が高くなければパターン転写ができない。本実施形態では、基板上に有機下層膜を介して、その上を本実施形態のレジスト下層膜(シリコン系化合物含有)で被覆し、さらにその上をレジスト膜(有機レジスト膜)で被覆することができる。有機系成分の膜と無機系成分の膜とはエッチングガスの選択によりドライエッチング速度が大きく異なり、有機系成分の膜は酸素系ガスでドライエッチング速度が高くなり、無機系成分の膜はハロゲン含有ガスでドライエッチング速度が高くなる。例えば、パターン転写されたレジスト下層膜を用いて、その下層の有機下層膜を酸素系ガスでドライエッチングして有機下層膜にパターン転写を行い、そのパターン転写された有機下層膜で、ハロゲン含有ガスを用いて基板加工を行うことができる。
【0093】
また、前記レジスト下層膜が、前記多分岐型樹脂と、ケイ素含有化合物(例えば、加水分解性オルガノシラン、その加水分解物またはその加水分解縮合物)と、を含むと、上層レジストの感度が向上し、上層レジストとインターミキシングを起こさず、露光および現像後のレジスト下膜形成膜のパターンの形状が矩形になる。これにより微細なパターンによる基板加工が可能になる。
【0094】
特に、レジスト下層膜が多分岐型複素環樹脂(例えば多分岐型PBO樹脂)で構成されると、極めて高い耐熱性を有し、かつ上層レジストとインターミキシングを極めて起こしにくいので好ましい。
【0095】
また、前記レジスト下層膜は、高い耐熱性を有するので、高温ベーク条件でも使用可能である。さらに、比較的に低分子量で低粘度であることから、段差を有する基板(特に、微細なスペースやホールパターン等)であっても、隅々まで均一に充填させることが容易であり、その結果、平坦化性や埋め込み特性が比較的に有利に高められる傾向にある。
【0096】
前記下層膜形成組成物は、前記多分岐型樹脂と、ケイ素含有化合物の他に、溶媒、酸、酸架橋剤などを更に含むことができる。更に、任意成分として、有機ポリマー化合物、酸発生剤および界面活性剤、その他、水、アルコール、および硬化触媒等を含むことができる。塗布性および品質安定性の点から、リソグラフィー下層膜中の前記多分岐型樹脂の含有量は、0.1~70重量%であることが好ましく、0.5~50重量%であることがより好ましく、3.0~40重量%であることが特に好ましい。
【0097】
溶媒としては、前記前記多分岐型樹脂が溶解するものであれば、公知のものを適宜用いることができる。溶媒の種類および量は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0098】
前記下層膜形成組成物は硬化性促進の観点から、酸を含むことができる。酸の種類および量は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0099】
前記下層膜形成組成物は、ネガ型レジスト材料として使用する場合やポジ型レジスト材料でもパターンの強度を増す為の添加剤として使用する場合に、酸架橋剤を一種以上含むことができる。酸架橋剤とは、上述の酸の存在下で、前記樹脂を分子内または分子間架橋し得る化合物である。酸架橋剤の種類および量は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0100】
前記下層膜形成組成物は、ケイ素含有化合物を含む。前記ケイ素含有化合物としては、有機ケイ素含有化合物または無機ケイ素含有化合物のいずれであってもよいが、有機ケイ素含有化合物であることが好ましい。ケイ素含有化合物の種類および量は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0101】
前記下層膜形成組成物は、前記の成分の他、必要に応じて有機ポリマー化合物、架橋剤、光酸発生剤および界面活性剤等を含むことができる。これらの成分の種類および量は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0102】
<リソグラフィー下層膜およびパターン形成方法>
本実施形態のリソグラフィー下層膜は、多層レジスト法に用いられる、フォトレジスト(上層)の下層(レジスト下層膜)として好適に用いることができる。
【0103】
本実施形態においては、例えば、前記下層膜形成組成物を用いてレジスト下層膜を形成し、前記レジスト下層膜上に、少なくとも1層のフォトレジスト層を形成した後、該フォトレジスト層の所定の領域に放射線を照射し、現像を行うことでパターンを形成することができる。レジスト下層膜は、多分岐型PA樹脂で下層膜前駆体を形成し、当該前駆体を300℃以上で加熱し、多分岐型PA樹脂を多分岐型PBO樹脂に転化させて形成することが好ましい。
【0104】
また、第一の実施形態に係るパターン形成方法の一態様としては、以下の工程を備える方法を挙げることができる。基板上に、塗布型有機下層膜材料を用いて有機下層膜を形成する工程;前記有機下層膜上に第一の実施形態の下層膜形成組成物を用いてレジスト下層膜を形成する工程;前記レジスト下層膜上に上層レジスト膜組成物を用いて上層レジスト膜を形成する工程;前記上層レジスト膜に上層レジストパターンを形成し、前記上層レジストパターンをマスクにして前記レジスト下層膜にエッチングでパターンを転写する工程;パターンが転写された前記レジスト下層膜をマスクにして前記有機下層膜にエッチングでパターンを転写する工程;パターンが転写された前記有機下層膜をマスクにして前記基板(被加工体)にエッチングでパターンを転写するする工程。
【0105】
別の態様として、以下の工程を備える方法を挙げることができる。基板上に炭素を主成分とする有機ハードマスクをCVD法で形成する工程;前記有機ハードマスク上に第一の実施形態の下層膜形成組成物を用いてレジスト下層膜を形成する工程;前記レジスト下層膜上に上層レジスト膜組成物を用いて上層レジスト膜を形成する工程;前記上層レジスト膜に上層レジストパターンを形成し、該上層レジストパターンをマスクにして前記レジスト下層膜にエッチングでパターンを転写する工程;パターンが転写された前記レジスト下層膜をマスクにして前記有機ハードマスクにエッチングでパターンを転写する工程;パターンが転写された前記有機ハードマスクをマスクにして前記基材(被加工体)にエッチングでパターンを転写する工程。
【0106】
前記基材としては、例えば、半導体基板を用いることができる。前記半導体基板としては、シリコン基板が一般的に用いることができるが、特に限定されず、Si、アモルファスシリコン(α-Si)、p-Si、SiO、SiN、SiON、W、TiN、Al等で被加工層と異なる材質のものを用いることができる。また、前記基材(被加工体;前記半導体基板を含む)を構成する金属としては、国際公開第2020/226150号に開示されているものを使用できる。
【0107】
本実施形態のパターン形成方法では、基板上に、有機下層膜、または有機ハードマスクを形成することができる。このうち、有機下層膜は塗布型有機下層膜材料からスピンコート法等を用いて形成することができ、有機ハードマスクは炭素を主成分とする有機ハードマスクの材料からCVD法を用いて形成することができる。このような有機下層膜および有機ハードマスクの種類等は、特に限定されないが、上層レジスト膜が露光によりパターン形成を行う場合は、十分な反射防止膜機能を発現するものが好ましい。このような有機下層膜または有機ハードマスクを形成することで、サイズ変換差を生じさせることなく上層レジスト膜で形成されたパターンを基材(被加工体)上に転写することができる。「炭素を主成分とする」ハードマスクとは、固形分の50重量%以上がアモルファスカーボンとも呼ばれa-C:Hと表示されるアモルファス水素化炭素等の炭素系材料で構成されているハードマスクを意味する。a-C:H膜は、様々な技術によって堆積させることができるが、プラズマ化学気相堆積(PECVD)が、費用効率および膜質調整可能性のために広く使用されている。前記ハードマスクの例としては、例えば、特表2013-526783号公報に記載のものを参照することができる。
【0108】
本実施形態のパターンの形成方法に使用されるレジスト下層膜は、有機下層膜等が設けられた被加工体上に、スピンコート法等によって形成できる。レジスト下膜をスピンコート法で形成する場合、スピンコート後、溶剤を蒸発させ、上層レジスト膜とのミキシング防止を目的として、架橋反応を促進させるためにベークをすることが望ましい。ベーク温度は50~500℃の範囲内が好ましい。このとき、製造されるデバイスの構造にもよるが、デバイスへの熱ダメージを少なくするため、ベーク温度は400℃以下が特に好ましい。ベーク時間は10秒~300秒の範囲内が好ましく用いられる。
【0109】
また、本実施形態のパターン形成方法では、上層レジスト膜にパターンを形成する方法として、波長が300nm以下の光またはEUV光を用いたリソグラフィー法、電子線直接描画法、および誘導自己組織化法のいずれかの方法を好適に用いることができる。このような方法を用いることで、レジスト上層膜上に微細なパターンを形成することができる。
【0110】
前記上層レジスト膜組成物としては、上述の上層レジスト膜にパターンを形成する方法に応じて適宜選択することができる。例えば、300nm以下の光またはEUV光を用いたリソグラフィーを行う場合、上層レジスト膜組成物としては、化学増幅型のフォトレジスト膜材料を用いることができる。このようなフォトレジスト膜材料としては、フォトレジスト膜を形成して露光を行った後に、アルカリ現像液を用いて露光部を溶解することによりポジ型パターンを形成するものや、有機溶媒からなる現像液を用いて未露光部を溶解することによりネガ型パターンを形成するものを例示できる。
【0111】
本実施形態で形成されるレジスト下層膜は、リソグラフィープロセスにおいて使用される光の波長によっては、その光を吸収することがある。そして、そのような場合には、基板からの反射光を防止する効果を有する反射防止膜として機能することができる。
【0112】
また、本実施形態で形成されるレジスト下層膜は、EUVレジストの下層膜としては、ハードマスクとしての機能以外に、EUVレジストの下層反射防止膜としても使用できる。また、前記下層膜形成組成物から形成される膜は、EUVの吸収能に優れることから、上層レジスト組成物の増感作用を発現することが可能であり、感度向上に寄与する。本実施形態で形成されるレジスト下層膜をEUVレジスト下層膜として用いた場合、そのプロセスはフォトレジスト用下層膜と同様に行うことができる。
【0113】
(第二の実施形態)
<レジスト下層膜形成組成物>
第二の実施形態に係るレジスト下層膜形成用組成物(以下「下層膜形成組成物」ともいう)は、前記多分岐型樹脂を含むが、ケイ素含有化合物を含まないことができる。
【0114】
本実施形態の下層膜形成組成物は、湿式プロセスが適用可能であり、耐熱性、段差埋め込み特性および平坦性に優れるフォトレジスト下層膜を形成するために有用である。そして、当該下層膜形成組成物は、炭素濃度が比較的高く、酸素濃度が比較的低く、溶媒溶解性も高い、特定構造を有する化合物を用いているため、ベーク時の膜の劣化が抑制され、フッ素ガス系プラズマエッチング等に対するエッチング耐性にも優れた下層膜を形成することができる。さらには、レジスト層との密着性にも優れるので、優れたレジストパターンを形成することができる。本実施形態の下層膜形成組成物は、特に耐熱性、段差埋め込み特性および平坦性に優れるため、例えば、複数のレジスト層のうち最下層に設けられるレジスト下層膜形成に用いることができる。ただし、本実施形態で形成されたレジスト下層膜は、更に基板との間に他のレジスト下層を含んでいてもよい。
【0115】
本実施形態に係る下層膜形成組成物は、溶媒、酸発生剤、酸架橋剤などを更に含むことができる。更に、任意成分として、塩基性化合物、その他、水、アルコール、および硬化触媒等を含むことができる。塗布性および品質安定性の点から、下層膜形成組成物中の前記樹脂の含有量は、0.1~70重量%であることが好ましく、0.5~50重量%であることがより好ましく、3.0~40重量%であることが特に好ましい。
【0116】
本実施形態において用いる溶媒としては、前記樹脂が少なくとも溶解するものであれば、公知のものを適宜用いることができる。溶媒の種類および量は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0117】
本実施形態の下層膜形成組成物は、インターミキシングを抑制する等の観点から、必要に応じて酸架橋剤を含有していてもよい。酸架橋剤の種類および量は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0118】
本実施形態の下層膜形成組成物は、熱による架橋反応をさらに促進させるなどの観点から、必要に応じて酸発生剤を含有していてもよい。酸発生剤の種類および量は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0119】
さらに、本実施形態の下層膜形成組成物は、保存安定性を向上させる等の観点から、塩基性化合物を含有していてもよい。塩基性化合物の種類および量は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0120】
また、本実施形態の下層膜形成組成物は、熱硬化性の付与や吸光度をコントロールする目的で、他の樹脂または化合物を含有していてもよい。このような他の樹脂または化合物としては、国際公開第2020/226150号に開示されているものを用いることができる。
【0121】
<リソグラフィー用レジスト下層膜およびパターン形成方法>
本実施形態において形成されたパターンは、例えば、レジストパターンや回路パターンとして用いることができる。本実施形態におけるレジスト下層膜の製造方法は第一実施形態で説明したとおりである。
【0122】
また、第二の実施形態に係るパターン形成方法は、基板上に、第二の実施形態の下層膜形成組成物を用いてレジスト下層膜を形成する工程(A-1工程)と、前記レジスト下層膜上に、少なくとも1層のフォトレジスト層を形成する工程(A-2工程)と、前記A-2工程において少なくとも1層のフォトレジスト層を形成した後、前記フォトレジスト層の所定の領域に放射線を照射し、現像を行う工程(A-3工程)と、を有する。フォトレジスト層とは、レジスト層の最外層、即ちレジスト層中最も表側(基板とは逆側)に設けられる層を意味する。
【0123】
さらに、第二の実施形態の他のパターン形成方法は、基板上に、第二の実施形態の下層膜形成組成物を用いてレジスト下層膜を形成する工程(B-1工程)と、前記下層膜上に、レジスト中間層膜材料(例えば、珪素含有レジスト層)を用いてレジスト中間層膜を形成する工程(B-2工程)と、前記レジスト中間層膜上に、少なくとも1層のフォトレジスト層を形成する工程(B-3工程)と、前記B-3工程において少なくとも1層のフォトレジスト層を形成した後、前記フォトレジスト層の所定の領域に放射線を照射し、現像してレジストパターンを形成する工程(B-4工程)と、前記B-4工程においてレジストパターンが形成された後、前記レジストパターンをマスクとして前記レジスト中間層膜をエッチングし、得られた中間層膜パターンをエッチングマスクとして前記下層膜をエッチングし、得られた下層膜パターンをエッチングマスクとして基板をエッチングすることで基板にパターンを形成する工程(B-5工程)と、を有する。
【0124】
レジスト下層膜の形成時には、上層レジスト(例えば、フォトレジスト層やレジスト中間層膜)とのミキシング現象の発生を抑制するとともに架橋反応を促進させるために、ベーク処理を施すことが好ましい。その条件は国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0125】
基板上にレジスト下層膜を作製した後、フォトレジスト層とレジスト下層膜との間にレジスト中間層膜を設けることができる。例えば、2層プロセスの場合はレジスト下層膜の上に珪素含有レジスト層または通常の炭化水素からなる単層レジスト等をレジスト中間層膜として設けることができる。また、例えば、3層プロセスの場合は、レジスト中間層膜とフォトレジスト層と間に珪素含有中間層、さらにその上に珪素を含まない単層レジスト層を作製することが好ましい。これらフォトレジスト層、レジスト中間層膜、およびこれら層の間に設けられるレジスト層を形成するためのフォトレジスト材料としては公知のものを使用することができる。珪素含有レジスト材料としては、国際公開第2020/226150号に開示されているものを使用することができる。また、Chemical Vapour Deposition(CVD)法で形成したレジスト中間層膜を用いることもできる。
【0126】
さらに、本実施形態のレジスト下層膜は、通常の単層レジスト用の反射防止膜あるいはパターン倒れ抑制のための下地材として用いることもできる。本実施形態のレジスト下層膜は、下地加工のためのエッチング耐性に優れるため、下地加工のためのハードマスクとしての機能も期待できる。
【0127】
上述の公知のフォトレジスト材料によりレジスト層を形成する場合においては、前記レジスト下層膜を形成する場合と同様に、スピンコート法やスクリーン印刷等の湿式プロセスが好ましく用いられる。また、レジスト材料をスピンコート法などで塗布した後、通常、プリベークが行われるが、このプリベークは、ベーク温度80~180℃、および、ベーク時間10秒間~300秒間の範囲で行うことが好ましい。その後、常法にしたがい、露光を行い、ポストエクスポジュアーベーク(PEB)、現像を行うことで、レジストパターンを得ることができる。なお、各レジスト膜の厚さは特に制限されないが、一般的には、30nm~500nmが好ましく、より好ましくは50nm~400nmである。
【0128】
また、露光光は、使用するフォトレジスト材料に応じて適宜選択して用いればよい。一般的には、波長300nm以下の高エネルギー線、具体的には248nm、193nm、157nmのエキシマレーザー、3~20nmの軟X線、電子ビーム、X線等を挙げることができる。
【0129】
上述の方法により形成されるレジストパターンは、本実施形態のレジスト下層膜によってパターン倒れが抑制されたものとなる。そのため、本実施形態のレジスト下層膜を用いることで、より微細なパターンを得ることができ、また、そのレジストパターンを得るために必要な露光量を低下させることができる。
【0130】
次に、得られたレジストパターンをマスクにしてエッチングを行う。2層プロセスにおけるレジスト下層膜のエッチングとしては、ガスエッチングが好ましく用いられる。ガスエッチングとしては、酸素ガスを用いたエッチングが好適である。酸素ガスに加えて、He、Arなどの不活性ガスや、CO、CO、NH、SO、N、NO、Hガスを加えることも可能である。また、酸素ガスを用いずに、CO、CO、NH、SO、N、NO、Hガスだけでガスエッチングを行うこともできる。特に後者のガスは、パターン側壁のアンダーカット防止のための側壁保護のために好ましく用いられる。
【0131】
一方、3層プロセスにおける中間層(フォトレジスト層とレジスト下層膜との間に位置する層)のエッチングにおいても、ガスエッチングが好ましく用いられる。ガスエッチングとしては、上述の2層プロセスにおいて説明したものと同様のものが適用可能である。とりわけ、3層プロセスにおける中間層の加工は、フロン系のガスを用いてレジストパターンをマスクにして行うことが好ましい。その後、上述したように中間層パターンをマスクにして、例えば酸素ガスエッチングを行うことで、レジスト下層膜の加工を行うことができる。
【0132】
ここで、中間層として無機ハードマスク中間層膜を形成する場合は、CVD法やALD法等で、珪素酸化膜、珪素窒化膜、珪素酸化窒化膜(SiON膜)が形成される。窒化膜の形成方法としては、以下に限定されないが、例えば、特開2002-334869号公報、国際公開2004/066377に記載された方法を用いることができる。このような中間層膜の上に直接フォトレジスト膜を形成することができるが、中間層膜の上に有機反射防止膜(BARC)をスピンコートで形成して、その上にフォトレジスト膜を形成してもよい。
【0133】
中間層として、ポリシルセスキオキサンベースの中間層も好ましく用いられる。レジスト中間膜に反射防止膜として効果を持たせることによって、効果的に反射を抑えることができる傾向にある。ポリシルセスキオキサンベースの中間層の具体的な材料については、以下に限定されないが、例えば、特開2007-226170号公報、特開2007-226204号公報に記載されたものを用いることができる。
【0134】
また、基板のエッチングも、常法によって行うことができ、例えば、基板がSiO、SiNであればフロン系ガスを主体としたエッチング、p-SiやAl、Wでは塩素系、臭素系ガスを主体としたエッチングを行うことができる。基板をフロン系ガスでエッチングする場合、2層レジストプロセスの珪素含有レジストと3層プロセスの珪素含有中間層は、基板加工と同時に剥離される。一方、塩素系あるいは臭素系ガスで基板をエッチングした場合は、珪素含有レジスト層または珪素含有中間層の剥離が別途行われ、一般的には、基板加工後にフロン系ガスによるドライエッチング剥離が行われる。
【0135】
本実施形態のレジスト下層膜は、これら基板のエッチング耐性に優れる。基板としては、公知のものを適宜選択して使用することができ、特に限定されないが、Si、α-Si、p-Si、SiO、SiN、SiON、W、TiN、Al等が挙げられる。また、基板は、基材(支持体)上に被加工膜(被加工基板)を有する積層体であってもよい。このような被加工膜としては、Si、SiO、SiON、SiN、p-Si、α-Si、W、W-Si、Al、Cu、Al-Si等種々のLow-k膜およびそのストッパー膜等が挙げられ、通常、基材(支持体)とは異なる材質のものが用いられる。なお、加工対象となる基板あるいは被加工膜の厚さは、特に限定されないが、通常、50nm~10,000nm程度であることが好ましく、より好ましくは75nm~5,000nmである。
【0136】
本実施形態のレジスト下層膜は段差を有する基板への埋め込み平坦性に優れる。埋め込み平坦性の評価方法としては、公知のものを適宜選択して使用することができ、特に限定はされないが、例えば、段差を有するシリコン製基板上に所定の濃度に調整した各化合物の溶液をスピンコートにより塗布し、110℃にて90秒間の溶媒除去乾燥を行い、所定の厚みとなるように下層膜を形成した後、240~300℃程度の温度で所定時間ベーク後のライン&スペース領域とパターンのない開放領域との下層膜厚みの差(ΔT)をエリプソメーターにより測定することにより、段差基板に対する埋め込み平坦性を評価することができる。
【0137】
[光学物品形成組成物およびその硬化物]
前記多分岐型樹脂は、光学材料に有用である。当該樹脂を含む光学部品形成組成物は、高屈折率の光学部品を提供でき、さらに保存安定性、構造体形成能(膜形成能)、耐熱性に優れることが期待される。光学物品の屈折率は光学部品の小型化や集光率の向上の観点から、好ましくは1.60以上、より好ましくは1.65以上、さらに好ましくは1.70以上、よりさらに好ましくは1.75以上である。光学物品の透明性は集光率の向上の観点から、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。屈折率の測定方法は特に制限されず公知の方法が用いられる。例えば、分光エリプソメトリー法、最小偏角法、臨界角法(アッベ式、プルフリッヒ式)、Vブロック法、プリズムカプラ法や液浸法(ベッケ線法)が挙げられる。透明性の測定方法は特に制限されず公知の方法が用いられる。例えば、分光光度計や分光エリプソメトリー法が挙げられる。
【0138】
また光学部品形成組成物を硬化して得られる硬化物は、三次元架橋物であることができ、低温から高温までの広範囲の熱処理によって着色が抑制され、高屈折率および高透明性が期待できる。
【0139】
本実施形態の光学部品形成組成物は、前記樹脂以外に、更に溶媒を含有することができる。該溶媒としては、前述のリソグラフィー膜形成組成物に用いられる溶媒と同様であることができる。
【0140】
本実施形態の光学部品形成組成物において、固形成分の量と溶媒の量との関係は、特に限定されないが、固形成分および溶媒の合計100重量%に対して、固形成分1~80重量%および溶媒20~99重量%であることが好ましく、より好ましくは固形成分1~50重量%および溶媒50~99重量%、更に好ましくは固形成分2~40重量%および溶媒60~98重量%であり、特に好ましくは固形成分2~10重量%および溶媒90~98重量%である。なお、本実施形態の光学部品形成組成物は溶媒を含まないこともできる。
【0141】
本実施形態の光学部品形成組成物は、他の固形成分として、酸発生剤(C)、酸架橋剤(G)、酸拡散制御剤(E)およびその他の成分(F)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してもよい。
【0142】
本実施形態の光学部品形成組成物において、前記多分岐型樹脂の含有量は、特に限定されないが、固形成分の全重量の50~99.4重量%であることが好ましく、より好ましくは55~90重量%、更に好ましくは60~80重量%、特に好ましくは60~70重量%である。
【0143】
本実施形態の光学部品形成組成物に含まれる酸発生剤(C)、酸架橋剤(G)、酸拡散制御剤(E)およびその他の成分(F)は、前述のリソグラフィー膜形成組成物に含まれ得るものと同様であることができる。
【0144】
本実施形態の光学部品形成組成物において、前記樹脂、酸発生剤(C)、酸拡散制御剤(E)、その他の成分(F)の含有量(前記樹脂/酸発生剤(C)/酸拡散制御剤(E)/その他の成分(F))は、固形物基準の重量%で、好ましくは50~99.4/0.001~49/0.001~49/0~49、より好ましくは55~90/1~40/0.01~10/0~5、更に好ましくは60~80/3~30/0.01~5/0~1、特に好ましくは60~70/10~25/0.01~3/0である。各成分の含有割合は、その総和が100重量%になるように各範囲から選ばれる。前記含有割合にすると、感度、解像度、現像性等の性能に一層優れる。
【0145】
本実施形態の光学部品形成組成物の調製方法は、特に限定されず、例えば、使用時に各成分を溶媒に溶解して均一溶液とし、その後、必要に応じて、例えば孔径0.2μm程度のフィルター等でろ過する方法等が挙げられる。
【0146】
本実施形態の光学部品形成組成物は、所期の目的を阻害しない範囲で他の樹脂を含むことができる。当該他の樹脂の種類および量は、国際公開第2020/226150号に開示されているとおりとすることができる。
【0147】
また本実施形態の硬化物は、前記光学部品形成組成物を硬化して得られ、各種樹脂として使用することができる。これらの硬化物は、高融点、高屈折率および高透明性といった様々な特性を付与する高汎用性の材料として様々な用途に用いることができる。当該硬化物は、前記組成物を光照射、加熱等の各組成に対応した公知の方法を用いることによって得ることができる。
【0148】
これらの硬化物は、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の各種合成樹脂として、更には、機能性を活かしてレンズ、光学シート等の光学部品として用いることができる。
【0149】
6.精製方法
前記多分岐型樹脂は精製されることが好ましい。その精製方法は、特に限定されないが、国際公開2015/080240に記載の方法や、国際公開2018/159707に記載の方法などを用いることができる。具体的に、当該精製方法は、前記樹脂を、水と任意に混和しない有機溶媒に溶解させて有機相を得て、その有機相を酸性水溶液と接触させ抽出処理を行うことにより、前記樹脂と有機溶媒とを含む有機相に含まれる金属分を水相に移行させた後、有機相と水相とを分離する工程を含む。水と任意に混和しない有機溶媒とは、通常、非水溶性溶媒に分類される有機溶媒である。当該有機溶媒としては、特に限定されないが、半導体製造プロセスに安全に適用できる有機溶媒が好ましい。使用する有機溶媒の量は、使用する該化合物に対して、通常1~100重量倍程度使用される。
【0150】
使用される有機溶媒の具体例としては、例えば、国際公開2015/080240に記載のものが挙げられる。これらの中でも、トルエン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル等が好ましく、特にシクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0151】
前記酸性の水溶液としては、一般に知られる有機、無機系化合物を水に溶解させた水溶液の中から適宜選択される。例えば、国際公開2015/080240に記載のものが挙げられる。これら酸性の水溶液は、それぞれ単独で用いることもできるし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。酸性の水溶液としては、例えば、鉱酸水溶液および有機酸水溶液を挙げることができる。鉱酸水溶液としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸からなる群より選ばれる1種以上を含む水溶液を挙げることができる。有機酸水溶液としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、p-トルエンスルホン酸およびトリフルオロ酢酸からなる群より選ばれる1種以上を含む水溶液を挙げることができる。酸性の水溶液のpHの範囲は0~5程度であり、より好ましくはpH0~3程度である。
【実施例0152】
[実施例1]ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂1
(1)トリカルボン酸系化合物(エステル体)の合成
下記スキームに示す反応を行った。
【0153】
【化8】
【0154】
100mLナスフラスコに、以下を仕込んだ。
4,4’,4”-トリヒドロキシトリフェニルメタン(MTP) 10.0mmol、2.92g
CO 35.0mmol、4.83g
ジメチルホルムアミド(DMF) 20 mL
内容物を80℃で60分間撹拌した。次いで、ブロモ酢酸エチル(EBA)35mmol、3.87mLをフラスコ内に加え、さらに80℃で24時間撹拌し、反応を行った。
【0155】
反応混合物を、0.01N塩酸水溶液に注ぎ、再沈殿させた。沈殿物を採取し、クロロホルムを用いた抽出操作に供した。当該抽出操作を合計で2回実施した。次に、有機相に飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて分液洗浄した。さらに、有機相に飽和食塩水を加えて分液洗浄した。
【0156】
洗浄工程を経て得た有機相に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。エバポレーターを用いて乾燥後の有機相を濃縮し、濃黄色液体を得た。濃黄色液体を、酢酸エチル/ヘキサン=1:1を移動相として用いたカラム分離に供し、残渣物を分離した。当該カラム分離で得た液体をさらにエバポレーターを用いて濃縮し、薄黄色粘性液体を得た。薄黄色粘性液体を分析し、目的とするエステル体が生成していることを確認した(図1Aおよび図1B)。収率は99%であった。
【0157】
(2)トリカルボン酸系化合物の合成
以下の反応を行った。
【0158】
【化9】
【0159】
300mLフラスコに以下を仕込んだ。
前記工程で得たエステル体 10mmol、5.5g
KOH 90mmol 5.05g
テトラヒドロフラン(THF):水=1:1の混合溶媒 150mL
50℃で72時間、内容物を撹拌し、水相を回収した。
【0160】
水相を弱酸性にし、酢酸エチルを用いた抽出に供した。飽和食塩水および無水硫酸マグネシウムを用いて、酢酸エチル相を洗浄した。洗浄後の酢酸エチル相をエバポレーターで濃縮し、ヘキサンを用いて洗浄した。酢酸エチル相を、桐山ロートを用いて濾過し、室温にて減圧乾燥した。このようにして目的物としてトリカルボン酸系化合物(オレンジ色固体、分子量:466.43)を得た。分析結果を図2に示す。
【0161】
(3)ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂の合成
以下の反応を行った。
【0162】
【化10】
【0163】
試験管に以下を仕込んだ。
前記(2)で合成したトリカルボン酸系化合物 0.23g
N-メチルピロリドン(NMP) 3.0mL
2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BAHP) 0.085g
ジイソプロルカルボジイミド(DIC) 0.25mL
25℃で24時間、内容物を撹拌し、反応を行った。ジクロロメタンを用いて反応混合物を再沈殿し、桐山ロートを用いて沈殿物を濾過し、目的物である樹脂を得た。H-NMRおよびGPCによる分析結果を図3Aおよび図3Bに示した。
収率:97%
Mn=7400、Mn/Mn=2.40
【0164】
溶媒の量を下表に示すとおりに変更した以外は、前述の方法で本樹脂の合成反応を行った。しかし、溶媒の量が少ないとゲル化してしまい、所望の樹脂を得ることができなかった。
【0165】
【表1】
【0166】
[実施例2]ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂
(1)トリカルボン酸系化合物(ハライド体:トリカルボン酸クロリド)の合成
下記スキームに示す反応を行った。
【0167】
【化11】
【0168】
200mLナスフラスコに、以下を仕込んだ。
実施例1の(2)で得られたトリカルボン酸:2.33g、7.76mmol
クロロホルム:30mL
塩化チオニル:60mモル、7.14g、4.36mL
ジメチルホルムアミド(DMF):一滴
【0169】
内容物を70℃で18時間撹拌した。反応混合物をエバポレーターで濃縮し、ヘキサンを用いて洗浄した。目的物として、橙色の粘性固体を得た。収率は98%であった。分析結果を図4に示す。
【0170】
(2)ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂の合成
以下の反応を行った。
【0171】
【化12】
【0172】
試験管に以下を仕込んだ。
前記(1)で得たトリカルボン酸系化合物(トリカルボン酸クロリド(MBOAC)) 0.26g 0.5mmol
2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BAHP) 0.19g 0.75mmol
ジメチルホルムアミド(DMF) 0.3mL
4-ジメチルアミノピリジン(DMAP) 0.19g
【0173】
25℃で20時間、内容物を撹拌し、反応を行った。ジエチルエーエルを用いて反応混合物を再沈殿した。沈殿物を採取し、1N塩酸水溶液で洗浄した。減圧乾燥を行って、目的物であるポリアミド構造を有する多分岐型樹脂を得た。H-NMRおよびGPCによる分析結果を図5Aおよび図5Bに示した。
【0174】
2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BAHP)(表2の(B))とトリカルボン酸クロリド(表2の(A))との仕込比を変更し、同じ方法で樹脂を製造した。当該仕込比は、下表に示す官能基当量比を達成できる比とした。結果を当該表に示した。
【0175】
【表2】
【0176】
(3)物性
1)耐熱性
得られた前記多分岐型樹脂について、TGA(熱重量測定)によって熱分解温度を測定した。結果を図5Cに示した。当該樹脂は優れた耐熱性を有していた。
【0177】
2)溶解性
前記多分岐型樹脂について、各種溶媒への溶解性を評価した。20℃にて、2gの溶媒に、2mgの樹脂が溶解した場合を「完全可溶(+)」、溶解しなかった場合を「不溶(-)」と評価した。結果を下表に示す。当該樹脂は主要な溶媒に対して良好な溶解性を有していることが明らかである。
【0178】
【表3】
【0179】
THF:テトラヒドロフラン
DMF:ジメチルホルムアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)
NMP:N-メチルピロリドン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
MEK:メチルエチルケトン
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0180】
3)製膜性
前記多分岐型樹脂をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解して濃度3重量%の組成物を得た。シリコンウェハー上に、以下の条件で当該溶液をスピンコートし、ポストベークして膜を得た。製膜性は良好であった。
回転数:2500rpm
乾燥:200℃で10分
膜厚:32.4nm
ただし、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)を用いた場合は、製膜できなかった。
【0181】
[実施例3]
以下の反応を行い、ポリアミド構造を有する多分岐型樹脂を合成した。
【0182】
【化13】
【0183】
試験管に以下を仕込んだ。
2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロメチルプロパン(BAHFP) 0.75mmol、0.275g
トリカルボン酸系化合物(1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリド(BCC)) 0.5mmol、0.132g
ジメチルホルムアミド(DMF) 1.5mL
4-ジメチルアミノピリジン(DMAP) 1.5mmol 0.183g
【0184】
25℃で20時間、内容物を撹拌し、反応を行った。水を用いて反応混合物を再沈殿した。沈殿物を採取し、ジエチルエーテルで洗浄した。次いで、沈殿物を、桐山ロートを用いてろ過し、室温で減圧乾燥を行って、目的物である樹脂を得た。GPCによる分析結果を図6に示した。
【0185】
トリカルボン酸クロリド(BCC)と2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロメチルプロパン(BAHFP)の仕込比および使用した溶媒の量を表4に示すように変更して、同じ方法で樹脂を製造した。当該仕込比は、下表に示すとおりとした。結果を当該表に示した。またGPCによる分析結果を図6に示した。
【0186】
【表4】
【0187】
[実施例4]
反応温度を変更した以外は、実施例3と同じ方法で樹脂を製造した。結果を表5に示した。またGPCおよびFT‐IRによる分析結果を図7Aおよび図7Bに示した。
【0188】
【表5】
【0189】
表4のRun3の樹脂について、前述の方法にて溶解性、および製膜性を評価した。結果をそれぞれ表6、表7に示す。
【0190】
【表6】
【0191】
【表7】
【0192】
屈折率は、以下の手順で測定した。
樹脂をDMFに溶解し、その溶液をシリコンウェハー上にスピンコートして、薄膜を調製した。
株式会社フォトニックラティス製膜厚・屈折率分布測定装置SE-101を使用し、当該薄膜の620nmでの屈折率を測定した。
【0193】
[実施例5]多分岐型ポリベンゾオキサゾールの合成
表4のRun3にて得た多分岐型PA樹脂から製造した膜厚70nmの膜(表7の膜厚70nmに相当)を、不活性雰囲気下、300℃で60分間加熱した。その結果、分子内環化が起こり多分岐型ポリベンゾオキサゾール(PBO)の膜が生成した。分析結果を図8Aおよび図8Bに示した。
【0194】
さらに、前記多分岐型ポリベンゾオキサゾールの膜の上に、定法に従い、BCA[4]-DBHを製膜した。BCA[4]-DBHは、カリックスアレンから合成した主鎖分解型環状分子レジスト材料である(国際公開2021/230185号またはJournal of Photopolymer Science and Technology Volume 33, Number 1 (2020) 45 - 51参照)。当該材料は、以下の構造を有し、溶解性、成膜性に優れ、高感度な極端紫外線用レジスト材料である。
【0195】
【化14】
【0196】
【表8】
【0197】
[実施例6]フッ素導入率の検討
実施例3と同様の方法で多分岐型PA樹脂を合成した。ただし、ジアミノ化合物として、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロメチルプロパン(BAHFP)と2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BAHP)を使用し、トリカルボン酸系化合物として、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸クロライド(BCC)使用し、仕込み量を表9のように変更した。さらに反応条件を25℃で24時間とした。次いで、実施例5と同じ方法で、当該多分岐型PA樹脂を加熱して、多分岐型ポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂膜の製造を試みた。結果を表9に示す。
【0198】
【表9】
【0199】
Run1ではフッ素を含まないジアミノ化合物としてBAHPを使用した。一方、Run2以降はBAHPをフッ素を含むBAHFPに置き換えて、フッ素導入率を高くした。フッ素導入率が高くなるにつれて、分子内環化が起こりやすくなり多分岐型PBO樹脂膜の形成が可能となることが明らかとなった。フッ素原子が導入されると、フッ素原子同士が反発しあうため、ポリマー密度が低下し、そのため、溶解性が向上して成膜性も向上すると考えられる。
【0200】
[実施例7]
実施例3のRUN3で得られたポリアミド構造を有する多分岐樹脂Poly(BCC-co-BAHFP)を用いて、Poly(BCC-co-BAHFP)のBOC保護体を得た。具体的に、以下の方法によって保護体を得た。
【0201】
試験管に以下を仕込んだ。
Poly(BCC-co-BAHFP)0.5mmol、0.285g
N-メチルピロリドン(NMP) 20mL
ジ-tert-ブチルジカーボネート 1.0mmol、0.228g
トリエチルアミン 0.2g
【0202】
25℃で24時間、内容物を撹拌し、反応を行った。水を用いて反応混合物を再沈殿した。沈殿物を採取し、減圧乾燥し、目的物である白色樹脂を得た。NMR測定でPoly(BCC-co-BAHFP)の水酸基ピークの消失とBOC基ピークの出現、およびIR測定でBOC基由来ピークが出現していることにより、目的物の生成を確認した(図9、10)。
【0203】
【化15】
【0204】
前記保護体について、前述の方法に従い溶解性を評価した。結果を下表に示す。
【0205】
【表9A】
【0206】
前記保護体は、リソグラフィー用途で多用されるPGME、PGMEAにも溶解性を示すため、リソグラフィー材料として優れていることが分かった。
【0207】
(合成比較例1)CR-1の合成
ジムロート冷却管、温度計および撹拌翼を備え、底抜きが可能な内容積10Lの四つ口フラスコを準備した。この四つ口フラスコに、窒素気流中、1,5-ジメチルナフタレン1.09kg(7mol、三菱ガス化学(株)製)、40重量%ホルマリン水溶液2.1kg(ホルムアルデヒドとして28mol、三菱ガス化学(株)製)および98重量%硫酸(関東化学(株)製)0.97mLを仕込み、常圧下、100℃で還流させながら7時間反応させた。その後、希釈溶媒としてエチルベンゼン(和光純薬工業(株)製試薬特級)1.8kgを反応液に加え、静置後、下相の水相を除去した。さらに、中和および水洗を行い、エチルベンゼンおよび未反応の1,5-ジメチルナフタレンを減圧下で留去することにより、淡褐色固体のジメチルナフタレンホルムアルデヒド樹脂1.25kgを得た。得られたジメチルナフタレンホルムアルデヒドの分子量Mnは562であった。
【0208】
続いて、ジムロート冷却管、温度計および撹拌翼を備えた内容積0.5Lの四つ口フラスコを準備した。この四つ口フラスコに、窒素気流下で、前記ジメチルナフタレンホルムアルデヒド樹脂100g(0.51mol)とパラトルエンスルホン酸0.05gとを仕込み、190℃まで昇温させて2時間加熱した後、撹拌した。その後さらに、1-ナフトール52.0g(0.36mol)を加え、さらに220℃まで昇温させて2時間反応させた。溶剤希釈後、中和および水洗を行い、溶剤を減圧下で除去することにより、黒褐色固体の変性樹脂(CR-1)126.1gを得た。得られた樹脂(CR-1)は、Mn:885、Mw:2220、Mw/Mn:4.17であった。樹脂(CR-1)のMn、MwおよびMw/Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により、以下の測定条件にてポリスチレン換算にて求めた。
装置:Shodex GPC-101型(昭和電工株式会社製品)
カラム:KF-80M×3
溶離液:THF 1mL/min
温度:40℃
【0209】
(合成例1)AC-1の合成
2-メチル-2-メタクリロイルオキシアダマンタン4.15g、メタクリルロイルオキシ-γ-ブチロラクトン3.00g、3-ヒドロキシ-1-アダマンチルメタクリレート2.08g、およびアゾビスイソブチロニトリル0.38gを、テトラヒドロフラン80mLに溶解させて反応溶液を調製した。窒素雰囲気下で、当該反応溶液を撹拌しながら温度を63℃に保持し、22時間重合を行った。その後、反応溶液を400mLのn-ヘキサン中に滴下した。得られた樹脂を凝固精製し、生成した白色粉末をろ過した後、減圧下40℃で一晩乾燥させて、下記式で示されるAC-1を得た。
【0210】
【化16】
【0211】
式AC-1中、“40”,“40”,“20”とは、各構成単位の比率を示し、ブロック共重合体であることを示してはいない。
【0212】
[実施例A、比較例A]
表10に示す樹脂、およびCR-1を用いて、表10に示す組成のリソグラフィー膜形成用組成物(リソグラフィー用膜形成用組成物)を各々調製した。
【0213】
酸発生剤、酸拡散制御剤、架橋剤、および有機溶媒については以下を用いた。表10中、括弧内の数値は、配合量(重量部)である。
<酸発生剤>
みどり化学(株)製 トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート(TPS-109(商品名))
みどり化学社製 ジターシャリーブチルジフェニルヨードニウムノナフルオロブタンスルホナート(DTDPI)
関東化学製 ピリジニウムパラトルエンスルホン酸(表中、「PPTS」と記載)
<酸拡散制御剤>
トリ-n-オクチルアミン(TOA、関東化学(株)製)
<架橋剤>
ニカラックMW-100LM(MW-100LM、商品名、(株)三和ケミカル製)
三和ケミカル製 ニカラックMX270
本州化学工業株式会社製 TMOM-BP
<有機溶媒>
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、関東化学(株)製)
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、関東化学(株)製)
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA、関東化学(株)製)
【0214】
【表10】
【0215】
[評価方法]
(1)レジスト膜形成用組成物の薄膜形成
表10に記載の組成に従って、それぞれのレジスト膜形成用組成物を作製後、均一状態のレジスト膜形成用組成物を清浄なシリコンウェハー上に回転塗布した。その後、110℃のオーブン中で露光前ベーク(PB)して、厚さ40nmのレジスト膜を形成した。
【0216】
(2)レジストパターン
前記の(1)で得た、それぞれのレジスト膜に対して、電子線描画装置(ELS-7500、(株)エリオニクス社製、50keV)を用いて、50nm間隔の1:1のラインアンドスペース設定にて電子線を照射した。照射後に、レジスト膜を、それぞれ110℃、および90秒間加熱し、実施例A1~A16はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の現像液に60秒間浸漬して現像を行った。比較例A1はプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)の現像液に60秒間浸漬して現像を行った以外は、実施例A1と同様にして実施した。その後、それぞれのレジスト膜を、超純水で30秒間洗浄し、乾燥して、レジストパターンを形成した。
【0217】
得られた50nm間隔のL/S(1:1)のレジストパターンの形状を(株)日立製作所製電子顕微鏡(S-4800、商品名)を用いて観察した。現像後のレジストパターン形状については、以下の基準で評価した。
A:パターン倒れがなく、矩形性が比較例A1より良好である。
B:矩形性は比較例A1より良好であるが1μm×1.5μmの範囲内にパターン倒れが1~3か所見られるもの
C:比較例A1と同等または比較例A1よりも劣る
なお、比較例A1では、現像後のレジストパターン形状について、パターン倒れが認められ、矩形性が不良であった。
【0218】
(3)エッチング耐性
前記の評価方法(1)で得られた、それぞれのレジスト膜について、エッチング試験を行い、そのときのエッチングレートを測定した。また、表10に示す組成において実施例A1で用いたポリアミド構造を有する多分岐型樹脂(実施例1のRun4で得た樹脂)の代わりにノボラック樹脂(群栄化学工業(株)社製PSM4357(型番))を用いて比較用組成物を調製した。当該比較用組成物について、前記(1)と同様の方法でレジスト膜を作製し、このレジスト膜についても、エッチング試験を行った。エッチング条件は以下である。
【0219】
(エッチング条件)
エッチング装置:サムコ(株)社製RIE-10NR(商品名)
出力:50W
圧力:20Pa
時間:2min
エッチングガス:Arガス流量:CFガス流量:Oガス流量=50:5:5(sccm)
【0220】
ノボラック樹脂を用いた比較用組成物から得たレジスト膜のエッチングレートを基準として、各レジスト膜のエッチング耐性を下記の評価基準で評価した。
【0221】
(評価基準)
S:ノボラック樹脂のレジスト膜に比べてエッチングレートが、-15%未満である。
A:ノボラック樹脂のレジスト膜に比べてエッチングレートが、-15%以上、-10%未満である。
B:ノボラック樹脂のレジスト膜に比べてエッチングレートが、-10%以上、0%未満である。
C:ノボラック樹脂のレジスト膜に比べてエッチングレートが、0%以上である。
【0222】
これらの評価結果を表11に示す。
【0223】
【表11】
【0224】
[実施例B]
実施例Aと同様にして、実施例5、実施例6で得られたPBO膜のエッチング耐性を測定した。結果を表12に示す。
【0225】
【表12】
【0226】
[実施例C]
(1)レジスト下層膜の形成
実施例Aと同じ樹脂を用いて表13に示す組成のレジスト下層膜形成用組成物を各々調製した。次に、これらのレジスト下層膜形成用組成物をシリコン基板上に回転塗布し、その後、240℃で60秒間、さらに400℃で120秒間ベークして、膜厚70nmのレジスト下層膜を各々作製した。酸発生剤、架橋剤および有機溶媒については以下を用いた。
<酸発生剤>
ジtert-ブチルジフェニルヨードニウムノナフルオロメタンスルホナート(表中「DTDPI」と示す。)(みどり化学株式会社製)
トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート(TPS-109(商品名))(みどり化学株式会社製)
関東化学製 ピリジニウムパラトルエンスルホン酸(表中、「PPTS」と記載)
<架橋剤>
「ニカラックMX270」(表中「MX270」と示す。)(製品名、三和ケミカル株式会社製)
「ニカラックMW-100LM」(表中「MW-100LM」と示す。)(商品名、三和ケミカル製)
本州化学工業株式会社製 TMOM-BP
<有機溶媒>
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、関東化学(株)製)
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、関東化学(株)製)
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA、関東化学(株)製)
【0227】
【表13】
【0228】
実施例C19~C22の下層膜として、実施例Bと同様にして形成したPBO膜を用いた。
【0229】
(2)レジスト膜の形成と評価
前記(1)で形成したレジスト下層膜上に、ArF用レジスト溶液を塗布し、130℃で60秒間ベークすることにより、膜厚140nmのフォトレジスト膜を形成した。ArFレジスト溶液は、前記合成例1で得た樹脂(AC-1)を5重量部、トリフェニルスルホニウムノナフルオロメタンスルホナートを1重量部、トリブチルアミンを2重量部、およびPGMEAを92重量部、配合して調製した。
【0230】
次いで、電子線描画装置「ELS-7500」(製品名、株式会社エリオニクス社製、50keV)を用いて、フォトレジスト膜を露光した。次いで、115℃で90秒間ベーク(PEB)を行い、2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液で60秒間現像することにより、ポジ型のレジストパターンを得た。
【0231】
得られた55nmL/S(1:1)および80nmL/S(1:1)のレジストパターンの欠陥を観察した各結果を、表14に示す。表中、「現像後のレジストパターン」の結果として示す「良好」とは、形成されたレジストパターンにパターンの倒れが見られなかったことを示し、「不良」とは、形成されたレジストパターンにパターンの倒れが見られたことを示す。また、上記観察の結果、パターン倒れが無く、矩形性が良好な最小の線幅を“解像性”として評価の指標とした。その結果を、表14に示す。
【0232】
[比較例C1]
下層膜の形成を行わないこと以外は、実施例C1と同様にして、フォトレジスト膜をSiO基板上に直接形成し、ポジ型のレジストパターンを得た。結果を表14に示す。
【0233】
【表14】
【0234】
実施例で得たレジスト下層膜は、解像性に優れ、良好なレジストパターンを形成できることが明らかである。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10