(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159736
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】eスポーツのパフォーマンス向上用アミノ酸含有組成物、それを含む飲食品、およびeスポーツのパフォーマンス向上方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20241031BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241031BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241031BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241031BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P25/00
A61P43/00 121
A61K47/02
A61K47/12
A61K9/20
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/48
A23L33/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024073496
(22)【出願日】2024-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2023073158
(32)【優先日】2023-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 梨那
(72)【発明者】
【氏名】萩 佳斗
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
(72)【発明者】
【氏名】多賀 淳
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD04
4B018MD09
4B018MD10
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4B018MD27
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4B018MD94
4B018ME14
4B018MF02
4C076AA30
4C076AA31
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4C076CC01
4C076CC40
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4C206AA01
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4C206HA28
4C206HA32
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA61
4C206MA63
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】eスポーツのプレー前またはプレー中に摂取することでeスポーツのパフォーマンスを向上させることのできるアミノ酸含有組成物を提供する。
【解決手段】eスポーツの競技者が摂取することでパフォーマンスを向上させることのできる有効成分がないかを鋭意検討した結果、特定のアミノ酸を含むアミノ酸含有組成物を摂取することで、eスポーツのパフォーマンスを向上させる効果が得られることが確認された。このアミノ酸含有組成物は、シトルリンまたはその塩、およびアルギニンまたはその塩を有効成分として含有し、eスポーツのパフォーマンス向上作用を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトルリンまたはその塩、およびアルギニンまたはその塩を有効成分として含有する、eスポーツのパフォーマンス向上用アミノ酸含有組成物。
【請求項2】
重曹をさらに含有する、請求項1に記載のアミノ酸含有組成物。
【請求項3】
クエン酸をさらに含有する、請求項2に記載のアミノ酸含有組成物。
【請求項4】
錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤からなる群より選ばれる形態である、請求項1に記載のアミノ酸含有組成物。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のアミノ酸含有組成物を含む、飲食品。
【請求項6】
シトルリンまたはその塩、およびアルギニンまたはその塩の有効量を、必要とする対象に投与することを含む、eスポーツのパフォーマンス向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、eスポーツのパフォーマンスを向上させることのできるアミノ酸含有組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
eスポーツ(esports)とは「エレクトロニック・スポーツ」の略称であり、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である。近年、eスポーツは、スポーツ競技の一種として認識されつつあり、世界的な大会が開催されたり、プロのプレイヤーが登場したりしている。
【0003】
eスポーツの競技者は、身体的側面および精神的側面の両側面で大きな負荷がかかることが予測され、競技中のパフォーマンスの向上や集中力の向上が求められる。集中力は、eスポーツの競技のみならず、日常生活の様々な場面において(例えば、運動でのパフォーマンス向上や学習、仕事における作業効率の最大化を図る上で)、欠かすことのできない能力と言える。そのため、集中力を向上させるための方法、あるいは、集中力の向上作用を有する生理活性成分などの研究が行われている。
【0004】
従来、集中力の向上効果が確認されている物質として、シトルリンが知られている。L-シトルリンは、生体内でタンパク質の合成原料としては使われず、遊離の状態で存在するアミノ酸の一種である。体内ではアルギニン前駆体としてアルギニン生合成や、一酸化窒素(NO)の供給に関わるNOサイクルの構成因子として重要な役割を果たしている。例えば、特許文献1には、シトルリンまたはその塩を有効成分として含有する注意集中力向上剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/096505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、eスポーツが正式なスポーツの一つと捉えられ、競技として確立されつつある状況下において、eスポーツをプレーすることによる心身に与える影響が懸念されている。eスポーツの競技中に、身体的および精神的に大きな負荷がかかると、パフォーマンスが低下するため、eスポーツの大会などにおいて良好な結果が得られないことが懸念される。
【0007】
そこで、本発明では、eスポーツのプレー前またはプレー中に摂取することでeスポーツのパフォーマンスを向上させることのできるアミノ酸含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、eスポーツの競技者が摂取することでパフォーマンスを向上させることのできる有効成分がないかを鋭意検討した。そして、特定のアミノ酸を含むアミノ酸含有組成物を摂取することで、eスポーツのトレーニングソフトの成績を向上させる効果が見込めることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の一局面に係るアミノ酸含有組成物は、シトルリンまたはその塩、およびアルギニンまたはその塩を有効成分として含有する。このアミノ酸含有組成物は、eスポーツのパフォーマンス向上用である。
【0010】
上記のアミノ酸含有組成物は、重曹をさらに含有することが好ましい。
【0011】
上記のアミノ酸含有組成物は、クエン酸をさらに含有することが好ましい。
【0012】
上記のアミノ酸含有組成物は、錠剤、散剤、顆粒剤およびカプセル剤からなる群より選ばれる形態であってもよい。
【0013】
本発明のもう一つの局面に係る飲食品は、上記の何れかのアミノ酸含有組成物を含む。
【0014】
本発明のさらに別の局面は、シトルリンまたはその塩、およびアルギニンまたはその塩の有効量を、必要とする対象に投与することを含む、eスポーツのパフォーマンス向上方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一局面に係るアミノ酸含有組成物は、eスポーツのプレー前またはプレー中に摂取することでeスポーツのパフォーマンスを向上させることができる。そのため、例えば、eスポーツを行う際に摂取する飲食品などに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例におけるeスポーツのパフォーマンス向上効果確認試験のスケジュールを示す模式図である。
【
図2】実施例におけるアンケート調査で使用した質問紙を示す図である。
【
図3】実施例のパフォーマンス向上効果確認試験のうちの種目「FLICKING」の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例のパフォーマンス向上効果確認試験のうちの種目「TRACKING」の結果を示すグラフである。
【
図5】実施例のパフォーマンス向上効果確認試験のうちの種目「SPEED」の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例のパフォーマンス向上効果確認試験のうちの種目「PRECISION」の結果を示すグラフである。
【
図7】実施例のアンケート調査における設問1「集中の長さ」の程度の変化量を示すグラフである。
【
図8】実施例のアンケート調査における設問2「集中の深さ」の程度の変化量を示すグラフである。
【
図9】実施例のアンケート調査における設問3「長い時間集中できたか」の程度の変化量を示すグラフである。
【
図10】実施例のアンケート調査における設問4「深く集中できたか」の変化量を示すグラフである。
【
図11】実施例のアンケート調査における設問5「頭が冴えたか」の程度の変化量を示すグラフである。
【
図12】実施例のアンケート調査における設問6「本来の力を発揮できたか」の程度の変化量を示すグラフである。
【
図13】実施例のアンケート調査における設問7「実力以上のパフォーマンスを発揮できたか」の程度の変化量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてより具体的に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
本発明に係るアミノ酸含有組成物は、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を有効成分として含有し、eスポーツのパフォーマンス向上作用を有する。すなわち、本発明に係るアミノ酸含有組成物は、eスポーツのパフォーマンス向上用アミノ酸含有組成物とも呼ばれる。
【0019】
ここで、「eスポーツ(esports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略称であり、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を含む。eスポーツには、例えば、コンピューターゲーム、ビデオゲームなどを使って対戦を行う種々の競技種目が含まれる。また、eスポーツのトレーニングソフト(例えば、Aim Lab(開発元:State Space Labs, Inc.)など)を用いて行うスコア測定および競技もeスポーツの範疇に含まれる。
【0020】
また、「eスポーツのパフォーマンス向上作用」とは、対戦式のeスポーツの場合には対戦成績を向上させる作用、スコア評価式のeスポーツの場合にはスコアアップなどを意味する。また、「eスポーツのパフォーマンス向上作用」には、競技者自身の体感によるパフォーマンス向上効果や競技中の集中力向上効果なども含まれる。「eスポーツのパフォーマンス向上作用」は、例えば、eスポーツのトレーニングソフトなどを用いてスコアを測定することによって確認することができる。
【0021】
本発明に係るアミノ酸含有組成物を摂取または投与する対象は、主に、ヒト(例えば、健常者)であり、特に、eスポーツを行う前のヒト、またはeスポーツを行っている最中のヒトなどが好適な対象者となる。例えば、eスポーツの競技者、eスポーツの愛好者がアミノ酸含有組成物を摂取することで、摂取しない場合と比較して、eスポーツのパフォーマンスを向上させることができる。
【0022】
一方で、ヒトと同様に雑食性で類似の代謝系を有する哺乳類(例えばイヌ,ネコなど)においても、本発明に係るアミノ酸含有組成物を摂取することで同様な効果が得られることが期待できる。イヌにおけるスポーツ競技としては、アジリティー、フライングディスク、フライボールなどの活発に運動するスポーツ競技が多いが、このような競技以外に、例えば、オブディエンス、ノーズワークなど認知性を競うスポーツも存在する。さらに最近では、タッチパネルを利用したイヌ用ゲームアプリが開発されている背景などから、ヒトだけでなく動物においてもeスポーツのパフォーマンス向上用アミノ酸含有組成物は有用であると考えられる。したがって、本発明に係るアミノ酸含有組成物を投与する対象は、ヒト以外の動物であってもよい。
【0023】
本発明に係るアミノ酸含有組成物の摂取形態は、eスポーツのパフォーマンス向上に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与または、例えば静脈内、腹膜内もしくは皮下投与等の非経口投与を挙げることができるが、経口投与が好ましい。
【0024】
本発明のアミノ酸含有組成物に含まれるシトルリンおよびアルギニンとしては、L-体、D-体およびDL-体のいずれであってもよいが、L-体が好ましい。
【0025】
また、本発明のアミノ酸含有組成物に含まれるシトルリンおよびアルギニン、並びにこれらの塩は、これらを多く含有する動植物から単離精製する方法、化学的に合成する方法、発酵生産する方法等により取得することができる。さらにまた、例えば、協和発酵バイオ社、シグマ-アルドリッチ社等より市販品を購入することもできる。
【0026】
本発明のアミノ酸含有組成物に含まれ得るシトルリンおよびアルギニンの塩としては、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。
【0027】
上記酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α-ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0028】
上記金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。
【0029】
上記アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。
【0030】
上記有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の塩が挙げられる。
【0031】
上記アミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸
、グルタミン酸等の塩が挙げられる。
【0032】
なお、本発明においては、シトルリンの塩としては、リンゴ酸塩が好ましい。また、アルギニンの塩としては、塩酸塩およびアスパラギン酸塩が好ましい。
【0033】
本発明のアミノ酸含有組成物を摂取または投与する場合には、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩をそのまま摂取または投与することも可能であるが、通常各種の製剤として提供されることが望ましい。製剤化する際には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤、矯味剤、着香剤、着色剤等の添加剤を用いることができる。
【0034】
製剤は、有効成分を薬理学的に許容される一種またはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造することができる。また、該製剤は、任意の他の有効成分をさらに含有していてもよい。
【0035】
本発明のアミノ酸含有組成物を経口摂取する場合の剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・煎剤、カプセル剤、シロップ剤、経口液剤、経口ゼリー剤、経口フィルム剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤などが挙げられる。また、本発明のアミノ酸含有組成物を非経口摂取する場合の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤などが挙げられる。
【0036】
本発明に係るアミノ酸含有組成物を経口摂取用の製剤(すなわち、経口剤)として提供する場合の形態(剤形)としては、例えば、錠剤、散財、顆粒剤、またはカプセル剤などが好ましい。経口剤をこのような形態とすることで、eスポーツの競技前などに、簡単に摂取することができる。
【0037】
例えば、経口剤の剤形が、錠剤、散剤、顆粒剤等の場合には、白糖、三温糖、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖類、バレイショ、コムギ、トウモロコシ等の澱粉、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機物、カンゾウ末、ゲンチアナ末等の植物末等の賦形剤、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール、シリコン油等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロース、ゼラチン、澱粉のり液等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤などを添加して製剤化することができる。
【0038】
なお、本発明に係るアミノ酸含有組成物は、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩に加えて、重曹をさらに含有することが好ましい。アルギニン塩酸塩のような塩酸塩を多量に投与することにより高クロール(Cl)性アシドーシスになることがある。そこで、アミノ酸含有組成物に、炭酸水素ナトリウム(重曹)などの弱塩基を含有させることで血液pHの急激な変動を抑えることができる。重曹の配合量は、シトルリン「1」(またはアルギニンを「1」としてもよい)に対して、重量比で、1/10~1/1、好ましくは1/5~1/1、特に好ましくは1/4~1/2である。
【0039】
また、重曹とクエン酸を反応させることで重炭酸イオンを発生させ、この重炭酸イオンがeNOS(内皮型一酸化窒素合成酵素)のリン酸化を促し、アルギニンを材料としたNO(一酸化窒素)産生を増加させ、血流改善を促すことで、アミノ酸効果を増強させることができることが知られている(参考文献:Scientific Reports (2021) 11:21789“The effects of bathing in neutral bicarbonate ion water”, Yamazaki et al)。
【0040】
そこで、本発明に係るアミノ酸含有組成物が重曹を含んでいる場合には、アミノ酸含有組成物は、クエン酸をさらに含むことが好ましい。重曹とクエン酸との配合比(重量比)は、10:1~1:2、好ましくは5:1~1:1、特に好ましくは4:1~2:1である。なお、クエン酸の添加量を調整することで、組成物のpHを中性からアルカリ性にすることが好ましい。これにより、重炭酸イオンの発生を促進させることができる。
【0041】
例えば、経口剤の剤形が、シロップ剤のような液体調製物である場合は、水、蔗糖、乳糖、ブドウ糖、果糖、ソルビトール、キシリトール等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油、菜種油、米油、紅花油、椰油等の油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、パラオキシ安息香酸メチル等のパラオキシ安息香酸誘導体、安息香酸ナトリウム等の保存剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類などを添加して製剤化することができる。
【0042】
本発明に係るアミノ酸含有組成物を、例えば、注射剤などの非経口摂取用の製剤として提供する場合には、該製剤は、受容者の血液と等張であるシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を含む滅菌水性剤からなることが好ましい。例えば、食塩水、ブドウ糖溶液または食塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製することができる。
【0043】
本発明に係るアミノ酸含有組成物は、飲食品用の添加剤、医薬用の添加剤、医薬部外品用の添加剤として用いてもよい。これにより、飲食品、医薬品、及び、医薬部外品に、eスポーツのパフォーマンス向上効果を付与することができる。
【0044】
本発明に係るアミノ酸含有組成物は、飲食品に含有させることが好ましい。すなわち、本発明は、上記のアミノ酸含有組成物を含む飲食品を包含する。本発明の飲食品には、一般に飲食品に用いられる添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物、カフェイン、ビタミン類、ミネラル成分、シトルリンおよびアルギニン以外のアミノ酸、その他の活力成分・機能性成分等が添加されてもよい。
【0045】
本発明の飲食品は、例えば、タブレット状食品、粉末食品、カプセル状食品、シート状食品、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルト食品、流動食品、ドリンク剤等の飲食品の形態のものであってもよい。また、eスポーツのパフォーマンス向上用の健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品等の飲食品として用いてもよい。
【0046】
また、飲食品が健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品等である場合には、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩が1食あたりの摂取単位量の形態で包装された形態や、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩が懸濁あるいは溶解した飲料が1食あたりの飲み切りの形態で瓶等に充填された形態などが挙げられる。
【0047】
本発明にかかる飲食品の形態としては、液状、ペースト状、固形状、顆粒状、粉末状等の形態を問わず、錠菓、流動食等のほか、例えば、菓子類、飲料類、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、これら以外の市販食品等が挙げられる。
【0048】
例えば、前記菓子類として、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、キャラメル、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、その他の菓子等が挙げられる。
【0049】
例えば、前記飲料類として、炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等が挙げられる。
【0050】
前記飲料類としては、例えば、エナジードリンクが好適である。本発明に係るアミノ酸含有組成物を含むエナジードリンクを、eスポーツを行う前などに摂取することで、パフォーマンスのさらなる向上が期待できる。このエナジードリンクには、本発明に係るアミノ酸含有組成物の他に、カフェイン、ビタミン類、ミネラル成分、シトルリンおよびアルギニン以外のアミノ酸、その他の活力成分・機能性成分等が添加されてもよい。
【0051】
カフェインは、覚醒作用および強心作用を有するため、エナジードリンクに好適である。
【0052】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7、ビタミンB9、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類から選ばれる1種又は2種以上を適量配合してもよい。特に、ビタミンB群から選ばれるビタミン類は疲労回復に効果があるため、エナジードリンクに好適である。
【0053】
ミネラル成分としては、例えば、カルシウム、鉄、亜鉛、ナトリウム、マグネシウムおよびカリウム等の各種ミネラル成分が挙げられる。ミネラル成分は、免疫力向上、代謝活性化、疲労回復など作用を有するため、エナジードリンクに好適である。
【0054】
シトルリンおよびアルギニン以外のアミノ酸としては、例えば、アスパラギン、グルタミン、トリプトファンおよびγ-アミノ酪酸等の中性アミノ酸のほか、アスパラギン酸およびグルタミン酸等の酸性アミノ酸やリジン、ヒスチジンおよびオルニチン等の塩基性アミノ酸、また、中性アミノ酸の中でも特にリジン、オルニチン、ヒスチジンおよびトリプトファン等の塩基性アミノ酸や、バリン、ロイシンおよびイソロイシンの分岐鎖アミノ酸などが挙げられる。塩基性アミノ酸や分岐鎖アミノ酸は、アンチエイジング、生活習慣病の予防、疲労回復、成長ホルモンの分泌等の体内機能改善に役立つことが知られているため、エナジードリンクに好適である。
【0055】
その他の活力成分・機能性成分としては、例えば、タウリン、高麗人参エキス、ガラナエキス、マカエキス、ローヤルゼリー等の天然活力成分が挙げられる。このような成分を含有することで、飲料の機能性をより高めることができる。また、食物繊維等の各種機能成分を含んでいてもよい。
【0056】
本発明のアミノ酸含有組成物におけるシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の含有量は、製剤の種類、当該製剤の摂取または投与により期待する効果等に応じて適宜決定されるが、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の総量として、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算して通常は0.1~100重量%、好ましくは1~80重量%、特に好ましくは5~50重量%である。また、本発明のアミノ酸含有組成物におけるシトルリンまたはその塩とアルギニンまたはその塩の組成比は、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算した重量比で1:20~20:1、好ましくは1:5~5:1、特に好ましくは1:2~2:1である。
【0057】
本発明のアミノ酸含有組成物を摂取または投与する場合の投与量は、摂取形態、被摂取者の年齢、体重等により異なるが、通常、成人1回の摂取で、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の総量として、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算して通常は50mg~30g、好ましくは100mg~10g、特に好ましくは200mg~3gとなるようにすることが好ましい。なお、一日の摂取量の上限は、通常、ヒトが一日に摂取するアミノ酸の摂取量の許容上限値を超えないようにすることが好ましい。
【0058】
本発明のアミノ酸含有組成物を摂取するタイミングとしては、例えば、eスポーツを行う前、eスポーツの競技中などが挙げられる。本発明のアミノ酸含有組成物をeスポーツの競技会でのパフォーマンス向上を目的として摂取する場合には、競技会の前、あるいは、競技会前の練習中に摂取することが好ましい。
【0059】
本発明のアミノ酸含有組成物をeスポーツのプレー前またはプレー中に摂取することで、eスポーツのパフォーマンスを向上させることができる。例えば、後述の実施例に示すように、本発明のアミノ酸含有組成物を摂取することで、eスポーツのトレーニング用ソフトにおけるスコア測定において、良好な成績を獲得することができる。
【0060】
また、後述の実施例に示すように、本発明のアミノ酸含有組成物には、集中力の向上効果も見込めることから、eスポーツの競技の合間の休憩中などに摂取してもよい。これにより、前半の競技で低下した集中力を再び向上させることが期待できる。また、本発明のアミノ酸含有組成物には、集中力をより長期にわたって持続させる効果も期待できる。
【0061】
なお、近年eスポーツの普及が進む中で、eスポーツをプレーすることによる心身に与える影響が懸念されている。本願発明者らによって、アルギニンおよびシトルリンを含有する組成物がeスポーツに好影響を与えることが確認されたことで、本願発明に係るアミノ酸含有組成物が、eスポーツの今後の普及に寄与できる可能性が期待できる。
【0062】
また、本発明には、eスポーツのパフォーマンス向上方法も含まれる。この方法は、シトルリンまたはその塩、およびアルギニンまたはその塩の有効量を、必要とする対象に投与することを含む。「シトルリンまたはその塩、およびアルギニンまたはその塩の有効量」を対象に投与する方法としては、例えば、上述の本発明にかかるアミノ酸含有組成物を対象に投与する方法が挙げられる。また、ここで「必要とする対象」としては、例えば、上述した本発明に係るアミノ酸含有組成物の投与対象が挙げられる。
【0063】
〔実施例〕
以下、本発明の実施例等を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0064】
〔eスポーツのパフォーマンス向上効果確認試験〕
本実施例では、本発明の一実施形態にかかる食品(アルギニンおよびシトルリンを有効成分として含有するサプリメント)を摂取することで、eスポーツのパフォーマンスを向上させることができるかを確認する試験を行った。
【0065】
具体的には、一般的に健康な男性7名を対象に、プラセボ対照二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験を行った。eスポーツのパフォーマンスは、eスポーツのトレーニングソフトのスコアなどで評価した。
【0066】
eスポーツのトレーニング用ソフトは、以下のものを使用した。
ソフト:Aim Lab(開発元:State Space Labs, Inc.)
【0067】
当該ソフトで実施した種目は以下の4種類である。
・FLICKING:グリッドショット(アルティメット)
ターゲットを狙撃することで、フリックの精度を鍛えることができる。
・TRACKING:ストレイフトラック(アルティメット)
横移動するターゲットを追跡することで、移動するターゲットの軌道を追跡するための反射神経と予測力を向上させることができる。
・SPEED:グリッドショット(スピード)
時間とともにサイズが縮小するターゲットを狙撃することで、ターゲットへの指向性の正確さとスピードを向上させることができる。
・PRECISION:スパイダーショット(精度)
広い空間内の大きさの異なるターゲットを狙撃することで、ランダムに出現するターゲットに確実にヒットするための方向精度を向上させることができる。
【0068】
これらの種目のうち、「FLICKING」のスコアを測定することで、多数のターゲットを撃つときの精度の高さを確認することができる。また、「TRACKING」のスコアを測定することで、移動するターゲットの軌道を追跡するための反射神経と予測力の高さを確認することができる。また、「SPEED」のスコアを測定することで、指向性の正確さとスピードを確認することができる。また、「PRECISION」のスコアを測定することで、方向精度の高さを確認することができる。
【0069】
被験者は介入期間2日間のうち、1日にアルギニンおよびシトルリンを含有するサプリメント(試験食品群)を摂取し、別の1日にアルギニンおよびシトルリンを含有しないサプリメント(プラセボ群)を摂取した。
【0070】
試験食品群およびプラセボ群のサプリメントの配合は、それぞれ以下の通りである。各群のサプリメントは錠剤の形態とした。
(試験食品群)
ソルビトール:61.9%、キシリトール:10.0%、L-アルギニン:9.8%、シトルリン:9.8%、重曹:4.0%、クエン酸:2.0%、香料1.1%、ステアリン酸Ca:1.0%、甘味料0.4%
試験食品群のサプリメントでは、アルギニンおよびシトルリンの1回あたりの摂取量が、アルギニン1,000mg、シトルリン1,000mgとなるように調製した。
(プラセボ群)
ソルビトール:86.9%、キシリトール:10.0%、クエン酸:1.5%、ステアリン酸Ca:1.0%、香料:0.5%、甘味料0.1%
【0071】
「Aim Lab」によるスコアの測定は、サプリメント摂取前2回目の結果をベースラインとして、摂取後1回目、摂取後2回目との変化量を求めた。詳細な試験のスケジュールを、
図1に示す。この図に示すスケジュールに沿って、試験食品群およびプラセボ群のそれぞれにおいて試験を実施した。
図1のスケジュールおける「Aim Lab測定」では、上記の4種目を順に実施し、スコアを測定した。
【0072】
(結果)
試験の結果を以下に説明する。表1には、各種目のスコアを示す。各表では、
図1に示す試験スケジュールの「摂取前2回目(前)」、「摂取後1回目(後1)」、および「摂取後2回目(後2)」の被験者7名のスコアの平均値と、その変化量(具体的には、「(前)と(後1)との変化量」および「(前)と(後2)との変化量」)を示す。
【0073】
【0074】
図3には、種目「FLICKING」の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
図4には、種目「TRACKING」の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
図5には、種目「SPEED」の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
図6には、種目「PRECISION」の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
【0075】
サプリメントの摂取前後の各種目のスコアの比較では、「TRACKING:ストレイフトラック(アルティメット)」の種目において、試験食品群では摂取後2回目で有意傾向な上昇を示した。また、「SPEED:グリッドショット(スピード)」の種目において、試験食品群では摂取後2回目で有意な上昇を示した。一方、プラセボ群では、「SPEED:グリッドショット(スピード)」の種目のみにおいて摂取後2回目で有意傾向な上昇を示した。
【0076】
また、
図3から
図6のグラフに示すように、何れの種目においても、プラセボ群と比較して試験食品群の方が摂取後のスコアをより大きく上昇させることができることが確認された。すなわち、Aim Labの測定の前に試験食品を摂取することで、パフォーマンスを向上させることができると考えられる。
【0077】
〔質問紙によるアンケート調査について〕
上記の試験と並行して、被験者7名に対して、集中の程度やパフォーマンスの発揮の程度に関するアンケートを行った。アンケートは、各回の「Aim Lab」によるスコア測定の後に行った。
【0078】
具体的には、
図1のスケジュールにおける「質問紙」のタイミングで、以下のような内容の設問について、
図2に示す質問紙を用いて被験者7名に対してアンケート調査を行った。
1.「集中の長さ」
2.「集中の深さ」
3.「長い時間集中できたか」
4.「深く集中できたか」
5.「頭が冴えたか」
6.「本来の力を発揮できたか」
7.「実力以上のパフォーマンスを発揮できたか」
【0079】
(結果)
表2には、アンケート調査の結果を示す。表2では、上記1および2の設問に対する被験者7名の5段階評価の平均値と、その変化量(具体的には、「(前)と(後1)との変化量」および「(前)と(後2)との変化量」)を示す。また、表2では、上記3から7の設問に対する被験者7名のVAS(mm)の平均値と、その変化量(具体的には、「(前)と(後1)との変化量」および「(前)と(後2)との変化量」)を示す。ここで、「VAS」とは、被験者の体感指数を線分スケール法に基づいて評価するものであり、表2に示す「VAS(mm)」の数値は、
図2に示す質問紙において被験者がチェックした位置の左側端部からの長さを意味する。
【0080】
【0081】
図7には、上記の設問1.についての摂取前後の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
図8には、上記の設問2.についての摂取前後の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
図9には、上記の設問3.についての摂取前後の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
図10には、上記の設問4.についての摂取前後の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
図11には、上記の設問5.についての摂取前後の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
図12には、上記の設問6.についての摂取前後の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
図13には、上記の設問7.についての摂取前後の変化量を、試験食品群とプラセボ群とで比較して示す。
【0082】
このアンケート調査の結果では、試験食品群では「集中の長さ」、「集中の深さ」、「頭の冴え」、「本来の力の発揮」、「実力以上のパフォーマンスの発揮」の程度において摂取後で有意に好転することが示された。一方、プラセボ群では「集中の長さ」の程度において、摂取後1回目で有意傾向な好転が、「実力以上のパフォーマンスの発揮」の程度において、摂取後2回目で有意な好転がみられた。
【0083】
また、
図7から
図13のグラフに示すように、何れの質問に関しても、プラセボ群と比較して試験食品群の方が摂取前後の変化量が大きいことが確認された。このことから、Aim Labの測定の前に試験食品を摂取することで、集中力やパフォーマンスの発揮に関する被験者の体感を好転させることができると考えられる。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。