(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159760
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】転がり軸受の製造方法及び転がり軸受の製造装置
(51)【国際特許分類】
F16C 43/04 20060101AFI20241031BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241031BHJP
F16C 33/41 20060101ALI20241031BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F16C43/04
F16C19/06
F16C33/41
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024125870
(22)【出願日】2024-08-01
(62)【分割の表示】P 2023095690の分割
【原出願日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2023075184
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 永一
(72)【発明者】
【氏名】小林 佳介
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117HA04
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA50
3J701BA73
3J701BA80
3J701CA14
3J701EA02
3J701EA06
3J701EA31
3J701EA49
3J701EA78
3J701FA13
3J701FA38
3J701XB03
3J701XB26
3J701XE03
3J701XE43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】グリースの巻き込みを抑制する。
【解決手段】転がり軸受を製造する方法であり、グリースの塊を、保持器の一部と、周方向において隣接する第1の転動体及び第2の転動体とにより支持されるように配置する工程と、シール部材を、前記グリースの塊に付着させる態様で、外輪又は内輪に装着する工程とを備える。前記グリースの塊は、前記第1の転動体及び前記第1の転動体を周方向における一方側から支持する第1の爪部と、前記第2の転動体及び前記第2の転動体を周方向における他方側から支持する第2の爪部とにより支持されるように配置される。グリースの塊を配置する工程において、前記グリースの塊が、軸受の周方向において前記第1の爪部と前記第2の爪部との間に位置する前記保持器の前記第1の方向側の表面と、軸受の軸方向において接しないように、また前記グリースの塊と軌道溝との距離が確保されるように配置される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並ぶ複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器と、前記転動体と接する軌道溝を有する内輪及び外輪とを備える転がり軸受の製造方法であって、
グリースの塊を、前記保持器の一部と、周方向において隣接する第1の転動体及び第2の転動体とにより支持されるように配置する工程と、
シール部材を、前記グリースの塊に付着させる態様で、前記外輪又は内輪に装着する工程と、
を備え、
前記保持器は、軸受の軸方向における第1の方向に突出し、前記転動体を周方向において支持する複数の爪部を備える冠形保持器であり、
前記グリースの塊は、前記第1の転動体及び前記第1の転動体を周方向における一方側から支持する第1の爪部と、前記第2の転動体及び前記第2の転動体を周方向における他方側から支持する第2の爪部とにより支持されるように配置され、
前記グリースの塊は、前記第1の転動体及び前記第1の転動体を周方向における他方側から支持する他の爪部により支持される他のグリースの塊と離間して配置され、
前記他のグリースの塊は、前記グリースの塊と同様の構成を備え、
グリースの塊を配置する工程において、前記グリースの塊が、軸受の周方向において前記第1の爪部と前記第2の爪部との間に位置する前記保持器の前記第1の方向側の表面と、軸受の軸方向において接しないように、また前記グリースの塊と前記軌道溝との距離が確保されるように配置される、
転がり軸受の製造方法。
【請求項2】
グリースの塊を配置する工程において、前記グリースの塊が、軸受の半径方向において、前記外輪及び前記内輪から離間するように配置される、請求項1に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項3】
前記冠形保持器の軸受半径方向における厚さが、前記内輪の外周面と前記外輪の内周面との間の軸受半径方向の距離の53%未満である、請求項1に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項4】
前記グリースの塊のピッチ円直径が、前記転動体のピッチ円直径と略一致する、請求項1に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項5】
前記転動体のピッチ円直径が、前記外輪の内径と前記内輪の外径との中間値よりも小さい、請求項4に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項6】
前記グリースの塊が、前記軌道溝に付着しないように、前記内輪及び外輪と前記シール部材とに囲まれる軸受空間のうち、軸受半径方向において、前記外輪及び前記内輪から離間するように配置される、請求項4に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項7】
前記シール部材が装着された転がり軸受を、使用回転数以下の回転数で回転させる工程をさらに含む、請求項1に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項8】
前記回転させる工程の後において、軸方向から見た、前記保持器と前記外輪との間の隙間全体における、前記グリースが視認できる面積の割合が70%以下である、請求項7に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項9】
前記回転させる工程の後において、前記シール部材を外した際、封入された前記グリースの体積のうち、前記保持器に付着したグリースの体積が占める割合が、20%以上である、請求項7に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項10】
周方向に並ぶ複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器と、内輪及び外輪にそれぞれ形成され、前記転動体と接する軌道溝とを備える転がり軸受に、
グリースの塊を、第1の転動体及び前記保持器の一部と、前記第1の転動体と周方向において隣接する第2の転動体及び前記保持器の他の一部とにより支持されるように載置し、
前記保持器は、軸受の軸方向における第1の方向に突出し、前記転動体を周方向において支持する複数の爪部を備える冠形保持器であり、
前記グリースの塊は、前記第1の転動体と、前記第1の転動体を周方向における一方側から支持する第1の爪部と、前記第2の転動体と、前記第2の転動体を周方向における他方側から支持する第2の爪部とにより支持され、
前記グリースの塊は、前記第1の転動体及び前記第1の転動体を周方向における他方側から支持する他の爪部により支持される他のグリースの塊と離間して配置され、
グリースの塊を載置する工程において、前記グリースの塊が、軸受の周方向において前記第1の爪部と前記第2の爪部との間に位置する前記保持器の前記第1の方向側の表面と、軸受の軸方向において接しないように載置する、
転がり軸受の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の製造方法及び転がり軸受の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転動体を備えた転がり軸受において、潤滑剤として、軸受空間にグリースを封入することが知られている。グリースは転動体の潤滑に寄与する一方で、転動体と軌道輪の軌道溝との間に巻き込まれること等により、回転トルクが上昇する原因となる。
【0003】
そこで、例えばグリースを軌道溝から遠ざけるために、転がり軸受の外輪が凹部を備え、当該凹部が、グリースが載置される載置面と、載置面と前記稜部との間に形成され、軸方向外側に向かって前記外輪の外周面に近づく第1傾斜部とを備える技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7209902号公報
【特許文献2】特許第6637787号公報
【特許文献3】特開2002-139050号公報
【特許文献4】特開2013-50139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、転動体の直径や転がり軸受の軌道輪の幅によっては、当該技術ではグリースの巻き込みが抑制できない場合がある。
【0006】
一つの側面では、グリースの巻き込みを抑制できる転がり軸受の製造方法及び転がり軸受の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの態様において、転がり軸受の製造方法は、周方向に並ぶ複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器と、前記転動体と接する軌道溝を有する内輪及び外輪とを備える転がり軸受を製造する方法であり、グリースの塊を、前記保持器の一部と、周方向において隣接する第1の転動体及び第2の転動体とにより支持されるように配置する工程と、シール部材を、前記グリースの塊に付着させる態様で、前記外輪又は内輪に装着する工程とを備える。前記保持器は、軸受の軸方向における第1の方向に突出し、前記転動体を周方向において支持する複数の爪部を備える冠形保持器である。前記グリースの塊は、前記第1の転動体及び前記第1の転動体を周方向における一方側から支持する第1の爪部と、前記第2の転動体及び前記第2の転動体を周方向における他方側から支持する第2の爪部とにより支持されるように配置される。前記グリースの塊は、前記第1の転動体及び前記第1の転動体を周方向における他方側から支持する他の爪部により支持される他のグリースの塊と離間して配置される。前記他のグリースの塊は、前記グリースの塊と同様の構成を備える。グリースの塊を配置する工程において、前記グリースの塊が、軸受の周方向において前記第1の爪部と前記第2の爪部との間に位置する前記保持器の前記第1の方向側の表面と、軸受の軸方向において接しないように、また前記グリースの塊と前記軌道溝との距離が確保されるように配置される。
【0008】
一つの態様によれば、グリースの巻き込みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施形態におけるグリース及びシール部材を装着する前における転がり軸受の軸方向における負方向側の側面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態における転がり軸受の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態における軸受空間の一例を示す拡大断面図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態における転がり軸受の分解斜視図である。
【
図5】
図5は、背景技術における慣らし運転後における転がり軸受の軸方向における負方向側の内面図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態におけるシール部材を装着する前における転がり軸受の軸方向における正方向側の側面図である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態におけるグリースの配置の一例を示す周方向に沿った断面図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態における慣らし運転後における転がり軸受の軸方向における負方向側の内面図である。
【
図9】
図9は、背景技術における慣らし運転後のグリースが付着した第1シール部材の一例を示す上面図である。
【
図10】
図10は、第1の実施形態における慣らし運転後のグリースが付着した第1シール部材の一例を示す上面図である。
【
図11】
図11は、背景技術における慣らし運転後のグリースの分布の一例を示す周方向に沿った断面図である。
【
図12】
図12は、第1の実施形態における慣らし運転後のグリースの分布の一例を示す周方向に沿った断面図である。
【
図13】
図13は、第1の実施形態における製造工程の一例を示す上面図である。
【
図14】
図14は、第1の実施形態における製造工程の一例を示す断面図である。
【
図15】
図15は、第1の実施形態における製造工程の一例を示す周方向に沿った断面図である。
【
図16】
図16は、第2の実施形態における波形保持器の一例を示す斜視図である。
【
図17】
図17は、第2の実施形態におけるグリースの配置の一例を示す周方向に沿った断面図である。
【
図18】
図18は、第3の実施形態におけるグリースの配置の一例を示す周方向に沿った断面図である。
【
図19】
図19は、比較例におけるグリースの配置の一例を示す周方向に沿った断面図である。
【
図20】
図20は、第2の変形例における冠形保持器の一例を示す斜視図である。
【
図21】
図21は、第3の変形例における冠形保持器の一例を示す部分斜視図である。
【
図22】
図22は、第4の変形例における冠形保持器の一例を示す部分斜視図である。
【
図23】
図23は、第5の変形例における冠形保持器の一例を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本願の開示する転がり軸受の製造方法及び転がり軸受の製造装置の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面における各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。各図面において、説明を分かりやすくするために、後に説明する第1シール部材10が装着される側を軸方向における正方向側とし、第2シール部材20が装着される側を軸方向における負方向とする座標系を図示する場合がある。また、以下に説明するグリースの塊70、シール部材10及び20が装着される前の転がり軸受を、転がり軸受3と表現し、グリースの塊70が載置され、シール部材10及び20が装着される前の転がり軸受を、転がり軸受2とする場合がある。
【0011】
[第1の実施形態]
第1の実施形態における転がり軸受1は、例えば、
図1に示す転がり軸受3に、
図2及び
図3に示すようにグリースの塊70を載置し、さらにシール部材10及び20を装着することにより製造される。
図1は、第1の実施形態におけるグリース及びシール部材を装着する前における転がり軸受の軸方向における負方向側の側面図である。
図2は、第1の実施形態における転がり軸受の一例を示す断面図である。
図3は、第1の実施形態における軸受空間の一例を示す拡大断面図である。
図2は、
図1のA-A線で切断した断面を示す。
図3は、
図2の枠F1に示す部分を拡大した図である。
【0012】
図1に示す転がり軸受3は、
図4に示すように、外輪30と、内輪40と、保持器50と、複数の転動体60とを備える。
図4は、第1の実施形態における転がり軸受の分解斜視図である。
図1及び
図4に示すように、第1の実施形態における転がり軸受3は、7つの転動体60を備える。
【0013】
転動体60は、例えば鋼材などの金属材料や、セラミックス材料からなる玉である。複数の転動体60は、例えば保持器50に、周方向に並んで保持される。
【0014】
保持器50は、例えば
図4に示すような樹脂製の冠形保持器等であり、環状部51と、柱部52とを備える。第1の実施形態において、環状部51は軸方向における負方向側に配置される。柱部52は、環状部51から軸方向における正方向側に延在する。柱部52には、軸方向における正方向側に突出する爪部53が形成される。転動体60は、保持器50の環状部51と柱部52と爪部53とにより形成される保持部56に保持される。
【0015】
外輪30及び内輪40は、鋼材などの金属材料からなる。外輪30には、軌道溝36が、内周面34に円周方向に延びるように、内輪40と対向して形成されている。内輪40には、軌道溝46が、外周面43に円周方向に延びるように、外輪30と対向して形成されている。
【0016】
シール部材10,20は、亜鉛メッキ鋼板、ステンレス鋼板、芯金により補強された弾性材料、樹脂などからなる略円環形状の板材である。なお、シール部材10及びシール部材20をそれぞれ区別して表現する場合に、第1シール部材10及び第2シール部材20のように表記する場合がある。
【0017】
図2に示すように、第1シール部材10は、止め輪13を介して、外輪30の内周面34の軸方向における正方向側に固定される。同様に、第2シール部材20は、止め輪23を介して、外輪30の内周面34の軸方向における負方向側に固定される。この場合において、第1シール部材10は、軸方向において、保持器50の爪部53と対向し、第2シール部材20は、軸方向において、保持器50の環状部51と対向する。
【0018】
第1シール部材10及び第2シール部材20は、その内周部が内輪40の直近まで延びている。これにより、第1シール部材10及び第2シール部材20は、外輪30と内輪40との間を覆い、転動体60及びグリースの塊70を保護する。
図3に示すように、外輪30及び内輪40と、第1シール部材10及び第2シール部材20と、各シール部材10及び20から径方向内側へ外周面43まで延長した仮想の線L1,L2とで囲まれた領域は、軸受空間Sを構成する。
【0019】
転がり軸受においては、グリースから基油成分が浸み出すことで、潤滑に寄与する。一方、グリースの本体が転動体と軌道溝との間に巻き込まれること等が、転がりトルク上昇の原因となる。グリースを転がり軸受の外輪の内周面に載置する場合においては、グリースを軌道溝から離間する、例えばシール部材に接するように載置することで、グリースの軌道溝への巻き込みを抑制している。
【0020】
一方、例えば
図2に示すように、外輪30の幅W8に対して、転動体60の玉径D8の割合が大きい場合、例えば
図2に示す幅W8に対して玉径D8が占める割合が、例えば42%以上、45%以上、あるいは50%以上等である場合、外輪30の内周面34にグリースを配置すると、グリースと軌道溝との距離を確保することが難しい。グリースが配置された時点で、当該グリースの一部は転動体60と軌道溝との間に入り込んでしまう可能性がある。この場合、グリースを外輪ではなく、保持器50に配置することが好ましい。
【0021】
しかし、保持器に載置されたグリースは流動的であり、慣らし運転等による転がり軸受の回転により、形状が崩れる場合がある。この場合、保持器と外輪又は内輪との間にグリースブリッジが形成されることで、軌道溝にグリースが巻き込まれやすくなる。そこで、
図1に示すように、転がり軸受3は、グリースブリッジの発生を抑制するため、保持器50と、外輪30及び内輪40との距離が十分に確保されるように形成される。
【0022】
例えば、
図1に示すように、第1の実施形態における保持器50の径方向における幅W1は、転動体60の玉径D8の45%以下、あるいは42%以下であることが好ましい。また、保持器50の幅W1は、例えば内輪40の外周面43と外輪30の内周面34との間の軸受半径方向の距離D7(
図1に示すG1+W1+G2)の53%未満とすることが好ましい。
【0023】
また、保持器50の径方向の動きが転動体60により規制される転動体案内方式の転がり軸受においては、内輪40の外周面43の外径D1は、径方向における外周面43と保持器50の内周面との隙間G1が、外輪30の内周面34と内輪40の外周面43との距離の20%以上、例えば25%以上となるように形成されることが好ましい。同様に、外輪30の内周面34の内径D2は、径方向における内周面34と保持器50の外周面との隙間G2が、外輪30の内周面34と内輪40の外周面43との距離の15%以上、例えば23%以上となるように形成されることが好ましい。一方、転動体案内方式でない転がり軸受においては、保持器50と外輪30及び内輪40との隙間の合計値が、外輪30の内周面と内輪40の外周面との距離の35%以上であることが好ましい。
【0024】
なお、転がり軸受3においては、転動体60の転がりトルクを低減するために、転動体60のピッチ円直径PCDを、外輪30の内径と内輪40の外径との中間値よりも小さくする(転動体60のピッチ円が、外輪30の内径と内輪40との外径の中間位置より径方向内側にある)ことが好ましい。
【0025】
このように、グリースブリッジの発生を抑制するために保持器50の幅W1等を設定することにより、5%程度のトルク軽減効果が得られる。なお、以下に説明するトルク軽減効果は、グリースが封入された転がり軸受を、1500rpmで2分間回転させたのちにおけるトルク値に基づいて算出されるものである。
【0026】
この場合においても、保持器上に配置するように封入されるグリースの体積が大きい(例えば軸受空間S容積において、グリースの塊70が占める割合が15%以上である)場合、載置されたグリースの塊が、径方向において保持器からはみ出すことにより、外輪又は内輪に近づきやすくなる。この場合、
図5に示すように、慣らし運転後にグリースブリッジが発生しやすくなる。
図5は、背景技術における慣らし運転後における転がり軸受の軸方向における負方向側の内面図である。なお、
図5に示す背景技術は、グリースを保持器50の柱部52の表面52a上に配置するように封入した場合における事例を示す。
【0027】
図5に示すように、背景技術においては、転がり軸受A9の周方向全体にわたって、外輪30及び内輪40と保持器50との間にグリースブリッジ87及び88が形成される。グリースブリッジは、グリースの体積が大きいほど形成されやすくなる。なお、
図5に示す転がり軸受A9は、背景技術における慣らし運転後の転がり軸受から、シール部材を取り外した状態を示す。
【0028】
そこで、第1の実施形態の転がり軸受の製造方法は、グリースの塊70を、
図2及び
図3に示す軸受空間Sのうち、軸方向における正方向側に、周方向において隣接する2つの転動体60又は保持器50の一部により支持されるように配置する工程を含む。より具体的には、
図6及び
図7に示すように、グリースの塊70は、転動体60と保持器50の爪部53とに支持されるように載置される。
図6は、第1の実施形態におけるシール部材を装着する前における転がり軸受の軸方向における正方向側の側面図である。
図7は、第1の実施形態におけるグリースの配置の一例を示す周方向に沿った断面図である。
図7は、
図3のB-B線で切断した、周方向に沿った断面を示す。
【0029】
第1の実施形態における、周方向において相互に隣接する、保持部56lと56rとの距離G01は、
図6及び
図7に示すように、転動体60の直径D8以下である。
図7に示すように、転動体60lは、爪部53lを含む保持部56lに保持され、転動体60rは、爪部53rを含む保持部56rに保持される。なお、距離G01は、直線距離ではなく、
図1に示す転動体60のピッチ円直径PCDに沿った曲線距離である。
【0030】
図2及び
図7に示すように、軸方向における、爪部53と第1シール部材10との距離G8は、例えば転動体60の玉径D8の50%未満であり、好ましくは45%未満である。また、転動体60が保持器50から露出している部分の軸方向における距離D9は、例えば転動体60の玉径D8の20%未満であり、好ましくは17%未満である。
【0031】
また、外輪の幅W8に占める転動体60の玉径D8の割合は、例えば42%以上、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上とすることができる。また、軸受空間容積(軸受空間Sの容積全体から、複数の転動体60と保持器50との体積を差し引いた容積)において、グリースの塊70が占める割合は、例えば10%以上30%以下、15%以上20%以下、15%以上35%以下または25%以上35%以下とすることができ、25%以上60%以下、40%以上50%以下、40%以上60%以下、50%以上60%以下、等とすることもできる。
【0032】
第1の実施形態におけるグリースの塊70は、
図7に示すように、第1の実施形態における転動体60又は爪部53により支持される第1の部分71と、別の転動体60又は別の爪部53により支持される第2の部分72とを備える。すなわち、グリースの塊70は、保持部56lと56rとの2点間を跨ぐように封入される。この場合において、第1の部分71と第2の部分72とは、接点79において相互に接する。
【0033】
かかる構成においては、グリースの塊70は、保持器50の爪部53に引っかかるように封入される。また、グリースの塊70の第1の部分71及び第2の部分72は、封入時において、いずれも柱部52の軸方向における正方向側の表面52aに接しない。具体的には、グリースの塊70を配置する工程において、軸受の軸方向において、グリースの塊70と柱部52との間に隙間G6が形成される。すなわち、グリースの塊70は、封入された段階において、
図3の矢印に示すように、軌道溝36及び46との距離が確保される。すなわち、第1の実施形態において、グリースの塊70は、軌道溝36及び46に付着しないように、内輪40及び外輪30と第1シール部材10とに囲まれる軸受空間のうち、軸受半径方向において、前記外輪及び前記内輪から離間して配置される。
【0034】
かかる構成においては、グリースの塊70は、径方向における外輪側又は内輪側や、軸方向における負方向側、すなわち軌道溝36及び46に近づく方向ではなく、第1シール部材10に近づく側、すなわち軸方向における正方向側に配置される。
【0035】
この場合、
図3の矢印に示すように、載置されたグリースの塊70と、軌道溝36及び46との間に距離が確保されやすい。これにより、グリースが軌道溝36又は46に巻き込まれることが抑制される。
【0036】
また、第1の実施形態における転がり軸受の製造方法は、
図7に示すように、第1シール部材10を、グリースの塊70が付着するように、外輪30に装着する工程を含む。その際、グリースの塊70は、
図7に示すように第1シール部材10に押されて変形する。
【0037】
また、第1の実施形態における転がり軸受の製造方法は、グリースの塊70及びシール部材10,20が装着された転がり軸受1を慣らし運転させる工程をさらに含む。慣らし運転は、最大許容回転数以下、あるいは使用回転数以下、例えば30000rpm以下、10000rpm以下、5000rpm以下、2000rpm以下などの回転数で回転させる工程である。慣らし運転としては、5000rpm以下の回転数で所定時間維持する段階を含むことが好ましい。なおここでいう慣らし運転には、アンデロンメーター等による音響性能確認試験も含む。
【0038】
この場合、第1の実施形態においても、
図8に示すように、周方向における一部には、グリースブリッジ83及び84が形成される。
図8は、第1の実施形態における慣らし運転後における転がり軸受の軸方向における負方向側の内面図である。
図8に示す転がり軸受9は、第1の実施形態における慣らし運転後の転がり軸受1から、シール部材10及び20を取り外した状態を示す。
【0039】
しかし、慣らし運転に伴うグリースの移動も、第1シール部材10により抑制されることで、転がり軸受1の回転と共に攪拌されるグリースの量が少ない。
図8に示すように、内輪40とグリース80との隙間G11、及び外輪30とグリース80との隙間G12は、周方向の他の部分において維持される。すなわち、第1の実施形態においては、グリースブリッジが全周にわたって形成されることが抑制される。
【0040】
なお、転がり軸受が回転すると、遠心力の作用により、グリースは径方向における外側に移動しやすい。この場合、保持器50と外輪30の内周面34との間に形成されるグリースブリッジ83は、保持器50と内輪40の外周面43との間に形成されるグリースブリッジ84よりも大きくなると考えられる。
【0041】
この場合においても、グリース80と外輪30の内周面34との間に隙間が残っていることが好ましい。例えば、第1の実施形態においては、慣らし運転後において、軸方向視における、保持器50と外輪30の内周面34との隙間全体(全周にわたる隙間)の面積に対して、グリースが視認できる領域の面積の割合は70%以下である。この面積の割合は、光学顕微鏡等により確認可能である。
【0042】
一方、第1の実施形態においては、グリースは、第1シール部材10に多く付着する。
図9は、背景技術における慣らし運転後のグリースが付着した第1シール部材の一例を示す上面図である。
図10は、第1の実施形態における慣らし運転後のグリースが付着した第1シール部材の一例を示す上面図である。なお、
図9及び
図10において、破線で示す部分は、軸方向において保持器50と対向する部分を示す。また、
図9に示す背景技術は、グリースを保持器50の柱部52の表面52a上に配置するように封入した場合における事例を示す。
【0043】
背景技術においては、軌道溝に近接するようにグリースを封入するため、
図9に示すように、第1シール部材A10に付着するグリース89は比較的少ない。特に、背景技術においては、外輪30側又は内輪40側まではみ出したグリース89が少ない。一方、第1の実施形態においては、
図10に示すように、グリースの塊70から第1シール部材10に移動したグリース81が多い。
【0044】
また、第1の実施形態において、保持器50の爪部53に支持される態様で封入されたグリースの塊70は、慣らし運転後においても、軌道溝36又は46に接近する量は少なく、保持器50上に留まりやすい。例えば、慣らし運転後において、第1シール部材10および第2シール部材を外した際、封入されたグリースの体積のうち、20%以上が保持器50上に付着している。保持器50上に付着したグリースは、封入されたグリースの体積のうち、30%以上であることが好ましい。
【0045】
保持器50上に付着したグリースの体積の上記割合は、例えば転がり軸受から取り外した保持器50の重量を測定することで確認が可能である。また、第1の実施形態において、保持器50および第1シール部材10に付着したグリースの体積の合計は、封入されたグリースの体積の40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0046】
図11は、背景技術における慣らし運転後のグリースの分布の一例を示す周方向に沿った断面図である。
図12は、第1の実施形態における慣らし運転後のグリースの分布の一例を示す周方向に沿った断面図である。なお、
図11に示す背景技術は、
図5及び
図9に示す事例とは異なり、グリースを外輪の内周面に封入した場合における事例を示す。
【0047】
図11に示すように、背景技術において、グリースの塊は、背景技術における転がり軸受A1の外輪の内周面に円環状に塗布される際に、転動体60に接触するように封入され得る。この場合において、慣らし運転後のグリース92は、軸方向において、転動体60の上面に多く留まる。すなわち、転動体60上におけるグリース92の軸方向における厚さT21が大きい。
【0048】
また、背景技術におけるグリースは、慣らし運転後に、一部は保持器上に移動するものの、その量は多くはない。この場合、転動体60上におけるグリース92の厚みと、隣接する2つの転動体60の中間部におけるグリース92の厚みとの差D21も大きくなる。
【0049】
一方、第1の実施形態においては、グリースの塊70は、隣接する2つの転動体60にまたがるように封入される。この場合において、転動体60上に移動するグリース91の量は、背景技術に比べて少ない。
図12に示すように、転動体60上を覆うグリース91の厚さは、例えば100μm以下である。すなわち、転動体60上におけるグリース91の軸方向における厚さT11は、背景技術における厚さT21に比べて小さい。
【0050】
この場合において、隣接する2つの転動体60の間に残るグリース91の量も多い。転動体60間におけるグリース91の量は、グリースポケットの高さ等に応じて変わるが、
図12に示すように、例えば爪部53の軸方向における高さの中間よりも高い位置までグリース91が達する。すなわち、転動体60上におけるグリース91の厚みと、隣接する2つの転動体60の中間部におけるグリース91の厚みとの差D11も、背景技術における差D21に比べて小さい。
【0051】
また、グリースの塊70として載置されるグリースは、所定の測定条件、すなわち温度が25℃、周波数が1Hz、ひずみ量が0.07(固定)%の条件で測定した時の損失正接tanδが、0.1以上0.2以下の値である。これにより、載置したグリースの形状が安定しやすく、回転トルクの低減と長期にわたる良好な潤滑性能の維持とをより好適に両立できる。
【0052】
また、2つの部分71及び72を含むグリースの塊70は、例えば、
図13乃至
図15に示すような2つのノズル120及び130を備えた製造装置100により載置される。
図13は、第1の実施形態における製造工程の一例を示す上面図である。
図14は、第1の実施形態における製造工程の一例を示す断面図である。
図15は、第1の実施形態における製造工程の一例を示す周方向に沿った断面図である。
図14は、
図13のC-C線で切断した断面を示す。
図15は、
図14のD-D線で切断した、周方向に沿った断面を示す。
【0053】
図13乃至
図15に示すように、第1の実施形態における製造装置100は、複数の載置部110を備える。載置部110は、例えば転がり軸受1における転動体60の数と同数設けられる。
【0054】
各載置部110は、2つのノズル120及び130を備える。例えば
図13に示すように、ノズル120は、軸方向において、保持器50の爪部53と対向する位置の近傍に設けられ、ノズル130は、軸方向において、保持器50の別の爪部53と対応する位置の近傍に設けられる。
【0055】
図14及び
図15に示すように、製造装置100は、シール部材10及び20が装着される前の転がり軸受3に対して、軸方向における正方向側からグリースを封入する。この場合において、
図15に示すように、ノズル120から封入されるグリース171は、グリースの塊70の第1の部分71を形成し、ノズル130から封入されるグリース172は、グリースの塊70の第2の部分72を形成する。かかる構成によれば、グリースの塊70の第1の部分71及び第2の部分72が、それぞれ保持器50の爪部53に引っかかるように、グリースの塊70が転がり軸受3に封入される。
【0056】
以上説明したように、第1の実施形態における転がり軸受の製造方法は、周方向に並ぶ複数の転動体60と、転動体60を保持する保持器50と、転動体60と接する軌道溝36,46を有する内輪40及び外輪30とを備える転がり軸受1を製造する方法であり、グリースの塊70を、保持器50の一部、又は周方向において隣接する2つの転動体60により支持されるように配置する工程と、シール部材10を、グリースの塊70に付着させる態様で、外輪30又は内輪40に装着する工程とを備える。かかる構成によれば、軌道溝へのグリースの巻き込みを抑制できるので、転がり軸受のトルク上昇を抑制できる。例えば、かかる製造方法により製造された転がり軸受1においては、
図5及び
図9に示す背景技術と比べて15%程度のトルク軽減効果が得られる。
【0057】
また、保持器50の軸受半径方向における幅W1を、内輪40の外周面43と外輪30の内周面34との間の軸受半径方向の距離の53%未満としてもよい。かかる構成によれば、
図5及び
図9に示す背景技術と比べて30%程度のトルク軽減効果が得られる。
【0058】
[第2の実施形態]
第1の実施形態における保持器は、
図4に示すような冠形保持器であるが、これに限らず、
図16に示すような波形保持器であってもよい。
図16は、第2の実施形態における波形保持器の一例を示す斜視図である。
図16に示すように、保持器200は、例えば波形に形成された一対の板材201及び202を、軸方向において結合することにより形成される波形保持器である。
【0059】
図16に示すように、波形の板材201は、転動体60を保持する保持部211と、保持部211と一体に形成され、周方向において隣接する保持部211を連結する中間板部231とを備える。同様に、波形の板材202は、転動体60を保持する保持部212と、保持部212と一体に形成され、周方向において隣接する保持部212を連結する中間板部232とを備える。
【0060】
波形の板材201及び202は、結合部220により、軸方向において結合される。結合部220は、例えば
図16に示すように、一方の波形の板材201の中間板部231を、他方の波形の板材202の中間板部232に折り重ねることで形成される。なお、結合部220は、例えば波形の板材201及び202の中間板部231及び232に形成された貫通孔に、リベットを挿通することにより形成されてもよい。
【0061】
保持部211及び212は、
図17に示すように、転動体60を収容する部分である転動体保持部210を形成する。
図17は、第2の実施形態におけるグリースの配置の一例を示す周方向に沿った断面図である。転動体保持部210及び結合部220は、例えば転動体60の数と同数形成される。
【0062】
第2の実施形態における、波形の保持器200を備える転がり軸受B1において、グリースの塊B70は、
図17に示すように、一方の保持部212lにより支持される第1の部分B71と、保持部212lと周方向において隣接する他方の保持部212rにより支持される第2の部分B72とを備える。この場合においても、第1の部分B71と第2の部分B72とは、接点B79において相互に接する。
【0063】
また、
図17に示すように、第2の実施形態における保持部212の軸方向における長さbの中間点1/2bからシール部材10までの軸方向における距離cが、転動体60の直径D8の50%未満である。
【0064】
かかる構成においても、グリースの塊B70と、保持器200の軸方向における中心部との間に隙間G60が形成される。すなわち、グリースの塊B70は、封入された段階において、
図3に示す軌道溝36及び46との距離が確保される。
【0065】
なお、第2の実施形態における保持器200の径方向中央において、中間板部231及び232の周方向における幅G21が、例えば転動体60の直径D8以下である。好ましくは、幅G21は、直径D8の80%以下であり、より好ましくは直径D8の50%以下である。また、保持器200の径方向における厚さも、第1の実施形態と同様に、例えば
図2に示す距離D7の53%未満である。
【0066】
[第3の実施形態]
また、第1の実施形態における冠形の保持器50を備えた転がり軸受1においても、
図6及び
図7に示すように、周方向において相互に隣接する、爪部53lと53rとの距離G01を、例えば転動体60の直径D8の80%以下、あるいは直径D8の50%とすることが好ましい。
図18は、第3の実施形態におけるグリースの配置の一例を示す周方向に沿った断面図である。
図18に示すように、第3の実施形態における転がり軸受C1において、周方向において相互に隣接する爪部C53lとC53rとの距離G02は、例えば転動体60の直径D8の50%以下である。
【0067】
また、
図18に示すように、周方向において隣接する2つの転動体60の距離G02が十分に小さい場合は、2つの転動体60により、
図7に示すような2つの部分71及び72を有さない1つのグリースの塊C70が支持されるような構成であってもよい。この場合においても、グリースの塊は、2つの転動体と、保持器の爪部とにより保持され、封入された段階で、軸方向においてグリースの塊と保持器の柱部との間に隙間が形成されることが好ましい。なお、第1の実施形態においても、2つの部分71及び72を有さない態様でグリースを封入してもよい。
【0068】
一方、
図19に示すように、周方向において相互に隣接する、爪部53lと53rとの距離G09が、転動体60の直径D8より大きい場合、グリースを爪部Z53lとZ53rとの2点を跨ぐように封入させることが難しい。
図19は、比較例におけるグリースの配置の一例を示す周方向に沿った断面図である。例えば、
図19に示すように、転がり軸受Z1に封入されるグリースの塊Z70を大きくすることにより、グリースの塊Z70が2つの部分Z71及びZ72を含むように、グリースを2点を跨ぐように封入させることができる。しかし、グリースの封入量が増えることにより、シール部材10によりグリースが押しつぶされる。この場合、グリースが軌道溝36又は46に流入しやすくなる。そこで、
図6及び
図7、又は
図18に示すように、周方向において相互に隣接する、爪部53lと53rとの距離G01又はG02を、例えば転動体60の直径D8の80%以下とすることが好ましい。
【0069】
[変形例]
以上、各実施形態における構成について説明したが、実施形態はこれらに限られない。例えば、転がり軸受1が有する複数の転動体60の数は一例であり、6つ以下であっても、8つ以上であってもよい。
【0070】
また、第1シール部材10及び第2シール部材20が、外輪30に装着される構成について説明したが、これに限られず、内輪40に装着されるような構成であってもよい。また、
図3に示す隙間G7が形成されない、すなわちシール部材10又は20が、外輪30と内輪40とを隙間なく覆うような構成であってもよい。なお、シール部材10及び20が、止め輪13又は23を介さずに外輪又は内輪に固定されてもよい。また、シール部材20を含まず、第1シール部材10のみが装着された構成であってもよい。
【0071】
また、
図4に示す冠形の保持器50に形成される柱部52の表面52aが、
図20に示すように壁を備えるような構成であってもよい。
図20は、第2の変形例における冠形保持器の一例を示す斜視図である。
図20に示す冠形の保持器D50は、表面52aの径方向における外側に壁54を備え、また表面52aの径方向における内側に壁55を備える。かかる構成によれば、転動体60又は爪部53に載置されるグリースの動きが、壁54及び55により抑制されるので、グリースが軌道溝36及び46に近づくことがより抑制される。
【0072】
また、
図21及び
図22に示すように、冠形保持器の柱部52の表面52aのうち、径方向における外側及び内側のうちいずれか一方だけに、壁が形成されるような構成であってもよい。
図21は、第3の変形例における冠形保持器の一例を示す部分斜視図である。
図22は、第4の変形例における冠形保持器の一例を示す部分斜視図である。
図21に示すように、第3の変形例における冠形の保持器E50には、表面52aの径方向における外側に壁54が備えられるが、表面52aの径方向における内側には壁が形成されない。また、
図22に示すように、第4の変形例における冠形の保持器F50には、表面52aの径方向における内側に壁F55が備えられるが、表面52aの径方向における外側には壁が形成されない。
【0073】
さらに、
図22及び
図23に示すように、冠形保持器の壁には、スリットが形成されていてもよい。
図23は、第5の変形例における冠形保持器の一例を示す部分斜視図である。
図22及び
図23に示すように、表面52aの径方向における内側に形成される壁F55には、スリット58が形成される。また、
図23に示すように、第5の変形例における冠形の保持器G50の表面52aの径方向における外側に形成される壁G54には、スリット57が形成される。
【0074】
以上、本発明を各実施形態及び各変形例に基づき説明したが、本発明は各実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の変更が可能であることも言うまでもない。そのような要旨を逸脱しない範囲での種々の変更を行ったものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0075】
1,2,3,9,A1,A9,C1,B1,Z1 転がり軸受、10,A10 第1シール部材、13 止め輪、20 第2シール部材、23 止め輪、30 外輪、34 内周面、36 軌道溝、40 内輪、43 外周面、46 軌道溝、50,200,D50,E50,F50,G50 保持器、51 環状部、52 柱部、53,C53,Z53 爪部、54,G54,55,F55 壁、56 保持部、57,58 スリット、60 転動体、70,B70,C70,Z70 グリースの塊、80,81,89,91,92 グリース、83,84,87,88 グリースブリッジ、100 製造装置、110 載置部、120,130 ノズル、210 転動体保持部、211,212 保持部、220 結合部、231,232 中間板部、S 軸受空間