(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159781
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 5/02 20060101AFI20241031BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20241031BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20241031BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/06
C12G3/04
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024135347
(22)【出願日】2024-08-14
(62)【分割の表示】P 2020153277の分割
【原出願日】2020-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】春名 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】野場 重都
(57)【要約】
【課題】ホップ香気が付与された、麦芽比率が低いビールテイスト飲料において、酸味が抑制され、香味バランスに優れたものを提供する。
【解決手段】シトロネロール、並びに2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含む発酵ビールテイスト飲料であって、該シトロネロールの濃度が5.0μg/l以上20.0μg/l以下であり、該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が3.0μg/l以上であり、前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度(μg/l)と麦芽使用比率(%)との比率が0.08以上2.00以下である、発酵ビールテイスト飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトロネロール、並びに2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含む発酵ビールテイスト飲料であって、
該シトロネロールの濃度が5.0μg/l以上20.0μg/l以下であり、
該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が3.0μg/l以上であり、
前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度(μg/l)と麦芽使用比率(%)との比率が0.08以上2.00以下である、発酵ビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が80.0μg/l以下である、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項3】
リナロールを含み、シトロネロールの濃度とリナロールの濃度との比率が、0.1~0.5である、請求項1又は2に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項4】
前記シトロネロールが、ホップ、ホップエキス及びホップ香料から成る群から選択される少なくとも一種に由来する、請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項5】
前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物は、添加された香料に由来するものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項6】
糖質含有量が3.0g/100ml以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項7】
スピリッツを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項8】
シトロネロール、及び2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含む発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、
該シトロネロールの濃度を5.0μg/l以上20.0μg/l以下に調節する工程、
該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度を3.0μg/l以上に調節する工程、及び
前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度(μg/l)と麦芽使用比率(%)との比率を0.08以上2.00以下に調節する工程を包含する、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵ビールテイスト飲料に関し、特に麦芽使用比率が低い発酵ビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵ビールテイスト飲料は、ビールを想起させる風味を有する飲料であって、発酵過程を経て製造されるものである。例えば、発酵ビールテイスト飲料には、デンプン質原料を加熱及び糖化して糖液を得、これにホップを添加し、酵母で発酵させたアルコール飲料が一例として挙げられる。デンプン質原料としては、麦芽、及び大麦、米、とうもろこし等の穀物類、穀物類から分離したデンプンなどが使用される。
【0003】
発酵ビールテイスト飲料の具体例には、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール飲料などであって、ビールを想起させる風味を有するものが含まれる。
【0004】
非特許文献1に関し、まず、記載を抜粋し、その後、説明する。
第391頁、下から第15~13行、要約
「GC-MSの技術を使用して、淡色麦芽及び濃色麦芽中のパンのような芳香特性及び非常に低い風味閾値をする数種類の化合物を初めて同定した。」。
【0005】
第393頁、第6~17行、序文
「麦芽を焙燥するかまたは麦汁を煮沸する場合、・・・[中略]・・・今までにまだ知られていない焙煎したような、ポップコーンのような、パンのような芳香を有する化合物が生じる。パンのような芳香特性を有する香気物質は、ビールにとって中心的な重要性がある。この香気物質は麦芽中の芳香の主成分であるが、この香気物質は、加熱殺菌された、高温環境で貯蔵した及び劣化したビールにおける悪い芳香の原因となることがある。」
【0006】
第401頁、第12~24行、ビール中のパンのような芳香成分の特性決定
「パンのような悪い芳香成分は、特に、ビールに熱負荷をかけるかまたはビールを不適切に輸送しかつ貯蔵した場合に検出される。高すぎる温度及び長すぎる作用時間での加熱殺菌の場合に、特に際立った「オフフレーバー」の印象が感じられる。
図11は、典型的なパンのような悪い芳香を示す「過剰加熱殺菌された」ビールのガスクロマトグラムを示す。特性決定されたプロリン誘導体とほとんど同等の保持時間を示す、官能特性を有するいくつかのクロマトグラム部分が生じることが認められる。分取GC、キャピラリー-GC-NSD及びキャピラリー-GC-MSを用いて、4種の2-アセチルテトラヒドロピリジンを示準成分として特性決定することができた。」
【0007】
図1に、非特許文献1の
図11である、典型的なパンのような悪い芳香を示す「過剰加熱殺菌された」ビールのガスクロマトグラムを示す。尚、ここでいう加熱殺菌の条件は、80℃で0.5~20時間である(第393頁、下から第19~18行)。このように高温で長時間加熱した場合、ビールは熱劣化する。
【0008】
非特許文献1には、要するに、(1)麦芽を加熱した場合に、ポップコーンのような、パンのような芳香を有する化合物が生じること、(2)上記芳香は、熱負荷をかけたために劣化したビールに感じられる「オフフレーバー」、即ち、異臭であること、及び(3)上記オフフレーバーの分析結果を
図11のガスクロマトグラムに示すこと、が記載されている。
【0009】
ここに
図1として示すが、非特許文献1の
図11には、オフフレーバーの分析結果として、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及び2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン等が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】R. Tressl et al., ”Bildung von Verbindungen mit brotigem Aromacharakter in Malz und Bier”, EBC Congress 1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年の低価格志向を背景に、麦芽使用比率が低い発酵ビールテイスト飲料が数多く市販されている。麦芽使用比率を低減させた発酵ビールテイスト飲料では穀物様香気及びコク感が低減し易く、風味には未だ改善の余地がある。
【0012】
また、ホップ香はビールに特有の香りを与えるため、ビールテイスト飲料の原料として不可欠である。そのため、ビールテイスト飲料は、ホップの成分を含有する。ここで、ホップには柑橘様香気を呈するシトロネロールが含まれている。麦芽使用比率が低い発酵ビールテイスト飲料は、シトロネロールを一定濃度以上含有する場合に酸味を感じやすく、香味バランスが悪くなるという問題を有している。
【0013】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的とするところは、ホップ香気が付与された、麦芽使用比率が低い発酵ビールテイスト飲料において、香味バランスに優れたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、麦芽使用比率が60%以下であり、シトロネロール、及び2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含む発酵ビールテイスト飲料であって、
該シトロネロールの濃度が5.0μg/l以上であり、
該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が3.0μg/l以上である、発酵ビールテイスト飲料を提供する。
【0015】
ある一形態においては、上記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が80.0μg/l以下である。
【0016】
ある一形態においては、上記シトロネロールの濃度が20.0μg/l以下である。
【0017】
ある一形態においては、リナロールを含み、シトロネロールの濃度とリナロールの濃度との比率が、0.1~0.5である。
【0018】
ある一形態においては、上記シトロネロールが、ホップ、ホップエキス及びホップ香料から成る群から選択される少なくとも一種に由来するものである。
【0019】
ある一形態においては、上記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度(μg/l)と麦芽使用比率(%)との比率が0.06以上である。
【0020】
ある一形態においては、上記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物は、添加された香料に由来するものである。
【0021】
ある一形態においては、上記発酵ビールテイスト飲料がスピリッツを含むものである。
【0022】
また、本発明は、麦芽使用比率が60%以下であり、シトロネロール、及び2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含む発酵ビールテイスト飲料の製造方法であって、
該シトロネロールの濃度を5.0μg/l以上に調節する工程、及び
該2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度を3.0μg/l以上に調節する工程を包含する、発酵ビールテイスト飲料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ホップ香気が付与された、麦芽使用比率が低いビールテイスト飲料において、酸味が抑制され、コク感が強化されて、香味バランスに優れたものが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】非特許文献1の
図11である、典型的なパンのような悪い芳香を示す「過剰加熱殺菌された」ビールのガスクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<発酵ビールテイスト飲料>
【0026】
本発明の発酵ビールテイスト飲料は、麦芽使用比率が60%以下、50%以下、24%以下、又は10%以下の発酵ビールテイスト飲料である。麦芽使用比率とは、デンプン質原料の重量に対する麦芽の重量の比率である。発酵ビールテイスト飲料は、麦芽を使用しないで製造されたものであってもよい。麦芽使用比率は、低くなるほどコク感が低減し易く、酸味が目立ち易く、本発明の効果を発揮し易くなる。
【0027】
本発明の発酵ビールテイスト飲料の具体例には、発泡酒、ローアルコール発泡性飲料、リキュール等が挙げられる。より具体的な発酵ビールテイスト飲料の例としては、低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料、低プリン体ビール様アルコール飲料、プリン体ゼロビール様アルコール飲料、低カロリービール様アルコール飲料及びカロリーゼロビール様アルコール飲料等のいわゆる機能系のビール様アルコール飲料が挙げられる。これらは、低糖質化、低カロリー化又は低プリン体化される過程で適切な風味を実現するのに必要な香味物質が除去されてしまい、コク感又はビールらしい風味が減少していることが多いからである。
【0028】
ある一形態において、発酵ビールテイスト飲料は、糖質含有量が3.0g/100ml以下、好ましくは2.0g/100ml以下、より好ましくは1.0g/100ml以下の低糖質発酵ビールテイスト飲料である。
【0029】
<シトロネロール>
本発明のビールテイスト飲料に含まれるシトロネロール(β-シトロネロール)は、3,7-ジメチル-6-オクテン-1-オールとも称される化合物であり、(+)-シトロネロール又は(-)-シトロネロールであってもよく、これらの混合物(異性体混合物)であってもよい。シトロネロールは柑橘系の香味を呈し、ビールテイスト飲料においてはアルコール刺激臭味に対するマスク効果や爽快な香りをもたらすなどの効果を発揮する。また、本発明で用いられるシトロネロールは天然物から単離又は抽出されたもの、食品化学的に許容される手法によって化学合成されたもの、シトロネロールを含有する原料に由来するもの、製造工程において、シトロネロールに変換される前駆体を含有する原料に由来するもの、のいずれであってもよい。
【0030】
本発明のビールテイスト飲料において、シトロネロールの濃度は5.0μg/l以上である。シトロネロールの濃度が5.0μg/l未満であると、ビールに特有な爽快な香りを感じ難くなる。シトロネロールの濃度は、例えば、5.0~20.0μg/l、好ましくは、6.5~15.0μg/l、より好ましくは、8.0~12.0μg/lである。シトロネロールの濃度が高すぎると、酸味を感じ易く、香味バランスが悪くなる。
【0031】
ある一形態において、上記シトロネロールは、発酵ビールテイスト飲料原料である、ホップ、ホップエキス、ホップ香料に由来する。ホップとは、毬花、葉、それらの磨砕物及びペレット化物等のホップ植物の一部をいう。ホップエキスとはホップを水、熱湯、超臨界二酸化炭素及びエタノール等の媒体で抽出した抽出液、抽出液の濃縮物や乾燥物、加工物等をいう。ホップ香料とは、例えば、ホップに含まれている香味成分であるリナロール、フムレンエポキシド、シトロネロール、エステル類等を主要成分として含有する香料をいう。本発明の発酵ビールテイスト飲料に含まれるシトロネロールは、香料として市販されているシトロネロールを添加したものであってもよい。
【0032】
<ATHP>
本発明のビールテイスト飲料に含まれる2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンは、互変異性体として2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンを有する。したがって、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンをビールテイスト飲料に添加した場合、ビールテイスト飲料には、一般に、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及び2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンが両方とも含有される。それらの存在比率は、周囲のpH環境等に依存して決定される。
【0033】
本明細書では、上記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を、以下「ATHP」と記載することがある。ATHPは、上述の通り、発酵ビールテイスト飲料を製造する過程で麦芽を加熱する場合に生成する化合物である。ATHPが存在することで、発酵ビールテイスト飲料の酸味が抑制され、コク感が強化される。本発明の発酵ビールテイスト飲料に含まれるATHPは、香料として市販されているATHPを添加したものであってもよい。
【0034】
本発明のビールテイスト飲料において、ATHPの濃度は3.0μg/l以上である。ATHPの濃度が3.0μg/l未満であると、酸味を感じ易く、香味バランスが悪くなる。ATHPの濃度は、例えば、3.0~80.0μg/l、好ましくは、5.0~40.0μg/l、より好ましくは、5.0~20.0μg/lである。ATHPの濃度が高すぎると渋味が目立ち香味バランスが悪くなる。特にその濃度が1ppmを超えると、非特許文献1にある通り、加熱したパン様のオフフレーバーとなる。
【0035】
また、ATHPの濃度は、好ましくは、ATHPの濃度(μg/l)と麦芽使用比率(%)との比率が0.06以上になる濃度である。この比率が0.06未満になると、発酵ビールテイスト飲料のコク感の強化が不十分になり易い。上記比率は、好ましくは0.08以上、より好ましくは0.08~2.00、更に好ましくは0.10~1.00である。
【0036】
<リナロール>
本発明の発酵ビールテイスト飲料に含まれてよいリナロールは、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールとも称される化合物であり、モノテルペンアルコールの一種である。リナロールは、スズラン様のさわやかな甘い香りを有する成分であり、ビールテイスト飲料においてはキレを良くする効果を発揮する。本発明で用いられるリナロールは天然物から単離又は抽出されたもの、食品化学的に許容される手法によって化学合成されたもの、リナロールを含有する原料に由来するもの、製造工程において、リナロールに変換される前駆体を含有する原料に由来するもの、のいずれであってもよい。リナロールを含有する原料としては、ホップ、ホップエキス、ホップ香料などが挙げられる。本発明の発酵ビールテイスト飲料に含まれるリナロールは、香料として市販されているリナロールを添加したものであってもよい。
【0037】
本発明の発酵ビールテイスト飲料において、ホップ、ホップエキス、又はホップ香料としてリナロール及びシトロネロールが含まれる場合、シトロネロールの濃度(μg/l)とリナロールの濃度(μg/l)との比率はおおよそ0.1~0.5となる。
【0038】
<スピリッツ>
本発明の発酵ビールテイスト飲料に、さらにスピリッツを含有させることもできる。スピリッツは、一般に、発酵ビールテイスト飲料のアルコール濃度を高める必要がある場合に、発酵ビールテイスト飲料に含有させる。スピリッツは、麦、米、そば、とうもろこし等の穀物を原料として、麦芽または必要により酵素剤を用いて糖化し、酵母を用いて発酵させた後、更に蒸留して得られる酒類であってよい。スピリッツは醸造用アルコールであってもよい。このときスピリッツの含有率は、香味に大きな影響を与えない程度に、1vol%以下、好ましくは0.5vol%以下である。
【0039】
<製造方法>
本発明の発酵ビールテイスト飲料は、デンプン質原料を加熱及び糖化して糖液を得、これにホップを添加し、酵母で発酵させることで製造される。製造方法の具体例を以下に説明する。
【0040】
原料として麦芽の粉砕物を用意する。また、副原料として、米、コーンスターチ、大麦等を用意する。原料と副原料とを混合し、麦芽使用比率60%以下のデンプン質原料を調整する。次いで、原料に温水を加えて、加温し、原料を糖化させる。得られた糖化液を濾過し、ホップを加え、煮沸釜において煮沸することで麦汁を得る。煮沸後、麦汁を沈殿槽(ワールプール等と呼ばれる)に移送し、ホップ粕等の沈殿物を除去する。沈殿物の除去後、熱交換器(プレートクーラー)により、適切な発酵温度にまで冷却する。冷却後、麦汁に酵母を接種して発酵させ、濾過を行い、発酵麦芽ビールテイスト飲料を得る。また、得られた発酵麦芽ビールテイスト飲料に対してスピリッツを添加することで、スピリッツを含有させた発酵麦芽ビールテイスト飲料を得ることができる。
【0041】
シトロネロールの濃度は、例えば、製造の過程で使用するホップの量を増減することで調節することができる。シトロネロールの濃度は、例えば、中間製造物又は最終製造物にシトロネロールそのものを添加することで調節してもよい。
【0042】
ATHPの濃度は、例えば、使用する麦芽の量を増減する、麦芽を加熱する温度又は時間を増減する等の方法で調節することができる。ATHPの濃度は、例えば、中間製造物又は最終製造物にATHPそのものを添加することで調節してもよい。
【0043】
リナロールの濃度は、例えば、製造の過程で使用するホップの量を増減することで調節することができる。リナロールの濃度は、例えば、中間製造物又は最終製造物にリナロールそのものを添加することで調節してもよい。
【0044】
シトロネロール、ATHP又はリナロールは、香料中に含まれる成分というかたちで添加してもよい。ただし、添加する工程が前工程であればあるほど、該化合物の各成分の濃度の消長が考えられるため、後工程で添加することが望ましい。
【0045】
スピリッツの濃度は、発酵麦芽ビールテイスト飲料に対して添加するスピリッツの量を増減することで調節してもよい。
【0046】
以下の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0047】
<参考例1>
[ビールテイスト飲料の製造]
原料として麦芽の粉砕物を用意した。また、副原料として、米、コーンスターチ、大麦を用意した。原料と副原料とを混合し、麦芽使用比率70%のデンプン質原料を調製した。デンプン質原料に温水を加えて、加温し、原料を糖化させた。得られた糖化液を濾過し、煮沸釜において煮沸することで麦汁を得た。煮沸後、麦汁を沈殿槽(ワールプール等と呼ばれる)に移送し、ホップ粕等の沈殿物を除去した。沈殿物の除去後、熱交換器(プレートクーラー)により、適切な発酵温度にまで冷却した。冷却後、麦汁に酵母を接種して発酵させた。発酵後、濾過を行い、発酵ビールテイスト飲料を得た。
【0048】
得られた発酵ビールテイスト飲料のスペックとして、糖質、リナロール、シトロネロール、及びATHPの分析を行って濃度を決定した。分析方法を以下に示す。分析結果は表1に示す。
【0049】
[糖質の分析]
糖質の測定は公知の方法に従って行うことができ、当該試料の質量から、水分、タンパ
ク質、脂質、灰分及び食物繊維量を除いて算出する方法(食品表示基準(令和2年7月16日消食表第270号)参照)に従って行った。
【0050】
[リナロール、シトロネロールの分析]
発酵ビールテイスト飲料に、内部標準としてd5-Linaloolを20ppbになるように添加した後、10倍希釈した。得られた希釈サンプル15mlを30mL容バイアルに分取した。47μLのPDMS(ポリジメチルシロキサン)でコーティングした攪拌枝「Twister」(商品名)(長さ:20mm、Gerstel社製)を当該バイアルに入れ、蓋を締め、40℃で2時間攪拌し、攪拌枝にホップ香気成分を吸着させた。
【0051】
次いで、攪拌枝を当該バイアルから取り出し、水滴を完全に除去した後、加熱脱着ユニット(Thermal desorption unit(TDU)、Gerstel社製)とプログラマブル温度-蒸発インレット(Programmable temperature-vaporization inlet、CIS4、Gerstel社製)を装備したGC/MSに挿入し、下記の条件でGC/MSを行った。
【0052】
GC/MS(Agilent社 6890/5973N)を使用し、カラムはDB-WAX(60m× 0.25mmI.D.×;0.25μmF.T.)を用いて分離した。オーブン温度は40℃(5min)-3℃/min-240℃(20min)で、イオン化条件70eV、選択イオンはリナロール93、シトロネロール123、β―ダマスコン(内部標準)177の条件で分析した。定量は標準品を添加し、検量線を作成した。
【0053】
[ATHPの分析]
20gのビールテイスト飲料に50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体)及び、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、OASIS MCX 500mg/6ml(Waters)へ負荷した。
【0054】
5mLの1%ギ酸水で、カラムを洗浄後、5mLの2%アンモニア-メタノールで溶出し、溶出液を蒸留水で2倍希釈したのち、LC/MS/MSにて分析した。
【0055】
LC/MS/MS(AB-SCIEX社製5500QTRAP)を使用し、カラムはACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mm(waters)を用いて分離した。移動相条件はA液:10mM 炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルにて、(B%,t):(10%、1min)、(50%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)として分析した。定量は、標準品を添加して作成した検量線を使用して行った。
【0056】
<参考例1-2>
デンプン質原料の麦芽使用率を50%に調節することと、ホップの使用量を減らすこと以外は参考例1と同様にして、発酵ビールテイスト飲料を得、スペックの分析を行った。糖質濃度は1.5g/100ml、リナロールの濃度は20μg/l、シトロネロール濃度は3μg/l、ATHPの濃度は2μg/lであった。
【0057】
<比較例1>
参考例1-2よりもホップの使用量を増やしてリナロールの濃度を33μg/lに、シトロネロール濃度を5μg/lに増加させた。
【0058】
<実施例1-1、1-3及び1-5>
比較例1の発酵ビールテイスト飲料にATHPを添加することでATHP濃度を、それぞれ、3μg/l、5μg/l、及び10μg/lに増加させた。
【0059】
<実施例1-2>
実施例1-1よりもさらにホップの使用量を増やしてリナロールの濃度を67μg/lに、シトロネロール濃度を10μg/lに増加させた。
【0060】
<実施例1-4、1-6及び1-7>
実施例1-2の発酵ビールテイスト飲料にATHPを添加することでATHP濃度を、それぞれ、5μg/l、10μg/l、及び100μg/lに増加させた。
【0061】
次いで、専門評価者によって、製造したビールテイスト飲料の官能評価を行った。評価項目は、飲料の酸味、コク、渋味とした。3名のビール類の専門評価者が各ビールテイスト飲料を試飲し、以下の評価基準に基づいて採点した。3名の評価者の官能評点の平均値を評点とした。また、香味バランスは3つの項目で評点がすべて3以上のときに、「○」とした。評価結果を表1に示す。
【0062】
<評価基準:飲料の酸味>
評点
4:とても弱い
3:弱い
2:強い
1:とても強い
【0063】
<評価基準:飲料のコク>
評点
4:とても強い
3:強い
2:弱い
1:とても弱い
【0064】
<評価基準:飲料の渋味>
評点
4:とても弱い
3:弱い
2:強い
1:とても強い
【0065】
【0066】
表1の評価結果から、参考例1、参考例1-2及び比較例1の比較より、麦芽比率が高い場合はシトロネロールが多いにもかかわらず酸味が弱く、麦芽比率が低い場合はコクが弱く、麦芽比率が低いかつシトロネロールが多い場合は酸味が強いことが理解される。また、ATHPの効果により、麦芽比率50%において、ATHPの量が3μg/l以上で酸味が抑制され、3μg/l以上、特に5μg/l以上でコクが増強されることが理解される。さらに、ATHPの量が100μg/l以上になると渋味が強くなりすぎることも理解される。
【0067】
<参考例2-2>
デンプン質原料の麦芽使用率を24%に調節することと、ホップの使用量を減らすこと以外は参考例1と同様にして、発酵ビールテイスト飲料を得、スペックの分析を行った。糖質濃度は0g/100ml、リナロールの濃度は20μg/l、シトロネロール濃度は3μg/l、ATHPの濃度は1μg/lであった。
【0068】
<比較例2>
参考例2-2よりもホップの使用量を増やしてリナロールの濃度を33μg/lに、シトロネロール濃度を5μg/lに増加させた。
【0069】
<実施例2-1、2-3及び2-5>
比較例2の発酵ビールテイスト飲料にATHPを添加することでATHP濃度を、それぞれ、3μg/l、5μg/l、及び10μg/lに増加させた。
【0070】
<実施例2-2>
実施例2-1よりもさらにホップの使用量を増やしてリナロールの濃度を67μg/lに、シトロネロール濃度を10μg/lに増加させた。
【0071】
<実施例2-4、2-6及び2-7>
実施例2-2の発酵ビールテイスト飲料にATHPを添加することでATHP濃度を、それぞれ、5μg/l、10μg/l、及び100μg/lに増加させた。
【0072】
表1に示した発酵ビールテイスト飲料と同様にして、上記発酵ビールテイスト飲料の官能評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0073】
【0074】
表2の評価結果から、参考例1、参考例2-2及び比較例2の比較より、麦芽比率が高い場合はシトロネロールが多いにもかかわらず酸味が弱く、麦芽比率が低い場合はコクが弱く、麦芽比率が低いかつシトロネロールが多い場合は酸味が強いことが理解される。また、ATHPの効果により、麦芽比率24%において、ATHPの量が3μg/l以上で酸味が抑制され、3μg/l以上、特に5μg/l以上でコクが増強されることが理解される。さらに、ATHPの量が100μg/l以上になると渋味が強くなりすぎることも理解される。
【0075】
<参考例3-2>
デンプン質原料の麦芽使用率を10%に調節することと、ホップの使用量を減らすこと以外は参考例1と同様にして、発酵ビールテイスト飲料を得、スペックの分析を行った。糖質濃度は0g/100ml、リナロールの濃度は20μg/l、シトロネロール濃度は3μg/l、ATHPの濃度は0.5μg/lであった。
【0076】
<比較例3>
参考例3-2よりもホップの使用量を増やしてリナロールの濃度を33μg/lに、シトロネロール濃度を5μg/lに増加させた。
【0077】
<実施例3-1、3-3及び3-5>
比較例3の発酵ビールテイスト飲料にATHPを添加することでATHP濃度を、それぞれ、3μg/l、5μg/l、及び10μg/lに増加させた。
【0078】
<実施例3-2>
実施例3-1よりもさらにホップの使用量を増やしてリナロールの濃度を67μg/lに、シトロネロール濃度を10μg/lに増加させた。
【0079】
<実施例3-4、3-6及び3-7>
実施例3-2の発酵ビールテイスト飲料にATHPを添加することでATHP濃度を、それぞれ、5μg/l、10μg/l、及び100μg/lに増加させた。
【0080】
表1に示した発酵ビールテイスト飲料と同様にして、上記発酵ビールテイスト飲料の官能評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0081】
【0082】
表3の評価結果から、参考例3-1、参考例3-2及び比較例3の比較より、麦芽比率が高い場合はシトロネロールが多いにもかかわらず酸味が弱く、麦芽比率が低い場合はコクが弱く、麦芽比率が低いかつシトロネロールが多い場合は酸味が強いことが理解される。また、ATHPの効果により、麦芽比率10%において、ATHPの量が3μg/l以上で酸味が抑制され、3μg/l以上、特に5μg/l以上でコクが増強されることが理解される。さらに、ATHPの量が100μg/l以上になると渋味が強くなりすぎることも理解される。