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特開2024-159893カーボンナノチューブ分散液、及びそれを用いた樹脂組成物、導電膜、合材スラリー、電極、非水電解質二次電池
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  • 特開-カーボンナノチューブ分散液、及びそれを用いた樹脂組成物、導電膜、合材スラリー、電極、非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159893
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液、及びそれを用いた樹脂組成物、導電膜、合材スラリー、電極、非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20241031BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20241031BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20241031BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20241031BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241031BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241031BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241031BHJP
【FI】
C01B32/174
H01B1/24 A
H01B1/00 H
H01B5/14 Z
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024139880
(22)【出願日】2024-08-21
(62)【分割の表示】P 2024524681の分割
【原出願日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022153032
(32)【優先日】2022-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 大輔
(72)【発明者】
【氏名】諸石 順幸
(72)【発明者】
【氏名】岡部 正暉
(72)【発明者】
【氏名】図司 健人
(57)【要約】
【課題】電池として用いた時に優れたサイクル特性を有するカーボンナノチューブ分散液、及び、該分散液を用いた樹脂組成物、導電膜、合材スラリー、電極、非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】平均直径が3nm~30nmであるカーボンナノチューブを用いたバンドル状カーボンナノチューブと溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、カーボンナノチューブ分散液中に含まれる外径10nm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)の個数の割合が0.2%以上であるカーボンナノチューブ分散液。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均直径が3nm~30nmであるカーボンナノチューブを用いたバンドル状カーボンナノチューブと溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
カーボンナノチューブ分散液中に含まれる外径10nm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)の個数の割合が0.2%以上であるカーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)の平均アスペクト比が5~100である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)の個数の割合が0.2%~20%である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ分散液中に含まれる外径10nm以上、且つ、繊維長が0.2μm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、外径が10nm以上、50nm未満であり繊維長が1μm~5μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合が10%~60%である請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
前記外径が10nm以上、50nm未満であり繊維長が1μm~5μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合が20%~35%である請求項4に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ分散液中に含まれる外径10nm以上、且つ、繊維長が0.2μm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、外径が10nm以上、50nm未満であり繊維長が0.2μm以上、1μm未満である形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(Z)の個数の割合が50%~80%である請求項1~5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
前記バンドル状カーボンナノチューブ(Z)の個数の割合に対する、前記バンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合の比((Y)の個数の割合/(Z)の個数の割合)が、0.3~0.6である請求項6に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
さらに分散剤を含む請求項1~5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液の塗工膜である導電膜。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液とバインダーとを含むカーボンナノチューブ樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物と活物質とを含む合材スラリー。
【請求項12】
請求項11に記載の合材スラリーの塗工膜である電極膜。
【請求項13】
正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池であって、正極及び負極の少なくとも一方が、請求項12に記載の電極膜を含む非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バンドル形状を有するカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ分散液に関する。さらに詳しくは、前記カーボンナノチューブ分散液と樹脂とを含む樹脂組成物、前記カーボンナノチューブ分散液と樹脂と活物質とを含む合材スラリー、それらを膜状に形成してなる導電膜及び電極膜、電極膜と電解質とを具備してなる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクスの発達は目覚ましいものがあり、各種電子機器や電池で使用される導電性材料について、製品の小型・軽量化、低コスト化、様々な使用環境下での高寿命化が求められるようになってきている。そして今日までに、様々なグラファイトやカーボンナノチューブ等の体積抵抗率が低い導電性炭素材料が検討されてきた。
【0003】
一方、導電性材料が各種電子機器や電池で使用される場合、導電性材料を溶媒中に分散した分散液を使用することが多いが、分散により導電性が低下する等の特性低下を招くという大きな課題がある。そのため、所望の特性が得られる分散液を作製することが非常に重要である。
【0004】
リチウムイオン二次電池を例に挙げると、リチウムイオン二次電池に用いられる負極材料としては、リチウムに近い卑な電位で単位質量あたりの充放電容量の大きい黒鉛に代表される炭素材料が用いられている。しかしながら、これらの電極材料は質量当たりの充放電容量が理論値に近いところまで使われており、電池としての質量当たりのエネルギー密度は限界に近づいている。従って、電極としての利用率を上げるため、放電容量には寄与しない導電助剤やバインダーを減らす試みが行われている。
【0005】
導電助剤としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラフェン、微細炭素材料等が使用されており、特に微細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブが多く使用されている。例えば、特許文献1~3には、負極活物質である黒鉛やシリコンにカーボンナノチューブを添加することにより、電極抵抗値の低減、電池の内部抵抗の改善、電極の強度向上、電極の膨張収縮性向上を達成し、それにより、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-155776号公報
【特許文献2】特開平4-237971号公報
【特許文献3】特開2004-178922号公報
【特許文献4】特表2018-534731号公報
【特許文献5】特表2018-534747号公報
【0007】
しかし、特許文献4~5に示すようなバンドル形状を有するカーボンナノチューブを安定的に得ることは難しく、また、特に負極活物質としてシリコンを用いた電池において優れたサイクル特性を得ることは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、電池として用いた時に優れたサイクル特性を有するカーボンナノチューブ分散液、及び、該分散液を用いた樹脂組成物、導電膜、合材スラリー、電極、非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るカーボンナノチューブ分散液は、平均直径が3nm~30nmであるカーボンナノチューブを用いたバンドル状カーボンナノチューブと溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、カーボンナノチューブ分散液中に含まれる外径10nm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブの個数の割合が0.2%以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係るカーボンナノチューブ分散液は、前記外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブの平均アスペクト比が5~100であることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係るカーボンナノチューブ分散液は、さらに分散剤を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る導電膜は、上記カーボンナノチューブ分散液の塗工膜であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係るカーボンナノチューブ樹脂組成物は、上記カーボンナノチューブ分散液とバインダーとを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る合材スラリーは、上記カーボンナノチューブ樹脂組成物と活物質とを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る電極膜は、上記合材スラリーの塗工膜であることを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池であって、正極又は負極の少なくとも一方が、上記電極膜を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本開示により、電池として用いた時に優れたサイクル特性を有するカーボンナノチューブ分散液、及び、該分散液を用いた樹脂組成物、導電膜、合材スラリー、電極、非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1記載のカーボンナノチューブ分散液を走査型電子顕微鏡にて2万倍の倍率で観察した際の画像を、画像解析ソフト(WINROOF2015:三谷商事株式会社製)で処理を行ったものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<カーボンナノチューブ分散液>
本開示のカーボンナノチューブ分散液は、平均直径が3nm~30nmであるカーボンナノチューブを用いたバンドル状カーボンナノチューブと溶媒とを含み、カーボンナノチューブ分散液中に含まれる外径10nm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)の個数の割合が0.2%以上であることを特徴とする。
このような所定の形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)を一定量含有することで、合材層の抵抗率が低下するだけでなく、膨張や収縮に対する追従性が向上する。これにより、電極膜が強靭化して、剥離強度が向上する。そして、大きな応力が掛かる充放電において塗膜の安定性が増し、膜厚を維持することができる。また、優れたサイクル特性を発揮することができる。
以下、本開示のカーボンナノチューブ分散液、樹脂組成物、導電膜、合材スラリー、電極、及び非水電解質二次電池について詳しく説明する。本明細書において、カーボンナノチューブをCNTと略記することがある。
【0020】
<バンドル状カーボンナノチューブ>
本開示のカーボンナノチューブ分散液に含まれるバンドル状カーボンナノチューブは、平均直径が3nm~30nmであるカーボンナノチューブを用いてなる、バンドル形状を有するカーボンナノチューブである。バンドル状カーボンナノチューブとは、複数のカーボンナノチューブが一定の方向に並び配列又は整列された束(バンドル)であり、外径及び繊維長とは、束(バンドル)の外径(短径)及び繊維長(長径)を意味する。
本開示の分散液は、所定の外径及び繊維長を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)を所定量含有するものである。
分散液中のバンドル状カーボンナノチューブの外径及び繊維長は、各々のカーボンナノチューブが重なり合わずに、大きさが判別しやすいよう、必要に応じて希釈した分散液を乾燥して得られるサンプルを、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、画像解析することにより求めることができる。
なお、カーボンナノチューブ分散液の希釈により、カーボンナノチューブが凝集してしまう場合は、カーボンナノチューブの固形分に対して0.01~2質量%の分散剤や水溶性溶剤などの添加剤を添加し、超音波を用いて均一に混合した後、混合液を1000倍になるように希釈を行ってもよい。また、分散液を乾燥して得られるSEM観察用サンプルは、具体的には、上述のカーボンナノチューブ分散液の希釈液をマイカ基板上に塗布し、オーブン中で溶媒を乾燥した後、塗布面側の基板表面を白金でスパッタリングして作製することができる。
【0021】
詳細には、走査型電子顕微鏡を用いて、より適切にカーボンナノチューブを観察するため、1万倍又は2万倍の倍率で撮像されたカーボンナノチューブの各粒子について、画像解析ソフト(WINROOF2015:三谷商事株式会社製)を用いて、外径(短径)、繊維長(長径)、面積を計測する。なお、バンドル状カーボンナノチューブの形状は不定形であり、本明細書では、1つのカーボンナノチューブ内において外径の値は幅を持つため、面積値を繊維長(長径)で割った値を外径として用いる。
次いで、上記のようにして求めた外径が10nm以上のカーボンナノチューブ粒子を任意に1000本選択し、当該1000本のカーボンナノチューブ粒子において、外径が50nm~5μmであり、繊維長が1μm~100μmである粒子を特定し、個数Aをカウントし、以下式を用いてバンドル状カーボンナノチューブ(X)の個数の割合(%)を算出する。
(式)バンドル状カーボンナノチューブ(X)の個数の割合(%)=A/1000×100
【0022】
バンドル状カーボンナノチューブ(X)の個数の割合は、好ましくは0.5%以上である。また、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。例えば、この割合は、0.5%~20%であってよい。
特にサイクル特性及び膜厚変化率の観点において、好ましくは、0.5%~20%である。
【0023】
本明細書において、上記のようにして特定された外径が50nm~5μmであり、繊維長が1μm~100μmである粒子における外径及び繊維長を平均した値を、平均外径及び平均繊維長という。また、該平均外径及び平均繊維長の比を平均アスペクト比という。
本開示の分散液における、外径が50nm~5μmであり、繊維長が1μm~100μmであるバンドル状カーボンナノチューブの平均外径は、好ましくは50nm~1μm、より好ましくは50nm~500nmである。
平均繊維長は、好ましくは1μm~50μmであり、より好ましくは1μm~10μmである。また平均アスペクト比は、好ましくは5~200であり、より好ましくは10~150である。
【0024】
本開示のカーボンナノチューブ分散液は、さらに、外径が10nm以上、50nm未満であり繊維長が1μm~5μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(Y)を含有してもよい。このようなバンドル状カーボンナノチューブ(Y)は、主に導電パスのネットワークを形成する役割を担い、サイクル特性を向上させる。
カーボンナノチューブ分散液中に含まれる、外径が10nm以上、且つ、繊維長が0.2μm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、上記バンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合は、サイクル特性を向上する観点から、10%~60%であることが好ましい。
上記個数割合の算出方法について説明する。走査電子顕微鏡を用いて、カーボンナノチューブの繊維長に合わせて5千倍の倍率で撮像されたカーボンナノチューブの各粒子について、画像解析ソフト(WINROOF2015:三谷商事株式会社製)を用いて、外径(短径)、繊維長(長径)、面積を計測する。なお、バンドル状カーボンナノチューブの形状は不定形であり、本明細書では、1つのカーボンナノチューブ内において外径の値は幅を持つため、面積値を繊維長(長径)で割った値を外径として用いる。
次いで、上記のようにして求めた、外径が10nm以上、且つ、繊維長が0.2μm以上のカーボンナノチューブ粒子を任意に1000本選択し、当該1000本のカーボンナノチューブ粒子において、外径が10nm以上、50nm未満であり、繊維長が1μm~5μmである粒子を特定し、個数Bをカウントし、以下式を用いてバンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合(%)を算出する。
(式)バンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合(%)=B/1000×100
【0025】
バンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合は、サイクル特性の観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。また、好ましくは60%以下、より好ましくは35%以下である。
【0026】
本開示のカーボンナノチューブ分散液は、さらに、外径が10nm以上、50nm未満であり繊維長が0.2μm以上、1μm未満である形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(Z)を含有してもよい。このようなバンドル状カーボンナノチューブ(Z)は、後述する活物質等の表面近傍、又は、導電ネットワークの隙間に入り込むことで、体積抵抗率を下げるだけでなく、サイクル特性向上にも寄与していると推察している。
カーボンナノチューブ分散液中に含まれる、外径が10nm以上、且つ、繊維長が0.2μm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、上記バンドル状カーボンナノチューブ(Z)の個数の割合は、サイクル特性を向上する観点から、50%~80%であることが好ましい。
上記個数割合の算出方法について説明する。走査電子顕微鏡を用いて、カーボンナノチューブの繊維長に合わせて5千倍の倍率で撮像されたカーボンナノチューブの各粒子について、画像解析ソフト(WINROOF2015:三谷商事株式会社製)を用いて、外径(短径)、繊維長(長径)、面積を計測する。なお、バンドル状カーボンナノチューブの形状は不定形であり、本明細書では、1つのカーボンナノチューブ内において外径の値は幅を持つため、面積値を繊維長(長径)で割った値を外径として用いる。
次いで、上記のようにして求めた、外径が10nm以上、且つ、繊維長が0.2μm以上のカーボンナノチューブ粒子を観察し、任意に1000本選択し、当該1000本のカーボンナノチューブ粒子において、外径が10nm以上、50nm未満であり、繊維長が0.2μm以上、1μm未満である粒子を特定し、個数Cをカウントし、以下式を用いてバンドル状カーボンナノチューブ(Z)の個数の割合(%)を算出する。
(式)バンドル状カーボンナノチューブ(Z)の個数の割合(%)=C/1000×100
【0027】
バンドル状カーボンナノチューブ(Z)の個数の割合は、体積抵抗率の観点から、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上である。また、好ましくは90%以下、より好ましくは70%以下である。
【0028】
本開示の分散液は、外径及び繊維長の異なるバンドル状カーボンナノチューブ(X)、(Y)、及び(Z)を最適なバランスで含むことで、サイクル特性及び膜厚維持性が向上する。サイクル特性及び膜厚維持性の観点から、バンドル状カーボンナノチューブ(Z)の個数の割合に対する、前記バンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合の比((Y)の個数の割合/(Z)の個数の割合)は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上である。また好ましくは1.3以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.6以下である。例えば、この割合は、0.3~0.6であってよい。
【0029】
このようなバンドル状カーボンナノチューブを含む分散液は、例えば、カーボンナノチューブ間の相互作用を促進させた後、溶媒(分散溶媒ともいう)中に分散させることで得ることができる。カーボンナノチューブ間の相互作用を促進させるためには、カーボンナノチューブにせん断(力)や衝撃(力)を加えること、及び、溶媒(処理溶媒ともいう)を用いた湿式混合を行うことが好ましいが、これらに限定されるものではない。
このような例としては、平均直径が3nm~30nmであるカーボンナノチューブ間の選択的な凝集が起こるように、最適な処理溶媒の存在下で、最適な装置を用いてせん断(力)や衝撃(力)が加わるよう、湿式混合した後に焼成して得られる処理カーボンナノチューブを、分散溶媒の存在下で分散することを挙げることができる。上記のようにして得られた処理カーボンナノチューブを分散することで、本開示で規定している、所定の形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)を所定量含む分散液を得ることができる。
【0030】
[原料カーボンナノチューブ]
バンドル状カーボンナノチューブの形成に用いる原料カーボンナノチューブは、バンドル状カーボンナノチューブ(束)を構成する構成単位であるカーボンナノチューブを指し、原料カーボンナノチューブは、その平均直径が3nm~30nmであることが重要である。このような平均直径のカーボンナノチューブは安価であり入手容易なだけでなく、このような平均直径のカーボンナノチューブを用いることで、長尺で且つ柔軟性の優れるバンドル状カーボンナノチューブとなり、優れたサイクル特性を発揮することができる。
原料カーボンナノチューブの直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、例えば、500万倍の倍率により測定することができる。原料カーボンナノチューブの平均直径は、カーボンナノチューブ繊維中、任意の10か所の直径を計測し平均した値である。原料カーボンナノチューブの平均直径は、好ましくは5nm~20nmである。
【0031】
カーボンナノチューブは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状を有しており、多層カーボンナノチューブは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくともよい。例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブをカーボンナノチューブとして用いることもできる。また、これらのカーボンナノチューブは複数の層数を有するカーボンナノチューブが混在するものであってもよい。
本開示において用いる原料カーボンナノチューブは、平均直径が3nm~30nmであれば特に限定されないが、その層数は、好ましくは2層以上、より好ましくは3層以上である。また好ましくは30層以下、より好ましくは20層以下、さらに好ましくは10層以下である。
【0032】
原料カーボンナノチューブの形状は限定されず、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、及びコイル状を含む様々な形状を用いることができる。また、円筒チューブ状のカーボンナノチューブに乾式処理を行って得られた、板状又はプレートレット状の2次凝集体であってもよい。本開示に用いる原料カーボンナノチューブの形状は、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。カーボンナノチューブは、単独の形状、又は2種以上の形状の組合せであってもよい。
【0033】
原料カーボンナノチューブの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバーを挙げることができるが、これらに限定されない。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
【0034】
原料カーボンナノチューブのBET比表面積は10~1500m/gであるものが好ましく、150~800m/gであるものがより好ましく、200~700m/gであるものがさらに好ましい。
【0035】
原料カーボンナノチューブの体積抵抗率は、1.0×10-2Ω・cm以下であることが好ましく、5.0×10-3Ω・cm以下であることがより好ましく、3.0×10-3Ω・cm以下であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブの体積抵抗率は粉体抵抗率測定装置(日東精工アナリテック社製:ロレスターGP-粉体抵抗率測定システムMCP-PD-51)を用いて測定することができる。
【0036】
原料カーボンナノチューブの炭素純度は、カーボンナノチューブ中の炭素原子の含有率(%)で表される。炭素純度はカーボンナノチューブ100質量%に対して、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。
原料カーボンナノチューブ中に含まれる金属量は、カーボンナノチューブ100質量%に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。カーボンナノチューブに含まれる金属としては、カーボンナノチューブを合成する際に触媒として使用される金属や金属酸化物が挙げられる。具体的には、コバルト、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、シリカ、マンガンやモリブデン等の金属、金属酸化物やこれらの複合酸化物が挙げられる。
【0037】
原料カーボンナノチューブは、通常二次粒子として存在している。この二次粒子の形状は、例えば一般的な一次粒子であるカーボンナノチューブが複雑に絡み合っている状態でもよい。カーボンナノチューブを直線状にしたものの集合体であってもよい。直線状のカーボンナノチューブの集合体である二次粒子は、絡み合っているものと比べるとほぐれ易い。また直線状のものは、絡み合っているものに比べると分散性が良いのでカーボンナノチューブとして好適に利用できる。
【0038】
原料カーボンナノチューブは、表面処理されたカーボンナノチューブでもよい。また原料カーボンナノチューブは、カルボキシ基に代表される官能基を付与させたカーボンナノチューブ誘導体であってもよい。また、有機化合物、金属原子、又はフラーレンに代表される物質を内包させたカーボンナノチューブも用いることができる。
【0039】
原料カーボンナノチューブはどのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。カーボンナノチューブは一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法及び燃焼法で製造できるが、これらに限定されない。例えば、酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中、500~1000℃にて、炭素源を触媒と接触反応させることでカーボンナノチューブを製造することができる。炭素源は炭化水素及びアルコールの少なくともいずれか一方でもよい。
【0040】
原料カーボンナノチューブの炭素源となる原料ガスは、従来公知の任意のものを使用できる。例えば、炭素を含む原料ガスとしてメタン、エチレン、プロパン、ブタン及びアセチレンに代表される炭化水素、一酸化炭素、並びにアルコールを用いることができるが、これらに限定されない。特に使いやすさの観点から、炭化水素及びアルコールの少なくともいずれか一方を原料ガスとして用いることが望ましい。
【0041】
[処理溶媒]
平均直径が3nm~30nmであるカーボンナノチューブを湿式混合する処理溶媒としては、極性が高いアルコール系溶媒、水が好ましい。極性が高いアルコール系溶媒や水を用いて処理することにより、疎水性であるカーボンナノチューブの表面との極性の差が大きくなり、カーボンナノチューブ同士が凝集し、バンドル形成を進める上で有利となるため好ましい。
極性が高いとは、25℃におけるハンセンの溶解度パラメーター(SP値)の値が10以上であることを指す。25℃におけるハンセンの溶解度パラメーター(SP値)は、ハンセン溶解度パラメータアプリケーション(Hansen Solubility Parameters in Practice (HSPiP) Ver.5.1.05、開発者:Dr. Hansen、Prof. Abbott、Dr. Yamamoto)により算出することができる。
【0042】
上記極性が高いアルコール系溶媒としては、例えば、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールが挙げられるが、例示されるものに限定されず、カーボンナノチューブとの混合状態が最適なものであればよい。以下に1価の脂肪族アルコールのSP値を示す。メタノール(SP値:14.4、以下同じ。)、エタノール(13.0)、2-プロパノール(イソプロピルアルコール、IPA)(11.5)、1-ブタノール(11.3)、2-ブタノール(10.8)、2-メチル-1-プロパノール(11.1)、2-メチル-2-プロパノール(10.6)、1-ペンタノール(10.7)、2-ペンタノール(10.5)、イソペンタノール(10.4)、t-ペンタノール(10.3)。
【0043】
[湿式混合]
湿式混合に用いる装置としては、例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類、エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類、レッドデビル社製ペイントコンディショナー、ボールミル、シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等のサンドミル類、アトライター、若しくはコボールミル等のメディア型分散機、ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等の湿式ジェットミル類、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機類、又は、その他ロールミル、ニーダーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、湿式混合装置としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい場合がある。例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセルの表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。又、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用してもよいし、複数種の装置を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
[ホウ素源]
処理溶媒を用いてカーボンナノチューブを湿式混合する際には、ホウ素源を含んでもよい。ホウ素源及び処理溶媒の存在下に湿式処理することで、ホウ素源とカーボンナノチューブが均一に混合され、焼成工程を経ることで、複数のカーボンナノチューブが連結したような束状の構造体の形成が促進されていると推察される。そして、このようにして得られた処理カーボンナノチューブは、分散後もバンドル形状が維持され、優れたサイクル特性を発現するカーボンナノチューブ分散液を得ることができる。
ホウ素源を用いる場合、ホウ素源を処理溶媒に溶解した後、原料カーボンナノチューブに対して処理することが好ましい。このような手順で処理することで、ホウ素源とカーボンナノチューブとがより均一に混合され、優れたサイクル特性を発現する。
【0045】
ホウ素源は、特に限定されるものではなく、例えば、炭化ホウ素、酸化ホウ素、窒化ホウ素、金属ホウ化物、ホウ素オキソ酸、ボラン、ホウ素含有有機化合物が挙げられる。具体的には、炭化ホウ素では、BC(B12)、B12(BC)等、酸化ホウ素では、BCO、BCO、B22、B23、B43、B45等、窒化ホウ素では、BN等、金属ホウ化物では、AlB、CoB、FeB、MgB、NiB、TiB等、ホウ素オキソ酸では、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等、ボランでは、モノボラン、ジボラン、デカボラン等、ホウ素含有有機化合物では、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル等のホウ酸エステル類、トリエチルボラン、トリフェニルボラン等の置換ボラン類、フェニルボロン酸、フェニルボロン酸エステル等のボロン酸類等が挙げられる。
バンドル形状を形成するという観点からは、ホウ素源は処理溶媒への溶解性が高いことが好ましく、ホウ酸を用いることがより好ましい。原料カーボンナノチューブを、処理溶媒、又は、処理溶媒及びホウ素源の存在下に湿式処理した後、加熱処理(焼成)することで、処理カーボンナノチューブを得ることができる。
【0046】
ホウ素源を用いる場合、原料カーボンナノチューブとホウ素源との質量比は、特に限定されないが、原料カーボンナノチューブ100質量部に対するホウ素源の割合は、好ましくは0.01~300質量部であり、より好ましくは0.05~100質量部であり、さらに好ましくは0.1~50質量部である。
【0047】
また、原料が均一に溶解、又は分散しない場合、各原料の溶媒への濡れ性、分散性を向上させるために、必要に応じて分散剤を添加して、分散、混合してもよい。
【0048】
前記原料カーボンナノチューブとホウ素源の混合物を加熱処理する温度条件は、原料カーボンナノチューブやホウ素源の種類や量によって異なり、特に限定されるものではないが、好ましくは1000~3000℃であり、より好ましくは1100~2500℃、さらに好ましくは1200~2000℃である。また、加熱時間は特に限定されるものではないが、好ましくは10分~72時間であり、より好ましくは30分~10時間である。
加熱処理工程における雰囲気は、原料の酸化等の副反応を防ぐために、窒素、アルゴンなどの不活性ガスや、真空での雰囲気が好ましい。
また、加熱処理工程は、一定の雰囲気、温度及び時間について1段階で行う処理工程だけでなく、雰囲気、温度、温度を多段階で行う処理工程でもよい。
【0049】
<溶媒>
次に、本開示のカーボンナノチューブ分散液に用いられる溶媒について説明する。溶媒は、カーボンナノチューブが分散可能な溶媒であれば特に限定されないが、水、又は、有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であることが好ましく、水、又は、水溶性有機溶媒のいずれか一種からなる溶媒、若しくは水溶性有機溶媒のいずれか2種以上からなる混合溶媒であることがさらに好ましい。また、後述する分散剤を使用する場合、その分散剤が一部、あるいは完全に溶解できる溶媒であることが好ましく、溶媒は特に限定されないが、水、又は、水溶性有機溶媒を含むことが好ましい。
【0050】
有機溶媒の例としては、アルコール系(メタノールなど)、多価アルコール系(エチレングリコールなど)、多価アルコールエーテル系(エチレングリコールモノメチルエーテルなど)、アミン系(エタノールアミンなど)、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)など)、複素環系(γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(スルホランなど)、芳香族系(トルエン、キシレンなど)、炭化水素系(ヘキサンなど)、低級ケトン系(アセトンなど)、エステル系(酢酸エチルなど)などを使用することができる。
【0051】
好ましい水溶性有機溶媒としては、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなど)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、アルコール系(メタノール、エタノールなど)、多価アルコール系(エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。
【0052】
<分散剤>
本開示のカーボンナノチューブ分散液は、さらに分散剤を含有してもよい。分散剤はカーボンナノチューブの凝集を解し、分散体としての安定性を向上させる役割を担う。分散剤は、カーボンナノチューブを分散安定化できる範囲で特に限定されず、例えば、界面活性剤、樹脂型分散剤を使用することができる。界面活性剤は主にアニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性に分類される。カーボンナノチューブの分散に要求される特性に応じて適宜好適な種類の分散剤を、好適な配合量で使用することができる。
【0053】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、ポリスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸スルホン酸塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル及びポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、具体的にはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステル塩及びβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩が挙げられる。
【0054】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩類及び第四級アンモニウム塩類がある。具体的にはステアリルアミンアセテート、トリメチルヤシアンモニウムクロリド、トリメチル牛脂アンモニウムクロリド、ジメチルジオレイルアンモニウムクロリド、メチルオレイルジエタノールクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムクロリド、ラウリルピリジニウムブロマイド、ラウリルピリジニウムジサルフェート、セチルピリジニウムブロマイド、4-アルキルメルカプトピリジン、ポリ(ビニルピリジン)-ドデシルブロマイド及びドデシルベンジルトリエチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0055】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びアルキルアリルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。具体的にはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、アミノカルボン酸塩が挙げられる。
【0056】
界面活性剤は単独又は二種以上の界面活性剤を組み合わせて使用することができる。例えばアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせ、又はカチオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが利用できる。その際の配合量は、それぞれの界面活性剤成分に対して好適な配合量とすることが好ましい。組み合わせとしてはアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが好ましい。アニオン性界面活性剤はポリカルボン酸塩であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤はポリオキシエチレンフェニルエーテルであることが好ましい。
【0057】
樹脂型分散剤としては、例えば、セルロース誘導体(セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、シアノエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど)、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル系重合体、ポリアクリル酸、各種ゴムが挙げられる。
特にメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル系重合体、ポリアクリル酸、各種ゴム(例えば部分水素化ニトリルゴム)が好ましい。
【0058】
樹脂型分散剤は、特に、構造単位として、ニトリル基含有構造単位、カルボキシ基含有構造単位、ヒドロキシ基含有構造単位、複素環含有構造単位の群から選択される1種以上を含有する重合体を使用することで、ホウ素含有カーボンナノチューブへの吸着性と媒体への親和性が高まり、より好ましい。重合体は、主鎖にアルキレン構造を含むことが好ましく、強い分極を有するニトリル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、複素環のいずれかの構造を有することで、カーボンナノチューブへの吸着性と媒体への親和性を高め、カーボンナノチューブを媒体中に安定に存在させることができる。また、重合体は、ニトリル基含有構造単位、カルボキシ基含有構造単位、ヒドロキシ基含有構造単位、複素環含有構造単位の群から選択される2種以上を含有すると、さらにカーボンナノチューブへの吸着性と媒体への親和性が高まり、より好ましい。
【0059】
ニトリル基含有構造単位は、ニトリル基を含む構造単位であり、好ましくはニトリル基を含む置換基により置換されたアルキレン構造を含有する構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。ニトリル基含有構造単位に含まれるニトリル基の数は、1つ又は2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。重合体へのニトリル基含有構造単位の導入方法は、特に限定されないが、例えば、ニトリル基を含むモノマーの重合反応により重合体を調製する方法を好ましく用いることができる。
【0060】
ニトリル基を含むモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、フマロニトリル等があげられ、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、重合体同士及び/又は重合体と被分散物(被吸着物)との分子間力を高める観点、原料の入手しやすさ、反応性から、ニトリル基を含むモノマーはアクリロニトリルであることが好ましい。ニトリル基含有構造単位の含有量は、重合体の質量を基準として(すなわち、重合体の質量を100質量%とした場合に)、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。また、100質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。ニトリル基含有構造単位の含有量を上記範囲にすることで、被分散物への吸着性及び分散媒への親和性をコントロールすることができ、被分散物を分散媒中に安定に存在させることができるものと思われる。また、重合体の電解液への親和性もコントロールでき、電池内で重合体が電解液に溶解して電解液の抵抗を増大させるなどの不具合を防ぐことができるものと思われる。
【0061】
カルボキシ基含有構造単位は、カルボキシ基を含む構造単位であり、好ましくはカルボキシ基を含む置換基により置換されたアルキレン構造を含有する構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。カルボキシ基含有構造単位に含まれるカルボキシ基の数は、1つ又は2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。重合体へのカルボキシ基含有構造単位の導入方法は、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基を含むモノマーの重合反応により重合体を調製する方法、又は、カルボキシ基以外の官能基を含むモノマーの重合反応により重合体を調製し、カルボキシ基に変性させる方法が挙げられる。
【0062】
カルボキシ基を含むモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和脂肪酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタレート、等が挙げられる。また、(メタ)アクリルアミド等のカルバモイル基を含有するモノマーの重合反応により得られた重合体の、カルバモイル基を加水分解することで、カルボキシ基含有モノマーを得てもよい。カルボキシ基含有モノマーは、不飽和脂肪酸が好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましく、アクリル酸がさらに好ましい。
【0063】
カルボキシ基含有構造単位の含有量は、溶媒と適度な親和性を持たせる観点から、重合体の質量を基準として(すなわち、重合体の質量を100質量%とした場合に)、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、98質量%以下が好ましく、100質量%であってもよい。また、ニトリル基含有構造単位、ヒドロキシ基含有構造単位、複素環含有構造単位の群から選択される1種以上をさらに含有すると、カーボンナノチューブと媒体との親和性が高くなり、より好ましい。ニトリル基含有構造単位、ヒドロキシ基含有構造単位、複素環含有構造単位の群から選択される1種以上をさらに含有する場合、カルボキシ基含有構造単位の含有量は、重合体の質量を基準として(すなわち、重合体の質量を100質量%とした場合に)、3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。また、電解液耐性の観点から、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
ヒドロキシ基含有構造単位は、ヒドロキシ基を含む構造単位であり、好ましくは、ヒドロキシ基を含む置換基により置換されたアルキレン構造を含有する構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。ヒドロキシ基含有構造単位に含まれるヒドロキシ基の数は、1つ又は2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。重合体へのヒドロキシ基含有構造単位の導入方法は、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシ基を含むモノマーの重合反応により重合体を調製する方法、又は、ヒドロキシ基以外の官能基を含むモノマーの重合反応により重合体を調製し、ヒドロキシ基に変性させる方法が挙げられる。
【0065】
ヒドロキシ基を含むモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート又はこれらモノマーのカプロラクトン付加物(付加モル数は1~5)等が挙げられる。ヒドロキシ基を含むモノマーは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレートがさらに好ましい。
【0066】
ヒドロキシ基以外の官能基を含むモノマーの重合反応により重合体を調製し、ヒドロキシ基に変性させる方法としては、例えば、酢酸ビニルを重合して得られたポリ酢酸ビニルのアセチル基を、水酸化ナトリウム等のアルカリによりけん化し、ヒドロキシ基とする方法が挙げられる(けん化反応)。水酸化ナトリウムの濃度と処理時間を変えることで、けん化の反応率(けん化度)を任意にコントロールすることができる。
【0067】
また、カーボンナノチューブと媒体との親和性を高める等の目的で、重合体中のヒドロキシ基をアルデヒド化合物と反応させ、アセタール基に変性させて用いてもよい(アセタール化)。アセタール化反応に用いるアルデヒド化合物は、例えば、炭素数1~15の直鎖状、分枝状、環状飽和、不飽和、又は芳香族のアルデヒド化合物等を用いることができるが、これらに限定されない。具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert-ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒド化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。汎用性の観点で、炭素数1~10の直鎖状、分枝状、環状飽和、不飽和、又は芳香族のアルデヒド化合物が好ましく、炭素数1~4の直鎖状のアルデヒド化合物がより好ましい。アルデヒド化合物と処理時間を変えることで、アセタール化の反応率(アセタール化度)を任意にコントロールすることができる。
【0068】
ヒドロキシ基含有構造単位の含有量は、重合体の質量を基準として(すなわち、重合体の質量を100質量%とした場合に)、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、99.8質量%以下であることが好ましい。ただし、ニトリル基含有構造単位、ヒドロキシ基含有構造単位、複素環含有構造単位の群から選択される1種以上をさらに含有する場合には、5質量%以上であることが好ましく、95質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。上記範囲とすることで、分極を強め、カーボンナノチューブ及び媒体への親和性を高めることができる。また、電解液耐性の観点からも好ましい。アセタール基の含有量は、前記ヒドロキシ基含有構造単位の含有量と同様の理由から、前記ヒドロキシ基含有構造単位の含有量の好ましい範囲内とするのが好ましい。
【0069】
複素環含有構造単位は、複素環を含む構造単位であり、複素環を含む置換基により置換されたアルキレン構造を含有する構造単位がより好ましい。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。複素環含有構造単位に含まれる複素環は、単環構造であっても縮合環構造であってもよいが、単環構造であることが好ましい。また、複素環含有構造単位に含まれる複素環の数は、1つ又は2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。複素環は環を構成する原子に炭素以外の原子を含んでおり、例えば、1つ又は2つ以上の窒素、酸素、硫黄原子等を含む。環を構成する炭素以外の原子としては、窒素、又は酸素が好ましく、窒素がより好ましい。環を構成する原子に炭素以外の原子を含むと、複素環内で分極が生じ、カーボンナノチューブに強く作用できるようになる。また、重合体への複素環の導入方法は、特に限定されないが、例えば、複素環を含むモノマーの重合反応により重合体を調製する方法を用いることができる。
【0070】
複素環を含むモノマーとしては、N-ビニル環状アミド構造単位が好ましく、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン、等が挙げられる。特に、電池特性向上の観点からN-ビニル-2-ピロリドンが好ましい。なお、これらは、単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
複素環含有構造単位の含有量は、重合体の質量を基準として(すなわち、重合体の質量を100質量%とした場合に)、前記カーボンナノチューブへの作用を高める観点から、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。
【0072】
重合体は、さらに、その他の構造単位として、活性水素基含有構造単位(カルボキシ基及びヒドロキシ基を除く)、塩基性基含有構造単位、及びエステル基含有構造単位からなる群より選択される1種以上の構造単位を含んでもよい。本開示の導電材分散体を適用する基材や混合する材料の親水性、疎水性、酸性、塩基性等の特性に合わせて上記構造単位を選択し、含有させることで、種々の用途に適用することができる。
【0073】
活性水素基含有構造単位は、活性水素基として、例えば、一級アミノ基、二級アミノ基、メルカプト基等を有する構造単位である。ここで、「一級アミノ基」とは、-NH2(アミノ基)を意味し、「二級アミノ基」とは、一級アミノ基上の一つの水素原子がアルキル基等の有機残基で置換された基を意味する。ただし、酸アミド中の一級アミノ基及び二級アミノ基は、本明細書では、活性水素基には含めない。
【0074】
塩基性基含有構造単位は、塩基性基を有する構造単位である。塩基性基としては、例えば、3級アミノ基、アミド基などが挙げられる。なお、1級アミノ基を有する構造単位、及び2級アミノ基を有する構造単位は、塩基性基含有構造単位にも含まれうるが、本開示においては前記活性水素基含有構造単位として扱い、塩基性基含有構造単位には含めない。
【0075】
エステル基含有構造単位 は、(R1)C=CH-CO-O-R2で表される構造(ただし、R1は水素原子又はメチル基であって少なくとも一方が水素原子であり、R2は置換基を有していてもよいアルキル基である)を有する構造単位である。
なお、アルキル基の置換基として前記活性水素基又は前記塩基性基を含むものは、前記活性水素基含有構造単位又は前記塩基性基含有構造単位として扱い、エステル基含有構造単位には含めない。
【0076】
カーボンナノチューブ分散液において分散剤として重合体を用いる場合、重合体の含有量は、カーボンナノチューブの比表面積と濡れやすさに応じて決めるのが好ましく、処理カーボンナノチューブの質量を100質量%とした場合に、2質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、また、250質量%以下であることが好ましく、150質量%以下であることがより好ましく、100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0077】
分散剤は、少なくとも重合体を含有することが好ましい。分散剤は、任意の重合体、任意の共重合体等を更に含んでもよい。分散剤における重合体の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。分散剤における重合体の含有量は100質量%であってもよく、この場合、分散剤は重合体のみからなる。
【0078】
本開示のカーボンナノチューブ分散液のpHは、通常、4~12の範囲で用いることができる。好ましくは4~6の範囲である。pHを上記範囲内に調整することで、カーボンナノチューブの濡れ性を向上させ、さらに、重合体の分散剤としての作用を高めることができるものと思われる。pHが上記範囲外であると、カーボンナノチューブの分散性が低下したり、バインダーのゲル化を招くことがある。また、電池用途に使用した場合は、電池内での各種原料及び外装材等の腐食といった問題が生じやすくなるおそれがある。
カーボンナノチューブ分散液のpHは、溶媒として水を含む場合、一般的なpHメーターを用いて測定することができる。一方、溶媒として実質的に水を含んでいない場合、例えば溶媒としてNMPのみを選択した場合は、カーボンナノチューブ分散液に水を添加することで、水を添加する前の固形分濃度を100%としたとき、水を添加した後の固形分濃度が50%となるように調製し、一般的なpHメーターを用いて測定した値を指し、例えば、以下の方法で測定することができる。
固形分濃度5%のカーボンナノチューブ分散液を、ディスパーなどで攪拌しながら、カーボンナノチューブ分散液の固形分濃度が2.5%になるように水を添加する。均一に攪拌した後、25℃にて、卓上型pHメーター(セブンコンパクトS220Expert Pro、メトラー・トレド製)を用いることで、カーボンナノチューブ分散液のpHを測定することができる。
尚、本開示において、実質的に水を含まない、とは意図して水を添加しないことを意味する。溶媒の質量を基準として、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0079】
カーボンナノチューブ分散液のpHは、特に限定されないが、(1)カーボンナノチューブ中に含まれる金属水酸化物量、(2)カーボンナノチューブ表面の官能基種や量、(3)添加する塩基種や量、によって調整することができる。上記(1)~(3)等の因子を総合してpHを調整することで、カーボンナノチューブの濡れ性を向上するだけでなく、分散性だけでなく安定性にも優れるカーボンナノチューブ分散液を得ることができる。
【0080】
上述の通り、カーボンナノチューブには、その製造工程において、触媒として使用される金属や金属酸化物、金属水酸化物が系中に残存している。カーボンナノチューブ中に残存する金属量のうち、特に上記(1)の、金属水酸化物の含有量を適切に調整することでpHを調整することができる。カーボンナノチューブは従来公知の純化処理方法で、残存金属量、炭素純度、そして、それを含むカーボンナノチューブ分散液のpHを調整することができる。
【0081】
上記(2)の、カーボンナノチューブ表面の官能基は特に限定されないが、カルボキシ基やスルホ基、水酸基が挙げられる。カーボンナノチューブへの官能基の導入方法については特に限定されない。例えば、カーボンナノチューブにカルボキシ基を導入するには、酸化作用を有する酸とともに加熱すればよい。この操作は比較的容易であり、しかも反応性に富むカルボキシ基を付加することができるため、好ましい。酸化作用を有する酸としては、濃硝酸、過酸化水素水、硫酸と硝酸の混合液、王水等が挙げられる。特に濃硝酸を用いる場合には、その濃度としては、5質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。加熱は、常法にて行えばよいが、その温度としては、使用する酸の沸点以下が好ましい。例えば、濃硝酸では50~130℃の範囲が好ましい。また、加熱の時間としては、30分~20時間の範囲が好ましく、1時間~8時間の範囲がより好ましい。カーボンナノチューブはカルボキシ基やスルホ基等の酸性官能基を有さないことが好ましい。酸性官能基を多く含むと、カーボンナノチューブ分散液が貯蔵中にゲル化する恐れがある。
【0082】
上記(3)の、pH調整のために添加する塩基としては、特に限定されず、具体的には、無機塩基、無機金属塩、有機水酸化物、その他有機塩基、からなる群から選ばれる少なくとも一種の塩基を用いることができる。
【0083】
無機塩基及び無機金属塩としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、又はホウ酸塩;及び水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも容易にカチオンを供給できる観点から、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物、水酸化物、炭酸塩、アルコキシドが好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩は、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。アルカリ金属のアルコキシドは、例えば、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム-n-ブトキシド、リチウム-t-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム-n-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム-n-ブトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。アルコキシドの炭素数は5以上であってもよい。アルカリ土類金属のアルコキシドは、例えば、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウム-n-ブトキシド、マグネシウム-t-ブトキシド等が挙げられる。アルコキシドの炭素数は5以上であってもよい。
これらの中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、リチウム-t-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド、がより好ましい。なお、本開示の無機塩基及びが有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0084】
有機水酸化物は、有機カチオンと水酸化物イオンとを含む塩である。有機水酸化物としては、例えば、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、セチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、3-トリフルオロメチル-フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。これらの中でも、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドが特に好ましい。
【0085】
その他有機塩基としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、アミノエタノール、アミノプロパノール、アミノブタノール、2-メトキシエチルアミン等が挙げられる。これら有機塩基は電解液への溶解度が高いため、使用量が多すぎると電池性能を低下させる恐れがある。また、これらの化合物は分解しやすいことから、分解物が塗膜中に残留する可能性があり、電池中に存在すると初期容量が低下する恐れがある。
【0086】
塩基の使用量は、重合体の質量を基準として1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。塩基の使用量は、重合体の質量を基準として20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。使用量が多すぎると、得られるカーボンナノチューブ分散液の安定性が不良となるおそれがある。さらに、分散装置及び/又は電池内部の腐食の原因となり得る。
【0087】
pHを所定の値に調整することで分散性が向上する理由は定かではないが、以下の要因等が考えられる。尚、分散性が向上する理由は、下記(1)~(3)に挙げた要因に限定されない。
(1)重合体の分散性を高める。
pHを所定の値に調整することで、ニトリル基含有構造単位、カルボキシ基含有構造単位、ヒドロキシ基含有構造単位、複素環含有構造単位の群から選択される一種以上を含有する重合体の、被分散物への吸着力を高めることができる。また、構造単位の有する官能基は水素結合を形成し得ることから、重合体の分子内に水素結合による架橋構造が導入され、被分散物に三次元的に吸着することができ、分散性だけでなく安定性にも優れる分散液を得ることができるものと思われる。
(2)重合体の溶液粘度を低下させる。
重合体を溶媒に溶解させて使用する際に、重合体溶液の粘度が低いと、凝集力の強いカーボンナノチューブの内部に分散剤が入り込みやすくなり、均一な分散液を得ることができるものと思われる。
(3)カーボンナノチューブの濡れ性を向上する。
カーボンナノチューブを分散する場合、カーボンナノチューブを溶媒で濡らすことでカーボンナノチューブ同士の凝集力を低下させ、その後解砕し、それを安定化させることで分散液として存在することができる。カーボンナノチューブは、他の導電材と比して濡れ性が顕著に低いため、カーボンナノチューブを化学処理、あるいは機械的に破砕する等の前処理による濡れ性改善の所作が必要となるが、これら処理によって導電性が低下する恐れがある。pHを所定の値に調整することでカーボンナノチューブの有する導電性を損なうことなく、濡れ性を飛躍的に向上させることができるものと思われる。
【0088】
また、本開示のカーボンナノチューブ分散液では、分散剤に加えて、消泡剤を含んでもよい。消泡剤は、市販の消泡剤、湿潤剤、親水性有機溶剤水溶性有機溶剤等、消泡効果を有するものであれば任意に用いることができ、1種類でも、複数を組み合わせて用いてもよい。
例えば、アルコール系;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、プロピレングリコール、その他グリコール類等、脂肪酸エステル系;ジエチレングリコールラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等、アミド系;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等、リン酸エステル系;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等、金属セッケン系;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等、油脂系;動植物油、胡麻油、ひまし油等、鉱油系:灯油、パラフィン等、シリコーン系;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等が挙げられる。
【0089】
<その他の導電材>
本開示のカーボンナノチューブ分散液では、カーボンナノチューブ以外にも任意でその他の導電材を含んでもよい。その他の導電材としては、例えば金、銀、銅、銀メッキ銅粉、銀-銅複合粉、銀-銅合金、アモルファス銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モルブテン、白金等の金属粉、これらの金属で被覆した無機物粉体、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム等の金属酸化物の粉末、これらの金属酸化物で被覆した無機物粉末、及びカーボンブラック、グラファイト等の炭素材料が挙げられる。その他の導電材は、1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。その他の導電材を用いる場合、分散剤の吸着性能の観点から、カーボンブラックが好ましい。その他の導電材は、後述する電極活物質とは異なる物質(材料)である。
【0090】
カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。
【0091】
<カーボンナノチューブ分散液の製造>
本開示のカーボンナノチューブ分散液は、バンドル状カーボンナノチューブ及び溶媒を含むものであり、好ましくは分散剤をさらに含むものである。本開示のカーボンナノチューブ分散液を得るには、上述に記載した処理カーボンナノチューブを溶媒中に分散させる処理を行うことが好ましい。かかる処理を行うために使用される分散装置は特に限定されない。
【0092】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(BRANSON社製Advanced Digital Sonifer(登録商標)、MODEL450DA、エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
本開示のカーボンナノチューブ分散液のカーボンナノチューブの量は、カーボンナノチューブ分散液100質量部に対して、好ましくは0.2~20質量部、より好ましくは0.5~10質量部、さらに好ましくは0.5~3.0質量部である。
【0094】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の粘度は、B型粘度計を用いて60rpmで測定した粘度が、好ましくは10mPa・s以上10000mPa・s以下、より好ましくは10mPa・s以上5000mPa・s以下、さらに好ましくは10mPa・s以上2000mPa・s以下である。
【0095】
本開示のカーボンナノチューブ分散液は、優れた分散性と導電性を両立するだけでなく、衝撃などの外力に対する耐久性や塗膜強度の改善も改善するため、導電配線形成用や透明導電膜形成用の分散液、二次電池、キャパシタやセンサー等の電気化学デバイス形成用の分散液などに好適に使用することが可能である。
【0096】
<カーボンナノチューブ樹脂組成物>
本開示のカーボンナノチューブ樹脂組成物は、カーボンナノチューブ分散液とバインダーとを含むものであり、カーボンナノチューブ分散液とバインダーとを混合し、均一化することで得ることができる。混合方法としては、従来公知の方法を用いることができ、前記カーボンナノチューブ分散液で説明した分散装置を使用することができる。
【0097】
<バインダー>
本開示におけるバインダーとは、カーボンナノチューブなどの物質間を結着するための樹脂である。
バインダー樹脂は、目的とする物性に合わせて適宜選択でき、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構造単位として含む重合体又は共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂を用いることができる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、及び共重合体でもよい。
これらの中でも、正極膜のバインダー樹脂として使用する場合は、耐性面から、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等の分子内にフッ素原子を有する重合体又は共重合体が好ましい。また、負極膜のバインダー樹脂として使用する場合は、密着性が良好なカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。
【0098】
カルボキシメチルセルロースは高粘度であることが好ましく、例えば、1質量%水溶液とした際の粘度が、好ましくは500~6000mPa・s、より好ましくは1000~3000mPa・sである。上記粘度は、B型粘度計を用いて25℃の条件下、ローター回転速度60rpmで測定することができる。
【0099】
カルボキシメチルセルロースは、エーテル化度が高いことが好ましい。例えば、エーテル化度が0.6~1.5であることが好ましく、0.8~1.2であることがさらに好ましい。
【0100】
バインダーの種類や量比は、カーボンナノチューブ、活物質など共存する物質の性状に合わせて、適宜選択される。例えば、カルボキシメチルセルロースを使用する場合、カルボキシメチルセルロースの割合は、活物質の質量を100質量%として、好ましくは0.5~3.0質量%、より好ましくは1.0~2.0質量%である。
【0101】
スチレンブタジエンゴムは、水中油滴エマルションであれば、一般に電極の結着材として用いられているものを使用することができる。スチレンブタジエンゴムを使用する場合、スチレンブタジエンゴムの割合は、活物質の質量を100質量%として、好ましくは0.5~3.0質量%、より好ましくは1.0~2.0質量%である。
【0102】
ポリアクリル酸を使用する場合、ポリアクリル酸の割合は、活物質の質量を100質量%として、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~20質量%である。
【0103】
これらバインダー樹脂の重量平均分子量は、好ましくは10,000~2,000,000、より好ましくは100,000~1,000,000、さらに好ましくは200,000~1,000,000である。
【0104】
<合材スラリー>
本開示の合材スラリーは、上述するカーボンナノチューブ樹脂組成物と活物質とを含むものである。
【0105】
[活物質]
本開示における活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は起電力から正極活物質と負極活物質に分けられる。
【0106】
正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、及び導電性高分子等を使用することができる。例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V25、V613、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0107】
負極活物質としては、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、LiXFe23、LiXFe34、LiXWO2(xは0<x<1の数である。)、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種又は複数を組み合わせて使用することもできる。
【0108】
本開示の負極活物質としては、シリコン合金やケイ素酸リチウム等のシリコンを含む負極活物質であるシリコン系負極活物質が好ましい。
【0109】
シリコン系負極活物質としては、例えば、二酸化珪素を炭素で還元して作製される所謂冶金グレードシリコンや、冶金グレードシリコンを酸処理や一方向凝固などで不純物を低減した工業グレードシリコン、そしてシリコンを反応させて得られたシランから作製される高純度の単結晶、多結晶、アモルファスなど結晶状態の異なる高純度シリコンや、工業グレードシリコンをスパッタ法やEB蒸着(電子ビーム蒸着)法などで高純度にすると同時に、結晶状態や析出状態を調整したシリコンなどが挙げられる。
【0110】
また、シリコンと酸素の化合物である酸化珪素や、シリコンと各種合金及びそれらの結晶状態を急冷法などで調整したシリコン化合物も挙げられる。中でも、外側がカーボン皮膜で被覆された、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有するシリコン系負極活物質が好ましい。
【0111】
本開示の負極活物質は、シリコン系負極活物質に加えて、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末を使用することが好ましい。その中でも、人造黒鉛や天然黒鉛等の炭素質粉末を使用することが好ましい。
【0112】
シリコン系負極活物質の量は、人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末100質量%とした場合、3~50質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましい。
【0113】
本開示の活物質のBET比表面積は0.1~10m2/gのものが好ましく、0.2~5m2/gのものがより好ましく、0.3~3m2/gのものがさらに好ましい。
【0114】
本開示の活物質の平均粒子径は0.5~50μmの範囲内であることが好ましく、2~20μmであることがより好ましい。本明細書でいう活物質の平均粒子径とは、活物質を電子顕微鏡で測定した粒子径の平均値である。
【0115】
[合材スラリーの製造方法]
本開示の合材スラリーは従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、カーボンナノチューブ樹脂組成物に活物質を添加して作製する方法や、カーボンナノチューブ分散液に活物質を添加した後、バインダーを添加して作製する方法が挙げられる。
【0116】
本開示の合材スラリーを得るには、カーボンナノチューブ樹脂組成物に活物質を加えた後、分散させる処理を行うことが好ましい。かかる処理を行うために使用される分散装置は特に限定されない。合材スラリーは前記カーボンナノチューブ分散液で説明した分散装置を用いて、合材スラリーを得ることができる。
【0117】
本開示の合材スラリー中の活物質の量は合材スラリー100質量部に対して、20~85質量部であることが好ましく、30~75質量部であることがより好ましく、40~70質量部であることがさらに好ましい。
【0118】
本開示の合材スラリー中のカーボンナノチューブの量は活物質100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.02~5質量部であることが好ましく0.03~1質量部であることが好ましい。
【0119】
本開示の合材スラリー中のバインダーの量は活物質100質量%に対して、0.5~30質量%であることが好ましく、1~25質量%であることがさらに好ましく、2~20質量%であることが特に好ましい。
【0120】
本開示の合材スラリーの固形分の量は、合材スラリー100質量%に対して、30~90質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが好ましい。
【0121】
<導電膜及び電極膜>
本開示の導電膜は、カーボンナノチューブ分散液を膜状に形成してなるものである。例えば、シート状基材上にカーボンナノチューブ分散液を塗工乾燥することで形成した塗工膜である。シート状基材としては特に限定されず、導電性又は非導電性の基材を使用することができ、導電性基材としては下記の集電体等を使用することができる。
【0122】
また、本開示の電極膜は、合材スラリーを膜状に形成してなるものである。例えば、集電体上に合材スラリーを塗工乾燥することで、電極合材層を形成した塗工膜である。
電極膜に使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。
【0123】
集電体上に合材スラリーを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法又は静電塗装法等が挙げる事ができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0124】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行ってもよい。電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0125】
<非水電解質二次電池>
本開示の非水電解質二次電池は、正極と負極と電解質とを具備するものであり、正極又は負極の少なくとも一方が、上述の電極膜を含むものである。正極が本開示の電極膜を含む場合、集電体上に正極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製することができる。負極が本開示の電極膜を含む場合、集電体上に負極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製することができる。
【0126】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、又はLiBPh(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されず、ナトリウム塩やカルシウム塩を含むものも使用できる。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0127】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0128】
本開示の非水電解質二次電池には、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0129】
本開示の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例0130】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0131】
<分散液中のバンドル状CNTの測定>
実施例のカーボンナノチューブ分散液における、バンドル状CNTの個数%、平均外径、平均繊維長、平均アスペクト比の値は、上述の<バンドル状カーボンナノチューブ>の項に記載の方法に従い、SEM画像解析により求めた。
【0132】
<原料CNTの平均直径の測定>
原料として用いたカーボンナノチューブの平均直径は、上述の[原料カーボンナノチューブ]の項の記載の方法に従い、TEM画像解析により求めた。
【0133】
<バンドル形状CNTの製造>
[原料CNT(A)の製造例]
特開2018-150218の段落[0117]記載の方法により、CNT合成用触媒を作製した。その後、加圧可能で、外部ヒーターで加熱可能な、内容積が10Lの横型反応管の中央部に、前記CNT合成用触媒1.5gを散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。窒素ガスを注入しながら排気を行い、反応管内の空気を窒素ガスで置換し、横型反応管中の雰囲気を酸素濃度1体積%以下とした。次いで、外部ヒーターにて加熱し、横型反応管内の中心温度が680℃になるまで加熱した。680℃に到達した後、炭素源としてプロパンガスを毎分2Lの流速で反応管内に導入し、2時間接触反応させた。反応終了後、反応管内のガスを窒素ガスで置換し、反応管の温度を100℃以下になるまで冷却し取り出すことで、CNT(A)を得た。CNT(A)の平均直径は9.1nmである。
【0134】
[製造例(1)]
炭素源である8S(JEIO社カーボンナノチューブ、平均直径6.8nm)100部と、処理溶媒であるエチルアルコール9900部とを混合し、フィルミックス(PRIMIX社製)による湿式混合を行った後、65℃にて加熱乾燥して溶媒を除去し、前駆体(1)を作製した。次に、黒鉛ルツボに前駆体(1)を充填し、焼成炉にてアルゴン雰囲気下、昇温速度10℃/分で炉内温度が1700℃となるよう加熱した後、1700℃で2時間熱処理を行い、CNT(1)を得た。
【0135】
[製造例(2)~(6)]
表1に示す原料カーボンナノチューブ、処理溶媒、添加剤、焼成条件に変更した以外は製造例(1)と同様の方法により、CNT(2)~(6)を得た。
【0136】
[製造例(7)]
炭素源である8S(JEIO社カーボンナノチューブ、平均直径6.8nm)100部と、処理溶媒である混合溶媒(トルエンとノルマルプロピルアルコールとを質量比1:1で混合した溶媒)9900部とを混合し、超音波による湿式混合を行った後、65℃にて加熱乾燥して溶媒を除去し、前駆体(7)を作製した。次に、黒鉛ルツボに前駆体(7)を充填し、焼成炉にてアルゴン雰囲気下、昇温速度10℃/分で炉内温度が1700℃となるよう加熱した後、1700℃で2時間熱処理を行い、CNT(7)を得た。
【0137】
【表1】
【0138】
<CNT分散液の製造>
[実施例1]CNT分散液(W1)
ステンレス容器にイオン交換水97.7部、分散剤(1)(ポリビニルピロリドン(日本触媒社製、K-30))0.45部、消泡剤(A)(サンノプコ株式会社製 SNデフォーマー1312)0.05部を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、ディスパーで撹拌しながら、処理CNT(1)1.8部を加えてさらにディスパーで均一になるまで撹拌した。さらにその後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト10)により分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.17mm、圧力100MPaにて、6パス処理を行い、CNT分散液(W1)を得た。
【0139】
[実施例3、6、7、9、10]CNT分散液(W3、6、7、9、10)
表2に示す処理CNT種類、CNT添加量、イオン交換水添加量、分散剤種類、分散剤添加量、消泡剤添加量、パス回数に変更した以外は実施例1と同様の方法により、CNT分散液(W3)、(W6)、(W7)、(W9)、(W10)を得た。
【0140】
[実施例4]CNT分散液(W4)
ステンレス容器にイオン交換水92.27部、分散剤(4)(ポリアクリル酸(東亞合成社製、ジュリマーAC-10LP))3.2部、炭酸ナトリウム(NaCO)0.48部、消泡剤(A)(サンノプコ株式会社製 SNデフォーマー1312)0.05部を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、ディスパーで撹拌しながら、処理CNT(2)4部を加えてさらにディスパーで均一になるまで撹拌した。さらにその後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト10)により分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.17mm、圧力100MPaにて、4パス処理を行い、CNT分散液(W4)を得た。
【0141】
[実施例2]CNT分散液(W2)
ガラス瓶に、処理CNT(1)を2部、分散剤(7)0.5部、消泡剤(A)(サンノプコ株式会社製 SNデフォーマー1312)0.05部、イオン交換水を97.45部及びジルコニアビーズ(ビーズ径0.3mmφ)140部を仕込み、レッドデビル社製ペイントコンディショナーを用いて4時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(W2)を得た。
【0142】
[実施例5、8、16]CNT分散液(W5)、(W8)、(W19)
表2に掲載した、処理CNT種類、CNT添加量、イオン交換水添加量、分散剤種、分散剤添加量、消泡剤添加量、分散時間に変更した以外は実施例2と同様の方法により、CNT分散液(W5)、(W8)、(W19)を得た。
【0143】
[実施例11]CNT分散液(W14)
ステンレス容器にイオン交換水96.44部、分散剤(4)(ポリアクリル酸(東亞合成社製、ジュリマーAC-10LP))2.1部、炭酸ナトリウム0.21部、消泡剤(A)(サンノプコ株式会社製 SNデフォーマー1312)0.05部を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、ディスパーで撹拌しながら、処理CNT(1)1.2部を加えてさらにディスパーで均一になるまで撹拌した。さらにその後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト10)により分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.17mm、圧力100MPaにて、5パス処理を行い、得られた分散液を、遠心分離装置で沈殿物を除去し、更に、ガラス瓶に上記撹拌液80部、ジルコニアビーズ(ビーズ径1mmΦ)120部を仕込み、レッドデビル社製ペイントコンディショナーを用いて5時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離することで、CNT分散液(W14)を得た。
【0144】
[実施例12]CNT分散液(W15)
表2に掲載した、処理CNT種類、CNT添加量、イオン交換水添加量、分散剤種、分散剤添加量、塩基性化合物種、塩基性化合部添加量、消泡剤添加量、分散時間に変更した以外は実施例11と同様の方法により、CNT分散液(W15)を得た。
【0145】
[実施例13]CNT分散液(W16)
表2に掲載した、処理CNT種類、CNT添加量、イオン交換水添加量、分散剤種、分散剤添加量、消泡剤添加量、分散時間に変更し、塩基性化合物を使用しないこと以外は実施例11と同様の方法により、CNT分散液(W16)を得た。
【0146】
[実施例14]CNT分散液(W17)
ステンレス容器にイオン交換水97.95部、分散剤(2)(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製、APP-084))0.5部、消泡剤(A)(サンノプコ株式会社製 SNデフォーマー1312)0.05部を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、ディスパーで撹拌しながら、CNT(1)を1.2部、及び、CNT(8)(浜松カーボニクス社製、NFT005)を0.3部加え、さらにディスパーで均一になるまで撹拌した。さらにその後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト10)により分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.17mm、圧力100MPaにて、20パス処理を行い、得られた分散液を、遠心分離装置で沈殿物を除去し、更に、ガラス瓶に上記撹拌液80部、ジルコニアビーズ(ビーズ径1mmΦ)120部を仕込み、レッドデビル社製ペイントコンディショナーを用いて10時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離することで、CNT分散液(W17)を得た。
【0147】
[実施例15]CNT分散液(W18)
ステンレス容器にイオン交換水97.95部、分散剤(2)(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製、APP-084))0.5部、消泡剤(A)(サンノプコ株式会社製 SNデフォーマー1312)0.05部を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、ディスパーで撹拌しながら、CNT(1)を1.35部、及び、CNT(8)(浜松カーボニクス社製NFT005)を0.15部加え、さらにディスパーで均一になるまで撹拌した。さらにその後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト10)により分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.17mm、圧力100MPaにて、10パス処理を行い、得られた分散液を、遠心分離装置で沈殿物を除去しCNT分散液(W18)を得た。
【0148】
[比較例1]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶に、処理CNT、イオン交換水、分散剤、消泡剤及びジルコニアビーズ(ビーズ径0.3mmφ)140部を仕込み、レッドデビル社製ペイントコンディショナーを用いて20時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(W11)を得た。
【0149】
[比較例2]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶に、処理CNT、イオン交換水、分散剤、消泡剤及びジルコニアビーズ(ビーズ径0.3mmφ)140部を仕込み、レッドデビル社製ペイントコンディショナーを用いて0.5時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(W13)を得た。
【0150】
表2に、配合組成の一覧を示す。なお表中の処理CNT、分散剤、消泡剤の配合量は、いずれも固形分換算した値である。
【0151】
<CNT分散液の評価>
得られたCNT分散液を用いて以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0152】
(粘度)
CNT分散液を25℃の恒温槽に1時間以上静置した後、CNT分散液を十分に撹拌してから、B型粘度計ローターを用いて、回転速度60rpmにて直ちに測定を行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000以上10000mPa・s未満の場合はNo.4をそれぞれ用いた。
〔判定基準〕
◎:2000mPa・s未満(優良)
○:2000mPa・s以上5,000mPa・s未満(良)
△:5,000mPa・s以上10,000mPa・s未満(可)
×:10,000mPa・s以上、沈降又は分離(不良)
【0153】
(貯蔵安定性)
CNT分散液を50℃にて7日間静置して保存した前後の、液性状の変化(ヘラで撹拌した際の撹拌しやすさ)を確認し、以下の基準で評価した。
〔判定基準〕
○:粘度は上昇していない。問題なし(良好)
△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(可)
×:ゲル化している(極めて不良)
【0154】
(体積抵抗率)
CNT分散液を、アプリケーターを用いて、PET基材上に塗工した後、オーブン中で120℃30分間乾燥させてCNT塗膜(膜厚3μm)を得た。その後、(日東精工アナリテック社製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて乾燥後の塗膜の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。測定後、PET基材上に形成したCNT塗膜の厚みを掛けて、塗膜の体積抵抗率(Ω・cm)とした。塗膜の厚みは、膜厚計を用いて、膜中の5点を測定した平均値から、PET基材の膜厚を引き算し、塗膜の体積抵抗率(Ω・cm)を算出した。以下に判定基準を示す。
〔判定基準〕
◎:CNT塗膜の体積抵抗率(Ω・cm)が7×10-3未満(優良)
〇:CNT塗膜の体積抵抗率(Ω・cm)が7×10-3以上1×10-2未満(良)
△:CNT塗膜の体積抵抗率(Ω・cm)が1×10-2以上2×10-2未満(可)
×:CNT塗膜の体積抵抗率(Ω・cm)が2×10-2以上(不良)
【0155】
(負極用電極膜の体積抵抗率)
まず、得られたCNT分散液と、イオン交換水と、CMC(ダイセルファインケム株式会社製、#1190)2%水溶液12.5部とを配合し、自転公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌し、CNT樹脂組成物を得た。この時、合材スラリー100部中のCNT量が0.27部となるようにCNT分散液の配合量を調節した。
その後、一酸化珪素(株式会社大阪チタニウムテクノロジー社製、SILICON MONOOXIDE、SiO 1.3C 5μm)を2.4部添加し、自転公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌した。さらに、人造黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGB-20)を21.9部添加し、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで30秒間撹拌した。さらにその後、スチレンブタジエンエマルション(JSR株式会社製、TRD2001)0.78部を加えて、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで30秒間撹拌し、負極用合材スラリーを得た。
【0156】
得られた負極用合材スラリーを用いて、電極の目付量を8mg/cmとなるようにPET基材上に塗工した後、電気オーブン中で120℃30分間乾燥させて負極を得た。その後、(日東精工アナリテック社製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて乾燥後の塗膜の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。一方、膜厚計を用いて、電極膜中の5点を測定した平均値から、PET基材の膜厚を引き算して負極合材層の厚みを算出した。
このようにして得られた塗膜の表面抵抗率に、負極合材層の厚みを掛けて、負極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)を算出し、以下の判定基準で評価した。
〔判定基準〕
◎:負極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が0.12未満(優良)
〇:負極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が0.12以上0.15未満(良)
△:負極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が0.15以上0.25未満(可)
×:負極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が0.25以上(不良)
【0157】
(負極用電極膜の剥離強度)
得られた負極用合材スラリーを、アプリケーターを用いて、電極の目付量が8mg/cmとなるように銅箔上に塗工した後、オーブン中で120℃30分間、塗膜を乾燥させた。その後、塗工方向を長軸として90mm×20mmの長方形に2本カットした。剥離強度の測定には引張試験機を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×30mmサイズの両面テープをステンレス板上に貼り付け、作製した電池電極合材層を両面テープのもう一方の面に密着させ、一定速度(50mm/分)で下方から上方に引っ張りながら剥がし、このときの応力の平均値を剥離強度とした。以下に判定基準を示す。
〔判定基準〕
◎:負極合材層の剥離強度(N/cm)が0.5以上(優良)
〇:負極合材層の剥離強度(N/cm)が0.4以上0.5未満(良)
△:負極合材層の剥離強度(N/cm)が0.3以上0.4未満(可)
×:負極合材層の剥離強度(N/cm)が0.3未満(不良)
【0158】
(サイクル特性)
まず、以下のようにして標準正極(SC)を作製した。
容量150cmのプラスチック容器に正極活物質(BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社製、HED(登録商標)NCM-111 1100)93質量部、アセチレンブラック(デンカ株式会社製、デンカブラック(登録商標)HS100)4質量部、PVDF(株式会社社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン社製、クレハKFポリマー W#1300)3質量部を加えた後、ヘラを用いて粉末が均一になるまで混合した。その後、NMPを20.5質量部添加し、自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌した。その後、プラスチック容器内の混合物を、ヘラを用いて均一になるまで混合し、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌した。さらにその後、NMPを14.6質量部添加し、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌した。最後に、高速攪拌機を用いて、3000rpmで10分間撹拌し、標準正極用合材スラリーを得た。その後、標準正極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃で30分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレスによる圧延処理を行い、合材層の密度が3.1g/cmとなる標準正極(SC)を作製した。
【0159】
別途、得られた負極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、オーブンで80℃30分間乾燥させて電極の目付量が10mg/cmとなるように作製し、さらにロールプレスによる圧延処理を行い、負極合材層の密度が1.6g/cmとなる負極を作製した。
得られた負極と、上述で得られた標準正極をそれぞれ50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥させた。続いて、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液を2mL注入し、アルミ製ラミネート袋を封口して非水電解質二次電池を作製した。
上記電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを1:1:1(体積比)の割合で混合した混合溶媒に、さらに添加剤として、VC(ビニレンカーボネート)を電解液100部に対して1部加えた後、LiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液である。
【0160】
得られた非水電解質二次電池を40℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工株式会社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は、25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比として、以下の式2で表すことができる。
以下に判定基準を示す。
(式2)
サイクル特性 = 200回目の0.5C放電容量/3回目の0.5C放電容量 ×100(%)
〔判定基準〕
◎◎:サイクル特性が85%以上(最も優良)
◎ :サイクル特性が80%以上85%未満(極めて優良)
〇 :サイクル特性が70%以上80%未満(優良)
〇△:サイクル特性が60%以上70%未満(良)
△ :サイクル特性が50%以上60%未満(可)
× :サイクル特性が50%未満(不良)
【0161】
(サイクル前後の膜厚の変化率)
サイクル特性を評価する前のセルと、評価した後のセルを解体し、SEMの断面観察から合材層の厚みの変化率を算出し、以下の基準で評価した。
S:負極合材層の厚みの変化率(%)が8%未満
A:負極合材層の厚みの変化率(%)が8%以上10%未満
B:負極合材層の厚みの変化率(%)が10%以上12%未満
C:負極合材層の厚みの変化率(%)が12%以上
【0162】
【表2】
【0163】
表2中の略称を以下に示す。
分散剤(1):ポリビニルピロリドン(日本触媒社製、K-30)
分散剤(2):カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製、APP-084)
分散剤(3):カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩(信越工業社製、メトローズ(登録商標)SM-4)
分散剤(4):ポリアクリル酸(東亞合成社製、ジュリマーAC-10LP)
分散剤(5):カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製、サンローズ(登録商標)F01MC)
消泡剤(A):サンノプコ株式会社製 SNデフォーマー1312
【0164】
表2によれば、平均直径が3nm~30nmであるカーボンナノチューブからなり、且つ、所定の外径及び繊維長を有するバンドル状カーボンナノチューブを含む本開示のカーボンナノチューブ分散液を用いた電極は、サイクル特性に優れていた。本開示のカーボンナノチューブ分散液は、所定のバンドル状カーボンナノチューブを所定量含むことにより、塗膜形状が維持され劣化が抑制されたことにより良好なサイクル特性を発現したと推測される。
一方、比較例1、2では分散液中のカーボンナノチューブの分散性や導電性は良好であるが、カーボンナノチューブ分散液中でのバンドルが維持されておらず、塗膜形状の維持が難しいことからサイクル特性が不良となると考えられる。また、ホウ素源を用いて湿式処理を行ったカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブ分散液は、よりサイクル特性が優れていた。これは、ホウ素源を用いることでバンドル状カーボンナノチューブのバンドルとしての強度が高まること、分散性が向上してバンドル形状の維持されやすいことが要因であると推察される。
【0165】
本開示は、以下の実施形態を含む。
(項1)平均直径が3nm~30nmであるカーボンナノチューブを用いたバンドル状カーボンナノチューブと溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、
カーボンナノチューブ分散液中に含まれる外径10nm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)の個数の割合が0.2%以上であるカーボンナノチューブ分散液。
(項2)前記外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)の平均アスペクト比が5~100である、項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
(項3)前記外径が50nm~5μmであり繊維長が1μm~100μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(X)の個数の割合が0.2%~20%である、項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
(項4)前記カーボンナノチューブ分散液中に含まれる外径10nm以上、且つ、繊維長が0.2μm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、外径が10nm以上、50nm未満であり繊維長が1μm~5μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合が10%~60%である項1~3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
(項5)前記外径が10nm以上、50nm未満であり繊維長が1μm~5μmである形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合が20%~35%である項4に記載のカーボンナノチューブ分散液。
(項6)前記カーボンナノチューブ分散液中に含まれる外径10nm以上、且つ、繊維長が0.2μm以上のカーボンナノチューブの個数を基準とした場合に、外径が10nm以上、50nm未満であり繊維長が0.2μm以上、1μm未満である形状を有するバンドル状カーボンナノチューブ(Z)の個数の割合が50%~80%である項1~5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
(項7)前記バンドル状カーボンナノチューブ(Z)の個数の割合に対する、前記バンドル状カーボンナノチューブ(Y)の個数の割合の比((Y)の個数の割合/(Z)の個数の割合)が、0.3~0.6である項6に記載のカーボンナノチューブ分散液。
(項8)さらに分散剤を含む項1~7のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
(項9)項1~8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液の塗工膜である導電膜。
(項10)項1~8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液とバインダーとを含むカーボンナノチューブ樹脂組成物。
(項11)項10に記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物と活物質とを含む合材スラリー。
(項12)項11に記載の合材スラリーの塗工膜である電極膜。
(項13)正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池であって、正極又は負極の少なくとも一方が、項12に記載の電極膜を含む非水電解質二次電池。
【0166】
本願の開示は、2022年9月26日に日本国において出願された特願2022-153032号に記載の主題と関連しており、そのすべての開示内容は引用によりここに援用される。
図1