(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159901
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】取水方法、供給装置および取水システム
(51)【国際特許分類】
E03B 3/08 20060101AFI20241031BHJP
C02F 1/64 20230101ALI20241031BHJP
C02F 1/74 20230101ALI20241031BHJP
【FI】
E03B3/08 Z
C02F1/64 Z
C02F1/74 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024140102
(22)【出願日】2024-08-21
(62)【分割の表示】P 2020120401の分割
【原出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】502409307
【氏名又は名称】株式会社高田地研
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】高田 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 春雄
(57)【要約】
【課題】地下水を利用するにあたって、地下水に含まれる金属成分を効率的に除去する。
【解決手段】取水方法は、地下水を汲み上げる揚水井戸の周囲の地中に掘られた孔における地下水に、少なくとも酸素を含む流体を供給する工程と、揚水井戸から地下水を汲み上げる工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を汲み上げる揚水井戸の周囲の地中に掘られた孔における地下水に、少なくとも酸素を含む流体を供給する工程と、
前記揚水井戸から地下水を汲み上げる工程と、
を備える取水方法。
【請求項2】
前記揚水井戸から汲み上げた地下水を、前記孔に注入する工程を備える請求項1に記載の取水方法。
【請求項3】
前記孔における地下水を排出する工程を備える請求項1に記載の取水方法。
【請求項4】
前記孔は、前記揚水井戸を取り囲むように複数設けられる請求項1に記載の取水方法。
【請求項5】
地下水を汲み上げる揚水井戸の周囲の地中に掘られた孔の内部に設置され、流体が流れる流路部と、
前記流路部に少なくとも酸素を含む流体を供給する供給部と、
を備える供給装置。
【請求項6】
前記揚水井戸から汲み上げた地下水を、前記孔に送る送水部を備える請求項5に記載の供給装置。
【請求項7】
前記孔における地下水を排出する排出部を備える請求項5に記載の供給装置。
【請求項8】
前記排出部における地下水の排出に関する通知を行う通知部を備える請求項7に記載の供給装置。
【請求項9】
地下水を汲み上げる揚水井戸と、
前記揚水井戸の周囲に掘られた孔と、
前記孔の内部に設置され、流体が流れる流路部と、
前記流路部に少なくとも酸素を含む流体を供給する供給部と、
を備える取水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取水方法、供給装置および取水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地下水には、鉄分やマンガンなどの金属成分が多量に含まれる場合があり、その地下水の利用が制限される場合があった。
例えば特許文献1には、エアレーション槽内に処理すべき地下水を供給し、エアレーション槽の下部から空気または酸素を吹込むことにより地下水をエアレーションし、地下水中に含有されている第1鉄イオンを酸化させる方法において、エアレーション槽内の地下水中に担体を添加し、エアレーション槽の下部から吹き込まれた空気または酸素により、地下水と共に担体を流動化させることによって、地下水中に生成したオキシ水酸化鉄を担体の表面上に付着させ、その表面上にオキシ水酸化鉄が担持された触媒を形成し、このようにして形成された触媒によって、地下水中に存在する第1鉄イオンを酸化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、地下から汲み上げた地下水に含まれる鉄分やマンガンなどの金属成分を取り除くためには、濾材や薬剤などが用いられていた。しかしながら、このような濾材や薬剤は、定期的に交換したり補充したりする必要があり、効率的ではなかった。
本発明は、地下水を利用するにあたって、地下水に含まれる金属成分を効率的に除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明は、地下水を汲み上げる揚水井戸の周囲の地中に掘られた孔における地下水に、少なくとも酸素を含む流体を供給する工程と、揚水井戸から地下水を汲み上げる工程と、を備える取水方法である。
ここで、揚水井戸から汲み上げた地下水を、孔に注入する工程を備えることができる。
また、孔における地下水を排出する工程を備えることができる。
また、孔は、揚水井戸を取り囲むように複数設けられることができる。
そして、かかる目的のもと、本発明は、地下水を汲み上げる揚水井戸の周囲の地中に掘られた孔の内部に設置され、流体が流れる流路部と、流路部に少なくとも酸素を含む流体を供給する供給部と、を備える供給装置である。
ここで、揚水井戸から汲み上げた地下水を、孔に送る送水部を備えることができる。
また、孔における地下水を排出する排出部を備えることができる。
また、排出部における地下水の排出に関する通知を行う通知部を備えることができる。
そして、かかる目的のもと、本発明は、地下水を汲み上げる揚水井戸と、揚水井戸の周囲に掘られた孔と、孔の内部に設置され、流体が流れる流路部と、流路部に少なくとも酸素を含む流体を供給する供給部と、を備える取水システムである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、地下水を利用するにあたって、地下水に含まれる金属成分を効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の取水システムの断面図である。
【
図2】第1実施形態の取水システムの上面図である。
【
図3】第1実施形態の取水システムの動作フロー図である。
【
図4】第2実施形態の取水システムの断面図である。
【
図5】第2実施形態の取水システムの上面図である。
【
図6】第3実施形態の取水システムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
【0009】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の取水システム1の断面図である。
図2は、第1実施形態の取水システム1の上面図である。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の取水システム1は、地下水を汲み上げる揚水井戸10と、揚水井戸10の周囲に設けられて、少なくとも酸素を含む気体を地中に注入する注入装置20(供給装置の一例)と、揚水井戸10および注入装置20を制御する制御装置30と、を備える。
【0011】
ここで、地下水には、鉄分やマンガンなどの金属成分(以下、鉄分を代表例として説明する)が多量に含まれる場合がある。そして、本実施形態の取水システム1では、揚水井戸10によって地下水を汲み上げた際に、鉄分の量が低減された地下水が得られるようになっている。
【0012】
地下水は、地中において、酸素不足による還元状態の環境下に置かれている。そのため、地中の地下水における鉄分は、溶解性の水酸化鉄で存在し、粒子が比較的小さいコロイドの状態となっている。そこで、本実施形態に取水システム1では、注入装置20によって、揚水井戸10の周囲の地下水をエアレーションすることで、地下水に含まれる鉄分を酸化させる。鉄分は、酸化されることで不溶性の水酸化鉄となり、粒子が比較的大きい団粒や凝集された状態になる。そして、本実施形態に取水システム1では、不溶性の水酸化鉄を、注入装置20と揚水井戸10との間の地盤に吸着させたり、地盤に捕集させたりする。その結果、本実施形態の取水システム1では、揚水井戸10から、鉄分の量が低減された地下水が得られる。
以下、本実施形態の取水システム1について詳細に説明する。
【0013】
〔揚水井戸10〕
図1に示すように、揚水井戸10は、地中に設置される揚水ケーシング11と、揚水ケーシング11内の地下水を汲み上げる水中ポンプ12と、汲み上げる地下水の流量を制御する揚水バルブ13と、を備える。また、揚水井戸10は、揚水バルブ13の上流側に設けられる逆止弁14と、ユーザが地下水を利用する際に開閉するユーザ用バルブ15と、ユーザ用バルブ15の使用に応じて内圧が変化する圧力タンク16と、を備える。さらに、揚水井戸10は、揚水ケーシング11内の地下水の溶存酸素濃度を測定する酸素センサ17を備えている。
【0014】
揚水ケーシング11は、地中に掘られた孔100に沿って長く延びる、筒状の管材である。揚水ケーシング11は、鉛直方向における上端部が地面GLよりも突出し、鉛直方向における下端部が地下水位WLよりも下側に設けられる。
なお、揚水ケーシング11は、地上空間を有効に利用できるように、地面GLから突出せず、全体が地中に埋められていても良い。
【0015】
また、揚水ケーシング11は、内側に地下水が流入することを許容し、地下水に含まれる砂や土などの異物が内側に進入することを制限する揚水ストレーナ部11Sを有している。揚水ストレーナ部11Sは、揚水ケーシング11の軸方向に沿って長く延びるスリット状の開口部S1を複数、有している。そして、揚水ストレーナ部11Sは、揚水ケーシング11において、地下水位WLよりも下側であって、揚水ケーシング11の下端部11eよりも所定の距離だけ上側に設けられる。これによって、揚水ケーシング11の内側に進入してしまった砂や土などの異物が、揚水ケーシング11の下端部11e側に、沈殿したり堆積したりする空間を確保している。
なお、揚水ケーシング11は、上述した構造に限定されない。例えば、揚水ケーシング11は、揚水ケーシング11の軸方向と直交する方向に長く伸びる複数の開口部が、蛇腹状に配置されたものでも良い。また、揚水ケーシング11は、細い鋼線を網篭状に形成したスクリーン管によって構成されていても良い。
【0016】
水中ポンプ12は、揚水ケーシング11に沿って設けられる地下水が流れる揚水管121と、揚水管121を介して地下水を圧送するポンプ部122とを有する。さらに、水中ポンプ12は、ポンプ部122に対する水位を検知するための渇水センサ123および回復センサ124を有する。
【0017】
揚水管121は、揚水ケーシング11よりも径が小さい管状の部材である。そして、揚水管121は、下端部がポンプ部122に接続し、上端部が揚水バルブ13に接続している。
【0018】
ポンプ部122は、モータ122Mによって駆動される羽根車を回転させることで、地下水を吸引し、揚水管121を介して、最終的にユーザ用バルブ15から地下水を吐出させる。また、ポンプ部122は、揚水ケーシング11の揚水ストレーナ部11Sよりも下側に設置される。さらに、ポンプ部122は、揚水ケーシング11の下端部よりも上側に設置される。これによって、ポンプ部122は、上述したとおり、揚水ケーシング11の下端部に堆積したり沈殿したりしている異物に対して距離を置くことで、異物を吸い込みにくくなっている。
なお、ポンプ部122は、管に孔が形成される揚水ストレーナ部11Sとの対向箇所以外に設置されていれば良く、必ずしも揚水ストレーナ部11Sよりも下側に設置されることに限定されない。
【0019】
ポンプ部122は、制御装置30によってモータ122Mのオンおよびオフが制御される。本実施形態のポンプ部122は、圧力センサ16Pの圧力に応じて、モータ122Mのオンおよびオフの制御が行われる。
【0020】
渇水センサ123および回復センサ124は、それぞれ、アース電極と、交流電圧が印加される電極とを有する。そして、渇水センサ123および回復センサ124は、それぞれ、水と接触することで流れた電流に基づいて、検知信号を出力する。第1実施形態では、渇水センサ123は、ポンプ部122の上側であって揚水管121の下端部に設けられる。また、回復センサ124は、渇水センサ123よりも予め定められた距離だけさらに上側に離れて設けられる。
渇水センサ123は、渇水センサ123の位置以上に水位があり地下水と接触している場合には信号をオンし、渇水センサ123よりも下側に水位がある場合には信号をオフにする。
回復センサ124は、回復センサ124の位置以上に水位があり地下水と接触している場合には信号をオンし、回復センサ124よりも下側に水位がある場合には信号をオフにする。
そして、渇水センサ123および回復センサ124は、それぞれ、オンおよびオフの信号を制御装置30に送る。
【0021】
揚水バルブ13は、水中ポンプ12が圧送する地下水の流量を調整する。揚水バルブ13は、流路を開いた状態で、揚水管121から圧力タンク16およびユーザ用バルブ15に向けて地下水を流す。
逆止弁14は、揚水管121から圧力タンク16およびユーザ用バルブ15に向けた地下水の流れを許容する。一方で、逆止弁14は、圧力タンク16およびユーザ用バルブ15から揚水管121に向けた地下水の流れを制限する。
【0022】
ユーザ用バルブ15は、揚水井戸10から汲み上げる地下水の流量を調整する。そして、ユーザ用バルブ15から出る地下水は、ユーザによって利用される。
圧力タンク16は、ユーザ用バルブ15の使用に応じて変化する圧力を検知する圧力センサ16Pを有している。圧力センサ16Pは、検知した圧力の情報を制御装置30に送る。本実施形態では、圧力センサ16Pにより検知された圧力値に応じて、水中ポンプ12のモータ122Mの駆動が制御される。
【0023】
酸素センサ17は、検知した地下水の溶存酸素濃度の情報を制御装置30に送る。本実施形態では、酸素センサ17により測定された溶存酸素値に応じて、コンプレッサ22の運転が制御される。
【0024】
〔注入装置20〕
図2に示すように、注入装置20は、複数の注入井戸40と、複数の注入井戸40で共通で用いられ、気体が流れる共通送気管21と、共通送気管21に気体を供給するコンプレッサ22(供給部の一例)と、を備える。
【0025】
(注入井戸40)
図2に示すように、注入井戸40は、地中に設置される注入ケーシング41と、注入ケーシング41内に酸素を含む気体を送る送気管42(流路部の一例)と、送気管42における気体の流れを制御するエアバルブ43と、注入ケーシング41内の泥などの堆積物を排出するための排泥バルブ44(排出部の一例)と、を有する。
そして、第1実施形態の注入装置20において、複数(例えば、12基)の注入井戸40は、揚水井戸10を取り囲むように配置される。
図2に示す例では、複数の注入井戸40は、周方向において、略等間隔に配置されている。また、各々の注入井戸40は、揚水井戸10に対して略同等の距離を有して配置されている。なお、注入井戸40と揚水井戸10との距離は、特に限定されないが、例えば揚水井戸10の深さよりも短くすることが好ましい。
【0026】
図1に示すように、注入ケーシング41は、地中に掘られた孔200に沿って長く延びる、筒状の管材である。なお、注入ケーシング41の深度は、揚水井戸10と同等か、揚水井戸10よりも深くすることが好ましい。
そして、注入ケーシング41は、鉛直方向における上端部が地面GLよりも突出し、鉛直方向における下端部が地下水位WLよりも下側に設けられる。
なお、注入ケーシング41は、地上空間を有効に利用できるように、地面GLから突出せず、全体が地中に埋められていても良い。
【0027】
また、注入ケーシング41は、内側に地下水が流入することを許容し、地下水に含まれる砂や土などの異物が内側に進入することを制限する注入ストレーナ部41Sを有している。
注入ストレーナ部41Sは、注入ケーシング41の軸方向に沿って長く延びるスリット状の開口部S2を複数、有している。そして、注入ストレーナ部41Sは、鉛直方向において、揚水ストレーナ部11Sよりも長く形成される。注入ストレーナ部41Sの下端部は、揚水ストレーナ部11Sよりも下側に設けられる。注入ストレーナ部41Sの上端部は、地下水位よりも上側となるような浅い位置に配置されると、注入ケーシング41の密閉度が低下するおそれがある。そこで、本実施形態の注入ストレーナ部41Sの上端部は、揚水ストレーナ部11Sと同等か、揚水ストレーナ部11Sよりも若干上側までに配置している。
【0028】
そして、本実施形態の取水システム1では、注入ケーシング41の軸方向において注入ストレーナ部41Sが設けられる領域の長さを、揚水ケーシング11の軸方向において揚水ストレーナ部11Sが設けられる領域の長さよりも、長くしている。これによって、注入ストレーナ部41Sは、注入ケーシング41内側の地下水や、注入ケーシング41の外側の地下水が、送気管42から放出される気体に、より曝され易くしている。
なお、注入ケーシング41は、上述した構造に限定されない。例えば、注入ケーシング41は、注入ケーシング41の軸方向に直交する方向に長く伸びる複数の開口部が蛇腹状に配置されたものでも良い。また、注入ケーシング41は、細い鋼線を網篭状に形成したスクリーン管により構成されていても良い。
【0029】
また、注入ケーシング41は、上端部を密閉する密閉部41Cを有している。注入ケーシング41の下端部は、地中に埋まっている。従って、注入ケーシング41は、送気管42および排泥バルブ44を除くと、上端部が閉じられ、下端部が地中に埋まった状態になっている。
【0030】
送気管42は、注入ケーシング41よりも内径および外径がそれぞれ小さい管状の部材である。そして、送気管42は、上端部が共通送気管21(
図2参照)に接続し、下端部42eが注入ケーシング41における下側に配置される。また、本実施形態の送気管42の下端部42eは、揚水井戸10における揚水ストレーナ部11Sやポンプ部122よりも下側に設けられる。そして、送気管42は、共通送気管21(
図2参照)から送られる気体を、注入ケーシング41における下側にて放出する。
【0031】
図2に示すように、エアバルブ43は、送気管42における気体の流量を調整する。エアバルブ43には、電流量に応じて流路の開度が変化する電磁バルブを用いることができる。そして、エアバルブ43は、制御装置30に制御されることで、送気管42を流れる気体の流量を調整する。
【0032】
図1に示すように、排泥バルブ44は、注入ケーシング41の上端部に設けられる。そして、排泥バルブ44は、注入ケーシング41の上端部を開閉する。本実施形態の排泥バルブ44は、電流量に応じて流路の開度が変化する電磁バルブを用いることができる。そして、排泥バルブ44は、制御装置30に制御されることで、注入ケーシング41の上端部を開閉する。
【0033】
(共通送気管21)
図2に示すように、共通送気管21は、複数の注入井戸40の送気管42に接続している。本実施形態の共通送気管21は、円形状に配置される複数の注入井戸40に対応して、円環状に形成されている。そして、共通送気管21には、コンプレッサ22が接続する。共通送気管21は、コンプレッサ22から送られる気体を、各注入井戸40の送気管42にそれぞれ供給する。
【0034】
(コンプレッサ22)
コンプレッサ22は、圧縮した気体を共通送気管21に送る。本実施形態のコンプレッサ22は、コンプレッサ22の周囲の空気を吸気し、圧縮した空気を共通送気管21に送る。なお、コンプレッサ22が共通送気管21に送る気体は、酸素を含むものであれば良く、周囲の空気に限定されない。
また、本実施形態のコンプレッサ22は、制御装置30によって、共通送気管21への気体の供給が制御される。
さらに、本実施形態のコンプレッサ22は、圧縮空気の送気圧を特定するセンサに基づいて得られる送気圧の情報を、制御装置30に送る。
【0035】
〔制御装置30〕
図1に示す制御装置30は、CPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMと、不揮発性メモリであるSSD(Solid State Drive)と、を備えている。また、制御装置30は、情報を表示する表示部30d(通知部の一例)を備えている。
【0036】
制御装置30は、圧力センサ16P、渇水センサ123、回復センサ124、および酸素センサ17からそれぞれセンサの値を取得する。
そして、制御装置30は、各種のセンサから取得した値に基づいて、ポンプ部122、コンプレッサ22、エアバルブ43および排泥バルブ44の動作を制御する。
【0037】
次に、本実施形態の取水システム1の動作について説明する。
図3は、第1実施形態の取水システム1の動作フロー図である。
【0038】
図3に示すように、制御装置30は、コンプレッサ22から取得した、エアレーションにおける圧縮空気の送気圧の情報に基づいて、圧縮空気の送気圧が閾値以上であるか否かを判断する(S101)。圧縮空気の送気圧が閾値以上ではない場合(S101にてNo)、制御装置30は、渇水センサ123の信号がオフであるか否かを判断する(S102)。渇水センサ123の信号がオフでない場合(S102にてNo)、つまり、渇水センサ123の位置以上に水位がある場合、酸素センサ17により検知される揚水井戸10内の地下水の溶存酸素の濃度が基準値より高いか否かを判断する(S103)。
【0039】
揚水井戸10内の地下水の溶存酸素の濃度が基準値より高くない場合(S103にてNo)、制御装置30は、コンプレッサ22の動作を制御することで、エアレーションを継続して行う(S104)。一方、揚水井戸10内の地下水の溶存酸素の濃度が基準値より高い場合(S103にてYes)、制御装置30は、コンプレッサ22の動作を制御することで、エアレーションにおける圧縮空気の送気量の低減、またはエアレーションの停止を実行する(S105)。
そして、制御装置30は、ユーザ用バルブ15がユーザによって操作されることで圧力センサ16Pに生じる圧力変化に応じて、ポンプ部122の動作を制御する、ポンプ部122の通常運転を行う(S105)。
【0040】
上述のとおり、本実施形態の取水システム1では、揚水井戸10の周囲に設けられる注入井戸40において地下水に対するエアレーションが行われている。注入井戸40にてエアレーションが行われることで、地下水に含まれる鉄分が酸化し、鉄分が比較的大きい粒子となる団粒や凝集した状態になる。その鉄分は、注入井戸40における下側に沈殿したり、注入井戸40と揚水井戸10との間の地盤に吸着されたり、地盤に捕集されたりする。つまり、本実施形態の取水システム1では、注入井戸40と揚水井戸10との間の地盤を、フィルターとして用いる。
そして、揚水井戸10に達した地下水は、含まれる鉄分の量が、注入井戸40を経る前の地下水と比較して大幅に低減された状態になる。
【0041】
一方、制御装置30は、エアレーションにおける圧縮空気の送気圧が閾値以上となった場合(S101にてYes)、または、渇水センサ123の信号がオフである場合(S102にてYes)、ポンプ部122の運転を停止する(S107)。その後、制御装置30は、注入井戸40や、注入井戸40と揚水井戸10との間の地盤に含まれる異物や鉄分などを洗浄する逆洗処理を実行する(S108)。
なお、本実施形態の制御装置30は、表示部30dに、逆洗処理を実行していることをユーザに通知するためのメッセージを表示する。
【0042】
逆洗処理において、制御装置30は、注入井戸40における排泥バルブ44を開ける。(
図1および
図2参照)さらに、制御装置30は、コンプレッサ22を駆動して、注入井戸40に対して圧縮空気を供給する。注入井戸40では、注入ケーシング41における下側にて気体が噴射されることで、注入ケーシング41内の地下水や鉄分を含む異物が上側へと持ち上げられ、排泥バルブ44から排出される。また、注入ケーシング41内の地下水が地上へと排出されることで、揚水井戸10に対して注入井戸40側の地下水位は、低下する。これによって、揚水井戸10から注入井戸40に向かう地下水の流れが発生する。これによって、揚水井戸10と注入井戸40との間の地中に捕集されていた鉄分を含む異物は、注入ケーシング41側に向けて進行する。この鉄分などを含む異物は、注入ケーシング41内に進入した場合、上述のとおり、下側にて噴出される気体によって地上へと排出される。
このように、第1実施形態の取水システム1では、逆洗処理を行うことで、揚水井戸10における取水能力および注入井戸40による鉄分の除去能力が回復し、維持される。
【0043】
なお、逆洗処理において、制御装置30は、複数の注入井戸40のうち全ての注入井戸40の排泥バルブ44を開けるのではなく、一部の注入井戸40の排泥バルブ44だけを開ける。また、この場合に、制御装置30は、排泥バルブ44が閉じている注入井戸40のエアバルブ43を閉じる。そして、本実施形態の逆洗処理では、実際に排泥が行われる注入井戸40の数を限定することで、コンプレッサ22による気体の圧送能力を集中させる。これによって、注入井戸40においてコンプレッサ22から送られる圧縮空気によって、注入井戸40内の地下水を押し上げる力を高めている。なお、この場合に、排泥の対象となる注入井戸40は、時間の計測に基づいて順次、変更する。
【0044】
そして、
図3に示すように、逆洗処理を実行した後、制御装置30は、回復センサ124の信号がオンであるか否かを判断する(S109)。回復センサ124の信号がオンでない場合(S109でNo)、再びステップ108に戻り、逆洗処理を継続して行う。一方、回復センサ124の信号がオンである場合(S109でYes)、ステップ103に進む。
【0045】
以上のように、本実施形態の取水システム1は、揚水井戸10のユーザ用バルブ15からは、含まれる鉄分の量が低減された地下水を得ることができる。本実施形態の取水システム1によれば、従来では汲み上げた後に鉄分を除去する処理を行う必要があった地下水を地中で処理し、揚水井戸10のユーザ用バルブ15から出る地下水は、飲料水などの生活用水にそのまま用いることができる。
【0046】
また、本実施形態の取水システム1は、例えば地下水に含まれる鉄分の濃度が極めて高く、汲み上げた地下水に対して従来装置による地上での鉄分の除去処理を行うことを諦めていたような地下水の利用も可能になる。つまり、本実施形態の取水システム1は、地中において地下水に含まれる鉄分の濃度を低下させることができるため、汲み上げた地下水に対して、従来装置による地上での鉄分の除去処理を行えるようになる。このように、本実施形態の取水システム1によれば、地下水を利用することができる範囲を大きく広げることができる。
【0047】
そして、本実施形態の取水システム1により得られる地下水は、飲料水などの生活用水のみならず、農業用水、養殖用水、工業用水など各種の用途に利用することができる。また、本実施形態の取水システム1によって得られる地下水は、路面における融雪のための散水に利用できる。特に、本実施形態の取水システム1により得られる地下水は、含まれる鉄分の濃度が低いため、路面の変色や汚濁を抑制することができる。
【0048】
なお、本実施形態の取水システム1では、逆洗処理を機械的に自動で行うようにしているが、この態様に限定されない。例えば、制御装置30は、渇水センサ123からオフの信号を取得した場合、表示部30dに、逆洗処理の実施を促す警告情報を表示するようにしても良い。これによって、ユーザは、手動により、エアバルブ43の開閉、排泥バルブ44の開閉、およびコンプレッサ22の操作を行い、逆洗処理を行うことができる。
この場合に、ユーザが逆洗処理を終了する目安としては、例えば、注入井戸40から排出される水(排泥)が十分に清澄になるまでとすることができる。
【0049】
また、上述した例では、逆洗処理を、揚水井戸10における水位に基づいて実行しているが、これに限定されない。例えば、予め定められた時間に基づいて、定期的に機械が自動で実行したり、定期的に逆洗処理を手動で実行することをユーザに促す通知を行ったりしてもよい。また、制御装置30は、図示しない通信ネットワークを介して、本取水システム1を利用するユーザの情報端末装置に対して、上記の通知を送信しても良い。
【0050】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態の取水システム1の断面図である。
図5は、第2実施形態の取水システム1の上面図である。
続いて、第2実施形態の取水システム1について説明する。なお、第2実施形態において第1実施形態と同様な構成については、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0051】
図4に示すように、第2実施形態の取水システム1は、揚水井戸10から汲み上げた地下水を、注入井戸40に送る送水部50を有している点が、第1実施形態の取水システム1とは異なる。以下、第2実施形態の送水部50について詳細に説明する。
なお、
図4では図示を省略しているが、第2実施形態の取水システム1は、第1実施形態と同様に、逆止弁14、圧力タンク16、酸素センサ17、渇水センサ123および回復センサ124を備えている。
【0052】
送水部50は、地下水が流れる複数の送水管51と、複数の送水管51で共通で用いられる共通送水管52と、共通送水管52を流れる地下水の流量を計測する量水器53と、揚水管121から共通送水管52に向けた地下水の流れを制御する送水バルブ54と、を備える。
【0053】
送水管51は、複数設けられる注入井戸40に対して、それぞれ設けられる。送水管51は、注入ケーシング41よりも内径および外径がそれぞれ小さい管状の部材である。そして、送水管51は、上端部が共通送水管52に接続し、下端部51eが注入ケーシング41における上側に配置される。なお、本実施形態の送水管51の下端部51eは、地下水位WLよりも上側になるように配置される。そして、送水管51は、共通送水管52から送られる地下水を、注入ケーシング41における上側にて放出する。
【0054】
図5に示すように、共通送水管52は、複数(例えば、8基)の注入井戸40にそれぞれ設けられる複数の送水管51に接続している。本実施形態の共通送水管52は、円形状に配置される複数の注入井戸40に対応して、円環状に形成されている。さらに、共通送水管52は、揚水管121に接続する。そして、共通送水管52は、揚水管121から送られる地下水を、各注入井戸40の送水管51にそれぞれ供給する。
【0055】
量水器53は、共通送水管52に設けられる。そして、量水器53は、揚水管121から共通送水管52に流れる地下水の流量を計測する。そして、量水器53は、計測した地下水の流量の値を、制御装置30に送る。
【0056】
送水バルブ54は、共通送水管52に設けられる。そして、揚水管121から共通送水管52に流れる地下水の流れを制御する。
【0057】
以上のように構成される第2実施形態の取水システム1では、注入井戸40において、コンプレッサ22から送られる気体によるエアレーションが行われる。これによって、地下水に含まれる鉄分を酸化させ、鉄分が比較的大きい粒子となる団粒や凝集した状態にする。
さらに、
図4に示すように、第2実施形態の取水システム1では、揚水井戸10から汲み上げた地下水を、注入井戸40に注入する。これによって、揚水井戸10から注入井戸40に地下水を供給している状態で、地下水位WL(
図4の一点鎖線)は、揚水井戸10側が低くなり、注入井戸40側が高くなる。そして、地下水の水面勾配によって、注入井戸40から揚水井戸10へと地下水が流れやすくなる。このように、第2実施形態の取水システム1では、地下水を循環させることで、注入井戸40と揚水井戸10との間の地盤により、鉄分が吸着されたり捕集されたりして、地下水に含まれる鉄分の除去が促進され易くなっている。
【0058】
また、第2実施形態の取水システム1においても、逆洗処理を行うことができる。この場合に、制御装置30は、量水器53によって計測される地下水の流量に基づいて、逆洗処理を実行することができる。ここで、注入井戸40と揚水井戸10との間の地盤において鉄分を含む異物による目詰まりの程度が大きくなると、揚水井戸10に集まる地下水の量が低下する。そこで、制御装置30は、量水器53によって揚水井戸10から送られる地下水の流量を定常的に計測する。そして、制御装置30は、量水器53によって計測される地下水の流量が低下しているという傾向があった場合に、逆洗処理を実行する。また、第2実施形態の取水システム1は、第1実施形態と同様に、コンプレッサ22による圧縮空気の送気圧が増大している場合に、逆洗処理を実行することができる。
【0059】
以上のように、第2実施形態の取水システム1において、ユーザ用バルブ15を開けることで、含まれる鉄分の量が低減された地下水を得ることができる。また、第2実施形態の取水システム1においても、逆洗処理を行うことで、揚水井戸10の取水能力および注入井戸40による鉄分の除去能力を回復し、維持することができる。
【0060】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態の取水システム1の断面図である。
続いて、第3実施形態の取水システム1について説明する。なお、第3実施形態において他の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
なお、
図6では図示を省略しているが、第3実施形態の取水システム1は、第1実施形態と同様に、逆止弁14、圧力タンク16、酸素センサ17、渇水センサ123および回復センサ124を備えている。
【0061】
図6に示すように、実施形態3の取水システム1は、第2実施形態における共通送気管21および送気管42を用いた注入井戸40における空気の注入に代えて、送水部50による空気の注入を行う。
実施形態3の取水システム1において、送水部50は、送水管51の下端部51eを、注入ケーシング41における下側に設置する。そして、実施形態3の取水システム1では、地下水を酸化させる注入水酸化槽55と、送水管51ごとに設けられる個別バルブ56と、さらに備える。
【0062】
注入水酸化槽55は、共通送水管52に接続している。注入水酸化槽55は、揚水管121から供給される地下水を一定量貯めておく槽を有している。また、注入水酸化槽55は、コンプレッサ22から圧縮空気が供給される。そして、注入水酸化槽55は、揚水管121から供給される地下水に対して圧縮空気を供給し、圧縮空気が混合された地下水を送水管51に送る。
【0063】
個別バルブ56は、基本的な構成は、第2実施形態のエアバルブ43と同様である。第3実施形態の取水システム1において、逆洗処理を実行する際に、複数の送水管51に設けられる各個別バルブ56を選択的に開閉することで、逆洗処理における排泥操作の対象となる注入井戸40の数を限定する。これによって、第3実施形態の取水システム1において逆洗処理を行う際に、コンプレッサ22による気体の圧送能力を集中させることができる。
【0064】
そして、第3実施形態の取水システム1によっても、ユーザ用バルブ15を開けることで、含まれる鉄分の量が低減された地下水を得ることができる。また、第3実施形態の取水システム1においても、逆洗処理を行うことで、揚水井戸10の取水能力および注入井戸40による鉄分の除去能力を回復し、維持することができる。
【0065】
なお、第2実施形態における送気管42を用いた空気の供給と、第3実施形態における送水管51を用いた空気の供給とは、併用しても良い。
さらに、第1実施形態~第3実施形態において、注入井戸40における地下水に注入する空気や酸素は、例えば、1μm~100μm未満の泡であるマイクロバブルであっても良い。
【0066】
さらに、第1実施形態~第3実施形態において、複数の注入井戸40の配置は、上述した例に限定されない。例えば、地中における地下水の流れる方向が特定できる場合には、揚水井戸10に対して地下水の流れの上流側に複数の注入井戸40を集中的に配置しても良い。
【0067】
なお、第1実施形態~第3実施形態において、制御装置30は、上述した機能のうち、全ての機能を実現することに限定されない。制御装置30は、少なくともポンプ部122の駆動を制御し、ユーザ用バルブ15から出る水圧の調整や揚水井戸10における水位に応じたポンプ部122のオン・オフの機能を実現できれば良く、他の機能を有することは必須ではない。
【符号の説明】
【0068】
1…取水システム、10…揚水井戸、11…揚水ケーシング、13…揚水バルブ、20…注入装置、21…共通送気管、22…コンプレッサ、30…制御装置、40…注入井戸、41…注入ケーシング、42…送気管、43…エアバルブ、44…排泥バルブ、50…送水部、51…送水管