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特開2024-159928防食被覆材、防食被覆層及びコンクリート構造物の防食方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159928
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】防食被覆材、防食被覆層及びコンクリート構造物の防食方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/62 20060101AFI20241031BHJP
   C04B 28/06 20060101ALI20241031BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20241031BHJP
   E04G 21/14 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C04B41/62
C04B28/06
E04G23/02 A
E04G21/14
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024147314
(22)【出願日】2024-08-29
(62)【分割の表示】P 2022559132の分割
【原出願日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2020183079
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】柳 慎一
(72)【発明者】
【氏名】中山 佑太
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕章
(72)【発明者】
【氏名】高木 聡史
(57)【要約】
【課題】硫酸等で劣化したコンクリート構造物の補修が容易でしかも耐久性に優れる防食被覆材、その防食被覆材を用いた防食被覆層、及びその防食被覆材を用いたコンクリート構造物の防食方法を提供する。
【解決手段】本発明の防食被覆材は、(メタ)アクリレートモノマー及び疎水性シリカを含み、疎水性シリカの平均粒子径が1~100nmである。本発明の防食被覆層は、アルミナセメント、ポゾラン物質及び骨材を含有するアルミナセメント組成物の硬化体からなる素地調整層と、素地調整層上の本発明の防食被覆材の硬化体からなる防食被覆材層とを含む。本発明のコンクリート構造物の防食方法は、型枠を組み立てる工程、アルミナセメント、ポゾラン物質及び骨材を含有するアルミナセメント組成物を型枠に打ち込んで素地調整層を形成する工程、型枠を撤去する工程、及び本発明の防食被覆材を塗布して素地調整層の上に防食被覆材層を形成する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレートモノマー及び疎水性シリカを含み、
前記疎水性シリカの平均粒子径が1~100nmであり、
前記疎水性シリカが、下記一般式(1)で表されるオルガノシランにより疎水化されたシリカ及び下記一般式(2)で表されるオルガノシランにより疎水化されたシリカの少なくとも1種のシリカであり、
前記疎水性シリカが、下記一般式(1)で表されるオルガノシランにより疎水化されたシリカである場合、前記疎水性シリカが、前記一般式(1)で表される第1のオルガノシランにより疎水化されたシリカ及び前記一般式(1)で表される、前記第1のオルガノシランと異なる第2のオルガノシランにより疎水化されたシリカを含み、
前記一般式(1)において、前記第1のオルガノシランのRは下記一般式(3)で表されるアルキル基であり、前記第2のオルガノシランのRは下記一般式(4)で表されるアルキル基である防食被覆材。
SiCl4-x-y (1)
一般式(1)中、Rはアルキル基を示し、xは1~3の整数を示し、yは0~3の整数を示し、x+y≦4である。
(R 3-zSi)NR (2)
一般式(2)中、Rは水素又はアルキル基、アルケニル基又はハロゲン化アルキル基を示し、Rは水素又はアルキル基又はアルカリ金属元素を示し、zは1~3の整数を示す。
2s+1 (3)
一般式(3)中、sは1~5の整数を示す。
2t+1 (4)
一般式(4)中、tは6~12の整数を示す。
【請求項2】
前記(メタ)アクリレートモノマーが、ビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートを含む請求項1に記載の防食被覆材。
【請求項3】
前記ビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートモノマーが、下記一般式(5)で表されるビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートである請求項2に記載の防食被覆材。
【化1】
一般式(5)中、R及びR’は水素又はメチル基を示し、R及びR’は置換基を有してもよいアルキレン基を示し、m及びnは1~20の整数を示す。
【請求項4】
重合開始剤、前記(メタ)アクリレートモノマー及び前記疎水性シリカを含む第1の防食被覆材と、前記重合開始剤の分解を促進する分解促進剤、前記(メタ)アクリレートモノマー及び前記疎水性シリカを含む第2の防食被覆材との2剤型である請求項1~3のいずれか1項に記載の防食被覆材。
【請求項5】
25℃における粘度が1700~15000mPa・sであり、
25℃におけるチキソトロピーインデックスが3.0以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の防食被覆材。
【請求項6】
0~25℃の範囲における粘度が1700~15000mPa・sであり、
0~25℃の範囲におけるチキソトロピーインデックスが3.0以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の防食被覆材。
【請求項7】
アルミナセメント、ポゾラン物質及び骨材を含有するアルミナセメント組成物の硬化体からなる素地調整層と、前記素地調整層上の請求項1~6のいずれか1項に記載の防食被覆材の硬化体からなる防食被覆材層とを含む防食被覆層。
【請求項8】
型枠を組み立てる工程、
アルミナセメント、ポゾラン物質及び骨材を含有するアルミナセメント組成物を前記型枠に打ち込んで素地調整層を形成する工程、
前記型枠を撤去する工程、及び
請求項1~6のいずれか1項に記載の防食被覆材を塗布して前記素地調整層の上に防食被覆材層を形成する工程を含むコンクリート構造物の防食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食被覆材、防食被覆層及びコンクリート構造物の防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や温泉地帯等では、微生物や火山ガスの影響で硫化水素が発生し、そこに水が介在すると硫酸が生成する。このような箇所においては、コンクリート構造物の腐食が問題となる。コンクリート等のセメント硬化体は、硫酸に接触するとコンクリート中の水酸化カルシウムと反応することで二水石膏が生成し、さらに、エトリンガイトが生成することによってコンクリートの膨張・劣化が起こる。
硫酸による劣化箇所の補修方法としては、劣化部をウォータージェットにより除去し断面修復あるいは不陸調整してから樹脂ライニングを行う方法が実施されている。これに用いる修復材としては、高炉水砕スラグにポリマーを配合した材料(特許文献1)、アルミナセメントからなる材料(特許文献2、3)、高炉水砕スラグやシリカフューム等の微粉末を多量に混和したセメントモルタルが使用されている(特許文献4)。また、アルミナセメントと高炉スラグ微粉末を用いた材料で、5μm以下のアルミナセメント粒子を25重量%以下とし、リチウム塩を含有する材料(特許文献5)や、置換基としてスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物をセメント100質量部に対して0.5~4質量部含有する材料(特許文献6)等が提案されている。
【0003】
また、樹脂ライニングに使用する樹脂の成分としては、エポキシ樹脂、ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂、ヘット酸系不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノール系ビニルエステル樹脂、ノボラック系ビニルエステル樹脂、臭素化ビスフェノール系ビニルエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、アクリル樹脂等が知られている(非特許文献1)。
【0004】
コンクリートをセメント系材料で修復した後に樹脂をライニングする方法では、プライマー塗布、中塗り塗布、上塗り塗布といった複数層の樹脂ライニングを行うのが通常である。樹脂の種類によっては、中塗りや上塗りを2回実施するケースもあり、最終的に樹脂層を形成するために多くの工程が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03-290348号公報
【特許文献2】特開2003-89565号公報
【特許文献3】特開2004-292245号公報
【特許文献4】特開2000-128618号公報
【特許文献5】特開2002-293603号公報
【特許文献6】特開2003-292362号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】地方共同法人 日本下水道事業団編著、「下水道コンクリート構造物の腐食防食抑制技術及び防食技術マニュアル」、発行元 一般財団法人 下水道業務管理センター、68~69頁、平成29年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硫酸等で劣化したコンクリート構造物の補修が容易でしかも耐久性に優れる防食被覆材、その防食被覆材を用いた防食被覆層、及びその防食被覆材を用いたコンクリート構造物の防食方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を進めたところ、(メタ)アクリレートモノマー及び所定の平均粒子径を有する疎水性シリカを含む防食被覆材が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、以下を要旨とする。
[1](メタ)アクリレートモノマー及び疎水性シリカを含み、
前記疎水性シリカの平均粒子径が1~100nmである防食被覆材。
[2]前記疎水性シリカが、下記一般式(1)で表されるオルガノシランにより疎水化されたシリカ及び下記一般式(2)で表されるオルガノシランにより疎水化されたシリカの少なくとも1種のシリカである上記[1]に記載の防食被覆材。
SiCl4-x-y (1)
一般式(1)中、Rはアルキル基を示し、xは1~3の整数を示し、yは0~3の整数を示し、x+y≦4である。
(R 3-zSi)NR (2)
一般式(2)中、Rは水素又はアルキル基、アルケニル基又はハロゲン化アルキル基を示し、Rは水素又はアルキル基又はアルカリ金属元素を示し、zは1~3の整数を示す。
[3]前記疎水性シリカが、前記一般式(1)で表される第1のオルガノシランにより疎水化されたシリカ及び前記一般式(1)で表される、前記第1のオルガノシランと異なる第2のオルガノシランにより疎水化されたシリカを含み、
前記一般式(1)において、前記第1のオルガノシランのRは下記一般式(3)で表されるアルキル基であり、前記第2のオルガノシランのRは下記一般式(4)で表されるアルキル基である請求項2に記載の防食被覆材。
2s+1 (3)
一般式(3)中、sは1~5の整数を示す。
2t+1 (4)
一般式(4)中、tは6~12の整数を示す。
[4]前記(メタ)アクリレートモノマーが、ビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートを含む上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の防食被覆材。
[5]前記ビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートモノマーが、下記一般式(5)で表されるビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートである上記[4]に記載の防食被覆材。
【化1】
一般式(5)中、R及びR’は水素又はメチル基を示し、R及びR’は置換基を有してもよいアルキレン基を示し、m及びnは1~20の整数を示す。
[6]重合開始剤、前記(メタ)アクリレートモノマー及び前記疎水性シリカを含む第1の防食被覆材と、前記重合開始剤の分解を促進する分解促進剤、前記(メタ)アクリレートモノマー及び前記疎水性シリカを含む第2の防食被覆材との2剤型である上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の防食被覆材。
[7]25℃における粘度が1700~15000mPa・sであり、25℃におけるチキソトロピーインデックスが3.0以上である上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の防食被覆材。
[8]0~25℃の範囲における粘度が1700~15000mPa・sであり、0~25℃の範囲におけるチキソトロピーインデックスが3.0以上である上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の防食被覆材。
[9]アルミナセメント、ポゾラン物質及び骨材を含有するアルミナセメント組成物の硬化体からなる素地調整層と、前記素地調整層上の上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の防食被覆材の硬化体からなる防食被覆材層とを含む防食被覆層。
[10]前記素地調整層及び前記防食被覆材層の間に配置された、(メタ)アクリレートモノマーを含むプライマー組成物の硬化体からなるプライマーをさらに含む上記[9]に記載の防食被覆層。
[11]前記プライマー組成物に含まれる(メタ)アクリレートモノマーが、ビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートを含む上記[10]に記載の防食被覆層。
[12]前記プライマー組成物に含まれる前記ビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートが、下記一般式(5)で表されるビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートである上記[11]に記載の防食被覆層。
【化2】

一般式(5)中、R及びR’は水素又はメチル基を示し、R及びR’は置換基を有してもよいアルキレン基を示し、m及びnは1~20の整数を示す。
[13]前記素地調整層の空隙率が5~40体積%であり、前記素地調整層の前記プライマーの近傍の領域では、前記素地調整層の空隙が前記プライマー組成物の硬化体で充填されている上記[10]~[12]のいずれか1つに記載の防食被覆層。
[14]型枠を組み立てる工程、アルミナセメント、ポゾラン物質及び骨材を含有するアルミナセメント組成物を前記型枠に打ち込んで素地調整層を形成する工程、前記型枠を撤去する工程、及び上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の防食被覆材を塗布して前記素地調整層の上に防食被覆材層を形成する工程を含むコンクリート構造物の防食方法。
[15](メタ)アクリレートモノマーを含むプライマー組成物を前記素地調整層に塗布してプライマーを形成する工程をさらに含み、前記防食被覆材は、前記プライマーに塗布される上記[14]に記載のコンクリート構造物の防食方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硫酸等で劣化したコンクリート構造物の補修が容易でしかも耐久性に優れる防食被覆材、その防食被覆材を用いた防食被覆層、及びその防食被覆材を用いたコンクリート構造物の防食方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[防食被覆材]
本発明の防食被覆材は(メタ)アクリレートモノマー及び平均粒子径が1~100nmである疎水性シリカを含むものである。なお、疎水性シリカは、処理剤を用いて表面を疎水化したシリカである。シリカの表面を疎水化することにより、防食被覆材中にシリカを分散させることが容易になり、これにより、シリカによる増粘及びチクソトロピー効果を強くすることができる。その結果、防食被覆材を厚く塗布することが容易になる。本発明の防食被覆材は、例えば、ローラーを用いた1回の塗布で、400μm以上の厚さに塗布することができる。防食被覆材に(メタ)アクリレートモノマーを用いることにより、防食被覆材の耐硫酸性を向上させるとともに耐久性を改善することができる。また、防食被覆材の厚膜形成も容易になる。
【0011】
(疎水性シリカ)
本発明の防食被覆材の疎水性シリカの平均粒子径は1~100nmである。疎水性シリカの平均粒子径は1nm未満であると、防食被覆材中に疎水性シリカを分散させることが難しい場合がある。疎水性シリカの平均粒子径は100nmよりも大きいと、疎水性シリカの表面積が小さくなるので、疎水性シリカによる増粘効果及びチクソトロピー付与効果が弱くなり、低い粘度の防食被覆材を厚く塗布することが難しくなる場合がある。これにより、劣化したコンクリート構造物の補修に、より大きな手間がかかるようになる。このような観点から、疎水性シリカの平均粒子径は、好ましくは2~80nmであり、より好ましくは3~60nmであり、さらに好ましくは5~50nmである。疎水性シリカの平均粒子径は、例えば、ベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(LS-13 320)を用いて、疎水性シリカの粒度分布を測定し、累積頻度が50体積%の粒径を疎水性シリカの平均粒子径とする方法や、透過型電子顕微鏡で観察し、直接粒径と粒子数を数えたときの累積頻度50個数%の粒径を疎水性シリカの平均粒子径とする方法等がある。
【0012】
本発明の防食被覆材の疎水性シリカは、下記一般式(1)で表されるオルガノシランにより疎水化されたシリカ及び下記一般式(2)で表されるオルガノシランにより疎水化されたシリカの少なくとも1種のシリカであることが好ましい。これにより、疎水性シリカの増粘効果及びチクソトロピー付与効果をさらに強くすることができ、防食被覆材を厚く塗布することがさらに容易になる。その結果、コンクリート構造物の補修がさらに容易になる。なお、疎水性シリカの表面に存在するシラノール基が、他の疎水性シリカの表面に存在するシラノール基と水素結合による相互作用を起こして、疎水性シリカは三次元的網目構造を形成し、その結果、防食被覆材は増粘しチクソトロピー性が高くなると考えられる。そして、下記一般式(1)で表されるオルガノシラン及び下記一般式(2)で表されるオルガノシランによりシリカを疎水化することにより、疎水性シリカを防食被覆材に十分分散させることができ、この十分に分散した疎水性シリカが三次元的網目構造を形成するので、疎水性シリカの増粘効果及びチクソトロピー付与効果が強くなると考えられる。
【0013】
SiCl4-x-y (1)
一般式(1)中、Rはアルキル基を示し、xは1~3の整数を示し、yは0~3の整数を示し、x+y≦4である。
(R 3-zSi)NR (2)
一般式(2)中、Rは水素又はアルキル基、アルケニル基又はハロゲン化アルキル基を示し、Rは水素又はアルキル基又はアルカリ金属元素を示し、zは1~3の整数を示す。
【0014】
疎水性シリカが、上記一般式(1)で表されるオルガノシランにより疎水化されたシリカである場合、防食被覆材を厚く塗布することが容易になる粘性及びチクソトロピー性を防食被覆材に付与するという観点から、Rのアルキル基の炭素数は、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~8である。また、疎水性シリカが、上記一般式(2)で表されるオルガノシランにより疎水化されたシリカである場合、防食被覆材を厚く塗布することが容易になる粘性及びチクソトロピー性を防食被覆材に付与するという観点から、Rは、好ましくは水素又は炭素数1~3のアルキル基、アルケニル基又は炭素数1~3のハロゲン化アルキル基であり、より好ましくは水素又は炭素数1~3のアルキル基であり、さらに好ましくは水素又はメチル基である。Rは、好ましくは水素又は炭素数1~3のアルキル基又はアルカリ金属元素であり、より好ましくは水素又は炭素数1~3のアルキル基であり、さらに好ましくは水素である。
【0015】
疎水性シリカは単独でも使用できるが、2種以上の疎水性シリカを組み合わせることにより、低い粘度の防食被覆材を厚く塗布することが容易になる粘性及びチクソトロピー性を防食被覆材に付与できるようにすることが好ましい。この場合、疎水性シリカが、上記一般式(1)で表される第1のオルガノシランにより疎水化されたシリカ及び上記一般式(1)で表される、第1のオルガノシランと異なる第2のオルガノシランにより疎水化されたシリカを含むことが好ましい。
なお、上記一般式(1)において、第1のオルガノシランのRは下記一般式(3)で表されるアルキル基であり、第2のオルガノシランのRは下記一般式(4)で表されるアルキル基である。
2s+1 (3)
一般式(3)中、sは1~5の整数を示す。
2t+1 (4)
一般式(4)中、tは6~12の整数を示す。
【0016】
防食被覆材を厚く塗布することが容易になる粘性及びチクソトロピー性を防食被覆材に付与するという観点から、好ましくは、一般式(3)中、sは1~3の整数であり、一般式(4)中、tは7~10の整数であり、より好ましくは、一般式(3)中、sは1~2の整数であり、一般式(4)中、tは8~9の整数である。
【0017】
第1のオルガノシランにより疎水化されたシリカ及び第2のオルガノシランにより疎水化されたシリカの質量比は、防食被覆材を厚く塗布することが容易になる粘性及びチクソトロピー性を防食被覆材に付与することができれば、特に限定されない。第1のオルガノシランにより疎水化されたシリカ及び第2のオルガノシランにより疎水化されたシリカの質量比は、例えば5:95~95:5であり、好ましくは30:70~90:10であり、さらに好ましくは50:50~85:15である。
【0018】
防食被覆材を厚く塗布することが容易になる粘性及びチクソトロピー性を防食被覆材に付与するという観点から、防食被覆材における疎水性シリカの含有量は、(メタ)アクリレートモノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部であり、より好ましくは1~10質量部であり、さらに好ましくは2~7質量部である。
【0019】
((メタ)アクリレートモノマー)
本発明の防食被覆材の前記(メタ)アクリレートモノマーは、ビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートが好ましい。ビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレートは、下記一般式(5)で表されるビスフェノールA骨格を有するジ(メタ)アクリレート(以下、(メタ)アクリレートモノマー(A)という場合がある。)であることが好ましい。これにより、防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性をさらに改善することができる。
【化3】
一般式(5)中、R及びR’は水素又はメチル基を示し、R及びR’は置換基を有してもよいアルキレン基を示し、m及びnは1~20の整数を示す。なお、R及びR’は同一でもよいし、異なっていてもよい。また、R及びR’も同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0020】
防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性をさらに改善するという観点から、R及びR’は、好ましくは置換基を有してもよい炭素数1~12のアルキレン基であり、より好ましくは置換基を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基であり、さらに好ましくはエチレン基及び2-水酸基を有するn-プロピレン基(-CHCH(OH)CH-)であり、好ましくはm+n=2~10であり、より好ましくはm+n=2~4である。
【0021】
(メタ)アクリレートモノマー(A)には、例えばビスフェノールA型EO2変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型EO(エチレンオキシド)4変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型EO10変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型PO変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレートモノマー(A)は1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
市販されている(メタ)アクリレートモノマー(A)には、例えば、Miramer M-241(Miwon Specialty Chemical社製)、Miramer M-2101(Miwon Specialty Chemical社製)、Miramer PE210(Miwon Specialty Chemical社製)、NKエステル BPE-100(新中村化学工業株式会社製)、NKエステル BPE-200(新中村化学工業株式会社製)、NKエステル BPE-500(新中村化学工業株式会社製)、NKエステル BPE-1300(新中村化学工業株式会社製)、ライトエステル BP-2EMBR-MA(共栄社化学株式会社)、ファンクリル FA-321M(日立化成株式会社製)、ファンクリル FA-324A(日立化成株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
本発明の防食被覆材は、(メタ)アクリレートモノマーとして、(メタ)アクリレートモノマー(A)に加えて、ジシクロペンテニル骨格を有する(メタ)アクリレート(以下、(メタ)アクリレートモノマー(B)という場合がある。)を含むことが好ましい。ジシクロペンテニル骨格を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは、下記一般式(6)で示されるジシクロペンテニルオキシアルキレン(メタ)アクリレートである。これにより、防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性をさらに改善することができる。また、(メタ)アクリレートモノマー(B)は反応性希釈剤としての効果も有する。
【化4】
一般式(6)中、Rは水素又はメチル基を示し、Rはアルキレン基を示し、pは1~20の整数を示す。
【0024】
防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性の観点から、Rは、好ましくはメチル基である。Rは、好ましくは炭素数1~12のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルキレン基であり、さらに好ましくはエチレン基であり、pは、好ましくは1~3の整数であり、より好ましくは1である。
【0025】
(メタ)アクリレートモノマー(B)には、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート及びジシクロペンテニルオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレートモノマー(B)は1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性の観点から、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
本発明の防食被覆材は、(メタ)アクリレートモノマーとして、(メタ)アクリレートモノマー(A)及び(メタ)アクリレートモノマー(B)に加えて、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(以下、(メタ)アクリレートモノマー(C)という場合がある。)を含むことが好ましい。これにより、防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性をさらに改善することができる。
【0027】
(メタ)アクリレートモノマー(C)には、例えば、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びグリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレートモノマー(C)は1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、防食被覆材の接着性の観点から、下記一般式(7)で示される2-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0028】
【化5】
一般式(7)中、Rは水素又はメチル基を示し、Rは水素又はアルキル基を示す。
【0029】
防食被覆材の接着性の観点から、Rは、好ましくはメチル基であり、Rは、好ましくは水素又は炭素数1~12のアルキル基であり、より好ましくは水素又は炭素数1~5のアルキル基であり、さらに好ましくは水素である。
【0030】
防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性の観点から、防食被覆材における(メタ)アクリレートモノマー(A)の含有量は、(メタ)アクリレートモノマー(A)、(メタ)アクリレートモノマー(B)及び(メタ)アクリレートモノマー(C)の合計100質量部に対して、好ましくは20~80質量部であり、より好ましくは40~70質量部である。一方、防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性の観点から、防食被覆材における(メタ)アクリレートモノマー(B)の含有量は、(メタ)アクリレートモノマー(A)、(メタ)アクリレートモノマー(B)及び(メタ)アクリレートモノマー(C)の合計100質量部に対して、好ましくは10~50質量部であり、より好ましくは20~40質量部である。また、防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性の観点から、防食被覆材における(メタ)アクリレートモノマー(C)の含有量は、(メタ)アクリレートモノマー(A)、(メタ)アクリレートモノマー(B)及び(メタ)アクリレートモノマー(C)の合計100質量部に対して、好ましくは5~35質量部であり、より好ましくは10~20質量部である。
【0031】
本発明の効果を阻害しない範囲で、本発明の防食被覆材の(メタ)アクリレートモノマーは、(メタ)アクリレートモノマー(A)、(メタ)アクリレートモノマー(B)及び(メタ)アクリレートモノマー(C)以外の(メタ)アクリレートモノマーを含んでもよい。防食被覆材の耐硫酸性及び耐久性の観点から、防食被覆材の(メタ)アクリレートモノマーにおける(メタ)アクリレートモノマー(A)、(メタ)アクリレートモノマー(B)及び(メタ)アクリレートモノマー(C)の合計の含有量は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%であり、さらに好ましくは95~100質量%である。
【0032】
(重合開始剤)
本発明の防食被覆材は、(メタ)アクリレートモノマーの硬化を促進するために、重合開始剤を含むことが好ましい。重合開始剤は、フリーラジカルを発生して(メタ)アクリレートモノマーの重合を開始させる。重合開始剤としては、例えば以下の有機過酸化物が挙げられる。
【0033】
(1)ケトンパーオキサイド類:メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド及びアセチルアセトンパーオキサイド等。
(2)パーオキシケタール類:1,1-ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)オクタン、ノルマルブチル-4,4-ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)バレレート及び2,2-ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)ブタン等。
(3)ハイドロパーオキサイド類:ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等。
(4)ジアルキルパーオキサイド類:ジターシャリーブチルパーオキサイド、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(ターシャリーブチルパーオキシ-メタ-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ヘキサン及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ヘキシン-3等。
(5)ジアシルパーオキサイド類:アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウリノイルパーオキサイド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びメタ-トルオイルパーオキサイド等。
(6)パーオキシジカーボネート類:ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-ターシャリーブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート及びジアリルパーオキシジカーボネート等。
(7)パーオキシエステル類:ターシャリーブチルパーオキシアセテート、ターシャリーブチルパーオキシイソブチレート、ターシャリーブチルパーオキシピバレート、ターシャリーブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、ターシャリーブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ターシャリーブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、ターシャリーブチルパーオキシラウレート、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート、ジターシャリーブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ターシャリーブチルパーオキシマレイックアシッド、ターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、ターシャリーヘキシルパーオキシネオデカノエート、ターシャリーヘキシルパーオキシピバレート、ターシャリーブチルパーオキシネオヘキサノエート、ターシャリーヘキシルパーオキシネオヘキサノエート及びクミルパーオキシネオヘキサノエート等。
(8)その他の有機過酸化物:アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド及びターシャリブチルパーオキシアリルカーボネート等。
【0034】
これらの重合開始剤は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの重合開始剤の中では、接着性や硬化性の点で有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物の中では、ハイドロパーオキサイド類が好ましい。ハイドロパーオキサイド類の中では、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0035】
防食被覆材における重合開始剤の含有量は、(メタ)アクリレートモノマーの含有量の合計100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部であり、より好ましくは0.7~5質量部である。
【0036】
(分解促進剤)
本発明の防食被覆材は、重合開始剤に加えて分解促進剤を含むことが好ましい。分解促進剤は、重合開始剤の分解を促進してフリーラジカルの発生を促進し、防食被覆材の硬化反応を促進させる役割を果たす。これにより、常温下において防食被覆材をより確実に硬化させることができる。分解促進剤としては、例えば次のようなものが挙げられる。
(1)チオ尿素誘導体:ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、メルカプトベンゾイミダゾール及びベンゾイルチオ尿素等。
(2)アミン類:N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジイソプロパノール-p-トルイジン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エチルジエタノ-ルアミン、N,N-ジメチルアニリン、エチレンジアミン及びトリエタノールアミン等。
(3)有機酸の金属塩:ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸コバルト及びオクチル酸鉄等。
(4)有機金属キレート化合物:銅アセチルアセトネート、チタンアセチルアセトネート、マンガンアセチルアセトネート、クロムアセチルアセトネート、鉄アセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート及びコバルトアセチルアセトネート等。
分解促進剤にはその他にもアルデヒドとアミンの縮合反応物等が挙げられる。これらの分解促進剤は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、硬化性の観点から、有機酸の金属塩が好ましい。有機酸の金属塩の中では、オクチル酸コバルトが好ましい。
分解促進剤として、アミンと有機酸の金属塩の併用もより好ましい。アミンと有機酸の金属塩を併用する場合、その使用割合は、アミンと有機酸の金属塩の合計100質量部中、質量比で、アミン:有機酸の金属塩=1~45:55~99が好ましく、5~15:85~95がより好ましい。
【0037】
防食被覆材における分解促進剤の含有量は、(メタ)アクリレートモノマーの含有量の合計100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部であり、より好ましくは1.0~5質量部である。
【0038】
(シランカップリング剤)
本発明の防食被覆材は、接着性を向上させる目的で、シランカップリング剤を含有することができる。シランカップリング剤としては、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-ユレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの中では、接着性の点で、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
シランカップリング剤の使用量は、(メタ)アクリレートモノマーの含有量の合計100質量部に対して、好ましくは0.01~20質量部であり、より好ましくは0.05~5質量部である。
【0039】
(その他の成分)
本発明の防食被覆材は、上記成分以外の、その他の成分も使用できる。
【0040】
防食被覆材における上述のその他の成分の含有量は、(メタ)アクリレートモノマーの含有量の合計100質量部に対して、好ましくは50質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下である。
【0041】
(2剤型)
本発明の防食被覆材は、1剤型でもよいが、上記重合開始剤、上記(メタ)アクリレートモノマー及び上記疎水性シリカを含む第1の防食被覆材と、上記分解促進剤、上記(メタ)アクリレートモノマー及び上記疎水性シリカを含む第2の防食被覆材との2剤型であることが好ましい。ただし、アミンは、第1の防食被覆材に含まれることが好ましく、チオ尿素誘導体や有機酸の金属塩や有機金属キレート化合物は第2の防食被覆材に含まれることが好ましい。本発明の防食被覆材を2剤型とすることで、本発明の防食被覆材の作業性がさらに良好となる。また、第1の防食被覆材及び第2の防食被覆材の組成をほぼ同様とすることで、配合比の許容範囲が広がるので、厳密な配合比で配合することが難しい作業場においても防食被覆材を使用できる。したがって、第1の防食被覆材及び第2の防食被覆材の組成は、重合開始剤及び分解促進剤を除いて、ほぼ同様であることが好ましい。具体的には、第1の防食被覆材及び第2の防食被覆材において、疎水性シリカ、(メタ)アクリレートモノマー(A)、(メタ)アクリレートモノマー(B)及び(メタ)アクリレートモノマー(C)がそれぞれ同じであり、かつ、(メタ)アクリレートモノマー100質量部に対する疎水性シリカの含有量、並びに、(メタ)アクリレートモノマー(A)、(メタ)アクリレートモノマー(B)及び(メタ)アクリレートモノマー(C)の合計100質量部に対する(メタ)アクリレートモノマー(A)の含有量、(メタ)アクリレートモノマー(B)の含有量及び(メタ)アクリレートモノマー(C)の含有量がそれぞれ同じであることが好ましい。さらに、通常、コンクリート構造物の防食の施工では、材料を搬入した後、材料を配合し、混練して防食被覆材を作製する。したがって、本発明の防食被覆材を2剤型とすることで、第1の防食被覆材及び第2の防食被覆材の配合によって材料の配合が容易になり、防食被覆材を効率的に作製することができる。
【0042】
(粘度)
本発明の防食被覆材の25℃における粘度は、好ましくは1700~15000mPa・sである。防食被覆材の25℃における粘度が1700mPa・s以上であると、防食被覆材を容易に厚く塗布することができる。防食被覆材の25℃における粘度が15000mPa・s以下であると、防食被覆材を容易に塗布することができる。このような観点から、防食被覆材の25℃における粘度は、より好ましくは2000~15000mPa・sであり、さらに好ましくは2500~10000mPa・sである。なお、本発明の防食被覆材が第1の防食被覆材及び第2の防食被覆材の2剤型である場合、本発明の防食被覆材の粘度は、第1の防食被覆材及び第2の防食被覆材を混合して得られた防食被覆材の粘度である。防食被覆材の粘度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0043】
本発明の防食被覆材の0~25℃の範囲における粘度は、好ましくは1700~15000mPa・sである。防食被覆材の0~25℃の範囲における粘度が1700mPa・s以上であると、低温期においても防食被覆材を容易に厚く塗布することができる。防食被覆材の0~25℃の範囲における粘度が15000mPa・s以下であると、低温期においても防食被覆材を容易に塗布することができる。このような観点から、防食被覆材の0~25℃の範囲における粘度は、より好ましくは2000~15000mPa・sであり、さらに好ましくは2500~10000mPa・sである。
【0044】
(チキソトロピーインデックス)
本発明の防食被覆材の25℃におけるチキソトロピーインデックスは、好ましくは3.0以上である。防食被覆材の25℃におけるチキソトロピーインデックスが3.0以上であると、防食被覆材を塗布しているときは、防食被覆材の粘度が低減して防食被覆材が塗布しやすくなり、塗布後の防食被覆材は粘度が高くなり、防食被覆材のタレを抑制することができる。その結果、防食被覆材を厚く塗布することが容易になる。このような観点から、防食被覆材の25℃におけるチキソトロピーインデックスは、より好ましくは3.3以上であり、さらに好ましくは3.5以上である。防食被覆材の25℃におけるチキソトロピーインデックスの上限値は、特に限定されないが、例えば10.0以下である。なお、本発明の防食被覆材が第1の防食被覆材及び第2の防食被覆材の2剤型である場合、本発明の防食被覆材のチキソトロピーインデックスは、第1の防食被覆材及び第2の防食被覆材を混合して得られた防食被覆材のチキソトロピーインデックスである。防食被覆材のチキソトロピーインデックスは、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0045】
本発明の防食被覆材の0~25℃の範囲におけるチキソトロピーインデックスは、好ましくは3.0以上である。防食被覆材の0~25℃の範囲におけるチキソトロピーインデックスが3.0以上であると、低温期においても、防食被覆材を塗布しているときは、防食被覆材の粘度が低減して防食被覆材が塗布しやすくなり、塗布後の防食被覆材は粘度が高くなり、防食被覆材のタレを抑制することができる。その結果、低温期においても防食被覆材を厚く塗布することが容易になる。このような観点から、防食被覆材の25℃におけるチキソトロピーインデックスは、より好ましくは4.0以上であり、さらに好ましくは5.0以上である。防食被覆材の0~25℃の範囲におけるチキソトロピーインデックスの上限値は、特に限定されないが、例えば10.0以下である。
【0046】
(可使時間)
本発明の防食被覆材の作業性の観点から、本発明の防食被覆材の可使時間は、好ましくは15~75分であり、より好ましくは30~50分である。防食被覆材の可使時間は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0047】
(硬化時間)
本発明の防食被覆材の作業性の観点から、本発明の防食被覆材の硬化時間は、好ましくは30~120分であり、より好ましくは50~80分である。防食被覆材の硬化時間は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0048】
(引張せん断接着強さ)
本発明の防食被覆材の耐久性の観点から、本発明の防食被覆材の引張せん断接着強さは、好ましくは5~35N/mmであり、より好ましくは10~30N/mmである。防食被覆材の引張せん断接着強さは、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0049】
[防食被覆層]
本発明の防食被覆層は、アルミナセメント、ポゾラン物質及び骨材を含有するアルミナセメント組成物の硬化体からなる素地調整層と、その素地調整層上の本発明の防食被覆材の硬化体からなる防食被覆材層とを含む。これにより、硫酸等で劣化したコンクリート構造物の補修が容易で、しかも耐硫酸性及び耐久性に優れた防食被覆層を得ることができる。
【0050】
(引張接着強さ)
本発明の防食被覆層の耐久性の観点から、本発明の防食被覆層の引張接着強さは、好ましくは1.0~4.0N/mmであり、より好ましくは1.5~4.0N/mmである。本発明の防食被覆層の引張接着強さは、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0051】
(硫酸浸透深さ)
本発明の防食被覆層の耐硫酸性の観点から、本発明の防食被覆層の硫酸浸透深さは、好ましくは0.3mm未満であり、より好ましくは0.1mm未満である。本発明の防食被覆層の硫酸浸透深さは、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0052】
(防食被覆材層)
本発明の防食被覆層における防食被覆材層は、本発明の防食被覆材の硬化体からなるものである。このため、厚い防食被覆材層を容易に形成することができる。これにより、硫酸等で劣化したコンクリート構造物の補修が容易になる。また、防食被覆材層の耐硫酸性及び耐久性を優れたものにすることができる。これにより、本発明の防食被覆層の耐硫酸性及び耐久性も優れたものとなる。
【0053】
<厚さ>
本発明の防食被覆層における防食被覆材層の厚さは、防食被覆材層の耐硫酸性及び耐久性の観点から、本発明の防食被覆層における防食被覆材層の厚さは、好ましくは0.4mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上であり、さらに好ましくは0.8mm以上である。また、必要以上に防食被覆材層を厚くしないことにより、防食被覆材が無駄にならず、コンクリート構造物の補修に手間がかからないことになることから、防食被覆材層の厚さは、好ましくは2.0mm以下であり、より好ましくは1.5mm以下であり、さらに好ましくは1.0mm以下である。
【0054】
(素地調整層)
本発明の防食被覆層の素地調整層はアルミナセメント組成物の硬化体からなるものである。これにより、防食被覆層の耐硫酸性及び耐久性がさらに改善される。アルミナセメント組成物は、アルミナセメント、ポゾラン物質及び骨材を含有する。
【0055】
<アルミナセメント>
本発明の防食被覆層の素地調整層に使用されるアルミナセメント組成物におけるアルミナセメントは、ポルトランドセメントと異なり、水和生成物として消石灰を生成せずに硬化体を形成するため耐硫酸性に優れる。アルミナセメントは、モノカルシウムアルミネートを主要鉱物として含有するクリンカー粉砕物から得られるものであり、例えば、アルミナセメント1号やアルミナセメント2号等が使用できる。
【0056】
アルミナセメントの粉末度は、ブレーン比表面積2000~8000cm/gが水和活性の点で好ましい。
【0057】
<ポゾラン物質>
本発明の防食被覆層の素地調整層に使用されるアルミナセメント組成物におけるポゾラン物質はアルカリ刺激によりポゾラン活性を示す物質である。ポゾラン物質は、アルミナセメントと併用することで、水和物の相転移による強度低下を抑制し、施工時のアルミナセメント組成物のダレ抵抗性を向上させることができる。ポゾラン物質には、例えば、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ、転炉スラグ、シリカフューム、及びフライアッシュ等が挙げられる。これらのポゾラン物質は1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
ポゾラン物質の粉末度は、水和活性の点でブレーン比表面積3000cm/g以上が好ましい。また、ポゾラン物質の使用量は、通常、アルミナセメント100質量部に対して60~200質量部が好ましく、80~150質量部がより好ましい。なお、シリカフュームは、アルミナセメント100質量部に対して1~20質量部が好ましい。
【0059】
<骨材>
本発明の防食被覆層の素地調整層に使用されるアルミナセメント組成物における骨材は、特に限定されるものではなく、一般的に入手可能な骨材である。例えば、珪砂骨材、珪石骨材、石灰石骨材、重量骨材、軽量骨材などが挙げられる。これらの骨材は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。耐酸性能の点で石灰石骨材以外の骨材の使用が好ましい。石灰石骨材以外の骨材の中では、珪砂が好ましい。アルミナセメント組成物が骨材を含むことにより、素地調整層の強度を向上させることができる。
【0060】
骨材の使用量は、耐酸性能や流動性に影響のない範囲で使用すれば特に限定するものではないが、アルミナセメント及びポゾラン物質の合計100質量部に対して、好ましくは100~400質量部である。
【0061】
<ポルトランドセメント>
アルミナセメント組成物に含まれるポゾラン物質の硬化性をさらに強く発現させるために、アルミナセメント組成物はポルトランドセメントをさらに含んでもよい。これにより、素地調整層の強度を改善することができる。ポルトランドセメントの使用量は、耐酸性能や流動性に影響のない範囲で使用すれば特に限定するものではないが、アルミナセメント100質量部に対して、好ましくは25~70質量部である。また、アルミナセメント組成物がポルトランドセメントを含む場合、素地調整層の強度を増進させるために、アルミナセメント組成物はセッコウをさらに含んでもよい。セッコウの使用量は、耐酸性能や流動性に影響のない範囲で使用すれば特に限定するものではないが、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは50~150質量部である。さらに、アルミナセメント組成物がポルトランドセメントを含む場合、アルミナセメント組成物の硬化を促進させるために、アルミナセメント組成物は消石灰をさらに含んでもよい。消石灰の使用量は、耐酸性能や流動性に影響のない範囲で使用すれば特に限定するものではないが、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは5~50質量部である。
【0062】
<添加剤>
本発明の防食被覆層の素地調整層に使用されるアルミナセメント組成物は、素地調整層の品質に悪影響を与えない範囲で、各種添加剤を含有することができる。なお、防水やひび割れ防止等を目的とした高級脂肪酸系の混和剤は、コンクリートと素地調整層との接着性を悪化させる可能性があるので、使用しないことが好ましい。また、ワックス系、樹脂系、塩化ゴム系等を溶剤に溶かしたコンクリート養生剤もコンクリートと素地調整層との接着性を悪化させる可能性があるので、使用しないことが好ましい。
【0063】
<空隙率>
素地調整層の空隙率は、好ましくは5~40体積%である。素地調整層の空隙率が5体積%以上であると、防食被覆材又は後述のプライマー組成物を素地調整層に十分浸透させることができ、防食被覆材層又はプライマーが素地調整層から剥がれることをさらに抑制できる。その結果、防食被覆層の耐硫酸性及び耐久性がさらに改善される。また、素地調整層の空隙率が40体積%以下であると、防食被覆材又は後述のプライマー組成物が素地調整層に過剰に浸透することを抑制できる。なお、防食被覆材又は後述のプライマー組成物が素地調整層に過剰に浸透すると、所望の厚さの防食被覆材層又はプライマーを形成するのに必要な防食被覆材又はプライマー組成物の使用量が非常に多くなる。このような観点から、素地調整層の空隙率は、より好ましくは5~30体積%である。また、素地調整層が上述の空隙率を有する場合、素地調整層の防食被覆材層近傍の領域、又はプライマーの近傍の領域では、素地調整層の空隙が、防食被覆材の硬化体又はプライマー組成物の硬化体で充填されることになる。なお、素地調整層の防食被覆材層近傍の領域とは、素地調整層及び防食被覆材層の界面から0.5mm以内の範囲である。また、素地調整層のプライマー近傍の領域とは、素地調整層及びプライマーの界面から2mm以内の範囲である。
【0064】
<厚さ>
防食被覆層の耐硫酸性及び耐久性の観点から、本発明の防食被覆層における素地調整層の厚さは、好ましくは10mm以上であり、より好ましくは15mm以上であり、さらに好ましくは20mm以上である。また、必要以上に素地調整層を厚くしないことにより、アルミナセメント組成物が無駄にならず、コンクリート構造物の補修に手間がかからないことになることから、素地調整層の厚さは、好ましくは70mm以下であり、より好ましくは60mm以下であり、さらに好ましくは50mm以下である。
【0065】
<圧縮強度>
防食被覆層の耐久性の観点から、本発明の防食被覆層の素地調整層に使用されるアルミナセメント組成物の圧縮強度は、好ましくは30~90N/mmであり、より好ましくは40~80N/mmである。なお、アルミナセメント組成物の圧縮強度は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0066】
(プライマー)
本発明の防食被覆層は、素地調整層及び防食被覆材層の間に配置されたプライマーを含むことが好ましい。これにより、防食被覆材層が素地調整層から剥がれることを抑制することができる。その結果、防食被覆層の耐硫酸性及び耐久性がさらに改善される。プライマーは、(メタ)アクリレートモノマーを含むプライマー組成物の硬化体からなるものである。
【0067】
プライマー組成物に含まれる(メタ)アクリレートモノマーは、上述の防食被覆材に用いられる(メタ)アクリレートモノマーと同様のものであることが好ましい。これにより、プライマー及び防食被覆材層の間の接着性をさらに強くすることができる。その結果、防食被覆層の耐硫酸性及び耐久性がさらに改善される。また、上述の防食被覆材に用いられる(メタ)アクリレートモノマーと同様に、プライマー組成物も、重合開始剤及び分解促進剤を含むことが好ましい。さらに、上述の防食被覆材に用いられる(メタ)アクリレートモノマーと同様に、プライマー組成物も、上述のその他の成分を含んでもよい。また、上述の防食被覆材に用いられる(メタ)アクリレートモノマーと同様に、プライマー組成物も、上記重合開始剤及び上記(メタ)アクリレートモノマーを含む第1のプライマー組成物と、上記分解促進剤及び上記(メタ)アクリレートモノマーを含む第2のプライマー組成物との2剤型であることが好ましい。
【0068】
プライマー組成物に含まれる(メタ)アクリレートモノマー、重合開始剤及び分解促進剤は、上述の防食被覆材に用いられる(メタ)アクリレートモノマー、重合開始剤及び分解促進剤と同様のものであるので、プライマー組成物に含まれる(メタ)アクリレートモノマー、重合開始剤及び分解促進剤の説明は省略する。プライマー組成物に含まれる(メタ)アクリレートモノマー、重合開始剤及び分解促進剤は、プライマーに隣接して設けられた防食被覆材層の防食被覆材に用いられた(メタ)アクリレートモノマー、重合開始剤及び分解促進剤と同じものであることが好ましい。
【0069】
<厚さ>
防食被覆材層が素地調整層から剥がれることを抑制するという観点から、プライマーの厚さは、好ましくは50~250μmであり、より好ましくは80~200μmであり、さらに好ましくは100~150μmである。
【0070】
<粘度>
プライマー組成物の作業性の観点から、プライマー組成物の25℃における粘度は、好ましくは50~1000mPa・sであり、より好ましくは100~500mPa・sである。プライマー組成物の25℃における粘度は、後述の実施例の記載の方法により測定することができる。
【0071】
(可使時間)
プライマー組成物の作業性の観点から、プライマー組成物の可使時間は、好ましくは10~50分であり、より好ましくは20~30分である。プライマー組成物の可使時間は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0072】
(硬化時間)
プライマー組成物の作業性の観点から、プライマー組成物の硬化時間は、好ましくは15~85分であり、より好ましくは30~50分である。プライマー組成物の硬化時間は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0073】
(施工時期)
防食被覆層の品質に悪影響を与える因子の1つとして、降雨期、高温期、低温期等の施工時期が挙げられる。特に低温期は、樹脂の硬化や性能等に悪影響を与えるため、施工時期としては好ましくない。しかし、本発明の防食被覆層は、低温期(例えば、0~15℃の温度の施工環境)でも高い品質を維持できるので、低温期においても防食被覆層を施工することができる。
【0074】
[コンクリート構造物の防食方法]
本発明のコンクリート構造物の防食方法は、型枠を組み立てる工程(A)、上記アルミナセメント組成物を型枠に打ち込んで素地調整層を形成する工程(B)、型枠を撤去する工程(C)、及び本発明の防食被覆材を塗布して素地調整層の上に防食被覆材層を形成する工程(D)を含む。これにより、耐硫酸性及び耐久性に優れた防食被覆層を容易に形成することができ、硫酸等で劣化したコンクリート構造物の補修を容易に実施することができる。
【0075】
(工程(A))
工程(A)では、型枠を組み立てる。型枠を使用することで、鉄筋の損傷程度が大きく、比較的大規模の修復が必要なコンクリート構造物に対して防食の施工を行うことができる。例えば、マンホール内壁面を防食する場合は、特開2015-71939号公報に記載されている円筒形型枠を用いることができる。
【0076】
(工程(B))
工程(B)では、上記アルミナセメント組成物を型枠に打ち込んで素地調整層を形成する。例えば、マンホール内壁面を防食する場合は、円筒形型枠とマンホール内壁面との隙間にアルミナセメント組成物を注入し、硬化させて素地調整層を形成する。アルミナセメント組成物の打ち込みは、材料分離をできる限り少なくし、また、打ち込み後の素地調整層に施工上の欠陥を形成しないように行う必要がある。アルミナセメント組成物の打ち込みの後、振動機を用いて、締固めを実施してもよい。これにより、気泡や空隙の少ない密実な素地調整層を形成することができる。また、アルミナセメント組成物を鉄筋の周囲及び型枠のすみずみにまで十分いきわたらせることができる。
【0077】
(工程(C))
工程(C)では、型枠を撤去する。型枠は、素地調整層がその自重及び施工中に加わる荷重を受けるのに必要な強度に達した後に取り外す必要がある。素地調整層が必要な強度に達した時期を判定するために、例えば、素地調整層と同じ状態で養生した標準供試体の圧縮強度を測定してもよい。型枠は、比較的荷重を受けない部分をまず取り外し、その後、残りの重要な部分を取り外すことが好ましい。例えば、型枠の水平部分は垂直部分よりも遅く取り外すことが好ましい。
【0078】
(工程(D))
工程(D)では、本発明の防食被覆材を塗布して素地調整層の上に防食被覆材層を形成する。防食被覆材層全体で、耐硫酸性を確保するために、均一な施工厚さの確保とピンホールがないことが重要である。このため、防食被覆材は、ローラー、金ゴテ、専用塗装機等を用いて、入念に塗布することが好ましい。本発明の防食被覆材は、低い粘度でも厚く塗布することができるので、塗工厚さを均一にできるとともにピンホールの発生を抑制することができる。塗布された防食被覆材は、必要な層厚が確保されている必要がある。本発明の防食被覆材は、厚く塗布することが容易であるので、防食被覆材の必要な層厚の確保が容易である。防食被覆材層の耐久性を確保するために、防食被覆材の塗工終了後、防食被覆材層が使用に耐える状態になるまで、防食被覆材層が損傷を受けることがないように、適切な養生を行うことが好ましい。防食被覆材層の養生期間は、例えば、1~7日である。
【0079】
(工程(E))
本発明のコンクリート構造物の防食方法は、(メタ)アクリレートモノマーを含むプライマー組成物を素地調整層に塗布してプライマーを形成する工程(E)をさらに含んでもよい。この場合、工程(D)では、防食被覆材をプライマーに塗布することになる。これにより、素地調整層と防食被覆材層との間にプライマーを形成することができる。プライマー組成物は、例えば、刷毛やローラー等を使用して素地調整層に塗布する。プライマー組成物は、乾燥した素地調整層に対して塗布することが好ましい。例えば、プライマー組成物を塗布する素地調整層の表面の表面含水率は7%以下であることが好ましい。
【0080】
(マンホール内のステップ)
マンホール内のステップ(足掛金具)は、硫化水素等の腐食性ガスによって腐食している可能性がある。このため、マンホールの内壁面の防食を施工するとき、マンホール内のステップを取り替えることが好ましい。このような観点から、本発明のコンクリート構造物の防食方法は、工程(A)の前に、古いステップを取り除く工程を含み、工程(D)の後に新しいステップを取り付ける工程を含んでもよい。古いステップは、例えば、切断して取り除くことができる。また、新しいステップは、例えば、ツインドリル工法協会が推奨するツインドリル工法により取り付けることができる。
【0081】
(腐食部分を除去する工程)
本発明のコンクリート構造物の防食方法は、工程(A)の前に、コンクリート構造物の腐食部分を除去する工程を含んでもよい。例えば、健全なコンクリート面が露出するまで、超高圧水処理により腐食部分を除去してもよい。超高圧水処理に用いる水の水圧は、例えば、150~200MPaである。健全なコンクリート面が露出したか否かは、例えば、フェノールフタレイン法により判定することができる。
【0082】
(鉄筋の処理)
本発明のコンクリート構造物の防食方法は、工程(A)の前に、コンクリート構造物の腐食部分を除去した後、コンクリート構造物中の鉄筋の処理を実施してもよい。例えば、鉄筋の処理では、サンドブラスト、電動工具等を用いて浮きさびを除去し、エアーブラストや高圧水により鉄筋を清掃した後、防せい剤を鉄筋に塗布してもよい。
【0083】
(断面の修復)
コンクリート構造物の腐食部分を除去した後に現れたコンクリートの断面にひび割れ等の欠陥部が存在すると、その欠陥部は防食被覆層の欠陥の原因となる。このため、工程(A)に先だってコンクリートの断面を修復することが好ましい。例えば、コンクリートのひび割れに沿って、グラインダーなどを使用してVカットする。そして、Vカットした部分にプライマーを塗布した後、シーリング材を充填してもよい。なお、防食被覆層施工後にシーリング材の充填を実施してもよい。
【0084】
[用途]
本発明は、下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術に対して好適である。本発明により、下水道コンクリート構造物の耐用年数を可能な限り、長くすることができる。下水道施設は、例えば、下水管、ポンプ場、処理場等から構成される。これらの施設の中で、本発明は、コンクリート構造物の補修が容易であるので、作業空間が狭い下水管のコンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術に対してより好適であり、下水管のマンホールの腐食抑制技術及び防食技術に対してさらに好適である。なお、下水管のマンホールにおける腐食環境は、一般的に、年間平均硫化水素ガス濃度が10ppm以上50ppm未満であり、コンクリート腐食が顕著に見られる腐食環境である(非特許文献1の47頁に記載の腐食環境の分類:II類)。この腐食環境は、放置した場合、数年(年間平均腐食速度で概ね4mm/年)でコンクリートが腐食し、腐食が鉄筋まで達すると考えられる環境である。しかし、本発明により、このような厳しい腐食環境においても下水道コンクリート構造物の耐用年数を可能な限り、長くすることができる。
【実施例0085】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
実施例及び比較例の防食被覆材に対して以下の評価を行った。
(粘度・チキソトロピーインデックス)
B型粘度計(ローターNo.5)を使用して、スピンドルの回転数20rpmの条件で、温度範囲0~35℃で、防食被覆材の粘度を測定した。
また、スピンドルの回転数2rpm及び回転数20rpmの条件下における粘度をそれぞれ測定した後、以下に示す式に基づいてチキソトロピーインデックスを計算した。
<チキソトロピーインデックスの計算式>
チキソトロピーインデックス=回転数2rpmの粘度÷回転数20rpmの粘度
なお、実施例及び比較例の防食被覆層のプライマーに使用したプライマー組成物の粘度も同様にして測定した。
【0087】
(硬化時間、可使時間)
防食被覆材のA剤25g及びB剤25gを計量し、混合して混合液を作製した後、熱電対を用いて混合液の液温を計測した。そして、液温が最高となる時間を硬化時間した。また、可使時間は以下の式に基づいて計算した。
<可使時間の計算式>
可使時間=硬化時間×0.6
なお、実施例及び比較例の防食被覆層のプライマーに使用したプライマー組成物の硬化時間及び可使時間も同様にして測定した。
【0088】
(引張せん断接着強さ)
防食被覆材の引張せん断接着強さはJIS K6850にしたがって測定した。具体的には、表面をサンドブラスト処理及びアセトンで脱脂したSS400鋼板(100mm×25mm×1.6mm厚)を2枚用意した。一方のSS400鋼板の長手方向の端から12.5mmまでの範囲に防食被覆材を塗布した。一方のSS400鋼板の防食被覆材を塗布した部分が、他方のSS400鋼板の長手方向の端から12.5mmまでの範囲の部分のみと重なるように2枚のSS400鋼板を貼り合わせて(接着面積3.125cm)、引張せん断接着強さ試験片を作製した。そして、引張せん断接着強さ試験片の防食被覆材を、温度23℃、湿度50%で1日養生した。なお、引張せん断接着強さ試験片における2枚のSS400鋼板の重なっていない側が引張試験機のつかみ部分となる。作製した試験片は、引張試験機を用いて、温度23℃、湿度50%の環境下、引張速度10mm/minの条件で引張せん断接着強さを測定した。
【0089】
(塗工性)
コンクリート平板上に140mm×195mm×20mmのモールド型枠を取り付け、アルミナセメント組成物を打設して試験体を作製した。型枠を取り外した後、直ちに試験体を垂直に立て、温度20℃、湿度60%で1日養生した。養生後の試験体の表面にプライマー組成物を塗布量150g/mで塗布し30分養生して、試験体の表面にプライマーを形成した。プライマーの表面に、防食被覆材を塗布量500g/mで塗布した。後、温度20℃、湿度60%で1日養生して防食被覆材を硬化させた。硬化した防食被覆材の外観を目視で評価し、ウェットゲージを使用して塗膜の膜厚を測定した。液ダレなく0.4mm以上の厚さ塗膜が形成でき、外観にしわ、ムラ及び剥がれがない場合は良好と判定した。一方、液ダレがある場合、0.4mm以上の厚さ塗膜が形成できなかった場合、又は外観にしわ、ムラ及び剥がれの少なくとも1つの欠陥がある場合は不良と判定した。
【0090】
実施例及び比較例の防食被覆層の素地調整層に使用したアルミナセメント組成物に対して以下の評価を行った。
(圧縮強度、空隙率)
JIS R5201にしたがってアルミナセメント組成物の圧縮強度を測定した。具体的には、アルミナセメント組成物を40mm×40mm×160mmのモールド型枠内に打設して試験体を作製した。翌日に脱型した後、試験体を20℃の水中に27日間養生し、材齢28日後の試験体の圧縮強度を測定した。また、ASTM-C-642にしたがって、試験体の空隙率を測定した。
【0091】
実施例及び比較例の防食被覆層に対して以下の評価を行った。
(平均粒子径)
ベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(LS-13 320)を用いて、疎水性シリカの粒度分布を測定し、累積頻度が50体積%の粒径を疎水性シリカの平均粒子径とした。
(ブレーン比表面積)
JIS R5201に従い、測定した。
(接着性)
JIS A7502-2:2015「下水道構造物のコンクリート腐食対策技術-第2部:防食設計標準 附属書L(規定)引張試験(シートライニング工法及びモルタルライニング工法)」にしたがって、防食被覆層の接着性を測定した。具体的には、コンクリート平板(300mm×300mm×60mm)上に、280mm×280mm×20mmのモールド型枠を取り付け、アルミナセメント組成物を打設して素地調整層を形成した。翌日に脱型した後、素地調整層を20℃の水中で27日間養生した。養生後の素地調整層の表面にプライマー組成物を塗布量150g/mで塗布し、30分養生して素地調整層の表面にプライマーを形成した。プライマーの表面に防食被覆材を塗布量500g/mで塗布し、温度25℃、湿度50%の環境下で1日養生し硬化させて、防食被覆材層を形成し、コンクリート平板の表面に防食被覆層を形成した。コンクリートカッターを使用して、防食被覆層の表面を40mm×40mmの大きさでコンクリート平板に達するまで切り込みを入れて引張接着強さ試験用試験片を作製した。接着剤(デンカハードロックII アクリル系樹脂モルタルダイナN、デンカ株式会社製)を用いて、防食被覆層の表面に上部引張り用鋼製治具を接着した。そして、建研式接着試験機を用いて、温度23℃、湿度50%の環境下、最大引張荷重を測定し、以下の式に基づいて引張接着強さを計算した。また、試験片の破断面を観察して、破断箇所を特定した。
<引張接着強さ>
σ=T/1600
σ:引張接着強さ(N/mm
T:最大引張荷重(N)
【0092】
(耐硫酸性試験)
JIS A7502の「防食被覆層の浸せき試験 c)モルタルライニング工法の場合」に従って、耐硫酸性試験を実施した。具体的には、75mmφ×150mmのモールド型枠にアルミナセメント組成物を打設し、翌日に脱型した後、20℃の水中で27日間養生してアルミナセメント硬化体を作製した。アルミナセメント硬化体の全面にプライマー組成物を塗布量100g/mで塗布し、30分養生してアルミナセメント硬化体の表面にプライマーを形成した。プライマーの表面に防食被覆材を塗布量500g/mで塗布し、温度25℃、湿度50%の環境下で1日養生して硬化させて、プライマーの表面に防食被覆材層を形成して耐硫酸性試験用の試験体を作製した。作製した試験体を試験液(5%硫酸水溶液)に浸漬した。試験液は最初の4週間は7日毎に、その後は4週間毎に全量入れ替えた。浸漬112日後に試験体を取り出した。そして、試験体を水洗いした後、試験片の外観を目視で評価し、しわ、ムラ、剥がれ及び割れがない場合は良好と判定した。一方、しわ、ムラ、剥がれ及び割れの少なくとも1種の欠陥がある場合は不良と判定した。
【0093】
(硫酸浸透深さ)
JIS A7502の「防食被覆層の硫酸浸透深さの測定方法(モルタルライニング工法)」にしたがって、硫酸浸透深さを測定した。具体的には、上述の耐硫酸性試験後の試験体を、円柱の軸方向に対して垂直な方向に、半分に切断した。その円形の切断面にフェノールフタレイン1%溶液を噴霧した。試験片の赤く発色した部分の径の方向の長さをノギスで5箇所測定し、その平均値を初期値(75mm)から差し引いた値の1/2を算出し硫酸浸透深さとした。なお、試験体の硫酸が浸透した領域では、試験体のpH値が低下するので、硫酸が浸透した領域はフェノールフタレインで呈色しない。
【0094】
以下のようにして、防食被覆材、アルミナセメント組成物及びプライマー組成物を作製した。
(防食被覆材)
表1及び表2に示す使用材料を用いて防食被覆材を調製し、各物性を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0095】
(アルミナセメント組成物)
表3に示す使用材料を用いてアルミナセメント組成物を調製し、各物性を測定した。結果を表3に示す。
【0096】
(プライマー組成物)
表4に示す使用材料を用いてプライマー組成物を調製し、各物性を測定した。結果を表4に示す。
【0097】
(防食被覆層)
上述の防食被覆材、アルミナセメント組成物及びプライマー組成物を用いて防食被覆層を形成し、各物性を測定した。結果を表5に示す。
【0098】
(使用材料)
((メタ)アクリレートモノマー)
M-241:ビスフェノールA型EO4変性ジメタクリレート:一般式(5)中、R及びR’はメチル基であり、R及びR’はエチレン基であり、m+nはおよそ4である。:Miwon Specialty Chemical社製
PE210:ビスフェノールAグリシジルエーテルアクリル酸付加物:一般式(5)中、R及びR’は水素であり、R及びR’は2-水酸基を有するn-プロピレン基であり、m及びnは1である。:Miwon Specialty Chemical社製
ファンクリル FA512M:ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、一般式(6)中、Rはメチル基であり、Rはエチレン基であり、pはおよそ1である。:日立化成株式会社製
2HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、一般式(7)中、Rはメチル基であり、Rは水素である。:三菱ケミカル株式会社製
(シリカ)
アエロジルR-972:ジメチルジクロロシラン(一般式(1)中、Rはメチル基であり、xは2であり、yは2である。)で疎水化されたシリカ:平均粒子径16nm、エボニック ジャパン株式会社製
アエロジルR-805:オクチルシラン(一般式(1)中、Rはオクチル基(炭素数8)であり、xは1であり、yは0である。)で疎水化されたシリカ:平均粒子径12nm、エボニック ジャパン株式会社製
アエロジルR-812:ヘキサメチルジシラザン(一般式(2)中、Rはメチル基であり、Rは水素であり、zは3である。)で疎水化されたシリカ:平均粒子径7nm、エボニック ジャパン株式会社製
アエロジルRX-50:ヘキサメチルジシラザン(一般式(2)中、Rはメチル基であり、Rは水素であり、zは3である。)で疎水化されたシリカ:平均粒子径40nm、エボニック ジャパン株式会社製
FB-5D:溶融シリカ、平均粒子径5μm、デンカ株式会社製
アエロジル380:親水性フュームドシリカ、平均粒子径7nm、エボニック ジャパン株式会社製
(無機系チクソトロピック剤)
エスベンWX:モンモリロナイトの結晶表面に4級アンモニウムカチオンを変性させた有機ベントナイト、株式会社ホージュン製
(重合開始剤)
カヤクメンH:クメンハイドロパーオキサイド、化薬ヌーリオン株式会社製
(分解促進剤)
Co-12E:オクチル酸コバルト、東京ファインケミカル株式会社製
(シランカップリング剤)
SILQUEST A-174:γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製
(硬化促進剤)
PT-2HE:N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、モーリン化学工業株式会社製
(アルミナセメント)
アルミナセメント1号:アルミナセメント、ブレーン比表面積4800cm/g、デンカ株式会社製
(ポルトランドセメント)
普通セメント:ポルトランドセメント、デンカ株式会社製
(ポゾラン物質)
高炉スラグ:高炉水砕スラグ、市販品、ブレーン比表面積6100cm/g
シリカフューム、市販品
(その他)
セッコウ(石膏):市販品
消石灰、市販品
珪砂、市販品
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
(メタ)アクリレートモノマー及び平均粒子径が1~100nmである疎水性シリカを含む実施例1~5の防食被覆材は、塗工性が良好であった。一方、シリカが疎水化されておらず、シリカの平均粒子径が100nmよりも大きかった比較例1の防食被覆材は、厚く塗布することができなかった。また、シリカが疎水化されていなかった比較例2の防食被覆材は、シリカを均一に分散させることができず、ムラが生じてしまった。さらに、疎水性シリカを含まない比較例3の防食被覆材は、液ダレが生じてしまい、厚く塗布することができなかった。また、疎水性シリカの代わりに無機系チクソトロピック剤の一種である有機ベントナイトを配合した比較例4の防食被覆材は、増粘及びチクソトロピー性付与の効果が小さく、液ダレが生じてしまい、防食被覆材を厚く塗布することができなかった。
実施例6~11のプライマー組成物は液ダレなく100μmの厚さに塗布できた。
【0105】
アルミナセメント、ポゾラン物質及び骨材を含有するアルミナセメント組成物の硬化体からなる素地調整層と、素地調整層上の本発明の防食被覆材の硬化体からなる防食被覆材層とを含む実施例6~11の防食被覆層は、耐硫酸性が優れていることがわかった。また、優れた耐硫酸性に加えて、引張接着強さ(引張接着強度)も高いので、実施例6~11の防食被覆層は、耐久性が優れていることがわかる。さらに、実施例6の防食被覆層と実施例10の防食被覆層とを比較することにより、プライマーを備えると、耐硫酸性が改善されるので、耐久性がさらに改善されることがわかる。また、実施例7の防食被覆層より、本発明の防食被覆層は低温期においても、優れた防食被覆層を施工できることがわかる。一方、防食被覆材層が本発明の防食被覆材の硬化体からなる防食被覆材層ではない比較例5~8の防食被覆層は、耐硫酸性が悪かった。また、防食被覆材層を含まない比較例9及び10の防食被覆層は耐硫酸性が悪かった。また、比較例5~8の防食被覆層は、引張接着強さは高いものの、耐硫酸性が劣るので、比較例5~8の防食被覆層は耐久性が悪いことがわかる。