(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015993
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】遮熱壁及び遮熱壁の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/027 20190101AFI20240130BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240130BHJP
F02F 3/10 20060101ALI20240130BHJP
F02F 1/00 20060101ALI20240130BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20240130BHJP
F02B 77/02 20060101ALI20240130BHJP
F02B 77/11 20060101ALI20240130BHJP
F01L 3/02 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B32B7/027
B32B7/023
F02F3/10 B
F02F1/00 G
F02F1/24 M
F02B77/02
F02B77/11 A
F01L3/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118231
(22)【出願日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2022117768
(32)【優先日】2022-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 海
(72)【発明者】
【氏名】角島 信司
(72)【発明者】
【氏名】重永 勉
【テーマコード(参考)】
3G024
4F100
【Fターム(参考)】
3G024AA02
3G024AA22
3G024BA02
3G024FA04
3G024FA10
3G024GA18
3G024HA10
3G024HA11
4F100AK01B
4F100AK52B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CC00B
4F100DD07A
4F100DE01B
4F100EH46B
4F100EJ42B
4F100GB32
4F100JD10
4F100JD10B
4F100JJ02
4F100JK12
4F100JK14A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】遮熱材の優れた遮熱性能と高い耐久性能とを両立できる遮熱材用塗料の製造方法、混合粒子、及び遮熱材の製造方法をもたらす。
【解決手段】基材と、該基材の凹凸表面に塗布した遮熱材と、を備える遮熱層であって、遮熱材は、中空粒子及び樹脂バインダを含み、凹凸表面は、展開面積率Sdrが19%以上187%以下であり、凹凸の最大高低差Lが10μm以上100μm以下であり、最大高低差LがL/2の位置における前記凹凸表面の凹部の孔幅dが10μm以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の凹凸表面に塗布した遮熱層と、を備える遮熱壁であって、
前記遮熱層は、中空粒子及び樹脂バインダを含み、
前記凹凸表面は、
展開面積率Sdrが19%以上187%以下であり、
凹凸の最大高低差Lが10μm以上100μm以下であり、
前記最大高低差LがL/2の位置における前記凹凸表面の凹部の孔幅dが10μm以上である
ことを特徴とする遮熱壁。
【請求項2】
請求項1において、
前記中空粒子の平均粒径が30μm以下である
ことを特徴とする遮熱壁。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記遮熱層は、前記中空粒子の配合量が30体積%以上60体積%以下である
ことを特徴とする遮熱壁。
【請求項4】
請求項1において、
前記遮熱層は、ナノ粒子を含む
ことを特徴とする遮熱壁。
【請求項5】
請求項4において、
前記遮熱層は、
前記中空粒子の配合量が30体積%以上60体積%以下であり、
前記ナノ粒子の配合量が10体積%以上55体積%以下であり、
残部が前記樹脂バインダである
ことを特徴とする遮熱壁。
【請求項6】
凹凸表面を有する基材と、中空粒子及び樹脂バインダを含む遮熱層と、を含む遮熱壁を製造する方法であって、
前記樹脂バインダの前駆体溶液を準備する準備工程と、
前記中空粒子と前記前駆体溶液とを湿式混合させて塗料を得る湿式混合工程と、
前記基材の前記凹凸表面へ前記塗料を塗布して成形物を得る成形工程と、
前記成形物を焼成して前記遮熱層を得る焼成工程と、を備え、
前記凹凸表面は、
展開面積率Sdrが19%以上187%以下であり、
凹凸の最大高低差Lが10μm以上100μm以下であり、
前記最大高低差LのL/2の位置における前記凹凸表面の凹部の孔幅dが10μm以上である
ことを特徴とする遮熱壁の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遮熱壁及び遮熱壁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機器や民生機器では、エネルギー効率を高めるために、従来各種の遮熱材が使用され、遮熱材の研究開発も行なわれている。例えば、自動車においては、エンジンの熱効率を高めるために、エンジンの燃焼室を形成する壁面に設ける遮熱層の研究開発が進められている。また、エンジンの排気系等から廃熱を回収することも自動車の重要なニーズの一つであり、そのために効率の良い遮熱材が求められる。
【0003】
そのようなエンジン等に用いられる遮熱材の一例が特許文献1に記載されている。この遮熱材は、多数の中空粒子とシリコーン系樹脂バインダと無機ナノ粒子とを含む。特許文献1には、反応性シリコーン系樹脂溶液にナノ粒子を添加及び撹拌し、続いて中空粒子を添加及び撹拌して得られた混合物を、エンジンの燃焼室を形成する基材に塗布した後、焼成して遮熱層を製造することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、中空粒子とバインダとの混合液をスプレー法により塗布し、焼成することにより、燃焼室を形成する構造体部品の少なくとも一部の、燃焼室内に臨む壁面上に遮熱膜を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/213637号
【特許文献2】特開2013-177693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基材表面の遮熱層は、高熱に晒されると収縮する。その収縮変形は基材によって拘束されるため、遮熱層内部に引張応力が発生する。その結果、遮熱層にクラックを生ずることがある。また、エンジンの燃焼室壁面に設けられる遮熱層にあっては、高圧が加わり、さらには圧力衝撃波が加わることもある。その結果、遮熱層が基材表面から剥離することがある。
【0007】
一般的に、樹脂と基材との剥離を抑制する場合、いわゆるアンカー効果による機械的接着力を向上させるために、樹脂の塗布面となる基材表面を粗面化処理する方法が知られている。粗面化処理により基材界面の展開面積率Sdrが大きくなるほど、樹脂と基材との密着性は高まり、界面剥離が生じ難く、その結果として破壊靭性値が高くなる。しかしながら、エンジンの燃焼室等の過酷な環境に晒される遮熱材においては、低熱容量化及び低熱伝導化による遮熱性能を高めるために中空粒子が配合される。そのため、アンカー効果を狙って基材表面に微細な凹凸を形成しても、凹部の溝の中に中空粒子が入り込まず樹脂のみが入り込む場合、基材表面において中空粒子が凝集するおそれがある。中空粒子が凝集すると、ボイドやクラックの原因となり、耐久性を低下させてしまう。
【0008】
そこで本開示では、優れた密着性及び耐久性を両立できる遮熱壁及び遮熱壁の製造方法をもたらすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、ここに開示する遮熱壁の一態様は、
基材と、該基材の凹凸表面に塗布した遮熱層と、を備える遮熱壁であって、
前記遮熱層は、中空粒子及び樹脂バインダを含み、
前記凹凸表面は、
展開面積率Sdrが19%以上187%以下であり、
凹凸の最大高低差Lが10μm以上100μm以下であり、
前記最大高低差LがL/2の位置における前記凹凸表面の凹部の孔幅dが10μm以上であることを特徴とする。
【0010】
本構成では、基材の凹凸表面の、展開面積率Sdr、凹凸の最大高低差L及びL/2の位置における前記凹凸表面の凹部の孔幅dの3つの要件が満たされたとき、優れた密着性及び耐久性を両立する遮熱壁を提供することが可能となる。
【0011】
展開面積率Sdrが19%よりも小さい場合、十分なアンカー効果が得られず、基材及び遮熱層の密着性不良となる。展開面積率Sdrが187%よりも大きい場合、中空粒子が凹凸表面の凹部内に入り込めず、凹部内に樹脂のみが流れ込む。その結果、凹凸表面上に樹脂比率が低く中空粒子比率が高い領域が形成され、中空粒子が凝集することにより遮熱層の耐久性が低下する。
【0012】
最大高低差Lが10μmよりも小さい場合、十分なアンカー効果が得られず、基材及び遮熱層の密着性不良となる。最大高低差Lが100μmよりも大きい場合、基材自身の表面の耐久性が低下する。最大高低差Lは、好ましくは10μm以上90μm以下である。
【0013】
孔幅dが10μmよりも小さい場合、中空粒子が凹凸表面の凹部内に入り込めず、凹部内に樹脂のみが流れ込む。その結果、凹凸表面上に樹脂比率が低く中空粒子比率が高い領域が形成され、中空粒子が凝集することにより遮熱層の耐久性が低下する。孔幅dは、好ましくは16μm以上45μm以下である。
【0014】
前記中空粒子の平均粒径は、30μm以下であることが好ましい。より好ましくは、その平均粒径は、10μm以下である。この平均粒径の下限は、例えば1μmとすることができる。
【0015】
本構成によれば、例えば300℃以上等の高温に晒されるような環境で使用される遮熱材において、優れた遮熱性能を確保できる。なお、本明細書において、「平均粒径」とは「個数平均粒径」のことをいう。
【0016】
前記遮熱層は、前記中空粒子の配合量が30体積%以上60体積%以下であることが好ましい。より好ましくは、前記中空粒子の配合量が40体積%以上55体積%以下である。
【0017】
前記遮熱層は、ナノ粒子を含むことが好ましい。
【0018】
前記遮熱層は、前記中空粒子の配合量が30体積%以上60体積%以下であり、前記ナノ粒子の配合量が10体積%以上55体積%以下であり、残部が前記樹脂バインダであることが好ましい。
【0019】
また、凹凸表面を有する基材と、中空粒子及び樹脂バインダを含む遮熱層と、を含む遮熱壁を製造する方法の一態様は、
前記樹脂バインダの前駆体溶液を準備する準備工程と、
前記中空粒子と前記前駆体溶液とを湿式混合させて塗料を得る湿式混合工程と、
前記基材の前記凹凸表面へ前記塗料を塗布して成形物を得る成形工程と、
前記成形物を焼成して前記遮熱層を得る焼成工程と、を備え、
前記凹凸表面は、
展開面積率Sdrが19%以上187%以下であり、
凹凸の最大高低差Lが10μm以上100μm以下であり、
前記最大高低差LのL/2の位置における前記凹凸表面の凹部の孔幅dが10μm以上であることを特徴とする。
【0020】
本構成では、優れた密着性及び耐久性を両立する遮熱壁を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように、本開示によると、優れた密着性及び耐久性を両立する遮熱壁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】上記エンジンのピストン頂面の遮熱層を示す断面図。
【
図4】一実施形態に係る遮熱材の製造方法を説明するためのフロー図。
【
図5】一実施形態に係る遮熱材用塗料の調製工程の手順を説明するためのフロー図。
【
図6】実施例1に用いた基材の断面の金属顕微鏡像。
【
図7】比較例1に用いた基材の断面の金属顕微鏡像。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0024】
<遮熱材、遮熱層及び遮熱壁について>
遮熱材は、遮熱対象に応じて、板状、シート状、その他の適宜の形状にすることができる。遮熱層は、遮熱材が遮熱対象である基材の表面に層状に設けられたものである。遮熱壁は、基材及び遮熱層を含むものである。以下、遮熱壁に含まれる遮熱層及び基材の一例について説明する。
【0025】
図1において、1は遮熱層が形成される基材としての、エンジンのアルミニウム合金製ピストン、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はシリンダヘッド3の吸気ポート5を開閉する吸気バルブ、6は排気ポート7を開閉する排気バルブ、8は燃料噴射弁である。エンジンの燃焼室は、ピストン1の頂面、シリンダブロック2、シリンダヘッド3、吸排気バルブ4,6の傘部前面(燃焼室内に臨む面)で形成される。ピストン1の頂面には、キャビティ9が形成されている。なお、点火プラグの図示は省略している。
【0026】
図2に示すように、ピストン1の頂面に遮熱層11(遮熱材)が形成されている。
図3に示すように、遮熱層11は、無機酸化物又はセラミックスよりなる多数の中空粒子12と、ナノ粒子14と、樹脂バインダ13と、を含む。樹脂バインダ13には中空粒子12及びナノ粒子14が分散している(
図3では、ナノ粒子14を点々で表している。)。すなわち、樹脂バインダ13は、中空粒子12及びナノ粒子14をピストン1に保持すると共にこれらの粒子間を埋めて当該遮熱層11の母材(マトリックス)を形成している。
【0027】
<遮熱層>
遮熱層11の厚さ(以下、「膜厚」という。)は、例えば、20μm以上150μm以下、好ましくは25μm以上125μm以下、より好ましくは25μm以上100μm以下、さらに好ましくは30μm以上100μm以下、特に好ましくは40μm以上100μm以下となるようにする。中空粒子12としては、遮熱層11の膜厚よりも小さいμmオーダの粒径のものを用いる。その平均粒径は、例えば30μm以下であることが好ましい。例えば、平均粒径10μm以下の中空粒子を好ましく採用することができる。この平均粒径の下限は、例えば1μmとすることができる。
【0028】
但し、上記数値範囲は、エンジンの燃焼室を形成する面に遮熱層11を設ける場合において優れた遮熱性能を確保する観点において、好ましい範囲であって、限定的なものではない。また、燃焼室を形成する面以外の機器等に遮熱層を設ける場合は、中空粒子12の粒径及び遮熱層11の膜厚は、さらに小さく、あるいは大きくすることもできる。
【0029】
中空粒子12としては、無機中空粒子を採用すること、例えば、ガラスバルーン、ガラスバブル、フライアッシュバルーン、シラスバルーン、シリカバルーン、アルミノシリケートバルーン等のSi系酸化物成分(例えば、シリカ)又はAl系酸化物成分(例えば、アルミナ)を含有するセラミック系中空粒子を採用することが好ましい。中空粒子の中空率は60体積%以上であること、さらには70体積%以上であることが好ましい。
【0030】
中空粒子12の含有量(焼成後の遮熱層11に占める中空粒子12の割合である。以下、同じ。)は、遮熱層に要求される遮熱性能等に応じて調節することができる。中空粒子12の含有量は、例えば、30体積%以上60体積%以下とすることができる。その含有量は、40体積%以上55体積%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
中空粒子12の平均粒径は、限定する意図ではなく、遮熱材の用途等に応じて変更可能であるが、遮熱材の優れた遮熱性能を確保する観点から、例えば30μm以下とすることができ、10μm以下であることが好ましい。この平均粒径の下限値については、限定する意図ではないが、例えば1μm以上とすることができる。
【0032】
中空粒子12の表面は、疎水化処理又は親水化処理されていてもよい。疎水化処理又は親水化処理としては、特に限定されるものではなく、有機化合物による化学修飾処理、フッ素プラズマによる表面改質処理等の公知の方法を採用することができる。
【0033】
遮熱層11は、ナノ粒子14を含有してもよい。ナノ粒子14としては、ジルコニア、アルミナ、シリカ、チタニア等の無機化合物よりなる無機ナノ粒子、Ti、Zr、Al等の金属ナノ粒子等を採用することができる。ナノ粒子は中空であっても中実であってもよい。
【0034】
なお、ナノ粒子14は、無機ナノ粒子であることが好ましい。特に、ナノ粒子14として、シリカナノ粒子、アルミナナノ粒子及びジルコニアナノ粒子から選択される少なくとも一種を採用することが好ましい。樹脂バインダ13の熱劣化は、樹脂バインダ中に酸素ラジカルが生成し、これが拡散することによって生ずると考えられている。これに対して、無機ナノ粒子は、上記酸素ラジカルの拡散速度を低下させることにより、上記熱劣化を抑制する。また、無機ナノ粒子が樹脂バインダの分子運動を抑えることによってその熱劣化を抑制する。
【0035】
ナノ粒子14の割合(焼成後の樹脂バインダ13とナノ粒子14の総量に占めるナノ粒子14の割合である。以下、同じ。)は10体積%以上55体積%以下であることが好ましい。上記のような熱劣化の抑制効果は、樹脂バインダと無機ナノ粒子の総量に占める無機ナノ粒子の割合を10体積%以上とすることによって顕著になる。その割合は20体積%以上とすることがさらに好ましい。ナノ粒子14の割合が多くなるほど、複合則による遮熱材の強度向上に有利になる。加えて、ナノ粒子14の高配合に伴って、遮熱材の熱劣化の要因である樹脂バインダの含有量が相対的に低下することにより、遮熱材の耐熱性向上に有利になる。そして、ナノ粒子14の高配合による樹脂バインダの熱劣化抑制と中空粒子の断熱効果により、遮熱材の優れた遮熱性能を確保しつつ、その耐久性能を高めることができる。但し、ナノ粒子14の割合が過度に高くなると、遮熱材の成形性が低下するため、その上限は55体積%とすることが好ましい。
【0036】
ナノ粒子14の平均粒径は、限定する意図ではなく、遮熱材の用途等に応じて変更可能であるが、例えば中空粒子12の平均粒径の1/1000以上1/10以下程度、好ましくは1/100以上1/10以下とすることができる。ナノ粒子14の平均粒径は、具体的には例えば3μm以下とすることができ、500nm以下であることが好ましく、1nm以上200nm以下であることがさらに好ましく、さらには、1nm以上120nm以下であることが好ましい。
【0037】
ナノ粒子14の表面は疎水化処理又は親水化処理されていてもよく、疎水化処理されていることが好ましい。疎水化処理又は親水化処理としては、特に限定されるものではなく、有機化合物による化学修飾処理、フッ素プラズマによる表面改質処理等の公知の方法を採用することができる。樹脂バインダとしてシリコーン系樹脂バインダ、ナノ粒子14としてシリカナノ粒子を採用する場合、ナノ粒子14は、その表面がフェニル基で修飾処理された修飾シリカナノ粒子であることが好ましい。これにより、シリカナノ粒子の疎水性が高くなるため、シリコーン系樹脂バインダにおけるシリカナノ粒子の分散性が高くなり、遮熱材の熱劣化抑制に有利になる。特に、フェニル基は、シリコーン系樹脂との相性が良いため、シリカナノ粒子の分散に有利になる。また、フェニル基自体の耐熱性も高く、上述の如くフェニル基修飾によって、シリコーン系樹脂にクラックの起点となる欠陥(ボイドなど)ができにくくなる。そうして、遮熱材の熱劣化を効果的に抑制できる。
【0038】
樹脂バインダ13は、分岐度の高い3次元ポリマーからなり、例えばシリコーン系樹脂バインダ、エポキシ系樹脂バインダ等であり、優れた耐熱性を有するシリコーン系樹脂バインダであることが好ましい。シリコーン系樹脂バインダの具体例としては、メチルシリコーン系樹脂バインダ、メチルフェニルシリコーン系樹脂バインダ等が挙げられ、より具体的には例えばポリアルキルフェニルシロキサンが挙げられる。
【0039】
遮熱層11が、中空粒子12と、ナノ粒子14と、樹脂バインダ13と、よりなる場合には、樹脂バインダ13の含有量(焼成後の遮熱層11に占める樹脂バインダ13の割合である。以下、同じ。)は、中空粒子12及びナノ粒子14以外の残部である。樹脂バインダ13には、例えば、後述する樹脂バインダ13の原料に含まれる成分由来の残留成分等が不可避成分として含まれ得る。例えば、遮熱層11は、中空粒子12の配合量が30体積%以上60体積%以下、ナノ粒子14の配合量が10体積%以上55体積%以下、及び樹脂バインダ13がその残部を占める組成が好ましい。
【0040】
<基材>
図2では、基材をピストン1とし、ピストン1の頂面に遮熱層11を形成した例を示した。ピストン1に限らず、エンジンの燃焼室を形成する部材を基材とすることができる。例えば、シリンダブロック2、シリンダヘッド3、吸気バルブ4、排気バルブ6等も基材とすることができる。
【0041】
遮熱層は、上記ピストン1の頂面に限らず、例えば、シリンダブロック2の燃焼室内に臨む吸気側側壁及び排気側側壁、シリンダヘッド3の燃焼室内に臨む壁面、吸気バルブ4及び排気バルブ6の燃焼室内に臨む傘部前面に形成してもよい。
【0042】
図3に示すように、遮熱層11が形成される基材の表面は凹凸面である。
【0043】
凹凸表面は、展開面積率Sdr(界面の展開面積率;Developed Interfacial Area Ratio)が19%以上187%以下であることが好ましい。展開面積率Sdrは、表面の粗度の指標である。展開面積率Sdrは、市販のレーザ顕微鏡で測定することができる。展開面積率Sdrが19%よりも小さい場合、十分なアンカー効果が得られず、基材及び遮熱層の密着性不良となる。展開面積率Sdrが187%よりも大きい場合、中空粒子が凹凸表面の凹部内に入り込めず、凹部内に樹脂のみが流れ込む。その結果、凹凸表面上に樹脂比率が低く中空粒子比率が高い領域が形成され、中空粒子が凝集することにより遮熱層の耐久性が低下する。なお、上記展開面積率Sdrの好ましい値は、本実施形態において実施された下記条件にて測定されたものである。
【0044】
(装置)
レーザーテック社製 OPTELICS HYBRID L7
(使用レンズ)
ニコン社製 100倍アポクロマート(高分解能)対物レンズ,CF IC EPI Plan Apo 100X,NA(開口数)0.95,WD(作動距離)0.32mm
(測定条件)
光源 キセノンランプ,光源波長 546nm,White,CCDモード Mix,Z分解能 0.2μm,計測アルゴリズム Search Peak,ノイズ除去 なし
(粗さ解析条件)
解析範囲 250μm,Sフィルタサイズ 0.0025mm,Lフィルタサイズ 5mm
測定誤差を防止する観点から、展開面積率Sdrは同様の条件にて測定されることが好ましい。
【0045】
凹凸表面は、溝部の最深部の深さ、すなわち、凹凸の最大高低差Lが10μm以上100μm以下であることが好ましい。最大高低差Lは、より好ましくは10μm以上90μm以下である。最大高低差Lが10μmよりも小さい場合、十分なアンカー効果が得られず、基材及び遮熱層の密着性不良となる。最大高低差Lが100μmよりも大きい場合、基材自身の表面の耐久性が低下する。
【0046】
凹凸表面は、最大高低差LがL/2の位置における凹凸表面の凹部の孔幅dが10μm以上であることが好ましい。孔幅dは、より好ましくは16μm以上45μm以下である。
【0047】
最大高低差L及びL/2の位置における凹凸表面の凹部の孔幅dは、各種顕微鏡を用い、凹凸表面を任意の画像解析ソフトウェアを用いることで解析することができる。例えば、凹凸面の厚み方向と略平行な断面を露出させ、金属顕微鏡等で観察し、画像解析ソフトウェアで解析することにより求めることができる。画像解析ソフトウェアは、例えば、ImageJ(米国国立衛生研究所製)を用いることができる。
【0048】
展開面積率Sdrが19%以上187%以下であり、凹凸の最大高低差Lが10μm以上100μm以下上記範囲内であり、前記最大高低差LがL/2の位置における前記凹凸表面の凹部の孔幅dが10μm以上である基材の凹凸面に形成された遮熱層は、基材との密着性に優れ、かつ、高い耐久性を有する。
【0049】
上記要件を満たす凹凸表面は、既存の様々な方法による粗面化により形成することができる。例えば、基材は、サンドブラスト処理、エッチング処理、レーザ光の照射による処理、3価クロム化成処理やリン酸塩化成処理等の化成処理を施すことにより、表面に凹凸を形成することができる。
【0050】
<遮熱材の製造>
図4に示すように、遮熱材は以下に述べる方法によって製造することができる。すなわち、この製造方法は、遮熱材を形成するための塗料(遮熱材用塗料)の調製工程S1と、当該塗料を用いて成形物を得る成形工程S2と、得られた成形物を焼成して遮熱材を得る焼成工程S3と、を備える。
【0051】
≪塗料の調製工程≫
図4及び
図5に示すように、塗料の調製工程S1(遮熱材用塗料の製造方法)は、樹脂バインダの前駆体溶液25を準備する準備工程S11と、中空粒子12とナノ粒子14とを乾式混合させて混合粒子16を得る乾式混合工程S12と、混合粒子16と前駆体溶液25とを湿式混合させて塗料31を得る湿式混合工程S13と、を備える。また、塗料の調製工程S1は、湿式混合工程S13後に、必要に応じて塗料31を希釈用溶媒により希釈する希釈工程S14を備えてもよい。なお、希釈工程S14は任意の工程であり、湿式混合工程S13で得られた塗料31をそのまま成形工程S2に用いてもよい。
【0052】
[準備工程]
準備工程S11では、例えば、樹脂バインダ13の原料21に溶媒22を添加することによって、前駆体溶液25を得る。
【0053】
原料21は、例えばベースポリマーである硬化前の樹脂成分、架橋剤、充填剤、促進剤、溶剤等を含む溶液である。原料21は、疎水性であってもよいし、親水性であってもよい。樹脂バインダ13がシリコーン系樹脂バインダの場合には、原料21は、具体的には例えば反応性シリコーン系樹脂溶液である。
【0054】
原料21としての反応性シリコーン系樹脂溶液は、樹脂成分として、反応性シリコーン系樹脂を含む。反応性シリコーン系樹脂溶液は、一液付加硬化型であっても脱水縮合硬化型であってもよく、好ましくは一液付加硬化型である。
【0055】
溶媒22は、原料21との相溶性が高い溶媒が好ましい。原料21が疎水性の場合には、溶媒22も疎水性であることが好ましく、原料21が親水性の場合には、溶媒22も親水性であることが好ましい。疎水性の溶媒22としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。特に、原料21として反応性シリコーン系樹脂を使用する場合は、反応性シリコーン系樹脂を良く溶解させるトルエンを使用することが好ましい。また、親水性の溶媒22としては、例えば、アルコール等が挙げられる。
【0056】
溶媒22の配合量は、後述する湿式混合工程S13で得られる塗料31の粘度に応じて調整すればよい。
【0057】
なお、原料21は溶剤等の液体を含む溶液であるから、原料21の粘度が、後述する湿式混合工程S13で得られる塗料31の粘度を考慮して、十分適切な粘度である場合は、溶媒22を添加しなくてもよい。すなわち、この場合には、原料21をそのまま前駆体溶液25とすればよい。
【0058】
具体的には、前駆体溶液25に含まれる固形分(中空粒子12、ナノ粒子14及び樹脂成分)に対する液体成分(原料21に含まれる溶剤等の液体及び溶媒22)の比率は、限定する意図ではないが、例えば0.5体積%以上2000体積%以下、好ましくは1体積%以上1500体積%以下、より好ましくは5体積%以上1000体積%以下とすることができる。
【0059】
また、原料21に溶媒22を添加する場合は、溶媒22の配合量は、原料21に含まれる溶剤等の液体の含有量に応じて適宜調整される。この場合、溶媒22の配合量、すなわち前駆体溶液25に含まれる固形分に対する溶媒22の配合量は、限定する意図ではないが、例えば1000体積%以下、好ましくは5体積%以上500体積%以下、より好ましくは8体積%以上400体積%以下、特に好ましくは10体積%以上354体積%以下とすることができる。
【0060】
上記構成により、湿式混合工程S13における塗料の粘度を後述する適切な範囲に調整できる。
【0061】
[乾式混合工程]
乾式混合工程では、中空粒子12とナノ粒子14とを予め乾式混合させて混合粒子16としておく。
【0062】
本工程により、中空粒子12の表面にナノ粒子14が付着し、中空粒子12間にナノ粒子14が介在した状態が得られる。すなわち、乾式混合により、中空粒子12及びナノ粒子14の各々の凝集状態がある程度解消され、次の湿式混合工程S13における中空粒子12及びナノ粒子14の分散性が向上する。また、中空粒子12は、単独では嵩高く、軽いため宙に舞いやすいが、混合粒子16とすることにより、中空粒子12の嵩が減るとともに、宙に舞う現象も抑制され、ハンドリング性が著しく向上する。
【0063】
乾式混合の方法としては、特に限定されるものではなく、例えばハンドシェイキング、ミキサによる撹拌等、公知の方法を採用することができる。
【0064】
[湿式混合工程]
湿式混合工程S13では、前駆体溶液25に、混合粒子16を添加し、攪拌することにより、塗料31を調製する。
【0065】
塗料を製造する工程、特に湿式混合工程において、中空粒子12及びナノ粒子14の分散性が低いと、これらの粒子の凝集箇所が遮熱材の欠陥(ボイド)となる。当該ボイドは、上述のクラックの起点となり得るから、遮熱材の高い耐久性能を確保する観点から、本工程における中空粒子12及びナノ粒子14の分散性を向上させることが重要である。
【0066】
一方で、中空粒子12は、上述のごとく、無機酸化物又はセラミックからなる中空の粒子であるから、脆く破損しやすい。遮熱材の遮熱性能は、破損していない健全な中空粒子12の含有量が多いほど高まる。従って、遮熱材の優れた遮熱性能を確保する観点から、塗料を製造する工程、特に湿式混合工程において、中空粒子12の破損を抑制することが望ましい。
【0067】
本工程において得られる塗料の粘度は、上述のごとく、例えば、準備工程S11で原料21に添加する溶媒22の量により調整できる。塗料の粘度は、具体的には例えば1.8×10-3Pa・s以上1×105Pa・s以下であり、好ましくは1×10-2Pa・s以上1×105Pa・s以下、より好ましくは1×10-2Pa・s以上5×104Pa・s以下、特に好ましくは1×10-2Pa・s以上1×102Pa・s以下である。
【0068】
なお、湿式混合の方法としては、特に限定されるものではなく、例えばミキサ等による撹拌等、公知の方法を採用することができる。撹拌時の回転数や撹拌時間等の撹拌条件は、特に限定されるものではなく、公知の条件を採用できる。本開示の製造方法では、湿式混合工程S13の前に、乾式混合工程S12を設け、中空粒子12とナノ粒子14とを予め混合したが、製造方法はこれに限定されない。
【0069】
[希釈工程]
湿式混合工程S13で得られた塗料に希釈用溶媒を添加し、撹拌することにより、塗料の粘度を塗布に適した粘度に調節してもよい。湿式混合工程S13において、撹拌により高いシェアを付与するために、塗料の粘度を高く設定する場合には、希釈工程S14を設けることが望ましい。
【0070】
希釈用溶媒としては、特に限定されるものではなく、遮熱材用塗料の希釈に通常用いられる、例えば希釈用シンナー等の公知の溶媒を採用できる。
【0071】
希釈工程における撹拌条件は、湿式混合工程と同様の条件とすることができる。
【0072】
なお、得られた塗料は、必要に応じてろ過等の後処理を経て、保管、又は、成形工程S2に供される。また、必要な場合には、成形工程S2に供される直前に、塗料に触媒が添加される。
【0073】
≪成形工程及び焼成工程≫
上記塗料を基材に塗布することにより、塗布層を形成する(成形工程S2)。この塗布は、スプレーを用いて行なうことができる。刷毛やヘラを用いて塗布するようにしてもよい。得られた塗布層を乾燥させ焼成することによって、遮熱層を得る(焼成工程S3)。この焼成により、樹脂成分が硬化して樹脂バインダ13が形成され、当該樹脂バインダ13中に分散された中空粒子12及びナノ粒子14を含有する遮熱層が得られる。焼成は、塗布層を100~200℃程度の温度で数分ないし数時間の加熱することによって行なうことができる。
【0074】
≪実施例≫
以下、具体的に実施した実施例について説明する。実施例及び比較例に使用した遮熱層における各成分の含有量、基材の表面処理方法と凹凸面の特性、並びに、遮熱壁の密着性及び耐久性の評価結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
実施例1、実施例2、実施例5及び実施例6に用いた基材には、表面処理方法Aとして、サンドブラスト処理を施した。実施例3に用いた基材には、表面処理方法Bとして、レーザ照射による処理を施した。実施例4及び比較例5に用いた基材には、表面処理方法Cとして、化成処理を施した。比較例6に用いた基材には、表面処理方法Dとして、サンドペーパー#120により10秒程度擦って表面処理を施した。
【0077】
実施例及び比較例に用いた各基材は、レーザ顕微鏡を用い、100倍レンズ,観察範囲148μm四方(0.2mm2)の条件にて表面観察を行い、界面の展開面積率Sdrを計測した。
【0078】
実施例及び比較例に用いた各基材は、凹凸面の厚み方向と略平行な断面を露出させ、金属顕微鏡で観察した。凹凸の最大高低差Lと、L/2の位置における前記凹凸表面の凹部の孔幅dは、画像解析ソフトウェア(ImageJ、米国国立衛生研究所製)で解析して求めた。凹凸の最大高低差Lは、長さ700μmの範囲において解析した。最大高低差Lを求めた範囲と同じ範囲について、L/2の位置における孔幅を全て解析し、その平均値を孔幅dとした。
【0079】
図6は実施例1に用いた基材単体の金属顕微鏡像であり、
図7は比較例1に用いた基材単体の金属顕微鏡像である。
図6及び
図7において、白い部分が基材である。
図6と比較して、
図7の基材は、凹部の溝が細長いことが確認できる。
【0080】
実施例及び比較例に使用した遮熱層は、いずれも以下の手順で形成した。
【0081】
樹脂バインダ(ポリアルキルフェニルシロキサン)の原料としての付加硬化型シリコーン系樹脂溶液に、溶媒としてのトルエンを添加し、手撹拌により前駆体溶液を調製した(準備工程)。
【0082】
また、中空粒子としての平均粒径5μmのアルミノシリケート製微細バルーンに、ナノ粒子としての平均粒径100nmのフェニル基修飾型シリカナノ粒子を添加し、ハンドシェイキングを1分間施して混合粒子を調製した(乾式混合工程)。
【0083】
次に、前駆体溶液に、混合粒子を添加して、自転公転ミキサにより撹拌し、塗料を得た(湿式混合工程)。なお、自転公転ミキサの回転数は2000rpm(自転)及び1000rpm(公転)、撹拌時間は5分であった。
【0084】
得られた塗料に、希釈シンナー(トルエン)を加えて、塗料における最終的な固形分比が、実施例1~6及び比較例1~2で同一となるようにした。そして、上記自転公転ミキサで、湿式混合工程と同一の条件により撹拌を行った(希釈工程)。
【0085】
希釈した塗料に、触媒を添加し、同じ膜厚になるように基材上にエアスプレー塗装し(成形工程)、オーブンで焼成して、遮熱壁を得た(焼成工程)。
【0086】
なお、表1に示すように、遮熱層における中空粒子の含有量は50体積%であり、樹脂バインダの含有量は30体積%、ナノ粒子の含有量は20体積%である。
【0087】
[密着性の評価]
実施例1~6及び比較例1~2の遮熱壁に対して、遮熱層と基材との密着性を評価した。具体的には、JIS K 5600-5-6:1999に従い、遮熱壁に対して、遮熱層側から2mm間隔の碁盤目の切れ込みを25マス(1マス:4mm2)形成した。その上から試験用テープを貼り付け、剥がした後の遮熱層の剥がれ度合いを評価した。評価基準はJISの上記規格の表1に従った。
【0088】
分類3以上の結果であれば密着性有りと判定し、表1において「〇」とした。分類3よりも低い結果であれば密着性無しと判定し、「×」とした。なお分類3は以下のように記載されている。分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥れを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的に剥れている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
【0089】
[耐久性の評価]
実施例1~6及び比較例1~2の遮熱壁に対して、耐久性を評価した。具体的には、各遮熱壁に対して、その温度を室温から500℃まで1時間をかけて上昇させ、500℃で6時間保持した後に室温まで冷却するという耐熱試験の後、遮熱層の鉛筆硬度(引っ掻き硬さ)試験をおこなった。鉛筆硬度8H以上を耐久性有りと判定し、表1において「〇」とした。鉛筆硬度が8Hより低い場合は、耐久性無しと判定し、表1において「×」とした。
【0090】
表2には、実施例1と比較例1の鉛筆硬度を示す。基材の展開面積率Sdrが39%の実施例1の遮熱壁は、鉛筆硬度8Hであり、高い耐久性を有していた。基材の展開面積率Sdrが215%の比較例1の遮熱壁は、鉛筆硬度3Hであり、耐久性は低かった。
【0091】
【0092】
このように、比較例に比べて、実施例の遮熱壁では、優れた密着性と高い耐久性を両立することができた。
【0093】
図8は、実施例2の遮熱壁の断面における走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、
図9は、比較例1の遮熱壁の断面における走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図8に示すように、実施例2の遮熱壁では、凹凸の凹部の溝に中空粒子が入り込んでいることを確認した。
図9に示すように、比較例1の遮熱壁では、凹凸の凹部の溝に中空粒子は入り込んでおらず、樹脂のみが入り込んでいることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本開示は、優れた密着性と高い耐久性能とを両立できる遮熱壁及び遮熱壁の製造方法をもたらすことができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0095】
1 ピストン(基材)
11 遮熱層
12 中空粒子
13 樹脂バインダ
14 ナノ粒子
16 混合粒子
21 原料
22 溶媒
25 前駆体溶液
31 塗料(遮熱材用塗料)