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特開2024-160038ドリフト低減装置およびドリフト低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160038
(43)【公開日】2024-11-11
(54)【発明の名称】ドリフト低減装置およびドリフト低減方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/74 20120101AFI20241101BHJP
【FI】
G03F1/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075338
(22)【出願日】2023-04-29
(71)【出願人】
【識別番号】591012668
【氏名又は名称】株式会社ホロン
(74)【代理人】
【識別番号】100089141
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 守弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 恵三
【テーマコード(参考)】
2H195
【Fターム(参考)】
2H195BD32
2H195BD33
2H195BD36
(57)【要約】
【目的】本発明は、ドリフト低減装置およびドリフト低減方法に関し、フォトマスク上の基準パターンを基点に、修復対象の修復パターンの部分にガスを噴射しつつ電子ビームを照射し、ドリフトを低減することを目的とする。
【構成】フォトマスク上の修復対象の近傍から選択あるいは新たに作成した基準パターンと、選択あるいは作成した基準パターンを基点に、修復対象の修復パターンの部分に電子ビームを照射しつつエッチング用あるいはデポジション用のガスをノズルから噴射して修復する修復領域を設定する修復領域設定手段と、修復領域に、電子ビームを照射しつつエッチング用あるいはデポジション用のガスをノズルから噴射して修復する修復手段と
を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスク上の修復対象のドリフトを低減するドリフト低減装置において、
フォトマスク上の修復対象の近傍から選択あるいは新たに作成した基準パターンと、
前記選択あるいは作成した基準パターンを基点に、修復対象の修復パターンの部分に電子ビームを照射しつつエッチング用あるいはデポジション用のガスをノズルから噴射して修復する修復領域を設定する修復領域設定手段と、
前記修復領域に、電子ビームを照射しつつエッチング用あるいはデポジション用のガスをノズルから噴射して修復する修復手段と
を備えたことを特徴とするドリフト低減装置。
【請求項2】
前記修復領域設定手段は、前記基準パターンのドリフト量を測定し、当該測定したドリフト量だけ前記修復領域を補正し、当該ドリフトによる影響を低減したことを特徴とする請求項1に記載のドリフト低減装置。
【請求項3】
前記修復手段は、前記修復領域のいずれか一方から順に1走査あるいは複数走査して全体を修復することを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載のドリフト低減装置。
【請求項4】
前記修復手段が、前記基準パターンの2次電子画像を取得し、当該取得した基準パターンの2次電子画像を基点に、前記取得した修復対象のパターンの2次電子画像と、前記修復対象の修復パターンとを比較し、所定許容値内のときに修復終了し、所定許容値外のときにその旨を出力あるいは再実行させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のドリフト低減装置。
【請求項5】
前記基準パターンは、前記修復パターンと1画面内に取得できる範囲内としたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のドリフト低減装置。
【請求項6】
前記電子ビームが照射する前記フォトマスク上の修復対象の領域に近接して対向した平板状、かつ前記電子ビームが照射するときに通過するかつ前記ガスをノズルから当該フォトマスクに噴射する穴を設けた輻射熱遮蔽板を設け、輻射熱によるフォトマスクの温度ドリフトを低減したことを特徴とする請求項1から請求項5にいずれかに記載のドリフト低減装置。
【請求項7】
請求項6に記載のフォトマスクを保持する平板状のパレットの下面を所定温度に温度制御し、フォトマスクの温度ドリフトを低減したことを特徴とするドリフト低減装置。
【請求項8】
請求項6から請求項7のいずれに記載のフォトマスクに、前記穴から所定温度のガスを噴射して温度制御し、フォトマスクの温度ドリフトを低減したことを特徴とするドリフト低減装置。
【請求項9】
フォトマスク上の修復対象のドリフトを低減するドリフト低減方法において、
フォトマスク上の修復対象の近傍から選択あるいは新たに作成した基準パターンを設け、
前記選択あるいは作成した基準パターンを基点に、修復対象の修復パターンの部分に電子ビームを照射しつつエッチング用あるいはデポジション用のガスをノズルから噴射して修復する修復領域を設定する修復領域設定ステップと、
前記修復領域に、電子ビームを照射しつつエッチング用あるいはデポジション用のガスをノズルから噴射して修復する修復ステップと
を有することを特徴とするドリフト低減方法。
【請求項10】
前記修復領域設定ステップは、前記基準パターンのドリフト量を測定し、当該測定したドリフト量だけ前記修復領域を補正し、当該ドリフトによる影響を低減したことを特徴とする請求項9に記載のドリフト低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクの修正時に起こるフォトマスク上の修復対象のパターンのドリフトを低減するドリフト低減装置およびドリフト低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フォトマスク上のパターンの修復は、修復目標パターンを人間が作成、選択あるいは既存のパターンをコピーするなどして決め、ガスを噴射しつつ電子ビームを照射してデポジションあるいはエッチングし、修復していた。
【0003】
この際、フォトマスクは高温ガスを噴射されることなどにより、修復対象(場所)が熱膨張などによりドリフトしてしまい、高精度(十数nmないしnmオーダ)の修復を行うことは極めて困難であった。
【0004】
また、フォトマスクを保持するパレット等を一定温度に制御し、温度変化を低減しても、ドリフトが本当に低減したか否かをリアルタイムに確認できず、高精度の修復の実行の確認が極めて困難かつ時間を要した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来のフォトマスクの修復は、人が修復すべき図形を作成、選択、既存の図形をコピーなどして決め、これにガスを噴射して修復(切除、堆積)していたため、ガスを噴射したことなどによりドリフトが発生してしまい、高精度に修復できないという課題があった。
【0006】
また、フォトマスクを一定温度に制御しても、フォトマスクの修復対象のドリフトを高精度に低減されているかリアルタイムに確認することが極めて困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために、フォトマスク上の修復対象の近傍から選択あるいは新たに作成した基準パターンを基点に、修復対象の修復パターンの部分にガス(エッチング用およびデポジション用ガス)を噴射しつつ電子ビームを照射することで、フォトマスクがたとえドリフトしても修正に用いる電子ビーム照射位置を当該フォトマスク上の基準パターンを基点の関数として表現し制御することにで当該ドリフトを補正して低減することを実現した。
【0008】
このため、本発明は、フォトマスク上の修復対象のドリフトを低減するドリフト低減装置において、フォトマスク上の修復対象の近傍から選択あるいは新たに作成した基準パターンと、選択あるいは作成した基準パターンを基点に、修復対象の修復パターンの部分に電子ビームを照射しつつエッチング用あるいはデポジション用のガスをノズルから噴射して修復する修復領域を設定する修復領域設定手段と、修復領域に電子ビームを照射しつつエッチング用あるいはデポジション用のガスをノズルから噴射して修復する修復手段とを備えるように構成する。
【0009】
この際、修復領域設定手段は、基準パターンのドリフト量を測定し、測定したドリフト量だけ修復領域を補正し、ドリフトによる影響を低減するようにしている。
【0010】
また、修復手段は、修復領域のいずれか一方から順に1走査あるいは複数走査して全体を修復するようにしている。
【0011】
また、修復手段が、基準パターンの2次電子画像を取得し、取得した基準パターンの2次電子画像を基点に、取得した修復対象のパターンの2次電子画像と、修復対象の修復パターンとを比較し、所定許容値内のときに修復終了し、所定許容値外のときにその旨を出力あるいは再実行させるようにしている。
【0012】
また、基準パターンは、修復パターンと1画面内に取得できる範囲内とするようにしている。
【0013】
また、電子ビームが照射するフォトマスク上の修復対象の領域に近接して対向した平板状、かつ電子ビームが照射するときに通過するかつガスをノズルからフォトマスクに噴射する穴を設けた輻射熱遮蔽板を設け、輻射熱によるフォトマスクの温度ドリフトを低減するようにしている。
【0014】
また、フォトマスクを保持する平板状のパレットの下面を所定温度に温度制御し、フォトマスクの温度ドリフトを低減するようにしている。
【0015】
また、フォトマスクに、穴から所定温度のガスを噴射して温度制御し、フォトマスクの温度ドリフトを低減するようにしている。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、フォトマスク上の修復対象の近傍から選択あるいは新たに作成した基準パターンを基点に、修復対象の修復パターンの部分にガス(エッチング用およびデポジション用ガス)を噴射しつつ電子ビームを照射し、フォトマスクがたとえドリフトしても当該フォトマスク上の基準パターンを基点にすることによりドリフトを補正して低減することが可能となった。
【0017】
これにより、下記が可能となった。
1 1台の装置内で完全自動マスク修復の際に、フォトマスクのドリフトを補正し、高精度のフォトマスクパターンの修復を実現できる。
2 別途装置による精密な修復パターンの測定あるいは情報を必要としない。
3 別途光学シミュレーション顕微鏡による修復パターンの修復結果評価を必要としない。
【実施例0018】
図1は、本発明の1実施例構成図を示す。この図1は、フォトマスク12の上に形成されたパターンの欠陥を修復する装置の構成図であって、フォトマスクにガスを噴射しつつ電子ビームを照射し、その電子ビームの反応範囲について、エッチングあるいはデポジションを行って欠陥を修復する装置の構成図を示す。以下詳細に説明する。
【0019】
図1において、コラム1は、1次電子ビームを発生し、集束し、更に細く絞り、フォトマスク12の上に照射するためのものであって、電子銃2などから構成されるものである。
【0020】
電子銃2は、電子を発生するものである。
【0021】
ブランキング電極3は、電子銃2で発生された1次電子ビームをnsのオーダーで高速に通過あるいは遮断するものであって、原理的には平行平板電極であり、高電圧を印加するものである。ブランキングした1次電子ビームが帯電してドリフトさせないように工夫されている。
【0022】
U-MCP4は、上側(電子銃2に近い方)に配置したMCP(電子検出器)であって、電子を増倍して高感度に検出するものであって、ここでは主に反射電子を検出・増倍するものである。検出された信号はAD変換装置によりデジタルデータに変換された後、PCに送られ画像化されたり、終点判定に必要な元素分析に利用される。
【0023】
D-MCP5は、下側(対物レンズ7に近い方)に配置したMCP(電子検出器)であって、電子を増倍して高感度に検出するものであって、ここでは主に2次電子を検出増倍するものである。検出された信号はAD変換装置によりデジタルデータに変換された後、PCに送られ画像化される。
【0024】
偏向器6は、1次電子ビームを2段偏向(X,Y方向)し、フォトマスク12上の所望の位置に細く絞った電子ビームを照射しつつ走査するものである。
【0025】
対物レンズ7は、1次電子ビームを細く絞ってフォトマスク12の上に照射するものである。ここでは、必要に応じて図示外の収差補正装置(球面、色収差補正装置)を合わせて使用し、球面および色収差を最小限に低減する。
【0026】
差動排気装置8は、中心に1次電子および2次電子が通過する穴を設けた2段の円盤からなる差動排気装置の中間部分から排気し、試料室21に排出されたガスがコラム1の側に行かないように排気するものである。
【0027】
輻射熱シールド9は、ノズル10に接続された配管などの熱がフォトマスク12に輻射熱として行かないように遮断する薄い板であって、中心部分に1次電子ビーム、ノズル10あるいはノズル10からのガスが通る穴を設けたものである。
【0028】
ノズル10は、ガスをフォトマスク12の所定領域に噴射するものであって、通常所定温度(例えば80~100°程度)に加熱されたガスを噴射するものである。
【0029】
Zセンサー11は、フォトマスク12のZ方向の距離(WD)を精密に測定するものである。
【0030】
フォトマスク12は、欠陥を修復する対象のフォトマスクであって、図示外の設計データ(CADデータ)をもとに所定のパターンを形成したフォトマスクである。フォトマスク12は、設計データを参照し、修復対象のパターンに容易かつ高精度に1次電子ビームを照射しつつノズル10からガスを噴射し、エッチングおよびデポジションを行い欠陥パターンを設計データなどから生成した修復目標パターンに一致するように修復している(後述する)。
【0031】
加熱・冷却コントローラ13は、フォトマスク12の背面側に配置し、フォトマスク12を加熱、冷却して所定温度に制御し、フォトマスクのドリフトを低減するものである。
【0032】
支持台14は、フォトマスク12,加熱・冷却コントローラ13などを保持するものである。
【0033】
温度センサー15は、支持台14あるいはフォトマスク12の温度を検出するものである。
【0034】
XYZステージ16は、温度センサー15,支持台14,加熱・冷却コントローラ13,フォトマスク12を搭載し、X,Y,Z方向に精密に所定位置に移動するものであって、レーザーをステージ上のバーミラーなどに照射してリアルタイムに精密に測定(レーザ干渉計で測定)しつつ移動するステージである。
【0035】
TMP17は、オイルレス真空排気装置である。
【0036】
ドライポンプ18は、オイルレスの真空排気装置である。
【0037】
コントローラ19は、輻射熱シールド9,支持台14などの温度を所定温度に自動制御するものである。
【0038】
除振装置20は、試料室21、コラム1などを搭載し、外部からの振動を除振する装置である。
【0039】
試料室21は、フォトマスク12などを配置する真空排気する容器である。
【0040】
ガス温度調整装置22は、ノズル10からフォトマスク12に噴射するガスの温度を調整するものであって、所定温度に加熱して昇華などしてガスを生成し、更に、所定圧力に調整して供給するものである。
【0041】
ガスコントローラ23は、ガス温度調整装置22を制御し、所定温度のガスを生成、生成したガスの流量、圧力などをマスフローコントローラにより調整し、ノズル10からガスをフォトマスク12に噴射させるものである。
【0042】
高圧電源31は、電子銃2の印加する直流高電圧を発生するものである。
【0043】
BLコントローラ32は、ブランキング電極3に所定の高電圧を印加し、1次電子ビームの通過、遮断を高速に制御するものである。
【0044】
反射信号処理装置33は、U-MCP4で検出・増幅した反射信号を、更に増幅などし、フォトマスクの修復領域の反射電子画像などを生成するものである。
【0045】
2次信号処理装置34は、D-MCP5で検出・増幅した2次信号を、更に増幅などし、フォトマスクの修復領域、基準パターンなどの2次電子画像などを生成するものである。
【0046】
偏向制御装置35は、偏向器6に高電圧の偏向電圧を印加し、フォトマスク12上に細く絞って照射した1次電子ビームをXY方向に高速走査制御するものである。
【0047】
ステージ位置制御装置36は、XYZステージ16に搭載されたフォトマスク12の所定位置に1次電子ビームが照射されるように、レーザー干渉計からのリアルタイム測定信号を受信し、かつ設計データ(CADデータ)を参照し、位置づけるものである(公知)。
【0048】
PC37は、パソコンであって、プログラムに従い各種処理、制御を統括制御するものである。このパソコンには基準パターンを自動選択するためのデータベースや選択ソフト、修正対象となるフォトマスクの設計データ(CADデータ)あるいはドリフトベクトル関数を演算するための演算装置やドリフトの学習を行うための装置あるいは推論演算のためのデータベースや推論エンジン等も搭載されている。その他、終点判定のために利用される元素推定のための画像演算や推論に必要とされるデータベースやソフトが搭載されている。
【0049】
表示装置38は、ディスプレイであって、フォトマスク12の修復対象領域の2次電子画像、反射電子画像、更に、基準パターンの2次電子画像、フォトマスク温度などを表示するものである。
【0050】
次に、図1の構成の動作を説明する。
【0051】
図1のマスク修復装置では、0.5から1KV程度のエネルギーを持つ1次電子ビームが利用される。典型的な反応ガスはエッチング用としてフッ化キセノン、デポジション用としてトリメチル白金、補助ガスとして水蒸気や窒素などである。反応ガスは100℃程度に加温された状態でノズル10からフォトマスク12に向けて噴射される。噴射量は0から数十SCCM程度の微量である。必要に応じて異種のガスが同時に注入されることもある。
【0052】
電子ビーム励起ガス反応の活性化エネルギーは数エレクトロンボルトであるため数エレクトロンボルトのエネルギーを有する2次電子が反応を支配する。1次電子ビームの数nm以下の小さなスポットサイズでは無く、フォトマスク12に衝突して散乱した際に生じる2次電子の飛程範囲が反応領域と成る。電子ビームマスク修復装置の最小修復分解能は加速電圧に大きく依存する。反応領域は1次電子ビームのエネルギーが低いほど小さくなる傾向があり、例えば1KVの時は20nm、0.5KVの時は6nm程度の直径になる。
【0053】
電子ビーム照射電流は0から100pA程度が利用される。電子ビームとガスによる反応速度は照射電流に比例するため照射電流が大きいほど早く反応が進む。1次電子ビームは偏向器6にて偏向可能領域内の任意の位置に照射することが出来る。任意の時間照射することも出来る。例えばラスタースキャンを用いて一定方向に電子ビームを一定速度で走査しながら所望のタイミングでオンオフすることで電子ビームをフォトマスク12上の任意の場所のみに照射することが出来る。ピクセルクロックは1KHzから100MHz位が利用される。ゆっくりと走査して1回の走査で修復プロセスを完結させることも出来るし、高速に複数回走査して修復プロセスを完結させることも出来る。
【0054】
電子ビームとガスの反応速度は電子ビーム照射電流が一定の時、フォトマスク12の表面に吸着しているガス濃度に依存する。ガス供給速度と電子ビーム量が旨くバランスした時に最大効率が得られる。ガス表面濃度はガス吸着量に比例するためフォトマスク12の表面温度が重要な制御パラメータと成る。反応ガスの吸着は物理吸着なので、一般的に高温にするとガスの吸着能は小さくなり、低温にすると吸着能は大きくなる。速度向上には低温化が望ましいが、反応ガスの多くが固体ソースを加熱してガス化した材料なので、気化温度よりもフォトマスク12の表面温度を低くし過ぎるとガスが霜あるいは雪の様に空洞が空いた状態でフォトマスク12の表面に積もるため、堆積した膜がポーラスに成ることもある。
【0055】
以上のように、フォトマスク12の表面温度は反応速度やプロセス結果に影響を与えるので、所望の温度に成るように制御することが望ましい。フォトマスク12の温度測定はフォトマスク12を汚染しないように赤外線を用いた非接触温度センサーを利用することが望ましい。
【0056】
電子ビームガス反応を行う際のピクセルクロックとSEM観察する際のピクセルクロックは同じにすることも出来るし、それぞれ独立に設定することも出来る。例えばSEM観察する時は高速(10ns毎ピクセル)に設定し、ガス反応を行うときは遅くする(1ms毎ピクセル)など使い分けることが出来る。電子ビーム照射範囲も必要に応じて任意に決めることが出来る。同様に電子ビームガス反応を行う際の電子ビームスポットサイズとSEM観察する場合のスポットサイズは同じにも異なった値にも設定することが出来る。
【0057】
電子ビームマスク修復装置の試料室21は装置設置環境からの電磁ノイズを防ぐために純鉄あるいはインバー等で出来ており、内面は耐腐食性のある無電解ニッケルメッキなどで被覆されている。試料室21はTMP17およびドライポンプ18で真空に引かれており、10のマイナス3乗パスカル程度の高真空に維持されている。コラム1内は10のマイナス5乗パスカル、電子銃室は10のマイナス7乗パスカル以上の高真空に維持されている。
【0058】
コラム(電子ビームコラム)1は腐食性ガスにさらされるので、パーマロイや純鉄からなる通常のコラムは腐食により寿命が短くなる恐れがある。本実施例では腐食ガスに直接さらされるガス供給用のノズル10、コラム1の先端の対物レンズ7の開口部はハステロイC等の金属、ニッケルリンメッキ、あるいは帯電防止したテフロン(登録商標)等の耐腐食材料で被覆する。電子ビームコラム1が試料室21と接続される対物レンズ7の側には差動排気装置8が導入されている。2つの差動排気アパチャーとアパチャー間に接続された図示外のTMPによる強力な排気システムによって、フォトマスク12の表面にノズル10から注入されたフッ化キセノン、塩素、ヨウ素等の腐食ガスはコラム1の内部に侵入する前に外部に排気される。このシステムによりコラム内部の部品が腐食されるのを防止できる。
【0059】
電子ビームによるフォトマスク12の修復は凡そ次のように行われる。フォトマスクポートにフォトマスクを置く。ロード指令を送出するとフォトマスク搬送ポートに連動した搬送装置(ローダー)がフォトマスクをサブチャンバーついでメイン真空チャンバー(試料室21)に自動搬送する。別途設置してあるフォトマスク欠陥検査装置から欠陥位置情報を取得する。OMあるいはSEM画像パターンマッチングを用いてステージ座標とマスク上座標を一致させるアライメントを行う。XYZステージ16をもちいてフォトマスク12上の修復対象欠陥位置が1次電子ビームの軸上に来るように移動する。1次電子ビームを走査して修復対象欠陥をSEM観察(2次電子画像観察)する。SEM画像を用いて修復対象位置を測定し、より正確な位置つまり画像中心に移動させる。この際、深層学習AIを用いて欠陥を自動認識させ自動的に中央に配置することも出来る。
【0060】
次に、反応ガスをフォトマスク12の上の修復箇所表面にガス注入用のノズル10を用いて注入しながら、修復箇所に1次電子ビームを照射する。修復箇所では1次電子ビームとガスの反応が起こる。修復前のSEM画像に修復中にリアルタイムで得られるSEM画像および反射画像を重ね合わせ表示し修復プロセスをリアルタイム観察する。最後に反応ガスを除去した状態で修復箇所をSEM観察し所望の修復が実行されたか否かを確認する。あるいは反射電子でプロセス進行による材質変化を検出する。修復不足であれば再びガスを注入して電子ビームを照射し修復を続ける。
【0061】
修復形状が目的形状と一致していれば終了判定して修復終了する。フォトマスク上に存在する全ての修復対象箇所の修復が終了した後にフォトマスクは搬送装置により修復装置外部に取り出される。
【0062】
以上のように、1次電子ビームによるマスク修復作業は実行される。
【0063】
しかしながら、実際には1次電子ビームを数分間に渡って局所的に大量照射し続けることやガスを吹き付けることなどが原因でフォトマスク12の温度変動が発生し熱膨張あるいは熱収縮が起こり観察像が元の位置からずれた場所に生じる所謂ドリフト現象が生じる。このドリフトが生じると目的とする欠陥を正常に修復できなくなるばかりか、間違った場所を修復してしまい新たな欠陥を生成してしまう危険がある。
【0064】
以下に、フォトマスクのドリフトの影響を低減する装置、方法を順次詳細に説明する。
【0065】
図2は、本発明の説明図(ドリフト説明図)を示す。この図2は、フォトマスク12上に形成した基準パターン41(あるいは既存のパターンから基準パターンを選択してもよい)を基点に、設計データから取り出した欠陥のある修復対象の修復パターン(修復領域)43の部分について、1次電子ビームを上から下方向に走査しつつ、図1のノズル10からガスを噴射し、修復する様子(ドリフトが無、ドリフトが走査方向に有る、反走査方向に有る、の別)を示したものである。
【0066】
図2の(a)は、フォトマスク12の基準パターン41のドリフトが無の場合を示し、上が補正無の画像(2次電子画像)を示し、下が本発明の補正有の画像(2次電子画像)を示す。この図2の(a)の場合には、修復対象の修復パターン43の近傍にあるフォトマスク12に固定している基準パターン41のドリフトが無であるので、当然に補正無の画像(上側の修復パターン43)と、補正有の画像(下側の修復パターン43)とが同一となり、本発明のドリフト補正なくても、修復できる例である。
【0067】
一方、図2の(b)は、フォトマスク12の基準パターン41のドリフトが走査方向に有の場合を示し、上が補正無の画像(2次電子画像)を示し、下が本発明の補正有の画像(2次電子画像)を示す。この図2の(b)の場合には、修復対象の修復パターン43の近傍にあるフォトマスク12に固定している基準パターン41のドリフトが走査方向(図では下方向)に有であるので、補正無の画像(上側の修復パターン43)は下方向に長い矩形(電子ビームで走査する修復領域に対応する)となってしまう。そこで、この図2の(b)の上側の修復パターン43を1次電子ビームで上から下方向に走査する際に、基準パターン41のドリフト(ここでは、走査方向(下方向)のドリフト))の移動に追従し、修復パターン43を上から下方向の走査方向に走査することに、いわばオフセットとして加算して当該修復パターン43を1次電子ビームで走査することにより、基準パターン43のドリフトをキャンセル(減算)し、図2の(b)の補正有の画像中の修復パターンを走査して修復(エッチング、デポジション)することが可能となる。
【0068】
つまり、本発明は、フォトマスク12上の基準パターン41を常に基点として、修復パターン43を上から下方向(走査方向Y)に1次電子ビームを順次走査して修復することにより、フォトマスク12に例えば走査方向にドリフトが発生しても、その影響を受けないということである。
【0069】
同様に、図2の(c)は、フォトマスク12の基準パターン41のドリフトが反走査方向に有の場合を示し、上が補正無の画像(2次電子画像)を示し、下が本発明の補正有の画像(2次電子画像)を示す。この図2の(c)の場合には、修復対象の修復パターン43の近傍にあるフォトマスク12に固定している基準パターン41のドリフトが反走査方向(図では上方向)に有であるので、補正無の画像(上側の修復パターン43)は下方向に短い矩形(電子ビームで走査する修復領域に対応する)となってしまう。そこで、この図2の(c)の上側の修復パターン43を1次電子ビームで上から下方向に走査する際に、基準パターン41のドリフト(ここでは、反走査方向(上方向)のドリフト))の移動に追従し、修復パターン43を上から下方向の走査方向に走査することに、いわばオフセットとして減算して当該修復パターン43を1次電子ビームで走査することにより、基準パターン43のドリフトをキャンセル(減算)し、図2の(c)の補正有の画像中の修復パターンを走査して修復(エッチング、デポジション)することが可能となる。
【0070】
つまり、本発明は、フォトマスク12上の基準パターン41を常に基点として、修復パターン43を上から下方向(走査方向Y)に1次電子ビームを順次走査して修復することにより、フォトマスク12に例えば反走査方向にドリフトが発生しても、その影響を受けないということである。以上で、走査方向のドリフトについて説明したが、それ以外の方向にドリフトした場合でも、走査方向のドリフトと、走査方向に直角方向のドリフトとに分け、それぞれについて、同様にして補正できる。
【0071】
図3は、本発明のドリフト補正方法1を示す。この図3は、フォトマスク12の上に形成されているユニークなパターンを基準パターン41として採用し、この基準パターン41を基点に修復対象の修復パターン43を1次電子ビームで走査しつつノズル10からガスを噴射し、修復を行うものである。
【0072】
図3の(a)は、フォトマスク12の上に形成されているユニークな基準パターン41を選択した様子を示す。基準パターン41は、修復対象の修復パターン43と電子ビーム走査が可能な範囲にある既存のパターンを選択する。選択は自動的に行ってもよいし、作業者が手動で指示してもよい。図示では、大きなパターンのうち、図示の正方形で囲んだ範囲内のパターンを自動的に基準パターン41と選択したものである。
自動的に基準パターンを選択する方法としては、予めデータベースに基準パターンの図形を登録しておき、パターンマッチング等を利用して電子ビームの走査範囲内に存在するパターンから選択する方法を用いることができる。基準パターンとしては具体的なパターン図形の他に、大きさや形状を代表する数値あるいは図形を表現する関数などを指定する方法を用いることができる。あるいは登録図形と類似した図形を指定した範囲内でサーチして自動設定することもできる。半導体デバイスでは同じようなパターン形状が出現する確認が非常に高い。設計データに対して予め機械学習を用いて頻繁に選択される基準図形を学習しその推論に基づいて基準パターンを自動選択することもできる。
そして、基準パターン41の基点として、X方向、Y方向の最大と最小の交点を例えば基点(Xb,Yb)と決定する(図示外の設計データ上で決定する)。
【0073】
図3の(b)は、基準パターン41からL(ベクトル)だけ離れた位置を始点に、修復対象パターン43を1次電子ビームで走査を開始した状態を示す。
【0074】
図3の(c)は、基準パターン41からL(ベクトル)だけ離れた位置を始点に、修復対象パターン43を1次電子ビームで走査し、半分程、走査終了した状態を示す。
【0075】
図3の(d)は、基準パターン41からL(ベクトル)だけ離れた位置を始点に、修復対象パターン43を1次電子ビームで走査し、全部、走査終了した状態を示す。この走査終了の判定は、修復対象パターン43の2次電子画像が、設計データから決めた目標修復パターンと許容範囲内に一致したときに終了判定する。あるいはエッチングの場合には、フォトマスク12の下地(石英)が露出して当該下地の輝度の反射像になったと判明したときに終了判定する。
【0076】
以上のように、フォトマスク12の上に固定され、かつこれから修復しようとする修復パターンの近傍(1画面内の範囲内の近傍)に基準パターン41を自動選択し、この基準パターン41を基点にL(ベクトル)の位置を始点とし、所定の修復パターン43を順に1次電子ビーム走査しつつガスを噴射して当該修復パターン43を修復することにより、フォトマスク12がたとえドリフトしても、その上の基準パターン41を基点に、修復パターン43を走査方向に順に1次電子ビームを走査しているため、ドリフトの影響を無にし、かつ修復した修復パターン43が所定許容範囲内であることを確認できるという顕著な効果が発生する。
【0077】
以下具体的に説明する。
【0078】
(1)図3ではドリフト量を基準パターン41のSEM画像から取得し、デポジション終点およびエッチング終点は反射電子で電子ビーム照射点の材質変化を検出して判定する。あるいは2次電子画像を取得し、設計データの修復対象の目標修復パターンと所定許容範囲のときに終了と判定してもよい。また、プロセス進行中は修復前のSEM画像に修復中に修復箇所から得られるSEM像や反射電子像をオーバーレイして表示することで修復プロセス進行状況がリアルタイムにディスプレイ上に表示できる。ドリフト量が分かるようにドリフトが無い場合との差分を表示することもできる。この際、装置の長さ測定機能をもちいて何nm移動しているかを正確に測定および表示される。
【0079】
(2)デポジションの場合は例えばZnmのデポジションを実現するためには1ピクセル当たりXkVでYクーロンの電子を照射するなど予め条件出しを行って所望の高さデポジションされるように行う。エッチングの場合には材質コントラストを有する反射電子信号あるいは画像によって下地の材料が検出された際に自動あるいは手動で修復プロセスを停止することが出来る。特にフッ化キセノンを用いたエッチングの場合には下地が石英の場合にはエッチングが自動停止するため下地が余分に削られる心配が無い。むしろエッチング残しが無いように十分にエッチングされるように予備実験を行って終点設定を行う。
パラメータとしては基準エッチング量に対して+50%とか+100%というオーバーエッチング量設定で行う。
【0080】
図4は、本発明のドリフト補正フローチャートを示す。これは、既述した図3のドリフト補正のフローチャートである。
【0081】
図4において、S1は、SEM画像を取得、および登録してある基準図形とのパターンマッチング演算などの相関演算を行い、ドリフト量を算出(測定)する。これは、図3の(a)の基準パターン41を、修復パターン43を作成する位置の近傍(電子ビーム走査可能な1画面内の範囲内)から選択し(図示外の設計データ上で選択し)、選択した基準パターン41のSEM画像(2次電子画像)を取得、および当該基準パターン41のドリフト量(nm/sec,nm/min)を測定する。尚、後述する図8の場合には、基準パターン41を選択する代わりに、新規に基準パターン511を作成し、ドリフト量を測定する。
【0082】
S2は、反応ガスを導入する。これは、S1で図3の(a)の基準パターン41を選択、および当該基準パターン41のドリフト量を実測し、当該ドリフト量のオフセットを考慮した修復領域を算出した後、反応ガスを導入する。反応ガスは、図1のノズル10からフォトマスク12上の図3の(b)修復パターン43の部分に噴射する。
【0083】
S3は、基準パターン中心位置から距離L(ベクトル量)の位置に電子ビームを照射する。これは、図3の(b)の基準パターン41の中心から距離L(ベクトル量)の位置に電子ビームを照射、即ち電子ビームを図3の(b)の修復パターン43の左上隅の始点に照射する。このベクトルは基準位置座標の関数として電子ビーム照射点座標を表現することを意味する。従ってベクトルはドリフトを表現する関数を意味する。ベクトルを表現する関数形としては位置の1次関数、2次関数、N次関数や周期関数、あるいは照射時間の関数などとして与えることができる。同様に、単純な数学的な関数としてだけでなく、過去におけるドリフト推移を機械学習させて得られる推論関数もベクトルの関数として採用することができる。
【0084】
S4は、修復パターン43の始点から終点まで電子ビームを走査、更に、修復パターン43のN段目の始点から終点まで走査することを繰り返す。これにより、図3の(b)から(c)、更に(d)と、修復パターン43について、走査方向に向けて順次1走査あるいは複数走査を行い、全体の修復パターン43を電子ビームで走査し、かつガスを噴射し、当該修復対象パターン43の修復を行う。この修復はほぼ完了するまで、あるいは修復を完了するより少し少ない状態まで、修復を行う。そして、後述するS5からS7の手順で、修復パターン(2次電子画像)が設計データ上の目標とする修復パターンと比較し、許容範囲内のときにドリフト補正(修復)の終了と判定するまで、繰り返す。
【0085】
S5は、反応ガスを除去、不活性化処理を行う。これは、ノズル10から活性ガスの噴射を停止し、反応ガスを真空排気すると共に、不活性化用のガスを噴射して不活性化処理を行った後、真空排気する。
【0086】
S6は、SEM画像、BS画像を取得する。これは、図3の(d)のS5の処理を行った後の状態で、当該図3の(d)の修復パターン43のSEM画像(2次電子画像)、BS画像(反射電子画像)を取得する。尚、このS6の状態(S5の処理後)では、電子ビームを修復パターン43,基準パターン41のいずれに照射して2次電子画像、反射電子画像を所得しても、エッチングやデポジションが行われることがない。
【0087】
尚2、後述する図8の場合(新規に基準パターン511を作成する場合)には、当該基準パターン511がフォトマスク12には有ってもなくてもよい場合には、S5の処理(反応ガスを除去、不活性化処理)を行うことなく、ガスを噴射して修復処理中でも、当該基準パターン511に電子ビームを走査し、リアルタイムに当該基準パターン511の状況(ドリフトなどの情報)を取得することも可能となる(基準パターン511も当然にエッチングあるいはデポジションされる)。
【0088】
S7は、ドリフト補正が終了か判定する。これは、S6で取得した図3の(d)の修復パターン43の2次電子画像が、設計データが目標とする修復パターン43の2次電子画像と比較し、前者が後者の所定許容範囲内にあり、ドリフト補正が正常に行われたかを判定する。あるいは、修復パターン43の部分のBS画像において、フォトマスクの下地の石英に相当する輝度のBS画像が得られ、これが所定許容範囲内にあり、ドリフト補正が正常に行われたかを判定する。YESの場合には、ドリフト補正が行われ、許容範囲内の修復パターン43が修復されたと判明したので、本発明のドリフト補正を伴う修復を終了する。一方 NOの場合には、S2に戻り繰り返す。
【0089】
以上のように、図3の(a)の標準パターン41をフォトマスク12上から選択し、この基準パターン41を基点に、距離Lの位置を始点に、修復パターン43に電子ビームを順に走査しつつガスを噴射して修復パターン43を修復し、修復の終了判定は修復パターン43の2次電子画像が所定許容範囲内にあるときに修復終了と判定、あるいは修復パターン43の反射電子画像がフォトマスク12の下地の輝度であって、かつ所定許容範囲内にあるときに修復終了と判定する。これにより、フォトマスク12がたとえドリフトしてもその上の基準パターン41を基点に、修復パターン43を順に走査方向に走査して修復しているので、当該フォトマスク12のドリフトをキャンセルし、修復パターン43のドリフトを無に低減できる。
【0090】
図5は、本発明のドリフト補正用のテーブルの例を示す。これは、既述した図4のフローチャートの手順に従い、図3のドリフト補正を行う場合に必要なテーブル例を示す。
【0091】
図5の(a)は、基準パターンテーブル51の例を示す。例えば図3の基準パターン41は、パターンNoに対応づけて中心座標(X,Y)を登録したものである。この基準パターンテーブル51を参照することにより、その中心座標(X、Y)を知ることができる。
【0092】
図5の(b)は、パターンテーブル52の例を示す。これは、パターン(標準パターン、修復パターン)を表すデータであって、ここでは、ビットマップ、対向座標データ、輪郭関数のいずれか1つ、あるいは複数で表現(記述)したものである。
【0093】
図5の(c)は、修復パターンテーブル53の例を示す。例えば図3の修復パターン43は、パターンNoに対応づけて輪郭関数などの修復対象の図形を表すものである。この修復パターンテーブル53を参照することにより、修復しようとする修復パターン53を取り出し、当該修復パターン53の内部を電子ビームで順に走査しつつガスを噴射し、修復することが可能となる。この際、図3などの基準パターン41にドリフトがある場合には、当該ドリフトをキャンセル、即ち、修復パターン53をドリフト方向と反対方向に拡縮してキャンセルし、拡縮後の修復パターン53の内部(修復領域という)を電子ビームで順に走査しつつガスを噴射し、修復することにより、基準パターン41にドリフトがあっても目標とする修復パターン53を正確に修復することが可能となる。
【0094】
図6は、本発明の修復パターンの表現例を示す。
【0095】
図6の(a)は、ビットマップ(2値化画像)を模式的に表す。これは、既述した図5の(b)のパターンテーブル52に登録するビットマップの例を表す。ビットマップは、図示のような図形の内部が例えば1,外が0の2値化画像として表現したものである。
【0096】
図6の(b)は、対向座標データを模式的に表す。これは、既述した図5の(b)のパターンテーブル52に登録する対向座標データの例を表す。対向座標データは、図示のような図形の内部について、長さ方向の始点と終点の対で表現したものである。
【0097】
図6の(c)は、輪郭関数を模式的に表す。これは、既述した図5の(b)のパターンテーブル52に登録する輪郭関数の例を表す。輪郭関数は、図示のような図形の輪郭について、ベクトルで表現したものである。
【0098】
図7は、本発明のBS画像の明るさ例を示す。これは、既述した図4のフローチャート中で取得したBS画像(反射電子画像)の輝度を模式的に表しものである。ここで、横軸は原子番号を表し、縦軸は反射電子の明るさを表す。電子ビームを照射して放出された反射電子の明るさ(輝度)は、原子番号が大きくなるに従い、増大するという性質がある。こにより、フォトマスク12では、下地が石英(Si)でその上に例えばCrのパターンを形成していた場合に、エッチングによりCrパターンを無くし、下地のSiが現れると輝度(明るさ)が低減するので、BS像を観察し、エッチングが十分に行われたかを判別することが可能となる(図4のS6,S7参照)。終点を自動判別する場合には、輝度に対して適切な閾値を設けることで実現できる。
【0099】
図8は、本発明の説明(ドリフト補正方法2)を示す。この図8は、フォトマスク12の上のパターンの無い部分に基準パターン511を新規に作成し、この基準パターン511を基点に修復対象の修復パターン531を1次電子ビームで走査しつつノズル10からガスを噴射し、修復を行うものである。
【0100】
図8の(a)は、フォトマスク12の上の空の部分(パターンのない部分)に、新規にユニークな基準パターン511を作成(デポジションで凸状の基準パターン511,あるいはエッチングで深い穴状の基準パターン511を作成)した様子を示す。基準パターン511の基点として、X方向、Y方向の最大と最小の交点を例えば基点(Xb,Yb)と決定する(図示外の設計データ上で決定する)。
【0101】
図8の(b)は、基準パターン511からL(ベクトル)だけ離れた位置を始点に、修復パターン531を1次電子ビームで走査を開始した状態を示す。
【0102】
図8の(c)は、基準パターン511からL(ベクトル)だけ離れた位置を始点に、修復パターン531を1次電子ビームで走査し、半分程、走査終了した状態を示す。
【0103】
図8の(d)は、基準パターン511からL(ベクトル)だけ離れた位置を始点に、修復パターン531を1次電子ビームで走査し、全部、走査終了した状態を示す。この走査終了の判定は、修復パターン531の2次電子画像が、設計データから決めた目標修復パターンと許容範囲内に一致したときに終了判定する。あるいはエッチングの場合には、フォトマスク12の下地(石英)が露出して当該下地の輝度の反射像になったと判明したときに終了判定する。
【0104】
以上のように、フォトマスク12の上の空の場所、かつこれから修復しようとする修復パターンの近傍(1画面内の範囲内の近傍)に基準パターン511を生成し、この基準パターン511を基点に距離L(ベクトル)の位置を始点とし、所定の修復パターン531を順に1次電子ビーム走査しつつガスを噴射して当該修復パターン531を修復することにより、フォトマスク12がたとえドリフトしても、その上に形成した基準パターン511を基点に、修復パターン531を走査方向に順に1次電子ビームを走査しているため、ドリフトの影響を無にし、かつ修復した修復パターン531が所定許容範囲内であることを確認できるという顕著な効果が発生する。
【0105】
以下具体的に説明する。
【0106】
(1)図8のドリフト補正法では、修復プロセスによって変形を受けても構わない基準パターン511を予め修復対象パターン531の近傍にデポジション、エッチング機能を用いて作製する。背の高いあるいは非常に深い基準パターン511が望ましく、さらにはフォトマスク12の上に残ってもフォトマスク12の性能に悪影響を与えない程度に出来るだけ面積が小さく、かつパターンマッチングに有利なユニークな形状(星状、楕円など)が望ましい。これらのデータは予め基準パターン形状データベースに記録しておく。基準パターン511の観察はプロセス進行とともに行われる。SEM観察された場所もプロセスされるのでドリフト補正用の基準パターン511を包含する最小領域をSEM観察する。同時に修復パターン531にも電子ビームを照射する。修復SEM画像に、修復中に修復箇所から得られるSEM画像や反射電子像を重ね合わせた画像をリアルタイム表示する。電子ビームを当てる時間やピクセル速度等はそれぞれの領域について独立に実行する。図8では、基準パターン511がフォトマスク12にとって不要で、有っても無くてもよいパターンであるため、ドリフト量の測定のために反応ガスを停止したりパージしたりする必要がなく、その分、速く修復が実現できる。
【0107】
図9は、本発明のフォトマスク配置及びノズル配置例を示す。
【0108】
図9の(a)は、フォトマスクの配置例を示す。フォトマスク12は、図示のように、パレット61の右上端の固定端62の部分に押し付けるようにして固定されている。このため、ドリフトが主にフォトマスク12を含む部材の熱膨張あるいは熱収縮により生じる。例えばフォトマスク12の1辺が15cmの石英から出来た板の場合には、0.6ppm程度の熱膨張係数をもつため、±1度温度変化するとフォトマスク12の長さは最大±90nm程度伸縮するので、これがドリフト量となる。
【0109】
最先端半導体デバイス製造用のフォトマスク12の上にあるパターンの大きさは100nmよりも小さい。フォトマスク修復中に90nmもドリフトすると図1から図8を用いたドリフト補正を行っても、フォトマスクの修復中にその範囲外にでてしまう恐れがある。
【0110】
そこで、図1から図8のドリフト補正がよく働く範囲内に、フォトマスク12のドリフトを低減しておく必要がある。フォトマスクの修復は数分から数十分に渡って行われるので、例えば図1から図8のドリフト補正が有効に働くようにフォトマスク修復時間1分当たり数nm以下程度のドリフトに成るようにフォトマスク温度を厳密に制御する必要がある。
【0111】
図9の(b)は、反応ガス供給のノズル配置例を示す。図示のように、ノズル10はこの例では100度の温度を持っており、フォトマスク12の上の修復箇所の上に配置している。
【0112】
ここで、フォトマスク63の温度を変化させる要因は色々あるが、図1から図8のドリフト補正に影響する程度に大きなドリフトを生じさせる熱源は図1の電子ビーム修復装置の場合は比較的はっきりしている。電子ビーム修復装置にはフォトマスク63の直上数mmの場所にガス供給用のノズル10が付いている。反応ガスは100度近くに加熱した状態でノズル10を用いてフォトマスク63の表面に導入される。ノズル10の周辺は真空であり断熱されているため、ノズル10も100度近くの温度に加熱されている。ノズル10から噴射されるガス量は微量で総熱量は無視できるほど小さい。また真空中には気体が無いため対流による熱伝導は無く、かつ、ノズル10は直接にフォトマスク63に接触しないため伝導による加熱も無いが、加熱されたノズル10からの輻射熱によるフォトマスク63の加熱が生じる。フォトマスク63はフォトマスク63に歪を与えないようにステージからは点接触で支えられており周辺を真空断熱に近い状態にされているため熱の伝導が非常に悪い。フォトマスク63を試料室21に搬送する時に起こる急激な温度変化や輻射熱によりフォトマスク63などの部材が温め続けられると熱膨張が起こり、最悪ミクロンオーダーのドリフトを引き起こす。
【0113】
輻射熱は電磁波なので電磁波が通らない材料で遮蔽することが出来る。例えば人工衛星等で見られる金薄膜は輻射率が0.01と99パーセント赤外線を遮蔽できる。例えば、輻射熱は面積に比例するので金薄膜遮蔽板をノズル10の噴出穴近傍のみを除いてフォトマスク63との間に挿入すれば、ノズル10がフォトマスク63に対向露出している輻射面積は1平方センチメートル以下になりフォトマスク63の全体に降り注ぐ大部分の輻射熱を遮ることが可能となる。
【0114】
更に、図9の(b)に示したように、ノズル10からフォトマスク63に対して放射される熱輻射が電子ビーム照射軸に対して対称になるように設計すれば、電子ビーム照射点近傍のフォトマスク63の温度分布を対称(同心円状)に出来る。対称に温められたフォトマスク63は1方向には伸縮せず、内部応力だけが発生しドリフトが極めて小さくなる。
【0115】
以上のようにした場合、ノズル10に対向するフォトマスク63の部分においてはドリフトが原理的に0に(小さく)できる。但し時間が経つと、フォトマスク63の全体の受ける輻射熱は0で無いためフォトマスク63の平均温度はゆっくりと上昇する。フォトマスク63の熱膨張速度は極めて小さくなるが0では無いため、フォトマスク63の全体の平均温度上昇に比例して図9の(a)に示した方向にドリフトが生じる。ドリフト原因を完全に断つにはフォトマスク63の全体の温度を一定に保つことが望ましい。
【0116】
図10は、本発明のフォトマスク温調例(その1)を示す。これは、フォトマスク77のパターンのある上方向に、水冷ヘッド兼輻射熱遮蔽板74を設けて上からの輻射熱を遮蔽し、フォトマスク77を固定したパレット78の下面から水冷ヘッドにより一定温度に温調した例を示す。
【0117】
図10において、ガス供給システム73はノズルからフォトマスク77に噴射するガス(通常、100℃前後)を供給するものである。
【0118】
水冷ヘッド兼輻射熱遮蔽板74は、ガス供給システム73の配管からフォトマスク77に向けて放射される輻射熱を遮断する水冷式の板であって、中心にガスを噴射、および電子ビームを通過、更に、フォトマスク77から放出された2次電子を上方向に走行させる穴を設けた平板である。
【0119】
水冷管75は、水冷ヘッド兼輻射熱遮蔽板74に取り付けた水冷用の細い管である。
【0120】
金メッキ膜76は、ガス供給システム73から放射される輻射熱を遮断する金メッキ膜である。
【0121】
水冷ヘッド71は、パレット78の下面に取り付けて当該パレット78の温度を一定に制御するものである。パレットあるいはフォトマスクの設定温度や現在温度、制御パラメータはディスプレイに表示される。
【0122】
水冷管(又はヒートパイプ)72は、水冷ヘッド71に冷却水を供給し、ステージ上にある移動体を温調するものである。これらの水冷管は柔らかく、ガス透過性が低いことが必要であり、蛇腹状の金属パイプ、柔軟なテフロン(登録商標)樹脂パイプ、ポリイミド樹脂を主体とした複合パイプなどが利用できる。ヒートパイプは例えば、真空中においてガス放出の少ない蛇腹状の金属パイプ、柔軟なテフロン樹脂、ポリイミド樹脂を主体とした複合パイプ中にウィックと呼ばれる毛細管現象を引き起こす無機あるいは有機素材からなる線状あるいは網状管壁素材に作動液として水、アルコール、ナフタレンなどを封止した構造を持つ。
【0123】
非接触温度センサー83は、非接触でパレット78(フォトマスク77)の温度をリアルタイムに測定するものである。主に赤外線を受光できる高感度のMEMSサーモバイル素子が用いられる。
【0124】
次に、フォトマスク77の温調について説明する。
(1)フォトマスク77のパターンのある上面に、対向して水冷ヘッド兼熱輻射遮蔽板74を設け、ガス供給システム73からの熱輻射を遮断している。
(2)フォトマスク77の下面はパレット78に固定されており、このパレット78について、水冷ヘッド71により一定温度に制御している。
パレットの下面はチャンバー下面に向かって熱輻射が大きくなるように黒体化する。例えばカーボンやセラミックスあるいは白金黒などで被覆して赤外線に対する輻射熱を100%に近くにしてパレットに蓄積された熱が自然に外部に放出されるようにしておくことが望ましい。このようにすると、フォトマスクは自然冷却されるためフォトマスクの温度は安定化する。
【0125】
以上のように、フォトマスク77のパターンのある上面には水冷ヘッド兼熱輻射遮蔽板74により上面からの輻射熱を遮断し、かつフォトマスク77を乗せたパレット78の下面から水冷ヘッド71により一定温度に制御することにより、フォトマスク77の温度変化を最小限にし、熱ドリフトを低減することが可能となる。通常温度は室温付近に保たれることが多いが、マイナスに冷却することも加熱することもできる。温度制御が異常を示した場合には、ワーニング信号を発生させ、ディスプレイ上に警告表示し、フォトマスク修正動作を自動的に停止させるなどのインターロック措置を行うことができる。
【0126】
図11は、本発明の温調例(その2)を示す。これは、フォトマスク77のパターンのある上方向に、輻射熱遮蔽板741を設けて上からの輻射熱を遮蔽し、フォトマスク77を固定したパレット77の下面からペルチェ素子831により一定温度に温調した例を示す。
【0127】
図11において、ガス供給システム73は、ノズルからフォトマスク77に噴射するガス(通常、100℃前後)を供給するものである。
【0128】
輻射熱遮蔽板741は、ガス供給システム73の配管からフォトマスク77に向けて放射される輻射熱を遮断する板であって、中心にガスを噴射、および電子ビームを通過、更に、フォトマスク77から放出された2次電子を上方向に走行させる穴を設けた平板である。
【0129】
ペルチェ素子831は、パレット78と本実施例では、Zステージ82との間に配置し、電流を流すことによりパレット78の熱をZステージ82の側に送出する公知のものである。フォトマスクで発生した熱をフォトマスク以外の場所に排熱できれば良いので、一端がフォトマスク側、もう一端が外部につながっていれば良いため、ペルチェ素子はXYステージとZステージとの間においても構わない。前実施例にあるような水冷を同時使用する場合には、ペルチェ素子の放熱部に水冷ヘッドが繋がっていればフォトマスクからの熱を試料室の外部に放出することができる。
【0130】
非接触温度センサー83は、非接触でパレット78(フォトマスク77)の温度をリアルタイムに測定するものである。
【0131】
次に、フォトマスク77の温調について説明する。
(1)フォトマスク77のパターンのある上面に、対向して熱輻射遮蔽板741を設け、ガス供給システム73からの熱輻射を遮断している。
(2)フォトマスク77の下面はパレット78に固定されており、このパレット78について、ペルチェ素子831に電流を流すことにより一定温度に制御している。ペルチェ素子の現在温度や目標温度あるいは制御値は必要に応じてディスプレイ表示することができる。異常が生じた際は修復動作を自動停止およびワーニングをディスプレイに表示することができる。
【0132】
以上のように、フォトマスク77のパターンのある上面には輻射熱遮蔽板74により上面からの熱輻射を遮断し、かつフォトマスク77を乗せたパレット78の下面からペルチェ素子781に電流を流して一定温度に制御することにより、フォトマスク77の温度変化を最小限にし、熱ドリフトを低減することが可能となる。
【0133】
図12は、本発明の温調例(その3)を示す。これは、フォトマスク77のパターンのある上方向に、輻射熱遮蔽板741を設けて上からの輻射熱を遮蔽し、かつ局所温度調整用ガス731をフォトマスク77の上から吹き付けて当該フォトマスク77を一定温度に温調した例を示す。
【0134】
図12において、局所温度調整用ガス731は、フォトマスク77に吹き付けて温度を制御するためのガスである。温調用ガスは修正装置の外部に別途設けた図示外のガス温調用装置を用いて供給する。この装置には熱交換機が備わっており所望の温度に温度制御用気体の温度を制御できる。制御精度は±0.1℃程度である。温度制御用の気体は、連続的に照射することもできるし、間欠的に照射することもできる。これらの制御を通じてフォトマスクの温度は±0.01℃程度に正確に制御される。
【0135】
次に、フォトマスク77の温調について説明する。
(1)図12は、非接触でフォトマスク77の温度を制御するために、温調したガスをフォトマスク77に直接吹きかける方法である。ガスはフォトマスク表面側からも裏面側からもどちらからも吹きかけることが出来る。但し、表面からガスを吹きかける際には反応ガスと直接混合しないあるいは影響を与えないような工夫が必要である。
(2)例えば、反応ガスをフォトマスク77に吹き付ける位置は電子ビーム軸上であるが、電子ビーム軸上から少し離れた位置に温度制御用ガス731を別のノズルを用いてフォトマスク77に吹きかける。あるいは修復プロセスがアイドリング状態に成っていることを検出して反応ガスを一時的に停止してその間に温度制御用ガス731をフォトマスク77に吹きかけることが出来る。この場合は、電子ビーム軸上にガス731を吹きかけることも出来る。温度制御用のガスを照射するためのノズルとしては別の温度制御専用のノズルを用いることも出来るし、1つのノズルを反応ガス用と温度制御用ガス731を切り替えて噴射しても良い。局所温調調整用ガス731のノズルは、電子ビーム軸に対して対称に冷却出来るように電子ビーム軸に対称に配置されていることが望ましい。
【0136】
図13は、本発明の温調例(その4)を示す。この図13は、図12の局所温調調整用ガス731をフォトマスク77のパターンのある上側から吹き付けるに代えて、フォトマスク77を保持するパレット78の下面から局所温調調整用ガス732を吹き付けるものである。
【0137】
次に、フォトマスク77の温調について説明する。
(1)図13の局所温度調整用ガス732の噴射はフォトマスク77の裏面から行う。具体的にはフォトマスク77の表面側にある反応ガスノズルに対向し、フォトマスク77の裏面側に局所温度調整用ガス732のノズルを設ける。このノズルから温調したガスをフォトマスク77の裏面から直接吹きかけ温度を制御する方法である。このような配置では、XYステージ84が移動しても発熱部分は移動しない。これにより、反応ガスを噴射したフォトマスク77の発熱部分が一定の熱を発生させる場合、局所温度調整用ガス732がその熱を丁度奪うように設定(表面から反応ガスで加熱した発熱部分について、裏面から局所温度調整用ガス73で熱を取り出すように設定)しておけば、フォトマスク77の温度は一定温度に維持することが可能となる。
(2)ここで、真空排気される試料室21は強力なポンプで10のマイナス3乗パスカル以下に成るように真空排気されている。フォトマスク77の裏面側に吹きかけるため、フォトマスク77は仕切りの作用を持つ。局所温度制御用ガス732がフォトマスク77の表面に回り込む前に外部に排気されるためフォトマスク77の表面で利用される反応ガスとは混合しない。反応ガスとは異なり流量に制限が無いので反応ガスが数SCCM程度の超微小量しか使わないのに対して、局所温度調整用ガス732は100SCCM以上の大量のガスを注入することが出来る。局所温度調整用ガス732は熱伝導の優れた水素やヘリウムが原理的に優れているが貴重で高価である。フォトマスク77は半導体ウエハープロセスで行われるほどの熱発生が無いので、熱伝導性能はそれほどでは無いが安価で大量に流すことが出来る清浄化した乾燥空気、酸素、窒素等のガスを利用できる。予め図1のマスク修復装置の外部に配置したガス温調装置を用いてガス温度を0.1度より厳密に制御しフォトマスク77に吹きかけることで温調を行う。フォトマスク77の温度は赤外線センサーを用いた非接触温度センサー83を用いて実現し、フォトマスク77の表面が所望の温度に成るように制御する。
【0138】
フォトマスクのドリフトが熱膨張で起こる場合、フォトマスクの温度を一定に保つ方法以外にフォトマスクの温度を測定して熱膨張を予測し補正することもできる。フォトマスク温度を0.01度台の精密に一定に保つことは困難であるが、0.01度の精密温度測定は容易である。
図14は、本発明のフォトマスク温度(T)とドリフト量(D=kT)の関係説明図を示す。図14の横軸はフォトマスク温度(T/℃)を表し、縦軸はドリフト量(D/mm)を表す。
【0139】
図14において、補正前の線分は、フォトマスク12の熱膨張補正を行わない場合のドリフト量Dを表す。
【0140】
補正後の線分は、フォトマスク12の熱膨張補正を行った場合、ドリフト量Dがほぼゼロになる様子を模式的に表す。
【0141】
ここで、XYステージ84の上に搭載されたフォトマスク77の位置のドリフトはフォトマスク自身およびフォトマスク77を支持している部材の熱膨張あるいは熱収縮によって引き起こされる。フォトマスクの位置測定のためにレーザー干渉計が利用されるが、フォトマスクの位置測定をXYバーミラー位置に揃えるため、フォトマスクはXYバーミラーに近い端面の1点が固定されることが多い。フォトマスク77の熱膨張量はフォトマスク支持端が一か所で固定されている場合(図15参照)、フォトマスク平均温度の関数で表される。図14の補正前のラインで示したように、特定位置のドリフト量Dはフォトマスク温度Tに係数Kを掛けたものに比例して大きくなる。ドリフトは電子ビーム照射の中心位置が基準位置(図15図9の固定端79,62)から一定量オフセットすることにある。従って、図13の補正前のラインで示されるデータを取得すれば、フォトマスク77の平均温度と修復対象位置座標を用いて任意温度、フォトマスク上の任意場所に存在する修復対象位置のオフセット量を計算できる。そして、計算して得たオフセット量がゼロに成るように電子ビームの偏向制御装置に信号を送る(あるいはXYZステージ12で移動させる)ことで、図14の補正後のラインで示したように熱によるドリフトを補正することが出来る。この補正は、前述した基準パターンを用いたドリフト補正と連動させて利用することでさらなる効果を発揮できる。
本実施例では、簡単のためにフォトマスク温度の平均値を用いてドリフト補正を行っているが、フォトマスクの温度分布を正確に測定してそれぞれの熱膨張を計算して各修復点におけるドリフト量を計算して補正を行ってもよい。
【0142】
図15は、本発明の温度測定例を示す。
【0143】
図15の(a)は、パレット78とZステージ82との接触部分に温度センサー832を挿入し、温度測定する例を示す。この例は、フォトマスク77の平均温度をフォトマスク支持部材に設けた温度センサー832で測定するものであって、Zステージ82の一端はフォトマスク77を搬送するためのパレット78と呼ばれる搬送ジグと直接接触する。Zステージ82がパレット78と接触する場所に温度センサー832を設けることでフォトマスク77の温度を測定できる。フォトマスク77の平均温度が測定できるように全てのZステージ82の設置点にて温度測定し平均値を求めることが望ましい。Zステージ82とパレット78が接触する場所は唯一フォトマスク77に蓄積された熱が伝熱によって外部に流れる場所である。接触場所の熱伝導率を高くあるいは低くして外部からの熱流入あるいは流出を制御することでフォトマスク77の温度変化量を決めることが出来る。
【0144】
図15の(b)は、非接触温度センサー83を用いてパレット78の下面の温度を測定する例を示す。この例は、赤外線センサー等の非接触温度センサー83を用いてフォトマスク77の平均温度を非接触で測定する。フォトマスク77の平均温度が測定できるように複数個所の温度を測定し平均する。フォトマスク77の裏面から測定する場合には測定装置をXYステージ84の上に複数配置することで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
図1】本発明の1実施例構成図である。
図2】本発明の説明図(ドリフト説明図)である。
図3】本発明の説明図(ドリフト補正方法1)である。
図4】本発明のドリフト補正フローチャートである。
図5】本発明のドリフト補正用のテーブル例である。
図6】本発明の修復パターンの表現例である。
図7】本発明のBS画像の明るさ例である。
図8】本発明の説明図(ドリフト補正方法2)である。
図9】本発明のフォトマスク配置及びノズル配置例である。
図10】本発明の温調性(その1)である。
図11】本発明の温調例(その2)である。
図12】本発明の温調例(その3)である。
図13】本発明の温調例(その4)である。
図14】本発明のフォトマスク温度(T)とドリフト量(D=kT)の関係説明図である。
図15】本発明の温度測定例である。
【符号の説明】
【0146】
1:コラム
2:電子銃
3:ブランキング電極
4:U-MCP
5:D-MCP
6:偏向器
7:対物レンズ
8:差動排気装置
9:輻射熱シールド
10:ノズル
11:Zセンサー
12:フォトマスク
13:加熱・冷却コントローラ
14:支持台
15:温度センサー
16:XYZステージ
17:TMP
18:ドライポンプ
19:コントローラ
20:除振装置
21:試料室
22:ガス温度調整装置
23:ガスコントローラ
31:高圧電源
32:BLコントローラ
33:反射信号処理装置
34:2次信号処理装置
35:偏向制御装置
36:ステージ位置制御装置
37:PC
38:表示装置
41:基準パターン
42、43:修復パターン
421:SEM画像取得範囲
50:フォトマスク
51:基準パターンテーブル
511:基準パターン
52:パターンテーブル
53:修復パターンテーブル
531:修復パターン
61:パレット
62:固定端
63:フォトマスク
631:修復箇所
632:ノズルの温度分布
64:バーミラー
71:水冷ヘッド
72:水冷管(又はヒートパイプ)
73:ガス供給システム
731:局所温度調整用ガス
732:局所温度調整要ガス
74:水冷ヘッド兼輻射熱遮蔽板
741:輻射熱遮蔽板
75:水冷管
76:金メッキ膜
77:フォトマスク
78:パレット
79:固定端
80:白金黒
81:熱の流れ
82:Zステージ
83:非接触温度センサー
831:ペルチェ素子
832:温度センサー
84:XYステージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15