(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016008
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】片面に配置された少なくとも1つの塗膜を含むガラスまたはガラスセラミックプレートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/30 20060101AFI20240130BHJP
F24C 15/10 20060101ALI20240130BHJP
H05B 6/12 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C03C17/30 Z
F24C15/10 B
H05B6/12 305
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023120165
(22)【出願日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】10 2022 118 562.1
(32)【優先日】2022-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー マンゴルト
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ ホフマン
(72)【発明者】
【氏名】アンゲリナ ミラノフスカ
(72)【発明者】
【氏名】タマラ スウェーク
【テーマコード(参考)】
3K151
4G059
【Fターム(参考)】
3K151BA62
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC30
4G059FA05
4G059FA28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】少なくとも1つの面に配置された塗膜を含む、優れた耐擦傷性および耐油性を有するガラスまたはガラスセラミックプレートを提供する。
【解決手段】ガラスまたはガラスセラミック基材1と、少なくとも1つの面に配置された、有機ケイ素マトリックスおよび顔料を含む塗膜2とを含む、ガラスまたはガラスセラミックプレート10であって、該塗膜は、少なくとも10μmの厚さを有し、ガラスまたはガラスセラミック基材上に塗膜のみが配置された領域において、DIN-ISO 1518-1に準拠した試験における7N超の耐擦傷性と、ガラスまたはガラスセラミック基材越しに測定した場合に色度変化ΔEとして求められた1未満の耐油性とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスまたはガラスセラミック基材と、前記ガラスまたはガラスセラミック基材の少なくとも1つの面に配置された、有機ケイ素マトリックスおよび顔料を含む塗膜とを含む、ガラスまたはガラスセラミックプレートであって、前記塗膜は、少なくとも10μm、有利には最大で80μmの厚さを有し、前記塗膜は、前記ガラスまたはガラスセラミックプレートの、前記ガラスまたはガラスセラミック基材上に前記塗膜のみが配置された領域において、DIN-ISO 1518-1に準拠した試験における7N超、好ましくは最大で30Nの耐擦傷性と、前記ガラスまたはガラスセラミック基材越しに測定した場合に色度変化ΔEとして求められた1未満、好ましくは0.5未満、特に好ましくは0.3未満、非常に特に好ましくは0.2未満、最も好ましくは0.1未満の耐油性とを有し、ここで、前記色度変化ΔEは、L
*a
*b
*表色系で以下の式:
【数1】
により与えられる、ガラスまたはガラスセラミックプレート。
【請求項2】
少なくとも2つの試料の試料全体での算術平均値として求めた場合に、EN 1288-5に準拠して二重リング法で測定された、少なくとも140MPa、好ましくは最大で250MPaの曲げ強さを有する、請求項1記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
【請求項3】
少なくとも2つの試料の試料全体での算術平均値として求めた場合に、UL 858に準拠した球落下試験で測定された、少なくとも45cm、有利には少なくとも60cm、有利には少なくとも70cm、有利には少なくとも80cm、特に好ましくは少なくとも90cmの耐衝撃性を有し、ここで、前記耐衝撃性は、前記ガラスまたはガラスセラミックプレートの下面に配置された塗膜について求められたものである、請求項1または2記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
【請求項4】
前記ガラスまたはガラスセラミックプレートは、前記塗膜が配置されている領域において、DIN 5036 Part 1に準拠して測定された、0.08%未満、好ましくは0.04%未満、特に好ましくは0.02%未満の光透過率を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
【請求項5】
前記塗膜中の顔料対バインダーの比は、それぞれ重量割合に基づいて、1:0.8~1:3、有利には1:1~1:2.5、特に好ましくは1:1.3~1:2である、請求項1から4までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
【請求項6】
前記塗膜は、効果顔料を含み、総顔料割合に対する前記効果顔料の割合は、50重量%~100重量%、好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは88重量%~98重量%である、請求項1から5までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
【請求項7】
ガラスまたはガラスセラミックプレート、特に請求項1から6までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミックプレートの製造方法であって、
- ガラスまたはガラスセラミック基材を提供する工程と、
- 顔料と、2つの有機ケイ素プリカーサーを含むバインダーとを含む被覆剤を提供し、ここで、一方の有機ケイ素プリカーサーは、シリコーン樹脂であり、他方の有機ケイ素プリカーサーは、ゾル-ゲル加水分解生成物であるものとする、工程と、
- 前記被覆剤を前記ガラスまたはガラスセラミック基材の片面に施与して、塗膜を好ましくは印刷法によって形成する工程と、
- 前記塗膜を、少なくとも200℃、最高で400℃の温度で少なくとも10分間、最高で120分間、好ましくは少なくとも250℃、最高で330℃の温度で少なくとも30分間、最高で90分間、特に最高で60分間、特に好ましくは少なくとも300℃、最高で320℃の温度で少なくとも30分間、最高で60分間にわたって焼き付ける工程と
を含む、方法。
【請求項8】
前記被覆剤中のゾル-ゲル加水分解生成物対シリコーン樹脂の比は、重量に基づいて、1:0.2~1:0.02、好ましくは1:0.09~1:0.035である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項7または8記載の方法で製造されたまたは製造可能である、特に請求項1から6までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総じて、例えば調理機器のカバープレートとして使用可能である被覆されたガラスまたはガラスセラミックプレートに関する。特に、本発明は、ガラスまたはガラスセラミック基材の少なくとも1つの面に配置された塗膜を含むガラスまたはガラスセラミックプレート、およびその製造方法に関する。塗膜は、有機ケイ素マトリックスと顔料とを含み、耐擦傷性を有し、かつ単層として非常に優れた耐擦傷性および非常に優れた耐油性を有する。
【背景技術】
【0002】
被覆されたガラスまたはガラスセラミックプレートは、調理機器のカバープレートとしてすでに長年使用されている(例えば「コンロ」の「クックトップ」として知られている)。ここ数年で、ガラスまたはガラスセラミックを含むカバープレートであって、透明なガラスまたはガラスセラミック材料と、対応するガラスまたはガラスセラミック基材の片面に施された、材料が透けて見えるのを防ぐ塗膜とを含むものが開発された。こうした塗膜は、調理機器を設置した状態では、視認者や使用者に背を向けており、一般に下面コートや裏面コートとも呼ばれる。
【0003】
こうした裏面または下面コートは、組み立てや動作の際に様々な要求に曝されるが、プレートの裏面や下面に配置されるため、操作や使用の際に重要となる耐衝撃性にも決定的な影響を与える。ここで、耐衝撃性とは、プレートが「上から」あるいは「正面から」の機械的負荷に耐える強さのことであり、被覆されたプレートをコンロのカバープレートとして使用する場合には、調理器具を、時として雑に下に置くことによって視覚化することができる。
【0004】
特に低膨張基材の場合には、基材とこの基材に施与された塗膜との間に、いわゆる「サーマルミスマッチ」、すなわち熱膨張の差が必ず生じ得るため、裏面コート、特に密着性および/または耐擦傷性に優れた塗膜の場合には、(例えば、高い焼付温度と、被覆された基材が室温まで冷却されたときに生じるミスマッチとによって)基材にクラックが誘発される可能性がある。このようなクラックは、基材の機械的耐久性を低下させる可能性がある。したがって、例えばプレート上に置かれた物体、例えば調理器具による上方からの荷重に起因する、基材に作用する引張応力は、破壊による基材の機能不全を容易に招き得る。このため、特に特定のガラスセラミックやガラスといった、それ自体の延性がどちらかといえば低い基材が使用される場合には、特に密着性および耐擦傷性に特に優れ、かつ封止性および洗浄性に関する他の要件をもそれ自体で良好に満たすガラス系塗膜の「裏面コート」または「下面コート」としての使用は、確立されていない。
【0005】
したがって、裏面または下面コートとしては特に、従来のガラス系塗膜よりも密着性が低い塗膜が使用されている。例えば、シリコーン系塗膜やケイ素系ゾル-ゲルバインダーが提案されている。このような塗膜の場合には、従来のガラス系塗膜の場合のような溶融反応ゾーンが形成されないため、すでにこの理由から、クラック形成のリスクは比較的低くなっている。しかしこれには、この層の密着性も低くなるという欠点がある。このような塗膜で覆われたプレートの強度を確保するためには、さらに、塗膜が特に基材まで多孔質であることが有利な場合が多い。しかし、カバープレートの下面や裏面は、接着剤残滓、水蒸気またはさらには油、あるいは例えばガスバーナーで作動するコンロで使用されるカバープレートの場合には、こぼれた料理がガスバーナーの穴を通ってカバープレートの下面に達するなど、流体媒体と接触することが非常に多いため、この多孔性は特に不利である。多孔質層のもう1つの欠点は、通常は耐擦傷性が低いことである。対応する塗膜は、例えば独国特許出願公開第102008031428号明細書に記載されている。
【0006】
このため、使用者が基材越しに視認できる実際に呈色している第1の層の上に、さらにもう1つの塗膜が配置されることが多く、これは「シーラント」とも呼ばれる。この第2の塗膜は、第1の塗膜とは異なる組成を有することが多く、また異なる焼付条件を必要とすることがある。また、第1の塗膜と第2の塗膜とが、異なる色度を有することもある。このことは、第1の塗膜が非常に薄い色であり、第2の塗膜が非常に濃い色である場合に特に好ましくない。この場合、第1の塗膜を特に厚く施与しなければならず、そうしなければ、第2の塗膜が第1の塗膜からわずかに透けて見えてしまい、色度が変わってしまう。対応する塗膜は、例えば独国特許出願公開第102008031426号明細書に記載されている。
【0007】
さらに、呈色層とシーラント層との組み合わせは、施与工程および熱処理工程の追加を意味し、したがって、経済的な観点からも製品のCO2収支の観点からも不利である。
【0008】
例えば欧州特許第1730085号明細書には、ガラスまたはガラスセラミックからなり、少なくとも1つの面の少なくとも1つの領域に着色塗膜を有するプレートであって、塗膜が、炭素不含の材料をほぼ含まない少なくとも1つのポリシロキサン樹脂を含み、塗膜が、10~60体積%のフィラー含有量を有するプレートが記載されている。この欠点は、該特許文献に記載の塗膜が実質的に炭素を含まないことであり、その理由は、このような様式では、特に油の通過に対する耐久性に関して十分な封止性を有する塗膜を得ることができないためである。
【0009】
国際公開第2005/092810号には、ガラスまたはガラスセラミックプレートの強度を高める方法が記載されている。油の通過に対する高い耐久性を有する着色塗膜は記載されていない。
【0010】
特表2011/216457号公報には、ガラスまたはガラスセラミックの基材を含むプレートであって、該プレートが、異なる塗膜を含む下面コートを有するプレートが記載されている。特に、呈色塗膜3は、耐熱性樹脂層4とは異なる構成を有し、さらに、第1の樹脂層4の性能をさらに向上させるもう1つの樹脂層5がさらに施与されている場合がある。したがって、記載されたプレートは、例えばスパッタリングのようなプロセスやさらにはガラス系塗膜が使用される場合がある非常に複雑な層構造を有する。
【0011】
日本国特許第6231066号公報には、分岐状であってもよいアルキル鎖を有するシリコーン樹脂を含む塗膜がガラスまたはガラスセラミック基材に施与される製造物品が記載されている。この方法は不利であり、それというのも、これらの有機成分は、かなりの高温、例えば350℃前後の温度での焼付を必要とするためである。しかし、こうした方法では、封止性と耐擦傷性とを兼ね備えた塗膜を製造することはできない。なぜならば、有機成分の燃焼によって多孔質層が形成されるためである。
【0012】
また日本国特許第206024号公報には、装飾塗膜と遮光塗膜との2つの異なる構成の塗膜を含む、被覆されたガラスプレートが記載されている。装飾塗膜は、必須成分としてのSiO2に加えて、MnOおよび/またはCoOのようなもう1つの金属酸化物をさらに含む。
【0013】
特表2019/519458号公報には、シリコーンバインダーとナノ顔料とを含む、ガラスまたはガラスセラミックプレート上の塗膜が記載されている。塗膜の耐擦傷性および封止性については言及されていない。
【0014】
欧州特許出願公開第3511631号明細書には、第1の装飾層と第2の耐熱性樹脂層とを含む多層構造体が記載されている。この層は、非常に粒径の小さい顔料を含む。樹脂層は、基材に直接施与されていてもよい。塗膜の耐油性については言及されていない。
【0015】
欧州特許出願公開第3222595号明細書には、部分的に透光性である層エレメントを含むコンロ装置が記載されている。油密性および耐擦傷性については言及されていない。
【0016】
国際公開第2020/122069号には、耐熱樹脂層を含むクックプレートが記載されている。これは、特に酸化アルミニウムを含有するフレーク状の無機フィラーを含む。ここでも、耐油性については言及されていない。
【0017】
言い換えれば、既存の裏面が被覆されたガラスまたはガラスセラミックプレートは、製造時の要求が厳しく、コストがかかる。したがって、上述のこうした先行技術の欠点を少なくとも部分的に緩和するガラスまたはガラスセラミックプレートが求められている。同様に、その製造方法も求められている。
【0018】
発明の課題
本発明の課題は、先行技術の欠点を少なくとも部分的に緩和する、少なくとも1つの面に配置された少なくとも1つの塗膜を含むガラスまたはガラスセラミックプレートの提供、およびその製造方法にある。
【0019】
発明の概要
この課題は、独立請求項の主題によって解決される。好ましい実施形態および特別な実施形態は、従属請求項ならびに本開示の本明細書および図面の主題である。
【0020】
したがって、本開示は、ガラスまたはガラスセラミック基材と、ガラスまたはガラスセラミック基材の少なくとも1つの面に配置された、有機ケイ素マトリックスおよび顔料を含む塗膜とを含む、ガラスまたはガラスセラミックプレートに関する。塗膜は、少なくとも10μm、有利には最大で80μmの厚さを有する。塗膜は、ガラスまたはガラスセラミックプレートの、ガラスまたはガラスセラミック基材上に塗膜のみが配置された領域において、DIN ISO 1518-1に準拠した試験で求められた7N超、好ましくは最大で30Nの耐擦傷性と、ガラスまたはガラスセラミック基材越しに測定した場合に色度変化ΔEとして求められた1未満、好ましくは0.5未満、特に好ましくは0.3未満、非常に特に好ましくは0.2未満、最も好ましくは0.1未満の耐油性とを有し、ここで、色度変化ΔEは、L
*a
*b
*表色系で以下の式:
【数1】
により与えられる。
【0021】
ここで、色度1とは、着色油を負荷させる前にガラスまたはガラスセラミック基材越しに測定したガラスまたはガラスセラミックプレートの色度を指し、色度2とは、着色油を負荷させた後の色度を指す。
【0022】
試験は、有利には以下のように行われる:
油の着色を、有利には、例えばOrasol Blue 855の商品名で販売されているような青色染料により行う。これは、総じて銅・フタロシアニン錯体からなる染料であり、C.I. Solvent Blue 70(CAS番号12237-24-0)としても知られている。そのために、まず0.5gの粉末染料を10mlのイソプロパノールに溶解させる。次に、この溶液に市販の油、例えばヒマワリ油を注いで50mlにする。
【0023】
試験に適した市販のヒマワリ油の組成範囲は、以下のリストにある(2022年5月4日付のde.wikipedia.org/wiki/Sonnenblumenoelも参照のこと):
【表1】
【0024】
次に、試験体を準備する。これは、被覆されたガラスまたはガラスセラミックプレートで作製された最小寸法80×80mm2の試験片である。有利には、試験片は、基材および試験対象の塗膜のみを含む。塗膜の色度を、負荷前に、ただし基材越しに測定する。次に、上記のように着色した食用油、有利には市販のヒマワリ油2mlを塗膜に施与し、このように着色した油を施与した試料をオーブンで150℃にて3時間熱処理する。その後、基材越しに塗膜の色度を再度測定する。この色度の測定を、それぞれ色差計を用いて行い、CIE-L*a*b*表色系で表す。次に、負荷前後の測定値から色度変化ΔEを求める。また、色度を試料の未処理箇所と油で処理した箇所とで測定し、そこから色度変化を求めることも可能であり、また大きい試料において好ましい場合もある。これが可能であるのは、塗膜自体の色度変化を早くも生じさせるには、150℃という熱処理温度が低すぎるためである。したがって、未処理箇所の色度は、測定精度の範囲内で処理前の色度と一致する。誤差やアーチファクトの可能性を排除するため、参照試料を一緒に熱処理することも可能であり、それにより、例えばオーブン自体の中で試料への異物混入が生じた場合のアーチファクトが回避される。
【0025】
総じて、次のように進めるのが有利である場合がある:
塗膜が配置されたプレート/基材の面に、有利には市販のステンレス鋼からなるまたはそれを含む、有利には内径40mmのリングを配置する。外径は、例えば57mmであってよく、外径の正確な寸法は、単なる例示にすぎないと理解されるべきである。このリングは特に、油の無秩序な漏出を防ぐ境界物として機能する。次に、このリングに、2mlの着色油を、有利にはピペットを用いた滴下により加える。その後、油の急激な蒸発を防ぐため、リングを例えば時計皿で覆う。次に、着色油を施与した試料を実験室用オーブンに入れ、次いで150℃に加熱する。この150℃の温度を、3時間保持する。試料が冷めた後、リングおよびカバーを外し、塗膜の表面にまだ存在している残留油を、例えばセルロース製の布で取り除く。
【0026】
有利には、熱処理後の油はまだ液体で、粘性を示さないが、粘性であれば、オーブンの温度が過度に高いものと推定される。
【0027】
次に、試料を裏返し、基材側から評価する。まず、目視で評価する。さらに、CIEL*a*b*表色系で色差計を用いて色度を測定する。このために、試験片の未処理箇所と処理済み箇所とで色度を測定し、上記試料に従って色度変化ΔEを算出する。さらに、有利には、未処理の参照試料も一緒に記録する。
【0028】
有利には、コニカミノルタ社製分光光度計であるCM700d型機器を用いて、光タイプD65、観察角度10°で色度を測定する。測定アパーチャMAVおよび測定設定SCIを使用することができる。試験片は不透明度が高いため、測定は背景に依存せず、すなわち、測定が黒色校正板に対して行われるか白色校正板に対して行われるかは重要でない。
【0029】
本開示の範囲において、プレートとは、厚さが長さおよび幅よりも少なくとも1桁小さい成形体であると理解される。さらに、本開示の範囲におけるガラスまたはガラスセラミックプレートとは、ガラスまたはガラスセラミック基材を含む製造物品であると理解され、その際、ガラスまたはガラスセラミック基材自体は、プレート状である。ガラスまたはガラスセラミック基材とは異なり、ガラスまたはガラスセラミックプレートは、さらに少なくとも1つの塗膜を含んでおり、したがって、加工された基材と理解することもできる。ガラスまたはガラスセラミック基材の立体的寸法および面と、ガラスまたはガラスセラミックプレートの立体的寸法および面とは、互いにほぼ一致しているが、ここで、ガラスまたはガラスセラミックプレートの厚さは、厳密に言えば、塗膜の厚さ分だけ(未被覆の)ガラスまたはガラスセラミック基材の厚さよりも大きいことに留意すべきである。しかしこれは、本明細書で考慮されているガラスまたはガラスセラミックプレート/基材の通常のmm範囲の厚さでは、測定精度の範囲内で無視できるものである。
【0030】
上記のようなガラスまたはガラスセラミックプレートの構成には、多くの利点がある。
【0031】
塗膜は、ここでは、有機ケイ素マトリックスと顔料とを含む塗膜として、したがって隠蔽性または少なくとも部分的に隠蔽性の塗膜として構成されている。隠蔽性または少なくとも部分的に隠蔽性の塗膜(または層)とは、本開示の範囲において、光の透過を少なくとも低減する塗膜であると理解される。これは、一方では、塗膜が顔料、すなわち着色体、有利には温度安定性および/またはセラミック着色体を含み、この着色体が吸収および/または散乱によって光の透過を減少させることに起因するものとみなすことができる。他方では、塗膜は少なくとも10μmの厚さを有するため、塗膜の隠蔽効果は、その厚さにも起因するものとみなすことができる。着色体には、本開示の範囲において、着色顔料だけでなく効果顔料も含まれると理解され、効果顔料は、必ずしもそれ自体が呈色するとは限らず、例えば純粋な銀色光沢顔料(例えば、いわゆる「真珠光沢顔料」に相当)として形成されていてもよい。総じて、上述のとおり必ずしもそれ自体が吸収により呈色するとは限らないこれらの効果顔料は、本開示の範囲において「着色体」という総称に包含される。
【0032】
このように、特に強い隠蔽効果を本質的には有していない顔料や塗膜を用いても隠蔽効果が達成されるが、それは、これらが、例えば透明なフレークをベースとする効果顔料(例えば真珠光沢顔料であって、例えば「Iriodin」の商品名で市販されているもの)またはそのような顔料を多量に含む塗膜であるためである。ここで、少なくとも10μmの高い層厚と、塗膜に含まれる顔料とが有利に相互作用することで、塗膜の十分な隠蔽効果を保証することができる。
【0033】
真珠光沢顔料とは、総じてマイカベースの効果顔料であると理解される。特に、マイカは、フレーク状で存在しかつ被覆されていてよく、その際、塗膜自体は、非吸収性塗膜であってよく、例えばTiO2からなるまたはそれを含む塗膜であってよい。このようにして、例えば、銀色のくすんだ光沢を達成することができる。また、このような真珠光沢顔料が複数の塗膜を含むことで干渉効果が生じるようにすることも可能である。この場合、例えば、特定の色の印象を反射で実現することができる。また、例えばFe2O3のような、それ自体がある固有の色を呈する被覆材を使用することも可能である。この場合、得られる真珠光沢顔料は、薄い色調を有するが、それでも隠蔽性の吸収顔料ではない。例えば、黄色や金色の色合いを有する真珠光沢顔料が知られている。例えば紫色など、他の色合いも原理的には可能である。
【0034】
真珠光沢顔料は、本開示の範囲においてマイカ顔料とも呼ばれる。
【0035】
塗膜は、少なくとも1つの顔料に加えて、有機ケイ素マトリックスを含む。有機ケイ素マトリックスとは、有機ケイ素前駆体材料から得られた被覆マトリックスであると理解され、これは「バインダー」と呼ばれることもある。既知の有機ケイ素前駆体材料としては、例えば、TEOS(テトラエチルオルトシリケート)、TMOS(テトラメチルオルトシリケート)またはそれらの有機変性誘導体(m-TEOS、メチルトリエチルオルトシリケート、DMDEOS、ジメチルジエチルオルトシリケート、フェニルトリエチルオルトシリケートなど)が挙げられる。シリコーンおよびポリシロキサンもまた、本開示の範囲において、有機ケイ素バインダーの考え得る成分とみなされる。ここで、特に、本開示による有機ケイ素バインダーは、特に複数の前駆体材料を含むことができる。特に、バインダーが、ゾル-ゲル成分およびポリシルセスキオキサン成分またはシリコーン樹脂成分を含むことが可能である。
【0036】
塗膜は、それ自体が耐擦傷性を有するように構成されており、すなわち、ガラスまたはガラスセラミック基材上の単層としてDIN-ISO 1518-1に準拠した試験で7N超の耐擦傷性を有する。
【0037】
総じて、本開示の範囲において、被覆ステップにより下地に施与される材料層は、塗膜または層と呼ばれる。
【0038】
単層とは、本開示の範囲において、同一の組成の塗膜または層であると理解される。ここで、塗膜は、複数の被覆ステップで施与されることも、単一の被覆ステップで施与されることも可能である。例えば、本開示の範囲における単層は、2回以上の連続する被覆工程、例えば二重印刷によって得ることもできる。これは例えば、1回の被覆工程、例えばスクリーン印刷では低い層厚しか得られない、隠蔽性が非常に低い塗膜の場合に有利であり得る。このような塗膜は、同一の組成の部分層を2つ含むものと解釈することもできる。この場合、有利には、全体として十分に厚い塗膜が得られるように、第1の被覆工程、例えば第1の印刷の後に、さらに少なくとも1回のまたはさらにはそれ以上の被覆工程を実施することができる。ここで、被覆工程の後に、例えば先行する塗膜の熱固定などの中間ステップを実施することも可能であるが、絶対に必要というわけではない。
【0039】
単層とは異なり、本開示の範囲において、例えば、使用される顔料または使用されるバインダーの種類に関して異なる組成を有する材料層を含む複数の層(または塗膜)が存在する。バインダーは、本開示の範囲においてバインダー相またはマトリックスとも呼ばれることがあり、これは特に、ペーストについてではなく硬化した塗膜について言及される場合に該当する。
【0040】
ガラスまたはガラスセラミックプレート上の本発明の塗膜は、さらに、油試験における非常に優れた耐久性をも示す。
【0041】
本開示の範囲において、油試験とは、油に対する塗膜の透過性を調べる試験であると理解される。塗膜に浸透し、それから被覆された基材越しに視認可能な流体の視認性は、特に例えば効果顔料を含む塗膜の場合には困難な問題である。なぜならば、塗膜の詳細な組成によっては、特に塗膜が効果顔料を含む場合には、流体の浸透が、部分的にある角度でしか全く視認できないことがわかっているためである。これは、例えば、純粋な「体質塗装材」として形成された塗膜、すなわち、効果顔料を含まないか、またはごくわずかしか含まない塗膜の場合とは異なる。この場合、例えば水が塗膜の細孔に浸透すると、細孔の充満によって色が濃く見えるため、非常に容易に視認することができる。
【0042】
そこで、本発明者らは、塗膜の封止性を試験するために上述の試験方法を開発し、この方法に、上記のように染料を混ぜた油を使用する。塗膜の封止性が十分でない場合、油は、つまりこの添加された染料とともに塗膜の細孔に浸透し、「反対側」、すなわち基材に隣接する塗膜の側でも視覚的に、すなわち着色油の負荷の前後の色度測定によって実施される色変化の形で知覚することができる。ここで、色度変化ΔEは、実施形態による塗膜において、2以下であり、有利にはさらに小さく、特に有利にはつまり知覚不可能である。よって、塗膜は十分に封止性であるとみなされる。
【0043】
単層が耐擦傷性と非浸透性とを併せ持つこのような実施形態は、従来は知られていなかった。従来は、例えば顔料やバインダーの含有量や焼付条件の違いによって構成が異なる少なくとも2つの塗膜が必要であるとされていた。基材上に直接配置された第1の塗膜は、特に高温での焼付によっても多孔質であり、第1の塗膜上に配置された第2の塗膜は封止性であり、その際、この場合には特に、300℃または350℃超の高温での熱による焼付が省かれていた。よって、こうした先行技術の既知のガラスまたはガラスセラミックプレートは、いわゆる2層系であって、第1および第2の塗膜を、その組成、焼付条件、および必要に応じて得られる色の印象に関して互いに適合させなければならない塗膜を含む。このようにして初めて、十分な耐擦傷性と同時に、十分な封止性と、使用条件下でのガラスまたはガラスセラミックプレートの十分な機械的強度とを保証することが可能であった。
【0044】
本発明者らは、本開示の単層が耐擦傷性と同時に封止性をも有していることは、使用されるバインダーの特別な構成によるものであると推測している。したがって、実施形態によるガラスまたはガラスセラミックプレートの製造に使用される被覆剤は、少なくとも2つの有機ケイ素プリカーサーまたは前駆体を含むバインダーを含む。一方の有機ケイ素プリカーサーは、シリコーン樹脂、特に市販のシリコーン樹脂であり、他方の有機ケイ素プリカーサーは、ゾル-ゲル加水分解生成物である。バインダーに加えて、被覆剤は、少なくとも1つの顔料をさらに含む。
【0045】
この構成は、非常に有利である。なぜならば、有機ケイ素化合物のゾル-ゲル加水分解生成物または有機ケイ素化合物の混合物を使用することにより、強すぎず、しかし十分な密着強度を有する顔料塗膜の有利な特性を調整することが非常に容易であるためである。しかし、すでに示されているように、このような塗膜は、裏面または下面コートとして使用すべくガラスまたはガラスセラミック基材上に単層を形成するのには適していない。なぜならば、これらの層は、過度に焼き付けられており、したがって多孔性が高すぎるため、自己シーリング性(すなわち、本開示による非常に優れた耐油性)を示さないか、あるいは焼付されずに乾燥しかされておらず、したがって温度安定性が十分でないためである。なぜならば、これを備えた調理機器を後で作動させた際に、すなわち熱負荷下になると焼付けが生じ、したがって塗膜の封止性が経時的に低下するためである。また、焼付が行われていない塗膜は、優れた密着強度を有しておらず、それゆえ、十分な耐擦傷性も有していない。
【0046】
しかし今般、単層として実施した場合にすでに耐擦傷性とシーリング性とを有する塗膜を含むガラスまたはガラスセラミックプレートを提供することが驚くほど容易に可能となった。
【0047】
ガラスまたはガラスセラミックプレートの一実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミックプレートにおいて、EN 1288-5に準拠して二重リング法で測定された曲げ強さは、(少なくとも2つの試料の試料全体での算術平均値として求めた場合に)少なくとも140MPa、有利には最大で250MPaである。これにより、ガラスまたはガラスセラミックプレートの機械的安定性が有利に支援される。一実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミックプレートは、少なくとも100MPaの曲げ強さの5%フラクタイルを有し、有利には、5%フラクタイルを求めるために少なくとも18個の試料を使用する。
【0048】
一実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミックプレートにおいて、UL 858に準拠した球落下試験で測定された耐衝撃性は、少なくとも2つの試料の試料全体での算術平均値として求めた場合に、少なくとも45cm、有利には少なくとも60cm、有利には少なくとも70cm、有利には少なくとも80cm、特に好ましくは少なくとも90cmであり、ここで、耐衝撃性は、ガラスまたはガラスセラミックプレートの下面に配置された塗膜について求められる。さらに、一実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミックプレートにおいて、UL 858に準拠した球落下試験で測定された耐衝撃性は、5%フラクタイルで少なくとも35cm、有利には少なくとも40cm、特に好ましくは少なくとも45cmまたはそれ以上である。また、耐衝撃性の測定のために、塗膜は、試料の下面に配置されており、すなわち、衝撃(または試験における球落下)により、試料あるいはガラスまたはガラスセラミックプレートの上面に荷重がかかり、実施形態による塗膜は、これとは反対側の試料/ガラスまたはガラスセラミックプレートの面に配置されている。
【0049】
すでに説明したように、ガラスまたはガラスセラミックプレートの下面とは、プレートの操作使用時に操作者/視認者/使用者に背を向けたプレートの面であると理解される。例えば、下面に突起を付与することが可能であり、また好ましい場合さえあり、なぜならば、こうすることで、プレートの特に高い強度、特にまた耐衝撃性をも設定できるためである。しかし、プレートの両面を平滑にすることが提供されていてもよく、なぜならば、これにより、特に、表示エレメントを、プレートが装備された機器の制御エレメントの部品としてプレートの下方に組み込むことがより容易になるためである。
【0050】
ガラスまたはガラスセラミックプレートのさらなる一実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミックプレートは、塗膜が配置されている領域において、DIN 5036 Part 1に準拠して測定された0.08%未満、好ましくは0.04%未満、特に好ましくは0.02%未満の光透過率を有する。光透過率のデータは、好ましくは、ガラスまたはガラスセラミック基材上に実施形態による塗膜のみが配置されている領域に関するものである。
【0051】
よって、言い換えれば、塗膜は、ほぼ不透明または隠蔽性となるように形成されている。
【0052】
これは、有利には、塗膜中の顔料対バインダーの適切な比によって支援することができる。ガラスまたはガラスセラミックプレートの一実施形態によれば、塗膜中の顔料対バインダーの比は、それぞれ重量割合に基づいて、0.8~1.3、有利には1:1~1:2.5、特に好ましくは1:1.3~1:2である。このようにして、塗膜の良好な隠蔽効果が有利に保証される。さらに、このようにして、ガラスまたはガラスセラミックプレートを、高い強度と同時に塗膜の十分な密着強度も得られるように構成することも可能である。
【0053】
本開示の範囲において「顔料対バインダー」の比について言及する場合、本明細書では常に、塗膜に含まれる顔料の合計が意図されている。ここで、顔料とは、粒子を含む着色体、特に無機着色体、有利にはセラミックの、すなわち無機非金属着色体であると理解される。例えば、塗膜の特定の色および/または他の特性の1つを調整するために、塗膜が複数の顔料、例えば、異なる色または色の濃淡を有する顔料含むことが可能であり、また必要である場合がある。この場合、顔料・バインダー比の数値は、塗膜に含まれる顔料の総和、すなわち総顔料割合に対するものである。
【0054】
さらなる一実施形態によれば、塗膜は効果顔料を含み、総顔料割合に対する効果顔料の割合は、50重量%~100重量%、好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは88重量%~98重量%である。
【0055】
少なくとも1つの効果顔料を含むような塗膜の構築は、通常、特定の外観を調整するために行われる(「メタリックコーティング」)。しかし、効果顔料が、塗膜内で他の機能も発揮し得ることが判明した。なぜならば、多くの効果顔料、例えばいわゆる真珠光沢顔料の総じてフレーク状の形成によって、塗膜の有利な特性、例えば高い耐摩耗性の形成をさらに支援することができるためである。したがって、有利には、総顔料割合に対する効果顔料の割合が低すぎず、例えば少なくとも50重量%、有利には少なくとも70重量%、特に好ましくは少なくとも88重量%であることが提供されていてよい。
【0056】
総じて、着色体としての塗膜-あるいは効果顔料の特別な場合には「効果体」としての塗膜も-効果顔料を1つのみ含むことは可能であり、したがって、総顔料割合に対する効果顔料の割合も100重量%とすることができる。しかし、その含有量がより少なく、例えばわずか98重量%であると有利でかつ好ましい場合がある。このことは特に、効果顔料自体が呈色しておらず、例えば純粋な「銀白色」の真珠光沢顔料であると好ましい場合がある。この場合、つまり塗膜の十分に高い光学濃度の設定は、-言い換えれば、塗膜を「隠蔽性」とすることは-、層厚を非常に厚くするだけで達成可能であろう。よって、塗膜の隠蔽効果を高めるために、吸収および/または散乱によって呈色する少なくとも1つのさらなる顔料または必要に応じて複数の他の顔料もさらに添加することが有利である場合がある。また、特定の色の印象、特に濃色を達成するために、効果顔料に加えて、少なくとも1つのさらなる顔料、特に吸収顔料または白色顔料が塗膜に含まれていると有利である場合がある。
【0057】
当然のことながら、塗膜が効果顔料を含まないことも可能である。
【0058】
上記のように、実施形態による塗膜は、単層として形成されており、かつすでに単層として耐擦傷性とシーリング性とを兼ね備えるように形成されている。
【0059】
塗膜が単層として形成されていることは、実施形態によるガラスまたはガラスセラミックプレートが、塗膜も配置されるプレートの面上に単一の塗膜しか含んではならないことを意味するものではない。その面に1つ以上のさらなる塗膜が配置されていることは可能であり、また様々な理由から好ましい場合もある。しかし、さらなる塗膜は、第1の塗膜の特性を決定づけるものではなく、例えば、電子部品などの動作のための機能層などとして施与されていてよい。この場合、塗膜の有利な特性は、基材と塗膜との間や塗膜自体にさらなる塗膜が配置されておらず、塗膜自体のみが配置されたガラスまたはガラスセラミックプレートの領域で決定することができる。
【0060】
こうして本発明者らは、単層であっても下面または裏面コートとして適している塗膜を提供する可能性を初めて拓いた。説明したように、このことは、被覆剤が2つの有機ケイ素プリカーサーを含むように被覆剤を特別に構成することによって有利に可能となる。ここで、本発明者らは、シリコーン樹脂の添加が十分な封止性を確保する役割を担っているものと推測している。
【0061】
したがって、一態様によれば、本発明はまた、本開示の実施形態によるガラスまたはガラスセラミックプレートの製造方法であって、
- ガラスまたはガラスセラミック基材を提供する工程と、
- 顔料と、2つの有機ケイ素プリカーサーを含むバインダーとを含む被覆剤を提供し、ここで、一方の有機ケイ素プリカーサーは、シリコーン樹脂であり、他方の有機ケイ素プリカーサーは、ゾル-ゲル加水分解生成物であるものとする、工程と、
- 被覆剤をガラスまたはガラスセラミック基材の片面に施与して、塗膜を好ましくは印刷法によって形成する工程と、
- 塗膜を、少なくとも200℃、最高で400℃の温度で少なくとも10分間、最高で120分間、好ましくは少なくとも250℃、最高で330℃の温度で少なくとも30分間、最高で90分間、特に最高で60分間、特に好ましくは少なくとも300℃、最高で320℃の温度で少なくとも30分間、最高で60分間にわたって焼き付ける工程と
を含む方法に関する。
【0062】
このような方法により、実施形態によるガラスまたはガラスセラミックプレートの製造が可能となるだけでなく、さらに、プロセス制御が容易になるという利点も得られる。特に、本開示の方法によれば、いまや単層が施与されるため、すなわち物流上で各種ペーストの在庫を保管しておく必要がないため、生産に関わる物流コストが著しく削減される。そして、塗膜の所望の色合いが非常に薄い場合に、場合によっては最初の明色の塗膜の上により濃いがシーリング性のある層が施与されることによる上方からの、すなわち基材越しの色度の変化を考慮する必要もなくなる。なぜならば、まさにこの組み合わせでは、最初の層が十分に不透明でなかった、あるいは透き通っていたら、より濃い色の背面印刷によって最初の塗膜の色度が変わってしまう場合があることが以前に起こり得たためである。
【0063】
本開示のさらなる一態様によれば、本発明はさらに、一実施形態による方法で製造されたまたは少なくとも製造可能であるガラスまたはガラスセラミックプレートにも関する。
【実施例0064】
以下の表に、実施形態によるガラスまたはガラスセラミックプレートが得られる3つの被覆剤あるいはペーストの組成を例として示す。
【0065】
【0066】
上表による例示的なペーストの組成は、固体成分として、フィラーに加えて、ここでは複数の真珠光沢顔料と、白色顔料と、濃色成分としてのグラファイトとを含む。これらの成分は、その割合が可変であり、ここでは特に好ましい色度を達成するために使用されている。したがって、他の真珠光沢顔料を使用することも可能であり、また1つだけを使用することも可能である。白色顔料として、例えばTiO
2を使用することができる。実施形態によるガラスまたはガラスセラミックプレートを製造するための被覆剤あるいはペーストの全般的な組成範囲を以下にまとめる:
【表3】
【0067】
顔料、すなわち白色顔料、真珠光沢顔料および他の顔料(特に、例えばスピネルなどの吸収顔料、すなわち特に高温安定性の酸化物系顔料を含む)に関しては、それぞれ合計を示す。よって、ペーストあるいは被覆剤は、真珠光沢顔料を1つのみ含むことも複数含むこともでき、その場合、被覆剤に含まれるすべての真珠光沢顔料の合計は、最大でも53.9重量%である。したがって、被覆剤は、白色顔料を1つのみ含むことも複数含むこともでき、その際、すべての白色顔料の合計は、前述の限度内にあり、他の顔料についても同様である。
【0068】
さらに、真珠光沢顔料に加えて、他の効果顔料が含まれていてもよい。ただし、真珠光沢顔料と他の効果顔料との合計は、53.9重量%を超えてはならない。他の効果顔料は、例えば、Al2O3、SiO2またはホウケイ酸ガラスフレークをベースとすることができ、異なる塗膜を有することができる。このような効果顔料を用いることで、色の印象と、例えばグリッター効果やメタリック効果といったさらなる効果との双方を達成することができる。
【0069】
ゾル-ゲル加水分解生成物を製造するための組成の一例を、以下の表に示す:
【表4】
【0070】
シランを装入し、p-トルエンスルホン酸を水に溶解させて加えた。1時間撹拌した後、得られたエタノールを留去した。
【0071】
【0072】
本発明につき、以下に図面を参照してさらに説明する。
したがって、塗膜は、ガラスまたはガラスセラミックプレートの、ガラスまたはガラスセラミック基材上に塗膜のみが配置された領域において、DIN-ISO 1518-1に準拠した試験における7N超、好ましくは最大で30Nの耐擦傷性を有する。
有利には、耐擦傷性は、特に層剥離を考慮した場合、16N超、例えば17Nまで、またはさらには18Nまでとすることもできる。したがって、一実施形態によれば、耐擦傷性を16N以上とすることが可能であり、すなわち、本実施形態によれば、引掻試験において、言及された荷重では層剥離が生じない。
しかし、耐擦傷性が高すぎることは、層の密着性が良すぎることと相関しており、これは、プレートの機械的耐久性の大幅な低下を招きかねないため、使用者から背を向けたプレートの面に配置されることが想定される塗膜(下面コートまたは裏面コート)の場合には不利である。したがって、一実施形態によれば、塗膜の耐擦傷性は、最大で30Nである。
ここで、本開示の範囲において、「ガラスまたはガラスセラミックプレートの、ガラスまたはガラスセラミック基材上に塗膜のみが配置された領域において」という表現は、総じて、この場合、塗膜が配置された面を指すものと理解される。プレートの他方の面には、例えば、調理ゾーンマーキング用のセラミック装飾のような別の塗膜がさらに施されていてよい。しかし、当業者には容易に理解できるように、塗膜の耐擦傷性、そしてまた耐油性にとって重要であるのは、基材に対する塗膜の密着性あるいはその固有の封止性のみであり、当然のことながら、必要に応じてプレートの反対側の面に配置される上面装飾のようなさらなる塗膜ではない。
少なくとも2つの試料の試料全体での算術平均値として求めた場合に、UL 858に準拠した球落下試験で測定された、少なくとも45cm、有利には少なくとも60cm、有利には少なくとも70cm、有利には少なくとも80cm、特に好ましくは少なくとも90cmの耐衝撃性を有し、ここで、前記耐衝撃性は、前記ガラスまたはガラスセラミックプレートの下面に配置された塗膜について求められたものである、請求項1または2記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
前記ガラスまたはガラスセラミックプレートは、前記塗膜が配置されている領域において、DIN 5036 Part 1に準拠して測定された、0.08%未満、好ましくは0.04%未満、特に好ましくは0.02%未満の光透過率を有する、請求項1記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
前記塗膜中の顔料対バインダーの比は、それぞれ重量割合に基づいて、1:0.8~1:3、有利には1:1~1:2.5、特に好ましくは1:1.3~1:2である、請求項1記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
前記塗膜は、効果顔料を含み、総顔料割合に対する前記効果顔料の割合は、50重量%~100重量%、好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは88重量%~98重量%である、請求項1記載のガラスまたはガラスセラミックプレート。
前記被覆剤中のゾル-ゲル加水分解生成物対シリコーン樹脂の比は、重量に基づいて、1:0.2~1:0.02、好ましくは1:0.09~1:0.035である、請求項7記載の方法。