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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160189
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】治療デバイスキット
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/704 20060101AFI20241106BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K31/704
A61K39/395 T
A61K31/337
A61K31/282
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156771
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】有馬 大貴
(72)【発明者】
【氏名】野沢 滋典
(72)【発明者】
【氏名】平光 真樹
(72)【発明者】
【氏名】大津 恵子
(72)【発明者】
【氏名】米田 善紀
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB13
4C076CC27
4C076FF12
4C085AA14
4C085AA26
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086EA10
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB16
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】より抗腫瘍効果の高い手法を提供することを目的とする。
【解決手段】免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤と、抗がん剤を直接腫瘍組織に投与可能な投与デバイスと、を有する治療デバイスキットであって、抗がん剤は、投与デバイスを用いて投与されることで抗腫瘍免疫の活性化を誘導する、治療デバイスキット。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤と、
前記抗がん剤を直接腫瘍組織に投与可能な投与デバイスと、を有する治療デバイスキットであって、
前記抗がん剤を前記投与デバイスを用いて投与されることで抗腫瘍免疫の活性化を誘導する、治療デバイスキット。
【請求項2】
前記抗がん剤が免疫チェックポイント阻害剤と、組み合わせて投与されるように用いられる、請求項1に記載の治療デバイスキット。
【請求項3】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体および抗CTLA-4抗体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の治療デバイスキット。
【請求項4】
前記腫瘍が固形がんである、請求項1~3のいずれか1項に記載の治療デバイスキット。
【請求項5】
前記抗がん剤が、ドキソルビシン、エピルビシン、オキサリプラチン、パクリタキセルおよびこれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の治療デバイスキット。
【請求項6】
前記投与デバイスが、体外から腫瘍まで穿刺可能な長さの注入針を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の治療デバイスキット。
【請求項7】
前記投与デバイスが、前記注入針を格納する外筒を備える、請求項6に記載の治療デバイスキット。
【請求項8】
前記投与デバイスが前記抗がん剤を投与すると同時に注入圧力を測定および報知する、請求項1~7のいずれか1項に記載の治療デバイスキット。
【請求項9】
前記投与デバイスが注入針の先端あるいは側面に薬液排出孔を持つ、請求項1~8のいずれか1項に記載のデバイスキット。
【請求項10】
前記投与デバイスが、前記注入針内に抗がん剤を安全に充填するための機構を備える、請求項1~9のいずれか1項に記載のデバイスキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療デバイスキットに関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療における化学療法で用いられる抗がん剤の投与方法として静脈投与は標準的な投与方法である。しかしながら、抗がん剤の静脈投与は、腫瘍内に到達できる薬剤量が少なく、治療効果が低減する場合があり、また、全身性の副作用が表れるといった問題点がある。
【0003】
一方、免疫系を疾患の治療に応用する、がん免疫療法が注目を集めている。免疫系の機能は、一般に、液性免疫および細胞性免疫という2種の機構を介して発現する。細胞性免疫は、がん細胞の殺傷・排除を行う能力を有しているため、がん免疫療法において重要な働きとなることが判明している。細胞性免疫を構成する細胞の中でも、細胞傷害性T細胞(以下、単にCTLとも称する)は、がん細胞を殺傷する主な働きを担っている。
【0004】
CTLの誘導は、通常、以下のように発現する。すなわち、ウイルス感染細胞やがん細胞で産生されるタンパク質等の内因性抗原が、ユビキチン化された後、プロテアソームによってペプチドにまで分解される。分解されたペプチドは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子と結合し、得られた複合体が抗原提示細胞の表面でCD8陽性T細胞に提示されて、CD8陽性T細胞が活性化される。そして、活性化されたCD8陽性T細胞が、CTLへと分化する。CTLの誘導は、効果の高いがん免疫療法に必要な要因となっている。
【0005】
例えば、特許文献1では、抗原特異的免疫応答を高めるためのワクチン用アジュバントとしてのMHCクラスIIリガンドまたはMHCクラスII様リガンドが開示されている。
【0006】
一方、異なる免疫システムを利用することで、薬剤の組み合わせによる抗腫瘍効果の増大を期待して、2つの薬剤を組み合わせるがん免疫療法についても検討がなされている。例えば、特許文献2では、PE38短縮型シュードモナス(Pseudomonas)外毒素に融合された単鎖可変領域抗体を含む免疫毒素と、免疫チェックポイント阻害剤と、を組み合わせてなる、腫瘍を治療するための医薬が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001-510806号公報
【特許文献2】特表2018-533626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、効率よく抗腫瘍免疫を誘導/活性化し、より抗腫瘍効果の高い手法が求められている。
【0009】
したがって、本発明は、より抗腫瘍効果の高い手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤と、抗がん剤を直接腫瘍組織に投与可能な投与デバイスと、を有する治療デバイスキットであって、抗がん剤は、投与デバイスを用いて投与されることで抗腫瘍免疫の活性化を誘導する、治療デバイスキットである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より抗腫瘍効果の高い治療デバイスキットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】マウス薬効評価における各群の腫瘍体積を示すグラフである。
図2】マウス薬効評価における各群の生存曲線を示す図である。
図3】フローサイトメトリーにおけるゲーティングフローチャートを示す図である。
図4】フローサイトメトリーを用いたCTL活性化評価(マウス)における各群のTotal.CTL数を示すグラフである。
【0013】

図5】フローサイトメトリーを用いたCTL活性化評価(マウス)における各群のAH-1 specific CTL数を示すグラフである。
図6】フローサイトメトリーを用いたCTL活性化評価(マウス)における各群のCD69+CTL数を示すグラフである。
図7】抗がん剤の投与方法の第1実施形態に使用される投与デバイスを含む治療デバイスキットを示す図である。
図8】注入針の先端部を示す図である。
図9】注入針の先端部を示す図である。
図10】投与デバイスを構成する外筒の構成について示す図である。
図11】投与デバイスを構成する外筒の構成について示す図である。
図12】治療デバイスキットを構成する補助具について示す図である。
図13】治療デバイスキットを構成する補助具について示す図である。
図14】抗がん剤の投与方法の第2実施形態に使用される内視鏡および投与デバイス等を示す概略図である。
図15図14に示す内視鏡の先端部を示す図である。
図16図14に示す内視鏡を用いて患部に抗がん剤を投与する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0015】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0016】
本発明の一態様は、免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤と、抗がん剤を直接腫瘍組織に投与可能な投与デバイスと、を有する治療デバイスキットであって、抗がん剤は、投与デバイスを用いて投与されることで抗腫瘍免疫の活性化を誘導する、治療デバイスキットである。
【0017】
以下、各構成要素を説明する。
【0018】
[免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤」
「免疫原性細胞死」とは、通常、カルレティキュリン、ATP、HMGB1に代表されるDAMPsの表出または放出を伴う、免疫細胞に非自己として認識されやすい形での細胞死を指す。
【0019】
免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤(以下、単に抗がん剤とも称する)としては、ドキソルビシン、エピルビシン、オキサリプラチン、パクリタキセルおよびこれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ドキソルビシンおよび/またはその薬学的に許容される塩であることがより好ましい。すなわち、本発明の好適な一態様は、ドキソルビシンおよび/またはその薬学的に許容される塩と、ドキソルビシンおよび/またはその薬学的に許容される塩を直接腫瘍組織に投与可能な投与デバイスと、を有する治療デバイスキットである。ドキソルビシン塩としては、例えば、ドキソルビシン塩酸塩が挙げられる。
【0020】
上記薬学的に許容される塩としては、アミノ基などの塩基性基、ヒドロキシル基およびカルボキシル基などの酸性基における塩を挙げることができる。
【0021】
塩基性基における塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸、硝酸および硫酸などの無機酸との塩;ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩が挙げられる。
【0022】
酸性基における塩としては、例えば、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N、N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミンおよびN、N’-ジベンジルエチレンジアミンなどの含窒素有機塩基との塩などが挙げられる。
【0023】
抗がん剤は、例えば、後述する投与デバイスを用いて投与されることで、抗腫瘍免疫の活性化を誘導する。抗腫瘍免疫の活性化は、例えば、抗がん剤の投与量によっても誘導が制御される。ここで、「抗腫瘍免疫の活性化」とは、具体的には、抗がん剤を投与しないコントロールと比較して細胞傷害性T細胞(CTL)数が150%以上、好ましくは170%以上、より好ましくは200%以上増加していることを指す。また、細胞傷害性T細胞(CTL)数は、後述の実施例に記載のTotal.CTL数の測定方法により測定することができる。
【0024】
抗がん剤の投与量は、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。本実施態様の治療デバイスキットによれば、免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤によって、抗腫瘍免疫の活性化を引き起こすことができる。ゆえに、通常の抗がん剤の投与量よりも投与量を低減できることが見込まれる。ヒトにおいて抗がん剤の投与量は、例えば、0.1mg/Kg/Day以下であり、0.01~0.1mg/Kg/Dayであってもよく、0.020~0.070mg/Kg/Dayであってもよい。なお、全身投与の場合、抗がん剤、例えば、ドキソルビシン塩酸塩は通常、0.20mg/Kg以上の投与を要する。また、抗がん剤の腫瘍体積あたりの投与量は、例えば、腫瘍組織100mmあたり6μg以上であり、60μg以下であってもよく、20μg以下であってもよい。
【0025】
1クールあたりの抗がん剤の投与回数も特に制限されず、単回投与であっても、複数回投与であってもよく、例えば1クールあたり1回~3回投与することができる。また、抗がん剤は、1~4週間程度の間隔で反復投与が可能である。さらに、腫瘍が複数ある場合、抗がん剤を複数の腫瘍に投与してもよい。
【0026】
抗がん剤は、所望の製品形態に応じた製薬上許容されうる添加剤などとともに組成物を構成してもよい。
【0027】
「製薬上許容されうる」とは、正しい医学的判断の範囲内で、妥当な便益/リスク比に見合って、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応等の問題や合併症なしに、ヒトおよび動物の組織に接触しての使用に好適な、化合物、材料、組成物、および/または投薬形態を指すために使用される。
【0028】
製薬上許容されうる添加剤としては、溶媒(例えば生理食塩水、注射用水、緩衝液など)、膜安定剤(例えばコレステロールなど)、等張化剤(例えば塩化ナトリウム、グルコース、グリセリンなど)、抗酸化剤(例えばトコフェロール、アスコルビン酸、グルタチオンなど)、防腐剤(例えばクロルブタノール、パラベンなど)などを含みうる。生理食塩水とは、人体と等張になるように調整された無機塩溶液を意味し、さらに緩衝機能を持っていてもよい。生理食塩水としては、塩化ナトリウムを0.9w/v%(重量/体積パーセント)含有する食塩水、PBSおよびトリス緩衝生理食塩水等が挙げられる。
【0029】
[投与デバイス]
投与デバイスは、抗がん剤を腫瘍組織に直接投与できれば、具体的な構成は特に限定されないが、以下に2つの投与デバイスについて例示的に説明する。
【0030】
(抗がん剤投与デバイスの第1実施形態)
図7は投与デバイス100を含む治療デバイスキット1を示す概略図である。治療デバイスキット1は、図7を参照して概説すれば、医療デバイス200と、投与デバイス100と、器具300と、補助具400と、を含む。以下、詳述する。
【0031】
(医療デバイス)
医療デバイス200は、図7に示すように筒部210と、押圧部220と、シール部材230と、接続部材240と、を備える。
【0032】
筒部210は、抗がん剤を収容する半閉空間を設けている。筒部210は、円筒等の筒形状に構成しており、筒形状の軸方向における両端に開口部を設けている。一方の開口部(基端側開口部とも呼ぶ)には押圧部220を移動可能に配置することができる。他方の開口部(先端側開口部とも呼ぶ)には、接続部材240を取り付けることができる。
【0033】
押圧部220は、筒部210の半閉空間の大きさを増減可能な押し子を含む。押圧部220の押し子は、先端側を筒部210の半閉空間に収容し、基端側を筒部210の外部に配置するように構成している。押圧部220の押し子は、筒部210の軸方向において筒部210に対して相対的に移動することによって薬剤(抗がん剤、以下、薬剤とも称される)が収容される半閉空間の大きさを変えるように構成している。
【0034】
押圧部220の押し子によって筒部210の半閉空間の大きさが減少することによって、半閉空間に収容されていた薬剤は減少した分、注入針120の内腔に流通し、患者に投与され得る。なお、押圧部220の押し子は、術者が手指等で把持することによって手動で動作させてもよいし、モータとギヤ等の機械要素を適宜組み合わせることによって押し子を動作させてもよい。
【0035】
シール部材230は、押圧部220の押し子の軸方向における先端部に取り付けるように構成している。シール部材230は、筒部210の内壁と摺動可能に篏合することによって筒部210の半閉空間に収容された薬剤が注入針120以外から流通することを防止する。
【0036】
接続部材240は、筒部210の先端側における開口部に取り付けられる。接続部材240は、内部に薬剤を流通できるように中空に構成している。接続部材240は、筒部210の先端部に取り付けられ、接続部材240の内腔は筒部210の半閉空間と連通するように構成している。
【0037】
(投与デバイス)
投与デバイス100は、図7等に示すように内筒110と、注入針120と、外筒130と、検出部140と、報知部150と、制御部(図示省略)と、を備える。
【0038】
内筒110は、医療デバイス200と接続され、注入針120とともに医療デバイス200から流通する抗がん剤の送液路を内部に設けている。内筒110は、本実施形態において円筒形状の側面において径方向外方に医療デバイス200との接続部111を設けている。また、内筒110の内部に設けた送液路の経路には後述する検出部140を設けている。
【0039】
注入針120は、生体の腫瘍組織に抗がん剤を直接投与できるように構成している。注入針120は、細径の中空部材を含み、中空部材の内部に内筒110の送液路と連通する送液路を設け、先端に送液路と連通する先端開口部を設けるように構成している。注入針120の寸法は、体表から体内に存在する腫瘍に穿刺できるように、投与対象および腫瘍位置によって適宜選択される。対象がヒトである場合、体表から体内に存在する腫瘍に穿刺できるように長手方向の寸法を150mm以上に構成することができる。注入針120の寸法は、例えば50~300mmであってもよい。
【0040】
図8は注入針120において薬剤を吐出する開口部を示す図、図9は注入針120の変形例に係る注入針120aにおいて薬剤を吐出する開口部を示す図である。注入針120は、本実施形態において抗がん剤を吐出する開口部を図8に示すように長手方向において先端側を向くように設けている。ただし、注入針の開口部はこれに限定されず、上記以外にも図9の注入針120aに示すように長手方向の先端部付近において先端側を向く部位を中実にし、先端部付近から径方向外方に薬剤を吐出する開口部を設け、当該開口部を周方向に複数設けてもよい。径方向に開口部がある形態において、先端は鋭利であってもよい。本発明の一態様は、投与デバイスが注入針の先端あるいは側面に薬液排出孔を持つ。
【0041】
また、注入針120は、後述する補助具400を用いた状態で注入針120の送液路の先端まで抗がん剤を流通させる操作(プライミング)を行うことができる。補助具400については後述する。本発明の他の一態様は、投与デバイスが、注入針内に抗がん剤を安全に充填するための機構を備える。
【0042】
外筒130は、内筒110の少なくとも一部を格納可能な基部131と、注入針120の先端部を格納可能な先端部132と、を備える。図10図11は外筒130の基部131および先端部132について示す図である。基部131と先端部132は、本実施形態において注入針120の長手方向において連なるように形成している。基部131と先端部132は図10に示す二点鎖線L1によって区別され、基部131および先端部132は、各々「外筒」と呼ばれ得る。
【0043】
検出部140は、内筒110の内部に設けた送液路に設けるように構成している。検出部140は、注入針120によって患部に抗がん剤を投与する際の注入圧力を測定可能なセンサを含む。検出部140のセンサは送液路を流通する抗がん剤の圧力を測定できれば特に限定されないが、一例としてダイヤフラム式のセンサを挙げることができる。
【0044】
報知部150は、検出部140のセンサによって測定された抗がん剤の注入時の圧力を報知可能に構成している。報知部150は、検出部140のセンサから内筒110の基端側を通じて内筒110の外部に導出される配線等によって検出部140と電気的に接続可能に構成している。
【0045】
報知部150は、検出部140に係るセンサによる圧力値を使用者に報知できれば具体的な構成は特に限定されないが、一例として数値やグラフなどによって圧力値を映像により表示する液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等を含むようにできる。
【0046】
制御部は、投与デバイス100において検出部140や報知部150のような電気的に接続された構成を制御するために設けられる。制御部は、CPU、GPUなどのプロセッサ、RAM等の主記憶、ROM、HDDやSSD等の補助記憶を含むように構成している。制御部は報知部150の筐体の内部等に収容できる。
【0047】
(器具)
器具300は、補助具400と接続した状態で使用者の操作により補助具400の筒部410の第1半閉空間413を負圧にするように構成している(図12、13)。器具300は、図7に示すように筒部310と、押圧部材320と、シール部材330と、接続部材340と、を備える。
【0048】
筒部310は、医療デバイス200の筒部210と同様であり、押圧部材320は押圧部220と同様であり、シール部材330はシール部材230と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0049】
接続部材340は、気体等の流体を流通可能なチューブ等の中空部材を備えるように構成している。術者は接続部材340の一方を筒部310に取り付け、他方を補助具400の接続部440に取り付けた状態で筒部310の半閉空間が増加するように押圧部材320を移動させる操作を行う。これにより、補助具400における筒部410の第1半閉空間413を負圧にすることができる。
【0050】
なお、器具300は本実施形態において医療デバイス200と同様の部材を備えるように構成しているが、補助具400の第1半閉空間413を負圧にできれば、具体的な構成は医療デバイス200と同様の構成に限定されない。
【0051】
(補助具)
図12図13は補助具400の説明に供する図である。補助具400は、注入針120の送液路に抗がん剤を流通させるプライミングの際に注入針120の先端から抗がん剤が外部に漏出することで抗がん剤が医療従事者や患者に飛散することなどを防止する。補助具400は、図12等に示すように筒部410を備える。補助具400の筒部410は、ストッパー420と、弁部材430と、接続部440と、を備える。
【0052】
筒部410は、抗がん剤が流通可能な中空の注入針120の先端部を包囲できるように内部空間を構成する第1半閉空間413と第2半閉空間414とを設けている。筒部410は、第1半閉空間413および第2半閉空間414を設けた円筒等の筒形状に構成している。ただし、筒部410は、プライミング時に薬剤が外部に漏出することを防止できれば、具体的な形状は円筒に限定されず、円筒以外の他の角筒(多角柱)等によって構成してもよい。
【0053】
筒部410は、筒形状の軸方向において先端側と基端側の両方に第1半閉空間413または第2半閉空間414を外部と連通させる開口部を設けている。本明細書では第1半閉空間413を外部と連通させる先端側の開口部を第1開口部411、第2半閉空間414を外部と連通させる基端側の開口部を第2開口部412と呼ぶ。第1半閉空間413の図12における注入針120の挿入方向の寸法(縦方向の寸法d1)は注入針120が挿入時に注入針120と対向する壁部415に接触しない、または到達しにくい程度に構成できる。また、筒部410は透明な材料から構成することによってプライミングの際に第1半閉空間413で注入針120から抗がん剤が飛散することを目視にて確認し、プライミングの完了を確認しうる。
【0054】
ストッパー420は、本実施形態において筒部410の内部空間である第2半閉空間414に設けられる。ストッパー420には投与デバイス100の注入針120を挿通させ、注入針120以外の針管の挿通を妨げる第3開口部421を設けるように構成している。
【0055】
第3開口部421は、筒部410の第1半閉空間413に進入する方向から軸方向に進むにつれて軸方向に交差する断面の面積が小さくなるように構成している。そのように構成することによって、注入針120を第3開口部421に挿入しやすくすることができる。第3開口部421は、本実施形態において径方向の寸法が段階的に変化する段付き形状を備えるように構成している。ただし、第3開口部は段付き形状に代えて、または段付き形状に加えてテーパー形状を備えるように構成してもよい。
【0056】
弁部材430は、筒部410の内部空間の軸方向において第2開口部412に隣接して設けている。筒部410の内部空間は、弁部材430によって第1開口部411側の第1半閉空間413と第2開口部412側の第2半閉空間414とに分割できる。
【0057】
弁部材430は、医療デバイス200のシール部材230を構成する弾性変形可能な弾性部材と同様の部材によって構成できる。弁部材430は、筒部410の軸方向に交差する断面形状と同様に断面形状を略円形状に構成している。弁部材430は、本実施形態においてストッパー420に隣接して設けている。
【0058】
弁部材430は、本実施形態において図12等に示すように略中央部において切り込み431を設けるように構成している。これにより、注入針120の先端部は、図13に示すように筒部410の第2開口部412から弁部材430を弾性変形させることによって、切り込み431から弁部材430を挿通して筒部410の第1半閉空間413に進入させる(挿入する)ことができる。
【0059】
弁部材430は、注入針120の先端部を第1半閉空間413に挿入した状態において注入針120を保持する。弁部材430は、注入針120を挿通させた状態において内部空間における第2開口部412の側から抗がん剤の漏出を防止する。
【0060】
弁部材430の切り込み431は、本実施形態において十字に形成している。ただし、注入針120が弁部材を挿通でき、挿通した状態で挿通箇所から抗がん剤が流出しなければ、切り込みの具体的な形状は十字に限定されない。また、注入針120を弁部材と密着した状態で注入針120の先端部を第1半閉空間413に挿入できれば、弁部材には切り込みを設けなくてもよい。
【0061】
接続部440は、筒部410の軸方向において第1開口部411の側に設けている。接続部440は、後述するように筒部410の第1半閉空間413(内部空間)を負圧にする器具300との接続を可能に構成している。
【0062】
接続部440は、第1開口部411を設け、第1開口部411は筒部410の第1半閉空間413と連通するように構成している。これにより、接続部440に器具300の接続部材340等を取り付けた状態で器具300を操作することによって、筒部410の第1半閉空間413を負圧にすることができる。
【0063】
接続部440は、本実施形態において筒部410と同様に軸線が注入針120の挿入方向と平行な中空の円筒形状に構成している。ただし、器具300と接続した状態で器具300を操作することによって筒部の第1半閉空間を負圧にできれば、接続部の具体的な形状は上記に限定されず、筒部と同様に多角柱等の他の筒形状によって構成してもよい。補助具400については、半閉空間413を陰圧にする方式に限らず、器具300を持たず、医療デバイス200の押し子を動作させ210内を陽圧にすることで、413内に薬剤を押し出す方式でもよい。
【0064】
なお、治療デバイスキット1を構成する材料は特に限定されない。ただし、材料について例示すれば、内筒110、外筒130、筒部210、筒部410、押圧部220、押圧部材320、接続部材240、接続部材340等をポリプロピレンやポリエチレンなどのプラスチックによって構成できる。シール部材230およびシール部材330はブチルゴム、シリコンゴムまたはエラストマー等によって構成できる。注入針120はステンレス鋼等によって構成できる。
【0065】
(使用例)
次に本実施形態に係る治療デバイスキット1の使用例について説明する。まず、医師などの術者は、医療デバイス200の接続部材240を投与デバイス100の接続部111に接続し、器具300の接続部材340を補助具400の接続部440に接続する。
【0066】
次に、術者は、外筒130の先端部132から注入針120を外部に露出させた状態で投与デバイス100の注入針120の先端部を補助具400の弁部材430の切り込み431に差し込み、注入針120の先端部を筒部410の第1半閉空間413に配置する。次に、術者は器具300の筒部310の内部空間が広がるように押圧部材320を軸方向に移動させる操作を行う。これにより、補助具400の第1半閉空間413が負圧になる。
【0067】
その結果、医療デバイス200の筒部210の内部空間に収容された抗がん剤の少なくとも一部が筒部210の内部空間から注入針120の内腔に移動する。術者は、注入針120の先端部が筒部410の第1半閉空間413に配置された状態で筒部210内に配置された抗がん剤を注入針120の内腔に移動させる操作によって抗がん剤が注入針120の先端部から第1半閉空間413に出たことを目視にて確認できる(プライミング)。
【0068】
次に、術者は、注入針120の先端部を筒部410の第1半閉空間413から抜去し、注入針120を外筒130の先端部132に収容する。注入針120の外表面に抗がん剤が付着した場合、注入針120が筒部410の第1半閉空間413から出る際に注入針120を弁部材430に接触させながら通過させる。これにより、注入針120の外表面に付着した抗がん剤を弁部材430に付着させて筒部410の第1半閉空間413に留めることができる。
【0069】
次に、術者は患者の腹部周辺に小切開部を形成する。そして、術者はエコー下で注入針120およびそれを収容している外筒130の先端部132を経皮的に穿刺し、腫瘍手前までアクセスする。そして、術者は注入針120のみを腫瘍内部に穿刺し、筒部210の内部空間が減少するように押圧部220を筒部210に対して軸方向に相対的に移動させて抗がん剤を患部に投与する(図10参照)。抗がん剤の投与が終了したら、術者は注入針120の先端部を外筒130の先端部132に収容し(図11参照)、投与デバイス100を体内から抜去する。なお、治療デバイスキット1は上記において器具300と補助具400を含むと説明した。ただし、本明細書において説明する抗がん剤によって高い抗腫瘍効果を発揮できれば、治療デバイスキットには器具300と補助具400を含まないものも本発明の一実施形態に含まれる。
【0070】
以上説明したように本実施形態では投与デバイス100の注入針120の長手方向の寸法を50mm以上に構成している。そのため、体表から穿刺してアプローチした注入針120によって腫瘍に穿刺して抗がん剤を患部に投与することができる。すなわち、本発明の一態様は、投与デバイスが、体外から腫瘍まで穿刺可能な長さの注入針を備える。
【0071】
また、投与デバイス100は、外筒130の先端部132が注入針120の先端部を格納可能に構成している。このように構成することによって、抗がん剤の患部への投与後に腫瘍に触れた注入針120が患部から体表までの経路で生体に触れないようにすることができる。そのため、腫瘍播種や抗がん剤の漏れを防止することができる。すなわち、本発明の一態様は、投与デバイスが、さらに注入針を格納する外筒を備える。
【0072】
また、投与デバイス100は、注入針120の送液路に検出部140に係るセンサを配置し、検出部140は検出部140によって測定された圧力を報知する報知部150と電気的に接続するように構成している。これにより、投与デバイス100によって患部に抗がん剤を投与すると同時に抗がん剤注入時の注入圧力を使用者に報知することができる。すなわち、本発明の一態様は、投与デバイスが抗がん剤を投与すると同時に注入圧力を測定および報知する。
【0073】
本発明の一態様は、免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤と、抗がん剤を直接腫瘍組織に投与可能な投与デバイスと、を有する治療デバイスキットであって、抗がん剤は、体外から腫瘍まで穿刺可能な長さの注入針を備える投与デバイスを用いて投与される。
【0074】
本発明の一態様は、免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤と、抗がん剤を直接腫瘍組織に投与可能な投与デバイスと、を有する治療デバイスキットであって、投与デバイスが抗がん剤を投与すると同時に注入圧力を測定および報知する。
【0075】
本発明の一態様は、免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤と、抗がん剤を直接腫瘍組織に投与可能な投与デバイスと、を有する治療デバイスキットであって、投与デバイスが注入針の先端あるいは側面に薬液排出孔を持つ。
【0076】
本発明の一態様は、免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤と、抗がん剤を直接腫瘍組織に投与可能な投与デバイスと、を有する治療デバイスキットであって、投与デバイスが注入針内に抗がん剤を安全に充填するための機構を備える。
【0077】
(抗がん剤投与方法の第2実施形態)
図14から図16は上述した投与デバイス100を用いた抗がん剤投与の別の形態について説明する図である。抗がん剤の投与方法は第1実施形態以外に以下のように構成することも可能である。
【0078】
図14において抗がん剤は、上述した治療デバイスキット1を使用し、内視鏡を併用して患部に穿刺を行い、抗がん剤を患部に投与する。内視鏡は、図14に示すようにビデオシステム本体10と、ビデオスコープ20と、を備える。本実施形態にて使用する内視鏡は公知のものを使用できるため、以下では内視鏡の中でも投与デバイス100の注入針120に関連する部分を中心に説明する。
【0079】
ビデオシステム本体10は、ビデオスコープ20によって撮像された情報を記録やモニター(ディスプレイ)に表示する処理を行う。
【0080】
ビデオスコープ20は、操作部30と、挿入部40と、を備える。挿入部40は長尺部材を含み、内部に複数のルーメンを設けるように構成している。挿入部40は、図15に示すように撮像ルーメン41、照射ルーメン42、流体流通ルーメン43および処置具挿通ルーメン44を含む。
【0081】
撮像ルーメン41はCCDカメラ等の体内の画像を取得するデバイスを設置するルーメンとして設けている。照射ルーメン42は、体内の撮像箇所を鮮明に撮像できるようにライト等の照明器具を設置するルーメンとして設けている。流体流通ルーメン43は、必要に応じて水や空気などの流体を流通させるルーメンとして設けている。処置具挿通ルーメン44は、鉗子等の処置具を基端側から挿入し、長尺部材の先端側から露出させて種々の処置を行うために処置具を設置するルーメンとして構成している。
【0082】
本実施形態において処置具挿通ルーメン44には、治療デバイスキット1を構成する投与デバイス100の注入針120を挿通させることができる。
【0083】
内視鏡を用いた抗がん剤の投与では、術者は第1実施形態と同様にプライミングを実施後、注入針120の先端部を補助具400から抜去する。そして、術者は内視鏡の挿入部40の先端を操作部30によって患部まで運ぶ操作を行う。その後、術者は処置具挿通ルーメン44に注入針120を挿通させて、図16に示すように注入針120の先端部から患部に抗がん剤を投与する。
【0084】
これにより、腫瘍周辺の患部の様子を内視鏡によって確認した状態で図16に示すように内視鏡の処置具挿通ルーメン44に挿通させた注入針120によって患部に抗がん剤を投与することができる。
【0085】
[腫瘍組織]
抗がん剤が直接投与される腫瘍組織としては、がん組織が挙げられる。すなわち、本態様の治療デバイスキットは、がん治療または予防のための治療デバイスキットでありうる。投与デバイスが腫瘍に直接アクセスしやすく、抗がん剤を投与しやすいことから、腫瘍は固形がんであることが好ましい。固形がんとしては、肝細胞がん、大腸がん、直腸がん、結腸がん、乳がん、食道がん、胃がん、胆管がん、膵臓がん、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、頭頸部がん(例えば、口腔がん、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がん、唾液腺がんおよび舌がん)、腎細胞がん(例えば、淡明細胞型腎細胞がん)、卵巣がん(例えば、漿液性卵巣がんおよび卵巣明細胞腺がん)、鼻咽頭がん、子宮がん(例えば、子宮頸がんおよび子宮体がん)、肛門がん(例えば、肛門管がん)、食道胃接合部がん、尿路上皮がん(例えば、膀胱がん、上部尿路がん、尿管がん、腎盂がんおよび尿道がん)、前立腺がん、卵管がん、原発性腹膜がん、悪性胸膜中皮腫、胆嚢がん、胆道がん、皮膚がん(例えば、ブドウ膜悪性黒色腫およびメルケル細胞がん)、精巣がん(胚細胞腫瘍)、膣がん、外陰部がん、陰茎がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、脊椎腫瘍、神経芽細胞腫、髄芽腫、眼網膜芽細胞腫、神経内分泌腫瘍、脳腫瘍(例えば、神経膠腫(例えば、神経膠芽腫および神経膠肉腫)および髄膜腫)および扁平上皮がんなどが挙げられる。一態様として、腫瘍は、乳がんや肝細胞がん、また肝転移した大腸がんなども含む。
【0086】
[免疫チェックポイント阻害剤]
本発明の好適な一態様は、抗がん剤が免疫チェックポイント阻害剤と、組み合わせて投与されるように用いられる。抗がん剤が免疫チェックポイント阻害剤と、組み合わせて投与されることで、抗腫瘍効果が一層高いものとなる。
【0087】
T細胞上には免疫チェックポイント受容体が存在し、抗原提示細胞上に発現しているリガンドと相互作用する。T細胞はMHC分子上に提示された抗原を認識して活性化し、免疫反応を起こすが、並行して生じる免疫チェックポイント受容体-リガンドの相互作用によりT細胞の活性化が調節を受ける。免疫チェックポイント受容体には共刺激性のものと抑制性のものがあり、両者のバランスによってT細胞の活性化及び免疫反応が調節を受けている。
【0088】
がん細胞は、抑制性の免疫チェックポイント受容体に対するリガンドを発現し、該受容体を利用して細胞傷害性T細胞による破壊から逃避している。
【0089】
免疫チェックポイント阻害剤は、受容体またはリガンドの免疫チェックポイントの働きを阻害するものであり、例えば、抑制性の受容体に対するアンタゴニストや、共刺激性の免疫チェックポイント受容体に対するアゴニストが挙げられる。
【0090】
「アンタゴニスト」という語には、受容体とリガンドとの結合による受容体の活性化を妨害する各種の物質が包含される。例えば、受容体に結合して受容体-リガンド間の結合を妨害する物質、及びリガンドに結合して受容体-リガンド間の結合を妨害する物質を挙げることができる。
【0091】
抑制性の免疫チェックポイントに対するアンタゴニストとしては、抑制性の免疫チェックポイント分子(抑制性の受容体又は該受容体のリガンド)と結合するアンタゴニスト性抗体、抑制性の免疫チェックポイントリガンドに基づいて設計された、受容体を活性化しない可溶性のポリペプチド、又は該ポリペプチドを発現可能なベクター等が挙げられる。
【0092】
抑制性の免疫チェックポイント受容体に対するアンタゴニストとしては、具体的には、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体、抗LAG-3抗体、抗TIM-3抗体、抗BTLA抗体などが挙げられる。
【0093】
抑制性の免疫チェックポイント受容体に対するリガンドに対するアンタゴニストとしては、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗CD80抗体、抗CD86抗体、抗GAL9抗体、抗HVEM抗体などが挙げられる。
【0094】
中でも、抗がん剤との併用による抗腫瘍効果が高いことから、免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体および抗CTLA-4抗体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、抗PD-1抗体および/または抗PD-L1抗体であることがより好ましく、抗PD-1抗体であることがさらに好ましい。
【0095】
抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2などの抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、改変抗体(例えば抗原認識部位のみヒト化した「ヒト化抗体」など)、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体、断片抗体(例えば、F(ab’)、Fab’、FabまたはFv断片)などが挙げられる。抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMなど、いずれのクラスのものであってもよい。抗原への特異的結合性の観点からはモノクローナル抗体を用いることがより好ましい。
【0096】
モノクローナル抗体やポリクローナル抗体は従来公知の方法を参酌して作製することができる。
【0097】
抗体は市販品を用いてもよい。
【0098】
免疫チェックポイント阻害剤の投与方法は、抗がん剤と同一経路であっても異なる経路であってもよい。免疫チェックポイント阻害剤の投与方法としては、特に制限はなく、経口投与、静脈内注射、動脈内注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、髄腔内注射、経皮投与または経皮的吸収等の非経口的投与等が挙げられる。中でも、腫瘍組織内だけでなく腫瘍所属リンパ節内での作用も期待されることから、免疫チェックポイント阻害剤の投与方法としては、腹腔内注射、または静脈内注射であることが好ましく、全身へ作用する静脈内注射であることがより好ましい。
【0099】
抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤の投与順序は特に制限がなく、抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。また、時間差をおいて投与する場合には、抗がん剤を投与後に免疫チェックポイント阻害剤を投与してもよいし、免疫チェックポイント阻害剤投与後に抗がん剤を投与してもよい。
【0100】
免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞上の免疫チェックポイント受容体-リガンドに作用し、効果を得るものである。T細胞を誘導した後に免疫チェックポイント阻害剤を投与することで、抗腫瘍効果の増大がより発揮されると考えられることから、抗がん剤を投与した後に、免疫チェックポイント阻害剤を投与することが好ましい。このため、抗がん剤は、免疫チェックポイント阻害剤が投与される前に投与されることが好ましい。なお、時間差をおいての投与態様においては、時間差をおいての投与であれば、投与経路は同一であっても異なるものであってもよい。
【0101】
抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤の製剤としては、抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を含有する組成物(単一の製剤)、抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化しての組み合わせ(薬剤キット)などが挙げられる。好適な形態は、抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化しての組み合わせである。すなわち、本態様においては、抗がん剤と、投与デバイスと、免疫チェックポイント阻害剤と、を組み合わせた治療デバイスキットであることが好ましい。また、当該薬剤キットにおいては、抗がん剤、および免疫チェックポイント阻害剤の投与順序は特に制限がなく、抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。また、時間差をおいて投与する場合には、抗がん剤を投与後に免疫チェックポイント阻害剤を投与してもよいし、免疫チェックポイント阻害剤投与後に抗がん剤を投与してもよい。抗腫瘍効果の増大がより発揮されることから、抗がん剤を投与し、その後免疫チェックポイント阻害剤を投与することが好ましい。かような態様により、顕著な抗腫瘍効果を得ることができる。なお、時間差をおいての投与態様においては、時間差をおいての投与であれば、投与経路は同一であっても異なるものであってもよい。また、当該治療デバイスキットは、がん治療または予防のための治療デバイスキットであることが好ましい。
【0102】
抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を併用投与する場合の投与形態としては、それぞれに適した投与経路、投与頻度及び投与量を採用する限りは特に限定されず、例えば、(1)抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を含有する組成物、即ち、単一の製剤としての投与、(2)抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与等が挙げられる。投与する薬剤はこの2剤のみに限らず、さらにその他の薬剤を加えてもよい。
【0103】
併用投与における好ましい投与形態としては、抗がん剤を投与した後に、免疫チェックポイント阻害剤を投与する方法である。
【0104】
本発明の他の態様は、治療または予防を必要とする対象者に、免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤の有効量を投与デバイスを用いて、直接腫瘍組織に投与することを含む、疾患の治療または予防方法である。また、他の態様は、治療または予防を必要とする対象者に、免疫原性細胞死を引き起こす抗がん剤の有効量を投与デバイスを用いて、直接腫瘍組織に投与すること、および免疫チェックポイント阻害剤の有効量を投与することを含む、疾患の治療または予防方法である。特に疾患ががんであることが好ましい。
【0105】
上記の対象者は、哺乳動物が好ましく、特に好ましくはヒトである。
【0106】
また、抗がん剤と、免疫チェックポイント阻害剤と、を時間差をおいて投与する場合、抗腫瘍効果を増強するに足る間隔で薬剤を投与することが必要である。具体的な投与間隔は、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0107】
また、抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤は、一定のサイクルで投与してもよい。投与サイクルとしては、併用に適するように投与サイクルを適宜調整することが好ましい。具体的な、投与頻度、投与量、点滴投与時間、投与サイクル等は、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0108】
免疫チェックポイント阻害剤の単独投与については、従来公知であり、例えば、2~3mg/kg/Dayの範囲で、1日1回から数回投与される。
【0109】
抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤を併用して用いる場合は、通常投与される投与経路により、通常単独で投与される場合と同じ投与量若しくはそれより低用量(例えば、単独で投与した場合の最高投与量の0.10~0.99倍)に設定することができる。
【0110】
免疫チェックポイント阻害剤および抗がん剤の投与量の重量(mg/kg/Day)比についても、患者の症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【実施例0111】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「重量部」あるいは「重量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行われる。
【0112】
[1.マウス薬効評価]
A:材料
1.被験物質
以下の表1に記載の被験物質および溶媒を用いた。
【0113】
【表1】
【0114】
<被験物質投与液の調製>
・Anti-mouse PD-1 antibody(αPD-1)投与液調製(100μg/200μL/head)
αPD-1(7.24mg/mL)溶液を0.88mLとり11.8mLのPBSに加え混和し、0.5mg/mLとした。
・Doxorubicin(以下、単にDoxとも称する)投与液調製
Dox10mg/mL溶液:アドリアシン注用10(1バイアル中に日局ドキソルビシン塩酸塩10mg(力価)を含有)のバイアルに生理食塩水(Saline)1.0mLを注入し粉末を溶解した。
【0115】
<腫瘍内投与溶液の調製>
全例の体重を20gと仮定し、前述の10mg/mL溶液を以下の濃度に段階的に希釈した。
・1mg/kg(0.020mg/20μL/site,Dox1.0mg/mL)
Dox10mg/mL溶液を0.5mLとり4.5mLの生理食塩水に加え混和した。
・0.3mg/kg(0.006mg/20μL/site,Dox0.3mg/mL)
Dox1.0mg/mL溶液を1.5mLとり3.5mLの生理食塩水に加え混和した。
・0.1mg/kg(0.002mg/20μL/site,Dox0.1mg/mL)
Dox0.3mg/mL溶液を1.0mLとり2.0mLの生理食塩水に加え混和した。
【0116】
<静脈内投与溶液の調製>
前述の10mg/mL溶液を以下の濃度に段階希釈した。
・1mg/kg(1mg/5mL/kg,Dox0.2mg/mL)
Dox10mg/mL溶液を0.3mLとり14.7mLの生理食塩水に加え混和した。
・0.3mg/kg(0.3mg/5mL/kg,Dox0.06mg/mL)
Dox0.2mg/mL溶液を3mLとり7mLの生理食塩水に加え混和した。
【0117】
2.使用動物
雌性BALB/cAnNCrlCrljマウス(導入時:6週齢、日本チャールス・リバー株式会社)216匹を用いた。微生物統御SPFのマウスを使用した。
【0118】
3.使用薬物及び試薬
細胞培養に必要な血清はFBS(Gibco,Cat No.26140-079、56℃30min非働化済)を使用した。RPMI-1640(型番;A10491-01)、0.25%Trypsin-EDTA(型番;25200-056)、Penicillin-Streptomycin(型番;15140-122)、PBS(型番;14190-144)はThermo Fisher Scientific社より、イソフルラン吸入麻酔液はマイラン製薬株式会社より購入し、使用した。
【0119】
B.実験方法
1.群構成
216匹に癌細胞移植を行い、移植日をDay0としてDay8以降、下記の群構成(計130匹)で実施した。PBSあるいはαPD-1を腹腔内投与(i.p.)し、SalineあるいはDoxは静脈内投与(i.v.)あるいは腫瘍内投与(i.t.)した。投与はDay8、11および14の計3回実施した。
【0120】
【数1】
【0121】
2.細胞培養
凍結細胞(CT26.WT,ATCC,CRL-2638)を約37℃の温浴中で融解し、37℃に加温した培養液(10%FBS、Penicillin-Streptomycinを添加したRPMI-1640)に入れた。その後、KUBOTA テーブルトップ冷却遠心機2810(SNシャープJ90124-A000)を用いて遠心分離(1000rpm、3min、室温)した。上清を捨て、培養液を加えピペッティングでよく細胞を懸濁した。培養フラスコに移し、37℃、5%CO濃度の環境条件下で培養した。継代は70~90%confluentになった時点で行った。培養フラスコから培養液を除去し、PBSで洗浄後、0.25% Trypsin-EDTA溶液で細胞を剥離した。培養液を加え遠心操作にて上清を捨て、細胞を培養液にて適宜希釈を行い培養した。細胞は必要細胞数に達するように調節して継代培養を行い、必要細胞数に達した後に移植に用いた。
【0122】
3.癌細胞移植
培養した細胞を0.25%Trypsin-EDTAで剥離した。前述の遠心機を用いて遠心分離(1000rpm、3min、4℃)し、上清を除去後、PBSで再懸濁した。トリパンブルー色素排除法により懸濁液中の生細胞数を算出した。その値をもとに冷蔵したPBSで希釈し、最終細胞懸濁液(1×10cells/mL)を調製した。調製した最終細胞懸濁液は移植直前まで氷上で保存した。体重を測定した動物(7週齢)216匹にイソフルラン麻酔下(導入時:2.0-2.5%,維持:1.5-2.0%,キャリアガス:室内空気)で、調製したCT26.WT細胞懸濁液(5×10cells/50μL/head)を23G×1’’の注射針(テルモ注射針、NN-2325R)を装着したツベルクリン用1mLシリンジ(テルモシリンジ,SS-01T)で右背部皮下に移植した。
【0123】
4.群分け
移植日をDay0とし、Day8の腫瘍体積が約41mmから約145mmの動物を選抜し、「B.1.」に記載の群構成に各群の腫瘍体積の平均値が均一になるように群分けを行った。群分け時、腫瘍体積の小さすぎるもの、大きすぎるもの、腫瘍が2つに分かれているもの、あるいは腫瘍の形が扁平な個体は群分け除外動物とした。
【0124】
5.腫瘍径測定
Day8(群分け日)よりDay26(薬剤投与開始18日後)まで2日おきに腫瘍の短径および長径を測定し、下記の式から腫瘍体積を求めた。
【0125】
腫瘍体積(mm)=1/2×L×W×W
L:腫瘍長径(mm),W:腫瘍短径(mm)。
【0126】
6.被験物質の投与
PBSあるいはαPD-1は200μL/headにて腹腔内投与し、投与残余液は廃棄した。腹腔内投与には、26G×1/2’’の注射針(テルモ注射針,NN-2613S)を装着したツベルクリン用1mLシリンジ(テルモシリンジ,SS-01T)を使用した。SalineあるいはDoxは尾静脈内投与または腫瘍内投与した。尾静脈内投与では直近の体重値を基に5mL/kgで投与し、腫瘍内投与では、体重を20gと仮定し20μL/siteを投与した。尾静脈内投与には針植え込み式シリンジ(27G×1/2’’、FNシリンジ、SS-010F2713)を使用し、腫瘍内投与には針植え込み式シリンジ(29G×1/2’’、FNシリンジ、SS-010F2913)を使用した。いずれのVehicleあるいは被験物質とも投与はDay8、11及び14の計3回実施した。また、5,7,9,11,13群においては、αPD-1の投与はDox投与後1時間以上空けた後に実施した。
【0127】
7.一般状態の観察及び腫瘍表面の状態観察
一般状態は動物導入日から最終腫瘍径測定日まで1日1回、腫瘍表面の状態は移植翌日(Day1)から最終腫瘍径測定日(Day26)まで1日1回観察した。
【0128】
8.データ解析
統計解析ソフトGraphPad Prism 8 (Version8.3.0,GraphPad Software,LLC)およびMicrosoft Office Excel 2016を用いて、グラフ化および統計解析を行った。
【0129】
各群の腫瘍体積の結果はDay20時点の値を採用し、1群「Saline i.v.+PBS i.p.」のNo.3および13群「αPD-1 100 μg/head i.p.」のNo.4の個体はDay17時点で人道的エンドポイントに達したため除外し、各群の平均値および標準誤差(Mean ± Standard error)を示した。結果を下記表2および図1に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
また、以下の群において、Day20時点でのαPD-1(i.p.)の併用効果の検証、Doxの投与ルートによる薬効差の検証を目的とし、Unpaired t test(v.s. *;P<0.05, **;P<0.01, ***;P<0.001)を用いて有意差検定を実施した。
【0132】
結果は以下の通りであった。
【0133】
【表3】
【0134】
また、人道的エンドポイント(腫瘍体積が体重の10%を超えた時点に達した時点)を死亡と仮定し、1、4、5、6、11、12、13群について生存曲線を前述のGraphPad Prism 8を用いて図示した。結果を図2に示す。
【0135】
以上の結果より、ドキソルビシンを腫瘍組織に直接投与した群では、高い抗腫瘍効果を有することが理解される。また、免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、さらに高い抗腫瘍効果が得られることがわかる。特にドキソルビシン1mg/kgと免疫チェックポイント阻害剤の併用投与においては、特に抗腫瘍効果が高く、単独では抗腫瘍効果が見られない投与量での免疫チェックポイント阻害剤投与で、抗がん剤の腫瘍内投与単独と比較して抗腫瘍効果の増強が見られたことから、抗がん剤および免疫チェックポイント阻害剤、各単独の相乗的効果となっている。免疫療法においては、作用機序の異なる薬剤を併用したとしても必ずしも抗腫瘍効果の増強が得られるとは限らない。このような事情を考慮すると、組み合わせによる相乗効果は驚くべき結果であると言える。
【0136】
[2.ラットPK試験]
A.実験方法
1.使用動物
動物種:ラット,系統:Crl:CD(SD),性別:雌,週齢:5週齢,微生物統御:SPF
2.使用試薬
【0137】
【表4】
【0138】
【表5】
【0139】
5.群構成
群構成は腫瘍内投与群及び静脈内投与群の2群とした。
【0140】
6.移植用細胞調製
13762-MAT-BIII(ATCC CRL-1666,lot.70003533)ストック細胞を液体窒素タンクから取り出し37℃の温浴にて溶解した。溶解したら直ちに,DMEM培地10mLの入ったチューブに移した。KUBOTAテーブルトップ冷却遠心機5500遠心(1000rpm,5分,室温)により上清を除去しDMEM培地 5mLに再懸濁した。DMEM培地10mL添加済みのT75フラスコに細胞懸濁液を加えCOインキュベータ(37℃,5%CO,以下同)に入れた。
【0141】
3日後、T75フラスコより培地とともに細胞を50mLチューブに回収し、DMEM培地約10mLを用いて残りの細胞を50mLチューブに回収した。前述の遠心機を用いて遠心後(1000rpm,5分,室温)、上清を除去した。DMEM培地10mLを加え再懸濁し血球計算盤を用いて計測した結果、約2.3×10個/mLの細胞懸濁液を得た。細胞数は10mL DMEM培地を入れたT75フラスコ1枚に1mL加えCOインキュベータに入れた。翌日、T75フラスコから培地とともに回収した。全量約35mLのうち2mLをとり、DMEM培地10mLを加えたT75フラスコ1枚に移した。
【0142】
4日後、1枚のT75フラスコより培地とともに細胞を回収した。さらにDMEM培地約5mLをT75フラスコに加え残りの細胞を回収した(2回)。前述の遠心機を用いて遠心後(1000rpm,5分,室温)、上清を除去しDMEM培地10mLを加え再懸濁し約3.7×10個/mLの細胞懸濁液を得た。このうち約1mLずつをT75フラスコ(DMEM培地10mL入り)2枚に加えCOインキュベータに入れた。
【0143】
3日後、2枚のT75フラスコより培地とともに細胞を回収した。さらにDMEM培地約5mLを各T75フラスコに加え残りの細胞を回収した(2回)。前述の遠心機を用いて遠心後(1000rpm,5分,室温)、上清を除去しDMEM培地20mLを加え再懸濁し約3.3×10個/mLの細胞懸濁液を得た。このうち約0.6mLずつをT75フラスコ(DMEM培地10mL入り)15枚に加えCOインキュベータに入れた。
【0144】
3日後に15枚のT75フラスコより培地とともに細胞を回収した。さらにDMEM培地約5mLを各T75フラスコに加え残りの細胞を回収した(2回)。前述の遠心機を用いて遠心後(1000rpm,5分,室温)上清を除去しDMEM培地10mLを加え再懸濁し約3.1×10個/mLの細胞懸濁液を得た。この細胞懸濁液8mLをとり前述の遠心機を用いて遠心後(1000rpm,5分,室温)、上清を除去しPBS6mLを加え再懸濁し約4×10個/mLの細胞懸濁液を得た。
【0145】
8.細胞移植
側腹部皮膚をつまみ、13762-MAT-BIII細胞を一匹につき一箇所、一箇所あたり約4×10cells/100μL 皮下移植した。
【0146】
9.腫瘍径計測・群分け
細胞移植後4、7、9日目に細胞移植時と同様の麻酔下で、側腹部に形成された腫瘍サイズをノギスを用いて、長径および短径を一個体につき一回計測した。腫瘍サイズについては長径×(短径)÷2の式により算出した。9日目の腫瘍サイズをもとに大きい方から順に静脈内投与群及び腫瘍内投与群にそれぞれ2匹および3匹選定した。
【0147】
10.薬物投与
薬物調製:アドリアシン注用10の2バイアルにそれぞれ生理食塩水1mLを加え溶解し合わせて約2mLのドキソルビシン塩酸塩10mg/mL溶液を調製した。ドキソルビシン塩酸塩10mg/mL溶液を1.6mLとり生理食塩水6.4mLを加えドキソルビシン塩酸塩2mg/mL溶液を調製した。体重を200gと仮定して1mg/kgの投与量となるように全個体についてドキソルビシン塩酸塩として0.2mg(薬液量0.1mL)投与した。
【0148】
薬物投与:投与は、細胞移植時と同様の麻酔下に実施した。
【0149】
<腫瘍内投与>
(1)ドキソルビシン塩酸塩(2mg/mL)を充填したシリンジをシリンジポンプ(TE-361、テルモ株式会社)にセットし延長チューブを接続した。遠位端に三方活栓を接続しマノメータ及び延長チューブを接続した。
(2)延長チューブの遠位端に投与用注射針を接続した。投与前にライン内を薬液で満たした。
(3)腫瘍周辺に超音波プローブを当て、腫瘍の位置を確認後、注射針(22G)を穿刺し腫瘍内中央付近に針先があることを確認した。
(4)投与ライン内の圧力をモニターしながら、薬液をシリンジポンプで0.1mL/分で1分間投与した。投与開始から30分後まで穿刺したままライン内圧力のモニターを行った。投与開始30分後に注射針を抜去した。
(5)採血は薬物投与前、薬物投与開始後5、15、30、60分に頚静脈よりヘパリンナトリウム1μLを添加した1mLシリンジを用いて0.5mLずつ採血した(ヘパリンナトリウム終濃度5単位/mL)。
(6)60分後の採血終了後直ちに腹部大動脈を切開し安楽死処置をとった。
(7)腫瘍を取り出し重量を計測した。また,採取した血液は遠心分離し(1800g,10分,4℃),血漿を約0.2mL採取した。腫瘍組織及び血漿は送付まで超低温フリーザーで凍結保存した。
【0150】
<静脈内投与>
(1)ドキソルビシン塩酸塩(2mg/mL)を充填したシリンジをシリンジポンプにセットし27G翼状針を接続した。
(2)投与前にライン内を薬液で満たした。
(3)翼状針を尾静脈に穿刺し薬液をシリンジポンプで0.1mL/分で1分間投与した。
【0151】
血漿採取、安楽死処置及びサンプル処理は腫瘍内投与時(5)、(6)及び(7)と同様に行った。
【0152】
11.ドキソルビシン塩酸塩濃度測定
<試薬>
標準物質はDoxorubicin hydrochloride(製品番号:D1515,Sigma-Aldrich Corp.)を用いた。内標準物質はDaunorubicin hydrochloride(製品番号:30450,Sigma-Aldrich Corp.)を用いた。
【0153】
<標準液の調製>
標準原液はDoxorubicin hydrochloride 1.07mg(ドキソルビシンとして1.00mg,補正係数:1.07)を正確に秤量し,メタノールに溶解して100μg/mLとし、内標準原液はDaunorubicin hydrochloride 1.0mgを正確に秤量し,メタノールに溶解して100μg/mLとした。標準溶液は標準原液をメタノールで適宜希釈して,10.0~10000ng/mLに用時調製した。内標準溶液はメタノールで適宜希釈して200ng/mLに用時調製した。
【0154】
<前処理>
血漿中ドキソルビシン濃度測定
測定試料は室温で融解して撹拌後、遠心分離(2000×g,4℃,5分間)した上清20μLをミクロテストチューブに採取して実験に使用した。メタノールで除タンパク処理を行い、遠心分離後に上清をガラス試験管に移し替え、窒素気流下で濃縮乾固した。残渣に0.1%ギ酸-アセトニトリル(70:30,v/v)を加えて再溶解し、実測試料を作製した。
【0155】
組織中ドキソルビシン濃度測定
ラット組織全重量に対して5倍量のメタノールを加えて破砕し、ホモジネートを調製した。使用時には組織ホモジネートを遠心分離(2000×g,4℃,5分間)した上清20μLをミクロテストチューブに採取して前処理に使用した。メタノールで除タンパク処理を行い、遠心分離後に上清をガラス試験管に移し替え、窒素気流下で濃縮乾固した。残渣に0.1%ギ酸-アセトニトリル(70:30,v/v)を加えて再溶解し、実測試料を作製した。
【0156】
測定
LC-MS/MS装置にはUPLCシステム(Waters)及びトリプル四重極型質量分析装置API5000(Sciex)を用いた.データ処理ソフトはAnalyst ver.1.5.1を使用した。LC-MS/MS測定は以下の条件設定で実施した。
【0157】
定量下限
血漿:10.0ng/mL(定量下限未満は「<10.0」とする)
組織:60.0ng/g(定量下限未満は「<60.0」とする)
【0158】
【表6】
【0159】
【表7】
【0160】
8.データ処理
データ処理にはMicrosoft Office Excel 2016を用いた。
【0161】
9.結果
【0162】
【表8】
【0163】
【表9】
【0164】
上記結果より、腫瘍内へのデバイスによる直接投与により、腫瘍内ドキソルビシン濃度が高いにもかかわらず、血漿中のドキソルビシン濃度が低いことがわかる。これにより、デバイスによる腫瘍内への直接投与は、高い抗腫瘍効果とともに全身性の副作用を低減できることが期待される。
【0165】
[3.フローサイトメトリーを用いたCTL活性化評価(マウス)]
A.材料
1.細胞・動物実験
<細胞>
・CT26.WT(ATCC):Cat. CRL-2638, Lot. 70016788 / ATCC
<動物>
・BALB/cAnNCrlCrlj mouse, female, 6 weeks入荷, 90匹:日本チャールス・リバー株式会社(使用開始は7 weeks)。微生物統御SPFのマウスを使用した。
【0166】
<試薬>
【0167】
【表10】
【0168】
【表11】
【0169】
B.実験方法
1.細胞・動物実験
1.1.細胞培養
10% FBS、1% Penicillin-Streptomycinを添加したRPMIを培地として調製した(以下、培地とする)。凍結CT26.WT細胞(Passage 2)を37℃で融解し、室温に戻した培地に添加し、混合した。その後、フロア型冷却遠心機(S700FR、久保田製作所)を用いて遠心分離(1,000rpm、5min、室温)し、上清を捨てた。そこへ、培地を加えピペッティングでよく細胞を懸濁した。培養フラスコに移し、37℃、5% CO濃度の環境条件下で培養した。細胞培養の開始から、継代は3日後(Passage 3)、5日後(Passage 4)、7日後(Passage 5)に行った。培養フラスコから継代培地を除去し、洗浄後、Trypsinで細胞を剥離し、培地を加えTrypsinの活性を止め、適宜培地で希釈して分散し、細胞を増殖させた。なお、細胞のカウントにはトリパンブルー色素排除法およびCountessIIを使用し、測定結果の生細胞数をもとに適宜希釈した。
【0170】
1.2.細胞移植
継代培養した細胞(Passage 5)を前述の遠心機を用いて遠心(1,000rpm、5min、室温)し、上清を除去後、培地で再懸濁し、継代の際の細胞カウント同様の方法で懸濁液中の生細胞数を算出した。その値をもとに細胞懸濁液を分取し、前述の遠心機を用いて遠心(1,000rpm、5min、室温)後、PBSに置換し、5×10cells/mLの細胞濃度になるように細胞懸濁液を調製した。90匹の動物にイソフルラン麻酔下(導入麻酔:2.0-3.0%、維持麻酔:2.0%)で、移植部位(右下腹部)を毛刈りし、調製したCT26.WT細胞を29G FNシリンジで右側腹部(前肢と後肢の間)の皮下に移植した(5×10cells/100μL/mouse)。移植日をDay0と定義した。
【0171】
1.3.腫瘍径測定
群分け日(Day8)の腫瘍短径および長径を測定し、下記の式から腫瘍体積を求めた。
【0172】
腫瘍体積(mm)=1/2×L×W×W
L:腫瘍長径(mm)、W:腫瘍短径(mm)
1.4.群分け
Day8の腫瘍体積をもとに群分けを実施した。この際、腫瘍が「いびつな形をしている個体」を除いた上で、腫瘍体積の最も小さいものから42匹除外した。担癌した90匹のうちの48匹を以下の群構成に腫瘍体積の平均値が均一になるように群分けを実施した。
【0173】
【表12】
【0174】
1.5.被験物質投与液の調製
<Dox投与液調製>
Dox 10mg/mL:アドリアシン注用10のバイアルにSaline1.0mLを注入し粉末を溶解し、ストック溶液とした。
【0175】
<i.t.(腫瘍内投与)投与液>
群分け時の2群および3群の平均体重(21g)をもとに以下の表13に従って前述の10g/mLストック溶液を9.5倍希釈し、Dox 1mg/kgのi.t.投与液とした。
【0176】
【表13】
【0177】
<i.v.(尾静脈内投与)投与液>
以下の表14に従って前述の10mg/mLストック溶液を100倍希釈し、Dox 1mg/kgのi.v.投与液とした。
【0178】
【表14】
【0179】
<αPD-1抗体(Anti-mouse PD-1 antibody)投与液調製>
100μg/200μL/headになるようにαPD-1ストック溶液(7.24mg/mL)を0.50mLとり6.74mLのPBSに加え混和し、αPD-1抗体投与液(0.5mg/mL)とした。
【0180】
1.6.投与
群分け当日のDay8に前述の群構成に従い、1、2、3、6群はイソフルラン麻酔下(導入麻酔:2.0-3.0%、維持麻酔:2.0%)でSalineまたはDoxを29G FNシリンジを用いて20μL/headで腫瘍内投与(i.t.)した。4、5群は覚醒下でDoxを各個体の体重をもとに10mL/kgで投与量を算出し、27G注射針および1mLテルモシリンジを用いて尾静脈内投与(i.v.)した。
【0181】
SalineおよびDox投与後にPBSまたはαPD-1抗体を覚醒下でトップ二段針および1mLテルモシリンジを用いて200μL/headで腹腔内投与した。
【0182】
1.7.腫瘍近傍のリンパ節の採材
薬剤投与3日後のDay11にイソフルラン麻酔下(導入麻酔:2.0-3.0%、維持麻酔:2.0%)で放血により安楽死させ、皮下腫瘍近傍の鼠経リンパ節および腋窩リンパ節の2カ所を採材した。
【0183】
2.フローサイトメトリー
2.1.リンパ節からの細胞単離
採材したリンパ節をRPMI1640+10% FBS培地500μLを添加したチューブに入れ、バイオマッシャーIIを用いてすり潰した。すり潰したリンパ節をナイロンメッシュに通し、25mLチューブに回収した。RPMI1640+10% FBS培地1mLで再度バイオマッシャーII内のチューブを共洗し、ナイロンメッシュに通し、25mLチューブに回収した。回収したチューブを400×g,4℃,5minで遠心後、上清をデカントし、タッピングで細胞をほぐした。血液の混入を認めたサンプルは、溶血剤(ACK Lysing Buffer)1mLを添加し、懸濁させた後、1~2min室温で静置した(尚、血液の混入のないサンプルはこの操作は行わなかった)。RPMI1640+10% FBS9mLを添加し、400×g,4℃,5minで遠心後、上清をデカントし、タッピングで細胞をほぐした。溶血残りがないことを確認し、PBE buffer(Rinsing Solution:BSA Solution=20:1)を15mL添加し、混和した。400×g,4℃,5minで遠心後、上清をデカントし、タッピングで細胞をほぐし、Stain buffer 2mL添加した。このサンプルをセルストレーナーに通し、25mLチューブに回収した。回収した細胞液から30μLを1.5mLチューブに分注し、1:1でトリパンブルーと混ぜ合わせ、CountessIIを用いて細胞数をカウントした。カウントした細胞数をもとに、5mLラウンドチューブに3.0×10cellsの細胞懸濁液を分注した(全量で3.0×10 cellsに満たないものは全量使用した)。
【0184】
2.2.リンパ節の単離細胞染色(死細胞染色・ブロッキング・テトラマー染色・抗体染色)
<死細胞染色>
細胞を添加したラウンドチューブにPEB bufferを1mL添加し、混和した。400×g,4℃,5minで遠心後、上清をデカントし、ボルテックスで軽く細胞をほぐし、PBS 1mL添加した。400×g,4℃,5minで遠心後、上清をデカントし、ボルテックスで軽く細胞をほぐし、希釈した死細胞染色液(100倍希釈したZombie Aqua)を100μL添加し、軽くボルテックスで混和し、室温,遮光,20min静置した。静置後、2mLのPEB bufferを添加し、400×g,4℃,5minで遠心後、上清をデカントし、ボルテックスで軽く細胞をほぐした。
【0185】
<ブロッキング>
死細胞染色および洗浄後のラウンドチューブにブロッキング液(3倍希釈したClear Back)を25μLずつ添加し、緩やかにボルテックスし、混和した。混和後、4℃,遮光,5min静置した。
【0186】
<テトラマー染色>
AH-1テトラマー染色用カクテル(1本あたりAPC-AH-1tetramer;5μL,Stain Buffer;20μL)を調製し、ブロッキング反応後のラウンドチューブに25μL添加した。尚、Isotype Control(All)およびIsotype Control(AH-1tetramer,CD69)にはIsotypeテトラマー染色用カクテル(1本あたり APC-β-galactosidase tetramer;5μL,Stain Buffer;20μL)を調製し、ブロッキング反応後のラウンドチューブに25μL添加した。テトラマー添加後に軽くボルテックスし、4℃,遮光,40min静置した。
【0187】
<抗体染色>
抗体染色用カクテル(1本あたり PerCP-CD45抗体;2.5μL,PE-Cy7-CD3抗体;2.5μL,APC-Cy7-CD4抗体;2.5μL,FITC-CD8抗体;10μL,PE-CD69抗体;2.5μL,Stain Buffer;5μL)を調製し、テトラマー染色後のラウンドチューブに25μL添加した。尚、Isotype Control(All)にはIsotypeテトラマー染色用カクテル(1本あたり PerCP-Isotype抗体;2.5μL,PE-Cy7-Isotype抗体;2.5μL,APC-Cy7-Isotype抗体;2.5μL,FITC-Isotype抗体;10μL,PE-Isotype抗体;2.5μL,Stain Buffer;5μL)を添加し、Isotype Control(AH-1 tetramer,CD69)にはIsotypeテトラマー染色用カクテル(1本あたり PerCP-CD45抗体;2.5μL,PE-Cy7-CD3抗体;2.5μL,APC-Cy7-CD4抗体;2.5μL,FITC-CD8抗体;10μL,PE-Isotype抗体;2.5μL,Stain Buffer;5μL)を添加した。抗体染色用カクテル添加後に軽くボルテックスし、4℃,遮光,20min静置した。
【0188】
抗体染色後のラウンドチューブに2mLのPEB bufferを添加し、400×g,4℃,5minで遠心後、上清をデカントし、ボルテックスで軽く細胞をほぐし、この洗浄操作を2回繰り返した。洗浄後のラウンドチューブに4%のパラホルムアルデヒド溶液を100μLずつ添加し、4℃,遮光,15min静置した。反応後、2mLのPEB bufferを添加し、400×g,4℃,5minで遠心後、上清をデカントし、ボルテックスで軽く細胞をほぐした。そこへ1mLのStain bufferを添加し、400×g,4℃,5minで遠心後、上清をデカントし、ボルテックスで軽く細胞をほぐし、350μLのStain bufferを添加した。このサンプルをセルストレーナー(35μm)付き5mLチューブに通し、測定用サンプルとした。4℃で静置し、翌日、測定に用いた。
【0189】
2.3.フローサイトメトリーを用いた測定
フローサイトメトリーCytoFLEX S(ベックマン・コールター社製)にて、測定を実施した。その際の取り込み細胞数はLiving Cells 200,000個(2×10cells)とし、可能な限り取り込んだ。測定および解析にはCytoFLEX S 搭載のCytoExpartソフトウェア Version2.4(ベックマン・コールター社製)を使用した。
【0190】
ゲーティングは以下の通りで実施した(図3)。
(1)All EventsからFSC-A/SSC-Aプロットを展開し、細胞集団を選択した。
(2)細胞集団からZombie Aqua/FSC-Aプロットを展開し、死細胞集団(Zombie Aqua陽性細胞)を取り除いたLiving cellsを選択した。
(3)Living cellsからCD45/SSC-Aを展開し、CD45+集団を選択した。
(4)CD45+集団からCD3/SSC-Aを展開し、CD3+集団を選択した。
(5)CD3+細胞集団からFSC-H/FSC-Aを展開し、ダブレットを取り除き、Single cell 1集団を選択した。
(6)Single cell 1集団からSSC-H/SSC-Aを展開し、ダブレットを取り除き、Single cell 2集団を選択した。
(7)Single cell 2集団からCD8/CD4を展開し、CD8+細胞をTotal. CTL、CD4+細胞をHelper T細胞とした。
(8)Total. CTLからCD8/CD69で展開し、CD69+細胞をCD69+CTL(活性化CTL)とした。
(9)Total. CTLからCD8/AH-1 Tetramerで展開し、AH-1 Tetramer+細胞をAH-1 specific CTL(癌抗原特異的CTL)とした。
【0191】
CD69+細胞とAH-1 specific CTLは細胞数が少ないことからIsotype Control(AH-1 tetramer, CD69)のデータより陰性領域と陽性領域の境界を決定した。
【0192】
2.4.各細胞群の細胞数の算出
ゲーティングした以下の各細胞群の割合(%)を個体ごとに以下の計算式で算出した。
Total. CTL(%):CD45CD3CD8cell数(#)/CD45CD3cell数×100
CD69+CTL(%):CD45CD3CD8CD69cell数(#)/CD45CD3CD8cell数×100
AH-1 specific CTL(%):CD45CD3 CD8 AH-1 tetramer cell数(#)/CD45CD3CD8cell数×100
また、組織中の各細胞群の細胞数を、2.1の細胞単離後のCountessIIを用いて細胞濃度(cells/mL)を算出した値と、フローサイトメトリー測定時の各細胞群の割合(%)から細胞群の細胞数(#)の結果を用いて以下の計算式で算出した。
組織中の全細胞数(#)=細胞濃度(cells/mL)×細胞含むStain buffer全量(mL)
生細胞数(#)=全細胞数(#)×生細胞率(%)/100
CD45細胞数(#)=生細胞数(#)×CD45細胞率(%)/100
CD3細胞(ダブレット除去前)数(#)=CD45細胞数(#)×CD3細胞率(%)/100
CD3細胞(FSCダブレット除去)数(#)=CD3細胞(ダブレット除去前)数(#)×CD3細胞(FSCダブレット除去)率(%)/100
T cell数(#)=CD3細胞(FSCダブレット除去)数(#)×CD3細胞(SSCダブレット除去)率(%)/100
Total.CTL数(#)=Tcell数(#)×CD8細胞率(%)/100
CD69+CTL数(#)=Total.CTL数(#)×CD69細胞率(%)/100
AH-1 specific CTL数(#)=Total.CTL数(#)×AH-1 tetramer細胞率(%)/100
「細胞を含むStain buffer量(mL)」は、細胞数カウント前の遠心・上清デカント後にセルストレーナーに通したStain bufferの添加量として計算した(リンパ節:2mL)。
【0193】
2.4.グラフ化および統計解析
各群の細胞数を解析ソフトGraphPad Prism(Prism8)を用いてグラフ化し、細胞数について各群の平均値および標準誤差(Mean±Standard error)を示した。各細胞群でVehicle群に対して抗腫瘍免疫の活性化が認められるかを検証するため、Vehicle群を対照群とし、すべての群で細胞数の増加率を算出した。結果を表15に示す。
【0194】
2.5.結果
各群の細胞群の細胞数について各群の平均値および標準誤差を図4図6に示す。図4は、Total.CTL数、図5は、AH-1 specific CTL数、図6は、CD69+CTL数を示す。ここで、Total.CTL数は、CTLの総数を、AH-1 specific CTL数は、腫瘍を特異的に認識するCTLを、CD69+CTL数は、活性化状態にあるCTLを、意味する。
【0195】
また、各群におけるTotal.CTL、AH-1 specific CTL、CD69+ CTLのコントロールに対する増加率を下記表15に示す。
【0196】
【表15-1】
【0197】
【表15-2】
【0198】
【表15-3】
【0199】
ドキソルビシンを直接腫瘍組織に投与した系では、静脈投与するより強く抗腫瘍免疫が誘導されていることが理解される。さらに、免疫チェックポイント阻害剤を併用した場合に、抗腫瘍免疫誘導の増強が起こることがわかる。静脈投与においては、併用効果が全くみられないことから、このような併用効果は必ずしも予測可能ではない。免疫チェックポイント阻害剤の併用による抗腫瘍免疫誘導の増強は、上記記述したような抗腫瘍効果の相乗効果に寄与しているものと推察される。
【0200】
本実施例において投与デバイスは、投与デバイスの欄で記載した各投与デバイスを用いることができる。
【符号の説明】
【0201】
1 治療デバイスキット、
100 投与デバイス、
120、120a 注入針、
130 外筒、
140 検出部、
150 報知部。
図1
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