(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160190
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】アクセスポイント装置、及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 74/04 20090101AFI20241106BHJP
H04W 16/14 20090101ALI20241106BHJP
H04W 84/12 20090101ALI20241106BHJP
【FI】
H04W74/04
H04W16/14
H04W84/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157575
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157200
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 茂孝
(74)【代理人】
【識別番号】100160783
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】留場 宏道
(72)【発明者】
【氏名】白川 淳
(72)【発明者】
【氏名】難波 秀夫
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA13
5K067AA21
5K067BB21
5K067CC04
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE25
(57)【要約】
【課題】アクセスポイント装置がステーション装置同士の直接通信を管理する通信システムにおいて、アンライセンスバンドにおける通信効率を改善させること。
【解決手段】 複数のステーション装置と通信を行なうアクセスポイント装置は、前記複数のステーション装置にフレーム送信を引き起こすトリガーフレームを送信する送信部と、複数の無線リソースを、それぞれ異なる長さの時間期間で確保するキャリアセンスを実施する受信部と、を備え、前記トリガーフレームは、前記受信部が確保した前記複数の無線リソースの時間期間を示す情報を含む。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のステーション装置と通信を行なうアクセスポイント装置であって、
前記複数のステーション装置にフレーム送信を引き起こすトリガーフレームを送信する送信部と、
複数の無線リソースを、それぞれ異なる長さの時間期間で確保するキャリアセンスを実施する受信部と、を備え、
前記トリガーフレームは、前記受信部が確保した前記複数の無線リソースの時間期間を示す情報を含む、アクセスポイント装置。
【請求項2】
前記トリガーフレームは、前記複数のステーション装置同士の通信である第1の通信と、前記アクセスポイント装置と前記複数のステーション装置の通信である第2の通信を設定可能であり、
前記トリガーフレームは前記第1の通信が設定されるフレームの送信電力に関連付けられた情報を含む、請求項1に記載のアクセスポイント装置。
【請求項3】
前記トリガーフレームに記載された前記時間期間を示す情報は、前記トリガーフレームを受信したステーション装置に対して、それぞれ異なる属性のNAVの設定を引き起こす、請求項2に記載のアクセスポイント装置。
【請求項4】
前記トリガーフレームが引き起こすNAVの属性は、前記第1の通信が設定されたステーション装置が更新可能なNAVである、請求項3に記載のアクセスポイント装置。
【請求項5】
複数のステーション装置と通信を行なうアクセスポイント装置の通信方法であって、
前記複数のステーション装置にフレーム送信を引き起こすトリガーフレームを送信するステップと、
複数の無線リソースを、それぞれ異なる長さの時間期間で確保するキャリアセンスを実施するステップと、を備え、
前記トリガーフレームは、前記キャリアセンスによって確保された前記複数の無線リソースの時間期間を示す情報を含む通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセスポイント装置、及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線LAN(Local Area Network)規格であるIEEE802.11のさらなる高速化を実現する、IEEE802.11axがIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers Inc.)により仕様化が進められており、仕様ドラフトに準拠した無線LANデバイスが市場に登場している。現在、IEEE802.11axの後継規格として、IEEE802.11beの標準化活動が開始されている。無線LANデバイスの急速な普及に伴い、IEEE802.11be標準化においても、無線LANデバイスの過密配置環境においてユーザあたりの更なるスループット向上の検討が行われている。
【0003】
無線LANでは、国・地域からの許可(免許)を必要とせずに無線通信を実施可能なアンライセンスバンドを用いて、フレーム送信を行うことができる。無線LANでは、アクセスポイント装置に対して、複数のステーション装置がアクセスして通信を行なうインフラストラクチャモードと、ステーション装置同士が直接通信(ダイレクトリンク、ダイレクトリンク通信、Direct Link)を行なうアドホックモードがそれぞれ仕様化されている
。昨今、様々なデバイスに無線LAN機能が搭載され、必ずしもすべてのデバイスがアクセスポイント装置まで通信を行なう必要がないユースケースが増えつつある。
【0004】
そこで、IEEE802.11be標準化においては、ステーション装置同士の直接通信に対して、アクセスポイント装置が、リソース管理を含めて管理・制御を行なう通信モードに関する議論が行われている(非特許文献1参照)。周辺の無線リソースの利用状況を把握可能なアクセスポイント装置が、ステーション装置同士の直接通信の管理を行なうことが出来れば、従来のアドホックモードと比較して、無線リソースをさらに柔軟に活用することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEE 802.11-20/1938-08、Jun.2021。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクセスポイント装置が無線リソース管理を行なうことで、直接通信を行なうステーション装置のペアを同時に設定することも可能となる。しかし、同時に通信を行なうステーション装置が増加することは、周辺への与干渉を増加させてしまうことも意味している。同一周波数を装置同士で共用することを基本とする無線LANにおいて、与干渉電力を増加させてしまうことは、ステーション装置の通信機会を削減させてしまい、アンライセンスバンドにおける通信効率を低下させてしまう。
【0007】
本発明は以上の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、アクセスポイント装置がステーション装置同士の直接通信を管理する通信システムにおいて、アンライセンスバンドにおける通信効率を改善させるアクセスポイント装置およびステーション装置および通信方法を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための本発明に係るアクセスポイント装置およびステーション装置および通信方法は、次の通りである。
【0009】
(1)すなわち、本発明の一態様に係るアクセスポイント装置は、複数のステーション装置と通信を行なうアクセスポイント装置であって、前記複数のステーション装置にフレーム送信を引き起こすトリガーフレームを送信する送信部と、複数の無線リソースを、それぞれ異なる長さの時間期間で確保するキャリアセンスを実施する受信部と、を備え、前記トリガーフレームは、前記受信部が確保した前記複数の無線リソースの時間期間を示す情報を含む。
【0010】
(2)また、本発明の一態様に係るアクセスポイント装置は、上記(1)に記載され、前記トリガーフレームは、前記複数のステーション装置同士の通信である第1の通信と、前記アクセスポイント装置と前記複数のステーション装置の通信である第2の通信を設定可能であり、前記トリガーフレームは前記第1の通信が設定されるフレームの送信電力に関連付けられた情報を含む。
【0011】
(3)また、本発明の一態様に係るアクセスポイント装置は、上記(2)に記載され、前記トリガーフレームに記載された前記時間期間を示す情報は、前記トリガーフレームを受信したステーション装置に対して、それぞれ異なる属性のNAVの設定を引き起こす。
【0012】
(4)また、本発明の一態様に係るアクセスポイント装置は、上記(3)に記載され、前記トリガーフレームが引き起こすNAVの属性は、前記第1の通信が設定されたステーション装置が更新可能なNAVである。
【0013】
(5)また、本発明の一態様に係る通信方法は、複数のステーション装置と通信を行なうアクセスポイント装置の通信方法であって、前記複数のステーション装置にフレーム送信を引き起こすトリガーフレームを送信するステップと、複数の無線リソースを、それぞれ異なる長さの時間期間で確保するキャリアセンスを実施するステップと、を備え、前記トリガーフレームは、前記受信部が確保した前記複数の無線リソースの時間期間を示す情報を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アクセスポイント装置がステーション装置同士の直接通信を管理する通信システムにおいて、アンライセンスバンドにおける通信効率を改善させることができるから、無線LANデバイスのユーザスループットの改善に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一態様に係るフレーム構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一態様に係るフレーム構成の一例を示す図である。
【
図3】本発明の一態様に係る通信の一例を示す図である。
【
図4】本発明の一態様に係る無線媒体の分割例を示す概要図である。
【
図5】本発明の一態様に係る通信システムの一構成例を示す図である。
【
図6】本発明の一態様に係る無線通信装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図7】本発明の一態様に係る無線通信装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図8】本発明の一態様に係る通信の一例を示す図である。
【
図9】本発明の一態様に係る通信の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態における通信システムは、無線送信装置(アクセスポイント装置、基地局装置: Access point、基地局装置)、および複数の無線受信装置(ステーション装置、端末
装置: station、端末装置)を備える。また、基地局装置と端末装置とで構成されるネッ
トワークを基本サービスセット(BSS: Basic service set、管理範囲)と呼ぶ。また、本実施形態に係るステーション装置は、アクセスポイント装置の機能を備えることができる。同様に、本実施形態に係るアクセスポイント装置は、ステーション装置の機能を備えることができる。そのため、以下では、単に通信装置と述べた場合、該通信装置は、ステーション装置とアクセスポイント装置の両方を示すことができる。
【0017】
BSS内の基地局装置および端末装置は、それぞれCSMA/CA(Carrier sense multiple access with collision avoidance)に基づいて、通信を行なうものとする。本実施形態においては、基地局装置が複数の端末装置と通信を行なうインフラストラクチャモードを対象とするが、本実施形態の方法は、端末装置同士が通信を直接行なうアドホックモードでも実施可能である。アドホックモードでは、端末装置が、基地局装置の代わりとなりBSSを形成する。アドホックモードにおけるBSSを、IBSS(Independent Basic Service Set)とも呼称する。以下では、アドホックモードにおいてIBSSを形成する端末装置を、基地局装置とみなすこともできる。
【0018】
IEEE802.11システムでは、各装置は、共通のフレームフォーマットを持った複数のフレームタイプの送信フレームを送信することが可能である。送信フレームは、物理(Physical:PHY)層、媒体アクセス制御(Medium access control:MAC)層、
論理リンク制御(LLC: Logical Link Control)層、でそれぞれ定義されている。
【0019】
PHY層の送信フレームは、物理プロトコルデータユニット(PPDU: PHY protocol data unit、物理層フレーム)と呼ばれる。PPDUは、物理層での信号処理を行なうためのヘッダ情報等が含まれる物理層ヘッダ(PHYヘッダ)と、物理層で処理されるデータユニットである物理サービスデータユニット(PSDU: PHY service data unit、MAC層フレーム)等から構成される。PSDUは無線区間における再送単位となるMACプロトコルデータユニット(MPDU: MAC protocol data unit)が複数集約された集約MPDU(A-MPDU: Aggregated MPDU)で構成されることが可能である。
【0020】
PPDUは対応する規格に応じて変調される。例えば、IEEE802.11n規格であれば、直交周波数分割多重(OFDM: Orthogonal frequency division multiplexing)信号に変調される。
【0021】
PHYヘッダには、信号の検出・同期等に用いられるショートトレーニングフィールド(STF: Short training field)、データ復調のためのチャネル情報を取得するために用
いられるロングトレーニングフィールド(LTF: Long training field)などの参照信号と、データ復調のための制御情報が含まれているシグナル(Signal:SIG)などの制御信号が含まれる。また、STFは、対応する規格に応じて、レガシーSTF(L-STF: Legacy-STF)や、高スループットSTF(HT-STF: High throughput-STF)や、超高スループットSTF(VHT-STF: Very high throughput-STF)や、高効率STF(HE-STF: High efficiency-STF)や、超高スループットSTF(EHT-STF:Extremely High Throughput-STF)等に分類され、LTFやSIGも同様にL-LTF、HT-LTF、VHT-LTF、HE-LTF、L-SIG、HT-SIG、VHT-SIG、HE-SIG、EHT-SIGに分類される。VHT-SIGは更にVHT-SIG-A1とVHT-SIG-A2とVHT-SIG-Bに分類される。同様に、HE-SIGは、HE-SIG-A1~4と、HE-SIG-Bに分類される。また、同一規格における技術更新を想定し、追加の制御情報が含まれているUniversal SIGNAL(U-SIG)フィールドが含まれることができる。
【0022】
SIGには、受信したフレームを復調するための情報として、変調方式や符号化率を示
す情報(MCS)や、空間データ多重数(レイヤー数)、空間多重ユーザ数、時空間符号化の有無を示す情報(例えば、時空間符号化送信ダイバーシチの有無を示す情報)、該フレームの宛先を示す情報、該フレームのフレーム長の関連付けられた情報(TXOP等)等が含まれることができる。
【0023】
さらに、PHYヘッダは当該送信フレームの送信元のBSSを識別する情報(以下、BSS識別情報とも呼称する)を含むことができる。BSSを識別する情報は、例えば、当該BSSのSSID(Service Set Identifier)や当該BSSの基地局装置のMACアドレスであることができる。また、BSSを識別する情報は、SSIDやMACアドレス以外の、BSSに固有な値(例えばBSS Color等)であることができる。
【0024】
なお、SIGを含むPHYヘッダは、データ復調に必要な情報を含むため、無線誤りへの耐性を有することが望ましい。また、PHYヘッダは、宛先となる無線LAN装置以外の無線LAN装置にも正しく受信されることが望ましい。通信環境が劣悪な無線LAN装置が存在することも踏まえ、PHYヘッダ、特にSIGに関しては、冗長性の高い変調方式や符号化率が設定されることが望ましい。例えば、通信装置はPHYヘッダには、BPSK変調などの変調多値数の小さい変調方式や、低い符号化率を設定することができる。
【0025】
MPDUはMAC層での信号処理を行なうためのヘッダ情報等が含まれるMAC層ヘッダ(MAC header)と、MAC層で処理されるデータユニットであるMACサービスデータユニット(MSDU: MAC service data unit)もしくはフレームボディ、ならびにフレーム
に誤りがないかをどうかをチェックするフレーム検査部(Frame check sequence:FCS)で構成されている。また、複数のMSDUは集約MSDU(A-MSDU: Aggregated MSDU)として集約されることも可能である。
【0026】
MAC層の送信フレームのフレームタイプは、装置間の接続状態などを管理するマネージメントフレーム、装置間の通信状態を管理するコントロールフレーム、および実際の送信データを含むデータフレームの3つに大きく分類され、それぞれは更に複数種類のサブフレームタイプに分類される。コントロールフレームには、受信完了通知(Ack: Acknowledge)フレーム、送信要求(RTS: Request to send)フレーム、受信準備完了(CTS: Clear to send)フレーム等が含まれる。マネージメントフレームには、ビーコン(Beacon)フレーム、プローブ要求(Probe request)フレーム、プローブ応答(Probe response)フレーム、認証(Authentication)フレーム、接続要求(Association request)フレーム、接続応答(Association response)フレーム等が含まれる。データフレームには、データ(Data)フレーム、ポーリング(CF-poll)フレーム等が含まれる。各装置は、MACヘッダに含まれるフレームコントロールフィールドの内容を読み取ることで、受信したフレームのフレームタイプおよびサブフレームタイプを把握することができる。
【0027】
なお、Ackには、Block Ackが含まれても良い。Block Ackは、複数のMPDUに対する受信完了通知を実施可能である。
【0028】
ビーコンフレームには、ビーコンが送信される周期(Beacon interval)やSSIDを
記載するフィールド(Field)が含まれる。基地局装置は、ビーコンフレームを周期的に
BSS内に報知することが可能であり、端末装置はビーコンフレームを受信することで、端末装置周辺の基地局装置を把握することが可能である。端末装置が基地局装置より報知されるビーコンフレームに基づいて基地局装置を把握することを受動的スキャニング(Passive scanning)と呼ぶ。一方、端末装置がプローブ要求フレームをBSS内に報知することで、基地局装置を探査することを能動的スキャニング(Active scanning)と呼ぶ。基地局装置は該プローブ要求フレームへの応答としてプローブ応答フレームを送信することが可能であり、該プローブ応答フレームの記載内容は、ビーコンフレームと同等である。
【0029】
端末装置は基地局装置を認識したあとに、該基地局装置に対して接続処理を行なう。接続処理は認証(Authentication)手続きと接続(Association)手続きに分類される。端
末装置は接続を希望する基地局装置に対して、認証フレーム(認証要求)を送信する。基地局装置は、認証フレームを受信すると、該端末装置に対する認証の可否などを示すステータスコードを含んだ認証フレーム(認証応答)を該端末装置に送信する。端末装置は、該認証フレームに記載されたステータスコードを読み取ることで、自装置が該基地局装置に認証を許可されたか否かを判断することができる。なお、基地局装置と端末装置は認証フレームを複数回やり取りすることが可能である。
【0030】
端末装置は認証手続きに続いて、基地局装置に対して接続手続きを行なうために、接続要求フレームを送信する。基地局装置は接続要求フレームを受信すると、該端末装置の接続を許可するか否かを判断し、その旨を通知するために、接続応答フレームを送信する。接続応答フレームには、接続処理の可否を示すステータスコードに加えて、端末装置を識別するためのアソシエーション識別番号(AID: Association identifier)が記載されて
いる。基地局装置は接続許可を出した端末装置にそれぞれ異なるAIDを設定することで、複数の端末装置を管理することが可能となる。
【0031】
接続処理が行われたのち、基地局装置と端末装置は実際のデータ伝送を行なう。IEEE802.11システムでは、分散制御機構(DCF: Distributed Coordination Function)と集中制御機構(PCF: Point Coordination Function)、およびこれらが拡張された機構(拡張分散チャネルアクセス(EDCA: Enhanced distributed channel access)や、ハイブリッド制御機構(HCF: Hybrid coordination function)等)が定義されている。以下では、基地局装置が端末装置にDCFで信号を送信する場合を例にとって説明する。
【0032】
DCFでは、基地局装置および端末装置は、通信に先立ち、自装置周辺の無線チャネルの使用状況を確認するキャリアセンス(CS: Carrier sense)を行なう。例えば、送信局
である基地局装置は予め定められたクリアチャネル評価レベル(CCAレベル: Clear channel assessment level)よりも高い信号を該無線チャネルで受信した場合、該無線チャネルでの送信フレームの送信を延期する。以下では、該無線チャネルにおいて、CCAレベル以上の信号が検出される状態をビジー(Busy)状態、CCAレベル以上の信号が検出されない状態をアイドル(Idle)状態と呼ぶ。このように、各装置が実際に受信した信号の電力(受信電力レベル)に基づいて行なうCSを物理キャリアセンス(物理CS)と呼ぶ。なおCCAレベルをキャリアセンスレベル(CS level)、もしくはCCA閾値(CCA threshold:CCAT)とも呼ぶ。なお、基地局装置および端末装置は、CCAレベル以上の信号を検出した場合は、少なくともPHY層の信号を復調する動作に入る。
【0033】
なお、以下では単にキャリアセンスと記載する場合、後述する仮想キャリアセンスを実施する場合を含む。また、以下では単にキャリアセンスレベルと記載する場合、通信装置が少なくともPHY層の信号を復調する受信信号電力を示す最小受信感度を示す場合も含む。すなわち、通信装置は、フレームを受信した際、該フレームの受信信号電力が、最小受信感度以上の受信信号電力を観測した場合、該フレームについて、少なくともPHY層の信号を復調する必要がある。このことは、通信装置は、最小受信感度以下の受信信号電力を観測した場合は、該フレームを復調する必要はなく、通信装置はフレーム送信を企図することができる。よって、キャリアセンスレベルと最小受信感度は同じ意味を示すとすることができる。
【0034】
基地局装置は送信する送信フレームに種類に応じたフレーム間隔(IFS: Inter frame space)だけキャリアセンスを行ない、無線チャネルがビジー状態かアイドル状態かを判断する。基地局装置がキャリアセンスする期間は、これから基地局装置が送信する送信フレームのフレームタイプおよびサブフレームタイプによって異なる。IEEE802.11システムでは、期間の異なる複数のIFSが定義されており、最も高い優先度が与えられた送信フレームに用いられる短フレーム間隔(SIFS: Short IFS)、優先度が比較的高い送信フレームに用いられるポーリング用フレーム間隔(PCF IFS: PIFS)、最も優先度の低い送信フレームに用いられる分散制御用フレーム間隔(DCF IFS: DIFS)などがある。基地局装置がDCFでデータフレームを送信する場合、基地局装置はDIFSを用いる。
【0035】
基地局装置はDIFSだけ待機したあとで、フレームの衝突を防ぐためのランダムバックオフ時間だけ更に待機する。IEEE802.11システムにおいては、コンテンションウィンドウ(CW: Contention window)と呼ばれるランダムバックオフ時間が用いられ
る。CSMA/CAでは、ある送信局が送信した送信フレームは、他送信局からの干渉が無い状態で受信局に受信されることを前提としている。そのため、送信局同士が同じタイミングで送信フレームを送信してしまうと、フレーム同士が衝突してしまい、受信局は正しく受信することができない。そこで、各送信局が送信開始前に、ランダムに設定される時間だけ待機することで、フレームの衝突が回避される。基地局装置はキャリアセンスによって無線チャネルがアイドル状態であると判断すると、CWのカウントダウンを開始し、CWが0となって初めて送信権を獲得し、端末装置に送信フレームを送信できる。なお、CWのカウントダウン中に基地局装置がキャリアセンスによって無線チャネルをビジー状態と判断した場合は、CWのカウントダウンを停止する。そして、無線チャネルがアイドル状態となった場合、先のIFSに続いて、基地局装置は残留するCWのカウントダウンを再開する。
【0036】
受信局である端末装置は、送信フレームを受信し、該送信フレームのPHYヘッダを読み取り、受信した送信フレームを復調する。そして、端末装置は復調した信号のMACヘッダを読み取ることで、該送信フレームが自装置宛てのものか否かを認識することができる。なお、端末装置は、PHYヘッダに記載の情報(例えばVHT-SIG-Aの記載されるグループ識別番号(GID: Group identifier, Group ID))に基づいて、該送信フレームの宛先を判断することも可能である。
【0037】
端末装置は、受信した送信フレームが自装置宛てのものと判断し、そして誤りなく送信フレームを復調できた場合、フレームを正しく受信できたことを示すACKフレームを送信局である基地局装置に送信しなければならない。ACKフレームは、SIFS期間の待機だけ(ランダムバックオフ時間は取られない)で送信される最も優先度の高い送信フレームの一つである。基地局装置は端末装置から送信されるACKフレームの受信をもって、一連の通信を終了する。なお、端末装置がフレームを正しく受信できなかった場合、端末装置はACKを送信しない。よって基地局装置は、フレーム送信後、一定期間(SIFS+ACKフレーム長)の間、受信局からのACKフレームを受信しなかった場合、通信は失敗したものとして、通信を終了する。このように、IEEE802.11システムの1回の通信(バーストとも呼ぶ)の終了は、ビーコンフレームなどの報知信号の送信の場合や、送信データを分割するフラグメンテーションが用いられる場合などの特別な場合を除き、必ずACKフレームの受信の有無で判断されることになる。
【0038】
端末装置は、受信した送信フレームが自装置宛てのものではないと判断した場合、PHYヘッダ等に記載されている該送信フレームの長さ(Length)に基づいて、ネットワークアロケーションベクタ(NAV: Network allocation vector)を設定する。端末装置は、NAVに設定された期間は通信を試行しない。つまり、端末装置は物理CSによって無線チャネルがビジー状態と判断した場合と同じ動作をNAVに設定された期間行なうことになるから、NAVによる通信制御は仮想キャリアセンス(仮想CS)とも呼ばれる。NAVは、PHYヘッダに記載の情報に基づいて設定される場合に加えて、隠れ端末問題を解消するために導入される送信要求(RTS: Request to send)フレームや、受信準備完了(CTS: Clear to send)フレームによっても設定される。
【0039】
各装置がキャリアセンスを行ない、自律的に送信権を獲得するDCFに対して、PCFは、ポイントコーディネータ(PC: Point coordinator)と呼ばれる制御局が、BSS内
の各装置の送信権を制御する。一般に基地局装置がPCとなり、BSS内の端末装置の送信権を獲得することになる。
【0040】
PCFによる通信期間には、非競合期間(CFP: Contention free period)と競合期間
(CP: Contention period)が含まれる。CPの間は、前述してきたDCFに基づいて通
信が行われ、PCが送信権を制御するのはCFPの間となる。PCである基地局装置は、CFPの期間(CFP Max duration)などが記載されたビーコンフレームをPCFの通信に先立ちBSS内に報知する。なお、PCFの送信開始時に報知されるビーコンフレームの送信にはPIFSが用いられ、CWを待たずに送信される。該ビーコンフレームを受信した端末装置は、該ビーコンフレームに記載されたCFPの期間をNAVに設定する。以降、NAVが経過する、もしくはCFPの終了をBSS内に報知する信号(例えばCF-endを含んだデータフレーム)が受信されるまでは、端末装置はPCより送信される送信権獲得をシグナリングする信号(例えばCF-pollを含んだデータフレーム)を受信した場合のみ、送信権を獲得可能である。なお、CFPの期間内では、同一BSS内でのパケットの衝突は発生しないから、各端末装置はDCFで用いられるランダムバックオフ時間を取らない。
【0041】
無線媒体は複数のリソースユニット(Resource unit:RU)に分割されることができ
る。
図4は無線媒体の分割状態の1例を示す概要図である。例えば、リソース分割例1では、無線通信装置は無線媒体である周波数リソース(サブキャリア、周波数トーン、トーン)を9個のRUに分割することができる。同様に、リソース分割例2では、無線通信装置は無線媒体であるサブキャリアを5個のRUに分割することができる。当然ながら、
図4に示すリソース分割例はあくまで1例であり、例えば、複数のRUはそれぞれ異なるサブキャリア数によって構成されることも可能である。また、RUとして分割される無線媒体には周波数リソースだけではなく空間リソースも含まれることができる。無線通信装置(例えばAP)は、各RUに異なる端末装置宛てのフレームを配置することで、複数の端末装置(例えば複数のSTA)に同時にフレームを送信することができる。APは、無線媒体の分割の状態を示す情報(Resource allocation information)を、共通制御情報と
して、自装置が送信するフレームのPHYヘッダに記載することができる。更に、APは、各STA宛てのフレームが配置されたRUを示す情報(resource unit assignment information)を、固有制御情報として、自装置が送信するフレームのPHYヘッダに記載することができる。
【0042】
また、複数の端末装置(例えば複数のSTA)は、それぞれ割り当てられたRUにフレームを配置して送信することで、同時にフレームを送信することができる。複数のSTAは、APから送信されるトリガ情報を含んだフレーム(Trigger frame:TF)を受信した後、所定の期間待機したのち、フレーム送信を行なうことができる。各STAは、該TFに記載の情報に基づいて自装置に割り当てられたRUを把握することができる。また、各STAは、該TFを基準としたランダムアクセスによりRUを獲得することができる。
【0043】
APは、1つのSTAに複数のRUを同時に割り当てることができる。該複数のRUは、連続するサブキャリアで構成されることも出来るし、不連続のサブキャリアで構成されることも出来る。APは、1つのSTAに割り当てた複数のRUを用いて、1つのフレームを送信することが出来るし、複数のフレームをそれぞれ異なるRUに割り当てて送信することができる。該複数のフレームの少なくとも1つは、Resource allocation informationを送信する複数の端末装置に対する共通の制御情報を含むフレームであることができる。
【0044】
1つのSTAは、APより複数のRUを割り当てられることができる。STAは、割り当てられた複数のRUを用いて、1つのフレームを送信することができる。また、STAは割り当てられた複数のRUを用いて、複数のフレームをそれぞれ異なるRUに割り当てて送信することができる。該複数のフレームは、それぞれ異なるフレームタイプのフレームであることができる。
【0045】
APは、1つのSTAに複数のAID(Association ID)を割り当てることができる。APは、1つのSTAに割り当てた複数のAIDに対して、それぞれRUを割り当てることができる。APは、1つのSTAに割り当てた複数のAIDに対して、それぞれ割り当てたRUを用いて、それぞれ異なるフレームを送信することができる。該異なるフレームは、それぞれ異なるフレームタイプのフレームであることができる。
【0046】
1つのSTAは、APより複数のAID(Associate ID)を割り当てられることができる。1つのSTAは割り当てられた複数のAIDに対して、それぞれRUを割り当てられることができる。1つのSTAは、自装置に割り当てられた複数のAIDにそれぞれ割り当てられたRUは、全て自装置に割り当てられたRUと認識し、該割り当てられた複数のRUを用いて、1つのフレームを送信することができる。また、1つのSTAは、該割り当てられた複数のRUを用いて、複数のフレームを送信することができる。このとき、該複数のフレームには、それぞれ割り当てられたRUに関連付けられたAIDを示す情報を記載して送信することができる。APは、1つのSTAに割り当てた複数のAIDに対して、それぞれ割り当てたRUを用いて、それぞれ異なるフレームを送信することができる。該異なるフレームは、異なるフレームタイプのフレームであることができる。
【0047】
以下では、基地局装置、端末装置を総称して、無線通信装置もしくは通信装置とも呼称する。また、ある無線通信装置が別の無線通信装置と通信を行う際にやりとりされる情報をデータ(data)とも呼称する。つまり、無線通信装置は、基地局装置及び端末装置を含む。
【0048】
無線通信装置は、PPDUを送信する機能と受信する機能のいずれか、または両方を備える。
図1は、無線通信装置が送信するPPDU構成の一例を示した図である。IEEE802.11a/b/g規格に対応するPPDUはL-STF、L-LTF、L-SIG及びDataフレーム(MAC Frame、MACフレーム、ペイロード、データ部、データ、情報ビット等)を含んだ構成である。IEEE802.11n規格に対応するPPDUはL-STF、L-LTF、L-SIG、HT-SIG、HT-STF、HT-LTF及びDataフレームを含んだ構成である。IEEE802.11ac規格に対応するPPDUはL-STF、L-LTF、L-SIG、VHT-SIG-A、VHT-STF、VHT-LTF、VHT-SIG-B及びMACフレームの一部あるいは全てを含んだ構成である。IEEE802.11ax標準で検討されているPPDUは、L-STF、L-LTF、L-SIG、L-SIGが時間的に繰り返されたRL-SIG、HE-SIG-A、HE-STF、HE-LTF、HE-SIG-B及びDataフレームの一部あるいは全てを含んだ構成である。IEEE802.11be標準で検討されているPPDUは、L-STF、L-LTF、L-SIG、RL-SIG、U-SIG、EHT-SIG、EHT-STF、HET-LTF及びDataフレームの一部あるいは全てを含んだ構成である。
【0049】
図1中の点線で囲まれているL-STF、L-LTF及びL-SIGはIEEE802
.11規格において共通に用いられる構成である(以下では、L-STF、L-LTF及びL-SIGをまとめてL-ヘッダとも呼称する)。例えばIEEE 802.11a/b/g規格に対応する無線通信装置は、IEEE802.11n/ac規格に対応するPPDU内のL-ヘッダを適切に受信することが可能である。IEEE 802.11a/b/g規格に対応する無線通信装置は、IEEE802.11n/ac規格に対応するPPDUを、IEEE 802.11a/b/g規格に対応するPPDUとみなして受信することができる。
【0050】
ただし、IEEE 802.11a/b/g規格に対応する無線通信装置はL-ヘッダの後に続く、IEEE802.11n/ac規格に対応するPPDUを復調することができないため、送信アドレス(TA:Transmitter Address)や受信アドレス(RA:Receiver Address)やNAVの設定に用いられるDuration/IDフィールドに関する情報を復調することができない。
【0051】
IEEE 802.11a/b/g規格に対応する無線通信装置が適切にNAVを設定する(あるいは所定の期間受信動作を行う)ための方法として、IEEE802.11は、L-SIGにDuration情報を挿入する方法を規定している。L-SIG内の伝送速度に関する情報(RATE field、L-RATE field、L-RATE、L_DATARATE、L_DATARATE field)、伝送期間に関する情報(LENGTH field、L-LENGTH field、L-LENGTH)は、IEEE 802.11a/b/g規格に対応する無線通信装置が適切にNAVを設定するために使用される。
【0052】
図2は、L-SIGに挿入されるDuration情報の方法の一例を示す図である。
図2においては、一例としてIEEE802.11ac規格に対応するPPDU構成を示しているが、PPDU構成はこれに限定されない。IEEE802.11n規格に対応のPPDU構成及びIEEE802.11ax規格に対応するPPDU構成でも良い。TXTIMEは、PPDUの長さに関する情報を備え、aPreambleLengthは、プリアンブル(L-STF+L-LTF)の長さに関する情報を備え、aPLCPHeaderLengthは、PLCPヘッダ(L-SIG)の長さに関する情報を備える。L_LENGTHは、IEEE802.11規格の互換性をとるために設定される仮想的な期間であるSignal Extension、L_RATEに関連するN
ops、1シンボル(symbol,OFDM symbol等)の期間に関する情報であるaSymbolLength、PLCP Service fieldが含むビット数を示すaPLCPServiceLength、畳みこみ符号のテールビット数を示すaPLCPConvolutionalTailLengthに基づいて算出される。無線通信装置は、L_LENGTHを算出し、L-SIGに挿入することができる。また、無線通信装置は、L-SIG Durationを算出することができる。L-SIG Durationは、L_LENGTHを含むPPDUと、その応答として宛先の無線通信装置より送信されることが期待されるAckとSIFSの期間を合計した期間に関する情報を示す。
【0053】
図3は、L-SIG TXOP Protectionにおける、L-SIG Durationの一例を示した図である。DATA(フレーム、ペイロード、データ等)は、MACフレームとPLCPヘッダの一部または両方から構成される。また、BAはBlock Ack、またはAckである。PPDUは、L-STF,L-LTF,L-SIGを含み、さらにDATA,BA、RTSあるいはCTSのいずれかまたはいずれか複数を含んで構成されることができる。
図3に示す一例では、RTS/CTSを用いたL-SIG TXOP Protectionを示しているが、CTS-to-Selfを用いても良い。ここで、MAC Durationは、Duration/ID fieldの値によって示される期間である。また、InitiatorはL-SIG TXOP P
rotection期間の終了を通知するためにCF_Endフレームを送信することができる。
【0054】
続いて、無線通信装置が受信するフレームからBSSを識別する方法について説明する。無線通信装置が、受信するフレームからBSSを識別するためには、PPDUを送信する無線通信装置が当該PPDUにBSSを識別するための情報(BSS color,BSS識別情報、BSSに固有な値)を挿入することが好適である。BSS colorを示す情報は、HE-SIG-Aに記載されることが可能である。
【0055】
無線通信装置は、L-SIGを複数回送信する(L-SIG Repetition)ことができる。例えば、受信側の無線通信装置は、複数回送信されるL-SIGをMRC(Maximum Ratio Combining)を用いて受信することで、L-SIGの復調精度が向上する。さらに無線通信装置は、MRCによりL-SIGを正しく受信完了した場合に、当該L-SIGを含むPPDUがIEEE802.11ax規格に対応するPPDUであると解釈することができる。
【0056】
無線通信装置は、PPDUの受信動作中も、当該PPDU以外のPPDUの一部(例えば、IEEE802.11により規定されるプリアンブル、L-STF、L-LTF、PLCPヘッダ等)の受信動作を行うことができる(二重受信動作とも呼称する)。無線通信装置は、PPDUの受信動作中に、当該PPDU以外のPPDUの一部を検出した場合に、宛先アドレスや、送信元アドレスや、PPDUあるいはDATA期間に関する情報の一部または全部を更新することができる。
【0057】
Ack及びBAは、応答(応答フレーム)とも呼称されることができる。また、プローブ応答や、認証応答、接続応答を応答と呼称することができる。
[1.第1の実施形態]
【0058】
図5は、本実施形態に係る無線通信システムの一例を示した図である。無線通信システム3-1は、無線通信装置1-1及び無線通信装置2-1~4を備えている。なお、無線通信装置1-1を基地局装置1-1もしくはアクセスポイント装置1-1とも呼称し、無線通信装置2-1~4を端末装置2-1~4もしくはステーション装置2-1~4とも呼称する。また、無線通信装置2-1~4および端末装置2-1~4を、無線通信装置1-1に接続されている装置として、無線通信装置2Aおよび端末装置2Aとも呼称する。無線通信装置1-1及び無線通信装置2Aは、無線接続されており、お互いにPPDUの送受信を行うことができる状態にある。また、本実施形態に係る無線通信システムは、無線通信システム3-1の他に無線通信システム3-2を備える。無線通信システム3-2は、無線通信装置1-2及び無線通信装置2-5~8を備えている。なお、無線通信装置1-2を基地局装置1-2とも呼称し、無線通信装置2-5~8を端末装置2-5~8とも呼称する。また、また、無線通信装置2-5~8および端末装置2-5~8を、無線通信装置1-2に接続されている装置として、無線通信装置2Bおよび端末装置2Bとも呼称する。無線通信システム3-1と無線通信システム3-2は異なるBSSを形成するが、これはESS(Extended Service Set)が異なることを必ずしも意味していない。ESSは、LAN(Local Area Network)を形成するサービスセットを示している。つまり、同じESSに属する無線通信装置は、上位層から同一のネットワークに属しているとみなされることができる。なお、無線通信システム3-1および3-2は、さらに複数の無線通信装置を備えることも可能である。
【0059】
以下の説明においては、アクセスポイント装置1-1に接続されているステーション装置のうち、ステーション装置2-1とステーション装置2-2が直接通信を行なう場合を想定する。なお、さらにステーション装置2-3とステーション装置2-4が直接通信を
行なうことも可能である。
【0060】
図6は、無線通信装置1-1、1-2、2A及び2B(以下では、まとめて無線通信装置10-1もしくはステーション装置10-1もしくは単にステーション装置とも呼称)の装置構成の一例を示した図である。無線通信装置10-1は、上位層部(上位層処理ステップ)10001-1と、自律分散制御部(自律分散制御ステップ)10002-1と、送信部(送信ステップ)10003-1と、受信部(受信ステップ)10004-1と、アンテナ部10005-1と、を含んだ構成である。
【0061】
上位層部10001-1は、他のネットワークと接続され、自律分散制御部10002-1にトラフィックに関する情報を通知することができる。トラフィックに関する情報とは、例えば、他の無線通信装置宛ての情報であっても良いし、マネージメントフレームやコントロールフレームに含まれる制御情報でも良い。
【0062】
図7は、自律分散制御部10002-1の装置構成の一例を示した図である。自律分散制御部10002-1は、CCA部(CCAステップ)10002a-1と、バックオフ部(バックオフステップ)10002b-1と、送信判断部(送信判断ステップ)10002c-1とを含んだ構成である。
【0063】
CCA部10002a-1は、受信部から通知される、無線リソースを介して受信する受信信号電力に関する情報と、受信信号に関する情報(復号後の情報を含む)のいずれか一方、または両方を用いて、当該無線リソースの状態判断(busyまたはidleの判断を含む)を行うことができる。CCA部10002a-1は、当該無線リソースの状態判断情報を、バックオフ部10002b-1及び送信判断部10002c-1に通知することができる。
【0064】
バックオフ部10002b-1は、無線リソースの状態判断情報を用いて、バックオフを行うことができる。バックオフ部10002b-1は、CWを生成し、カウントダウン機能を有する。例えば、無線リソースの状態判断情報がidleを示す場合に、CWのカウントダウンを実行し、無線リソースの状態判断情報がbusyを示す場合に、CWのカウントダウンを停止することができる。バックオフ部10002b-1は、CWの値を送信判断部10002c-1に通知することができる。
【0065】
送信判断部10002c-1は、無線リソースの状態判断情報、またはCWの値のいずれか一方、あるいは両方を用いて送信判断を行う。例えば、無線リソースの状態判断情報がidleを示し、CWの値が0の時に送信判断情報を送信部10003-1に通知することができる。また、無線リソースの状態判断情報がidleを示す場合に送信判断情報を送信部10003-1に通知することができる。
【0066】
送信部10003-1は、物理層フレーム生成部(物理層フレーム生成ステップ)10003a-1と、無線送信部(無線送信ステップ)10003b-1とを含んだ構成である。物理層フレーム生成部10003a-1は、送信判断部10002c-1から通知される送信判断情報に基づき、物理層フレーム(PPDU)を生成する機能を有する。物理層フレーム生成部10003a-1は、上位層から送られる送信フレームに対して誤り訂正符号化、変調、プレコーディングフィルタ乗算等を施す。物理層フレーム生成部10003a-1は、生成した物理層フレームを無線送信部10003b-1に通知する。
【0067】
物理層フレーム生成部10003a-1が生成するフレームには、制御情報が含まれる。該制御情報には、各無線通信装置宛てのデータが、どのRU(ここでRUには周波数リソースと空間リソースの両方を含む)に配置されているかを示す情報が含まれる。また、物理層フレーム生成部10003a-1が生成するフレームには、宛先端末である無線通信装置にフレーム送信を指示するトリガーフレームが含まれる。該トリガーフレームには、フレーム送信を指示された無線通信装置がフレームを送信する際に用いるRUを示す情報が含まれている。
【0068】
無線送信部10003b-1は、物理層フレーム生成部10003a-1が生成する物理層フレームを、無線周波数(RF: Radio Frequency)帯の信号に変換し、無線周波数信
号を生成する。無線送信部10003b-1が行う処理には、デジタル・アナログ変換、フィルタリング、ベースバンド帯からRF帯への周波数変換等が含まれる。
【0069】
受信部10004-1は、無線受信部(無線受信ステップ)10004a-1と、信号復調部(信号復調ステップ)10004b-1を含んだ構成である。受信部10004-1は、アンテナ部10005-1が受信するRF帯の信号から受信信号電力に関する情報を生成する。受信部10004-1は、受信信号電力に関する情報と、受信信号に関する情報をCCA部10002a-1に通知することができる。
【0070】
無線受信部10004a-1は、アンテナ部10005-1が受信するRF帯の信号をベースバンド信号に変換し、物理層信号(例えば、物理層フレーム)を生成する機能を有する。無線受信部10004a-1が行う処理には、RF帯からベースバンド帯への周波数変換処理、フィルタリング、アナログ・デジタル変換が含まれる。
【0071】
信号復調部10004b-1は、無線受信部10004a-1が生成する物理層信号を復調する機能を有する。信号復調部10004b-1が行う処理には、チャネル等化、デマッピング、誤り訂正復号化等が含まれる。信号復調部10004b-1は、物理層信号から、例えば、物理層ヘッダが含む情報と、MACヘッダが含む情報と、送信フレームが含む情報とを取り出すことができる。信号復調部10004b-1は、取り出した情報を上位層部10001-1に通知することができる。なお、信号復調部10004b-1は、物理層ヘッダが含む情報と、MACヘッダが含む情報と、送信フレームが含む情報のいずれか、あるいは全てを取り出すことができる。
【0072】
アンテナ部10005-1は、無線送信部10003b-1が生成する無線周波数信号を、無線装置0-1に向けて、無線空間に送信する機能を有する。また、アンテナ部10005-1は、無線装置0-1から送信される無線周波数信号を受信する機能を有する。
【0073】
無線通信装置10-1は、送信するフレームのPHYヘッダやMACヘッダに、自装置が無線媒体を利用する期間を示す情報を記載することにより、自装置周辺の無線通信装置に当該期間だけNAVを設定させることができる。例えば、無線通信装置10-1は送信するフレームのDuration/IDフィールドまたはLengthフィールドに当該期間を示す情報を記載することができる。自装置周辺の無線通信装置に設定されたNAV期間を、無線通信装置10-1が獲得したTXOP期間(もしくは単にTXOP)と呼ぶこととする。そして、該TXOPを獲得した無線通信装置10-1を、TXOP獲得者(TXOP holder、TXOPホルダー)と呼ぶ。無線通信装置10-1がTXOPを獲得するために送信するフレームのフレームタイプは何かに限定されるものではなく、コントロールフレーム(例えばRTSフレームやCTS-to-selfフレーム)でも良いし、データフレームでも良い。
【0074】
TXOPホルダーである無線通信装置10-1は、該TXOPの間で、自装置以外の無線通信装置に対して、フレームを送信することができる。無線通信装置1-1がTXOPホルダーであった場合、該TXOPの期間内で、無線通信装置1-1は無線通信装置2Aに対してフレームを送信することができる。また、無線通信装置1-1は、該TXOP期
間内で、無線通信装置2Aに対して、無線通信装置1-1宛てのフレーム送信を指示することができる。無線通信装置1-1は、該TXOP期間内で、無線通信装置2Aに対して、無線通信装置1-1宛てのフレーム送信を指示する情報を含むトリガーフレームを送信することができる。
【0075】
無線通信装置1-1は、フレーム送信を行なう可能性のある全通信帯域(例えばOperation bandwidth)に対してTXOPを確保してもよいし、実際にフレームを送信する通信帯域(例えばTransmission bandwidth)等の特定の通信帯域(Band)に対して確保してもよい。
【0076】
無線通信装置1-1が獲得したTXOPの期間内でフレーム送信の指示を行なう無線通信装置は、必ずしも自装置に接続されている無線通信装置には限定されない。例えば、無線通信装置は、自装置の周辺にいる無線通信装置にReassociationフレームなどのマネージメントフレームや、RTS/CTSフレーム等のコントロールフレームを送信させるために、自装置に接続されていない無線通信装置に、フレームの送信を指示することができる。
【0077】
本実施形態に係るアクセスポイント装置1-1は、ステーション装置2-1とステーション装置2-2に直接通信(第1の通信)を行なわせるに先立ち、TXOPを確保するトリガーフレームを送信する。該トリガーフレームは、ステーション装置2-1とステーション装置2-2の少なくとも1つにフレーム送信(もしくはキャリアセンス動作への移行)を引き起こす情報が含まれる。直接通信を企図するステーション装置は、アクセスポイント装置に、直接通信のための無線リソースの確保を要求するフレームを送信することができる。なお、以降では、アクセスポイント装置1-1と、ステーション装置2-1およびステーション装置2-2との通信を第2の通信とも呼称する。
【0078】
トリガーフレームには、ステーション装置2-1とステーション装置2-2が直接通信を行なう際に使用する無線リソースを示す情報が含まれる。また、トリガーフレームには、ステーション装置2-1とステーション装置2-2のどちらがフレーム送信者もしくはフレーム受信者に設定されているかを示す情報が含まれる。
【0079】
アクセスポイント装置は、直接通信無線リソースに関連付けられた情報が記載されたトリガーフレームの受信に先立ち、該トリガーフレームの宛先となるステーション装置に対して、マルチユーザRTSフレームを送信することができる。アクセスポイント装置は、該マルチユーザRTSフレームに対して、CTSフレームの応答があった場合のみ、該トリガーフレームを送信することができる。このとき、マルチユーザRTSフレーム(もしくはトリガーフレーム)の宛先が複数のステーション装置であった場合、アクセスポイント装置は、1つでもCTSフレームの応答があった場合に、トリガーフレームを送信することができる。またアクセスポイント装置は、CTSフレームの応答があった無線リソースに対してのみ、トリガーフレームを送信することができる。
【0080】
アクセスポイント装置は、トリガーフレームにマルチユーザRTSフレームの機能を設定することができる。すなわち、該トリガーフレームを受信したステーション装置は、直接通信フレーム(ダイレクトリンクフレーム、Direct Link frame)を送信する前に、C
TSフレーム(もしくは何らかの応答フレーム)をアクセスポイント装置に送信したのち、直接通信フレームを送信することができる。また、ステーション装置は、直接通信フレームの宛先端末として、該直接通信フレームの本来の宛先ステーション装置(すなわち、該直接通信フレームに設定されたデータフィールドの宛先ステーション装置)に加えて、該トリガーフレームを送信したアクセスポイント装置を宛先端末に含めることができる。このとき、ステーション装置は、少なくとも2つの無線装置が宛先端末となっていることを示す情報を、PHYヘッダに記載することになる。ただし、ステーション装置は、該直接通信フレームに対するアクセスポイント装置からの応答(例えば、ACKフレーム)は期待しない。もしくは、ステーション装置は、所定の設定に基づいて、ステーション装置は、該直接通信フレームに対するアクセスポイント装置からの応答と、宛先ステーション装置からの応答とが、同時に発生することを期待する。
【0081】
トリガーフレームには、当該トリガーフレームが確保する無線リソースのうち、直接通信に設定されている無線リソースを示す情報が含まれる。以下では、直接通信に設定されている無線リソースを、直接通信無線リソースとも呼称する。
【0082】
以下では、直接通信無線リソースにて通信される無線フレーム、例えば、ステーション装置2-1とステーション装置2-2がやり取りする無線フレームを、直接通信フレームとも呼称する。一方で、ステーション装置2-1がアクセスポイント装置1-1とやり取りする無線フレームを、単に通信フレームと呼称する。
【0083】
トリガーフレームには、直接通信フレームの送信を企図させる複数のステーション装置を示す情報を記載することができる。すなわち、本実施形態に係るアクセスポイント装置は、該アクセスポイント装置が所定の時間期間だけ確保した直接通信無線リソースにおいて、複数のステーション装置に直接通信フレームを送信させることができる。
【0084】
アクセスポイント装置は、直接通信無線リソースにおいて、複数のステーション装置に直接通信フレームを送信させる場合、該複数のステーション装置を、時間分割多重、周波数分割多重、および空間分割多重によって多重させることが可能である。アクセスポイント装置は、トリガーフレームに、該複数のステーション装置に対して、フレーム送信者であるかフレーム受信者であるかを示す情報とともに、直接通信フレームを送信する無線リソースを示す情報を含めることができる。
【0085】
アクセスポイント装置は、直接通信無線リソースにおいて、コンテンションベースの通信をステーション装置に設定することができる。アクセスポイント装置は、自装置が確保した直接通信無線リソースが、コンテンションベースの通信が設定されていることを示す情報をトリガーフレームに含めることができる。アクセスポイント装置は、該直接通信無線リソースにおいて、該コンテンションベースの通信に参加することが可能なステーション装置を示す情報をトリガーフレームに含めることができる。該直接無線リソースにおいて、コンテンションベースの通信でフレーム送信が可能なステーション装置は、他のステーション装置と共通の方法(例えば、コンテンションウィンドウを用いたランダムバックオフ)によって、該直接通信無線リソースの確保を行なうことができる。なお、アクセスポイント装置は、該直接通信無線リソースを確保する手段に関連付けられた情報(例えば、コンテンションウィンドウの初期値)をトリガーフレームに含めることができる。
【0086】
なお、アクセスポイント装置とステーション装置は、該直接通信無線リソースにおいて、他の通信とは異なるコンテンションベースの通信を設定することができる。ここで、異なるコンテンションベースの通信には、例えば、異なるバックオフカウンタを備える方法が含まれる。すなわち、本実施形態に係るステーション装置は、通信フレームを送信する際に使用するバックオフカウンタとは別に、直接通信フレームを送信する際に使用するバックオフカウンタを備えることができる。
【0087】
アクセスポイント装置は、該直接通信無線リソースにおいて、コンテンションベースの通信と、コンテンションフリーベースの通信を共存させることができる。例えば、アクセスポイント装置は、自装置が確保した直接通信無線リソースにおいて、複数のRUを設定し、第1のRUにはコンテンションフリーの通信を設定し、第2のRUにはコンテンショ
ンベースの通信を設定することができる。ここでコンテンションフリーの通信とは、ステーション装置が直接通信フレームを送信する無線リソースが予め設定されている通信を含む。
【0088】
トリガーフレームには、直接通信無線リソースで送信される直接通信フレームに設定される送信電力を含めることができる。該送信電力の値は何かに限定されるものではないが、直接通信フレーム以外のフレームに設定される送信電力より低い送信電力の値が設定されることができる。
【0089】
該トリガーフレームを受信したステーション装置は、該トリガーフレームに含まれる送信電力の情報から送信電力を設定して、直接通信フレームを送信することができる。このとき、ステーション装置は、該直接通信フレームのうち、データフィールドに対して、該トリガーフレームに含まれる送信電力の情報から送信電力を設定することができる。すなわち、ステーション装置は、直接通信フレームを送信する場合、プリアンブル部分(L-SIG/L-LTF/L-STF/EHT-SIG/EHT-LTF/EHT-STF等)と、データ部分とで、異なる送信電力を設定することができる。ステーション装置は、プリアンブル部分に対して、データ部分よりも高い電力を設定することができる。
【0090】
ステーション装置は、直接通信フレームのPHYヘッダに対して、該直接通信フレームが直接通信フレームであることを示す情報を記載することができる。ステーション装置は、直接通信フレームを構成する信号ブロックに対して、通信フレームとは異なる変調方式を設定することができる。例えば、ステーション装置は、直接通信フレームが備えるPHYヘッダの一部に対して、通信フレームが備えるPHYヘッダとは異なる変調方式を設定することができる。
【0091】
トリガーフレームによって、直接通信フレームの送信が許可されたステーション装置においても、他のBSSに属する無線装置が送信したフレーム(OBSSフレーム)を受信した際に、該OBSSフレームに、キャリアセンスレベルの変更を禁止することを示す情報が記載されていた場合、ステーション装置は、直接通信フレームの送信を行なわない。すなわち、本実施形態に係るステーション装置は、周辺の他のBSSに属する無線装置が、干渉電力を許容できない状態であることを認識した場合、直接通信フレームの送信を行なわないように設定されることが可能である。これは、直接通信フレームの送信が許可されたステーション装置が、後方互換性を担保するレガシー規格のOBSSフレームを受信した場合も同様である。
【0092】
ステーション装置は、直接通信フレームに、該直接通信フレームを受信した別のステーション装置が行うキャリアセンスに関連付けられた情報を含めることができる。ステーション装置は、直接通信フレームの宛先となるステーション装置に対して、キャリアセンスを実施するか否かを示す情報を、該直接通信フレームに含めることができる。
ステーション装置は、該直接通信フレームの宛先ではないステーション装置に対して、キャリアセンスレベルの変更を許可するか否かを示す情報を含めることができる。該キャリアセンスレベルの変更を許可するか否かを示す情報に、該直接通信フレームを送信する、もしくは受信するステーション装置の許容干渉電力を示す情報や、該直接通信フレームの宛先ではないステーション装置がフレーム送信を行なう際に設定する送信電力を示す情報が含めることができる。
【0093】
該キャリアセンスに関連付けられた情報は、アクセスポイント装置が送信するトリガーフレームに含めることができる。すなわち、直接通信無線リソースにおいて行われるキャリアセンスに関しては、アクセスポイント装置が制御することが可能である。
【0094】
また、トリガーフレーム含まれる送信電力を示す情報は、直接通信フレームの送信が許可されたステーション装置が受信する、他のBSSに属する無線装置が送信したフレームに含まれたキャリアセンスレベルに関連付けられた情報であることができる。すなわち、トリガーフレームには、ステーション装置に対して、他のBSSに属する無線装置が送信したフレームに記載されたキャリアセンスレベルに関連付けられた情報に基づいて送信電力を設定することを示す情報が含まれることができる。
【0095】
本実施形態に係るアクセスポイント装置は、トリガーフレームによって、アクセスポイント装置とステーション装置との間のアップリンク通信とダウンリンク通信に加えて、直接通信を設定することができる。また、本実施形態に係るアクセスポイント装置は、トリガーフレームで確保する無線リソースを複数に分割し、分割された複数の無線リソースに対して、それぞれ上記複数の通信を個別に設定することができる。
【0096】
直接通信フレームに関連付けられたトリガーフレームは、複数の無線リソースを確保することができるが、このとき、トリガーフレームは、該複数の無線リソースを、それぞれ異なる時間期間で確保することが可能である。つまり、本実施形態に係るアクセスポイントの受信部は、該複数の無線リソースに対して、それぞれ異なる長さの時間期間だけ無線媒体を確保するキャリアセンスを実施することが可能である。このとき、該キャリアセンスでは、無線媒体を確保する時間期間が異なる場合、同じパラメータ(IFSの長さや、バックオフカウンタの値や、バックオフカウンタの初期値)でそれぞれキャリアセンスを実施することが出来るし、異なるパラメータで実施することも可能である。異なるパラメータでキャリアセンスが実施される場合、アクセスポイント装置が確保する時間期間が最も長い無線媒体を確保する無線リソースに対して、キャリアセンス期間が最も長くなるように設定されることができる。
【0097】
図8は本実施形態が想定する従来の通信の様子を示す概要図である。従来では、アクセスポイント装置は、トリガーフレーム803を送信することで時間区間801だけ無線リソースを確保する。アクセスポイント装置に接続するステーション装置は、該トリガーフレームにおいて、自装置に無線リソースの割り当てが設定された場合、該トリガーフレームの受信に続いて、無線フレームを送信することができる。ただし、トリガーフレームに基づいて、複数のステーション装置が、周波数多重もしくは空間多重によって同時に無線フレームを送信する場合、複数のステーション装置が送信するフレームの長さは、基本的には同一をする必要がある。
【0098】
図9は本実施形態に係る通信の様子を示す概要図である。
図9に示すように、アクセスポイント装置は、トリガーフレーム903によって、時間区間901と時間区間905のように異なる2つの時間区間で無線リソースを確保することができる。つまり、アクセスポイント装置は、トリガーフレーム903によって、異なる長さのTXOPを同時に獲得できる。アクセスポイント装置は、トリガーフレーム903に、時間区間901の長さと、時間区間901だけ確保する無線リソースを示す情報と、時間区間905の長さと、時間区間905だけ確保する無線リソースを示す情報と、を記載することができる。例えば、アクセスポイント装置は、
図9に示すように、時間区間901だけ確保された無線リソースと、時間区間905だけ確保された無線リソースに、それぞれ異なる通信を設定することができる。
図9の例では、アクセスポイント装置は、時間区間901だけ確保された無線リソースには、ステーション装置からアクセスポイント装置へのアップリンク通信を設定し、時間区間905だけ確保された無線リソースには、ステーション装置同士の直接通信を設定することができる。
【0099】
図9の例において、アクセスポイント装置が、異なる長さのTXOPを獲得する無線リソースに関しては、何かに限定されるものではない。例えば、アクセスポイント装置は、
自装置が獲得する無線リソースを所定の帯域幅のRUに分割し、RU毎に異なる長さのTXOPを獲得することが可能である。当然ながら、アクセスポイント装置はRU毎に異なる通信を設定することが可能である。
【0100】
トリガーフレーム903によれば、異なるサイズのTXOPを確保することが可能であるから、トリガーフレーム903によって複数のフレームが引き起こされる場合、該複数のフレームのフレーム長は異なった値とすることが可能である。そのため、トリガーフレーム903には、トリガーフレーム903が引き起こす複数のフレームの、それぞれのフレーム長を示す情報が記載されることができる。なお、トリガーフレーム903は、トリガーフレーム903の宛先端末に対して、キャリアセンスを行なうか否かを示す制御情報が含まれることができる。
【0101】
また、アクセスポイント装置は、異なる長さのTXOPをトリガーフレームによって獲得する場合に、それぞれのTXOP(もしくはトリガーフレームによって引き起こされるNAV)に属性を与えることが可能である。例えば、アクセスポイント装置は、該トリガーフレームを受信したステーション装置であって、該トリガーフレームの宛先端末ではないステーション装置が、どのようにNAVを設定するかを示す情報を、トリガーフレームに記載することができる。例えば、アクセスポイント装置は、TXOPの長さを示す情報と共に、該TXOPの長さに対応するNAVとして、該アクセスポイント装置と同じBSSに属するフレームに関連付けられたIntra NAVと、OBSSに属するフレームに関連付けられたInter NAVと、の何れを設定するかを示す情報を、トリガーフレームに記載することが可能である。
【0102】
また、アクセスポイント装置およびステーション装置は、直接通信に関連付けられたNAVを設定することも可能である。アクセスポイント装置は、トリガーフレームによってTXOPを獲得した無線リソースに対して、直接通信を設定する場合、該トリガーフレームを受信したステーション装置であって、該無線リソースの割り当てユーザになっていないステーション装置に対して、直接通信に関連付けらえたNAV(以下では、ピアツーピアNAV、P2P NAVとも呼称する)を設定することを示す情報を、トリガーフレームに記載することができる。なお、上記のような明示的な制御情報が設定されていない場合においても、無線リソースに対して、直接通信が設定されていることを示す情報が記載されたトリガーフレームを受信したステーション装置であって、該無線リソースの割り当てユーザになっていないステーション装置は、該無線リソースが確保された時間期間(TXOPの長さ)の、P2P NAVを設定することができる。
【0103】
P2P NAVは、P2P NAVを引き起こすトリガーフレームを送信したアクセスポイント装置が管理するBSSに属するステーション装置が設定することができる。一方で、OBSSに属するステーション装置は、仮に該トリガーフレームを受信した場合においても、直接通信が設定された無線リソースに対しては、P2P NAV以外のNAV(例えば、Inter NAV)を設定することができる。
【0104】
P2P NAVは、P2P NAVを引き起こすトリガーフレームを送信したアクセスポイント装置が管理するBSSに属するステーション装置のうち、直接通信が設定された無線リソースにおいて、該直接通信の受信者(Responder)として設定されているステーション装置が設定することができる。なお、上記のように明示的に受信者であることがトリガーフレームに記載されていない場合においても、該直接通信が設定された無線リソースにおいて、該直接通信の送信者(Sender、Initiator)に設定されていないステーション装置はP2P NAVを設定することができる。
【0105】
P2P NAVは、直接通信フレームに記載された該直接通信フレームが獲得するTX
OPの値に基づいて、更新することが可能である。直接通信の送信者は、該直接通信フレームに対して、該直接通信フレームが獲得するTXOPが、P2P NAVに関連付けられていることを示す情報を記載することができる。例えば、該直接通信フレームのPHYヘッダには、該直接通信フレームが直接通信に設定されたフレームであることを示す情報や、P2P NAVの更新を許可することを示す情報等が記載される。
【0106】
P2P NAVを含む複数のNAVが設定されたステーション装置は、すべてのNAVが終了した場合に、フレーム送信を企図することができる(キャリアセンス動作に移行することができる)。ただし、ステーション装置は、それぞれのNAVに関連付けられた情報が記載されたトリガーフレームに基づいて、前記複数のNAVの少なくとも1つが終了していない場合においても、フレーム送信を行なうことができる。例えば、ステーション装置は、P2P NAVが設定されている場合に、アクセスポイント装置から、直接通信の送信者に設定されたことを示すトリガーフレームを受信した場合、該P2P NAVを更新し(破棄し)、直接通信フレームを送信することができる。当然ながら、該直接通信フレームの宛先端末は、該トリガーフレームに記載されたステーション装置に限定される。また、該トリガーフレームに、該直接通信フレームの送信に関連付けられた情報(例えば、送信電力や、許容干渉電力等)が記載されている場合、該情報に従える場合に限って、ステーション装置は直接通信フレームを送信することが可能である。
【0107】
アクセスポイント装置は、トリガーフレームで確保する無線リソースを複数のRUに分割し、それぞれのRUに対して、それぞれ異なる通信を設定することができる。このとき、アクセスポイント装置は、RU毎に(もしくはそれぞれの通信毎に)設定可能な最大の送信電力に関連付けられた情報を、トリガーフレームに含めることができる。該最大の送信電力に関連付けられた情報は、最大の送信電力の値や、予め設定された値に対する差分を示す値や、該アクセスポイント装置が許容する被干渉電力を示す値とされることができる。
【0108】
以上、説明してきた方法によれば、ステーション装置同士の直接通信が高効率に実施できるとともに、該直接通信によって生ずる与干渉電力を低減することが可能となるから、通信システムが利用する周波数バンドにおける周波数利用効率を改善することが可能である。
[2.全実施形態共通]
【0109】
本実施形態に係る通信装置は、国や地域からの使用許可を必要としない、いわゆるアンライセンスバンド(unlicensed band)と呼ばれる周波数バンド(周波数スペクトラム)
において通信を行うことができるが、使用可能な周波数バンドはこれに限定されない。本発明に係る通信装置は、例えば、国や地域から特定サービスへの使用許可が与えられているにも関わらず、周波数間の混信を防ぐ等の目的により、実際には使われていないホワイトバンドと呼ばれる周波数バンド(例えば、テレビ放送用として割り当てられたものの、地域によっては使われていない周波数バンド)や、複数の事業者で共用することが見込まれる共用スペクトラム(共用周波数バンド)においても、その効果を発揮することが可能である。
【0110】
また、本発明に係る通信装置は、対象とする通信規格は何かに限定されるものではない。例えば、国や地域から使用許可が得られた、いわゆるライセンスバンド(licensed band)と呼ばれる周波数バンドを主に対象とした通信規格(例えば、ITU-RによってIMT-Advancedとして承認された通信規格や、IMT-2020として承認された通信規格)がアンライセンスバンドに導入される場合、当該の通信規格においても、その効果を発揮することが可能である。
【0111】
本発明に係る無線通信装置で動作するプログラムは、本発明に関わる上記実施形態の機能を実現するように、CPU等を制御するプログラム(コンピュータを機能させるプログラム)である。そして、これら装置で取り扱われる情報は、その処理時に一時的にRAMに蓄積され、その後、各種ROMやHDDに格納され、必要に応じてCPUによって読み出し、修正・書き込みが行なわれる。プログラムを格納する記録媒体としては、半導体媒体(例えば、ROM、不揮発性メモリカード等)、光記録媒体(例えば、DVD、MO、MD、CD、BD等)、磁気記録媒体(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスク等)等のいずれであってもよい。また、ロードしたプログラムを実行することにより、上述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、オペレーティングシステムあるいは他のアプリケーションプログラム等と共同して処理することにより、本発明の機能が実現される場合もある。
【0112】
また市場に流通させる場合には、可搬型の記録媒体にプログラムを格納して流通させたり、インターネット等のネットワークを介して接続されたサーバコンピュータに転送したりすることができる。この場合、サーバコンピュータの記憶装置も本発明に含まれる。また、上述した実施形態における通信装置の一部、または全部を典型的には集積回路であるLSIとして実現してもよい。通信装置の各機能ブロックは個別にチップ化してもよいし、一部、または全部を集積してチップ化してもよい。各機能ブロックを集積回路化した場合に、それらを制御する集積回路制御部が付加される。
【0113】
また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いることも可能である。
【0114】
なお、本願発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本願発明の無線通信装置は、移動局装置への適用に限定されるものではなく、屋内外に設置される据え置き型、または非可動型の電子機器、たとえば、AV機器、キッチン機器、掃除・洗濯機器、空調機器、オフィス機器、自動販売機、その他生活機器などに適用出来ることは言うまでもない。
【0115】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、アクセスポイント装置および通信方法に用いて好適である。
【符号の説明】
【0117】
1-1、1-2 アクセスポイント装置
2-1~8 ステーション装置
3-1、3-2 管理範囲
10001-1 上位層部
10002-1 自律分散制御部
10002a-1 CCA部
10002b-1 バックオフ部
10002c-1 送信判断部
10003-1 送信部
10003a-1 物理層フレーム生成部
10003b-1 無線送信部
10004-1 受信部
10004a-1 無線受信部
10004b-1 信号復調部
10005-1 アンテナ部