(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160193
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】電気化学測定用混合試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 27/48 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
G01N27/48 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159961
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】光安 宇内
(72)【発明者】
【氏名】北原 達也
(57)【要約】
【課題】電気化学的測定法を用いた液体試料の検査において、液体試料に複数種の検体が含まれていても、複数種の検体を簡易に短時間で同時に検出できる電気化学測定用混合試薬を提供する。
【解決手段】本発明に係る電気化学測定用混合試薬は、酸化還元電位が異なる、複数種の試薬を含み、一の前記試薬と他の前記試薬との間の酸化還元電位差が0.2V以上である。
【選択図】無し
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元電位が異なる、複数種の試薬を含み、
一の前記試薬と他の前記試薬との間の酸化還元電位差が0.2V以上である電気化学測定用混合試薬。
【請求項2】
前記複数種の試薬を混合して10分後に電気化学測定した際に得られる前記一の試薬の第1シグナルの、前記一の試薬が単一状態である場合に電気化学測定して得られる前記一の試薬の単一シグナルに対する比を1から減じた値に100を乗じた値を第1シグナル変化率とした時、
前記第1シグナル変化率の絶対値が、40%以下である請求項1に記載の電気化学測定用混合試薬。
【請求項3】
前記複数種の試薬を混合して10分後に電気化学測定した際に得られる前記一の試薬の第1シグナルを基準とし、
前記複数種の試薬を混合して60分後に電気化学測定した際に得られる前記一の試薬の第2シグナルの前記第1シグナルに対する比を1から減じた値に100を乗じた値を第2シグナル変化率とした時、
前記第2シグナル変化率の絶対値が、20%以下である請求項2に記載の電気化学測定用混合試薬。
【請求項4】
前記複数種の試薬のうちの少なくとも前記一の試薬は、検体と作用することにより、電気化学測定した際に得られる酸化還元電流値が変化する請求項1~3の何れか一項に記載の電気化学測定用混合試薬。
【請求項5】
前記複数種の試薬のうちの少なくとも前記一の試薬は、検体と特異的に作用することにより、電気化学測定した際に得られる酸化還元電流値が変化する請求項1~4の何れか一項に記載の電気化学測定用混合試薬。
【請求項6】
前記検体が、金属イオン又は微生物である請求項4又は5に記載の電気化学測定用混合試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学測定用混合試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
河川、地下水、上下水道等の溶液中に含まれる複数種の金属及び微生物等の検体の検出には、電気化学的方法等が用いられている。電気化学的測定法を用いて液体試料に含まれている検体を検出する方法として、検体と反応する試薬を用いる方法がある。
【0003】
電気化学的測定法に試薬を用いて液体試料に含まれている検体を検出する方法として、例えば、銅イオンを含む試料溶液にジチゾンが保持された電極を接触させて、ジチゾンと銅イオンとの錯体を形成させた後、電極に所定の電圧を印加してジチゾンを酸化し、ジチゾンの酸化に起因して電極間に生じる電流を検出することで、銅イオンを選択的に検出及び定量する電気化学的分析方法が提案されている(例えば、引用文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電気化学的分析方法では、銅イオンしか検出できず、試料溶液中に含まれる複数種類の重金属イオン等の金属イオンを同時に検出できない、という問題があった。また、特許文献1に記載の電気化学的分析方法では、銅イオンとジチゾンが反応して錯体を形成させるための時間が必要であるため、金属イオンを短時間で簡易に検出できない、という問題があった。
【0006】
そのため、液体試料に含まれる複数種の検体の検出に電気化学的測定法の更なる利用を図るためには、液体試料に含まれる複数種の検体を簡易に短時間で同時に検出できる試薬の開発が重要である。
【0007】
本発明の一態様は、電気化学的測定法を用いた液体試料の検査において、液体試料に複数種の検体が含まれていても、複数種の検体を簡易に短時間で同時に検出できる電気化学測定用混合試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電気化学測定用混合試薬の一態様は、酸化還元電位が異なる、複数種の試薬を含み、一の前記試薬と他の前記試薬との間の酸化還元電位差が0.2V以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電気化学測定用混合試薬の一態様は、電気化学的測定法を用いた液体試料の検査において、液体試料に複数種の検体が含まれていても、複数種の検体を簡易に短時間で同時に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】実施例1の混合試薬の電気化学測定結果を示す図である。
【
図5】比較例1の混合試薬の電気化学測定結果を示す図である。
【
図6】実施例2-1の混合試薬と、混合試薬に含まれる試薬の電気化学測定結果を示す図である。
【
図7】実施例2-2の混合試薬と、混合試薬に含まれる試薬の電気化学測定結果を示す図である。
【
図8】実施例2-3の混合試薬と、混合試薬に含まれる試薬の電気化学測定結果を示す図である。
【
図9】比較例2-1の混合試薬と、混合試薬に含まれる試薬の電気化学測定結果を示す図である。
【
図10】比較例2-2の混合試薬と、混合試薬に含まれる試薬の電気化学測定結果を示す図である。
【
図11】実施例2-4の混合試薬の10分後及び60分後における電気化学測定結果を示す図である。
【
図12】Cu
2+を検出する際の、実施例3-1の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図13】Cu
2+濃度と、試薬R01の電流値の変化量との関係を示す図である。
【
図14】Cu
2+濃度と、試薬R04の電流値の変化量との関係を示す図である。
【
図15】Fe
3+を検出する際の、実施例3-1の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図16】Fe
3+濃度と、試薬R02の電流値の変化量との関係を示す図である。
【
図17】Fe
3+濃度と、試薬R04の電流値の変化量との関係を示す図である。
【
図18】実施例3-2の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図19】Fe
3+を検出する際の、実施例3-2の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図20】Escherichia coli菌を検出する際の、実施例3-2の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図21】Fe
3+及びEscherichia coli菌を検出する際の、実施例3-2の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図22】実施例3-3の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図23】Cu
2+を検出する際の、実施例3-3の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図24】Fe
3+を検出する際の、実施例3-3の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図25】Fe
3+及びCu
2+の両方を検出する際の、実施例3-3の混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図26】混合試薬と、混合試薬に含まれる試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図27】Al
3+を検出する際の、混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図28】Cd
2+を検出する際の、混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図29】Al
3+及びCd
2+を検出する際の、混合試薬の電位と電流値との関係を示す図である。
【
図30】Al
3+濃度と、試薬R06の電流値の変化量との関係を示す図である。
【
図31】Cd
2+濃度と、試薬R06の電流値の変化量との関係を示す図である。
【
図32】Al
3+濃度と、試薬R010の電流値の変化量との関係を示す図である。
【
図33】Cd
2+濃度と、試薬R010の電流値の変化量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
本発明の実施形態に係る電気化学測定用混合試薬(以下、単に「混合試薬」という。)について説明する。本実施形態に係る混合試薬は、酸化還元電位が異なる、複数種の試薬を含み、一の試薬と他の試薬との間の酸化還元電位差を0.2V以上とするものである。
【0013】
本実施形態に係る混合試薬は、酸化還元電位差が0.2V以上になる複数の試薬を含み、それぞれの試薬の酸化還元電位におけるピーク電流の重なりを抑えることで、それぞれの試薬の酸化還元電位を精度良く特定できる。本実施形態に係る混合試薬を用いることで、複数種の試薬の酸化還元電位と略同等の位置に酸化還元電位を有する、複数種の検体を簡易に短時間で同時に検出できる。
【0014】
なお、酸化還元電位とは、
図1に示すように、電位を変化させて電極と試薬との間の反応を測定した際に得られる矩形波ボルタンメトリー(Square Wave Voltammetry:SWV)の酸化還元ピーク電流値における電位(ピーク電位)をいう。酸化還元ピーク電流値の最大値は、試薬の濃度に比例して高くなるため、試薬の含有量は、ピーク電流の最大値が特定し易くなるように、適宜調整してよい。
【0015】
本実施形態に係る混合試薬の電流電位を測定する際、本実施形態に係る混合試薬と電解質とを電気化学測定用のセルに少量入れる。混合試薬と電解質を含む試薬含有溶液を電気化学測定用のセルに所定量(例えば、25mL)入れて、そして、電極にポテンショスタットを接続した状態で、試薬含有溶液を電極に接触させて電気化学測定を行う。電気化学測定では、電位を変化させて、電極と試薬含有溶液中の混合試薬の間の反応を測定する。これにより、混合試薬に含まれる複数種の試薬を検出される。
【0016】
電気化学測定を行う際、試薬含有溶液の液温は、適宜任意の温度(例えば、25℃)に調整して行ってよい。
【0017】
電極は、特に限定されず、電気化学測定に用いられる一般的な電極を用いることができ、例えば、作用電極、対極及び参照電極がスクリーン印刷された電極及びダイアモンド電極等を用いることができる。
【0018】
スクリーン印刷された電極を用いる場合、作用電極、対極及び参照電極がスクリーン印刷された電極にポテンショスタットを接続した状態で、試薬含有溶液を3つの電極の上に滴下して電気化学測定を行えばよい。SWVの条件として、作用電極にカーボンからなる電極を用い、対極にPt電極を用い、参照電極にAg/AgClからなる電極を用いてよい。
【0019】
ダイアモンド電極を用いる場合、電極にポテンショスタットを接続した状態で、試薬含有溶液をダイアモンド電極の上に滴下して電気化学測定を行えばよい。
【0020】
ポテンショスタットも、特に限定されず、電気化学測定において一般的に使用されるポテンショスタットを用いてよい。電位の制御は、特に限定されず、ソフトウェアによりポテンショスタットを制御することにより行ってもよい。測定方法としては、電気化学測定における一般的な方法を用いることができるが、酸化還元ピーク電流値が容易に特定できるSWVで行うことが好ましい。
【0021】
酸化還元電位差は、
図2に示すように、一の試薬の酸化還元電位と他の試薬の酸化還元電位との間の電位差をいう。
【0022】
検体とは、重金属イオン等の金属イオン、微生物等をいう。重金属イオンとしては、Fe3+、Cu2+等を挙げられる。微生物としては、Escherichia coli菌、乳酸菌等を用いることができる。液体試料には、複数の異なる種類の金属イオン又は微生物等が含まれてよい。即ち、複数の異なる種類の金属イオンが含まれていてもよいし、複数の異なる種類の微生物が含まれていてもよいし、複数の異なる種類の金属イオンと微生物が含まれていてもよい。
【0023】
酸化還元電位差は、0.2V以上であり、試薬の選択の幅を持ちつつ、各試薬の酸化還元電位の位置が容易に区別できる点から、0.25V以上がより好ましく、0.30V以上がさらに好ましい。
【0024】
試薬は、検体の検出用に用いられる成分であればよく、検体の種類に応じて適宜任意の成分を用いることができる。試薬としては、例えば、下記表1及び表2に示す試薬を用いることができる。表1及び表2には、それぞれの試薬のピーク電位を示す。なお、それぞれの試薬のピーク電位は、試薬の濃度、混合試薬の濃度、温度、電極の種類等、測定条件に応じてピーク電位が多少前後する場合がある。表1及び表2に示す、それぞれの試薬のピーク電位は、0.5mMの各試薬をPH7の50mMリン酸ナトリウムバッファーに溶解し、カーボンペーストのスクリーン印刷電極を使用した際のSWV結果である。
【0025】
【0026】
【0027】
試薬は、ピーク電位の大きさに応じて、複数の試薬に分類できる。
図3は、試薬の分類の一例を示す図である。
図3に示すように、例えば、試薬は、ピーク電位が-0.4V未満である第1試薬と、ピーク電位が-0.4V以上0.4V未満である第2試薬と、ピーク電位が0.4V以上0.6V未満である第3試薬と、ピーク電位が0.6V以上1.2V未満である第4試薬と、ピーク電位が1.2V以上である第5試薬とに分類できる。
【0028】
試薬の形態は、適宜調整可能であり、粉体等の固体でもよいし、液体でもよい。
【0029】
本実施形態に係る混合試薬は、複数の試薬を粉末等の状態で混合して含んでいてもよいし、複数の試薬を液体の状態で含んでいてもよいし、固体等の状態の試薬と、液体の状態の試薬との両方を混合して含んでいてもよい。
【0030】
このとき、本実施形態に係る混合試薬は、複数の試薬の形態に応じて適宜任意の形態としてよい。例えば、複数の試薬が粉末等の固体である場合、本実施形態に係る混合試薬は、複数の試薬を溶媒に溶解した溶液をカプセル等に内包した状態としてもよい。また、それぞれの試薬ごとにそれぞれの試薬を溶媒に溶解した溶液をカプセルに内包して、複数のカプセルを混ぜた状態で含んでもよい。なお、複数の試薬をカプセルに内包した状態では、使用時に試薬が検体と反応できないため、使用時には、カプセルが溶解するか破壊して試薬が検体と接触できるようにしてよい。
【0031】
複数種の試薬は、それぞれ相互作用を抑えつつ、それぞれの試薬が単一状態である場合と同等の酸化還元電位を有してよい。なお、単一状態である場合とは、混合試薬が一の試薬のみを含む状態をいう。
【0032】
複数種の試薬同士の相互作用は、これらの試薬が混合された時点、又は混合してから所定時間経過後において抑えられていればよい。
【0033】
本実施形態では、液体試料中で複数種の試薬を混合して10分後に電気化学測定した際に得られる一の試薬の第1シグナルの、一の試薬が単一状態である場合に電気化学測定して得られる一の試薬の単一シグナルに対する比(第1シグナル/単一シグナル)を1から減じた値に100を乗じた値((1-(第1シグナル/単一シグナル))×100)を第1シグナル変化率とする。この時、第1シグナル変化率の絶対値(|第1シグナル変化率|=|(1-(第1シグナル/単一シグナル))×100|)は、40%以下であることが好ましく、より好ましくは37%以下であり、さらに好ましくは35%以下である。第1シグナル変化率の絶対値が上記の好ましい範囲内であれば、試薬同士の相互作用がより適切に抑えられる。
【0034】
本実施形態では、複数種の試薬を混合して10分後に電気化学測定した際に得られる一の試薬の第1シグナルを基準とし、複数種の試薬を混合して60分後に電気化学測定した際に得られる一の試薬の第2シグナルの上記の第1シグナルに対する比(第2シグナル/第1シグナル)を1から減じた値に100を乗じた値((1-(第2シグナル/第1シグナル))×100)を第2シグナル変化率とする。この時、第2シグナル変化率の絶対値(|第2シグナル変化率|=|(1-(第2シグナル/第1シグナル))×100|)は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは18%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。第2シグナル変化率の絶対値が上記の好ましい範囲内であれば、複数の試薬同士の相互作用が抑えられた状態をより長く維持できる。
【0035】
複数種の試薬のうちの少なくとも一の試薬は、検体と作用することにより、電気化学測定した際に得られる酸化還元電流値が変化することが好ましい。一の試薬が検体と作用した際に生じる酸化還元電流値は、検体の量に比例する。そのため、複数種の試薬のうちの少なくとも一の試薬が検体と作用した際に生じる酸化還元電流値の変化量から検体を定量できる。
【0036】
複数種の試薬のうちの少なくとも一の試薬は、検体と特異的に作用することにより、電気化学測定した際に得られる酸化還元電流値が変化することが好ましい。一の検体を電気化学測定した際に得られるピーク電位は、それぞれの検体毎に特定のピーク電位を有する。一の試薬が特定の検体と特異的に作用すれば、一の試薬のピーク電位が変化するため、検体の種類を特定できる。
【0037】
本実施形態に係る混合試薬を用いて、液体試料に含まれる複数種の検体を検出する検出方法について説明する。本実施形態に係る混合試薬を電気化学測定用のセルに少量入れる。そして、複数種の検体を含む液体試料を電気化学測定用のセルに所定量(例えば、25mL)入れて液温度25℃に調整する。そして、電極にポテンショスタットを接続した状態で、混合試薬を含む液体試料を電極に接触させて電気化学測定を行う。電気化学測定では、電位を変化させて、電極と液体試料中の混合試薬の間の反応を測定する。これにより、それぞれの混合試薬と略同じ位置にピークを有する検体を検出できる。
【0038】
また、ピーク電流の最大値は、検体の濃度に比例して高くなるか低くなるため、検体の濃度を測定することもできる。
【0039】
なお、電気化学測定を行う際、混合試薬を含む液体試料を電極の上に滴下して電気化学測定を行ってもよいし、液体試料に電極の先端部を浸漬させた状態で電極をポテンショスタットに接続して、電気化学測定を行ってもよい。
【0040】
また、電気化学測定を行う前に液体試料を遠心分離機等にかけて液体試料中の混合試薬と検体を濃縮又は分離等の前処理を経て電気化学測定を行ってもよい。
【0041】
本実施形態に係る混合試薬は、酸化還元電位が異なる、複数種の試薬を含み、一の試薬と他の試薬との間の酸化還元電位差が0.2V以上となる試薬を用いる。これにより、混合試薬に含まれる複数種の試薬のそれぞれのSWV等のような電流-電位曲線のピークの一部が重なっても、それぞれの試薬の酸化還元電位の位置を特定できる。よって、本実施形態に係る混合試薬は、電気化学的測定法を用いて液体試料中に含まれている複数種の検体を検出する際に、液体試料中に含まれている複数種の検体を同時に検出できる。
【0042】
また、本実施形態に係る混合試薬は、例えば、検体が金属イオンである場合には、金属イオンは約10分程度で検出でき、検体が微生物である場合には、微生物は約30分で検出できる。よって、本実施形態に係る混合試薬は、液体試料に含まれる複数の検体を短時間で検出できるため、検出に要する時間を短くすることができる。よって、本実施形態に係る混合試薬は、液体試料中に含まれている複数種の検体の検出を短時間で行うことができる。
【0043】
さらに、本実施形態に係る混合試薬は、液体試料を濃縮するための工程等が不要になるため、検体を含む液体試料を撹拌するための攪拌設備を削減できる。よって、本実施形態に係る混合試薬を用いれば、検出に要する設備負担と作業負担を軽減できるため、液体試料中に含まれている複数種の検体の検出を簡易かつ短時間で行うことができる。
【0044】
よって、本実施形態に係る混合試薬を用いれば、電気化学的測定法を用いた液体試料の検査において、液体試料に複数種の検体が含まれていても、複数種の検体を簡易に短時間で同時に検出できる。
【0045】
本実施形態に係る混合試薬は、第1シグナル変化率の絶対値(|第1シグナル変化率|)を40%以下にできる。この場合、一の試薬は異なる他の試薬により影響を受けることを、例えば、少なくとも10分間抑えることができるため、一の試薬は単一状態である場合と略同等の電気化学シグナルを維持できる。そのため、複数種の試薬が混合されても、一の試薬の電気化学シグナルは安定して維持できる。よって、本実施形態に係る混合試薬を用いれば、液体試料の検査において、液体試料中に複数種の検体が含まれている場合でも、液体試料中に含まれる複数種の検体の検出精度の低下を抑えることができる。
【0046】
本実施形態に係る混合試薬は、第2シグナル変化率の絶対値(|第2シグナル変化率|)を20%以下にできる。この場合、一の試薬は異なる他の試薬により影響を受けることを、例えば、1時間以上の長時間抑えることができるため、それぞれの試薬は、複数種の試薬が10分間混合された状態の時と略同等の電気化学シグナルを維持できる。そのため、複数種の試薬が10分以上混合された時でも、複数の試薬同士が相互に作用を受けることが抑えられた状態をより長時間安定して維持できる。よって、本実施形態に係る混合試薬を用いれば、液体試料中に含まれる複数種の検体の検出精度の低下をさらに長時間にわたって抑えることができる。
【0047】
本実施形態に係る混合試薬は、複数種の試薬のうちの少なくとも一の試薬を、検体と作用することにより、電気化学測定した際に得られる酸化還元電流値を変化させることができる。複数種の試薬のうちの少なくとも一の試薬が検体と反応することで、電気化学シグナルが変化するため、この電気化学シグナルの電流値の変化の大きさから、検体を容易に定量できる。よって、本実施形態に係る混合試薬は、酸化還元電流値の変化量から、複数種の検体の検出と定量を同時に行うことができる。
【0048】
本実施形態に係る混合試薬は、複数種の試薬のうちの少なくとも一の試薬を、検体と特異的に作用することにより、電気化学測定した際に得られる酸化還元電流値を変化させることができる。複数種の試薬のうちの少なくとも一の試薬が特定の検体と特異的に反応することで、電気化学シグナルが変化するため、この電気化学シグナルの電流値の変化により、特定の検体を容易に同定できる。よって、本実施形態に係る混合試薬は、酸化還元電流値の変化から、複数種の検体の検出及び同定を同時に行うことができる。
【0049】
また、本実施形態に係る混合試薬は、複数種の試薬を、それぞれ検体と特異的に作用することにより、酸化還元電流値の変化量を得ることができるため、複数種の検体の検出、同定及び定量を同時に行うことができる。
【0050】
以上の通り、本実施形態に係る混合試薬は、上記のような特性を有することから、環境中の検体、例えば、飲料水、河川、地下水、上下水道、プール等から環境検査のため採取した水に含まれる金属イオン及び微生物等の検査に有効に用いることができる。
【実施例0051】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0052】
[試薬の準備]
下記表1に示す試薬を準備した。
【0053】
【0054】
<実施例1>
(混合試薬の作製)
上記表3に示す試薬のうち、4種類の試薬(試薬R01、試薬R02、試薬R03、試薬R04)を電気化学測定用のセルにそれぞれ0.5mM入れて混合して、混合試薬を作製した。
【0055】
(電気化学測定)
試薬の電気化学測定は、Metrohm社製の910PSTAT mini(ポテンショスタット)に同メーカーのスクリーン印刷電極DRP150(1枚につき1測定)を接続した構成として行った。制御は、ポテンショスタット付属のPSTAT Software をPCにインストールし、測定方法としてSquare Wave Voltammetry(SWV)モードでの電気化学測定を行った。実施例1の混合試薬の電気化学測定結果を
図4に示す。
【0056】
図4に示すように、実施例1では、それぞれの試薬同士のピーク電位差が0.2V以上離れているため、シグナルの分離が可能であった。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、混合試薬に含まれる試薬を、上記表3に示す試薬のうち、下記に示す2種類の試薬に変更したこと以外は、実施例1と同様にして行った。比較例1の混合試薬の電気化学測定結果を
図5に示す。それぞれの試薬の含有量は、0.5mMとした。
(試薬の種類)
・比較例1:試薬R04、試薬R05
【0058】
図5に示すように、ピーク電位差が0.2V未満であり、シグナルが重なるため、識別が困難であった。
【0059】
<実施例2>
[実施例2-1~2-3、比較例2-1、2-2]
(混合試薬の作製)
実施例1において、混合試薬に含まれる試薬を、上記表3に示す試薬のうち、下記に示す2種類~4種類の試薬に変更して、混合試薬を作製した。
((試薬の種類))
・実施例2-1:試薬R01、試薬R02、試薬R04
・実施例2-2:試薬R01、試薬R02、試薬R06
・実施例2-3:試薬R01、試薬R02、試薬R04、試薬R07
・比較例2-1:試薬R01、試薬R08
・比較例2-2:試薬R01、試薬R09
【0060】
(シグナル変化率の算出)
((試薬の10分混合後におけるシグナル変化率の算出))
2種類~4種類の試薬を水中に所定量入れて混合して10分後に、上記実施例1と同様にして混合試薬を含む水溶液を用いて電気化学測定を行った。同様に、3種類の試薬をそれぞれ水中に0.16mM又は0.20mM入れて、それぞれの試薬を含む水溶液を用いて電気化学測定を行った。試薬を混合して10分後に電気化学測定を行った時に得られた混合試薬のシグナルを第1シグナルとした。実施例2-1~2-3、比較例2-1、2-2の、それぞれの、混合試薬と、混合試薬に含まれる試薬の電気化学測定結果を
図6~
図10に示す。なお、それぞれの試薬及び混合試薬の含有量は、実施例2-1及び2-2では0.16mMとし、実施例2-3では0.1mMとし、比較例2-1及び2-2では0.25mMとした。
【0061】
図6~
図8に示すように、実施例2-1~2-3の混合試薬に含まれる各試薬の第1シグナルと、試薬が単一状態である場合に得られる各試薬の単一シグナルとは略一致していた。一方、
図9及び
図10に示すように、比較例2-1及び2-2の混合試薬に含まれる各試薬の第1シグナルと、試薬が単一状態である場合に得られる各試薬の単一シグナルとは一部が略一致していたが、他では大きくズレていた。
【0062】
図6に示すように、実施例2-1では、試薬R01の第1シグナルの単一シグナルに対する第1シグナル変化率は約-8.9%であり、試薬R02の第1シグナル変化率は約1.4%であり、試薬R04の第1シグナル変化率は約-0.34%であった。
【0063】
図7に示すように、実施例2-2では、試薬R01の第1シグナル変化率は約-8.9%であり、試薬R02の第1シグナル変化率は約1.4%であり、試薬R06の第1シグナル変化率は約-7.6%であった。
【0064】
図8に示すように、実施例2-3では、試薬R01の第1シグナル変化率は約-8.9%であり、試薬R02の第1シグナル変化率は約1.4%であり、試薬R04の第1シグナル変化率は約-0.34%であり、試薬R07の第1シグナル変化率は約3.3であった。
【0065】
図9に示すように、比較例2-1では、試薬R01の第1シグナル変化率は約-74%であり、試薬R08の第1シグナル変化率は約3.2%であった。
【0066】
図10に示すように、比較例2-2では、試薬R01の第1シグナル変化率は、約-75%であり、試薬R09の第1シグナル変化率は約-6.9%であった。
【0067】
[実施例2-4]
(混合試薬の作製)
実施例1において、混合試薬に含まれる試薬を、上記表3に示す試薬のうち、下記に示す2種類の試薬に変更して、混合試薬を作製した。
((試薬の種類))
・実施例2-1:試薬R02、試薬R09
【0068】
(シグナル変化率の算出)
((試薬の60分混合後におけるシグナル変化率の算出))
上記と同様に2種類の試薬を混合してから10分後及び60分後のそれぞれにおいて、実施例2-4の混合試薬の電気化学測定を行った。なお、試薬を混合して60分後に電気化学測定を行った時に得られた混合試薬のシグナルを第2シグナルとした。混合試薬の10分後及び60分後における電気化学測定結果を
図11に示す。なお、混合試薬の含有量は、0.25mMとした。
【0069】
図11に示すように、実施例2-4の混合試薬に含まれる各試薬の第1シグナルと第2シグナルとは略一致していた。試薬R02の第2シグナル変化率は1.7%であり、試薬R09の第2シグナル変化率は-7.2%であった。
【0070】
<実施例3>
[実施例3-1]
(混合試薬の作製)
実施例2-1と同様、上記表3に示す試薬のうち、3種類の試薬(試薬R01、試薬R02、試薬R04)を混合して、混合試薬を作製した。
【0071】
(2種類の金属イオンの検出)
混合試薬の電気化学測定を行う際は、混合試薬を50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)に溶解させ、評価を行った。検体として、2種類の金属イオンを用いた。2種類の金属イオンとして銅イオン(Cu2+)と鉄イオン(Fe3+)とを用いた。金属イオンは、1000ppm標準液を50mMリン酸ナトリウムバッファーで指定濃度まで希釈したものを使った。金属イオンを含む標準液を混合試薬を含む50mMリン酸ナトリウムバッファーに混合してから10分後に電気化学測定を行った。
【0072】
図12は、Cu
2+を検出する際の、実施例3-1の混合試薬の電位と電流値との関係を示す。
図12に示すように、銅イオンの濃度が0.1ppm、1ppm及び10ppmのいずれの場合でも、混合試薬に含まれる試薬R01は略同等に高感度でCu
2+を検出できた。
【0073】
図13は、Cu
2+濃度と、試薬R01の電流値の変化量との関係を示す。
図13に示すように、Cu
2+濃度が大きくなるほど、試薬R01の電流値は増大していることから、Cu
2+濃度が大きいほど試薬R01との酸化還元等の反応が多く起きていることが確認された。また、
図14は、Cu
2+濃度と、試薬R04の電流値の変化量との関係を示す。
図14に示すように、Cu
2+の濃度を変えても試薬R04の電流値は殆ど変化しないことから、Cu
2+に試薬R04は殆ど反応しないことが確認された。
【0074】
図15は、Fe
3+を検出する際の、実施例3-1の混合試薬の電位と電流値との関係を示す。
図15に示すように、鉄イオンの濃度が0.05mM、0.5mM、1mM及び5mMのいずれの場合でも、試薬R01は略同等に高感度でFe
3+を検出できた。
【0075】
図16は、Fe
3+濃度と、試薬R02の電流値の変化量との関係を示す。
図16に示すように、Fe
3+濃度が大きくなるほど、試薬R02の電流値は低下していることから、Fe
3+濃度が大きいほど試薬R02との酸化還元等の反応が多く起きていることが確認された。また、
図17は、Fe
3+濃度と、試薬R04の電流値の変化量との関係を示す。
図17に示すように、Fe
3+の濃度を変えても試薬R04の電流値は殆ど変化しないことから、Fe
3+に試薬R04は殆ど反応しないことが確認された。
【0076】
[実施例3-2]
上記表3に示す試薬のうち、2種類の試薬(試薬R02、試薬R06)を混合して、混合試薬を作製し、検体としてFe3+とEscherichia coli菌とを用いたこと以外は、実施例3-1と同様にして行った。
【0077】
図18は、実施例3-2の混合試薬の電位と電流値との関係を示し、
図19は、Fe
3+を検出する際の、実施例3-2の混合試薬の電位と電流値との関係を示し、
図20は、Escherichia coli菌を検出する際の、実施例3-2の混合試薬の電位と電流値との関係を示し、
図21は、Fe
3+及びEscherichia coli菌を検出する際の、実施例3-2の混合試薬の電位と電流値との関係を示す。
図18及び
図19に示すように、試薬R02及びR06を含む混合試薬は、Fe
3+を検出でき、
図18及び
図20に示すように、試薬R02及びR06を含む混合試薬は、Escherichia coli菌を検出でき、
図18及び
図21に示すように、試薬R02及びR06を含む混合試薬は、Fe
3+及びEscherichia coli菌の両方を検出できることが確認された。
【0078】
[実施例3-3]
(混合試薬の作製)
実施例3-1において、検体としてCu2+及びFe3+を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にして行った。
【0079】
図22は、実施例3-3の混合試薬の電位と電流値との関係を示し、
図23は、Cu
2+を検出する際の、実施例3-3の混合試薬の電位と電流値との関係を示し、
図24は、Fe
3+を検出する際の、実施例3-3の混合試薬の電位と電流値との関係を示し、
図25は、Cu
2+及びFe
3+の両方を検出する際の、実施例3-3の混合試薬の電位と電流値との関係を示す。
図22及び
図23に示すように、試薬R01、R02及びR04を含む混合試薬は、Cu
2+を検出でき、
図22及び
図24に示すように、試薬R01、R02及びR04を含む混合試薬は、Fe
3+を検出でき、
図22及び
図25に示すように、試薬R01、R02及びR04を含む混合試薬は、Cu
2+及びFe
3+の両方を検出できることが確認された。
【0080】
<実施例4>
[実施例4-1]
(混合試薬の作製)
実施例3-1において、混合試薬に含まれる試薬を、上記表3に示す試薬のうち、下記に示す2種類の試薬に変更して、検体としてCu2+及びFe3+を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にして行った。検体の種類と、試薬の種類及び検体の検出の有無とを表4に示す。なお、試薬により検体が検出された場合は、表4中、○と示し、試薬により検体が検出されなかった場合は、表4中、×と示した。
(試薬の種類)
・実施例4-1:試薬R01、試薬R02
【0081】
【0082】
表4より、試薬R01と試薬R02により、2種類の金属イオンとしてCu2+及びFe3+を同時に同定できることが確認された。
【0083】
[実施例4-2]
実施例4-1において、混合試薬に含まれる試薬を、上記表3に示す試薬のうち、下記に示す2種類の試薬に変更して、検体としてFe3+及びEscherichia coli菌を用いたこと以外は、実施例4-1と同様にして行った。Escherichia coli菌の検出は、以下の通り行った。検体の種類と、試薬の種類及び検体の検出の有無とを表5に示す。なお、試薬により検体が検出された場合は、表5中、○と示し、試薬により検体が検出されなかった場合は、表5中、×と示した。
(試薬の種類)
・実施例4-2:試薬R02、試薬R06
(Escherichia coli菌の検出(Escherichia coli菌の培養条件、シグナル波形評価))
大腸菌(NEB5α)はLB液体培地で37℃で一晩培養し、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)で洗浄を2回実施した後(6000rpmを5分)、最終濃度が1×109になるように調整した。反応性評価を行う際は混合試薬と混合させ、30分放置した後、電気化学測定を行った。
【0084】
【0085】
表5より、試薬R02とR06により、1種類の金属イオンとしてFe3+と、微生物としてEscherichia coli菌を同時に同定できることが確認された。
【0086】
[実施例4-3]
実施例4-1において、混合試薬に含まれる試薬を、上記表3に示す試薬のうち、下記に示す3種類の試薬に変更して、検体としてFe3+及びEscherichia coli菌を用いたこと以外は、実施例4-1と同様にして行った。検体の種類と、試薬の種類及び検体の検出の有無とを表6に示す。なお、試薬により検体が検出された場合は、表6中、○と示し、試薬により検体が検出されなかった場合は、表6中、×と示した。
(試薬の種類)
・実施例4-3:試薬R02、試薬R04、試薬R06
【0087】
【0088】
表6より、試薬R02と試薬R04と試薬R06により、1種類の金属イオンとしてFe3+と、微生物としてEscherichia coli菌を同時に同定できることが確認された。
【0089】
<実施例5>
(混合試薬の作製)
実施例1と同様、上記表3に示す試薬のうち、2種類の試薬(試薬R06、試薬R010)を混合して、混合試薬を作製した。
【0090】
(電気化学測定)
混合試薬の電気化学測定には、ダイアモンド電極を用いたボルタンメトリーセル(HX-220、北斗電工社製)を使用した。
【0091】
ダイアモンド電極及びボルタンメトリーセルは、試薬を電気化学測定するたびに洗浄した。ダイアモンド電極及びボルタンメトリーセルを蒸留水で4回洗浄した後、0.1mM硫酸を2mL加えた状態でCyclic Voltammetry (CV)±2Vを10サイクル回した。最後に、再びダイアモンド電極及びボルタンメトリーセルを蒸留水で4回洗浄し、1mLのリン酸ナトリウムバッファーで共洗いを行った。
【0092】
混合試薬を2mL滴下し、Square Wave Voltammetry(SWV)モードで電気化学測定を行なった(スキャンレート:0.1V/s、電位:±2V)。混合試薬を測定する度に、ダイアモンド電極及びボルタンメトリーセルは硫酸で繰り返し洗浄した。
【0093】
(2種類の金属イオンの検出)
混合試薬の電気化学測定を行う際、混合試薬を50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)に溶解させ、評価を行った。検体として、2種類の金属イオンを用いた。2種類の金属イオンとしてアルミニウムイオン(Al3+)とカドミウムイオン(Cd2+)とを用いた。金属イオンは、1000ppm標準液を50mMリン酸ナトリウムバッファーで指定濃度まで希釈したものを使った。金属イオンを含む標準液を混合試薬を含む50mMリン酸ナトリウムバッファーに混合してから10分後に電気化学測定を行った。
【0094】
なお、混合試薬を含む50mMリン酸ナトリウムバッファーに検体を混合する前に電気化学測定した時の混合試薬と、混合試薬に含まれる試薬の電位と電流値との関係を
図26に示す。
図26に示すように、混合試薬に含まれる試薬R06と試薬R010とはそれぞれ異なる位置に電流値のピークが見られる。電極の材料によって混合試薬のシグナル電位は変わる場合があるため、カーボンペーストのスクリーン印刷電極で得られるシグナルは、ダイアモンド電極で得られるシグナルとは異なる場合がある。試薬R06と試薬R010を含む混合試薬では、試薬R06と試薬R010の電流値のピークがそれぞれ異なる位置に見られるため、検体の検出に用いることが可能である。
【0095】
図27は、Al
3+を検出する際の、混合試薬の電位と電流値との関係を示す。
図27に示すように、Al
3+の濃度が25ppm、50ppm及び100ppmの何れでも、混合試薬は略同等に高感度でAl
3+を検出できた。
【0096】
図28は、Cd
2+を検出する際の、混合試薬の電位と電流値との関係を示す。
図28に示すように、Cd
2+の濃度が50ppm及び100ppmでは、混合試薬は略同等に高感度でCd
2+を検出できた。
【0097】
図29は、Al
3+及びCd
2+を検出する際の、混合試薬の電位と電流値との関係を示す。
図29に示すように、アルミニウムイオン及びカドミウムイオンの濃度がいずれも50ppmでは、混合試薬は略同等に高感度でAl
3+及びCd
2+を検出できた。よって、試薬R06と試薬R010とを含む混合試薬により、異なる検体としてAl
3+及びCd
2+を同時に検出できるといえる。
【0098】
図30は、Al
3+濃度と、試薬R06の電流値の変化量との関係を示し、
図31は、Cd
2+濃度と、試薬R06の電流値の変化量との関係を示す。
図30に示すように、Al
3+濃度が大きくなるほど、試薬R06の電流値は増大していることから、Al
3+濃度が大きいほど試薬R06との酸化還元等の反応が多く起きていることが確認された。一方、
図31に示すように、Cd
2+濃度の大きさに関わらず、試薬R06の電流値は殆ど変化しなかったことから、Cd
2+と試薬R06との酸化還元等の反応の大きさは略変わらないことが確認された。
【0099】
図32は、Al
3+濃度と、試薬R010の電流値の変化量との関係を示し、
図33は、Cd
2+濃度と、試薬R010の電流値の変化量との関係を示す。
図32に示すように、Al
3+濃度が大きくなっても、Al
3+濃度が50ppm以上では試薬R010の電流値は略変動しなかったことから、Al
3+濃度が大きくなっても試薬R010との酸化還元等の反応はある程度の量までしか大きくならないことが確認された。一方、
図33に示すように、Cd
2+濃度が大きくなるほど、試薬R010の電流値は増大していることから、Cd
2+濃度が大きいほど試薬R010との酸化還元等の反応が多く起きていることが確認された。
【0100】
図30~
図33に示すように、ダイアモンド電極を用いて電気化学測定した結果、試薬R06はAl
3+イオンに強く反応し、試薬R010はCd
2+に強く反応した。よって、検体に含まれるAl
3+濃度は試薬R06のシグナルの変動率から算出し、検体に含まれるCd
2+濃度は試薬R010のシグナルの変動率から算出できることが確認された。
【0101】
混合試薬に含まれる試薬R06によりAl
3+が検出されるが、
図27に示すように、Al
3+により混合試薬に含まれる試薬R010のシグナルも若干変動する傾向がある。一方、
図28に示すように、Cd
2+では混合試薬に含まれる試薬R06のシグナルは略変化しない。このため、
図29に示すように、検体にAl
3+及びCd
2+が同時に含まれる場合、Al
3+は試薬R06のシグナル増加量から求めると共に、混合試薬のシグナルの増加量からAl
3+によって生じた試薬R010のシグナルの増加量を減ずる。これにより、混合試薬のシグナルの増加量からCd
2+によって生じた試薬R010のシグナルの増加量を高精度に求めることができる。
【0102】
よって、試薬R06及び試薬R010を含む混合試薬を用いて、検体に含まれるAl3+及びCd2+を検出する際、混合試薬のシグナルの増加量から試薬R010のシグナルの増加量を減ずることで、検体に含まれるAl3+及びCd2+の検出精度を向上できるといえる。
【0103】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。