(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160196
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】炎遮蔽性布帛を含む難燃性布張り家具
(51)【国際特許分類】
D01F 6/54 20060101AFI20241106BHJP
D01F 6/40 20060101ALI20241106BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20241106BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20241106BHJP
D03D 15/513 20210101ALI20241106BHJP
A47C 17/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
D01F6/54 C
D01F6/40
D04B1/16
D03D15/20 100
D03D15/513
A47C17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162014
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】見尾 渡
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 彰
(72)【発明者】
【氏名】中村 晋也
【テーマコード(参考)】
4L002
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA02
4L002AA08
4L002AB01
4L002AC00
4L002BA00
4L002EA00
4L002EA04
4L002FA00
4L035BB03
4L035EE14
4L035FF04
4L035JJ05
4L048AA08
4L048AA16
4L048AA53
4L048AA56
4L048AB01
4L048AB05
4L048AC14
4L048CA06
4L048DA24
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】環境への影響が懸念されず、高い難燃性を有するニット生地を含む難燃性布張り家具を提供する。
【解決手段】難燃性アクリル系繊維及びセルロース系繊維を含む炎遮蔽性布帛を含む難燃性布張り家具であって、前記炎遮蔽性布帛に含まれるマグネシウム化合物が、布帛全体質量に対して1.5質量%以上13.5質量%以下であり、BS5852:2006に基づいた燃焼性試験によって測定した、残炎時間および残じん時間が120秒以下である、難燃性布張り家具に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性アクリル系繊維(A)及びセルロース系繊維(B)を含む炎遮蔽性布帛を含む難燃性布張り家具であって、
前記炎遮蔽性布帛に含まれるマグネシウム化合物が、布帛全体質量に対して1.5質量%以上13.5質量%以下であり、
BS5852:2006に基づいた燃焼性試験によって測定した、残炎時間および残じん時間が120秒以下である、難燃性布張り家具。
【請求項2】
炎遮蔽性布帛は、布帛全体質量に対して前記難燃性アクリル系繊維(A)を60~90質量%、前記セルロース系繊維(B)を10~40質量%を含み、炎遮蔽性布帛の目付が120g/m2以上220g/m2以下である、請求項1に記載の難燃性布張り家具。
【請求項3】
難燃性アクリル系繊維(A)は、アクリロニトリル30~85質量%、ハロゲン含有ビニル単量体及びハロゲン含有ビニリデン単量体からなる群から選ばれる1以上のハロゲン含有系単量体15~65質量%、及びスルホン酸基含有単量体0~3質量%から生成されるアクリロニトリル系共重合体で構成される、請求項1または2に記載の難燃性布張り家具。
【請求項4】
難燃性アクリル系繊維(A)は、繊維内部全体にマグネシウム化合物を2~15質量%含む、請求項1から3いずれかに記載の難燃性布張り家具。
【請求項5】
マグネシウム化合物の平均粒子径が0.3μm以上である、請求項4に記載の難燃性布張り家具。
【請求項6】
マグネシウム化合物は、酸化マグネシウム及び/または水酸化マグネシウムである、請求項4または5に記載の難燃性布張り家具。
【請求項7】
セルロース系繊維(B)は、天然セルロース繊維及び再生セルロース繊維からなる群から選ばれる1以上である、請求項1~6のいずれかに記載の難燃性布張り家具。
【請求項8】
炎遮蔽性布帛は、ニット生地である、請求項1~7のいずれかに記載の難燃性布張り家具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎遮蔽性布帛を含む難燃性布張り家具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系繊維等のハロゲン含有繊維の難燃化には、難燃剤としてアンチモン化合物を1~50質量%程度含有させる方法がある(例えば、特許文献1)。当該難燃剤を含有した難燃性アクリル系繊維は、難燃化していない他の繊維と組み合わせて炎遮蔽性布帛として、難燃性布張り家具に用いられている(例えば、特許文献2)。
【0003】
また、アンチモン化合物以外のハロゲン含有繊維に難燃性を付与する化合物としてガラス転移温度が400℃以下のガラス成分を用いることが行われている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-89339号公報
【特許文献2】WO2006008958A1号公報
【特許文献3】WO2006008900A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アンチモン化合物やガラス転移温度が400℃以下のガラス成分の場合、これらの化合物の溶出や排出による環境への影響が懸念されており、改善の余地があった。また、難燃性布張り家具の場合、燃焼時において炎遮蔽性能が十分でなくウレタンフォーム等の内部構造体に着炎することがあり、優れた風合い、吸湿性、触感を有しつつ、かつ炎遮蔽性をさらに向上することが求められていた。
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、環境への影響が低減され、高い炎遮蔽性を有する炎遮蔽性布帛を含む難燃性および風合いに優れた布張り家具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、難燃性アクリル系繊維(A)及びセルロース系繊維(B)を含む炎遮蔽性布帛を含む難燃性布張り家具であって、前記炎遮蔽性布帛に含まれるマグネシウム化合物が、布帛全体質量に対して1.5質量%以上13.5質量%以下であり、BS5852:2006に基づいた燃焼性試験によって測定した、残炎時間および残じん時間が120秒以下である、難燃性布張り家具に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境への影響の懸念が低減され、優れた風合いを有し、さらに、良好な炎遮蔽性能を有する難燃性布張り家具を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者らは、炎遮蔽性布帛で布張り家具の内部構造体を覆うことにより、環境への影響の懸念を低減しつつ、優れた難燃性や炎遮蔽性が発現し、燃焼試験において残炎時間及び残じん時間が短縮されるとともに、中でもソファー、カウチ等において用いられるウレタンフォームの持つ素材独特の風合いや心地よさを充分確保しながら、高度に難燃化できることを見出した。
【0010】
本発明の1以上の実施形態において、「残炎時間」及び「残じん時間」は、それぞれBS5852:2006に基づいた燃焼性試験により測定することができる。
【0011】
<炎遮蔽性布帛>
炎遮蔽性布帛は炎遮蔽性能を必要とする用途に好適に用いられる。ここでいう炎遮蔽性能とは、炎遮蔽性布帛が炎に晒された際に炎遮蔽性布帛が炭化することで炎を遮蔽し、反対側に炎が移るのを防ぐことである。
【0012】
本発明の1以上の実施形態において、炎遮蔽性布帛は、難燃性アクリル系繊維(A)及びセルロース系繊維(B)を含む。
【0013】
難燃性アクリル繊維(A)とセルロース系繊維(B)の割合は耐久性、炎遮蔽性布帛の強度、炭化膜の形成の度合い、自己消火性の速度により決定されるが、布帛全体質量に対して、難燃性アクリル系繊維(A)の割合は60~90質量%、セルロース系繊維(B)の割合は10~40質量%であることが好ましく、難燃性アクリル系繊維(A)の割合が70~80質量%、セルロース系繊維(B)の割合は20~30質量%であることがより好ましい。難燃性アクリル系繊維(A)の割合が60質量%未満であると炎遮蔽布帛の難燃性が不充分となり、90質量%を超えるとセルロース系繊維(B)が不足し、燃焼時の炭化膜形成能力が不十分となるため好ましくない。また、セルロース系繊維(B)の割合が10質量%未満であると炎遮蔽性布帛における燃焼時の炭化膜形成の能力が不充分となり、40質量%を超えると、難燃性アクリル繊維(A)が不足し炎遮蔽性布帛の難燃性が不十分となるため好ましくない。
【0014】
炎遮蔽性布帛は、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲内において、他の繊維を含んでもよい。他の繊維としては、例えば、天然繊維としては、羊毛繊維、モヘア繊維、カシミヤ繊維、ラクダ繊維、アルパカ繊維、アンゴラ繊維、絹繊維等の天然動物繊維等が挙げられる。化学繊維としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アラミド系繊維、ポリ乳酸繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリクラール繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ベンゾエート繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリベンズアゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維等が挙げられる。また、難燃ポリエステル、ポリエチレンナフタレート繊維、メラミン繊維、アクリレート繊維、ポリベンズオキサイド繊維等を用いてもよい。その他、酸化アクリル繊維、炭素繊維、ガラス繊維、活性炭素繊維等が挙げられる。また、再生コラーゲン繊維、再生タンパク繊維、酢酸セルロース繊維、プロミックス繊維等も挙げられる。
【0015】
前記炎遮蔽性布帛は、全繊維中、他の繊維を20質量%以下含んでもよく、10質量%以下含んでもよく、8質量%以下含んでもよい。
【0016】
炎遮蔽性布帛は、ニット生地が好ましい。当該ニット生地の構成は、難燃性アクリル系繊維(A)及びセルロース系繊維(B)繊維を、混綿、混紡、コアヤーン、交編、ニット生地の重ね合わせ等があるがこれらに限定されるものではない。
【0017】
炎遮蔽性布帛は、目付が120g/m2以上220g/m2以下が好ましく、更には140g/m2以上200g/m2以下がより好ましい。炎遮蔽性布帛の目付けが120g/m2未満の場合、燃焼時に形成される炭化膜の密度が疎となり、布張り家具であるソファーやカウチ等において用いられるウレタンフォームへの着火を防ぐ性能が不充分となる。炎遮蔽性布帛の目付けが220g/m2超の場合、燃焼時に形成される炭化膜の炎遮蔽性能は良好であるが、布張り家具であるソファーやカウチ等の風合いの観点より好ましくない。炎遮蔽性布帛は単独で用いてもよく2枚以上重ねて使用してもよい。
【0018】
炎遮蔽性布帛は、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤等を含有してもよい。このようにして得られる本発明の炎遮蔽性布帛は所望の難燃性を有し、風合いに優れた特性を有する。さらに、本発明の炎遮蔽性布帛を含む布張り家具は、当該炎遮蔽性布帛が有する優れた特性、すなわち優れた炎遮蔽性、風合いを有する。
【0019】
炎遮蔽性布帛における難燃剤であるマグネシウム化合物の含有量は、布帛そのものを蛍光X線分析することで、布帛全体におけるマグネシウム化合物の含有量を求めることができる。また、炎遮蔽性布帛に含まれるセルロース系繊維(B)の質量は、当該布帛を例えば、DMSO、DMF、DMAc等の有機溶剤に浸漬、加熱してアクリル系繊維(A)を溶解させ、残存したセルロース系繊維(B)を抽出することで求めることができ、さらにアクリル系繊維(A)に含まれるマグネシウム化合物は、上記有機溶剤溶液の未溶解分を計量することで求められる。
【0020】
<マグネシウム化合物>
炎遮蔽性布帛は、燃焼時に炭化層を形成しやすい観点から、難燃剤としてマグネシウム化合物を使用する。
【0021】
炎遮蔽性布帛は、布帛全体における難燃剤であるマグネシウム化合物の割合が1.5質量%以上13.5質量%以下であり、好ましくは2.0質量%以上9.0質量%以下であり、更には2.5質量%以上6.0質量%以下が最も好ましい。炎遮蔽布帛全体における難燃剤の割合が1.5質量%未満であると、燃焼時における炎遮蔽性能が不足し、布張り家具のソファーやカウチ等において用いられるウレタンフォームへの着火を防ぐ性能が不充分となる。また、炎遮蔽性布帛全体におけるマグネシウム化合物の割合は高い難燃性を得るためには多い方が良いが、風合い、触感、繊維強度、生地強度を損なわないという観点から、13.5質量%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明で用いられるマグネシウム化合物の粒子径はメディアン径で表し、0.3μm以上、好ましくは0.3μm以上2.0μm以下、更に好ましくは0.5μm以上1.5μm以下である。粒子径が0.3μm未満であると、マグネシウム化合物粒子の表面積が増大し、紡績等の繊維加工工程における静電気発生により加工が困難となる。粒子径が2.0μmを超えると、紡糸工程にて紡糸口金の閉塞を引き起こしてしまうために製造上好ましくない。本発明において、マグネシウム化合物の平均粒子径は、例えば、粉体の場合は、レーザー回折法で測定することができ、水や有機溶媒に分散した分散体(分散液)の場合は、レーザー回折法または動的光散乱法で測定することができる。
【0023】
マグネシウム化合物の添加量としては、後述するアクリロニトリル系共重合体100質量%に対して2質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上10質量%以下がより好ましく、更には4質量%以上8質量%以下が最も好ましい。マグネシウム化合物が2質量%未満の場合、難燃性が不十分となり、一方15質量%を超えると、繊維を紡績等の加工する際に絶縁抵抗値が高くなり、静電気が発生しやすくなり、カード工程での巻き付きといったトラブルが発生し加工が困難となるに好ましくない。
【0024】
本発明で用いられるマグネシウム化合物としては、酸化マグネシウム、過酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、水素化マグネシウム、二ホウ化マグネシウム、窒化マグネシウム、硫化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、過マンガン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム等があげられる。中でも取り扱い易さの観点から酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムが好適に用いられる。更にはモース硬度の観点から水酸化マグネシウムが好適に用いられる。また、マグネシウム化合物を2種以上用いてもよい。
【0025】
本発明におけるマグネシウム化合物の好ましいモース硬度は5未満である。ここで言うモース硬度とは鉱物の硬さの指標である。例えばモース硬度5とはナイフで容易ではないものの傷をつけることができる硬さの程度であり、モース硬度6とはナイフで傷つけることが困難でナイフを痛める硬さの程度である。水酸化マグネシウム化合物及び酸化マグネシウムは、従来の難燃剤であるアンチモン化合物と同等の難燃性を確保できる。さらに、当該化合物を分散した繊維では、水酸化マグネシウム化合物は酸化マグネシウム化合物より、安定的に紡績することができる。推測の域をでないが、なぜなら、水酸化マグネシウム化合物のモース硬度は約3、酸化マグネシウム化合物のモース硬度は約7であり、水酸化マグネシウム化合物は酸化マグネシウム化合物よりも柔らかいために、本発明のニット生地や難燃性アクリル系繊維をカットする際のカッター刃の摩耗性が低くなり、紡績に用いる機械の摩耗性が低減するためと推定される。
【0026】
水酸化マグネシウム化合物としては、特に限定されないが、例えば天然ブルース鉱石を粉砕して得られた粉末、マグネシウム塩水溶液をアルカリで中和して得られた粉末、水酸化マグネシウム粒子をリン酸塩、ホウ酸塩などで処理した粉末、酸化マグネシウムを水和させて徐々に水酸化マグネシウムを生成する方法で得られるものから選ばれる。さらに、水酸化マグネシウム化合物粒子の周囲に吸着可能な物質で吸着されているもしくは表面処理によって表面処理されることにより被覆層を有したものであってもよい。その中でもシランカップリング剤で表面処理されることにより被覆層を有したものが、静電気抑制の観点から好ましい。シランカップリング剤で表面処理することで静電気抑制が向上する理由は推定の域をでないが、以下の様に考えられる。水酸化マグネシウム粒子表面をシランカップリング処理することにより難燃性アクリル系繊維(A)とシランカップリング処理した水酸化マグネシウムの相溶性が向上し、その結果静電気が抑制されると考えられる。さらに、加工性向上を目的に油剤を繊維表面に付着する工程を行うと、水酸化マグネシウム粒子の表面にも油剤の効果が十分に及び、加工性が大いに改善される。シランカップリング剤の種類としてはアクリル樹脂との相溶性を向上させるであれば特に限定はなく、架橋型、非架橋型に関しても特に限定されるものではない。
【0027】
<アクリロニトリル系共重合体>
アクリロニトリル系共重合体は、アクリロニトリル30~85質量%、ハロゲン含有ビニル単量体及びハロゲン含有ビニリデン単量体からなる群から選ばれる1以上のハロゲン含有系単量体15~65質量%、及びスルホン酸基含有単量体0~3質量%以下から生成される共重合体が好ましい。さらには、アクリルニトリル40~70質量%、塩化ビニル単量体及び/または塩化ビニリデン単量体60~30質量%、及びスルホン酸基含有ビニル系単量体0~3質量%よりなる共重合体がより好ましい。当該アクリロニトリル系重合体であれば、アクリル系繊維の耐熱性及び難燃性が良好になる。上記他の成分としては、アクリロニトリルと共重合可能なものであればよく特に限定されない。
【0028】
ハロゲン含有系単量体としては、例えば、ハロゲン含有ビニル、ハロゲン含有ビニリデンなどが挙げられる。ハロゲン含有ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニルなどが挙げられ、ハロゲン含有ビニリデンとしては、塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどが挙げられる。これらのハロゲン含有系単量体は、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩化ビニル単量体、塩化ビニリデン単量体においては、塩化ビニル単量体がより好ましい。塩化ビニル単量体を用いた場合、難燃剤としてマグネシウム化合物を選択して特定の配合量で配合することで、燃焼時に炭化層を形成しやすく、高い難燃性を発現する。そのメカニズムは明確ではないが、塩化ビニルが存在する場合、マグネシウム化合物はイントメッセント難燃剤として機能し、燃焼時に発泡炭化層、すなわちイントメッセントを形成しやすくなると推測される。また、塩化ビニリデン単量体を用いた場合、難燃剤としてマグネシウム化合物を選択する場合重合体が着色し、寝具や衣料用途での使用は制限されるが、塩化ビニル単量体を用いた場合は着色が進行せず、好ましい。
【0029】
前記スルホン酸基含有単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸に代表される不飽和カルボン酸類及びこれらの塩類、メタクリル酸メチルに代表されるメタクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート等に代表される不飽和カルボン酸のエステル類、酢酸ビニルや酪酸ビニルに代表されるビニルエステル類、スルホン酸含有モノマー等を用いることができる。前記スルホン酸含有モノマーとしては、特に限定されないが、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸並びにこれらのナトリウム塩等の金属塩類及びアミン塩類等を用いることができる。これらの他の共重合可能なビニル系単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルホン酸基を含有する単量体は必要に応じて使用されるが、上記アクリル系重合体中のスルホン酸基を含有する単量体の含有量が3質量%以下であれば紡糸工程の生産安定性に優れる。
【0030】
アクリロニトリル系共重合体は、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の既知の重合方法で得ることができる。この中でも工業的視点から、懸濁重合、乳化重合または溶液重合が好ましい。
【0031】
<難燃性アクリル系繊維(A)>
難燃性アクリル系繊維(A)は、上記のアクリロニトリル系重合体から構成され、炎遮蔽性布帛の難燃性向上のために使用される。燃焼時に炭化することで炎遮蔽性布帛の内部を酸素欠乏状態にするとともに、表面の炎の侵入を防ぐのを助ける効果がある。
【0032】
難燃性アクリル系繊維(A)は、マグネシウム化合物を用いることでアンチモン化合物を使用した際に比べ燃焼時に有害ガスである一酸化炭素の発生が抑制され、環境への影響を抑えながらも紡績性に優れ、着色の少ない(明度の高い)、高い難燃性を有するアクリル系繊維である。
【0033】
難燃性アクリル系繊維(A)は、例えば耐久性の観点から、単繊維強度が1.0~4.0cN/dtexであることが好ましく、1.5~3.5cN/dtexであることがより好ましい。難燃性アクリル系繊維(A)は、例えば実用性の観点から、伸度が20~40%であることが好ましく、伸度が20~30%であることがより好ましい。単繊維強度及び伸度は、JIS L 1015に準じて測定することができる。
【0034】
難燃性アクリル系繊維(A)は、短繊維でも長繊維でもよく、使用方法において適宜選択することが可能である。単繊維繊度は、使用される繊維複合体の用途により適宜選択されるが、1以上50以下dtexが好ましく、1.5以上30以下dtexがより好ましく、1.7以上15以下dtexがさらに好ましい。カット長は、繊維複合体の用途により適宜選択される。例えば、ショートカットファイバー(繊維長0.1mm以上5以下mm)や短繊維(繊維長38mm以上128以下mm)、あるいは全くカットされていない長繊維(フィラメント)が挙げられる。
【0035】
難燃性アクリル系繊維(A)は、必要に応じてマグネシウム化合物以外の溶出や排出による環境への影響が懸念されることが低い、他の難燃剤を含んでもよい。また、必要に応じて帯電防止剤(制電剤ともいう)、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤、着色剤等、他の添加剤を含有してもよい。なお、塗布方法については特に限定されず、スプレーによる塗布でもよくカット後の塗布でもよい。
【0036】
難燃性アクリル系繊維(A)は、特に限定されないが、好ましくはアクリロニトリル及びハロゲン含有系単量を少なくとも含むアクリル系共重合体と、マグネシウム化合物とを含む組成物を紡糸した後、熱処理することにより製造することができる。具体的な製造方法としては、湿式紡糸法、乾式紡糸法、半乾半湿式法等の公知の方法で行うことができる。例えば湿式紡糸法の場合は、前記アクリル系共重合体を有機溶媒に溶解した後、マグネシウム化合物を添加して得られた紡糸原液を用いる以外は、一般的なアクリル系繊維の場合と同様に、紡糸原液をノズルに通して凝固浴に押出すことで凝固させ、次いで延伸、水洗、乾燥、熱処理し、必要であれば捲縮を付与して切断することで作製することができる。前記有機溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン、ジメチルスルホキシドが挙げられるが、ロダン塩水溶液、硝酸水溶液等の無機溶媒を用いても良い。
【0037】
<セルロース系繊維(B)>
セルロース系繊維(B)は、炎遮蔽性布帛の強度維持のために使用され、燃焼時に炭化膜の強度を維持する効果がある。セルロース系繊維(B)の具体例としては木綿繊維、カポック繊維、亜麻繊維、大麻繊維、ラミー繊維、ジュート繊維、マニラ麻繊維、ケナフ繊維等の天然セルロース繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生セルロース繊維があげられ、これらを組み合わせて使用してもよい。これらセルロース系繊維は、難燃加工を施してもよい。更に、再生セルロース繊維は珪酸含有セルロース繊維のように、繊維加工上問題にならない範囲で機能性を付与する成分を含有させても良い。
【0038】
セルロース系繊維(B)は、短繊維でも長繊維でもよく、使用方法において適宜選択することが可能である。単繊維繊度は、使用される繊維複合体の用途により適宜選択されるが、1以上50以下dtexが好ましく、1.5以上30以下dtexがより好ましく、1.7以上15以下dtexがさらに好ましい。カット長は、繊維複合体の用途により適宜選択される。例えば、ショートカットファイバー(繊維長0.1mm以上5以下mm)や短繊維(繊維長38mm以上128以下mm)、あるいは全くカットされていない長繊維(フィラメント)が挙げられる。
【0039】
<難燃性布張り家具>
難燃性布張り家具は、炎遮蔽性布帛を含み、当該布帛で布張り家具の内部構造体を覆うことで、優れた難燃性を有する。
【0040】
布張り家具としては、例えば、バネ・ウレタン・木枠・生地から構成されるソファーやカウチ等がある。
【0041】
炎遮蔽性布帛による炎遮蔽性が発揮されることにより、布張り家具の内部構造体への延焼が低減できるため、何れの構造の布張り家具においても、難燃性と同時に優れた風合いや触感に優れた布張り家具を得ることができる。
【0042】
布張り家具に対する本発明の炎遮蔽性布帛の用い方の1以上の実施形態としては、内部構造体、例えばウレタンフォームや詰め綿を、当該炎遮蔽性布帛で包む。表面布帛と内部構造体との間に炎遮蔽バリア用不織布を挟む場合には、少なくとも表面布帛と内部構造体とが接する部分については必ず内部構造体の外側に本発明の炎遮蔽性布帛をインターライナーとして被せ、その上から表面布帛を張る。なお、表面布帛としては、布張り家具で求められる風合いや触感を損なわなければ、特に限定されない。また、難燃性をより向上させる観点から、例えば風合いを損なわない程度に、表面布帛の裏面に難燃剤をコーティングしてもよい。
【0043】
難燃性布張り家具は難燃性に優れており、BS5852:2006に基づいた燃焼性試験によって、接炎終了後の残炎時間及び残じん時間が2分以下を満たす。難燃性布張り家具は、難燃性がより向上する観点から、BS5852:2006に基づいた燃焼性試験によって測定した接炎終了後60秒以内に残炎及び残じんが消えたものが好ましい。
【実施例0044】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。以下において、特に指摘がない場合、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0045】
(難燃性評価用模型の作製)
難燃性布張り家具の難燃性は、BS5852;2006に記載の方法に従って模型を組み立て、下記炎遮蔽性布帛をインターライナーとして用い、難燃性評価用模型を組み立てた。
【0046】
(難燃性評価)
英国における布張り家具類を対象とした難燃性能試験基準である、BS5852:2006にて評価を行った。家庭用椅子類を対象とした難燃性能試験基準として、表面布帛で覆ったウレタンフォームの座部と背部を直角に配し、その接炎部分に45ml/分のブタンガスを供給するバーナー(Ignition Souece 1)で20秒間接炎し、その後の残炎および残じん時間を測定した。ニット生地を使用する場合は表面布帛とウレタンフォームの間に炎ニット生地を挟み込む形で配置し、ニット生地及び表面布帛で覆ったウレタンフォームの座部と背部を直角に配し、上記方法と同様の方法で難燃性評価を行った。残炎時間および残じん時間が1分以内のものを◎、2分以内のものを〇、2分超えるものを×とした。
【0047】
(風合い)
専門官能評価者により、炎遮蔽性布帛の柔らかさの官能評価を行い、合否判定(○、×)した。
【0048】
(判定)
難燃性評価および風合いから、炎遮蔽性布帛の合否判定を行った。
【0049】
(表面布帛)
難燃性評価で用いる表面布帛として、市中で入手可能なポリエチレンテレフタレート100質量%による目付約250g/m2の平織り生地を使用した。
【0050】
(バックコーティングした表面布帛)
難燃性評価で用いる表面布帛として、裏面をコーティングした表面布帛を使用した。市中で入手可能なポリエチレンテレフタレート100質量%による目付約250g/m2の平織り生地を、特許文献第5961684号公報の比較例3に従って加工液でコーティング処理して作製した。具体的には、固形分50質量%のポリウレタン樹脂エマルジョン100質量部に対し、攪拌しながらホウ酸亜鉛60質量%、水酸化アルミニウム40質量%の混合液を30質量部、カルボキシメチルセルロース増粘剤(70質量%水溶液)5質量部を加えたものを加工液として調整し、ドクターナイフ方式で平織り生地にコーティングした。加工液の固形分付着量は100g/m2とした。乾燥はプレドライが80℃で5分間、キュアリングは150℃で1分間とした。
【0051】
(製造例1)
難燃性アクリル系繊維(A)として、アクリロニトリル、塩化ビニル及びp-スチレンスルホン酸ナトリウムを乳化重合して得られたアクリロニトリル50質量%、塩化ビニル49.5質量%と、p-スチレンスルホン酸ナトリウム0.5質量%からなるアクリル系共重合体をジメチルホルムアミドに樹脂濃度が30質量%になるように溶解させた。得られた樹脂溶液に、樹脂質量100質量部に対して5質量部のシランカップリング処理した水酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、品名「キスマ5P」)を添加し、紡糸原液とした。上記水酸化マグネシウムは、予め、ジメチルホルムアミド100質量%に対して30質量%になるように添加し、均一分散させて調製した分散液として用いた。得られた紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数300ホールのノズルを用い、50質量%のジメチルホルムアミド水溶液中へ押し出して凝固させ、次いで水洗した後120℃で乾燥し、乾燥後に3倍に延伸してから、さらに145℃で5分間熱処理を行うことにより、難燃性アクリル系繊維を得た。得られた難燃性アクリル系繊維は、単繊維繊度が1.72dtex、強度2.7cN/dtex、伸度28%、カット長51mmであった。
【0052】
(製造例2)
難燃性アクリル系繊維(A)として、製造例1のアクリル系共重合体を用い、アクリル系共重合体の溶液に、アクリル系共重合体100質量部に対してシランカップリング処理した水酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、品名「キスマ5P」)を2質量部添加した以外は、製造例1と同様にして難燃性アクリル系繊維を得た。得られた難燃性アクリル系繊維は、単繊維繊度が1.7dtex、強度3.2cN/dtex、伸度30%、カット長51mmであった。
【0053】
(製造例3)
難燃性アクリル系繊維(A)中に難燃剤を含まない繊維として、(株)カネカ製の短繊維繊度1.7dtex、カット長51mmのアクリル系繊維SBを使用した。
【0054】
(実施例1~4)
製造例1または2で作製した難燃性アクリル系繊維(A)と、セルロース系繊維(B)としてカット長31mm以下の天然コットン繊維を用いて、下記表1に示す割合で混合し、紡績糸を製造した。該紡績糸を、株式会社島精機製作所製横編み機SG122FCを用いて、目付約150g/m2のシングルニット生地を作製した。これらの作製したニット生地を炎遮蔽性布帛として上記難燃性評価にて、試験した。表面布帛はバックコーティングしていない表面布帛を使用した。
【0055】
(比較例1)
製造例3で作製した難燃性アクリル系繊維(A)を用いた以外は実施例1と同様の生地を作製した。表面布帛はバックコーティングしていない表面布帛を使用した。
【0056】
(比較例2、3)
製造例2で作製した難燃性アクリル系繊維(A)を用い、セルロース系繊維(B)との割合を変更した以外は実施例1と同様の生地を作製した。表面布帛はバックコーティングしていない表面布帛を使用した。
【0057】
(比較例4)
表面布帛にバックコーティングした表面布帛を使用した以外は、比較例3と同様とした。
【0058】
【0059】
表1の結果から、実施例1~2のニット生地は優れた炎遮蔽性を有し、難燃性に優れた布張り家具を得られたことが明らかである。一方比較例1では、ニット生地の難燃剤の量が不足したため、十分な炎遮蔽性能を得られなかったことがわかる。
【0060】
【0061】
表2の結果から、実施例1、実施例3、実施例4のニット生地は優れた炎遮蔽性を有し、難燃性に優れた布張り家具を得られたことが明らかである。一方比較例2では、ニット生地中のセルロース系繊維(B)の割合が少な過ぎ、十分な炎遮蔽性能を得ることができなかったことが分かる。比較例3では、ニット生地中セルロース系繊維(B)の割合が多過ぎ、十分な消火性能を得られなかったことが分かる。
【0062】
実施例1~4、比較例1、2の何れにおいても表面布帛にコーティングを施しておらず風合いは〇と判定された。一方、表面布帛にバックコーティングを施した比較例4では難燃性は合格したが、布帛自体が非常に硬くなったため、風合いが×と判定された。