(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160232
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】側脳室投与によってハンター症候群を処置するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/46 20060101AFI20241106BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241106BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241106BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241106BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K38/46 ZNA
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/26
A61P25/00
A61P43/00 105
A61K38/46
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024112458
(22)【出願日】2024-07-12
(62)【分割の表示】P 2020564892の分割
【原出願日】2019-05-30
(31)【優先権主張番号】10-2018-0061741
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】520448566
【氏名又は名称】メディジーンバイオ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】MEDIGENEBIO CORPORATION
(71)【出願人】
【識別番号】506379781
【氏名又は名称】グリーン・クロス・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】GREEN CROSS CORP.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】ヨ, ジェ ヨン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ハンター症候群を処置するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】ハンター症候群を有する対象の脳室拡大を低減若しくは阻害するか、ハンター症候群を有する対象の脳機能若しくは学習記憶能力を改善するか、又はハンター症候群を有する対象の多動特性を抑制するための医薬組成物であって:イズロン酸-2-スルファターゼベータ(IDS-β)を含み、医薬組成物が側脳室に4週間に1回投与され、投与が、対象に深刻な有害作用を引き起こさず、且つ投与が、対象の脳細胞若しくは脳脊髄液におけるヘパラン硫酸(HS)の蓄積を減少させ;対象の脳細胞における細胞空胞化を低減し;又は対象の脳細胞におけるリソソーム関連膜タンパク質2(LAMP2)の発現を阻害する、医薬組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンター症候群を有する対象の脳室拡大を低減若しくは阻害するか、ハンター症候群を有する対象の脳機能若しくは学習記憶能力を改善するか、又はハンター症候群を有する対象の多動特性を抑制するための医薬組成物であって:
イズロン酸-2-スルファターゼベータ(IDS-β)
を含み、
前記医薬組成物が側脳室に4週間に1回投与され、
前記投与が、前記対象に深刻な有害作用を引き起こさず、且つ
前記投与が、前記対象の脳細胞若しくは脳脊髄液におけるヘパラン硫酸(HS)の蓄積を減少させ;前記対象の脳細胞における細胞空胞化を低減し;又は前記対象の脳細胞におけるリソソーム関連膜タンパク質2(LAMP2)の発現を阻害する、
医薬組成物。
【請求項2】
前記投与が、前記対象の側脳室のいずれか又は両方に直接行われる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記HS蓄積が、対照と比較して、20%、40%、50%、60%、80%、90%、1倍、1.5倍、又は2倍減少される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記投与が、前記対象に3回以上行われる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記投与が、12週間以上且つ48週間以下で行われる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記対象が、哺乳動物、ヒト、又はマウスである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記対象がマウスである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記投与が、リザーバーと前記リザーバーに結合したカテーテルとを含む脳室内カテーテルシステムを通して行われる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記投与が:
1)前記リザーバーが前記対象の頭皮下に配置され、且つ前記カテーテルの端が前記対象の脳室内に配置され、その結果、脳室内空がカテーテル内空を介してリザーバー内空に結合され、それによって脳脊髄液が脳室から前記リザーバーに流れることが可能になり、前記リザーバーが前記脳脊髄液で満たされるようにする、前記カテーテルシステムを外科的に挿入するステップ;
2)0.1~60ml/分の速度で前記リザーバーから前記脳脊髄液約0.1~5mlを引き抜くステップ;
3)0.1~60ml/分の速度で前記リザーバーへ前記医薬組成物0.1~5mlを注射するステップ;及び
4)前記医薬組成物を、前記カテーテルを介して前記リザーバーから前記脳室へ流れさせるステップ
を含む方法で行われる、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記投与が、ハンター症候群を処置するための1つ又は複数の追加的な酵素補充療法と併せて行われる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記追加的な酵素補充療法が、IDS-βの静脈内投与及び皮下投与のうちの少なくとも1つである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記IDS-βが、約0.1mg/ml~約60mg/ml、又は約1mg/ml~約10mg/ml、又は6mg/mlの濃度である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
単回投与時の前記IDS-βの用量が、約15μg~約60μg、又は約20μg~約40μg、又は約30μgである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
単回投与時の前記IDS-βの用量が、約1mg~約60mg、又は約15mg~約60mg、又は約20mg~約40mg、又は約30mgである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
塩化ナトリウム;及び
ポリソルベート20
をさらに含み、
5~7のpHを有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記塩化ナトリウムが、約100mM~約200mMの濃度であり、前記ポリソルベート20が、約0.01mg/ml~0.5mg/mlの濃度である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記深刻な有害作用が、実質的なT細胞媒介適応免疫応答、毒性、又は死である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項18】
ハンター症候群に罹患している対象の脳室拡大を処置若しくは阻害するか、又は脳機能を改善するための医薬組成物であって:
約150mMの塩化ナトリウム;
約0.05mg/mlのポリソルベート20;及び
約6mg/mlのイズロン酸-2-スルファターゼベータ(IDS-β)
を含み、
約6のpHを有し、側脳室に4週間に1回投与される、医薬組成物。
【請求項19】
請求項1に記載の医薬組成物を対象に適用するステップ
を含む、ハンター症候群を処置するための方法。
【請求項20】
ハンター症候群を処置するための、請求項1に記載の医薬組成物の使用。
【請求項21】
ハンター症候群を処置するための医薬品の製造のための、請求項1に記載の医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンター症候群を処置するための方法及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンター症候群すなわちムコ多糖症II型は、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS又はI2S)の欠損によってグリコサミノグリカン(GAG)などのムコ多糖類が体内で分解されず、それによりリソソームに蓄積される、リソソーム蓄積症(LSD)の1つである。GAGは、体中の細胞に蓄積され、種々の症状を引き起こす。症状には、顕著な顔の特徴、大頭、肝臓又は脾臓の肥大が原因である腹部膨満などが含まれ、これらは聴力損失、心臓弁疾患、閉塞性呼吸器疾患、睡眠時無呼吸などと共に発生する。加えて、蓄積されたGAGは、関節運動を制限する可能性もあり、中枢神経系が影響を受けた場合、神経学的症状及び発育の遅れを引き起こし得る。ハンター症候群は、およそ162,000人に1人の生産児で発生することが知られており、X連鎖劣性パターンで遺伝する。
【0003】
ハンター症候群の処置法の1つである酵素補充療法(ERT)は外部生成されたIDSが体内に投与される方法である。このような方法は、投与に関して簡単であるという利点があるが、酵素は連続的に投与する必要があることから処置コストが高いという欠点がある。組換え生成酵素補充療法であり米国FDAに承認されているエラプレース(登録商標)(Shire Pharmaceuticals Group)が市場に出ているが、その単価が非常に高く、示される有効性及び安全性が低いという欠点がある。
【0004】
酵素補充療法は、対象への天然若しくは組換え由来タンパク質及び/又は酵素の全身投与によって達成される。承認された酵素補充療法は、通常静脈内に投与され、一般的には疾患又は状態の原因である酵素欠損症から生じる身体的症状を処置するのに効果的である。しかしながら、これらの酵素補充療法は、静脈内に投与されたタンパク質及び/又は酵素が中枢神経系(CNS)の細胞及び組織に限定的に分配されることが問題である。特に、CNS病因を有する疾患の処置では、このような酵素補充療法は、静脈内に投与されたタンパク質及び/又は酵素が血液脳関門(BBB)を通過しないので、問題であった。
【0005】
血液脳関門に関するこれらの問題を克服するために、タンパク質及び/又は酵素がくも膜下腔内(IT)注射によって対象の脳脊髄液に直接投与される処置法を開発する試みがなされているが、このような試みは、安定性及び有効性の点でまだ成功していない。
【0006】
したがって、中枢神経障害を有するハンター症候群の患者を効果的に処置でき、最終的にこれらの患者の脳機能の改善をもたらす処置法の開発の必要性がある。
【0007】
本発明者らは、イズロン酸-2-スルファターゼベータが対象の側脳室に長期間繰り返し投与される場合、このような投与は、ハンター症候群を有する患者に見られる脳機能低下を抑制及び改善する驚くべき効果を有することを発見し、こうして本発明を完了した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ハンター症候群が原因である中枢神経系変性、特に、脳機能低下を実質的に処置又は改善するための治療法及び医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、イズロン酸-2-スルファターゼベータを含み側脳室に4週間に1回投与される、対象のハンター症候群を処置するための医薬組成物、及び医薬組成物を使用したハンター症候群を処置するための方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様による医薬組成物は、ハンター症候群に罹患している対象の脳機能を実際に改善するなどの効果を示す。本発明では、このような組成物の投与は、臨床実施においても脳機能の喪失を十分に抑制できることが確認されている。
【0011】
加えて、長期間にわたって繰り返し投与される本発明による医薬組成物は、同じ用量の有効成分が単回投与によって与えられる場合よりもハンター症候群に対してより良い治療効果を有し、単回投与によって得られた結果から予想できない効果、例えば損傷した脳構造の処置又は回復、並びに脳機能の実質的な処置又は改善、特に、記憶及び学習機能の改善をさらに有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】試験例1において本発明の態様による製剤が投与される位置を示す図であり、示された位置は、マウス側脳室を意味する。
【
図2】試験例2においてマウス脳から脳脊髄液を抽出する写真であり、右端の写真は、マイクロピペットに捕集した脳脊髄液を示す。
【
図3】マウスの脳及び脳脊髄液に蓄積されたヘパラン硫酸(HS)の量を示す、試験例2の結果のグラフである。
【
図4】実施例に従って行われた単回投与後28日目の時点、及び6回の繰り返し投与後28日目の時点における、マウスの脳及び脳脊髄液に蓄積されたHSの量の比較を示す、試験例2の結果のグラフである。
【
図5a】
図5aは、試験例3の結果である、マウスの脳磁気共鳴画像法によって得られた写真であり;
図5bは、マウス中の全脳容積に対する脳室容積の割合を示すグラフである。
【
図5b】
図5aは、試験例3の結果である、マウスの脳磁気共鳴画像法によって得られた写真であり;
図5bは、マウス中の全脳容積に対する脳室容積の割合を示すグラフである。
【
図6】マウス脳組織のヘマトキシリン-エオシン染色を行うことによって得られた結果を示す試験例4の結果の写真である。
【
図7】マウス脳組織の免疫組織化学的染色を行うことによって得られた結果を示す試験例5の結果の写真である。
【
図8】マウスの学習記憶能力を評価するための恐怖条件付け試験を行うことによって得られた結果を示す試験例6の結果のグラフである。
【
図9】マウスの多動特性を評価するためのオープンフィールド試験を行うことによって得られた結果を示す試験例7の結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本発明をよりよく理解するために、特定の用語を以下のように定義する。下記の用語及び他の用語のさらなる説明は、本明細書全体に記載されている。
【0014】
本明細書で使用されるとき、用語「約」は、1つ以上の数値に適用される場合、記載された参照数値と同様の数値を意味する。本発明の一態様では、用語「約」は、特に記載がない限り、又は文脈が明らかに他を示していない限り、記載された数値のいずれかの方向(より大きい又はより小さい)に25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、又はそれ以下に含まれる数値の範囲を意味する(そのような数が可能な数値の100%を超える場合を除く)。
【0015】
本明細書で使用されるとき、用語「処置」は、特定の疾患、障害、及び/又は状態(例えば、ハンター症候群)の1つ若しくは複数の症状又は特徴の、部分的又は完全な緩和、回復、軽減、抑制、発症の遅延、重症度の低下及び/又は発生率の低下をもたらす、治療用タンパク質(例えば、リソソーム酵素)の任意の投与を意味する。このような処置は、関連する疾患、障害、及び/若しくは状態の徴候を示さない対象、並びに/又は疾患、障害、及び/若しく状態の初期の徴候のみを示す対象に適用することができる。任意選択で又は追加として、このような処置は、関連する疾患、障害、及び/又は状態の1つ又は複数の確立された徴候を示す対象に適用することができる。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明することになる。
【0017】
一態様では、本発明は、イズロン酸-2-スルファターゼベータ(「IDS-β」)を含む医薬組成物を対象としていてもよい。
【0018】
本発明の一態様では、医薬組成物は、対象のハンター症候群を処置するためのものであってもよい。
【0019】
本発明の一態様では、医薬組成物は、ハンター症候群に罹患している対象の脳室拡大を処置又は阻害するためのものであってもよい。
【0020】
本発明の一態様では、医薬組成物は、ハンター症候群に罹患している対象の脳機能を改善するためのものであってもよい。
【0021】
本発明の一態様では、IDS-βは、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質を含んでいてもよい。配列番号1は、組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼタンパク質である。本発明の一態様では、IDS-βは、配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をさらに含んでいてもよい。配列番号2は、アミノ酸の位置59におけるシステインがホルミルグリシン(Fgly)で置換された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼタンパク質である。
【0022】
本発明の一態様では、IDS-βは、約20~35モル%以下の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質及び約65~80モル%以下の配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質を含んでいてもよい。特に、本発明の一態様では、IDS-βは、約35モル%以下の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質及び約65モル%以下の配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の一態様では、IDS-βは、配列番号1と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は98%同一であるアミノ酸配列を有するタンパク質を含んでいてもよい。本発明の一態様では、IDS-βは、配列番号2と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は98%同一であるアミノ酸配列を有するタンパク質を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の一態様では、IDS-βは、約0.1mg/ml~約60mg/ml、約1mg/ml~約10mg/ml、又は約6mg/mlの濃度であってもよい。
【0025】
本発明の一態様では、単回投与時のIDS-βの用量は、約1μg~60μg、約15μg~約60μg、約20μg~約40μg、約25μg~約35μg、約29μg~約31μg、又は約30μgであってもよく;このような用量は、マウスなどの哺乳動物に投与される場合の用量であり得る。しかしながら、本発明は、それに限定されない。加えて、本発明の一態様では、単回投与時のIDS-βの用量は、約1mg~60mg、約15mg~約60mg、約20mg~約40mg、約25mg~約35mg、約29mg~約31mg、又は約30mgであってもよく;このような用量は、ヒトに投与される場合の用量であり得る。しかしながら、本発明は、それに限定されない。
【0026】
本発明の一態様では、医薬組成物は、対象の側脳室に4週間に1回投与してもよい。
【0027】
本発明の一態様では、医薬組成物は、対象の側脳室のいずれか又は両方に直接投与してもよい。
【0028】
本発明の一態様では、医薬組成物の投与は、ハンター症候群を有する対象の脳室拡大を低減若しくは阻害し;対象の脳機能を改善し;対象の学習及び記憶能力を改善し;対象の多動特性を抑制し;脳細胞における細胞空胞化を低減し;又は脳細胞におけるリソソーム関連膜タンパク質2(LAMP2)の発現を阻害する可能性がある。
【0029】
本発明の一態様では、医薬組成物の投与は、対象の脳(例えば、脳細胞)又は脳脊髄液におけるヘパラン硫酸(HS)の蓄積を減少させ得る。本発明の一態様では、HS蓄積は、対照と比較して、20%、40%、50%、60%、80%、90%、1倍、1.5倍、2倍、又は3倍減少され得る。
【0030】
本発明の一態様では、医薬組成物の投与は、対象に3回以上行うことができる。本発明の一態様では、医薬組成物の投与は、3回以上、4回以上、5回以上、6回以上、7回以上、8回以上、9回以上、又は10回以上行うことができ;特に対象に6回行うことができる。
【0031】
本発明の一態様では、医薬組成物の投与は、12週間以上且つ48週間以下で行うことができる。本発明の一態様では、医薬組成物の投与は、12週間以上、16週間以上、20週間以上、24週間以上、28週間以上、32週間以上、36週間以上、40週間以上、44週間以上、又は48週間以上行うことができ;特に24週間行うことができる。
【0032】
本発明の一態様では、対象は、ヒト又は哺乳動物であってもよい。本発明の一態様では、哺乳動物は、マウス、ラット、げっ歯類、ネコ、ウサギ、イヌ、ブタ、ウマ、又はウシであってもよい。
【0033】
本発明の一態様では、医薬組成物の投与は、リザーバーとリザーバーに結合したカテーテルとを含む脳室内カテーテルシステムを通して行うことができる。後述のような試験例では、マウスに投与したので、個々の3次元位置決め装置及び3次元位置決め座標システムが必要とされた。しかしながら、臨床応用では、本発明の医薬組成物は、簡単な脳室内カテーテルシステムを通して投与することができる。
【0034】
本発明の一態様では、医薬組成物の投与は:1)リザーバーが対象の頭皮下に配置され、且つカテーテルの端が対象の側脳室内に配置され、その結果、側脳室内空がカテーテル内空を介してリザーバー内空に結合され、それによって脳脊髄液が側脳室からリザーバーに流れることが可能になり、リザーバーが脳脊髄液で満たされるようにする、カテーテルシステムを外科的に挿入するステップ;2)0.1~60ml/分の速度でリザーバーから脳脊髄液約0.1~5mlを引き抜くステップ;3)0.1~60ml/分の速度でリザーバーへ医薬組成物0.1~5mlを注射するステップ;及び4)医薬組成物を、カテーテルを介してリザーバーから側脳室へ流れさせるステップを含む方法で行うことができる。
【0035】
本発明の一態様では、医薬組成物の投与は、ハンター症候群を処置するための1つ又は複数の追加的な酵素補充療法と併せて行ってもよい。特に、本発明の一態様では、追加的な酵素補充療法は、IDS-βの静脈内投与及び皮下投与のうちの少なくとも1つであってもよい。このような静脈内投与及び皮下投与は、従来の投与方法を意味する場合があり;臨床応用では、本発明の側脳室投与は、投与スケジュールの制限を設定する必要がない。
【0036】
本発明の一態様では、医薬組成物は、塩化ナトリウム及びポリソルベート20をさらに含んでいてもよく、約5~約7のpHを有してもよい。本発明の一態様では、医薬組成物は、約6のpHを有してもよい。
【0037】
本発明の一態様では、医薬組成物に含有されている塩化ナトリウムは、約100mM~約200mMの濃度であってもよい。ここで、塩化ナトリウムの濃度は、上記の範囲内に存在する全ての整数値の範囲に対応し得る。特に、塩化ナトリウムは、約150mMの濃度であってもよい。
【0038】
本発明の一態様では、医薬組成物に含有されているポリソルベート20は、約0.01mg/ml~0.5mg/mlの濃度であってもよい。ここで、ポリソルベート20の濃度は、上記の範囲内に存在する全ての10進値の範囲に対応し得る。特に、ポリソルベート20は、約0.05mg/mlの濃度であってもよい。本発明の一態様では、医薬組成物の投与は、深刻な有害作用を引き起こすことはない。本発明の一態様では、深刻な有害作用は、実質的な免疫応答、毒性、又は死を引き起こす任意の作用を意味し得るが、それに限定されない。
【0039】
本明細書で使用されるとき、用語「実質的な免疫応答」は、実質的なT細胞媒介適応免疫応答などの深刻な又は重大な免疫応答を意味し得る。
【0040】
本発明の一態様では、医薬組成物は、容器に充填された形態、例えばバイアル、シリンジ、又はプレフィルドシリンジで提供することができ、単回用量で投与される場合、使い捨てのプラスチック製シリンジに充填された形態で提供することができる。本発明の一態様では、医薬組成物は、約1μL~約10μLの容積、約3μL~約7μLの容積、約4μL~約6μLの容積、又は約5μLの容積で投与してもよく;しかしながら、本発明は、それに限定されない。加えて、本発明の一態様では、医薬組成物は、約1mL~約10mLの容積、約3mL~約7mLの容積、約4mL~約6mLの容積、又は約5mLの容積で投与してもよく;しかしながら、本発明は、それに限定されない。
【0041】
一態様では、本発明は、約150mMの塩化ナトリウム、約0.05mg/mlのポリソルベート20、及び約5mg/mlのイズロン酸-2-スルファターゼベータ(IDS-β)を含む、ハンター症候群に罹患している対象における脳室拡大を処置又は阻害するための医薬組成物を対象としていてよく、医薬組成物は、約6のpHを有し、側脳室に4週間に1回投与される。
【0042】
一態様では、本発明は、約150mMの塩化ナトリウム、約0.05mg/mlのポリソルベート20、及び約5mg/mlのイズロン酸-2-スルファターゼベータ(IDS-β)を含む、ハンター症候群に罹患している対象における脳機能を改善するための医薬組成物を対象としていてよく、医薬組成物は、約6のpHを有し、側脳室に4週間に1回投与される。
【0043】
一態様では、本発明は、本発明の医薬組成物を対象に適用するステップを含む、ハンター症候群を処置するための方法を提供する。
【0044】
本発明の一態様では、ハンター症候群を処置するための本発明の医薬組成物の使用が提供されている。
【0045】
本発明の一態様では、ハンター症候群を処置するための医薬品の製造のための本発明の医薬組成物の使用が提供されている。
【実施例0046】
以下、本明細書の構成及び効果は、実施例及び試験例としてより詳細に説明される。しかしながら、これらの実施例及び試験例は、本明細書を理解するのを助けるために例示の目的のみで提供されており、本明細書の範囲は、以下の実施例によって限定されない。
【0047】
[調製例1]投与のためのIDS-β製剤の調製
担体溶液として、150mMの塩化ナトリウム及び0.05mg/mlのツイーン20溶液(Merck Millipore、Darmstadt、ドイツ)を使用した。Green Cross Co.,Ltd.から得られたIDS-β溶液(50mg/ml又は15mg/ml)を、上記担体溶液で希釈して、6mg/mlの濃度でIDS-β製剤を調製した。このようにして調製したIDS-β製剤を以下の試験例で使用した。
【0048】
[試験例1]マウスへの側脳室投与
動物
本明細書に記載されている試験例で使用されるマウスは、自社生産(in-house-produced)マウスであり、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)遺伝子の一部が欠失するように生産された。簡単に言えば、IDS遺伝子の欠失はエクソン2~3から作られた。IDS KOマウス(IDSノックアウトマウス)をC57BL/6.129Sバックグラウンド系統から育て、IDS遺伝子に無発現変異があった。野生型(WT)対照マウスをC57BL/B6.129S系統から育てた。全てのマウスの遺伝子型を、尾の少量断片(snip)から得られたDNAを使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって調べた。本明細書の試験例は、研究機関の動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認され(承認番号20140925005)、サムスン生物医学研究所(Samsung Biomedical Research Institute)(Seoul、韓国)の動物福祉政策に従って実施された。
【0049】
繁殖によって得られたマウスを分類し、以下の表1に示すように割り当てた。
【0050】
【0051】
側脳室投与
マウス脳座標が正確な側脳室投与に必要である。この情報は、[Paxinos,George and Franklin,Keith B. J.、Paxinos and Franklin’s The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates、Academic Press、4th Edition、2012]に記載されており、
図1に示した通りである。週に基づくマウス年齢による側脳室の位置については、[Paxinos,George and Franklin,Keith B. J.、Paxinos and Franklin’s The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates、Academic Press、4th Edition、2012]をさらに参照した。
【0052】
上記繁殖によって得られた6週齢のマウスについて、側脳室内投与を行った。調製例1の担体溶液及びIDS-β溶液を、単回投与時に5μLの容積で各グループに投与した。投与当日に、マウスを吸入によってイソフルラン(HANA PHARM CO.,LTD.、韓国)で麻酔をかけ、定位固定装置(Stoelting、米国)に配置した。次に、マウスの頭皮を最小限に剥がし、露出した頭蓋骨を清浄にした。調製例1で調製した担体溶液及びIDS-β溶液をそれぞれ使い捨てのプラスチック製シリンジに入れ、シリンジポンプ(KD Scientific、スイス)を使用して10μL/分の定速で31ゲージ針によってマウスの側脳室に注射した。投与中、注射針の脳内の位置を、定位座標(Stoelting、米国)を使用してモニターした。投与開始時の針の座標は、以下の通りであった:ブレグマの尾側-0.58mm、矢状縫合の外側1.25mm、及び深さ-1.77mm。容積5μLの投与が完了した後、注射針を注射部位から取り出すために注射針を30秒当たり0.15mm持ち上げる動作を4~5回繰り返した。次に、-1.00mmの深さ位置から30秒当たり0.3mmの高さで針を持ち上げる動作を数回繰り返して注射針を完全に取り出した。これらの動作は、投与した溶液の逆流を防ぐために導入され、投与プロセス全体に必要な時間は、対象当たり約30分であった。投与後、注射部位を含めた露出した皮膚領域を、医療用ホチキスで単に縫合した。
【0053】
この投与後、マウスは、重大な有害作用を少しも示さなかった。投与部位での実質的な免疫応答、異常な身体機能などによる対象の脱落はないことが観察された。最終投与日から28日後に死体解剖を行い、それによって以下の分析を実施した。
【0054】
[試験例2]マウスの脳又は脳脊髄液に蓄積したHSの分析
マウスの脳及び脳脊髄液の捕集
最終投与日の28日後である死体解剖時に、表1に基づく各グループについて、最初に目的のマウスの大槽領域で脳脊髄液をホウケイ酸ガラスマイクロピペット(外径:10mm、内径:0.75mm)を使用して捕集した(
図2参照)。HS分析では、捕集した脳脊髄液(約5~10μL)を、捕集の直後に液体窒素を使用して急速に凍結し、次いで分析まで極低温冷凍庫に保管した。脳内のヘパラン硫酸の分析については、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で経心腔的灌流を行い、脳を捕集した。捕集した脳を急速に凍結させ、次いで分析まで極低温冷凍庫で保管した。
【0055】
HS分析法
液体クロマトグラフィータンデム型質量分析(LC-MS/MS)を使用して、マウスから捕集した脳脊髄液及び脳組織試料のHSレベルを測定した。PBS中でホモジナイズしたマウス脳脊髄液又は脳組織の試料2μLを、前処理のために等分した。それぞれの試料を塩酸-メタノール中で加熱して、メタノール化した。得られたメタノール化物(methanolysate)を窒素ガス流下で蒸発乾固させた。内部標準として、重水素化デルマタン硫酸及びヘパラン硫酸(DS-d6及びHS-d6)を使用した。このようにして得られた溶液を、遠心濾過機に移し、遠心分離を行った。得られた濾液を分析した。超高性能液体クロマトグラフィーシステム(UPLC、Waters)及び三連四重極質量分析計(API5000、AB/MDS Sciex)を使用してLC-MS/MS分析を行った。Analyst 1.5.1.ソフトウェアを使用してデータを処理した。分析結果を
図3及び4に示し、Holm-Sidakの多重比較試験によって統計解析を行った(
図3及び4では、
*:P<0.05、
**:P<0.001、
***:P<0.0001)。
【0056】
結果
それぞれのグループにおいて脳及び脳脊髄液に蓄積したHSの量を比較した。
図3を参照すると、本発明の実施例について、最終投与日の28日後である時点で、HSが比較例1よりも低いレベルで維持されていたことが確認された。これらの結果は、4週間に1回の投与サイクルが、投与された用量で効果が1カ月間着実に持続するという観点からHS蓄積を阻害する効果を示すことを示唆している(
図3参照)。
【0057】
図4を参照すると、単回投与時と同量の薬物を投与された比較例2のマウスと本発明の実施例のマウスの間でHSの減少量を比較する場合、単回投与を行った比較例2よりも、繰り返し投与を行った実施例でより多くのHSが減少したことが確認された。これらの結果は、同じ単回用量を投与し、同じ期間(すなわち投与後28日)を維持するように単回投与を行った場合でも、連続投与が単回投与よりもはるかに優れた治療効果をもたらすことを示し;これは、臨床治療効果に大きな影響をもつ。これらの結果によれば、同じ単回用量が使用される場合、繰り返し投与は、患者の治療効果を著しく増加させることになり;このためには、患者と介護者の利便性を支援する必要がある。
【0058】
[試験例3]脳室拡大に対する阻害効果の評価
マウスの脳MRI分析を行って、本発明による側脳室投与が、脳及び脳脊髄液の生化学的指標であるHSを改善するだけでなく、脳の構造的破壊又は損傷を阻害する効果も有するかどうかを確認した。
【0059】
特に、6回の投与が完了した後、7.0-Tesla MRIシステム(Bruker-Biospin、Fallanden、スイス)を使用して全てのマウス画像を取得し、このシステムは、立ち上がり時間100msで最大400mT/mを供給できる20cm勾配セットを装備していた。バードケージコイル(内径、72mm;Bruker Biospin)は励起に使用され、信号の受信に、能動的にデカップルされたフェーズドアレイコイル(phased array coil)を使用した。
【0060】
マウスは、実験全体にわたって自発呼吸のためにノーズコーンに送達された酸素ガスと窒素ガス(3:7)の混合物中のイソフルラン(HANA PHARM CO.,LTD.、韓国)(誘導に5%、動物セットアップに2%、及びMRI実験中1%~1.5%)で麻酔をかけた。マウスの頭部は、バイト/イヤーバー(bite/ear bar)を使用して非常に注意深く固定された。小脳を含有する冠状画像を、以下の特徴で得た:T2強調、高速スピンエコーシーケンス、192×192マトリックスサイズ、19.2×19.2mm2解像度、TR/TE=3,000/70ms、NEX=6、スライス厚1.0mmでスライス間ギャップなし。
【0061】
全脳に対する脳室の体積パーセント比を評価するために、マウス当たり9つの冠状MRIを得た。体積パーセント比は、ParaVision 2.0.2ソフトウェア(Bruker、Biospin、Karlsruhe、ドイツ)を使用して盲検様式で連続画像の輪郭を描くことによって手動で推定された。全脳と脳室の境界を、各画像に輪郭を描き、上記ソフトウェアを使用して対応する面積を計算した。脳室面積を、(側脳室面積/全脳面積)として計算した。これらの結果を
図5及び表2に示す。
【0062】
結果
ハンター症候群患者の中で、中枢神経系変性を有する患者は、脳室拡大を伴っていた。同様に、ハンター症候群マウス(IDS KOマウス)においても、脳室拡大が脳MRIによって確認することができた。この試験例では、IDS KOマウスの中で、無処置グループにおける脳室拡大が本発明の投与によって緩和されるかどうか検証した。結果として、無処置グループ、比較例1と比較して実施例は脳室の著しい減少を示すことが分かった。
【0063】
【0064】
[試験例4]細胞空胞化に対する阻害効果の評価
各グループのマウスの死体解剖時に、マウス脳組織の中で、小脳、髄質、視床、及び皮質の切片を組織染色のために捕集し、4%パラホルムアルデヒド溶液(BIOSESANG、韓国)で終夜固定し、組織処理を施し、次いでパラフィンに包埋した。ヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色のために厚さ4μmの切片を調製した。
【0065】
ヘマトキシリン/エオシン染色
各グループのマウスから捕集した脳組織切片にヘマトキシリン/エオシン染色を行った。
【0066】
特に、脳組織切片を固定したスライドを、キシレン溶液に浸漬して、スライドの脱パラフィンを行った。次にスライドを、100%エタノールからより低濃度のエタノールまでの範囲のエタノールに順次浸漬して、キシレンを除去した。続いて、スライドを流水で洗浄し、次いでヘマトキシリン溶液に5~8分間浸漬することによって染色した。染色後、スライドを流水で洗浄し、1%塩酸にしばらくの間浸漬し、次いで流水で再度洗浄した。スライドを1%アンモニア溶液に浸漬し、次いで流水で再度洗浄した。続いて、スライドをエオシン溶液に2分間浸漬することによって染色した。次に、スライドをエタノール溶液で脱水し、キシレンと一緒に密封した。
【0067】
染色したスライドをScanScope AT(Aperio、Leica、ドイツ)デバイスでスキャンし、次いでImageScope(Aperio、Leica、ドイツ)デバイスで分析して、組織病理学的形態を評価した。スキャンしたスライドの写真を
図6に示す。
【0068】
結果
ヘマトキシリン/エオシン染色は、ハンター症候群マウスについて、グリコサミノグリカン(GAG)の蓄積によって脳全体にわたって構造的破壊が進行中だったことを示した。特に、比較例1のハンター症候群を有するマウスでは、リソソーム蓄積症の典型的なマーカーである細胞空胞化が、参照例のマウスと比較してマウス脳全体にわたって見られた(
図6参照)。この細胞空胞化は、
図6の参照例1の染色したスライドの写真に矢印で示されている。他方では、実施例のハンター症候群を有するマウスについて、本発明による投与後、細胞空胞化が矢印で示された領域で大幅に減少したことが分かった。
【0069】
[試験例5]LAMP2タンパク質の発現に対する阻害効果の評価
免疫組織化学的染色
試験例4で調製したそれぞれのグループの脳組織切片を、一次抗体である抗LAMP-2IgG(Santa Cruz Biotechnology、米国)で染色し、LAMP2タンパク質の発現を可視化するためにDAB法によって発色させた。LAMP2タンパク質は、リソソーム関連膜タンパク質であり、リソソーム活性の指標として使用される。DAB法によって発色させた後、脳組織切片を、LAMP2タンパク質陽性細胞及び核についてヘマトキシリンで対比染色させた。
【0070】
特に、厚さ4μmの組織切片を10%正常ヤギ血清(Dako、Carpinteria、米国カルフォルニア州)中に室温で20分間静置し、次いで1:100の比で抗LAMP-2抗体と一緒に室温で30分間静置した。組織切片をPBSで数回洗浄した。次に、組織切片を、HRP標識ポリマー共役二次抗体と一緒に室温で30分間静置した。組織切片を、3,3-ジアミノベンジジン基質-クロモゲン溶液(Dako、Carpinteria、米国カルフォルニア州)中に5分間静置し、水で洗浄した。次に、ヘマトキシリンで核染色を行った。
【0071】
染色したスライドをScanScope AT(Aperio、Leica、ドイツ)デバイスでスキャンし、次いでImageScope(Aperio、Leica、ドイツ)デバイスで分析して、組織病理学的形態を評価した。スキャンしたスライドの写真を
図7に示す。
【0072】
結果
図7を参照すると、比較例1のハンター症候群を有するマウスは、参照例のマウスと比較して、脳細胞及び血管周囲細胞のリソソーム活性及び疾患状態のマーカーである、著しく高い発現レベルのLAMP2タンパク質を示すことが分かった。他方では、本発明による投与後、実施例のハンター症候群を有するマウスは、脳組織全体にわたって著しく阻害された発現レベルのLAMP2タンパク質を示すことが分かった。
【0073】
[試験例6及び7]脳機能改善の評価のためのマウス行動評価
脳機能に対する本発明の投与の実際の効果を特定するために、動物の行動評価の中で学習記憶能力を評価するためのテストである、恐怖条件付け試験及びオープンフィールド試験を行った。これら2つの行動評価項目は、げっ歯類などの小動物の探索能力又は動き、及び十分に予想される環境変化への小動物の対処の程度を評価することによって、全体的な脳機能を評価するために使用することができる。それぞれの試験を実施するための方法及び試験結果は、以下の通りである。
【0074】
[試験例6]恐怖条件付け試験
試験例1の側脳室投与後2~3週目(1回目、3回目及び6回目の投与後)、各グループに属するマウスの恐怖記憶を、以下の恐怖条件付けシステム(Coulbourn Instruments)を使用して評価した:評価の1日目に、マウスは、恐怖条件付けチャンバー内で、条件刺激として30秒の聴覚的手がかり(80dB、3600Hzトーン)及び無条件刺激として2秒のフットショック(0.6mA直流)によって刺激した。24時間後である評価の2日目に、マウスを同じチャンバーに戻し、40Hz(0.75秒当たり30フレーム)の周波数で300秒間ビデオ録画して、連想記憶を評価した。連想記憶の評価の1時間後、マウスの手がかり記憶を評価するために、マウスを新しい別のチャンバーに入れ、聴覚的手がかりで刺激を与えた。マウスの動きを、同様に40Hz(0.75秒当たり30フレーム)の周波数で300秒間ビデオ録画した。
【0075】
録画したビデオを事後にFreeze Frame Software Ver 3.32を使用して分析し、これは動き指数(motion index)及び相対的に動きがないこと(relative absence of motion)を自動的に計算した。すくみ時間は、マウスが0.75秒又は2秒よりも長く相対的に動きがないことの発作を示したときにカウントした。このすくみ時間を総観察時間(300秒)で除算した。得られた値をパーセンテージで表し、文脈的条件付け及び手がかり依存的条件付け項目のグラフを
図8に示す。具体的な結果を表3に示す。
【0076】
【0077】
結果
図8を参照すると、投与が進むにつれて、比較例1のマウスと比較して、実施例のマウスが著しく優れた学習記憶能力を示したことが識別可能である。最後の6回目の投与後、実施例のマウスは、正常なマウスの学習記憶能力に近い学習記憶能力を示す程度まで脳機能が改善していた。連想記憶(視覚及び聴覚記憶の評価のため)が試験空間で測定される「文脈的条件付け」項目と、繰り返される恐怖刺激に対する恐怖記憶が評価される「手がかり依存的条件付け」項目の両方について、3回目の投与時点を発端として明らかな改善が見られることが分かる(
図8及び表3参照)。
【0078】
[試験例7]オープンフィールド試験
試験例1の側脳室投与後(1回目、3回目及び6回目の投与後)、以下のオープンフィールド試験を使用して、各グループのマウスの探索行動を評価した:マウスに側面が不透明な壁(高さ15.0cm)の屋根がない(open-top)アリーナ(44.5cm×44.5cm)を探索させ、マウスの動きを20分間ビデオ録画した。録画したビデオを、探索距離、移動速度、休憩時間、中央ゾーン及び周辺ゾーンで過ごした時間、並びに各ゾーンへの進入の頻度について分析した。中央ゾーンは、アリーナの中央の印が付いた31.0cm×31.0cmの領域を表し、周辺ゾーンは、中央ゾーンを除いた残りの領域を表す。それぞれの分析結果のグラフを
図9に示し、具体的な結果の値を表4に示す。
【0079】
結果
ハンター症候群マウスは通常多動特性を示すことが知られている。これは、本発明のオープンフィールド試験結果でも確認された。20分の観察は、セクション全体を移動した距離の合計(すなわち、水平経路距離)が、比較例1のマウスで着実に増加したことを示す。しかしながら、実施例のマウスでは、移動した距離の合計が減少し、多動特性の抑制を示すことが分かった。同じ意味で、比較例1のマウスも、その間動きがない休憩時間の減少傾向を示したが、実施例のマウスは、休憩時間の増加を示した。
【0080】
特定の空間では、げっ歯類は、中央よりも鳥などの捕食動物から身を守りやすい側面を好むという本能がある。したがって、オープンフィールド試験では、用意された空間の中央ゾーンよりも周辺ゾーンを探索することは、マウスの一般的な行動特性である。しかしながら、比較例1のマウスは、老化と共に、中央進入の頻度及び中央ゾーンで過ごした時間の増加を示すことが分かった。他方では、実施例のマウスは、正常なマウスである参照例のマウスと同様の傾向を示した。
【0081】
ハンター症候群を有する対象の脳室拡大を低減若しくは阻害するか、ハンター症候群を有する対象の脳機能若しくは学習記憶能力を改善するか、又はハンター症候群を有する対象の多動特性を抑制するための医薬組成物であって:
イズロン酸-2-スルファターゼベータ(IDS-β)
を含み、
前記医薬組成物が側脳室に4週間に1回投与され、
前記投与が、前記対象に深刻な有害作用を引き起こさず、且つ
前記投与が、前記対象の脳細胞若しくは脳脊髄液におけるヘパラン硫酸(HS)の蓄積を減少させ;前記対象の脳細胞における細胞空胞化を低減し;又は前記対象の脳細胞におけるリソソーム関連膜タンパク質2(LAMP2)の発現を阻害する、
医薬組成物。