(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160260
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20241106BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20241106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C07K16/46
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P25/28
C07K16/18
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024122543
(22)【出願日】2024-07-29
(62)【分割の表示】P 2022084966の分割
【原出願日】2016-09-30
(31)【優先権主張番号】15188064.8
(32)【優先日】2015-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.NONIDET
2.UNIX
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】デュール,ハーラルト
(72)【発明者】
【氏名】フェン,セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ゲプフェルト,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】インホフ-ユング,ザビーネ
(72)【発明者】
【氏名】クライン,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】レグラ,イェルク・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ルーガー,ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】モルホイ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ラリヴィエール,ローラン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アルツハイマー病の処置のための二重特異性抗体、該抗体を含む医薬組成物、及びそれらの使用を提供する。
【解決手段】a)重鎖及び軽鎖の対により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、抗体軽鎖及び抗体重鎖の各々の2対を含む1つの抗体、及びb)上記抗体の重鎖の1つのC末端に融合され、結合部位が第2の抗原に特異的に結合する1つの追加のFabフラグメント、を含む二重特異性抗体であって、抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において特定の変異を含み、抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において特定の変異を含み、第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、CL及びCH1が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、並びに第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体である、二重特異性抗体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)重鎖及び軽鎖の対の各々により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、抗体軽鎖及び抗体重鎖の各々の2対を含む1つの抗体、及び
b)上記抗体の重鎖の1つのC末端に融合されており、結合部位が第2の抗原に特異的に結合する1つの追加のFabフラグメント、を含む二重特異性抗体であって、
抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において位置123にアミノ酸残基アルギニンを含み(野生型グルタミン酸残基の代わりに;E123R変異)、位置124にアミノ酸残基リジンを含み(野生型グルタミン残基の代わりに;Q124K変異)(Kabatによるナンバリング)、
抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において位置147にグルタミン酸残基を含み(野生型リジン残基の代わりに;K147E変異)、位置213にグルタミン酸残基を含み(野生型リジンアミノ酸残基の代わりに;K213E変異)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、定常軽鎖ドメイン(CL)及び定常重鎖ドメイン1(CH1)が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、並びに
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体である、二重特異性抗体。
【請求項2】
追加のFabフラグメントがペプチドリンカーにより重鎖のC末端に融合されている請求項1記載の抗体。
【請求項3】
a)追加のFabフラグメントに融合された重鎖が、C末端重鎖アミノ酸残基としてトリペプチドLSPを有し、そのプロリンは、ペプチド結合を介して、追加のFabフラグメントの又はペプチドリンカーの第1のアミノ酸残基に直接的に融合されており、及び
b)追加のFabフラグメントに融合されていない重鎖が、C末端重鎖アミノ酸残基としてトリペプチドLSP、又はSPG、又はPGKを有する、請求項1又は2記載の抗体。
【請求項4】
a)ヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
b)ヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
c)変異L234A、L235A、及びP329Gを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
d)変異S228P、L235E、及びP329Gを伴うヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
e)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、及びP329G、並びに1つの重鎖中の変異T366W及びS354C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体
f)両方の重鎖中の変異S228P及びP329G、並びに1つの重鎖中の変異T366W及びS354C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
g)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、P329G、I253A、H310A、及びH435A、並びに1つの重鎖中の変異T366W及びS354C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349C を伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
h)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、P329G、M252Y、S254T、及びT256E、並びに1つの重鎖中の変異T366W及びS354C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349C を伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、又は
i)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、P329G、H310A、H433A、及びY436A、並びに1つの重鎖中の変異i)T366W、及びii)S354C又はY349C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異i)T366S、L368A、及びY407V、並びにii)Y349C又はS354Cを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体
である、請求項1~3のいずれか一項記載の抗体。
【請求項5】
二重特異性抗体が、
i)配列番号01と70%以上の配列同一性を有する軽鎖、
ii)配列番号02と70%以上の配列同一性を有する重鎖、
iii)配列番号03と70%以上の配列同一性を有する軽鎖、及び
iv)配列番号04と70%以上の配列同一性を有する重鎖Fabフラグメントを含む、請求項1~4のいずれか一項記載の抗体。
【請求項6】
二重特異性抗体が、配列番号01のアミノ酸配列を有する軽鎖、配列番号02のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号03のアミノ酸配列を有する軽鎖、及び配列番号04のアミノ酸配列を含む抗体Fabフラグメントを含む、請求項1~4のいずれか一項記載の抗体。
【請求項7】
抗体がモノクローナルである、請求項1~6のいずれか一項記載の抗体。
【請求項8】
ヒトA-ベータ結合部位が、配列番号18中のVH配列(その配列の翻訳後修飾を含む)及び配列番号19中のVL配列(その配列の翻訳後修飾を含む)を含む、請求項1~7のいずれか一項記載の抗体。
【請求項9】
ヒトトランスフェリン受容体結合部位が、配列番号20中のVH配列(その配列の翻訳後修飾を含む)及び配列番号21中のVL配列(その配列の翻訳後修飾を含む)を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の抗体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗体及び医薬的に許容可能な担体を含む医薬製剤。
【請求項11】
医薬として使用するための、請求項1~9のいずれか一項記載の抗体。
【請求項12】
アルツハイマー病の処置のための、請求項1~9のいずれか一項記載の抗体。
【請求項13】
医薬の製造における請求項1~9のいずれか一項記載の抗体の使用。
【請求項14】
医薬が、アルツハイマー病の処置のためである、請求項13記載の使用。
【請求項15】
医薬が、脳中で斑の形成を阻害/減速させるためである、請求項13記載の使用。
【請求項16】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗体の有効量を個体に投与することを含む、アルツハイマー病を有する個体を処置する方法。
【請求項17】
脳中での斑の形成を阻害/減速させるために有効量の請求項1~9のいずれか一項記載の抗体を個体に投与することを含む、個体の脳において斑の形成を阻害/減速する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ヒトA-ベータ及びヒトトランスフェリン受容体に対する二重特異性抗体、それらの製造方法、これらの抗体を含む医薬組成物、及びそれらの使用に関する。
【0002】
背景
認知症の全ての症例の約70%が、認知について決定的である脳領域及び神経回路の選択的損傷に関連付けられるアルツハイマー病に起因する。アルツハイマー病は、特に海馬の錐体ニューロンにおける神経原線維変化、並びにアミロイド沈着物の稠密なコア及び中空円を主に含む多数のアミロイド斑により特徴付けられる。
【0003】
細胞外の神経突起斑は、「アミロイドβ」、「A-ベータ」、「Aβ4」、「β-A4」、又は「Aβ」と呼ばれる多量の原線維性ペプチドを含む(Selkoe, Ann. Rev. Cell Biol. 10 (1994) 373-403;Koo PNAS 96 (1999) 9989-9990;US 4,666,829;Glenner BBRC 12 (1984) 1131を参照のこと)。このアミロイドは、「アルツハイマー前駆体タンパク質/Pアミロイド前駆体タンパク質」(APP)に由来する。APPは内在性の膜糖タンパク質であり(Sisodia PNAS 89 (1992) 6075を参照のこと)、原形質膜プロテアーゼα-セクレターゼによりAP配列内でエンドプロテアーゼ切断される(Sisodia (1992), Joe. cit.を参照のこと)。さらに、さらなるセクレターゼ活性、特にβセクレターゼ活性及びγセクレターゼ活性は、39アミノ酸(Aβ39)、40アミノ酸(Aβ40)、42アミノ酸(Aβ42)又は43アミノ酸(Aβ43)のいずれかを含むアミロイドβ(Aβ)の細胞外放出に導く(Sinha PNAS 96 (1999) 11094-1053;Price, Science 282 (1998) 1078-1083;WO 00/72880、又はHardy, TINS 20 (1997) 154を参照のこと)。
【0004】
A-ベータはいくつかの天然に生じる形態を有し、ヒト形態は上記のAβ39、Aβ40、Aβ41、Aβ42、及びAβ43と呼ばれることに留意すること。最も顕著な形態であるAβ42は、アミノ酸配列(N末端から開始):DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA(配列番号05)を有する。Aβ41、Aβ40、Aβ39では、C末端アミノ酸A、IA、及びVIAがそれぞれ欠損している。Aβ43型では、追加のスレオニン残基が上記の配列のC末端に含まれる。
【0005】
Aβ40原線維を核形成するのに要求される時間は、Aβ42原線維を核形成するのに要求される時間よりも有意に長いことが示されている(例、Lansbury, Jr., P. T. and Harper, J. D., Ann. Rev. Biochem. 66 (1997) 385-407を参照のこと)。Wagner(J. Clin. Invest. 104 (1999) 1239-1332)に概説されているように、Aβ42は老人斑と関連してより頻繁に見出され、インビトロでより原線維性であると考えられる。Aβ42は、秩序立った非結晶性Aβペプチドの核形成依存的な重合において「シード」としての役割を果たすことも示唆されている(例、Jarrett, Cell 93 (1993) 1055-1058を参照のこと)。改変されたAPPプロセシング及び/又はタンパク質性沈着を含む細胞外斑の生成は、アルツハイマーの病理だけでなく、他の神経学的障害及び/又は神経変性障害に罹患している被験体からも公知である。これらの障害は、とりわけ、ダウン症候群、オランダ型アミロイド症を伴う遺伝性脳出血、パーキンソン疾患、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、クロイツフェルト・ヤコブ病、HIV関連痴呆、及び運動ニューロパチーを含む。
【0006】
これまで、アミロイド関連疾患についての限定された医療介入計画だけが記載されてきた。例えば、ガランタミン、リバスチグミン、又はドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害剤は、軽度から中等度の疾患だけを伴うアルツハイマー患者において有益であると考察されてきた。しかし、これらの薬物のコリン作動作用に起因する有害事象も報告されている。これらのコリン作動性増強処置は何らかの対症的な効果をもたらすが、治療応答は処置された患者の大部分にとって満足のいくものではない。有意な認知改善が処置された患者の約5%だけで生じると推定され、処置によりこの進行性疾患の経過が有意に変わるとの証拠はほとんどない。
【0007】
結果的に、より効果的な処置、特に疾患の進行を停止又は遅延させうる処置についての多大な臨床的必要性が依然としてある。また、最近では、メマンチンなどのNMDA受容体拮抗薬が用いられている。
【0008】
しかし、薬理学的活性に起因する有害事象が報告されている。さらに、これらのNMDA受容体拮抗薬でのそのような処置は、症状を改善するアプローチではなく、単なる対症的なアプローチと考えることができる。
【0009】
また、アミロイド関連障害の処置のための免疫調節アプローチが提示されている。WO 99/27944では、A-ベータペプチドの部分及び担体分子を含むコンジュゲートが開示されており、それにより前記担体分子により免疫応答が増強されるはずである。別の能動免疫化アプローチがWO 00/72880に記載されており、そこではA-ベータフラグメントも免疫応答を誘導するために用いられる。
【0010】
また、一般的な抗A-ベータ抗体を用いた受動免疫化アプローチがWO 99/27944又はWO 01/62801に提示されており、A-ベータの一部に対する特異的ヒト化抗体がWO 02/46237、WO 02/088306、及びWO 02/088307に記載されている。WO 00/77178には、加水分解中にβ-アミロイドにより取られた遷移状態に結合する抗体が記載されている。WO 03/070760には、A-ベータペプチド上の2つの不連続なアミノ酸配列を認識する抗体分子が開示されている。
【0011】
WO2014/033074は、血液脳関門上の受容体に結合する血液脳関門シャトル及びその使用方法に関する。トランスフェリン受容体モノクローナル抗体とのIgG融合タンパク質の血液脳関門薬物送達が、Pardridge, W.(Exp. Opin. Drug Deliv. 12 (2015) 207-222)により報告されている。Yu, Y.J. et al.(Sci. Translat. Med. 6 (2014) 261ra154-261ra154)では、治療用の二重特異性抗体が非ヒト霊長類において血液脳関門を通過することが報告された。トランスフェリン受容体及びabetaアミロイドペプチドを標的とする四価の二重特異性抗体の毎日の皮下投与によるアルツハイマー病トランスジェニックマウスの脳中でのアミロイド斑の解離が、Sumbria, R.K., et al.(Mol. Pharm. 10 (2013) 3507-3513)により報告された。Niewoehner, J., et al.(Neuron 81 (2014) 49-609)では、一価分子シャトルを使用した治療用抗体の脳浸透及び効力の増加が報告された。
【0012】
概要
本明細書においては、以下を含む二重特異性抗体を報告する:
a)(全長)重鎖及び(全長)軽鎖の対の各々により形成される結合部位が、第1の抗原に特異的に結合する、(全長)抗体軽鎖及び(全長)抗体重鎖(全長)の各々の二対を含む1つの(全長)抗体、並びに
b)追加のFabフラグメントの結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、追加のFabフラグメントが(全長)抗体の重鎖の1つのC末端に融合されている1つの追加のFabフラグメント、
(全長)抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において位置123にアミノ酸残基アルギニンを含み(野生型グルタミン酸残基の代わりに;E123R変異)、位置124にアミノ酸残基リジンを含み(野生型グルタミン残基の代わりに;Q124K変異)(Kabatによるナンバリング)、
(全長)抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において位置147にグルタミン酸残基を含み(野生型リジン残基の代わりに;K147E変異)、位置213にグルタミン酸残基を含み(野生型リジンアミノ酸残基の代わりに;K213E変異)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、定常軽鎖ドメイン(CL)及び定常重鎖ドメイン1(CH1)が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、並びに
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体である。
【0013】
一実施形態では、追加のFabフラグメントをペプチドリンカーにより重鎖のC末端に融合させる。
【0014】
一実施形態では、Fabフラグメントの重鎖可変ドメインのN末端を、全長重鎖のC末端又はペプチドリンカーのC末端に融合させる。
【0015】
一実施形態では、
a)追加のFabフラグメントに融合された全長重鎖が、C末端重鎖アミノ酸残基としてトリペプチドLSPを有し、そのプロリンは、ペプチド結合を介して、追加のFabフラグメントの又はペプチドリンカーの第1のアミノ酸残基に直接的に融合されており、及び
b)追加のFabフラグメントに融合されていない全長重鎖が、C末端重鎖アミノ酸残基としてトリペプチドLSP、又はSPG、又はPGKを有する。
【0016】
一実施形態では、(全長)抗体は以下である:
a)ヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
b)ヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
c)変異L234A、L235A、及びP329Gを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
d)変異S228P、L235E、及びP329Gを伴うヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
e)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、及びP329G、並びに1つの重鎖中の変異T366W及びS354C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
f)両方の重鎖中の変異S228P、L235E、及びP329G、並びに1つの重鎖中の変異T366W及びS354C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
g)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、P329G、I253A、H310A、及びH435A、並びに1つの重鎖中の変異T366W及びS354C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、又は
h)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、P329G、M252Y、S254T、及びT256E、並びに1つの重鎖中の変異T366W及びS354C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349C を伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体。
【0017】
一実施形態では、(全長)抗体は以下である:
a)ヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
b)ヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
c)変異L234A、L235A、及びP329Gを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
d)変異S228P、L235E、及びP329Gを伴うヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
e)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、及びP329G、並びに1つの重鎖中の変異i)T366W、及びii)S354C又はY349C、並びにそれぞれの他の重鎖中のi)T366S、L368A、及びY407V、並びにii)Y349C又はS354Cを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
f)両方の重鎖中の変異S228P、L235E、及びP329G、並びに1つの重鎖中の変異i)T366W、及びii)S354C又はY349C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異i)T366S、L368A、及びY407V、並びにii)Y349C又はS354Cを伴うヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
g)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、P329G、I253A、H310A、及びH435A、並びに1つの重鎖中の変異i)T366W、及びii)S354C又はY349C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異i)T366S、L368A、及びY407V、並びにii)Y349C又はS354Cを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
h)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、P329G、M252Y、S254T、及びT256E、並びに1つの重鎖中の変異i)T366W、及びii)S354C又はY349C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異i)T366S、L368A、及びY407V、並びにii)Y349C又はS354Cを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体、又は
i)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、P329G、H310A、H433A、及びY436A、並びに1つの重鎖中の変異i)T366W、及びii)S354C又はY349C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異i)T366S、L368A、及びY407V、並びにii)Y349C又はS354Cを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体。
【0018】
一実施形態では、追加のFabフラグメントは、変異T366Wを含む重鎖のC末端、又は変異T366S、L368A、及びY407Vを含む重鎖のC末端に融合させる。
【0019】
一実施形態では、
全長抗体は、両方の重鎖中の変異L234A、L235A、及びP329G、並びに1つの重鎖中の変異T366W及びS354C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG1であり、並びに
追加のFabフラグメントは、変異T366Wを含む重鎖のC末端、又は変異T366S、L368A、及びY407Vを含む重鎖のC末端に融合させる。
【0020】
全ての態様の一実施形態では、ヒトA-ベータ結合部位は、配列番号18のVH配列(その配列の翻訳後修飾を含む)及び配列番号19のVL配列(その配列の翻訳後修飾を含む)を含む。
【0021】
一実施形態では、ヒトトランスフェリン結合部位は、配列番号20のVH配列(その配列の翻訳後修飾を含む)及び配列番号21のVL配列(その配列の翻訳後修飾を含む)を含む。
【0022】
一実施形態では、二重特異性抗体は、
i)配列番号01と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を伴う軽鎖、
ii)配列番号02と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を伴う重鎖、
iii)配列番号03と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を伴う軽鎖、及び
iv)配列番号04と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を伴う重鎖Fabフラグメント、を含む。
それにおいて、
配列番号01はアミノ酸配列
【化1】
を有し、
配列番号02はアミノ酸配列
【化2】
を有し、
配列番号03はアミノ酸配列
【化3】
を有し、及び
配列番号04はアミノ酸配列
【化4】
を有する。
【0023】
本明細書で報告する一態様は、配列番号01のアミノ酸配列を有する(全長)軽鎖、配列番号02のアミノ酸配列を有する(全長)重鎖、配列番号:03のアミノ酸配列を有する(全長)軽鎖、及び配列番号:04のアミノ酸配列を含む抗体Fabフラグメントを含む二重特異性抗体である。
【0024】
一実施形態では、二重特異性抗体はモノクローナルである。
【0025】
本明細書で報告する一態様は、本明細書で報告する二重特異性抗体をコードする単離核酸である。
【0026】
本明細書で報告する一態様は、本明細書で報告する二重特異性抗体をコードする本明細書で報告する核酸を含む宿主細胞である。
【0027】
本明細書で報告する一態様は、以下の工程を含む、本明細書で報告する二重特異性抗体を製造する方法である:
a)二重特異性抗体が製造されるように本明細書で報告する宿主細胞を培養すること、及び
b)二重特異性抗体を細胞又は培養培地から回収し、それにより本明細書で報告する二重特異性抗体を製造すること。
【0028】
本明細書で報告する一態様は、本明細書で報告する二重特異性抗体及び細胞傷害性剤を含むイムノコンジュゲートである。
【0029】
本明細書で報告する一態様は、本明細書で報告する二重特異性抗体及び医薬的に許容可能な担体を含む医薬製剤である。
【0030】
本明細書で報告する一態様は、医薬としての使用のための本明細書で報告する抗体である。
【0031】
本明細書で報告する一態様は、アルツハイマー病を処置する際での使用のための、本明細書で報告する二重特異性抗体である。
【0032】
本明細書で報告する一態様は、脳中での斑の形成を阻害/減速させる際での使用のための、本明細書で報告する二重特異性抗体である。
【0033】
本明細書で報告する一態様は、βアミロイド斑を分解させる際での使用のための、本明細書で報告する二重特異性抗体である。
【0034】
本明細書で報告する一態様は、医薬の製造における、本明細書で報告する二重特異性抗体の使用である。
【0035】
一実施形態では、医薬は、アミロイド障害の処置のためである。
【0036】
一実施形態では、アミロイド形成及び/又はアミロイド斑形成に関連する疾患の予防及び/又は処置のための医薬。一実施形態では、疾患は、痴呆、アルツハイマー病、運動ニューロパチー、ダウン症候群、クロイツフェルト・ヤコブ病、オランダ型アミロイド症を伴う遺伝性脳出血、パーキンソン病、HIV関連痴呆、ALS又は老化に関連する神経障害からなる群より選択される。好ましい一実施形態では、医薬は、アルツハイマー病の処置のためである。
【0037】
一実施形態では、医薬は、脳中での斑の形成を阻害/減速させるためである。一実施形態では、医薬は、βアミロイド斑の分解のための医薬である。
【0038】
本明細書で報告する一態様は、本明細書で報告する有効量の二重特異性抗体を個体に投与することを含む、アミロイド形成及び/又はアミロイド斑形成に関連する疾患を有する個体を処置する方法である。
【0039】
本明細書で報告する一態様は、本明細書で報告する有効量の二重特異性抗体を個体に投与することを含む、アルツハイマー病を有する個体を処置する方法である。
【0040】
本明細書で報告する一態様は、脳中のβアミロイド斑を分解させるために本明細書で報告する有効量の二重特異性抗体を個体に投与することを含む、個体の脳中でのβアミロイド斑の分解のための方法である。
【0041】
本明細書で報告する一態様は、脳中での斑の形成を阻害/減速させるために、本明細書で報告する有効量の二重特異性抗体を個体に投与することを含む、個体の脳中での斑の形成を阻害/減速させる方法である。
【0042】
本発明の実施形態の詳細な説明
ホール二量化モジュール中へのノブ及び抗体工学でのそれらの使用は、Carter P.; Ridgway J.B.B.; Presta L.G.: Immunotechnology, Volume 2, Number 1, February 1996 , pp. 73-73に記載されている。CH3ドメイン中の追加のジスルフィド架橋はMerchant, A.M., et al., Nat. Biotechnol. 16 (1998) 677-681に報告されている。
【0043】
ヒト免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的な情報が、以下に与えられる:Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)。
【0044】
本明細書で使用する場合、重鎖及び軽鎖の全ての定常領域及びドメインのアミノ酸位置は、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)に記載されているKabatナンバリングシステムに従ってナンバリングされ、本明細書では「カバットによるナンバリング」として言及する。具体的には、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)のKabatナンバリングシステム(647~660頁を参照のこと)を、カッパ及びラムダアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLについて使用し、Kabat EUインデックスナンバリングシステム(661~723頁を参照のこと)を、定常重鎖ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、及びCH3、本明細書で「Kabat EUインデックスによるナンバリング」を参照することによりさらに明確にする)について使用する。
【0045】
I.定義
「血液脳関門」又は「BBB」は、末梢循環と脳毛細血管内皮細胞膜内のタイトジャンクションにより形成される脳及び脊髄との間の生理学的障壁を指し、分子、例えば尿素(60ダルトン)などの非常に小さな分子でも脳中への輸送を制限するタイトな障壁を生じる。脳内のBBB、脊髄内の血液-脊髄-障壁、及び網膜内の血液-網膜-障壁は、CNS内の連続した毛細血管関門であり、本明細書ではまとめて血液脳関門又は BBBとして言及する。BBBはまた、血液-CSF関門(脈絡叢)を包含し、関門は、毛細血管内皮細胞ではなく上衣細胞からなる。
【0046】
用語「抗ヒトA-ベータ抗体」及び「ヒトA-ベータに特異的に結合する抗体」は、その抗体が、A-ベータペプチドを標的化する際に診断剤及び/又は治療剤として有用であるように、十分な親和性でヒトA-ベータペプチドに結合することが可能な抗体を指す。
【0047】
ヒトA-ベータはいくつかの天然に生じる形態を有し、それによりヒト形態はAβ39、Aβ40、Aβ41、Aβ42、及びAβ43として言及することに注意すること。最も顕著な形態であるAβ42は、配列番号05のアミノ酸配列を有する。Aβ41、Aβ40、Aβ39では、C末端アミノ酸A、IA、及びVIAがそれぞれ失われている。Aβ43形態では、追加のトレオニン残基が配列番号05のC末端に含まれる。一実施形態では、ヒトA-ベータタンパク質は配列番号05のアミノ酸配列を有する。
【0048】
このように、この用語はまた、ヒトA-ベータポリペプチドの短縮フラグメントに結合する抗体も包含する。
【0049】
「中枢神経系」又は「CNS」は、身体機能を制御する神経組織の複合体を指し、脳及び脊髄を含む。
【0050】
「血液脳関門受容体」(本明細書では「BBBR」と略記する)は、BBBを横切って分子を輸送することが可能な、又は外因性投与分子を輸送するために使用される脳内皮細胞上に発現される細胞外膜結合受容体タンパク質である。本明細書でのBBBRの例は、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体、インスリン様成長因子受容体(IGF-R)、低密度リポタンパク質受容体(低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)及び低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8(LRP8)を含むが、これらに限定しない)、及びヘパリン結合表皮成長因子様成長因子(HB-EGF)を含む。1つの好ましいBBBRはトランスフェリン受容体(TfR)である。
【0051】
「トランスフェリン受容体」(「TfR」)は、脊椎動物における鉄取り込みに関与する2つのジスルフィド結合サブユニット(約90,000Daの見かけの分子量の各々)からなる膜貫通糖タンパク質(分子量約180,000Da)である 。一実施形態では、本明細書に記載するTfRは、例えばSchneider et al(Nature 311 (1984) 675-678)のアミノ酸配列を含むヒトTfRである。一実施形態では、ヒトトランスフェリン受容体は、配列番号22のアミノ酸配列を有する。
【0052】
「多重特異性抗体」は、同じ抗原又は2つの異なる抗原上の少なくとも2つの異なるエピトープについて結合特異性を有する抗体を示す。例示的な多重特異性抗体は、BBBR及び脳抗原の両方に結合し得る。多重特異性抗体は、全長抗体又は抗体フラグメント(例、F(ab’)2二重特異性抗体)又はそれらの組み合わせ(例、全長抗体+追加のscFv又はFabフラグメント)として調製することができる。2つ、3つ又はそれを超える数(例、4つ)の機能的抗原結合部位を伴う操作された抗体も報告されている(例、US 2002/0004587 A1を参照のこと)。
【0053】
本明細書での目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」は、以下に定義するヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに「由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含みうるか、あるいは、それは、アミノ酸配列の変化を含みうる。一部の実施態様では、アミノ酸変化の数は、10又はそれ以下、9又はそれ以下、8又はそれ以下、7又はそれ以下、6又はそれ以下、5又はそれ以下、4又はそれ以下、3又はそれ以下、あるいは2又はそれ以下である。一部の実施形態では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0054】
「親和性」は、分子(例、抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例、抗原)の間での非共有結合的な相互作用の合計の強度を指す。別記なき場合、本明細書で使用するように、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例、抗体及び抗原)の間での1:1の相互作用を反映する内因性の結合親和性を指す。分子XとそのパートナーYについての親和性は、一般的に、解離定数(kd)により表わすことができる。親和性は、当技術分野において公知の一般的な方法(本明細書に記載するものを含む)により測定することができる。
【0055】
「親和性成熟」抗体は、1つ又は複数の超可変領域(HVR)における1つ又は複数の変化(そのような変化を持たない親抗体と比較して)を伴う抗体を指し、そのような変化は、抗体と抗原との親和性における改善をもたらす。
【0056】
本明細書中の用語「抗体」は、最も広い意味において使用されており、それらが所望の抗原結合活性を示す限り、種々の抗体構造(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及び多重特異性抗体(例、二重特異性抗体)を含むが、これらに限定されない)を包含する。
【0057】
用語「抗体依存性細胞傷害(ADCC)」は、Fc受容体結合により媒介される機能であり、エフェクター細胞の存在において本明細書で報告する抗体による標的細胞の溶解を指す。一実施形態では、エフェクター細胞、例えば新たに単離されたPBMC(末梢血単核細胞)又はバフィーコートから精製されたエフェクター細胞(単球又はNK(ナチュラルキラー)細胞など)などの存在において、本明細書で報告する抗体でのCD19発現赤血球系細胞(例、組換えヒトCD19を発現するK562細胞)の調製物の処理によりADCCを測定する。標的細胞を51Crで標識し、その後に抗体とインキュベートする。標識細胞をエフェクター細胞とインキュベートし、上清を、放出された51Crについて分析する。対照として、標的内皮細胞とエフェクター細胞(抗体を伴わない)とのインキュベーションが含まれる。Fcγ受容体発現細胞、例えばFcγRI及び/又はFcγRIIAあるいはNK細胞(本質的にFcγRIIIAを発現する)を組換え発現する細胞などに対するそれらの結合を測定することにより、ADCCを媒介する初期段階を誘導する抗体の能力を調べる。好ましい一実施形態では、NK細胞上のFcγRへの結合を測定する。
【0058】
「抗体フラグメント」は、インタクト抗体が結合する抗原に結合するインタクト抗体の一部を含むインタクト抗体以外の分子を指す。抗体フラグメントの例は、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディー;線状抗体;一本鎖抗体分子(例、scFv);及び抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が含まれるが、これらに限定しない。
【0059】
用語「キメラ」抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の部分が特定の供給源又は種に由来する抗体を指し、重鎖及び/又は軽鎖の残りの部分は、異なる供給源又は種に由来する。
【0060】
抗体の「クラス」は、その重鎖により保持される定常ドメイン又は定常領域の型を指す。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM。これらのいくつかは、さらに、サブクラス(アイソタイプ)に分けることができる(例、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0061】
用語「細胞傷害剤」は、本明細書で使用するように、細胞機能を阻害もしくは防止する及び/又は細胞死もしくは破壊を起こす物質を指す。細胞傷害剤は、放射性同位元素(例、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位元素);化学療法剤又は薬物(例、メトトレキサート、アドリアマイシン(adriamicin)、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン、又は他の挿入剤);成長阻害剤;酵素及びそのフラグメント、例えば核酸分解酵素;抗生物質;毒素、例えば細菌、真菌、植物、又は動物由来の小分子毒素又は酵素活性毒素など(そのフラグメント及び/又はバリアントを含む);ならびに以下に開示する種々の抗腫瘍剤又は抗癌剤を含むが、これらに限定しない。
【0062】
用語「補体依存性細胞傷害(CDC)」は、補体の存在において本明細書で報告する抗体により誘導される細胞の溶解を指す。一実施形態では、CD19を発現するヒト内皮細胞を、補体の存在において本明細書で報告する抗体で処理することによりCDCを測定する。細胞は、一実施形態では、カルセインで標識する。CDCは、抗体が30μg/mLの濃度で標的細胞の20%以上の溶解を誘導する場合に見出される。補体因子C1qへの結合は、ELISAにおいて測定することができる。そのようなアッセイでは、原則として、ELISAプレートを、精製されたヒトC1q又はヒト血清を加えた抗体の濃度範囲でコーティングする。C1q結合を、C1qに対する抗体により、続いてペルオキシダーゼ標識コンジュゲートにより検出する。結合の検出(最大結合Bmax)を、ペルオキシダーゼ基質ABTS(登録商標)(2,2’-アジノ-ジ-[3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホネート(6)])について、405nm(OD405)での光学密度として測定する。
【0063】
「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因するそれらの生物学的活性を指し、それは、抗体クラスに伴って変動する。抗体エフェクター機能の例は、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例、B細胞受容体)の下方制御;及びB細胞活性化を含む。
【0064】
Fc受容体結合依存性エフェクター機能は、抗体のFc領域と、造血細胞上の特殊化された細胞表面受容体であるFc受容体(FcR)との相互作用により媒介されうる。Fc受容体は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を介した、免疫複合体の食作用による抗体コーティングされた病原体の除去と、対応する抗体でコーティングされた赤血球及び種々の他の細胞標的(例、腫瘍細胞)の溶解の両方を媒介することが示されている(例、Van de Winkel, J.G. and Anderson, C.L., J. Leukoc. Biol. 49 (1991) 511-524を参照のこと)。FcRは、免疫グロブリンアイソタイプについてのそれらの特異性により定義される:IgG抗体についてのFc受容体はFcγRとして言及する。Fc受容体結合は、例えば、Ravetch, J.V. and Kinet, J.P., Annu. Rev. Immunol. 9 (1991) 457-492;Capel, P.J., et al., Immunomethods 4 (1994) 25-34;de Haas, M., et al., J. Lab. Clin. Med. 126 (1995) 330-341;及びGessner, J.E., et al., Ann. Hematol. 76 (1998) 231-248に記載されている。
【0065】
IgG抗体のFc領域(FcγR)につての受容体の架橋は、食作用、抗体依存性細胞傷害、及び炎症メディエーターの放出、並びに免疫複合体クリアランス及び抗体産生の調節を含む広範囲のエフェクター機能を誘発する。ヒトでは、FcγRの3つのクラスが特徴付けられており、それらは以下である:
- FcγRI(CD64)は、高親和性で単量体IgGに結合し、マクロファージ、単球、好中球、及び好酸球上に発現される。少なくともアミノ酸残基E233-G236、P238、D265、N297、A327、及びP329(EUインデックスKabatによるナンバリング)のFc領域IgGの改変によりFcγRIへの結合が低下する。IgG1及びIgG4に置換された233~236位のIgG2残基により、FcγRIへの結合が103倍低下し、抗体感作赤血球に対するヒト単球応答が排除された(Armour, K.L., et al., Eur. J. Immunol. 29 (1999) 2613-2624)。
- FcγRII(CD32)は、中~低親和性で複合体化IgGに結合し、広く発現する。この受容体は、2つのサブタイプ、FcγRIIA及びFcγRIIBに分けることができる。FcγRIIAは、殺傷に関与する多くの細胞(例、マクロファージ、単球、好中球)で見出され、殺傷プロセスを活性化することができるように見える。FcγRIIBは、阻害プロセスにおいて役割を果たすように見え、B細胞、マクロファージ、並びに肥満細胞及び好酸球で見出される。B細胞では、さらなる免疫グロブリン産生及び、例えばIgEクラスへのアイソタイプスイッチングを抑制するように機能するように見える。マクロファージでは、FcγRIIBは、FcγRIIAを通じて媒介される食作用を阻害するように作用する。好酸球及び肥満細胞では、B形態が、その別々の受容体へのIgE結合を通じてこれらの細胞の活性化を抑制するのに役立ちうる。FcγRIIAについての結合低下は、例えば、アミノ酸残基E233-G236、P238、D265、N297、A327、P329、D270、Q295、A327、R292、及びK414(KabatのEUインデックスによるナンバリング)の少なくとも1つに変異を伴うIgG Fc領域を含む抗体について見出される。
- FcγRIII(CD16)は中程度から低い親和性でIgGに結合し、2つのタイプとして存在する。FcγRIIIAは、NK細胞、マクロファージ、好酸球、並びに一部の単球及びT細胞上で見出され、ADCCを媒介する。FcγRIIIBは好中球で高度に発現される。FcγRIIIAへの結合低下は、例えば、アミノ酸残基E233-G236、P238、D265、N297、A327、P329、D270、Q295、A327、S239、E269、E293、Y296、V303、A327、K338、及びD376(カバットのEUインデックスによるナンバリング)の少なくとも1つで変異を伴うIgG Fc領域を含む抗体について見出される。
【0066】
Fc受容体についてのヒトIgG1上での結合部位のマッピング、上記の変異部位、並びにFcγRI及びFcγRIIAへの結合を測定するための方法が、Shields, R.L., et al. J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604に記載されている。
【0067】
薬剤(例、医薬製剤)の「有効量」は、所望の治療的又は予防的な結果を達成するために必要な投与量で、及び期間にわたる有効量を指す。
【0068】
本明細書で使用する用語「Fc受容体」は、受容体に関連する細胞質ITAM配列の存在により特徴付けられる活性化受容体を指す(例、Ravetch, J.V. and Bolland, S., Annu. Rev. Immunol. 19 (2001) 275-290を参照のこと)。そのような受容体はFcγRI、FcγRIIA、及びFcγRIIIAである。用語「FcγRの非結合」は、10μg/mLの抗体濃度で、本明細書で報告する抗体のNK細胞への結合が、WO 2006/029879で報告されている抗OX40L抗体LC.001について見出された結合の10%又はそれ以下であることを示す。
【0069】
IgG4はFcR結合低下を示すが、他のIgGサブクラスの抗体は強い結合を示す。しかし、Pro238、Asp265、Asp270、Asn297(Fc糖の欠失)、Pro329並びに234、235、236及び237、Ile253、Ser254、Lys288、Thr307、Gln311、Asn434、及びHis435は、変化した場合、FcR結合低下を提供する残基である(Shields, R.L., et al. J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604;Lund, J., et al., FASEB J. 9 (1995) 115-119;Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324;及びEP 0 307 434)。一実施形態では、本明細書で報告する抗体はIgG1又はIgG2サブクラスであり、変異PVA236、GLPSS331及び/又はL234A/L235Aを含む。一実施形態では、本明細書で報告する抗体はIgG4サブクラスであり、変異L235Eを含む。一実施形態では、抗体は変異S228Pをさらに含む。
【0070】
本明細書中の用語「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用する。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む。一実施形態では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226から、又はPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで伸長する。しかし、Fc領域のC末端リジン(Lys447)はあってもなくてもよい。本明細書で他に定めない限り、Fc領域又は定常領域中のアミノ酸残基のナンバリングは、EUナンバリングシステム(また、EUインデックスと呼ばれる)に従い、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242に記載される通りである。
【0071】
本明細書で報告する抗体は、Fc領域として、一実施形態では、ヒト由来のFc領域を含む。一実施形態では、Fc領域はヒト定常領域の全ての部分を含む。抗体のFc領域は、補体活性化、C1q結合、C3活性化、及びFc受容体結合に直接関与する。補体系に対する抗体の影響は特定の条件に依存するが、C1qへの結合は、Fc領域中の定義された結合部位により起こる。そのような結合部位は最新技術において公知であり、例えば、 Lukas, T.J., et al., J. Immunol. 127 (1981) 2555-2560;Brunhouse, R., and Cebra, J.J., Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917;Burton, D.R., et al., Nature 288 (1980) 338-344;Thommesen, J.E., et al., Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004;Idusogie, E.E., et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184;Hezareh, M., et al., J. Virol. 75 (2001) 12161-12168;Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324;及びEP 0 307 434により記載されている。そのような結合部位は、例えば、 L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331、及びP329である(KabatのEUインデックスによるナンバリング;本明細書で他に特定しない限り、Fc領域又は定常領域中のアミノ酸残基のナンバリングは、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に従い、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242に記載されている通りである)。サブクラスIgG1、IgG2、及びIgG3の抗体は、通常、補体活性化、C1q結合及びC3活性化を示すのに対し、IgG4は補体系を活性化せず、C1qに結合せず、C3を活性化しない。「抗体のFc領域」は当業者に周知の用語であり、抗体のパパイン切断に基づいて定義される。一実施形態では、Fc領域はヒトFc領域である。一実施形態では、Fc領域は、変異S228P及び/又はL235E(KabatのEUインデックスによるナンバリング)を含むヒトIgG4サブクラスである。一実施形態では、Fc領域は、変異L234A及びL235A(KabatのEUインデックスによるナンバリング)を含むヒトIgG1サブクラスである。
【0072】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般的に4つのFRドメインFR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。したがって、HVR配列及びFR配列は、一般的に、VH(又はVL):FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4において以下の配列で現れる。
【0073】
用語「全長抗体」、「インタクト抗体」、及び「完全抗体」は、本明細書で互換的に使用し、天然抗体構造と実質的に類似の構造を有する、又は本明細書で定義するFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。「全長抗体」は、軽鎖及び重鎖抗原結合可変領域(VL、VH)並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン、CH1、CH2、及びCH3を含む抗体である。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントでありうる。より詳細には、全長抗体は、2つの抗体軽鎖(各々が軽鎖可変ドメイン及び軽鎖定常ドメインを含む)及び2つの抗体重鎖(各々が重鎖可変ドメイン、ヒンジ領域、及び重鎖定常ドメインCH1、CH2、及びCH3を含む)を含む。C末端アミノ酸残基K又はGKは、全長抗体の2つの抗体重鎖中に存在してもよく、又は互いに独立していなくてもよい。また、全長抗体は、ドメイン内にアミノ酸の付加、変異、及び欠失を含んでもよいが、ドメイン全体の欠失は含まない。
【0074】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、及び「宿主細胞培養物」を互換的に使用し、外因性核酸が導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を指す。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換細胞」を含み、それらは、継代数に関係なく、それに由来する一次形質転換細胞及びその子孫を含む。子孫は、核酸含量において親細胞と完全に同一でなくてもよいが、変異を含んでもよい。本来の形質転換細胞においてスクリーニングされた又はそれについて選択されたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異体子孫が本明細書に含まれる。
【0075】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において、最も共通して生じるアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般的に、ヒト免疫グロブリンVL配列又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。一般的に、配列のサブグループは、Kabat, E.A.et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Bethesda MD (1991), NIH Publication 91-3242, Vols. 1-3の通りである。一実施形態では、VLについて、サブグループは、Kabatら(上記)における通りのサブグループカッパIである。一実施形態では、VHについて、サブグループは、Kabatら(上記)における通りのサブグループIIIである。
【0076】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基及びヒトFRからのアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。特定の実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、それにおいて、HVR(例、CDR)の全て又は実質的に全てが、非ヒト抗体のものに対応し、FRの全て又は実質的に全てが、ヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、場合により、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含みうる。抗体(例、非ヒト抗体)の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0077】
用語「超可変領域」又は「HVR」は、本明細書で使用するように、配列(「相補性決定領域」又は「CDR」)中で超可変である、及び/又は構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成する、及び/又は抗原接触残基(「抗原接触部」)を含む、アミノ酸残基ストレッチを含む抗体可変ドメインの領域の各々を指す。一般的に、抗体は6つのHVRを含む;VH中の3つ(H1、H2、H3)及びVL中の3つ(L1、L2、L3)。
【0078】
HVRは以下を含む:
(a)アミノ酸残基26-32(L1)、50-52(L2)、91-96(L3)、26-32(H1)、53-55(H2)、及び96-101(H3)で生じる超可変ループ(Chothia, C. and Lesk, A.M., J. Mol. Biol. 196 (1987) 901-917);
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)、及び95-102(H3)で生じるCDR(Kabat, E.A.et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991), NIH Publication 91-3242);
(c)アミノ酸残基27c-36(L1)、46-55(L2)、89-96(L3)、30-35b(H1)、47-58(H2)、及び93-101(H3)で生じる抗原接触部(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));並びに
(d)アミノ酸残基46-56(L2)、47-56(L2)、48-56(L2)、49-56(L2)、26-35(H1)、26-35b(H1)、49-65(H2)、93-102(H3)、及び94-102(H3)を含む、(a)、(b)、及び/又は(c)の組み合わせ。
【0079】
他に示さない場合、可変ドメイン中のHVR残基及び他の残基(例、FR残基)を、本明細書において、Kabat(上記)に従ってナンバリングする。
【0080】
「イムノコンジュゲート」は、1つ又は複数の異種分子(細胞傷害剤を含むが、これに限定しない)にコンジュゲートされた抗体である。
【0081】
「個体」又は「被験体」は哺乳動物である。哺乳動物は、家畜(例、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、及びウマ)、霊長類(例、ヒト及び非ヒト霊長類、例えばサルなど)、ウサギ、及び齧歯類(例、マウス及びラット)を含むが、これらに限定しない。特定の実施形態では、個体又は被験体はヒトである。
【0082】
「単離」抗体は、その自然環境の成分から分離されたものである。一部の実施形態では、抗体は、例えば、電気泳動(例、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例、イオン交換又は逆相HPLC)により決定される通り、95%又は99%を上回る純度まで精製する。抗体純度の評価のための方法の総説については、例えば、Flatman, S. et al., J. Chrom. B 848 (2007) 79-87を参照のこと。
【0083】
「単離」核酸は、その自然環境の成分から分離された核酸分子を指す。単離核酸は、通常、核酸分子を含む細胞中に含まれる核酸分子を含むが、核酸分子は、染色体外又はその自然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0084】
「抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体をコードする単離核酸」は、単一のベクター又は別々のベクター中にそのような核酸分子を含む、抗体の重鎖及び軽鎖(又はそのフラグメント)をコードする1つ又は複数の核酸分子を指し、そのような核酸分子は、宿主細胞中の1つ又は複数の位置に存在する。
【0085】
本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、即ち、その集団を含む個々の抗体は、同一である、及び/又は可能なバリアント抗体(例、自然に生じる変異を含む、又はモノクローナル抗体調製物の産生の間に生じる)を除く、同じエピトープに結合し、そのようなバリアントは、一般的に少量で存在する。異なる決定基(エピトープ)に向けられた異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、ポリクローナル抗体調製物の各々のモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に向けられる。このように、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるとして、抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を要求するとして解釈すべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、種々の技術(ハイブリドーマ方法、組換えDNA方法、ファージディスプレイ方法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含むトランスジェニック動物を利用した方法を含むが、これらに限定しない)により作ってもよく、そのような方法及びモノクローナル抗体を作製するための他の例示的な方法を本明細書に記載する。
【0086】
「ネイキッド抗体」は、異種成分(例、細胞傷害性成分)又は放射標識にコンジュゲートされていない抗体を指す。ネイキッド抗体は医薬製剤中に存在してもよい。
【0087】
「天然抗体」は、変動する構造を伴う自然に生じる免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖で構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各々の重鎖は、可変領域(VH)(可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる)、それに続く3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有し、それにより第1及び第2の定常領域の間にヒンジ領域が配置される。同様に、N末端からC末端まで、各々の軽鎖は、可変領域(VL)(可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる)、それに続く定常軽鎖(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、2つの型(カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる)の1つに割り当てられうる。
【0088】
用語「添付文書」を使用し、治療用産物の市販パッケージに通例含まれる説明書を指し、そのような治療用産物の使用に関する適応症、使用法、投与量、投与、併用治療、禁忌、及び/又は警告に関する情報が含まれる。
【0089】
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、ギャップを導入し(必要な場合)、最高パーセント配列同一性を達成した後(任意の保存的置換を配列同一性の部分として考慮せず)、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当技術分野内にある種々の方法で、例えば、公的に利用可能なコンピューターソフトウェア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどを使用して達成することができる。当業者は、配列を整列させるための適当なパラメーター(比較されている配列の全長にわたる最高アラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む)を決定することができる。本明細書における目的のために、しかし、%アミノ酸配列同一性の値を、配列比較コンピュータープログラムALIGN-2を使用して生成する。ALIGN-2配列比較コンピュータープログラムはGenentech, Inc.により作成されたが、そのソースコードが、U.S. Copyright Office, Washington D.C., 20559においてユーザー文書と共にファイルされており、そこでは、それはU.S. Copyright Registration No.TXU510087下で登録されている。ALIGN-2プログラムが、Genentech, Inc.(カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)から公的に利用可能である、又はソースコードからコンパイルされうる。ALIGN-2プログラムを、UNIX操作システム(デジタルUNIX V4.0Dを含む)上での使用のためにコンパイルする必要がある。全ての配列比較パラメーターをALIGN-2プログラムにより設定し、変動させない。
【0090】
ALIGN-2がアミノ酸配列比較のために用いられる状況において、所与のアミノ酸配列Bに、それと、又はそれに対する所与のアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bに、それと、又はそれに対する特定の%アミノ酸配列同一性を有する、又はそれを含む所与のアミノ酸配列Aとして表現することができる)を以下の通りに算出する:
100×分数X/Y
式中Xは、A及びBのそのプログラムのアラインメントにおける配列アラインメントプログラムALIGN-2による同一のマッチとしてスコア化されるアミノ酸残基の数であり、式中Yは、Bにおけるアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さとは等しくない場合、Bに対するAの%アミノ酸配列同一性は、Aに対するBの%アミノ酸配列同一性とは等しくないと理解されるであろう。別に特記なき場合、本明細書で使用する全ての%アミノ酸配列同一性の値は、直前のパラグラフにおいて記載する通りに、ALIGN-2コンピュータープログラムを使用して得られる。
【0091】
用語「医薬製剤」は、その中に含まれる活性成分の生物学的活性が効果的になることを許すような形態であり、製剤が投与されうる被験体に対して非許容可能に有毒である追加成分を含まない調製物を指す。
【0092】
「医薬的に許容可能な担体」は、被験体に非毒性である、活性成分以外の医薬製剤中の成分を指す。医薬的に許容可能な担体は、緩衝剤、賦形剤、安定剤、又は保存剤を含むが、これらに限定しない。
【0093】
本明細書で使用する通り、「処置」(及びその文法上の変形、例えば「処置する」又は「処置している」など)は、処置されている個体の自然経過を変化させる試みにおける臨床的介入を指し、予防のため、又は臨床病理の経過の間に実施することができる。処置の望ましい効果は、疾患の発生又は再発の予防、症状の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的転帰の減弱、転移の予防、疾患進行の速度の減少、疾患状態の回復又は緩和、及び寛解又は予後改善を含むが、これらに限定しない。一部の実施形態では、本発明で報告する抗体を使用し、疾患の発生を遅延させる、又は疾患の進行を遅らせる。
【0094】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の、その抗原への結合に含まれる抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖(それぞれVH及びVL)の可変ドメインは、一般的に、同様の構造を有し、4つの保存フレームワーク領域(FR)及び3つの超可変領域(HVR)を含む各々のドメインを伴う(例、Kindt, T.J. et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., N.Y. (2007), page 91を参照のこと)。単一のVHドメイン又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するのに十分でありうる。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、相補的なVLドメイン又はVHドメインのライブラリーをそれぞれスクリーニングするために、抗原に結合する抗体からのVHドメイン又はVLドメインを使用して単離してもよい。例えば、Portolano, S. et al., J. Immunol. 150 (1993) 880-887; Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628を参照のこと。
【0095】
用語「ベクター」は、本明細書で使用する通り、それが連結されている別の核酸を伝播することが可能である核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、並びにそれが導入されている宿主細胞のゲノム中に組み入れられたベクターを含む。特定のベクターは、それらが作動可能に連結された核酸の発現を指示することが可能である。そのようなベクターを、本明細書では「発現ベクター」として言及する。
【0096】
II.組成物及び方法
一態様では、本発明は、部分的には、本明細書で報告する二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体が改善された特性を有するとの知見に基づく。特定の実施形態では、二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を提供する。本明細書で報告する抗体は、例えば、アルツハイマー病の診断又は処置のために有用である。
【0097】
A.例示的な二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体
一態様では、本発明は、ヒトA-ベータ及びヒトトランスフェリン受容体に結合する単離された二重特異性抗体を提供する。抗体は、全長コア抗体と、特定のドメインが交差交換された融合Fabフラグメントから成る二重特異性抗体である。このように、結果として得られる二重特異性抗体は非対称である。従って、二重特異性抗体は、いわゆるノブ変異(HCknob)を伴う第1重鎖及びいわゆるホール変異(HChole)を伴う第2重鎖を使用したノブ・インツー・ホールと呼ばれるヘテロ二量体化技術を使用して製造する。
【0098】
抗体0012は、また、本発明の態様であり、配列番号06~09のアミノ酸配列を有する4つのポリペプチドで構成される。
【0099】
抗体0012は、以下を含む二重特異性抗体である:
a)全長重鎖及び全長軽鎖の対の各々により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、全長抗体軽鎖及び全長抗体重鎖の各々の2対を含む1つの全長抗体、並びに
b)追加のFabフラグメントの結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、追加のFabフラグメントが全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されている1つの追加のFabフラグメント、
全長抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において位置123にアミノ酸残基アルギニンを含み(野生型グルタミン酸残基の代わりに;E123R変異)、位置124にアミノ酸残基リジンを含み(野生型グルタミン残基の代わりに;Q124K変異)(Kabatによるナンバリング)、
全長抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において位置147にグルタミン酸残基を含み(野生型リジン残基の代わりに;K147E変異)、位置213にグルタミン酸残基を含み(野生型リジンアミノ酸残基の代わりに;K213E変異)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、軽鎖可変ドメイン(VL)及び重鎖可変ドメイン(VH)が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、並びに
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体である。
【0100】
抗体0015は、また、本発明の態様であり、配列番号01~03及び配列番号10のアミノ酸配列を有する4つのポリペプチドで構成される。
【0101】
抗体0015は、以下を含む二重特異性抗体である:
a)全長重鎖及び全長軽鎖の対の各々により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、全長抗体軽鎖及び全長抗体重鎖の各々の2対を含む1つの全長抗体、並びに
b)追加のFabフラグメントの結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、追加のFabフラグメントが全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されている1つの追加のFabフラグメント、
全長抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において位置123にアミノ酸残基アルギニンを含み(野生型グルタミン酸残基の代わりに;E123R変異)、位置124にアミノ酸残基リジンを含み(野生型グルタミン残基の代わりに;Q124K変異)(Kabatによるナンバリング)、
全長抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において位置147にグルタミン酸残基を含み(野生型リジン残基の代わりに;K147E変異)、位置213にグルタミン酸残基を含み(野生型リジンアミノ酸残基の代わりに;K213E変異)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、定常軽鎖ドメイン(CL)及び定常重鎖ドメイン1(CH1)が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、並びに
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体である。
【0102】
抗体0020は、また、本発明の態様であり、配列番号11~13のアミノ酸配列を有する3つのポリペプチドで構成される。
【0103】
抗体0020は、以下を含む二重特異性抗体である:
a)全長重鎖及び全長軽鎖の対の各々により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、全長抗体軽鎖及び全長抗体重鎖の各々の2対を含む1つの全長抗体、並びに
b)追加のFabフラグメントの結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、追加のFabフラグメントが全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されている1つの追加のFabフラグメント、
全長抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において位置123にアミノ酸残基アルギニンを含み(野生型グルタミン酸残基の代わりに;E123R変異)、位置124にアミノ酸残基リジンを含み(野生型グルタミン残基の代わりに;Q124K変異)(Kabatによるナンバリング)、
全長抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において位置147にグルタミン酸残基を含み(野生型リジン残基の代わりに;K147E変異)、位置213にグルタミン酸残基を含み(野生型リジンアミノ酸残基の代わりに;K213E変異)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが一本鎖Fabフラグメントであり、及び
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体である。
【0104】
抗体0024は、また、本発明の態様であり、配列番号14~17のアミノ酸配列を有する4つのポリペプチドで構成される。
【0105】
抗体0024は、以下を含む二重特異性抗体である:
a)全長重鎖及び全長軽鎖の対の各々により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、全長抗体軽鎖及び全長抗体重鎖の各々の2対を含む1つの全長抗体、並びに
b)追加のFabフラグメントの結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、追加のFabフラグメントが全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されている1つの追加のFabフラグメント、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、定常軽鎖ドメイン(CL)及び定常重鎖ドメイン1(CH1)が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、並びに
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体である。
【0106】
異なる発現プラスミドでのそれぞれのポリペプチドの異なる割り当て/組み合わせ、及び結果として得られたプラスミドの異なる比率を、二重特異性抗体の組換え製造のために使用している。結果を以下の表中に提示する。
【表1】
【0107】
二重特異性抗体は小規模で製造しており、副産物の分布は、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーを使用した第1の精製工程後、及び分取用サイズ排除クロマトグラフィーを使用した第2の精製工程後に分析している。結果を以下の表中に提示する。
【表2】
【表3】
【表4】
【0108】
抗A-ベータ結合部位は追加のグリコシル化部位を含む。従って、グリコシル化を決定している。結果を以下の表中に提示する。
【表5】
【0109】
ProtA精製後の3リットルの発酵物中での非グリコシル化Fabのパーセンテージ
【表6】
【0110】
ProtA + SEC精製後の3lの発酵物中での非グリコシル化Fabのパーセンテージ
【表7】
【0111】
二重特異性抗体の安定性を、緩衝液中で特定のpH値で14日間にわたるインキュベートによりテストした。結果を以下の表中に提示する。
【表8】
【0112】
抗体0015及び0024についての凝集温度は約53~55℃、抗体0012については約54~56℃に決定した。
【0113】
BIAcoreにより決定されたヒトトランスフェリン受容体への結合についてのオフ速度([1/Ms]中のkd)は、抗体0015及び抗体0024について、並びに親抗ヒトトランスフェリン受容体抗体について25℃、37 ℃、及び40℃で同程度であった:それぞれ1.86E-02~1.97E-02、198E-2~2.03E-2、及び1.44E-02。
【0114】
全ての抗体のA-ベータ特異的エフェクター機能は、U937細胞アッセイにおいて、親単一特異性抗A-ベータ抗体と同程度であった。データを以下の表中に提示する。
【表9】
【0115】
二重特異性抗体のいずれも、インビトロで好中球活性化を示さなかった。
【0116】
全体的な抗体0015は、適切な特性を示し、従って、本発明の好ましい態様である。さらに、この抗体は、とりわけ改善された副産物プロファイルにある改善された特性を有する。
【0117】
一態様では、本明細書において、以下を含む二重特異性抗体を提供する:
a)全長重鎖及び全長軽鎖の対の各々により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、全長抗体軽鎖及び全長抗体重鎖の各々の2対を含む1つの全長抗体、並びに
b)追加のFabフラグメントの結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、追加のFabフラグメントが全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されている1つの追加のFabフラグメント、
全長抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において位置123にアミノ酸残基アルギニンを含み(野生型グルタミン酸残基の代わりに;E123R変異)、位置124にアミノ酸残基リジンを含み(野生型グルタミン残基の代わりに;Q124K変異)(Kabatによるナンバリング)、
全長抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において位置147にグルタミン酸残基を含み(野生型リジン残基の代わりに;K147E変異)、位置213にグルタミン酸残基を含み(野生型リジンアミノ酸残基の代わりに;K213E変異)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、定常軽鎖ドメイン(CL)及び定常重鎖ドメイン1(CH1)が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、並びに
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体である。
【0118】
本明細書で報告する別の態様は、以下を含む二重特異性抗体である:
a)全長重鎖及び全長軽鎖の対の各々により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、全長抗体軽鎖及び全長抗体重鎖の各々の2対を含む1つの全長抗体、並びに
b)追加のFabフラグメントの結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、追加のFabフラグメントが全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されている1つの追加のFabフラグメント、
全長抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において位置123にアミノ酸残基アルギニンを含み(野生型グルタミン酸残基の代わりに;E123R変異)、位置124にアミノ酸残基リジンを含み(野生型グルタミン残基の代わりに; Q124K変異)(Kabatによるナンバリング)、
全長抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において位置147にグルタミン酸残基を含み(野生型リジン残基の代わりに;K147E変異)、位置213にグルタミン酸残基を含み(野生型リジンアミノ酸残基の代わりに;K213E変異)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、定常軽鎖ドメイン(CL)及び定常重鎖ドメイン1(CH1)が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体であり、
ヒトA-ベータ結合部位が、配列番号18のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、並びに
ヒトトランスフェリン受容体結合部位が、配列番号20のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号21のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0119】
特定の実施形態では、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するVH配列は、参照配列と比べて、置換(例、保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、しかし、その配列を含む結合部位は、その抗原に結合する能力を保持する。特定の実施形態では、合計1~10のアミノ酸が、配列番号18又は20において置換、挿入、及び/又は欠失されている。特定の実施形態では、置換、挿入、又は欠失は、HVR外の領域中(即ち、FR中)で生じる。
【0120】
特定の実施形態では、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するVL配列は、参照配列と比べて、置換(例、保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、しかし、その配列を含む結合部位は、その抗原に結合する能力を保持する。特定の実施形態では、合計1~10のアミノ酸が、配列番号19又は21において置換、挿入、及び/又は欠失されている。特定の実施形態では、置換、挿入、又は欠失は、HVR外の領域中(即ち、FR中)で生じる。
【0121】
一実施形態では、ヒトA-ベータ結合部位は、配列番号18のVH配列(その配列の翻訳後修飾を含む)及び配列番号19のVL配列(その配列の翻訳後修飾を含む)を含む。
【0122】
一実施形態では、ヒトトランスフェリン受容体結合部位は、配列番号20のVH配列(その配列の翻訳後修飾を含む)及び配列番号21のVL配列(その配列の翻訳後修飾を含む)を含む。
【0123】
一実施形態では、二重特異性抗体は以下を含む:
i)配列番号01と70~100%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは95%以上の配列同一性を有する軽鎖、
ii)配列番号02と70~100%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは95%以上の配列同一性を有する重鎖、
iii)配列番号03と70~100%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは95%以上の配列同一性を有する軽鎖、及び
iv)配列番号04と70~100%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは95%以上の配列同一性を有する重鎖Fabフラグメント、
ここで
配列番号01はアミノ酸配列
【化5】
を有し、
配列番号02はアミノ酸配列
【化6】
を有し、
配列番号03はアミノ酸配列
【化7】
を有し、及び
配列番号04はアミノ酸配列
【化8】
を有する。
【0124】
本明細書で報告する別の態様は、以下を含む二重特異性抗体である:
a)全長重鎖及び全長軽鎖の対の各々により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、全長抗体軽鎖及び全長抗体重鎖の各々の2対を含む1つの全長抗体、並びに
b)追加のFabフラグメントの結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、追加のFabフラグメントが全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されている1つの追加のFabフラグメント、
全長抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において位置123にアミノ酸残基アルギニンを含み(野生型グルタミン酸残基の代わりに;E123R変異)、位置124にアミノ酸残基リジンを含み(野生型グルタミン残基の代わりに;Q124K変異)(Kabatによるナンバリング)、
全長抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において位置147にグルタミン酸残基を含み(野生型リジン残基の代わりに;K147E変異)、位置213にグルタミン酸残基を含み(野生型リジンアミノ酸残基の代わりに;K213E変異)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、定常軽鎖ドメイン(CL)及び定常重鎖ドメイン1(CH1)が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体であり、
ヒトA-ベータ結合部位が、配列番号18のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号19のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、並びに
ヒトトランスフェリン受容体結合部位が、配列番号20のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号21のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0125】
本明細書で報告する別の態様は、以下を含む二重特異性抗体である:
a)全長重鎖及び全長軽鎖の対の各々により形成される結合部位が第1の抗原に特異的に結合し、全長抗体が、各々の2つの全長重鎖のCH1、CH2、及びCH3ドメインを含むFc領域ポリペプチドにより形成されるFc領域を含む、全長抗体軽鎖及び全長抗体重鎖の各々の2対を含む1つの全長抗体、並びに
b)追加のFabフラグメントの結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、追加のFabフラグメントが全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されている1つの追加のFabフラグメント、
全長抗体軽鎖の各々が、定常軽鎖ドメイン(CL)において位置123にアミノ酸残基アルギニンを含み(野生型グルタミン酸残基の代わりに;E123R変異)、位置124にアミノ酸残基リジンを含み(野生型グルタミン残基の代わりに; Q124K変異)(Kabatによるナンバリング)、
全長抗体重鎖の各々が、第1の定常重鎖ドメイン(CH1)において位置147にグルタミン酸残基を含み(野生型リジン残基の代わりに;K147E変異)、位置213にグルタミン酸残基を含み(野生型リジンアミノ酸残基の代わりに;K213E変異)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFabフラグメントが、定常軽鎖ドメイン(CL)及び定常重鎖ドメイン1(CH1)が互いに置換されるようなドメインクロスオーバーを含み、
第1の抗原がヒトA-ベータタンパク質であり、第2の抗原がヒトトランスフェリン受容体であり、
ヒトA-ベータ結合部位が、配列番号18のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号19のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
ヒトトランスフェリン受容体結合部位が、配列番号20のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号21のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
ここで、Fc領域ポリペプチドは以下である:
a)ヒトサブクラスIgG1、
b)ヒトサブクラスIgG4、
c)変異L234A、L235A、及びP329Gを伴うヒトサブクラスIgG1、
d)変異S228P、L235E、及びP329Gを伴うヒトサブクラスIgG4、
e)両方のFc領域ポリペプチド中の変異L234A、L235A、及びP329G、並びに1つのFc領域ポリペプチド中の変異T366W及びS354C、並びに他のそれぞれのFc領域ポリペプチド中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG1、
f)両方のFc領域ポリペプチド中の変異S228P及びP329G、並びに1つのFc領域ポリペプチド中の変異T366W及びS354C、並びに他のそれぞれのFc領域ポリペプチド中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG4、
g)両方のFc領域ポリペプチド中の変異L234A、L235A、P329G、I253A、H310A、及びH435A、並びに1つのFc領域ポリペプチド中の変異T366W及びS354C、並びに他のそれぞれのFc領域ポリペプチド中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG1、
h)両方のFc領域ポリペプチド中の変異L234A、L235A、P329G、M252Y、S254T、及びT256E、並びに1つのFc領域ポリペプチド中の変異T366W及びS354C、並びに他のそれぞれのFc領域ポリペプチド中の変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを伴うヒトサブクラスIgG1、又は
i)両方の重鎖中の変異L234A、L235A、P329G、H310A、H433A、及びY436A、並びに1つの重鎖中の変異i)T366W、及びii)S354C又はY349C、並びにそれぞれの他の重鎖中の変異i)T366S、L368A、及びY407V、並びにii)Y349C又はS354Cを伴うヒトサブクラスIgG1の全長抗体。
【0126】
さらなる態様では、上記の実施形態のいずれかに従った二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体は、以下のセクション1~3に記載するように、特色のいずれかを、単独で、又は組み合わせて組み入れてもよい:
【0127】
1.キメラ抗体及びヒト化抗体
特定の実施形態では、本明細書で提供する抗体はキメラ抗体である。特定のキメラ抗体が、例えば、US 4,816,567;及びMorrison, S.L.et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855において記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又は非ヒト霊長類、例えばサルなどに由来する可変領域)及びヒト定常領域を含む。さらなる例では、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスを親抗体のものから変化させた「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合フラグメントを含む。
【0128】
特定の実施形態では、キメラ抗体はヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、親の非ヒト抗体の特異性及び親和性を保持しながら、ヒトへの免疫原性を低下させるためにヒト化されている。一般的に、ヒト化抗体は、HVR、例、CDR(又はその部分)が非ヒト抗体に由来し、FR(又はその部分)がヒト抗体配列に由来する1つ又は複数の可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、場合により、また、ヒト定常領域の少なくとも部分を含むであろう。一部の実施形態では、ヒト化抗体中の一部のFR残基が、非ヒト抗体(例、HVR残基が由来する抗体)からの対応する残基で置換され、例えば、抗体特異性又は親和性を回復又は改善する。
【0129】
ヒト化抗体及びそれらを作製する方法が、例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13 (2008) 1619-1633において概説されており、例えば、Riechmann, I., et al., Nature 332 (1988) 323-329;Queen, C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-10033;US 5,821,337、US 7,527,791、US 6,982,321、及びUS 7,087,409;Kashmiri, S.V., et al., Methods 36 (2005) 25-34(特異性決定領域(SDR)移植を記載);Padlan, E.A., Mol. Immunol. 28 (1991) 489-498(「リサーフェシング」を記載);Dall’Acqua, W.F. et al., Methods 36 (2005) 43-60(「FRシャッフリング」を記載);並びにOsbourn, J. et al., Methods 36 (2005) 61-68及びKlimka, A. et al., Br. J. Cancer 83 (2000) 252-260(FRシャッフリングへの「ガイド付き選択」アプローチを記載)においてさらに記載されている。
【0130】
ヒト化のために使用されうるヒトフレームワーク領域は、「ベストフィット」方法を使用して選択されるフレームワーク領域(例、Sims, M.J., et al., J. Immunol. 151 (1993) 2296-2308を参照のこと);軽鎖又は重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例、Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;及びPresta, L.G., et al., J. Immunol. 151 (1993) 2623-2632を参照のこと);ヒト成熟(体細胞変異した)フレームワーク領域又はヒト生殖系列フレームワーク領域(例、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13 (2008) 1619-1633を参照のこと);及び、FRライブラリーのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例、Baca, M. et al., J. Biol. Chem. 272 (1997) 10678-10684及びRosok, M.J. et al., J. Biol. Chem. 271 (1996) 22611-22618を参照のこと)を含むが、これらに限定しない。
【0131】
2.ヒト抗体
特定の実施形態では、本明細書で提供する抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体を、当技術分野において公知の種々の技術を使用して製造することができる。ヒト抗体は、一般的に、van Dijk, M.A. and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Pharmacol. 5 (2001) 368-374及びLonberg, N., Curr. Opin. Immunol. 20 (2008) 450-459において記載されている。
【0132】
ヒト抗体は、抗原攻撃に応答して、インタクトヒト抗体又はヒト可変領域を伴うインタクト抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に免疫原を投与することにより調製されうる。そのような動物は、典型的には、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は部分を含み、それらは、内因性の免疫グロブリン遺伝子座を置換する、あるいは、染色体外に存在する、又は動物の染色体にランダムに組み込まれる。そのようなトランスジェニックマウスにおいて、内因性の免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に、不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の概説については、Lonberg, N., Nat. Biotech. 23 (2005) 1117-1125を参照のこと。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載するUS 6,075,181及びUS 6,150,584;HUMAB(登録商標)技術を記載するUS 5,770,429;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載するUS 7,041,870及びVELOCIMOUSE(登録商標)技術を記載するUS 2007/0061900を参照のこと。そのような動物により生成されたインタクト抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによりさらに改変してもよい。
【0133】
ヒト抗体は、又はイブリドーマベースの方法により作ることができる。ヒトモノクローナル抗体の製造のためのヒト骨髄腫細胞株及びマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株が記載されている(例、Kozbor, D.J., Immunol. 133 (1984) 3001-3005;Brodeur, B.R., et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York (1987), pp. 51-63;及びBoerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95を参照のこと)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されるヒト抗体は、また、Li, J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103 (2006) 3557-3562に記載されている。追加の方法は、例えば、US 7,189,826(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載する)及びNi, J., Xiandai Mianyixue 26 (2006) 265-268(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載する)において記載される方法を含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)は、また、Vollmers, H.P. and Brandlein, S., Histology and Histopathology 20 (2005) 927-937及びVollmers, H.P. and Brandlein, S., Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology 27 (2005) 185-191に記載されている。
【0134】
ヒト抗体は、また、ヒト由来ファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することにより生成してもよい。そのような可変ドメイン配列を、次に、所望のヒト定常ドメインと組み合わせてもよい。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技術を以下に記載する。
【0135】
3.抗体バリアント
特定の実施形態では、本明細書で提供する抗体のアミノ酸配列バリアントを熟慮する。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善することが望まれうる。抗体のアミノ酸配列バリアントを、抗体をコードするヌクレオチド配列中へ適当な改変を導入することにより、又はペプチド合成により調製してもよい。そのような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/又はその中への挿入、及び/又はその置換を含む。欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせを作り、最終的な構築物が所望の特徴(例、抗原結合)を保有するという条件で、最終的な構築物に達することができる。
【0136】
a)置換、挿入、及び欠失のバリアント
特定の実施形態では、1つ又は複数のアミノ酸置換を有する抗体バリアントを提供する。置換変異誘発のための目的の部位は、HVR及びFRを含む。保存的置換を、「好ましい置換」の見出しの下に、以下の表中に示す。より実質的な変化を、「例示的置換」の見出しの下に、表1中に提供し、アミノ酸側鎖クラスを参照して以下にさらに記載する。アミノ酸置換を目的の抗体中に導入し、産物を、所望の活性(例、抗原結合の保持/改善、免疫原性の減少、又はADCCもしくはCDCの改善)についてスクリーニングしてもよい。
【表10】
【0137】
アミノ酸は、共通の側鎖特性に従ってグループ化されうる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0138】
保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴いうる。
【0139】
置換バリアントの1つの型は、親抗体(例、ヒト化又はヒト抗体)の1つ又は複数の超可変領域の残基を置換することを含む。一般的には、さらなる試験のために選択された、結果として得られるバリアントは、親抗体と比べて、特定の生物学的特性(例、親和性の増加、免疫原性の低下)における改変(例、改善)を有する、及び/又は、親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持する。例示的な置換バリアントは、例えば、ファージディスプレイベースの親和性成熟技術(例えば、本明細書に記載されるものなど)を使用して便利に生成されうる親和性成熟抗体である。簡単には、1つ又は複数のHVR残基を変異させ、バリアント抗体をファージ上にディスプレイし、特定の生物学的活性(例、結合親和性)についてスクリーニングする。
【0140】
変化(例、置換)は、例えば、抗体の親和性を改善させるために、HVR中に作ってもよい。そのような変化は、HVR「ホットスポット」、即ち、体細胞成熟プロセスの間に高頻度で変異を受けるコドンによりコードされる残基(例、Chowdhury, P.S., Methods Mol. Biol. 207 (2008) 179-196を参照のこと)、及び/又は抗原に接触する残基において作ってもよく、結果として得られるバリアントVH又はVLを、結合親和性についてテストする。二次ライブラリーから構築し、再選択することによる親和性成熟が、例えば、Hoogenboom, H.R. et al. Methods in Molecular Biology 178 (2002) 1-37において記載されている。親和性成熟の一部の実施形態では、多様性を、種々の方法(例、エラープローンPCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチド特異的変異誘発)のいずれかによる成熟のために選ばれた可変遺伝子中に導入する。二次ライブラリーを次に作製する。ライブラリーを次にスクリーニングし、所望の親和性を伴う任意の抗体バリアントを同定する。多様性を導入するための別の方法は、HVR指向アプローチを含み、それにおいて、いくつかのHVR残基(例、一度に4~6残基)をランダム化する。抗原結合に含まれるHVR残基を、例えば、アラニンスキャニング変異誘発又はモデリングを使用して特異的に同定しうる。特にCDR-H3及びCDR-L3を、しばしば標的化する。
【0141】
特定の実施形態では、置換、挿入、又は欠失は、そのような変化が、抗原に結合する抗体の能力を実質的に低下させない限り、1つ又は複数のHVR内で生じうる。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保存的変化(例、本明細書で提供する保存的置換)をHVR中に作ってもよい。そのような変化は、例えば、HVR中の抗原接触残基の外でありうる。上に提供する、バリアントVH配列及びVL配列の特定の実施形態では、各々のHVRのいずれかが未変化である、あるいは、1つ、2つ、又は3つ未満のアミノ酸置換を含む。
【0142】
変異誘発のために標的化されうる抗体の残基又は領域の同定のための有用な方法は、「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれ、Cunningham and Wells in Science, 244: 1081-1085 (1989)により記載される通りである。この方法では、残基又は標的残基の群(例、荷電残基、例えばarg、asp、his、lys、及びgluなど)を同定し、中性又は負に荷電したアミノ酸(例、アラニン又はポリアラニン)により置換し、抗体と抗原との相互作用が影響されているか否かを決定する。さらなる置換をアミノ酸位置に導入し、初期置換への機能的感受性を実証してもよい。あるいは、又は、加えて、抗体と抗原の間での接触点を同定するための抗原-抗体複合体の結晶構造。そのような接触残基及び隣接残基は、置換のための候補として標的化又は排除してもよい。バリアントをスクリーニングし、それらが所望の特性を含むか否かを決定してもよい。
【0143】
アミノ酸配列の挿入は、1つの残基から100以上の残基を含むポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ及び/又はカルボキシ末端融合体、ならびに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例は、N末端メチオニル残基を伴う抗体を含む。抗体分子の他の挿入バリアントは、酵素(例、ADEPT用)又は抗体の血清中半減期を増加させるポリペプチドへの抗体のN又はC末端への融合体を含む。
【0144】
b)グリコシル化バリアント
特定の実施形態では、本明細書で提供する抗体を変化させ、抗体がグリコシル化される程度を増加又は減少させる。抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、1つ又は複数のグリコシル化部位が作製又は除去されるように、アミノ酸配列を変化させることにより都合よく達成してもよい。
【0145】
抗体がFc領域を含む場合、それに付着された糖質を変化させてもよい。哺乳動物細胞により産生された天然抗体は、典型的には、N連結により、Fc領域のCH2ドメインのAsn297に一般的に付着される分枝、二分岐オリゴ糖を含む。例えば、Wright, A. and Morrison, S.L., TIBTECH 15 (1997) 26-32を参照のこと。オリゴ糖は、種々の糖質、例えば、マンノース、Nアセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、及びシアル酸、ならびに二分岐オリゴ糖構造の「ステム」においてGlcNAcに付着されたフコースを含んでもよい。一部の実施形態では、本明細書で報告する抗体におけるオリゴ糖の修飾を、特定の改善された特性を伴う抗体バリアントを作製するために作ってもよい。
【0146】
一実施形態では、Fc領域に(直接的又は間接的に)付着されたフコースを欠く糖質構造を有する抗体バリアントを提供する。例えば、そのような抗体中のフコースの量は1%~80%、1%~65%、5%~65%、又は20%~40%でありうる。フコースの量は、Asn 297に付着されている全ての糖構造(例、複雑な、ハイブリッド及び高マンノース構造)の合計と比べて、Asn297での糖鎖内のフコースの平均量を算出することにより決定し、例えば、WO2008/077546に記載される通り、MALDI-TOF質量分析法により測定される。Asn297は、Fc領域において約297の位置(Fc領域残基のEUナンバリング)に配置されるアスパラギン残基を指す。しかし、Asn297は、また、抗体における小さな配列変動に起因して、位置297の上流又は下流の約±3アミノ酸、即ち、位置294と300の間に配置されうる。そのようなフコシル化バリアントは、改善されたADCC機能を有しうる。例えば、US 2003/0157108;US 2004/0093621を参照のこと。「脱フコシル化」又は「フコース欠損」抗体バリアントに関連する刊行物の例は、US 2003/0157108;WO 2000/61739;WO 2001/29246;US 2003/0115614;US 2002/0164328;US 2004/0093621;US 2004/0132140;US 2004/0110704;US 2004/0110282;US 2004/0109865;WO 2003/085119;WO 2003/084570;WO 2005/035586;WO 2005/035778;WO 2005/053742;WO 2002/031140;Okazaki, A. et al., J. Mol. Biol. 336 (2004) 1239-1249;Yamane-Ohnuki, N. et al., Biotech. Bioeng. 87 (2004) 614-622を含む。脱フコシル化抗体を製造することが可能である細胞株の例は、タンパク質フコシル化が欠損したLec13 CHO細胞(Ripka, J., et al., Arch. Biochem. Biophys. 249 (1986) 533-545;US 2003/0157108;及びWO 2004/056312、特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、例えばアルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8ノックアウトCHO細胞など(例、Yamane-Ohnuki, N., et al., Biotech. Bioeng. 87 (2004) 614-622;Kanda, Y.et al., Biotechnol. Bioeng. 94 (2006) 680-688;及びWO2003/085107を参照のこと)を含む。
【0147】
二分されたオリゴ糖を伴う抗体バリアントをさらに提供し、例えば、それにおいて、抗体のFc領域に付着した二分岐オリゴ糖は、GlcNAcにより二分されている。そのような抗体バリアントは、低下したフコシル化及び/又は改善されたADCC機能を有しうる。そのような抗体バリアントの例は、例えば、WO 2003/011878;US 6,602,684;及びUS 2005/0123546に記載されている。Fc領域に付着したオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を伴う抗体バリアントも提供する。そのような抗体バリアントは、改善されたCDC機能を有しうる。そのような抗体バリアントは、例えば、WO 1997/30087;WO 1998/58964;及びWO 1999/22764に記載されている。
【0148】
c)Fc領域バリアント
特定の実施形態では、1つ又は複数のさらなるアミノ酸改変を、本明細書で提供する抗体のFc領域中に導入し、それにより、Fc領域バリアントを生成してもよい。Fc領域バリアントは、1つ又は複数のアミノ酸位置にアミノ酸改変(例、置換)を含むヒトFc領域配列(例、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4 Fc領域)を含みうる。
【0149】
特定の実施形態では、インビボでの抗体の半減期が重要であるが、特定のエフェクター機能(例えば補体及びADCCなど)は不要又は有害である、適用のために望ましい候補となる、エフェクター機能の全てではなく一部を持つ抗体バリアントを熟慮する。インビトロ及び/又はインビボ細胞傷害性アッセイを行い、CDC及び/又はADCC活性の減少/枯渇を確認することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイを行い、抗体がFcγR結合を欠くが(故にADCC活性がない可能性が高い)、FcRn結合能を保持することを確実にすることができる。ADCCを媒介するための初代細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現するのに対し、単球はFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcR発現は、Ravetch, J.V. and Kinet, J.P., Annu. Rev. Immunol. 9 (1991) 457-492の464頁の表3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、US 5,500,362(例、Hellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 7059-7063;及びHellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82 (1985) 1499-1502を参照のこと);US 5,821,337(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361を参照のこと)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法を用いてもよい(例えば、フローサイトメトリーのためのACTI(商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology, Inc.、カリフォルニア州マウンテンビュー;及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、ウィスコンシン州マジソン)を参照のこと)。そのようなアッセイのための有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。あるいは、又は加えて、目的の分子のADCC活性をインビボで(Clynes, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998) 652-656に開示するような動物モデルにおいて)評価してもよい。C1q結合アッセイも行い、抗体がC1qに結合することができず、故にCDC活性を欠くことを確認してもよい。例えばWO2006/029879及びWO2005/100402におけるC1q及びC3c結合ELISAを参照のこと。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを実施してもよい(例えば、Gazzano-Santoro, H. et al., J. Immunol. Methods 202 (1996) 163-171;Cragg, M.S. et al., Blood 101 (2003) 1045-1052;及びCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103 (2004) 2738-2743を参照のこと)。FcRn結合及びインビボクリアランス/半減期の決定はまた、当該分野において公知の方法を使用して実施することができる(例、Petkova, S.B. et al., Int. Immunol. 18 (2006: 1759-1769を参照のこと)。
【0150】
低下したエフェクター機能を伴う抗体は、Fc領域残基238、265、269、270、297、327、及び329の1つ又は複数の置換を伴う抗体を含む(US 6,737,056)。そのようなFc変異体は、アラニンへの残基265及び297の置換を伴う、いわゆる「DANA」Fc変異体を含む、アミノ酸位置265、269、270、297、及び327の2つ以上で置換を伴うFc変異体を含む(US 7,332,581)。
【0151】
改善又は減弱されたFcRへの結合を伴う、特定の抗体バリアントが記載されている(例、US 6,737,056;WO 2004/056312、及びShields, R.L. et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604を参照のこと)。
【0152】
特定の実施形態では、抗体バリアントは、ADCCを改善する1つ又は複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の位置298、333、及び/又は334(残基のEUナンバリング)での置換を伴うFc領域を含む。
【0153】
一部の実施形態では、変化した(即ち、改善又は減弱した)C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)をもたらす変化をFc領域中に作り、例えば、US 6,194,551、WO 99/51642、及びIdusogie, E.E. et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184に記載される通りである。
【0154】
半減期の増加及び胎児への母体IgGの移動に関与する新生児Fc受容体(FcRn)への結合の改善を伴う抗体(Guyer, R.L. et al., J. Immunol. 117 (1976) 587-593、及びKim, J.K. et al., J. Immunol. 24 (1994) 2429-2434)が、US 2005/0014934に記載されている。これらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する1つ又は複数の置換を伴うFc領域を含む。そのようなFcバリアントは、Fc領域残基238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、又は434の1つ又は複数に置換、例えば、Fc領域残基434の置換(US 7,371,826)を伴うものを含む。
【0155】
また、Fc領域バリアントの他の例に関するDuncan, A.R. and Winter, G., Nature 322 (1988) 738-740;US 5,648,260;US 5,624,821;及びWO 94/29351を参照のこと。
【0156】
d)システイン操作抗体バリアント
特定の実施形態では、抗体の1つ又は複数の残基がシステイン残基で置換されているシステイン操作抗体(例、「thioMAbs」)を作製することが望ましいであろう。特定の実施形態では、置換残基は、抗体の接近可能な部位で生じる。それらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基を、それにより、抗体の接近可能な部位に位置付け、抗体を、他の成分、例えば薬物成分又はリンカー-薬物成分などにコンジュゲートするために使用し、本明細書でさらに記載する通り、イムノコンジュゲートを作製してもよい。特定の実施形態では、以下の残基のいずれか1つ又は複数をシステインで置換してもよい:軽鎖のV205(Kabatナンバリング);重鎖のA118(EUナンバリング);及び重鎖Fc領域のS400(EUナンバリング)。システイン操作抗体を、例えば、US 7,521,541に記載される通りに生成してもよい。
【0157】
e)抗体誘導体
特定の実施形態では、本明細書で提供する抗体をさらに改変し、当技術分野において公知であり、容易に入手可能である追加の非タンパク質性成分を含んでもよい。抗体の誘導体化のために適切である成分は、水溶性ポリマーを含むが、それに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例は、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレン(propropylene)グリコールホモポリマー、プロリプロピレン(prolypropylene)オキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例、グリセロール)、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物を含むが、これらに限定しない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性のため、製造において利点を有しうる。ポリマーは、任意の分子量でありうる、分岐又は非分岐でありうる。抗体に付着したポリマーの数は変動しうるが、1を上回るポリマーが付着する場合、それらは同じ又は異なる分子でありうる。一般的に、誘導体化のために使用されるポリマーの数及び/又は型は、抗体誘導体が定義された条件などの下での治療において使用されるか否かを問わず、考察(改善される抗体の特定の特性又は機能を含むが、これに限定しない)に基づいて決定することができる。
【0158】
別の実施形態では、放射線への曝露により選択的に加熱されうる抗体及び非タンパク質性成分のコンジュゲートを提供する。一実施形態では、非タンパク質性部分はカーボンナノチューブである(Kam, N.W. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102 (2005) 11600-11605)。放射線は、任意の波長のものでありうるが、正常細胞に害を与えないが、抗体-非タンパク質性成分に近位である細胞が死滅される温度まで、非タンパク質性成分を加熱する波長を含むが、これに限定しない。
【0159】
B.組換え方法及び組成物
抗体は、例えば、US 4,816,567に記載される組換え方法及び組成物を使用して製造してもよい。一実施形態では、本明細書に記載する二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体をコードする単離核酸を提供する。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/又はVHを含むアミノ酸配列(例、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードしうる。さらなる実施形態では、そのような核酸を含む、1つ又は複数のベクター(例、発現ベクター)を提供する。さらなる実施形態では、そのような核酸を含む宿主細胞を提供する。そのような一実施形態では、宿主細胞は以下を含む(例、以下で形質転換されている):(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクター及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクター。一実施形態では、宿主細胞は、真核生物、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はリンパ系細胞(例、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施形態では、二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を作る方法を提供し、該方法は、上に提供する抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体の発現のために適切な条件下で培養し、抗体を宿主細胞(又は宿主細胞培養培地)から任意に回収することを含む。
【0160】
二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体の組換え製造のために、抗体をコードする核酸(例、上に記載する通り)を単離し、宿主細胞中でのさらなるクローニング及び/又は発現のために、1つ又は複数のベクター中に挿入する。そのような核酸は、従来の手順(例、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することが可能であるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによる)を使用して容易に単離及び配列決定されうる。
【0161】
抗体をコードするベクターのクローニング又は発現のための適切な宿主細胞は、本明細書に記載する原核細胞又は真核細胞を含む。例えば、抗体は、特に、グリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされない場合、細菌中で製造されうる。細菌における抗体フラグメント及びポリペプチドの発現については、例えば、US 5,648,237、US 5,789,199、及びUS 5,840,523を参照のこと(また、大腸菌における抗体フラグメントの発現を記載する、Charlton, K.A., In: Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2003), pp. 245-254を参考のこと)。発現後、抗体を、可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離してもよく、さらに精製することができる。
【0162】
原核生物に加えて、真核微生物(例えば糸状菌又は酵母菌など)が、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主であり、グリコシル化経路が「ヒト化」されている真菌株及び酵母菌株を含み、部分的又は完全ヒトグリコシル化パターンを伴う抗体の製造をもたらす。Gerngross, T.U., Nat. Biotech. 22 (2004) 1409-1414;及びLi, H. et al., Nat. Biotech. 24 (2006) 210-215を参照のこと。
【0163】
グリコシル化抗体の発現のための適切な宿主細胞は、また、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)に由来する。無脊椎動物細胞の例は、植物細胞及び昆虫細胞を含む。特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と併せて使用されうる多数のバキュロウイルス株が同定されている。
【0164】
植物細胞培養物も宿主として利用することができる。例えば、US 5,959,177、US 6,040,498、US 6,420,548、US 7,125,978、及びUS 6,417,429を参照のこと(トランスジェニック植物において抗体を製造するためのPLANTIBODIES(商標)技術が記載されている)。
【0165】
脊椎動物細胞も宿主として使用してもよい。例えば、懸濁液中で成長するように適応されている哺乳動物細胞株が有用でありうる。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7);ヒト胚腎臓株(例えば、Graham, F.L., et al., J. Gen Virol. 36 (1977) 59-74において記載される293又は293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather, J.P., Biol. Reprod. 23 (1980) 243-252において記載されるTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);マウス乳房腫瘍(MMT 060562);TRI細胞(例えば、Mather, J.P., et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383 (1982) 44-68において記載されている);MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(DHFR-CHO細胞を含む)(Urlaub, G., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 (1980) 4216-4220);及び骨髄腫細胞株(例えばY0、NS0、及びSP2/0など)を含む。抗体製造のために適切な特定の哺乳動物宿主細胞株の概説については、例えば、Yazaki, P. and Wu, A.M., Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2004), pp. 255-268を参照のこと。
【0166】
C.診断及び検出のための方法及び組成物
特定の実施形態では、本明細書で提供する二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体のいずれかは、生物学的サンプル中のA-ベータの存在を検出するために有用である。本明細書で使用する用語「検出する」は、定量的又は定性的検出を包含する。特定の実施形態では、生物学的サンプルは細胞又は組織を含む。
【0167】
一実施形態では、診断又は検出の方法における使用のための二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を提供する。さらなる態様では、生物学的サンプル中のA-ベータの存在を検出する方法を提供する。特定の実施形態では、本方法は、A-ベータへの二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体の結合について許容する条件下で、生物学的サンプルを、本明細書に記載する二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体と接触させ、 二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体とA-ベータとの間に複合体が形成されるか否かを検出することを含む。そのような方法はインビトロ又はインビボの方法でありうる。
【0168】
特定の実施形態では、標識された二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を提供する。標識には、直接的に検出される標識又は成分(例えば、蛍光標識、発色団標識、電子密度標識、化学発光標識、及び放射性標識など)、並びに、例えば、酵素反応又は分子相互作用を通じて間接的に検出される酵素又はリガンドなどの成分が含まれるが、これらに限定しない。例示的な標識には、放射性同位元素32P、14C、125I、3H、及び131I、フルオロフォア、例えば希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ(例、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ(US 4,737,456))、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ(例、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、複素環オキシダーゼ、例えば過酸化水素を用いて色素前駆体(例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼ、又はマイクロペルオキシダーゼなど)を酸化する酵素と組み合わせたウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼなど、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定フリーラジカルなどが含まれるが、これらに限定しない。
【0169】
D.医薬製剤
本明細書に記載する二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体の医薬製剤は、所望の程度の純度を有するそのような抗体を、1つ又は複数の任意の医薬的に許容可能な担体と混合することにより、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製される(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed.) (1980))。医薬的に許容可能な担体は、一般的に、用いられる投与量及び濃度でレシピエントに非毒性であり、緩衝剤、例えばリン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸など;抗酸化剤(アスコルビン酸及びメチオニンを含む);保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなど;親水性ポリマー、例えばポリ(ビニルピロリドン)など;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンなど;単糖類、二糖類、及び他の糖質(グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む);キレート剤(例えばEDTAなど);糖(例えばスクロース、マンニトール、トレハロース、又はソルビトールなど);塩形成対イオン(例えばナトリウムなど);金属複合体(例、Znタンパク質複合体);及び/又は非イオン性界面活性剤(例えばポリエチレングリコール(PEG)など)を含むが、これらに限定しない。例示的な、医薬的に許容可能な担体は、本明細書において、さらに、間質薬物分散剤、例えば可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えばrhuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.)などを含む。特定の例示的なsHASEGP及び使用方法(rhuPH20を含む)が、US 2005/0260186及びUS 2006/0104968に記載されている。一態様では、sHASEGPは、1つ又は複数の追加のグリコサミノグリカナーゼ(例えばコンドロイチナーゼなど)と組み合わせる。
【0170】
例示的な、凍結乾燥された抗体製剤がUS 6,267,958に記載されている。水性抗体製剤は、US 6,171,586及びWO 2006/044908に記載されている製剤を含み、後者の製剤はヒスチジン-酢酸緩衝剤を含む。
【0171】
本明細書における製剤は、また、処置されている特定の適応症のために必要な1を上回る活性成分、好ましくは互いに悪影響を与えない相補的な活性を伴う活性成分を含みうる。そのような活性成分は、意図された目的のために効果的である量で、組み合わせで適切に存在する。
【0172】
活性成分は、例えば、コアセルベーション技術により、又は、界面重合により調製されたマイクロカプセル中、例えば、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)中又はマクロエマルジョン中の、それぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)に封入してもよい。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed.) (1980)に開示されている。
【0173】
持続放出調製物を調製してもよい。持続放出調製物の適切な例は、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリクスは成形品の形態(例、フィルム、又はマイクロカプセル)である。持続放出マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(US 3,773,919)、L-グルタミン酸及びγエチル-L-グルタミン酸のコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドで構成される注射可能なマイクロスフェア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸などを含むが、これらに限定しない。
【0174】
インビボ投与のために使用される製剤は、一般的に、無菌である。無菌性は、例えば、滅菌濾過膜を通じた濾過により容易に達成されうる。一実施形態では、製剤は等張性である。
【0175】
E.治療法及び組成物
本明細書で提供する二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体のいずれかを、治療方法において使用してもよい。
【0176】
一態様では、医薬として使用するための二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を提供する。さらなる態様では、アミロイド形成及び/又はアミロイド斑形成に関連する疾患の予防及び/又は処置における使用のための二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を提供する。特定の実施形態では、治療方法における使用のための二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を提供する。特定の実施形態では、有効量の二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を個体に投与することを含む、アミロイド形成及び/又はアミロイド斑形成に関連する疾患を有する個体を処置する方法における使用のための二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を提供する。そのような一実施形態では、本方法は、以下に列挙するような少なくとも1つの追加の治療剤又は抗pTau抗体もしくは抗アルファ-シヌクレイン抗体の有効量を個体に投与することをさらに含む。さらなる実施形態では、本明細書において、斑の形成を阻害する及び/又はβアミロイド斑を分解する際での使用のための二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を提供する。特定の実施形態では、斑の形成を阻害し、及び/又はβアミロイド斑を分解させるために二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を個体に投与することを含む、個体における斑の形成を阻害する、及び/又はβアミロイド斑を分解する方法での使用のための二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を提供する。上記の実施形態のいずれかに従った「個体」は、好ましくはヒトである。
【0177】
さらなる態様では、本明細書において、医薬の製造又は調製における二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体の使用を提供する。一実施形態では、医薬は、アミロイド形成及び/又はアミロイド斑形成に関連する疾患の処置のためである。さらなる実施形態では、医薬は、アミロイド形成及び/又はアミロイド斑形成に関連する疾患を有する個体に有効量の医薬を投与することを含む、アミロイド形成及び/又はアミロイド斑形成に関連する疾患を処置する方法での使用のためである。そのような一実施形態では、本方法は、以下に列挙するような少なくとも1つの追加の治療剤又は抗pTau抗体もしくは抗アルファシヌクレイン抗体の有効量を個体に投与することをさらに含む。さらなる実施形態では、医薬は、斑の形成の阻害及び/又はβアミロイド斑の分解のためである。さらなる実施形態では、医薬は、斑の形成を阻害し、及び/又はβアミロイド斑を分解させるために有効量の医薬を個体に投与することを含む、個体において斑の形成を阻害する、及び/又はβアミロイド斑の分解の方法での使用のためである。上記の実施形態のいずれかに従った「個体」は、ヒトであってもよい。
【0178】
さらなる態様では、本明細書において、アミロイド形成及び/又はアミロイド斑形成に関連する疾患を処置するための方法を提供する。一実施形態では、この方法は、アミロイド形成及び/又はアミロイド斑形成に関連する疾患を有する個体に、有効量の二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を投与することを含む。そのような一実施形態において、この方法は、少なくとも1つの追加の治療剤(例、下に記載する通り)又は抗pTau抗体もしくは抗α-シヌクレイン抗体の有効量を個体に投与することをさらに含む。上記の実施形態のいずれかに従った「個体」は、ヒトでありうる。
【0179】
さらなる態様では、本明細書において、個体における斑の形成を阻害する、及び/又はβアミロイド斑を分解するための方法を提供する。一実施形態では、この方法は、斑の形成を阻害する、及び/又はβアミロイド斑を分解するために有効量の二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体を個体に投与することを含む。一実施形態では、「個体」はヒトである。
【0180】
さらなる態様では、本明細書において、例えば上記の治療方法のいずれかでの使用のための、本明細書で提供する二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体のいずれかを含む医薬製剤を提供する。一実施形態では、医薬製剤は、本明細書で提供する抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体のいずれか及び医薬的に許容可能な担体を含む。別の実施形態では、医薬製剤は、本明細書で提供する二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体のいずれか、及び、例えば以下に示すような少なくとも1つの追加の治療剤、又は抗pTau抗体もしくは抗α-シヌクレイン 抗体を含む。
【0181】
本発明の抗体は、治療において単独で、又は他の薬剤と組み合わせてを使用することができる。例えば、本明細書で報告する抗体は、少なくとも1つの追加の治療剤と同時投与してもよい。特定の実施形態では、追加の治療剤は、本明細書で報告する二重特異性抗体を用いて処置されるのと同じ又は異なる神経学的障害を治療するために効果的な治療剤である。例示的な追加の治療剤は、上記の種々の神経学的薬物、コリンエステラーゼ阻害剤(例えばドネペジル、ガランタミン、ロバスチグミン、及びタクリンなど)、NMDA受容体拮抗薬(例えばメマンチンなど)、アミロイドベータペプチド凝集阻害剤、抗酸化剤、γセクレターゼ修飾因子、神経成長因子(NGF)模倣物又はNGF遺伝子治療剤、PPARγアゴニスト、HMS-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン)、アンパカイン、カルシウムチャネル遮断薬、GABA受容体拮抗薬、グリコーゲンシンターゼキナーゼ阻害剤、静脈内免疫グロブリン、ムスカリン受容体アゴニスト、ニクロチン受容体修飾因子、能動的又は受動的アミロイドベータペプチド免疫化、ホスホジエステラーゼ阻害剤、セロトニン受容体拮抗薬、及び抗アミロイドベータペプチド抗体を含むが、これらに限定しない。特定の実施形態では、少なくとも1つの追加の治療剤は、神経学的薬物の1つ又は複数の副作用を緩和するその能力について選択する。
【0182】
上記のような併用治療は、併用投与(2以上の治療剤が同一又は別々の製剤中に含まれる場合)及び別々の投与を包含し、その場合では、本明細書で報告する抗体の投与は、 追加の治療剤又は薬剤の投与に先立ち、同時に及び/又は続いて起こることができる。一実施形態では、二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリン受容体抗体の投与及び追加の治療剤の投与は、互いの約1ヶ月以内に、又は約1、2、もしくは3週間以内に、又は約1、2、3、4、5、もしくは6日間以内に起こる。本明細書で報告する抗体はまた、他の介入治療(例えば、限定しないが、放射線治療、行動治療、又は当技術分野で公知であり、処置もしくは予防される神経学的障害のために適当な他の治療など)と組み合わせて使用することもできる。
【0183】
本明細書で報告する抗体(及び任意の追加の治療剤)は、任意の適切な手段(非経口、肺内、及び鼻腔内、ならびに(局所処置が望ましい場合)病巣内投与を含む)により投与することができる。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与を含む。投薬は、投与が短期又は長期であるかに部分的に依存し、任意の適切な経路により、例えば、注射(例えば静脈内注射又は皮下注射など)によりうる。種々の投薬スケジュール(種々の時間点にわたる単一又は複数投与、ボーラス投与、及びパルス注入を含むが、これらに限定しない)を本明細書において熟慮する。
【0184】
本明細書で報告する抗体は、良好な医療行為と一致する様式において、製剤化、投薬、及び投与されうる。この文脈における考慮のための因子は、処置されている特定の障害、処置されている特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与のスケジュール、及び医療従事者に公知の他の因子を含む。抗体は、問題の障害を予防又は処置するために現在使用される1つ又は複数の薬剤を用いて製剤化する必要はないが、しかし、場合により、製剤化される。そのような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、障害又は処置の型、及び上で考察する他の因子に依存する。これらは、一般的に、本明細書に記載するのと同じ投与量で、及び投与経路で、又は本明細書に記載する投与量の約1~99%で、又は任意の投与量で、及び適当であると経験的/臨床的に決定された任意の経路により使用される。
【0185】
BBBを横切って融合構築物又は化合物を輸送する脂質ベースの方法には、BBBの血管内皮上の受容体に結合する一価結合実体に結合させた融合構築物又は化合物をリポソームにカプセル化すること、及び低密度リポタンパク質粒子(例、US 2004/0204354を参照のこと)又はアポリポタンパク質E(例、US 2004/0131692を参照のこと)中に一価結合実体をコーティングすること(例、US 2002/0025313を参照のこと)が含まれるが、これらに限定しない。
【0186】
疾患の予防又は処置のために、本明細書に報告する抗体の適当な投与量(単独で、あるいは、1つ又は複数の他の追加の治療剤との組み合わせにおいて使用した場合)は、処置される疾患の型、抗体の型、疾患の重症度及び経過(抗体が予防的又は治療的な目的のために投与されるか否かを問わず)、過去の治療、患者の臨床歴及び抗体への応答、ならびに主治医の判断に依存しうる。抗体は、1回又は一連の処置にわたり患者に適切に投与される。疾患の型及び重症度に依存して、抗体の約1μg/kg~15mg/kg(例、0.5mg/kg~10mg/kg)は、例えば、1つ又は複数の別々の投与による又は連続注入によるかを問わず、患者に投与するための初期候補投与量でありうる。典型的な1日投与量は、上に言及する因子に依存して、約1μg/kg~100mg/kg以上の範囲でありうる。数日間又はそれより長い反復投与のために、状態に依存し、処置は、一般的に、疾患症状の所望の抑制が生じるまで持続されうる。抗体の1つの例示的な投与量は、約0.05mg/kgから約10mg/kgの範囲にありうる。このように、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、又は10mg/kg(又はそれらの任意の組み合わせ)の1つ又は複数の用量を患者に投与してもよい。そのような用量は、間欠的に、例えば、1週間毎又は3週間毎に投与してもよい(例、患者が、抗体の約2から約20、又は、例えば、6用量を受けるようにする)。初回のより高い負荷用量、それに続く、1つ又は複数のより低い用量を投与してもよい。しかし、他の投与計画が有用でありうる。この治療の進行は、従来の技術及びアッセイにより簡単にモニターされる。
【0187】
上記の製剤又は治療方法のいずれも、二重特異性抗ヒトA-ベータ/ヒトトランスフェリンレセプター抗体の代わりに、又はそれに加えて、本明細書に報告するイムノコンジュゲートを使用して行ってもよいことが理解される。
【0188】
III.製造品
本明細書に報告する別の態様では、上に記載する障害の処置、予防、及び/又は診断のために有用な材料を含む製造品を提供する。製造品は、容器及び容器上の、又はそれに関連付けられるラベル又は添付文書を含む。適切な容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV用溶液バッグなどを含む。容器は、種々の材料(例えばガラス又はプラスチックなど)から形成されうる。容器は、それ自体で、あるいは、状態を処置、予防、及び/又は診断するために効果的な別の組成物と組み合わせた組成物を保持し、無菌アクセスポート(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針により貫通可能なストッパーを有するバイアルでありうる)を有しうる。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本明細書に報告する抗体である。ラベル又は添付文書は、組成物が、選ばれた状態を処置するために使用されることを示す。さらに、製造品は、(a)その中に組成物を含む第1の容器(組成物は、本発明の抗体を含む);及び(b)その中に組成物を含む第2の容器(組成物は、さらなる細胞傷害性剤又は、そうでなければ、治療的剤を含む)を含みうる。本実施形態における製造品は、組成物が、特定の状態を処置するために使用することができることを示す添付文書をさらに含みうる。あるいは、又は加えて、製造品は、医薬的に許容可能な緩衝液、例えば注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液などを含む第2(又は第3)の容器をさらに含みうる。それは、商業的に、及び使用者の見地から望ましい他の材料(他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含む)をさらに含みうる。
【0189】
上の製造品のいずれかが、本明細書に報告する二重特異性抗体の代わりに、又はそれに加えて、本発明のイムノコンジュゲートを含みうることが理解される。
【0190】
IV.実施例
以下は、本発明の方法及び組成物の例である。種々の他の実施形態が、上に提供する一般的な記載を前提として、実行されてもよいことが理解される。
【0191】
材料&一般的な方法
ヒト免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的な情報が、Kabat, E. A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991) に与えられている。抗体鎖のアミノ酸に、Kabat(Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991))に従ったナンバリングに従って番号を付けて指す。
【0192】
組換えDNA技術
標準的方法を使用し、Sambrook, J., et al., Molecular cloning: A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載される通りにDNAを操作した。分子生物学的試薬を、製造業者の指示に従って使用した。
【0193】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントを、化学合成により作ったオリゴヌクレオチドから調製した。唯一の制限エンドヌクレアーゼ切断部位に隣接する長い遺伝子セグメントを、PCR増幅を含む、オリゴヌクレオチドのアニーリング及びライゲーションにより組み立て、その後、示した制限部位を介してクローニングした。サブクローン化された遺伝子フラグメントのDNA配列を、DNAシークエンシングにより確認した。遺伝子合成フラグメントは、Geneart(ドイツ、レーゲンスブルク)での所与の仕様に従って順序付けた。
【0194】
DNA配列決定
DNA配列は、MediGenomix GmbH(ドイツ、マルティンス)又はSequiserve GmbH(ドイツ、ファーターシュテッテン)で実施した二本鎖シークエンシングにより決定した。
【0195】
DNA及びタンパク質配列分析ならびに配列データ管理
GCGの(Genetics Computer Group、ウィスコンシン州マジソン)ソフトウェアパッケージバージョン10.2及びInfomaxのVector NT1 Advance suite version 8.0を、配列作製、マッピング、分析、注釈、及び図示のために使用した。
【0196】
発現ベクター
記載する二重特異性抗体の発現のために、CMV-イントロンAプロモーターを伴う、もしくは伴わないcDNA組織化又はCMVプロモーターを伴うゲノム組織化のいずれかに基づく一過性発現(例、HEK293-Fにおける)のための発現プラスミドを適用した。
【0197】
抗体発現カセットの他に、ベクターは以下を含む:
- 大腸菌においてこのプラスミドの複製を可能にする複製起点、及び
- 大腸菌においてアンピシリン耐性を付与するβラクタマーゼ遺伝子。
【0198】
抗体遺伝子の転写単位は、以下のエレメントで構成された:
- 5’末端での固有の制限部位、
- ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサー及びプロモーター、
- cDNA組織化の場合におけるイントロンA配列、
- ヒト抗体遺伝子に由来する5’非翻訳領域、
- 免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
- cDNAとして、又はゲノムエクソン-イントロン組織化を伴う核酸をコードするそれぞれの抗体鎖、
- ポリアデニル化シグナル配列を伴う3’非翻訳領域、及び
- 3’末端での固有の制限部位。
【0199】
抗体鎖をコードする融合遺伝子を、PCR及び/又は遺伝子合成により生成し、公知の組換え方法及び一致した核酸セグメントの接続により(例、それぞれのベクター中の固有の制限部位を使用して)組み立てた。サブクローン化した核酸配列をDNAシークエンシングにより検証した。一過性トランスフェクションのために、より多量のプラスミドを、形質転換された大腸菌培養物(Nucleobond AX、Macherey-Nagel)からのプラスミド調製により調製した。
【0200】
全ての構築物について、ノブ・インツー・ホールヘテロ二量体化技術を、第1のCH3ドメイン中の典型的なノブ(T366W)置換及び第2のCH3ドメイン中の対応するホール置換(T366S、L368A、及びY407V)(ならびに導入された2つの追加の導入されたシステイン残基S354C/Y349’C)(上記のそれぞれの対応する重鎖(HC)配列中に含まれる)を使用した。
【0201】
細胞培養技術
Current Protocols in Cell Biology (2000), Bonifacino, J.S., Dasso, M., Harford, J.B., Lippincott-Schwartz, J. and Yamada, K.M. (eds.), John Wiley & Sons, Inc.において記載される標準的な細胞培養技術を使用する。
【0202】
HEK293-Fシステムにおける一過性トランスフェクション
二重特異性抗体を一過性発現により製造する。従って、製造業者の指示に従ってHEK293-Fシステム(Invitrogen)を使用し、それぞれのプラスミドでのトランスフェクションを行う。簡単には、振盪フラスコ中又は撹拌発酵槽中のいずれかで、無血清FreeStyle(商標)293発現培地(Invitrogen)中の懸濁液中で成長するHEK293-F細胞(Invitrogen社)を、それぞれの発現プラスミド及び293フェクチン(商標)又はフェクチン(Invitrogen)の混合物を用いてトランスフェクトした。2L振盪フラスコ(Corning)について、HEK293-F細胞を、600ml中に1*106個細胞/mLの密度で播種し、120rpm、8%CO2でインキュベートした。翌日、細胞を、A)600μgの全プラスミドDNA(1μg/mL)を含む20mLのOpti-MEM培地(Invitrogen)及びB)1.2mLの293フェクチン又はフェクチン(2μL/mL)を添加した20mlのOpti-MEM培地の約42mLの混合物を用いて、約1.5*106個細胞/mLの細胞密度でトランスフェクトした。グルコース消費量に従い、グルコース溶液を、発酵の経過の間に加えた。分泌された抗体を含む上清を、5~10日後に収集し、抗体を上清から直接的に精製した、又は上清を凍結及び保存した。
【0203】
タンパク質決定
精製抗体及び誘導体のタンパク質濃度を、Pace, et al., Protein Science 4 (1995) 2411-1423に従ってアミノ酸配列に基づいて算出したモル吸光係数を使用して、280nmでの光学密度(OD)を決定することにより決定した。
【0204】
上清中の抗体濃度の決定
細胞培養上清中の抗体及び誘導体の濃度を、プロテインAアガロース-ビーズ(Roche Diagnostics GmbH、ドイツ、マンハイム)を用いた免疫沈降により評価した。従って、60μLのプロテインAアガロースビーズをTBS-NP40(150mM NaCl及び1%Nonidet-P40を添加した50mMトリス緩衝液、pH7.5)中で3回洗浄した。その後、1~15mLの細胞培養上清を、TBS-NP40中で予め平衡化したプロテインAアガロースビーズに適用した。室温で1時間にわたるインキュベート後、ビーズを、Ultrafree-MCフィルターカラム(Amicon) 上で、0.5mLのTBS-NP40で1回、0.5mLの2×リン酸緩衝生理食塩水(2×PBS、Roche Diagnostics GmbH、ドイツ、マンハイム)で2回、及び0.5mLの100mM Na-クエン酸緩衝液(pH5.0)で簡単に4回洗浄した。結合抗体を、35μlのNuPAGE(登録商標)LDSサンプル緩衝液(Invitrogen)の添加により溶出させた。サンプルの半分を、それぞれNuPAGE(登録商標)サンプル還元剤と組み合わせるか、又は未還元のままにし、70℃で10分間にわたり加熱した。結果的に、5~30μlを4~12% NuPAGE(登録商標)Bis-Tris SDS-PAGEゲル(Invitrogen)に適用し(非還元SDS-PAGE用のMOPS緩衝液及び還元SDS-PAGE用のNuPAGE(登録商標)抗酸化泳動緩衝液添加物(Invitrogen)を伴うMES緩衝液を用いる)、クーマシーブルーで染色した。
【0205】
細胞培養上清中の抗体の濃度を、アフィニティーHPLCクロマトグラフィーにより定量的に測定した。簡単には、プロテインAに結合する抗体を含む細胞培養上清を、200mM KH2PO4、100mMクエン酸ナトリウム、pH7.4中のApplied Biosystems Poros A/20カラムに適用し、Agilent HPLC 1100システムで200mM NaCl、100mMクエン酸、pH2.5で溶出した。溶出した抗体を、UV吸光度及びピーク面積の積分により定量した。精製された標準IgG1抗体は標準としての役割を果たした。
【0206】
あるいは、細胞培養上清中の抗体及び誘導体の濃度を、Sandwich-IgG-ELISAにより測定した。簡単には、StreptaWell High Bind Streptavidin A-96ウェルマイクロタイタープレート(Roche Diagnostics GmbH、ドイツ、マンハイム)を、室温で1時間にわたり、あるいは4℃で一晩、0.1μg/mLで、100μL/ウェルのビオチン化抗ヒトIgG捕捉分子F(ab’)2 <h-Fcγ> BI(Dianova)とインキュベートし、その後、200μL/ウェルのPBS、0.05% Tween(PBST、Sigma)で3回洗浄した。その後、それぞれの抗体含有細胞培養上清のPBS(Sigma)中の100μL/ウェルの希釈系列をウェルに加えて、シェーカー上で、室温で1~2時間にわたりインキュベートした。ウェルを200μL/ウェルのPBSTで3回洗浄し、結合抗体を、検出抗体として0.1μg/mLで、100μlのF(ab’)2<hFcγ>POD(Dianova)とシェーカー上で1~2時間にわたり室温でインキュベートすることにより検出した。未結合の検出抗体を、200μL/ウェルのPBSTで3回洗浄することにより除去した。結合した検出抗体を、100μLのABTS/ウェルの添加、それに続くインキュベーションにより検出した。吸光度の測定を、Tecan Fluor Spectrometerで、測定波長405nm(参照波長492nm)で実施した。
【0207】
調製用抗体の精製
抗体を、標準的なプロトコールを参照し、濾過した細胞培養上清から精製した。簡単には、抗体をプロテインAセファロースカラム(GE healthcare)に適用し、PBSで洗浄した。抗体の溶出はpH2.8で達成し、それ続いて直ちに中和させた。凝集したタンパク質を、PBS中、又は150mM NaClを含む20mMヒスチジン緩衝液(pH6.0)中でのサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 200、GE Healthcare)により単量体抗体から分離した。単量体抗体画分をプールし、例えば、MILLIPORE Amicon Ultra(30 MWCO)遠心濃縮器を使用して濃縮し(要求される場合)、-20℃又は80℃で凍結保存した。サンプルの一部を、その後のタンパク質分析及び分析的特徴付け(SDS-PAGE、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、又は質量分析による)のために提供した。
【0208】
SDS-PAGE
NuPAGE(登録商標)Pre-Castゲルシステム(Invitrogen Corp.、USA)を製造業者の指示に従って使用した。特に、10% 又は4~12% NuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)Bis-TRIS Pre-Castゲル(pH 6.4)及びNuPAGE(登録商標)MES(還元ゲル、NuPAGE(登録商標)酸化防止剤泳動緩衝液添加剤を伴う)又はMOPS泳動緩衝液(非還元ゲル)を使用した。
【0209】
CE-SDS
純度及び抗体の完全性を、マイクロ流体Labchip技術(PerkinElmer、USA)を使用して、CE-SDSにより分析した。従って、5μLの抗体溶液を、製造者の指示に従ってHT Protein Express Reagent Kitを使用し、CE-SDS分析のために調製し、HT Protein Express Chipを使用したLabChip GXIIシステム上で分析した。データを、LabChip GX Softwareを使用して分析した。
【0210】
分析用サイズ排除クロマトグラフィー
抗体の凝集及びオリゴマー状態の決定のためのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、HPLCクロマトグラフィーにより実施した。簡単には、プロテインA精製抗体を、Dionex Ultimate(登録商標)システム(Thermo Fischer Scientific)での300mM NaCl、50mM KH2PO4/K2HPO4緩衝液(pH 7.5)中のTosoh TSKgel G3000SWカラム、又はDionex HPLCシステムでの2×PBS中のSuperdex 200カラム(GE Healthcare)に適用した。溶出した抗体を、UV吸光度及びピーク面積の積分により定量した。BioRad Gel Filtration Standard 151-1901が標準としての役割を果たした。
【0211】
質量分析
このセクションでは、その正確な組み立てに重点を置いた二重特異性抗体の特徴付けを記載する。予想された一次構造を、脱グリコシル化インタクト抗体のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)により、脱グリコシル化/限定LysC消化抗体の特別な場合において分析した。
【0212】
抗体を、1mg/mlのタンパク質濃度で、37℃で最大17時間にわたり、リン酸又はトリス緩衝液中で、NグリコシダーゼFで脱グリコシル化した。限定LysC(Roche Diagnostics GmbH、ドイツ、マンハイム)消化を、室温で120時間にわたり、又は37℃で40分間にわたり、トリス緩衝液(pH8)中の100μgの脱グリコシル化抗体でそれぞれ実施した。質量分析に先立ち、サンプルを、Sephadex G25カラム(GE Healthcare)でのHPLCを介して脱塩した。全質量を、TriVersa NanoMateソース(Advion)を備えたmaXis 4G UHR-QTOF MSシステム(Bruker Daltonik)でのESI-MSを介して決定した。
【0213】
化学分解試験
サンプルを3つの一定分量に分け、それぞれ20mMのHis/His* HCl、140mM NaCl、pH6.0中に、又はPBS中に再緩衝し、40℃(His/NaCl)又は37℃(PBS)で保存した。対照サンプルを-80℃で保存した。
【0214】
インキュベーション終了後、サンプルを相対活性濃度(BIAcore)、凝集(SEC)、及び断片化(キャピラリー電気泳動又はSDS-PAGE)について分析し、未処理対照と比較した。
【0215】
熱安定性
サンプルを、20mMのヒスチジン/塩化ヒスチジン、140mM NaCl、pH6.0中で1mg/mLの濃度で調製し、0.4μmフィルタープレートを通した遠心分離により光学384ウェルプレート中に移し、パラフィンオイルで覆った。流体力学半径を、DynaPro Plate Reader(Wyatt)での動的光散乱により繰り返し測定し、その間、サンプルを、0.05℃/分の速度で、25℃から80℃まで加熱した。
【0216】
あるいは、サンプルを10μLのマイクロキュベットアレイ中に移し、静的光散乱データならびに266nmのレーザーでの励起時の蛍光データをOptim1000機器(Avacta Inc.)で記録し、その間、それらを0.1℃/分の速度で25℃から90℃まで加熱した。
【0217】
凝集開始温度は、流体力学的半径(DLS)又は散乱光強度(Optim1000)が増加し始める温度として定義する。
【0218】
あるいは、サンプルを9μLマルチキュベットアレイに移した。マルチキュベットアレイをOptimue1000機器(Avacta Analytical Inc.)で、0.1℃/分の一定速度で35℃から90℃に加熱した。この機器により、約0.5℃毎のデータポイントで266nmレーザーの散乱光の強度が連続的に記録される。光散乱強度を温度に対してプロットした。凝集開始温度(T_agg)は、散乱光強度が増加し始める温度として定義する。
【0219】
融解温度は、蛍光強度対波長グラフにおける変曲点として定義する。
【0220】
実施例1
発現及び精製
二重特異性抗体は、一般的な材料及び方法のセクションにおいて上に記載した通りに製造した。
【0221】
二重特異性抗体は、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせにより上清から精製した。得られた産物を、質量分析及び分析特性、例えばCE-SDSによる純度、単量体含量、及び安定性などにより、同一性について特徴付けした。
【0222】
予想される一次構造は、脱グリコシル化インタクト抗体及び脱グリコシル化/プラスミン消化又は、代わりに脱グリコシル化/限定LysC消化抗体のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)により、一般的方法のセクションに記載する通りに分析した。
【0223】
追加の分析方法(例、熱安定性、質量分析、及び機能評価)は、プロテインA及びSEC精製後だけ適用した。
【0224】
実施例2
ELISAによるインビトロでのAβ1-40線維への結合の決定
原線維Aβへの二重特異性抗体の結合をELISAアッセイにより測定する。簡単には、Aβ(1-40)をMaxisorbプレート上にPBS中7μg/mLで、37℃で3日間にわたりコーティングして原線維Aベータを産生し、次に室温で3時間にわたり乾燥させる。プレートをPBS(ブロッキング緩衝液)中の1% CroteinC及び0.1%RSAで、室温で1時間にわたりブロッキングし、次に洗浄緩衝液で1回洗浄する。二重特異性抗体又は対照をブロッキング緩衝液中100nMまでの濃度で加えて、4℃で一晩インキュベートする。4回の洗浄工程後、構築物を、ブロッキング緩衝液(1RT)中の1:10,000希釈した抗ヒトIgG-HRP(Jackson Immunoresearch)を加えて、続いてTMB(Sigma)中で6回洗浄し、インキュベートすることにより検出する。1N HClで発色を停止した後、吸光度を450nmで読み取る。
【0225】
実施例3
インビトロでのトランスフェリン受容体への結合の決定
マウストランスフェリン受容体への二重特異性抗体の結合を、マウスX63.AG8-563骨髄腫細胞に関するFACS分析によりテストする。Aβ抗体がAg8細胞に非特異的に結合する特定の傾向を示す場合、20倍過剰の抗マウスTfR抗体との同時インキュベーションにより特異的結合を定量することができる。細胞を遠心分離により収集し、PBSで1回洗浄し、5×104個細胞を、100μLのRPMI/10%FCS中の200nM抗マウスTfR抗体を氷上で1.5時間にわたり伴う又は伴わないポリペプチド融合物の1.5pM~10nM希釈系列とインキュベートする。RPMI/10%FCSで2回洗浄後、細胞を、RPMI/19%FCS中1:600の希釈率でフィコエリトリン(Jackson Immunoresearch)に結合したヤギ抗ヒトIgGと氷上で1.5時間にわたりインキュベートする。細胞を再度洗浄し、RPMI/10%FCS中に再懸濁し、フィコエリトリン蛍光をFACS-Array機器(Becton-Dickinson)で測定する。
【0226】
実施例4
ヒトTfR-抗体相互作用についての表面プラズモン共鳴ベースの結合アッセイ
結合実験は、抗ヒトFab抗体(GE Healthcare、cat.no 28-9583-25)で前処理したC1センサーチップ(GE Healthcare、cat.no. BR1005-35)を備えたBIAcore B 4000(GE Healthcare)で、ベンダーのマニュアルに従った標準的アミンカップリング化学手順を使用して行った。
【0227】
動態測定のために、サンプル抗体を、25℃でリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、0.05%Tween 20中で60秒間の接触時間及び10μL/分の流速を適用して固定化した。組換えHis6タグ化ヒトトランスフェリン受容体(R&D systems、cat.no 2474-TR-050)を増加濃度で適用し、シグナルをその時間にわたってモニターした。会合時間の平均時間間隔150秒及び30μL/分の流速での解離時間600秒を記録した。データを、1:1結合モデル(ラングミュア等温線)を使用して適合させた。
【0228】
実施例5
本明細書に報告する二重特異性抗体を使用した間接的免疫蛍光によるアルツハイマー病患者の脳切片からの本来のヒトβ-アミロイド斑の染色
二重特異性抗体は、間接免疫蛍光を使用した免疫組織化学分析により天然ヒトβアミロイド斑を染色する能力についてテストすることができる。真のヒトβアミロイド斑の特異的で高感度な染色を実証することができる。アルツハイマー病について陽性に診断された患者からの死後に得られた側頭皮質からの未固定組織のクライオスタット切片を、間接免疫蛍光により標識する。2段階インキュベーションを使用して結合二重特異性抗体を検出し、これはAlexa 555色素(Molecular Probes)にコンジュゲートしたアフィニティー精製したヤギ抗ヒト(GAH555)IgG(H + L)により明らかにされる。対照には無関係のヒトIgG1抗体(Sigma)及び二次抗体だけが含まれ、これらは全て陰性の結果を与えるはずである。
【0229】
実施例6
アルツハイマー病のマウスモデルにおいて本明細書に報告する二重特異性抗体によるインビボβ-アミロイド斑の賦活
二重特異性抗体を、インビボでβアミロイド斑を免疫賦活するその能力について、AD関連アミロイドーシスのマウスモデルであるAPP/PS2二重トランスジェニックマウス(Richards, J. Neuroscience, 23 (2003) 8989-9003)においてテストすることができる。これにより、脳浸透の程度及びアミロイドβ斑への結合の評価が可能になった。融合ポリペプチドは、ネイキッドの抗Aβモノクローナル抗体と比較して異なる用量で投与することができ、6日後に動物をリン酸緩衝生理食塩水で灌流し、脳をドライアイスで凍結し、凍結切片作製のために調製する。
【0230】
βアミロイド斑に結合した抗体の存在は、15μg/mLの濃度で、室温で1時間にわたりAlexa555色素(GAH555)にコンジュゲートしたヤギ抗ヒトIgG(H + L)(Molecular Probes)を用いた単標識間接免疫蛍光法により、未固定凍結切片を使用して評価することができる。アミロイド斑についての対比染色は、室温で1時間にわたり、0.5μg/mLの濃度でAlexa 488にコンジュゲートしたAβに対するマウスモノクローナル抗体BAP-2とのインキュベーションにより行うことができる。スライドを蛍光マウント媒質(S3023 Dako)で包埋し、イメージングは共焦点レーザー顕微鏡により行う。
【0231】
前述の発明は、理解を明確にする目的のために、例示及び実施例により詳細に記載してきたが、その記載及び実施例を、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。本明細書で引用する全ての特許及び科学文献の開示を、参照により、その全体において明確に組み入れる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-08-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)重鎖及び軽鎖の対の各々により形成される結合部位が、ヒトA-ベータに特異的に結合する、抗体軽鎖及び抗体重鎖の各々の2対を含む、1つの抗体、及び
b)1つの追加のFabフラグメントであって、結合部位がヒトトランスフェリン受容体に特異的に結合する、1つの追加のFabフラグメント、
を含む、ヒトA-ベータ及びヒトトランスフェリン受容体を結合する二重特異性抗体をコードする核酸であって、
二重特異性抗体は、
配列番号01~03及び配列番号10、又は
配列番号01~04、又は
配列番号06~09、又は
配列番号11~13、又は
配列番号14~17
を含む、核酸。
【請求項2】
追加のFabフラグメントが、ペプチドリンカーにより重鎖のC末端に融合されている請求項1記載の核酸。
【請求項3】
a)追加のFabフラグメントに融合された重鎖が、C末端重鎖アミノ酸残基としてトリペプチドLSPを有し、そのプロリンは、ペプチド結合を介して、追加のFabフラグメントの又はペプチドリンカーの第1のアミノ酸残基に直接的に融合されており、及び
b)追加のFabフラグメントに融合されていない重鎖が、C末端重鎖アミノ酸残基としてトリペプチドLSP、又はSPG、又はPGKを有する、請求項1又は2記載の核酸。
【請求項4】
抗体が、モノクローナルである、請求項1~3のいずれか一項記載の核酸。
【請求項5】
ヒトA-ベータ結合部位が、配列番号18中のVH配列(その配列の翻訳後修飾を含む)及び配列番号19中のVL配列(その配列の翻訳後修飾を含む)を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の核酸。
【請求項6】
ヒトトランスフェリン受容体結合部位が、配列番号20中のVH配列(その配列の翻訳後修飾を含む)及び配列番号21中のVL配列(その配列の翻訳後修飾を含む)を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の核酸。
【請求項7】
核酸が、単離された核酸である、請求項1~6のいずれか一項記載の核酸。
【請求項8】
核酸が、抗体重鎖及び軽鎖をコードする1つ又は複数の核酸分子である、請求項1~7のいずれか一項記載の核酸。
【請求項9】
核酸が、単一のベクター又は別々のベクター中にある、請求項1~8のいずれか一項記載の核酸。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項記載の核酸を含む、細胞。
【請求項11】
細胞が、宿主細胞である、請求項10記載の細胞。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項記載の核酸が、細胞中の1つ又は複数の位置に存在する、請求項10又は11記載の細胞。
【請求項13】
細胞が、CHO細胞である、請求項10~12のいずれか一項記載の細胞。
【請求項14】
以下の工程:
a)二重特異性抗体が産生されるように、二重特異性抗体をコードする1つ又は複数の核酸を含む細胞を培養すること、及び
b)細胞又は培養培地から二重特異性抗体を回収し、それにより二重特異性抗体を産生すること
を含み、
ここで、二重特異性抗体は、ヒトA-ベータ及びヒトトランスフェリン受容体に結合し、
二重特異性抗体は、
重鎖及び軽鎖の対の各々により形成される結合部位が、ヒトA-ベータに特異的に結合する、抗体軽鎖及び抗体重鎖の各々の2対を含む、1つの抗体、及び
1つの追加のFabフラグメントであって、結合部位が、ヒトトランスフェリン受容体に特異的に結合する、1つの追加のFabフラグメント
を含み、
該二重特異性抗体は、
配列番号01~04、又は
配列番号01~03及び配列番号10、又は
配列番号06~09、又は
配列番号11~13、又は
配列番号14~17
を含む、
二重特異性抗体の製造方法。
【請求項15】
細胞が、CHO細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
細胞が、請求項10~13のいずれか一項記載の細胞である、請求項14~15のいずれか一項記載の方法。
【外国語明細書】