(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160262
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】抗CD147抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20241106BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241106BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241106BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241106BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241106BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20241106BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20241106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241106BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P35/00
A61P35/02
A61K47/64
A61K39/395 Y
A61K39/395 T
A61K45/00
A61P43/00 121
C07K16/30
【審査請求】有
【請求項の数】49
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024122924
(22)【出願日】2024-07-30
(62)【分割の表示】P 2023072046の分割
【原出願日】2018-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2017145701
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100167678
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 直浩
(72)【発明者】
【氏名】福地 圭介
(72)【発明者】
【氏名】七井 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】天野 正人
(72)【発明者】
【氏名】米田 耕三
(72)【発明者】
【氏名】十時 悠亮
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌司
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、優れた抗腫瘍活性を示しかつ安全性に優れた新規抗CD147
抗体を提供することである。別の本発明の課題は、このような抗体を含む医薬品を提供す
ることである。別の本発明の課題は、当該抗体又は医薬品を用いた腫瘍の治療方法等を提
供することである。
【解決手段】本発明により、CD147を活性化し、高い抗腫瘍効果を示すCD147特
異的抗体が提供される。本発明により、エフェクター機能に依存せずに高い抗腫瘍効果を
示す抗CD147抗体が提供される。本発明によりこのような抗CD147抗体を含む医
薬組成物が提供される。本発明によりこのような抗CD147抗体および/または医薬組
成物を用いた腫瘍の治療方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、
重鎖配列が、CDRH1、CDRH2及びCDRH3を有する可変領域を含み、前記CDRH1は配列番号75に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH2は配列番号76に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH3は、配列番号77に示されるアミノ酸配列からなること;及び
軽鎖配列が、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する可変領域を含み、前記CDRL1は配列番号72に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL2は配列番号73に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL3は、配列番号74に示されるアミノ酸配列からなること;
を特徴とする、前記ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項2】
CD147を介したシグナル伝達を活性化する、請求項1に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項3】
配列番号71に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号69に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体と、ヒトCD147への結合に対し競合することを特徴とする、請求項1に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項4】
配列番号71に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号69に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体が結合するエピトープに結合することを特徴とする、請求項1に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項5】
ADCC活性が低下又は欠失した、請求項1~4のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項6】
CDC活性が低下又は欠失した、請求項1~5のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項7】
ADCP活性が低下又は欠失した、請求項1~6のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項8】
配列番号3の106番目のアルギニン(Arg)から165番目のグリシン(Gly)の残基を含むエピトープに結合する、請求項1~7のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項9】
配列番号3に記載のアミノ酸配列中の、106番目のアルギニン(Arg)、108番目のリシン(Lys)、109番目のアラニン(Ala)、110番目のバリン(Val)、127番目のリシン(Lys)、128番目のセリン(Ser)、129番目のグルタミン酸(Glu)、130番目のセリン(Ser)、131番目のバリン(Val)、132番目のプロリン(Pro)、133番目のプロリン(Pro)、134番目のバリン(Val)、164番目のグルタミン(Gln)及び165番目のグリシン(Gly)の各残基を含むエピトープに結合する、請求項1~8のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項10】
Fab、F(ab’)2、Fab’及びFvからなる群から選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体の抗原結合断片。
【請求項11】
scFvであることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体の抗原結合断片。
【請求項12】
キメラ抗体であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項13】
ヒ卜化されていることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項14】
重鎖がヒ卜免疫グロブリンG1重鎖、ヒ卜免疫グロブリンG2重鎖又はヒ卜免疫グロブリンG4重鎖の定常領域を含み、軽鎖がヒ卜免疫グロブリンκ軽鎖の定常領域を含む、請求項1~10、12及び13のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項15】
重鎖がヒ卜免疫グロブリンG4重鎖の定常領域を含む、請求項14に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項16】
ヒ卜免疫グロブリンG4重鎖の定常領域において、EUインデックスにより示される228番目のセリン(Ser)がプロリン(Pro)により置換された、請求項15に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項17】
ヒ卜免疫グロブリンG4重鎖の定常領域において、EUインデックスにより示される234番目のフェニルアラニン(Phe)がアラニン(Ala)へ置換され、235番目のロイシン(Leu)がアラニン(Ala)に置換されている、請求項15に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項18】
ヒ卜免疫グロブリンG4重鎖の定常領域において、EUインデックスにより示される228番目のセリン(Ser)がプロリン(Pro)により置換され、234番目のフェニルアラニン(Phe)がアラニン(Ala)へ置換され、235番目のロイシン(Leu)がアラニン(Ala)に置換されている、請求項15に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項19】
重鎖がヒ卜免疫グロブリンG2重鎖の定常領域を含む、請求項14に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項20】
以下の(c)及び(d)を有することを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(c)以下の(c1)~(c4)からなる群から選択されるいずれか1に記載の重鎖可変領域:
(c1)配列番号135に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域;
(c2)配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域;
(c3)(c1)又は(c2)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(c4)(c1)~(c3)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、並びに、
(d)以下の(d1)~(d5)からなる群から選択されるいずれか1に記載の軽鎖可変領域:
(d1)配列番号137に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域;
(d2)配列番号149に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域;
(d3)配列番号151に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域;
(d4)(d1)~(d3)のいずれか1に記載の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(d5)(d1)~(d4)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
【請求項21】
配列番号135に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域、及び、配列番号137に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含むことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項22】
配列番号135に示されるアミノ酸配列の20~463番目のアミノ酸残基からなる重鎖、及び、配列番号137に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなる軽鎖を含むことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項23】
重鎖のカルボキシル末端において1つ又は2つのアミノ酸が欠失している、請求項22に記載のヒトCD147抗体。
【請求項24】
配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域、及び、配列番号149に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含むことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項25】
配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~463番目のアミノ酸残基からなる重鎖、及び、配列番号149に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなる軽鎖を含むことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項26】
重鎖のカルボキシル末端において1つ又は2つのアミノ酸が欠失している、請求項25に記載のヒトCD147抗体。
【請求項27】
配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域、及び、配列番号151に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含むことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項28】
配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~463番目のアミノ酸残基からなる重鎖、及び、配列番号151に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなる軽鎖を含むことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項29】
重鎖のカルボキシル末端において1つ又は2つのアミノ酸が欠失している、請求項28に記載のヒトCD147抗体。
【請求項30】
ADCC活性が低下又は欠失した、請求項20~29のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項31】
CDC活性が低下又は欠失した、請求項20~30のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項32】
ADCP活性が低下又は欠失した、請求項20~31のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項33】
CD147を介したシグナル伝達の活性化が、p38MAPKの活性化及び/又はSMAD4の活性化である、請求項2及び5~19のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項34】
p38MAPKの活性化及び/又はSMAD4の活性化が、p38MAPKの発現量の増加、p38MAPKのリン酸化、HSP27のリン酸化、CXCL8発現量の増加、rhoB発現量の増加、KLF5 mRNAの低下又はKLF5蛋白質発現量の低下である、請求項33に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項35】
請求項1~34のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片と他の薬物がコンジュゲートした、抗体薬物複合体。
【請求項36】
請求項1~34のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体の抗原結合断片と、CD147以外の抗原に結合する抗原結合断片を含む、バイスペシフィック抗体。
【請求項37】
請求項1~36のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体、該抗体の抗原結合断片、抗体薬物複合体又はバイスペシフィック抗体の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項38】
抗腫瘍剤である、請求項37に記載の医薬組成物。
【請求項39】
腫瘍が、CD147を発現する腫瘍である、請求項38に記載の医薬組成物。
【請求項40】
腫瘍が、膵臓癌、肝癌、胃癌、大腸癌、腎癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、肺癌、リンパ腫、甲状腺癌、皮膚癌、頭頸部癌、肉腫、前立腺癌、膀胱癌、脳腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、白血病、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、悪性リンパ腫、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫又はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である、請求項38又は39に記載の医薬組成物。
【請求項41】
腫瘍が、膵臓癌、肝癌、胃癌、大腸癌、腎癌、白血病、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、悪性リンパ腫、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫又はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である、請求項38~40のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項42】
腫瘍がSMAD4陽性の腫瘍又はKLF5の発現が低下又は欠失した腫瘍である、請求項38~41のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項43】
さらに別の抗腫瘍剤を含有する、請求項37~42のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項44】
他の抗腫瘍剤と同じ製剤の中に封入することによって同時に投与される、又は他の抗腫瘍剤と別の製剤に封入して同時に若しくは相前後して別々に投与される、請求項37~42のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項45】
請求項1~34のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片をコードするポリヌクレオチド。
【請求項46】
配列番号75に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号76に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号77に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3をコードするポリヌクレオチド、並びに、配列番号72に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号73に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号74に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項45に記載のポリヌクレオチド。
【請求項47】
請求項45もしくは46に記載のポリヌクレオチドを含有する発現ベクター。
【請求項48】
請求項47に記載の発現ベクターにより形質転換された宿主細胞。
【請求項49】
請求項48に記載の宿主細胞を培養し、培養産物から目的の抗体又は該抗体の抗原結合断片を採取する工程を含む、請求項1~34のいずれか1項に記載のヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗腫瘍効果を示す抗CD147抗体、該抗CD147抗体の製造方法
及び該抗CD147抗体を含む抗腫瘍剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
癌治療法、治療薬の進展によって、不治の病とされてきた癌が、治療可能であり、根治
することがわかってきた。特に優れた薬物安定性と特異性を示す抗体医薬として開発され
たCTLA4抗体、PD1抗体は、T細胞をはじめとする免疫細胞の活性化によって、メ
ラノーマや一部の固形癌に高い奏功率、場合によっては治癒をもたらし、癌患者にとって
の福音となっている。これらの治療薬が、難治性の固形癌の多くを対象としての治療が試
みられているが、膵臓癌や肝臓癌等では、大部分の癌が薬剤に感受性を示さず、手術によ
る摘出や従来の抗癌剤を基本とした治療でも高率に再発が認められ、切に根治をもたらす
治療法、治療薬が求められている。
【0003】
CD147は、イムノグロブリン様ドメインを2~3有する1回膜貫通蛋白質であり、
CD147同士の相互作用、CD44、Integrinファミリー分子、CD98、V
EGFR、CypA/B、MCT1/3/4といった増殖、浸潤、炎症に関与する細胞外
や細胞膜表面の分子と相互作用することで、下流シグナル関連分子、FAK、MEK、E
rk、JAK/STAT、AKT、MAPKファミリー分子を活性化させ、MMPをはじ
めとするプロテアーゼ産生、癌の増殖、転移、浸潤を促すことが知られている。また前出
の肝臓癌や膵臓癌の患者において、CD147の発現が高いと生存期間が短く予後不良と
なることが報告されており、癌の治療標的分子の一つとして考えられている。
【0004】
CD147を標的とした抗体としては、ABX-CBL、Licartinが臨床で実
際にヒトに投与された。ABX-CBLは、CD147とシクロフィリンAとの結合を阻
害し、T細胞の活性を抑制するだけでなく、血中の補体依存的にCD147陽性のT細胞
をはじめとする正常細胞に対し殺細胞活性を示す。GVHDを対象疾患として臨床試験が
進められたが、薬効が不十分であり、重篤な筋肉の痛みが観察され、薬としての承認には
至っていない(特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
Licartinは、HAb18抗体のFab’2部分に放射性同位元素iodine
I 131を付加した生物製剤であり、中国で肝臓癌を適応癌種として、承認されてい
る(非特許文献2、非特許文献3)。Licartinは、免疫細胞や補体を活性化させ
る抗体のFc部分を欠いており、免疫介在性の毒性は報告がないが、臨床での肝臓癌を根
治したという報告はない。
【0006】
また、他のCD147を標的とした抗体としては、血管新生、VEGF産生マトリック
スメタロプロテアーゼ等のCD147に関連する生物活性を遮断する、抗CD147モノ
クローナル抗体(特許文献2)、T細胞の活性化を阻害する抗CD147モノクローナル
抗体(非特許文献4)、及びADCC活性及びCDC活性を有することを特徴とするCD
147分子に特異的に結合する抗体(特許文献3)が知られている。しかし、エフェクタ
ー機能を有さずかつ抗腫瘍効果を示すCD147抗体は知られていない。また、CD14
7を介した細胞シグナル伝達系の活性化と抗腫瘍効果の関連については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO1999/045031
【特許文献2】WO2010/036460
【特許文献3】WO2017/061602
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Deeg H,et al.,J.Blood.,2052-2058,2001
【非特許文献2】Chen Z,et al.,Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys.,435-444,2006
【非特許文献3】Xu J,et al.,Hepatology,269-276,2007
【非特許文献4】Koch C,et al.,International Immunology,777-786,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、新規な薬理作用を有し、安全性に優れ、かつ、高い抗腫瘍効果を有す
る新規抗CD147抗体、該抗体を含む医薬品、及び、当該抗体又は医薬品を用いた腫瘍
の治療方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討し、CD147を介した関連シグナ
ル分子の活性化が抗腫瘍効果に関連することを初めて見出した。そして、本発明者らは、
CD147を活性化し、高い抗腫瘍効果を示すCD147特異的抗体の取得に成功した。
本発明の抗体は、エフェクター機能に依存せずに高い抗腫瘍効果を示すという特徴を有す
る。また、これまでにエフェクター機能に依存して抗腫瘍効果を示す抗体は報告されてい
るが、本発明の抗体は、T細胞及びPBMCに対して作用せず、かつ、エフェクター機能
にも依存せずに高い抗腫瘍効果を示すという特徴を有し、医薬品としての安全性が期待さ
れる優れた抗体である。本発明の抗体は、肝臓癌細胞において、肝臓癌の標準治療薬のう
ちの1つとして使用されるソラフェニブよりも顕著に強い薬効を示す。本発明の抗体は、
膵臓癌細胞において、膵臓癌の標準治療薬のうちの1つとして使用されるゲムシタビンよ
りも顕著に強い薬効を示す。また、本発明の抗体は、慢性骨髄性白血病細胞において、慢
性骨髄性白血病の標準治療薬のうちの1つとして使用されるイマチニブよりも顕著に強い
薬効を示す。本発明らは、本発明のCD147抗体が、癌細胞に対しp38MAPKおよ
びSMADシグナル伝達系を活性化することを見出した。また、本発明者らは、本発明の
CD147抗体が、SMAD4陽性細胞において優れた抗腫瘍効果を示すことを見出した
。
【0011】
本願発明は以下の発明を包含する。
[1]
以下の(A)~(F)からなる群から選択される少なくともいずれか1つの抗体と、ヒ
トCD147への結合に対し競合し、かつ、CD147を介したシグナル伝達を活性化す
ることを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(A)配列番号71に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号69に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、
(B)配列番号51に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号49に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、
(C)配列番号61に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号59に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、
(D)配列番号81に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号79に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、
(E)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号8に示
されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、及び
(F)配列番号20に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号18に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体。
[2]
以下の(A)~(F)からなる群から選択される少なくともいずれか1つの抗体が結合
するエピトープに結合し、かつ、CD147を介したシグナル伝達を活性化することを特
徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(A)配列番号71に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号69に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、
(B)配列番号51に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号49に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、
(C)配列番号61に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号59に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、
(D)配列番号81に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号79に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、
(E)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号8に示
されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体、及び
(F)配列番号20に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号18に
示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体。
[3]
ADCC活性が低下又は欠失した、[1]又は[2]に記載のヒトCD147抗体又は
該抗体の抗原結合断片。
[4]
CDC活性が低下又は欠失した、[1]~[3]のいずれか1項に記載のヒトCD14
7抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[5]
ADCP活性が低下又は欠失した、[1]~[4]のいずれか1項に記載のヒトCD1
47抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0012】
[6]
配列番号3の106番目のアルギニン(Arg)から165番目のグリシン(Gly)の
残基を含むエピトープに結合する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の抗体又は該抗
体の抗原結合断片。
[7]
配列番号3に記載のアミノ酸配列中の、106番目のアルギニン(Arg)、108番
目のリシン(Lys)、109番目のアラニン(Ala)、110番目のバリン(Val
)、127番目のリシン(Lys)、128番目のセリン(Ser)、129番目のグル
タミン酸(Glu)、130番目のセリン(Ser)、131番目のバリン(Val)、
132番目のプロリン(Pro)、133番目のプロリン(Pro)、134番目のバリ
ン(Val)、164番目のグルタミン(Gln)及び165番目のグリシン(Gly)
の各残基を含むエピトープに結合する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の抗体又は
該抗体の抗原結合断片。
[8]
重鎖配列が、CDRH1、CDRH2及びCDRH3を有する可変領域を含み、前記C
DRH1は配列番号75に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH2は配列番号7
6に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH3は、配列番号77に示されるアミノ
酸配列からなること;及び
軽鎖配列がCDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する可変領域を含み、前記CDR
L1は配列番号72に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL2は配列番号73に
示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL3は、配列番号74に示されるアミノ酸配
列からなること;
を特徴とする、[1]~[7]のいずれか1項に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[9]
配列番号143に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号143の配列において1又は数
個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含むエピトープに結合する、[
1]~[5]のいずれか1項に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[10]
重鎖配列が、CDRH1、CDRH2及びCDRH3を有する可変領域を含み、前記C
DRH1は配列番号55に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH2は配列番号5
6に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH3は、配列番号57に示されるアミノ
酸配列からなること;及び
軽鎖配列がCDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する可変領域を含み、前記CDR
L1は配列番号52に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL2は配列番号53に
示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL3は、配列番号54に示されるアミノ酸配
列からなること;
を特徴とする、[1]~[5]又は9のいずれか1項に記載の抗体又は該抗体の抗原結合
性断片。
【0013】
[11]
重鎖配列が、CDRH1、CDRH2及びCDRH3を有する可変領域を含み、前記C
DRH1は配列番号65に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH2は配列番号6
6に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH3は、配列番号67に示されるアミノ
酸配列からなること;及び
軽鎖配列がCDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する可変領域を含み、前記CDR
L1は配列番号62に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL2は配列番号63に
示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL3は、配列番号64に示されるアミノ酸配
列からなること;
を特徴とする、[1]~[5]又は9のいずれか1項に記載の抗体又は該抗体の抗原結合
性断片。
[12]
重鎖配列が、CDRH1、CDRH2及びCDRH3を有する可変領域を含み、前記C
DRH1は配列番号85に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH2は配列番号8
6に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRH3は、配列番号87に示されるアミノ
酸配列からなること;及び
軽鎖配列がCDRL1、CDRL2及びCDRL3を有する可変領域を含み、前記CDR
L1は配列番号82に示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL2は配列番号83に
示されるアミノ酸配列からなり、前記CDRL3は、配列番号84に示されるアミノ酸配
列からなること;
を特徴とする、[1]~[5]又は9のいずれか1項に記載の抗体又は該抗体の抗原結合
性断片。
[13]
Fab、F(ab’)2、Fab’及びFvからなる群から選択される、[1]~[1
2]のいずれか1項に記載の抗体の抗原結合断片。
[14]
scFvであることを特徴とする、[1]~[12]のいずれか1項に記載の抗体。
[15]
キメラ抗体であることを特徴とする、[1]~[12]のいずれか1項に記載の抗体文
は該抗体の抗原結合断片。
【0014】
[16]
ヒ卜化されていることを特徴とする、[1]~[12]のいずれか1項に記載の抗体文
は該抗体の抗原結合断片。
[17]
重鎖がヒ卜免疫グ口ブリンG1重鎖、ヒ卜免疫グ口ブリンG2重鎖又はヒ卜免疫グ口ブ
リンG4重鎖の定常領域を含み、軽鎖がヒ卜免疫グ口プリンκ軽鎖の定常領域を含む、[
1]~[16]のいずれか1項に記載の抗体。
[18]
重鎖がヒ卜免疫グ口ブリンG4重鎖の定常領域を含む、[17]に記載の抗体。
[19]
ヒ卜免疫グ口ブリンG4重鎖の定常領域において、EUインデックスにより示される2
28番目のセリン(Ser)がプ口リン(Pro)により置換された、[18]に記載の
抗体。
[20]
ヒ卜免疫グ口ブリンG4重鎖の定常領域において、EUインデックスにより示される2
34番目のフェニルアラニン(Phe)がアラニン(Ala)へ置換され、235番目の
ロイシン(Leu)がアラニン(Ala)に置換されている、[18]の抗体。
【0015】
[21]
ヒ卜免疫グ口ブリンG4重鎖の定常領域において、EUインデックスにより示される2
28番目のセリン(Ser)がプ口リン(Pro)により置換され、234番目のフェニ
ルアラニン(Phe)がアラニン(Ala)へ置換され、235番目のロイシン(Leu
)がアラニン(Ala)に置換されている、[18]の抗体。
[22]
重鎖がヒ卜免疫グ口プリンG2重鎖の定常領域を含む、[17]に記載の抗体。
[23]
以下の(c)及び(d)を有し、かつ、CD147を介したシグナル伝達を活性化する
ことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(c)以下の(c1)~(c4)からなる群から選択されるいずれか1に記載の重鎖可
変領域:
(c1)配列番号135に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基
からなる重鎖可変領域;
(c2)配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基
からなる重鎖可変領域;
(c3)(c1)又は(c2)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(c4)(c1)~(c3)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外の
フレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたア
ミノ酸配列、並びに、
(d)以下の(d1)~(d5)からなる群から選択されるいずれか1に記載の軽鎖可
変領域:
(d1)配列番号137に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(d2)配列番号149に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(d3)配列番号151に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(d4)(d1)~(d3)のいずれか1に記載の配列において各CDR配列以外の
フレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸
配列;及び
(d5)(d1)~(d4)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外の
フレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたア
ミノ酸配列。
[24]
配列番号135に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基からなる重
鎖可変領域、及び、配列番号137に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ
酸残基からなる軽鎖可変領域を含む、[23]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片
。
【0016】
[25]
配列番号135に示されるアミノ酸配列の20~463番目のアミノ酸残基からなる重
鎖、及び、配列番号137に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基か
らなる軽鎖を含む、[23]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片。
[26]
配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基からなる重
鎖可変領域、及び、配列番号149に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ
酸残基からなる軽鎖可変領域を含む、[23]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片
。
[27]
配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~463番目のアミノ酸残基からなる重
鎖、及び、配列番号149に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基か
らなる軽鎖を含む、[23]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片。
[28]
配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基からなる重
鎖可変領域、及び、配列番号151に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ
酸残基からなる軽鎖可変領域を含む、[23]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片
。
[29]
配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~463番目のアミノ酸残基からなる重
鎖、及び、配列番号151に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基か
らなる軽鎖を含む、[23]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片。
[30]
以下の(a)及び(b)を有し、かつ、CD147を介したシグナル伝達を活性化する
ことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(a)以下の(a1)~(a4)からなる群から選択されるいずれか1に記載の重鎖可
変領域:
(a1)配列番号123に示されるアミノ酸配列の20~140番目のアミノ酸残基
からなる重鎖可変領域;
(a2)配列番号125に示されるアミノ酸配列の20~140番目のアミノ酸残基
からなる重鎖可変領域;
(a3)(a1)又は(a2)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(a4)(a1)~(a3)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外の
フレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたア
ミノ酸配列、並びに、
(b)以下の(b1)~(b3)からなる群から選択されるいずれか1に記載の軽鎖可
変領域:
(b1)配列番号127に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(b2)(b1)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対
して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(b3)(b1)又は(b2)の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
【0017】
[31]
配列番号123に示されるアミノ酸配列の20~140番目のアミノ酸残基からなる重
鎖可変領域又は配列番号125に示されるアミノ酸配列の20~140番目のアミノ酸残
基からなる重鎖可変領域、及び、配列番号127に示されるアミノ酸配列の21~128
番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む、[30]に記載の抗体又は該抗体の抗
原結合性断片。
[32]
配列番号123に示されるアミノ酸配列の20~466番目のアミノ酸残基からなる重
鎖又は配列番号125に示されるアミノ酸配列の20~467番目のアミノ酸残基からな
る重鎖、及び、配列番号127に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残
基からなる軽鎖を含む、[30]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片。
[33]
以下の(e)及び(f)を有し、かつ、CD147を介したシグナル伝達を活性化する
ことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(e)以下の(e1)~(e4)からなる群から選択されるいずれか1に記載の重鎖可
変領域:
(e1)配列番号129に示されるアミノ酸配列の20~137番目のアミノ酸残基
からなる重鎖可変領域;
(e2)配列番号131に示されるアミノ酸配列の20~137番目のアミノ酸残基
からなる重鎖可変領域;
(e3)(e1)又は(e2)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(e4)(e1)~(e3)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外の
フレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたア
ミノ酸配列、並びに、
(f)以下の(f1)~(f3)からなる群から選択されるいずれか1に記載の軽鎖可
変領域:
(f1)配列番号133に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(f2)(f1)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対
して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(f3)(f1)又は(f2)の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
[34]
配列番号129に示されるアミノ酸配列の20~137番目のアミノ酸残基からなる重
鎖可変領域又は配列番号131に示されるアミノ酸配列の20~137番目のアミノ酸残
基からなる重鎖可変領域、及び、配列番号133に示されるアミノ酸配列の21~128
番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む、[33]に記載の抗体又は該抗体の抗
原結合性断片。
[35]
配列番号129に示されるアミノ酸配列の20~463番目のアミノ酸残基からなる重
鎖又は配列番号131に示されるアミノ酸配列の20~464番目のアミノ酸残基からな
る重鎖、及び、配列番号133に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残
基からなる軽鎖を含む、[33]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片。
【0018】
[36]
以下の(g)及び(h)を有し、かつ、CD147を介したシグナル伝達を活性化する
ことを特徴とする、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(g)以下の(g1)~(g3)からなる群から選択されるいずれか1に記載の重鎖可
変領域:
(g1)配列番号139に示されるアミノ酸配列の20~138番目のアミノ酸残基
からなる重鎖可変領域;
(g2)(g1)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対
して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(g3)(g1)又は(g2)の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、並び
に、
(h)以下の(h1)~(h3)からなる群から選択されるいずれか1に記載の軽鎖可
変領域:
(h1)配列番号141に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(h2)(h1)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対
して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(h3)(h1)又は(h2)の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
[37]
配列番号139に示されるアミノ酸配列の20~138番目のアミノ酸残基からなる重
鎖可変領域、及び、配列番号141に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ
酸残基からなる軽鎖可変領域を含む、[36]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片
。
[38]
配列番号139に示されるアミノ酸配列の20~464番目のアミノ酸残基からなる重
鎖、及び、配列番号141に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基か
らなる軽鎖を含む、[36]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片。
[39]
ADCC活性が低下又は欠失した、[23]~[38]のいずれか1項に記載のヒトC
D147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[40]
CDC活性が低下又は欠失した、[23]~[39]のいずれか1項に記載のヒトCD
147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0019】
[41]
ADCP活性が低下又は欠失した、[23]~[40]のいずれか1項に記載のヒトC
D147抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[42]
[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の少なくとも
いずれか一つを含有することを特徴とする、医薬組成物。
[43]
抗腫瘍剤である、[42]に記載の医薬組成物。
[44]
腫瘍が、CD147を発現する腫瘍である、[43]に記載の医薬組成物。
[45]
腫瘍が、膵臓癌、肝癌、胃癌、大腸癌、腎癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、肺癌、リンパ腫
、甲状腺癌、皮膚癌、頭頸部癌、肉腫、前立腺癌、膀胱癌、脳腫瘍、消化管間質腫瘍(G
IST)、白血病、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リ
ンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、悪性リンパ腫、B細胞リンパ
腫、非ホジキンリンパ腫又はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である、[
43]又は[44]に記載の医薬組成物。
【0020】
[46]
腫瘍が、膵臓癌、肝癌、胃癌、大腸癌、腎癌、白血病、急性骨髄性白血病(AML)、
慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(A
LL)、悪性リンパ腫、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫又はびまん性大細胞型B細
胞リンパ腫(DLBCL)である、[43]~[45]のいずれか1項に記載の医薬組成
物。
[47]
腫瘍がSMAD4陽性の腫瘍又はKLF5の発現が低下又は欠失した腫瘍である、[4
3]~[46]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[48]
さらに別の抗腫瘍剤を含有する、[42]~[47]のいずれか1項に記載の医薬組成
物。
[49]
[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体若しくは該抗体の抗原結合性断片又は[
42]~[48]のいずれか1項に記載の医薬組成物を患者に投与することを特徴とする
腫瘍の治療方法。
[50]
腫瘍が、CD147を発現する腫瘍である、[49]に記載の治療方法。
【0021】
[51]
腫瘍が、膵臓癌、肝癌、胃癌、大腸癌、腎癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、肺癌、リンパ腫
、甲状腺癌、皮膚癌、頭頸部癌、肉腫、前立腺癌、膀胱癌、脳腫瘍、消化管間質腫瘍(G
IST)、白血病、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リ
ンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、悪性リンパ腫、B細胞リンパ
腫、非ホジキンリンパ腫又はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である、[
49]又は[50]のいずれか1項に記載の治療方法。
[52]
腫瘍が、膵臓癌、肝癌、胃癌、大腸癌、腎癌、白血病、急性骨髄性白血病(AML)、
慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(A
LL)、悪性リンパ腫、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫又はびまん性大細胞型B細
胞リンパ腫(DLBCL)である、[49]~[51]に記載の治療方法。
[53]
腫瘍がSMAD4陽性の腫瘍又はKLF5の発現が低下又は欠失した腫瘍である、[4
9]~[52]のいずれか1項に記載の治療方法。
[54]
別の抗腫瘍剤と組み合わせて投与される、[49]~[53]のいずれか1項に記載の
治療方法。
[55]
[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体又は当該抗体の機能性断片をコードする
ポリヌクレオチド。
【0022】
[56]
以下の(j1)~(j3)からなる群から選択されるいずれか1に記載のポリヌクレオ
チドを含む[55]に記載のポリヌクレオチド:
(j1)配列番号75に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号76に記載の
アミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号77に記載のアミノ酸配列からなるCDR
H3をコードするポリヌクレオチド、並びに、配列番号72に記載のアミノ酸配列からな
るCDRL1、配列番号73に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号74
に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3をコードするポリヌクレオチド、
(j2)(j1)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するポ
リヌクレオチド;及び
(j3)(j1)又は(j2)に記載のポリヌクレオチドにおいて1~数個のヌクレオチ
ドが置換、欠失又は付加されたポリヌクレオチド。
[57]
以下の(i1)~(i3)からなる群から選択されるいずれか1に記載のポリヌクレオ
チドを含む[55]に記載のポリヌクレオチド:
(i1)配列番号55に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号56に記載の
アミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号57に記載のアミノ酸配列からなるCDR
H3をコードするポリヌクレオチド、並びに、配列番号52に記載のアミノ酸配列からな
るCDRL1、配列番号53に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号54
に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3をコードするポリヌクレオチド;
(i2)(i1)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するポ
リヌクレオチド;及び
(i3)(i1)又は(i2)に記載のポリヌクレオチドにおいて1~数個のヌクレオチ
ドが置換、欠失又は付加されたポリヌクレオチド。
[58]
以下の(k1)~(k3)からなる群から選択されるいずれか1に記載のポリヌクレオ
チドを含む[55]に記載のポリヌクレオチド:
(k1)配列番号65に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号66に記載の
アミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号67に記載のアミノ酸配列からなるCDR
H3をコードするポリヌクレオチド、並びに、配列番号62に記載のアミノ酸配列からな
るCDRL1、配列番号63に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号64
に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3をコードするポリヌクレオチド、
(k2)(k1)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するポ
リヌクレオチド;及び
(k3)(k1)又は(k2)に記載のポリヌクレオチドにおいて1~数個のヌクレオチ
ドが置換、欠失又は付加されたポリヌクレオチド。
[59]
以下の(m1)~(m3)からなる群から選択されるいずれか1に記載のポリヌクレオ
チドを含む[55]に記載のポリヌクレオチド:
(m1)配列番号85に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号86に記載の
アミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号87に記載のアミノ酸配列からなるCDR
H3をコードするポリヌクレオチド、並びに、配列番号82に記載のアミノ酸配列からな
るCDRL1、配列番号83に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号84
に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3をコードするポリヌクレオチド、
(m2)(m1)に記載のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するポ
リヌクレオチド;及び
(m3)(m1)又は(m2)に記載のポリヌクレオチドにおいて1~数個のヌクレオチ
ドが置換、欠失又は付加されたポリヌクレオチド。
[60]
[55]~[59]のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有する発現ベクター。
【0023】
[61]
[60]に記載の発現ベクターにより形質転換された宿主細胞。
[62]
[61]に記載の宿主細胞を培養し、培養産物から目的の抗体又は当該抗体の機能性断
片を採取する工程を含む、[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体又は当該抗体の
機能性断片の製造方法。
[63]
CD147を介したシグナル伝達の活性化が、p38の活性化及び/又はSMAD4の
活性化である、[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体又は当該抗体の機能性断片
。
[64]
p38MAPKの活性化及び/又はSMAD4の活性化が、p38MAPKの発現量の
増加、p38MAPKのリン酸化、HSP27のリン酸化、CXCL8発現量の増加、r
hoB発現量の増加、KLF5 mRNAの低下又はKLF5蛋白質発現量の低下である
、[63]に記載の抗体又は当該抗体の機能性断片。
[65]
[63]又は[64]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合性断片を投与することを特徴
とする腫瘍の治療方法。
【0024】
[66]
癌患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるSMAD4の発現又は
KLF5の発現を検出し、SMAD4が検出された患者又はKLF5の発現低下若しくは
欠失が検出された患者を、[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体若しくは当該抗
体の機能性断片又は[42]~[48]のいずれか1項に記載の医薬組成物による癌の治
療への応答性があると判定することを含む、癌の治療への応答性を予測する方法。
[67]
癌患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中におけるSMAD4の発現の有無
又はKLF5の発現を検出し、SMAD4が検出された患者又はKLF5の発現低下若し
くは欠失が検出された患者を、[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体若しくは当
該抗体の機能性断片又は[42]~[48]のいずれか1項に記載の医薬組成物による癌
の治療の対象者として選別することを含む、癌の治療の対象を選別する方法。
[68]
癌患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるSMAD4の発現の有
無又はKLF5の発現を検出し、SMAD4が検出された患者又はKLF5の発現低下若
しくは欠失が検出された患者に対し、[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体若し
くは当該抗体の機能性断片又は[42]~[48]のいずれか1項に記載の医薬組成物を
投与することを含む、癌の治療方法。
[69]
[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体若しくは当該抗体の機能性断片又は[4
2]~[48]のいずれか1項に記載の医薬組成物による癌の治療への応答性を判定する
ためのキットであって、癌患者由来の生物学的試料中のSMAD4の発現又はKLF5の
発現を検出する手段を少なくとも含む、キット。
[70]
[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片と他の薬物が
コンジュゲートした、抗体薬物複合体。
【0025】
[71]
[1]~[41]のいずれか1項に記載の抗体の抗原結合断片と、CD147以外の抗
原に結合する抗原結合断片を含む、バイスペシフィック抗体。
【発明の効果】
【0026】
本発明の抗体は、CD147を特異的に認識する抗体であって、CD147を介した関
連シグナル分子を活性化し、高い抗腫瘍活性を有することを特徴とする。CD147は腫
瘍細胞だけでなく血液細胞にも発現しているが、本発明の抗体は、T細胞及びPBMCに
対して作用せずかつエフェクター機能にも依存しないため、抗腫瘍剤としての開発におい
て、安全性の懸念が少ないという利点を有する。また、本発明の抗体は、極めて高い抗腫
瘍活性を示す。本発明の抗体は、肝臓癌細胞において、肝臓癌の標準治療薬のうちの1つ
として使用されるソラフェニブよりも顕著に強い薬効を示す。本発明の抗体は、膵臓癌細
胞において、膵臓癌の標準治療薬のうちの1つとして使用されるゲムシタビンよりも顕著
に強い薬効を示す。また、本発明の抗体は、慢性骨髄性白血病細胞において、慢性骨髄性
白血病の標準治療薬のうちの1つとして使用されるイマチニブよりも顕著に強い薬効を示
す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】(a)~(c):PANC-1異種移植(xenograft)モデルにおける腫瘍体積の変化。
【
図2-1】ヒトCD147又はサルCD147に対する結合性。
【
図2-2】ヒトCD147又はサルCD147に対する結合性。
【
図2-3】ヒトCD147又はサルCD147に対する結合性。
【
図3】ヒトCD147とカニクイザルCD147のアミノ酸配列の配列比較およびmu1~mu9の位置。
【
図4-1】LN22R8の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、LN22R8軽鎖のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列。
【
図4-2】LN22R8の重鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、LN22R8重鎖のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列。
【
図5-1】2P10F2の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、2P10F2軽鎖のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列。
【
図5-2】2P10F2の重鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、2P10F2重鎖のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列。
【
図9-1】(a)~(d):NOD-scidマウスを用いたMIA PaCa-2皮下移植モデルにおける各抗体の抗腫瘍効果。
【
図9-2】(e)~(g):NOD-scidマウスを用いたMIA PaCa-2皮下移植モデルにおける各抗体の抗腫瘍効果。
【
図10】NOGマウスを用いたMIA PaCa-2皮下移植モデルにおけるLN22R8chIgG4Pの抗腫瘍効果。
【0028】
【
図11】(a)~(d):NOD-scidマウスを用いたMIA PaCa-2皮下移植モデルにおけるr#84、r#101、r#110又はr#131の抗腫瘍効果。
【
図12】2P10F2とr#84、r#101、r#110又はr#131との競合アッセイ。
【
図13-1】(a)~(d):MIA PaCa-2皮下移植モデルにおける各キメラ抗体の抗腫瘍効果。
【
図13-2】(e)~(h):MIA PaCa-2皮下移植モデルにおける各キメラ抗体の抗腫瘍効果。
【
図13-3】(i)~(l):MIA PaCa-2皮下移植モデルにおける各キメラ抗体の抗腫瘍効果。
【
図13-4】(m)及び(n):MIA PaCa-2皮下移植モデルにおける各キメラ抗体の抗腫瘍効果。
【
図14】(a)ヒト化抗体重鎖#84H1h及び(b)ヒト化抗体軽鎖#84L2hの各可変領域の設計。
【
図15】(a)ヒト化抗体重鎖#101H1h及び(b)ヒト化抗体軽鎖#101L2hの各可変領域の設計。
【
図16】(a)ヒト化抗体重鎖#110H1h、(b)ヒト化抗体重鎖#110H13h、(c)ヒト化抗体軽鎖#110L4h、(d)ヒト化抗体軽鎖#110L2h及び(e)ヒト化抗体軽鎖#110L12hの各可変領域の設計。
【
図17】(a)ヒト化抗体重鎖#131H2h及び(b)ヒト化抗体軽鎖#131L2hの各可変領域の設計。
【
図18】(a)~(d):MIA PaCa-2皮下移植モデルにおける各ヒト化抗体の抗腫瘍効果
【
図19】抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体によるp38MAPKリン酸化。
【
図20】(a)及び(b):抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体によるHSP27のリン酸化。
【0029】
【
図21】(a)~(c):抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体による腫瘍内p38MAPKリン酸化。
【
図22】(a)~(c):抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体によるcxcl8及びrhoBの発現。
【
図23】(a)~(c):抗ヒトCD147ラット抗体とそのヒトキメラ抗体化によるcxcl8及びrhoBの発現。
【
図24】SMAD4陰性膵臓癌細胞BxPC-3を用いて抗CD147抗体及びゲムシタビンの抗腫瘍効果を評価した結果。
【
図25】(a)~(c):SMAD4を安定発現したBxPC-3を用いて抗CD147ヒトキメラ抗体の抗腫瘍効果を評価した結果。
【
図26】(a)及び(b):SMAD4を発現させた膵臓癌細胞BxPC-3に抗CD147ヒトキメラ抗体を投与した場合のp38MAPKのリン酸化を評価した。
【
図27】ゲムシタビン耐性膵臓癌腫瘍モデルにおける抗CD147ヒトキメラ抗体の抗腫瘍効果。
【
図28】(a)Hep G2細胞におけるCD147のフローサイトメーターによる発現確認。(b)肝臓癌細胞におけるヒト化CD147抗体によるp38MAPK活性化。
【
図29】(a)~(d):肝臓癌におけるCD147抗体のソラフェニブとの抗腫瘍効果の比較。
【
図30】CD3,CD4陽性の細胞及びCD3,CD8陽性の細胞におけるCD147-APCの結合。
【0030】
【
図31】ヒト末梢血単核球の増殖を誘導した際の、抗ヒトCD147抗体の影響の評価。
【
図32】ヒト末梢血リンパ球のサイトカイン産生に対する、抗ヒトCD147抗体の影響の評価。
【
図33-1】rat_CD147_#84の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、rat_CD147_#84の軽鎖のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列。
【
図33-2】rat_CD147_#84の重鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、rat_CD147_#84の重鎖のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列。
【
図34-1】rat_CD147_#101の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、rat_CD147_#101の軽鎖のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列。
【
図34-2】rat_CD147_#101の重鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、rat_CD147_#101の重鎖のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列。
【
図35-1】rat_CD147_#110の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、rat_CD147_#110の軽鎖のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列。
【
図35-2】rat_CD147_#110の重鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、rat_CD147_#110の重鎖のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列。
【
図36-1】rat_CD147_#131の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、rat_CD147_#131の軽鎖のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列。
【
図36-2】rat_CD147_#131の重鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びに、rat_CD147_#131の重鎖のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列。
【
図37-1】#84H1hIgG2のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図37-2】#84H1hIgG4Pのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図37-3】#84L2hのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図38-1】#101H1hIgG2のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図38-2】#101H1hIgG4Pのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図38-3】#101L2hのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図39-1】#110H1hIgG4Pのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図39-2】#110H13hIgG4Pのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図39-3】#110L4hのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図39-4】#110L2hのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図39-5】#110L12hのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【
図40-1】#131H2hIgG2のアミノ酸配列とヌクレオチド配列。
【
図40-2】#131L2hのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列。
【0031】
【
図41】非対称単位に含まれる2つの複合体を表したリボン図。CD147は黒色で、抗体の重鎖(H CHAIN)および軽鎖(L CHAIN)は灰色で示されている。
【
図42】CD147と抗体の相互作用面。抗体近傍のCD147のアミノ酸はスティックモデルで表され、文字で標識されている。CD147のこれ以外の部位は黒色のリボンモデルで表されている。一方、CD147近傍の抗体のアミノ酸は細いラインモデルで表されており、それ以外の部位は灰色のリボンモデルで表されている。
【
図43】胃癌モデルにおけるキメラおよびヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果。
【
図44】慢性骨髄性白血病(CML)モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果。
【
図45】大腸癌モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果。
【
図46】腎臓癌モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果。
【
図47】急性骨髄性白血病(AML)モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果。
【
図48】膵臓癌モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果。
【
図50】(a)MIA PaCa-2細胞及び(b)KLF5を発現させたMIA PaCa-2細胞を用いた、ヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果の比較。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお
、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、こ
れにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0033】
(定義) 本明細書中、「癌」と「腫瘍」は同じ意味に用いられ、それぞれ、特に限定
されない限り、固形癌、非固形癌又はそれらの両方を意図する場合に用いられる。
【0034】
本明細書中、「遺伝子」という語には、DNAのみならずそのmRNA、cDNA及び
そのcRNAも含まれる。
【0035】
本明細書中、「ポリヌクレオチド」又は「ヌクレオチド」は、核酸と同じ意味で用いて
おり、DNA、RNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、及びプライマーも含まれる。
【0036】
本明細書中、「ポリペプチド」と「タンパク質」は区別せずに用いている。
【0037】
本明細書中、「細胞」には、動物個体内の細胞、培養細胞も含んでいる。
【0038】
本明細書中、「CD147」は、CD147タンパク質と同じ意味で用いている。
【0039】
本明細書中、「抗体の機能性断片」とは、「抗体の抗原結合断片」とも呼ばれ、抗原と
の結合活性を有する抗体の部分断片を意味しており、Fab、F(ab’)2、Fv、s
cFv、diabody、線状抗体及び抗体断片より形成された多特異性抗体等を含む。
また、F(ab’)2を還元条件下で処理した抗体の可変領域の一価の断片であるFab
’も抗体の抗原結合断片に含まれる。但し、抗原との結合能を有している限りこれらの分
子に限定されない。また、これらの抗原結合断片には、抗体蛋白質の全長分子を適当な酵
素で処理したもののみならず、遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主
細胞において産生された蛋白質も含まれる。
【0040】
本明細書中、「エフェクター活性」とは、抗体依存性細胞傷害(Antibody-D
ependent-Cellular-Cytotoxicity、以下、ADCC)活
性、補体依存性細胞傷害(Complement-dependent cytotox
icity、以下、CDC)活性、または抗体依存性細胞貪食(Antibody-de
pendent cellular phagocytosis、以下、ADCP)活性
のうちのいずれか1つ以上をいう。
【0041】
本明細書中、「エフェクター機能」とは、各「エフェクター活性」が発揮されることを
いう。
【0042】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性は、エフェクター活性を持つ免疫細胞、抗体およ
び51Cr標識した標的細胞を接触させた場合に生じる細胞死を測定する51Crリリース
アッセイの方法で測定することができる。本発明のヒトCD147抗体のADCC活性は
、次のように測定される。評価するヒトCD147抗体のADCC活性について、エフェ
クター細胞としてヒトの末梢血単核球(PBMC)、ADCC標的細胞としてCD147
陽性のヒト癌細胞株(例えば、膵臓癌株MIA PaCa-2)を用いる。放射線同位体
51Crで標識した癌細胞と評価対象の抗体を0.5又は、5μg/mlの濃度で4℃、
30分間処理した後、ヒトの末梢血から分離したPBMCを癌細胞の20倍の割合で加え
、4時間、37度、5%CO2存在下で培養する。上清中に放出された51CrをTop
Count NXT v2.53を用いて測定しTotal release値を得る。
51Crで標識した癌細胞をTriton-100で処理して放出された51Crの測定
値をMaximamu release値、PBMCを加えない抗体処理細胞から処理し
て放出された51Crの測定値をSpontaneous release値として、下
記の式から、% specific releaseを算出する。陰性対照サンプルとし
て、ヒトIgG(hIgG,ChromPure Human IgG,Jackson
ImmunoResearch Laboratories社,Cat.009-00
0-003)を用いる。測定は3重に実施し、平均値、標準偏差を算出する。
【0043】
% specific release=(Total release-Spont
aneous release)/Maximamu release
補体依存性細胞傷害(CDC)活性は、血液に含まれる補体、抗体および標的細胞を接
触させた場合に生じる細胞死を測定することで評価ができる。本発明のヒトCD147抗
体のCDC活性は、次のように測定される。評価するヒトCD147抗体による補体依存
的な殺細胞活性(CDC活性)を標的細胞としてヒト膵臓株MIA PaCa-2を用い
て評価する。補体として市販のウサギ補体(Low Tox-M Rabbit Com
plement、CEDARLANE LABORATORIES LIMITED、C
at.CL3051)を用いる。CDC活性陰性の対照抗体としてヒトIgG(hIgG
,ChromPure Human IgG,Jackson ImmunoResea
rch Laboratories社,Cat.009-000-003)を用いる。評
価する抗体及び陰性の対象抗体を、それぞれ、0、0.1、1又は、10μg/mlの濃
度で1時間、4℃で処理した後、ウサギ補体を終濃度7.5%となるように添加し、37
℃、5%CO2存在下で、3時間加温後、生細胞に含まれる細胞内ATPをCellTi
ter-Glo Lumimescent Cell Viability Assay
(Promega社,Cat.G7572)を用いて測定した。CellTiter-G
lo Lumimescent Cell Viability Assay を用いて
得られる発光シグナルについて、EnVision 2104 Multilabel
Reader (Perkin Elmer社)を用いて定量する。測定は3重に実施し
、平均値と標準偏差を算出する。無処理の細胞から得られた発光シグナルを100%とし
て、抗体と補体依存的に減少した発光シグナルをCDC活性とする。
【0044】
抗体依存性細胞貪食(ADCP)活性は、貪食作用を持つ免疫細胞、抗体および標的細
胞を接触させることによって起こる貪食を2重蛍光標識法で測定することができる。
【0045】
本発明のヒトCD147抗体のADCP活性は、次のように測定される。ヒトIgG抗
体はマウスのFcγ受容体との相互作用を介して、抗体依存的な単球、マクロファージに
よる貪食作用(ADCP)を誘導することで、癌細胞への殺細胞活性を示すことが報告さ
れている(Overdijk et al.,Journal of Immunolo
gy,1-9,2012)。本発明のヒトキメラ抗体のADCP活性について、エフェク
ター細胞としてRAW264.7(ATCC,TIB-71)、ADCP標的細胞として
ヒト膵臓株PANC-1又はMIA PaCa-2を用いて評価する。PKH67 Gr
een Fluorescent Cell Linker Mini Kit for
General Cell Membrane Labeling(SIGMA,Ca
t.MINI67-1KIT)で標識したADCP標的細胞と評価する抗体と、20μg
/mlの濃度の評価する抗体で4℃、1時間処理した後、PKH26 Red Fluo
rescent Cell Linker Lit for General Cell
Membrane Labeling(SIGMA,Cat.PKH26GL-1KT
)で標識したRAW264.7細胞をADCP標的細胞の5倍添加し、3時間、37℃、
5% CO2存在下で加温する。フローサイトメーター(BD社、CantoII)を用
いて、貪食作用によりPKH67シグナル陽性に移行したPKH26陽性細胞の割合を測
定する。陰性対照サンプルとして、ヒトIgG(hIgG, ChromPure Hu
man IgG,Jackson ImmunoResearch Laborator
ies社,Cat.009-000-003)を処理したサンプルについて同様に測定を
実施する。測定は3重に実施し、平均値、標準偏差を算出する。
【0046】
本明細書中、「エフェクター活性を実質的に有さない」又は「エフェクター活性が低下
又は欠失した」とは、当該抗体が、ADCC活性、CDC活性又はADCP活性のうちの
少なくとも1つが、活性を示さないか、あるいは、それらの機能が十分には発揮されない
ほど低い程度の活性であることをいう。「エフェクター活性を実質的に有さない」又は「
エフェクター活性が低下又は欠失した」とは、例えば、上記の活性評価方法において、評
価する抗体の活性がネガティブコントロールと同程度の活性であることをいう。
【0047】
本明細書中、「ADCC活性が低下又は欠失した」とは、評価する抗体が、ADCC活
性を示さないか、あるいは、それらの機能が十分には発揮されないほど低い程度の活性で
あることをいう。「ADCC活性が低下又は欠失した」とは、例えば、上記の活性評価方
法において、評価する抗体の活性がネガティブコントロールと同程度の活性であることを
いう。
【0048】
本明細書中、「CDC活性が低下又は欠失した」とは、評価する抗体が、CDC活性を
示さないか、あるいは、それらの機能が十分には発揮されないほど低い程度の活性である
ことをいう。「CDC活性が低下又は欠失した」とは、例えば、上記の活性評価方法にお
いて、評価する抗体の活性がネガティブコントロールと同程度の活性であることをいう。
【0049】
本明細書中、「ADCP活性が低下又は欠失した」とは、評価する抗体が、ADCP活
性を示さないか、あるいは、それらの機能が十分には発揮されないほど低い程度の活性で
あることをいう。「ADCP活性が低下又は欠失した」とは、例えば、上記の活性評価方
法において、評価する抗体の活性がネガティブコントロールと同程度の活性であることを
いう。
【0050】
「ADCC活性が低下又は欠失した」、「CDC活性が低下又は欠失した」又は「AD
CP活性が低下又は欠失した」とは、例えば、それぞれ、上記の活性評価方法において、
評価する抗体の活性がネガティブコントロールと同程度の活性であることをいう。
【0051】
本明細書中、「CD147を介したシグナル伝達を活性化する」、「CD147を介し
た関連シグナル分子の活性化」、「CD147の活性化」又は「CD147を活性化」と
は、CD147を介した細胞シグナル伝達系の活性化をいい、CD147の下流の関連シ
グナル分子のうちの少なくともいずれかを活性化させることをいう。CD147を介した
シグナル伝達の活性化とは、CD147シグナルの下流にある遺伝子の発現が亢進又は低
下したり、タンパク質の発現が亢進又は低下したり、あるいは、タンパク質のリン酸化が
亢進又は低下したりすることをいう。CD147の下流の関連シグナル分子としては、例
えば、FAK、MEK、Erk、JAK/STAT、AKT又はMAPキナーゼ(MAP
K)、あるいはこれらのさらに下流のシグナル分子の活性化が挙げられる。MAPKとし
ては、例えば、ERK1/2、JNK又はp38MAPKが挙げられ、より好ましくは、
p38MAPKである。MAPKのさらに下流のシグナル分子としては、例えば、HSP
27、cxcl8又はSMAD(例えば、SMAD2、SMAD3及び/又はSMAD4
)が挙げられる。「CD147の活性化」としては、例えば、p38MAPKのmRNA
発現量の増加、p38MAPKの蛋白質発現量の増加、p38MAPKのリン酸化、HS
P27のリン酸化(例えば、HSP27のSer82のリン酸化又はHSP27のSer
15のリン酸化)、cxcl8 mRNA発現量の増加、cxcl8蛋白質発現量の増加
、SMADシグナル活性化を介したrhoB mRNA発現量の増加又はrhoB蛋白質
発現量の増加、あるいは、KLF5 mRNAの低下又はKLF5蛋白質発現量の低下が
挙げられる。
【0052】
本明細書中、「エピトープ」とは、特定の抗CD147抗体の結合するCD147の部
分ペプチド又は部分立体構造を意味する。前記のCD147の部分ペプチドであるエピト
ープは免疫アッセイ法等当業者にはよく知られている方法によって、決定することができ
る。まず、抗原の様々な部分構造を作製する。部分構造の作製にあたっては、公知のオリ
ゴヌクレオチド合成技術を用いることができる。例えば、CD147のC末端又はN末端
から適当な長さで順次短くした一連のポリペプチドを当業者に周知の遺伝子組み換え技術
を用いて作製した後、それらに対する抗体の反応性を検討し、大まかな認識部位を決定し
た後に、更に短いペプチドを合成してそれらのペプチドとの反応性を検討することによっ
て、エピトープを決定することができる。また、複数の細胞外ドメインからなる膜タンパ
ク質に結合する抗体が、複数のドメインからなる立体構造をエピトープとしている場合は
、特定の細胞外ドメインのアミノ酸配列を改変することによって、立体構造を改変するこ
とによってどのドメインと結合するかを決定することができる。特定の抗体の結合する抗
原の部分立体構造であるエピトープは、X線構造解析によって前記の抗体と隣接する抗原
のアミノ酸残基を特定することによっても決定することができる。
【0053】
第一の抗体の結合する部分ペプチド又は部分立体構造に第二の抗体が結合すれば、第一
の抗体と第二の抗体が共通のエピトープを有すると判定することができる。また、第一の
抗体の抗原に対する結合に第二の抗体が交差競合する(すなわち、第二の抗体が第一の抗
体と抗原の結合を妨げる)ことを確認することによって、具体的なエピトープの配列又は
構造が決定されていなくても、第一の抗体と第二の抗体の同一のエピトープに結合すると
判定することができる。第一の抗体と第二の抗体が同一のエピトープに結合し、かつ第一
の抗体が抗腫瘍活性等の特殊な効果を有する場合、第二の抗体も同様の活性を有すること
が期待できる。
【0054】
抗体分子の重鎖及び軽鎖にはそれぞれ3箇所の相補性決定領域(CDR:Comple
mentarity determining region)があることが知られてい
る。相補性決定領域は、超可変領域(hypervariable domain)とも
呼ばれ、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域内にあって、一次構造の変異性が特に高い部位で
あり、重鎖及び軽鎖のポリペプチド鎖の一次構造上において、それぞれ3ヶ所に分離して
いる。本明細書中においては、抗体の相補性決定領域について、重鎖の相補性決定領域を
重鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRH1、CDRH2、CDRH3と表記し、軽
鎖の相補性決定領域を軽鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRL1、CDRL2、C
DRL3と表記する。これらの部位は立体構造の上で相互に近接し、結合する抗原に対す
る特異性を決定している。
【0055】
本明細書において、「1乃至数個」及び「1若しくは数個」なる記載がある場合の「数
個」とは、2乃至10個を示している。好ましくは、10個以下、より好ましくは、5若
しくは6個以下、さらにより好ましくは、2若しくは3個である。
【0056】
(CD147)
CD147は、イムノグロブリン様ドメインを2~3有する1回膜貫通蛋白質であり、
CD147同士の相互作用、CD44、Integrinファミリー分子、CD98、V
EGFR、CypA/B、MCT1/3/4といった増殖、浸潤、炎症に関与する細胞外
や細胞膜表面の分子と相互作用することで、下流シグナル関連分子、FAK、MEK、E
rk、JAK/STAT、AKT、MAPKファミリー分子を活性化させ、MMPをはじ
めとするプロテアーゼ産生、癌の増殖、転移、浸潤を促すことが知られている。
【0057】
ヒトCD147は、3つのバリアントが知られている。バリアント1は、網膜特異的に
発現し3つのイムノグロブリン様ドメイン(それぞれ、本明細書中、D0、D1及びD2
という場合がある。)を有する1回膜貫通蛋白質であり、バリアント2は、T細胞や様々
な正常細胞で発現し、且つ、多様な癌組織で発現増加が報告されている2つのイムノグロ
ブリン様ドメイン(D1、D2)を有する1回膜貫通蛋白質であり、バリアント3は、1
つのイムノグロブリン様ドメインを有する1回膜貫通蛋白質である。
【0058】
ヒトCD147のバリアント1のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBan
kアクセッション番号NP_001719.2、NM_001728.3を参照すること
により入手可能であり、本明細書中、アミノ酸配列は配列番号1、ヌクレオチド配列は配
列番号2としても開示されている。バリアント1の3つのイムノグロブリン様ドメインは
、配列番号1でいうと、それぞれ、アミノ酸番号22~138(D0)、アミノ酸番号1
40~218(D1)及びアミノ酸番号223~323(D2)である(Redzic,
J., J. Mol. Biol., 2011, 68-82)(Grass e
t al., Biosol. Rep, 2016, 1-16)。また、バリアント
1の膜貫通領域は、配列番号1でいうと、アミノ酸番号324~344である。
【0059】
ヒトCD147のバリアント2のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBan
kアクセッション番号NP_940991.1、NM_198589.2を参照すること
により入手可能であり、本明細書中、アミノ酸配列は配列番号3、ヌクレオチド配列は配
列番号4としても開示されている。バリアント2の2つのイムノグロブリン様ドメイン(
D1、D2)は、配列番号3でいうと、それぞれ、アミノ酸番号24~102(D1)及
びアミノ酸番号107~207(D2)である。また、バリアント2の膜貫通領域は、配
列番号3でいうと、アミノ酸番号208~228である(Grass et al.,
Biosol. Rep, 2016, 1-16)。
【0060】
ヒトCD147のバリアント3のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBan
kアクセッション番号NP_940992.1、NM_198590.2を参照すること
により入手可能である。また、ヒトCD147遺伝子は、市販元より入手することも可能
である。
【0061】
カニクイサルCD147(本明細書中、サルCD147と記載する場合もある。)のア
ミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBankアクセッション番号XP_0055
87354.1、XM_005587297.1を参照することにより入手可能である。
また、サルCD147遺伝子は、市販元より入手することも可能である。マウスCD14
7のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBankアクセッション番号NP_0
01070652.1、NM_001077184.1を参照することにより入手可能で
ある。また、マウスCD147遺伝子は、市販元より入手することも可能である。
【0062】
本発明で用いるCD147は、in vitroにて合成する、あるいは遺伝子操作に
より宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、CD147 c
DNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネル
ギー物質を含む溶液中で合成する、あるいは他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を形
質転換させることによってCD147を発現させることにより、該蛋白質を得ることが出
来る。
【0063】
CD147のcDNAは、例えば、CD147のcDNAを発現しているcDNAライ
ブラリーを鋳型として、CD147のcDNAを特異的に増幅するプライマーを用いてポ
リメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki,R.K.,et al.,
Science,(1988)239,487-49)を行なう、いわゆるPCR法によ
り取得することができる。
【0064】
なお、ヒト、サル又はマウスのCD147をコードするヌクレオチド配列と相補的なヌ
クレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし
、かつ、CD147と同等の生物活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドもC
D147のcDNAに含まれる。さらに、ヒト、サル若しくはマウスCD147遺伝子座
から転写されるスプライシングバリアント又はこれにストリンジェントな条件でハイブリ
ダイズするポリヌクレオチドであって、かつ、CD147と同等の生物活性を有する蛋白
質をコードするポリヌクレオチドもCD147のcDNAに含まれる。
【0065】
また、ヒト、サル又はマウスのCD147のアミノ酸配列、又はこれらの配列からシグ
ナル配列が除かれたアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、又
は付加されたアミノ酸配列からなり、CD147と同等の生物活性を有する蛋白質もCD
147に含まれる。さらに、ヒト、サル若しくはマウスCD147遺伝子座から転写され
るスプライシングバリアントにコードされるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において、
1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、
CD147と同等の生物活性を有する蛋白質もCD147に含まれる。
【0066】
(抗CD147抗体の製造)
本発明のCD147に対する抗体は、非ヒト動物を目的抗原で免疫し、免疫成立後の動
物からリンパ液、リンパ組織、血球試料又は骨髄由来の細胞を採取し、公知の方法(例え
ば、Kohler and Milstein,Nature(1975)256,
p.495-497、Kennet,R.ed.,Monoclonal Antib
odies,p.365-367,Plenum Press,N.Y.(1980)
)に従って、CD147に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合
させることによりハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることができる。こ
のような方法の具体的な例は、WO2009/48072(2009年4月16日公開)
及びWO2010/117011(2010年10月14日公開)に記載されている。こ
のようにして得られたモノクローナル抗体の例としては、例えば、LN22R8、2P1
0F2、rat_CD147_#84、rat_CD147_#101、rat_CD1
47_#110又はrat_CD147_#131を挙げることができる。しかし、モノ
クローナル抗体を取得する方法は、既に確立された分野に該当し、前記の具体例に限定さ
れるものではない。
【0067】
本発明の抗体には、上記CD147に対するモノクローナル抗体に加え、ヒトに対する
異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例え
ば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト抗体な
ども含まれる。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0068】
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体、例えばマウ
ス又はラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げるこ
とができる(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,6851-
6855,(1984)参照)。LN22R8由来のキメラ抗体の一例として、配列表の
配列番号33の20乃至471番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖、
配列番号35の20乃至467番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖若
しくは配列番号37の20乃至468番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する
重鎖及び配列番号31の21乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有す
る軽鎖からなる抗体が挙げられる。2P10F2由来のキメラ抗体の一例として、配列表
の配列番号43の20乃至466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖
、配列表の配列番号45の20乃至462番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有
する重鎖若しくは配列番号47の20乃至463番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配
列を有する重鎖及び配列番号41の21乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸
配列を有する軽鎖からなる抗体が挙げられる。
【0069】
rat_CD147_#84由来のキメラ抗体の一例として、配列表の配列番号92の
20乃至470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖、配列表の配列番
号94の20乃至466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖、配列番
号96の20乃至467番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖、配列番
号98の20乃至470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖若しくは
配列番号100の20乃至467番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖
、及び、配列番号90の21乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有す
る軽鎖からなる抗体が挙げられる。
【0070】
rat_CD147_#101由来のキメラ抗体の一例として、配列表の配列番号10
4の20乃至463番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖、配列表の配
列番号106の20乃至464番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖若
しくは配列番号108の20乃至464番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有す
る重鎖、及び、配列番号102の21乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配
列を有する軽鎖からなる抗体が挙げられる。
【0071】
rat_CD147_#110由来のキメラ抗体の一例として、配列表の配列番号11
2の20乃至462番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖、配列表の配
列番号114の20乃至463番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖若
しくは配列番号116の20乃至463番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有す
る重鎖、及び、配列番号110の21乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配
列を有する軽鎖からなる抗体が挙げられる。
【0072】
rat_CD147_#131由来のキメラ抗体の一例として、配列表の配列番号12
0の20乃至464番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖若しくは配列
番号122の20乃至465番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖、及
び、配列番号118の21乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する
軽鎖からなる抗体が挙げられる。
【0073】
ヒト化抗体としては、CDRのみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(
1986)321,p.522-525参照)、CDR移植法によって、CDRの配列に
加え一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(国際公開第WO9
0/07861号パンフレット)を挙げることができる。
【0074】
rat_CD147_#84抗体由来のヒト化抗体としては、rat_CD147_#
84の6種全てのCDR配列を保持し、CD147に対する結合活性を有し、かつ、CD
147を活性化する抗体である限り、本発明の抗体に含まれる。なお、rat_CD14
7_#84抗体の重鎖可変領域は、配列番号55に示されるアミノ酸配列からなるCDR
H1、配列番号56に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号57に示
されるアミノ酸配列からなるCDRH3を保有している。また、rat_CD147_#
84抗体の軽鎖可変領域は、配列番号52に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、
配列番号53に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号54に示される
アミノ酸配列からなるCDRL3を保有している。rat_CD147_#84抗体の軽
鎖可変領域又は重鎖可変領域のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列、CDRのアミノ酸配
列は、
図33-1及び
図33-2にも記載されている。
【0075】
rat_CD147_#101抗体由来のヒト化抗体としては、rat_CD147_
#101の6種全てのCDR配列を保持し、CD147に対する結合活性を有し、かつ、
CD147を活性化する抗体である限り、本発明の抗体に含まれる。なお、rat_CD
147_#101抗体の重鎖可変領域は、配列番号65に示されるアミノ酸配列からなる
CDRH1、配列番号66に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号6
7に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を保有している。また、rat_CD14
7_#101抗体の軽鎖可変領域は、配列番号62に示されるアミノ酸配列からなるCD
RL1、配列番号63に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号64に
示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を保有している。rat_CD147_#10
1抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列、CDRの
アミノ酸配列は、
図34-1及び
図34-2にも記載されている。
【0076】
rat_CD147_#110抗体由来のヒト化抗体としては、rat_CD147_
#110の6種全てのCDR配列を保持し、CD147に対する結合活性を有し、かつ、
CD147を活性化する抗体である限り、本発明の抗体に含まれる。なお、rat_CD
147_#110抗体の重鎖可変領域は、配列番号75に示されるアミノ酸配列からなる
CDRH1、配列番号76に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号7
7に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を保有している。また、rat_CD14
7_#110抗体の軽鎖可変領域は、配列番号72に示されるアミノ酸配列からなるCD
RL1、配列番号73に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号74に
示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を保有している。rat_CD147_#11
0抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列、CDRの
アミノ酸配列は、
図35-1及び
図35-2にも記載されている。
【0077】
rat_CD147_#131抗体由来のヒト化抗体としては、rat_CD147_
#131の6種全てのCDR配列を保持し、CD147に対する結合活性を有し、かつ、
CD147を活性化する抗体である限り、本発明の抗体に含まれる。なお、rat_CD
147_#131抗体の重鎖可変領域は、配列番号85に示されるアミノ酸配列からなる
CDRH1、配列番号86に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号8
7に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を保有している。また、rat_CD14
7_#131抗体の軽鎖可変領域は、配列番号82に示されるアミノ酸配列からなるCD
RL1、配列番号83に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号84に
示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を保有している。rat_CD147_#13
1抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列、CDRの
アミノ酸配列は、
図36-1及び
図36-2にも記載される。
【0078】
また、さらに各CDR中の1乃至3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したC
DR改変ヒト化抗体も、CD147に対する結合活性を有し、かつ、CD147を活性化
する抗体である限り、本発明の抗体に含まれる。 rat_CD147_#84抗体由来
のヒト化抗体としては、以下の(a)及び(b)を有する、ヒトCD147抗体又は該抗
体の抗原結合断片が挙げられる:
(a)以下の(a1)乃至(a4)からなる群から選択されるいずれか1に記載の重鎖
可変領域:
(a1)配列番号123に示されるアミノ酸配列の20乃至140番目のアミノ酸残
基からなる重鎖可変領域;
(a2)配列番号125に示されるアミノ酸配列の20乃至140番目のアミノ酸残
基からなる重鎖可変領域;
(a3)(a1)又は(a2)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(a4)(a1)乃至(a3)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外
のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加された
アミノ酸配列、並びに、
(b)以下の(b1)乃至(b3)からなる群から選択されるいずれか1に記載の軽鎖
可変領域:
(b1)配列番号127に示されるアミノ酸配列の21乃至128番目のアミノ酸残
基からなる軽鎖可変領域;
(b2)(b1)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対
して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(b3)(b1)又は(b2)の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
【0079】
rat_CD147_#84抗体由来のヒト化抗体の好ましい例としては、配列番号1
25に示されるアミノ酸配列の20乃至140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域
及び配列番号127に示されるアミノ酸配列の21乃至128番目のアミノ酸残基からな
る軽鎖可変領域を含む抗体、又は、配列番号123に示されるアミノ酸配列の20乃至1
40番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域及び配列番号127に示されるアミノ酸配
列の21乃至128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む抗体が挙げられる。
【0080】
rat_CD147_#84抗体由来のヒト化抗体のより好ましい例としては、配列番
号125に示されるアミノ酸配列の20乃至467番目のアミノ酸残基からなる重鎖及び
配列番号127に示されるアミノ酸配列の21乃至234番目のアミノ酸残基からなる軽
鎖を含む抗体、又は、配列番号123に示されるアミノ酸配列の20乃至466番目のア
ミノ酸残基からなる重鎖及び配列番号127に示されるアミノ酸配列の21乃至234番
目のアミノ酸残基からなる軽鎖を含む抗体が挙げられる。
【0081】
rat_CD147_#101抗体由来のヒト化抗体としては、以下の(e)及び(f
)を有する、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片が挙げられる:
(e)以下の(e1)乃至(e4)からなる群から選択されるいずれか1に記載の重鎖
可変領域:
(e1)配列番号129に示されるアミノ酸配列の20乃至137番目のアミノ酸残
基からなる重鎖可変領域;
(e2)配列番号131に示されるアミノ酸配列の20乃至137番目のアミノ酸残
基からなる重鎖可変領域;
(e3)(e1)又は(e2)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(e4)(e1)乃至(e3)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外
のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加された
アミノ酸配列、並びに、
(f)以下の(f1)乃至(f3)からなる群から選択されるいずれか1に記載の軽鎖
可変領域:
(f1)配列番号133に示されるアミノ酸配列の21乃至128番目のアミノ酸残
基からなる軽鎖可変領域;
(f2)(f1)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対
して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(f3)(f1)又は(f2)の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
【0082】
rat_CD147_#101抗体由来のヒト化抗体の好ましい例としては、配列番号
129に示されるアミノ酸配列の20乃至137番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領
域及び配列番号133に示されるアミノ酸配列の21乃至128番目のアミノ酸残基から
なる軽鎖可変領域を含む抗体、又は、配列番号131に示されるアミノ酸配列の20乃至
137番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域及び配列番号133に示されるアミノ酸
配列の21乃至128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む抗体が挙げられる
。
【0083】
rat_CD147_#101抗体由来のヒト化抗体のより好ましい例としては、配列
番号129に示されるアミノ酸配列の20乃至463番目のアミノ酸残基からなる重鎖及
び配列番号133に示されるアミノ酸配列の21乃至234番目のアミノ酸残基からなる
軽鎖を含む抗体、又は、配列番号131に示されるアミノ酸配列の20乃至464番目の
アミノ酸残基からなる重鎖及び配列番号133に示されるアミノ酸配列の21乃至234
番目のアミノ酸残基からなる軽鎖を含む抗体が挙げられる。
【0084】
rat_CD147_#110抗体由来のヒト化抗体としては、以下の(c)及び(d
)を有する、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片が挙げられる:
(c)以下の(c1)~(c4)からなる群から選択されるいずれか1に記載の重鎖
可変領域:
(c1)配列番号135に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基
からなる重鎖可変領域;
(c2)配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基から
なる重鎖可変領域;
(c3)(c1)又は(c2)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(c4)(c1)~(c3)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外の
フレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたア
ミノ酸配列、並びに、
(d)以下の(d1)~(d5)からなる群から選択されるいずれか1に記載の軽鎖可
変領域:
(d1)配列番号137に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(d2)配列番号149に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(d3)配列番号151に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(d4)(d1)~(d3)のいずれか1に記載の配列において各CDR配列以外の
フレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸
配列;及び
(d5)(d1)~(d4)のいずれか1に記載の配列における各CDR配列以外の
フレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたア
ミノ酸配列。
【0085】
rat_CD147_#110抗体由来のヒト化抗体の好ましい例としては、配列番号
135に示されるアミノ酸配列の20乃至136番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領
域及び配列番号137に示されるアミノ酸配列の21乃至128番目のアミノ酸残基から
なる軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~136番
目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域及び配列番号149に示されるアミノ酸配列の2
1~128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む抗体;又は、配列番号147
に示されるアミノ酸配列の20~136番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域及び配
列番号151に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可
変領域を含む抗体が挙げられる。
【0086】
rat_CD147_#110抗体由来のヒト化抗体のより好ましい例としては、配列
番号135に示されるアミノ酸配列の20乃至463番目のアミノ酸残基からなる重鎖及
び配列番号137に示されるアミノ酸配列の21乃至234番目のアミノ酸残基からなる
軽鎖を含む抗体;配列番号147に示されるアミノ酸配列の20~463番目のアミノ酸
残基からなる重鎖、及び、配列番号149に示されるアミノ酸配列の21~234番目の
アミノ酸残基からなる軽鎖を含む抗体;又は、配列番号147に示されるアミノ酸配列の
20~463番目のアミノ酸残基からなる重鎖、及び、配列番号151に示されるアミノ
酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなる軽鎖を含む抗体が挙げられる。
【0087】
rat_CD147_#131抗体由来のヒト化抗体としては、以下の(g)及び(h
)を有する、ヒトCD147抗体又は該抗体の抗原結合断片が挙げられる:
(g)以下の(g1)~(g3)からなる群から選択されるいずれか1に記載の重鎖可
変領域:
(g1)配列番号139に示されるアミノ酸配列の20~138番目のアミノ酸残基
からなる重鎖可変領域;
(g2)(g1)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対
して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(g3)(g1)又は(g2)の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、並び
に、
(h)以下の(h1)~(h3)からなる群から選択されるいずれか1に記載の軽鎖可
変領域:
(h1)配列番号141に示されるアミノ酸配列の21~128番目のアミノ酸残基
からなる軽鎖可変領域;
(h2)(h1)の配列において各CDR配列以外のフレームワーク領域の配列に対
して少なくとも95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列;及び
(h3)(h1)又は(h2)の配列における各CDR配列以外のフレームワーク領
域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
【0088】
rat_CD147_#131抗体由来のヒト化抗体の好ましい例としては、配列番号
139に示されるアミノ酸配列の20乃至138番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領
域及び配列番号141に示されるアミノ酸配列の21乃至128番目のアミノ酸残基から
なる軽鎖可変領域を含む抗体が挙げられる。
【0089】
rat_CD147_#131抗体由来のヒト化抗体のより好ましい例としては、配列
番号139に示されるアミノ酸配列の20乃至464番目のアミノ酸残基からなる重鎖及
び配列番号141に示されるアミノ酸配列の21乃至234番目のアミノ酸残基からなる
軽鎖を含む抗体が挙げられる。
【0090】
上記のrat_CD147_#84抗体由来のヒト化抗体、rat_CD147_#1
01抗体由来のヒト化抗体、rat_CD147_#110抗体由来のヒト化抗体又はr
at_CD147_#131抗体由来のヒト化抗体は、好ましくは、CD147を介した
p38MAPKシグナル伝達及び/又はSMAD4のシグナル伝達を活性化する。
【0091】
本発明の抗体としては、さらに、ヒト抗体を挙げることができる。抗CD147ヒト抗
体とは、ヒト染色体由来の抗体の遺伝子配列のみを有するヒト抗体を意味する。抗CD1
47ヒト抗体は、例えば、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有する
ヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka,K.et al.,Nature
Genetics(1997)16,p.133-143;Kuroiwa,Y.et
.al.,Nucl.Acids Res.(1998)26,p.3447-3448
;Yoshida,H.et.al.,Animal Cell Technology
:Basic and Applied Aspects vol.10,p.69-7
3(Kitagawa,Y.,Matsuda,T.and Iijima,S.eds
.),Kluwer Academic Publishers,1999;Tomiz
uka,K.et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000
)97,p.722-727等を参照。)によって取得することができる。
【0092】
このようなヒト抗体産生マウスは、具体的には、内在性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の
遺伝子座が破壊され、代わりにヒト人工染色体(Human artificial c
hromosome,HAC)ベクターやマウス人工染色体(Mouse artifi
cial chromosome,MAC)ベクターなどのベクターを介してヒト免疫グ
ロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が導入された遺伝子組み換え動物を、ノックアウト動物
及びトランスジェニック動物の作製、及びこれらの動物同士を掛け合わせることにより作
り出すことができる。
【0093】
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードす
るcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターにより真核細胞を形質転換し、遺伝子
組換えヒトモノクローナル抗体を産生する形質転換細胞を培養することにより、この抗体
を培養上清中から得ることもできる。ここで、宿主としては例えば真核細胞、好ましくは
CHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞を用いることができる。
【0094】
また、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得
する方法(Wormstone,I.M.et.al,Investigative O
phthalmology & Visual Science.(2002)43(7
),p.2301-2308;Carmen,S.et.al.,Briefings
in Functional Genomics and Proteomics(20
02),1(2),p.189-203;Siriwardena,D.et.al.,
Ophthalmology(2002)109(3),p.427-431等参照。)
も知られている。
【0095】
例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージ表面に発現させ
て、抗原に結合するファージを選択するファージディスプレイ法(Nature Bio
technology(2005),23,(9),p.1105-1116)を用いる
ことができる。抗原に結合することで選択されたファージの遺伝子を解析することによっ
て、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる
。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する発現ベクタ
ーを作製し、適当な宿主に導入して発現させることによりヒト抗体を取得することができ
る(WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/
11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388、A
nnu.Rev.Immunol(1994)12,p.433-455、Nature
Biotechnology(2005)23(9),p.1105-1116)。
【0096】
本発明の提供する抗体と同じエピ卜ープを有する抗体も本発明の抗体に含まれる。例え
ば、LN22R8、2P10F2、rat_CD147_#84、rat_CD147_
#101、rat_CD147_#110又はrat_CD147_#131のうちの少
なくともいずれか1つと同じエピ卜-プを有する抗体が挙げられる。
【0097】
本発明のLN22R8及び2P10F2は、
図3のmu3で表されるエピトープ(ヒト
CD147v1:DALPGQKTEFKVDSDDQ(配列番号143)、サルCD1
47:DTLPGQKTDFEVDSDDL(配列番号144))を認識した。本発明の
抗体には、配列番号143又は配列番号144、あるいは配列番号143又は配列番号1
44の配列において1又は数個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個のアミ
ノ酸が欠失、置換又は不可されたアミノ酸配列を含む配列を認識又は結合する抗体も、そ
の範囲に含まれる。この抗体は、CD147を介したシグナル伝達を活性化することが好
ましい。
【0098】
また、本発明の抗体には、rat_CD147_#110、好ましくは、ヒト化#11
0H1L4と同じエピトープを認識する抗体を含む。この抗体は、CD147を介したシ
グナル伝達を活性化することが好ましい。ヒト化#110H1L4のエピトープ解析の結
果は、実施例17に示される。
【0099】
好適な抗体は、当業者に周知の抗原に対する結合性を評価することで選抜することがで
きる。抗体と抗原(CD147)との解離定数は表面プラズモン共鳴(SPR)を検出原
理とするビアコアT200(GE Healthcare Bioscience社)を
使用して測定することができる。例えば、リガンドとして固相化した抗原に対し、適当な
濃度に設定した抗体をアナライトと反応させ、その結合及び解離を測定することにより、
結合速度定数ka1、解離速度定数kd1及び解離定数(KD; KD=kd1/ka1
)を得ることができる。
【0100】
CD147に対する結合性評価は、ビアコアT200の使用に限定されず、表面プラズ
モン共鳴(SPR)を検出原理とする機器、結合平衡除外法(Kinetic Excl
usion Assay)を検出原理とするKinExA(Sapidyne Inst
ruments社)、バイオレイヤー干渉法(Bio-Layer Interfero
metry)を検出原理とするBLItzシステム(Pall社)あるいはELISA(
Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法等によって
も可能である。
【0101】
抗体の性質を比較する際の別の指標の一例としては、抗体の安定性を挙げることができ
る。示差走査カロリメトリー(DSC)は、蛋白の相対的構造安定性の良い指標となる熱
変性中点(Tm)を素早く、また正確に測定することができる方法である。DSCを用い
てTm値を測定し、その値を比較することによって、熱安定性の違いを比較することがで
きる。抗体の保存安定性は、抗体の熱安定性とある程度の相関を示すことが知られており
(Lori Burton,et.al.,Pharmaceutical Devel
opment and Technology(2007)12,p.265-273)
、熱安定性を指標に、好適な抗体を選抜することができる。抗体を選抜するための他の指
標としては、適切な宿主細胞における収量が高いこと、及び水溶液中での凝集性が低いこ
とを挙げることができる。例えば収量の最も高い抗体が最も高い熱安定性を示すとは限ら
ないので、以上に述べた指標に基づいて総合的に判断して、ヒトへの投与に最も適した抗
体を選抜する必要がある。
【0102】
また、抗体の重鎖及び軽鎖の全長配列を適切なリンカーを用いて連結し、一本鎖イムノ
グロブリン(single chain immunoglobulin)を取得する方
法も知られている(Lee,H-S,et.al.,Molecular Immuno
logy(1999)36,p.61-71;Shirrmann,T.et.al.,
mAbs(2010),2,(1)p.1-4)。このような一本鎖イムノグロブリンは
二量体化することによって、本来は四量体である抗体と類似した構造と活性を保持するこ
とが可能である。また、本発明の抗体は、単一の重鎖可変領域を有し、軽鎖配列を有さな
い抗体であってもよい。このような抗体は、単一ドメイン抗体(single doma
in antibody:sdAb)又はナノボディ(nanobody)と呼ばれてお
り、実際にラクダ又はラマで観察され、抗原結合能が保持されていることが報告されてい
る(Muyldemans S.et.al.,Protein Eng.(1994)
7(9),1129-35,Hamers-Casterman C.et.al.,N
ature(1993)363(6428)446-8)。上記の抗体は、本発明におけ
る抗体の抗原結合断片の一種と解釈することも可能である。
【0103】
また、本発明の抗体に結合している糖鎖修飾を調節することによって、抗体依存性細胞
障害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、WO99/
54342、WO2000/61739、WO2002/31140等が知られているが
、これらに限定されるものではない。
【0104】
抗体遺伝子を一旦単離した後、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な
宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
【0105】
抗体遺伝子の具体例としては、本明細書に記載された抗体の重鎖配列をコードする遺伝
子、及び軽鎖配列をコードする遺伝子を組み合わせたものを挙げることができる。宿主細
胞を形質転換する際には、重鎖配列遺伝子と軽鎖配列遺伝子は、同一の発現ベクターに挿
入されていることが可能であり、又別々の発現ベクターに挿入されていることも可能であ
る。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真核微生物を用いること
ができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gl
uzman,Y.Cell(1981)23,p.175-182、ATCC CRL-
1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL-1658)やチ
ャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)のジヒドロ葉
酸還元酵素欠損株(Urlaub,G.and Chasin,L.A.Proc.Na
tl.Acad.Sci.U.S.A.(1980)77,p.4126-4220)を
挙げることができる。また、原核細胞を使用する場合は、例えば、大腸菌、枯草菌を挙げ
ることができる。これらの細胞に目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転
換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。以上の培養法に
おいては抗体の配列によって収量が異なる場合があり、同等な結合活性を持つ抗体の中か
ら収量を指標に医薬としての生産が容易なものを選別することが可能である。
【0106】
本発明の抗体のアイソタイプとしての制限はなく、例えばIgG(IgG1,IgG2
,IgG3,IgG4)、IgM、IgA(IgA1,IgA2)、IgDあるいはIg
E等を挙げることができるが、好ましくはIgG又はIgM、さらに好ましくはIgGが
挙げられる。
【0107】
ヒトIgG1とは、5種存在するヒトIgG サブクラスのなかで、補体結合を介した
CDC活性、抗体依存的な細胞障害活性といったエフェクター機能が非常に強く(Bru
ggemann et al., J. Exp. Med., 1351-1361,
1987)、治療用抗体で癌に高発現する分子を標的とする場合に、エフェクター機能
を介した細胞障害による癌細胞の細胞死誘導を促すことで治療効果を示すIgGフォーマ
ットとして利用される(トラスツズマブ、リツキシマブなど)。HLA-DRを標的とし
たヒトIgG1抗体では、ヒトIgG1に備わった抗体のCDC活性に依存し、投与後の
カニクイザルが死亡したことが報告されており、正常臓器でも発現している分子を標的と
する抗体医薬では、エフェクター機能が重篤な副作用を引き起こす懸念がある(Tawa
ra, T., J. Immunology, 2008, 2294-2298)。
本発明の抗体のアイソタイプとしてIgG1を用いる場合は、IgG1抗体は変異を有し
ていてもよく、定常領域のアミノ酸残基の一部を置換することによって、エフェクター機
能を調整することが可能である(WO88/007089、WO94/28027、WO
94/29351参照)。エフェクター機能を減弱させたIgG1の変異体としては、I
gG1 LALA(IgG1-L234A、L235A)、1gG1 LAGA(IgG
1-L235A、G237A)等が挙げられる。
【0108】
ヒトIgG2とは、5種存在するヒトIgG サブクラスのなかで、補体結合を介した
CDC活性、抗体依存的な細胞障害活性といったエフェクター機能が非常に弱く(Bru
ggemann et al.,J.Exp.Med.,1351-1361,1987
)、治療用抗体で正常臓器に発現する分子を標的とする場合にエフェクター機能を介した
細胞障害による毒性を回避するためのIgGフォーマットの一つとして利用される(デノ
スマブ、エボロクマブ、ブロダルマブ)。
【0109】
ヒトIgG4とは、5種存在するヒトIgG サブクラスのなかで、補体結合を介した
CDC活性、抗体依存的な細胞障害活性といったエフェクター機能が非常に弱く(Bru
ggemann et al.,J.Exp.Med.,1351-1361,1987
)、治療用抗体で正常臓器に発現する分子を標的とする場合にエフェクター機能を介した
細胞障害による毒性を回避するためのIgGフォーマットの一つとして利用される(オプ
ジーボ)。本発明の抗体のアイソタイプとしてIgG4を用いる場合は、定常領域のアミ
ノ酸残基の一部を置換することによって、IgG4特有の分割が抑制され、半減期を延長
することが可能である(Molecular Immunology、30、1 105
-108(1993)参照)。
【0110】
本発明の抗体のアイソタイプとしてIgG4を用いる場合、IgG4抗体は変異を有し
ていてもよい。IgG4の変異体としては、EUインデックス(Proc Natl A
cad Sci US A.1969、63(1)、78-85;Kabat et.
al., Sequences of proteins of immunologi
cal interest, 1991 Fifth edition)により示される
234位のフェニルアラニンのアラニンへの置換(F234A)及び235位のロイシン
のアラニンへの置換(L235A)が挙げられる(Parekh et al., mA
bs, 310-318, 2012)。このような抗体の変異をFALA変異と呼ぶ。
IgG4PFALAは、CH2ドメインに存在するFcγRs(例えば、FcγRI、F
cγRII又はFcγRIIIなど)との相互作用に必要なアミノ酸残基2つをアラニン
に置換することで、更にエフェクター機能を減弱させている。また、IgG4は抗体重鎖
間のSS結合の形成が安定していないので、安定性を高めるために、抗体重鎖間のSS結
合の形成を促進させる変異を導入する。このような変異として、EUインデックスにより
示される228位のセリンのプロリンへの置換(S228P)が挙げられる(ANGAL
et.al.,Molecular Immunology,105-108,199
3)。この抗体の変異をPro変異と呼ぶ。 本発明の抗体の定常領域には、上記のFA
LA変異及びPro変異が同時に導入されていてもよい(Vafa et.al.,Me
thods,65,114-126,2014)。FALA変異を有するIgG4重鎖を
「IgG4FALA」タイプ重鎖と呼び、Pro変異を有するIgG4重鎖を「IgG4
P」タイプ重鎖と呼び、FALA変異及びPro変異の両方の変異を有するIgG4重鎖
を「IgG4PFALA」タイプ重鎖と呼ぶ。
【0111】
抗体重鎖定常領域はCH1、ヒンジ、CH2及びCH3領域からなり、CH1は、EU
インデックス118から215、ヒンジはEUインデックス216から230、CH2は
EUインデックス231から340、CH3はEUインデックス341から446と定義
される。EUインデックスにより示される、228位のセリンから置換されたプロリン、
234位のフェニルアラニンから置換されたアラニン及び235位のロイシンから置換さ
れたアラニンは、それぞれ、ヒトキメラrat_CD147_#84重鎖IgG4PFA
LAのアミノ酸配列を示す配列番号100において第248番目のプロリン、第254番
目のアラニン及び第255番目のアラニン、ヒトキメラrat_CD147_#101重
鎖IgG4PFALAのアミノ酸配列を示す配列番号108において第245番目のプロ
リン、第251番目のアラニン及び第252番目のアラニン、ヒトキメラrat_CD1
47_#110重鎖IgG4PFALAのアミノ酸配列を示す配列番号108において第
244番目のプロリン、第250番目のアラニン及び第251番目のアラニンに相当する
。
【0112】
本発明の抗体の好ましいアイソタイプとしては、IgG1、IgG2、IgG4、Ig
G4P又は、IgG4PFALAが挙げられ、特に好ましくは、IgG2、IgG4P又
は、IgG4PFALAが挙げられ、さらにより好ましくは、IgG2又はIgG4Pが
挙げられる。
【0113】
また本発明の抗体は、抗体の抗原結合部を有する抗体の抗原結合断片又はその修飾物で
あってもよい。抗体をパパイン、ペプシン等の蛋白質分解酵素で処理するか、あるいは抗
体遺伝子を遺伝子工学的手法によって改変し適当な培養細胞において発現させることによ
って、該抗体の断片を得ることができる。このような抗体断片のうちで、抗体全長分子の
持つ機能の全て又は一部を保持している断片を抗体の抗原結合断片と呼ぶことができる。
抗体の機能としては、抗原に関連するシグナル伝達の活性化を挙げることができる。
【0114】
CD147は、赤血球をはじめとする血液細胞や生存に必須な正常臓器でも発現してい
るため(Spring,et al.,Eur.J.Immunol.,1997,89
1-897)、抗体に付随するエフェクター機能を利用しての抗腫瘍効果は副作用のリス
クが高いと考えられる。実際に赤血球は、抗体結合によって生じるエフェクター機能(A
DCC,CDC,ADCP)に感受性があることが報告されており(Flegel,W.
,Transfusion,2015,S47-S58)、赤血球に対する抗体が体内で
増加することで自己免疫性溶血性貧血となることが知られている(Gibson,J.,
Aust.N.Z.J.Med., 1988. 625-637)。本発明の抗体は、
正常細胞にも発現するCD147を標的とした治療用抗体において、重篤な副作用の原因
となるADCC活性、ADCP活性又はCDC活性のいずれか、あるいは、すべてが低い
又はほとんど検出されないことを特徴とする。
【0115】
本発明者らは、抗体のエフェクター機能によらず、CD147の細胞シグナル伝達を活
性化することで抗腫瘍活性を示すヒトCD147抗体を初めて見出した。本発明における
抗体が保持する機能は、CD147に対する結合活性及び/又はCD147を活性化する
機能である。本発明の抗体は、好ましくはCD147を介する下流の関連シグナル分子、
例えば、FAK、MEK、Erk、JAK/STAT、AKT又はMAPキナーゼ(MA
PK)あるいはこれらのさらに下流の関連シグナル分子を活性化する。本発明の抗体は、
より好ましくは、MAPK又はMAPKの下流の分子を活性化する。MAPKとして、好
ましくは、p38MAPKが挙げられる。MAPKのさらに下流のシグナル分子としては
、例えば、HSP27、cxcl8又はSMAD(例えば、SMAD2、SMAD3又は
SMAD4、好ましくは、SMAD4)が挙げられる。「CD147の活性化」としては
、例えば、p38MAPKのmRNA発現量の増加、p38MAPKの蛋白質発現量の増
加、p38MAPKのリン酸化、HSP27のリン酸化(例えば、HSP27のSer8
2のリン酸化又はHSP27のSer15のリン酸化)、cxcl8 mRNA発現量の
増加、cxcl8蛋白質発現量の増加又はSMADシグナル活性化を介したrhoB m
RNA発現量の増加又はrhoB蛋白質発現量の増加が挙げられる。「CD147の活性
化」として好ましくは、p38MAPKの蛋白質発現量の増加、p38MAPKのリン酸
化、HSP27のリン酸化(例えば、HSP27のSer82のリン酸化又はHSP27
のSer15のリン酸化)、cxcl8 mRNA発現量の増加又はSMADシグナル活
性化を介したrhoB mRNA発現量の増加が挙げられる。 SMAD2又はSMAD
3は、TGFβがTGFβ受容体(TGFBR1/2)に結合した際に、TGFβ受容体
によってリン酸化され、SMAD4とヘテロ三量体を形成して、核内に移行し、染色体上
のSMAD DNA結合配列(Smad binding element:SBE)を
持つ転写調節領域に結合し、下流遺伝子のmRNA発現を正あるいは負に制御することが
知られている(宮園、日老医誌、1999、162-166)。従って、SMAD4の活
性化には、SMAD2又はSMAD3の存在が必要であると考えられる。SMAD2、S
MAD3及びSMAD4は、TGFb依存的にKLF5の発現量を負に制御している(D
avid et al.,Cell, 2016,164(5),1015-1030)
。SMAD4が失われている膵臓癌細胞では、KLF5遺伝子のSMAD2、SMAD3
及びSMAD4による抑制シグナルが解除され、KLF5蛋白質が発現する。SMAD4
が失われ、KLF5が発現しているとTGFb依存的な細胞死のシグナル(SOX4依存
的)が抑制されることが知られている(前出、David et al、Cell)。
【0116】
本発明者らは、本発明のヒトCD147抗体が、p38MAPKをリン酸化し(
図21
)、HSP27をリン酸化し(
図20)、cxcl8の発現を増加させることを見出した
(
図22(b)及び
図23(b))。従って、本発明の抗体投与前後で、これらの分子の
うちの少なくともいずれか1つの遺伝子発現若しくは蛋白質発現、又はリン酸化の状態が
変化するかを確認することによって、本発明の抗体が、CD147の活性化を介している
かどうかを確認することができる。
【0117】
また、本発明者らは、本発明のヒトCD147抗体は、SMAD4の蛋白質が発現して
いる膵臓癌モデルに対し薬効を示すこと(
図25);本発明のヒトCD147抗体は、S
MAD4に遺伝子変異があり、SMAD4を発現していないBxPC-3などの膵臓癌モ
デルでは、抗腫瘍効果は部分的(~30%程度)であったこと(
図24);並びに、本発
明のヒトCD147抗体を投与した後の腫瘍では、SMAD2、SMAD3及びSMAD
4の下流の分子(rhoB、
図22(c)及び
図23(c))が誘導されることを見出し
た。従って、本発明の抗体投与前後で、rhoBの遺伝子発現又は蛋白質発現が変化する
かどうかを確認することによって、本発明の抗体が、CD147の活性化を介しているか
どうかを確認することができる。また、患者サンプルにおけるSMAD4のゲノム配列、
遺伝子発現又は蛋白質発現を当業者に周知の方法を用いて測定し、SMAD4を発現して
いる患者を本発明の抗体を投与する対象患者として選択し、本発明の抗体を投与すること
ができる。
【0118】
また、BxPC-3などのSMAD4陰性のモデルでは、KLF5の発現が高いことが
知られている(David et al.,Cell, 2016,164(5),10
15-1030)。本発明のヒトCD147抗体は、KLF5を発現させたMIA Pa
Ca-2のモデルで、感受性が91%から20%に低下した(実施例26)。このことか
ら、KLF5が発現することで、CD147抗体によって誘導されるSMAD2、SMA
D3及びSMAD4依存的な細胞死のシグナルが抑制されると本発明者らは考える。肝癌
、ALL、リンパ腫、消化管間質腫瘍(GIST)、皮膚癌、肉腫、AML又は、腎臓癌
はKLF5の発現量が低く、本発明のヒトCD147抗体が効く患者が多いことが予想さ
れる。また、患者サンプルにおけるKLF5の遺伝子発現又は蛋白質発現を当業者に周知
の方法を用いて測定し、KLF5の発現が低下又は欠失している患者を本発明の抗体を投
与する対象患者として選択し、本発明の抗体を投与することができる。この場合のKLF
5発現の低下の程度は、当業者によって周知の方法及び適切な臨床試験の実施により決定
され得、例えば、効果の得られた患者と効果の得られなかった患者におけるKLF5の発
現量を比較して適切な閾値が設定される。
【0119】
例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab’)2、Fv、又は重鎖及び軽鎖のF
vを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、diabody(
diabodies)、線状抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体などを挙げ
ることができる。また、F(ab’)2を還元条件下で処理した抗体の可変領域の一価の
断片であるFab’も抗体の断片に含まれる。
【0120】
さらに、本発明の抗体は少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異性を有する多特異
性抗体であってもよい。通常このような分子は2種類の抗原に結合するものであるが(即
ち、二重特異性抗体(bispecific antibody))、本発明における「
多特異性抗体」は、それ以上(例えば、3種類)の抗原に対して特異性を有する抗体を包
含するものである。
【0121】
本発明の多特異性抗体は、全長からなる抗体、又はそのような抗体の断片(例えば、F
(ab’)2二重特異性抗体)でもよい。二重特異性抗体は2種類の抗体の重鎖と軽鎖(
HL対)を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハ
イブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することによっても、作
製することができる(Millstein et al.,Nature(1983)3
05,p.537-539)。
【0122】
本発明の抗体は一本鎖抗体(scFvとも記載する)でもよい。一本鎖抗体は、抗体の
重鎖可変領域と軽鎖可変領域とをポリペプチドのリンカーで連結することにより得られる
(Pluckthun,The Pharmacology of Monoclona
l Antibodies,113(Rosenberg及びMoore編、Sprin
ger Verlag,New York,p.269-315(1994)、Natu
re Biotechnology(2005),23,p.1126-1136)。ま
た、2つのscFvをポリペプチドリンカーで結合させて作製されるBiscFv断片を
二重特異性抗体として使用することもできる。
【0123】
一本鎖抗体を作製する方法は当技術分野において周知である(例えば、米国特許第4,
946,778号、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,091,513号
、米国特許第5,455,030号等を参照)。このscFvにおいて、重鎖可変領域と
軽鎖可変領域は、コンジュゲートを作らないようなリンカー、好ましくはポリペプチドリ
ンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl
.Acad.Sci.U.S.A.(1988),85,p.5879-5883)。s
cFvにおける重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、同一の抗体に由来してもよく、別々の
抗体に由来してもよい。可変領域を連結するポリペプチドリンカーとしては、例えば12
~19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0124】
scFvをコードするDNAは、前記抗体の重鎖又は重鎖可変領域をコードするDNA
、及び軽鎖又は軽鎖可変領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は
所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー
対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにポリペプチドリンカー部分をコードす
るDNA、及びその両端が各々重鎖、軽鎖と連結されるように規定するプライマー対を組
み合わせて増幅することにより得られる。
【0125】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクタ
ー、及び該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また
、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。これらの抗
体断片は、前記と同様にして遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができ
る。
【0126】
本発明の抗体は、多量化して抗原に対する親和性を高めたものであってもよい。多量化
する抗体としては、1種類の抗体であっても、同一の抗原の複数のエピトープを認識する
複数の抗体であってもよい。抗体を多量化する方法としては、IgG CH3ドメインと
2つのscFvとの結合、ストレプトアビジンとの結合、へリックスーターン-へリック
スモチーフの導入等を挙げることができる。
【0127】
本発明の抗体は、アミノ酸配列が異なる複数種類の抗CD147抗体の混合物である、
ポリクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体の一例としては、CDRが異な
る複数種類の抗体の混合物を挙げることができる。そのようなポリクローナル抗体として
は、異なる抗体を産生する細胞の混合物を培養し、該培養物から精製された抗体を用いる
ことが出来る(WO2004/061104参照)。
【0128】
本発明の抗体は、上記の抗体の重鎖及び/又は軽鎖と比較して80%乃至99%との同
一性(又は相同性)を有する抗体であってもよい。上記の重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミ
ノ酸配列と高い相同性を示す配列を組み合わせることによって、上記の各抗体と同等の抗
原結合能、CD147の活性化、好ましくは、MAPKの活性化、MAPKの下流シグナ
ル分子の活性化を有する抗体を選択することが可能である。このような相同性は、一般的
には80%以上の相同性であり、好ましくは90%以上の相同性相同性であり、より好ま
しくは95%以上の相同性であり、最も好ましくは99%以上の相同性である。また、重
鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列に1乃至数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付
加されたアミノ酸配列を組み合わせることによっても、上記の各抗体と同等の各種作用を
有する抗体を選択することが可能である。置換、欠失及び/又は付加されるアミノ酸残基
数は、一般的には10アミノ酸残基以下であり、好ましくは5乃至6アミノ酸残基以下で
あり、より好ましくは2乃至3アミノ酸残基以下であり、最も好ましくは1アミノ酸残基
である。 なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体の重鎖のカルボキシル末端のリジン残
基が欠失することが知られており(Tsubaki et.al.,Int.J.Bio
l.Macromol,139-147,2013)。しかし、これらの重鎖配列の欠失
及び修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障
害作用など)には影響を及ぼさない。従って、本発明には当該修飾を受けた抗体も含まれ
、重鎖カルボキシル末端において1又は2つのアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化
された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖
)等を挙げることができる。但し、抗原結合能及びCD147の下流の関連シグナル分子
を活性化する機能が保たれている限り、本発明に係る抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠
失体は上記の種類に限定されない。本発明に係る抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及
び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であってもよいし、いずれ
か二種を組み合わせたものであってもよい。各欠失体の量比は本発明に係る抗体を産生す
る哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、本発明に係る抗体の主成分と
しては2本の重鎖の双方でカルボキシル末端の1つのアミノ酸残基が欠失している場合を
挙げることができる。
【0129】
二種類のアミノ酸配列間の相同性は、Blast algorithm versio
n 2.2.2(Altschul,Stephen F.,Thomas L.Mad
den,Alejandro A.Schaffer,Jinghui Zhang,Z
heng Zhang,Webb Miller,and David J.Lipma
n(1997),「Gapped BLAST and PSI-BLAST:a ne
w generation of protein database search
programs」,Nucleic Acids Res.25:3389-3402
)のデフォルトパラメーターを使用することによって決定することができる。Blast
algorithmは、インターネットでwww.ncbi.nlm.nih.gov
/blastにアクセスすることによっても使用することができる。なお、上記のBla
st algorithmによってIdentity(又はIdentities)及び
Positivity(又はPositivities)の2種類のパーセンテージの値
が計算される。前者は相同性を求めるべき二種類のアミノ酸配列の間でアミノ酸残基が一
致した場合の値であり、後者は化学構造の類似したアミノ酸残基も考慮した数値である。
本明細書においては、アミノ酸残基が一致している場合のIdentity(同一性)の
値を持って相同性の値とする。
【0130】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体
を使用することもできる。
【0131】
本発明の抗体は、更にこれらの抗体と他の薬剤がコンジュゲートを形成しているもの(
Immunoconjugate)でもよい。このような抗体の例としては、該抗体が放
射性物質や薬理作用を有する化合物と結合している物を挙げることができる(Natur
e Biotechnology(2005)23,p.1137-1146)。
【0132】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質
で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばカラムクロマトグラフィー、
フィルター濾過、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電
点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Str
ategies for Protein Purification and Cha
racterization:A Laboratory Course Manual
,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring
Harbor Laboratory Press(1996);Antibodie
s:A Laboratory Manual.Ed Harlow and Davi
d Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(198
8))が、これらに限定されるものではない。
【0133】
クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマ
トグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマト
グラフィー、吸着クロマトグラフィー等を挙げることができる。
【0134】
これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液体クロマトグラフィーを用
いて行うことができる。
【0135】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プ
ロテインGカラムを挙げることができる。
【0136】
例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D,POROS,Se
pharose F.F.(GEヘルスケア)等を挙げることができる。
【0137】
また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも
可能である。
【0138】
(抗CD147抗体を含有する医薬)
上述の「抗CD147抗体の製造」の項に記載された方法で得られる抗CD147抗体
の中から、本発明の抗CD147抗体を得ることができる。このようにして得られた抗体
は、腫瘍及び/又は癌の治療及び/又は予防剤として用いることができる。 本発明の抗
CD147抗体は、優れた抗腫瘍活性を有し、腫瘍又は癌の治療薬として有用である。本
発明の抗CD147抗体は、ゲムシタビン耐性癌細胞やソラフェニブ低感受性癌細胞に対
しても優れた抗腫瘍効果を示した。本発明の抗CD147抗体は、慢性骨髄性白血病細胞
において、イマチニブよりも顕著に強い薬効を示した。
【0139】
本発明の抗CD147抗体又は該抗体を含有する医薬によって治療され得る腫瘍として
は、CD147を発現する腫瘍であれば特に限定されないが、好ましくは、膵臓癌、肝癌
、胃癌、大腸癌、腎癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、肺癌、甲状腺癌、皮膚癌、頭頸部癌、肉
腫、前立腺癌、膀胱癌、脳腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、白血病(例えば、急性骨
髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、又は慢性リンパ性白血病(CLL
)又は急性リンパ性白血病(ALL))、リンパ腫又は悪性リンパ腫(例えば、B細胞リ
ンパ腫、非ホジキンリンパ腫又はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse l
arge B-cell lymphoma、DLBCL))が挙げられ、より好ましく
は、膵臓癌、肝癌、胃癌、大腸癌、腎癌、白血病、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨
髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)
、悪性リンパ腫、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫又はびまん性大細胞型B細胞リン
パ腫(DLBCL)が挙げられる。
【0140】
また、本発明の抗体又は該抗体を含有する医薬によって治療され得る腫瘍としては、S
MAD陽性のCD147を発現する腫瘍が挙げられ、SMAD陽性のCD147を発現す
る腫瘍としては、例えば、SMAD陽性のCD147を発現する肝癌又は膵臓癌が挙げら
れる。本発明の抗CD147抗体又は該抗体を含有する医薬は、好ましくは、CD147
及び/又はSMADの発現が確認された患者に投与される。SMADとしては、好ましく
は、SMAD2、SMAD3及び/又はSMAD4が挙げられ、より好ましくは、SMA
D4が挙げられる。好ましくは、SMAD4の発現の確認にあわせて、SMAD2又はS
MAD3のうちの少なくともいずれか1つが発現していることが確認される。
【0141】
あるいは、本発明の抗体又は該抗体を含有する医薬によって治療され得る腫瘍としては
、KLF5の発現が低下又は欠失した腫瘍が挙げられ、KLF5の発現が低下又は欠失し
た腫瘍としては、肝癌、ALL、リンパ腫、消化管間質腫瘍(GIST)、皮膚癌、肉腫
、AML又は腎臓癌が挙げられる。本発明の抗CD147抗体又は該抗体を含有する医薬
は、好ましくは、KLF5の発現が低下又は欠失が確認された患者に投与される。
【0142】
本発明の抗CD147抗体は、治療の目的によって、2、3あるいはそれ以上の他の治
療剤を投与することもできるし、それらの他の治療剤は同じ製剤の中に封入することによ
って同時に投与することができる。他の治療剤と抗CD147抗体は同じ製剤の中に封入
することによって同時に投与することもできる。また、抗CD147抗体と他の治療剤を
別々の製剤に封入して同時に投与することもできる。さらに、他の薬剤と抗CD147抗
体を相前後して別々に投与することもできる。すなわち、他の治療剤を投与した後に抗C
D147抗体又は該抗体の抗原結合断片を有効成分として含有する治療剤を投与するか、
あるいは抗CD147抗体又は該抗体の抗原結合断片を有効成分として含有する治療剤を
投与した後に他の治療剤を投与してもよい。
【0143】
本発明は、治療及び/又は予防に有効な量の抗CD147抗体と薬学上許容される希釈
剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含む医薬組成物も提供する。
【0144】
本発明は、治療及び/又は予防に有効な量の抗CD147抗体と治療及び/又は予防に
有効な量の少なくとも一つの抗腫瘍治療剤と薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、
乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含む医薬組成物も提供する。
【0145】
本発明の医薬組成物において許容される製剤に用いる物質としては好ましくは投与量や
投与濃度において、医薬組成物を投与される者に対して非毒性のものが好ましい。
【0146】
本発明の医薬組成物は、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、無菌性、安定性、
溶解率、徐放率、吸収率、浸透率を変えたり、保持したりするための製剤用の物質を含む
ことができる。製剤用の物質として以下のものを挙げることができるが、これらに制限さ
れない:グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン等のア
ミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸
化剤、リン酸、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素ナトリウム、トリス-塩酸(Tr
is-Hcl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン
四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β-シクロデ
キストリンやヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マ
ンノース又はデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類等の他の炭水化物、着色剤、香味
剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、
塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェ
ネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロレキシジン、ソルビン酸又
は過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレン・グリコール又はポリエチレングリコ
ール等の溶媒、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール、懸濁剤、ソルビタンエ
ステル、ポリソルベート20やポリソルベート80等のポリソルベート、トリトン(tr
iton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチン又はコレステロール
等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カ
リウムやマンニトール・ソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、賦形剤、及び/又は薬学
上の補助剤。これらの製剤用の物質の添加量は、抗CD147抗体の重量に対して0.0
1~100倍、特に0.1~10倍添加するのが好ましい。製剤中の好適な医薬組成物の
組成は当業者によって、適用疾患、適用投与経路などに応じて適宜決定することができる
。
【0147】
医薬組成物中の賦形剤や担体は液体でも固体でもよい。適当な賦形剤や担体は注射用の
水や生理食塩水、人工脳脊髄液や非経口投与に通常用いられている他の物質でもよい。中
性の生理食塩水や血清アルブミンを含む生理食塩水を担体に用いることもできる。医薬組
成物にはpH7.0-8.5のTrisバッファー、pH4.0-5.5の酢酸バッファ
ー、pH3.0-6.2のクエン酸バッファーを含むことができる。また、これらのバッ
ファーにソルビトールや他の化合物を含むこともできる。本発明の医薬組成物には抗CD
147抗体を含む医薬組成物並びに、抗CD147抗体及び少なくとも一つの抗腫瘍治療
剤を含む医薬組成物を挙げることができ、本発明の医薬組成物は選択された組成と必要な
純度を持つ薬剤として、凍結乾燥品あるいは液体として準備される。抗CD147抗体を
含む医薬組成物並びに、抗CD147抗体及び少なくとも一つの抗癌剤治療剤を含む医薬
組成物はスクロースのような適当な賦形剤を用いた凍結乾燥品として成型されることもで
きる。
【0148】
本発明の医薬組成物は非経口投与用に調製することもできるし、経口による消化管吸収
用に調製することもできる。製剤の組成及び濃度は投与方法によって決定することができ
る。本発明の抗体をヒトに対して投与する際には、約0.1~100mg/kgを1~1
80日間に1回又は複数回投与すればよい。しかし、投与量や投与回数は、一般に、患者
の性別、体重、年齢、症状、重篤度、副作用などを考慮して決定されるべきものであるの
で、上記の用量や用法には限定されないものとする。
【0149】
本発明の医薬組成物の形態としては、点滴を含む注射剤、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮
吸収剤などを挙げることができる。投与経路は、経口経路又は非経口経路であり、非経口
経路には、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、直腸内、経粘膜内、皮内などの経路が挙げ
られる。
【0150】
本発明の抗体若しくは当該抗体の抗原結合断片、これらを含む薬物複合体、これらを含
むバイスペシフィック抗体又はこれらを含有する医薬組成物は、これらが投与される患者
選別のためのバイオマーカーと組み合わせて提供され得る。これらの抗体や医薬組成物は
、バイオマーカーを検出する手段と組み合わせてキットとして提供されていてもよいし、
抗体や医薬組成物の提供とバイオマーカーとの提供は別々であってもよい。バイオマーカ
ーを用いることにより、本発明の抗体や医薬組成物は、本発明の抗体の効果がより高く期
待される患者群に投与され得る。
【0151】
本発明は、癌患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるSMAD4
の発現又はKLF5の発現を測定し、SMAD4が検出された患者又はKLF5の発現低
下若しくは欠失が検出された患者を、本発明の抗体若しくは当該抗体の機能性断片又は本
発明の医薬組成物による癌の治療への応答性があると判定することを含む、癌の治療への
応答性を予測する方法;癌患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中におけるS
MAD4の発現又はKLF5の発現を検出し、SMAD4が検出された患者又はKLF5
の発現低下若しくは欠失が検出された患者を、本発明の抗体若しくは当該抗体の機能性断
片又は本発明の医薬組成物による癌の治療の対象者として選別することを含む、癌の治療
の対象を選別する方法;癌患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれる
SMAD4の発現又はKLF5の発現を検出し、SMAD4が検出された患者又はKLF
5の発現低下若しくは欠失が検出された患者に対し、本発明の抗体若しくは当該抗体の機
能性断片又は本発明の医薬組成物を投与することを含む、癌の治療方法;あるいは、本発
明の抗体若しくは当該抗体の機能性断片又は本発明の医薬組成物による癌の治療への応答
性を判定するためのキットであって、癌患者由来の生物学的試料中のSMAD4の発現又
はKLF5の発現を検出する手段を少なくとも含む、キットに関する。
【0152】
本明細書において「生物学的試料」は、個体から単離された組織、液体、細胞、および
それらの混合物をいい、例えば腫瘍生検、髄液、胸腔内液、腹腔内液、リンパ液、皮膚切
片、血液、尿、糞便、痰、呼吸器、腸管、尿生殖器管、唾液、乳、消化器官、およびこれ
らから採取された細胞を挙げることができるが、これらに限定されない。「生物学的試料
」は、がん細胞を含む試料であることが好ましく、より好ましくは切除や生検により得ら
れた組織や細胞、あるいは胸腔内液や腹腔内液に由来する細胞を例示できる。さらに好ま
しい生物学的試料は、がん細胞またはがん組織を含む試料である。
【0153】
「SMAD4の発現」の検出や測定は、SMAD4のゲノム配列、遺伝子発現又は蛋白
質発現を当業者に周知の方法を用いて実施することができ、例えば、RNAシークエンス
、マイクロアレイ、ゲノムシークエンス、イムノアッセイが挙げられる。
【0154】
「KLF5の発現」の検出や測定は、KLF5のゲノム配列、遺伝子発現又は蛋白質発
現を当業者に周知の方法を用いて検出することができ、例えば、IHC、RNAシークエ
ンス、マイクロアレイ、ゲノムシークエンス、イムノアッセイが挙げられる。「KLF5
の発現低下」とは、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織における発現レベル)
との比較において、それよりも発現レベルが低いことをいう。あるいは、本発明の抗体又
は医薬組成物による癌の治療への応答性があると判定することができるKLF5発現の低
下の程度は、当業者によって周知の方法及び適切な臨床試験の実施により決定され得、例
えば、効果の得られた患者と効果の得られなかった患者におけるKLF5の発現量を比較
して適切な閾値が設定される。従って、「KLF5の発現低下」とは、例えば、このよう
にして設定された閾値よりも下であることをいう。
【実施例0155】
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定される
ものではない。また、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されるものではない
。なお、下記実施例において遺伝子操作に関する各操作は特に明示がない限り、「モレキ
ュラークローニング(Molecular Cloning)」(Sambrook,J
.,Fritsch,E.F.及びManiatis,T.著,Cold Spring
Harbor Laboratory Pressより1989年発刊)に記載の方法及
びその他の当業者が使用する実験書に記載の方法により行うか、又は、市販の試薬やキッ
トを用いる場合には市販品の指示書に従って行った。また、本明細書において、特に記載
のない試薬、溶媒及び出発材料は、市販の供給源から容易に入手可能である。本実施例に
おいて、ヒト膵臓株MIA PaCa-2は、ATCC,Cat.CRL-1420を使
用し、ヒト膵臓癌細胞株PANC-1は、ATCC,Cat.CRL-1469を使用し
た。
【0156】
(実施例1)細胞免疫によるマウス・ラット抗体の作製
1)-1 CD147発現ベクターの作製
市販のヒトCD147遺伝子(BSG variant2/CD147v2)のクロー
ンIOH3378(インビトロジェン社)と哺乳類細胞用発現ベクターpcDNA-DE
ST40(インビトロジェン社)をGateway LR クロナーゼを用いて反応させ
、ヒトCD147v2発現ベクター(pcDNA-DEST40-CD147v2)を作
製した。
【0157】
市販のヒトCD147遺伝子(BSG variant1/CD147v1)の哺乳類
細胞用発現ベクターpCMV6-XL5-hBSGv1(Origene社、Cat.S
C303059)を購入し、ヒトCD147v1発現ベクターとした。
【0158】
カニクイザルCD147発現ベクターとして、pCMV3-cynoBSG(Sino
Biological Inc.、Cat.CG90636-UT)を購入した。
【0159】
マウスCD147v2発現ベクターとして、pCMV3-mBSGv2(Sino B
iological Inc.、Cat.MG50332-UT)を購入した。
【0160】
1)-2 マウスハイブリドーマの作製
4~6週齢のBALB/cAnNCrlCrljマウス(日本チャールス・リバー社)
を使用した。0日目、7日目、15日目及び24日目にベルセン(Thermo Fis
her Scientific社)で剥がした5×106個のLNCaP細胞(ATCC
,CRL-1740)をPBSに懸濁して背部皮下に投与した。31日目に同じ細胞を5
×106個静脈投与し、同日に脾臓を採取しハイブリドーマ作製に用いた。脾臓細胞とマ
ウスミエローマP3X63Ag8U.1細胞(ATCC,CRL-1597)とをPEG
4000(IBL社)を用いて細胞融合しハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの
単離、培養には、ClonaCell-HY MediumD(STEMCELL TE
CHNOLOGIES社)、ClonaCell-HY MediumE(STEMCE
LL TECHNOLOGIES社)を用いた。
【0161】
1)-3 ラットハイブリドーマの作製
7週齢のWKY/Izm(日本エスエルシー株式会社)を使用した。ヒト膵臓癌細胞株
PANC-1を1×107個、臀部に免疫し13日後に腸骨リンパ節細胞を採取しハイブ
リドーマ作製に用いた。ラット脾臓細胞とマウスミエローマSP2/0-Ag14細胞(
ATCC, CRL-1581)をLF301細胞融合装置(株式会社ベックス)を用い
て細胞融合しハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの単離、培養には、Clona
Cell-HY MediumD(STEMCELL TECHNOLOGIES社)、
ClonaCell-HY MediumE(STEMCELL TECHNOLOGI
ES社)を用いた。
【0162】
1)-4 ELISAによる抗原同定
ヒトCD147Fc融合蛋白質(Sino Biological社、Cat.101
86-H02H)とマウスCD147Fc融合蛋白質(Sino Biological
社、Cat.50332-M03H)を使用した。ヒトCD147Fc融合蛋白質とマウ
スCD147Fc融合蛋白質は、PBS緩衝液を添加し、氷上で溶解し、1μg/mlに
調製した。同蛋白質溶解液を96ウェルプレート(NUNC社、Cat.442404)
に100μl加え、4℃一晩保存し、ウェルをCD147Fc融合蛋白質でコートした。
蛋白質溶解液を除き、1%BSA(Research Organics社、Cat.1
334A)を含むPBS緩衝液でウェルを4℃、2時間ブロッキングした。0.05%T
ween20(ATTO社、Cat.WSE-7235)を含むPBS緩衝液でウェルを
3回洗浄したのち、実施例1)-2、1)-3で調製したハイブリドーマ培養上清をPB
S緩衝液で20倍に希釈し各ウェルに加え室温で1時間加温した。0.05%Tween
20(ATTO社、Cat.WSE-7235)を含むPBS緩衝液でウェルを3回洗浄
した後、1%BSAを含むPBS緩衝液で50000倍に希釈したanti-rat-F
ab2-igG-HRP(Jackson ImmunoResearch社、Cat.
112-036-072)を100μl加え30分間、室温で振盪した。0.05%Tw
een20(ATTO社、Cat.WSE-7235)を含むPBS緩衝液でウェルを5
回洗浄した後、100μlのHRP酵素発色試薬(eBioscience社、Supe
r AquaBlue ELISA substrate,Cat.00-4203)を
加え、10~20分室温で加温し、プレートリーダー(Envision、パーキンエル
マー社)で405nmの吸光度を測定した。2~3ウェルの吸光度の測定値について平均
値を算出し、1次抗体なしの対照ウェルでの測定値の2倍以上の吸光度が観察された抗体
について結合性あり(+)、2倍に満たないものを結合性なし(-)と判定し表1にまと
めた。LN22R8、2P1A6、2P3A9、2P3G8、2P8C12、2P10F
2、2P2D7、2P2D10、2P1B7の培養上清について、ヒトCD147Fc融
合蛋白質コートウェル特異的な発色を確認した。LN24R7、2P5F5、2P6A2
、2P3G8については、ヒト及びマウスCD147Fc融合蛋白質コートウェル特異的
な発色を確認した。
【0163】
【0164】
1)-5 モノクローナル抗体の調製と抗体アイソタイプの決定
実施例1)-4で抗ヒトCD147抗体産生が確認されたハイブリドーマで、安定的に
培養可能なものについて、市販のIsotypingキットを用いて、培養上清に含まれ
る抗体のアイソタイプを決定し表2に示した。CL-1000フラスコ(日本ベクトン・
ディッキンソン株式会社)を用いて、これらのハイブリドーマを培養し、モノクローナル
抗体を含むハイブリドーマ培養上清を調製した。
【0165】
【0166】
1)-6 モノクローナル抗体の精製
実施例1)-5で作製した培養上清から抗体を精製した。抗ヒトCD147マウスモノ
クローナル抗体については、rProtein Aアフィニティークロマトグラフィー(
4~6℃下)1段階工程で精製した。rProtein Aアフィニティークロマトグラ
フィー精製後のバッファー置換工程は4~6℃下で実施した。最初に培養上清をPBSで
平衡化したMabSelectSuRe(GE Healthcare Bioscie
nce社製)が充填されたカラムにアプライした。培養液がカラムに全て入ったのち、カ
ラム容量2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に2M アルギニン塩酸塩溶液(pH
4.0)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Sc
ientific社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassett
e)によりHBSor(25mM Histidine/5% Sorbitol/pH
6.0)への液置換を行った。Centrifugal UF Filter Devi
ce VIVASPIN20(分画分子量UF10K,Sartorius社,4℃下)
にて濃縮し、IgG濃度を4.9mg/mlに調製した。最後にMinisart-Pl
us filter(Sartorius社)でろ過し、精製サンプルとした。
【0167】
抗ヒトCD147ラットモノクローナル抗体については、Protein Gアフィニ
ティークロマトグラフィー(4~6℃下)1段階工程で精製した。Protein Gア
フィニティークロマトグラフィー精製後のバッファー置換工程は4~6℃下で実施した。
最初に、PBSで平衡化したProteinG(GE Healthcare Bios
cience社)が充填されたカラムにハイブリドーマの培養上清をアプライした。培養
上清液がカラムに全て入ったのち、カラム容量2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次
に0.1M グリシン/塩酸水溶液(pH2.7)で溶出し、抗体の含まれる画分を集め
た。集めた画分に1M Tris-HCl(pH9.0)を加えてpH7.0~7.5に
調整した後に、Centrifugal UF Filter Device VIVA
SPIN20(分画分子量UF30K、Sartorius社,4~6℃下)にてHBS
or(25mM Histidine/5% Sorbitol/pH6.0)へのバッ
ファー置換を行うとともに濃縮を行い、抗体濃度を1mg/mL以上に調製した。最後に
Minisart-Plus filter(Sartorius社)でろ過し、精製サ
ンプルとした。
【0168】
1)-7 in vivo抗腫瘍活性測定による抗体スクリーニング
1×107個のヒト膵臓株PANC-1をPBSで懸濁し、NOD-scidマウス(
日本チャールス・リバー社、NOD.CB17-Prkdc<scid>/J)の腋窩部
皮下に移植した。腫瘍体積をもとに群分けをし、移植の27、34、41日後にマウス抗
CD147抗体(LN22R8)、ラット抗CD147抗体(2P1A6、2P1B7、
2P3G8、2P2D10、2P8C12、2P10F2)を10mg/kgで担癌マウ
スの腹腔内に投与した(n=6)。移植の27、34日後にラット抗CD147抗体(2
P2D6)を10mg/kgで担癌マウスの腹腔内に投与した(n=6)。移植腫瘍の長
径及び短径を週2回、電子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下
に示す計算式により腫瘍体積を算出した。
【0169】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図1(a)~(c)に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標
準誤差を併せて記載した。2P2D6抗体、2P3G8抗体及び2P2D10抗体の結果
を
図1(a)に示した。最終測定日である移植48日後における腫瘍増殖抑制率は、10
mg/kg投与群で、それぞれ、10%、45%及び40%であった。LN22R8抗体
、2P1A6抗体及び2P1B7抗体の結果を
図1(b)に示した。最終測定日である移
植48日後における腫瘍増殖抑制率は、10mg/kg投与群で、それぞれ、50%、2
6%及び24%であった。2P8C12抗体及び2P10F2抗体の結果を
図1(c)に
示した。最終測定日である移植48日後における腫瘍増殖抑制率は、10mg/kg投与
群で、それぞれ、-2%及び62%であった。
【0170】
1)-8 CD147抗体の種交差性の解析
CHO-K1細胞(ATCC、CCL-61)にLipofectamine 200
0(Thermofishers scientific社、Cat.11668-01
9)を用いて、実施例1)-1で作製したpcDNA-DEST40-CD147v2、
又はpCMV3-cynoBSGを導入し、1日後にマウス抗ヒトCD147抗体(LN
22R8)、又はラット抗ヒトCD147抗体(2P1A6、2P1B7、2P3G8、
2P2D10、2P8C12、2P10F2、2P2D6)、10μg/mlで処理し、
抗マウスIgG-FITC(MP Biomedical社、Cat.554936)又
は、抗ラットIgG-PE(BD Biosciences社、Cat.550767)
を用いて各抗体のCD147発現CHO-K1細胞への結合を蛍光検出可能にした。CH
O-K1細胞のヒトとカニクイザルCD147発現は、市販の抗CD147抗体(MEM
-M6/1、Ab serotec社、 Cat.MCA28822)の結合により蛍光
検出可能にした。上記の細胞について、フローサイトメーター(CantoII、BD
Bioscience社)の測定を実施し、
図2-1~3に結果をまとめた。図の縦軸は
細胞数を示し、横軸は蛍光シグナルの強度を示す。
【0171】
市販の抗CD147抗体(MEM-M6/1)、マウス抗ヒトCD147抗体(LN2
2R8)、ラット抗CD147抗体(2P1A6、2P1B7、2P3G8、2P2D1
0、2P8C12、2P10F2、2P2D6)、いずれの抗CD147抗体もヒトCD
147発現CHO-K1細胞に結合性を示した(
図2-1~3)。
【0172】
市販の抗CD147抗体(MEM-M6/1)はカニクイザルCD147発現CHO-
K1細胞に結合性を示したが、マウス抗ヒトCD147抗体(LN22R8)、ラット抗
ヒトCD147抗体(2P1A6、2P1B7、2P3G8、2P2D10、2P8C1
2、2P10F2、2P2D6)、いずれのCD147抗体もカニクイザルCD147発
現CHO-K1細胞には結合性を示さなかった(
図2-1~3)。
【0173】
なお、いずれの抗CD147抗体もマウスCD147発現CHO-K1細胞には結合性
を示さなかった(データ未記載)。
【0174】
1)-9 エピトープ解析
エピトープ解析用のヒトCD147異体発現ベクターの作製
カニクイザルとヒトのCD147のアミノ酸配列は、BLAST検索(https:/
/blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)の結果、81
%が同一であり、限られたアミノ酸の違いが、CD147抗体結合性のエピトープ認識に
直接影響していると想定し、種間で異なるアミノ配列を部分的に移植した変異体を用いて
の抗腫瘍エピトープの推定を進めることにした。hCD147v1、v2共通に含まれる
アミノ酸配列を対象として、カニクイザルとヒトのCD147での配列比較を実施し、種
間で異なるアミノ酸領域の9領域に分類し、mu1~mu9とした(
図3)。CD147
変異体発現ベクター作製と細胞膜上への発現確認用にN末端にFLAG配列を導入したヒ
トCD147variant2のcDNA配列を人工合成し、pcDNA3.1ベクター
に導入したプラスミド、Signal-N-Flag-hCD147v2_pcDNA3
.1(Genscript社にて作製)を作製した。さらに同プラスミドのヒトCD14
7遺伝子にカニクイザルのCD147アミノ酸配列mu1~mu9について、DNA置換
によるアミノ酸置換変異として導入したヒト-カニクイザルキメラCD147発現ベクタ
ー9種、hCD147-mu1_pcDNA3.1、hCD147-mu2_pcDNA
3.1、hCD147-mu3_pcDNA3.1、hCD147-mu4_pcDNA
3.1、hCD147-mu5_pcDNA3.1、hCD147-mu6_pcDNA
3.1、hCD147-mu7_pcDNA3.1、hCD147-mu8_pcDNA
3.1、hCD147-mu9_pcDNA3.1作製した(Genscript社にて
作製)。
【0175】
1)-10 変異体を用いた抗腫瘍エピトープ領域の特定
ヒトCD147、カニクイザルCD147又は、ヒト-カニクイザルキメラCD147
発現ベクター9種の発現ベクターをCHO-K1細胞(ATCC、CCL-61)にLi
pofectamine 2000(サーモサイエンティフィック社、Cat.1166
8-019)を用いて、導入し、1日後に抗ヒトCD147マウス抗体(LN22R8)
、ラット抗ヒトCD147抗体(2P1A6、2P1B7、2P3G8、2P2D10、
2P8C12、2P10F2、2P2D6)、10μg/mlで処理し、抗マウスIgG
-PE(DAKO社、Cat.R480)、抗ラットIgG-PE(BD社、#5507
67)を用いて抗CD147抗体のCD147発現CHO-K1細胞への結合を調べた。
CD147蛋白質の発現は、市販の抗FLAG抗体(anti-Flag M2, SI
GMA社、Cat.F4049-.2MG)を用いて確認した。フローサイトメーター(
CantoII、BD Bioscience社)の測定を実施し、表3に結果をまとめ
た。1次抗体未処理の対照細胞と比較し、10倍以上の蛍光シグナルの増加が認められた
サンプルについて、結合陽性(+)と判定した。10倍未満の部分的な蛍光シグナルの増
加が認められたサンプルについて、結合弱陽性(±)と判定した。1次抗体未処理の対照
細胞と比較し、蛍光シグナルの増加が認められなかったサンプルについて、結合陰性(-
)と判定した。
【0176】
実施例1)-7で40%以上の抗腫瘍効果が観察された抗体2P3G8、2P10F2
、2P2D10、LN22R8の抗体は、いずれもmu3の変異を持つCD147への結
合性が失われていた。抗腫瘍効果に重要なエプトープはm3領域であることが示唆された
。
【0177】
【0178】
1)-11 LN22R8と2P10F2抗体の可変領域をコードするcDNAのヌク
レオチド配列の決定
1)-11-1 LN22R8抗体の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配
列の決定
1)-11-1-1 LN22R8抗体生産ハイブリドーマのtotal RNAの調
製
LN22R8抗体の可変領域をコードするcDNAを増幅するため、LN22R8抗体
産生ハイブリドーマよりTRIzol Reagent(Ambion社)を用いてto
tal RNAを調製した。
【0179】
1)-11-1-2 5’-RACE PCRによるLN22R8抗体の軽鎖可変領域
をコードするcDNAの増幅と配列の決定
軽鎖可変領域をコードするcDNAの増幅は、実施例1)-11-1-1で調製したt
otal RNAの約1 μgとSMARTer RACE 5’/3’ Kit(Cl
ontech社)を用いて実施した。LN22R8抗体の軽鎖遺伝子の可変領域をコード
するcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM (Universa
l Primer A Mix:SMARTer RACE 5’/3’ Kitに付属
)、及び公知のマウス軽鎖の定常領域の配列から設計したプライマーを用いた。
【0180】
5’-RACE PCRで増幅した軽鎖の可変領域をコードするcDNAをプラスミド
にクローニングし、次に軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列のシー
クエンス解析を実施した。
【0181】
決定されたLN22R8抗体の軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配
列を配列番号7に示し、アミノ酸配列を配列番号8に示す。LN22R8抗体の軽鎖可変
領域のCDRL1、CDRL2及びCDRL3を、それぞれ、配列番号11、12及び1
3に示す。
【0182】
1)-11-1-3 5’-RACE PCRによるLN22R8抗体の重鎖可変領域
をコードするcDNAの増幅と配列の決定
重鎖可変領域をコードするcDNAの増幅は、実施例1)-11-1-1で調製したt
otal RNAの約1μgとSMARTer RACE 5’/3’ Kit(Clo
ntech社)を用いて実施した。LN22R8抗体の重鎖遺伝子の可変領域をコードす
るcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM(Universal
Primer A Mix:SMARTer RACE 5’/3’ Kitに付属)、
及び公知のマウス重鎖の定常領域の配列から設計したプライマーを用いた。
【0183】
5’-RACE PCRで増幅した重鎖の可変領域をコードするcDNAをプラスミド
にクローニングし、次に重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列のシー
クエンス解析を実施した。
【0184】
決定されたLN22R8抗体の重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配
列を配列番号9に示し、アミノ酸配列を配列番号10に示す。LN22R8抗体の重鎖可
変領域のCDRH1、CDRH2及びCDRH3を、それぞれ、配列番号14、15及び
16に示す。
【0185】
1)-11-2 2P10F2抗体の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配
列の決定
実施例1)-11-1と同様の方法で実施した。ただし、軽鎖遺伝子の可変領域をコー
ドするcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM(Universa
l Primer A Mix:SMARTer RACE 5’/3’ Kitに付属
)、及び公知のラット軽鎖の定常領域の配列から設計したプライマーを用い、重鎖遺伝子
の可変領域をコードするcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM(
Universal Primer A Mix:SMARTer RACE 5’/3
’ Kitに付属)、及び公知のラット重鎖の定常領域の配列から設計したプライマーを
用いた。
【0186】
決定された2P10F2抗体の軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配
列を配列番号17に示し、アミノ酸配列を配列番号18に示す。2P10F2抗体の軽鎖
可変領域のCDRL1、CDRL2及びCDRL3を、それぞれ、配列番号21、22及
び23に示す。重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号19
に示し、アミノ酸配列を配列番号20に示す。2P10F2抗体の重鎖可変領域のCDR
H1、CDRH2及びCDRH3を、それぞれ、配列番号24、25及び26に示す。
【0187】
1)-12 LN22R8のヒトキメラ抗体発現ベクターの作製
1)-12-1 ヒトキメラ及びヒト化軽鎖発現ベクターpCMA-LKの構築
プラスミドpcDNA3.3-TOPO/LacZ(Invitrogen社)を制限
酵素XbaI及びPmeIで消化して得られる約5.4kbのフラグメントと、配列番号
27に示すヒト軽鎖シグナル配列及びヒトκ鎖定常領域をコードするDNA配列を含むD
NA断片をIn-Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社
)を用いて結合して、pcDNA3.3/LKを作製した。
【0188】
pcDNA3.3/LKからネオマイシン発現ユニットを除去することによりpCMA
-LKを構築した。
【0189】
1)-12-2 ヒトキメラ及びヒト化IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA-G
1の構築
pCMA-LKをXbaI及びPmeIで消化して軽鎖シグナル配列及びヒトκ鎖定常
領域を取り除いたDNA断片と、配列番号28で示されるヒト重鎖シグナル配列及びヒト
IgG1定常領域のアミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片をIn-Fusi
on HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて結合して、pC
MA-G1を構築した。
【0190】
1)-12-3 ヒトキメラ及びヒト化IgG2タイプ重鎖発現ベクターpCMA-G
2の構築
配列番号29で示されるヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG2定常領域のアミノ酸を
コードするDNA配列を含むDNA断片をもちいて、実施例1)-12-2と同様の方法
でpCMA-G2を構築した。
【0191】
1)-12-4 ヒトキメラLN22R8の軽鎖発現ベクターの構築
実施例1)-11-1-2で得られたLN22R8の軽鎖の可変領域をコードするcD
NAをテンプレートとして、In-fusionクローニング用に設計したプライマーで
PCRを行うことにより軽鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅し
た。pCMA-LKを制限酵素BsiWIで切断した箇所に、In-Fusion HD
PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、増幅したDNA断片を挿
入することによりヒトキメラLN22R8の軽鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメラL
N22R8の軽鎖のヌクレオチド配列及び該軽鎖のアミノ酸配列を、配列番号30及び配
列番号31にそれぞれ示す。
【0192】
1)-12-5 ヒトキメラLN22R8のIgG1タイプ重鎖発現ベクターの構築
1)-11-1-3で得られたLN22R8重鎖の可変領域をコードするcDNAをテ
ンプレートとして、In-fusionクローニング用に設計したプライマーでPCRを
行うことにより重鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅した。pC
MA-G1を制限酵素BlpIで切断した箇所に、In-Fusion HD PCRク
ローニングキット(Clontech社)を用いて、増幅したDNA断片を挿入すること
によりヒトキメラLN22R8のIgG1タイプ重鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメ
ラLN22R8のIgG1タイプ重鎖のヌクレオチド配列及び該重鎖のアミノ酸配列を、
配列番号32及び配列番号33にそれぞれ示す。
【0193】
1)-12-6 ヒトキメラLN22R8のIgG2タイプ重鎖発現ベクターの構築
実施例1)-11-1-3で得られたLN22R8重鎖の可変領域をコードするcDN
Aをテンプレートとして、In-fusionクローニング用に設計したプライマーでP
CRを行うことにより重鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅した
。pCMA-G2を制限酵素BlpIで切断した箇所に、In-Fusion HD P
CRクローニングキット(Clontech社)を用いて、増幅したDNA断片を挿入す
ることによりヒトキメラLN22R8のIgG2タイプ重鎖発現ベクターを構築した。ヒ
トキメラLN22R8のIgG2タイプ重鎖のヌクレオチド配列及び該重鎖のアミノ酸配
列を、配列番号34及び配列番号35にそれぞれ示す。
【0194】
1)-12-7 ヒトキメラLN22R8のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターの構築
配列番号36に示すヒトキメラLN22R8のIgG4Pタイプ重鎖のアミノ酸配列を
コードするDNA配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社)。合成したDN
A断片をもちいて、実施例1)-12-2と同様の方法でヒトキメラLN22R8のIg
G4Pタイプ重鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメラLN22R8のIgG4Pタイプ
重鎖のアミノ酸配列を配列番号37に示す。
【0195】
1)-13 2P10F2のヒトキメラ抗体発現ベクターの作製
1)-13-1 ヒトキメラ及びヒト化IgG1LALAタイプ重鎖発現ベクターpC
MA-G1LALAの構築
配列番号38で示されるヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG1LALA定常領域のア
ミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片をもちいて、実施例1)-12-2と同
様の方法でpCMA-G1LALAを構築した。
【0196】
1)-13-2 ヒトキメラ及びヒト化IgG4Pタイプ重鎖発現ベクターpCMA-
G4Pの構築
配列番号39で示されるヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG4P定常領域のアミノ酸を
コードするDNA配列を含むDNA断片をもちいて、実施例1)-12-2と同様の方法
でpCMA-G4Pを構築した。
【0197】
1)-13-3 ヒトキメラ2P10F2の軽鎖発現ベクターの構築
実施例1)-11-2で得られた2P10F2の軽鎖の可変領域をコードするcDNA
をテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-4と同様の方法でヒトキメラ2P1
0F2の軽鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメラ2P10F2の軽鎖のヌクレオチド配
列及び該軽鎖のアミノ酸配列を、配列番号40及び配列番号41にそれぞれ示す。
【0198】
1)-13-4 ヒトキメラ2P10F2のIgG1LALAタイプ重鎖発現ベクター
の構築
実施例1)-11-2で得られた2P10F2の重鎖の可変領域をコードするcDNA
をテンプレートとしてもちいて、In-fusionクローニング用に設計したプライマ
ーでPCRを行うことにより重鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増
幅した。pCMA-G1LALAを制限酵素BlpIで切断した箇所に、In-Fusi
on HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、増幅したDN
A断片を挿入することによりヒトキメラ2P10F2のIgG1LALAタイプ重鎖発現
ベクターを構築した。ヒトキメラ2P10F2のIgG1LALAタイプ重鎖のヌクレオ
チド配列及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号42及び配列番号43にそれぞれ示す。
【0199】
1)-13-5 ヒトキメラ2P10F2のIgG2タイプ重鎖発現ベクターの構築
実施例1)-11-2で得られた2P10F2の重鎖の可変領域をコードするcDNA
をテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-6と同様の方法でヒトキメラ2P1
0F2のIgG2タイプ重鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメラ2P10F2のIgG
2タイプ重鎖のヌクレオチド配列及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号44及び配列番
号45にそれぞれ示す。
【0200】
1)-13-6 ヒトキメラ2P10F2のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターの構築
実施例1)-11-2で得られた2P10F2の重鎖の可変領域をコードするcDNA
をテンプレートとしてもちいて、In-fusionクローニング用に設計したプライマ
ーでPCRを行うことにより重鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増
幅した。pCMA-G4Pを制限酵素BlpIで切断した箇所に、In-Fusion
HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、増幅したDNA断片
を挿入することによりヒトキメラ2P10F2のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターを構
築した。ヒトキメラ2P10F2のIgG4Pタイプ重鎖のヌクレオチド配列及び該重鎖
のアミノ酸配列を、配列番号46及び配列番号47にそれぞれ示す。
【0201】
1)-14 LN22R8、2P10F2のヒトキメラ抗体の生産と調製
1)-14-1 LN22R8、2P10F2のヒトキメラ抗体の生産
FreeStyle 293F細胞(Invitrogen社)はマニュアルに従い、
継代、培養をおこなった。対数増殖期の1.2×109個のFreeStyle 293
F細胞(Invitrogen社)を3L Fernbach Erlenmeyer
Flask(CORNING社)に播種し、FreeStyle293 express
ion medium (Invitrogen社)で希釈して2.0×106細胞/m
Lに調製した。40mLのOpti-Pro SFM培地(Invitrogen社)に
0.24mgの重鎖発現ベクターと0.36mgの軽鎖発現ベクターと1.8mgのPo
lyethyleneimine(Polyscience #24765)を加えて穏
やかに攪拌し、さらに5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した
。37℃、8%CO2インキュベーターで4時間、90rpmで振とう培養後に600m
LのEX-CELL VPRO培地(SAFC Biosciences社)、18mL
のGlutaMAX I(GIBCO社)、及び30mLのYeastolate Ul
trafiltrate(GIBCO社)を添加し、37℃、8%CO2インキュベータ
ーで7日間、90rpmで振とう培養して得られた培養上清をDisposable C
apsule Filter (Advantec #CCS-045-E1H)でろ過
した。
【0202】
ヒトキメラLN22R8のIgG1タイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラLN22R8
の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したLN22R8のヒトキメラ抗体を「LN22
R8chIgG1」と命名した。ヒトキメラLN22R8のIgG2タイプ重鎖発現ベク
ターとヒトキメラLN22R8の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したLN22R8
のヒトキメラ抗体を「LN22R8chIgG2」と命名した。ヒトキメラLN22R8
のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラLN22R8の軽鎖発現ベクターの組
み合わせで取得したLN22R8のヒトキメラ抗体を「LN22R8chIgG4P」と
命名した。ヒトキメラ2P10F2のIgG1LALAタイプ重鎖発現ベクターとヒトキ
メラ2P10F2の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したL2P10F2のヒトキメ
ラ抗体を「2P10F2chIgG1LALA」と命名した。ヒトキメラ2P10F2の
IgG2タイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラ2P10F2の軽鎖発現ベクターの組み合
わせで取得したL2P10F2のヒトキメラ抗体を「2P10F2chIgG2」と命名
した。ヒトキメラ2P10F2のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラ2P1
0F2の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したL2P10F2のヒトキメラ抗体を「
2P10F2chIgG4P」と命名した。
【0203】
1)-14-2 LN22R8、2P10F2のヒトキメラ抗体の精製
実施例1)-14-1で得られた培養上清から抗体をrProtein Aアフィニテ
ィークロマトグラフィーの1段階工程で精製した。培養上清をPBSで平衡化したMab
SelectSuReが充填されたカラム(GE Healthcare Biosci
ence社製)にアプライしたのちに、カラム容量の2倍以上のPBSでカラムを洗浄し
た。次に2M アルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、抗体の含まれる画分を集
めた。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide-A-Ly
zer Dialysis Cassette)によりHBSor(25mM ヒスチジ
ン/5% ソルビトール、pH6.0)へのバッファー置換を行った。Centrifu
gal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF1
0K,Sartorius社)で抗体を濃縮し、IgG濃度を1 mg/mL以上に調製
した。最後にMinisart-Plus filter(Sartorius社)でろ
過し、精製サンプルとした。
【0204】
1)-15 ヒトキメラ抗体のADCC活性
ヒトキメラ抗体のADCC活性について、エフェクター細胞としてヒトの末梢血単核球
(PBMC)、ADCC標的細胞としてヒト膵臓株MIA PaCa-2を用いて評価し
た。放射線同位体
51Crで標識したMIA PaCa-2細胞とマウス抗体(LN22
R8)、ラット抗体(2P10F2)、又は、ヒトキメラ抗体(LN22R8chIgG
1、LN22R8chIgG2、LN22R8chIgG4P、2P10F2chIgG
1LALA、2P10F2chIgG4P)を0.5又は、5μg/mlの濃度で4℃3
0分間処理した後、ヒトの末梢血から分離したPBMCをMIA PaCa-2細胞の2
0倍の割合で加え、4時間、37度、5%CO2存在下で培養した。上清中に放出された
51CrをTopCount NXT v2.53を用いて測定しTotal rele
ase値を得た。
51Crで標識したMIA PaCa-2細胞をTriton-100
で処理して放出された
51Crの測定値をMaximamu release値、PBM
Cを加えない抗体処理細胞から処理して放出された
51Crの測定値をSpontane
ous release値として、下記の式から、% specific releas
eを算出し、
図6にまとめた。陰性対照サンプルとして、ヒトIgG(hIgG,Chr
omPure Human IgG,Jackson ImmunoResearch
Laboratories社,Cat.009-000-003)を処理したサンプルに
ついて同様に測定を実施し、併せて示した。測定は3重に実施し、平均値、標準偏差を算
出して併せて示した。
【0205】
% specific release=(Total release-Spont
aneous release)/Maximamu release
ヒトIgG(hIgG)とLN22R8のマウス抗体は、ADCC活性を示さなかった
のに対し、LN22R8chIgG1は0.5μg/mlで17.4%、5μg/mlで
18.1%とADCC活性を示した。LN22R8chIgG2、LN22R8chIg
G4PのADCC活性は、LN22R8chIgG1より低く、5μg/mlでもそれぞ
れ3.0%、2.2%であった。
【0206】
2P10F2ラット抗体は、0.5μg/mlで4.8%、5μg/mlで8.4%と
ADCC活性を示した。2P10F2chIgG1LALAは、0.5μg/mlで4.
7%、5μg/mlで2.9%とADCC活性を示した。2P10F2chIgG4Pは
、0.5μg/mlで3.4%、5μg/mlで1.1%と2P10F2ラット抗体、2
P10F2chIgG1LALAより低いADCC活性を示した。 文献(Brugge
mann et al.,J.Exp.Med.,1351-1361,1987)報告
通り、IgG1サブタイプを利用したヒトキメラ抗体がもっとも高いADCC活性を示し
た。
【0207】
1)-16 ヒトキメラ抗体のCDC活性
抗ヒトCD147抗体による補体依存的な殺細胞活性(CDC活性)を標的細胞として
ヒト膵臓株MIA PaCa-2を用いて評価した。補体として市販のウサギ補体(Lo
w Tox-M Rabbit Complement、CEDARLANE LABO
RATORIES LIMITED、Cat.CL3051)を用いた。抗ヒトCD14
7抗体として、マウス抗体(LN22R8)、ラット抗体(2P10F2)、又は、ヒト
キメラ抗体(LN22R8chIgG1、LN22R8chIgG2、LN22R8ch
IgG4P、2P10F2chIgG1LALA、2P10F2chIgG4P)を用い
た。CDC活性陰性の対照抗体としてヒトIgG(hIgG,ChromPure Hu
man IgG,Jackson ImmunoResearch Laborator
ies社,Cat.009-000-003)を用いた。上記抗体を0、0.1、1又は
、10μg/mlの濃度で1時間、4℃で処理した後、ウサギ補体を終濃度7.5%とな
るように添加し、37℃、5%CO2存在下で、3時間加温後、生細胞に含まれる細胞内
ATPをCellTiter-Glo Lumimescent Cell Viabi
lity Assay(Promega社,Cat.G7572)を用いて測定した。C
ellTiter-Glo Lumimescent Cell Viability
Assay を用いて得られる発光シグナルについて、EnVision 2104 M
ultilabel Reader (Perkin Elmer社)を用いて定量した
。測定は3重に実施し、平均値と標準偏差を算出した。無処理の細胞から得られた発光シ
グナルを100%として、抗体と補体依存的に減少した発光シグナルをCDC活性として
、
図7にまとめた。
【0208】
マウス抗体(LN22R8)、ラット抗体(2P10F2)でのみ、陰性対照のhIg
Gに対して濃度依存的なCDC活性が観察され、LN22R8では10μg/mlで最大
41.1%まで生細胞が低下した。2P10F2では、10 μg/mlで最大53.5
%まで生細胞が低下した。
【0209】
ヒトキメラ抗体(LN22R8chIgG1、LN22R8chIgG2、LN22R
8chIgG4P、2P10F2chIgG1LALA、2P10F2chIgG4P)
では、陰性対照のhIgGに対して明確なCDC活性は観察されなかった。
【0210】
1)-17 ヒトキメラ抗体のADCP活性
ヒトIgG抗体はマウスのFcγ受容体との相互作用を介して、抗体依存的な単球、マ
クロファージによる貪食作用(ADCP)を誘導することで、癌細胞への殺細胞活性を示
すことが報告されている(Overdijk et al.,Journal of I
mmunology,1-9,2012)。ヒトキメラ抗体のADCP活性について、エ
フェクター細胞としてRAW264.7(ATCC,TIB-71)、ADCP標的細胞
としてヒト膵臓株PANC-1又はMIA PaCa-2を用いて評価した。PKH67
Green Fluorescent Cell Linker Mini Kit
for General Cell Membrane Labeling(SIGMA
,Cat.MINI67-1KIT)で標識したADCP標的細胞とヒトキメラ抗体(L
N22R8chIgG1、LN22R8chIgG2、LN22R8chIgG4P)を
20μg/mlの濃度で4℃、1時間処理した後、PKH26 Red Fluores
cent Cell Linker Lit for General Cell Me
mbrane Labeling(SIGMA,Cat.PKH26GL-1KT)で標
識したRAW264.7細胞をADCP標的細胞の5倍添加し、3時間、37℃、5%
CO2存在下で加温した。フローサイトメーター(BD社、CantoII)を用いて、
貪食作用によりPKH67シグナル陽性に移行したPKH26陽性細胞の割合を測定した
。陰性対照サンプルとして、ヒトIgG(hIgG, ChromPure Human
IgG,Jackson ImmunoResearch Laboratories
社,Cat.009-000-003)を処理したサンプルについて同様に測定を実施し
た。測定は3重に実施し、平均値、標準偏差を算出して
図8(a)PANC-1の結果を
、
図8(b)MIA PaCa-2の結果をそれぞれ示した。
【0211】
PANC-1細胞をADCPの標的とした場合、LN22R8chIgG1は9.2%
、LN22R8chIgG4Pは9.0%とヒトIgG(5.5%)に対して、高いAD
CP活性を示した。LN22R8chIgG2は、5.9%であり、ADCP活性陰性で
あった。
【0212】
MIA PaCa-2細胞をADCPの標的とした場合も、同様の傾向を示し、LN2
2R8chIgG1は6.6%、LN22R8chIgG4Pは6.1%とヒトIgG(
3.6%)に対して、高いADCP活性を示した。LN22R8chIgG2は、3.6
%であり、ADCP活性陰性であった。
【0213】
1)-18 ヒトキメラ抗体のin vivo抗腫瘍活性測定
5×106細胞のヒト膵臓株MIA PaCa-2を50%GFR-Matrigel
(Corning社、Cat.354230)を含むPBSで懸濁し、4~5週齢雌のN
OD-scidマウス(NOD.CB17-Prkdc<scid>/J、日本チャール
ス・リバーより購入)の腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに移植の5~7日後に群
分けを実施し、抗ヒトCD147抗体LN22R8のマウス抗体(LN22R8)、ヒト
キメラ抗体3種(LN22R8chIgG1、LN22R8chIgG2、LN22R8
chIgG4P)を1mg/kg、3mg/kg、10mg/kgで担癌マウスの腹腔内
に投与した(n=5)。抗ヒトCD147抗体2P10F2のラット抗体(2P10F2
)、ヒトキメラ抗体2種(2P10F2chIgG2,2P10F2chIgG4P)を
10mg/kgで担癌マウスの腹腔内に投与した(n=5~6)。移植腫瘍の長径及び短
径を週2回、電子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計
算式により腫瘍体積を算出した。
【0214】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図9-1(a)~(d)、
図9-2(e)~(g)に示した。グラフには腫瘍体
積の変化について、平均値と標準誤差を併せて記載した。
【0215】
LN22R8は、マウス抗体、3種のヒトキメラ抗体も用量依存的な抗腫瘍効果を示し
た。ヒトキメラ抗体LN22R8chIgG4P 10mg/kg投与群では、移植後1
8日後に5匹中5匹のマウスで腫瘍の完全縮退が観察され、実験終了時の移植後41日後
でも腫瘍の再増殖は見られなかった。他のLN22R8抗体投与群では、一部あるいはす
べてのマウスで腫瘍の再増殖が観察された。
【0216】
2P10F2は、ラット抗体、2種のヒトキメラ抗体で抗腫瘍効果が確認された。2P
10F2chIgG4P 10mg/kg投与群では、移植21日後に6匹中6匹のマウ
スで腫瘍の完全縮退が観察された。
【0217】
同じエピトーブ部分を認識する抗ヒトCD147抗体であるマウス抗体LN22R8と
ラット抗体2P10F2は、ADCC活性、ADCP、CDC活性といったマウス免疫系
に依存したエフェクター機能を有するヒトキメラ抗体chIgG1やADCP活性を有す
るヒトキメラ抗体chIgG4Pだけでなく、いずれのエフェクター機能もほとんど示さ
ないヒトキメラ抗体chIgG2でも90%以上の抗腫瘍効果が保持されていることから
、マウスの免疫に依存せず、CD147に作用する新規の作用機序によって抗腫瘍効果を
示していることが示唆された。
【0218】
1)-19 NOGマウスでのCD147ヒトキメラ抗体の抗腫瘍効果
NOG(NOD/Shi-scid, IL-2Rγnull)マウスでは、マウスT
細胞、B細胞を欠失しているNOD-scidマウスにサイトカインレセプター共通ドメ
インであるIL-2レセプターγ鎖ノックアウトを掛け合わせることで、マウスT、B細
胞に加え、NK細胞、補体活性を欠失しており、マクロファージや樹上細胞の機能低下が
みられ、極めて重度な免疫不全状態にある(Ito,Blood,3175-3182,
2002)。これらマウス免疫系の重度な不全状態で、CD147抗体の抗腫瘍効果が影
響を受けるかMIA PaCa-2の皮下移植モデルで検証した。
【0219】
5×106細胞のヒト膵臓株MIA PaCa-2を50%GFR-Matrigel
(Corning社、Cat.354230)を含むPBSで懸濁し、7週齢雌のNOG
マウス(NOD/Shi-scid,IL-2RγKO Jic、In-Vivo Sc
ience社より購入)の腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに移植の6日後に群分
けを実施し、抗CD147ヒトキメラ抗体(LN22R8chIgG4P)を10mg/
kgで担癌マウスの腹腔内に投与した(n=5)。移植腫瘍の長径及び短径を週2回、電
子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式により腫瘍
体積を算出した。
【0220】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図10に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標準誤差を併せ
て記載した。
【0221】
図10に示したヒトキメラ抗体LN22R8chIgG4Pの結果は、移植17日後に
おける腫瘍増殖抑制率は、10mg/kg投与群で99 %であり、5匹中3匹のマウス
で腫瘍の完全縮退が観察された。
【0222】
抗CD147ヒトキメラ抗体(LN22R8chIgG4P)は、マウスT、B細胞に
加え、NK細胞、補体活性を欠失したNOGマウスに形成させた膵臓癌腫瘍に対しても、
強い抗腫瘍効果を示したことから、マウスの免疫細胞に依存せずに抗腫瘍効果を示す可能
性が示唆された。
【0223】
(実施例2)CD147蛋白の免疫によるサル交差性ラット抗体の作製
実施例1で得られた強い抗腫瘍効果を示す抗ヒトCD147抗体は、マウス、ラット、
カニクイザルのCD147に交差性を示さなかった。実施例1で得られた抗体を用いてカ
ニクイザルCD147交差性を示すCD147抗体の取得を試みた。
【0224】
2)-1 免疫
免疫にはWKY/Izmラットの雌(日本エスエルシー社)を使用した。Recomb
inant Human BSG, His tagged(CREATIVE BIO
MART社製)抗原蛋白とFreund‘s Comple te Adjuvant(
和光純薬社製)を混合したものを尾根部に投与したラットのリンパ節及び脾臓を採取しハ
イブリドーマ作製に用いた。
【0225】
2)-2 ハイブリドーマの作製
リンパ節細胞若しくは脾臓細胞とマウスミエローマSP2/0-ag14細胞(ATC
C,No.CRL-1581)とをLF301 Cell Fusion Unit(B
EX社) を用いて電気細胞融合し、ClonaCell-HY Selection
Medium D(StemCell Technologies社)に希釈して培養し
た。出現したハイブリドーマコロニーを回収することでモノクローンハイブリドーマを作
製した。回収された各ハイブリドーマコロニーを培養し、得られたハイブリドーマ培養上
清を用いて抗CD147抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングを行った。
【0226】
2)-3 フローサイトメトリー法による抗体スクリーニング
ヒト癌細胞に結合し、ヒトCD147、カニクイザルCD147への結合性を示す抗体
産生ハイブリドーマを選択するためにフローサイトメーターを用いた抗体結合性スクリー
ニングを実施した。ヒト癌細胞として、CD147陽性のヒト膵臓株MIA PaCa-
2を用いた。実施例1)-8と同様にヒト、又は、カニクイザルのCD147を発現した
CHO-K1細胞(CHO-K1-hCD147v2、CHO-K1-cynoCD14
7)をヒト、又はカニクイザルCD147への結合性確認に用いた。MIA PaCa-
2、CHO-K1-hCD147v2、CHO-K1-cynoCD147の懸濁液にハ
イブリドーマ培養上清を等量添加し、4℃で1時間以上反応させた後、5%FBSを含む
PBSで細胞を洗浄し、抗ラットIgG-PE(BD Biosciences社、Ca
t.550767)を用いて各抗体の細胞への結合を蛍光検出可能にした。フローサイト
メーター(CantoII、BD Bioscience社)を用いて細胞の蛍光シグナ
ルの測定を実施し、陰性対照サンプル(ハイブリドーマ培養液を加えていない細胞)に対
する蛍光シグナルの比を算出し、表2に結果の一部をまとめた。
【0227】
市販のラット抗体Isotypingキット(Bio-Rad Laboratori
es社、RMT1)を用いて、培養上清に含まれる抗体のIsotypeを決定し併せて
、表4に示した。
【0228】
実施例1で取得した2P10F2はMIA PaCa-2, CHO-K1-hCD1
47v2に結合性を示し、CHO-K1-cynoCD147には結合性を示さなかった
。rat_CD147_#84(本明細書中、r#84と表記する場合もある)、rat
_CD147_#131(本明細書中、r#131と表記する場合もある)、rat_C
D147_#110(本明細書中、r#110と表記する場合もある)、rat_CD1
47_#101(本明細書中、r#101と表記する場合もある)は、MIA PaCa
-2、CHO-K1-hCD147v2、CHO-K1-cynoCD147に結合性を
示し、カニクイザル交差性を示す抗ヒトCD147ラット抗体が取得できた。
【0229】
【0230】
2)-4 低IgG血清を用いたラットモノクローナル抗体の調製
カニクイザル交差性を示す抗ヒトCD147モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培
養上清から精製した。まず、rat_CD147_#131の抗体産生ハイブリドーマを
ClonaCell-HY Selection Med ium Eで十分量まで増殖
させた後、Ultra Low IgG FBS(Life Technologies
社)を20%添加したHybridoma SFM(Life Technologie
s社)に培地交換し、7日間培養した。本培養上清を回収し0.45μmのフィルターを
通して滅菌した。
【0231】
2)-5 高密度培養によるラットモノクローナル抗体の調製
CL-1000フラスコ(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用いて、rat
_CD147_#84、rat_CD147_#101、rat_CD147_#110
ハイブリドーマを培養し、モノクローナル抗体を含むハイブリドーマ培養上清を調製した
。
【0232】
2)-6 モノクローナル抗体の精製
実施例2)-4及び実施例2)-5で作製した培養上清から実施例1)-6と同様の方
法で抗体を精製した。
【0233】
2)-7 in vivo抗腫瘍活性測定による抗体スクリーニング
5×106細胞のヒト膵臓株MIA PaCa-2を50%GFR-Matrigel
(Corning社、Cat. 354230)を含むPBSで懸濁し、5週齢雌のNO
D-scidマウス(NOD.CB17-Prkdc<scid>/J、日本チャールス
・リバーより購入)の腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに移植の6~8日後に群分
けを実施し、カニクイザル交差性抗CD147ラット抗体#84、#101又は#110
を移植後、8日後、15日後に10mg/kgで担癌マウスの腹腔内に投与した(n=5
)。対照群のマウスには、PBSを同様に腹腔内に投与した。カニクイザル交差性抗CD
147ラット抗体#131を移植後、6日後に10mg/kgで担癌マウスの腹腔内に投
与した(n=5)。移植腫瘍の長径及び短径を週2回、電子デジタルノギス(株式会社ミ
ツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式により腫瘍体積を算出した。
【0234】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図11(a)~(d)に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と
標準誤差を併せて記載した。r#84は、移植28日後における腫瘍増殖抑制率が、10
mg/kg投与群で95%であった(
図11(a))。r#101は、移植15日後にお
ける腫瘍増殖抑制率が10mg/kg投与群で37%であったが、移植28日後には腫瘍
の再増殖が見られた(
図11(b))。r#110は、移植15日後における腫瘍増殖抑
制率が10mg/kg投与群で51%であったが、移植28日後には腫瘍の再増殖が見ら
れた(
図11(c))。r#131は、移植16日後における腫瘍増殖抑制率は、10m
g/kg投与群で50%であった(
図11(d))。MIA PaCa-2の腫瘍増殖を
強く阻害するラット抗体、r#84、部分的な阻害をするr#101、r#110、r#
131が得られた。
【0235】
結果を
図11(a)~(d)に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と
標準誤差を併せて記載した。r#84は、移植28日後における腫瘍増殖抑制率が10m
g/kg投与群で95%であった(
図11(a))。r#101は、移植15日後におけ
る腫瘍増殖抑制率が10mg/kg投与群で37%であったが、移植28日後には腫瘍の
再増殖が見られた(
図11(b))。r#110は、移植15日後における腫瘍増殖抑制
率が10mg/kg投与群で51%であったが、移植28日後には腫瘍の再増殖が見られ
た(
図11(c))。r#131は、移植16日後における腫瘍増殖抑制率が10mg/
kg投与群で50%であった(
図11(d))。
【0236】
2)-8 エピトープ解析:2P10F2-competitive ELISA
サル交差性ラットCD147抗体のエピトープ解析を目的として、2P10F2chI
gG4PのCD147リコンビナント蛋白質への結合性を阻害するか競合ELISAによ
り調べた。ヒトCD147-Fc融合蛋白質(Sino Biological Inc
.,10186-H02H)をPBSで溶解し、20μg/mlに調製し、96ウェルプ
レート(Thermofisher社,Cat.43454)に50μl加え4℃で保管
した。蛋白溶液を除き、300μlの1%BSA含有PBSを加えて、室温で1時間加温
した。1%BSA含有PBS で希釈した25μlの20あるいは60μg/mlのCD
147ラット抗体r#84、r#101、r#110、r#131又は2P10F2、又
は1%BSA含有PBSを競合抗体として96ウェルプレートに加え、室温で2時間加温
した。1%BSA含有PBS で希釈した20 ng/mlの 2P10F2chIgG
4Pを25μl、96ウェルプレートに加え、室温で2時間加温した。0.05% Tw
een 20(BIO RAD,Cat.170-6531)を含むPBSで2回、96
ウェルを洗浄した。1%BSA含有PBS で2000倍に希釈したMouse mon
oclonal HP6025 Anti-Human IgG4 Fc(HRP)(a
bcam社,Cat.ab99823)を50μl、96ウェルプレートに加え、室温で
1時間加温した。0.05% Tween 20(BIO RAD,Cat.170-6
531)を含むPBSで3回、96ウェルを洗浄した。50μlのSuper Aqua
Blue ELISA Substrate (eBioscience社,00-42
03-58)を96ウェルプレートに加え、室温で20分間加温した。EnVision
2104 Multilabel Reader(Perkin Elmer社)で、
96ウェルプレートの405nmの吸光度を測定した。競合抗体を含まないウェルでの測
定値を対照として、競合抗体によって低下した吸光度を%で算出し
図12に示した。測定
は3ウェルで実施し、平均値を示した。
【0237】
r#84、r#101、r#131は、2P10F2ラット抗体と同様に2P10F2
chIgG4Pの結合性を90%以上阻害し、抗体認識部位が、2P10F2と近いこと
が示唆された。r#110は、2P10F2ラット抗体の結合を阻害しなかった。抗体認
識部位は、2P10F2と離れているか、あるいは結合性が弱いために、2P10F2ラ
ット抗体の結合を阻害できない可能性が考えられた。
【0238】
(実施例3)サル交差性ラット抗体のクローニングとヒトキメラ抗体の作製
3)-1 ラット抗CD147抗体の可変領域をコードするcDNAのクローニングヌ
クレオチド配列の決定
3)-1-1 rat_CD147_#84抗体の可変領域をコードするcDNAのヌ
クレオチド配列の決定
実施例1)-11-2と同様の方法で実施した。決定されたrat_CD147_#8
4抗体の軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号48に示し
、アミノ酸配列を配列番号49に示す。重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオ
チド配列を配列番号50に示し、アミノ酸配列を配列番号51に示す。rat_CD14
7_#84抗体の軽鎖可変領域のCDRL1、CDRL2及びCDRL3を、それぞれ、
配列番号52、53及び54に示す。rat_CD147_#84抗体の重鎖可変領域の
CDRH1、CDRH2及びCDRH3を、それぞれ、配列番号55、56及び57に示
す。
【0239】
3)-1-2 rat_CD147_#101抗体の可変領域をコードするcDNAの
ヌクレオチド配列の決定
実施例1)-11-2と同様の方法で実施した。決定されたrat_CD147_#1
01抗体の軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号58に示
し、アミノ酸配列を配列番号59に示す。重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレ
オチド配列を配列番号60に示し、アミノ酸配列を配列番号61に示す。rat_CD1
47_#101抗体の軽鎖可変領域のCDRL1、CDRL2及びCDRL3を、それぞ
れ、配列番号62、63及び64に示す。rat_CD147_#101抗体の重鎖可変
領域のCDRH1、CDRH2及びCDRH3を、それぞれ、配列番号65、66及び6
7に示す。
【0240】
3)-1-3 rat_CD147_#110抗体の可変領域をコードするcDNAの
ヌクレオチド配列の決定
実施例1)-11-2と同様の方法で実施した。決定されたrat_CD147_#1
10抗体の軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号68に示
し、アミノ酸配列を配列番号69に示す。重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレ
オチド配列を配列番号70に示し、アミノ酸配列を配列番号71に示す。rat_CD1
47_#110抗体の軽鎖可変領域のCDRL1、CDRL2及びCDRL3を、それぞ
れ、配列番号72、73及び74に示す。rat_CD147_#110抗体の重鎖可変
領域のCDRH1、CDRH2及びCDRH3を、それぞれ、配列番号75、76及び7
7に示す。
【0241】
3)-1-4 rat_CD147_#131抗体の可変領域をコードするcDNAの
ヌクレオチド配列の決定
実施例1)-11-2と同様の方法で実施した。決定されたrat_CD147_#1
31抗体の軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号78に示
し、アミノ酸配列を配列番号79に示す。重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレ
オチド配列を配列番号80に示し、アミノ酸配列を配列番号81に示す。rat_CD1
47_#131抗体の軽鎖可変領域のCDRL1、CDRL2及びCDRL3を、それぞ
れ、配列番号82、83及び84に示す。rat_CD147_#131抗体の重鎖可変
領域のCDRH1、CDRH2及びCDRH3を、それぞれ、配列番号85、86及び8
7に示す。
【0242】
3)-2 ヒトキメラ抗体発現ベクターの作製
3)-2-1 rat_CD147_#84のヒトキメラ抗体発現ベクターの作製
3)-2-1-1 ヒトキメラ及びヒト化IgG4PFALAタイプ重鎖発現ベクター
pCMA-G4PFALAの構築
配列番号88で示されるヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG4PFALA定常領域の
アミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片をもちいて、実施例1)-12-2と
同様の方法でpCMA-G4PFALAを構築した。
【0243】
3)-2-1-2 ヒトキメラrat_CD147_#84の軽鎖発現ベクターの構築
実施例3)-1-1で得られたrat_CD147_#84の軽鎖の可変領域をコード
するcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-4と同様の方法でヒト
キメラrat_CD147_#84の軽鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメラrat_
CD147_#84の軽鎖のヌクレオチド配列及び該軽鎖のアミノ酸配列を、配列番号8
9及び配列番号90にそれぞれ示す。
【0244】
3)-2-1-3 ヒトキメラrat_CD147_#84のIgG1タイプ重鎖発現
ベクターの構築
実施例3)-1-1で得られたrat_CD147_#84の重鎖の可変領域をコード
するcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-5と同様の方法でヒト
キメラrat_CD147_#84のIgG1タイプ重鎖発現ベクターを構築した。ヒト
キメラrat_CD147_#84のIgG1タイプ重鎖のヌクレオチド配列及び該重鎖
のアミノ酸配列を、配列番号91及び配列番号92にそれぞれ示す。
【0245】
3)-2-1-4 ヒトキメラrat_CD147_#84のIgG2タイプ重鎖発現
ベクターの構築
実施例3)-1-1で得られたrat_CD147_#84の重鎖の可変領域をコード
するcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-6と同様の方法でヒト
キメラrat_CD147_#84のIgG2タイプ重鎖発現ベクターを構築した。ヒト
キメラrat_CD147_#84のIgG2タイプ重鎖のヌクレオチド配列及び該重鎖
のアミノ酸配列を、配列番号93及び配列番号94にそれぞれ示す。
【0246】
3)-2-1-5 ヒトキメラrat_CD147_#84のIgG4Pタイプ重鎖発
現ベクターの構築
実施例3)-1-1で得られたrat_CD147_#84の重鎖の可変領域をコード
するcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-13-6と同様の方法でヒト
キメラrat_CD147_#84のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターを構築した。ヒ
トキメラrat_CD147_#84のIgG4Pタイプ重鎖のヌクレオチド配列及び該
重鎖のアミノ酸配列を、配列番号95及び配列番号96にそれぞれ示す。
【0247】
3)-2-1-6 ヒトキメラrat_CD147_#84のIgG1LALAタイプ
重鎖発現ベクターの構築
実施例3)-1-1で得られたrat_CD147_#84の重鎖の可変領域をコード
するcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-13-4と同様の方法でヒト
キメラrat_CD147_#84のIgG1LALAタイプ重鎖発現ベクターを構築し
た。ヒトキメラrat_CD147_#84のIgG1LALAタイプ重鎖のヌクレオチ
ド配列及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号97及び配列番号98にそれぞれ示す。
【0248】
3)-2-1-7 ヒトキメラrat_CD147_#84のIgG4PFALAタイ
プ重鎖発現ベクターの構築
実施例3)-1-1で得られたrat_CD147_#84の重鎖の可変領域をコード
するcDNAをテンプレートとしてもちいて、In-fusionクローニング用に設計
したプライマーでPCRを行うことにより重鎖の可変領域をコードするcDNAを含むD
NA断片を増幅した。pCMA-G4PFALAを制限酵素BlpIで切断した箇所に、
In-Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて
、増幅したDNA断片を挿入することによりヒトキメラrat_CD147_#84のI
gG4PFALAタイプ重鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメラrat_CD147_
#84のIgG4PFALAタイプ重鎖のヌクレオチド配列及び該重鎖のアミノ酸配列を
、配列番号99及び配列番号100にそれぞれ示す。
【0249】
3)-2-2 rat_CD147_#101のヒトキメラ抗体発現ベクターの作製
3)-2-2-1 ヒトキメラrat_CD147_#101の軽鎖発現ベクターの構
築
実施例3)-1-2で得られたrat_CD147_#101の軽鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-4と同様の方法でヒ
トキメラrat_CD147_#101の軽鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメラra
t_CD147_#101の軽鎖のヌクレオチド配列及び該軽鎖のアミノ酸配列を、配列
番号101及び配列番号102にそれぞれ示す。
【0250】
3)-2-2-2 ヒトキメラrat_CD147_#101のIgG2タイプ重鎖発
現ベクターの構築
実施例3)-1-2で得られたrat_CD147_#101の重鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-6と同様の方法でヒ
トキメラrat_CD147_#101のIgG2タイプ重鎖発現ベクターを構築した。
ヒトキメラrat_CD147_#101のIgG2タイプ重鎖のヌクレオチド配列及び
該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号103及び配列番号104にそれぞれ示す。
【0251】
3)-2-2-3 ヒトキメラrat_CD147_#101のIgG4Pタイプ重鎖
発現ベクターの構築
実施例3)-1-2で得られたrat_CD147_#101の重鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-13-6と同様の方法でヒ
トキメラrat_CD147_#101のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターを構築した
。ヒトキメラrat_CD147_#101のIgG4Pタイプ重鎖のヌクレオチド配列
及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号105及び配列番号106にそれぞれ示す。
【0252】
3)-2-2-4 ヒトキメラrat_CD147_#101のIgG4PFALAタ
イプ重鎖発現ベクターの構築
実施例3)-1-2で得られたrat_CD147_#101の重鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例3)-2-1-7と同様の方法で
ヒトキメラrat_CD147_#101のIgG4PFALAタイプ重鎖発現ベクター
を構築した。ヒトキメラrat_CD147_#101のIgG4PFALAタイプ重鎖
のヌクレオチド配列及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号107及び配列番号108に
それぞれ示す。
【0253】
3)-2-3 rat_CD147_#110のヒトキメラ抗体発現ベクターの作製
3)-2-3-1 ヒトキメラrat_CD147_#110の軽鎖発現ベクターの構
築
実施例3)-1-3で得られたrat_CD147_#110の軽鎖の可変領域をコード
するcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-4と同様の方法でヒト
キメラrat_CD147_#110の軽鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメラrat
_CD147_#110の軽鎖のヌクレオチド配列及び該軽鎖のアミノ酸配列を、配列番
号109及び配列番号110にそれぞれ示す。
【0254】
3)-2-3-2 ヒトキメラrat_CD147_#110のIgG2タイプ重鎖発
現ベクターの構築
実施例3)-1-3で得られたrat_CD147_#110の重鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-6と同様の方法でヒ
トキメラrat_CD147_#110のIgG2タイプ重鎖発現ベクターを構築した。
ヒトキメラrat_CD147_#110のIgG2タイプ重鎖のヌクレオチド配列及び
該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号111及び配列番号112にそれぞれ示す。
【0255】
3)-2-3-3 ヒトキメラrat_CD147_#110のIgG4Pタイプ重鎖
発現ベクターの構築
実施例3)-1-3で得られたrat_CD147_#110の重鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-13-6と同様の方法でヒ
トキメラrat_CD147_#110のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターを構築した
。ヒトキメラrat_CD147_#110のIgG4Pタイプ重鎖のヌクレオチド配列
及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号113及び配列番号114にそれぞれ示す。
【0256】
3)-2-3-4 ヒトキメラrat_CD147_#110のIgG4PFALAタ
イプ重鎖発現ベクターの構築
実施例3)-1-3で得られたrat_CD147_#110の重鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例3)-2-1-7と同様の方法で
ヒトキメラrat_CD147_#110のIgG4PFALAタイプ重鎖発現ベクター
を構築した。ヒトキメラrat_CD147_#110のIgG4PFALAタイプ重鎖
のヌクレオチド配列及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号115及び配列番号116に
それぞれ示す。
【0257】
3)-2-4 rat_CD147_#131のヒトキメラ抗体発現ベクターの作製
3)-2-4-1 ヒトキメラrat_CD147_#131の軽鎖発現ベクターの構
築
実施例3)-1-4で得られたrat_CD147_#131の軽鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-4と同様の方法でヒ
トキメラrat_CD147_#131の軽鎖発現ベクターを構築した。ヒトキメラra
t_CD147_#131の軽鎖のヌクレオチド配列及び該軽鎖のアミノ酸配列を、配列
番号117及び配列番号118にそれぞれ示す。
【0258】
3)-2-4-2 ヒトキメラrat_CD147_#131のIgG2タイプ重鎖発
現ベクターの構築
実施例3)-1-4で得られたrat_CD147_#131の重鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-12-6と同様の方法でヒ
トキメラrat_CD147_#131のIgG2タイプ重鎖発現ベクターを構築した。
ヒトキメラrat_CD147_#131のIgG2タイプ重鎖のヌクレオチド配列及び
該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号119及び配列番号120にそれぞれ示す。
【0259】
3)-2-4-3 ヒトキメラrat_CD147_#131のIgG4Pタイプ重鎖
発現ベクターの構築
実施例3)-1-4で得られたrat_CD147_#131の重鎖の可変領域をコー
ドするcDNAをテンプレートとしてもちいて、実施例1)-13-6と同様の方法でヒ
トキメラrat_CD147_#131のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターを構築した
。ヒトキメラrat_CD147_#131のIgG4Pタイプ重鎖のヌクレオチド配列
及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号121及び配列番号122にそれぞれ示す。
【0260】
3)-3 ヒトキメラ抗体の調製
3)-3-1 サル交差性ラット抗体のヒトキメラ抗体の生産
実施例1)-14-1と同様の方法で生産した。
【0261】
ヒトキメラrat_CD147_#84のIgG1タイプ重鎖発現ベクターとヒトキメ
ラrat_CD147_#84の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_CD
147_#84のヒトキメラ抗体を「#84chIgG1」と命名した。ヒトキメラra
t_CD147_#84のIgG2タイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラrat_CD1
47_#84の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_CD147_#84の
ヒトキメラ抗体を「#84chIgG2」と命名した。ヒトキメラrat_CD147_
#84のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラrat_CD147_#84の
軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_CD147_#84のヒトキメラ抗体
を「#84chIgG4P」と命名した。ヒトキメラrat_CD147_#84のIg
G1LALAタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラrat_CD147_#84の軽鎖発
現ベクターの組み合わせで取得したrat_CD147_#84のヒトキメラ抗体を「#
84chIgG1LALA」と命名した。ヒトキメラrat_CD147_#84のIg
G4PFALAタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラrat_CD147_#84の軽鎖
発現ベクターの組み合わせで取得したrat_CD147_#84のヒトキメラ抗体を「
#84chIgG4PFALA」と命名した。
【0262】
ヒトキメラrat_CD147_#101のIgG2タイプ重鎖発現ベクターとヒトキ
メラrat_CD147_#101の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_
CD147_#101のヒトキメラ抗体を「#101chIgG2」と命名した。ヒトキ
メラrat_CD147_#101のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラr
at_CD147_#101の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_CD1
47_#101のヒトキメラ抗体を「#101chIgG4P」と命名した。ヒトキメラ
rat_CD147_#101のIgG4PFALAタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメ
ラrat_CD147_#101の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_C
D147_#101のヒトキメラ抗体を「#101chIgG4PFALA」と命名した
。
【0263】
ヒトキメラrat_CD147_#110のIgG2タイプ重鎖発現ベクターとヒトキ
メラrat_CD147_#110の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_
CD147_#110のヒトキメラ抗体を「#110chIgG2」と命名した。ヒトキ
メラrat_CD147_#110のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラr
at_CD147_#110の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_CD1
47_#110のヒトキメラ抗体を「#110chIgG4P」と命名した。ヒトキメラ
rat_CD147_#110のIgG4PFALAタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメ
ラrat_CD147_#110の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_C
D147_#110のヒトキメラ抗体を「#110chIgG4PFALA」と命名した
。
【0264】
ヒトキメラrat_CD147_#131のIgG2タイプ重鎖発現ベクターとヒトキ
メラrat_CD147_#131の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_
CD147_#131のヒトキメラ抗体を「#131chIgG2」と命名した。ヒトキ
メラrat_CD147_#131のIgG4Pタイプ重鎖発現ベクターとヒトキメラr
at_CD147_#131の軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得したrat_CD1
47_#131のヒトキメラ抗体を「#131chIgG4P」と命名した。
【0265】
3)-3-2 サル交差性ラット抗体のヒトキメラ抗体の精製
実施例3)-3-1で得られた培養上清から、実施例1)-14-2と同様の方法で精
製した。
【0266】
(実施例4) ヒトキメラ抗体のin vivo抗腫瘍活性
5×106細胞のヒト膵臓株MIA PaCa-2を50%GFR-Matrigel
(Corning社、Cat.354230)を含むPBSで懸濁し、5~6週齢雌のN
OD-scidマウス(NOD.CB17-Prkdc<scid>/J、日本チャール
ス・リバーより購入)の腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに移植の5~6日後に群
分けを実施し、カニクイザル交差性抗CD147ヒトキメラ抗体(#84chIgG1、
#84chIgG1LALA、#84chIgG2、#84chIgG4P、#84ch
IgG4PFALA)を群分け後当日に1、3、又は10 mg/kgで担癌マウスの腹
腔内に投与した(n=5)。カニクイザル交差性抗CD147ヒトキメラ抗体(#101
chIgG2、#101chIgG4P、#101chIgG4PFALA、#110c
hIgG2、#110chIgG4P、#110chIgG4PFALA、#131ch
IgG2、#131chIgG4P)を群分け後当日に3、又は10mg/kgで担癌マ
ウスの腹腔内に投与した(n=5)。移植腫瘍の長径及び短径を週2回、電子デジタルノ
ギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式により腫瘍体積を算出し
た。
【0267】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図13-1(a)~(d)、
図13-2(e)~(h)、
図13-3(i)~(
l)、
図13-4(m)及び(n)に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均
値と標準誤差を併せて記載した。
【0268】
ヒトキメラ抗体#84は、いずれのIgGサブタイプも用量依存的な抗腫瘍効果を示し
た。もっとも強い抗腫瘍効果が確認された#84chIgG4P 10mg/kg投与群
では、移植20日後に5例中5例のマウスで腫瘍の完全な退縮が確認された。
【0269】
ヒトキメラ抗体#101は、いずれのIgGサブタイプも用量依存的な抗腫瘍効果を示
した。もっとも強い抗腫瘍効果が確認された101chIgG4P 10mg/kg投与
群では、移植20日後に5例中4例のマウスで腫瘍の完全な退縮が確認された。
【0270】
ヒトキメラ抗体#110は、いずれのIgGサブタイプも用量依存的な抗腫瘍効果を示
した。もっとも強い抗腫瘍効果が確認された110chIgG4P 10mg/kg投与
群では、移植22日後に5例中3例のマウスで腫瘍の完全な退縮が確認された。
【0271】
ヒトキメラ抗体#131は、IgG4Pサブタイプで用量依存的な抗腫瘍効果を示した
。#131chIgG2では、3mg/kg、10mg/kg投与群で見られた抗腫瘍効
果に差はなかった。
【0272】
いずれのヒトキメラ抗体も、抗体のヒトIgG subtypeに依存せず、10mg
/kgの投与量では、68~100%の腫瘍増殖抑制効果を示した。カニクイザル交差性
抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体#084、#101、#110、#131についても、
細胞の免疫から取得された抗ヒトCD147抗体、LN22R8や2P10F2同様に、
マウスの免疫系に依存せず、CD147に作用する新規の作用機序によって抗腫瘍効果を
示していることが示唆された。
【0273】
(実施例5)ヒトキメラ抗体のCD147結合性評価
実施例3)-3-1で作製した#84chIgG1、#84chIgG2、#84ch
IgG4P、#84chIgG1LALA、#84chIgG4PFALA、#101c
hIgG4P、#110chIgG4PのヒトCD147に対する解離定数測定は、Bi
acore T200(GE Healthcare Bioscience社製)を使
用し、Human Antibody Capture Kit(GE Healthc
are Bioscience社製) を用いて固定化したAnti-Human Ig
G(Fc)antibodyに抗体をリガンドとして捕捉(キャプチャー)し、抗原をア
ナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。ランニングバッファーとしてHBS
-EP+(GE Healthcare Bioscience社製)、センサーチップ
としてCM5(GE Healthcare Bioscience社製)を用いた。チ
ップ上に1μg/mL又は2μg/mLのヒトキメラ抗体を10μL/分で60秒間添加
した後、抗原としてCD147蛋白質の希釈系列溶液(#131chIgG4Pに対して
0.25~4μg/mL、#84chIgG1、#84chIgG2、#84chIgG
4P、#84chIgG1LALA、#84chIgG4PFALA、#101chIg
G4P、#110chIgG4Pに対して0.5~8μg/mL)を流速30μL/分で
120秒間添加し、引き続き120秒間、300秒間又は600秒間の解離相をモニター
した。ここで、CD147蛋白質は、大腸菌で発現させ、Ni affinity, S
ECの2 steps精製後、タグ切断精製したものを使用した。再生溶液として、3M
magnesium chloride(GE Healthcare Biosci
ence社製)を流速20μL/分で30秒間添加した。データの解析には1:1結合モ
デルを用いて、結合速度定数ka、解離速度定数kd及び解離定数(KD;KD=kd/
ka)を算出した。結果を表5に示す。
【0274】
【0275】
(実施例6) ヒト化抗体の作製
6)-1 ヒト化抗体の設計
6)-1-1 可変領域の分子モデリング
ホモロジーモデリングとして公知の方法(Methods in Enzymolog
y,203,121-153,(1991))を利用した。市販のタンパク質立体構造解
析プログラムDiscovery Studio(ダッソー・システムズ社製)を用いて
、可変領域に対して高い配列同一性を有するProtein Data Bank(Nu
c.Acids Res.35,D301-D303(2007))に登録されている構
造を検索した。ヒットした重鎖、軽鎖及び重鎖軽鎖インターフェース構造を鋳型として、
三次元モデルが作成された。
【0276】
6)-1-2 ヒト化抗体の設計方法
CDRグラフティング(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10
029-10033(1989))によりヒト化した。rat_CD147_#84のフ
レームワーク領域は、KABAT et al.(Sequences of Prot
eins of Immunological Interest,5th Ed.Pu
blic Health Service National Institutes
of Health,Bethesda,MD.(1991))において既定されるヒト
kappa鎖サブグループ1のコンセンサス配列と、ヒトgamma鎖サブグループ3の
コンセンサス配列に高い相同性を有することから、それらがrat_CD147_#84
の軽鎖と重鎖のアクセプタとしてそれぞれ選択された。rat_CD147_#101の
フレームワーク領域は、KABAT et al.において既定されるヒトkappa鎖
サブグループ1のコンセンサス配列と、ヒトgamma鎖サブグループ3及びIMGT(
THE INTERNATIONAL IMMUNOGENETICS INFORMA
TION SYSTEM(登録商標))において規定されるヒトgamma鎖のIGHV
3-30*05とIGHJ3*01に、高い相同性を有することから、それらがrat_
CD147_#101の軽鎖と重鎖のアクセプタとしてそれぞれ選択された。rat_C
D147_#110のフレームワーク領域は、IMGTにおいて規定されるヒトkapp
a鎖のIGKV1-39*01とIGKJ4*01と、ヒトgamma鎖のIGHV1-
2*02とIGHJ6*01に、高い相同性を有することから、それらがrat_CD1
47_#110の軽鎖と重鎖のアクセプタとしてそれぞれ選択された。rat_CD14
7_#131のフレームワーク領域は、IMGTにおいて規定されるヒトkappa鎖の
IGKV1-39*01とIGKJ2*01と、ヒトgamma鎖のIGHV3-30*
05とIGHJ6*01に、高い相同性を有することから、rat_CD147_#13
1の軽鎖と重鎖のアクセプタとしてそれぞれ選択された。アクセプタ上に移入すべきドナ
ー残基は、Queen et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA
86,10029-10033(1989))によって与えられる基準などを参考に、
三次元モデルを分析することで選択された。
【0277】
6)-1-3 rat_CD147_#84重鎖のヒト化
rat_CD147_#84重鎖の可変領域に対し、
図14(a)に示すアクセプタの
アミノ酸残基を移入することで、ヒト化抗体重鎖#84H1hの可変領域が設計された。
【0278】
設計された可変領域に、ヒトのIgG2及びIgG4Pのgamma鎖定常領域を接続
させたヒト化抗体重鎖が設計され、それぞれ#84H1hIgG2、#84H1hIgG
4Pと命名した。#84H1hIgG2の全長アミノ酸配列を配列番号123に記載する
。配列番号123のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号124に記載
する。#84H1hIgG4Pの全長アミノ酸配列を配列番号125に記載する。配列番
号125のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号126に記載する。
【0279】
6)-1-4 rat_CD147_#84軽鎖のヒト化
rat_CD147_#84軽鎖の可変領域に対し、
図14(b)に示すアクセプタの
アミノ酸残基を移入することで、ヒト化抗体軽鎖#84L2hの可変領域が設計された。
【0280】
設計された可変領域に、ヒトのκ鎖定常領域を接続させたヒト化抗体軽鎖が設計され、
#84L2hと命名した。#84L2hの軽鎖全長アミノ酸配列を配列番号127に記載
する。配列番号127のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号128に
記載する。
【0281】
6)-1-5 #84ヒト化抗体
上記より設計された重鎖#84H1hIgG2と軽鎖#84L2hを組み合わせ、ヒト
化抗体#84H1L2hIgG2を設計した。また、重鎖#84H1hIgG4Pと軽鎖
#84L2hを組み合わせ、ヒト化抗体#84H1L2hIgG4Pを設計した。
【0282】
6)-1-6 rat_CD147_#101重鎖のヒト化
rat_CD147_#101重鎖の可変領域に対し、
図15(a)に示すアクセプタ
のアミノ酸残基を移入することで、ヒト化抗体重鎖#101H1hの可変領域が設計され
た。
設計された可変領域に、ヒトのIgG2及びIgG4Pのgamma鎖定常領域を接続さ
せたヒト化抗体重鎖が設計され、それぞれ#101H1hIgG2、#101H1hIg
G4Pと命名した。#101H1hIgG2の全長アミノ酸配列を配列番号129に記載
する。配列番号129のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号130に
記載する。#101H1hIgG4Pの全長アミノ酸配列を配列番号131に記載する。
配列番号131のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号132に記載す
る。
【0283】
6)-1-7 rat_CD147_#101軽鎖のヒト化
rat_CD147_#101軽鎖の可変領域に対し、
図15(b)に示すアクセプタ
のアミノ酸残基を移入することで、ヒト化抗体軽鎖#101L2hの可変領域が設計され
た。
設計された可変領域に、ヒトのκ鎖定常領域を接続させたヒト化抗体軽鎖が設計され、#
101L2hと命名した。#101L2hの軽鎖全長アミノ酸配列を配列番号133に記
載する。配列番号133のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号134
に記載する。
【0284】
6)-1-8 #101ヒト化抗体
上記より設計された重鎖#101H1hIgG2と軽鎖#101L2hを組み合わせ、
ヒト化抗体#101H1L2hIgG2を設計した。また、重鎖#101H1hIgG4
Pと軽鎖#101L2hを組み合わせ、ヒト化抗体#101H1L2hIgG4Pを設計
した。
【0285】
6)-1-9 rat_CD147_#110重鎖のヒト化
rat_CD147_#110重鎖の可変領域に対し、
図16(a)、(b)に示すアク
セプタのアミノ酸残基を移入することで、ヒト化抗体重鎖#110H1h、#110H1
3hの可変領域が設計された。
【0286】
設計された可変領域に、IgG4Pのgamma鎖定常領域を接続させたヒト化抗体重
鎖が設計され、それぞれ#110H1hIgG4P、#110H13hIgG4Pと命名
した。#110H1hIgG4Pの全長アミノ酸配列を配列番号135、#110H13
hIgG4Pの全長アミノ酸配列を配列番号147に記載する。配列番号135のアミノ
酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号136、配列番号147のアミノ酸配列
をコードするヌクレオチド配列を配列番号148に記載する。
【0287】
6)-1-10 rat_CD147_#110軽鎖のヒト化
rat_CD147_#110軽鎖の可変領域に対し、
図16(c)、(d)、(e)に
示すアクセプタのアミノ酸残基を移入することで、ヒト化抗体軽鎖#110L4h、#1
10L2h、#110L12hの可変領域が設計された。
【0288】
設計された可変領域に、ヒトのκ鎖定常領域を接続させたヒト化抗体軽鎖が設計され、
それぞれ#110L4h、#110L2h、#110L12hと命名した。#110L4
hの軽鎖全長アミノ酸配列を配列番号137、#110L2hの軽鎖全長アミノ酸配列を
配列番号149、#110L12hの軽鎖全長アミノ酸配列を配列番号151に記載する
。配列番号137のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号138、配列
番号149のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号150、配列番号1
51のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号152に記載する。
【0289】
6)-1-11 #110ヒト化抗体
上記より設計された重鎖#110H1hIgG4Pと軽鎖#110L4hを組み合わせ
、ヒト化抗体#110H1L4hIgG4Pを設計した。また、重鎖#110H13hI
gG4Pと軽鎖#110L2hを組み合わせ、ヒト化抗体#110H13L2hIgG4
Pを設計し、重鎖#110H13hIgG4Pと軽鎖#110L12hを組み合わせ、ヒ
ト化抗体#110H13L12hIgG4Pを設計した。
【0290】
6)-1-12 rat_CD147_#131重鎖のヒト化
rat_CD147_#131重鎖の可変領域に対し、
図17(a)に示すアクセプタ
のアミノ酸残基を移入することで、ヒト化抗体重鎖#131H2hの可変領域が設計され
た。
【0291】
設計された可変領域に、ヒトのIgG2のgamma鎖定常領域を接続させたヒト化抗
体重鎖が設計され、#131H2hIgG2と命名した。#131H2hIgG2の全長
アミノ酸配列を配列番号139に記載する。配列番号139のアミノ酸配列をコードする
ヌクレオチド配列を配列番号140に記載する。
【0292】
6)-1-13 rat_CD147_#131軽鎖のヒト化
rat_CD147_#131軽鎖の可変領域に対し、
図17(b)に示すアクセプタ
のアミノ酸残基を移入することで、ヒト化抗体軽鎖#131L2hの可変領域が設計され
た。
【0293】
設計された可変領域に、ヒトのκ鎖の定常領域を接続させたヒト化抗体軽鎖が設計され
、#131L2hと命名した。#131L2hの軽鎖全長アミノ酸配列を配列番号141
に記載する。配列番号141のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を配列番号1
42に記載する。
【0294】
6)-1-14 #131ヒト化抗体
上記より設計された重鎖#131H2hIgG2と軽鎖#131L2hを組み合わせ、
ヒト化抗体#131H2L2hIgG2を設計した。
【0295】
6)-2 ヒト化抗体の軽鎖発現ベクターの構築
6)-2-1 #84L2h発現ベクターの構築
配列番号128に示す#84L2hのヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至4
02に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。In-Fusion HD
PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、pCMA-LKを制限酵
素BsiWIで切断した箇所に合成したDNA断片を挿入することにより#84L2h発
現ベクターを構築した。
【0296】
6)-2-2 #101L2h発現ベクターの構築
配列番号134に示す#101L2hのヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至
402に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。実施例6)-2-1と同
様の方法で#101L2h発現ベクターを構築した。
【0297】
6)-2-3 #110L4h、#110L2h及び#110L12h発現ベクターの
構築
配列番号138、配列番号150及び配列番号152に示す#110L4h、#110
L2h及び#110L12hのヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至402に示
されるDNA断片を合成した(GENEART社)。実施例6)-2-1と同様の方法で
#110L4h、#110L2h及び#110L12h発現ベクターを構築した。
【0298】
6)-2-4 #131L2h発現ベクターの構築
配列番号142に示す#131L2hのヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至
402に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。実施例6)-2-1と同
様の方法で#131L2h発現ベクターを構築した。
【0299】
6)-3 ヒト化抗体の重鎖発現ベクターの構築
6)-3-1 #84H1hIgG2発現ベクターの構築
配列番号124に示す#84H1hIgG2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号3
6乃至437に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。In-Fusio
n HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、pCMA-G2
を制限酵素BlpIで切断した箇所に合成したDNA断片を挿入することにより#84H
1hIgG2発現ベクターを構築した。
【0300】
6)-3-2 #84H1hIgG4P発現ベクターの構築
配列番号126に示す#84H1hIgG4Pのヌクレオチド配列のヌクレオチド番号
36乃至437に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。In-Fusi
on HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、pCMA-G
4Pを制限酵素BlpIで切断した箇所に合成したDNA断片を挿入することにより#8
4H1hIgG4P発現ベクターを構築した。
【0301】
6)-3-3 #101H1hIgG2発現ベクターの構築
配列番号130に示す#101H1hIgG2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号
36乃至428に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。実施例6)-3
-1と同様の方法で#101H1hIgG2発現ベクターを構築した。
【0302】
6)-3-4 #101H1hIgG4P発現ベクターの構築
配列番号132に示す#101H1hIgG4Pのヌクレオチド配列のヌクレオチド番
号36乃至428に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。実施例6)-
3-2と同様の方法で#101H1hIgG4P発現ベクターを構築した。
【0303】
6)-3-5 #110H1hIgG4P及び#110H13hIgG4P発現ベクタ
ーの構築
配列番号136及び配列番号148に示す#110H1hIgG4P及び#110H1
3hIgG4Pのヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至425に示されるDNA
断片を合成した(GENEART社)。実施例6)-3-2と同様の方法で#110H1
hIgG4P及び#110H13hIgG4P発現ベクターを構築した。
【0304】
6)-3-6 #131H2hIgG2発現ベクターの構築
配列番号140に示す#131H2hIgG2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号
36乃至431に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。実施例6)-3
-1と同様の方法で#131H2hIgG2発現ベクターを構築した。
【0305】
6)-4 ヒト化抗体の調製
6)-4-1 ヒト化抗体の生産
実施例1)-14-1と同様の方法で生産した。実施例6)-1-5、実施例6)-1
-8、実施例6)-1-11、及び実施例6)-1-14に示したH鎖とL鎖の組み合わ
せに対応したH鎖発現ベクターとL鎖発現ベクターの組み合わせで、各種ヒト化抗体を取
得した。
【0306】
6)-4-2 ヒト化抗体の1段階精製
実施例6)-4-1で得られた培養上清から抗体をrProtein Aアフィニティ
ークロマトグラフィーの1段階工程で精製した。培養上清をPBSで平衡化したMabS
electSuReが充填されたカラム(GE Healthcare Bioscie
nce社製)にアプライしたのちに、カラム容量の2倍以上のPBSでカラムを洗浄した
。次に2Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた
。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide-A-Lyze
r Dialysis Cassette)によりPBSへのバッファー置換を行った。
Centrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(
分画分子量UF10K,Sartorius社)で抗体を濃縮し、IgG濃度を1mg/
mL以上に調製した。最後にMinisart-Plus filter(Sartor
ius社)でろ過し、精製サンプルとした。
【0307】
6)-4-3 ヒト化抗体の2段階精製
実施例6)-4-1で得られた培養上清をrProtein Aアフィニティークロマ
トグラフィーとセラミックハイドロキシアパタイトの2段階工程で精製した。培養上清を
PBSで平衡化したMabSelectSuReが充填されたカラム(GE Healt
hcare Bioscience社製)にアプライした後に、カラム容量の2倍以上の
PBSでカラムを洗浄した。次に2 Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で抗体を溶
出した。抗体の含まれる画分を透析(Thermo Scientific社、Slid
e-A-Lyzer Dialysis Cassette)によりPBSへのバッファ
ー置換を行い、5 mMリン酸ナトリウム/50 mM MES/pH7.0のバッファ
ーで5倍希釈した後に、5 mM NaPi/50 mM MES/30 mM NaC
l/pH7.0のバッファーで平衡化したセラミックハイドロキシアパタイトカラム(日
本バイオラッド、Bio-Scale CHT Type―1 Hydroxyapat
ite Column)にアプライした。塩化ナトリウムによる直線的濃度勾配溶出を実
施し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientif
ic社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette)によりH
BSor(25 mM ヒスチジン/5% ソルビトール、pH6.0)へのバッファー
置換を行った。Centrifugal UF Filter Device VIVA
SPIN20(分画分子量UF10K,Sartorius社)にて抗体を濃縮し、Ig
G濃度を25 mg/mLに調製した。最後にMinisart-Plus filte
r(Sartorius社)でろ過し、精製サンプルとした。
【0308】
(実施例7) ヒト化抗体の活性測定
7)-1 ヒト化抗体のCD147抗体結合性評価
実施例6)-4-3で作製したヒト化抗ヒトCD147抗体#84H1L2hIgG2
、#84H1L2hIgG4P、#101H1L2hIgG2、#101H1L2hIg
G4P、#110H1L4hIgG4P及び#131H2L2hIgG2とヒトCD14
7との解離定数測定は、Biacore T200(GE Healthcare Bi
oscience社製)を使用し、Human Antibody Capture K
it(GE Healthcare Bioscience社製)を用いて固定化したA
nti-Human IgG(Fc) antibodyに抗体をリガンドとして捕捉(
キャプチャー)し、抗原をアナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。ランニ
ングバッファーとしてHBS-EP+(GE Healthcare Bioscien
ce社製)、センサーチップとしてCM5(GE Healthcare Biosci
ence社製)を用いた。チップ上に1μg/mLのヒト化抗体を10μL/分で60秒
間添加した後、実施例5)で用いた抗原の希釈系列溶液(#101H1L2hIgG2及
び#101H1L2hIgG4Pに対して0.0625~1μg/mL、#84H1L2
hIgG2、#84H1L2hIgG4P、#110H1L4hIgG4P、#110H
13L2hIgG4P、#110H13L12hIgG4P及び#131H2L2hIg
G2に対して0.25~4μg/mL)を流速30μL/分で120秒間添加し、引き続
き300秒間の解離相をモニターした。再生溶液として、3M magnesium c
hloride(GE Healthcare Bioscience社製)を流速20
μL/分で30秒間添加した。データの解析には1:1結合モデルを用いて、結合速度定
数ka、解離速度定数kd及び解離定数(KD;KD=kd/ka)を算出した。
【0309】
結果を表6に示す。
【0310】
【0311】
7)-2 膵臓癌担癌モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果
5×106細胞のヒト膵臓株MIA PaCa-2を50%GFR-Matrigel
(Corning社、Cat. 354230)を含むPBSで懸濁し、4週齢雌のNO
D-scidマウス(NOD.CB17-Prkdc<scid>/J、日本チャールス
・リバーより購入)の腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに群分けをし、移植の7日
後に実施例6)-4-2で作製したヒト化CD147抗体(#84H1L2hIgG2、
#84H1L2Ig4P、#101H1L2hIg2、#101H1L2hIg4P、#
110H1L4hIg4P、#131H2L2hIg2)を3mg/kg 、10 mg
/kgで担癌マウスの腹腔内に投与した(n=5)。対照薬として膵臓癌の治療薬である
ゲムシタビン(日本イーライリリー社より購入)を移植の7、14日後に400 mg/
kgで担癌マウスの腹腔内に投与した(n=5)。移植腫瘍の長径及び短径を週2回、電
子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式により腫瘍
体積を算出した。
【0312】
結果を
図18(a)~(d)に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と
標準誤差を併せて記載した。
【0313】
対照薬のの腫瘍増殖抑制率は、71%である、腫瘍の消失は認められなかったのに対し
、いずれのヒト化CD147抗体も、3あるいは10 mg/kg投与群でゲムシタビン
よりも優れた抗腫瘍効果を示した。#84H1L2hIg4P、#101H1L2hIg
2、#101H1L2hIg4P、#110H1L4hIg4Pの10 mg/kg投与
群では、腫瘍の消失を伴う強い抗腫瘍効果が確認された。
【0314】
(実施例8) CD147抗体のin vitro p38MAPKシグナルの活性化
8)-1 膵臓癌細胞PANC-1における抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体によるp
38MAPKリン酸化の誘導
CD147は活性化によってp38MAPKのリン酸化を促すことが報告されている(
Lim et al.,FEBS Letters、88-92,1998)(Li e
t.,al.J.Hepatology,1378-1389,2015)。抗腫瘍効果
を示す抗CD147が、p38MAPKのシグナルに及ぼす影響を調べるために、CD1
47ヒトキメラ抗体LN22R8chIgG4Pを10 μg/mlで15分間処理した
PANC-1細胞について、p38MAPKリン酸化をSimple Western
assays法(プロテインシンプル ジャパン株式会社、Wes)を用いて評価した。
対照サンプルとして、PANC-1細胞をヒトIgG(Jackson ImmunoR
esearch社、009-000-003)10 μg/mlを同様に処理して解析に
供した。p38MAPKの検出には、p38 MAPK rabbit mAb(Cel
l signaling technology社、Cat.#9212)を用いた。リ
ン酸化p38MAPKの検出には、P-p38 MAPK(T180/Y182)(D3
F9)XP rabbit mAb(Cell signaling technolo
gy社、#4511S)を用いた。検出されたp38MAPKシグナル対する、リン酸化
p38MAPKシグナルの比を
図19に示した。抗体処理サンプルは2重に実施し、平均
値を図に示した。
【0315】
LN22R8chIgG4P抗体処理群では、リン酸化MAPKシグナルの増加が観察
された。
【0316】
8)-2 CD147抗体のin vitro p38シグナル下流分子のHSP27
のリン酸化
p38MAPKは活性化によって、HSP27をリン酸化することが報告されている(
Landry et al.,Biochem.Cell Biol.,703-707
,1995)。CD147ヒトキメラ抗体LN22R8によって誘導されるp38のリン
酸化が、実際のp38シグナル活性化を促しているか確認するために8)-1の抗体処理
サンプルについて、リン酸化をSimple Western assays法(プロテ
インシンプル ジャパン株式会社、Wes)を用いて評価した。HSP27の検出には、
HSP27 抗体(R&D systems社、Cat.AF15801)を用いた。リ
ン酸化HSP27の検出には、Phospho-HSP27 (Ser82)antib
ody(Cell signaling technology社,2401S)、又は
Anti-HSP27(phospho Ser15)抗体(abcam社,Cat.a
b76313)を用いた。
【0317】
検出されたHSP27シグナル対する、Ser82又はSer15リン酸化HSP27
シグナルの比を、それぞれ、
図20(a)又は
図20(b)に示した。抗体処理サンプル
は2重に実施し、平均値を図に示した。
【0318】
LN22R8chIgG4P抗体処理群では、リン酸化HSP27シグナルの増加が観
察された。CD147ヒトキメラ抗体によって誘導されたp38のリン酸化によって下流
のHSP27のリン酸化活性化が誘導されていることから、抗ヒトCD147ヒトキメラ
抗体LN22R8IgG4Pがp38MAPKシグナルの活性化を誘導することが判った
。また、膵臓癌細胞MIA PaCa-2においても同様に、p38MAPKシグナルの
活性化が確認された。
【0319】
(実施例9)CD147抗体の腫瘍内p38シグナルの活性化 in vitroで観
察されたCD147抗体によるp38MAPKシグナルの活性化が、マウス皮下に形成し
た腫瘍内でも起こるかをMIA PaCa-2のマウス皮下腫瘍で調べた。5×106細
胞のヒト膵臓株MIA PaCa-2を50%GFR-Matrigel(Cornin
g社、Cat.354230)を含むPBSで懸濁し、5週齢雌のNOD-scidマウ
ス(NOD.CB17-Prkdc<scid>/J、日本チャールス・リバーより購入
)の腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに移植の5日後に群分けを実施し、抗ヒトC
D147ヒトキメラ抗体LN22R8chIgG4Pを群分け後当日に10mg/kgで
担癌マウスの腹腔内に投与した。抗体投与後、6,24,48,72時間後に腫瘍を採材
し、ドライアイスで凍結後、冷凍保存した。凍結した腫瘍組織からのサンプル調製(n=
3)には、gentleMACS Octo Dissociator with He
aters(ミルテニー社)を用いた。調製した腫瘍ライセートに対し、Simple
Western assays法(プロテインシンプル ジャパン株式会社、Wes)を
用いて解析した。
【0320】
検出されたp38MAPKシグナルの平均値を標準誤差と併せて
図21(a)に示した
。検出されたリン酸化p38MAPKシグナルの平均値を標準誤差と併せて
図21(b)
に示した。p38MAPKシグナル対する、リン酸化p38MAPKシグナルの比の平均
値を標準誤差と併せて
図21(c)に示した。LN22R8chIgG4Pは、投与後6
時間から72時間で、リン酸化P38MAPKの割合を増加させた。24時間から72時
間では、p38MAPKが増加することで、リン酸化p38MAPKのシグナルは6時間
をピークに減少していた。
【0321】
マウスの皮下腫瘍内でもCD147キメラ抗体投与によるp38リン酸化の上昇、HS
P27リン酸化の増加が観察され、p38シグナルの活性化が起こっていることがわかっ
た。
【0322】
(実施例10)p38MAPK下流の分子CXCL8の誘導
p38MAPKの活性化によって、CXCL8のmRNA安定化を介した誘導(Hof
fmann et al.,J.Leukoc.Biol.,847-855,2002
)、SMAD3/4シグナルの活性化が報告されている(Leovonen et al
., PLOS ONE, e57474, 2013)。MIA PaCa-2腫瘍内
で、抗体投与後にCXCL8の遺伝子発現が誘導されるか抗体投与後のマウス皮下腫瘍か
ら抽出したRNAを定量的PCR法によって調べた。同様にSMADシグナル活性化によ
って誘導されることが報告されているRHOB遺伝子(Vasilaki et al.
,FASEB Journal,891-905,2010)についてもCD147抗体
投与による変動を調べた。内在対照遺伝子として、importin(ipo8)遺伝子
とTATA box binding protein(tbp)遺伝子の発現を測定し
た。抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体を投与し、72時間後のMIA PaCa-2腫瘍
を採材し、RNA later(QIAGEN社、Cat.76104)で処理した後、
RNeasy Mini Kit (250)(QIAGEN社、Cat.74106)
を使用し、RNAを抽出した。抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体として、実施例1)-1
4で作製したLN22R8chIgG1、LN22R8chIgG2又はLN22R8c
hIgG4Pを用いた。定量的RT-PCRには、EXPRESS One-Step
SuperScript qRT-PCR kit Universal(Thermo
fisher scienticic,Cat.11781-01K)を用い、遺伝子定
量プローブとして、importin(ipo8) (Thermo Fisher S
cientific,Cat.Hs00183533_m1),TATA box bi
nding protein(tbp)(Thermo Fisher Scienti
fic,Cat.Hs00427621_m1),rashomolog family
member B(rhoB)(Thermo Fisher Scientific
,Cat.hs00269660_s1),interleukin 8(Thermo
Fisher Scientific,Cat.Hs00174103_m1)をそれ
ぞれ、用いた。PCR反応に伴う遺伝子特異的な蛍光シグナルの増加をABIPrism
7500(Applied Biosystems社)を用いて測定した。
図22(a)にipo8/tbp遺伝子の発現比の平均値(n=3)を標準偏差と併せて
示した。
図22(b)にcxcl8/tbp遺伝子の発現比の平均値(n=3)を標準偏差と併せ
て示した。
図22(c)にrhoB/tbp遺伝子の発現比の平均値(n=3)を標準偏差と併せて
示した。
【0323】
LN22R8chIgG1、LN22R8chIgG2又はLN22R8chIgG4
P投与後に、ipo8遺伝子の発現は変動しなかったのに対し、抗ヒトCD147ヒトキ
メラ抗体投与群でのcxcl8、rhoBの発現誘導が確認された。cxcl8、rho
Bの発現誘導は、実施例1)-18で示したヒトキメラ抗体の抗腫瘍効果の強さに順じて
おり、両遺伝子の発現誘導が抗腫瘍効果と相関する可能性が示唆された。
【0324】
(実施例11)抗ヒトCD147ラット抗体のヒトキメラ抗体化による抗腫瘍効果の増
強における、cxcl8,rhoB遺伝子の誘導
抗ヒトCD147ラット抗体rat_CD147_#110は、実施例2、実施例7に
示した通り、ヒトキメラ化によって抗腫瘍効果が増強した。ヒトキメラ抗体LN22R8
chIgG1、LN22R8chIgG2又はLN22R8chIgG4P投与後の腫瘍
中で観察されたcxcl8、rhoBの誘導について、14)-2と同様にrat_CD
147_#110とキメラ抗体#110chIgG4Pを比較した。
【0325】
図23(a)にipo8/tbp遺伝子の発現比の平均値(n=3)を標準偏差と併せ
て示した。
【0326】
図23(b)にcxcl8/tbp遺伝子の発現比の平均値(n=3)を標準偏差と併
せて示した。
【0327】
図23(c)にrhoB/tbp遺伝子の発現比の平均値(n=3)を標準偏差と併せ
て示した。
【0328】
ipo8遺伝子の発現は、抗体投与によって変動しなかった。cxcl8遺伝子、rh
oB遺伝子の発現はrat_CD147_#110の投与によって、抗体未投与群と同様
に変化が見られなかったのに対し、#110chIgG4Pでのcxcl8,rhoBの
誘導が確認された。両遺伝子の誘導がCD147抗体による抗腫瘍効果と相関するパラメ
ーターであることが示唆された。
【0329】
(実施例12)SMAD4陰性膵臓癌担癌モデルによる評価
SMADシグナルの活性化に重要な分子の一つとして、転写因子、SMAD4が知られ
ている(Zang,et al.,Current Biology,270-276,
1997)。一部の膵臓癌では、SMAD4の遺伝子的な欠損によりSMADシグナルが
部分的な阻害を受けていることが知られている(Hahn, et al.,Scien
ce,350-353,1996)。SMAD4が欠損し、SMADシグナルが部分的に
阻害されている膵臓癌細胞株BxPC-3について(Yasutome et al.,
Clin.Exp.Metastasis,461-473,2005)、CD147抗
体が抗腫瘍効果を示すか調べた。2.5×106細胞のヒト膵臓株BxPC-3(ATC
C,Cat.CRL-1687)を100%Matrigel(Corning社、Ca
t.354234)を含むPBSで懸濁し、6週齢雌のBALB/c-nuマウス(CA
nN.Cg-Foxn1nu/CrlCrlj、日本チャールス・リバーより購入)の腋
窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに移植後8日後に群分けを実施し、移植の8、15
、22日後にマウス抗ヒトCD147抗体LN22R8R8、又はラット抗ヒトCD14
7抗体2P10F2 10mg/kgで担癌マウスの腹腔内に投与した(n=5)。対照
薬として膵臓癌の治療薬であるゲムシタビン(日本イーライリリー社、ジェムザール(登
録商標))を移植の8、15、22日後に200mg/kgで担癌マウスの尾静脈内投与
した(n=5)。移植腫瘍の長径及び短径を週2回、電子デジタルノギス(株式会社ミツ
トヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式により腫瘍体積を算出した。
【0330】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
図24に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標準誤差を併せて記載
した。BxPC-3腫瘍は、LN22R8抗体、2P10F2抗体及びゲムシタビンに耐
性であった。
【0331】
(実施例13) SMAD4導入によるCD147抗体感受性の獲得
複数の膵臓癌細胞株でSMAD4を導入することによってSMADシグナルが回復する
ことが報告されている。SMAD4の導入によって回復したSMADシグナルによりCD
147抗体の感受性が増加するか調べた。
【0332】
13)-1 SMAD4安定発現細胞の作製
Retro-XTM Qベクターキットを利用しBxPC-3のSMAD4安定発現株
を作製した。レトロウイルスベクター(タカラバイオ社、Retro-XTM Q Ve
ctor Set,Cat.631516)としてキットに含まれるpQCXIPのクロ
ーニング部位に人工合成により作製したヒトSMAD4遺伝子を導入し、SMAD4発現
レトロウイルスベクターとした。Retro-X Universal Packagi
ng System(タカラバイオ社、Cat.631530)を利用し、BxPC-3
にSMAD4発現レトロウイルスベクターを導入し、ピューロマイシン(タカラバイオ社
、Cat. 631306)によりウイルス感染により染色体にレトロウイルスが組み込
まれ、ピューロマイシン耐性、SMAD4陽性となったBxPC-3細胞を選択し、SM
AD4陽性BxPC-3細胞、BxPC-3-SMAD4とした。レトロウイルスベクタ
ーpQCXIPを同様に感染させ、ピューロマイシン耐性となったBxPC-3細胞をB
xPC-3-mockとした。レトロウイルス感染実験は2回実施し、BxPC-3-m
ock、BxPC-3-SMAD4について、lot.1,lot.2を作製した。
【0333】
13)-2 CD147とSMAD4発現の確認
BxPC-3(ATCC,Cat.CRL-1687)、実施例13)-1で作製した
BxPC-3-mock、BxPC-3-SMAD4について、Simple West
ern assays法(プロテインシンプル ジャパン株式会社、Wes)を用いて解
析した。SMAD4陽性対照サンプルとして、MIA PaCa-2を利用した。SMA
D4の検出には抗SMAD4抗体(R&D systems,Cat.AF2097)を
利用した。GAPDHの検出には、抗GAPDH抗体(Abfrontier,Cat.
LF-MA0026)を利用した。CD147の検出には、抗CD147抗体(Abca
m,Cat.Ab108317)を利用した。
【0334】
結果を
図25(a)に示した。MIA PaCa-2はSMAD4陽性、CD147陽
性であった。BxPC-3はSMAD4陰性、CD147陽性であった。BxPC-3-
mockは、レトロウイルス感染による影響は見られず、SMAD4陰性、CD147陽
性であった。SMAD4発現レトロウイルスベクターを導入した、BxPC-3-SMA
D4は、lot. 1、lot.2のいずれもSMAD4陽性であった。Lot.2のS
MAD4発現が高く、後の実験には、lot.2をBxPC-3-SMAD4として利用
した。
【0335】
13)-3 SMAD4安定発現したBxPC-3腫瘍のCD147ヒトキメラ抗体へ
の感受性
2.5×106細胞のBxPC-3-mock、又はBxPC-3-SMAD4を10
0%Matrigel(Corning社、Cat.354234)を含むPBSで懸濁
し、5週齢雌のBALB/c-nuマウス(CAnN.Cg-Foxn1nu/CrlC
rlj、日本チャールス・リバーより購入)の腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに
BxPC-3-mock移植後6日後に、BxPC-3-SMAD4は移植後3日後に群
分けをそれぞれ実施し、郡分け実施当日、7、14、21、28日後にヒトキメラ抗ヒト
CD147抗体LN22R8R8chIgG2、又はLN22R8R8chIgG4P
10mg/kgで担癌マウスの腹腔内に投与した(n=5)。移植腫瘍の長径及び短径を
週2回、電子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式
により腫瘍体積を算出した。
【0336】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図25(b)、
図25(c)に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平
均値と標準誤差を併せて記載した。BxPC-3-mock腫瘍は、LN22R8R8c
hIgG2、又はLN22R8R8chIgG4P抗体に耐性又は、低感受性であった。
BxPC-3-SMAD4腫瘍は、LN22R8R8chIgG2、又はLN22R8R
8chIgG4P抗体に部分的な感受性を示した。
【0337】
13)-4 SMAD4発現による腫瘍中p38シグナルの変化
SMAD4陰性の膵臓癌細胞では、SMAD4を発現させることによって、p38シグ
ナルが増強することが報告されている(Chen et al.,B.M.C.,147
1-2407,2014)。BxPC-3-SMAD4腫瘍中のp38MAPKとリン酸
化p38MAPKについて、抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体投与(抗体投与後72時間
後)による変動について、実施例13)-1と同様にSimple Western a
ssays法(プロテインシンプル ジャパン株式会社、Wes)を用いて解析した。実
施例1)-18の項と同様に、抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体として、LN22R8c
hIgG4Pを10mg/kg、MIA PaCa-2皮下腫瘍を生着したマウスに投与
した。腫瘍組織からのサンプル調製(n=3)には、gentleMACS Octo
Dissociator with Heaters(ミルテニー社)を用いた。
【0338】
図26(a)にp38 MAPK測定値について、3つの腫瘍サンプルの測定値の平均
値と標準誤差を併せてグラフに記載した。
図26(b)にリン酸化p38 MAPK測定
値について、3つの腫瘍サンプルの測定値の平均値と標準誤差を併せてグラフに記載した
。
【0339】
BxPC-3-SMAD4腫瘍中では、p38とリン酸化p38が2倍以上に増加して
いた。CD147ヒトキメラ抗体投与後72時間後では、p38の部分的な減少、リン酸
化p38の部分的な増加が観察された。
【0340】
膵臓癌細胞BxPC-3の腫瘍では、SMAD4の発現によって、p38シグナルの増
強が起こることがわかった。CD147ヒトキメラ抗体LN22R8chIgG4Pの感
受性増加に、SMAD4依存的なp38シグナルの増強が寄与している可能性が考えられ
る。
【0341】
(実施例14)ゲムシタビン耐性膵臓癌におけるキメラCD147抗体の抗腫瘍効果
ゲムシタビン耐性の膵臓癌腫瘍モデルでのCD147抗体の抗腫瘍効果を調べた。5×
106細胞のヒト膵臓株MIA PaCa-2を50%GFR-Matrigel(Co
rning社、Cat.354230)を含むPBSで懸濁し、5週齢雌のNOD-sc
idマウス(NOD.CB17-Prkdc<scid>/J、日本チャールス・リバー
)の腋窩部皮下に移植した。移植の6日後に膵臓癌の治療薬であるゲムシタビン(日本イ
ーライリリー社)を400mg/kg腹腔内投与し、1週間後に増殖の確認されたゲムシ
タビン耐性腫瘍を形成したマウスを腫瘍のサイズに基づき群分けを実施し、対照群(n=
5)には、ゲムシタビンを移植後13日目(群分け日)、20日目に400mg/kg腹
腔内投与した。CD147抗体とゲムシタビン併用投与群(n=5)として、ゲムシタビ
ンを移植後13日目(群分け日)、20日目に400mg/kg腹腔内投与するのに加え
、CD147ヒトキメラ抗体LN22R8chIgG4Pを移植後13日目(群分け日)
、20日目に10mg/kg腹腔内投与した。移植腫瘍の長径及び短径を週2回、電子デ
ジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式により腫瘍体積
を算出した。
【0342】
結果を
図27に示したグラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標準誤差を併せて
記載した。Gemcitabinと抗体を投与していない未投与群(non treat
ment)の腫瘍増殖を併せて記載した(n=5)。
【0343】
対照薬のゲムシタビンの投与群の、腫瘍の平均サイズは、移植後28日後に1269m
m3であり退縮する腫瘍は認められなかったのに対し、CD147ヒトキメラ抗体LN2
2R8chIgG4Pを併用投与した群の腫瘍の平均サイズは、15mm3であり、5例
中3例での腫瘍の退縮が認められた。この結果から、ゲムシタビンに耐性を示し増殖する
膵臓癌腫瘍についてもCD147抗体への感受性を示す可能性が示された。
【0344】
(実施例15)肝臓癌モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果
15)-1 Hep G2細胞におけるCD147とSMAD4の発現
実施例13)-2と同様に、肝臓癌細胞株HepG2細胞(ATCC, Cat.HB
-8065)のCD147とSMAD4発現について確認した。CD147陽性の対照検
体として、MIA PaCa-2、BxPC-3(ATCC,Cat.CRL-1687
)を用いた。SMAD4陽性の対照検体として、MIA PaCa-2、SMAD4陰性
の対照検体として、BxPC-3をそれぞれ用いた。
【0345】
検出されたシグナルについて、GAPDHに対するシグナル比を求め、下記にまとめた
。Hep G2細胞は、CD147、SMAD4陽性であることがわかった。
【0346】
CD147/GAPDHのシグナル比
MIA PaCa-2 0.481
BxPC-3 0.481
Hep G2 2.944
【0347】
SMAD4/GAPDHのシグナル比
MIA PaCa-2 0.329
BxPC-3 0.003
Hep G2 0.723
【0348】
15)-2 Hep G2細胞におけるCD147のフローサイトメーターによる発現
確認
HepG2細胞(ATCC,Cat.HB-8065)の細胞表面に発現するCD14
7をフローサイトメーターにより解析した。ヒトCD147の発現確認には、市販の抗ヒ
トCD147抗体としてAPCラベルされた抗ヒトCD147マウスIgG1抗体MEM
-M6/1-APC(Thermofisher, Cat. MA1-10104)を
用いた。マウスIgG1 Isotype control抗体としてmIgG1-AP
C(ミルテニーバイオ社、Cat. 130-092-214)を用いた。HepG2細
胞の懸濁液に、1/10量のMEM-M6/1-APCを加え、4℃、30分間処理した
。5%FBSを含むPBS緩衝液で細胞を洗浄後、フローサイトメーター(CantoI
I、BD Bioscience社)の測定を実施し、
図28(a)に結果をまとめた。
【0349】
MEM-M6/1-APC で処理したHep G2細胞は、強い蛍光シグナルを示し
、CD147を発現していることがわかった。
【0350】
15)-3 肝臓癌細胞におけるヒト化CD147抗体によるp38活性化
肝臓癌細胞HepG2において、抗CD147抗体が、p38MAPKに及ぼす影響を
調べるために、抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体(LN22R8chIgG4P)又は、
実施例6)-4-2で作製した抗ヒトCD147ヒト化抗体(#84H1L2hIgG2
、#84H1L2hIg4P、#101H1L2hIgG2、#101H1L2hIgG
4P、#110H1L4hIg4P、#131H2L2hIgG2)を10μg/mlで
15分間処理したHepG2細胞(ATCC,Cat.HB-8065)について、P3
8リン酸化をSimple Western assays法(プロテインシンプル ジ
ャパン株式会社、Wes)を用いて評価した。対照サンプルとして、HepG2細胞をヒ
トIgG(hIgG,Jackson ImmunoResearch社、009-00
0-003)10μg/mlを同様に処理して解析に供した。p38MAPKの検出には
、p38 MAPK rabbit mAb(Cell signaling tech
nology社、Cat.#9212)を用いた。リン酸化p38MAPKの検出には、
P-p38 MAPK(T180/Y182)(D3F9)XP rabbit mAb
(Cell signaling technology社、#4511S)を用いた。
検出されたp38MAPKシグナル対する、リン酸化p38MAPKシグナルの比を
図2
8(b)に示した。
【0351】
LN22R8chIgG4P、#84H1L2hIgG2、#84H1L2hIg4P
、#101H1L2hIgG2、#101H1L2hIgG4P、#110H1L4hI
g4P又は#131H2L2hIgG2の処理によって、ヒトIgG処理群より2倍以上
のリン酸化p38 MAPKシグナルの増加が観察され、肝臓癌細胞でも膵臓癌細胞同様
に抗ヒトCD147抗体によってp38MAPKのリン酸化が誘導されていることがわか
った。
【0352】
15)-4 肝臓癌におけるヒト化CD147抗体とソラフェニブの抗腫瘍効果の比較
CD147とSMAD4陽性で、抗ヒトCD147抗体によるp38のリン酸化が確認
されたヒト肝臓株HepG2(ATCC,Cat.HB-8065)について、抗ヒトC
D147ヒトキメラ抗体とヒト化抗体の抗腫瘍効果を検討した。
【0353】
5×106細胞のヒト肝臓株HepG2を50%Matrigel(Corning社
、Cat.354234)を含むPBSで懸濁し、4週齢雌のNOD-scidマウス(
NOD.CB17-Prkdc<scid>/J、日本チャールス・リバーより購入)の
腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに移植後9日後に群分けを実施し、ヒトキメラC
D147抗体(LN22R8chIgG4P)、実施例6)-4-2で作製したヒト化C
D147抗体(#84H1L2hIgG2、#84H1L2hIg4P、#110H1L
4hIg4P)を1mg/kg、10mg/kgで担癌マウスの腹腔内に投与した(n=
5)。対照薬として肝臓癌の治療薬であるソラフェニブ(ネクサバール錠200mg,バ
イエル薬品株式会社社)をネクサバール錠添付文書の参考文献(Chang et.al
.,Cancer Chem.Thera.Pharm.,2007)に従いPEG-3
5ヒマシ油(Cremophor EL、ナカライテスク社、Cat.09727-14
)エタノール溶媒に溶解し、移植の9、10、11,12,13,16,17,18日後
に30mg/kg、90mg/kgで担癌マウスに経口投与した(n=5)。移植腫瘍の
長径及び短径を週2回、電子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以
下に示す計算式により腫瘍体積を算出した。
【0354】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を表7及び
図29(a)~(d)に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、
平均値と標準誤差を併せて記載した。
ソラフェニブ投与は、腫瘍増殖の部分的な阻害が観察されたが、腫瘍の消失は認められな
かった。LN22R8chIgG4P、#84H1L2hIgG2、#84H1L2hI
g4P、#110H1L4hIg4Pは、いずれも腫瘍の消失を伴う優れた抗腫瘍効果を
示した。
【0355】
【0356】
(実施例16) T細胞及びPBMCに対する作用
CD147はT細胞の活性化に伴いCD4陽性、CD8陽性のT細胞で発現が上昇し(
Hu et al.,J.Cell.Mol Med.,2132-2143,2010
)、一部のCD147抗体では、T細胞の活性化誘導能や増殖を阻害する効果が報告され
ている(Koch et al.,Int.Immunology,777-786,1
999;Chiampanichayakul et al., Immunology
167-178, 2006)。エフェクター機能に依存せず、強い抗腫瘍効果を示す
抗ヒトCD147抗体が、T細胞を含む末梢血リンパ球(PBL)に及ぼす影響を調べた
。
【0357】
16)-1 PBMCのCD3/CD28刺激によるCD147の発現上昇
CD147の発現がT細胞の活性化に伴い上昇するか、ヒトPBMCを用いて調べた。
ヒトPBMCを10%FBSを含むRPMI1640培地で、37℃、5%CO2存在下
で培養した。培養時に、Dynabeads Human T-Activator C
D3/CD28(CD3/CD28 beads,Thermofishers sci
entific社、Cat.1131D)を添加し増殖を誘導し、4日後にフローサイト
メーターの解析を実施し、CD147の発現が変化するか調べた。ヒトCD147の発現
確認には、市販の抗ヒトCD147抗体としてAPCラベルされた抗ヒトCD147マウ
スIgG1抗体MEM-M6/1-APC(CD147-APC,Thermofish
er,Cat.MA1-10104)を用いた。マウスIgG1 Isotype co
ntrol抗体としてmIgG1-APC(ミルテニーバイオ社、Cat.130-09
2-214)を用いた。ヒトPBMCに含まれるT細胞のCD3,CD4,CD8を検出
するために、APC/FireTM 750 anti-human CD3 Anti
body(BioLegend社製,Cat.344840)、PerCP/Cy5.5
anti-human CD4(BioLegend社製,Cat.344608)、
Brilliant Violet 510 anti-human CD8(BioL
egend社製,Cat.344732)を用いた。
【0358】
CD3,CD4陽性の細胞及びCD3,CD8陽性の細胞におけるCD147-APC
の結合を
図30にまとめた。CD3,CD4陽性の細胞及びCD3,CD8陽性の細胞に
おいて、CD3/CD28 beads刺激した場合に、CD147の発現上昇が確認さ
れ、T細胞の活性化に伴いCD147のT細胞膜表面上の発現が上昇することが確認され
た。
【0359】
16)-2 ヒト末梢血単核球の増殖における抗ヒトCD147抗体作用の評価
ヒト末梢血単核球(PBMC)の増殖における抗ヒトCD147抗体作用を解析した。
抗ヒトCD147抗体として、2P10F2chIgG4Pを用いた。CellVue
Claret Far Red Fluorescent Cell Linker K
it(sigma、Cat.MIDCLARET-1KT)を用いて、PBMCを蛍光ラ
ベルした後に、10%FBSを含むRPMI1640培地で、37℃、5%CO2存在下
で培養した。培養時に、IL-2、Dynabeads Human T-Activa
tor CD3/CD28(CD3/CD28 beads,Thermofisher
s scientific社、Cat.1131D)を添加し増殖を誘導した際に2P1
0F2chIgG4P(10μg/ml)を加えて、増殖への影響を調べた。培養3日、
5日目に、細胞分裂によって減少したPBMC細胞蛍光シグナルに対しフローサイトメー
ター(CantoII、BD Bioscience社)を用いた測定を実施し、
図31
に結果をまとめた。
【0360】
CD3/CD28 beadsの添加によって、細胞分裂によって減少したPBMC細
胞蛍光シグナルが、培養3日後、5日後に観察された。IL-2、2P10F2chIg
G4P、又はIL-2と2P10F2chIgG4Pを培養時に添加した場合に、蛍光シ
グナルの減少に変化は見られなかった。実施例1)-18で示したヒト膵臓癌のマウス腫
瘍モデルにおいて強い抗腫瘍効果を示した抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体2P10F2
chIgG4Pは、PBMCの増殖には、影響を与えないことが示唆された。
【0361】
16)-3 ヒト末梢血リンパ球のサイトカイン産生における抗ヒトCD147抗体の
評価
抗ヒトCD147抗体として、ヒトキメラ抗体#84chIgG1、#84chIgG
2、#84chIgG4P、#84chIgG1LALA、#84chIgG4PFAL
A、#101chIgG4P又は#110chIgG4Pを用いた。ヒト末梢血よりFi
coll-Paque PLUS(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて、PB
Lを調製した。96ウェルプレートに10μg/mlのヒトキメラ抗体をコートした。陰
性コントロール抗体としてヒトIgG(hIgG, Jackson ImmunoRe
search社、009-000-003)、T細胞の活性化やサイトカイン誘導を誘導
する陽性コントロール抗体としてDynabeads Human T-Activat
or CD3/CD28(CD3/CD28-beads、Thermofishers
scientific社、Cat.1131D)を用いた。抗体をコートしたウェルに
1x10
6のPBLを加え、24時間後に、培地中のサイトカイン(IL2,TNFα、
INFγ)を測定した。Dynabeads Human T-Activator C
D3/CD28は、PBLを加えたウェルに直接添加し、同様に24時間後に、培地中の
サイトカイン(IL2,TNFα、INFγ)を測定した。IL2の測定には、Quan
tikine ELISA Human IL-2(R&D systems,Cat.
D2050)を用いた。TNFαの測定には、Amersham TNF-α Huma
n, Biotrak Easy ELISA(GEヘルスケア・ジャパン株式会社,C
at.RPN5967)を用いた。INFγの測定には、Human IFN-γ EL
ISA development kit(MABTECH社,Cat.3420-1H
-6)を用いた。測定は3重に実施し、検出された吸光度の平均値と標準偏差を算出し、
図32にまとめた。
【0362】
測定したPBLより産生されたサイトカイン(IL2,TNFα、INFγ)は、いず
れも陽性コントロールであるCD3/CD28-beadsを添加したウェルでの培養で
のみ上昇が確認され、いずれの抗ヒトCD147ヒトキメラ抗体コートしたウェルでの培
養でも、陰性コントロールであるhIgGと同様にサイトカインの上昇は認められなかっ
た。
【0363】
(実施例17)ヒト化#110Fab’―CD147複合体のX線結晶構造解析
17)-1 複合体の結晶化
ヒト化#110H1L4hIgG4PをPepsinにより切断して得られたFab’
2を、Dithiothreitolで還元した後、Iodoacetamideにより
アルキル化することでFab’断片を取得した。このFab’断片と実施例5)で用いた
hCD147v2(22-205)の混合物をSuperdex 10/300GL I
ncreaseカラム(GE Healthcare)を用いたゲルろ過クロマトグラフ
ィーに供与し、複合体画分を取得した。複合体はAmiconUltra15 MWCO
10K(ミリポア社製)で緩衝液(10mM Tris HClpH7.5、50mM
NaCl)に置換し、13g/Lに濃縮した。複合体溶液を蒸気拡散法により結晶化し
た。タンパク質溶液0.5μLに沈殿剤溶液(0.1 M NaMalonate pH
7.0、 12%(w/v)Polyethylene Glycol 3350)を
等量加えた溶液を、0.05mLの沈殿剤溶液を入れた密閉容器に両溶液が触れ合わない
ように収め、25℃で静置した。約1週間後に得られた0.15mm×0.15mm×0
.3mmの結晶を30%(w/v)になる様にPolyethylene Glycol
400を加えた沈殿剤溶液に浸してから液体窒素で凍結した。放射光施設フォトンファ
クトリー(茨城県、日本)のビームラインPF-BL17AにてX線回折データを収集し
た。得られた回折像からソフトウェアmosflm(CCP4:Collaborati
ve Computational Project No. 4)を用いて回折強度を
数値化し、結晶構造因子を求めた。結晶の空間群はP21、結晶の単位格子は(a=64
.96Å, b=93.37Å, c=98.31Å、alpha=gamma=90、
beta=90.89)であった。
【0364】
17)-2 複合体の構造解析
得られた構造因子とFab’断片のホモロジーモデルおよびヒトCD147の既知構造
(PDBID:3b5h)の三次元構造座標を用いて分子置換法を行い、位相を決定した
。計算にはソフトウェアphaser(CCP4:Collaborative Com
putational Project No.4)を使用した。結晶は非対称単位に2
つの複合体を含んでいた。ソフトウェアRefmac5(CCP4:Collabora
tive Computational Project No.4)を用いて構造の精
密化を行い、ソフトウェアcootを用いてモデルの修正を行った。この操作を繰り返し
行い、2.3 Å分解能で最終のR値23%、free R値28%を得た。最終のモデ
ルはヒト化#110H1L4のFab’断片を2つと、それぞれに結合するhCD147
v2を含む。なお、片方のhCD147v2についてはアミノ酸残基23-203に相当
する電子密度が認められたが、もう片方についてはドメイン1に相当する電子密度は明瞭
ではなく、アミノ酸残基103-202に相当する電子密度のみ認められた。
【0365】
17)-3 エピトープの特定
非対称単位に含まれる2つの複合体において共通してヒト化#110H1L4のFab
’断片の結合面から4Å以内にあるhCD147v2のアミノ酸残基は以下の通りである
:Arg106、Lys108、Ala109、Val110、Lys127、Ser1
28、Glu129、Ser130、Val131、Pro132、Pro133、Va
l134、Gln164、Gly165。
図41に複合体全体のリボンモデルと表面を、
図42にhCD147v2とヒト化#110H1L4との相互作用を示した。
【0366】
(実施例18)胃癌モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果
フローサイトメーターによりCD147陽性が確認されたヒト胃癌細胞株KATO I
II細胞(ATCC,Cat.HTB-103)について、抗ヒトCD147ヒトキメラ
抗体とヒト化抗体の抗腫瘍効果を検討した。
【0367】
5×106細胞のヒト胃癌株KATO IIIを100%Matrigel(Corn
ing社、Cat.354234)で懸濁し、5週例雌のNOD-scidマウス(NO
D.CB17-Prkdc<scid>/J、日本クレアより購入)の腋窩部皮下に移植
した。腫瘍体積をもとに移植後3日後に群分けを実施し、ヒトキメラCD147抗体(L
N22R8chIgG4P)、実施例6)-4-2で作製したヒト化CD147抗体(#
110H1L4hIg4P)を10mg/kgで担癌マウスの腹腔内に、群分け後7日ご
とに投与した(n=6)。移植腫瘍の長径及び短径を週2回、電子デジタルノギス(株式
会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式により腫瘍体積を算出した。
【0368】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図43に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標準誤差を併せ
て記載した。
未処理群のマウスの腫瘍の平均体積は、移植から24日後に290mm
3であるのに対し
、LN22R8chIgG4p投与群では、199mm
3、#110H1L4hIgG4
P投与群のでは、134mm
3であり、算出された抗腫瘍効果は、LN22R8chIg
G4p投与群で31%、#110H1L4hIgG4P投与群では、54%であった。
【0369】
(実施例19)慢性骨髄性白血病モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果
フローサイトメーターによりCD147陽性が確認されたヒト慢性骨髄性白血病細胞株
KU812細胞(ATCC,Cat.CRL-2099)について、抗ヒトCD147ヒ
ト化抗体の抗腫瘍効果を検討した。
【0370】
5×106細胞の慢性骨髄性白血病細胞株KU812を50%Matrigel(Co
rning社、Cat.354234)を含むPBSで懸濁し、5週例雌のNOD-sc
idマウス(NOD.CB17-Prkdc<scid>/J、日本クレアより購入)の
腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに移植後3日後に群分けを実施し、実施例6)-
4-2で作製したヒト化CD147抗体(#110H1L4hIg4P)を10mg/k
gで担癌マウスの腹腔内に、群分け後7日ごとに投与した(n=5)。対照薬として慢性
骨髄性白血病の治療薬であるイマチニブ(ASTATECH社、Cat.#63168)
を9mg/ml溶液に蒸留水で調製し、90mg/kgで担癌マウスに経口投与した(土
日休薬連投、移植後4、7、8、9、10、11、14、15、16、17、18、21
、22、23、24日後に投与)。移植腫瘍の長径及び短径を週2回、電子デジタルノギ
ス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式により腫瘍体積を算出した
。
【0371】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図44に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標準誤差を併せ
て記載した。
未処理群のマウスの腫瘍の平均体積は、移植から25日後に627mm
3であるのに対し
、イマチニブ投与群では、328mm
3、#110H1L4hIgG4P投与群のでは、
6mm
3であり、算出された抗腫瘍効果は、イマチニブ投与群で48%、#110H1L
4hIgG4P投与群では、97%であった。#110H1L4hIgG4P投与群での
み、5例中4例で腫瘍の完全縮退が観察された。
【0372】
(実施例20)大腸癌モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果
フローサイトメーターによりCD147陽性が確認されたヒト大腸癌細胞株SW620
細胞(ATCC,Cat.CCL-227)について、ヒト化抗体の抗腫瘍効果を検討し
た。
【0373】
5×106細胞のヒト大腸癌株SW620を100%Matrigel(Cornin
g社、Cat.354234)で懸濁し、5週例雌のNOD-scidマウス(NOD.
CB17-Prkdc<scid>/J、日本クレアより購入)の腋窩部皮下に移植した
。腫瘍体積をもとに移植後3日後に群分けを実施し、ヒトキメラCD147抗体(LN2
2R8chIgG4P)、実施例6)-4-2で作製したヒト化CD147抗体(#08
4H1L2hIg4Pあるいは#110H1L4hIg4P)を10mg/kgで担癌マ
ウスの腹腔内に、群分け後7日ごとに投与した(n=5)。移植腫瘍の長径及び短径を週
2回、電子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式に
より腫瘍体積を算出した。
【0374】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図45に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標準誤差を併せ
て記載した。
未処理群のマウスの腫瘍の平均体積は、移植から21日後に1302mm
3であるのに対
し、#084H1L2hIg4P投与群では、709mm
3、#110H1L4hIgG
4P投与群のでは、403mm
3であり、算出された抗腫瘍効果は、#084H1L2h
Ig4P投与群で46%、#110H1L4hIgG4P投与群では、69%であった。
【0375】
(実施例21)腎臓癌786-Oモデルにおけるヒト化CD147抗体の抗腫瘍効果
フローサイトメーターによりCD147陽性が確認されたヒト腎臓癌786-Oについ
て、ヒト化抗体の抗腫瘍効果を検討した。
5×106細胞のヒト腎臓癌786-Oを50%Matrigel(Corning社、
Cat.354234)をで懸濁し、5週例雌のNOD-scidマウス(NOD.CB
17-Prkdc<scid>/J、日本クレアより購入)の腋窩部皮下に移植した。腫
瘍体積をもとに移植後3日後に群分けを実施し、ヒトキメラCD147抗体(LN22R
8chIgG4P)、実施例6)-4-2で作製したヒト化CD147抗体(#084H
1L2hIg4Pあるいは#110H1L4hIg4P)を10mg/kgで担癌マウス
の腹腔内に、群分け後7日ごとに計4回投与した(n=6)。移植腫瘍の長径及び短径を
週2回、電子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し、以下に示す計算式
により腫瘍体積を算出した。
【0376】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図46に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標準誤差を併せ
て記載した。
未処理群のマウスの腫瘍の平均体積は、移植から31日後に918mm
3であるのに対し
、#084H1L2hIg4P投与群では、224mm
3、#110H1L4hIgG4
P投与群のでは、379mm
3であり、算出された抗腫瘍効果は、#084H1L2hI
g4P投与群で76%、#110H1L4hIgG4P投与群では、59%であった。
【0377】
(実施例22)急性骨髄性白血病(AML)モデルにおけるヒト化CD147抗体の抗
腫瘍効果
フローサイトメーターによりCD147陽性が確認されたヒトAML細胞株OCI-A
ML3細胞(DSMZ,Cat.ACC 582)について、ヒト化抗体の抗腫瘍効果を
検討した。
【0378】
5×106細胞のヒトAML細胞株OCI-AML3細胞を50% GFR-Matr
igel(Corning社、Cat.354230)で懸濁し、5週例雌のNOD-s
cidマウス(NOD.CB17-Prkdc<scid>/J、日本クレアより購入)
の腋窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに移植後3日後に群分けを実施し、実施例6)
-4-2で作製したヒト化CD147抗体(#110H1L4hIg4P)を尾静脈注射
により、10mg/kgで担癌マウスに群分け後7日ごとに投与した(n=6)。移植腫
瘍の長径及び短径を週2回、電子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定し
、以下に示す計算式により腫瘍体積を算出した。
【0379】
腫瘍体積(mm
3)=1/2×短径(mm)×短径(mm)×長径(mm)
結果を
図47に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標準誤差を併せ
て記載した。
未処理群のマウスの腫瘍の平均体積は、移植から21日後に1533mm
3であるのに対
し、#110H1L4hIgG4P投与群のでは、394mm
3であり、算出された抗腫
瘍効果は、#110H1L4hIgG4P投与群では、74%であった。
【0380】
(実施例23) 結合性の異なるヒト化抗CD147抗体の活性測定
5×106細胞のヒト膵臓株MIA PaCa-2を50%GFR-Matrigel
(Corning社、Cat.354230)を含むPBSで懸濁し、4週例雌のNud
eマウス(BALB/c Slc-nu/nu、日本エスエルシー(株)より購入)の腋
窩部皮下に移植した。腫瘍体積をもとに群分けをし、移植の7日後に実施例6)-4-2
で作製したCD147蛋白質への結合性が異なる3種のヒト化CD147抗体(#110
H1L4hIgG4P、#110H13L02hIgG4P及び#110H13L12h
IgG4P、表6に結合性を記載)を10 mg/kgで担癌マウスに尾静脈投与した(
n=6)。対照薬として膵臓癌の治療薬であるゲムシタビン(日本イーライリリー社より
購入)を移植の3、10日後に400 mg/kgで担癌マウスに尾静脈投与した(n=
6)。移植腫瘍の長径及び短径を週2回、電子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)を
用いて測定し、以下に示す計算式により腫瘍体積を算出した。
【0381】
結果を
図48に示した。グラフには腫瘍体積の変化について、平均値と標準誤差を併せ
て記載した。
【0382】
対照薬のゲムシタビンの腫瘍増殖抑制率は、66%であったのに対し、いずれのヒト化
CD147抗体も、10 mg/kg投与群でゲムシタビンよりも優れた抗腫瘍効果を示
した。
【0383】
(実施例24) CD147抗体の比較
24)-1 既存の抗CD147抗体の抗原結合性評価
競合抗体として、WO2010/036460の4A5、5F6抗体、WO2017/
061602のPPAT-082-03の特許記載配列に基づき、精製抗体を調製した。
CD147蛋白質との解離定数測定は、Biacore T200(GE Health
care Bioscience社製)を使用し、Human Antibody Ca
pture Kit(GE Healthcare Bioscience社製)を用い
て固定化したAnti-Human IgG(Fc) antibodyに抗体をリガン
ドとして捕捉(キャプチャー)し、抗原をアナライトとして測定するキャプチャー法にて
行った。ランニングバッファーとしてHBS-EP+(GE Healthcare B
ioscience社製)、センサーチップとしてCM5(GE Healthcare
Bioscience社製)を用いた。チップ上に1μg/mLの競合抗体を10μL
/分で60秒間添加した後、実施例2)-5で用いた抗原の希釈系列溶液(0.5~8μ
g/mL)を流速30μL/分で120秒間添加し、引き続き300秒間の解離相をモニ
ターした。再生溶液として、3M magnesium chloride(GE He
althcare Bioscience社製)を流速20μL/分で30秒間添加した
。データの解析には1:1結合モデルを用いて、結合速度定数ka、解離速度定数kd及
び解離定数(KD;KD=kd/ka)を算出した。ヒト化CD147抗体(#084H
1L2hIgG4Pあるいは#110H1L4hIgG4P)の解離定数は、実施例7)
-1の方法で算出した。
【0384】
表8には、算出した解離定数、エフェクター機能、エピトープ領域に関する情報を示す
。
【0385】
【0386】
24)-2 既存のCD147抗体との競合ELISA
実施例6)-4-2で作製したヒト化CD147抗体(#084H1L2hIg4Pあ
るいは#110H1L4hIg4P)を用いRecombinant Human CD
147/Fc(Sino Biological社,Cat.10186-H02H)へ
の結合性を競合ELISAで評価した。競合抗体として、24)-1で調製した4A5、
5F6抗体、PPAT-082-03抗体を使用した。競合陰性対照抗体として、ヒトI
gG(ジャクソン社、Cat.130093)を用いた。競合陽性対照抗体として、#0
84H1L2hIg4P抗体に対し、#84H1L2hIgG2抗体、#110H1L4
hIg4Pに対し#110chIgG2抗体を用いた。
【0387】
96ウェルプレート(サーモサイエンティフィック社,Cat.43454)にPBS
で希釈したRecombinant Human CD147 /Fcを2 ug/ml
、50ul/wellで添加し、4℃で一晩保存した。蛋白溶液を除いた後に1%BSA
を含むPBSを300ul添加し、1時間室温で加温した。溶液を除き、25ulの既存
の抗体液(0、0.2、2、20ug/ml)を添加し、2時間室温で加温した。20n
g/mlの濃度の25ulのヒト化CD147抗体(#084H1L2hIg4Pあるい
は#110H1L4hIg4P)を各ウェルに添加し、2時間室温で加温した。0.05
%Tween20(BIO RAD社, Cat.170-6531)を含むPBSで2
回洗浄した後、50ulの1%BSAを含むPBSで2000倍希釈した抗ヒトIgG4
-HRP(アブカム社,Cat.ab99823)を添加し、1時間室温で加温した。0
.05%Tween20(BIO RAD社,Cat.170-6531)を含むPBS
で3回洗浄した後、十分に洗浄液をきり、HRP基質液(eBioscience社,C
at.00-4203-58)を50ul加え、15~20分室温で加温後、405nm
の吸光度をプレートリーダー(パーキンエルマー社、モデル名EnVision2104
)で測定した。
【0388】
【0389】
#084H1L2hIg4PのRecombinant Human CD147 /
Fcへの結合は、hIgG存在下では1~10ug/mlの既存のCD147抗体存在下
で阻害された。#110H1L4hIg4PのRecombinant Human C
D147 /Fcへの結合は、hIgG存、0.1~10ug/mlの既存のCD147
抗体存在下で阻害されず、#110chIgG2抗体の存在下で阻害された。#084H
1L2hIg4Pのエピトープは、既存の抗CD147抗体の結合により競合を受けるが
、#110H1L4hIg4Pのエピトープは既存の抗CD147抗体の結合により影響
を受けないことがわかった。
実施例17)-3で示されたH110H1L4h抗体のエピトープ情報を表8に記載した
。実施例1)-9のCD147変異体を用いた解析でエピトープが推定された2P10F
2抗体との結合競合性試験結果(実施例2)-8)から、#084H1L2hのエピトー
プ領域を推定し、表8に記載した。
【0390】
24)-3 抗CD147抗体のADCC評価
実施例1)-15の手法に従い、抗CD147抗体のADCC活性を評価した。実施例1
)-15の手法と異なる条件として、ADCC標的細胞としてHepG2細胞(ATCC
,Cat.HB-8065)を用い、CD147抗体として#110H1L4hIgG4
P、#084H1L2hIg4P、4A5、5F6、PPAT-082-03を1μg/
mlの濃度で評価した。測定は3重に実施し、平均値、標準偏差を算出した。5%以上の
細胞の51Crが検出された場合に、ADCC陽性(+)とした。5%未満の場合をAD
CC活性陰性(-)とした。結果を表8に示した。
【0391】
#110H1L4hIgG4P、#084H1L2hIg4Pは、ADCC活性が検出
されず、ADCC(-)と判定した。4A5、5F6、PPAT-082-03は、5%
以上の細胞の51Crが検出され、ADCC陽性(+)とした。#110H1L4hIg
G4P、#084H1L2hIg4Pは、ADCC陰性であり、ヒトの生体内でCD14
7を発現している血液細胞などの正常細胞に対して細胞死を誘導する可能性が、ADCC
活性陽性の4A5、5F6、PPAT-082-03よりも低いことが予測される。
【0392】
24)-4 抗CD147抗体のCDC評価
実施例1)-16の手法に従い、抗ヒトCD147抗体による補体依存的な殺細胞活性(
CDC活性)を評価した。実施例1)-16の手法と異なる条件として、標的細胞として
ヒト肝臓株HepG2細胞(ATCC,Cat.HB-8065)を用い、抗ヒトCD1
47抗体として、#110H1L4hIgG4P、#084H1L2hIg4P、4A5
、5F6およびPPAT-082-03を用い、ウサギ補体を終濃度8%となるように添
加し、測定した。測定は3重に実施し、平均値と標準偏差を算出した。30%以上の抗体
依存的なCDC活性が認められた抗体については、CDC活性陽性とし、表にCDC(+
)と記載した。結果を表8に示した。抗ヒトCD147抗体は、4A5のみCDC活性陽
性を示した。#110H1L4hIgG4P、#084H1L2hIg4P、5F6、P
PAT-082-03は、CDC陰性であり、ヒトの生体内でCD147を発現している
血液細胞などの正常細胞に対して細胞死を誘導する可能性が、CDC活性陽性の4A5よ
りも低いことが予測される。
24)-5 抗CD147抗体のADCP評価
実施例1)-17の手法に従い、抗CD147抗体のADCP活性を測定した。実施例1
)-17の手法と異なる条件として、標的細胞としてヒト肝臓株HepG2細胞(ATC
C,Cat.HB-8065)を用い、抗CD147抗体として#110H1L4hIg
G4P、#084H1L2hIg4P、4A5、5F6、PPAT-082-03を1μ
g/mlの濃度で添加し、標識したRAW264.7細胞はADCP標的細胞の等量添加
し、ADCP活性を測定した。測定は3重に実施し、平均値、標準偏差を算出し、ヒトI
gG処理群より10%未満のADCP活性上昇を弱陽性(±)、10%以上の活性上昇を
陽性(+)として表8に示した。
【0393】
#110H1L4hIgG4P のADCP活性は10%未満でありADCC活性±と
判定した。#084H1L2hIgG4P、4A5、5F6、PPAT-082-03抗
体のADCP活性は10%以上であり、ADCP活性+と判定した。CD147-D2を
認識する#110H1L4hIgG4Pは、CD147-D1を認識する他のCD147
抗体よりもADCP活性が低かった。ADCPは、CD147抗体がCD147に結合し
た後に、マクロファージや単核球細胞上に発現するFcγ受容体によって、抗体のFC部
分が認識されることが必要であるが、#110抗体のエピトープが細胞表面に近く、抗原
であるCD147に結合した抗体のFC部分が、他のCD147-D1を認識する抗体よ
りもFcγ受容体によって認識されにくく、ADCP活性が低い可能性がある。#110
H1L4hIgG4P、ADCP活性が弱陽性であり、ヒトの生体内でCD147を発現
している血液細胞などの正常細胞に対して細胞死を誘導する可能性が、ADCP活性陽性
の#084H1L2hIg4P、4A5、5F6、PPAT-082-03よりも低いこ
とが予測される。
【0394】
(実施例25)
25)-1 抗CD147抗体による血液系細胞凝集
一部の抗CD147抗体は、血球系細胞の凝集を誘導することが報告されている(Ka
sinrerkらImmunology 1999,96(2)p184-192)。血
球系細胞の凝集は、重篤な血液毒性を引き起こす可能性があり(Doll,C.,et
al.,1994,Curr.Opin.Oncol.,345-350)、治療用抗体
としては望ましくない性質である。抗CD147抗体について、細胞集積の活性の違いを
調べた。CD147抗体として#110H1L4hIgG4P、#084H1L2hIg
4P、4A5、5F6、PPAT-082-03を評価した。陰性の対照抗体としてヒト
IgG(hIgG,ChromPure Human IgG,Jackson Imm
unoResearch Laboratories社,Cat.009-000-00
3)を用いた。HEL92.1.7細胞(ATCCより購入、Cat.#TIB-180
)を96ウェルUボトムプレート(住友ベークライト社、Cat.MS-9096U)に
1ウェルあたり、1600細胞 / 80 uL 10%FBS(ハイクローン社、Ca
t.SH30084.03)を含むRPMI1640培地(サーモフィッシャーサイエン
ティフィック社、Cat.11875-093)を添加し、4時間、5%CO2、湿度9
5%、37度の条件で培養した。各ウェルに20ulの抗CD147抗体溶液(150u
g/ml,50ug/ml)を加え、終濃度30、10ug/mlとした。5%CO2、
湿度95%、37度の条件で2日間培養し、顕微鏡観察を実施した。
【0395】
ヒトIgG、#110H1L4hIgG4Pの添加による細胞の集積は観察されなかっ
たのに対し、#084H1L2hIg4P、4A5、5F6、PPAT-082-03抗
体の存在下では、細胞が集積し、プレートの中央に折り重なった細胞塊が観察された。C
D147-D2を認識する#110H1L4hIgG4Pは、CD147-D1ドメイン
を認識する他のCD147抗体とは異なり、血液細胞の凝集活性が無いことが示された。
#084をはじめとする細胞凝集活性のあるCD147抗体は、ヒトに投与した場合に、
血液細胞の凝集を介した血栓などの毒性を生じる恐れがあるので、血栓の治療に用いられ
る用量のヘパリンないし低分子ヘパリンの皮下注,又は抗血小板薬の併用などによって副
作用を回避あるいは軽減することが望ましい。
【0396】
25)-2 サイトカイン放出症候群のリスク評価
治療用抗体の投与によって、OKT3、TGN1412など一部の抗体では、免疫細胞を
活性化させることで、血中のサイトカインが上昇し、重篤なサイトカイン放出症候群を引
き起こす(Gaston,R.,Kidney International,1991
,141-148;Suntharalingam,G.,et al.,N.Engl
.J.Med.2006,1018-1028)。一部のCD147抗体は、免疫細胞に
作用し、インターフェロンガンマやインターロイキンー4の産生を増加する作用が報告さ
れている(Hu,J.,et al.,J.Cell.Mol.Med.,2010,2
132-2143)。このサイトカイン放出症候群による抗体医薬の毒性は、末梢血を用
いたサイトカインリリースアッセイにより予測することができる(Vessillier
,S.et al.,J.Immunolol.Methods,2015,43-52
)。同様のヒト末梢血サイトカインリリースアッセイによりサイトカイン放出症候群のリ
スクを評価した。CD147抗体として#110H1L4hIgG4P、#110chI
gG4ProFALA、#084H1L2hIg4P、#084H1L2hIg2を用い
、比較抗体として、ベバシズマブ(Genentech,Inc.)、トラツズマブ(R
oche Pharma AG)、アレムツズマブ(サノフィ株式会社)、抗ヒトCD3
抗体(BioLegend Cat.No317326)を用いた。評価した全てのCD
147抗体については、ヒト末梢血単核球(6ドナー分をそれぞれ評価)に対し、細胞増
殖の亢進は認められず、サイトカインの放出(TNFα、INF-γ、IL-2、IL-
6、IL-8、IL-10、MIP-1α)への影響は、サイトカイン放出症候群のリス
クが低いベバシズマブよりも弱かった。抗ヒトCD3抗体(OKT3)では、細胞増殖の
亢進、サイトカインの放出(TNFα、INF-γ、IL-2、IL-6、IL-8、I
L-10、MIP-1α)の亢進が観察された。#110H1L4hIgG4P、#11
0chIgG4ProFALA、#084H1L2hIg4P、#084H1L2hIg
2は、サイトカイン放出症候群の可能性となるサイトカインリリースを誘導しないことが
示された。
【0397】
25)-3 抗CD147抗体のサルの安全性評価
一部の抗マウスCD147抗体は、マウスに投与した際に、CD147の機能を阻害し、
脾臓での赤血球の集積を誘導することで、末梢血中の赤血球量が低下し、貧血を引き起こ
すことが報告されている(Coste, I. et al., Blood, 200
1, 3984-3988)。本発明の中で取得した#110H1L4hIgG4Pなど
のCD147抗体は、マウスのCD147に結合を示さないため、マウスでの安全性評価
は適切ではない。そこで、フローサイトメーターを用いた実験によりヒトおよびサルCD
147への結合性が確認された抗CD147抗体として、#110H1L4hIgG4P
をカニクイザルに投与し、安全性を評価した。カニクイザル(雌雄各1例)に#110H
1L4hIgG4Pを投与可能最大量である99.2 mg/kgで単回静脈内投与した
結果、投与後15日までの観察期間と観察期間終了時の病理組織学的検査では、重篤な毒
性(体重および摂餌量の変化、病理組織学的変化)は観察されなかった。#110H1L
4hIgG4Pは、カニクイザルに対して毒性を示さず、ヒトの癌治療に利用できる可能
性が示された。
【0398】
(実施例26)KLF5のCD147抗体感受性への影響
癌細胞において、SMAD2/SMAD3/SMAD4依存的な細胞死のシグナルとし
てLethal EMTシグナルが知られており、このLethal EMTシグナルは
、SMAD4陰性の癌細胞では、通常SMADシグナルによって抑制されている転写因子
KLF5蛋白質の発現が増加し、致死性のシグナルを抑制することが報告されている(D
avid,C.Cell,2016,1015-1030)。本発明のCD147抗体は
、SMADシグナルを活性化し、SMAD4陽性の細胞に抗腫瘍効果を示すことから、S
MADシグナル依存的な細胞死を誘導すると考えた。KLF5がCD147抗体依存的な
抗腫瘍効果の感受性に関与するか調べた。
【0399】
26)-1 KLF5発現株の作製
実施例13の方法に準じ、MIA PaCa-2細胞のKLF5安定発現株を作製した
。ヒトKLF5のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を、それぞれ、配列番号145及び
146に示す。KLF5遺伝子として、(Genscript社、Cat.OHu212
78C)に含まれる配列(Ref seq.ID:NM_001730.4)を組み込ん
だレトロウイルスベクターpQCXIPを作製し、レトロウイルスを作製に用いた。ウイ
ルス感染により染色体にレトロウイルスが組み込まれ、ピューロマイシン耐性、KLF5
陽性となったMIA PaCa-2細胞を選択し、KLF5陽性MIA PaCa-2細
胞、MIA PaCa-2-KLF5とした。レトロウイルスベクターpQCXIPを同
様に感染させ、ピューロマイシン耐性となったMIA PaCa-2細胞をMIA Pa
Ca-2-mockとした。
【0400】
26)-2 CD147とSMAD4発現の確認
フローサイトメーターにより、MIA PaCa-2-mockとMIA PaCa-
2-KLF5のCD147の発現を確認した。実施例13-2の方法に準じ、MIA P
aCa-2-KLF5のKLF5の発現量がMIA PaCa-2-mockから増加し
ていることを確認した。KLF5の検出には、KLF5抗体(CST社、Cat.#51
586)を用いた。
26)-3 KLF5を発現したMIA PaCa-2腫瘍のヒト化CD147抗体への
感受性
実施例7)-2の方法に準じ、MIA PaCa-2-KLF5とMIA PaCa-
2-mockの腫瘍のヒト化CD147抗体#110H1L4hIgG4Pへの感受性を
比較した。細胞移植の3日後に実施例6)-4-2で作製したヒト化CD147抗体(#
110H1L4hIg4P)を1 mg/kgで担癌マウスに尾静脈投与した(n=6)
。7日後に同様に抗体を投与した。対照群の担癌マウスには、PBS緩衝液を同様に尾静
脈投与した(n=6)。結果を
図50に示す。
【0401】
ヒト化CD147抗体を投与して14日後では、MIA PaCa-2-mockの腫
瘍は対照群の9%まで腫瘍の平均体積が減少しており、CD147抗体に感受性を示した
。MIA PaCa-2-KLF5の腫瘍の平均体積は、対照群の80%となっており、
CD147抗体に低感受性を示した。CD147抗体によるSMADシグナル依存的な抗
腫瘍効果は、KLF5の発現によって抑制されることがわかった。