(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160276
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】フィルム劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3563 20140101AFI20241106BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N21/3563
G01N33/44
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024125697
(22)【出願日】2024-08-01
(62)【分割の表示】P 2021554948の分割
【原出願日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2019201421
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515270655
【氏名又は名称】株式会社足柄製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】石井 昭光
(72)【発明者】
【氏名】山本 大輔
(57)【要約】 (修正有)
【課題】樹脂をベースとしたフィルムの劣化状態を従来よりも効率良く確実に把握することのできる新たなフィルム劣化診断方法の提供を目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、樹脂をベースとしたフィルムの劣化診断方法であって、非破壊分析方法である以下に示す分析方法Bを用いることを特徴とするフィルムの劣化診断方法を採用する。分析方法B:フーリエ変換赤外分光分析により当該フィルムについて酸無水物の存在の有無及び加水分解反応の兆候を確認する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非破壊分析方法である以下に示す分析方法Bを用いることを特徴とする三酢酸セルロースフィルムの劣化診断方法。
分析方法B: フーリエ変換赤外分光分析により当該三酢酸セルロースフィルムについて酸無水物の存在の有無及び加水分解反応の兆候を確認する。
【請求項2】
前記非破壊分析方法を用いた後に、破壊分析方法である以下に示す分析方法E~分析方法Hのうち1つ又は2つ以上を組み合わせて用いる請求項1に記載の三酢酸セルロースフィルムの劣化診断方法。
分析方法E: カールフィッシャー水分計により前記三酢酸セルロースフィルム中の水分含有率を確認する。
分析方法F: 熱重量示差熱分析により前記三酢酸セルロースフィルムの熱安定性を確認する。
分析方法G: 熱分解ガスクロマトグラフ質量分析により前記三酢酸セルロースフィルム中の可塑剤種を確認する。
分析方法H: 引張試験により前記三酢酸セルロースフィルムの機械的強度を確認する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、フィルム劣化診断方法に関する。特に、樹脂をベースとした記録保存用フィルムの劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂をベースとした記録保存用フィルム(以下、単に「樹脂フィルム」と称する)は、「映画フィルム」、「マイクロフィルム」、「写真フィルム」、「磁気記録フィルム」等の形態で、種々の歴史的資料や文献等を記録し、これらを保存するために用いられている。樹脂の中でも、特に三酢酸セルロース(TAC)をベース材料として用いたフィルム(以下、「TACフィルム」と称する。)は、過去使用されていたニトロセルロースフィルムと比較すると、耐燃性が高く、安全フィルムと称されると共に、100年以上の保存も可能であると謳われてきた。
【0003】
しかしながら、近年、通常の保存環境下では、ビネガーシンドロームと称される現象が生じ、TACフィルムを使用した場合であっても、30年程度で劣化が始まることが明らかになってきた。TACフィルムを高温高湿環境下において保存した場合、温度及び湿度等を要因としてTACの加水分解が生じる。TACの加水分解に伴って発生する酢酸ガスは、触媒として働き、TACの加水分解反応を促進する。ビネガーシンドロームとは、このようなTACの加水分解により生じるフィルムの急激な劣化現象を指す。
【0004】
上述したビネガーシンドロームと称される現象に限らず、酸化反応、可塑剤の溶出、画質層へのクラック発生等によってTACフィルムが劣化すると、当該TACフィルムに記録された情報が損失する恐れがある。そこで、TACを始めとする樹脂フィルムの劣化を診断すべく、従来より様々な手法が採用されている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、ブロモクレゾールグリーンナトリウム塩を含ませた紙片を用いる方法が記載されている。すなわち、非特許文献1に記載の方法は、TACフィルムと共に当該紙片をフィルム保存缶に入れ、一定時間経過後の当該紙片の色変化から当該保存缶内部における酢酸ガスの有無を検知する。
【0006】
また、特許文献1には、メタケイ酸ナトリウム及びクレゾールレッドをコーティングした無機粒子を充填したガラス製検知管を用いる方法が記載されている。すなわち、特許文献1に記載の方法は、当該ガラス製検知管内にフィルム保存缶周辺に存在するガスを通した際の、当該ガラス製検知管内部の粒子の色が変化した量から、酢酸ガス濃度を求める。
【0007】
また、非特許文献2には、TACフィルムの劣化の進行に伴って当該TACフィルム中の水分含有率が増加すること、及び当該TACフィルム表面のpHが低下してゆくことが記載されている。すなわち、非特許文献2に記載の方法は、TACフィルム中の水分含有率を確認する、又はpH測定により当該TACフィルムに付着した酢酸の有無を確認する。
【0008】
また、非特許文献3には、フタル酸ジエチルで可塑化されたTACフィルムを加速劣化させた際に、TACフィルム中の可塑剤含有率が低下したことが熱重量示差熱(以下、「TG-DTA」と称する)分析及びフーリエ変換赤外分光(以下、「FT-IR」と称する)分析によって確認できる旨記載されている。すなわち、非特許文献3に記載の方法は、TG-DTA分析により当該TACフィルムの熱安定性を確認する、又はFT-IR分析により酸無水物の存在の有無及び加水分解反応の兆候を確認する。
【0009】
また、非特許文献4には、室温環境下で経年劣化したTACフィルムを分析したときに、フタル酸エステル系の可塑剤が当該TACフィルム表面上に溶出後に加水分解を経て白色結晶として検出される旨記載されている。すなわち、非特許文献4に記載の方法は、TACフィルム表面上に溶出した白色結晶の存在の有無を確認する。
【0010】
また、非特許文献5には、TACフィルム中に含まれる可塑剤を熱分解ガスクロマトグラフ質量(以下、「Py-GC/MS」と称する)分析や溶媒抽出法によって分析し、可塑剤の残留成分によってフィルムの劣化状態が推定可能である旨記載されている。すなわち、非特許文献5に記載の方法は、Py-GC/MS分析によりTACフィルム中の可塑剤種を確認する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本国特許出願 特開2009-257838号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】E. Fran▲c▼ais、 “The Safe and Accurate Way to Check Film for Vinegar Syndrome”、 Image Permanence Institute、 Rochester、 NY (2001).
【非特許文献2】N.S. Allen、 M. Edge、 J.H. Appleyard、 T.S. Jewitt、 C.V. Horie、 D. Francis、 “Acid-catalysed degradation of historic cellulose triacetate、 cinematographic film: Influence of various film parameters”、 Eur. Polym. J.、 24(8)、 707-712、 (1988).
【非特許文献3】E. Richardson、 M.T. Giachet、 M. Schilling、 T. Learner、 “Assessing the physical stability of archival cellulose acetate films by monitoring plasticizer loss”、 Polym. Degrad. Stabil.、 107、 231-236 (2014).
【非特許文献4】高橋圭子、 早川大、 岡本智寛、 藤原章司、 矢島仁、 “劣化映画フィルムから析出した白色固体の分析-ビネガーシンドロームの化学的検証(1)”、 東京工芸大学工学部紀要、 36(1)、 27-33 (2013).
【非特許文献5】M.T. Giachet、 M. Schilling、 K. McCormick、 J. Mazurek、 E. Richardson、 H. Khanjian、 T. Learner、 “Assessment of the composition and condition of animation cels made from cellulose acetate”、 Polym. Degrad. Stabil.、 107、 223-230 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記非特許文献1や上記特許文献1に記載の方法は、酢酸ガスを簡便かつ低コストに検出可能であるものの、外部環境からフィルム保存缶内に酢酸ガスが混入する場合があるため、TACフィルムから酢酸ガスが発生したか否かを正確に判定する事が困難である。また、上記非特許文献1や上記特許文献1に記載の方法では、ビネガーシンドローム以外のフィルム劣化開始の兆候、例えば酸化反応、可塑剤の溶出、画質層へのクラック発生等を正確に検知することが困難である。さらに、上記非特許文献1のA-D Stripsや上記特許文献1の検知管では、色変化に基づいて、酢酸ガス濃度をおおよその値でしか求めることができない。
【0014】
また、上記非特許文献2や上記非特許文献3に記載の方法は、TACフィルムを高温高湿下で強制的に加速劣化させるものであるが、この際に起こる反応と実際の保存現場において室温で経年劣化した際に起こる反応とが必ずしも同一ではない。よって、上記非特許文献2や上記非特許文献3に記載の方法では、実際の保存現場での劣化状態とは異なる状態を評価している可能性がある。
【0015】
そして、上記非特許文献4や上記非特許文献5に記載の方法は、劣化状態を判定・診断するための明確な指標が得られていないという問題がある。
【0016】
以上のことから、本件発明の課題は、樹脂フィルムの劣化状態を従来よりも効率良く確実に把握することのできる新たなフィルム劣化診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下のフィルム劣化診断方法を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0018】
本件発明に係るフィルム劣化診断方法は、樹脂フィルムの劣化診断方法であって、非破壊分析方法である以下に示す分析方法A及び/又は分析方法Bを用いることを特徴とする。
分析方法A:目視観察及び嗅覚検査により当該樹脂フィルムの異常の有無を確認する
分析方法B:フーリエ変換赤外分光分析により当該樹脂フィルムについて酸無水物の存在の有無及び加水分解反応の兆候を確認する
【0019】
また、本件発明に係るフィルム劣化診断方法は、前記分析方法A及び/又は前記分析方法Bを用いた後に、非破壊分析方法である以下に示す分析方法C及び/又は分析方法Dを用いることが好ましい。
分析方法C:pH測定により前記樹脂フィルムに付着した酢酸の有無を確認する
分析方法D:高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と称する)分析により前記フィルムから放出した酢酸ガスの濃度を確認する
【0020】
そして、本件発明に係るフィルム劣化診断方法は、前記非破壊分析方法を用いた後に、破壊分析方法である以下に示す分析方法E~分析方法Hのうち1つ又は2つ以上を組み合わせて用いることがより好ましい。
分析方法E:カールフィッシャー(以下、「KF」と称する)水分計により前記樹脂フィルム中の水分含有率を確認する
分析方法F:熱重量示差熱分析により前記樹脂フィルムの熱安定性を確認する
分析方法G:熱分解ガスクロマトグラフ質量分析により前記樹脂フィルム中の可塑剤種を確認する
分析方法H:引張試験により前記樹脂フィルムの機械的強度を確認する
【0021】
さらに、本件発明に係るフィルム劣化診断方法は、前記樹脂フィルムが、三酢酸セルロースフィルムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本件発明によれば、樹脂フィルムの劣化状態を従来よりも効率良く確実に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施の形態に係る分析方法BのFT-IRスペクトルを示す図である。
【
図2】本実施の形態に係る分析方法BのFT-IRスペクトルのピーク強度比を示す図である。
【
図3】本実施の形態に係る分析方法CのpH測定結果を示す図である。
【
図4】本実施の形態に係る分析方法DのHPLC測定から求めたフィルム保存缶内の酢酸ガス濃度を示す図である。
【
図5】本実施の形態に係る分析方法Eの水分含有率測定結果を示す図である。
【
図6】本実施の形態に係る分析方法FのTG曲線測定結果を示す図である。
【
図7】本実施の形態に係る分析方法Fの熱分解ピーク温度を示す図である。
【
図8】本実施の形態に係る分析方法GのPy-GC/MS測定結果(未劣化Aフィルム)を示す図である。
【
図9】本実施の形態に係る分析方法GのPy-GC/MS測定結果(未劣化Bフィルム)を示す図である。
【
図10】本実施の形態に係る分析方法GのPy-GC/MS測定結果(未劣化Cフィルム)を示す図である。
【
図11】本実施の形態に係る分析方法GのPy-GC/MS測定結果(臭い無しAフィルム)を示す図である。
【
図12】本実施の形態に係る分析方法GのPy-GC/MS測定結果(臭い無しBフィルム)を示す図である。
【
図13】本実施の形態に係る分析方法GのPy-GC/MS測定結果(臭い無しCフィルム)を示す図である。
【
図14】本実施の形態に係る分析方法GのPy-GC/MS測定結果(臭い有りAフィルム)を示す図である。
【
図15】本実施の形態に係る分析方法GのPy-GC/MS測定結果(臭い有りBフィルム)を示す図である。
【
図16】本実施の形態に係る分析方法Hの引張試験から得られたフィルム破断時の応力値を示す図である。
【
図17】本実施の形態に係るフィルム劣化診断方法の概略を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本件発明に係るフィルム劣化診断方法の実施の形態を説明する。
【0025】
本件発明に係るフィルムの劣化診断方法は、樹脂フィルムの劣化診断方法であって、非破壊分析方法である以下に示す分析方法A及び/又は分析方法Bを用いることを特徴とする。
分析方法A:目視観察及び嗅覚検査によりフィルムの異常の有無を確認する
分析方法B:フーリエ変換赤外分光(FT-IR)分析によりフィルムについて酸無水物の存在の有無及び加水分解反応の兆候を確認する
【0026】
本件発明に係るフィルムの劣化診断方法では、上記分析方法A及び上記分析方法Bの少なくともいずれかの非破壊分析方法を用いる。上記分析方法A又は上記分析方法Bによりフィルムの劣化を十分に確認できた場合には、以下に示す分析方法C~Gを行う必要がない。よって、本件発明に係るフィルム劣化診断方法において、これら分析方法A及び/又は分析方法Bは、必須の分析方法である。以下、これら分析方法A及び分析方法Bについて説明する。
【0027】
(A)分析方法Aについて
分析方法Aは、目視観察及び嗅覚検査により樹脂フィルムの異常の有無を確認するため、簡易的に樹脂フィルムの劣化状態を確認することができる。ここで、目視観察は、フィルム表面において可塑剤の溶出やカビの発生等の有無を確認する。樹脂フィルムは、著しく劣化すると可塑剤の溶出やカビの発生等が生じ、目視でも容易に確認することができるようになる。また、嗅覚検査は、樹脂フィルムが保存された容器内の空気を採取して人の嗅覚を用いて異常の有無を確認する。例えば、TACフィルムが劣化した場合には、TACの加水分解反応により、TACは酢酸ガスを放出する。この酢酸が発生することで、フィルム保存容器内には酢酸臭が発生するようになる。このように、フィルム保存容器内で人が臭いを感じる程度の異常臭が発生すると、樹脂フィルムの劣化が著しいことを確認することができるようになる。
【0028】
(B)分析方法Bについて
分析方法Bは、FT-IR分析により樹脂フィルムについて酸無水物の存在の有無や加水分解の兆候を確認するため、上記分析方法Aの嗅覚検査で異常が確認されない場合であっても樹脂フィルムの劣化状態を把握することができる。例えば、TACフィルムは、酢酸臭が感じられなくても、加水分解の進行、可塑剤の析出や分解が起こっている可能性がある。以下に、分析方法Bを用いたフィルム劣化診断方法を、実施の形態に即して詳細に説明する。
【0029】
本実施の形態に係る分析方法Bでは、装置としてサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のFT-IR Nicolet iS50を用いた。なお、測定条件は分解能を4cm-1、積算回数を32、測定波数範囲を500cm-1から4000cm-1、自動大気補正をONとし、クリスタルはダイヤモンドを用いた。また、全反射測定法(ATR)により、TACフィルムのベース側を測定した。そして、得られたスペクトルについて、入射角45°、反射回数1、屈折率1.5の設定でATR補正を行った。
【0030】
本実施の形態に係る分析方法Bで測定に用いるTACフィルムとしては、未劣化フィルムと劣化フィルムとを用いた。ここで、未劣化フィルムには、上記分析方法Aにより目視及び嗅覚による確認を行った結果、劣化の兆候を確認できないもの(未劣化A~C(2010年以降現像物))を用意した。また、劣化フィルムには、上記分析方法Aにより目視及び嗅覚による確認を行った結果、劣化の兆候を確認できないもの(臭い無しA~C(1958年4月現像物))と、上記分析方法Aにより目視及び嗅覚による確認を行った結果、目視及び嗅覚により劣化の兆候が確認できるもの(臭い有りA,B(1958年12月現像物))を用意した。
【0031】
図1には、未劣化A、臭い無しA、及び臭い有りAの3つのフィルムに関するFT-IRスペクトルを示す。また、以下の表1には、
図1から得られたFT-IRスペクトルの主なピークの帰属を示す。
【0032】
【0033】
図1及び表1に示すように、臭い無しA及び臭い有りAのフィルムにおいて、酸無水物C=O由来のピークが波数1790cm
-1から1850cm
-1において観測された。酸無水物C=O由来のピークが観測された理由として、酢酸分子の脱水縮合による無水酢酸や、可塑剤として含まれるフタル酸エステル類がフィルム表面に溶出し、無水フタル酸を形成していることが考えられる。未劣化Aのフィルムについては、酸無水物C=O由来のピークが観測されなかったため、酢酸ガスの発生や、可塑剤の溶出は起こっていないことが考えられる。このように、TACフィルムでは、酸無水物由来のピークの有無をフィルムの劣化指標の一つの基準とすることができる。
【0034】
また、
図2には、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムに関するFT-IRスペクトルのピーク強度比を示す。このピーク強度比は、各TACフィルムについて、OH基由来のピーク強度をCH
3基由来のピーク強度で割った値、具体的には、波数3480cm
-1におけるピーク強度を波数1370cm
-1におけるピーク強度で割った値を算出したものである。なお、図中のエラーバーは当該ピーク強度比の標準誤差を示すものである。
図2には、未劣化フィルム、臭い無しフィルム、臭い有りフィルムの順にピーク強度比が大きくなることが示されている。この結果は、TACの加水分解反応が進行すると、OH基由来のピーク強度は増加し、TAC中のアセチル基に由来する結合(例えば、CH
3基、C=O基、C-O―O基)のピーク強度が減少するためと考えられる。よって、本実施の形態ではCH
3基を基準とした結果を示したが、本件発明に係るフィルムの劣化診断方法では、C-O―O基やC=O基を由来したピーク強度を用いることもできる。このように、ピーク強度比からも、樹脂フィルムの劣化進行度の判定が可能である。
【0035】
以上に説明した分析方法A及び分析方法Bは、樹脂フィルムの劣化が著しく進行している場合に有効である。これら分析方法A及び分析方法Bの少なくともいずれかの非破壊分析方法を用いて樹脂フィルムの劣化を確認できた場合には、これ以降の劣化診断が不要となる。
【0036】
また、本件発明に係るフィルムの劣化診断方法は、上記分析方法A及び/又は上記分析方法Bを用いた後に、非破壊分析方法である以下に示す分析方法C及び/又は分析方法Dを用いることが好ましい。
分析方法C:pH測定によりフィルムに付着した酢酸の有無を確認する
分析方法D:HPLC分析によりフィルムから放出した酢酸ガスの濃度を確認する
【0037】
本件発明に係るフィルムの劣化診断方法では、上記分析方法A及び/又は上記分析方法Bの非破壊分析方法を用いた後に、上記分析方法C及び上記分析方法Dの少なくともいずれかの非破壊分析方法を用いることで、樹脂フィルムの劣化状態をより確実に把握することができる。以下、これら分析方法C及び分析方法Dについて説明する。
【0038】
(C)分析方法Cについて
分析方法Cは、pH測定によりフィルムに付着した酢酸の有無を確認するため、上記分析方法A及び/又は上記分析方法Bを用いて樹脂フィルムの劣化状態を十分に確認できない場合に有効である。以下に、分析方法Cを用いたフィルム劣化診断方法を、実施の形態に即して詳細に説明する。
【0039】
本実施の形態に係る分析方法Cでは、装置として株式会社堀場製作所製のポータブル型pHメータD-71を用いた。なお、超純水は、メルク株式会社製の水道水直結型超純水製造装置Direct-Q UV5から採取した。そして、ガラス製ビーカーに超純水100mLを入れ、TACフィルムの一部(幅3.5cm×長さ10cm)を超純水に浸して10秒待ち、浸した溶液のpH測定を行った。本実施の形態に係る分析方法Cで測定に用いるTACフィルムとしては、上記実施の形態に係る分析方法Bに示す、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムを用いた。
【0040】
図3には、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムに関するpH測定結果を示す。なお、図中のエラーバーは当該pH測定結果の標準誤差を示すものである。
図3より、未劣化A~C、臭い無しA~C、臭い有りA,Bの順にpHが低下してゆく傾向がみられた。これは、TACフィルムに付着していた酢酸分子が超純水中に溶け出したことが考えられる。ここで、臭い無しB,Cのフィルムに関しては、臭い無しAのフィルムよりpHが低いことから、フィルムに付着していた酢酸分子数が多い可能性が示唆される。ちなみに、超純水のpHは原理上7.0であるが、空気中の二酸化炭素を直ちに吸収するため、超純水製造装置から採取後の時間経過に伴いpHはやや酸性側の値(6.9~6.0)をとる。TACフィルムでは、劣化するとその表面に付着する酢酸量が増加する傾向にあるため、フィルムを浸した水のpHが6.0以下になると、劣化が進行していると捉えることができる。このように、樹脂フィルムは、付着した酢酸の有無により、その劣化状態を把握することが可能である。
【0041】
(D)分析方法Dについて
分析方法Dは、HPLC分析によりフィルムから放出した酢酸ガスの濃度を確認するため、上記分析方法A及び/又は上記分析方法Bを用いて樹脂フィルムの劣化状態を十分に確認できない場合に有効である。以下に、分析方法Dを用いたフィルム劣化診断方法を、実施の形態に即して詳細に説明する。
【0042】
本実施の形態に係る分析方法Dでは、装置として株式会社島津製作所製のHPLCシステムProminence LC-20AとUV-vis検出器SPD-20Aを用いた。また、カラムとして株式会社島津ジーエルシー製のShim-pack SCR-102Hを用いた。なお、分析条件は、移動相を5.0mMの過塩素酸水溶液(pH2.3)、流量を1.5mL/min、UV検出波長を210nm、セル温度を40℃、サンプル溶液注入量を20μLとした。そして、亜鉛めっき鋼鈑製のフィルム保存缶(直径27.8cm、高さ4.5cm)の蓋の中央部に穴を開け、シリコンゴム栓とコーキング剤で封入し、フィルム保存缶にTACフィルムロールを入れ、蓋をした。一週間室温で放置後、シリコン栓に注射針で穴を開け、翼工業株式会社製のガラス製注射筒(容量100mL)を用いて、缶内のガスを60mL回収し、超純水1mLに溶かしたものを、HPLC測定用のサンプル溶液とした。
【0043】
クロマトグラムの保持時間約7.1minに観測されるピークの面積値が酢酸濃度に比例するため、検量線からフィルム保存缶内の酢酸ガス濃度を算出した。検量線は、富士フィルム和光純薬株式会社製の酢酸(特級、純度99.7%)を測定に用いて作成した。本実施の形態に係る分析方法Dで測定に用いるTACフィルムとしては、上記実施の形態に係る分析方法Bに示す、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムを用いた。
【0044】
図4には、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムに関するHPLC測定から求めた、フィルム保存缶内の酢酸ガス濃度を示す。
図4より、未劣化A~Cや臭い無しAのフィルムからは、フィルム保存缶内に酢酸ガスが放出されていないことが確認された。一方、臭い無しBのフィルムについては約14ppm、臭い無しCのフィルムについては約28ppm、臭い有りA,Bのフィルムついては約1300~1500ppmの酢酸ガスが放出されていることが示された。このように、樹脂フィルムは、HPLC測定によって保存缶内での長期間の保管時における酢酸ガス濃度を定量的に評価し、その劣化状態を把握することが可能である。
【0045】
また、本件発明に係るフィルムの劣化診断方法は、上記非破壊分析方法を用いた後に、破壊分析方法である以下に示す分析方法E~分析方法Hのうち1つ又は2つ以上を組み合わせて用いることが好ましい。
分析方法E:KF水分計によりフィルム中の水分含有率を確認する
分析方法F:熱重量示差熱(TG-DTA)分析によりフィルムの熱安定性を確認する
分析方法G:熱分解ガスクロマトグラフ質量分析によりフィルム中の可塑剤種を確認する
分析方法H:引張試験によりフィルムの機械的強度を確認する
【0046】
本件発明に係るフィルムの劣化診断方法では、上記非破壊分析方法(分析方法A~分析方法D)を用いた後に、上記破壊分析方法(分析方法E~分析方法H)の少なくともいずれかの破壊分析方法を用いることで、樹脂フィルムの劣化状態をさらに確実に把握することができる。以下、これら分析方法E~分析方法Hについて説明する。
【0047】
(E)分析方法Eについて
分析方法Eは、KF水分計によりフィルム中の水分含有率を確認するため、上記非破壊分析方法(分析方法A~分析方法D)を用いて樹脂フィルムの劣化状態を十分に確認できない場合に有効である。以下に、分析方法Eを用いたフィルム劣化診断方法を、実施の形態に即して詳細に説明する。
【0048】
本実施の形態に係る分析方法Eでは、装置として平沼産業株式会社製のKF水分計AQ-2100と、水分気化装置EV-5Aを用いた。なお、測定は、TACフィルムサンプルを120℃に保持した加熱炉に投入後、20分間で発生した水分量を、KF法により定量した。本実施の形態に係る分析方法Eで測定に用いるTACフィルムとしては、上記実施の形態に係る分析方法Bに示す、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムを用いた。
【0049】
図5には、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムに関する水分含有率の測定結果を示す。なお、図中のエラーバーは当該KF水分測定結果の標準誤差を示すものである。
図5より、TACフィルムの劣化が進行するほど、フィルム中の水分含有率が増加する傾向にあることが分かる。長期間大気中にTACフィルムを放置することで、水分がTACフィルムのベース部に付着、またはフィルムの画質層中に取り込まれてゆくことが考えられる。このため、未劣化A~Cのフィルムでは水分含有率が低くなったと考えられる。また、TACの加水分解は、一旦開始すると加速度的に反応が進行するため、臭い無しA~Cのフィルムよりも、臭い有りA,Bのフィルムの方が、多くの水分量を取り込みやすい傾向にあると考えられる。
【0050】
樹脂フィルムが劣化すると、水分含有率が多くなる傾向にあることは知られている。よって、水分率が一定値を上回る場合には、フィルム保管環境の相対湿度が高く、加水分解が今後起こりやすい状況であることが示唆される。
図5に示す結果によれば、フィルム中の水分含有率5.5wt%をフィルムの劣化指標の一つの基準とすることができる。
【0051】
(F)分析方法Fについて
分析方法Fは、TG-DTA分析によりフィルムの熱安定性を確認するため、上記非破壊分析方法(分析方法A~分析方法D)を用いて樹脂フィルムの劣化状態を十分に確認できない場合に有効である。以下に、分析方法Fを用いたフィルム劣化診断方法を、実施の形態に即して詳細に説明する。
【0052】
本実施の形態に係る分析方法Fでは、装置として株式会社リガク製の示差熱天秤Thermo plus EVO2を用いた。なお、測定条件は、N2ガス雰囲気下で流量を100mL/min、昇温速度を20℃/min、測定温度範囲を25~450℃、リファレンスを株式会社リガク製のα-アルミナ粉末、サンプルパンをAl、データ取得間隔を1.0sとした。TACフィルムとリファレンスを試料室に設置してから、約15分間N2ガスを流し、質量が定常状態に達したことを確認してから測定を開始した。本実施の形態に係る分析方法Fで測定に用いるTACフィルムとしては、上記実施の形態に係る分析方法Bに示す、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムを用いた。
【0053】
図6には、未劣化A、臭い無しA、及び臭い有りAの3つのフィルムに関するTG曲線測定結果を示す。
図6より、TACフィルムの劣化が進行するに伴って、質量減少が低温側で起こり始める傾向がみられた。ここで、TG曲線を時間について微分し、TG曲線の接線の傾きが最も大きくなる温度を熱分解ピーク温度とし、各フィルムについて比較した。
【0054】
図7には、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムに関するTG曲線から求めた、TACフィルムの熱分解ピーク温度を示す。
図7より、TACフィルムの劣化が進行するほど、熱分解ピーク温度が低下してゆく傾向がみられた。また、未劣化A~Cのフィルムと比較して、臭い無しA~Cのフィルムは熱分解ピーク温度が約5℃低いことが分かる。これは、経年劣化に伴いTACの主鎖切断が起こり、重合度が低下したことが原因として考えられる。
【0055】
以上より、TACフィルムでは、熱分解ピーク温度が一定値を下回る場合に、樹脂構造中の主鎖開裂に伴い重合度が低下し、酸化反応や可塑剤溶出の進行が示唆される。このように、樹脂フィルムは、熱分解ピーク温度に着目することで、その劣化状態を定量的に判定することが可能である。熱分解ピーク温度はベースライン等を描く必要が無く、ソフトウェアを用いることで簡便に計算可能であるため、読み取り誤差が少ない指標と言える。
【0056】
(G)分析方法Gについて
分析方法Gは、Py-GC/MS分析によりフィルム中の可塑剤種を確認するため、上記非破壊分析方法(分析方法A~分析方法D)を用いて樹脂フィルムの劣化状態を十分に確認できない場合に有効である。以下に、分析方法Gを用いたフィルム劣化診断方法を、実施の形態に即して詳細に説明する。
【0057】
本実施の形態に係る分析方法Gでは、装置としてアジレント・テクノロジー株式会社製のGC-MSシステム7890B/5977Bと、フロンティア・ラボ株式会社製のマルチショット・パイロライザーEGA/PY-3030Dを用いた。また、カラムとして、フロンティア・ラボ株式会社製のUA+-5、又はフェノメネクス社製のZB-MultiResidue-1、又はZB-×LB-HT Infernoを用いた。これら装置及びカラムを用いてTACフィルムの分析を行った。なお、GCの条件は注入口温度を300℃、キャリアーガスをHe、カラム流量を1.2mL/min(コンスタントフローモード)、スプリット比を50:1、加熱炉温度を550℃、ITF温度を300℃、オーブン温度を40℃(2min)-20℃/min-300℃(5min)とした。また、MSの条件はイオン化法を電子イオン化法(70eV)、イオン源温度を250℃、四重極温度を150℃、インターフェース温度を250℃、スキャン範囲をm/z29-400(サンプリング3)、ゲインを1とした。本実施の形態に係る分析方法Gで測定に用いるTACフィルムとしては、上記実施の形態に係る分析方法Bに示す、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムを用いた。
【0058】
図8に未劣化A、
図9に未劣化B、及び
図10に未劣化Cの各フィルムに関するPy-GC/MS測定結果を示す。また、
図11に臭い無しA、
図12に臭い無しB、
図13に臭い無しC、
図14に臭い有りA、及び
図15に臭い有りBの各フィルムに関するPy-GC/MS測定結果をそれぞれ示す。
図8~15より、全てのフィルムについてリン酸トリフェニルが検出された。また、臭い無しA~Cのフィルムにはエチルフタリルエチルグリコラートが検出されているが、未劣化A~C及び臭い有りA,Bのフィルムでは検出されなかった。そして、臭い有りA,Bのフィルムに無水フタル酸が検出された。これは、元々含まれていたエチルフタリルエチルグリコラートが、劣化に伴い分解して生成したものと考えられる。これらの結果から、エチルフタリルエチルグリコラートの有無が劣化の進行に関わっている可能性があることが示唆された。
【0059】
以上より、本実施の形態に係る分析方法Gで、エチルフタリルエチルグリコラートがTACフィルム中の可塑剤として含まれているという結果が得られ、この含有率がフィルム劣化に関連している可能性が示唆された。このように、Py-GC/MSは樹脂フィルム中の可塑剤が揮発または分解しているかを定性分析し、劣化が進行しているか否かを判断する手法という位置づけであり、可塑剤由来の析出物の有無や、劣化対策に必要な可塑剤が含有されているかを評価する上で有効である。
【0060】
(H)分析方法Hについて
分析方法Hは、引張試験によりフィルムの機械的強度を確認するため、上記非破壊分析方法(分析方法A~分析方法D)を用いて樹脂フィルムの劣化状態を十分に確認できない場合に有効である。以下に、分析方法Hを用いたフィルム劣化診断方法を、実施の形態に即して詳細に説明する。
【0061】
本実施の形態に係る分析方法Hでは、装置として株式会社島津製作所製の卓上形精密万能試験機オートグラフAGS-Xと、株式会社ダンベル製のSD型レバー式試料裁断器SDL-100を用いた。なお、測定条件はロードセル1kN、試験速度を10mm/min、つかみ具間距離を20mmとした。フィルムサンプルはTACフィルムをJIS K6251ダンベル状7号形に切り抜いたものを用い、破断した瞬間の応力(破断力)を測定した。本実施の形態に係る分析方法Hで測定に用いるTACフィルムとしては、上記実施の形態に係る分析方法Bに示す、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムを用いた。
【0062】
図16には、未劣化A~C、臭い無しA~C、及び臭い有りA,Bの8つのフィルムに関する引張試験から得られたフィルム破断時の応力値を示す。なお、図中のエラーバーは当該フィルム破断時の応力値の標準誤差を示すものである。
図16より、加水分解が進行したTACフィルムほど破断力が小さくなる傾向が示された。また、未劣化A~Cや臭い無しAのフィルムと比較して、臭い無しB,Cのフィルムについては破断力が小さくなった。この原因としては、可塑剤含有率の低下や、TAC主鎖開裂に伴う分子量の低下等が考えられ、経年劣化したTACフィルムには、加水分解反応以外にもそのような劣化が起こっていることが示唆された。
【0063】
一般的に、ポリマーが劣化すると機械的強度が低下することは知られている。よって、
図16に示す結果によれば、破断強度が120N/mm
2以下をTACフィルムの劣化指標の一つの基準とすることができる。このように、化学的分析手法とは別に引張試験を行うことで、物性強度の観点からも樹脂フィルムの劣化状態の評価が可能となる。
【0064】
なお、本件発明に係るフィルム劣化診断方法において、上述した樹脂フィルムは、TACフィルムであることが好ましい。TACフィルムは、耐燃性が高く、長期保存も可能であるため、記録保存用フィルムとして好適に用いることができる。また、TACフィルムは、本件発明に係るフィルム劣化診断方法によりその劣化状態を効率良く確実に把握することができるため、その他の樹脂フィルムに比べて、記録保存用フィルムとしての安全性や信頼性を著しく高めることができる。
【0065】
以上に本件発明に係るフィルム劣化診断方法の実施の形態を説明したが、本件発明に係るフィルム劣化診断方法は、複数種の分析結果を組み合わせて相補的に判断することで、樹脂フィルムの劣化判定精度を従来よりも高めることができる。
【0066】
図17は、本実施の形態に係るフィルム劣化診断方法の概略を示すチャート図である。本件発明に係るフィルム劣化診断方法は、各々の分析項目について得られる情報が定まっており、分析結果が一定の閾値を超えたか(または下回ったか)否かで劣化状態を判定する。よって、本件発明に係るフィルム劣化診断方法は、複数種の分析方法を段階的に行うことで、総合的かつ高精度に劣化診断を行うことができる。また、
図17に示す分析手順は上述した分析方法A~Hの順番となっているが、本件発明に係るフィルム劣化診断方法では、必ずしもこれと同じ手順で行う必要はなく、また、必ずしも全ての分析方法を実施する必要もない。そのため、本件発明に係るフィルム劣化診断方法は、効率良く劣化診断を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本件発明によれば、樹脂フィルムの劣化状態を従来よりも効率良く確実に把握することができる。従って、樹脂フィルムの劣化に対する対策をいち早く講じることができ、フィルムに記録された貴重な歴史的資料や文献等が消失するのを防ぐことができる。