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特開2024-160283低酸素環境下で高い適応力を有する細胞及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160283
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】低酸素環境下で高い適応力を有する細胞及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20241106BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/10 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024126667
(22)【出願日】2024-08-02
(62)【分割の表示】P 2022542504の分割
【原出願日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0004614
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516355531
【氏名又は名称】ツールゲン インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TOOLGEN INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シン ウンジ
(72)【発明者】
【氏名】イ カンイン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジェヨン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低酸素条件で高い適応力を有する細胞及びその製造方法を提供する。
【解決手段】HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及びPAI1からなる群から選択された野生型遺伝子内にインデルを有する、少なくとも1つのエンジニアリングされた遺伝子を含む、低酸素条件で高い適応力を有する細胞を提供する。更に、前記低酸素条件で高い適応力を有する細胞を製造する方法であって、CRISPR/Cas9システムを細胞内に導入することを含む遺伝子編集方法を提供する。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む操作されたヒト細胞であって、
HIF1AN (Hypoxia-inducible factor 1-alpha inhibitor)遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされた遺伝子、
この時、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は前記HIF1AN遺伝子の野生型配列とは異なり、
前記操作されたヒト細胞内で前記エンジニアリングされた遺伝子から転写されるmRNAは、
野生型ヒト細胞内で野生型HIF1AN遺伝子から転写されるmRNA比較して、列が相異することを特徴とし、
前記操作されたヒト細胞は、低酸素環境下で野生型ヒト細胞と比較して、その生存率が更に高いことを特徴とする、操作されたヒト細胞。
【請求項2】
前記HIF1AN遺伝子内のインデルはHIF1AN遺伝子のエクソン1内に位置する、請求項1に記載の操作されたヒト細胞。
【請求項3】
エンジニアリングされた遺伝子の配列は、配列番号1~9からなる群から選択された1つ以上の配列を含まない、請求項1~2のいずれか一項に記載の操作されたヒト細胞。
【請求項4】
前記操作されたヒト細胞内のFIH-1の発現レベルは前記野生型ヒト細胞内のFIH-1発現レベルの70%より低い、請求項1~3のいずれか一項に記載の操作されたヒト細胞。
【請求項5】
前記操作されたヒト細胞が分泌するVEGF及びIL-8の分泌レベルは、前記野生型ヒト細胞が分泌する前記VEGF及びIL-8のレベルより高い、請求項1~4のいずれか一項に記載の操作されたヒト細胞。
【請求項6】
前記操作されたヒト細胞は骨髄、脂肪組織、臍帯、胎盤、羊水、及び臍帯血からなる群から選択された組織由来の間葉系幹細胞であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の操作されたヒト細胞。
【請求項7】
前記操作されたヒト細胞は骨髄由来の間葉系幹細胞であることを特徴とする、請求項6に記載の操作されたヒト細胞。
【請求項8】
以下を含む伝子エンジニアリング組成物であって、
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質又は前記Cas9蛋白質をコードするDNA、及び、
ガイドRNA又は前記ガイドRNAをコードするDNA、
この時、前記ガイドRNAは、配列番号146及び152~154からなる群から選択された配列を含む、遺伝子エンジニアリング組成物。
【請求項9】
前記組成物は前記Cas9蛋白質及び前記ガイドRNAをリボヌクレオタンパク質(RNP)形態で含む、請求項8に記載の遺伝子エンジニアリング組成物。
【請求項10】
前記組成物は前記Cas9蛋白質をコードするDNA及び前記ガイドRNAをコードするDNAを単一ベクター形態で含む、請求項8に記載の遺伝子エンジニアリング組成物。
【請求項11】
前記単一ベクターはプラスミド、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ-関連ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス及び単純ヘルペスウイルスにより構成された群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の遺伝子エンジニアリング組成物。
【請求項12】
体外(in vitro)又は生体外(ex vivo) 遺伝子エンジニアリング方法であって、
遺伝子編集用組成物をヒト細胞内に導入することを含み、
この時、前記遺伝子編集用組成物は以下を含み、
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質又は前記Cas9蛋白質をコードするDNA、及び、
ガイドRNA又は前記ガイドRNAをコードするDNA、
この時、前記ガイドRNAの配列は、配列番号146及び152~154からなる群から選択された配列を含む、生体外(in vitro)又は生体外(ex vivo) 遺伝子エンジニアリング方法。
【請求項13】
前記組成物は前記Cas9蛋白質をコードするDNA及び前記ガイドRNAをコードするDNAをベクター形態で含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
体外(in vitro)又は生体外(ex vivo) 遺伝子エンジニアリング方法であって、
CRISPR/Cas9複合体を、標的DNAを含む遺伝子に接触させることを含み、
この時、前記CRISPR/Cas9複合体は以下を含み、
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質、及び、
前記標的DNAを標的なガイドRNA、
この時、前記ガイドRNAは、配列番号146及び152~154からなる群から選択された配列を含む、生体外(in vitro)又は生体外(ex vivo) 遺伝子エンジニアリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は低酸素条件で高い適応力を有する細胞及びその製造方法並びに前記細胞を有効性分として含有する細胞治療剤に関する。最近、胚性幹細胞、成体幹細胞などの幹細胞を多様な細胞に分化させることによって、細胞治療法(cell therapy)としての活用可能性に関する研究が多様に進められている。多分化機能を有する胚性幹細胞は多様な細胞に分化されることによって、細胞治療剤として注目されているが、胚性幹細胞を活用する上で倫理的な問題があるため、実際に細胞治療として使用することは困難である。このような倫理的な問題点を回避するために成体幹細胞を利用する研究が活発に進められている。
【背景技術】
【0002】
低酸素環境に置かれた細胞では生存するためにHIF1(Hypoxia- Inducible Factor 1)蛋白質の発現が多くなることが知られている。HIF1蛋白質とは低酸素環境で血管新生(angiogenesis,vascularization)、エネルギー代謝(energy metabolism)等に関与して細胞が生存できる環境を作る役割を果たす遺伝子の転写調節因子(transcriptional regulator)であり、HIF1α及びHIF1βのサブユニットがある。HIF1α及びHIF1βは、それぞれHIF1A及びHIF1B遺伝子によってコードされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
Mahon PC、Hirota K、Semenza GL.FIH-1:a novel protein that interacts with HIF-1alpha and VHL to mediate repression of HIF-1 transcriptional activity.Genes Dev.2001;15(20):2675?2686.doi:10.1101/gad.924501.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書では、低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を提供する。
【0005】
本明細書では、低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作用組成物を提供する。
【0006】
本明細書では、低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作方法を提供する。
【0007】
本明細書では、低酸素環境下で高い適応力を有する細胞の用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書では、以下を含む操作された細胞を提供する:
HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及びPAI1からなる群から選択された野生型遺伝子内にインデルを有する、少なくとも1つのエンジニアリングされた遺伝子であり、
この時、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は前記野生型遺伝子の配列と異なり、前記操作された細胞内で、前記野生型遺伝子から転写されるmRNAの発現レベルは野生型細胞と比較して更に低いことを特徴とし、
前記操作された細胞内で、HIFαの発現レベルは前記野生型細胞と比較して更に高いことを特徴とする。
【0009】
一実施例において、前記操作された細胞がHIF1AN遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記HIF1AN遺伝子内のインデルは前記HIF1AN遺伝子のエクソン1領域内に位置し、
前記操作された細胞がHIF3A遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記HIF3A遺伝子内のインデルは前記HIF3A遺伝子の、エクソン2、エクソン3、エクソン4、エクソン5、及びエクソン6からなる群から選択された1つ以上の領域内に位置し、
前記操作された細胞がPHD2遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記PHD2遺伝子内のインデルは前記PHD2遺伝子のエクソン1領域内に位置し、
前記操作された細胞がTLR4遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記TLR4遺伝子内のインデルは前記TLR4遺伝子の、エクソン1、エクソン2、及びエクソン3からなる群から選択された1つ以上の領域内に位置し、
前記操作された細胞がPAI1遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記PAI1遺伝子内のインデルは前記PAI1遺伝子のエクソン2領域内に位置する操作された細胞を提供する。
【0010】
一実施例において、前記操作された細胞がHIF1AN遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号1~9からなる群から選択された1つ以上の配列を含まず、
前記操作された細胞がHIF3A遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号10~34からなる群から選択された1つ以上の配列を含まず、
前記操作された細胞がPHD2遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号35~38からなる群から選択された1つ以上の配列を含まず、
前記操作された細胞がTLR4遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号39~59からなる群から選択された1つ以上の配列を含まず、
前記操作された細胞がPAI1遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号60~71からなる群から選択された1つ以上の配列を含まない、操作された細胞を提供する。
【0011】
一実施例において、前記操作された細胞はHIF1AN遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む操作された細胞を提供する。
【0012】
一実施例において、前記HIF1AN遺伝子内のインデルはHIF1AN遺伝子のエクソン1内に位置する操作された細胞を提供する。
【0013】
一実施例において、エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号1~9からなる群から選択された1つ以上の配列を含まない操作された細胞を提供する。
【0014】
一実施例において、前記操作された細胞内のFIH-1の発現レベルは前記野生型細胞内のFIH-1発現レベルの70%より低い、操作された細胞を提供する。
【0015】
一実施例において、前記操作された細胞が分泌するVEGF及びIL-8の分泌レベルは前記野生型細胞が分泌する前記VEGF及びIL-8のレベルより高い、操作された細胞を提供する。
【0016】
一実施例において、前記操作された細胞はHIF3A遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む操作された細胞を提供する。
【0017】
一実施例において、前記HIF3A遺伝子内のインデルは、エクソン2、エクソン3、エクソン4、エクソン5、及びエクソン6からなる群から選択された1つ以上の領域に位置する、操作された細胞を提供する。
【0018】
一実施例において、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号10~34からなる群から選択された1つ以上の配列を含まない操作された細胞を提供する。
【0019】
一実施例において、前記操作された細胞はPHD2遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む操作された細胞を提供する。
【0020】
一実施例において、前記PHD2遺伝子内のインデルは前記PHD2遺伝子のエクソン1領域に位置する、操作された細胞を提供する。
【0021】
一実施例において、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号35~38からなる群から選択された1つ以上の配列を含まない操作された細胞を提供する。
【0022】
一実施例において、前記操作された細胞はTLR4遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む操作された細胞を提供する。
【0023】
一実施例において、前記TLR4遺伝子内のインデルは、エクソン1、エクソン2、及びエクソン3からなる群から選択された1つ以上の領域に位置する、操作された細胞を提供する。
【0024】
一実施例において、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号39~59からなる群から選択された1つ以上の配列を含まない操作された細胞を提供する。
【0025】
一実施例において、前記操作された細胞はPAI1遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む操作された細胞を提供する。
【0026】
一実施例において、前記PAI1遺伝子内のインデルは前記PAI1遺伝子のエクソン2領域に位置する、操作された細胞を提供する。
【0027】
一実施例において、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は配列番号60~71からなる群から選択された1つ以上の配列を含まない操作された細胞を提供する。
【0028】
一実施例において、前記操作された細胞は骨髄、脂肪組織、臍帯、胎盤、羊水、及び臍帯血からなる群から選択された組織由来の間葉系幹細胞である操作された細胞を提供する。
【0029】
一実施例において、前記操作された細胞は骨髄由来の間葉系幹細胞である操作された細胞を提供する。
【0030】
本明細書では、以下を含む操作された細胞を提供する:
エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子、エンジニアリングされたHIF3A遺伝子、エンジニアリングされたPHD2遺伝子、エンジニアリングされたTLR4遺伝子、及びエンジニアリングされたPAI1遺伝子からなる群から選択された少なくとも1つのエンジニアリングされた遺伝子であり、
この時、前記エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子の配列は配列番号1~9から選択された1つ以上の配列を含まず、
前記エンジニアリングされたHIF3A遺伝子の配列は配列番号10~34から選択された1つ以上の配列を含まず、
前記エンジニアリングされたPHD2遺伝子の配列は配列番号35~38から選択された1つ以上の配列を含まず、
前記エンジニアリングされたTLR4遺伝子の配列は配列番号39~59から選択された1つ以上の配列を含まず、
前記エンジニアリングされたPAI1遺伝子の配列は配列番号60~71から選択された1つ以上の配列を含まない。
【0031】
本明細書では、以下を含む遺伝子編集用組成物を提供する:
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質又は前記Cas9蛋白質をコードするDNA、及び、
ガイドRNA又は前記ガイドRNAをコードするDNAであり、
この時、前記ガイドRNAは配列番号146~216からなる群から選択された配列を有する。
【0032】
一実施例において、前記組成物は、前記Cas9蛋白質及び前記ガイドRNAをリボヌクレオタンパク質 (RNP)形態で含む遺伝子編集用組成物を提供する。
【0033】
一実施例において、前記組成物は前記Cas9蛋白質をコードするDNA及び前記ガイドRNAをコードするDNAを単一ベクター形態で含む遺伝子操作用組成物を提供する。
【0034】
一実施例において、前記単一ベクターは、プラスミド、AAVなどからなる群から選択されることを特徴とする遺伝子編集用組成物を提供する。
本明細書では、細胞内遺伝子を編集する方法は、遺伝子操作用組成物を細胞内へ導入することを含み、
この時、前記遺伝子操作用組成物は以下を含み、
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質、又は前記Cas9蛋白質をコードするDNA、及び、
ガイドRNA又は前記ガイドRNAをコードするDNA、
この時、前記ガイドRNAは配列番号146~216からなる群から選択された配列を有する方法を提供する。
【0035】
一実施例において、前記組成物は前記Cas9蛋白質をコードするDNA及び前記ガイドRNAをコードするDNAをベクター形態で含む、細胞内遺伝子を編集する方法を提供する。
【0036】
本明細書では、細胞内で標的DNAを含む遺伝子を編集するための方法であって、以下を含む方法を提供する:
CRISPR/Cas9複合体を、前記標的DNAを含む遺伝子に接触させること、
この時、前記CRISPR/Cas9複合体は以下を含み、
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質、及び、
前記標的DNAを標的するガイドRNA、この時、前記ガイドRNAは配列番号146~216からなる群から選択された配列を有する。
【発明の効果】
【0037】
本明細書では、低酸素環境下で高い適応力を有する細胞、及びその製造方法を提供する。前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は低酸素環境で高い適応力及び生存率を示すため、前記細胞を細胞治療剤用途として使用するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】hHIF3A遺伝子のヌクレオチド配列の一部をターゲットとする遺伝子操作用組成物を処理した後、遺伝子操作の有無を確認した実験データである。具体的には、ガイド核酸を変更した際のインデル(InDel)発生比率を確認した。
図2】hTLR4遺伝子のヌクレオチド配列の一部をターゲットとする遺伝子操作用組成物を処理した後、遺伝子操作の有無を確認した実験データである。具体的には、ガイド核酸を変更した際のインデル(InDel)発生比率を確認した。
図3】hPAI1遺伝子のヌクレオチド配列の一部をターゲットとする遺伝子操作用組成物を処理した後、遺伝子操作の有無を確認した実験データである。具体的には、ガイド核酸を変更した際のインデル(InDel)発生比率を確認した。
図4】hHIF1AN遺伝子のヌクレオチド配列の一部をターゲットとする遺伝子操作用組成物を処理した後、遺伝子操作の有無を確認した実験データである。具体的には、ガイド核酸を変更した際のインデル(InDel)発生比率を確認した。
図5】hPHD2遺伝子のヌクレオチド配列の一部をターゲットとする遺伝子操作用組成物を処理した後、遺伝子操作の有無を確認した実験データである。具体的には、ガイド核酸を変更した際のインデル(InDel)発生比率を確認した。
図6】遺伝子操作用組成物をMSCで処理した後、Miseqにより本実験に適合する細胞をスクリーニングした。
図7-9】図6及び図10において、Miseqにより選択された細胞内でmRNA発現量をqRT-PCRを利用して比較した資料である。
図10】遺伝子操作用組成物をMSCで処理した後、Miseqにより本実験に適合する細胞をスクリーニングした。
図11-13】図6及び図10において、Miseqにより選択された細胞内でmRNA発現量をqRT-PCRを利用して比較した資料である。
図14】hHIF1AN遺伝子操作用組成物をMSCで処理した後、deep sequencingにより本実験に適合した細胞をスクリーニングした。
図15図10において、deep sequencingにより選択された細胞内でmRNA発現量をqRT-PCRを利用して比較した資料である。
図16】低酸素の状況で頻繁に発生する酸化ストレス(Reactive-Oxygen stress)からMSCの増殖能力変化を測定した資料であり、CCK8 assayにより生存細胞の数を測定した資料である。
図17】低酸素の状況で頻繁に発生する酸化ストレス(Reactive-Oxygen stress)からMSCの増殖能力変化を測定した資料であり、hHIF1AN遺伝子がノックアウトされたMSCと対照群MSCの生きている細胞の数をH2O2のモール濃度が0uMであるときと500u Mであるときにそれぞれ測定したデータである。
図18】実験例により間葉系幹細胞のHIF1AN遺伝子を操作した後、ディープシーケンシングによるインデル効率、及びOut-of-frame比率を比較したグラフである。Mockは遺伝子操作されなかった細胞、HIF1AN KOはHIF1AN遺伝子が操作された細胞、SHS231 KOはSHS231遺伝配列位置が操作された細胞、AAVS1はAAVS1遺伝配列位置が操作された細胞を示し、前記SHS231 KO及びAAVS1はコントロールとして使用した。
図19】実験例により間葉系幹細胞のHIF1AN遺伝子を操作した後、qRT-PCRでHIF1AN mRNA発現レベルを比較したグラフである。Mockは遺伝子操作されなかった細胞、HIF1AN KOはHIF1AN遺伝子が操作された細胞、SHS231 KOはSHS231遺伝配列位置が操作された細胞、AAVS1はAAVS1遺伝配列位置が操作された細胞を示し、前記SHS231 KO及びAAVS1はコントロールとして使用した。
図20】実験例により製造したHIF1AN遺伝子を操作した間葉系幹細胞のSNAP (Reactive nitrogen species)に対する生存能力をCCK-8 assayで確認した結果を示す。Mockは遺伝子操作されなかった細胞、HIF1AN KOはHIF1AN遺伝子が操作された細胞を示す。
図21-22】実験例により製造したHIF1AN遺伝子を操作した間葉系幹細胞の特徴を確認するためにBrdU細胞増殖分析を行った結果である。Mockは遺伝子操作されなかった細胞、HIF1AN KOはHIF1AN遺伝子が操作された細胞、SHS231 KOはSHS231遺伝配列位置が操作された細胞を示し、前記SHS231 KOはコントロールとして使用した。
図23-25】は実験例により製造したHIF1AN遺伝子を操作した間葉系幹細胞のMSC markerを確認するためにFACS分析を行った結果である。Mockは遺伝子操作されなかった細胞、HIF1AN KOはHIF1AN遺伝子が操作された細胞、SHS231 KOはSHS231遺伝配列位置が操作された細胞を示し、前記SHS231 KOはコントロールとして使用した。
図26-27】それぞれ実験例により製造したHIF1AN遺伝子を操作した間葉系幹細胞のPDL (Population Doubling Level)及びPDT(Population Doubling Time)を測定した結果である。Mockは遺伝子操作されなかった細胞、HIF1AN KOはHIF1AN遺伝子が操作された細胞、SHS231 KOはSHS231遺伝配列位置が操作された細胞、AAVS1はAAVS1遺伝配列位置が操作された細胞を示し、前記SHS231 KO及びAAVS1はコントロールとして使用した。
図28】実験例により製造したHIF1AN遺伝子を操作した間葉系幹細胞の培養培地内のCytokine分泌量を比較した結果である。Mockは遺伝子操作されなかった細胞、HIF1AN KOはHIF1AN遺伝子が操作された細胞、AAVS1はAAVS1遺伝配列位置が操作された細胞を示し、前記AAVS1はコントロールとして使用した。
図29-30】実験例の結果再現性を確認するために新しいMSC Stockで実験例3の実験を行った結果を示す。Mockは遺伝子操作されなかった細胞、Mock H2O2 300μM+は遺伝子操作されなかった細胞にH2O2 300μMを添加して酸化ストレス状況を誘発したもの、HIF1AN KOはHIF1AN遺伝子が操作された細胞、HIF1AN KO H2O2 300μM+はHIF1AN遺伝子が操作された細胞にH2O2 300μMを添加して酸化ストレス状況を誘発したものである。A:HIF1AN mRNA発現レベルを比較したグラフであり、B:Cytokine(VEGF及びIL-8) mRNA発現量を比較したグラフである。
図31】実験例4-1のWestern blot結果を示す。Mockは遺伝子操作されなかった細胞、sgHIF1ANはHIF1AN遺伝子が操作された細胞、sgAAVS1はAAVS1遺伝配列位置が操作された細胞を示し、前記sgAAVS1はコントロールとして使用した。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明の内容を特定の実現例及び例示により更に詳細に説明する。本図面は本発明の一部の実現例を含むが、全ての実現例を含む訳ではないことに留意しなければならない。本明細書によって開示される発明の内容は多様に具現されてもよく、ここで説明される特定の実現例に限定されない。このような実現例は本明細書に適用される法的要件を満たすために提供されると見なすべきである。本明細書に開示された発明が属する技術分野における通常の技術者であれば、本明細書に開示された発明の内容に対する多くの変形及び他の実現例を想到することができる。したがって、本明細書に開示された発明の内容はここに記載された特定の実現例に限定されず、これに対する変形及び他の実現例も請求範囲内に含まれると理解しなければならない。
<用語の定義>
【0040】

本明細書により使用される「薬」の用語は参照量、レベル(水準)、値、数、頻度、パーセント、サイズ、大きさ、量、重量、又は長さに対して30、25、20、25、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1%程度に変わる量、レベル、値、数、頻度、パーセント、サイズ、大きさ、量、重量又は長さを意味する。
【0041】
A、T、C、G、及びUの意味
本明細書で用いられるA、T、C、G及びU記号は当業者が理解できる意味で解釈される。文脈及び技術によりDNA又はRNA上で塩基、ヌクレオシド又はヌクレオチドとして適切に解釈することができる。例えば、塩基を意味する場合は、それぞれアデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)、又はウラシル(U)自体と解釈することができ、ヌクレオシドを意味する場合は、それぞれアデノシン(A)、チミン(T)、シチジン(C)、グアノシン(G)、又はウリジン(U)と解釈することができ、配列中のヌクレオチドを意味する場合は、前記それぞれのヌクレオシドを含むヌクレオチドを意味すると解釈されるべきである。
【0042】
エンジニアリングされた
本明細書で用いられる「エンジニアリングされた」という用語は、自然界にすでに存在する構成を有する物質、分子などと区分するために用いる用語であり、前記物質、分子などに人為的な変形が加えられたことを意味する。例えば、「エンジニアリングされた遺伝子」の場合、自然界に存在する遺伝子の構成に人為的な変更が加えられた遺伝子を意味する。また、前記用語は当業者が認識できる意味を全て含み、文脈により適切に解釈することができる。
【0043】
野生型の
「野生型」自然に発生する塩基配列を含む遺伝子及びその遺伝子から発現される蛋白質が正常な機能的特性を有することを意味する。野生型遺伝子は集団で最も頻繁に観察される。本明細書において、「野生型」という用語は、人為的に操作された(エンジニアリングされた)遺伝子、及び/又は細胞と対象的に使用される場合、これは人為的に操作された遺伝子、及び/又は細胞に対応する同種の「人為的に操作されなかった」自然に発生する塩基配列を含む遺伝子、及びこれを有する細胞を意味すると解釈することができる。また、前記用語は同業者が認識できる意味を全て含み、文脈により適切に解釈することができる。
【0044】
ノックアウト(knock-out)
本明細書で用いられる「ノックアウト」、あるいは「ノックアウトされた遺伝子」という表現は、野生型遺伝子が発現する蛋白質を転写及び/又は翻訳過程を経て生成できないことを意味する。例えば、ノックアウトされた遺伝子Aを含む細胞は、野生型遺伝子Aによって発現されるmRNA及び/又は蛋白質を発現しない可能性がある。ノックアウトされた遺伝子Aを含む細胞とは、細胞内に存在する遺伝子Aのうちの1つだけがノックアウトされている場合もあり、2つ以上がノックアウトされている場合もある。また、前記用語は同業者が認識できる意味を全て含み、文脈により適切に解釈することができる。
【0045】
ノックダウン(knock-down)
本明細書で用いられる「ノックダウン」、あるいは「ノックダウンされた遺伝子」という表現は、野生型遺伝子より少ない量で物質を発現することを意味する。例えば、ノックダウンされた遺伝子Aを含む細胞は、野生型遺伝子Aによって発現されるmRNAより少ない量のmRNAを発現する可能性もある。A遺伝子がノックダウンされた細胞とは、細胞内に存在する遺伝子Aの1つのみがノックダウンされている場合もあり、2つ以上がノックダウンされている場合もある。また、前記用語は同業者が認識できる意味を全て含み、文脈により適切に解釈することができる。
【0046】
発現レベル(expression level)
本明細書で用いられる「発現レベル」という用語は、特定遺伝子から発現された産物、例えば、mRNA及び/又は蛋白質がどのくらい頻繁に発現するかを意味する。一般的に細胞内の特定遺伝子の発現レベルが高い場合、細胞内に含まれる前記特定遺伝子から発現されるmRNA及び/又は特定蛋白質の量、又は細胞質内の前記発現産物の濃度が高いことが示される。それに反して、細胞内の特定遺伝子の発現レベルが低い場合、細胞内に含まれる前記特定遺伝子から発現されるmRNA及び/又は特定蛋白質の量、又は細胞質内の前記発現産物の濃度が低いことが示される。本明細書において、「発現レベルが高い」あるいは「発現レベルが低い」と記載されている場合、比較対象が他に明記されていない限り、その比較対象は同種の、野生型の細胞と解釈できる。また、比較基準になる定量的な指標は文脈上最も適切であると解釈されるべきである。例えば、各細胞の絶対量、相対量、及び/又は濃度が比較基準となり得るが、これらに限定されるものではない。例えば、第1細胞内でa遺伝子の発現レベルが、第2細胞内でa遺伝子の発現レベルより高いと表現する場合、第1細胞内のa遺伝子の発現産物(mRNA、蛋白質など)が、第2細胞内のa遺伝子の発現産物より絶対量が更に多かったり、相対量が更に多かったり、及び/又は濃度が更に高いこともある。また、前記用語は同業者が認識できる意味を全て含み、文脈により適切に解釈することができる。
【0047】
背景技術-低酸素環境下での細胞の生存に影響を及ぼす因子
HIF1蛋白質
低酸素環境に置かれた細胞は生存するために多量のHIF1(Hypoxia- Inducible Factor 1)蛋白質を発現することが知られている。HIF1蛋白質とは、低酸素環境で血管新生(angiogenesis,vascularization)、エネルギー代謝(energy metabolism)等に関与して細胞が生存できる環境を作る役割を遺伝子の転写調節因子(transcriptional regulato r)であり、サブユニットとしてHIF1α及びHIF1βがある。HIF1α及びHIF1βはそれぞれHIF1A及びHIF1B遺伝子によってコードされる。したがって、低酸素環境下で細胞が生存するためには、HIF1蛋白質又はそのサブユニットの発現レベルが高いか、その活性が高く維持されなければならない。
【0048】
HIF1蛋白質機能を阻害する因子- FIH1
FIH-1はHIF1AN遺伝子によってコードされた蛋白質であり、HIF1αのpost-translational controlに関与する蛋白質である。更に具体的には、FIH-1はAsparaginyl hydroxylaseである。FIH-1は、HIF1αと核内受容体活性化因子であるp300/CBPの間の相互作用を妨害することによってHIF1の活性を減少させる役割をする。また、FIH-1はHIF1αが合成された後、前記HIF1αが細胞内で分解(degradation)できるように誘導する役割をする。更にFIH-1は激しい低酸素(severe hypoxia)環境下でも機能するため、低酸素環境下で細胞の生存と直接関係する蛋白質に該当する。
【0049】
HIF1蛋白質機能を阻害する因子- PHD2
PHD2はFIH-1と共にHIF1αの翻訳後調節(post-translational control)に関与する蛋白質である。更に具体的には、PHD2はプロリルヒドロキシラーゼ(Prolyl hydroxylase)である。PHD2はHIF1αが合成された後、前記HIF1αが細胞内で分解(degradation)されるように誘導する役割をする。
【0050】
HIF1蛋白質機能を阻害する因子- HIF3A
HIF3AはHIF1αの転写調節(transcription control)に関与する蛋白質であり、HIF1α遺伝子の転写(transcription)を妨害する役割をする。
【0051】
その他の低酸素環境下で細胞の生存に影響を及ぼす因子
TLR4は傷に対する先天性免疫反応(innate immune response)に関与する因子として知られている。低酸素環境下で活性化されたTLR4はプロアポトーシスのシグナル伝達(pro-apoptotic signaling)を誘導する機能を果たし、結果的に細胞死滅(apoptosis)を誘導する。PAI1は間葉系幹細胞(MSC)の細胞外マトリックス付着(extracellular matrix attatchment)を抑制する(negatively regulate)因子である。前記PAI1は低酸素環境下で発現が増加することが知られており、幹細胞の自家移植生存率(Autograft survival)に影響を及ぼすことが知られている。
【0052】
背景技術- CRISPR/Casシステム
概括
CRISPR/Casシステムは原核生物有機体から発見される免疫システムの一種であり、Cas蛋白質、及びガイドRNAを含む。Cas蛋白質、又は、ガイドRNAの詳しい構成については公開文献であるWO2018/231018(国際公開番号)に詳しく説明されている。本明細書で用いられる“Cas蛋白質”という用語は、CRISPR/Casシステムで利用されると解釈することができるヌクレアーゼ(nuclease)を総称する用語である。ただし、説明の便宜のために、以下では最も一般的に使われるCRISPR/Cas9システムのDNA切断過程を例にして簡略に説明する。
【0053】
Cas9蛋白質
CRISPR/Cas9複合体において、核酸を切断するヌクレアーゼ(nuclase)活性を有する蛋白質をCas9蛋白質と称する。前記Cas9蛋白質は、CRISPR/Casシステム分類上でClass 2、TypeIIに該当し、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカスサーモフィルス(Streptococcus thermophilus) 、ストレプトコッカスsp.(Streptococcus sp.)、ストレプトマイセス・プリスチナエスピラリス(Streptomyces pristinaespiralis)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、ストレプトスポランジウム・ロゼウム(Streptosporangium roseum)、ストレプトスポランジウム・ロゼウム(Streptosporangium roseum)由来のCas9蛋白質などがある。このうち、研究用途で最も一般的に使われるCas9蛋白質はストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質である。
【0054】
ガイドRNA
CRISPR/Cas9複合体において、標的核酸に含まれる特定配列を認識するようにCRISPR/Cas9複合体を誘導する機能を有するRNAをガイドRNAと称する。前記ガイドRNAの構成を機能的に分類すると、大きく、1)スキャフォールド配列部分、及び2)ガイド配列部分で分類することができる。前記スキャフォールド配列部分はCas9蛋白質と相互作用する部分であり、Cas9蛋白質と結合して複合体を形成する部分である。一般的に、前記スキャフォールド配列部分はtracrRNA、crRNA反復配列部分を含み、前記スキャフォールド配列はどのようなCas9蛋白質を使用するかによって決定される。前記ガイド配列部分は、標的核酸内一定長さのヌクレオチド配列部分と相補的に結合できる部分である。前記ガイド配列部分は人為的に変形できる塩基部分であり、目的の標的ヌクレオチド配列によって決定される。
【0055】
CRISPR/Cas9複合体が標的核酸を切断する過程
CRISPR/Cas9複合体が標的核酸に接触してCas9蛋白質が一定長さのヌクレオチド配列を認識して、ガイドRNAの一部(前記ガイド配列部分)が前記PAM配列と隣接する部分と相補的に結合する場合、CRISPR/Cas9複合体によって前記標的核酸が切断される。
【0056】
この時、Cas9蛋白質が認識する一定長さのヌクレオチド配列はプロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer-adjacent motif,PAM)配列と称され、これはCas9蛋白質の種類や起源により決定される配列である。例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質は標的核酸内5’-NGG-3’配列を認識することができる。この時、前記Nはアデノシン(A)、チミジン(T)、シチジン(C)、グアノシン(G)のうちの1つである。
【0057】
CRISPR/Cas9複合体が標的核酸を切断するためにはガイドRNAのガイド配列部分がPAM配列に隣接する配列の部分と相補的に結合しなければならないため、前記ガイド配列部分は標的核酸配列、具体的にはPAM配列と隣接する配列部分によって決定される。
【0058】
CRISPR/Cas9複合体が前記標的核酸を切断するとき、標的核酸のPAM配列部分及び/又は前記ガイド配列と相補的に結合する配列部分内のいずれかの位置が切断される。
【0059】
標的鎖、非標的鎖
CRISPR/Cas9複合体は二本鎖DNAに対する切断活性を有する。前記二本鎖DNAにおいて、前記ガイド配列部分と結合するプロトスペイソ(protospacer)を有する鎖を標的鎖(Target strand,TS)と称する。前記標的鎖とは相補的な鎖であり、前記ガイド配列部分と結合しないプロトスペイソ(protospacer)を有する鎖を非標的鎖(Non-target strand,NTS)と称する。前記ガイド配列部分は二本鎖DNAの標的鎖(TS)に含まれるプロトスペイソ配列部分と相補的に結合することができる。前記ガイド配列及び二本鎖DNAの非標的鎖(NTS)に含まれるプロトスペイソ配列は同等の(equivalent)配列である。具体的には、ガイド配列はRNA配列であり、非標的鎖(NTS)に含まれるプロトスペイソ配列はこれに対応するDNA配列との点で差を有するのみである。
【0060】
従来技術の限界点
最近、疾患の治療、診断、及び/又は予防などの目的で細胞それ自体を治療剤として使用する、いわゆる「細胞治療剤」が多く研究されている。細胞治療剤で使われる細胞は、治療物質を発現できる細胞又は本来機能を全て有する細胞として、これを疾患部位又は損傷組織又は器官部位に直接投与して、該疾患の治療、損傷組織又は器官の再生を図っている。このような目的を達成するためには、細胞治療剤として投与された細胞が、投与された部位で長い間生存して正常な機能を果たさなければならない。しかし、体外で治療などのための細胞を選択、増殖して細胞治療剤を作った後、これを体内に投与する場合、前記細胞が体内環境に適応できず、早い期間内に死滅する問題が存在する。細胞が死滅する理由は、1)体外で培養される環境と体内の環境がそれぞれ異なり、2)体内が低酸素環境(hypoxia)であり、3)体内の栄養分が不足し、4)投与された細胞が体内のECMに定着(attachment)されず、5)免疫反応が発生するためであり、その中でも低酸素環境によって細胞が死滅することが代表的である。このような理由で、従来使用されていた細胞治療剤は体内で十分な生存時間を担保できなくなって、疾患の治療、組織の再生などの目的の達成が難しい問題があった。
【0061】
低酸素環境下で高い適応力を有する細胞
概括
本明細書では、低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を開示する。前記細胞は、細胞治療剤用途で利用できるものであれば、その種類は特に限定されない。前記細胞はHIF1蛋白質の発現を阻害する物質を発現する野生型の遺伝子が人為的に操作されたことを特徴とする。これに伴って、前記細胞はHIF1蛋白質の発現を阻害する物質(negative regulator of HIF1 expression)の発現量が野生型の細胞より減少している。結果的に、細胞内で維持されるHIF1蛋白質の発現レベル及び/又は活性レベルが野生型の細胞より高いという特徴がある。本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、低酸素環境下で高い適応力又は生存力を有し、細胞治療剤用途に適しているという特徴を有する。
【0062】
一実施例で、本明細書が提供する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は操作された細胞であってもよい。一実施例において、前記操作された細胞は操作された間葉系幹細胞であってもよい。
【0063】
一実施例において、前記操作された細胞はHIF1蛋白質の発現を阻害する物質を発現するHIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4、及びPAI1からなる群から選択された野生型遺伝子内にインデルを有する、少なくとも1つのエンジニアリングされた遺伝子を有することができる。一実施例において、前記操作された細胞内で、前記野生型遺伝子から転写されるmRNAの発現レベルは野生型細胞と比較して更に低くてもよい。一実施例において、前記操作された細胞内で、前記HIFαの発現レベルは野生型細胞と比較して更に高いこともある。
【0064】
一実施例において、前記操作された細胞はエンジニアリングされたHIF1AN遺伝子、エンジニアリングされたHIF3A遺伝子、エンジニアリングされたPHD2遺伝子、エンジニアリングされたTLR4遺伝子、及びエンジニアリングされたPAI1遺伝子からなる群から選択された少なくとも1つのエンジニアリングされた遺伝子を含むことができる。
【0065】
細胞の種類
一実施例において、本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、体細胞、例えば、卵球細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、角質細胞、造血細胞、メラニン細胞、軟骨細胞、マクロファージ、単球細胞、筋肉細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、樹状細胞、NK細胞、調節T細胞、生殖細胞、胚性幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、成体幹細胞、例えば、脂肪、子宮、骨髄、肝臓、筋肉、胎盤、神経、臍帯血又は皮膚(上皮)等の組織由来の幹細胞、及び/又は人工多能性幹細胞(iPSC)であってもよい。一実施例において、前記細胞は間葉系幹細胞であってもよい。一実施例において、前記細胞は、骨髄、脂肪組織、臍帯、胎盤、羊水、及び/又は臍帯血由来の間葉系幹細胞であってもよい。一実施例において、前記細胞は骨髄由来の間葉系幹細胞であってもよい。
【0066】
細胞の遺伝子型1 -エンジニアリング対象遺伝子
前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1蛋白質の転写、発現、及び/又は活性を阻害する物質を発現する野生型遺伝子が人為的に編集されていることを特徴とする。言い換えれば、前記細胞は、エンジニアリングされた、HIF1蛋白質の転写、発現、及び/又は活性を阻害する物質を発現する遺伝子を含む。
【0067】
一実施例において、前記人為的に編集された野生型遺伝子は、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4、及び/又はPAI1遺伝子であってもよい。この時、前記野生型遺伝子はヒト遺伝子であってもよいが、これらに限定されるものではない。一実施例において、前記細胞は、エンジニアリングされたHIF1AN、エンジニアリングされたHIF3A、エンジニアリングされたPHD2、エンジニアリングされたTLR4、及び/又はエンジニアリングされたPAI1遺伝子を含むことができる。この時、前記エンジニアリングされた遺伝子の配列は、これに対応する野生型遺伝子の配列とは異なる。具体的には、前記エンジニアリングされたHIF1ANの配列は、野生型のHIF1ANの配列とは異なる。具体的には、前記エンジニアリングされたHIF3Aの配列は野生型のHIF3Aの配列とは異なる。具体的に、前記エンジニアリングされたPHD2の配列は、野生型のPHD2の配列とは異なる。具体的には、前記エンジニアリングされたTLR4の配列は、野生型のTLR4の配列とは異なる。具体的には、前記エンジニアリングされたPAI1の配列は野生型のPAI1の配列とは異なる。
【0068】
細胞の遺伝子型2 -エンジニアリングされた対象遺伝子の特徴
前記エンジニアリングされた遺伝子は野生型の遺伝子と異なる配列を有することを特徴とする。前記エンジニアリングされた遺伝子は、エンジニアリングされていな野生型の遺伝子が発現する物質を発現できないこともある。前記エンジニアリングされた遺伝子は、野生型の遺伝子が発現する物質を野生型の遺伝子と比較して更に少なく発現することができる。
【0069】
一実施例において、前記エンジニアリングされた遺伝子は野生型の遺伝子の突然変異(mutation)形態であってもよい。この時、前記突然変異形態は、自然界にすでに存在する突然変異ではない、人為的に生成された突然変異であってもよい。
【0070】
一実施例において、前記エンジニアリングされた遺伝子は、これに対応する野生型遺伝子がノックアウト(knock-out)されたものであってもよい。
【0071】
一実施例において、前記エンジニアリングされた遺伝子は、これに対応する野生型遺伝子がノックダウン(knock-down)されたものであってもよい。
【0072】
一実施例において、前記エンジニアリングされた遺伝子は、これに対応する野生型遺伝子と比較して1つ以上のヌクレオチドが挿入、欠失、置換、及び/又は逆位されたものであってもよい。
【0073】
一実施例において、前記エンジニアリングされた遺伝子は、これに対応する野生型遺伝子内にインデルを含んだものであってもよい。この時、前記インデルは、細胞内のNHEJ(Non-homologous end joining)メカニズムによって発生するものであり、前記NHEJメカニズムによって前記野生型遺伝子内の1つ以上のヌクレオチドが挿入、欠失、及び/又は置換されてもよい。この時、前記「遺伝子内にインデルを含む」という表現は、前記野生型遺伝子内の1つ以上のヌクレオ チドが挿入、欠失、及び/又は置換されたもの、及び/又はその結果を称する。
【0074】
例えば、野生型のA遺伝子内にインデルを含む、エンジニアリングされたA遺伝子は、前記野生型のA遺伝子の任意の位置に1つ以上のヌクレオチドが挿入されたものであってもよい。また他の例において、野生型のA遺伝子内にインデルを含む、エンジニアリングされたA遺伝子は、前記野生型のA遺伝子内の任意の位置の1つ以上のヌクレオチドが欠失されたのもであってもよい。また他の例において、野生型のA遺伝子内にインデルを含む、エンジニアリングされたA遺伝子は、前記野生型のA遺伝子内の任意の位置の1つ以上のヌクレオチドが異なるもので置換されてもよい。
【0075】
細胞の遺伝子型3 -対象遺伝子内のエンジニアリング領域の例示
上述した通り、本明細書で提供する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1蛋白質の転写、発現、及び/又は活性を阻害する物質を発現する野生型遺伝子が人為的に編集されていることを特徴とし、これは前記野生型遺伝子内の1つ以上の領域がエンジニアリングされたことを意味する。この時、前記野生型遺伝子内の、エンジニアリングされた領域は上述した目的を達成できる領域であれば、特に限定されない。
【0076】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、前記野生型遺伝子内のエクソン領域、イントロン領域及び/又は調節領域が編集されたものであってもよい。この時、前記野生型遺伝子は、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及びPAI1からなる群から選択されたものであってもよい。
【0077】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及びPAI1遺伝子からなる群から選択された1つ以上の野生型遺伝子の、エクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4、エクソン5、…、及びエクソンNから選択された1つ以上の領域が人為的に編集された、エンジニアリングされた遺伝子を含むことができる。この時、前記Nは任意の整数である。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及びPAI1遺伝子からなる群から選択された1つ以上の野生型遺伝子の、イントロン1、イントロン2、イントロン3、イントロン4、イントロン5、…、及びイントロンMから選択された1つ以上の領域が人為的に編集された、エンジニアリングされた遺伝子を含むことができる。この時、前記Mは任意の整数である。
【0078】
一実施例において、前記細胞は、野生型のHIF1AN遺伝子内のエクソン1領域が人為的に編集された、エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子を含むことができる。一実施例において、前記細胞は、野生型のHIF3A遺伝子内のエクソン2、エクソン3、エクソン4、エクソン5、及びエクソン6からなる群から選択された1つ以上の領域が人為的に編集された、エンジニアリングされたHIF3A遺伝子を含むことができる。一実施例において、前記細胞は、野生型のPHD2遺伝子内のエクソン1領域が人為的に編集された、エンジニアリングされたPHD2遺伝子を含むことができる。一実施例において、前記細胞は野生型のTLR4遺伝子内のエクソン1、エクソン2、及びエクソン3からなる群から選択された1つ以上の領域が人為的に編集された、エンジニアリングされたTLR4遺伝子を含むことができる。一実施例において、前記細胞は、野生型のPAI1遺伝子内のエクソン2領域が人為的に編集された、エンジニアリングされたPAI1遺伝子を含むことができる。
【0079】
一実施例において、前記操作された細胞がHIF1AN遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記HIF1AN遺伝子内のインデルは前記HIF1AN遺伝子のエクソン1領域に位置することができる。前記操作された細胞がHIF3A遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記HIF3A遺伝子内のインデルは前記HIF3A遺伝子の、エクソン2、エクソン3、エクソン4、エクソン5、及びエクソン6からなる群から選択された1つ以上の領域内に位置することができる。前記操作された細胞がPHD2遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記PHD2遺伝子内のインデルは前記PHD2遺伝子のエクソン1領域内に位置することができる。前記操作された細胞がTLR4遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記TLR4遺伝子内のインデルは前記TLR4遺伝子の、エクソン1、エクソン2、及びエクソン3からなる群から選択された1つ以上の領域内に位置することができる。前記操作された細胞がPAI1遺伝子内にインデルを有するエンジニアリングされた遺伝子を含む場合、前記PAI1遺伝子内のインデルは前記PAI1遺伝子のエクソン2領域内に位置することができる。
【0080】
細胞の遺伝子型4 -エンジニアリング対象配列の例示
一実施例で、本明細書で提供する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1AN遺伝子内の配列番号1~9から選択された1つ以上の配列が人為的に編集されたものであってもよい。一実施例において、前記細胞はエンジニアリングされたHIF1AN遺伝子を含み、前記エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子の配列は、配列番号1~9から選択された1つ以上の配列を含まなくてもよい。言い換えれば、前記エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子の配列のうち配列番号1~9から選択された1つ以上の配列と一致する配列は存在しなくてもよい。
【0081】
一実施例で、本明細書で提供する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF3A遺伝子内の配列番号10~34から選択された1つ以上の配列が人為的に編集されたものであってもよい。一実施例において、前記細胞はエンジニアリングされたHIF3A遺伝子を含み、前記エンジニアリングされたHIF3A遺伝子の配列は、配列番号10~34から選択された1つ以上の配列を含まなくてもよい。言い換えれば、前記エンジニアリングされたHIF3A遺伝子の配列のうち配列番号10~34から選択された1つ以上の配列と一致する配列は存在しなくてもよい。
【0082】
一実施例で、本明細書で提供する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、PHD2遺伝子内の配列番号35~38から選択された1つ以上の配列が人為的に編集されたものであってもよい。一実施例において、前記細胞はエンジニアリングされたPHD2遺伝子を含み、前記エンジニアリングされたPHD2遺伝子の配列は、配列番号35~38から選択された1つ以上の配列を含まなくてもよい。言い換えれば、前記エンジニアリングされたPHD2遺伝子の配列のうち配列番号35~38から選択された1つ以上の配列と一致する配列は存在しなくてもよい。
【0083】
一実施例で、本明細書で提供する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、TLR4遺伝子内の配列番号39~59から選択された1つ以上の配列が人為的に編集されたものであってもよい。一実施例において、前記細胞はエンジニアリングされたTLR4遺伝子を含み、前記エンジニアリングされたTLR4遺伝子の配列は、配列番号39~59から選択された1つ以上の配列を含まなくてもよい。言い換えれば、前記エンジニアリングされたTLR4遺伝子の配列のうち配列番号39~59から選択された1つ以上の配列と一致する配列は存在しなくてもよい。
【0084】
一実施例で、本明細書で提供する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、PAI1遺伝子内の配列番号60~71から選択された1つ以上の配列が人為的に編集されたものであってもよい。一実施例において、前記細胞はエンジニアリングされたPAI1遺伝子を含み、前記エンジニアリングされたPAI1遺伝子の配列は、配列番号60~71から選択された1つ以上の配列を含まなくてもよい。言い換えれば、前記エンジニアリングされたPAI1遺伝子の配列のうち配列番号60~71から選択された1つ以上の配列と一致する配列は存在しなくてもよい。
【0085】
細胞の表現型1 -エンジニアリング対象遺伝子の発現産物の減少
本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1蛋白質の発現を阻害する物質を発現する野生型の遺伝子が人為的に操作され、前記野生型の遺伝子が発現する物質を発現できないか、更に少なく発現することを特徴とする。したがって、前記細胞は、HIF1蛋白質の発現を阻害する物質(negative regulator of HIF1 expression)の発現量が野生型の細胞より減少している。
【0086】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型のHIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4、及びPAI1遺伝子からなる群から選択された遺伝子内にインデルを有する、少なくとも1つのエンジニアリングされた遺伝子を有することを特徴とし、この時、前記エンジニアリングされた遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型遺伝子から発現するmRNAの配列と異なってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型HIF1AN遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型HIF1AN遺伝子から発現するmRNAの配列と異なってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型HIF3A遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたHIF3A遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたHIF3A遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型HIF3A遺伝子から発現するmRNAの配列と異なってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型PHD2遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたPHD2遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたPHD2遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型PHD2遺伝子から発現するmRNAの配列と異なってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型TLR4遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたTLR4遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたTLR4遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型TLR4遺伝子から発現するmRNAの配列と異なってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型PAI1遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたPAI1遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたPAI1遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型PAI1遺伝子から発現するmRNAの配列と異なってもよい。
【0087】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型のHIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4、及びPAI1からなる群から選択された遺伝子内にインデルを有する、少なくとも1つのエンジニアリングされた遺伝子を有することを特徴とし、この時、前記エンジニアリングされた遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型遺伝子から発現するmRNAの配列と同一であり、この時、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞内で、前記エンジニアリングされた遺伝子から発現するmRNAの発現レベルは、前記野生型細胞と比較して更に低くてもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型HIF1AN遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型HIF1AN遺伝子から発現するmRNAの配列と同一であり、この時、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞内で、前記エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子から発現するmRNAの発現レベルは、野生型細胞内の、野生型HIF1AN遺伝子から発現するmRNAの発現レベルと比較して更に低くてもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型HIF3A遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたHIF3A遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたHIF3A遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型HIF3A遺伝子から発現するmRNAの配列と同一であり、この時、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞内で、前記エンジニアリングされたHIF3A遺伝子から発現するmRNAの発現レベルは、野生型細胞内の、野生型HIF1A遺伝子から発現するmRNAの発現レベルと比較して更に低くてもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型PHD2遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたPHD2遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたPHD2遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型PHD2遺伝子から発現するmRNAの配列と同一であり、この時、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞内で、前記エンジニアリングされたPHD2遺伝子から発現するmRNAの発現レベルは、野生型細胞内の、野生型PHD2遺伝子から発現するmRNAの発現レベルと比較して更に低くてもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型TLR4遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたTLR4遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたTLR4遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型TLR4遺伝子から発現するmRNAの配列と同一であり、この時、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞内で、前記エンジニアリングされたTLR4遺伝子から発現するmRNAの発現レベルは、野生型細胞内の、野生型TLR4遺伝子から発現するmRNAの発現レベルと比較して更に低くてもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型PAI1遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたPAI1遺伝子を有することを特徴とし、前記エンジニアリングされたPAI1遺伝子から発現するmRNAの配列は、前記野生型PAI1遺伝子から発現するmRNAの配列と同一であり、この時、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞内で、前記エンジニアリングされたPAI1遺伝子から発現するmRNAの発現レベルは、野生型細胞内の、野生型PAI1遺伝子から発現するmRNAの発現レベルと比較して更に低くてもよい。
【0088】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及び/又はPAI1遺伝子から発現するmRNA量が減少した細胞であってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞内で、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及び/又はPAI1遺伝子から発現するmRNAの発現レベルは、野生型細胞と比較して更に低くてもよい。
【0089】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及び/又はPAI1遺伝子から発現する蛋白質量が減少した細胞であってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞内で、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及び/又はPAI1遺伝子から発現する蛋白質の発現レベルは、野生型細胞と比較して更に低くてもよい。
【0090】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1AN遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子を含む場合、前記細胞内に含まれるHIF1ANから発現するmRNA及び/又はFIH-1の濃度は、野生型細胞内に含まれる濃度より更に低くてもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1AN遺伝子内にインデルを有する、エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子を含む場合、前記細胞内のHIF1ANから発現するmRNA及び/又はFIH-1の発現レベルは、野生型細胞内発現レベルより更に低くてもよい。
【0091】
細胞の表現型2 -エンジニアリング対象遺伝子の発現産物減少関連定量指標の例示
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及び/又はPAI1遺伝子から発現するmRNAの発現レベルが野生型の細胞と比較して約0.9倍、約0.85倍、約0.8倍、約0.75倍、約0.7倍、約0.65倍、約0.6倍、約0.55倍、約0.5倍、約0.45倍、約0.4倍、約0.35倍、約0.3倍、約0.25倍、約0.2倍、約0.15倍、約0.10倍、約0.05倍、約0.04倍、約0.03倍、約0.02倍、又は約0.01倍以下であってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は野生型の細胞と比較して、前文で選択された2つの数値範囲内のmRNA発現レベルを示すことができる。例えば、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して、約0.6倍~約0.7倍のmRNA発現レベルを示すことができる。
【0092】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及び/又はPAI1遺伝子から発現する蛋白質の発現レベルが野生型の細胞と比較して約0.9倍、約0.85倍、約0.8倍、約0.75倍、約0.7倍、約0.65倍、約0.6倍、約0.55倍、約0.5倍、約0.45倍、約0.4倍、約0.35倍、約0.3倍、約0.25倍、約0.2倍、約0.15倍、約0.10倍、約0.05倍、約0.04倍、約0.03倍、約0.02倍、又は約0.01倍以下であってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して前文で選択された2つの数値範囲内の蛋白質発現レベルを示すことができる。例えば、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して約0.6倍~約0.7倍の蛋白質発現レベルを示すことができる。
【0093】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、FIH-1発現レベルが野生型の細胞と比較して約0.9倍、約0.85倍、約0.8倍、約0.75倍、約0.7倍、約0.65倍、約0.6倍、約0.55倍、約0.5倍、約0.45倍、約0.4倍、約0.35倍、約0.3倍、約0.25倍、約0.2倍、約0.15倍、約0.10倍、約0.05倍、約0.04倍、約0.03倍、約0.02倍、又は約0.01倍以下であってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して前文で選択された2つの数値範囲内のFIH-1発現レベルを示すことができる。例えば、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して約0.6倍~約0.7倍のFIH-1発現レベルを示すことができる。
【0094】
細胞の表現型3 - HIFα発現関連
本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、細胞内HIF1α発現レベルが高いか、HIF1αの活性が高く示される。
【0095】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較してHIF1α発現レベルが高いこともある。この時、前記HIF1α発現レベルは、細胞内HIF1αの量、及び/又は濃度であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0096】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較してHIF1αの活性が高く示されることがある。
【0097】
細胞の表現型4 - HIF1α発現関連の定量指標の例示
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1αの発現レベルが野生型の細胞と比較して約1.1倍、約1.2倍、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.6倍、約1.7倍、約1.8倍、約1.9倍、約2.0倍、約2.1倍、約2.2倍、約2.3倍、約2.4倍、約2.5倍、約2.6倍、約2.7倍、約2.8倍、約2.9倍、又は約3.0倍以上であってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は野生型の細胞と比較して前文で選択された2つの数値範囲内のHIF1α発現レベルを示すことができる。例えば、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して約1.1倍~約1.5倍のHIF1α発現レベルを示すことができる。
【0098】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、HIF1αの活性レベルが野生型の細胞と比較して約1.1倍、約1.2倍、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.6倍、約1.7倍、約1.8倍、約1.9倍、約2.0倍、約2.1倍、約2.2倍、約2.3倍、約2.4倍、約2.5倍、約2.6倍、約2.7倍、約2.8倍、約2.9倍、又は約3.0倍以上であってもよい。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して前文で選択された2つの数値範囲内のHIF1α活性レベルを示すことができる。例えば、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して約1.1倍~約1.5倍のHIF1α活性レベルを示すことができる。
【0099】
細胞の特徴1 -低酸素環境下での高い生存率
本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、低酸素環境で改善された適応力、又は、生存力を示すことを特徴とする。この時、「低酸素環境」とは、低い濃度の酸素(O2)を含む気体環境下であることを意味する。結果的に、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞が生きている有機体(例えば、ヒト)の体内に注入される場合、改善された適応力又は生存力を示す。
【0100】
一実施例で、本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、低酸素環境下での野生型の細胞より更に長く生存することを特徴とする。
【0101】
細胞の特徴2 -低酸素環境下での高い生存率の定量指標の例示
一実施例において、前記低酸素環境は約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、又は約21%以下のO2パーセント濃度を有する気体環境を意味し得る。一実施例において、前記低酸素環境は人為的に前記低酸素環境を模倣した(mimetic)環境であってもよい。一実施例において、前記低酸素環境はH2O2を処理して人為的に前記低酸素環境で頻繁に発生する酸化ストレス(reactive oxidative stress;ROS)を誘導した環境であってもよい。
【0102】
一実施例において、1つ以上の、本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞及び野生型の細胞を同じ低酸素環境下で一定時間置いたとき、生き残った前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞の数は、生き残った前記野生型の細胞の数と比較して約1.01倍、約1.02倍、約1.03倍、約1.04倍、約1.05倍、約1.06倍、約1.07倍、約1.08倍、約1.09倍、約1.1倍、約1.15倍、約1.2倍、約1.25倍、約1.3倍、約1.35倍、約1.4倍、約1.45倍、約1.5倍、約1.55倍、約1.6倍、約1.65倍、約1.7倍、約1.75倍、約1.8倍、約1.85倍、約1.9倍、約1.95倍、約2.0倍、約2.1倍、約2.2倍、約2.3倍、約2.4倍、約2.5倍、約2.6倍、約2.7倍、約2.8倍、約2.9倍、約3.0倍、約4倍、約5倍、又は約10倍以上であってもよい。一実施例において、前記生き残った低酸素環境下で高い適応力を有する細胞の数は、前記生き残った野生型細胞の数と比較して前文で選択された2つの数値範囲内の数字であってもよい。例えば、前記生き残った低酸素環境下で高い適応力を有する細胞の数は、前記生き残った野生型細胞数の約1.5倍~約2.5倍であってもよい。
【0103】
一実施例において、前記一定時間は、約10分、約30分、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約6時間、約8時間、約12時間、約24時間、約48時間、約72時間、約98時間、約120時間、約1週、約2週、約3週、約4週、又は約一ヶ月以上の期間であってもよい。一実施例において、前記一定時間は、上述の選択された2つの数値範囲内の期間であってもよい。例えば、前記一定時間は、約3時間~約12時間であってもよい。
【0104】
細胞の特徴3 -サイトカインの分泌
本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、特定のサイトカイン(cytokine)、又は特定の成長因子(growth factor)を多く分泌する細胞であってもよい。
【0105】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較してサイトカイン(cytokine)の分泌(secretion)レベルが高いこともある。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較してVEGF及び/又はIL-8の分泌レベルが高いこともある。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子を含み、野生型の細胞と比較してVEGF及び/又はIL-8の分泌レベルが高いこともある。
【0106】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して前記低酸素環境下でサイトカイン(cytokine)の分泌(secretion)レベルが高いこともある。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して前記低酸素環境下でVEGF及び/又はIL-8の分泌レベルが高いこともある。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、エンジニアリングされたHIF1AN遺伝子を含み、野生型の細胞と比較して前記低酸素環境下でVEGF及び/又はIL-8の分泌レベルが高いこともある。
【0107】
細胞の特徴4 -サイトカインの分泌に対する定量指標の例示
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して、特定のサイトカイン(cytokine)を約1.1倍、約1.2倍、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.6倍、約1.7倍、約1.8倍、約1.9倍、約2.0倍、約2.1倍、約2.2倍、約2.3倍、約2.4倍、約2.5倍、約2.6倍、約2.7倍、約2.8倍、約2.9倍、又は約3.0倍の量で分泌することができる。一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、野生型の細胞と比較して、特定のサイトカインを前文で選択された2つの数値範囲内の量で分泌することができる。例えば、約1.1倍~約1.5倍であってもよい。この時、前記特定のサイトカインはVEGF及び/又はIL-8であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0108】
細胞の用途
本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、細胞治療剤の用途として利用することができる。
【0109】
一実施例において、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は、癌、アルツハイマー病、関節炎、例えば、老化によって発病する変形性関節症(degenerative joint disease)の骨関節炎(osteoarthritis)、その他、自己免疫疾患である関節リウマチ(rheumatoid arthritis)と乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、感染による敗血症性関節炎(septic arthritis)等の予防、症状緩和、再生、又は治療用として用いることができる。また他の一実施例で、糖尿病性網膜症、損傷した骨、軟骨、皮膚及び心筋などの器官、骨形成不全症(Osteogenesis imperfecta,OI)、クローン病瘻孔(Crohn’s fistula)、糖尿病性足潰瘍、心筋梗塞症(Myocardial infarction)、ハンチントン病、パーキンソン病、ルーゲーリッグ病、活動性クル病、骨のパジェット病(変形性骨炎)、進行性骨化性線維異形成、前関節症、腸炎性関節炎症などの予防、症状緩和、再生、又は治療に用いることができる。
【0110】
低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作用組成物
概括
本明細書で開示される低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作用組成物は、CRISPR/Casシステムを利用して細胞内エンジニアリング対象遺伝子を編集できる構成を有する。前記遺伝子操作用組成物は、上述の低酸素環境下で高い適応力を有する細胞の遺伝子型、及び/又は表現型を示すように、適合する細胞内標的配列を認知して、これを編集できるように設計されたものである。一実施例において、前記遺伝子操作用組成物は、Cas9蛋白質又はこれをコードするDNA、及びガイドRNA又はこれをコードするDNAを含むことができる。一実施例において、前記Cas9蛋白質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質であってもよい。一実施例において、前記ガイドRNAの配列は、配列番号146~216からなる群から選択された配列であってもよい。
【0111】
CRISPR/Casシステム構成要素1-Cas9蛋白質
本明細書で開示される低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作用組成物は、Cas9蛋白質又はこれをコードするDNAを含む。この時、前記Cas9蛋白質は、自然界に存在するCas9蛋白質や、自然界に存在するCas9蛋白質から1つ以上のドメインが人為的に変形されたCas9蛋白質であってもよい。一実施例において、前記Cas9蛋白質は、前記Cas9蛋白質に含まれる一部又は全てのドメインの機能が不活性化されたものであってもよい。一実施例において、前記Cas9蛋白質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質であってもよい。
【0112】
CRISPR/Casシステム構成要素2-ガイドRNA
本明細書で開示される低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作用組成物は、ガイドRNA又はこれをコードするDNAを含む。この時、前記ガイドRNAは、前記Cas9蛋白質と結合してCRISPR/Cas複合体を形成することができる。前記ガイドRNAの構成は、大きくスキャフォールド部分、及びガイド配列部分に分類することができる。前記スキャフォールド部分は前記Cas9蛋白質と相互作用して前記Cas9蛋白質と結合できる部分であり、その構成は前記遺伝子操作用組成物に含まれるCas9蛋白質の種類によって変わり得る。前記ガイド配列の部分は、細胞に含まれるエンジニアリング対象遺伝子内の特定配列部分と相補的な結合を形成できる部分であり、CRISPR/Cas複合体が前記特定配列部分、及び/又はこれと隣接する部分を編集するようにする。前記ガイド配列部分は予め決定された標的配列と相補的に結合することができるように設計される。
【0113】
一実施例において、前記エンジニアリング対象遺伝子は、HIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4及び/又はPAI1遺伝子であってもよい。
【0114】
一実施例において、前記スキャフォールド部分は、tracrRNA及びcrRNA反復配列部分を含むことができる。一実施例において、前記tracrRNAの配列は、配列番号144の配列であってもよい。一実施例において、前記tracrRNAの配列は、配列番号144の配列と約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上一致する配列であってもよい。一実施例において、前記crRNA反復配列は配列番号145の配列であってもよい。一実施例において、前記crRNA反復配列は、配列番号145の配列と約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上一致する配列であってもよい。一実施例において、前記スキャフォールド部分の配列は配列番号143の配列であってもよい。一実施例において、前記スキャフォールド部分の配列は、配列番号143の配列と約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上一致する配列であってもよい。
【0115】
一実施例において、前記ガイド配列部分は、前記エンジニアリング対象遺伝子内に含まれるproto-spacer adjacent motif(PAM)配列と隣接するDNA配列に相応するRNA配列であってもよい。一実施例において、前記PAM配列は5’-NGG’-3’であってもよい。
【0116】
ガイドRNA配列の例示
一実施例において、前記ガイドRNAに含まれるガイド配列部分は、配列番号72~142からなる群から選択された配列であってもよい。一実施例において、前記ガイドRNAの配列は、配列番号146~216からなる群から選択された配列であってもよい。
【0117】
CRISPR/Casシステム構成要素の含む形態
前記遺伝子操作用組成物内に含まれるCRISPR/Casシステムの各構成要素の形態は、前記遺伝子操作用組成物が細胞内に導入される場合、CRISPR/Cas複合体が形成されて対象遺伝子を人為的に操作することができる形態であれば特に限定されない。
【0118】
一実施例において、前記遺伝子操作用組成物は、前記Cas9蛋白質及び前記ガイドRNAが結合したリボヌクレオタンパク質(RNP,ribonucleoprotein)を含むことができる。一実施例において、前記遺伝子操作用組成物は、前記Cas9蛋白質をコードするDNA及び前記ガイドRNAをコードするDNAを含むベクターを有してもよい。一実施例において、前記遺伝子操作用組成物は、前記Cas9蛋白質をコードするDNA及び前記ガイドRNAをコードするDNAを含む単一ベクターを有してもよい。一実施例において、前記単一ベクターは、プラスミド及び/又はウイルスベクターであってもよい。一実施例において、前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ-関連ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス及び単純ヘルペスウイルスにより構成された群から選択された一つであってもよい。
【0119】
低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための細胞内遺伝子操作方法
概括
本明細書では、低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための細胞内遺伝子操作方法を開示する。具体的には、前述した低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するために、HIF1蛋白質の発現を阻害する物質を発現する遺伝子を編集して目的の前記細胞を得る方法である。一実施例において、前記遺伝子操作方法は、遺伝子操作用組成物を、標的遺伝子を含む細胞内に導入することを含んでもよい。この時、前記遺伝子操作用組成物は、「低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作用組成物」の段落で説明したものであってもよい。一実施例において、前記遺伝子操作方法は、CRISPR/Cas9複合体を標的遺伝子に接触させることを含んでもよい。この時、前記CRISPR/Cas9複合体は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質及び配列番号146~216からなる群から選択された配列を有するガイドRNAが複合体を構成することもできる。
【0120】
遺伝子操作方法の実施環境
この時、前記遺伝子操作方法は、生体外(in vitro)で実施することができる。また、前述したように、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は細胞治療剤として使用されるため、前記遺伝子操作方法は有機体から分離された細胞に対して(ex vivo)実施することができる。一実施例において、前記遺伝子操作方法は、生体外(in vitro)において、有機体から分離された細胞に対して(ex vivo)実施することができる。この時、前記有機体は、ヒト又は動物であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0121】
標的遺伝子
前記遺伝子操作方法において、遺伝子操作の目標になる遺伝子を標的遺伝子と称する。前記遺伝子操作方法の対象になる遺伝子は、HIF1蛋白質の転写、発現、及び/又は活性を阻害する物質を発現する野生型遺伝子である。前記標的遺伝子は「細胞の遺伝子型1 -エンジニアリング対象遺伝子」の段落で説明した遺伝子であってもよい。
【0122】
遺伝子操作用組成物
本明細書で開示される前記遺伝子操作方法に用いる遺伝子操作用組成物は、「低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作用組成物」の段落で説明したものであってもよい。一実施例において、前記遺伝子操作方法に用いる遺伝子操作用組成物は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質又はこれをコードするDNA、及び配列番号146~216からなる群から選択された配列を有する、1つ以上のガイドRNA又はこれをコードするDNAを含むことができる。
【0123】
遺伝子操作用組成物導入手段の例示
本明細書で開示される前記遺伝子操作方法において、細胞内に前記遺伝子操作用組成物を導入することは、多様な方法で実施することができ、CRISPR/Cas複合体によって標的遺伝子を編集する目的を達成できる方法であれば特に限定されない。
【0124】
一実施例において、細胞内に前記遺伝子操作用組成物を導入することは、電気穿孔法、リポペクション、マイクロインジェクション、遺伝子銃、リポソーム、陽性リポソーム、EDV(EnGeneIC delivery vehicles)、プラスミド、ウイルスベクター、ナノ粒子(nanoparticles)、PTD(Protein translocationdomain)融合蛋白質方法、免疫リポソーム、ポリカチオン又は脂質:核酸接合体、ネイキッドDNA、人工ビリオン、及びDNAの製剤強化吸収方法の中から選択された1つ以上の手段により実施されることができる。一実施例において、前記遺伝子操作用組成物がCas9蛋白質及びガイドRNAが結合したリボヌクレオタンパク質(ribonucleoprotein)を含む場合、前記遺伝子操作用組成物は、電気衝撃又は電気穿孔法により細胞内に導入することができる。
【0125】
CRISPR/Casシステムの各構成要素の個別導入
前記遺伝子操作用組成物にCRISPR/Casシステムの各構成要素が独立して含まれる場合、前記遺伝子操作方法は、CRISPR/Casシステムの各構成要素を個別的に細胞内に導入する過程を含むことができる。この時、CRISPR/Casシステムの各構成要素は同時に、又は任意の順序で順番に細胞内に導入することができる。一実施例において、前記遺伝子操作用組成物が前記Cas蛋白質をコードするDNA及びガイドRNAを個別的な構成要素で含む場合、前記遺伝子操作方法は、前記Cas蛋白質をコードするDNA及びガイドRNAを同時に細胞内に導入する過程を含むことができる。一実施例において、前記遺伝子操作用組成物が前記Cas蛋白質をコードするDNA及びガイドRNAを個別的な構成要素で含む場合、前記遺伝子操作方法は、前記Cas蛋白質をコードするDNA及びガイドRNAを任意の順序で順番に細胞内に導入される過程を含むことができる。一実施例において、前記遺伝子操作用組成物が前記Cas蛋白質をコードするDNA及びガイドRNAをコードするDNAを2つ以上の異なるベクター内に含む場合、前記遺伝子操作方法は、それぞれのベクターを同時に細胞内に導入する過程を含むことができる。一実施例において、前記遺伝子操作用組成物が前記Cas蛋白質をコードするDNA及びガイドRNAをコードするDNAを2つ以上の異なるベクター内に含む場合、前記遺伝子操作方法はそれぞれのベクターを任意の順序で順番に細胞内に導入する過程を含むことができる。
【0126】
遺伝子操作用組成物の導入
本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作方法は、前記遺伝子操作用組成物を細胞内に導入することを含んでもよい。
【0127】
CRISPR/Cas複合体と標的遺伝子の接触
本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作方法は、CRISPR/Cas複合体を標的遺伝子と接触させることを含んでもよい。
【0128】
遺伝子操作方法の実施結果1 -遺伝子編集位置
本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作方法を実施した結果として、細胞内標的遺伝子の特定部分で遺伝子編集が起きる。この時、前記「特定部分で遺伝子編集が起きる」という表現は、前記特定部分、及び/又はこれと隣接する部分がCRISPR/Cas複合体によって編集されるという意味である。
【0129】
一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、細胞内前記標的遺伝子内の標的配列の部分、又はこれと隣接する部分で遺伝子編集が起こり得る。一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、細胞内のHIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4、及び/又はPAI1遺伝子内に含まれる標的配列の部分、又はこれと隣接する部分で遺伝子編集が起こり得る。
【0130】
一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、細胞内のHIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4、及び/又はPAI1遺伝子内のエクソン領域、イントロン領域、及び/又は調節領域で遺伝子編集が起こり得る。一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、細胞内のHIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4、及び/又はPAI1遺伝子内のエクソン1、エクソン2、エクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4、エクソン5、…、エクソンNから選択された1つ以上の領域で遺伝子編集が起こり得る。この時、前記Nは任意の整数である。一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、細胞内のHIF1AN、HIF3A、PHD2、TLR4、及び/又はPAI1遺伝子内のイントロン1、イントロン2、イントロン3、イントロン4、イントロン5、…、及びイントロンMから選択された1つ以上の領域で遺伝子編集が起こり得る。この時、前記Mは任意の整数である。一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、細胞内標的遺伝子に含まれる配列番号1~71からなる群から選択された配列の部分で遺伝子編集が起こり得る。
【0131】
遺伝子操作方法の実施結果2 -遺伝子編集様態
本明細書で開示する低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を製造するための遺伝子操作方法を実施した結果として、細胞内標的遺伝子の特定部分で遺伝子編集が起きる。前記遺伝子編集が起きた結果、前記標的遺伝子の発現産物の発現レベルは野生型の細胞より低くなることになる。この時、前記発現産物はmRNA、又は特定蛋白質であってもよい。
【0132】
一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、標的遺伝子内の特定の部分及び/又はこれと隣接する部分において、1つ以上のヌクレオチドが挿入されたり、欠失されたり、他のヌクレオチドで置換されたり、及び/又は逆位されることができる。一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、標的遺伝子内の特定部分及び/又はこれと隣接する部分でインデルが発生する可能性がある。この時、前記特定部分は「遺伝子操作方法を実施した結果として1 -遺伝子編集位置」の段落で例示した部分であってもよい。一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、標的遺伝子をノックアウト(knock-out)することができる。一実施例において、前記遺伝子操作方法を実施した結果として、標的遺伝子をノックダウン(knock-down)することができる。
【0133】
低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を含む薬学的組成物
本明細書では、低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を含む薬学的組成物を開示する。前記薬学的組成物は低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を有効性分として含み、対象疾患の診断、症状緩和、再生、及び/又は治療用途に使用することができる。
【0134】
一実施例において、前記薬学的組成物は体内に投与されて損傷した細胞を置き換えたり、損傷した組織又は器官を、治療又は再生するなど当業者が容易に利用できる用途として使用することができる。
【0135】
一実施例において、前記薬学的組成物は薬学的に許容される担体を更に含むことができる。この時、前記薬学的に共用される担体は、潤滑剤、湿潤制、甘味剤、香味制、乳化剤、懸濁剤、保存剤、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、燐酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポルリビニルピロルリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイル、食塩水、PBS(phosphate buffered saline)及び/又は培地であってもよいが、これらに限定されない。
【0136】
一実施例において、前記薬学的組成物又は薬学的組成物の有効成分である細胞は、低酸素環境で培養したものであってもよい。具体的には、in vitro又はin vivo上の低酸素環境でpre-conditioningされたものであってもよい。
【0137】
一実施例において、前記薬学的組成物は非経口投与形態で製剤化することができる。この時、非経口投与は、経鼻投与、点眼投与、静脈内注入、筋肉注入、腹腔注入、経皮投与、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射、脳組織内注射、海馬(hippocampus)内注射、caudate putamen(CPu)内注射、関節内注射、軟骨内注射又は胸部内注入方法などを含むか、これらに限定されない。
【0138】
一実施例において、前記薬学的組成物を非経口投与用製剤に製剤化するために有効成分である細胞を安定剤又は緩衝制と共に水に混合して、溶液又は懸濁液として製造することができる。更にアンプル又はバイアル単位投与形態で製造することができる。一実施例において、前記薬学的組成物は、防腐剤、安定化制、湿潤剤又は乳化促進剤、浸透圧調節のための塩及び/又は緩衝制などの補助剤、及び他の治療的に有用物質を含んでもよく、通常の方法である混合、顆粒化又はコーティング方法により製剤化することができる。
【0139】
低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を利用する治療方法
本明細書では、低酸素環境下で高い適応力を有する細胞又はこれを含む薬学的組成物を利用する治療方法を開示する。前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞は生きている対象(例えば、ヒト)の体内に投与される場合、投与部位の低酸素環境で長い間に生存して、顕著な治療効果を提供することができる。この時、前記治療効果は1回投与量を減らしたり、反復投与サイクルを増やすこともできる。
【0140】
本明細書では、前記低酸素環境下で高い適応力を有する細胞を有効性分として含む薬学的組成物を目的部位に投与(injection)することで、対象疾患の診断、症状緩和、再生又は治療用途として用いる方法を提供する。
【0141】
一実施例において、前記薬学的組成物は、単独、又は手術、放射線治療、ホルモン治療、化学治療及び生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用することができる。
【0142】
一実施例において、前記薬学的組成物の適合した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感受性など要因によって多様であり、通常は熟練した医師が所望する治療又は予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。
【0143】
実験例
以下、実験例及び実施例により本明細書が提供する発明について更に詳細に説明する。これらの実施例は単に本明細書によって開示される内容を例示するためのものであり、本明細書によって開示される内容の範囲がこれらの実施例によって限定されるものと解釈されないことは、当業者にとって自明である。
【0144】
実験例1 低酸素環境下で高い適応力を有する細胞製造
実験例1-1 間葉系幹細胞培養
ヒト骨髄由来のMSCは、Lonza (Walkersville,Maryland,USA)から購入した。MSCは10% FBS(fetal bovine serum,Gibco)及びGentamicin 0.05 mg/mL (Thermo Fisher Scientific)を含むMEM alpha 1x media (Gibco,Rockville,MD)培地を37℃ 及び5% CO2条件下で培養した。
【0145】
実験例1-2 ガイドRNA製造
RNAはMEGA short script T7 kit (Ambion)を利用して製造者の指針により生体外に転写した。sgRNAに対するテンプレート(template)は2つの相補的なオリゴヌクレオチドの結合(annealing)及び伸長(extension)により製造した。
【0146】
それぞれの標的別sgRNAのガイドドメインを次の表1~表5に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
【表4】
【0151】
【表5】
【0152】
それぞれのガイドドメインに連結されたヌクレオチド(crRNA反復配列、リンカー(GAAA)、及びtracrRNA)の配列は、5’-GTTTTAGAGCTAGAAATAGCAAGTTAAAATAAGGCTAGTCCGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGCTTTTTTT-3’(配列番号143)である。
【0153】
前記sgRNAの全長配列を次の表6~表12に示す。
【0154】
【表6】
【0155】
【表7】
【0156】
【表8】
【0157】
【表9】
【0158】
【表10】
【0159】
【表11】
【0160】
【表12】
【0161】
実験例1-3 トランスフェクション(Transfection)
MSCは製造者の指針によりProgram EW-104を利用して、Amaxa P1 Primary Cell 4D Nucleofector kitでトランスフェクションした。具体的には、4×105個の細胞に生体外転写されたsgRNA (4μg)と共に予め混合されたCas9蛋白質(4μg)を常温で10分間インキュベートした後にトランスフェクションを行った。
【0162】
実験例1-4 ターゲットディープシーケンシング(Targeted deep sequencing)
Phusion polymerase (New England BioLabs)を利用して標的及び潜在的な非標的位置を包括する誘電体DNAセグメント(segment)を増幅した。Illumina MiSeqを利用して前記PCRアンプリコン産物をペアエンドシーケンシング(paired-end sequencing)分析を行った。
【0163】
実験例1-5 qRT-PCR
Total RNAサンプルはRNeasy Mini Kit(Qiagen)を利用して取得し、そのうち、1ug total RNAをReverTra Ace qPCR RT Kit(toyobo)を用いてcDNAを合成した。合成されたcDNAをPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)とStepOnePlus Real Time PCR system(Appled biosystems)を利用してquantitative RT-PCRを行った。PCR温度と時間とcycle 数は次の通りである。DNA denaturation 95℃ 10分、primer annealing 55-60℃ 30秒、polymerization 72℃, 30秒行い、40 cycle反復増幅した。Normalization controlではbeta-actin(ACTB)を使用した。
【0164】
実験例2 低酸素環境下で高い適応力を有する細胞の生存率(Viability)測定
実験例2-1 酸化ストレス環境下での生存率(Viability)測定
低酸素状況で頻繁に発生する酸化ストレス(reactive oxidative stress:ROS)からMSCの増殖能力変化を測定した。ROSを誘導するH2O2(hydrogen peroxide)を処理する24時間前96well plateの各wellに1x104の細胞で培養した。24時間後にserum free培地に500μMのH2O2を添加して培養した。H2O2処理24時間後に細胞の生存率を確認するためにCCK-8 cell proliferation kit (Dojindo、USA)を利用して細胞の生存率を測定した。
【0165】
前記実験結果を図16に示す。
【0166】
実験例2-2 SNAP (Reactive nitrogen species)に対する細胞生存率の測定
S-Nitroso-N-acetyl-DL-penicillamine (SNAP,N3398) (Sigma)の濃度による生存細胞を確認するためにCell Counting Kit-8 (CCK-8)を利用して各群の生存細胞を測定した。96-well plateに培養した細胞にSNAPを0~500μMの濃度で処理し、24h間培養した後、well当たりCCK-8溶液を10μLずつ添加して2h間反応させた。ELISA readerを利用して450 nmで吸光度を測定した。
【0167】
前記実験結果を図20に示す。
【0168】
実験例3 低酸素環境下で高い適応力を有する細胞の特徴確認
実験例3-1 実験対象細胞
実験対象細胞は、実験例1-1で培養したヒト骨髄由来の間葉系幹細胞に、実験例1-2で製造したhHIF1AN遺伝子操作用組成物を処理した後、ディープシーケンシングにより本実験例に適合する細胞をスクリーニングして使用した。本実験のコントロールではSHS231遺伝配列位置が操作された細胞(SHS231 KO)、及び/又はAAVS1遺伝配列位置が操作された細胞(AAVS1)を使用した。
【0169】
実験例3-2 BrdU細胞増殖分析
実験例3-1で選択された細胞を採取する前に1時間の間10uM BrdUを処理した。BrdUを処理した後PBSに希釈された3%ホルムアルデヒドで4℃で1時間固定させた後、採取して1% Triton X-100を室温で5分間処理した。再び細胞を遠心分離してPBSで洗浄し、4N HCLを10分間室温で処理して、DNA二重鎖を解いた後にPBSで洗浄した。室温で30分間blocking溶液(30% FBS、1% BSA、0.01% Tween 20 in PBS)を処理した後に採取した。PBSに100倍希釈したanti-BrdU mouse IgGを30分間4℃で反応させた。これをPBSに希釈された0.2% tween 20で洗って遠心分離した後に収集した細胞を最後にPBSで希釈してフローサイトメーターで分析した。
【0170】
前記BrdU細胞増殖分析結果を図21図22に示す。
【0171】
実験例3-3 FACS分析
実験例3-1で選択されたMSCをphosphate buffer saline (PBS)で2回洗浄後、0.05% trypsin-EDTAを用いて細胞を引き離して1,000 rpmで5分間遠心分離した。100ulのFACS staining buffeでcellを懸濁させて抗体を混合し、1時間、4℃で反応させ後、PBSで2回洗浄し、500ulのPBSで懸濁させてFACS 分析した。
【0172】
前記FACS分析結果を図23図25に示す。
【0173】
実験例3-4 Cytokine arrayを通したプロテオミクスデータの検証
Human XL Cytokine Array Kit (Cat.no.ARY022,R & D systems,USA)を用いてCytokine arrayを行った。実施方法はメーカーの指示に従った。アレイメンブレンを最初にアレイバッファー6の4 well multi-dishに浸し、rocking platform shakerで一時間ブロッキングした。ブロッキング後、前記アレイメンブレンは目的のサンプル量で2-8℃でrocking platform shaker内で一晩(overnight)培養した。その後、前記アレイメンブレンは1X洗浄バッファーで3回10分間洗浄した。その後、ウェル毎に1.5 mLの希釈された検出抗体カクテルを添加して、shakerで1時間培養した。その後、前記アレイメンブレンは1X洗浄バッファーで再び3回洗浄した。洗浄後、前記アレイメンブレンは2 mLの1X Streptavidin-HRPと共に30分間培養した。最後に、Chemi Reagent mix 1 mLを各メンブレインに均等に塗布し、オートラジオグラフィー(autoradiography)を実施した。X-rayフィルムのピクセル密度はイメージ分析ソフトウェア(Image J)を用いてスキャン及び分析した。
【0174】
前記分析結果を図28に示す。
【0175】
実験例3-5 PDL(Population Doubling Level),PDT(Population Doubling Time)の確認
細胞の成長を確認するために、継代前、後の細胞数を測定した。採取細胞数(Ct)を播種細胞数(Ci)数で除した値をGrowth rateとし、PDL(N)を以下の式で計算した。
上記の培養時間(hr)をPDLで除した値をPopulation Doubling time (PDT)で示した。
【0176】
前記PDL,PDT確認結果を図26図27に示す。
【0177】
実験例4結果 再現実験
実験例4-1結果 再現実験
実験例3結果の再現性を確認するために、新しいMSC stockから実験例1~実験例3の実験を繰り返した。繰り返した実験結果を図29図30に示す。
【0178】
実験例4-2 Western blot分析
低酸素環境を誘導するために、幹細胞(MSC)は1%のO2濃度を維持する低酸素チャンバーで培養した。Western blotを実施するために、前記MSCを収集し、以後PBSを含むlysis buffer、1% Triton X-100、及びPhosphatase Inhibitor Cocktail II、III、及びcomplete protease inhibitor混合物で処理し。前記処理後の溶解物は100,000g、4℃で20分間遠心分離した。前記遠心分離結果の上清液(nonionic dtergent-insoluble)を収集した。全溶解物の場合、細胞を回収し、PBSで2回洗浄し、Pierce RIPA buffer (150 mM NaCl、50 mM Tris,pH 8.0,1% NP40,1% SDS,and 0.5% sodium deoxycholate,and a protease inhibitor mixture;Thermo Scientific)で氷中で30分間溶解した。蛋白質濃度はBCA protein assay kit (Thermo Scientific)を用いて測定した。同量の蛋白質(10-20μg)を8%~16% SDS-PAGEに溶解し、ニトロセルロース(nitrocellulose,NC)メンブレインに移した。TBST (Tris-buffer solution-Tween20;10 mM Tris-HCl [pH 7.6],150 mM NaCl,and 0.05% Tween-20)で洗浄した後、前記メンブレインは5%脱脂乳(skim milk)で1時間遮断し、適切な1次抗体と共に供給業者が推奨する希釈液で培養した。前記メンブレインをTBSTで洗浄し、前記1次抗体をHRP-コンジュゲートされた2次抗体(HRP-conjugated secondary antibody)として検出した。Immunoblot信号はChemiluminescence (Pierce,USA)で視角化された。
【0179】
前記Western blot結果を図31に示す。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本明細書では、低酸素条件で高い適応力を有する細胞及びその製造方法を提供する。前記低酸素条件で高い適応力を有する細胞は細胞治療剤として用いることができる。前記低酸素条件で高い適応力を有する細胞の製造方法により産業上利用が可能な低酸素条件で高い適応力を有する細胞を製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
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図26
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図28
図29
図30
図31
【配列表】
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