(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160307
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、その硬化体及びエポキシ樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/06 20060101AFI20241106BHJP
C07D 303/40 20060101ALI20241106BHJP
C07D 303/44 20060101ALI20241106BHJP
C08G 59/20 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C08G59/06
C07D303/40
C07D303/44
C08G59/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130823
(22)【出願日】2024-08-07
(62)【分割の表示】P 2023541523の分割
【原出願日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2022048636
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 世吾
(72)【発明者】
【氏名】江口 勇司
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バイオマスから得ることができる化合物でありながらも、容易に製造でき、かつ熱的性能も良好なエポキシ樹脂、及びその製造方法を提供する
【解決手段】以下の式(1)で表される骨格を有するエポキシ樹脂。
R
4及びR
5は、水素、アルコキシ基、-OGであり、Gはグリシジル基を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表される骨格を有するエポキシ樹脂。
【化1】
なお、式(1)において、R
4及びR
5はそれぞれ独立に、水素原子、アルコキシ基、及び-OGのいずれかである。*は他の構造との結合部位となってもよい。Gはグリシジル基を表す。
【請求項2】
以下の式(1-1)で表される構造を有する請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【化2】
なお、式(1-1)において、R
1及びR
3は、それぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基、若しくはグリシジル基であり、R
2はヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。各ベンゼン環においてそれぞれ独立に、R
4及びR
5のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH
3、及び-OGのいずれかである。nは0~100の整数である。
【請求項3】
以下の式(1-2)で表される構造を有する請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【化3】
なお、式(1-2)において、R
1及びR
3は、それぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基、若しくはグリシジル基であり、R
2はヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。nは0~100の整数である。
【請求項4】
R1及びR3がグリシジル基であり、nが0である請求項2又は3に記載のエポキシ樹脂。
【請求項5】
R1及びR3が炭素数1~6のアルキル基であり、nが0である請求項2又は3に記載のエポキシ樹脂。
【請求項6】
R1及びR3がメチル基である請求項2又は3に記載のエポキシ樹脂。
【請求項7】
以下の式(1-3)で表される構造を有する請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【化4】
式(1-3)の各ベンゼン環において、それぞれ独立にR
4及びR
5のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH
3、及び-OGのいずれかである。また、R
6が水素原子、-COOG、及び-COOR
1のいずれかであり、R
7が水素原子、-COOG、及び-COOR
3のいずれかである。R
1及びR
3はアルキル基である。
【請求項8】
式(1)で表される骨格が、バイオマス由来である、請求項1~3、及び7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【請求項9】
請求項1~3、及び7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂を硬化させて得られた硬化体。
【請求項10】
以下の式(2)に示す骨格を有する化合物と、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る、エポキシ樹脂の製造方法。
【化5】
なお、式(2)において、R
14及びR
15はそれぞれ独立に、水素原子、アルコキシ基、及び-OHのいずれかである。*は他の構造との結合部位となってもよい。
【請求項11】
以下の式(2-1)に示す化合物と、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る、請求項10に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【化6】
上記式(2-1)において、R
11、R
13は、それぞれ独立に水素原子、又はヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基である。R
12は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。各ベンゼン環において、それぞれ独立にR
14及びR
15のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH
3、及び-OHのいずれかである。mは0~100の整数である。
【請求項12】
以下の式(2-2)に示す化合物と、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る、請求項10に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【化7】
上記式(2-2)において、R
11、R
13は、それぞれ独立に水素原子、又はヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基である。R
12は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。mは0~100の整数である。
【請求項13】
以下の式(2-3)に示す化合物と、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る、請求項10に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【化8】
式(2-3)の各ベンゼン環において、それぞれ独立にR
14及びR
15のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH
3、及び-OHのいずれかである。R
16が水素原子又は-COOR
11であり、かつR
17が水素原子又は-COOR
13である。R
11、R
13は、それぞれ独立に水素原子、又はアルキル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルキシル酸エステル構造を有するエポキシ樹脂、及びその硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
石油は、限りある資源であること、また、二酸化炭素の排出などの地球規模の環境問題が生じることから、代替資源の利用が近年求められている。石油の代替資源としては、バイオマスの利用が注目されている。バイオマスを利用した樹脂としては、ポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸が商業化しており、特にEUを中心とした需要拡大に生産量を増加している。
【0003】
バイオマスとしては、取扱い性の観点などから可食性のバイオマスが主に利用されているが、可食性のバイオマスは食物としての利用と競合するため非可食性のバイオマスを利用することが求められつつあり、様々な研究がなされている。例えば、非特許文献1では、リグニンの解重合等により得ることが可能なフェルラ酸を用いて得られる二官能のエポキシ樹脂が、従来のビスフェノールA型エポキシ樹脂よりも高いガラス転移温度と優れた引張強度を示すことが開示されており、さらにフルフリルアルコールのグリシジルエーテルを複合化させることで性能が向上することが示されている。
【0004】
また、近年、微生物により有価物を生産することも検討されつつあり、例えば、p-クマル酸などのヒドロキシケイ皮酸構造を有する化合物をL-チロシンなどのバイオマス由来の化合物から微生物を使用して合成することが知られている。一般的に微生物反応は、高効率の反応でありながら、温和な環境で実施できる。
【0005】
微生物により合成可能な化合物は、樹脂製造に利用することも検討されている。例えば、特許文献1では、p-ヒドロキシケイ皮酸にエピクロルヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を合成し、得られたエポキシ樹脂をグリシジルフルフリルエーテルとともに、硬化剤により硬化することで、高いガラス転移温度、及び優れた機械強度を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jiale Ye et al. “High-performance bio-based epoxies from ferulic acid and furfuryl alcohol: synthesis and properties”, Green Chem., 2021,23, 1772-1781
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、リグニンなどの非可食性のバイオマス由来の成分は分解性が低いことから、原料となる化合物を効率よく得ることが難しく、エポキシ樹脂を合成するためのプロセスが複雑になりやすい。また、バイオマスから得られる化合物は、一般的に石油化学品由来の重合物に比べると性能が劣るという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、バイオマスから得ることができる化合物でありながらも、容易に製造でき、かつ熱的性能も良好なエポキシ樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、微生物による生産が容易なパラクマル酸の二量体であるジヒドロキシトルキシル酸から得られるエポキシ樹脂が上記課題を解決しうることを見いだし、本発明を完成させた。本発明は、以下の[1]~[13]を提供する。
[1]以下の式(1)で表される骨格を有するエポキシ樹脂。
【化1】
なお、式(1)において、R
4及びR
5はそれぞれ独立に、水素原子、アルコキシ基、及び-OGのいずれかである。*は他の構造との結合部位となってもよい。Gはグリシジル基を表す。
[2]以下の式(1-1)で表される構造を有する上記[1]に記載のエポキシ樹脂。
【化2】
なお、式(1-1)において、R
1及びR
3は、それぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基、若しくはグリシジル基であり、R
2はヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。各ベンゼン環においてそれぞれ独立に、R
4及びR
5のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH
3、及び-OGのいずれかである。nは0~100の整数である。
[3]以下の式(1-2)で表される構造を有する上記[1]に記載のエポキシ樹脂。
【化3】
なお、式(1-2)において、R
1及びR
3は、それぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基、若しくはグリシジル基であり、R
2はヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。nは0~100の整数である。
[4]R
1及びR
3がグリシジル基であり、nが0である上記[2]又は[3]に記載のエポキシ樹脂。
[5]R
1及びR
3が炭素数1~6のアルキル基であり、nが0である上記[2]又は[3]に記載のエポキシ樹脂。
[6]R
1及びR
3がメチル基である上記[2]又は[3]に記載のエポキシ樹脂。
[7]以下の式(1-3)で表される構造を有する上記[1]に記載のエポキシ樹脂。
【化4】
式(1-3)の各ベンゼン環において、それぞれ独立にR
4及びR
5のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH
3、及び-OGのいずれかである。また、R
6が水素原子、-COOG、及び-COOR
1のいずれかであり、R
7が水素原子、-COOG、及び-COOR
3のいずれかである。R
1及びR
3はアルキル基である。
[8]式(1)で表される骨格が、バイオマス由来である、上記[1]~[7]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
[9]上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂を硬化させて得られた硬化体。
[10]以下の式(2)に示す骨格を有する化合物と、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る、エポキシ樹脂の製造方法。
【化5】
なお、式(2)において、R
14及びR
15はそれぞれ独立に、水素原子、アルコキシ基、及び-OHのいずれかである。*は他の構造との結合部位となってもよい。
[11]以下の式(2-1)に示す化合物と、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る、上記[10]に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【化6】
上記式(2-1)において、R
11、R
13は、それぞれ独立に水素原子、又はヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基である。R
12は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。各ベンゼン環において、それぞれ独立にR
14及びR
15のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH
3、及び-OHのいずれかである。mは0~100の整数である。
[12]以下の式(2-2)に示す化合物と、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る、上記[10]に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【化7】
上記式(2-2)において、R
11、R
13は、それぞれ独立に水素原子、又はヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基である。R
12は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。mは0~100の整数である。
[13]以下の式(2-3)に示す化合物と、エピハロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂を得る、上記[10]に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【化8】
式(2-3)の各ベンゼン環において、それぞれ独立にR
14及びR
15のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH
3、及び-OHのいずれかである。R
16が水素原子又は-COOR
11であり、かつR
17が水素原子又は-COOR
13である。R
11、R
13は、それぞれ独立に水素原子、又はアルキル基である。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、バイオマスから得ることができる化合物でありながらも、容易に製造でき、かつ熱的性能も良好なエポキシ樹脂を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1において合成された4,4’-ジヒドロキシトルキシル酸ジメチルの
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図2】実施例1において合成されたエポキシ樹脂の
1H-NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<エポキシ樹脂>
以下、本発明について実施形態を用いてさらに詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂は、以下の式(1)で表される骨格を有する。以下の式(1)の骨格を有するエポキシ樹脂は、バイオマスから得ることができる化合物でありながらも、容易に製造でき、かつ熱的性能も良好である。
【0014】
【化9】
式(1)において、R
4及びR
5はそれぞれ独立に、水素原子、アルコキシ基、及び-OGのいずれかである。*は他の構造との結合部位となってもよい。Gはグリシジル基を表す。
【0015】
上記式(1)において、R4及びR5のアルコキシ基は、例えば炭素数1~4のアルコキシ基であればよく、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基などが挙げられ、これらの中でもメトキシ基(-OCH3)が好ましい。
式(1)において、各ベンゼン環においてR4及びR5は、互いに同一であってもよいし、異なってもよいが、各ベンゼン環においてそれぞれ独立に、R4及びR5のうちいずれか一方が水素原子で、他方が水素原子、アルコキシ基、又は-OGのいずれかであることが好ましい。なお、一分子中においてR4及びR5のうちの他方は、同じ基であることが好ましい。
R4及びR5のうちいずれか一方を水素原子とすると、後述する通りクマル酸又はクマル酸から酵素を用いた反応により得られた化合物により容易に製造することができる。
【0016】
*は、結合部位となる場合、連結基(例えば、後述する-COO-R2-COO-)を介して、別の式(1)に示す骨格に結合されてもよいし、他の官能基(例えば、後述する-COOR1,-COOR3で示される官能基)に結合されてもよい。また、結合部位とならない場合には、2つの水素原子に結合する部位となるとよい。
【0017】
本発明のエポキシ樹脂は、以下の式(1-1)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【化10】
式(1-1)において、R
1及びR
3は、それぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基、若しくはグリシジル基であり、R
2はヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。nは0~100の整数である。Gはグリシジル基を表す。
また、R
4及びR
5は、上記と同一である。したがって、各ベンゼン環においてそれぞれ独立に、R
4及びR
5のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH
3、及び-OGのいずれかであることが好ましい。なお、一分子中においてR
4及びR
5のうちの他方は、全て同じ基であることが好ましい。
【0018】
また、式(1)、(1-1)において、バイオマスから容易に合成できる観点から、R4及びR5の両方が水素原子であることが好ましい。したがって、本発明のエポキシ樹脂は、以下の式(1-2)で表される構造を有することが好ましい。
【0019】
【化11】
なお、式(1-2)において、R
1及びR
3は、それぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基、若しくはグリシジル基であり、R
2はヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。nは0~100の整数である。Gはグリシジル基を表す。
【0020】
上記式(1-1)及び(1-2)それぞれにおいて、R1及びR3における炭素数1~20の1価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香環を有する芳香族炭化水素基であってもよい。これらはヘテロ原子を有してもよいし、有さなくてもよい。また、ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、ハロゲン原子及びリン原子が挙げられる。ヘテロ原子としては、特に限定されないが、例えば、エーテル結合、エステル結合、ケト基、アルコシキ基などを構成する酸素原子、スルホニル基、チオール結合などを構成する硫黄原子、炭化水素基の水素原子に置換されるハロゲン原子などが挙げられる。
1価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~3である。
【0021】
R1及びR3における脂肪族炭化水素基は、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれでもよく、アルキル基、アルケニル基などが挙げられる。R1及びR3における1価の炭化水素基は、製造が容易であり、熱安定性なども向上しやすいことから、アルキル基であることが好ましい。アルキル基は、直鎖であってもよいし、分岐構造を有してもよいし、環状構造を有してもよい。具体的なアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、及び各種オクチル基等が挙げられる。なお、「各種」とは、直鎖(n-)に加え、sec-、tert-、iso-などを含む各種異性体を意味し、以下も同様である。また、アルキル基としては、シクロヘキシル基などの環状構造を有するものでもよい。
R1及びR3におけるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素数1~10が好ましく、炭素数1~6がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましく、いずれもがメチル基であることが最も好ましい。
【0022】
式(1-1)及び(1-2)それぞれにおいて、nは上記の通り0~100であるが、好ましくは0~50、より好ましくは0~10、さらに好ましくは0~5、特に好ましくは0である。nの数を小さくすることで、エポキシ樹脂が高分子量化することを防止でき、品質のばらつきが抑制され、取扱い性なども良好となる。
【0023】
R2における炭素数2~20の2価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香環を有する芳香族炭化水素基であってもよい。これらはヘテロ原子を有してもよいし、ヘテロ原子を有さなくてもよい。ヘテロ原子の詳細はR1、R3において述べた通りである。
R2における脂肪族炭化水素基は、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれでもよいが、飽和炭化水素基が好ましい。R2における飽和炭化水素基は、直鎖状であってもよいし、分岐構造を有してもよいし、環状構造を有してもよい。上記の通り飽和炭化水素基はヘテロ原子を有してもよいし、有さなくてもよいが、有さないことが好ましい。R2における2価の炭化水素基における炭素数は、好ましくは2~10、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4である。
【0024】
また、R2におけるヘテロ原子を有してもよい脂肪族炭化水素基は、上記以外にヒドロキシプロピレン基であることも好ましい。ヒドロキシプロピレン基とは、ヒドロキシプロパンから、炭素原子に結合する2個の水素原子を除去した官能基であり、ヒドロキシプロパンジイル基とも呼ばれる。ヒドロキシプロピレン基は、後述するエピハロヒドリン由来の構造単位である。
ヒドロキシプロピレン基は、除去する水素原子の位置、及び水酸基の位置は任意であるが、典型的には、2-ヒドロキシプロパン-1,3-ジイル基(-CH2CHOHCH2-)である。式(1-1)及び(1-2)それぞれに示す化合物は、R2が2-ヒドロキシプロパン-1,3-ジイル基であることで、後述するエピハロヒドリンと、式(2)に示す化合物(特に式(2-4)~(2-6)に示す化合物)から、容易に合成することができる。
なお、一分子中に複数のR2がある場合、一分子中の複数のR2は、互いに同一であってもよいし、異なってもよい。R2は、上記の中ではヒドロキシプロピレン基であることが好ましい。
【0025】
本発明において、式(1-1)及び(1-2)それぞれで示す構造は、R1及びR3の両方が、グリシジル基あることが好ましい。R1及びR3の両方が、グリシジル基あるエポキシ樹脂は、架橋密度が高いエポキシ硬化体を得やすくなる。R1及びR3の両方がグリシジル基である場合も、式(1-1)及び(1-2)それぞれに示す構造を有するエポキシ樹脂において、R2、nは上記の通りである。したがって、R1及びR3の両方がグリシジル基あるエポキシ樹脂は、nが0であることが特に好ましい。
【0026】
本発明において、式(1-1)及び(1-2)それぞれを示す化合物は、R1及びR3の両方が、ヘテロ原子を有してもよい1価の炭化水素基である態様も好ましい。本態様に係る式(1-1)及び(1-2)それぞれに示す構造を有するエポキシ樹脂において、R2、nは上記の通りであり、R1及びR3におけるヘテロ原子を有してもよい1価の炭化水素基の好ましい態様も上記の通りである。したがって、本態様において、R1及びR3は、いずれもがアルキル基であることが好ましく、アルキル基の炭素数は1~10が好ましく、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~3であり、最も好ましくはR1及びR3の両方がメチル基である。そして、本態様においても、nは上記のとおり0であることが特に好ましい。本態様におけるエポキシ樹脂は、比較的柔軟性に優れるエポキシ硬化体を得やすくなる。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂は、上記のとおりnが0であることが好ましく、したがって、以下の式(1-3)に示す構造を有する化合物であることも好ましい。
【化12】
式(1-3)において、R
6は水素原子又は-COOR
1であり、かつR
7は水素原子又は-COOR
3である。R
1、R
3、R
4及びR
5は上記の通りである。
【0028】
R4及びR5の好ましい態様の詳細は、上記のとおりである。したがって、式(1-3)において、各ベンゼン環においてそれぞれ独立に、R4及びR5のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH3、及び-OGのいずれかであることが好ましく、この際、一分子中においてR4及びR5の他方は、同じ官能基であることがより好ましい。そして、さらに好ましくはR4及びR5の両方が水素原子である。
また、R1及びR3の好ましい態様も上記の通りである。したがって、式(1-3)においても、R6が水素原子、-COOG、及び-COOR1のいずれかであり、R7が水素原子、-COOG、及び-COOR3のいずれかであり、R1及びR3はアルキル基であることが好ましい。中でも、R6及びR7は、いずれもが水素原子、-COOG、又は-COORであることがより好ましい。
【0029】
上記式(1-3)の構造を示すエポキシ樹脂としては、以下の式(1-4)~(1-10)で表される構造を有する化合物が好ましく、中でも式(1-4)で表される構造を示す化合物がより好ましい。以下の式(1-4)~(1-10)で表される構造を有する化合物は、クマル酸、又はクマル酸を酵素変換反応して得られるフェルラ酸又はカフェ酸、クマル酸を酵素変換し、且つ脱炭素反応をすることで得られる4-ビニルフェノールから容易に合成することができるので、バイオマス原料から容易に製造することができる。
【0030】
【化13】
(なお、式(1-8)、(1-9)、及び(1-10)において、Rはアルキル基である。アルキル基の詳細は上記の通りである。)
【0031】
<エポキシ樹脂の製造方法>
本発明のエポキシ樹脂は、以下の式(2)で表される骨格を有する化合物(以下、原料化合物ともいう)と、エピハロヒドリンを反応させることで合成することができる。
【化14】
なお、式(2)において、R
14及びR
15はそれぞれ独立に、水素原子、アルコキシ基、及び-OHのいずれかである。*は他の構造との結合部位となってもよい。
上記式(2)において、R
14及びR
15のアルコキシ基は、上記したR
4及びR
5におけるアルコキシ基と同じであり、好ましくはメトキシ基である。
式(2)において、各ベンゼン環においてR
14及びR
15は、互いに同一であってもよいし、異なってもよいが、各ベンゼン環においてそれぞれ独立に、R
14及びR
15のうちいずれか一方が水素原子で、他方が水素原子、メトキシ基などのアルコキシ基、-OHのいずれかであることが好ましい。なお、一分子中においてR
14及びR
15のうちの他方は、同じ基であることが好ましい。
【0032】
【0033】
上記式(2-1)において、R11、R13は、それぞれ独立に水素原子、又はヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基である。R12は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基である。ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基、及びヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基の詳細は、上記の通りである。ただし、ヘテロ原子を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基は、通常は後述するジヒドロキシ化合物由来の構造単位であり、したがって、通常はヒドロキシプロピレン基以外であり、例えば、ヘテロ原子を有しない飽和炭化水素基や、ヘテロ原子としてエーテル結合を有する飽和炭化水素基などが好ましい。
R14及びR15は、上記で述べたとおりである。
式(2-1)において、mは0~100の整数であり、好ましくは0~50、より好ましくは0~10、さらに好ましくは0~5、特に好ましくは0である。
【0034】
また、式(2)、(2-1)において、R14及びR15の両方が水素原子であることが好ましい。したがって、原料化合物は、以下の式(2-2)で表される構造を有することが好ましい。
【0035】
【化16】
式(2-2)に示す化合物において、R
11、R
12、R
13及びmは、上記で述べたとおりである。
【0036】
また、本発明の原料化合物は、上記のとおりmが0であることが好ましく、したがって、以下の式(2-3)に示す構造を有する化合物であることも好ましい。
【化17】
式(2-3)において、R
16は水素原子又は-COOR
11であり、かつR
17は水素原子又は-COOR
13である。R
11、R
13、R
14及びR
15は上記の通りである。
【0037】
R14及びR15の好ましい態様は、上記のとおりである。したがって、式(2-3)において、各ベンゼン環においてそれぞれ独立に、R14及びR15のうち一方が水素原子であり、他方が水素原子、-OCH3、及び-OHのいずれかであることが好ましく、この際、R14及びR15の他方は、同じ官能基であることがより好ましい。そして、さらに好ましくはR14及びR15の両方が水素原子である。
また、R11及びR13の好ましい態様も上記の通りである。そして、式(2-3)においても、R16は水素原子又は-COOR11であり、かつR17は水素原子又は-COOR13である。R11、R13は、それぞれ独立に水素原子、又はアルキル基である。中でも、R16及びR17は、いずれもが水素原子、-COOH、又は-COOR(Rはアルキル基)であることがより好ましい。
【0038】
原料化合物は、より具体的には、以下の式(2-4)に示すジヒドロキシトルキシル酸、又はそのエステル化合物であることが好ましい。
【化18】
【0039】
上記式(2-4)に示すジヒドロキシトルキシル酸は、パラクマル酸二量体であり、パラクマル酸を二量化することで得ることができる。パラクマル酸を二量化する方法は、特に限定されないが、紫外線照射などの光照射により二量化する方法が挙げられる。パラクマル酸は、UV照射によりパラクマル酸のベータ位にある二重結合が開裂し、その分子同士が再結合することで二量化され、上記式(2-4)に示す構造を有するパラクマル酸二量体を得ることができる。
【0040】
また、原料化合物は、以下の式(2-5)~(2-7)のいずれかに示す化合物、又は(2-5)又は(2-6)に示す化合物のエステル化合物であってもよい。以下の式(2-5)~(2-7)の化合物はそれぞれ、フェルラ酸、カフェ酸及び4-ビニルフェノールを二量化することで得ることができるものである。二量化する方法は、特に限定されないが、パラクマル酸と同様に、紫外線照射などの光照射により二量化する方法が挙げられる。フェルラ酸、カフェ酸及び4-ビニルフェノールは、クマル酸を酵素変換反応して得られ、或いは、クマル酸を酵素変換し、且つ脱炭素反応をすることで得られるので、式(2-4)に示すジヒドロキシトルキシル酸と同様に、バイオマス原料から容易に製造できる。
【化19】
【0041】
上記した式(2-4)に示すジヒドロキシトルキシル酸のエステル化合物としては、好ましくは上記のジヒドロキシトルキシル酸をモノヒドロキシ化合物によりエステル化した以下の式(2-8)に示す構造を有する化合物が挙げられる。
【化20】
【0042】
上記式(2-8)において、R18、R19は、それぞれ独立にヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基である。ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の炭化水素基の詳細は、上記の通りである。したがって、R18、R19は、それぞれ独立にアルキル基であることが好ましく、中でもより好ましくは炭素数1~10のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1~6のアルキル基、よりさらに好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、R18、R19は、最も好ましくはいずれもメチル基である。
【0043】
また、上記した式(2-5)又は式(2-6)に示す化合物のエステル化合物としては、好ましくは式(2-9)に示す構造を有する化合物、式(2-10)に示す構造を有する化合物が挙げられる。
【化21】
上記式(2-9)、(2-10)において、R
18、R
19は、上記式(2-8)で述べたとおりである。
【0044】
また、式(2-4)に示すパラクマル酸のエステル化合物としては、上記のジヒドロキシトルキシル酸をジヒドロキシ化合物、又はジヒドロキシ化合物及びモノヒドロキシ化合物によりエステル化した化合物であってもよい。このように少なくともジヒドロキシ化合物によりエステル化した化合物は、式(2-1)又は式(2-2)においてmが1以上となる化合物である。
ジヒドロキシ化合物及びモノヒドロキシ化合物によりエステル化する場合、ジヒドロキシトルキシル酸をジヒドロキシ化合物によりエステル化した後に、モノヒドロキシ化合物によりさらにエステル化してもよいし、モノヒドロキシ化合物によりエステル化した後、ジヒドロキシ化合物によりエステル化してもよいし、ジヒドロキシ化合物によるエステル化と、モノヒドロキシ化合物によるエステル化を並行して行ってもよい。
ジヒドロキシ化合物及びモノヒドロキシ化合物によりエステル化する場合、式(2-1)又は(2-2)においてmが1以上となり、かつR11、R13のうち少なくとも一方がヘテロ原子を有してもよい1価の炭化水素基となるが、R11、R13の両方がヘテロ原子を有してもよい1価の炭化水素基であることが好ましい。
【0045】
ジヒドロキシトルキシル酸をヒドロキシ化合物(モノヒドロキシ化合物、ジヒドロキシ化合物、又はこれらの両方)によりエステル化する方法は、特に限定されないが、カルボン酸とヒドロキシ化合物を酸触媒で縮合させる方法、ジヒドロキシトルキシル酸を酸塩化物などの酸ハロゲン化物にしてヒドロキシ化合物と反応させる方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
上記エステル化に使用するモノヒドロキシ化合物としては、芳香族モノヒドロキシ化合物でもよいし、脂肪族モノヒドロキシ化合物であってもよいが、脂肪族モノヒドロキシ化合物が好ましく、中でもアルキルモノアルコールがより好ましい。アルキルモノアルコールは、直鎖アルコールであってもよいが、分岐構造を有してもよいし、環状構造を有していてもよい。
アルキルモノアルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、各種ペンタノール、各種ヘキサノール、各種へプタノール、各種オクタノール、各種ノナノール、各種デカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、シクロヘキサンメタノールなどが挙げられ、これらの中ではメタールが特に好ましい。
【0047】
また、エステル化に使用するジヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物でもよいし、脂肪族ジヒドロキシ化合物であってもよいが、脂肪族ジヒドロキシ化合物が好ましく、中でもアルキルジオールがより好ましい。脂肪族ジヒドロキシ化合物は、直鎖アルコールであってもよいが、分岐構造を有してもよいし、環状構造を有していてもよい。
脂肪族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらの中では、エチレングリコールが好ましい。
【0048】
また、式(2-5)又は式(2-6)に示す化合物のエステル化合物としては、上記の式(2-5)又は式(2-6)に示す化合物をジヒドロキシ化合物、又はジヒドロキシ化合物及びモノヒドロキシ化合物によりエステル化した化合物であってもよい。このように少なくともジヒドロキシ化合物によりエステル化した化合物は、式(2-1)又は式(2-2)においてmが1以上となる化合物である。
式(2-5)又は式(2-6)に示す化合物をジヒドロキシ化合物、又はジヒドロキシ化合物及びモノヒドロキシ化合物によりエステル化した化合物の詳細は、式(2-4)に示す化合物の場合と同様であるので、その説明は省略する。
【0049】
エポキシ樹脂の合成において使用できるエピハロヒドリンとしては、エピフルオロヒドリン、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、及びエピヨードヒドリンが挙げられ、これらの中では反応性及び経済性の点でエピクロルヒドリンが好ましい。
【0050】
上記の通り、本発明のエポキシ樹脂は、式(2)に示す骨格を有する化合物と、エピハロヒドリンを反応させることで得ることができる。エポキシ樹脂は、式(2)に示す骨格を有する化合物と、エピハロヒドリンとは例えば反応器において混合させて反応させるとよい。
本製造方法では、反応系における式(2)に示す骨格を有する化合物に対する、エピハロヒドリンの添加量は、1当量以上とするとよい。エピハロヒドリンの添加量を1当量以上とすることで、式(1)に示す化合物を合成することができる。なお、当量とは、式(2)に示す骨格を有する化合物が有する官能基(水酸基及びカルボキシ基)に対する、モル当量であり、以下も同様である。
また、nの数を小さくし、nが小さい、好ましくはnが0の式(1)に示す化合物を高収率で合成するする観点から、上記エピハロヒドリンの添加量は大過剰とすることが好ましい。具体的には、2当量以上とすることが好ましく、より好ましくは5当量以上であり、さらに好ましくは8当量以上である。
また、反応後に未反応のエピハロヒドリンを除去しやすくし、また、生産効率を高める観点から、上記エピハロヒドリンの添加量は、式(2)に示す化合物の官能基に対して、好ましくは50当量以下、より好ましくは30当量以下、さらに好ましくは20当量以下、よりさらに好ましくは15当量以下である。
【0051】
原料化合物として、式(2-1)、式(2-2)又は式(2-3)(ただし、式(2-3)においては、R16、R17がそれぞれ-COOR11、-COOR13である場合)に示す化合物を使用し、R11、R13が水素原子であり(特に、原料として式(2-4)~(2-6)のいずれかの化合物を使用するとき)、nの数を大きくする場合には、エピハロヒドリンの添加量は、少なくしてもよく、例えば2当量以下としてもよい。R11、R13が水素原子である場合に、エピハロヒドリンの添加量を少なくすると、式(2)に示す骨格を有する化合物と、エピハロヒドリンのオリゴマー化が進みやすくなり、nの数が大きい式(1-1)又は式(1-2)に示す化合物が得やすくなる。
【0052】
上記式(2)に示す骨格を有する化合物と、エピハロヒドリンの反応は、触媒存在下で行うことが好ましい。触媒としては、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。触媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。触媒の添加量は、式(2)に示す骨格を有する化合物1モルに対して、好ましくは0.01~2モル、より好ましくは0.05~1モル、さらに好ましくは0.1~0.5モルである。
【0053】
上記反応は、溶媒存在下でも実施してもよいが、無溶媒で実施してもよい。式(2)に示す骨格を有する化合物は、エピハロヒドリンを上記のとおり大過剰とすることで、エピハロヒドリンにより適度に希釈され、無溶媒で実施し、または溶媒を少量で実施しても適切に上記反応を進行させることができる。反応溶媒としては、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒などが利用可能である。
上記触媒存在下における反応は、例えば40~150℃、好ましくは60~120℃で、例えば30分~24時間、好ましくは2~12時間行う。
【0054】
また、本製造方法では、上記触媒に加えて反応系に塩基性化合物を添加することが好ましい。塩基性化合物を添加することで、脱ハロゲン化水素が進行しやすくなり、目的のエポキシ樹脂の収率を向上させることが可能になる。塩基性化合物は、上記した触媒存在下で一定時間反応した後に、反応系に添加し、さらに一定時間反応させることが好ましい。塩基性化合物添加後の反応は、例えば-10~30℃、好ましくは0~15℃で、例えば10分~24時間、好ましくは30分~12時間行う。
【0055】
使用される塩基性化合物としては、塩基として働く化合物であれば特に限定されない。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リチウムアルコキシド、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等の金属塩基が挙げられる。中でも、経済性及び入手容易性から、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくともいずれかを使用することが好ましい。
塩基性化合物は特に限定されないが、例えば水溶液として反応系に添加されてもよい。
前記塩基性化合物の添加量は、式(2)に示す骨格を有する化合物が有する官能基に対して、例えば1当量より多くすればよく、好ましくは1.5~20当量であり、より好ましくは2~15当量である。
【0056】
本製造方法において、目的物であるエポキシ樹脂の精製は、エピハロヒドリンの留去、必要に応じて使用される反応溶媒の留去、水と疎水性溶媒を用いた抽出操作による目的のエポキシ樹脂と水溶性化合物の分離、抽出溶媒の留去、蒸留等の一般的な単位操作、又はこれらを適宜組み合わせて行うことができる。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂は、少なくとも一部の原料がバイオマスから製造可能であり、バイオ率の高いエポキシ樹脂を得ることができる。具体的には、式(2-4)で示すジヒドロキシトルキシル酸は、バイオマス由来の化合物であるL-チロシンなどから微生物合成によりパラクマル酸を得て、パラクマル酸を上記の通り光二量化することで得ることができる。同様に、式(2-5)~(2-7)に示す化合物も上記の通りバイオマスから製造可能である。したがって、本発明の式(1)で示す骨格は、バイオマス由来、特に微生物により合成した化合物由来とすることができる。中でも、式(1-2)におけるジヒドロキシトルキシル酸由来の構造単位をバイオマス由来、特に微生物により合成した化合物由来とすることが好ましい。
また、微生物合成によりパラクマル酸を得る方法は、立体選択性があり、高収率でパラクマル酸を得ることができ、また、その後の二量化及びエポキシ化も比較的簡便であるので、本発明の式(1)で示す骨格を有するエポキシ樹脂は、バイオマスから得ることができる化合物でありながらも容易に製造できる。
【0058】
さらに、式(1-1)~(1-3)に示す化合物は、R1及びR3がモノヒドロキシ化合物由来であり、また、R2がジヒドロキシ化合物由来であることがあるが、原料となるモノヒドロキシ化合物、及びジヒドロキシ化合物をバイオマス由来とすることが好ましい。これらをバイオマス由来とすることでより一層バイオ率の高いエポキシ樹脂を得ることができる。具体的には、モノヒドロキシ化合物としては、バイオマス由来のメタノール、エタノール、ブタノールが知られており、また、ジヒドロキシ化合物としてもバイオマス由来のエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールなどが知られており、これらを使用することで、エポキシ樹脂のバイオ率をより一層向上させることができる。
【0059】
<硬化体>
本発明の硬化体(以下、「エポキシ硬化体」ともいう)は、上記のエポキシ樹脂を硬化させて得られるものである。エポキシ硬化体は、一般的に硬化剤により硬化されるとよく、したがって、エポキシ樹脂と硬化剤とを含む硬化性組成物の硬化体であるとよい。
エポキシ硬化体において使用できる硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させることが可能なものであれば特に制限はないが、エポキシ樹脂と反応して3次元網目構造(ネットワークポリマー)を形成する化合物が好ましい。
具体的な硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ダイマー又はトリマー酸とポリアミンの縮合物であるポリアミド樹脂類、三フッ化ホウ素-アミン錯体等のルイス酸類、フェノールまたはその誘導体等が挙げられる。また、硬化剤としては、メルカプト系硬化剤も使用できる。
【0060】
アミン系硬化剤は、例えば、脂肪族ポリアミン、及び芳香族ポリアミン等のポリアミン類が挙げられる。上記脂肪族ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジプロピレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ビスヘキサミチレントリアミン、シクロヘキシルアミノプロピルアミン、アミノエチルエタノールアミン、モノヒドロキシエチルジエチレントリアミン、ビスヒドロキシエチルジエチレントリアミン、N-(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチルアミノプロピルアミン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラスオキサスピロ[5,5]ウンデカン、メンタンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、N-アミノエチルピペラジン等が挙げられる。
芳香族ポリアミンは、芳香環を有するアミンであり、具体的には、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノアニソール、トルエンジアミン、メタキシリレンジアミン等の各種のキシリレンジアミン、及びジアミノジフェニルスルフォンが挙げられる。
【0061】
また、アミン系硬化剤は、イミダゾール系硬化剤、アミドアミン系硬化剤などであってもよい。イミダゾール系硬化剤としては、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-へプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,2-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2,4,5-トリフェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-アリール-4,5-ジフェニルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1)’]-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1)’]-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1)’]-エチル-S-トリアジンイソシアヌール酸付加物、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられる。アミドアミン系硬化剤としては、ジシアンジアミドなども挙げられる。
【0062】
酸無水物系硬化剤としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノン無水テトラカルボン酸、無水クロレンド酸、ドデシニル無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸で代表されるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
フェノール誘導体としては、ビスフェノールF、ビスフェノールAなどのビスフェノール類及びその誘導体、トリ(ヒドロキシフェニル)メタン、トリ(ヒドロキシフェニル)エタンなどの3官能のフェノール類及びその誘導体、フェノールノボラックなどのフェノール類とホルムアルデヒドとを反応させることで得られる化合物が挙げられる。
メルカプト系硬化剤としては、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタンなどの分子内にメルカプト基を2つ有する化合物や、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)などのメルカプト基を3つ以上有する化合物も使用できる。
硬化剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
硬化剤としては、上記した中では、アミン系硬化剤が好ましく、中でもポリアミン類が好ましい。ポリアミン類は、一分子中に1級アミノ基及び2級アミノ基を合計で2つ以上有することが好ましく、また、1級アミノ基を少なくとも1つ有することが好ましく、より好ましく1級アミノ基を2つ以上有する。ポリアミン類における一分子中の1級アミノ基及び2級アミノ基の合計数は、特に限定されないが、例えば8以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下である。
【0064】
硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば、1~100質量部、好ましくは2~50質量部である。これら下限値以上とすると適切に硬化でき、例えば、三次元網目構造が形成される場合、その構造が強固となり、機械的物性、熱的性質が良好となりやすい。また、これら上限値以下とすることで、硬化剤の量が必要以上に多くなることを防止して、機械的物性、熱的性質が良好となりやすい。
硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量、さらにはアミン系硬化剤を使用する場合には、アミン系硬化剤の活性水素量(すなわち、アミノ基において窒素原子に結合する水素原子)にあわせて適宜調整すればよい。例えば、エポキシ基の数に対する活性水素量の数の比が1又は1に近似するように調整するとよく、具体的には0.5~2、好ましくは0.75~1.5、より好ましくは0.9~1.1である。
【0065】
エポキシ硬化体の示差走査熱量計で測定したガラス転移温度(Tg)は、好ましくは150℃以上である。150℃以上とすることで、熱的性能を良好にでき、エポキシ硬化体の耐熱性が良好となる。また、エポキシ硬化体のガラス転移温度(Tg)は、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。エポキシ硬化体のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、例えば300℃以下である。
また、エポキシ硬化体の動的粘弾性装置で測定したガラス転移温度(Tg)は、同様の観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上であり、また、例えば300℃以下である。
【0066】
エポキシ硬化体は、特に限定されないが、エポキシ樹脂と、硬化剤とを混合することで硬化性組成物を得て、必要に応じて加熱することで製造できる。加熱温度は、特に限定されないが、例えば室温(23℃)~300℃、好ましくは40℃~250℃であり、上記温度範囲内で例えば10分~13時間、好ましくは1~6時間加熱すればよい。加熱温度は、硬化が進むにつれて、段階的に上昇させてもよい。また、エポキシ樹脂と、硬化剤とを含む硬化性組成物は、溶剤などを添加して希釈してもよいし、適宜他の成分を含有してもよい。溶剤により希釈される場合、上記加熱により溶剤を適宜乾燥させて除去すればよい。
【0067】
硬化性組成物には、本発明のエポキシ樹脂、硬化剤以外にも硬化促進剤が含有されてもよい。
硬化促進剤は、硬化剤による硬化を促進する成分である。例えば、硬化剤のうちジシアンジアミド等は単独では硬化温度が高いため、ジシアンジアミド等の硬化活性を高めるために、硬化促進剤を用いることができる。ジシアンジアミドの硬化促進剤としては、例えば尿素系、イミダゾール系、3級アミン系、カプロラクタム等が挙げられる。これらの中でも、尿素系、イミダゾール系が好ましく、2,4-ジアミノ-6-(2-メチルイミダゾリル-(1))-エチル-s-トリアジン、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア)がより好ましい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば0.1~10質量部程度である。
【0068】
本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ硬化体は、様々な分野で使用可能であり、特に限定されないが、電気分野、輸送分野、土木分野、建築分野、機械分野、医療分野等のいかなる分野でも使用可能である。本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ硬化体は、例えば各種成形品、接着剤、塗料、充填材、フィルム、粉体、複合材、発泡体など様々な形態で使用可能である。
より具体的には、異種材料接着剤、ゴム-樹脂間接着剤、ウエルボンド用途、ダイアタッチなどの基板と半導体素子との接合用、ボンディングフィルムなどのフレキシブル基板接着用、建築、土木用途の各種接着剤などの接着剤用途、防曇用塗料、電着塗装用塗料、防食用塗料、塗り床剤、その他の建築、土木用途の塗料などの各種塗料用途、被覆電線封止用などの封止材、繊維集束剤、プリプレグ用などの繊維強化用、電子部品用の電気絶縁材料や保護材料、感光性樹脂、レンズ用途、歯科用材料などの各種用途に使用できるが、これら用途に限定されない。
【0069】
本発明のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂含有組成物は、用途に応じて様々な成分を配合することが可能である。そのような成分としては、上記した硬化剤、硬化促進剤以外にも、本発明のエポキシ樹脂以外の樹脂、ラテックス、フィラー、顔料、シランカップリング剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定化剤、可塑剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、分散剤などが挙げられる。
以下、各用途に使用される本発明のエポキシ樹脂を含有する組成物(以下「エポキシ樹脂含有組成物」ともいう)、及び本発明のエポキシ樹脂由来の成分を有する組成物についてさらに詳細に説明するが、以下の各組成物は、必要に応じて、以下で具体的に説明した成分以外の成分を適宜含有してもよい。
【0070】
(接着剤用途)
例えば、接着剤として使用される場合、エポキシ樹脂含有組成物は、エポキシ樹脂及び硬化剤を含有すればよいが、これらに加えて、フィラー成分として、接着剤の接着強度の向上や衝撃特性の付与の観点から、例えば、ポリマー微粒子を含有してもよい。ポリマー微粒子を含有する場合、接着剤は自動車などの分野における異種材料接着剤用途や、ウエルボンド用途に使用されることが好ましい。異種接着剤用途における異種材料としては、各種鋼材、アルミニウム、アルミニウム合金、炭素繊維やガラス繊維等の繊維強化プラスチック(FRP)板や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の各種材料から選ばれる2種の組み合わせが挙げられる。また、上記接着剤用途に使用されるエポキシ樹脂含有組成物は、本発明のエポキシ樹脂に加えて、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含有してもよい。
【0071】
ポリマー微粒子は、コアシェル構造を有するポリマー微粒子であることが好ましい。コアシェル構造を有するポリマー微粒子は、中央部(コア部)と外周部(シェル部)で分子構造が異なるポリマー粒子のことを意味する。
コアシェル構造を有するポリマー微粒子のコア部を構成する成分としては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Si)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPR)等が挙げられる。なかでもブタジエンゴムが好ましい。コアシェル構造を有するポリマー微粒子のシェル部を構成する成分は、前記したコア部にグラフト重合されており、コア成分を構成するポリマーと共有結合していることが好ましい。シェル部を構成する成分としては、例えばアクリル酸エステル系モノマー、およびメタクリル酸エステル系モノマー、および芳香族系ビニルモノマー等が挙げられる。
ポリマー微粒子の含有量は、硬化性組成物に含有されるエポキシ樹脂100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは2~80質量部、より好ましくは4~60質量部である。コアシェル構造を有するポリマー微粒子は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
上記異種材料接着剤用途或いはウエルボンド用途の接着剤において、エポキシ樹脂含有組成物は、硬化剤としては、上記列挙したものが適宜使用されるが、中でもジシアンジアミドを含有することが好ましい。硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~30質量部、より好ましくは0.1~25質量部、さらに好ましくは1~20質量部である。
また、上記接着剤をウエルボンド用として使用する場合、エポキシ樹脂含有組成物は、ブロックドウレタンを含有することが好ましい。ブロックドウレタンは、エラストマー型であって、ウレタン基および/または尿素基を含有し、かつ、末端にイソシアネート基を有する化合物の当該末端イソシアネート基の全部または一部が活性水素基を有する種々のブロック剤でキャップされた化合物を意図する。特に、当該末端イソシアネート基の全部がブロック剤でキャップされた化合物が好ましい。ブロックドウレタンの具体例としては、国際公開2016/163491号に記載の化合物を挙げることができる。
エポキシ樹脂含有組成物におけるブロックドウレタンの含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、2~40質量部がより好ましく、5~30質量部がさらに好ましい。
【0073】
また、エポキシ樹脂含有組成物は、タイヤなどにおいてゴム-樹脂間接着剤として使用してもよい。ゴム-樹脂間接着剤の一例としては、本発明のエポキシ樹脂の他に、合成ゴムラテックスを含む硬化性組成物が挙げられる。
合成ゴムラテックスとしては、特に限定されるものではないが、不飽和ジエンを有するものが挙げられ、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、カルボキシル基変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス等を挙げることができる。これらを1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ゴム-樹脂間接着剤に使用されるエポキシ樹脂含有組成物において、上記合成ゴムラテックスの含有量は、特に限定されるものではないが、固形分基準で、例えば25~80質量%、好ましくは35~75質量%、より好ましくは55~75質量%ある。
【0074】
また、合成ゴムラテックスを含む硬化性組成物は、さらに水溶性カルボジイミドを含有することが好ましい。水溶性カルボジイミドは、水に可溶なカルボジイミドのことを意味し、水性であり部分的に水溶性であるカルボジイミドを含む。該水溶性カルボジイミドは、分子内に、カルボジイミド(化学式:-N=C=N-)と、親水性セグメントと、を有する化合物である。水溶性カルボジイミドは、水溶液中に含まれる化合物のCOOH基とOH基もしくはアミノ基とのエステル結合もしくはアミド結合の形成が可能である脱水縮合剤として使用することができる。例えば、1-エチル-3-(3-(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)は、カルボキシル基を活性化し、その活性中間体は、アミノ基および水酸基と反応し、アミドおよびエステルを形成することが知られている。
【0075】
水溶性カルボジイミドは、不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスの表面を架橋しながら被覆し、かつ本発明のエポキシ樹脂と複合して、被着体の樹脂をゴムと接着することができるものと推定される。
水溶性カルボジイミドは、塩酸塩、硫酸塩等の水溶性塩類であることが好ましい。水溶性カルボジイミドとして、より具体的には、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC);1-シクロへキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド-メト-p-トルエン硫酸塩等の1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドの水溶性塩類;4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)等のトリアジン系縮合剤類;等を例示することができ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)が好適に使用される。
ゴム-樹脂間接着剤として使用される熱硬化性組成物において、水溶性カルボジイミドの含有量は、特に限定はされるものではないが、固形分基準で、0.1~15質量%が好ましく、0.3~10質量%がより好ましく、0.5~7質量%がさらに好ましく、0.5~5質量%がよりさらに好ましい。
【0076】
また、ゴム-樹脂間接着剤において使用される本発明のエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有すればよいが、好ましくは1分子中に4個以上のエポキシ基を含有するとよい。
ゴム-樹脂間接着剤のエポキシ樹脂含有組成物において、エポキシ樹脂の含有量は、特に限定はされるものではないが、固形分基準で、0.1~40質量%であることが好ましく、更に好ましくは0.4~40質量%で、特に好ましくは1.0~30質量%である。
ゴム-樹脂間接着剤用のエポキシ樹脂含有組成物は、特に限定されないが、各成分が水に分散又は溶解させて分散液として使用されることが好ましい。
【0077】
接着剤用途では、電子機器用途で使用してもよく、例えば、基材と半導体素子との接合に使用される用途に使用されてもよい。より具体的には、ダイアタッチ用途などで使用されてもよく、また、例えば銀粒子が配合されて銀ペースト材料として使用されてもよい。
銀ペースト材料として使用される場合、エポキシ樹脂含有組成物は、銀粒子と、本発明のエポキシ樹脂と、硬化剤とを含むとよく、また、該組成物は、溶剤により希釈されて使用されるとよい。エポキシ樹脂含有組成物は、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含んでもよい。また、硬化剤としては、フェノール誘導体、ジシアンジアミドが好ましく、これらは併用してもよい。
エポキシ樹脂含有組成物において、銀粒子の含有量は、固形分基準で、例えば、70~98質量%、好ましくは75~95質量%以下である。また、エポキシ樹脂の含有量は、固形分基準で、例えば1~20質量%、好ましくは2~15質量%である。また、硬化剤の含有量は、例えば0.1~1.5質量%、好ましくは0.2~1.0質量%である。
【0078】
接着剤用途として使用される場合、フレキシブル基板用に使用されてもよい。フレキシブル基板用の接着剤としては、例えば銅箔と、基板を構成するポリイミドフィルムを接着するために使用され、例えば、ボンディングフィルムとして使用されてもよい。
フレキシブル基板用のエポキシ樹脂含有組成物は、本発明のエポキシ樹脂と、硬化剤を含有する硬化性樹脂組成物であるとよく、また、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂や、エポキシ樹脂以外の樹脂を含有してもよく、そのような樹脂としては、ポリエステルポリウレタン樹脂などのポリエステル系重合体などが挙げられる。なお、ポリエステルポリウレタン樹脂は、その原料としてポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートと、ポリエステルポリオール以外のジオール化合物などの鎖延長剤とを少なくとも反応させてなる樹脂であるとよい。また、ポリエステルポリウレタン樹脂に加えて、カルボキシ基又はカルボン酸無水物構造を有する樹脂を含有してもよい。
また、硬化剤としては、上記したものを適宜使用してもよいが、上記以外でもイミダゾールシラン化合物などのイミダゾール誘導体を使用してもよい。
さらに、以上のフレキシブル基板用におけるエポキシ樹脂含有組成物は、有機フィラー、金属フィラー、金属フィラー以外の無機フィラーなどを含んでいてもよい。
以上のフレキシブル基板用に使用されるエポキシ樹脂含有組成物において、エポキシ樹脂の含有量は、上記したフィラー以外の成分の合計量基準で、1~60質量%であることが好ましく、2~40質量%であることがより好ましく、3~20質量%であることがさらに好ましい。
【0079】
(塗料用途)
本発明のエポキシ樹脂は、塗料用途に使用してもよく、塗料用のバインダー樹脂として使用してもよい。具体的には、例えば防曇用塗料として使用される場合には、本発明のエポキシ樹脂と、シリカ粒子とを含む塗料組成物などにおいて使用すればよい。本塗料組成物においては、適宜シランカップリング剤などが含有されていてもよい。防曇用塗料として使用される場合、塗料組成物は、各成分を水などの液状媒体に分散又は溶解させて分散液として使用されることが好ましい。また、バインダー樹脂としては、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂や、エポキシ樹脂以外の樹脂を含んでもよい。
シリカ粒子としては、水分散シリカが好ましく、また、コロイダルシリカなどを使用することが好ましい。また、液状媒体としては、水、有機溶剤が挙げられ、水、或いは、水と有機溶剤の混合溶剤が好ましく、混合溶媒の場合には有機溶剤としては、シリカを分散できるものであればよく、例えばエチレングリコールモノブチルエーテルなどが使用されるとよい。上記塗料用組成物において、エポキシ樹脂の含有量は、シリカ粒子100質量部に対して、0.1~1000質量部であってもよく、0.5~500質量部であってもよく、1~100質量部であってもよい。
【0080】
(電着塗装用)
例えば、電着塗装用途に使用される場合には、エポキシ樹脂をアミンと反応させてアミン化エポキシ樹脂として使用してもよい。ここで、アミンの具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、モノエタノールアミンなどの一級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミンなどの二級アミン;ジエチレントリアミンなどの複合アミンが挙げられる。上記一級アミンは、ケトン化合物を用いてケチミン基を形成して、いわゆるブロック化により反応を制御することが可能である。また、アミンとしては、三級アミンを使用してもよく、その具体例として、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンなどが挙げられる。
電着塗装用の塗料組成物は、例えばアミン化エポキシ樹脂と、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤などの硬化剤を含むとよく、また、必要に応じて、さらに顔料分散ペーストを含んでもよい。顔料分散ペーストは、顔料分散樹脂および顔料を含む。電着塗装用の塗料組成物は、エマルションなどとして使用されてもよい。
【0081】
(防食用塗料)
塗料用途において、塗料組成物は、本発明のエポキシ樹脂と、硬化剤とを含む硬化組成物であってもよい。このような塗料用組成物は、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含有してもよく、また、顔料や顔料分散剤が含まれてもよく、接着性向上のためにシランカップリング剤などを含有してもよい。また、一般的に有機溶剤に希釈されて使用されてもよい。エポキシ樹脂と、硬化剤とを含む塗料組成物は、例えば防食用塗料組成物に使用されることが好ましく、中でも船舶の防食用に使用されることが好ましい。塗料用組成物において、エポキシ樹脂の含有量は、固形分基準で、好ましくは1~60質量%、より好ましくは5~50質量%である。
【0082】
(塗り床剤)
本発明のエポキシ樹脂は、建築、土木用途に使用されてもよく、例えば、塗り床剤などとして使用されてもよい。塗り床剤として使用される場合のエポキシ樹脂含有組成物は、本発明のエポキシ樹脂、硬化剤を含むとよいが、さらに、無機充填剤を含むことが好ましい。無機充填剤としては、カーボンナノチューブ、シリカ、珪砂、バライト、炭酸カルシウム、タルク等の塗り床剤として使用される公知の無機充填剤が使用されるとよい。また、これら無機充填剤以外にも着色剤として使用される顔料なども適宜配合されてもよい。また、エポキシ樹脂としては、本発明以外のエポキシ樹脂を含有してもよい。
塗り床剤用のエポキシ樹脂含有組成物において、無機充填剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば1~1000質量部程度、好ましくは10~200質量部、より好ましくは20~100質量部である。
もちろん、エポキシ樹脂含有組成物は、建築、土木用途において、塗り床剤以外において使用されてもよく、タンク用塗料、パイプ内装用塗料、外装用塗料等として使用されてもよい。また、建築、土木用途における接着剤として使用されてもよく、例えば各種構造物を接着されるために使用されもて良い。
【0083】
(封止材用途)
本発明のエポキシ樹脂は、封止材用途、好ましくは被覆電線封止用に使用される場合、例えば、エポキシ樹脂と硬化剤とを含む硬化性組成物として使用されるとよい。封止材用途において使用される硬化剤は、上記硬化剤が適宜使用できるが、アミン系硬化剤、メルカプト系硬化剤が好ましく使用できる。また、封止材用途に使用される硬化性組成物は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
【0084】
(繊維集束剤)
本発明のエポキシ樹脂は、繊維集束剤として使用される場合、スルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂と併用されるとよい。スルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂としてては、芳香族ポリエステル樹脂や脂肪族ポリエステル樹脂等を使用することができるが、芳香族ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。芳香族ポリエステル樹脂としては、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を有することが好ましい。
また、繊維集束剤用のエポキシ樹脂含有組成物は、上記したエポキシ樹脂及びスルホン酸塩基を有するポリエステル樹脂に加えて、界面活性剤を含有することが好ましく、界面活性剤としては、芳香族非イオン界面活性剤が好ましい。芳香族非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンクミルフェニルエーテ、ポリオキシアルキレンナフチルフェニルエーテ、ポリオキシアルキレンスチレン化(アルキルフェニルエーテル)などが挙げられ、これらの中では、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテが好ましい。
繊維集束剤用のエポキシ樹脂含有組成物は、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含有してもよい。
繊維集束剤用のエポキシ樹脂含有組成物は、水性の組成物として使用されることが好ましく、例えば水系分散剤として使用されることが好ましい。
繊維集束剤用のエポキシ樹脂含有組成物において、エポキシ樹脂の含有量は、固形分基準で、例えば75~95質量%であるが、好ましくは80~95質量%が好ましい。
【0085】
(プリプレグ用途)
本発明のエポキシ樹脂は、プリプレグ用途に使用してもよく、プリプレグ用途に使用される強化繊維などの繊維材料に含浸されるマトリクス樹脂として使用されるとよい。
マトリクス樹脂として使用される場合、エポキシ樹脂含有組成物は、硬化性組成物であればよく、本発明のエポキシ樹脂と硬化剤を含有すればよい。
また、エポキシ樹脂含有組成物において、本発明のエポキシ樹脂は樹脂成分として単独で使用されてもよいが、他の樹脂成分と併用されてもよく、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、多官能(メタ)アクリレート化合物、シアナト基を2つ以上含有するシアネートエステル樹脂などが含有されてもよい。また、エポキシ樹脂含有組成物は、熱可塑性樹脂が含有されることも好ましい。また、プリプレグ用途に使用されるエポキシ樹脂含有組成物は、難燃剤を含有してもよい。難燃剤としては、リン酸エステルなどのリン含有化合物、赤リン、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンイソシアヌレートなどの窒素含有化合物、金属水酸化物、金属酸化物などが挙げられる。
プリプレグ用途に使用されるエポキシ樹脂含有組成物において、エポキシ樹脂の含有量は20~99質量%程度であることが好ましく、50~80質量%程度であることがより好ましい。また硬化剤の含有量は、1~25質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましい。
【0086】
(電気絶縁材料及び保護材料)
本発明のエポキシ樹脂は、電子基板などにおいて使用されてもよく、具体的には、保護材料や、電気絶縁層などを形成するための電気絶縁材料に使用されてもよい。
電気絶縁材料や保護材料に使用される場合には、本発明のエポキシ樹脂と、硬化剤に加えて、フィラーを含有する硬化性樹脂組成物とよい。フィラーは絶縁性を有するとよい。そのようなフィラーとしては、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。また、フィラーとしては、上記した無機フィラー以外を使用してもよく、有機フィラーを使用してもよい。硬化性樹脂組成物において、フィラーの含有量は、固形分基準で、例えば50~90質量%、好ましくは65~85質量%である。
【0087】
電気絶縁材料や保護材料用途に使用される硬化性樹脂組成物は、本発明のエポキシ樹脂以外の樹脂を含有してもよく、例えば、共役ジエン系ゴムなどのゴム状高分子化合物を含有してもよい。ゴム状高分子化合物の含有量は、フィラー以外の成分全量の固形分基準で、例えば30~70質量%、好ましくは40~60質量%である。また、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含有してよく、フェノキシ樹脂などのエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を含有してよい。また、シランカップリング剤なども含有してもよい。
電気絶縁材料や保護材料に使用される硬化性樹脂組成物においてエポキシ樹脂の含有量は、フィラー以外の成分全量の固形分基準で、例えば20~70質量%、好ましくは25~40質量%である。
【0088】
(感光性樹脂)
電子基板の電気絶縁材料や保護材料として使用される場合には、エポキシ樹脂含有組成物は、光感光性樹脂組成物として使用されてもよく、そのような場合には、エポキシ樹脂に加えて、カルボキシル基含有感光性樹脂などの感光性樹脂、光重合開始剤、反応性希釈剤、感光性モノマー、フィラーなどを含有する組成物であってもよい。
また、感光性樹脂組成物として使用される場合には、上記した電子基板の保護材料や電気絶縁材料以外の用途に使用されてもよい。感光性樹脂組成物に使用される場合、本発明のエポキシ樹脂は、ヨードニウム塩類、スルホニウム塩類、ピリジニウム塩類等光酸発生剤と併用して使用されてもよい。光酸発生剤は、光照射によって酸を発生する剤であり、エポキシ樹脂は、光酸発生剤の分解によって生じる酸によって重合するとよい。
また、上記の通りに感光性樹脂組成物として使用される場合の用途としては、特に限定されないが、歯科用が挙げられ、より具体的には損傷をうけた歯牙の修復に用いる充填修復材料や、義歯床の裏装材、歯冠修復用のハイブリッドセラミックス等が挙げられる。また、以下で説明するレンズ用途などに使用されてもよい。
【0089】
(レンズ用途)
レンズ用途において、本発明のエポキシ樹脂は、本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂やオキタセン化合物などの樹脂成分と併用してもよく、したがって、レンズ用途におけるエポキシ樹脂含有組成物は、本発明のエポキシ樹脂に加えて、他のエポキシ樹脂やオキタセン化合物などを含有してもよい。他のエポキシ樹脂としては、ビスフェノール骨格を有するジグリシジルエーテル化合物、ビスフェノール骨格を有しない2官能脂環式エポキシ化合物、イソシアヌレート環構造を有する3官能以上の多官能エポキシ化合物などが挙げられる。また、レンズ用途に使用される場合、エポキシ樹脂含有組成物は、感光性樹脂組成物であることが好ましく、例えば上記した光酸発生剤を含有すればよい。
なお、以上で説明した各用途、及び各用途の具体的な配合は、一例にすぎず、上記で説明した用途以外で使用されてもよいし、各用途において各組成物の配合は、上記配合以外でもよい。
【実施例0090】
本発明を以下に実施例により説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定され
るものではない。なお、以下の実施例における各測定条件は、以下のとおりである。
<測定条件>
〔1H-NMRスペクトル測定〕
日本電子株式会社製NMR測定装置「ECX-400」を用い、重ジメチルスルホキシド(重DMSO)又はTHFを溶媒とし、23℃で測定した。
【0091】
〔ガラス転移温度(Tg)〕
株式会社島津製作所製の示差走査熱量計(商品名「DSC-60」)を用い、アルゴン雰囲気下、10℃/分の昇温条件で測定し、ベースラインの変位の中点をガラス転移温度とした。このとき、10℃/分の条件で、250℃まで昇温させた後に30℃まで降温し、再び昇温させるときにガラス転移温度を測定した。
株式会社ユービーエム製の動的粘弾性装置(商品名「Rheogel-E4000」)を用い、窒素雰囲気下、3℃/分の昇温条件で測定し、tanδのピークトップ温度をガラス転移温度とした。
【0092】
合成例1
[パラクマル酸二量体の合成]
パラクマル酸(東京化成社製)をヘキサンに懸濁し、懸濁溶液に白熱水銀灯でUV照射を行った。UV照射によりパラクマル酸のベータ位にある二重結合が開裂し、その分子同士が再結合することで二量化させた。反応液からヘキサンを除去後、エタノールに再懸濁させ、フィルターろ過した。濾過膜上に残った粉末をパラクマル酸二量体として得た。なお、濾過膜上に残った粉末は、1H-NMR測定を行ったところ、式(2-1)で示すパラクマル酸二量体(4,4’-ジヒドロキシトルキシル酸)であることが確認できた。
【0093】
[エポキシ樹脂の合成]
実施例1
合成例1で得られたパラクマル酸二量体5gを50mlのメタノールと濃硫酸0.3mlで懸濁し、80℃で6時間反応させた。反応終了後、メタノールを除去、乾固させた。乾固したメチルエステル体を50ml酢酸エチルで溶解させた後、5質量%のNaHCO
3溶液で2回洗浄した。更に飽和食塩水で2回洗浄し、酢酸エチル層を回収した。得られた有機相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、酢酸エチルおよび残存揮発分を除去しメチルエステル体(4,4’-ジヒドロキシトルキシル酸ジメチル)3.31gを得た(収率61.0%)。構造の同定はTHF中の
1H-NMR測定により行った。
図1に
1H-NMRスペクトルを示す。
【0094】
上記の方法で得られたメチルエステル体1g、エピクロルヒドリン5.2g(メチルエステル体に対して10当量)、テトラブチルアンモニウムブロミド0.18gを、100℃で5時間反応させた。反応終了後、溶液を氷冷しながら40質量%水酸化ナトリウム水溶液2.5mlを滴下し、その後氷冷水中で1時間反応させた。反応後の溶液にイオン交換水20mlを加えて析出した塩を溶解させた後、酢酸エチル30mlを加えてよく混合し水相を分離した。得られた有機相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、酢酸エチルおよび残存揮発分を除去し目的のエポキシ樹脂0.57gを得た(収率44.0%)。構造の同定はTHF中の
1H-NMR測定により行った。
図2に
1H-NMRスペクトルを示す。また、実施例1における反応式を以下に示す。
【化22】
【0095】
[エポキシ硬化体の作製]
実施例2
実施例1で得られたエポキシ樹脂4.64gと、イソホロンジアミン0.85gを混合した。その後、100℃で1時間、160℃で1時間、次いで200℃で1時間加熱して硬化体を作製した。得られた硬化体を細かく砕き、示差走査熱量計(DSC)によりTgを測定したところ、Tgは165℃であり、良好な耐熱性を示した。
【0096】
実施例3
[エポキシ樹脂の合成]
合成例1で得られたパラクマル酸二量体5g、エピクロルヒドリン56.4g(パラクマル酸二量体に対して10当量)、テトラブチルアンモニウムブロミド1gを、100℃で5時間反応させた。反応終了後、溶液を氷冷しながら40質量%水酸化ナトリウム水溶液2.5mlを滴下し、その後氷冷水中で1時間反応させた。反応後の溶液にイオン交換水20mlを加えて析出した塩を溶解させた後、酢酸エチル30mlを加えてよく混合し水相を分離した。得られた有機相に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、酢酸エチルおよび残存揮発分を除去し目的のエポキシ樹脂5.42gを得た(収率63.3%)。構造の同定は重DMSO中の1H-NMR測定により行ったところ目的のエポキシ樹脂が合成できていることが確認できた。実施例3における反応式を以下に示す。
【0097】
【0098】
[エポキシ硬化体の作製]
実施例4
実施例3で得られたエポキシ樹脂5.52gと、イソホロンジアミン1.70gを混合した。その後、100℃で1時間、160℃で1時間、次いで200℃で1時間加熱して硬化体を作製した。得られた硬化体を細かく砕き、示差走査熱量計(DSC)によりTgを測定したところ、明確なTgを示すことができなかった。そこで、動的粘弾性法(DMA)で測定し、tanδのピークトップ温度からTgを251℃と読み取ることができた。良好な耐熱性を示した。
【0099】
比較例1
石油由来のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「jER828」、三菱ケミカル社製)に、硬化剤としてイソホロンジアミンをエポキシ基:NH基=1:1となるように混合し、実施例2と4と同じ条件にて硬化を行い、硬化体を作製した。得られた硬化体を細かく切断し、示差走査熱量計(DSC)によりTgを測定した結果、Tg152℃であった。