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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160310
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】易熱性プロテイナーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/58 20060101AFI20241106BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20241106BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C12N9/58
C12N15/10 100Z
C12N9/58 ZNA
C12N15/55 ZNA
C12N15/55
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024130932
(22)【出願日】2024-08-07
(62)【分割の表示】P 2020570641の分割
【原出願日】2019-03-07
(31)【優先権主張番号】1803654.1
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】520342356
【氏名又は名称】アークティックザイムズ エイエス
【氏名又は名称原語表記】ARCTICZYMES AS
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストリバーニー, ベルント ケテルセン
(72)【発明者】
【氏名】ペデルセン, カトリーネ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリクセン, ヨルン レミ
(72)【発明者】
【氏名】レインズ, オラフ
(72)【発明者】
【氏名】ローレンツェン, マリット スジョー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】誘導可能な易熱性を有するプロテイナーゼを含む組成物、及び特に核酸の単離におけるその使用を提供する。
【解決手段】プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含む組成物であって、前記プロテイナーゼが特定のアミノ酸配列又はその配列と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、i)前記組成物中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又はii)前記組成物中の一価塩濃度が≧約20mMである、組成物を提供する。こうした条件下で、プロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片は、誘導的に易熱性である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含む組成物であって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、
i)前記組成物中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記組成物中の一価塩濃度が≧約20mMである、組成物。
【請求項2】
好ましくは前記組成物が体積≦200μlである、1以上のポリペプチドを含む試料に適用するための溶液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1以上のポリペプチド及びプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含む試料であって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、試料。
【請求項4】
試料中のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化する方法であって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、前記方法が、前記試料を加熱して前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性な断片を不活性化するステップを含み、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、方法。
【請求項5】
試料中のポリペプチドを消化する方法であって、
a)前記試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)前記試料中のポリペプチドの少なくとも部分的消化を可能にする条件下で前記試料をインキュベーションするステップ、及び
c)前記試料を加熱して前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップを含み、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、方法。
【請求項6】
目的の生体分子を試料から単離又は精製する方法であって、前記試料が1以上の混入ポリペプチドを含み、前記方法が、
a)前記試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)前記試料中のポリペプチドの少なくとも部分的消化を可能にする条件下で前記試料をインキュベーションするステップ、及び
c)前記試料を加熱して前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップを含み、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMであり、
d)前記目的の生体分子を前記試料から任意で除去するステップを含む方法。
【請求項7】
目的の生体分子を1以上のペプチド結合を介してそれに結合した第2の分子から遊離させる方法であって、
a)前記試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)前記ペプチド結合の1以上の消化によって前記目的の生体分子の遊離を可能にする条件下で前記試料をインキュベーションするステップ、及び
c)前記試料を加熱して前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップを含み、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMであり、
前記目的の生体分子を前記試料から任意で除去するステップを含む方法。
【請求項8】
i)前記組成物又は試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMであり、
ii)前記組成物又は試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物、試料又は方法。
【請求項9】
i)前記組成物又は試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMであり、前記組成物又は試料がEDTAを本質的に含まない、好ましくはカルシウムキレート剤を本質的に含まない、又は
ii)前記組成物又は試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物、試料又は方法。
【請求項10】
i)前記組成物又は試料中の遊離カルシウム濃度が1~80μMである、及び/又は
ii)前記組成物又は試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物、試料又は方法。
【請求項11】
i)前記組成物又は試料中の遊離カルシウム濃度が≦約35μMである、及び/又は
ii)前記組成物又は試料中の一価塩濃度が≧約40mMである、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物、試料又は方法。
【請求項12】
前記試料のpHが6.5~9.5、好ましくは7.5~8.5である、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物、試料又は方法。
【請求項13】
前記加熱ステップが前記試料を約53~約67℃の温度で加熱するステップを含む、請求項4から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記加熱ステップが前記試料を約53~約58℃の温度で好ましくは約45~約75分間加熱することを含む、請求項4から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約10μMである、又は前記試料中の一価塩濃度が少なくとも約75mMである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記加熱ステップが前記試料を約63~約67℃の温度で好ましくは最大約10分間加熱することを含む、請求項4から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約65μMである、又は前記試料中の一価塩濃度が少なくとも約25mMである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記加熱ステップが前記試料を約58~約63℃の温度で好ましくは約2~約40分間加熱することを含む、請求項4から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記加熱ステップが、前記試料を
i)約5~15分間、好ましくは、ここで、前記試料中の遊離カルシウム濃度は≦約10μMである、若しくは前記試料中の一価塩濃度は少なくとも約75mMである、又は
ii)約10~20分間、好ましくは、ここで、前記試料中の遊離カルシウム濃度は≦約35μMである、若しくは前記試料中の一価塩濃度は少なくとも約50mMである、又は
iii)約20~40分間、好ましくは、ここで、前記試料中の遊離カルシウム濃度は≦約65μMである、若しくは前記試料中の一価塩濃度は少なくとも約25mMである、加熱することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記加熱ステップが前記試料を約65~約70℃の温度で最大約5分間加熱することを含む、請求項4から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記加熱ステップ後の前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の残存プロテイナーゼ活性が対照に対して≦約25%、好ましくは≦約10%であり、前記残存活性が以下の分析ステップ、すなわち、
i)1000μl又は250μlキュベット中で
10~50mU/mL熱処理プロテイナーゼ、1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA、≦15mM NaCl、0.1mM Tris-HCl pH8、10mM CaCl2及び任意で1%DMSOをインキュベーションするステップ、
ii)410nm(ε=8800M-1.cm-1)における吸光度の増加を分光光度計を用いて温度≦40℃で2分間測定することによって4-ニトロアニリンへの前記基質の切断を分析するステップ、ここで、1単位は1分間あたり1μmolの4-ニトロアニリンを選択された温度で生成する酵素の量と定義される、
iii)ステップii)で認められた活性を、熱処理されなかったがその他の点では前記熱処理プロテイナーゼと同じ条件下で維持された同じ量の同じプロテイナーゼで認められた活性と、同じ分析によって比較するステップによって測定される、請求項4から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
請求項4から21のいずれか一項に記載の方法であって、前記試料が、
a)ヌクレアーゼ、DNA又はRNAポリメラーゼ、逆転写酵素、DNA又はRNAリガーゼ、メチラーゼ、トランスフェラーゼ、トポイソメラーゼ、グアニリルトランスフェラーゼ、ホスファターゼ、トランスポザーゼ、キナーゼ、ヘリカーゼ、制限酵素及びグリコシラーゼからなる群から選択される1以上の更なる酵素、
b)1以上の核酸分子、ここで、前記方法は、前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップに続いて、以下のステップ、すなわち、
i)前記1以上の核酸分子のヌクレアーゼ媒介消化、
ii)前記1以上の核酸分子のリン酸化若しくは脱リン酸化、又は
iii)前記1以上の核酸分子の連結を、
前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに、含む、
c)前記試料は、1以上のRNA分子を含み、前記方法は、前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップに続いて、前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに、逆転写のステップを含む、
d)1以上のDNA分子、ここで、前記方法は、前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップに続いて、前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに、核酸重合、好ましくは増幅のステップを含む、又は
e)1以上のウイルス粒子又は細胞、好ましくは細菌細胞、ここで、前記方法は、前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップに続いて、前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに、細胞溶解のステップを含む、を含む方法。
【請求項23】
i)請求項1、2及び8から12のいずれか一項に記載の組成物、及び
ii)第2の酵素を含む第2の組成物、好ましくは、前記第2の酵素は、ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素、DNAリガーゼ、RNAリガーゼ、メチラーゼ、トランスフェラーゼ、トポイソメラーゼ、グアニリルトランスフェラーゼ、ホスファターゼ、トランスポザーゼ、キナーゼ、ヘリカーゼ、制限酵素及びグリコシラーゼからなる群から選択される、を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導可能な易熱性を有するプロテイナーゼを含む組成物、及び特に核酸の単離における、その使用に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテイナーゼ(ペプチダーゼ、プロテアーゼ及びタンパク質分解酵素とも称する)は、タンパク質中のペプチド結合を加水分解することができる。プロテイナーゼは、産業、バイオテクノロジー及び分子生物学研究技術における広範なプロセスに広く使用される。例えば、プロテイナーゼは、核酸精製中の不要なタンパク質の消化、組換え抗体断片の調製、プロテオミクスにおけるペプチド配列決定、及びタンパク質のタンパク質分解消化に使用される。
【0003】
核酸を試料から首尾よく抽出するために、細胞壁/膜の溶解が必要である。様々な物理的又は化学的方法を採用することができ、それらはプロテアーゼの添加によって強化することができる。次いで、洗浄剤若しくは界面活性剤の適用によって、又は低張液中の浸透圧融解によって、膜脂質が除去される。次いで、プロテイナーゼを用いた試料からのタンパク質の除去が最良の手法と考えられる。プロテイナーゼは、試料中に存在する混入、すなわち不要な、タンパク質、ポリペプチド及びペプチドをペプチド結合の加水分解によって消化する。試料中に存在する可能性があり、核酸を分解する可能性があるヌクレアーゼ及び他の酵素もプロテイナーゼは分解する。
【0004】
タンパク質の除去は、増幅反応(例えば、PCR及びRT-PCR)のための核酸試料の調製における核酸精製中に特に重要である。細胞においては、核酸は、一般に、タンパク質に結合して存在する。例えば、真核細胞中のゲノムDNAはヒストンに結合し、それによってクロマチン中へDNAが密にパッケージングされ得る。PCRなどの多数の分子生物学技術は、裸のDNA、すなわちヒストンに結合していないDNAを必要とする。というのは、クロマチン中のDNAの密なパッケージングは、ポリメラーゼ、ヌクレアーゼなどのDNAと相互作用する酵素が核酸に接近するのを抑制するからである。
【0005】
核酸精製は、時間、コスト及び試料の損失を伴う多段階プロセスである。試料の損失は、試料中の核酸の開始量が少ないとき、例えば、数百以下の細胞から、例えば細い針で吸引された生検材料又は液体生検材料から単離されたときに特に望ましくない。
【0006】
核酸精製において最も一般的に使用されるタンパク質分解酵素は、プロテイナーゼK(EC3.4.21.64)である。この酵素は、真菌Engyodontium album(以前はTritirachium album)の抽出物中で最初に発見された。プロテイナーゼKは、芳香族、脂肪族又は疎水性アミノ酸残基のカルボキシル側におけるペプチド結合の切断を触媒する非特異的セリンエンドペプチダーゼである。プロテイナーゼKの広範な特異性のために、試料中の不要なタンパク質の消化においてプロテイナーゼKは有用となり得る。プロテイナーゼKは、さらに、試料中に存在する核酸を分解し得るヌクレアーゼを急速に不活性化する。プロテイナーゼKは、SDS及び尿素、EDTAなどのキレート剤、スルフヒドリル試薬、トリプシン阻害剤及びキモトリプシン阻害剤など、他のタンパク質を変性させるDNA抽出プロセスに使用される化学物質の存在下で活性である。プロテイナーゼKは、50~65℃の範囲、一般に約55℃で最適活性を有する。
【0007】
プロテイナーゼKが試料の精製に使用されるときには、下流のタンパク質/酵素、例えば、ポリメラーゼ及び逆転写酵素の添加の前にプロテイナーゼKを不活性化又は除去する必要がある。こうした不活性化又は除去なしでは、プロテイナーゼは、その非特異的活性のために下流のタンパク質/酵素を分解する。
【0008】
プロテイナーゼKは、例えばフェノール抽出又はCsCl等密度超遠心によって、試料から除去することができる。あるいは、試料量を増加させ、それによってその中のプロテイナーゼK活性を弱めることができる。しかし、酵素を試料から物理的に除去する行為は、混入のリスク及び所望の生成物を失うリスクがある。希釈は、ほとんどの場合には理想的でなく、特に試料サイズが小さいときにはそうである。
【0009】
プロテイナーゼKの不活性化の手順は様々であるが、一般には高温への加熱を含む。しかし、多くの場合において、プロテアーゼを不活性化するのに必要な熱は、試料中の1以上の所望の生成物の分解をもたらす。プロテイナーゼKの不活性化の手順は、時には試薬と組み合わせて、75℃への5分間の加熱(BioRad手順)、95℃への10分間の加熱(New England BioLabs手順)、70℃への15分間の加熱(Qiagen手順)を含む。こうした高温の使用は、目的の試料には比較的苛酷である。
【0010】
したがって、特に核酸精製手順中に、試料から所望の材料を失わずにワークフローを短縮することができ、過酷なプロテイナーゼ不活性化条件を伴わない、別のタンパク質分解法が必要とされている。
【0011】
プロテイナーゼX(「セラチアペプチダーゼ」及び「SPRK」とも称する)は、セラチア種から単離されたプロテイナーゼK様プロテイナーゼである。プロテイナーゼXの研究(非特許文献1)は、それが、プロテイナーゼKのように、高い熱安定性を有することを確認し、更に、プロテイナーゼXが実際にプロテイナーゼK(55℃)より高い最適温度(70℃)を有することも確認した。Larsenらは、プロテイナーゼXが50℃で30分間加熱後に十分な酵素活性を保持し、様々な濃度のSDS(試料からの核酸の単離に一般に使用される界面活性剤)の存在下で50℃に加熱後にプロテイナーゼKよりもはるかに高い活性を保持することを示した。Larsenらの教示によれば、プロテイナーゼXは、低温適応生物から単離された酵素の典型的な易熱性の特徴を示さない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Larsen et al.,(2006)FEBS Journal 273:47-60
【発明の概要】
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、プロテイナーゼXの易熱性が、遊離カルシウムイオン濃度の低い組成物中にプロテイナーゼが存在するときに誘導されることを初めて明らかにした。本発明者らは、プロテイナーゼに結合し、その安定性及び構造に寄与し得るカルシウムイオンを、例えばEDTAを用いて、除去する必要がないことを確認した。それどころか、組成物中の遊離カルシウムイオン濃度の単なる欠如又は低さは、驚くべきことに、プロテイナーゼXの易熱性を誘導するのに十分である。本発明者らは、驚くべきことに、プロテイナーゼXの易熱性が、特定の一価塩濃度を有する組成物中にプロテイナーゼが存在するときに誘導されることも初めて明らかにした。
【0014】
こうした誘導可能な易熱性は予想外であり、分子生物学用途に使用される標準プロテイナーゼであるプロテイナーゼKでは認められない。本発明者らの知見によって、広範な分子生物学用途において誘導可能な易熱性を有するプロテイナーゼXの有利な使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
ここで、本発明を以下の図面を参照して非限定的実施例によって説明する。
【0016】
図1】様々な温度におけるプロテイナーゼX及びKのプロテイナーゼ活性を示す図である。活性は、標準分析条件下で10mM遊離カルシウムを用いて65℃で認められた最大活性に対する%活性として示される。
図2】分析緩衝液中の0μM、5μM又は10mM遊離カルシウムを用いた様々な温度におけるプロテイナーゼXの活性を示す図である。結果は、各温度における、10mM遊離カルシウムである標準分析条件に対する相対(%)を示す。
図3】分析緩衝液中の0μM、5μM又は10mM遊離カルシウムを用いた様々な温度におけるプロテイナーゼKの活性を示す図である。結果は、各温度における、10mM遊離カルシウムである標準分析条件に対する相対(%)を示す。
図4】様々な遊離カルシウム濃度の存在下で60℃で15及び30分間加熱後のプロテイナーゼXの不活性化の程度を示す図である。活性は、対照(氷上で維持、加熱ステップなし)に対する、%残存活性として示される。
図5】様々な遊離カルシウム濃度の存在下で60℃で15及び30分間加熱後のプロテイナーゼKの不活性化の程度を示す図である。活性は、対照(氷上で維持、加熱ステップなし)に対する、%残存活性として示される。
図6】様々な遊離カルシウム濃度の存在下で60℃で15及び30分間加熱後のプロテイナーゼX及びプロテイナーゼKの不活性化の程度を示す図である。活性は、熱処理なしで氷上で維持された(10mM CaCl2を含む)同じ緩衝液中の同じプロテイナーゼで認められた最大活性に対する%活性として示される。
図7】プロテイナーゼX及びプロテイナーゼKの易熱性プロファイルに対するNaCl濃度の効果を示す図である。遊離カルシウムの非存在下及び50mM又は300mM NaClの存在下で指示温度における30分間のインキュベーション。活性は、熱処理なしで氷上で維持された(10mM CaCl2を含む)同じ緩衝液中の同じプロテイナーゼで認められた最大活性に対する%活性として示される。
図8】様々な濃度のNaClの存在下で50及び60℃におけるプロテイナーゼXの不活性化を示す図である。活性は、熱処理なしで氷上で維持された(0M NaCl、0.03mM CaCl2を含む)同じ緩衝液中のプロテイナーゼXで認められた最大活性に対する%活性として示される。
図9】様々な濃度のNaClの存在下で60℃におけるプロテイナーゼXの不活性化を示す図である。活性は、熱処理なしで氷上で維持された(0M NaCl、30μM CaCl2を含む)同じ緩衝液中のプロテイナーゼXで認められた最大活性に対する%活性として示される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
したがって、一態様においては、本発明は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含む組成物を提供する。前記プロテイナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、
i)前記組成物中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記組成物中の一価塩濃度が≧約20mMである。
【0018】
好ましくは、前記組成物中の遊離カルシウム濃度は≦約80μMであり、前記組成物中の一価塩濃度は≧約20mMである。
【0019】
本発明は、配列番号1の配列を含むプロテイナーゼ、及び配列番号1と少なくとも約70%同一である配列を含むプロテイナーゼに関する。配列番号1と少なくとも約70%同一である配列を含むプロテイナーゼを「配列番号1の変異体」、「変異プロテイナーゼ」又は単に「変異体」と本明細書では称する。定義上、本発明の配列番号1の変異体も本発明に係るプロテイナーゼであり、すなわちそれらはプロテイナーゼ活性を有する。本発明のプロテイナーゼという本明細書の表記は、配列番号1のプロテイナーゼ及び本明細書に記載の本発明の変異体を表す。本明細書のどこでもプロテイナーゼ(又は変異プロテイナーゼ)という表記は、別段の記載がない限り、酵素的に活性なその断片も表す。
【0020】
好ましくは、組成物は、溶液、好ましくは水溶液である。本明細書では「溶液」という用語は、1以上の副成分(溶質)が主成分(溶媒)内に均一に分布した液体混合物を意味する。一般に、溶液の副成分(溶質)は、主成分(溶媒)に可溶である。しかし、本明細書では「溶液」という用語は、副成分(溶質)が主成分(溶媒)に可溶でない混合物も含む。すなわち、本明細書では「溶液」という用語は、主成分が液相であり、副成分が液相に不溶である粒子を含む混合物、すなわち分散物も包含する。好ましくは、主成分、すなわち溶媒、すなわち液相は、水である。好ましくは、溶液は水を含む。本発明の溶液は、少なくとも本発明のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を副成分として含む。
【0021】
好ましい一実施形態においては、本発明の溶液は、1以上のポリペプチドを含む試料に適用される試薬である。こうした試薬は、前記試薬中のプロテイナーゼが試料中に存在する前記1以上のポリペプチドを消化するために試料に適用される。好ましくは、試料は、複数のポリペプチドを含む。この実施形態においては、溶液は、好ましくは、本発明のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含み、更なる酵素を含まない。
【0022】
好ましくは、組成物は緩衝剤も含む。適切な緩衝剤は当該技術分野でよく知られており、任意のこうした緩衝剤を使用することができる。適切な緩衝剤及びそれらの意図された目的でその含まれる範囲を確認することは当業者の能力の範囲内であろう。好ましくは、緩衝剤は、緩衝範囲がpH6.5~9.5、好ましくはpH6.8~9.2、より好ましくはpH7~9、より好ましくはpH7.5~8.5、より好ましくは約pH8である。好ましくは、緩衝剤はTris又はHEPESである。好ましくは、緩衝剤は、1~250mM、より好ましくは10~200mM、より好ましくは20~150mM、より好ましくは25~100mMの濃度で組成物中に存在する。
【0023】
存在する場合、好ましくは、Tris-HClは、25~200mM、より好ましくは50~150mM、より好ましくは約100mMの濃度で存在する。存在する場合、好ましくは、HEPESは、5~50mM、より好ましくは10~40mM、より好ましくは20~30mM、より好ましくは約25mMの濃度で存在する。
【0024】
好ましくは、本発明の組成物及び試料は、pHが6.5~9.5、好ましくは6.8~9.2、より好ましくは7~9、より好ましくは7.5~8.5、より好ましくは約8.0である。
【0025】
本発明の組成物及び試料は、更にDMSOを含むことができる。存在する場合、好ましくは、DMSOは、0.1~5%w/w、より好ましくは0.5~2.5%DMSO、より好ましくは約1%DMSOの濃度で存在する。
【0026】
「試料」という用語は、本発明のプロテイナーゼ以外の1以上のポリペプチドを含む任意の組成物を指す。
【0027】
更なる一態様においては、本発明は、1以上のポリペプチド及びプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含む試料を提供する。前記プロテイナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである。
【0028】
好ましくは、前記試料中の遊離カルシウム濃度は≦約80μMであり、前記試料中の一価塩濃度は≧約20mMである。
【0029】
本明細書に記載のプロテイナーゼ又は酵素的に活性な断片を含まない試料は、本発明の態様ではない。「本発明の試料」という本明細書の表記は、本明細書に記載のプロテイナーゼ又は酵素的に活性な断片を本当に含む試料のみを表す。
【0030】
「試料」の好ましい任意選択の特徴及び実施形態の以下の考察は、本発明の試料と、本発明の一部ではないが、本発明の一組成物を適用することができる試料である試料の両方に当てはまる。
【0031】
本発明のプロテイナーゼは、混入、すなわち不要な、ポリペプチドを含む試料からの目的の生体分子の精製、すなわち単離、すなわち抽出の方法に有用である。したがって、好ましい一実施形態においては、試料は、1以上の混入ポリペプチド及び1以上の目的の生体分子を含む。本明細書では「混入ポリペプチド」という用語は、「不要なポリペプチド」と同義であり、本発明のプロテイナーゼ及び目的の任意のポリペプチド以外の試料中の任意のポリペプチドを指す。すなわち、混入ポリペプチドは、1以上の目的の生体分子を精製又は修飾するために、本発明のプロテイナーゼによって消化されるものである。
【0032】
本発明のプロテイナーゼは、目的の生体分子を、1以上のペプチド結合を介してそれに結合した分子、好ましくはポリペプチドから、前記ペプチド結合の1以上を加水分解することによって遊離させる方法にも有用である。したがって、好ましい一実施形態においては、試料は、1以上のペプチド結合を介して、分子、好ましくはポリペプチドに結合した目的の生体分子を含む。1以上のペプチド結合は、本発明のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片によって切断することができる。
【0033】
本明細書では「目的の生体分子」という用語は、1以上の混入ポリペプチドも含む試料中の任意の生体分子を指し、前記試料からの前記生体分子の精製が望まれ、又は1以上のペプチド結合を介してそれに結合した分子からの前記生体分子の遊離が望まれる。好ましくは、目的の生体分子は、核酸分子、好ましくはDNA又はRNA分子である。あるいは、目的の生体分子は、それ自体がポリペプチドである。目的の生体分子は、本発明に有用であるプロテイナーゼでも酵素的に活性なその断片でもない。
【0034】
好ましくは、試料は細胞性物質を含む。好ましくは、試料はクルードな細胞抽出物を含む。好ましくは、試料は部分精製細胞抽出物を含む。好ましくは、試料は細胞集団を含む。前記試料中の細胞は、インタクトでも溶解されていてもよく、好ましくは溶解されていてもよい。好ましくは、試料は、組織試料又は1以上の体液を含む。好ましくは、試料は細針生検材料である。好ましくは、試料は封入ウイルスを含む。プロテイナーゼは、ウイルスのタンパク質カプセル中のRNA/DNAを遊離させて同定、定量化及び/又は増幅するために、該タンパク質カプセルの消化に使用することができる。
【0035】
好ましくは、本発明の試料は体積が≧10μlである。好ましくは、本発明の試料は体積が≦1000μl、より好ましくは≦500μl、より好ましくは≦300μl、より好ましくは≦250μl、より好ましくは≦200μl、より好ましくは≦150μl、より好ましくは≦100μl、より好ましくは≦75μl、より好ましくは≦50μlである。あるいは、試料はマイクロ流体試料である。好ましくは、本発明のマイクロ流体試料は体積が≧0.01μlである。好ましくは、本発明のマイクロ流体試料は体積が≦10μl、好ましくは≦5μl、より好ましくは≦1μl、より好ましくは≦0.5μl、より好ましくは≦0.1μlである。
【0036】
本明細書では「ポリペプチド」という用語は、本発明のプロテイナーゼによって加水分解され得る、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、オリゴペプチド及びトリペプチド、すなわち、ペプチド結合を介して連結された3以上のアミノ酸を含む任意の分子を指す。プロテイナーゼXは、3アミノ酸長と短いペプチドを加水分解することが知られている。「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「ペプチド」という用語は、本明細書では区別なく使用され、各々の使用は、タンパク質、ポリペプチド及びペプチドのいずれでもすべてを指すことが明確に意図される。したがって、本明細書に記載の試料中に存在するポリペプチドは、本発明のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の基質である。プロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片は、それ自体がポリペプチドであることは明白である。しかし、本明細書では「ポリペプチド」という用語は、本発明に有用であるプロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片を明確に除外する。
【0037】
「消化する」、「加水分解する、「分解する」及び「切断する」という用語は、本明細書では区別なく使用され、試料中のポリペプチド内のペプチド結合の加水分解を指す。消化は、部分消化でも完全消化でもよい。本発明に有用であるプロテイナーゼは、非特異的であり、十分な時間が与えられると、酵素機能を可能にする条件下で試料中のタンパク質を完全に消化する。
【0038】
本発明の組成物及び試料は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含み、前記プロテイナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0039】
配列番号1のアミノ酸配列は、以下のとおりである。ADQPSPTWGIDRIDQRNLPLDNNYHTDYDGSGVTAFVIDTGVLNTHNEFGGRASSGYDFIDNDYDATDCNGHGTHVAGTIGGSTYGVAKNVNVVGVRVLNCSGSGSNSGVIAGINWVKNNASGPAVANMSLGGGASQATDDAVNAAVAAGITFVVAAGNDNSNACNYSPARAADAITVGSTTSNDSRSSFSNYGTCLDIYAPGSSITSSWYTSNSATNTISGTSMASPHVAGVAALYLDENPNLSPAQVTNLLKTRATADKVTDAKTGSPNKLLFSLANDD
【0040】
配列番号1のプロテイナーゼは、Larsen et al.,(2006)FEBS
Journal 273:47-60に記載のように、ノルウェーの北部で単離された海洋セラチア種に由来するプロテイナーゼXのアミノ酸配列に基づく。プロテイナーゼXは、プロテイナーゼK様プロテイナーゼ[E.C.3.4.21]である。「プロテイナーゼX」、「プロテアーゼX」、「ProtX」、「PRX」、「ペプチダーゼX」、「セラチアペプチダーゼ」及び「SPRK」という用語は、本明細書では区別なく使用される。好ましくは、本発明のプロテイナーゼは、Serratia proteamaculansに由来する。プロテイナーゼXは、セリンペプチダーゼである。
【0041】
プロテイナーゼXをコードする遺伝子は、1890の塩基対(配列番号2)を有し、629のアミノ酸(65.5kDa、配列番号3)の前駆体タンパク質をコードする。
【0042】
配列番号2:
atgcataagaaacatttaatagcagtcgcagtcgcaacgggacttgcttacttccctgttaacgctaatgaataccaagcgactatggtaaatgtcccacaatctaaagccatcaaagatacttacatcgttgtattcaataccccaagtgttcttaatctaagtaataacaacaccatagctgaattcgcggttcaacaagccgagagtttagtcaatcaatatgatgtcagagtgatgaaaaactttggcaatgtgctcaacggtgtactcatcaatgccagtgcccaacaagttaaagcactgcttaaagatccaaacgtgaagtacgtagaacaagatcaagtgatgtcagtaacgcccatgatggaagccaatgcggaccaaccgagtccgacctggggcatagacagaatcgatcaacgcaacttgccattggataacaactaccacacggattacgatggatctggtgtgaccgcctttgttattgatactggggtgcttaatacacacaatgagtttggcggccgcgcaagcagtggctatgactttatcgataatgattacgatgcgactgactgtaacggtcatggtacccatgtggcggggacgattggcggctcaacctacggtgtcgcgaaaaacgtcaatgtggtgggcgtcagagtgcttaactgttcaggttctggcagtaactctggcgtgattgcagggataaactgggtgaaaaacaatgcttctggccccgctgtcgcgaacatgagtttagggggcggcgcctcccaagccacggatgatgccgtcaatgccgctgttgccgcagggatcaccttcgtcgtcgcagccggcaatgacaatagtaatgcctgtaattattcacctgctcgtgccgcagatgccatcactgtcggttcaaccaccagtaacgattcccgctcgagtttttctaactacgggacttgccttgatatctatgcgcccggttcgagcataacttcctcttggtatacctcaaattcggcgactaataccattagtggcacctcaatggcttccccccatgtggcaggcgtcgcggcattatacttagatgaaaatcctaacctctcccccgcacaggtgactaacttactcaagacgcgcgccactgcggacaaagtcacagatgctaagacaggctcaccgaataagttactgttttcacttgcaaacgatgatggaggctgtggcaacgattgcccagttgacgagactcagctgcaaaataatgtgggtattgcgatcagtggagccacaggttcagcgacttattactatatcgatgtccccgcaaatgcagcaagtttaggcatcaacctcgcggggggctctggcgatgcggatatttatgtgagccaaggacaaaaaccgactacgaccagctatcaatgccgcccatatcaaaatggcaacaatgagagctgtaatttcactgcacctacggcgggtcgttggtacgtgatggttcaaggctatagcaattatgccaacgcccagctgacagctagctacaacctcaatggcggcggaaattgtaccgatgcgaactgcttaagcaatggcgtacccgtcacgaatttaagcggcagaacgggaactgaagccctgtataaaatcgtcgtccctgcgaatagccaactcagtattaccaccagtggcgggactggtgacgtggatctgtatgtcaaagcagggactgtcccaacgaccaccagctatgattgtcgtccctataaaaacggtaacaatgaaagctgttcaatcaccgtgactcaagcgggaacttaccatgtgatgttacgtggttatgctaattactcgagcgttcagctgagtgcaagctactag
【0043】
配列番号3:MHKKHLIAVAVATGLAYFPVNANEYQATMVNVPQSKAIKDTYIVVFNTPSVLNLSNNNTIAEFAVQQAESLVNQYDVRVMKNFGNVLNGVLINASAQQVKALLKDPNVKYVEQDQVMSVTPMMEANADQPSPTWGIDRIDQRNLPLDNNYHTDYDGSGVTAFVIDTGVLNTHNEFGGRASSGYDFIDNDYDATDCNGHGTHVAGTIGGSTYGVAKNVNVVGVRVLNCSGSGSNSGVIAGINWVKNNASGPAVANMSLGGGASQATDDAVNAAVAAGITFVVAAGNDNSNACNYSPARAADAITVGSTTSNDSRSSFSNYGTCLDIYAPGSSITSSWYTSNSATNTISGTSMASPHVAGVAALYLDENPNLSPAQVTNLLKTRATADKVTDAKTGSPNKLLFSLANDDGGCGNDCPVDETQLQNNVGIAISGATGSATYYYIDVPANAASLGINLAGGSGDADIYVSQGQKPTTTSYQCRPYQNGNNESCNFTAPTAGRWYVMVQGYSNYANAQLTASYNLNGGGNCTDANCLSNGVPVTNLSGRTGTEALYKIVVPANSQLSITTSGGTGDVDLYVKAGTVPTTTSYDCRPYKNGNNESCSITVTQAGTYHVMLRGYANYSSVQLSASY
【0044】
配列番号3のプロテイナーゼは、126残基のN末端プレプロ配列、278残基の触媒ドメイン、及び合わせて225残基からなる2つのC末端ドメイン(反復配列)からなる。
【0045】
前記酵素は、以下の配列番号4の配列を有する385アミノ酸、約40.2kDaの活性ペプチダーゼとしてPichia pastoris中で組換え発現される。
NEYQATMVNVPQSKAIKDTYIVVFNTPSVLNLSNNNTIAEFAVQQAESLVNQYDVRVMKNFGNVLNGVLINASAQQVKALLKDPNVKYVEQDQVMSVTPMMEANADQPSPTWGIDRIDQRNLPLDNNYHTDYDGSGVTAFVIDTGVLNTHNEFGGRASSGYDFIDNDYDATDCNGHGTHVAGTIGGSTYGVAKNVNVVGVRVLNCSGSGSNSGVIAGINWVKNNASGPAVANMSLGGGASQATDDAVNAAVAAGITFVVAAGNDNSNACNYSPARAADAITVGSTTSNDSRSSFSNYGTCLDIYAPGSSITSSWYTSNSATNTISGTSMASPHVAGVAALYLDENPNLSPAQVTNLLKTRATADKVTDAKTGSPNKLLFSLANDD
【0046】
配列番号4の発現プロテイナーゼは、第1のC末端ドメインの最初の3残基以外の両方のC末端ドメインを除外し、配列番号3のN末端プレプロドメインの最初の22残基を除外する。この形のタンパク質は精製することができる。
【0047】
大腸菌でのプロテイナーゼXの組換え発現は、Larsen et al.,(2006)FEBS Journal 273:47-60に記載されている。
【0048】
発現に続いて、前記酵素は、自己分解によって成熟した、約34kDa、281残基の成熟タンパク質に転化される。該タンパク質は、触媒ドメイン及び3つのC末端アミノ酸残基を含み、十分な触媒活性を保持する(配列番号1)。
【0049】
配列番号4の残基1~104は、配列番号3の残基23~126に対応する。配列番号1の残基1~281は、配列番号4の残基105~385に対応し、配列番号3の残基127~407に対応する。
【0050】
したがって、本発明の各々及びすべての態様及び実施形態においては、プロテイナーゼは、配列番号1、配列番号3又は配列番号4、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列を含むことができる。配列番号3及び4は、配列番号1のプロテイナーゼの前駆体/未熟型である。当業者は、配列番号3又は4のプロテイナーゼの使用又は存在が、更なる自己分解プロセシングのために、配列番号1のプロテイナーゼの使用又は存在をもたらすことを理解されたい。簡略のため、本明細書のどこでも配列番号1という表記は、配列番号3及び/又は配列番号4も表すことが明確に意図される。
【0051】
本発明の組成物及び試料は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含み、前記プロテイナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0052】
「少なくとも約70%」とは、配列相同性が少なくとも69%、69.5%又は69.9%であり得ることを意味する。
【0053】
好ましい実施形態においては、本発明のプロテイナーゼは、配列番号1と少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%又は少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%又は95%、例えば、少なくとも98%、99%又は99.5%同一であるアミノ酸配列を含む、又はからなる。
【0054】
本発明に係る配列相同性割合は、広く利用可能なアルゴリズムのいずれかによって、例えば、ClustalW2 Multiple Sequence Alignmentプログラム(http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalW2)を用い、初期設定パラメータ(DNA Gap Open Penalty=15.0;DNA Gap Extension Penalty=6.66;DNA Matrix=Identity;Protein Gap Open Penalty=10.0;Protein Gap Extension Penalty=0.2;Protein matrix=Gonnet;Protein/DNA ENDGAP=-1;Protein/DNA GAPDIST=4)を用いて計算することができる。
【0055】
相同性割合は、好ましくは、上記配列番号1と変異体配列の整列後に配列番号1のN末端Ala残基(残基1)とC末端Asp残基(残基281)の間で決定される。
【0056】
配列番号1の変異体は、前記配列番号の1以上のアミノ酸が保存的置換を受けた、又は前記1以上のアミノ酸の修飾バージョン若しくは天然ではないアミノ酸、例えば、前記1以上のアミノ酸のD異性体で置換された、アミノ酸配列を含む。好ましくは、こうした置換及び修飾は、本発明のエキソヌクレアーゼの修飾体が未修飾体と同じ酵素及び不活性化特性を有する点でサイレントな置換及び修飾である。
【0057】
一部の実施形態においては、本発明のプロテイナーゼは、配列番号1と比較して単一又は複数のアミノ酸変化(付加、置換、挿入又は欠失)を有するアミノ酸配列を含む(又はからなる)。こうした配列は、好ましくは、最大10、例えば、1、2、4、4、5、6、7、8、9又は10のみ、好ましくは最大5、例えば、1、2、3、4又は5のみ、好ましくは1、2又は3、より好ましくは1又は2の改変されたアミノ酸を含むことができる。好ましくは、改変の数は、上記配列番号1と変異体配列の整列後に配列番号1のN末端Ala残基(残基1)とC末端Asp残基(残基281)の間で決定される。
【0058】
好ましくは、改変は、本発明の改変されたプロテイナーゼが不変型と同じ酵素及び不活性化特性を有する点でサイレントな改変である。置換は、保存又は非保存アミノ酸によるものとすることができる。好ましくは、前記改変は保存的アミノ酸置換である。前記改変は、配列番号1の1以上のアミノ酸の修飾バージョンによる置換、又は天然ではないアミノ酸、例えば、アミノ酸のD異性体による置換とすることができる。
【0059】
配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むプロテイナーゼは、冷水ニッチで見られる原核生物から得ることができる。「原核生物」とは、細胞核のない任意の生物、すなわち、細菌及び古細菌の領域由来の任意の生物を意味する。好ましくは、前記生物は細菌である。好ましくは、前記生物は、真核生物、例えば、分類学的な動物界、植物界、真菌界又は原生生物界に分類される生物ではない。より好ましくは、前記生物は、シュワネラ属、ハロモナス属、ビブリオ属、シクロモナス属、モリテーラ属及びセラチア属、好ましくはセラチア属から選択される。
【0060】
一部の実施形態においては、本発明の組成物及び試料は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含み、前記プロテイナーゼは、配列番号3若しくは4のアミノ酸配列又は配列番号3若しくは4と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含む。配列番号1に言及した本明細書の別の所の部分は、必要な変更を加えて配列番号3及び配列番号4にも当てはまる。
【0061】
好ましくは、本発明のプロテイナーゼは、配列番号1、3若しくは4のアミノ酸配列からなる、又は配列番号1、3若しくは4と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列からなる。
【0062】
好ましくは、本発明のプロテイナーゼは、配列番号1、3又は4のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態においては、本発明のプロテイナーゼは、配列番号1、3又は4のアミノ酸配列からなる。
【0063】
好ましくは、本発明のプロテイナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列からなる、又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列からなる。
【0064】
好ましくは、本発明のプロテイナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態においては、本発明のプロテイナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0065】
本発明のプロテイナーゼは、配列番号1又は配列番号4の配列の更なるアミノ酸N末端又はC末端を含むことができる。好ましくは、こうした更なるアミノ酸は、配列番号3の629アミノ酸配列内の配列番号1の配列のN又はC末端に見られるそれぞれの位置のアミノ酸と同一である。好ましくは、プロテイナーゼは、配列番号1又は配列番号4の配列の1~50、より好ましくは1~40、より好ましくは1~30、より好ましくは1~20、より好ましくは1~10、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10のアミノ酸N末端及び/又はC末端を含み、好ましくは、前記N及び/又はC末端アミノ酸は、配列番号3の配列内の配列番号1又は配列番号4の配列のN及び/又はC末端に見られるそれぞれのアミノ酸と同一である。
【0066】
本発明の溶液又は試料中に存在するプロテイナーゼは、修飾体、例えば、それらが直接的に又はペプチドリンカー配列を介して間接的に、N末端及び/又はC末端において更なるペプチドに結合した融合タンパク質の形とすることができる。好ましくは、追加のN末端ペプチドは、及びリンカー配列が存在する場合は合わせて、配列1~50、より好ましくは1~40、より好ましくは1~30、より好ましくは1~20、より好ましくは1~10、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10アミノ酸長を含む。好ましくは、追加のC末端ペプチドは、及びリンカー配列が存在する場合は合わせて、配列1~50、より好ましくは1~40、より好ましくは1~30、より好ましくは1~20、より好ましくは1~10、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10アミノ酸長を含む。
【0067】
したがって、一実施形態においては、本発明は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含む組成物を提供する。前記プロテイナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、
i)前記組成物中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMであり、又は
ii)前記組成物中の一価塩濃度が≧約20mMであり、
前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片は、更に、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列のN末端である更なるペプチド配列及び/又はC末端である更なるペプチド配列を含む。
【0068】
更なる1又は複数のペプチド配列は、プロテイナーゼの分泌、単離、可溶化及び/又は精製若しくは同定のプロセス、又はプロテイナーゼを固体支持体につなぎ留めるのに有用であり得る。適切なペプチド配列は当該技術分野でよく知られており、任意のこうした配列を使用することができる。適切なN及びC末端配列としては、例えば、好ましくは1~20、より好ましくは5~15、より好ましくは6、7、8、9、10、11又は12のヒスチジン残基、最も好ましくは6又は12のヒスチジン残基を含む、ヒスチジンタグが挙げられる。
【0069】
したがって、本発明のプロテイナーゼは、修飾プロテイナーゼとすることができる。更なる修飾としては、ポリペプチドの利用可能な原子への小さい化学基、例えば、N及びC末端又はポリペプチド内の非必須アミノ酸残基のR基への保護基の導入が挙げられる。別の実施形態においては、本発明のプロテイナーゼは、固体支持体、例えば、粒子、ペレット、ビーズ、シート、ゲル、フィルター、メンブレン、繊維、キャピラリー、チップ、マイクロタイターストリップ、スライド、チューブ、プレート、ウェルなどから選択される固体支持体上に固定化して提供することができる。好ましくは、支持体は磁性(好ましくは常磁性又は超常磁性)であり、例えば、磁性粒子、例えば、磁気ビーズ及びペレットである。更なる修飾体としては、発明のプロテイナーゼの二量体又は三量体が挙げられる。こうした実体は、それらのモノマー組成が均一でも不均一でもよい。
【0070】
好ましくは、こうした修飾は、本発明のプロテイナーゼの修飾体が未修飾体と同じ酵素特性及び不活性化特性を有する点でサイレントな修飾である。
【0071】
本発明のプロテイナーゼ及び変異プロテイナーゼの酵素的に活性な断片も提供される。酵素的に活性な断片は、プロテイナーゼ活性を有する断片である。酵素的に活性な断片は、配列番号1の配列の少なくとも225、好ましくは少なくとも235、好ましくは少なくとも250、より好ましくは少なくとも260、少なくとも270、少なくとも271、272、273又は274、より好ましくは少なくとも275、276、277、278、279又は280のアミノ酸を含むことができる。
【0072】
好ましくは、本発明の酵素的に活性な断片は、配列番号1の配列の5以下のアミノ酸、好ましくは4、3、2又は1以下のアミノ酸のN末端トランケーションを含む。その代わりに、又はそれに加えて、本発明の酵素的に活性な断片は、好ましくは、配列番号1の配列の30以下のアミノ酸、好ましくは29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1以下のアミノ酸のC末端トランケーションを含む。
【0073】
別の見方をすれば、本発明の酵素断片の長さは、好ましくは、配列番号1の長さ又は配列番号1と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列の長さの少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は99.5%である。
【0074】
本発明の酵素断片は、それ自体、配列番号1の対応する部分と好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%若しくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%(例えば、少なくとも98%、99%又は99.5%)、又は100%同一である。相同性割合を決定する方法については上記した。
【0075】
本願を通して、本発明のプロテイナーゼという表記は、別段の記載がない限り、酵素的に活性なその断片も表す。
【0076】
プロテイナーゼ(ペプチダーゼ又はプロテアーゼとも称する)は、タンパク質分解、すなわちペプチド結合の加水分解によってタンパク質異化を行う酵素である。したがって、本発明に係るプロテイナーゼは、プロテイナーゼ活性、すなわちプロテアーゼ活性、すなわちペプチダーゼ活性を有する酵素である。本発明の変異体及び酵素的に活性な断片もプロテイナーゼ活性を有する。
【0077】
配列番号1の変異体又は修飾体である本発明のプロテイナーゼは、配列番号1のプロテイナーゼのプロテイナーゼ活性の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも100%を示す。
【0078】
本発明の酵素的に活性な断片は、配列番号1のプロテイナーゼのプロテイナーゼ活性の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも100%を示す。
【0079】
プロテイナーゼ活性を分析する適切な分析は当該技術分野で知られており、任意のこうした分析を特定のポリペプチドのプロテイナーゼ活性の測定に使用することができる。したがって、こうした分析を用いて、本発明のプロテイナーゼ、変異プロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片のプロテイナーゼ活性を測定することができる。
【0080】
好ましい分析は、分光光度計で検出可能な生成物への基質の酵素切断、好ましくは、410nm(ε=8800M-1.cm-1)における吸光度の増加を測定することによって分析することができる4-ニトロアニリンへのSuc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAの切断の分析を含む。こうした吸光度を生じ、検出するのに適切な基質及び装置を特定することは当業者の能力の範囲内である。好ましくは、吸光度は、分光光度計又はマイクロプレートリーダーを用いて検出される。多数の分光光度計が、体積1000μlのキュベットを利用する。多数のマイクロプレートリーダーが体積250μlのウェルを利用する。
【0081】
当業者は、それらの目的に適切なインキュベーション温度及び分析時間も容易に決定することができる。当業者は、分析を行う温度を本発明のプロテイナーゼの不活性化をもたらさない温度、例えば、40℃未満、好ましくは25℃とすべきであることを知っているであろう。適切な分析時間は、30秒~5分間、例えば、2分間とすることができる。
【0082】
当業者は、分析に含まれる酵素の適切な濃度が、使用する分光光度計の検出範囲に依存することも知っているであろう。当業者は、当該分光光度計で検出することができる濃度、及び分析試料内の酵素活性レベルにするために、希釈ステップが分析を行う前に必要になり得ることを知っているであろう。10~50mU/mL、好ましくは13~26mU/mLの活性を使用することができ、これは、本実施例に使用される配列番号1のプロテイナーゼXの場合、0.2~0.4μg/mLに等しい。
【0083】
当業者は、分析混合物の残りをそれらの意図された目的で容易に処方することができるであろう。分析混合物は、本明細書の別の所で記述するpH緩衝剤、好ましくはTris-HCl、pH8を含むことができる。
【0084】
分析混合物は、好ましくは、プロテイナーゼを更に不活性化し得る低カルシウム条件が回避されるように過剰のカルシウムを含む(例えば、≧2mM、好ましくは約10mM)。NaClは、塩によって誘導されるプロテイナーゼの易熱性が誘導されないように、低濃度で存在し得る(例えば、≦15mM)。また、当業者は、必要に応じて、成分の必要濃度を供給するために、溶液を容易に希釈することができる。
【0085】
別の成分、例えば、DMSOを所望のとおりに反応混合物に添加することができ、又は別の成分、例えば、DMSOがワークフローのより早い段階で添加されたために存在することができ、活性分析に許容することができる。
【0086】
プロテイナーゼ活性を測定する好ましい分析は、(本明細書の実施例に使用される)分析Aである。分析Aは、1000μl又は250μlキュベット中で
13又は26mU/mLプロテイナーゼ(本実施例に使用される配列番号1のプロテイナーゼX0.2又は0.4μgに相当)
1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA
≦15mM NaCl(例えば、12mM NaCl又は4mM NaCl)
0.1mM Tris-HCl pH8、
10mM CaCl2、及び
1%DMSO(任意)をインキュベーションすること、及び
410nm(ε=8800M-1.cm-1)における吸光度の増加を分光光度計(例えば、Ultrospec 2000、Pharmacia Biotec、Sweden)を用いて25℃又は37℃で2分間測定することによって4-ニトロアニリンへの基質の切断を分析することを含む。1単位は、温度40℃未満、好ましくは25℃又は37°で1分間あたり1μmolの4-ニトロアニリンを生成する酵素の量と定義される。
【0087】
プロテイナーゼ活性を測定するために、当業者は別法を直接考え出すことができる。
【0088】
任意の適切な分析を使用して、本発明のプロテイナーゼの酵素的に活性な断片、変異体又は修飾体の相対活性を配列番号1のプロテイナーゼの活性と比較して測定することができる。当業者は、配列番号1のプロテイナーゼの活性を評価するのに使用されるのと同じ技術及び条件が、断片、変異体又は修飾体の活性を評価するのにも使用されるべきであることをよく知っているであろう。好ましくは、使用する分析は上記分析Aである。
【0089】
上記の好ましい分析Aによれば、プロテイナーゼXは比活性が約65U/mg(65.2U/mg)である。好ましくは、本発明の変異体、酵素断片及び修飾体は比活性が上記分析Aで測定して40~100U/mg、より好ましくは50~80U/mg、より好ましくは60~70U/mg、より好ましくは62.5~67.5U/mg、好ましくは約65U/mg又は65.2U/mgである。好ましくは、本発明の変異プロテイナーゼ及び酵素断片は、上記分析Aで測定して配列番号1のプロテイナーゼXと同じ比活性を有する。
【0090】
本発明の組成物及び試料は、好ましくは≦80μM遊離カルシウムを含む。本明細書では「遊離カルシウム」という用語は、本発明の組成物及び試料中で遊離した、すなわち結合していない、カルシウムイオン、すなわち本発明の組成物及び試料中に存在する任意のタンパク質又は他の成分に結合していないカルシウムイオン、すなわち自由になったカルシウムをもっぱら指す。本発明の組成物及び溶液中のカルシウム濃度という全体を通した表記は、遊離カルシウム濃度を表す。
【0091】
プロテイナーゼX(配列番号1)は、残基Asp11、Asp14、Gln15、Asp21及びAsn23によって形成されるカルシウム結合部位を含む。Ca2+イオンは、Asp11、Asp14及びAsp21の側鎖のカルボキシル酸素原子、Gln15のアミド酸素原子、並びにAsp11及びAsn23のカルボニル酸素原子に配位する。この結合カルシウムイオンは、正しいタンパク質折り畳みに必要である。したがって、本発明に有用であるプロテイナーゼは、天然には、この結合カルシウムイオンを含む。結合カルシウムイオンは、本発明に有用であるプロテイナーゼが組換え産生される場合にも存在する。プロテイナーゼの産生に使用されるどんな環境もカルシウムを必然的に含む。これは、結合イオンが折り畳まれたプロテイナーゼ構造中に存在することを意味する。こうした結合カルシウムイオンは、本明細書で使用する用語の「遊離カルシウム」ではない。
【0092】
本発明の組成物又は試料を調製する当業者は、溶液又は試料に入れる適切な溶質及び溶媒を単に選択することによって必要なカルシウム濃度を直接確実に得ることができる。多量のカルシウム非含有緩衝液に対する透析、例えば500~10000、好ましくは5000容量のカルシウム非含有緩衝液に対する透析によって、遊離カルシウムを溶液から除去することは、当業者の能力の範囲内である。適切な緩衝液は、当業者に明らかであり、好ましくは、本明細書の別の所で記述する緩衝液、例えば、10mM Tris-HCl、pH7~9であろう。好ましくは、前記緩衝液は更にグリセロールを含む。
【0093】
任意の所与の溶液又は試料中の遊離カルシウム濃度も、当業者が容易に測定することができる。カルシウムを測定する標準方法は、当該技術分野でよく知られており、例えば、EDTAの標準溶液を用いた滴定が挙げられる。
【0094】
結合カルシウムイオンは、強いカルシウムキレート剤、例えば、EDTAの適用によって、プロテイナーゼから除去することができる。しかし、多数の目的生体分子をEDTAに暴露することは望ましくない。さらに、EDTAは、多数の核酸関連酵素(例えば、ポリメラーゼ、ヌクレアーゼ)に必要であるMg2+イオンに結合する。こうした酵素は、プロテイナーゼを用いた試料調製に続く分子生物学技術に使用され、EDTAの存在はこの状況で特に問題になる。EDTAは、後続の下流のステップにおいて遊離Mg2+濃度に関する不確実性を持ち込み、望ましくない。Mg2+は、酵素機能に必要であるが、過剰であるとRNA分解を引き起こす。ポリペプチドを消化するどんな方法でも、試薬を含み、その後に除去することは、プロセスのコスト、時間及びワークフローを増加させるので、試薬を省略することが望ましい。
【0095】
本発明者らは、驚くべきことに、単に遊離カルシウムの非存在が本発明のプロテイナーゼにおいて易熱性を誘導するのに十分であることを見いだした。本発明者らは、驚くべきことに、プロテイナーゼXの易熱性が、遊離カルシウムイオン濃度の低い環境中にプロテイナーゼが存在するときに誘導されることを初めて明らかにした。本発明者らは、プロテイナーゼに結合し、その安定性及び構造に寄与し得るカルシウムイオンを、例えばEDTAを用いて、除去する必要がないことを確認した。それどころか、遊離カルシウムイオン濃度を低くするだけで、驚くべきことに、酵素に易熱性を誘導するのに十分である。こうした誘導可能な性質は予想外であり、実施例で示すように、分子生物学用途に使用される標準プロテイナーゼであるプロテイナーゼKでは認められない。
【0096】
したがって、好ましくは、本発明のプロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片は、それに結合したカルシウムイオンを含む。換言すれば、好ましくは、本発明の組成物及び試料は、プロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片をそれらの天然のカルシウム結合状態で含む。このシナリオでは、カルシウムはタンパク質の「補因子」と考えることができ、したがって、プロテイナーゼは、本発明の組成物及び試料中でそれらの「ホロ酵素型」である。ホロ酵素は、アポ酵素とその補因子(この場合はカルシウム)の組合せによって形成される生化学的に活性な酵素である。
【0097】
したがって、好ましくは、本発明の組成物及び試料は、EDTAを本質的に含まず、好ましくはEDTAを含まず、より好ましくはどんなカルシウムキレート剤も含まない。好ましくは、本発明の溶液及び試料中に存在するプロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片は、どの時点でもEDTAに暴露されず、より好ましくはどんなカルシウムキレート剤にも暴露されない。
【0098】
別の見方をすれば、本発明は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含む組成物であって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、
i)前記組成物中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記組成物がEDTAを本質的に含まない、好ましくはカルシウムキレート剤を本質的に含まない、又は
ii)前記組成物中の一価塩濃度が≧約20mMである、組成物を提供する。
【0099】
別の見方をすれば、本発明は、1以上のポリペプチド及びプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含む試料であって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、
i)前記試料中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記試料がEDTAを本質的に含まない、好ましくはカルシウムキレート剤を本質的に含まない、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、試料を提供する。
【0100】
別の見方をすれば、本発明は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を含む組成物であって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、
i)前記組成物中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記組成物がEDTAを本質的に含まない、好ましくはカルシウムキレート剤を本質的に含まない、又は
ii)前記組成物中の一価塩濃度が≧約20mMであり、
前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片が、更に、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列に対してN末端である更なるペプチド配列及び/又はC末端である更なるペプチド配列を含む、組成物を提供する。
【0101】
本明細書の別の所で記述する好ましい任意選択の特徴及び実施形態は、必要な変更を加えて、本発明の「別の見方をされた」態様にも当てはまる。特に、本明細書の別の所で開示する「遊離カルシウム」濃度は、EDTAを本質的に含まない、より好ましくはどんなカルシウムキレート剤も本質的に含まない、本発明の別の見方をされた組成物及び試料中の(「遊離カルシウム」と定義されない)カルシウムの好ましい濃度である。同じことが、「遊離カルシウム」ではなく「カルシウム」の濃度に言及し、本発明の方法の試料又は組成物がEDTAを本質的に含まないことを明示する以下の本発明の方法にも当てはまる。
【0102】
好ましくは、本発明のすべての態様の組成物及び試料は、EDTA及びEGTAを本質的に含まず、より好ましくは、結合カルシウムをプロテイナーゼX構造から除去可能なカルシウムキレート剤を本質的に含まず、より好ましくは、カルシウムキレート剤を本質的に含まない。
【0103】
例えばEDTA又は遊離カルシウムを、「本質的に含まない」とは、組成物及び試料が本質においてEDTA又は遊離カルシウムを含まないことを意味するが、それらがEDTA又は遊離カルシウムを完全に欠く厳密な要件が存在することを意味するものではない。例えば、本発明の組成物又は試料の調製に使用される市販品又は貯蔵液中の少量のEDTA又は遊離カルシウムの存在のために、EDTA又は遊離カルシウムの存在を防止するステップが取られた後でも僅少レベルのEDTA又は遊離カルシウムの可能性が存在する。詳細な検査によっていくらかのEDTAの存在が明らかになり得るものの、それは、意図された目的では存在しないとみなすことができるような少量で存在し、すなわち、EDTAの非存在下で生じるようなレベル又は程度と比較して、遊離カルシウムレベル又は本発明のプロテイナーゼに結合するカルシウムの程度を実質的に変えるレベルでは存在しない。
【0104】
カルシウムキレート剤に関連した「本質的に含まない」とは、試料中のプロテイナーゼX濃度とカルシウムキレート剤、例えば、EDTA又はEGTAの濃度の比が少なくとも10:1、より好ましくは少なくとも100:1、より好ましくは少なくとも1000:1であることを意味する。試料が1を超えるカルシウムキレート剤を含む場合、これらの比は、試料中のプロテイナーゼX濃度とカルシウムキレート剤全濃度の比である。
【0105】
詳細な検査によっていくらかの遊離カルシウムの存在が明らかになり得るものの、それは、意図された目的では存在しないとみなすことができるような少量で存在し、すなわち、遊離カルシウムの非存在下で生じるようなレベル又は程度と比較して、本発明のプロテイナーゼの易熱性を実質的に変えるレベルでは存在しない。
【0106】
好ましくは、本発明の組成物及び試料は、EDTAを完全に含まず、より好ましくは、結合カルシウムをプロテイナーゼX構造から除去可能なカルシウムキレート剤を含まず、より好ましくは、カルシウムキレート剤を含まない。
【0107】
好ましくは、本発明の組成物及び試料は、遊離カルシウムを完全に含まない、すなわち遊離カルシウムを含まない。
【0108】
本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは≦約80μM、好ましくは≦約65μM、より好ましくは≦約40μM、より好ましくは≦約35μM、≦約32μM又は≦約30μM、より好ましくは≦約25μM又は≦約20μM、より好ましくは≦約16μM又は≦約15μM、より好ましくは≦約10μM、より好ましくは≦約8μM又は≦約5μM、より好ましくは≦約2.5μMである。「≦約X」という用語は、「0~XmM」と同じである。好ましくは、本発明の組成物及び試料は、遊離カルシウムを含まない。
【0109】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、少なくとも約1μMである。すなわち、本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは約1~約80μM、より好ましくは約1~約65μM、好ましくは約1~約40μM、好ましくは約1~約35μM、好ましくは約1~約32μM、好ましくは約1~約30μM、好ましくは約1~約25μM、好ましくは約1~約20μM、好ましくは約1~約16μM、好ましくは約1~約15μM、好ましくは約1~約10μM、好ましくは約1~約8μM、好ましくは約1~約5μM、好ましくは約1~約2.5μMである。
【0110】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、少なくとも約2μMである。すなわち、本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは約2~約80μM、より好ましくは約2~約65μM、好ましくは約2~約40μM、好ましくは約2~約35μM、好ましくは約2~約32μM、好ましくは約2~約30μM、好ましくは約2~約25μM、好ましくは約2~約20μM、好ましくは約2~約16μM、好ましくは約2~約15μM、好ましくは約2~約10μM、好ましくは約2~約8μM、好ましくは約2~約5μM、好ましくは約2~約2.5μMである。
【0111】
好ましくは、本発明の組成物及び試料は、遊離カルシウムを本質的に含まない、より好ましくは遊離カルシウムを含まない。「本質的に含まない」という用語については、本明細書の別の所で定義するとおりである。
【0112】
特に好ましくは、本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、≦約35μM、≦約32μM、好ましくは≦約16μM、好ましくは≦約10μMである。特に好ましくは、本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、少なくとも約1μM、好ましくは少なくとも約2μMである。すなわち、特に好ましくは、本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、約1~約35μM、好ましくは約1~約32μM、好ましくは約2~約35μM、好ましくは約2~約32μM、好ましくは約1~約16μM、好ましくは約2~約16μM、好ましくは約1~約10μM、好ましくは約2~約10μMである。
【0113】
上述したように、好ましくは、本発明の組成物及び試料は、好ましくはこうした濃度の遊離カルシウムを含み、EDTAを本質的に含まず、好ましくはカルシウムキレート剤を本質的に含まない。
【0114】
好ましくは、本発明の組成物中のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の濃度は、0.1mg/ml~20mg/ml、より好ましくは0.5mg/ml~10mg/ml、最も好ましくは2mg/ml~5mg/mlである。
【0115】
上記好ましい分析Aを用いて、本発明者らは、プロテイナーゼXの比活性が約65U/mgであることを確認した。好ましくは、本発明の組成物中のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の活性は、上記分析Aによって測定して、0.0015U/μl~0.30U/μl、より好ましくは0.008U/μl~0.15U/μl、最も好ましくは約0.03U/μl~0.08U/μlである。
【0116】
好ましくは、本発明の試料中のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の濃度は、0.001mg/ml~5mg/ml、より好ましくは0.05mg/ml~0.5mg/ml、最も好ましくは0.015mg/ml~0.1mg/mlである。
【0117】
好ましくは、本発明の試料中のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の活性は、上記分析Aによって測定して、0.07U/ml~325U/ml、より好ましくは3.25U/ml~32.5U/ml、最も好ましくは1.0U/μl~6.5U/mlである。
【0118】
任意で、本発明の組成物又は試料は、抗体、一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)及び酵素からなる群から選択される1以上の更なる機能タンパク質を含む。
【0119】
好ましくは、前記更なる酵素は、ヌクレアーゼ(好ましくは、デオキシリボヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼ、Bal31ヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ又はS1ヌクレアーゼ)、ポリメラーゼ(好ましくは、DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼ)、逆転写酵素、トランスポザーゼ、リガーゼ、(好ましくは、DNAリガーゼ又はRNAリガーゼ)、メチラーゼ、ポリヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、トポイソメラーゼ、グアニリルトランスフェラーゼ、ホスファターゼ(好ましくはアルカリホスファターゼ、好ましくは易熱性アルカリホスファターゼ、より好ましくはエビアルカリホスファターゼ)、キナーゼ、ヘリカーゼ、制限酵素及びグリコシラーゼからなる群から選択される。組成物又は試料は、好ましくは、こうした更なる酵素の組合せを含む。
【0120】
好ましくは、組成物又は試料は、DNAポリメラーゼ又は逆転写酵素を含む。溶液又は試料が細胞又は細胞性物質を含む場合、それらは、好ましくは、外因性酵素である、すなわち、試料内の細胞でも試料中の細胞性物質が由来する細胞でも発現されない、こうした更なる酵素を含む。換言すれば、更なる酵素は、試料中の細胞又は細胞性物質によって供給されるのではなく、試料に適用される。これらの実施形態においては、内因的に産生される酵素の追加的存在は除外されない。
【0121】
本発明の組成物及び試料は、好ましくは、一価塩、好ましくは一価無機塩を含む。「塩」と「一価塩」という用語は、全体を通して同義で使用される。一価塩は、一価対イオンを含む塩である。二価塩は、対イオンの少なくとも1つが二価である塩、例えばMgCl2である。無機塩は、対イオンのどれも炭素を含まない塩である。好ましくは、塩は、ナトリウム塩又はカリウム塩、より好ましくはナトリウム塩である。好ましくは、塩は、塩化ナトリウム(NaCl)又は塩化カリウム(KCl)、最も好ましくは塩化ナトリウムである。
【0122】
別の見方をすれば、本発明の組成物及び試料は、好ましくは一価対イオンを含む。好ましくは、本発明の組成物及び試料は、一価カチオン及び好ましくは一価アニオンも含む。好ましくは、一価イオンは無機である。好ましくは、カチオンは、ナトリウムイオン又はカリウムイオン、好ましくはナトリウムイオンである。好ましくは、組成物及び試料は、ナトリウム及び塩化物イオン又はカリウム及び塩化物イオン、最も好ましくはナトリウム及び塩化物イオンを含む。本明細書に開示される一価塩の好ましい濃度は、本質的に、一価対イオンの好ましい濃度であり、その逆も同様である。
【0123】
実施例に示すように、本発明者らは、一価塩濃度の増加がプロテイナーゼXの易熱性を誘導するのに対して、一価塩濃度の増加がプロテイナーゼKを安定化して熱不活化することを初めて示した。この結果は、特に驚くべきことである。配列番号1のプロテイナーゼXは、塩水生物から得られ、したがって、通常、高塩分条件に耐えると予想される。それに対して、プロテイナーゼKは、非海洋性供給源、真菌Engyodontium album(以前はTritirachium album)から得られ、高塩分条件によって安定化されるとは予想されない。
【0124】
一価塩を含む本発明の試料及び組成物においては、好ましくは、組成物及び試料はpHが6.5~9.5、好ましくは6.8~9.2、より好ましくは7~9、より好ましくは7.5~8.5、より好ましくは約8.0である。
【0125】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、≧約20mM、好ましくは≧約25mM、より好ましくは≧約30mM、より好ましくは≧約40mM、より好ましくは≧約50mM、より好ましくは≧約75mM、より好ましくは≧約100mM、より好ましくは≧約125mM、より好ましくは≧約150mM、より好ましくは≧約175mMである。任意で、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、≧約200mM、≧約250mM、≧約300mM、≧約400mM又は≧500mMである。
【0126】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、≦約1M、好ましくは≦約500mM、好ましくは≦約350mMである。本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、好ましくは約20mM~約1M、好ましくは約20~約500mM、好ましくは約20~約400mM、好ましくは約20~約350mM、好ましくは約30~約350mM、好ましくは約40~約350mM、好ましくは約50~約350mM、好ましくは約75~約350mM、好ましくは約100~約350mM、好ましくは約125~約350mM、好ましくは約150~約350mM、好ましくは約175~約350mMである。任意で、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約200~約350mM、又は約300~約350mMである。
【0127】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、≦約500mM、好ましくは≦約400mM、好ましくは≦約300mM、好ましくは≦約250mM、好ましくは≦約200mM、好ましくは≦約175mM、好ましくは≦約150mMである。
【0128】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約20~約300mM、好ましくは約30~約300mM、好ましくは約40~約300mM、好ましくは約50~約300mM、好ましくは約75~約300mM、好ましくは約100~約300mM、好ましくは約125~約300mM、好ましくは約150~約300mM、好ましくは約175~約300mMである。任意で、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約200~約300mMである。
【0129】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約20~約250mM、好ましくは約30~約250mM、好ましくは約40~約250mM、好ましくは約50~約250mM、好ましくは約75~約250mM、好ましくは約100~約250mM、好ましくは約125~約250mM、好ましくは約150~約250mM、好ましくは約175~約250mMである。任意で、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約200~約250mMである。
【0130】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約20~約200mM、好ましくは約30~約200mM、好ましくは約40~約200mM、好ましくは約50~約200mM、好ましくは約75~約200mM、好ましくは約100~約200mM、好ましくは約125~約200mM、好ましくは約150~約200mM、好ましくは約175~約200mMである。
【0131】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約20~約175mM、好ましくは約30~約175mM、好ましくは約40~約175mM、好ましくは約50~約175mM、好ましくは約75~約175mM、好ましくは約100~約175mM、好ましくは約125~約175mM、好ましくは約150~約175mMである。
【0132】
好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約20~約150mM、好ましくは約30~約150mM、好ましくは約40~約150mM、好ましくは約50~約150mM、好ましくは約75~約150mM、好ましくは約100~約150mM、好ましくは約125~約150mMである。
【0133】
特に好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約20~約175mM、好ましくは約20~約150mM、好ましくは約50~約150mMである。特に好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約30~約175mM、好ましくは約30~約150mM、好ましくは約30~約150mMである。特に好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約40~約175mM、好ましくは約40~約150mM、好ましくは約40~約150mMである。
【0134】
好ましくは、本発明の組成物及び試料は、本明細書の別の所で定義する遊離カルシウム濃度及び一価塩濃度を含む。これによって、本明細書に開示される任意のカルシウム濃度値又は範囲と本発明のすべての態様及び実施形態に関して本明細書に開示される任意の一価塩濃度値又は範囲との組合せが明示される。好ましくは、一価塩はNaCl又はKCl、好ましくはNaClである。
【0135】
最高遊離カルシウム濃度と最低一価塩濃度の好ましい組合せを以下に示す。
【0136】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0137】
さらに、好ましくは、本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、少なくとも約1μM、より好ましくは少なくとも約2μMである。さらに、好ましくは、本発明の組成物及び試料中の一価塩濃度は、約500mM以下、好ましくは約400mM以下、好ましくは約350mM以下、好ましくは300mM以下、好ましくは約250mM以下、好ましくは約200mM以下、好ましくは約175mM以下、好ましくは約150mM以下である。
【0138】
最高遊離カルシウム濃度と一価塩濃度の好ましい組合せを以下に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
遊離カルシウム濃度と一価塩濃度の好ましい組合せを以下に示す。
【0141】
【表3】
【0142】
遊離カルシウム濃度と一価塩濃度の好ましい組合せを以下に示す。
【0143】
【表4】
【0144】
特に好ましくは、本発明の組成物及び試料中の遊離カルシウム濃度は、≦約5μM、好ましくは≦約2μM、より好ましくは≦約1μM、最も好ましくは約0mMである。特に好ましくは、組成物及び試料中の一価塩濃度は、20~125mM、好ましくは20~100mM、最も好ましくは20~50mMである。特に好ましくは、組成物及び試料中の一価塩濃度は、30~125mM、好ましくは30~100mM、最も好ましくは30~50mMである。
【0145】
本発明の組成物及び試料は、特に穏和な条件下で不活性化することができるプロテイナーゼを含む。したがって、組成物は、他の酵素のその後の使用又は事前の使用を含む、様々な分子生物学方法において有利な有用性を有する。こうした方法を以下に更に詳細に考察する。すなわち、更なる一態様は、
i)本発明の組成物及び
ii)第2の酵素を含む第2の組成物を含むキットを提供する。
【0146】
第2の酵素は、本発明のプロテイナーゼではない。任意で、前記キットは、複数の酵素を含む複数の溶液を含む。すなわち、それは、第3の酵素を含む第3の溶液、任意で、第4の酵素を含む第4の溶液などを含む。本発明のキット中に存在する各溶液は、好ましくは、その各々が本発明のプロテイナーゼではない異なる酵素を含む。好ましくは、第2の後続の溶液中の酵素は、ヌクレアーゼ(好ましくは、デオキシリボヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼ、Bal31ヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ又はS1ヌクレアーゼ)、ポリメラーゼ(好ましくは、DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼ)、逆転写酵素、リガーゼ、(好ましくは、DNAリガーゼ又はRNAリガーゼ)、メチラーゼ、トランスフェラーゼ(好ましくは、ポリヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ)、トポイソメラーゼ、グアニリルトランスフェラーゼ、プロテイナーゼX以外のプロテイナーゼ、及びホスファターゼ又はそれらの組合せからなる群から独立に選択される。
【0147】
好ましくは、本発明のキットは、本発明の組成物、及びDNAポリメラーゼ又は逆転写酵素を含む第2の組成物を含む。
【0148】
本発明の組成物及び試料は、特に穏和な熱処理ステップによって不活性化することができるプロテイナーゼを含む。したがって、組成物は、試料中の1以上のポリペプチドを消化するために試料へのプロテイナーゼの適用が必要である、又は望ましいが、存在する1以上の生体分子の構造又は機能に有害な影響を及ぼさないようにすることも望ましい、様々な分子生物学方法に有利な有用性を有する。標準プロテイナーゼの使用は、i)存在する目的生体分子を損傷させ得るかなりの期間の高温を使用した不活性化、又はii)ワークフロー、時間及びコストを増加させ、目的生体分子の損失若しくは損傷をもたらし得る、プロテイナーゼの除去/希釈を必要とする。本組成物は、こうした望ましくないプロセシングステップを必要としない方法を可能にする。
【0149】
本発明は、以下で考察する方法を提供する。本発明の組成物、試料及びキットに関する上記定義並びに好ましい任意選択の特徴及び実施形態は、必要な変更を加えて、本発明の任意のすべての方法に当てはまる。本発明のすべての方法に関連して、ポリペプチド、試料、プロテイナーゼ、酵素的に活性な断片、遊離カルシウム、遊離カルシウム濃度、一価塩及び一価塩濃度については、本明細書の別の所で記述する。特に、上で開示した特徴、並びに遊離カルシウム(又はカルシウム)、一価塩及びそれらの組合せの濃度のいずれも本発明の方法に有用であり、すなわち、好ましくは、本発明の方法において接触又は処理される試料は、本明細書の別の所で開示するように、ある濃度の遊離カルシウム、一価塩又はそれらの任意の組合せを含む。
【0150】
したがって、本発明の方法において接触される「試料」という用語は、1以上のポリペプチドを含む任意の組成物を指す。好ましくは、試料は細胞性物質を含む。好ましくは、試料はクルードな細胞抽出物を含む。好ましくは、試料は部分精製細胞抽出物を含む。好ましくは、試料は細胞集団を含む。前記試料中の細胞は、インタクトでも溶解されていてもよく、好ましくは溶解されていてもよい。好ましくは、試料は、組織試料又は1以上の体液を含む。好ましくは、試料は細針生検材料である。好ましくは、試料は封入ウイルスを含む。プロテイナーゼは、ウイルスのタンパク質カプセル中のRNA/DNAを遊離させて同定、定量化及び/又は増幅するために、該タンパク質カプセルの消化に使用することができる。
【0151】
好ましくは、試料は体積が≧10μlである。好ましくは、試料は体積が≦1000μl、より好ましくは≦500μl、より好ましくは≦300μl、より好ましくは≦250μl、より好ましくは≦200μl、より好ましくは≦150μl、より好ましくは≦100μl、より好ましくは≦75μl、より好ましくは≦50μlである。あるいは、試料はマイクロ流体試料である。好ましくは、マイクロ流体試料は体積が≧0.01μlである。好ましくは、マイクロ流体試料は体積が≦10μl、好ましくは≦5μl、より好ましくは≦1μl、より好ましくは≦0.5μl、より好ましくは≦0.1μlである。
【0152】
本明細書のどこでもプロテイナーゼという表記は、別段の記載がない限り、酵素的に活性なその断片も表す。
【0153】
本発明のすべての方法においては、好ましくは、試料は、EDTA、好ましくはどんなカルシウムキレート剤も本質的に含まない。この用語の意味については、本明細書の別の所で定義するとおりである。試料は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触した後に、EDTA、好ましくはどんなカルシウムキレート剤も本質的に含まない。
【0154】
したがって、更なる一態様においては、試料中のポリペプチドを消化する方法を提供する。前記方法は、試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップを含み、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである。
【0155】
別の見方をすれば、本発明は、試料中のポリペプチドを消化する方法であって、前記方法が、試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップを含み、
i)前記試料中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記試料がEDTAを本質的に含まない、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、方法を提供する。
【0156】
本発明のすべての方法、特に試料が一価塩を含む方法においては、好ましくは、試料はpHが6.5~9.5、好ましくは6.8~9.2、より好ましくは7~9、より好ましくは7.5~8.5、より好ましくは約8.0である。本発明者らは、本発明のプロテイナーゼが中性及び中性に近いpHを含めた穏和な条件下で不活性化され得ることを初めて確認した。
【0157】
好ましくは、試料中の遊離カルシウム(又はカルシウム)濃度は約80μM以下であり、かつ、前記試料中の一価塩濃度は少なくとも約20mMである。好ましくは、前記試料中の一価塩濃度は、少なくとも約30mM、より好ましくは少なくとも約40mM、より好ましくは少なくとも約50mMである。
【0158】
「消化する」、「加水分解する、「分解する」及び「切断する」という用語は、本明細書では区別なく使用され、試料中のポリペプチド内のペプチド結合の加水分解を指す。消化は、部分消化でも完全消化でもよい。本発明に有用であるプロテイナーゼは、非特異的であり、十分な時間が与えられると、酵素機能を可能にする条件下で試料中のタンパク質を完全に消化する。
【0159】
「接触させる」/「接触」、「に適用する」/「適用」及び「に添加する」/「添加」という用語は、それらの通常の意味を有し、本明細書では区別なく使用される。
【0160】
本発明の方法においては、好ましくは、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片は、上記した本発明の一組成物の形で提供される。
【0161】
好ましくは、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を0.001mg/ml~5mg/ml、より好ましくは0.05mg/ml~0.5mg/ml、最も好ましくは0.015mg/ml~0.1mg/mlの濃度で前記試料に添加する。これらの濃度は、試料中のプロテイナーゼ濃度である。
【0162】
好ましくは、試料に適用された後の、すなわち試料中の、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の活性は、上記分析Aによって測定して、0.07U/ml~325U/ml、より好ましくは3.25U/ml~32.5U/ml、最も好ましくは1.0U/μl~6.5U/mlである。
【0163】
したがって、本発明のプロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片は、試料中のポリペプチドを分解するのに使用される。特に、方法は、試料中に存在するポリペプチドの少なくとも一部の消化を可能にする条件下で試料を本発明のプロテイナーゼと接触させることを含む。したがって、好ましくは、試料がプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触した後に、方法は、更に、「消化ステップ」、すなわち試料中のポリペプチドの消化を可能にする条件下で試料をインキュベーションするステップを含む。必要な消化の量は、方法を実施する人の目的及び意図に依存し、必要な消化の量を達成する適切な条件は、当業者が容易に決定することができる。
【0164】
好ましくは、消化ステップは、温度4~65℃、より好ましくは20~55℃、最も好ましくは30~55℃で試料を加熱することを含む。好ましくは、インキュベーションステップは、継続時間が1秒~45分間、より好ましくは30秒~30分間、より好ましくは1~15分間、より好ましくは1~10分間、更により好ましくは1~5分間である。これらの範囲の上限の温度を使用する場合、インキュベーションの継続時間は、これらの範囲の下限とすることができ、その逆も同様である。当業者は、1又は2秒の極めて短いインキュベーションが、マイクロ流体試料を用いて行われる方法、及び試料中に存在する基質の量が少ない別の方法の場合には十分であることを知っている。
【0165】
好ましくは、上記方法は、後続の「不活性化ステップ」、すなわち、試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップを含む。こうした不活性化ステップは、試料をプロテイナーゼと接触させるステップの後、及び試料中のポリペプチドの消化を可能にする条件下で試料をインキュベーションするステップの後に行われる。
【0166】
消化及び不活性化のこれらのステップは、一般にインキュベーションであり、本明細書、特に実施例に記載されている。pH並びに(遊離)カルシウム、一価塩及びEDTA濃度に関する上記特徴及び実施形態は、不活性化ステップが行われる時点の試料における条件である。
【0167】
したがって、更なる一態様においては、試料中のポリペプチドを消化する方法であって、前記方法が、
a)試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)試料中のポリペプチドの少なくとも部分的消化を可能にする条件下で試料をインキュベーションするステップ、及び
c)試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップ、ここで、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、ステップを含む方法を提供する。
【0168】
別の見方をすれば、上記方法のステップc)は、
c)試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化すること、ここで、
i)前記試料中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記試料がEDTAを本質的に含まない、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、を含む。
【0169】
好ましくは、前記試料中の遊離カルシウム(又はカルシウム)濃度は約80μM以下であり、かつ、前記試料中の一価塩濃度は少なくとも約20mMである。好ましくは、一価塩は、一価無機塩、好ましくはナトリウム塩又はカリウム塩、より好ましくは塩化カリウム又は塩化ナトリウム、最も好ましくは塩化ナトリウムである。消化ステップb)については、上述したとおりである。
【0170】
上述したように、消化は部分消化でも完全消化でもよい。本発明に有用であるプロテイナーゼは、非特異的であり、十分な時間が与えられると、酵素機能を可能にする条件下で試料中のタンパク質を完全に消化する。
【0171】
ここで、「試料中のポリペプチドを消化する」とは、試料中の完全長ポリペプチド量がある程度まで減少することを意味する。タンパク質消化の程度は、幾つかの周知の分析によって直接分析することができる。適切な分析をそれらの意図された目的で設計することは、当業者の能力の範囲内であろう。例えば、試料中の酵素の残存活性をタンパク質分解の尺度として使用することができる。例えば質量分析法によって測定することができる、プロテオームプロファイルの変化を使用して、試料におけるポリペプチド分解の程度を測定することもできる。タンパク質分解の程度を可視化する単純な分析は、SDS Page及びクーマシーブルーなどのタンパク質染色色素又は他の視覚的なレポーター分子を用いた染色を行うことである。インタクトなタンパク質は、ゲルに沿ってバンドとして表示され、バンドはタンパク質分解の増加と共にシャープでなくなる。分解の程度は、ソフトウェアに基づく画像解析によって定量化することができる。
【0172】
好ましくは、プロテイナーゼを添加した試料は、細胞性物質を含む。好ましくは、試料はクルードな細胞抽出物を含む。好ましくは、試料は部分精製細胞抽出物を含む。好ましくは、試料は細胞集団を含む。前記試料中の細胞は、インタクトでも溶解されていてもよく、好ましくは溶解されていてもよい。好ましくは、試料は、組織試料又は1以上の体液を含む。好ましくは、試料は、約1~約1,000,000の細胞を含む。好ましい一実施形態においては、試料は、1~10,000の細胞、好ましくは1~1000の細胞、好ましくは1~100の細胞を含む。好ましい一実施形態においては、試料は単細胞を含む。別の好ましい実施形態においては、試料は、100~1,000,000の細胞、好ましくは100~10,000の細胞、好ましくは100~1000の細胞を含む。好ましくは、試料は細針又は液体生検材料である。プロテイナーゼは、細胞性物質の溶解に使用することができる。
【0173】
本発明のプロテイナーゼを使用して、試料中に存在する任意のポリペプチドを消化することができる。好ましくは、試料中のポリペプチドとしては、本明細書の別の所で記述するものなど、カプシド若しくは足場タンパク質、DNA若しくはRNA結合タンパク質、及び/又はDNA若しくはRNAに作用する酵素が挙げられる。
【0174】
更なる一態様においては、本発明は、試料中のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化する方法を提供する。前記プロテイナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、前記方法は、試料を加熱して前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性な断片を不活性化するステップを含み、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである。
【0175】
別の見方をすれば、本発明は、試料中のプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化する方法であって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含み、前記方法が、試料を加熱して前記プロテイナーゼ又は酵素的に活性な断片を不活性化するステップを含み、
i)前記試料中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記試料がEDTAを本質的に含まない、好ましくはカルシウムキレート剤を本質的に含まない、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、方法を提供する。
【0176】
本発明の方法のすべてにおいては、好ましくは、前記試料中の遊離カルシウム(又はカルシウム)濃度が約80μM以下であり、かつ、前記試料中の一価塩濃度が少なくとも約20mMである。好ましくは、一価塩は、一価無機塩、好ましくはナトリウム塩又はカリウム塩、より好ましくは塩化カリウム又は塩化ナトリウム、最も好ましくは塩化ナトリウムである。
【0177】
上述したように、本発明の方法においては、本明細書の別の所で記述する遊離カルシウム(又はカルシウム)及び一価塩濃度は、不活性化ステップの開始時の試料中濃度である。好ましくは、濃度は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片との接触後の試料中濃度でもある。本発明の方法においては、好ましくは、プロテイナーゼは、例えば、精製、抽出又は遠心分離によって、試料から除去されず、好ましくは、試料中のプロテイナーゼ濃度は、不活性化ステップ前又はステップ中に希釈されない。
【0178】
本発明は、本明細書に記載のプロテイナーゼが、遊離カルシウム及び/又は一価塩のある濃度が与えられると、穏和な条件下で易熱性になるという驚くべき知見に基づく。したがって、これらの条件は、本発明の方法の不活性化ステップ中に存在する必要がある。当業者は、試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させると、試料の体積が増加し、したがってその中の遊離カルシウム及び一価塩濃度が減少し得ることを容易に理解するであろう。使用中、好ましくは、本発明の組成物は、試料の体積を大きく変えない小さい体積を有する。同様に、本発明のプロテイナーゼは、本発明によれば、溶液中の遊離カルシウム濃度が約80μMを超え、及び/又は一価塩濃度が約20mM未満であるが、それが添加される試料中の遊離カルシウム及び/又は一価塩の体積及び濃度は、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片が適用された生成試料が約80μM以下の遊離カルシウム濃度及び少なくとも約20mMの一価塩濃度を含むような溶液中で提供することができる。。
【0179】
好ましくは、本発明の方法における前記不活性化ステップは、前記試料中の前記プロテイナーゼの活性を、前記不活性化ステップが行われる前の試料中のプロテイナーゼの活性に対して少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%又は少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%減少させることを含む。別の見方をすれば、好ましくは、前記不活性化ステップは、25%未満、より好ましくは20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満の残存プロテイナーゼ活性をもたらす。好ましくは、プロテイナーゼは完全に不活性化され、すなわち、好ましくは、検出可能なプロテイナーゼ活性が残らない。
【0180】
熱処理プロテイナーゼを含む溶液が温度40℃未満に戻っても、本発明のプロテイナーゼは活性を取り戻さず、すなわち、残存活性がほとんどなく、具体的には、10%未満、好ましくは5%、2%、1%、0.5%又は0.1%未満であり、最も好ましくは検出可能なプロテイナーゼ活性が残らない。したがって、本明細書で言う不活性化は不可逆である。
【0181】
上述したように、プロテイナーゼ活性を測定する適切な分析は、当該技術分野で既知である。したがって、こうした分析を使用して、熱処理を受けない同じプロテイナーゼのプロテイナーゼ活性と比較して、熱処理によって不活性化を受けたプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片のプロテイナーゼ活性を測定することができ、それによって、残存活性、又は不活性化ステップによって達成される不活性化の程度を求めることができる。任意のプロテイナーゼ活性分析を使用して、未処理プロテイナーゼに対する熱処理プロテイナーゼの相対活性を求めることができる。同じ熱処理及び未処理プロテイナーゼは、同一条件下で維持すべきであり、同一手順で分析すべきであることを当業者はよく知っているであろう。好ましくは、使用される分析は上記分析Aであり、好ましくは、未処理プロテイナーゼは、プロテイナーゼ活性が測定されるまで氷上で維持される。残存活性の更に好ましい分析は、実施例に開示したものである。
【0182】
したがって、本発明の方法の不活性化ステップ後の残存活性、すなわち、本発明の方法の不活性化ステップによって達成される不活性化の程度は、不活性化ステップを受けたプロテイナーゼのプロテイナーゼ活性を適切なプロテイナーゼ分析を用いて適切な条件下で測定し、それをこうした不活性化ステップを受けなかった同じプロテイナーゼの活性と比較することによって、当業者が容易に測定することができる。活性は、同じ分析を用いて同じ条件下で測定される。好ましくは、使用される分析は上記分析Aであり、又は本実施例に使用される分析のいずれか一つである。好ましくは、未処理プロテイナーゼは、プロテイナーゼ活性が測定されるまで氷上で維持される。
【0183】
不活性化の程度は、未処理プロテイナーゼの活性に対する不活性化率又は残存活性率として表すことができる。
【0184】
試料中の遊離カルシウム濃度が約80μM以下であり、及び/又は試料中の一価塩濃度が少なくとも約20mMであるため、試料中のプロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片を穏和な加熱条件で不活性化することができる。
【0185】
試料を所望の温度に所望の時間、例えば、熱ブロック、マイクロ波、ジュール加熱装置、レーザー加熱装置又は水浴を使用して、加熱することは当業者の能力の範囲内であろう。
【0186】
本方法の不活性化ステップ中に試料を加熱する温度、すなわち、プロテイナーゼを暴露する温度を不活性化温度と称する。好ましくは、前記不活性化温度は、≦約70℃、好ましくは≦約67℃、好ましくは≦約65℃、好ましくは≦約64℃、好ましくは≦約63℃、好ましくは≦約62℃、好ましくは≦約61℃、好ましくは≦約60℃、好ましくは≦約58℃である。
【0187】
好ましくは、前記不活性化ステップは、プロテイナーゼを含む試料を温度約50~約67℃、好ましくは約50~約65℃、好ましくは約50~約64℃、好ましくは約50~約63℃、好ましくは約50~約62℃、好ましくは約50~約61℃、好ましくは約50~約60℃、好ましくは約50~約58°に加熱することを含む。
【0188】
好ましくは、前記不活性化ステップは、プロテイナーゼを含む試料を温度約53~約67℃、好ましくは約53~約65℃、好ましくは約53~約64℃、好ましくは約53~約63℃、好ましくは約53~約62℃、好ましくは約53~約61℃、好ましくは約53~約60℃、好ましくは約53~約58°に加熱することを含む。
【0189】
好ましくは、前記不活性化ステップは、プロテイナーゼを含む試料を温度約55~約67℃、好ましくは約55~約65℃、好ましくは約55~約64℃、好ましくは約55~約63℃、好ましくは約55~約62℃、好ましくは約55~約61℃、好ましくは約55~約60℃に加熱することを含む。
【0190】
好ましくは、前記不活性化ステップは、プロテイナーゼを含む試料を温度約56~約67℃、好ましくは約56~約65℃、好ましくは約56~約64℃、好ましくは約56~約63℃、好ましくは約56~約62℃、好ましくは約56~約61℃、好ましくは約56~約60℃に加熱することを含む。
【0191】
好ましくは、前記不活性化ステップは、プロテイナーゼを含む試料を温度約57~約67℃、好ましくは約57~約65℃、好ましくは約57~約64℃、好ましくは約57~約63℃、好ましくは約57~約62℃、好ましくは約57~約61℃、好ましくは約57~約60℃に加熱することを含む。
【0192】
好ましくは、前記不活性化ステップは、プロテイナーゼを含む試料を温度約58~約67℃、好ましくは約58~約65℃、好ましくは約58~約64℃、好ましくは約58~約63℃、好ましくは約58~約62℃、好ましくは約58~約61℃、好ましくは約58~約60℃に加熱することを含む。
【0193】
好ましくは、前記不活性化ステップは、プロテイナーゼを含む試料を温度約59~約67℃、好ましくは約59~約65℃、好ましくは約59~約64℃、好ましくは約59~約63℃、好ましくは約59~約62℃、好ましくは約59~約61℃、好ましくは約59~約60℃に加熱することを含む。
【0194】
好ましくは、前記不活性化ステップは、プロテイナーゼを含む試料を温度約55℃~約65℃、好ましくは約60℃~約65℃、より好ましくは約55℃~約60℃に加熱することを含む。
【0195】
特に好ましくは、前記不活性化ステップは、約53℃~約60℃、より好ましくは約53℃~約58℃、より好ましくは約55℃で加熱することを含む。
【0196】
特に好ましくは、前記不活性化ステップは、約58℃~約67℃、より好ましくは約58℃~約63℃、より好ましくは約60℃で加熱することを含む。
【0197】
特に好ましくは、前記不活性化ステップは、約60~約67℃、より好ましくは約63~約67℃、より好ましくは約65℃で加熱することを含む。
【0198】
好ましくは、不活性化ステップは、試料を上記温度のいずれか一つで「保持時間」と呼ばれる時間加熱することを含む。必要な保持時間は、使用する不活性化温度、試料中の遊離カルシウム及び一価塩濃度、並びに必要な不活性化の程度に依存する。本願の教示を考慮して、当業者は、それら特定の目的のための保持時間を選択することができるであろう。
【0199】
好ましくは、保持時間は、≦約75分間、好ましくは≦約60分間、好ましくは≦約55分間、好ましくは≦約50分間、好ましくは≦約45分間、好ましくは≦約40分間、好ましくは≦約35分間、好ましくは≦約30分間、好ましくは≦約25分間、好ましくは≦約20分間、好ましくは≦約15分間、好ましくは≦約10分間、好ましくは≦約5分間、好ましくは≦約2分間である。
【0200】
好ましくは、保持時間は、少なくとも約1分間、好ましくは少なくとも約2分間、好ましくは少なくとも約5分間、好ましくは少なくとも約10分間、好ましくは少なくとも約15分間、好ましくは少なくとも約20分間、好ましくは少なくとも約25分間、好ましくは少なくとも約30分間、好ましくは少なくとも約35分間、好ましくは少なくとも約40分間、好ましくは少なくとも約45分間、好ましくは少なくとも約50分間、好ましくは少なくとも約60分間である。
【0201】
好ましくは、保持時間は、約2~約75分間、好ましくは約2~約60分間、好ましくは約2~約55分間、好ましくは約2~約50分間、好ましくは約2~約45分間、好ましくは約2~約40分間、好ましくは約2~約35分間、好ましくは約2~約30分間、好ましくは約2~約25分間、好ましくは約2~約20分間、好ましくは約2~約15分間、好ましくは約2~約10分間、好ましくは約2~約5分間である。
【0202】
好ましくは、保持時間は、約5~約75分間、好ましくは約5~約60分間、好ましくは約5~約55分間、好ましくは約5~約50分間、好ましくは約5~約45分間、好ましくは約5~約40分間、好ましくは約5~約35分間、好ましくは約5~約30分間、好ましくは約5~約25分間、好ましくは約5~約20分間、好ましくは約5~約15分間、好ましくは約5~約10分間である。
【0203】
好ましくは、保持時間は、約10~約75分間、好ましくは約10~約60分間、好ましくは約10~約55分間、好ましくは約10~約50分間、好ましくは約10~約45分間、好ましくは約10~約40分間、好ましくは約10~約35分間、好ましくは約10~約30分間、好ましくは約10~約25分間、好ましくは約10~約20分間、好ましくは約10~約15分間である。
【0204】
好ましくは、保持時間は、約15~約75分間、好ましくは約15~約60分間、好ましくは約15~約55分間、好ましくは約15~約50分間、好ましくは約15~約45分間、好ましくは約15~約40分間、好ましくは約15~約35分間、好ましくは約15~約30分間、好ましくは約15~約25分間、好ましくは約15~約20分間である。
【0205】
好ましくは、保持時間は、約20~約75分間、好ましくは約20~約60分間、好ましくは約20~約55分間、好ましくは約20~約50分間、好ましくは約20~約45分間、好ましくは約20~約40分間、好ましくは約20~約35分間、好ましくは約20~約30分間、好ましくは約20~約25分間である。
【0206】
好ましくは、保持時間は、約25~約75分間、好ましくは約25~約60分間、好ましくは約25~約55分間、好ましくは約25~約50分間、好ましくは約25~約45分間、好ましくは約25~約40分間、好ましくは約25~約35分間、好ましくは約25~約30分間である。
【0207】
好ましくは、保持時間は、約30~約75分間、好ましくは約30~約60分間、好ましくは約30~約55分間、好ましくは約30~約50分間、好ましくは約30~約45分間、好ましくは約30~約40分間、好ましくは約30~約35分間である。
【0208】
好ましくは、保持時間は、約35~約75分間、好ましくは約35~約60分間、好ましくは約35~約55分間、好ましくは約35~約50分間、好ましくは約35~約45分間、好ましくは約35~約40分間である。
【0209】
好ましくは、保持時間は、約40~約75分間、好ましくは約40~約60分間、好ましくは約40~約55分間、好ましくは約40~約50分間、好ましくは約40~約45分間である。
【0210】
好ましくは、保持時間は、約45~約75分間、好ましくは約45~約60分間、好ましくは約45~約55分間、好ましくは約45~約50分間である。
【0211】
好ましくは、保持時間は、約50~約75分間、好ましくは約50~約60分間、好ましくは約50~約55分間である。
【0212】
好ましくは、保持時間は、約55~約75分間、好ましくは約55~約60分間である。
【0213】
好ましくは、保持時間は、約5分間~約40分間、好ましくは約10~約35分間、好ましくは約15~約30分間である。特に好ましくは、保持時間は、約5~約15分間、又は約10~約20分間、又は約20~約40分間、好ましくは約25~約35分間である。
【0214】
上記保持時間は、体積≦1000μl、好ましくは≦500μl、より好ましくは≦300μl、より好ましくは≦250μl、より好ましくは≦200μl、より好ましくは≦150μl、より好ましくは≦100μl、より好ましくは≦75μl、より好ましくは≦50μlである試料に特に適切である。
【0215】
当業者は、加熱温度と保持時間の一方の調節を他方を調節することによって補償できることを知っている。例えば、不活性化温度の上昇によって、保持時間を短縮できる可能性がある。逆に、保持時間の延長によってより低い不活性化温度を使用できる可能性がある。
【0216】
さらに、当業者は、存在するプロテイナーゼの量が少ないとき、例えば、マイクロ流体試料の場合には、十分な不活性化が極めて短い時間枠で、例えば、1~30秒、好ましくは1~20秒、好ましくは1~10秒、好ましくは1~5秒、潜在的には1又は2秒のみのうちにでも起こり得ることを知っている。上記不活性化温度のいずれもこれらの短い保持時間で使用することができる。こうした短い保持時間が有効であるためには、不活性化されるプロテイナーゼを含む試料は、好ましくは、体積が≦10μl、好ましくは≦5μl、より好ましくは≦1μl、より好ましくは≦0.5μl、より好ましくは≦0.1μlである。
【0217】
不活性化ステップを含む本発明の方法においては、上記不活性化温度のいずれかを上記保持時間のいずれかと組み合わせて使用することができる。本明細書の別の所で開示する不活性化温度と保持時間の任意のすべての組合せが明確に開示される。
【0218】
好ましくは、不活性化ステップは、温度約53℃~約67℃、好ましくは約55℃~約65℃、好ましくは約55~約63℃で保持時間約2~約75分間、好ましくは約5~約40分間、より好ましくは約10~約30分間、例えば、約10、約15又は約30分間の加熱を含む。
【0219】
好ましくは、不活性化ステップは、温度約55~約60℃で保持時間約2~約75分間、好ましくは約5~約40分間、より好ましくは約10~約30分間、例えば、約10、約15又は約30分間の加熱を含む。
【0220】
好ましくは、不活性化ステップは、温度約60~約65℃で保持時間約2~約75分間、好ましくは約5~約40分間、より好ましくは約10~約20分間、例えば、約10又は約15分間の加熱を含む。
【0221】
本発明の好ましい不活性化ステップは、以下のとおりである。
【0222】
A)約53~約58℃、好ましくは約55℃で約45~約75分間、より好ましくは約45~約60分間、より好ましくは約60分間の加熱。
こうした実施形態においては、試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは≦約10μM、より好ましくは≦約8μM、より好ましくは≦5μMであり、より好ましくは、試料は遊離カルシウムを含まない。
【0223】
その代わりに、又はそれに加えて、こうした実施形態においては、試料中の一価塩濃度は、好ましくは少なくとも約50mM、より好ましくは少なくとも約75mM、より好ましくは少なくとも約100mM又は少なくとも約150mMである。
【0224】
B)約58~約63℃、好ましくは約60℃で下記B1~B4のいずれか一つに記載の以下の時間の加熱。
B1)約2~約40分間、より好ましくは約5~約30分間。
こうした実施形態においては、試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは≦約80μM、より好ましくは≦約65μM、より好ましくは≦約35μM、より好ましくは≦約20μM、より好ましくは≦約10μM、より好ましくは≦約5μMである。
【0225】
その代わりに、又はそれに加えて、こうした実施形態においては、試料中の一価塩濃度は、好ましくは少なくとも約20mM、より好ましくは少なくとも約25mM、より好ましくは少なくとも約30mM、より好ましくは少なくとも約40mM、より好ましくは少なくとも約50mM、より好ましくは少なくとも約75mM、より好ましくは少なくとも約100mM、より好ましくは少なくとも約150mMである。
【0226】
B2)約5~約15分間、より好ましくは約10分間。
こうした実施形態においては、試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは≦約10μM、≦約8μM、より好ましくは≦約5μMであり、より好ましくは、試料は遊離カルシウムを含まない。
【0227】
その代わりに、又はそれに加えて、こうした実施形態においては、試料中の一価塩濃度は、好ましくは少なくとも約75mM、より好ましくは少なくとも約100mM、より好ましくは少なくとも約150mMである。
【0228】
B3)約10~約20分間、より好ましくは約15分間。
こうした実施形態においては、試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは≦約35μM、より好ましくは≦約16μM、より好ましくは≦約8μM、より好ましくは≦約5μMであり、より好ましくは、試料は遊離カルシウムを含まない。
【0229】
その代わりに、又はそれに加えて、こうした実施形態においては、試料中の一価塩濃度は、好ましくは少なくとも約50mM、より好ましくは少なくとも約75mM、より好ましくは少なくとも約100mM、より好ましくは少なくとも約150mMである。
【0230】
B4)約20~40分間、より好ましくは約30分間。
こうした実施形態においては、試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは≦約80μM、≦約65μM、より好ましくは≦約35μM、より好ましくは≦約30μM、より好ましくは≦約16μMである。
【0231】
その代わりに、又はそれに加えて、こうした実施形態においては、試料中の一価塩濃度は、好ましくは少なくとも約25mM、より好ましくは少なくとも約30mM、より好ましくは少なくとも約40mM、より好ましくは少なくとも約50mM、より好ましくは少なくとも約75mM、より好ましくは少なくとも約100mMである。
【0232】
好ましくは、こうした実施形態においては、一価塩濃度が100mM以下である場合、カルシウム濃度は30μM以下である。好ましくは、一価塩濃度が75mM以下である場合、カルシウム濃度は20μM以下である。好ましくは、一価塩濃度が50mM以下である場合、カルシウム濃度は10μM以下である。
【0233】
C)約63~約67℃、好ましくは約65℃で最大約15分間、より好ましくは最大約10分間、より好ましくは最大約5分間加熱。
こうした実施形態においては、試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは≦約80μM、より好ましくは≦約65μM、より好ましくは≦約35μM、より好ましくは≦約20μM、より好ましくは≦約10μM、より好ましくは≦約5μMである。
【0234】
その代わりに、又はそれに加えて、こうした実施形態においては、試料中の一価塩濃度は、好ましくは少なくとも約20mM、より好ましくは少なくとも約25mM、より好ましくは少なくとも約30mM、より好ましくは少なくとも約40mM、より好ましくは少なくとも約50mM、より好ましくは少なくとも約75mM、より好ましくは少なくとも約100mMである。
【0235】
本発明者らによって確認された易熱性に対する遊離カルシウム依存的及び一価塩依存的な効果も、本発明のプロテイナーゼ及び酵素的に活性なその断片の不活性化を高温で驚くほど短時間で可能にする。したがって、別の好ましい一実施形態においては、不活性化ステップは、以下を含む。
【0236】
D)約65~約70℃、好ましくは約67~約70℃、より好ましくは約67℃又は約70で最大約5分間、より好ましくは最大約2分間の加熱。
こうした実施形態においては、試料中の遊離カルシウム濃度は、好ましくは≦約80μM、より好ましくは≦約65μM、より好ましくは≦約35μM、より好ましくは約≦20μMである。
【0237】
その代わりに、又はそれに加えて、こうした実施形態においては、試料中の一価塩濃度は、好ましくは少なくとも約20mM、より好ましくは少なくとも約25mM、より好ましくは少なくとも約30mM、より好ましくは少なくとも約40mM、より好ましくは少なくとも約50mM、より好ましくは少なくとも約75mM、より好ましくは少なくとも約100mMである。
【0238】
最も好ましくは、加熱/不活性化ステップc)は、試料を温度55~60℃で15~30分間加熱することを含む。
【0239】
パラメータである加熱時間、加熱温度、遊離カルシウム濃度及び一価塩濃度の1つの調節は、その他の1つ以上の調節によって補償できることを当業者は容易に理解できる。
【0240】
しかし、非常に重要なことに、本発明によれば、最高遊離カルシウム濃度は80μMである。有利な穏和な条件下で、特に不活性化温度53~67℃及び保持時間2~75分間、好ましくは5~60分間、より好ましくは10~40分間、好ましくは15~30分間で、プロテイナーゼの実質的な不活性化(75%不活性化)が達成され得る程度に本発明のプロテイナーゼの易熱性が誘導されるのは、この遊離カルシウム濃度以下である。
【0241】
同様に、本発明によれば、最低一価塩濃度は20mMである。有利な穏和な条件下で、特に不活性化温度53~67℃及び保持時間2~75分間、好ましくは5~60分間、より好ましくは10~40分間、好ましくは15~30分間で、プロテイナーゼの実質的な不活性化(75%不活性化)が達成され得る程度に本発明のプロテイナーゼの易熱性が誘導されるのは、この一価塩濃度以上である。
【0242】
上述したように、当該分野で使用される標準プロテイナーゼの典型的な不活性化手順は、はるかに過酷な条件、例えば、75℃で5分間の加熱(BioRad手順)、95℃で10分間の加熱(New England BioLabs手順)、70℃で15分間の加熱(Qiagen手順)を必要とする。
【0243】
本発明の方法においては、好ましくは、試料は、それがプロテイナーゼと接触する時点で、EDTAを本質的に含まず、より好ましくはEDTAを含まず、より好ましくはどんなカルシウムキレート剤も含まない。別の見方をすれば、好ましくは、プロテイナーゼが適用される試料は、EDTAを本質的に含まず、より好ましくはEDTAを含まず、好ましくはどんなカルシウムキレート剤も含まない。好ましくは、本発明の方法は、プロテイナーゼの添加後にEDTA、好ましくは任意のカルシウムキレート剤を試料に適用するステップを含まない。試料は、ワークフロー初期のある時点で、又はその調製中に、カルシウムキレート剤と接触した可能性があるが、その場合、カルシウムキレート剤は、プロテイナーゼ適用前に除去されていなければならない。カルシウムキレート剤は、本明細書の別の所で記述するとおりであり、試料をプロテイナーゼと接触させる前にそれらを試料から除去することは当業者の能力の範囲内である。
【0244】
上述したように、本発明のすべての方法、特に試料が一価塩を含む方法においては、好ましくは、試料はpHが6.5~9.5、好ましくは6.8~9.2、より好ましくは7~9、より好ましくは7.5~8.5、より好ましくは約8.0である。本発明者らは、本発明のプロテイナーゼが中性及び中性に近いpHを含めた穏和な条件下で不活性化され得ることを初めて確認した。したがって、好ましくは、方法は、更に、不活性化ステップ前に試料のpHを6.5~9.5、好ましくは6.8~9.2、より好ましくは7~9、より好ましくは7.5~8.5、より好ましくは約8.0に調節するステップを含む。試料のpHを調節するステップは当業者によく知られており、任意のこうしたステップを本発明の方法に使用することができる。
【0245】
好ましくは、プロテイナーゼを添加する試料は体積が≧10μlである。好ましくは、試料は体積が≦1000μl、より好ましくは≦500μl、より好ましくは≦300μl、より好ましくは≦250μl、より好ましくは≦200μl、より好ましくは≦150μl、より好ましくは≦100μl、より好ましくは≦75μl、より好ましくは≦50μlである。あるいは、試料はマイクロ流体試料である。好ましくは、マイクロ流体試料は体積が≧0.01μlである。好ましくは、マイクロ流体試料は体積が≦10μl、好ましくは≦5μl、より好ましくは≦1μl、より好ましくは≦0.5μl、より好ましくは≦0.1μlである。
【0246】
好ましくは、プロテイナーゼ又は酵素的に活性な断片を添加する試料は、目的の生体分子及び1以上の混入、すなわち不要な、ポリペプチドを含む。
【0247】
したがって、更なる一態様においては、本発明は、目的の生体分子を試料から単離又は精製する方法を提供する。前記試料は、1以上の混入ポリペプチドを含み、前記方法は、
a)試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)試料中のポリペプチドの少なくとも部分的消化を可能にする条件下で試料をインキュベーションするステップ、及び
c)試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップ、ここで、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、及び
d)目的の生体分子を試料から任意で除去するステップを含む。
【0248】
別の見方をすれば、上記方法のステップc)は、以下を含む。
【0249】
試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップ、ここで、
i)前記試料中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記試料がEDTAを本質的に含まない、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである。
【0250】
好ましくは、「目的の生体分子」は、核酸分子、好ましくはDNA又はRNA分子である。好ましくは、目的の生体分子は、それ自体がポリペプチドである。目的の生体分子は、プロテイナーゼでも酵素的に活性なその断片でもない。
【0251】
本発明のプロテイナーゼは、同定、定量化及び/又は増幅のためにウイルスのタンパク質カプセル中のRNA/DNAを遊離させるために、該タンパク質カプセルを消化するのに使用することができる。したがって、好ましくは、生体試料は1以上の封入ウイルスを含み、目的の生体分子は前記ウイルスの核酸分子、好ましくはRNA又はDNAであり、混入ポリペプチドは前記ウイルスタンパク質カプセルのものであり、ステップb)は、前記1又は複数のウイルスのタンパク質カプセルの少なくとも部分的消化、すなわち前記核酸分子を前記カプセルから遊離させるのに十分な消化を可能にする条件下で試料をインキュベーションすることを含む。
【0252】
好ましくは、試料はクロマチンを含み、目的の生体分子は結合ヒストンを含まないDNAであり、混入タンパク質はそれに結合したヒストンであり、ステップb)は、試料中のヒストンの少なくとも部分的消化を可能にする条件下で試料をインキュベーションすることを含む。
【0253】
好ましくは、試料は、核の増幅反応、例えば、PCR反応の産物であり、又は産物を含み、DNA結合ポリメラーゼを含み、目的の生体分子は結合ポリメラーゼを含まないDNAであり、混入タンパク質は結合ポリメラーゼであり、ステップb)は、試料中のポリメラーゼの少なくとも部分的消化を可能にする条件下で試料をインキュベーションすることを含む。増幅方法としては、PCR及びその変形、3SR、SDA、LAR又はLCR及びLAMP並びにそれらの変形が挙げられるが、それらに限定されない。
【0254】
「核酸増幅反応」という用語は、核酸の標的配列又はその相補配列のコピー数を増加させる任意のインビトロ手段を指す。
【0255】
「核酸増幅反応の産物」は、したがって、当該反応の最終増幅ステップから直接得られる成分の本質的にすべてを含むと考えられる。他の成分を添加することができ、又は成分のいくつかは何らかの修飾若しくはプロセシングを受け得るが、本質的に成分のどれも、又は少なくとも核酸成分のどれも、除去されない。好ましくは、核酸増幅反応の産物は、最終増幅ステップの直接産物である。しかし、核酸増幅反応の産物は、取り込まれないNTPの脱リン酸化を起こす処理、例えば、本発明のプロテイナーゼによる処理前にアルカリホスファターゼ、好ましくは易熱性アルカリホスファターゼ、例えば、易熱性エビアルカリホスファターゼ(SAP)による処理を受けることが好ましい場合もある。有利な組換えSAPは、ArcticZymes(商標)ASから入手可能である。
【0256】
好ましくは、前記試料中の目的の生体分子は、1以上のペプチド結合を介して分子、好ましくはポリペプチドに結合する。更なる一態様においては、本発明は、したがって、目的の生体分子を、1以上のペプチド結合を介してそれに結合した分子、好ましくはポリペプチドから遊離させる方法を提供する。前記方法は、
a)試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)1以上のペプチド結合の消化によって目的の生体分子の遊離を可能にする条件下で試料をインキュベーションするステップ、及び
c)試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップ、ここで、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、及び
d)目的の生体分子を試料から任意で除去するステップを含む。
【0257】
別の見方をすれば、上記方法のステップc)は、試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップを含み、
i)前記試料中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記試料がEDTAを本質的に含まない、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである。
【0258】
好ましくは、目的の生体分子はポリペプチド又はタンパク質であり、それが結合する分子は、ポリペプチドシグナル配列又は融合タグ、好ましくはhisタグ(例えば、ヘキサヒスチジンタグ)、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、チオレドキシン(TRX)、低分子ユビキチン様修飾因子(SUMO)、ユビキチン(Ub)又は緑色蛍光タンパク質(GFP)である。
【0259】
更なる一態様においては、本発明は、目的のペプチドを前駆体ポリペプチドから生成する方法を提供する。前記方法は、
a)ポリペプチドをプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)目的のペプチドを遊離させるために、前駆体ポリペプチドの消化を可能にする条件下で試料をインキュベーションするステップ、
c)試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップ、ここで
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、及び
d)目的の生体分子を試料から任意で除去するステップを含む。
【0260】
別の見方をすれば、上記方法のステップc)は、試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップを含み、
i)前記試料中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記試料がEDTAを本質的に含まない、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである。
【0261】
プロテイナーゼは、1以上の細胞を組織内の別の細胞から、又はそれらが付着した基質から、細胞外基質タンパク質の消化によって分離するのにも使用される。更なる一態様においては、本発明は、1以上の細胞を組織内の別の細胞から、又は前記1以上の細胞が付着した基質から分離する方法を提供する。前記方法は、
a)1以上の細胞をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)1以上の細胞の遊離を1以上の細胞外基質タンパク質の消化によって可能にする条件下で試料をインキュベーションするステップ、及び
c)試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップ、ここで、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、及び
d)目的の生体分子を試料から任意で除去するステップを含む。
【0262】
別の見方をすれば、上記方法のステップc)は、試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップを含み、
i)前記試料中のカルシウム濃度が≦約80μMであり、前記試料がEDTAを本質的に含まない、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである。
【0263】
好ましくは、試料は、ポリペプチドを含むポリアクリルアミドゲルであり、又は該ポリアクリルアミドゲルを含み、前記ポリペプチドの消化が質量分析法による分析のための小断片の作製に要求される。したがって、本発明は、好ましくは質量分析のために、タンパク質断片試料を調製する方法を提供する。前記方法は、
a)1以上のポリペプチドを含む試料をプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片と接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも約70%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)試料中のポリペプチドの少なくとも部分的消化を可能にする条件下で試料をインキュベーションするステップ、及び
c)試料を加熱してプロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を不活性化するステップ、ここで、
i)前記試料中の遊離カルシウム濃度が≦約80μMである、又は
ii)前記試料中の一価塩濃度が≧約20mMである、及び
d)目的の生体分子を試料から任意で除去するステップを含む。
【0264】
好ましくは、試料は、1以上のポリペプチドを含むポリアクリルアミドゲルである。
【0265】
好ましくは、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片を添加する試料は、1以上の更なる酵素を含む。好ましくは、前記更なる酵素は、ヌクレアーゼ(好ましくは、デオキシリボヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼ、Bal31ヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ又はS1ヌクレアーゼ)、ポリメラーゼ(好ましくは、DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼ)、逆転写酵素、リガーゼ、(好ましくは、DNAリガーゼ又はRNAリガーゼ)、メチラーゼ、トランスフェラーゼ(好ましくは、ポリヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ)、トポイソメラーゼ、グアニリルトランスフェラーゼ、ホスファターゼ(好ましくは、アルカリホスファターゼ、好ましくは、易熱性アルカリホスファターゼ、より好ましくは、エビアルカリホスファターゼ)、キナーゼ、ヘリカーゼ、制限酵素及びグリコシラーゼからなる群から選択される。試料は、好ましくは、こうした更なる酵素の組合せを含む。好ましくは、試料は、DNAポリメラーゼ又は逆転写酵素を含む。好ましくは、こうした酵素は外因性酵素であり、すなわち、試料内の細胞でも試料中の細胞性物質が由来する細胞でも発現されない。本発明の方法は、こうした追加の酵素によって許容され得る有利な穏和なプロテイナーゼ不活性化条件を提供し、したがって、こうした酵素がプロテイナーゼ不活性化ステップ中に存在することができ、それによって後続のワークフローを単純化することができる。
【0266】
上述したように、当該分野で現在使用される標準プロテイナーゼであるプロテイナーゼKは、試料中の酵素又は目的の生体分子を損傷させ得る高温での不活性化を必要とした。プロテイナーゼKの不活性化が高温加熱なしで要求される場合、プロテイナーゼを試料から除去するか、又は酵素の濃度をかなり希釈しなければならない。こうした除去又は希釈ステップは、ワークフローを延長し、コストを増加させ、試料中の材料の損失又は損傷をもたらし得る。それらは、小さい試料サイズを処理するときに特に不適である。
【0267】
好ましくは、プロテイナーゼを添加する試料は体積が≦1000μl、より好ましくは≦500μl、より好ましくは≦300μl、より好ましくは≦250μl、より好ましくは≦200μl、より好ましくは≦150μl、より好ましくは≦100μl、より好ましくは≦75μl、より好ましくは≦50μlである。あるいは、試料はマイクロ流体試料である。好ましくは、マイクロ流体試料は体積が≧0.01μlである。好ましくは、マイクロ流体試料は体積が≦10μl、好ましくは≦5μl、より好ましくは≦1μl、より好ましくは≦0.5μl、より好ましくは≦0.1μlである。
【0268】
したがって、好ましくは、上記方法のいずれかは、不活性化ステップに続いて、基質の酵素触媒作用を含むステップを含み、前記後続ステップは、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに行われる。
【0269】
「事前の除去なしに」とは、プロテイナーゼが試料から、例えば、精製、抽出又は遠心分離によって、物理的に除去されないことを意味する。
【0270】
「事前の希釈なしに」とは、試料中のプロテイナーゼ濃度がさほど希釈されない、すなわち、希釈によって実質的に不活性化されないことを意味する。実質的に不活性化の定義については、本明細書の別の所で記述する。好ましくは、試料中のプロテイナーゼ濃度は、4倍を超えて、より好ましくは3倍を超えて、より好ましくは2倍を超えて希釈されない。
【0271】
好ましくは、試料は1以上の核酸分子を含み、方法は、不活性化ステップに続いて、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに核酸分子のヌクレアーゼ媒介消化のステップを含む。
【0272】
好ましくは、試料は1以上の核酸分子を含み、方法は、不活性化ステップに続いて、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに核酸分子のリン酸化又は脱リン酸化のステップを含む。
【0273】
好ましくは、試料は1以上の核酸分子を含み、方法は、不活性化ステップに続いて、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに核酸分子の連結のステップを含む。
【0274】
好ましくは、試料は1以上のRNA分子を含み、方法は、不活性化ステップに続いて、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに逆転写のステップを含む。
【0275】
好ましくは、試料は1以上の核酸分子を含み、方法は、不活性化ステップに続いて、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに核酸重合のステップを含む。
【0276】
好ましくは、試料は1以上の核酸分子を含み、方法は、不活性化ステップに続いて、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに核酸増幅のステップを含む。
【0277】
好ましくは、試料は1以上の核酸分子を含み、方法は、不活性化ステップに続いて、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしにナノポア配列決定のステップを含む。
【0278】
好ましくは、試料は1以上のウイルス粒子又は細胞、好ましくは細菌細胞を含み、方法は、不活性化ステップに続いて、プロテイナーゼ又は酵素的に活性なその断片の事前の除去又は希釈なしに細胞溶解のステップを含む。
【実施例0279】
実施例1:プロテイナーゼ比活性
すべての実施例において、プロテイナーゼKをThermo Fischerから購入し(prod.No.EO0491、28.9kDa)、プロテイナーゼXをArcticZymesにおいてPichia pastorisの組換えによって生成させた(バッチ1602-1、配列番号1)。
【0280】
2つのプロテイナーゼの比活性(U/mgプロテイナーゼ)を測定するために、溶液中のプロテイナーゼ濃度をまずNanoDropによって測定した。Nanodropは、波長280nmにおける吸光度を測定してタンパク質濃度を定量化する分光光度手法である。
【0281】
プロテイナーゼKは、濃度14.3mg/mlで存在することが確認された。10,000倍希釈原液(1.43μg/ml)を続いて使用した。プロテイナーゼXは、濃度9.2mg/mlで存在することが確認された。1,000倍希釈原液(9.2μg/ml)を続いて使用した。
【0282】
プロテイナーゼX及びKの活性(U/mL)を標準動力学的ペプチドベース分析によって測定した。1000μlキュベットに
0.4μg/mlプロテイナーゼX又は0.06μg/mlプロテイナーゼK
1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA
12mM NaCl、0.1M Tris-HCl pH8、10mM CaCl2
1%DMSOを総体積1000μlで供給した。
【0283】
4-ニトロアニリンへの基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-NAの酵素切断を410nm(EM8.8)における吸光度の増加をUV分光光度計(Ultrospec 2000、Pharmacia Biotec、スウェーデン)を用いて25℃で2分間測定することによって分析した。1分間あたり1μmolの4-ニトロアニリンを25℃で生成する酵素の量を1単位と定義する。
【0284】
以下の比活性を測定した(表1)。
【0285】
【表5】
【0286】
異なる業者からのプロテイナーゼKのバイアルを用いて結果を確認した(Sigma、O4850、400U/mgまで測定)。
【0287】
実施例2:プロテイナーゼ活性に対する遊離カルシウム濃度の効果
プロテイナーゼX及びKの活性を様々な温度で標準ペプチドベース分析によって測定した。1.5mlキュベットに
0.37μg/mlプロテイナーゼX又は0.06μg/mlプロテイナーゼK(24mU/mLプロテイナーゼに相当)
1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA
12mM NaCl、0.1M Tris-HCl、pH8.0、10mM CaCl2
1%DMSOを総体積1000μlで供給した。
【0288】
キュベットを指示温度で分析の間インキュベーションした。4-ニトロアニリンへの基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-NAの酵素切断を410nm(EM8.8)における吸光度の増加を経時的に30秒間1.5mLセミミクロキュベット(Brand、ドイツ)中でUV分光光度計(Ultrospec 2000、Pharmacia
Biotech、スウェーデン)を用いて測定することによって分析した。
【0289】
65℃で観察された最大活性に対する%相対活性として活性を計算した。65℃を超える測定は技術的に不可能であった。先行技術の教示によれば、プロテイナーゼXとKの両方に最適な温度は65~70℃である。
【0290】
図1に示すように、2つのプロテイナーゼは、10mMカルシウムの存在下で類似した温度-活性プロファイルを有する。
【0291】
プロテイナーゼX及びKの温度-活性プロファイルを低カルシウム(5μM)及びカルシウム非含有(0μM)条件下でも測定した。また、24mU/mLプロテイナーゼ(0.37μg/mlプロテイナーゼX又は0.06μg/mlプロテイナーゼKに相当)を1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAと一緒に指示温度で緩衝液(0.1M Tris-HCl、pH8.0、0mM/0.005mM/10mM CaCl2、1%DMSO、12mM NaCl)中で総体積1000μlでインキュベーションした。
【0292】
4-ニトロアニリンへの基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-NAの酵素切断を410nm(EM8.8)における吸光度の増加を経時的に30秒間UV分光光度計を用いて測定することによって分析した。
【0293】
10mM CaCl2の存在下で65℃で観察された活性に対する%相対活性として活性を計算した(表2)。65℃で観察された活性は、観察された最大活性であった。
【0294】
【表6】
【0295】
各カルシウム濃度において、両方のプロテイナーゼの温度プロファイルは類似しており、最大活性が65℃で観察された。カルシウム濃度の減少によってプロテイナーゼ活性が幾つかの温度でほんの少し減少したように見えた。10mMカルシウムを用いて各特定の温度において達成された活性と比較して活性を考えると、2つのプロテイナーゼの活性プロファイルは異なった。結果を表3及び4並びに図2及び3に示す。これらは、様々な温度におけるプロテイナーゼ活性に対するカルシウム依存的な効果を強調するものである。
【0296】
【表7】
【0297】
【表8】
【0298】
図2及び表3によれば、プロテイナーゼXでは、低カルシウム濃度又はカルシウムの非存在が55℃及び45℃における活性のいくらかの損失(最大減少<10%)をもたらし、25℃又は35℃において認識できる活性の低下はない。約20%の活性低下が65℃でカルシウムの非存在下で認められ、約10%の低下が65℃で低カルシウム(0.005mM)で認められた。
【0299】
それに対して、図3及び表4によれば、各温度におけるプロテイナーゼKの活性は、カルシウム条件によってほとんど影響されなかった。すなわち、高カルシウム濃度の存在下であろうと、低カルシウム濃度であろうと、又はカルシウムの非存在下であろうと、温度増加と共にほんのわずかな活性変化しか認められなかった。
【0300】
まとめると、データは、低カルシウム濃度がプロテイナーゼXの熱失活をプロテイナーゼKよりも大きく誘導し得ることを示唆している。
【0301】
実施例3:プロテイナーゼのCa2+依存的な誘導可能なである易熱性
プロテイナーゼX及びKのカルシウム依存的易熱性を更に調べた。
【0302】
熱処理ステップ:
プロテイナーゼを60℃で15又は30分間PCRサーモサイクラー(Veriti、Applied Biosystems)中で多様な濃度の遊離カルシウムを含む緩衝液中でインキュベーションした。緩衝液は、
0.1mg/mlプロテイナーゼX(6.5U/mlプロテイナーゼX初期活性に相当)又は0.014mg/mlプロテイナーゼK(5.6U/mlプロテイナーゼK初期活性に相当)
0.025M Tris-HCl、pH8、300mM NaCl、
CaCl2(1mM/0.25mM/0.125mM/0.063mM/0.031mM/0.016mM/0.008mM/0mM)を体積50μlで含む。
【0303】
不活性化後に試料を氷上に戻した。対照として用いた試料を全体を通して氷上で維持した。
【0304】
残存活性の分析
熱処理ステップ後、試料を0.025M Tris-HCl、pH8、300mM NaClで1:10希釈した。希釈ステップを行って、試料中の酵素活性U/mlを低下させて、それらを反応分析で検出可能な範囲にした。
【0305】
プロテイナーゼの残存活性を以下のように評価した。
【0306】
0.4μg/mlプロテイナーゼX又は0.06μg/mlプロテイナーゼK(それぞれ26及び24mU/ml初期活性に相当)を1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAと一緒に37℃で標準反応緩衝液(0.1M Tris-HCl、pH8.0、10mM CaCl2、1%DMSO、12mM NaCl)中で総体積250μlでインキュベーションした。
【0307】
4-ニトロアニリンへの基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-NAの酵素切断を405nm(EM8.8)における吸光度の増加を経時的に10分間、多モードプレートリーダー(Synergy H1、BioTek、USA)を用いて11秒ごとにシグナルを検出して測定することによって分析した。
【0308】
結果を図4及び5に示す。対照試料(加熱ステップを経ない氷上で維持された同じプロテイナーゼ及び緩衝液)に対する残存活性率として活性を示す。
【0309】
図5に示すように、遊離カルシウム濃度の減少は、プロテイナーゼKの熱失活に影響せず、プロテイナーゼKは、60℃でインキュベーションしたすべての試料において遊離Ca2+濃度とは無関係に約40%活性を失う。プロテイナーゼKの実質的な不活性化(≧75%)は、どの条件下でも達成されなかった。
【0310】
それに対して、図4に示すように、遊離カルシウム濃度の減少は、プロテイナーゼXの易熱性の増加をもたらした。実質的な不活性化(≧75%、すなわち25%未満の残存活性)は、60℃で遊離カルシウム濃度≦0.063mMで30分間の加熱、また、60℃で遊離カルシウム濃度≦0.016mMで15分間の加熱によって行われた。≧90%の不活性化が好ましく、これは、プロテイナーゼXでは60℃で遊離カルシウム濃度≦0.031mMで30分間、又は遊離カルシウムの非存在下で15の加熱によって行われた。
【0311】
したがって、プロテイナーゼXが低カルシウム濃度の存在下で誘導的に易熱性であるのに対して、プロテイナーゼKの易熱性はカルシウム濃度によって影響されない。
【0312】
この相違は更に図6で示される。図6は、60℃で15/30分間様々なカルシウム濃度で加熱後の2つのプロテイナーゼの不活性化プロファイルである。
【0313】
実施例4:プロテイナーゼの遊離カルシウム依存的な不活性化プロファイル
プロテイナーゼX及びKの不活性化に対する異なる熱処理ステップの効果を評価した。以下の実験においては、5μMの遊離カルシウム上限を使用し、熱失活ステップをある範囲の温度及び加熱時間で行った。
【0314】
熱処理ステップ:
プロテイナーゼを様々な温度(45℃、50℃、55℃、60℃、65℃及び70℃)で様々な時間(2、5、10、15、3060分間)、多様な遊離カルシウム濃度(CaCl2、0μM、2.5μM又は5μM)を含む緩衝液中でインキュベーションした。緩衝液は、更に、0.1mg/ml(6.5U/ml初期活性)プロテイナーゼX又は0.016mg/ml(6.4U/ml初期活性)プロテイナーゼK、25mM HEPES、pH8、100mM NaCl、総体積50μlを含んだ。
【0315】
プロテイナーゼKを使用前にCaを含まない貯蔵緩衝液に対して透析して、その中の遊離カルシウムを除去した。不活性化後に試料を氷上に戻した。対照として用いた試料を全体を通して氷上で維持した。
【0316】
残存活性の分析
熱処理ステップ後、試料を50mM HEPES、pH8、100mM NaClで1:20希釈した。希釈ステップを行って、試料中の酵素活性U/mlを低下させて、それらを反応分析で検出可能な範囲にした。
【0317】
プロテイナーゼの残存活性を以下のように評価した。
【0318】
0.2μg/mlプロテイナーゼX又は0.03μg/mlプロテイナーゼK(それぞれ13mU及び12mU初期活性に相当)を1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAと一緒に37℃で標準反応緩衝液(0.1M Tris-HCl、pH8.0、10mM CaCl2、1%DMSO、4mM NaCl)中で総体積250μlでインキュベーションした。
【0319】
4-ニトロアニリンへの基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-NAの酵素切断を405nm(EM8.8)における吸光度の増加を経時的に10分間、多モードプレートリーダー(Synergy H1、BioTek、USA)を用いて11秒ごとにシグナルを検出して測定することによって分析した。氷上で維持された以外は試験試料と同一である対照試料と残存活性を比較する。
【0320】
結果を表5~7に示す。
【0321】
【表9】
【0322】
上記データによれば、遊離カルシウムの非存在下で、プロテイナーゼXの≧約75%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に2分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも60℃で加熱時に10分以内に、及び
少なくとも55℃で加熱時に60分以内に達成される。
【0323】
プロテイナーゼXの≧約90%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に2分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも60℃で加熱時に15分以内に、及び
少なくとも55℃で加熱時に60分以内に達成される。
【0324】
【表10】
【0325】
上記データによれば、遊離カルシウム濃度2.5μM未満で、プロテイナーゼXの≧約75%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも60℃で加熱時に15分以内に、及び
少なくとも55℃で加熱時に60分以内に達成される。
【0326】
プロテイナーゼXの≧約90%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に10分以内に、及び
少なくとも60℃で加熱時に30分以内に達成される。
【0327】
【表11】
【0328】
上記データによれば、遊離カルシウム濃度5μM未満で、プロテイナーゼXの≧約75%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも60℃で加熱時に15分以内に、及び
少なくとも55℃で加熱時に60分以内に達成される。
【0329】
プロテイナーゼXの≧約90%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に10分以内に、及び
少なくとも60℃で加熱時に30分以内に達成される。
【0330】
すなわち、遊離カルシウム濃度≦5μMでは、70℃におけるインキュベーションはプロテイナーゼXの≧95%不活性化を5分以内に達成し、65℃におけるインキュベーションはプロテイナーゼXの≧95%不活性化を10分以内に(遊離カルシウムの非存在下で5分以内に)達成した。
【0331】
2.5と5μMの両方の遊離カルシウムの存在下では、60℃におけるインキュベーションはプロテイナーゼXの≧90%不活性化を30分以内に(遊離カルシウムの非存在下で15以内に)達成した。
【0332】
≧55℃で60分間のインキュベーションは、5μM遊離カルシウムの存在下でプロテイナーゼXの80%不活性化、≦2.5μM遊離カルシウムの存在下で85%不活性化、及び遊離カルシウムの非存在下で約90%不活性化を達成した。
【0333】
比較のためにプロテイナーゼKを用いて同じ検討を行った。結果を下表8~10に示す。
【0334】
【表12】
【0335】
上記データによれば、遊離カルシウムの非存在下で、プロテイナーゼKの≧約75%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に2分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に10分以内に(Prot Xでは5分以内に)、
少なくとも60℃で加熱時に30分以内に(Prot Xでは10分以内に)、
少なくとも55℃で加熱時に60分以内に(Prot Xよりも少ない不活性化)達成される。
【0336】
プロテイナーゼKの≧約90%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に2分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に10分以内に(Prot Xでは5分以内に)、及び
少なくとも60℃で加熱時に60分以内に(Prot Xでは15分以内に)達成される。
【0337】
【表13】
【0338】
上記データによれば、遊離カルシウム濃度2.5μM未満で、プロテイナーゼKの≧約75%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に10分以内に(Prot Xでは5分以内に)、
少なくとも60℃で加熱時に30分以内に(Prot Xでは15分以内に)、及び
少なくとも55℃で加熱時に60分以内に(Prot Xよりも少ない不活性化)達成される。
【0339】
プロテイナーゼKの≧約90%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に15分以内に(Prot Xでは10分以内に)、及び
少なくとも60℃で加熱時に60分以内に(Prot Xでは30分以内に)達成される。
【0340】

【表14】
【0341】
上記データによれば、遊離カルシウム濃度5μM未満で、プロテイナーゼKの≧約75%不活性化は、
少なくとも70℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に10分以内に(Prot Xでは5分以内に)、
少なくとも60℃で加熱時に30分以内に(Prot Xでは15分以内に)、及び
少なくとも55℃で加熱時に60分以内に達成される。
【0342】
プロテイナーゼKの≧約90%不活性化は、以下の加熱ステップによって、
少なくとも70℃で加熱時に5分以内に、
少なくとも65℃で加熱時に15分以内に(Prot Xでは10分以内に)、及び
少なくとも60℃で加熱時に60分以内に(Prot Xでは30分以内に)達成される。
【0343】
したがって、結果の示すところによれば、すべての遊離カルシウム濃度において、同程度の不活性化を所与の温度で達成するのに必要な加熱時間は、プロテイナーゼXがプロテイナーゼKよりもかなり短い。別の見方をすれば、試験した加熱時間及び温度の大部分において、プロテイナーゼKよりもプロテイナーゼXの不活性化が大きい。これは、プロテイナーゼXの観察された易熱性が低カルシウム濃度で誘導されるためであり、これはプロテイナーゼKでは観察されない。
【0344】
したがって、熱処理によって不活性化されるプロテイナーゼKの能力に対するカルシウムの効果は、プロテイナーゼXに対する効果よりもかなり目立たない。
【0345】
実施例5:プロテイナーゼの一価塩依存的な誘導可能である易熱性
プロテイナーゼX及びKの易熱性に対するNaClの効果を判定するために、両方のプロテイナーゼの不活性化プロファイルを様々な温度でi)50mM(低塩分条件)又はii)300mM NaCl(高塩分条件)を含む溶液中で測定した。
【0346】
熱処理ステップ:
プロテイナーゼを様々な温度(45℃、50℃、55℃、60℃、65℃及び70℃)で30分間、50mM又は300mM NaClを含む緩衝液中でインキュベーションした。緩衝液は、0.1mg/mlプロテイナーゼ(6.5U/mlプロテイナーゼX又は40U/mlプロテイナーゼKに相当)、25mM HEPES、pH8、0μM CaCl2を体積50μlで含んだ。
【0347】
不活性化後に試料を氷上に戻した。対照として用いた試料を全体を通して氷上で維持した。
【0348】
残存活性の分析
熱処理ステップ後、プロテイナーゼX又はプロテイナーゼKの試料を50mM HEPES、pH8、300mM NaClでそれぞれ1:10又は1:100希釈した。プロテイナーゼの残存活性を以下のように評価した。
【0349】
0.4μg/mlプロテイナーゼX(26mU/mlの初期活性に相当)又は0.04μg/mlプロテイナーゼK(16mU/mlの初期活性に相当)を1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAと一緒に37℃で標準反応緩衝液(0.1M Tris-HCl、pH8.0、10mM CaCl2、1%DMSO、12mM NaCl)中で総体積250μlでインキュベーションした。
【0350】
4-ニトロアニリンへの基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-NAの酵素切断を405nm(EM8.8)における吸光度の増加を経時的に10分間、多モードプレートリーダー(Synergy H1、BioTek、USA)を用いて11秒ごとにシグナルを検出して測定することによって分析した。氷上で維持された以外は試験試料と同一である対照試料と残存活性を比較する。
【0351】
図7に示すように、NaCl濃度の増加は、ProtXの易熱性に対してProtKとは逆の効果を有する。高いNaCl濃度はプロテイナーゼKを高温で安定化するのに対して、高いNaCl濃度はプロテイナーゼXの易熱性を誘導する。
【0352】
この結果は、特に驚くべきことである。配列番号1のプロテイナーゼXは、塩水生物から得られ、したがって、通常、高塩分条件に耐えると予想される。それに対して、Prot Kは、非海洋性供給源、真菌Engyodontium album(以前はTritirachium album)から得られ、高塩分条件によって安定化されることは予想されない。
【0353】
実施例6:プロテイナーゼの一価塩依存的な易熱性プロファイル
プロテイナーゼXの易熱性に対するNaClの効果を更に検討するために、実施例5よりも広範なNaCl濃度を評価した。
【0354】
熱処理ステップ:
プロテイナーゼXを50℃又は60℃で15又は30分間、0、50、150、300又は600mM NaClを含む緩衝液中でインキュベーションした。緩衝液は、0.1mg/mlプロテイナーゼX(6.5U/mlに相当)、25mM HEPES、pH8、0.03mM CaCl2を体積50μlで含んだ。
【0355】
不活性化後に試料を氷上に戻した。対照として用いた試料を全体を通して氷上で維持した。
【0356】
残存活性の分析
熱処理ステップ後、試料を50mM HEPES、pH8、300mM NaClで1:10希釈した。プロテイナーゼの残存活性を以下のように評価した。
【0357】
0.4μg/mlプロテイナーゼX(26mU/ml初期活性に相当)を1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAと一緒に37℃で標準反応緩衝液(0.1M Tris-HCl、pH8.0、10mM CaCl2、1%DMSO、12mM
NaCl)中で総体積250μlでインキュベーションした。
【0358】
4-ニトロアニリンへの基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-NAの酵素切断を405nm(EM8.8)における吸光度の増加を経時的に10分間、多モードプレートリーダー(Synergy H1、BioTek、USA)を用いて11秒ごとにシグナルを検出して測定することによって分析した。氷上で維持された以外は試験試料と同一である対照試料と残存活性を比較する。
【0359】
結果を図8及び表11に示す。
【0360】
【表15】
【0361】
上記データによれば、NaCl濃度≧150mMにおいて、プロテイナーゼXの≧約80%不活性化が60℃で30分以内の加熱によって達成される。
【0362】
やはり上記データによれば、NaCl濃度≧300mMにおいて、プロテイナーゼXの≧約95%不活性化が60℃で30分以内の加熱によって達成され、プロテイナーゼXの≧約80%不活性化が60℃で150分以内の加熱によって達成される。
【0363】
NaCl濃度(x軸)対60℃で30/15分加熱後の残存活性(y軸)のプロットである図9によれば、実質的な不活性化(≧75%)がNaCl濃度少なくとも約210mMでは60℃で15分の加熱で、NaCl濃度少なくとも約100mMでは30分の加熱で達成される。
【0364】
実施例7:プロテイナーゼの易熱性に対する遊離カルシウム濃度と一価塩濃度の併用効果
上記検討によれば、i)遊離カルシウム濃度の低下又はii)NaCl濃度の上昇は、プロテイナーゼXの易熱性をプロテイナーゼKよりも大きく誘導する。これらの条件の併用効果を続けて検討した。
【0365】
熱処理ステップ:
プロテイナーゼX及びKを60℃で30分間、様々な濃度のNaCl(0、25、50、75、100、125mM)及び遊離カルシウム(0、5、10、20及び20μM CaCl2)を含む緩衝液中でインキュベーションした。緩衝液は、6.5U/mlプロテイナーゼX又は6.4U/mlプロテイナーゼK(0.1mg/mlプロテイナーゼX又は0.016mg/mlプロテイナーゼKに相当)、25mM HEPES、pH8を体積50μlで含んだ。
【0366】
プロテイナーゼKを使用前にCaを含まない貯蔵緩衝液に対して透析して、その中の遊離カルシウムを除去した。
【0367】
不活性化後に試料を氷上に戻した。対照として用いた試料を全体を通して氷上で維持した。
【0368】
残存活性の分析
熱処理ステップ後、試料を50mM HEPES、pH8、100mM NaClで1:20希釈した。プロテイナーゼの残存活性を以下のように評価した。
【0369】
0.2μg/mlプロテイナーゼX(13mU/ml初期活性に相当)又は0.03μg/mlプロテイナーゼK(12mU/ml初期活性に相当)を1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAと一緒に37℃で標準反応緩衝液(0.1M Tris-HCl、pH8.0、10mM CaCl2、1%DMSO、4mM NaCl)中で総体積250μlでインキュベーションした。
【0370】
4-ニトロアニリンへの基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-NAの酵素切断を405nm(EM8.8)における吸光度の増加を経時的に10分間、多モードプレートリーダー(Synergy H1、BioTek、USA)を用いて11秒ごとにシグナルを検出して測定することによって分析した。氷上で維持された以外は試験試料と同一である対照試料と残存活性を比較する。
【0371】
結果を表12及び13に示す。
【0372】
【表16】
【0373】
実質的な不活性化(≧75%)をすべての遊離カルシウム濃度で≧100mM NaClの存在下で達成した。
【0374】
さらに、実質的な不活性化(≧約75%)を最高遊離カルシウム濃度20μMで少なくとも75mM NaClの存在下で達成した。
【0375】
さらに、実質的な不活性化(≧約75%)を最高遊離カルシウム濃度10μMで少なくとも50mM NaClの存在下で達成した。
【0376】
さらに、実質的な不活性化(≧約75%)を最高遊離カルシウム濃度5μMで少なくとも50mM NaClの存在下で達成した。
【0377】
さらに、実質的な不活性化(≧約75%)を遊離カルシウムの非存在下かつ少なくとも25mM NaClの存在下で達成した。
【0378】
優れた不活性化(≧約90%)を最高遊離カルシウム濃度20μMで少なくとも125mM NaClの存在下で達成した。
【0379】
優れた不活性化(≧約90%)を最高遊離カルシウム濃度10μMで少なくとも100mM NaClの存在下で達成した。
【0380】
優れた不活性化(≧約90%)を最高遊離カルシウム濃度5μMで少なくとも75mM
NaClの存在下で達成した。
【0381】
遊離カルシウムの非存在下で、優れた不活性化(≧約90%)を少なくとも50mM NaClの存在下で達成した。
【0382】
【表17】
【0383】
結果によれば、プロテイナーゼKは、プロテイナーゼXとは極めて異なる易熱性プロファイルを有する。プロテイナーゼKは、低塩分条件下で次第に易熱性になり、高塩分条件下で安定化され、カルシウム濃度によってほとんど影響されない。他方、プロテイナーゼXは、高塩分条件及び低遊離カルシウム条件下で次第に易熱性になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2024160310000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のプロテイナーゼを不活性化する方法であって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、
前記方法が、前記試料を下記i)~iii)のいずれかで加熱して前記プロテイナーゼを不活性化するステップ;
i)53℃~58℃の温度で少なくとも30分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも300mMである;
ii)58℃~63℃の温度で少なくとも30分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも50mMである;又は
iii)6℃~67℃の温度で少なくとも15分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも210mMである;
を含む、方法。
【請求項2】
試料中のポリペプチドを消化する方法であって、
a)前記試料をプロテイナーゼと接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)前記試料中のポリペプチドの少なくとも部分的消化を可能にする条件下で前記試料をインキュベーションするステップ、及び
c)前記試料を下記i)~iii)のいずれかで加熱して前記プロテイナーゼを不活性化するステップ;
i)53℃~58℃の温度で少なくとも30分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも300mMである
ii)58℃~63℃の温度で少なくとも30分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも50mMである;又は
iii)6℃~67℃の温度で少なくとも15分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも210mMである
を含、方法。
【請求項3】
目的の生体分子を試料から単離又は精製する方法であって、前記試料が1以上の混入ポリペプチドを含み、前記方法が、
a)前記試料をプロテイナーゼと接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)前記試料中のポリペプチドの少なくとも部分的消化を可能にする条件下で前記試料をインキュベーションするステップ、
c)前記試料を下記i)~iii)のいずれかで加熱して前記プロテイナーゼを不活性化するステップ;
i)53℃~58℃の温度で少なくとも30分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも300mMである
ii)58℃~63℃の温度で少なくとも30分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも50mMである;又は
iii)6℃~67℃の温度で少なくとも15分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも210mMである、及び
d)前記目的の生体分子を前記試料から任意で除去するステップ
を含む方法。
【請求項4】
試料中の目的の生体分子を1以上のペプチド結合を介してそれに結合した第2の分子から遊離させる方法であって、
a)前記試料をプロテイナーゼと接触させるステップであって、前記プロテイナーゼが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むステップ、
b)前記ペプチド結合の1以上の消化によって前記目的の生体分子の遊離を可能にする条件下で前記試料をインキュベーションするステップ、
c)前記試料を下記i)~iii)のいずれかで加熱して前記プロテイナーゼを不活性化するステップ;
i)53℃~58℃の温度で少なくとも30分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも300mMである
ii)58℃~63℃の温度で少なくとも30分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも50mMである;又は
iii)6℃~67℃の温度で少なくとも15分間、かつ前記試料中の一価塩濃度が少なくとも210mMである、及び
d)前記目的の生体分子を前記試料から任意で除去するステップ、
を含む方法。
【請求項5】
前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップii)が、前記試料を58℃~63℃の温度で少なくとも30分間加熱するステップを含み、前記試料中の一価塩濃度が少なくとも100mMである、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップii)が、前記試料を60℃~63℃の温度で加熱するステップを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップiii)が、前記試料を60℃~67℃の温度で少なくとも15分間加熱するステップを含み、前記試料中の一価塩濃度が少なくとも250mMである、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップi)が、前記試料を54℃~58℃の温度で少なくとも30分間加熱するステップを含み、前記試料中の一価塩濃度が少なくとも300mMである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップiii)が、前記試料を60℃~67℃の温度で少なくとも15分間加熱するステップを含み、前記試料中の一価塩濃度が少なくとも450mMである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップ後の前記プロテイナーゼの残存プロテイナーゼ活性が対照に対して≦25%であり、前記残存活性が以下の分析ステップ、すなわち、
i)1000μl又は250μlキュベット中で
10~50mU/mL熱処理プロテイナーゼ、1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA、≦15mM NaCl、0.1mM Tris-HCl pH8、10mM CaCl2及び任意で1%DMSOをインキュベーションするステップ、
ii)410nm(ε=8800M-1.cm-1)における吸光度の増加を分光光度計を用いて温度≦40℃で2分間測定することによって4-ニトロアニリンへの前記基質の切断を分析するステップ、ここで、1単位は1分間あたり1μmolの4-ニトロアニリンを選択された温度で生成する酵素の量と定義される、
iii)ステップii)で認められた活性を、熱処理されなかったがその他の点では前記熱処理プロテイナーゼと同じ条件下で維持された同じ量の同じプロテイナーゼで認められた活性と、同じ分析によって比較するステップ
によって測定される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップ後の前記プロテイナーゼの残存プロテイナーゼ活性が対照に対して≦10%であり、前記残存活性が以下の分析ステップ、すなわち、
i)1000μl又は250μlキュベット中で
10~50mU/mL熱処理プロテイナーゼ、1mM基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA、≦15mM NaCl、0.1mM Tris-HCl pH8、10mM CaCl 2 及び任意で1%DMSOをインキュベーションするステップ、
ii)410nm(ε=8800M -1 .cm -1 )における吸光度の増加を分光光度計を用いて温度≦40℃で2分間測定することによって4-ニトロアニリンへの前記基質の切断を分析するステップ、ここで、1単位は1分間あたり1μmolの4-ニトロアニリンを選択された温度で生成する酵素の量と定義される、
iii)ステップii)で認められた活性を、熱処理されなかったがその他の点では前記熱処理プロテイナーゼと同じ条件下で維持された同じ量の同じプロテイナーゼで認められた活性と、同じ分析によって比較するステップ
によって測定される、請求項6、8、又は9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記試料のpHが6.5~9.5である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法であって、前記試料が、
ヌクレアーゼ、DNA又はRNAポリメラーゼ、逆転写酵素、DNA又はRNAリガーゼ、メチラーゼ、トランスフェラーゼ、トポイソメラーゼ、グアニリルトランスフェラーゼ、ホスファターゼ、トランスポザーゼ、キナーゼ、ヘリカーゼ、制限酵素及びグリコシラーゼからなる群から選択される1以上の更なる酵素
を含む方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法であって、
前記試料が1以上の核酸分子を含み、
前記方法が、前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップに続いて、以下のステップ、すなわち、
i)前記1以上の核酸分子のヌクレアーゼ媒介消化、
ii)前記1以上の核酸分子のリン酸化若しくは脱リン酸化、又は
iii)前記1以上の核酸分子の連結
を、前記プロテイナーゼの事前の除去又は希釈なしに含む、方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法であって、
前記試料が、1以上のRNA分子を含み、
前記方法が、前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップに続いて、前記プロテイナーゼの事前の除去又は希釈なしに、逆転写のステップを含む、方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法であって、
前記試料が、1以上のDNA分子を含み、
前記方法が、前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップに続いて、前記プロテイナーゼの事前の除去又は希釈なしに、核酸重合のステップを含む、方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法であって、
前記試料が、1以上のウイルス粒子又は細胞を含み、
前記方法が、前記試料を加熱して前記プロテイナーゼを不活性化する前記ステップに続いて、前記プロテイナーゼの事前の除去又は希釈なしに、細胞溶解のステップを含む、方法。
【外国語明細書】