(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160311
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】R‐T‐B系永久磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20241106BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241106BHJP
B22F 1/142 20220101ALI20241106BHJP
B22F 1/145 20220101ALI20241106BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241106BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20241106BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20241106BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
H01F1/057 170
B22F1/00 Y
B22F1/142 100
B22F1/145 100
B22F3/00 F
B22F3/02 R
C22C1/04 H
C22C1/04 J
C22C1/04 L
C22C38/00 303D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024131101
(22)【出願日】2024-08-07
(62)【分割の表示】P 2021006543の分割
【原出願日】2021-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020056469
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】三輪 将史
(72)【発明者】
【氏名】三浦 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】坪倉 多恵子
(57)【要約】
【課題】高い保磁力を有する永久磁石の提供。
【解決手段】永久磁石2は、希土類元素R(Nd)、遷移金属元素T(Fe)、B、Zr及びCuを含有し、永久磁石2は、Nd、T及びBを含む主相粒子4と粒界多重点6を備え、一つの粒界多重点6は三つ以上の主相粒子4に囲まれ、永久磁石2の断面における元素の分布マップは、永久磁石2が複数の主相粒子4及び複数の粒界多重点6を備えることを示し、分布マップの寸法は縦50μm×横50μmであり、分布マップが示す五つの粒界多重点6其々が、ZrB
2の結晶3と、R及びCuを含有するR‐Cuリッチ相5を含み、五つの粒界多重点6其々におけるBの濃度が5原子%以上20原子%以下であり、五つの粒界多重点6其々におけるCuの濃度が5原子%以上25原子%以下であり、主相粒子4の表層部4aは、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素R、遷移金属元素T、B、Zr及びCuを含有するR‐T‐B系永久磁石であって、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Nd、T及びBを含む複数の主相粒子と、複数の粒界多重点と、を備え、
一つの前記粒界多重点は、三つ以上の前記主相粒子に囲まれた粒界であり、
前記R‐T‐B系永久磁石の断面における元素の分布マップは、前記R‐T‐B系永久磁石が前記複数の前記主相粒子及び前記複数の前記粒界多重点を備えることを示し、
前記分布マップの寸法は、縦50μm×横50μmであり、
前記分布マップが示す五つの前記粒界多重点其々が、ZrB2の結晶と、R及びCuを含有するR‐Cuリッチ相の両方を含み、
前記ZrB2の結晶及び前記R‐Cuリッチ相の両方を含む前記五つの前記粒界多重点其々におけるBの濃度が、5原子%以上20原子%以下であり、
前記ZrB2の結晶及び前記R‐Cuリッチ相の両方を含む前記五つの前記粒界多重点其々におけるCuの濃度が、5原子%以上25原子%以下であり、
前記主相粒子の表層部は、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有する、
R‐T‐B系永久磁石。
【請求項2】
前記ZrB2の結晶及び前記R‐Cuリッチ相の両方を含む前記五つの前記粒界多重点其々におけるZrの濃度が、1原子%以上10原子%以下である、
請求項1に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項3】
前記ZrB2の結晶及び前記R‐Cuリッチ相の両方を含む前記五つの前記粒界多重点其々におけるNd及びPrの濃度の合計が、20原子%以上70原子%以下である、
請求項1又は2に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項4】
前記R‐Cuリッチ相が、前記ZrB2の結晶の周囲に存在している、
請求項1~3のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項5】
前記R‐Cuリッチ相が、前記ZrB2の結晶と前記主相粒子の間に存在している、
請求項1~4のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項6】
一部の前記粒界多重点が、Tと、Cuと、Nd及びPrのうち少なくとも一種のRと、を含有するTリッチ相を含み、
前記Tリッチ相を含む前記粒界多重点におけるTの濃度が、他の前記粒界多重点におけるTの濃度よりも高く、
Tの濃度の単位は、原子%である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項7】
前記分布マップは、電子線プローブマイクロアナライザによって測定される、
請求項1~6のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項8】
前記五つの前記粒界多重点は、前記断面から無作為に選出される、
請求項1~7のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項9】
前記R‐T‐B系永久磁石の前記断面におけるZr、B及びCu其々の前記分布マップが測定され、
Zr、B及びCu其々の前記分布マップにおいて、各元素の特性X線の強度が各分布マップにおける各元素の特性X線の強度の平均値よりも高い高濃度箇所が特定され、
Zr、B及びCu其々の前記高濃度箇所は、前記五つの前記粒界多重点において重なり合う、
請求項1~8のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R‐T‐B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素R(Nd等)、遷移金属元素T(Fe等)及びホウ素Bを含有するR‐T‐B系永久磁石は、ニュークリエーション型の永久磁石である。磁化方向と反対の磁場がニュークリエーション型の永久磁石へ印加されることにより、永久磁石を構成する多数の結晶粒子(主相粒子)の粒界近傍において磁化反転の核が発生し易い。そして、この磁化反転の核を起点に結晶粒子の磁化反転が進行するため、R‐T‐B系永久磁石の保磁力は低くなる傾向がある。
【0003】
R‐T‐B系永久磁石の保磁力を増加させるために、Dy等の重希土類元素がR‐T‐B系永久磁石へ添加される。重希土類元素の添加によって異方性磁界が大きくなり易く、磁化反転の核が粒界近傍において発生し難くなり、保磁力(HcJ)が増加する。しかし、重希土類元素の価格は高いため、R‐T‐B系永久磁石の製造コストを低減するために、R‐T‐B系永久磁石中の重希土類元素の含有量を低減することが望まれる。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載のR‐T‐B系焼結磁石は、コアと、コアを被覆するシェルと、を有する複数の主相粒子を備え、シェルの厚さは500nm以下であり、Rは軽希土類元素及び重希土類元素を含み、Zr化合物が粒界相及びシェルの少なくともいずれかにおいて存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/122667号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高い保磁力を有するR‐T‐B系永久磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係るR‐T‐B系永久磁石は、希土類元素R、遷移金属元素T、B、Zr及びCuを含有するR‐T‐B系永久磁石であって、R‐T‐B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、R‐T‐B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有し、R‐T‐B系永久磁石は、Nd、T及びBを含む複数の主相粒子と、複数の粒界多重点と、を備え、一つの粒界多重点は、三つ以上の主相粒子に囲まれた粒界であり、いずれか一つの粒界多重点が、ZrB2の結晶と、R及びCuを含有するR‐Cuリッチ相の両方を含み、ZrB2の結晶及びR‐Cuリッチ相の両方を含む一つの粒界多重点におけるBの濃度が、5原子%以上20原子%以下であり、ZrB2の結晶及びR‐Cuリッチ相の両方を含む一つの粒界多重点におけるCuの濃度が、5原子%以上25原子%以下であり、主相粒子の表層部は、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有する。
【0008】
ZrB2の結晶及びR‐Cuリッチ相の両方を含む一つの粒界多重点におけるZrの濃度が、1原子%以上10原子%以下であってよい。
【0009】
ZrB2の結晶及びR‐Cuリッチ相の両方を含む一つの粒界多重点におけるNd及びPrの濃度の合計が、20原子%以上70原子%以下であってよい。
【0010】
R‐Cuリッチ相が、ZrB2の結晶の周囲に存在していてよい。
【0011】
R‐Cuリッチ相が、ZrB2の結晶と主相粒子の間に存在していてよい。
【0012】
一部の粒界多重点が、Tと、Cuと、Nd及びPrのうち少なくとも一種のRと、を含有するTリッチ相を含んでよく、Tリッチ相を含む粒界多重点におけるTの濃度が、他の粒界多重点におけるTの濃度よりも高く、Tの濃度の単位は、原子%である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い保磁力を有するR‐T‐B系永久磁石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係るR‐T‐B系永久磁石の模式的な斜視図であり、
図1中の(b)は、
図1中の(a)に示されるR‐T‐B系永久磁石の断面の模式図(b‐b線方向の矢視図)である。
【
図2】
図2は、
図1中の(b)に示される断面の一部(領域II)の拡大図である。
【
図3】
図3は、ZrB
2の結晶構造の斜視図である。
【
図4】
図4中の(a)は、ZrB
2の結晶及びR‐Cuリッチ相の両方が含まれる粒界多重点の画像であり、
図4中の(b)は、
図4中の(a)に示される領域におけるCuの分布マップであり、
図4中の(c)は、
図4中の(a)に示される領域におけるNdの分布マップであり、
図4中の(d)は、
図4中の(a)に示される領域におけるZrの分布マップである。
【
図5】
図5中の(a)は、
図4中の(a)に示される領域におけるCoの分布マップであり、
図5中の(b)は、
図4中の(a)に示される領域におけるFeの分布マップであり、
図5中の(c)は、
図4中の(a)に示される領域におけるGaの分布マップであり、
図5中の(d)は、
図4中の(a)に示される領域におけるTbの分布マップである。
【
図6】
図6中の(a)は、ZrB
2の結晶の画像であり、
図6中の(b)は、
図6中の(a)中に示されるZrB
2の結晶の電子線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「永久磁石」とは、R‐T‐B系永久磁石を意味する。以下に記載の各元素の濃度の単位は、原子%である。
【0016】
(永久磁石)
本実施形態に係る永久磁石は、少なくとも希土類元素(R)、遷移金属元素(T)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)及び銅(Cu)を含有する。本実施形態に係る永久磁石は、焼結磁石であってよい。
【0017】
永久磁石は、希土類元素Rとして、少なくともネオジム(Nd)を含有する。永久磁石は、Ndに加えて、更に他の希土類元素Rを含有してもよい。永久磁石に含有される他の希土類元素Rは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0018】
永久磁石は、遷移金属元素Tとして、少なくとも鉄(Fe)を含有する。永久磁石は、遷移金属元素Tとして、Feのみを含有してよい。永久磁石は、遷移金属元素Tとして、Fe及びコバルト(Co)の両方を含有してもよい。
【0019】
図1中の(a)は、本実施形態に係る直方体状の永久磁石2の斜視図である。
図1中の(b)は、永久磁石2の断面2csの模式図である。永久磁石2の形状は、直方体に限定されない。例えば、永久磁石2の形状は、立方体、矩形(板)、多角柱、アークセグメント、扇、環状扇形(annular sector)状、球、円板、円柱、筒、リング、又はカプセルであってよい。永久磁石2の断面2csの形状は、例えば、多角形、円弧(円弦)、弓形、アーチ形、C字形、又は円であってよい。
【0020】
図2は、
図1中の(b)に示される断面2csの一部(領域II)の拡大図である。
図2に示されるように、永久磁石2は、複数の主相粒子4を備える。主相粒子4は、少なくともNd、T及びBを含有する。主相粒子4は、R
2T
14Bの結晶(単結晶又は多結晶)を含んでよい。主相粒子4は、Nd、T及びBに加えて他の元素を含有してもよい。例えば、R
2T
14Bは、(Nd
1-xPr
x)
2(Fe
1-yCo
y)
14Bと表されてよい。xは0以上1未満であってよい。yは0以上1未満であってよい。主相粒子4は、Rとして、軽希土類元素に加えて、Tb及びDy等の重希土類元素を含有してもよい。主相粒子4は、更にZrを含有してよい。R
2T
14BにおけるBの一部が、炭素(C)で置換されていてもよい。主相粒子4内の組成は均一であってよい。主相粒子4内の組成は不均一であってもよい。例えば、主相粒子4におけるR、T及びB其々の濃度分布が勾配を有していてもよい。
【0021】
主相粒子4は、表層部4aと、表層部4aに覆われた中心部4b、とから構成されている。表層部4aはシェルと言い換えられてよく、中心部4bはコアと言い換えられてよい。主相粒子4の表層部4aは、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有する。全ての主相粒子4其々の表層部4aが、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有してよい。全ての主相粒子4のうち一部の主相粒子4の表層部4aが、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有してもよい。表層部4aが重希土類元素を含有することにより、粒界近傍において異方性磁界が局所的に増加し易く、粒界近傍において磁化反転の核が発生し難い。その結果、高温での永久磁石2の保磁力が増加する。高温とは、例えば、100℃以上200℃以下であってよい。永久磁石2の残留磁束密度及び保磁力が両立し易いことから、表層部4aにおける重希土類元素の濃度の合計は、中心部4bにおける重希土類元素の濃度の合計よりも高くてよい。
【0022】
永久磁石2は、主相粒子4の間に位置する粒界を含む。永久磁石2は、粒界として、複数の粒界多重点6を含む。粒界多重点6は、三つ以上の主相粒子4に囲まれた粒界である。また永久磁石2は、粒界として、複数の二粒子粒界10を含む。二粒子粒界10は、隣り合う二つの主相粒子4の間に位置する粒界である。
【0023】
いずれか一つの粒界多重点6は、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)の結晶3と、R及びCuを含有するR‐Cuリッチ相5の両方を含む。以下では、ZrB2の結晶3及びR‐Cuリッチ相5の両方を含む一つの粒界多重点6が、「Zr‐B‐R‐Cu粒界」と表記される場合がある。
【0024】
図3は、ZrB
2の結晶3の結晶構造を示す。
図3中のa軸、b軸及びc軸其々は、ZrB
2の結晶軸である。a軸及びb軸の間の角度は、120°である。a軸及びb軸其々は、c軸に対して垂直である。ZrB
2の結晶構造は、c軸に対する回転対称性を有し、6回対称である。つまり、ZrB
2の結晶3は六方晶系であり、ZrB
2の結晶3の3次元空間群はP6/mmmである。
【0025】
一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるBの濃度は、5原子%以上20原子%以下である。一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるBの濃度は、永久磁石2の断面2csにおけるBの濃度の平均値よりも高い。
【0026】
一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるCuの濃度は、5原子%以上25原子%以下である。一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるCuの濃度は、永久磁石2の断面2csにおけるCuの濃度の平均値よりも高い。
【0027】
B及びCu其々の濃度が上記範囲内である一つの粒界多重点6は、ZrB2の結晶3及びR‐Cuリッチ相5の両方を含み易い。同様の理由から、一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるBの濃度は、6.4原子%以上15.2原子%以下であってよく、一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるCuの濃度は、9.2原子%以上19.6原子%以下であってよい。
【0028】
一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるNd及びPrの濃度の合計は、主相粒子4におけるNd及びPrの濃度の合計よりも高くてよい。一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるCuの濃度は、主相粒子4におけるCuの濃度よりも高くてよい。R‐Cuリッチ相5とは、Nd及びPrの濃度の合計が主相粒子4におけるNd及びPrの濃度の合計よりも高く且つCuの濃度が主相粒子4におけるCuの濃度よりも高い粒界多重点6に含まれる粒界相であってよい。主相粒子4におけるNd及びPrの濃度の合計とは、一つのZr‐B‐R‐Cu粒界に接する全ての主相粒子4におけるNd及びPrの濃度の合計の平均値であってよい。主相粒子4におけるCuの濃度とは、一つのZr‐B‐R‐Cu粒界に接する全ての主相粒子4におけるCuの濃度の平均値であってよい。
【0029】
一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるZrの濃度は、1原子%以上10原子%以下、又は1.6原子%以上7.4原子%以下であってよい。一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるZrの濃度は、永久磁石2の断面2csにおけるZrの濃度の平均値よりも高い。
【0030】
一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるNd及びPrの濃度の合計は、20原子%以上70原子%以下、又は25.1原子%以上46.1原子%以下であってよい。
【0031】
一つのZr‐B‐R‐Cu粒界におけるZr、Nd及びPr其々の濃度は、上記範囲内である傾向がある。換言すれば、Zr、Nd及びPr其々の濃度が上記範囲内である一つの粒界多重点6は、ZrB2の結晶3及びR‐Cuリッチ相5の両方を含み易い。
【0032】
永久磁石2は、複数のZr‐B‐R‐Cu粒界を含んでよい。永久磁石2に含まれる全ての粒界多重点6のうち一部の粒界多重点6は、Zr‐B‐R‐Cu粒界でなくてよい。例えば、一部の粒界多重点6は、ZrB2の結晶3のみを含んでよい。一部の粒界多重点6は、R‐Cuリッチ相5のみを含んでよい。一部の粒界多重点6は、ZrB2の結晶3及びR‐Cuリッチ相5のいずれも含まなくてよい。
【0033】
上記のZr‐B‐R‐Cu粒界は、後述される焼結工程及び拡散工程において形成される。拡散工程は、焼結工程後に実施される。焼結工程では、合金粉末から形成された成形体の加熱により、磁石基材(焼結体)が得られる。拡散工程では、拡散材を磁石基材の表面に付着させ、拡散材が付着した磁石基材が加熱される。拡散材は、Nd及びPrのうち少なくとも一種のR(軽希土類元素)を含有する第一成分と、Cuを含有する第二成分と、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有する第三成分と、を含む。
【0034】
焼結工程では、合金粉末を構成する各合金粒子同士の焼結に伴い、合金粒子中のZr及びBに由来するZrB2が、粒界多重点6内に生成する。また焼結工程では、R(Nd等の軽希土類元素)の濃度が高い粒界相(R相)が、粒界多重点6及び二粒子粒界10に形成される。R相中のRは、合金粒子に由来する。焼結工程に続く拡散工程における温度上昇に伴い、粒界多重点6及び二粒子粒界10に存在するR相が液相(R液相)になる。拡散材中のR(Nd等の軽希土類元素)及びCuがR液相へ溶解することにより、拡散材中のR及びCuが磁石基材の表面から磁石内部へと拡散する。その結果、R(Nd等の軽希土類元素)及びCu其々の濃度が高い液相(R‐Cuリッチ液相)が粒界多重点6内に形成される。ZrB2は、R‐Cuリッチ液相に対する親和性に優れている。つまり、R‐Cuリッチ液相に対するZrB2の溶解度は高い。したがって、拡散工程においては、ZrB2がR‐Cuリッチ液相へ溶解し易い。拡散工程後の冷却(急冷)により、ZrB2の結晶3がR‐Cuリッチ液相中に再析出し、R‐Cuリッチ液相は固化してR‐Cuリッチ相5になる。
【0035】
主相粒子4の表層部4aに含有される重希土類元素は、拡散工程に用いる拡散材中の重希土類元素に由来する。主相粒子4の表層部4a(R2Fe14B)は、拡散工程においてR‐Cuリッチ液相中に溶解する。拡散工程後の冷却(急冷)により表層部4aが再析出する過程において、表層部4aがR‐Cuリッチ液相中の重希土類元素を取り込むことにより、重希土類元素を含有する表層部4aが形成される。上記のように、拡散工程においてZrB2がR‐Cuリッチ液相に溶解することにより、粒界多重点6(R‐Cuリッチ液相)におけるBの濃度が増加する。R‐Cuリッチ液相におけるBの濃度の増加は、R‐Cuリッチ液相への表層部4a(R2Fe14B)の溶解を抑制する。表層部4a(R2Fe14B)の溶解の抑制により、重希土類元素を取り込みながら再析出する表層部4aの厚さが薄くなる。薄い表層部4a中に重希土類元素が濃縮されるため、表層部4aにおける重希土類元素の濃度が増加する。その結果、永久磁石2の保磁力が増加する。主相粒子4の表面に垂直な方向における表層部4aの厚さは、例えば、3nm以上50nm以下であってよい。
【0036】
以上の理由により、本実施形態に係る永久磁石2は、高温において高い保磁力を有することができる。高温とは、例えば、100℃以上200℃以下であってよい。
【0037】
上記の通り、R‐Cuリッチ液相中に溶解したZrB2は、拡散工程後の冷却(急冷)により、R‐Cuリッチ液相中に再析出する。またR‐Cuリッチ液相は濡れ性に優れるため、拡散工程においてR‐Cuリッチ液相が主相粒子4の表面を直接覆い易い。これらの理由により、ZrB2の結晶3はR‐Cuリッチ相5内に形成され易く、R‐Cuリッチ相5はZrB2の結晶3と主相粒子4の間に形成し易い。つまり、R‐Cuリッチ相5はZrB2の結晶3の周囲に存在していてよく、R‐Cuリッチ相5は、ZrB2の結晶3と主相粒子4の間に存在していてよい。ZrB2の結晶3と主相粒子4との格子不整合、又はZrB2の結晶3と主相粒子4との界面における格子欠陥は、磁化反転の起点(磁化反転の核)になり易い。しかし、R‐Cuリッチ相5がZrB2の結晶3と主相粒子4の間に介在することにより、ZrB2の結晶3が主相粒子4に直接接触する箇所が低減される。その結果、ZrB2の結晶3と主相粒子4との間において磁化反転の起点が生じ難く、永久磁石2の保磁力が増加し易い。
【0038】
ZrB2の結晶3は二粒子粒界10に繋がっていてよい。Zr‐B‐R‐Cu粒界が、二粒子粒界10に繋がったZrB2の結晶3を含むことにより、永久磁石2は高い保磁力を有し易い。
【0039】
上記のメカニズムによってZr‐B‐R‐Cu粒界を形成するためには、拡散材が、Nd及びPrのうち少なくとも一種のRを含有する第一成分と、Cuを含有する第二成分と、Tb及びDyのうち少なくとも一種の重希土類元素を含有する第三成分を含有する必要がある。拡散材が第二成分を含有しない場合、拡散工程において十分なR‐Cuリッチ液相が粒界多重点6内に形成され難い。その結果、上記のメカニズムによってZr‐B‐R‐Cu粒界を形成することは困難であり、薄い表層部4a中に重希土類元素を濃縮することも困難である。
【0040】
本発明の技術的範囲は、上記のZr‐B‐R‐Cu粒界の形成に関する上記のメカニズムによって限定されるものではない。
【0041】
Zr‐B‐R‐Cu粒界以外の一部の粒界多重点6は、Rリッチ相(希土類元素リッチ相)を含んでよい。Rリッチ相は、Nd及びPrのうち少なくとも一種のRを含有する粒界相であり、且つ、Rの濃度の合計が他の粒界多重点よりも高い粒界多重点に含まれる粒界相である。Rリッチ相が含まれる一つの粒界多重点におけるRの濃度の合計は、永久磁石2の断面2csにおけるRの濃度の合計の平均値よりも高い。
【0042】
Zr‐B‐R‐Cu粒界以外の一部の粒界多重点6は、R‐O‐C相を含んでよい。R‐O‐C相は、Nd及びPrのうち少なくとも一種のR、酸素(O)及びCを含有する粒界相であり、且つ、O及びC其々の濃度が他の粒界多重点よりも高い粒界多重点に含まれる粒界相である。R‐O‐C相が含まれる一つの粒界多重点におけるOの濃度は、永久磁石2の断面2csにおけるOの濃度の平均値よりも高い。R‐O‐C相が含まれる一つの粒界多重点におけるCの濃度は、永久磁石2の断面2csにおけるCの濃度の平均値よりも高い。大気中の水(例えば水蒸気)が粒界中のRリッチ相を酸化することにより、水素の生成及び吸蔵、Rリッチ相の水素化、水によるRの水素化物の酸化が粒界中で連鎖的に進行する。その結果、永久磁石2が腐食される。一方、R‐O‐C相は、Rリッチ相に比べて、水によって酸化され難い。またR‐O‐C相は、Rリッチ相に比べて、水素を吸蔵し難い。したがって、永久磁石2がR‐O‐C相が含むことにより、永久磁石2の耐食性が向上する。
【0043】
Zr‐B‐R‐Cu粒界以外の一部の粒界多重点6は、酸化物相を含んでよい。酸化物相は、Nd及びPrのうち少なくとも一種のRの酸化物を主成分として含み、且つ、組成において上記のR‐O‐C相と異なる粒界相である。
【0044】
Zr‐B‐R‐Cu粒界以外の一部の粒界多重点6は、Tリッチ相(遷移金属元素リッチ相)を含んでよい。Tリッチ相は、Tと、Cuと、Nd及びPrのうち少なくとも一種のRと、を含有する粒界相であり、且つ、Tの濃度の合計が他の粒界多重点よりも高い粒界多重点に含まれる粒界相である。Tリッチ相に含まれるTは、Feのみであってよい。Tリッチ相に含まれるTは、Fe及びCoであってもよい。Tリッチ相が含まれる一つの粒界多重点におけるTの濃度の合計は、他の粒界多重点におけるTの濃度の合計よりも高い。Tリッチ相におけるTの濃度は他の粒界相に比べて高いにもかかわらず、Tリッチ相の磁化は比較的低い。磁化が低いTリッチ相が、粒界多重点6及び二粒子粒界10の少なくともいずれかに存在することにより、主相粒子4同士の磁気的な結合が分断され易い。その結果、永久磁石2の保磁力が増加し易い。Tリッチ相は、R、T及びCuに加えて、更にガリウム(Ga)を含有してよい。
【0045】
一つの粒界多重点6は、ZrB2の結晶3、R‐Cuリッチ相5、Rリッチ相、酸化物相、R‐O‐C相及びTリッチ相からなる群より選ばれる複数の粒界相を含んでよい。一つの二粒子粒界10が、ZrB2の結晶3、R‐Cuリッチ相5、Rリッチ相、酸化物相、R‐O‐C相及びTリッチ相からなる群より選ばれる複数の粒界相を含んでよい。
【0046】
一部のZr‐B‐R‐Cu粒界は、ZrB2の結晶3及びR‐Cuリッチ相5に加えて、上記の他の粒界相を更に含んでよい。例えば、一部のZr‐B‐R‐Cu粒界が、ZrB2の結晶3及びR‐Cuリッチ相5に加えて、Tリッチ相を更に含んでよい。Zr‐B‐R‐Cu粒界が、Tリッチ相を更に含む場合、永久磁石2の保磁力が増加し易い。
【0047】
ZrB2の結晶3、R‐Cuリッチ相5、主相粒子4及びその他の粒界相其々は、組成の違いに基づいて明確に識別される。これらの組成物の組成は、永久磁石2の断面2csの分析によって特定されてよい。永久磁石2の断面2csは、エネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X‐ray Spectroscopy; EDS)装置が搭載された電子線プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer; EPMA)によって分析されてよい。ZrB2の結晶3、R‐Cuリッチ相5、主相粒子4及びその他の粒界相其々は、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope; STEM)等の走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された永久磁石2の断面2csの画像において、コントラストに基づいて識別することもできる。Zr‐B‐R‐Cu粒界の内部構造は、例えば、高角散乱環状暗視野‐STEM像(High Angle Annular Dark Field‐STEM image; HAADF‐STEM image)などによって得られる画像のコントラストによって特定されてよい。ZrB2の結晶3の結晶構造は、格子分解能のHAADF‐STEM像及び電子線回折パターンに基づいて特定されてよい。
【0048】
EPMAによれば、永久磁石2の断面2csにおけるZr,B,Cu其々の分布マップが測定される。任意の一種の元素が、Exと表記される場合、Exの分布マップにおいて明るい個所は、Exの濃度が永久磁石2の断面2csにおけるExの濃度の平均値よりも高い個所である。換言すれば、Exの分布マップにおいて明るい個所は、Exの特性X線の強度が永久磁石2の断面2csにおけるExの特性X線の強度の平均値よりも高い個所である。Zr、B及びCu其々の分布マップにおける各元素の濃度が高い個所は、Zr‐B‐R‐Cu粒界において重なり合う。つまり、Zr、B及びCu其々の分布マップの重ね合わせにより、Zr‐B‐R‐Cu粒界の位置を特定することができる。Zr‐B‐R‐Cu粒界の位置が特定された後、Zr‐B‐R‐Cu粒界をEPMAで局所的に分析することにより、Zr‐B‐R‐Cu粒界における各元素の濃度を測定することができる。
【0049】
主相粒子4の平均粒子径又はメジアン径(D50)は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上10.0μm以下、又は1.5μm以上6.0μm以下であってよい。永久磁石2における主相粒子4の体積の割合の合計は、特に限定されないが、例えば、80体積%以上100体積%未満であってよい。
【0050】
永久磁石2の全体の具体的な組成は、以下に説明される。ただし、永久磁石2の組成は下記の組成に限定されない。Zr‐B‐R‐Cu粒界に起因する上記効果が得られる限りにおいて、永久磁石2中の各元素の含有量は、下記の範囲を外れてもよい。
【0051】
永久磁石の全体における希土類元素Rの含有量の合計は、25質量%以上35質量%以下、又は28質量%以上34質量%以下であってよい。Rの含有量がこの範囲であることにより、残留磁束密度及び保磁力が増加する傾向がある。Rの含有量が少なすぎる場合、主相粒子(R2T14B)が形成され難く、軟磁性を有するα‐Fe相が形成され易い。その結果、保磁力が低下する傾向がある。一方、Rの含有量が多すぎる場合、主相粒子の体積比率が低くなり、残留磁束密度が低下する傾向がある。残留磁束密度及び保磁力が増加し易いことから、全希土類元素Rに占めるNd及びPrの割合の合計は、80原子%以上100原子%以下、又は95原子%以上100原子%以下であってよい。
【0052】
永久磁石の全体におけるBの含有量は、0.90質量%以上1.05質量%以下であってよい。Bの含有量が0.90質量%以上である場合、永久磁石がZr‐B‐R‐Cu粒界を含み易い。またBの含有量が0.90質量%以上である場合、永久磁石の残留磁束密度が増加し易い。Bの含有量が1.05質量%以下である場合、永久磁石の保磁力が増加し易い。Bの含有量が上記の範囲内である場合、永久磁石の角型比(Hk/HcJ)が1.0に近づき易い。Hkとは、磁化曲線の第二象限における残留磁束密度(Br)の90%に相当する減磁界の強度である。
【0053】
永久磁石の全体におけるZrの含有量は、0.10質量%以上1.00質量%以下、好ましくは0.25質量%以上1.00質量%以下であってよい。Zrの含有量が、0.25質量%以上である場合、永久磁石がZr‐B‐R‐Cu粒界を含み易い。またZrの含有量が、0.25質量%以上である場合、後述される焼結工程における主相粒子の異常粒成長が抑制され易く、永久磁石の角型比が1.0に近づき易く、低磁場下で永久磁石が着磁され易い。Zrの含有量が1.00質量%以下である場合、永久磁石の残留磁束密度が増加し易い。
【0054】
永久磁石の全体におけるCuの含有量は、0.04質量%以上0.50質量%以下であってよい。Cuの含有量が0.04質量%以上である場合、永久磁石がZr‐B‐R‐Cu粒界を含み易い。またCuの含有量が0.04質量%以上である場合、永久磁石の保磁力が増加し易く、永久磁石の耐食性が向上し易い。Cuの含有量が0.50質量%以下である場合、永久磁石の保磁力及び残留磁束密度が増加し易い。
【0055】
永久磁石の全体におけるGaの含有量は、0.03質量%以上0.30質量%以下であってよい。Gaの含有量が0.03質量%以上である場合、永久磁石がTリッチ相を含み易く、永久磁石の保磁力が増加し易い。Gaの含有量が0.30質量%以下である場合、副相(例えば、R、T及びGaを含む相)の生成が適度に抑制され、永久磁石の残留磁束密度が増加し易い。
【0056】
永久磁石の全体におけるOの含有量は、0.03質量%以上0.4質量%以下、又は0.05質量%以上0.2質量%以下であってよい。Oの含有量が少なすぎる場合、R‐O‐C相が形成され難い。Oの含有量が多すぎる場合、永久磁石の保磁力が低下し易い。
【0057】
永久磁石の全体におけるCの含有量は、0.03質量%以上0.3質量%以下、又は0.05質量%以上0.15質量%以下であってよい。Cの含有量が少なすぎる場合、R‐O‐C相が形成され難い。Cの含有量が多すぎる場合、永久磁石の保磁力が低下し易い。
【0058】
永久磁石の全体におけるCoの含有量は、0.30質量%以上3.00質量%以下であってよい。Coの含有量が0.30質量%以上である場合、永久磁石の耐食性が向上し易い。Coの含有量が3.00質量%よりも大きい場合、永久磁石の耐食性が向上する効果が頭打ちとなり、Coに掛かるコストに見合った利点がない。
【0059】
永久磁石の全体におけるアルミニウム(Al)の含有量は、0.05質量%以上0.50質量%以下であってよい。Alの含有量が0.05質量%以上である場合、永久磁石の保磁力が増加し易い。またAlの含有量が0.05質量%以上である場合、後述される時効処理又は熱処理の温度の変化に伴う永久磁石の磁気特性(特に保磁力)の変化量が小さい傾向があり、量産される永久磁石の磁気特性のばらつきが抑制される傾向がある。Alの含有量が0.50質量%以下である場合、永久磁石の残留磁束密度が増加し易い。またAlの含有量が0.50質量%以下である場合、温度変化に伴う保磁力の変化が抑制され易い。
【0060】
永久磁石の全体におけるマンガン(Mn)の含有量は、0.02質量%以上0.10質量%以下であってよい。Mnの含有量が0.02質量%以上である場合、永久磁石の残留磁束密度及び保磁力が増加し易い。Mnの含有量が0.10質量%以下である場合、永久磁石の保磁力が増加し易い。
【0061】
永久磁石の全体におけるTb及びDyの含有量の合計値は、0.00質量%以上5.00質量%以下、又は0.20質量%以上5.00質量%以下であってよい。場合により、永久磁石の全体におけるTb及びDyの含有量の合計値は、CTb+Dyと表記される。永久磁石のCTb+Dyが0.20質量%以上であることにより、永久磁石の磁気特性(特に保磁力)が増加し易い。また永久磁石のCTb+Dyが上記範囲内である場合、本実施形態に係る永久磁石は、CTb+Dyが同じである従来の永久磁石に比べて、優れた磁気特性を有し易い。換言すれば、本実施形態に係る永久磁石のCTb+Dyが従来の永久磁石のCTb+Dy以下である場合であっても、本実施形態に係る永久磁石は従来の永久磁石に比べて優れた磁気特性を有することが可能である。つまり、本実施形態に係る永久磁石によれば、磁気特性を損なくことなくCTb+Dyを従来の永久磁石のCTb+Dyよりも低減することが可能である。
【0062】
永久磁石から上記の元素を除いた残部は、Feのみ、又はFe及びその他の元素であってよい。永久磁石が十分な磁気特性を有するためには、残部のうち、Fe以外の元素の含有量の合計は、永久磁石の全質量に対して5質量%以下であってよい。
【0063】
永久磁石は、その他の元素として、珪素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、錫(Sn)、カルシウム(Ca)、窒素(N)、塩素(Cl)、硫黄(S)及びフッ素(F)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。
【0064】
永久磁石全体の組成は、例えば、蛍光X線(XRF)分析法、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法、不活性ガス融解‐非分散型赤外線吸収(NDIR)法、酸素気流中燃焼‐赤外吸収法及び不活性ガス融解‐熱伝導度法等によって分析されてよい。
【0065】
本実施形態に係る永久磁石は、モーター、発電機又はアクチュエーター等に適用されてよい。例えば、永久磁石は、ハイブリッド自動車、電気自動車、ハードディスクドライブ、磁気共鳴画像装置(MRI)、スマートフォン、デジタルカメラ、薄型TV、スキャナー、エアコン、ヒートポンプ、冷蔵庫、掃除機、洗濯乾燥機、エレベーター及び風力発電機等の様々な分野で利用される。
【0066】
(永久磁石の製造方法の概要)
本実施形態に係る永久磁石の製造方法は、拡散材を磁石基材の表面に付着させ、拡散材が付着した磁石基材を加熱する拡散工程を備える。磁石基材は、R、T、B及びZrを含有する。磁石基材に含有される少なくとも一部のRは、Ndである。磁石基材に含有される少なくとも一部のTは、Feである。拡散材は、第一成分、第二成分及び第三成分を含有する。第一成分は、Ndの水素化物及びPrの水素化物のうち少なくとも一種である。第二成分は、Cuの単体、Cuを含有する合金、及びCuの化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である。第三成分は、Tbの水素化物及びDyの水素化物のうち少なくとも一種である。
【0067】
第一成分及び第二成分の両方を含む拡散材を用いることにより、拡散工程において上記のR‐Cuリッチ液相が粒界多重点内に形成され、永久磁石がZr‐B‐R‐Cu粒界を含むことができる。つまり、Zr‐B‐R‐Cu粒界に含有されるCuの大部分は、拡散材に含有される第二成分に由来する。拡散材が第一成分及び第二成分のうち少なくとも一方を含有しない場合、Cuの不足又はCuの不十分な拡散に因り、拡散工程において上記のR‐Cuリッチ液相が粒界多重点内に形成され難く、永久磁石がZr‐B‐R‐Cu粒界を含むことは困難である。
【0068】
(各工程の詳細)
以下では、永久磁石の製造方法が備える各工程の詳細が説明される。
【0069】
[原料合金の調製工程]
原料合金の調製工程では、永久磁石を構成する各元素を含む金属(原料金属)から、ストリップキャスティング法等により、原料合金が作製される。原料金属は、例えば、希土類元素の単体(金属単体)、希土類元素を含有する合金、純鉄、フェロボロン、又はこれらを含有する合金であってよい。これらの原料金属は、所望の磁石基材の組成に一致するように秤量される。上記の永久磁石における各元素(Nd、Pr、Cu、Tb及びDyを除く。)の含有量は、磁石基材(原料合金)における各元素の含有量に基づいて、制御されてよい。永久磁石におけるNd、Pr、Cu、Tb及びDy其々の含有量は、磁石基材(原料合金)におけるNd、Pr、Cu、Tb及びDy其々の含有量と、拡散工程に用いる拡散材の組成及び使用量に基づいて、制御されてよい。原料合金として、組成が異なる二種以上の合金が用いられてもよい。
【0070】
原料合金は、少なくともR、T、B及びZrを含有する。原料合金は、更にCuを含有してもよい。原料合金はCuを含有しなくてもよい。
【0071】
原料合金に含有される少なくとも一部のRは、Ndである。原料合金は、他のRとして、Sc、Y、La、Ce、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含有してよい。原料合金はPrを含有してよい。原料合金はPrを含有しなくてもよい。原料合金はTb及びDyのうち一方又は両方を含有してよい。原料合金はTb及びDyのうち一方又は両方を含有しなくてもよい。
【0072】
原料合金に含有される少なくとも一部のTは、Feである。原料合金に含有される全てのTがFeであってよい。原料合金に含有されるTは、Fe及びCoであってもよい。原料合金は、Fe及びCo以外の他の遷移金属元素を更に含有してもよい。以下に記載のTは、Feのみ、又はFe及びCoを意味する。
【0073】
原料合金は、R、T、B及びZrに加えて、他の元素を更に含有してよい。例えば、原料合金は、他の元素として、Ga、Al、Mn、C、O、N、Si、Ti、V、Cr、Ni、Nb、Mо、Hf、Ta、W、Bi、Sn、Ca、Cl、S及びFからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してもよい。
【0074】
[粉砕工程]
粉砕工程では、上記の原料合金を非酸化的雰囲気中で粉砕することにより、合金粉末が調製される。原料合金は、粗粉砕工程及び微粉砕工程の二段階で粉砕されてよい。粗粉砕工程では、例えば、スタンプミル、ジョークラッシャー、又はブラウンミル等の粉砕方法が用いられてよい。粗粉砕工程は、不活性ガス雰囲気中で行われてよい。水素を原料合金へ吸蔵させた後、原料合金が粉砕されてよい。つまり、粗粉砕工程として水素吸蔵粉砕が行われてもよい。粗粉砕工程においては、原料合金は、その粒径が数百μm程度となるまで粉砕されてよい。粗粉砕工程に続く微粉砕工程では、粗粉砕工程を経た原料合金が、その平均粒径が数μmとなるまで更に粉砕されてよい。微粉砕工程では、例えば、ジェットミルが用いられてよい。原料合金は、一段階の粉砕工程のみによって粉砕されてもよい。例えば、微粉砕工程のみが行われてもよい。複数種の原料合金を用いられる場合、各原料合金が別々に粉砕された後、各原料合金が混合されてもよい。合金粉末は、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド及び脂肪酸の金属塩(金属石鹸)からなる群より選ばれる少なくとも一種の潤滑剤(粉砕助剤)を含有してよい。換言すれば、原料合金は粉砕助剤と共に粉砕されてよい。
【0075】
[成形工程]
成形工程では、上記の合金粉末を磁場中で成形することにより、磁場に沿って配向した合金粉末を含む成形体が得られる。例えば、金型内の合金粉末に磁場を印加しながら、合金粉末を金型で加圧することにより、成形体が得られてよい。金型が合金粉末に及ぼす圧力は、20MPa以上300MPa以下であってよい。合金粉末に印加される磁場の強さは、950kA/m以上1600kA/m以下であってよい。成形体の形状は、永久磁石と同様であってよい。
【0076】
[焼結工程]
焼結工程では、上記の成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結することにより、焼結体が得られる。焼結条件は、目的とする永久磁石の組成、原料合金の粉砕方法及び粒度等に応じて、適宜設定されてよい。焼結温度は、例えば、1000℃以上1200℃以下であってよい。焼結時間は、1時間以上20時間以下であってよい。
【0077】
[時効処理工程]
焼結工程後に時効処理工程が実施されてよい。ただし、時効処理工程は必須ではない。時効処理工程では、焼結体が焼結温度よりも低温で加熱されてよい。時効処理工程では、焼結体が真空又は不活性ガス雰囲気中で加熱されてよい。後述される拡散工程が時効処理工程を兼ねていてよい。その場合、拡散工程とは別の時効処理工程は実施されなくてよい。時効処理工程は、第一時効処理と、第一時効処理に続く第二時効処理とから構成されていてよい。第一時効処理では、焼結体が700℃以上900℃以下の温度で加熱されてよい。第一時効処理の時間は、1時間以上10時間以下であってよい。第二時効処理では、焼結体が500℃以上700℃以下の温度で加熱されてよい。第二時効処理の時間は、1時間以上10時間以下であってよい。
【0078】
以上の工程により、焼結体が得られる。焼結体は、以下の拡散工程に用いられる磁石基材である。磁石基材(焼結体)は、互いに焼結された複数(多数)の主相粒子(合金粒子)を備える。ただし、磁石基材に含まれる各主相粒子の組成は、後述する拡散工程を経た永久磁石に含まれる各主相粒子の組成と異なる。主相粒子は、少なくともNd、Fe、B及びZrを含む。主相粒子は、R2T14Bの結晶を含んでよい。磁石基材は、複数の粒界多重点も備える。ただし、磁石基材に含まれる各粒界多重点の組成は、完成された永久磁石に含まれる各粒界多重点の組成と異なる。磁石基材は、粒界として、複数の二粒子粒界も備える。ただし、磁石基材に含まれる各二粒子粒界の組成は、後述する拡散工程を経た永久磁石に含まれる各二粒子粒界の平均的組成と異なる。粒界多重点中のNdの濃度は、主相粒子中のNdの濃度よりも高くてよい。つまり磁石基材中の粒界多重点は既にRリッチ相を含んでよい。また上記の通り、主相粒子中のZr及びBに由来するZrB2が、粒界多重点内に生成していてよい。
【0079】
[拡散工程]
拡散工程では、拡散材を磁石基材の表面に付着させ、拡散材が付着した磁石基材が加熱される。拡散材は、少なくとも第一成分、第二成分及び第三成分を含有する。拡散材は、第一成分、第二成分及び第三成分以外の他の成分を更に含有してもよい。以下の説明の便宜のため、Nd及びPrのうち一方又は両方は、RLと表記される。Tb及びDyのうち一方又は両方は、RHと表記される。
【0080】
第一成分は、Ndの水素化物及びPrの水素化物のうち少なくとも一種である。Ndの水素化物は、例えば、NdH2及びNdH3のうち少なくともいずれかであってよい。Prの水素化物は、例えば、PrH2及びPrH3のうち少なくともいずれかであってよい。Ndの水素化物及びPrの水素化物は、NdとPrとからなる合金の水素化物であってもよい。
【0081】
第二成分は、Cuの単体、Cuを含有する合金、及びCuの化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である。第二成分はNd、Pr、Tb及びDyを含有しなくてよい。Cuを含有する合金は、永久磁石に含有され得る元素のうち、Nd、Pr、Tb及びDyを除く少なくとも一種の元素を含有してよい。銅の化合物は、例えば、水素化物及び酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。Cuの水素化物は、例えば、CuHであってよい。Cuの酸化物は、例えば、Cu2O及びCuOのうち少なくともいずれかであってよい。
【0082】
第三成分は、Tbの水素化物及びDyの水素化物のうち少なくとも一種である。Tbの水素化物は、例えば、TbH2及びTbH3のうち少なくともいずれかであってよい。Tbの水素化物は、例えば、Tb及びFeからなる合金の水素化物であってもよい。Dyの水素化物は、例えば、DyH2及びDyH3のうち少なくともいずれかであってよい。Dyの水素化物は、例えば、Dy及びFeからなる合金の水素化物であってもよい。Tbの水素化物及びDyの水素化物は、例えば、TbとDyとFeとからなる合金の水素化物であってもよい。
【0083】
第一成分、第二成分及び第三成分其々は、粉末であってよい。第一成分、第二成分及び第三成分其々が粉末であることにより、第一成分中のRL、第二成分中のCu及び第三成分中のRHが、磁石基材の内部へ拡散し易い。第一成分、第二成分及び第三成分其々は、粗粉砕工程及び微粉砕工程によって作製されてよい。粗粉砕工程及び微粉砕工程其々の方法は、上記の原料合金の粉砕工程と同様であってよい。第一成分、第二成分及び第三成分がまとめて同時に粉砕されてよい。粗粉砕工程及び微粉砕工程によって、第一成分、第二成分及び第三成分其々の粒径が自在に制御されてよい。例えば、金属単体に水素を吸蔵させた後、金属の水素化物が脱水素されてよい。その結果、金属の水素化物からなる粗い粉末が得られる。粗い水素化物の粉末をジェットミルによって更に粉砕することにより、金属の水素化物からなる微粉末が得られる。この微粉末が、第一成分、第二成分及び第三成分として用いられてよい。第一成分及び第三成分とは別の方法で、第二成分の粉末が作製されてよい。例えば、第二成分の粉末が電解法又はアトマイズ法等の方法で作製された後、第二成分の粉末が、第一成分及び第三成分と混合されてよい。
【0084】
拡散材が付着した磁石基材が加熱されることにより、第一成分に由来するRLが磁石基材の内部へ拡散し、第二成分に由来するCuが磁石基材の内部へ拡散し、第三成分に由来するRHが磁石基材の内部へ拡散する。RL、Cu及びRHは、以下のメカニズムにより、磁石基材の表面から磁石基材の内部へ拡散する、と本発明者らは推測する。ただし、拡散のメカニズムは、以下のメカニズムに限定されない。
【0085】
上記焼結工程では、RLの濃度が高い粒界相(R相)が、粒界多重点6及び二粒子粒界10に形成される。R相中のRLは、合金粒子に由来する。拡散工程における温度上昇に伴い、粒界多重点6及び二粒子粒界10に存在するR相が液相(R液相)になる。そして、拡散材がR液相へ溶解することにより、拡散材の成分が磁石基材の表面から磁石基材の内部へと拡散する。仮に拡散材として第三成分(RHの水素化物)のみが用いられた場合、拡散工程における温度上昇に伴い、磁石基材の表面に付着したRHの水素化物の脱水素反応が起きる。脱水素反応によって生成したRHは、磁石基材の内部から表面に染み出してきたR液相に対して急激に溶解し易い。その結果、磁石基材の表面付近においてRHの濃度が急上昇し、磁石基材の表面近傍に位置する主相粒子内部へのRHの拡散が起こり易くなる。つまり、RHは磁石基材の表面近傍に位置する主相粒子内部に停滞し易くなり、磁石基材の内部へ拡散し難い。したがって、磁石内部に拡散するRHが少なくなり、永久磁石の保磁力の増加量が少なくなる。
【0086】
一方、拡散材が、第一成分(RL)、第二成分(Cu)及び第三成分(RH)を含む場合、CuとRLの共晶温度が低いため、磁石基材内のR液相が磁石基材の表面まで染み出してきた際、拡散材に含有されるCuがRHよりも先にR液相へ溶解し易い。つまり、最初にR液相に対するCuの溶解が起こり、磁石基材の表面付近に位置するR液相中のCu濃度が上昇する。その結果、磁石基材の表面付近にR‐Cuリッチ液相が生成し、Cuは更に磁石基材の内部のR液相へと拡散していく。一方、第一成分のRLと第三成分のRHは、水素化物の脱水素反応が起こった後にR‐Cuリッチ液相へ溶解し始める。第一成分のRLとCuの共晶温度は約500℃であり、第三成分のRHとCuの共晶温度は約700~800℃である。そのため、Cuに続いて第一成分のRLが磁石基材表面付近のR‐Cuリッチ液相へ溶解した後、第三成分のRHがR‐Cuリッチ液相へ溶解する。Cuに続いて第一成分のRLが液相へ溶解することにより、液相を介した磁石基材内部へのCuの拡散が促進され、磁石基材の粒界内にR‐Cuリッチ液相が更に生成する。
【0087】
第一成分(RL)、第二成分(Cu)及び第三成分(RH)のうち第三成分は液相中に最後に溶解し易いので、第三成分に由来するRHは、Cu及びRLに続いて磁石基材内部の液相へ拡散していく。その結果、第一成分及び第二成分がない場合と比べて、磁石基材の表面近傍でのRHの濃度の急上昇が抑制される。磁石基材の表面近傍でのRHの濃度の急上昇を抑制することにより、磁石基材の表面近傍に位置する主相粒子の内部へのRHの過度の拡散が抑制される。その結果、十分な量のRHが磁石基材の内部に拡散することが可能であり、永久磁石の保磁力が向上する。
【0088】
焼結工程において粒界多重点内に形成されたZrB2は、R‐Cuリッチ液相中に容易に溶解する。拡散工程後の冷却(急冷)により、ZrB2の結晶がR‐Cuリッチ液相中に再析出し、R‐Cuリッチ液相は固化してR‐Cuリッチ相になる。
【0089】
主相粒子の表層部(R2Fe14B)は、拡散工程において、粒界に生成したR‐Cuリッチ液相中に溶解する。拡散工程後の冷却(急冷)により表層部がR‐Cuリッチ液相から再析出する過程において、表層部がR‐Cuリッチ液相中の第三成分(RH)を取り込むことにより、RHを含有する表層部が形成される。上記のように、拡散工程においてZrB2がR‐Cuリッチ液相に溶解することにより、粒界(R‐Cuリッチ液相)におけるBの濃度が増加する。R‐Cuリッチ液相におけるBの濃度の増加は、R‐Cuリッチ液相への表層部(R2Fe14B)の溶解を抑制する。表層部(R2Fe14B)の溶解の抑制により、RHを取り込みながら再析出する表層部の厚さが薄くなる。薄い表層部中にRHが濃縮されるため、表層部におけるRHの濃度が増加する。その結果、異方性磁界が二粒子粒界の近傍において局所的に大きくなり、磁化反転の核が二粒子粒界の近傍において発生し難くなる。そして、永久磁石の保磁力が増加する。
【0090】
以上の通り、本実施形態によれば、永久磁石の保磁力を増加させることができる。
【0091】
上記の拡散のメカニズムによって永久磁石の磁気特性が向上し易いことから、第一成分が、ネオジムの水素化物及びプラセオジムの水素化物のうち少なくとも一種であってよってよく、第二成分が、銅の単体であってよく、第三成分が、Tbの水素化物及びDyの水素化物のうち少なくとも一種であってよい。
【0092】
拡散工程では、第一成分、第二成分、第三成分及び溶媒を含有するスラリーが、拡散材として磁石基材の表面に付着してよい。スラリーに含有される溶媒は、水以外の溶媒であってよい。溶媒は、例えば、アルコール、アルデヒド、又はケトン等の有機溶媒であってよい。拡散材が磁石基材の表面に付着し易いように、拡散材は、バインダを更に含有してよい。スラリーが、第一成分、第二成分、第三成分、溶媒及びバインダを含有してよい。第一成分、第二成分、第三成分、バインダ及び溶媒の混合により、スラリーよりも高い粘性を有するペーストが形成されてもよい。このペーストが磁石基材の表面に付着してもよい。ペーストとは、流動性と高い粘性を有する混合物である。拡散工程の前に、スラリー又はペーストが付着した磁石基材を加熱することにより、スラリー又はペーストに含まれる溶媒が除去されてよい。
【0093】
拡散材は、磁石基材の表面の一部又は全体に付着してよい。拡散材の付着方法は限定されない。例えば、上記のスラリー又はペーストが磁石基材の表面へ塗布されてよい。拡散材自体又はスラリーが磁石基材の表面へ噴霧されてよい。拡散材を磁石基材の表面へ蒸着させてもよい。磁石基材が、スラリー中に浸漬されてよい。磁石基材の表面を覆う粘着剤(バインダ)を介して、拡散材が磁石基材に付着してもよい。磁石基材の表面の一部又は全体が、拡散材を含有するシートで覆われてもよい。
【0094】
拡散工程における磁石基材の温度(拡散温度)は、RLとCuの共晶温度以上であってよく、上記の焼結温度未満であってよい。例えば、拡散温度は、800℃以上950℃以下であってよい。拡散工程では、拡散温度よりも低い温度から拡散温度に至るまで、磁石基材の温度を徐々に上昇させてよい。磁石基材の温度が拡散温度に維持される時間(拡散時間)は、例えば、1時間以上50時間以下であってよい。拡散工程における磁石基材の周囲の雰囲気は、非酸化的雰囲気であってよい。非酸化的雰囲気は、例えば、アルゴン等の希ガスであってよい。また、拡散工程における磁石基材の周囲の雰囲気の圧力は、1kPa以下であってよい。このような減圧された雰囲気中で拡散工程を実施することにより、水素化物(第一成分及び第三成分)の脱水素反応が促進され、液相への拡散材の溶解が進行し易い。
【0095】
拡散材中のTb、Dy、Nd、Pr及びCuの質量の合計値は、MELEMENTSと表されてよい。拡散材中のTb及びDyの質量の合計値は、MELEMENTSに対して、47質量%以上86質量%以下、55質量%以上85質量%以下、55質量%以上80質量%以下、又は59質量%以上75質量%以下であってよい。Tb及びDyの質量の合計値は、拡散材中のRHの質量の合計値と言い換えられる。RHの質量の合計値が55質量%以上である場合、永久磁石の保磁力の増加に要する拡散材の総量が低減され易い。RHの質量の合計値が85質量%以下である場合、磁石基材の表面近傍に位置する主相粒子の内部に停滞するRHが少なくなり、永久磁石の保磁力が向上し易い。
【0096】
拡散材中のNd及びPrの質量の合計値は、MELEMENTSに対して、10質量%以上43質量%以下、10質量%以上37質量%以下、15質量%以上37質量%以下、又は15質量%以上32質量%以下であってよい。Nd及びPrの質量の合計値は、拡散材中のRLの質量の合計値と言い換えられる。RLの質量の合計値が10質量%以上である場合、拡散工程において磁石基材の内部までR‐Cuリッチ液相が存在し易く、主相粒子の表層部におけるRHの濃度が高くなり易い。RLの質量の合計値が37質量%以下である場合、第三成分(RH)が第一成分(RL)によって希釈され過ぎず、永久磁石の保磁力が増加し易い。
【0097】
拡散材中のCuの含有量は、MELEMENTSに対して、4質量%以上30質量%以下、8質量%以上25質量%以下、又は8質量%以上20質量%以下であってもよい。Cuの含有量が4質量%以上である場合、R‐Cuリッチ液相が生成し易く、主相粒子の表層部におけるRHの濃度が高くなり易い。Cuの含有量が30質量%以下である場合、永久磁石の保磁力及び残留磁束密度の減少が抑制され易い。磁石基材がCuを含有する場合、磁石基材に由来するCuが、拡散材に由来するCuと同様の上記効果を示してもよい。ただし、磁石基材に由来するCuだけによって、拡散材に由来するCuと同様の効果を得ることは困難である。
【0098】
第一成分、第二成分及び第三成分其々の粒径は、0.3μm以上32μm以下、又は0.3μm以上90μm以下の範囲内であってもよい。第一成分、第二成分及び第三成分其々の粒径は、拡散材の粒径と言い換えられてよい。拡散材の粒径の増加に伴い、拡散材に含まれる酸素が低減され、RH,RL及びCuの拡散が酸素によって阻害され難い。その結果、永久磁石の保磁力が増加し易い。拡散材の粒径の減少に伴い、第一成分、第二成分及び第三成分其々の溶解に要する時間が短く、RH,RL及びCu其々が磁石基材の内部へ拡散し易い。その結果、永久磁石の保磁力が増加し易い。また拡散材の粒径の減少に伴い、拡散材が斑なく磁石基材の表面に付着し易く、RH,RL及びCu其々が斑なく磁石基材の内部へ拡散し易い。その結果、永久磁石の保磁力のばらつきが抑制され、角型比が1.0に近づき易い。第一成分、第二成分及び第三成分其々の粒径は、同じであってよい。第一成分、第二成分及び第三成分其々の粒径は、互いに異なってもよい。
【0099】
磁石基材の質量は、100質量部と表されてよく、拡散材中のTb及びDyの質量の合計値は、100質量部の磁石基材に対して、0.0質量部以上2.0質量部以下であってよい。磁石基材に対するTb及びDyの質量の合計値が上記の範囲内である場合、永久磁石の全体におけるTb及びDyの含有量の合計値が、0.20質量%以上2.00質量%以下に制御され易く、永久磁石の磁気特性が向上し易い。
【0100】
磁石基材中のNd及びPrの含有量の合計値は、23.0質量%以上32.0質量%以下であってよい。磁石基材中のTb及びDyの含有量の合計値は、0.0質量%以上5.0質量%以下であってよい。磁石基材中のFe及びCoの含有量の合計値は、63質量%以上72質量%以下であってよい。磁石基材中のCuの含有量は、0.04質量%以上0.5質量%以下であってよい。磁石基材が上記の組成を有する場合、永久磁石の磁気特性が向上し易い。
【0101】
[熱処理工程]
拡散工程を経た磁石基材は、永久磁石の完成品として用いられてよい。または拡散工程の後、熱処理工程が行われてよい。熱処理工程では、磁石基材が450℃以上600℃以下で加熱されてよい。熱処理工程では、1時間以上10時間以下の間、磁石基材が上記の温度で加熱されてよい。熱処理工程により、永久磁石の磁気特性(特に保磁力)が向上し易い。
【0102】
切削及び研磨等の加工方法により、拡散工程又は熱処理工程を経た磁石基材の寸法及び形状が調整されてよい。
【0103】
以上の方法により、永久磁石が完成される。
【0104】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、拡散工程に用いられる磁石基材は、焼結体ではなく、熱間加工磁石(hоt defоrmed magnet)であってよい。
【実施例0105】
以下の実施例及び比較例により、本発明が更に詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0106】
(実施例1)
<磁石基材の作製>
ストリップキャスティング法により、原料金属から原料合金が作製された。原料金属の秤量により、焼結後の原料合金の組成が下記表1中の磁石基材の組成と一致するように、原料合金の組成は調整された。
【0107】
水素を室温で原料合金へ吸蔵させた後、Ar雰囲気中において原料合金を600℃で1時間加熱して脱水素することにより、原料合金粉末を得た。つまり水素粉砕処理が行われた。
【0108】
粉砕助剤としてオレイン酸アミドが原料合金粉末へ添加され、これらが円錐型混合機で混合された。原料合金粉末中のオレイン酸アミドの含有量は0.1質量%に調整された。続く微粉砕工程では、ジェットミルを用いて原料合金粉末の平均粒径が3.5μmに調整された。続く成形工程では、原料合金粉末が金型内に充填された。1200kA/mの磁場を金型内の原料粉末へ印加しながら、原料粉末を120MPaで加圧することにより、成形体が得られた。
【0109】
焼結工程では、真空中において成形体を1060℃で4時間加熱してから急冷することにより、焼結体を得た。
【0110】
以上の方法により、磁石基材が得られた。磁石基材における各元素の含有量は、下記表1に示される。
【0111】
<拡散材Aの作製>
拡散材Aの原料として、Tbの単体(金属単体)を用いた。Tbの単体の純度は99.9質量%であった。
【0112】
水素ガスのフローをTbの単体へ供給することにより、水素をTbの単体へ吸蔵させた。水素の吸蔵後、Ar雰囲気中においてTbの単体を600℃で1時間加熱して脱水素することにより、Tbの水素化物からなる粉末が得られた。つまり水素粉砕処理が行われた。
【0113】
粉砕助剤としてステアリン酸亜鉛をTbの水素化物の粉末へ添加して、これらが円錐型混合機で混合された。Tbの水素化物の粉末中のステアリン酸亜鉛の含有量は0.05質量%に調整された。続く微粉砕工程では、酸素の含有量が3000ppmである非酸化的雰囲気下で、Tbの水素化物の粉末が更に粉砕された。微粉砕工程にはジェットミルを用いた。Tbの水素化物からなる粉末の平均粒径は約10.0μmに調整された。
【0114】
以上の方法により、Tbの水素化物(TbH2)からなる微粉末(第三成分)が得られた。
【0115】
Ndの単体から、Ndの水素化物(NdH2)からなる微粉末(第一成分)が作製された。Ndの単体の純度は99.9質量%であった。Ndの水素化物からなる微粉末の平均粒径は、約10.0μmであった。Ndの単体が原料に用いられたことを除いて、第一成分の作製方法は、第三成分の作製方法と同じであった。
【0116】
Ndの水素化物からなる微粉末(第一成分)、Cuの単体からなる微粉末(第二成分)、Tbの水素化物からなる微粉末(第三成分)、アルコール(溶媒)、及びアクリル樹脂(バインダ)を混錬することにより、ペースト状の拡散材Aが作製された。拡散材Aにおける第一成分の質量の割合は、17.0質量部であった。拡散材Aにおける第二成分の質量の割合は、11.2質量部であった。拡散材Aにおける第三成分の質量の割合は、46.8質量部であった。拡散材Aにおける溶媒の質量の割合は、23.0質量部であった。拡散材Aにおけるバインダの質量の割合は、2.0質量部であった。
【0117】
<永久磁石の作製>
磁石基材の機械的加工により、磁石基材の寸法が縦14mm×横10mm×厚さ3.7mmに調整された。磁石基材の寸法の調整後、磁石基材のエッチング処理が行われた。エッチング処理では、磁石基材の全表面が硝酸の水溶液で洗浄された。続いて、磁石基材の全表面が純水で洗浄された。洗浄後の磁石基材は乾燥された。硝酸の水溶液の濃度は、0.3質量%であった。エッチング処理後、以下の拡散工程が行われた。
【0118】
拡散工程では、拡散材Aが磁石基材の全ての表面に塗布された。拡散材Aに含まれるTbの質量が、100質量部の磁石基材に対して0.8質量部となるように、磁石基材に塗布される拡散材Aの質量が調整された。拡散材Aが塗布された磁石基材をオーブン内に設置して、磁石基材を160℃で加熱することにより、拡散材A中の溶媒が除去された。溶媒の除去後、拡散材Aが塗布された磁石基材は、Arガス中において900℃で12時間加熱された。
【0119】
拡散工程に続く熱処理工程では、磁石基材がArガス中において540℃で2時間加熱された。
【0120】
以上の方法により、実施例1の永久磁石が作製された。実施例1の永久磁石における各元素の含有量は、下記表1に示される。
【0121】
<永久磁石の磁気特性の測定>
永久磁石の表面の研削により、表面からの深さが0.1mm以下である部分が除去された。続いて、永久磁石の残留磁束密度Br及び保磁力HcJがBHトレーサーによって測定された。Br(単位:mT)は室温において測定された。HcJ(単位:kA/m)は160℃において測定された。実施例1のBr及びHcJは、下記表1に示される。
【0122】
<永久磁石の断面の分析>
永久磁石を切断して永久磁石の断面を露出させた後、永久磁石が熱間埋込樹脂(hоt mоunting resin)中に包埋(embed)された。熱間埋込樹脂としては、ストルアス社(Struers ApS)製のPоlyfast(商品名)が用いられた。Pоlyfastは、カーボン充填材を含む黒色のベークライト(フェノール樹脂)である。熱間埋込樹脂に包埋された永久磁石の断面が、エタノール系湿式研磨により研磨された。永久磁石の断面の研磨後、永久磁石の断面における各元素の分布マップが、EPMAによって測定された。EPMAとしては、日本電子株式会社(JEOL Ltd.)製のJXA8500F(商品名)が用いられた。分布マップの寸法は、縦50μm×横50μmであった。
【0123】
各元素の分布マップは、永久磁石が、Nd、Fe、Co及びBを含む複数の主相粒子と、複数の粒界多重点と、を備えることを示していた。Zr、B及びCu其々の分布マップにおいて、各元素の特性X線の強度が各分布マップにおける各元素の特性X線の強度の平均値よりも高い箇所(高濃度箇所)が特定された。Zr、B及びCu其々の高濃度箇所は、複数の粒界多重点において重なり合っていた。Zr、B及びCu其々の高濃度箇所が重なり合う一つの粒界多重点は、「Zr‐B‐Cu粒界」と表記される。
【0124】
永久磁石の断面から無作為に選出された五つのZr‐B‐Cu粒界其々の組成が、EPMAによって分析された。Zr‐B‐Cu粒界の組成は、以下の諸条件下で分析された。分析結果は、下記表2に示される。下記表2中の粒界相4‐1、粒界相4‐2、粒界相4‐3、粒界相4‐4及び粒界相4‐5其々の組成が、一つのZr‐B‐Cu粒界に対応する。
加速電圧: 10kV
照射電流: 0.1μA
測定時間(peak/backgrоund): 40sec/10sec
【0125】
Zr‐B‐Cu粒界と同様の方法で、主相粒子の組成が分析された。分析結果は、下記表2に示される。Zr‐B‐Cu粒界以外の三つの粒界多重点が、永久磁石の断面から無作為に選出された。Zr‐B‐Cu粒界と同様の方法で、Zr‐B‐Cu粒界以外の三つの粒界多重点其々の組成が分析された。分析結果は、下記表2に示される。下記表2中の粒界相1、粒界相2及び粒界相3其々の組成が、Zr‐B‐Cu粒界以外の一つの粒界多重点に対応する。粒界相1は、上記のRリッチ相であった。粒界相2は、上記のR‐O‐C相であった。粒界相3は、上記のTリッチ相であった。
【0126】
収束イオンビーム(Focused Ion Beam; FIB)を用いた永久磁石の平面サンプリング後、永久磁石を薄片化することにより、上記の粒界相4-1(Zr‐B‐Cu粒界)を含むサンプルが作製された。粒界相4‐1が含まれるZr‐B‐Cu粒界のHAADF‐STEM像が撮影された。粒界相4‐1が含まれるZr‐B‐Cu粒界のHAADF‐STEM像は、
図4中の(a)に示される。STEMとしては、FEI社製のTitan‐G2(商品名)が用いられた。
図4中の(a)に示される領域における各元素の分布マップが、STEM‐EDSによって測定された。
図4中の(a)の領域におけるCuの分布マップは、
図4中の(b)に示される。
図4中の(a)の領域におけるNdの分布マップは、
図4中の(c)に示される。
図4中の(a)の領域におけるZrの分布マップは、
図4中の(d)に示される。
図4中の(a)の領域におけるCoの分布マップは、
図5中の(a)に示される。
図4中の(a)の領域におけるFeの分布マップは、
図5中の(b)に示される。
図4中の(a)の領域におけるGaの分布マップは、
図5中の(c)に示される。
図4中の(a)の領域におけるTbの分布マップは、
図5中の(d)に示される。
STEM‐EDSを用いたマッピングでは、Zrの特性X線のエネルギー領域とBの特性X線のエネルギー領域が重なり、且つBの検出感度が十分でないことにより、Bを検出することは困難であった。
【0127】
以上の分析の結果は、実施例1の永久磁石が以下の特徴を有することを示していた。
【0128】
図4中の(a)に示されるように、粒界相4‐1は、板状結晶3と、Nd、Pr及びCuを含有するR‐Cuリッチ相5から構成されていた。Zrが分布する領域は、板状結晶3の位置と略完全に一致した。R‐Cuリッチ相5は、板状結晶3の周囲に存在していた。R‐Cuリッチ相5は、板状結晶3と主相粒子4の間に存在していた。板状結晶3は、二粒子粒界と繋がっていた。板状結晶3及びR‐Cuリッチ相5の両方を含む一つのZr‐B‐Cu粒界におけるNd及びPrの濃度の合計は、主相粒子4におけるNd及びPrの濃度の合計よりも高かった。板状結晶3及びR‐Cuリッチ相5の両方を含む一つのZr‐B‐Cu粒界におけるCuの濃度は、主相粒子4におけるCuの濃度よりも高かった。主相粒子4の表層部は、Tbを含有していた。
【0129】
粒界相4‐1に含まれる板状結晶3のHAADF‐STEM像は、
図6中の(a)に示される。
図6中の(a)に示される板状結晶3中の領域3xにおいて、電子線回折パターンが測定された。測定された電子線回折パターンは、
図6中の(b)に示される。電子線回折パターンから特定された板状結晶3の格子定数及び対称性は、六方晶系のZrB
2の格子定数及び対称性と一致した。粒界相4‐1が含まれる一つのZr‐B‐Cu粒界は、ZrB
2の結晶とR‐Cuリッチ相の両方を含んでいた。
【0130】
上記の粒界相4-1を含むサンプルと同様に、粒界相4‐2、粒界相4‐3、粒界相4‐4及び粒界相4‐5其々を含む四つのサンプルが作製された。これらのサンプル其々が、粒界相4-1を含むサンプルと同様の方法で分析された。これらの分析結果は、粒界相4‐2、粒界相4‐3、粒界相4‐4及び粒界相4‐5其々が粒界相4-1と同様の特徴を有することを示していた。つまり、粒界相4‐2、粒界相4‐3、粒界相4‐4及び粒界相4‐5其々が、ZrB2の結晶とR‐Cuリッチ相の両方を含んでいた。
【0131】
(比較例1)
比較例1では、拡散材Aの代わりに、以下の方法で作製された拡散材Bが用いられた。
【0132】
Tbの水素化物からなる微粉末(第三成分)、アルコール(溶媒)、及びアクリル樹脂(バインダ)を混錬することにより、ペースト状の拡散材Bが作製された。つまり拡散材Bは、Ndの水素化物からなる微粉末(第一成分)、及びCuの単体からなる微粉末(第二成分)を含有していなかった。拡散材Bにおける第三成分の質量の割合は、75.0質量部であった。拡散材Bにおける溶媒の質量の割合は、23.0質量部であった。拡散材Bにおけるバインダの質量の割合は、2.0質量部であった。
【0133】
拡散材Bを用いたことを除いて実施例1と同様の方法で、比較例1の永久磁石が作製された。比較例1の永久磁石における各元素の含有量は、下記表1に示される。
【0134】
実施例1と同様の方法で、比較例1の永久磁石のBr及びHcJが測定された。比較例1のBr及びHcJは、下記表1に示される。160℃における実施例1の永久磁石の保磁力は、160℃における比較例1の永久磁石の保磁力よりも高いことが確認された。
【0135】
実施例1の同様の方法で、比較例1の永久磁石の断面が分析された。比較例1の分析結果は、下記表3に示される。下記表3に示される粒界相1、粒界相2、粒界相3及び粒界相4‐1其々の組成が、一つの粒界多重点に対応する。比較例1の永久磁石は、Nd、Fe、Co及びBを含む複数の主相粒子と、複数の粒界多重点と、を備えていた。Zr及びB其々の高濃度箇所が重なり合う粒界多重点(粒界相4‐1)が、比較例1の永久磁石において検出された。しかし、Zr、B及びCu其々の高濃度箇所が重なり合う粒界多重点(Zr‐B‐Cu粒界)は、比較例1の永久磁石において検出されなかった。つまり、比較例1の場合、Zr及びB其々の高濃度箇所が重なり合う粒界多重点におけるCuの濃度は、他の粒界多重点におけるCuの濃度に比べて高くなかった。
【0136】
【0137】
【0138】