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特開2024-160329折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムとその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160329
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムとその用途
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20241106BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241106BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20241106BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20241106BHJP
   C08J 7/043 20200101ALI20241106BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20241106BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 D
B32B9/00 A
B32B7/023
C08J7/043 Z CFD
G09F9/00 302
G09F9/30 308Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024133957
(22)【出願日】2024-08-09
(62)【分割の表示】P 2021532767の分割
【原出願日】2020-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019130036
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】徳尾 宏吉
(72)【発明者】
【氏名】西尾 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】河合 究
(57)【要約】
【課題】折りたたみ部に折り跡やクラックが発生することのなく、更に易接着樹脂層などの微細なクラック等に影響される虹彩状色彩(干渉斑)の抑制に優れた折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムを提供すること。
【解決手段】厚みが10~80μmのポリエステルフィルムの少なくとも片面に易接着樹脂層とハードコート層を順に有するハードコートフィルムであって、前記易接着樹脂層が、チタン化合物及びジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物、及びポリエステル樹脂を含有する組成物が硬化されてなり、かつ、前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムが特定範囲の特性を満足する折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが10~80μmのポリエステルフィルムの少なくとも片面に易接着樹脂層とハードコート層を順に有する折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムであって、
前記易接着樹脂層が、チタン化合物及びジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物、ポリエステル樹脂および界面活性剤を含有する組成物が硬化されてなり、
前記チタン化合物及びジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物は、
平均粒子径が5nm以上150nm以下であり、
前記チタン化合物及びジルコニウム化合物の合計量は、易接着樹脂層に対して、
0.1質量%濃度以上15質量%濃度未満であり、
前記ポリエステルフィルムを形成する樹脂ペレットの極限粘度が0.58dl/gを超え0.75dl/g未満であり、
前記ポリエステルフィルムと易接着樹脂層とを有するフィルムにおいて、
前記易接着樹脂層が、乾燥後の塗布量が0.005~0.20g/m2となるように形成された層である条件で測定した屈折率および密度は、次の条件を満足し;
屈曲方向の屈折率が1.590~1.620、
折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700、
厚み方向の屈折率が1.520以下、
密度が1.380g/cm以上であり、
(ここで、前記屈曲方向は、前記ポリエステルフィルムと前記易接着樹脂層とを有するフィルムの長手方向であり、
前記折りたたみ部の方向は、前記ポリエステルフィルムと前記易接着樹脂層とを有するフィルムの幅方向であり;
前記易接着樹脂層が含有するポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分とジオール成分のうち、ジカルボン酸成分の少なくとも一部としてナフタレンジカルボン酸成分が含まれてなるポリエステル樹脂である、
折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記易接着樹脂層の屈折率が、前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率及び折りたたみ部の方向の屈折率よりも低く、かつ前記ハードコート層の屈折率よりも高い、請求項1に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
【請求項3】
前記易接着樹脂層の屈折率が、下記条件を満足する請求項に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム;
易接着樹脂層の屈折率が、前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率より低く、その屈折率の差が0より大きく0.07以下である、
易接着樹脂層の屈折率が、前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの折りたたみ部の方向の屈折率より低く、その屈折率の差が0.080以上0.150以下である。
【請求項4】
前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの全光線透過率が85%以上、ヘイズが3%以下、かつ、最大熱収縮率が6%以下であり、
ただし、前記最大熱収縮率は、試料フィルムを無荷重で150℃の雰囲気のオーブン中で30分間放置し、室温まで冷却した後に測定する収縮率である
請求項1に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
【請求項5】
前記易接着樹脂層を形成する組成物は、さらに架橋剤を含み、
前記架橋剤の含有量は、易接着樹脂層の全固形成分中、5質量%以上50質量%以下である、
請求項1に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
【請求項6】
前記易接着樹脂層に含まれる前記粒子の平均粒径が200nm以上700nm以下である、請求項1に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
【請求項7】
前記易接着樹脂層に含まれる前記界面活性剤は、シリコーン系の界面活性剤である、請求項1に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
【請求項8】
請求項1に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムが、ハードコート層を表面に位置させるように表面保護フィルムとして配置された折りたたみ型ディスプレイであって、折りたたみ型ディスプレイの折りたたみ部分を介して連続した単一のハードコートフィルムが配されている折りたたみ型ディスプレイ。
【請求項9】
請求項8に記載の折りたたみ型ディスプレイを有する携帯端末機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム、折りたたみ型ディスプレイ、及び携帯端末機器に関し、繰り返し折りたたんでも、フィルムの変形による画像の乱れの起こり難い折りたたみ型ディスプレイ及び携帯端末機器、及び前記の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末機器の薄膜軽量化が進み、スマートフォンに代表される携帯端末機器が広く普及している。携帯端末機器には様々な機能が求められている反面、利便性も求められている。そのため普及している携帯端末機器は、簡単な操作は片手ででき、さらに衣服のポケットなどに収納することが前提であるため6インチ程度の小さな画面サイズとする必要がある。
【0003】
一方、7インチ~10インチの画面サイズであるタブレット端末では、映像コンテンツや音楽のみならず、ビジネス用途、描画用途、読書などが想定され、機能性の高さを有している。しかし、片手での操作はできず、携帯性も劣り、利便性に課題を有する。
【0004】
これらを達成するため、複数のディスプレイをつなぎ合わせることでコンパクトにする手法が提案されているが(特許文献1参照)、ベゼルの部分が残るため、映像が切れたものとなり、視認性の低下が問題となり普及していない。
【0005】
そこで近年、フレキシブルディスプレイ、折りたたみ型ディスプレイを組み込んだ携帯端末が提案されている。この方式であれば、画像が途切れることなく、大画面のディスプレイを搭載した携帯端末機器として利便性よく携帯できる。
【0006】
ここで、従来の折りたたみ構造を有しないディスプレイや携帯端末機器については、そのディスプレイの表面はガラスなど可撓性を有しない素材で保護することができたが、折りたたみ型ディスプレイにおいて、折りたたみ部分を介して一面のディスプレイとする場合には、可撓性があり、かつ、表面を保護できるハードコートフィルムなどを使用する必要がある。しかしながら、折りたたみ型ディスプレイでは、一定の折りたたみ部分に当たる箇所が繰り返し折り曲げられるため、当該箇所のフィルムが経時的に変形し、ディスプレイに表示される画像を歪める等の問題があった。また、表面保護フィルムだけでなく、折りたたみ型ディスプレイには、偏光板、位相差板、タッチパネル基材、有機ELなどの表示セルの基材、背面の保護部材など、様々な部位にフィルムが用いられ、これらのフィルムに対しても繰り返し折りたたみに対する耐久性が求められていた。
【0007】
耐久性を高める手法としては、部分的に膜厚を変える手法も提案されているが(特許文献2参照)、量産性に乏しい問題がある。
【0008】
また、ポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率を調整する手法も提案されているが(特許文献3参照)、屈曲方向の屈折率を下げるに従ってハードコート塗布時の鉛筆硬度が低下し、ディスプレイの表面保護機能の低下する問題があった。また、一方向の屈折率を下げていくと折れたたみ時の変形は改善していくが、折りたたみ方向の一軸配向性が高まり、折りたたみ部にクラックが発生する、または破断する問題があった。
【0009】
一方、前記のハードコートフィルムには、視認性や意匠性も要求される。そのため、任意の角度から見たときの反射光によるぎらつきや虹彩状色彩(干渉斑)等を抑えるため、ハードコート層の上層に高屈折率層と低屈折率層を相互に積層した多層構造の反射防止層を設けることが一般的に行われている。しかしながら、昨今、蛍光灯は昼光色の再現性のため3波長形が主流となってきており、より反射光による干渉斑が見やすくなっている。さらに、反射防止層の簡素化によるコストダウンの要求も高くなってきている。そのため、反射防止層を付加しないハードコートフィルムのみでも干渉斑をできるだけ抑制するものが求められている。
【0010】
前記の様に干渉斑を抑制する手法として、ポリエステルフィルムに屈折率を調整した光学調整層を1層ないし2層設ける手法が提案されているが、ポリエステルフィルムでは繰り返しの折り曲げに対する耐久性を考慮する必要がある。例えば、過剰な金属微粒子を含有する光学調整層は微粒子を起点とした微小クラックによる干渉斑が発生するため十分に満足するものは得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010-228391号公報
【特許文献2】特開2016-155124号公報
【特許文献3】国際公開第2018/150940号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記のような従来のディスプレイの部材が有する課題を解決しようとするものであって、量産性に優れており、繰り返し折り曲げた後に折りたたみ部分で表示される画像に乱れを生じるおそれがない折りたたみ型ディスプレイと、そのような折りたたみ型ディスプレイを搭載した携帯端末機器を提供できるようにするため、折りたたみ部に折り跡やクラックが発生することのなく、更に易接着樹脂層などの微細なクラック等に影響される虹彩状色彩(干渉斑)を効果的に抑制できる折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1. 厚みが10~80μmのポリエステルフィルムの少なくとも片面に易接着樹脂層とハードコート層を順に有するハードコートフィルムであって、前記易接着樹脂層が、チタン化合物及びジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物、及びポリエステル樹脂を含有する組成物が硬化されてなり、かつ、前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムが下記条件(1)~(4)を満足する折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
(1)屈曲方向の屈折率が1.590~1.620
(2)折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700
(3)厚み方向の屈折率が1.520以下
(4)密度が1.380g/cm以上
(ここで、屈曲方向とは、ポリエステルフィルムを折りたたむ際の折りたたみ部と直交する方向をいう。)
2. 前記易接着樹脂層の屈折率が、前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率及び折りたたみ部の方向の屈折率よりも低く、かつ前記ハードコート層の屈折率よりも高い、上記第1に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
3. 前記易接着樹脂層の屈折率が、下記条件(5)及び(6)を満足する上記第1又は第2に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ポリエステルフィルム。
(5)易接着樹脂層の屈折率が、前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率より低く、その屈折率の差が0より大きく0.07以下
(6)易接着樹脂層の屈折率が、前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの折りたたみ部の方向の屈折率より低く、その屈折率の差が0.080以上0.150以下
4. 前記易接着樹脂層が含有するポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分とジオール成分のうち、ジカルボン酸成分の少なくとも一部としてナフタレンジカルボン酸成分が含まれてなるポリエステル樹脂である上記第1~第3のいずれかに記載の折りたたみ型ディスプレイ用ポリエステルフィルム。
5. 前記易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの全光線透過率が85%以上、ヘイズが3%以下、かつ、最大熱収縮率が6%以下である上記第1~第4に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
6. 前記ハードコート層の厚みが1~50μmである上記第1~第5のいずれかに記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルム。
7. 上記第6に記載の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムが、ハードコート層を表面に位置させるように表面保護フィルムとして配置された折りたたみ型ディスプレイであって、折りたたみ型ディスプレイの折りたたみ部分を介して連続した単一のハードコートフィルムが配されている折りたたみ型ディスプレイ。
8. 上記第7に記載の折りたたみ型ディスプレイを有する携帯端末機器。
【発明の効果】
【0014】
本発明の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムを用いた折りたたみ型ディスプレイは、量産性を維持しながら、そのハードコートフィルムが、折りたたみ部にクラックが発生することがなく、繰り返し折りたたんだ後の変形を起こさない。さらに、折りたたみ部のクラックや、ハードコートと易接着樹脂層界面での浮き、易接着樹脂層とポリエステルフィルムの界面の浮きなどのほか、微細なクラックなどが原因で発生する虹彩状色彩(干渉斑)を効果的に抑制でき、ディスプレイの折りたたみ部分での画像の乱れを生じないものである。前記のようなハードコートフィルムを用いた折りたたみ型ディスプレイを搭載した携帯端末機器は、美しい画像を提供し、機能性に富み、携帯性等の利便性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明における折りたたみ型ディスプレイを折りたたんだ際の屈曲半径を示すための模式図である。
図2】本発明における折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムを構成するポリエステルフィルムの屈曲方向を示すための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(ディスプレイ)
本発明で言うディスプレイとは、表示装置を全般に指すものであり、ディスプレイの種類としては、LCD、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、LED、FEDなどあるが、折曲げ可能な構造を有するLCDや、有機EL、無機ELが好ましい。特に層構成を少なくすることができる有機EL、無機ELが特に好ましく、色域の広い有機ELがさらに好ましい。
【0017】
(折りたたみ型ディスプレイ)
折りたたみ型ディスプレイは、連続した1枚のディスプレイが、携帯時は2つ折りなどに折りたたむことができるものである。折りたたむことでサイズを半減させ、携帯性を向上させることができる。折りたたみ型ディスプレイの屈曲半径は5mm以下が好ましく、3mm以下がさらに好ましい。屈曲半径が5mm以下であれば、折りたたんだ状態での薄型化が可能となる。屈曲半径は小さいほど良いと言えるが、屈曲半径が小さいほど折り跡がつきやすくなる。屈曲半径は0.1mm以上が好ましいが、0.5mm以上であってもよく、1mm以上であってもよい。屈曲半径が1mmであっても、携帯時には実用的に十分な薄型化を達成することができる。折りたたんだ際の屈曲半径とは、図1の模式図の符号11の箇所を測定するもので、折りたたんだ際の折りたたみ部分の内側の半径を意味している。なお、後述する表面保護フィルムは、折りたたみ型ディスプレイの折りたたんだ外側に位置していてもよいし、内側に位置していてもよい。
また、折りたたみ型ディスプレイは3つ折り、4つ折りであってもよく、さらに、ローラブルといわれる巻き取り型であってもよく、これらいずれも本発明でいう折りたたみ型ディスプレイの範囲に入るものとする。
【0018】
本発明の折りたたみディスプレイ用ハードコートフィルムは、折りたたみ型ディスプレイの構成部材であればどのような部分に用いられてもよい。以下に、有機ELディスプレイを例として、折りたたみディスプレイの代表的構成と本発明のハードコートフィルムが用いられうる部分を説明する。なお、以下、本発明の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムを単に本発明のハードコートフィルムという場合がある。
【0019】
(折りたたみ型有機ELディスプレイ)
折りたたみ型有機ELディスプレイの必須構成としては、有機ELモジュールであるが、さらに必要に応じて、円偏光板、タッチパネルモジュール、表面保護フィルム、裏面保護フィルムなどが設けられる。
(有機ELモジュール)
有機ELモジュールの一般的な構成は、電極/電子輸送層/発光層/ホール輸送層/透明電極からなる。
【0020】
(タッチパネルモジュール)
携帯端末機器にはタッチパネルを有することが好ましい。有機ELディスプレイを用いた場合、有機ELディスプレイの上部、もしくは有機ELモジュール/円偏光板間にタッチパネルモジュールが配置されていることが好ましい。タッチパネルモジュールはフィルムなどの透明基材とその上に配置された透明電極を有する。本発明のハードコートフィルムはこの透明基材として用いることができる。タッチパネルの透明基材として用いる場合、屈折率調整層を設けることが好ましい。
【0021】
(円偏光板)
円偏光板は、ディスプレイ内部の部材によって外光が反射され、画質が低下することを抑制する。円偏光板は直線偏光板と位相差板を有する。直線偏光板は偏光子の少なくとも視認側の面に保護フィルムを有する。偏光子の視認側とは反対の面にも保護フィルムを有していてもよく、偏光子に位相差板が直接積層されていてもよい。位相差板はポリカーボネートや環状オレフィンなどの位相差を有する樹脂フィルムや樹脂フィルムに液晶化合物からなる位相差層が設けられたものが用いられる。本発明のハードコートフィルムは、偏光子保護フィルムとして用いることができる。これらの場合、本発明のハードコートフィルムの基材フィルムがポリエステルフィルムである場合、前記ポリエステルフィルムの遅相軸方向が偏光子の吸収軸方向と平行または直交となることが好ましい。なお、この平行または直交に対して10度、好ましくは5度までのずれは許容される。
【0022】
(表面保護フィルム)
ディスプレイに上部から衝撃が加わると、有機ELモジュールやタッチパネルモジュールの回路が断線するおそれがあるため、多くの場合、表面保護フィルムが設けられている。本発明のハードコートフィルムはこの表面保護フィルムとして用いられる。表面保護フィルムはディスプレイの最表面に組み込まれたカバーウインドウと呼ばれるものや、使用者自身で貼り合わせ、剥離ができ、交換可能なアフターと呼ばれるものがあるが、いずれであっても本発明のハードコートフィルムが用いられる。ハードコート層を視認側にして折りたたみ型ディスプレイの表面に設けられる。なお、ハードコート層は両面に設けられていてもよい。
【0023】
(裏面保護フィルム)
ディスプレイの裏面側にも保護フィルムが設けられることも好ましい。本発明のハードコートフィルムはこの裏面側の保護フィルムとして用いることができる。
【0024】
本発明のハードコートフィルムは、折りたたみ型ディスプレイの構成部材で折りたたまれる箇所に使用されるものであれば、上記以外のものであっても良い。
これらの中でも、本発明のハードコートフィルムは、カバーウインドウ表面保護フィルム、アフター表面保護フィルム、タッチパネルモジュールの基材フィルム、裏面保護フィルムに用いられることが好ましい。さらには、カバーウインドウ表面保護フィルム、アフター表面保護フィルムに用いられることが好ましい。
【0025】
また、折りたたみ型ディスプレイとしては上記のすべての用途に本発明のハードコートフィルムが必ずしも使用される必要はない。折りたたみ型ディスプレイでは、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリメチルペンテンフィルムなど、を基材としたハードコートフィルムを適宜適性に合わせて用いることができる。
【0026】
本発明のハードコートフィルムを構成する基材フィルムがポリエステルフィルムである場合、1種類以上のポリエステル樹脂からなる単層構成のフィルムでもよいし、2種類以上のポリエステルを使用する場合、多層構造フィルムでも良いし、繰り返し構造の超多層積層フィルムでもよい。
【0027】
ハードコートフィルムの基材フィルムであるポリエステルフィルムに使用されるポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、またはこれらの樹脂の構成成分を主成分とする共重合体からなるポリエステルフィルムが挙げられる。なかでも、力学的性質、耐熱性、透明性、価格などの点から、延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。
【0028】
ハードコートフィルムの基材フィルムであるポリエステルフィルムにポリエステルの共重合体を用いる場合、ポリエステルのジカルボン酸成分としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸が挙げられる。また、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪酸グリコール;p-キシレングリコールなどの芳香族グリコール;1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール;平均分子量が150~20,000のポリエチレングリコールが挙げられる。好ましい共重合体の共重合成分の質量比率は20質量%未満である。20質量%未満の場合には、フィルム強度、透明性、耐熱性が保持されて好ましい。
【0029】
また、ハードコートフィルムの基材フィルムであるポリエステルフィルムの製造において、少なくとも1種類以上の樹脂ペレットの極限粘度は、0.50~1.0dl/gの範囲が好ましい。極限粘度が0.50dl/g以上であると、得られたフィルムの耐衝撃性が向上し、外部衝撃によるディスプレイ内部回路の断線が発生しづらく好ましい。一方、極限粘度が1.00dl/g以下であると、溶融流体の濾圧上昇が大きくなり過ぎることなく、フィルム製造を安定的に操業し易く好ましい。
【0030】
ハードコートフィルムの基材フィルムであるポリエステルフィルムの厚みは、10~80μmであることが好ましく、25~75μmであることがさらに好ましい。厚みが10μm以上であると鉛筆硬度向上効果と耐衝撃性向上効果が見られ、厚みが80μm以下であると軽量化に有利である他、可撓性、加工性やハンドリング性などに優れる。
【0031】
本発明のハードコートフィルムの表面は、平滑であっても凹凸を有していても良いが、ディスプレイの表面カバー用途に用いられることから、凹凸由来の光学特性低下は好ましくない。ポリエステルフィルムに易接着樹脂層を積層し、ハードコート層を積層する前の状態のヘイズとしては、3%以下が好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が最も好ましい。ヘイズが3%以下であれば、画像の視認性を向上させることができる。ヘイズの下限は小さいほどよいが、安定した生産の面からは0.1%以上が好ましく、0.3%以上であってもよい。
【0032】
前記のようにヘイズを低下させる目的からはあまりフィルム表面の凹凸は大きくない方がよいが、ハンドリング製の観点から程度な滑り性を与えるために、凹凸を形成する方法としては、基材ポリエステルフィルムに粒子を配合したり、易接着樹脂層として粒子入りのコート層を基材ポリエステルフィルムの製膜途中でコーティングすることで形成することができる。
【0033】
基材ポリエステルフィルムに粒子を配合する方法としては、公知の方法を採用し得る。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、またはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階で、エチレングリコールなどに分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行うことができる。
【0034】
なかでも、ポリエステル原料の一部となるモノマー液中に凝集体無機粒子を均質分散させた後、濾過したものを、エステル化反応前、エステル化反応中またはエステル化反応後のポリエステル原料の残部に添加する方法が好ましい。この方法によると、モノマー液が低粘度であるので、粒子の均質分散やスラリーの高精度な濾過が容易に行えると共に、原料の残部に添加する際に、粒子の分散性が良好で、新たな凝集体も発生しにくい。かかる観点より、特に、エステル化反応前の低温状態の原料の残部に添加することが好ましい。
【0035】
また、予め粒子を含有するポリエステルを得た後、そのペレットと粒子を含有しないペレットとを混練押出しなどする方法(マスターバッチ法)により、さらにフィルム表面の突起数を少なくすることができる。
【0036】
また、基材となるポリエステルフィルムは、全光線透過率の好ましい範囲を維持する範囲内で、各種の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、UV吸収剤、安定剤が挙げられる。
【0037】
ポリエステルフィルムについて、易接着樹脂層を有し、ハードコート層を有しない状態での全光線透過率は、85%以上が好ましく、87%以上がさらに好ましい。85%以上の透過率があれば、視認性を十分に確保することができる。前記ポリエステルフィルムの全光線透過率は、後述のハードコートフィルムの全光線透過率を高くするためにも85%以上であることが好ましい。前記ポリエステルフィルムの全光線透過率は高いほどよいと言えるが、安定した生産の面からは99%以下が好ましく、97%以下であってもよい。
【0038】
ポリエステルフィルムの易接着樹脂層を有し、ハードコート層を有しない状態での150℃30分熱処理後の最大熱収縮率は、6%以下が好ましく、5%以下がさらに好ましい。6%以下の熱収縮率あれば、HC加工時のカールやうねりといった平面不良を抑制することができる。前記の最大熱収縮率は低いほどよいと言えるが、-1%以上であることが好ましく、0%以上であることが好ましい。ここでのマイナスは加熱後に膨張したことを意味し、-1%を以上であると、平面状態が良好であり好ましい。
【0039】
本発明の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムに、十分な鉛筆硬度を与えるために、ポリエステルフィルムは易接着樹脂層を有し、ハードコート層を有しない状態において、以下のような特性を有していることが好ましい。従来の基材ポリエステルフィルムが、ハードコート層を積層した後、ハードコートフィルムの鉛筆硬度の鉛筆硬度評価において、フィルムが厚み方向に変形してしまうことが原因で鉛筆硬度が低下してしまっていたと考えられる。本発明においては、前記状態の基材ポリエステルフィルムについての後述のダイナミック超微小硬度計による厚み方向の試験力除荷後の押し込み深さを特定の範囲にすることが好ましい。前記の基材ポリエステルフィルムを用いたハードコートフィルムの鉛筆硬度評価においては、高い硬度を達成することができて好ましい。前記状態の基材ポリエステルフィルムの厚み方向の試験力除荷後の押し込み深さは1.5μm以下であることが好ましく、1.4μm以下であることがより好ましく、1.3μm以下であることが更に好ましい。試験力除荷後の押し込み深さ(負荷をかけた最終的な変形量)が1.5μm以下であると、ハードコート層を積層後のハードコートフィルムの鉛筆硬度評価において、フィルムが厚み方向に変形しづらく鉛筆硬度を高くすることができる。ハードコートフィルムの鉛筆硬度を高くすることができると、ディスプレイ表面に傷、凹みが発生しづらくなり、ディスプレイの視認性が向上する。試験力除荷後の押し込み深さは低いほど良いと言えるが、安定した生産や効果が飽和してくるという点で、0.3μm以上が好ましく、さらには、0.5μm以上が好ましい。
【0040】
試験力除荷後の押し込み深さを低減するためには、易接着樹脂層を有し、ハードコート層を有しない状態のポリエステルフィルムについて、厚み方向の屈折率を1.520以下に調節することが効果的である。屈折率を1.520以下にする手段としては、後述するが他の物性、屈曲方向や折りたたみ方向の屈折率を好ましい範囲に制御できる範囲内で、屈曲方向や折りたたみ方向の延伸倍率を高く調節することや、屈曲方向や折りたたみ方向の延伸温度を低く設定すること、熱固定温度を高く設定することなどの条件設定を例示できる。
【0041】
本発明のハードコートフィルムの非ハードコート面には、粘着剤の塗布やハードコート層との密着性を向上させるための処理を行うことができる。
【0042】
表面処理による方法としては、例えば、サンドブラスト処理、溶剤処理等による凹凸化処理や、コロナ放電処理、電子線照射処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理、火炎処理、クロム酸処理、熱風処理等の酸化処理等が挙げられ、特に限定なく使用できる。
【0043】
また、易接着樹脂層などの接着性向上層により、密着性を向上させることが好ましい。易接着樹脂層としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂など特に限定なく使用でき、一般的なコーティング手法、好ましくはいわゆるインラインコート処方により形成できる。
【0044】
上述のポリエステルフィルムは、例えば、ポリエステル原料の一部となるモノマー液中に無機粒子を均質分散させて濾過した後、ポリエステル原料の残部に添加してポリエステルの重合を行う重合工程と、そのポリエステルをフィルターを介してシート状に溶融押し出し、これを冷却後、延伸して、基材フィルムを形成するフィルム形成工程を経て、製造することができる。
【0045】
次に、基材となるポリエステルフィルムの製造方法について、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す場合がある)のペレットを基材フィルムの原料とした例について詳しく説明するが、これらに限定されるものではない。また、単層構成、多層構成など層数を限定するものではない。
【0046】
PETのペレットを所定の割合で混合、乾燥した後、公知の溶融積層用押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化させて、未延伸フィルムを形成する。単層の場合は1台の押し出し機でよいが、多層構成のフィルムを製造する場合には、2台以上の押出機、2層以上のマニホールドまたは合流ブロック(例えば、角型合流部を有する合流ブロック)を用いて、各最外層を構成する複数のフィルム層を積層し、口金から2層以上のシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを形成することができる。
【0047】
この場合、溶融押出しの際、溶融樹脂が約280℃程度に保たれた任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行うことが好ましい。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定されないが、ステンレス焼結体の濾材は、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物および高融点有機物の除去性能に優れるため好ましい。
【0048】
さらに、濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は、20μm以下が好ましく、特に15μm以下が好ましい。濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が20μmを超えると、20μm以上の大きさの異物が十分除去できない。濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が20μm以下の濾材を用いて溶融樹脂の高精度濾過を行うことにより、生産性が低下する場合があるが、粗大粒子による突起の少ないフィルムを得る上で好ましい。
【0049】
(屈曲方向の屈折率について)
本発明において、易接着樹脂層を有し、ハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの長手方向(機械流れ方向)及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率は1.590~1.620であることが好ましく、更に好ましくは、1.591~1.600である。そして、易接着樹脂層を有し、ハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率が1.590~1.620であることが好ましく、1.591~1.600であることがより好ましい。ここで、屈曲方向とは、図2のポリエステルフィルム(符号2)上の符号22に示すように、折りたたみ型ディスプレイの用途において想定される折りたたみ部(符号21)と直交する方向を指している。長手方向及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率が1.590~1.620であると、繰り返し折りたたんだ際の変形が少なく、折りたたみ型ディスプレイの画質を低下させるおそれがなく好ましい。屈折率は1.591~1.600であることがより好ましい。もちろん、その方向は前記の屈曲方向であることが好ましい。1.590以上であると後述の屈曲試験後に折りたたみ部方向にクラックが入るおそれがなく、もちろん破断も起こらないため、ディスプレイの視認性を良好に保つことができる。ポリエステルフィルムの屈折率は、延伸倍率、延伸温度を調節することで効果的に調節することができる。また、屈折率の調整のために延伸方向の緩和工程、多段延伸を用いても良い。多段延伸を行う場合には、1段目の延伸倍率よりも2段目以降の延伸倍率を高くすることが好ましい。なお、易接着樹脂層を有し、ハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの屈折率と、易接着樹脂層も有しないポリエステルフィルム単体の屈折率の差は無視し得る程度に小さい。
【0050】
易接着樹脂層を有し、ハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの長手方向(機械流れ方向)及び幅方向の少なくともいずれか一方向の屈折率を上記範囲で制御すること、より好ましくは、屈曲方向の屈折率を上記範囲で制御することで、折りたたみ時に折りたたみの内側にかかる圧縮応力による疲労を低減することができる。圧縮応力による疲労は主に結晶部において起こると考えられており、屈曲方向に結晶が少ないほうが疲労しにくい。したがって、屈折率を下げることにより屈曲方向の配向結晶量が低減され、圧縮疲労を抑制されていると考えられる。
【0051】
また、折りたたみ時に折りたたみの外側にかかる引張応力によって生じるクリープ現象を屈折率の低減で抑えることができる。引張応力による疲労は主に非晶部において起こると考えられており、繰り返しかかる応力による分子鎖の引き揃えが発生し変形が生じる。屈曲方向に並んでいる分子鎖が少ないほうが引き揃えによる変形が少ないと推測できる。また、非晶部が少ない方が引張による疲労は抑制できるため、結晶化度すなわち密度が高い方が好ましい。
【0052】
本発明においては、未延伸ポリエステルシートを長手方向(機械流れ方向)及び幅方向の少なくともいずれか一方向の延伸倍率を1.2~2.0倍とすることが好ましく、1.7~2.0倍がさらに好ましい。そして、当該延伸方向は前記の屈曲方向であることが好ましい。延伸倍率が1.2倍以上であるとハードコート塗工時などの後加工での変形が無いため好ましく、延伸倍率が2.0倍以下であるとフィルムの厚みムラが生じないため好ましい。延伸温度としては、75~120℃が好ましく、75~105℃が更に好ましい。なお延伸時の加熱方法は、熱風加熱方式、ロール加熱方式、赤外加熱方式など従来公知の手段を採用することができる。延伸温度を75~120℃にすることで、上記延伸倍率での延伸による大きな厚みムラを防ぐことができる。また、前記のように大きな厚みムラを生じない範囲でなるべく低温で延伸することで、厚み方向の屈折率を低下させることができる。
【0053】
(折りたたみ部の方向の屈折率について)
上記の易接着樹脂層を有し、ハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの屈折率が1.590~1.620である方向と直交する方向の屈折率は、1.670~1.700であることが好ましい。即ち、屈曲方向と直交する方向(折りたたみ部の方向)の屈折率が1.670~1.700であることが好ましい。1.670~1.700にすることで屈曲方向に折りたたんだ際の変形を少なくすることができる。1.700以下にすることで折りたたみ部の方向にクラックが入ったり、破断することを抑制することができる。1.670以上にすることで屈曲方向の屈曲性を向上させること、表面硬度を向上させることができる。1.680~1.695がより好ましい。屈曲方向と直交する方向の屈折率を調整する方法として、延伸倍率、延伸予熱温度、延伸温度、多段延伸、フィルム弛緩が挙げられる。延伸倍率は4.0~6.0倍であることが好ましく、より好ましくは、4.4~6.0である。また、屈曲方向と直交する方向の延伸予熱温度は70~110℃であることが好ましい。屈曲方向と直交する方向に多段延伸する場合、1段目より2段目以降の延伸倍率を高くする方が好ましい。フィルム弛緩は機械流れ方向(長手方向)、垂直方向(幅方向)に何れにおいても1~10%行っても良い。
【0054】
(厚みの方向の屈折率について)
易接着樹脂層を有し、ハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの厚み方向の屈折率は1.520以下であることが好ましい。1.520以下にすることで、屈曲方向の屈折率を低く設計しても、フィルム表面の硬度の低下を抑制することができ、屈曲性と表面硬度の両立を実現することができるためである。1.520以下にすることで厚み方向の試験力除荷後の押し込み深さが低減し、フィルム表面の硬度、特にハードコート層積層後のハードコートフィルムの鉛筆硬度を向上することができる。より好ましくは1.515以下、更に好ましくは1.510以下、特に好ましくは1.505以下、最も好ましくは1.500以下である。厚み方向の屈折率は低いことが好ましいが、安定した生産の面で1.3以上が好ましく、さらには1.4以上であってもよい。特に好ましくは1.410以上である。上記範囲は屈曲方向と折りたたみ方向に延伸倍率を両方に増加させていくことで達成できると言えるが、屈曲方向と幅方向の屈折率を好ましい範囲に制御した上で、厚み方向の屈折率を制御するためには、製膜工程の各工程条件のバランスを確認しながら条件設定することが好ましい。
【0055】
厚み方向の屈折率を前記範囲に制御する方法は、屈曲方向の延伸予熱温度、延伸温度、延伸倍率、折りたたみ部の方向の延伸予熱温度、延伸温度、多段延伸、高倍率延伸、または熱固定の温度設定がある。屈曲方向の延伸予熱温度は70℃~110℃が好ましい。屈曲方向の延伸温度は75~120℃が好ましい。屈曲方向の延伸倍率は1.2~2.0倍が好ましく、更に好ましくは1.7~2.0倍である。延伸温度を低くし、低延伸倍率で延伸することで屈曲方向の屈曲性を維持したまま、厚み方向の屈折率を効果的に下げることができる。折りたたみ部方向の延伸予熱温度も75℃~110℃が好ましい。延伸温度は75~120℃が好ましい。折りたたみ部の延伸倍率は4.0~6.0倍が好ましく、4.4~6.0倍がより好ましい。屈曲方向の屈折率を維持または低減しながら、厚み方向の屈折率を効果的に低減することができる。高倍率延伸する方法として、多段延伸を用いても良い。その場合には、1段目の延伸倍率より、2段目の延伸倍率を高くすることが効果的に屈折率を制御でき好ましい。また、結晶化工程後に再度延伸する方式を用いても良い。延伸初期から後半にかけて延伸速度を早くする加速延伸を用いても良い。
熱固定温度は180~240℃が好ましい。熱固定を行うことで延伸方向への配向結晶化が進み、厚み方向の屈折率を下げることができる。
厚み方向の屈折率を下げることでフィルム表面の硬度が向上する理由は必ずしも明確ではないが、分子鎖内のベンゼン環等の芳香族が面方向に配向し、厚み方向にかかる応力による変形を抑制する効果があると考えられる。
【0056】
(ポリエステルフィルムの密度について)
易接着樹脂層を有し、ハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの密度は1.380g/cm以上であることが好ましい。1.383g/cm以上であることがより好ましい。1.380g/cm以上にすることで屈曲性を向上させること、フィルム表面硬度、特に、ハードコート層を積層した後のハードコートフィルムの鉛筆硬度を向上させることができる。密度は高いほど好ましく、フィルム中の粒子の有無等によっても多少左右されるが、1.40g/cm以下であることが好ましい。製膜時の熱固定温度を180~240℃に設定することで結晶化を進行させ密度を効果的に増大させることができる。なお、易接着樹脂層を有し、ハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの密度は、易接着樹脂層も有しないポリエステルフィルム単体の密度の差は無視し得る程度に小さい。
【0057】
ポリエステルフィルムの屈曲方向は、長手方向(機械流れ方向)に対応させることが好ましい。こうすることで、2軸延伸目で屈曲方向の屈折率を下げやすく屈曲性を向上させやすい。即ち、未延伸ポリエステルシートを長手方向に1.2~2.0倍、より好ましくは1.7~2.0倍の延伸倍率で延伸することが好ましいポリエステルフィルムを得られる。そして、幅方向には、4.0~6.0倍、より好ましくは4.4~6.0倍の延伸倍率で延伸することが好ましい態様であると言える。
【0058】
また、本発明においては、易接着樹脂層を有し、ハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムに
(1)屈曲方向の屈折率が1.590~1.620
(2)折りたたみ部の方向の屈折率が1.670~1.700
(3)厚み方向の屈折率が1.520以下
(4)密度が1.380g/cm以上
の4つの特性を同時に具備させることが特に好ましい態様と言えるが、上述の好ましい製造条件の範囲内での組合せであっても、例えば、屈曲方向の延伸倍率が1.4倍以下、折りたたみ部の方向の延伸倍率が4.4倍未満であり、かつ、熱固定温度が220℃以下の組合せであるような、各々の好ましい製造条件範囲の中において最善とは言えない条件の組合せの場合、必ずしも上記の4つの特性を同時に満足するものが得られない場合が起こり得る。この場合には、屈曲方向の延伸倍率延伸倍率を1.7倍以上に高めたり、折りたたみ部の方向の延伸倍率が4.4倍以上に高めたり、熱固定温度を230℃程度に高めたり、あるいは屈曲方向及び/又は折りたたみ部の方向の延伸温度を低くするなど、いずれかの条件の微調整またはそれらの組合せによって、上記の4つの特性を同時に満足させることができる。
【0059】
製膜性やフィルム強度や熱寸法安定や外観不良などを調整するために、延伸、緩和、熱固定、表面処理など何れの製膜方式を取っても良いが、フィルムの屈折率と密度を上記の好ましい範囲に制御することが本発明において特に好ましい態様と言える。屈折率と密度を好ましい範囲に制御することで、従来フィルムより優れた耐屈曲性と表面硬度、特にハードコート層を積層した後のハードコートフィルムの高い鉛筆硬度が得られる、折りたたみ型ディスプレイに適したポリエステルフィルムを提供することができる。
【0060】
具体的には、例えば、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化させて、未延伸PETシートを形成する。得られた未延伸シートを75~120℃に加熱したロールで長手方向に1.2~2.0倍、より好ましくは1.7~2.0倍に延伸して、一軸配向PETフィルムを得る。さらに、フィルムの端部をクリップで把持して、75~120℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥後、幅方向に4.0~6.0倍、より好ましくは4.4~6.0倍に延伸する。引き続き、180~240℃の熱処理ゾーンに導き、1~60秒間の熱処理を行うことができる。この熱処理工程中で、必要に応じて、幅方向または長手方向に0~10%の弛緩処理を施してもよい。
【0061】
ポリエステルフィルムの極限粘度は、0.50~1.0dl/gの範囲が好ましい。極限粘度が0.50dl/g以上であると、耐衝撃性が向上し、外部衝撃によるディスプレイ内部回路の断線が発生しづらく好ましい。一方、極限粘度が1.00dl/g以下であると、溶融流体の濾圧上昇が大きくなり過ぎることなく、フィルム製造が安定し好ましい。
【0062】
(易接着樹脂層)
本発明において、ポリエステルフィルムとハードコート層などとの接着性を向上させるため、ポリエステルフィルムに易接着樹脂層を積層することが好ましい。易接着樹脂層は、易接着樹脂層形成のための塗布液を未延伸又は縦方向の1軸延伸フィルムの片面または両面に塗布した後、必要に応じて熱処理乾燥し、さらに延伸されていない少なくとも一方向に延伸して得る、所謂インラインコートにより得ることができる。二軸延伸後にも熱処理することができる。最終的な易接着層の塗布量は、0.005~0.20g/mに管理することが好ましい。塗布量が0.005g/m以上であると、接着性が得られて好ましい。一方、塗布量が0.20g/m以下であると、耐ブロッキング性が得られて好ましい。
【0063】
易接着層の積層に用いられる塗布液に含有させる樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等、特に限定なく使用できるが、ポリエステルフィルムとの高い密着性や屈折率の点において、ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。さらにポリエステル樹脂を構成するジカルボン成分とジオール成分のうち、ジカルボン酸成分の少なくとも一部として、易接着樹脂層の屈折率を高くできるナフタレンジカルボン酸成分を含んで共重合されて構成されるポリエステル樹脂が好ましい。またこれら易接着樹脂層の密着耐久性を向上させるために易接着樹脂層に含有されているバインダー樹脂に架橋構造を形成させてもよい。易接着層形成用塗布液に含有させる架橋剤としては、メラミン化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物などが挙げられ、自己架橋型のポリウレタン樹脂等も配合することもできる。架橋剤は、それぞれ2種以上を混合して使用することもできる。これらは上記インラインコートの性質上、水系塗布液によって塗工されることが好ましく、前記の樹脂や架橋剤は水溶性又は水分散性の樹脂や化合物であることが好ましい。
【0064】
易接着樹脂層に含まれるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分(グリコール成分)とを構成成分とする、線状ポリエステルであることが好ましい。
【0065】
上記ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6ーナフタレンジカルボン酸、4,4-ジフェニルジカルボン酸、1,4ーシクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ダイマー酸等を例示することができる。これらの成分は二種以上を用いることができる。さらに、これらの成分と共に、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のような不飽和多塩基酸やp-ヒドロキシ安息香酸、p-(β-ヒドロキシエトキシ)安息香酸等のようなヒドロキシカルボン酸を少割合用いることができる。不飽和多塩基酸成分やヒドロキシカルボン酸成分の割合は10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0066】
上記ポリエステル樹脂のジカルボン酸成分として、ナフタレンジカルボン酸由来成分を含有させることにより、屈折率が増加し、蛍光灯下での虹彩状色彩を制御し易くなる。また、耐湿熱性を向上させることが可能となる。もちろん、ナフタレンジカルボン酸成分などをポリエステルに含有させる重合工程、共重合工程は、所謂直重法でもエステル交換法でもよく、ナフタレンジカルボン酸成分等のジカルボン酸成分は、そのエステル誘導体の形で投入されたものであってもよい。
【0067】
上記のようなナフタレンジカルボン酸としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に占める上記ナフタレンジカルボン酸成分の割合は20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、60モル%以上がよりさらに好ましい。20モル%以上であると、易接着樹脂層の屈折率を高める効果が顕著であり好ましい。ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に占める上記ナフタレンジカルボン酸成分の割合は100モル%であってもよいが、易接着樹脂層の柔軟性のために、95モル%以下であることがより好ましい。
【0068】
本発明の効果を奏する範囲であれば、ポリエステル樹脂中のグリコール成分としてさらに、エチレングリコール、1,3-プロパングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリ(エチレンオキシ)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシ)グリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等を使用しても良く、これらは2種以上を用いることができる。
【0069】
また、易接着樹脂層中の架橋剤重量を考慮すると柔軟性が失われがちになり、折り曲げ試験後に易接着樹脂層にクラックが生じる可能性がおそれあるような場合には、ポリエステル樹脂に下記式(1)で表されるジカルボン酸成分及び/又は下記式(2)で表されるジオール成分と含ませることが好ましい形態の一つである。
(1)HOOC-(CH)n-COOH (式中、nは4≦n≦10の整数)
(2)HO-(CH)n-OH (式中、nは4≦n≦10の整数)
【0070】
このように、特定の長さの炭素成分を有するジカルボン酸成分及び/又はジオール成分を含有することで、ポリエステル樹脂に柔軟性を付与し、折り曲げ試験後でも塗布膜を保持し易く、粒子凝集物起点のクラックなどを抑制することができる。
式(1)のジカルボン酸成分としては、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などが挙げられる。また、式(2)のジオール成分としては1,4-ブタンジオール、1,6-へキサンジオール等が挙げられる。
【0071】
ポリエステル樹脂は水、または、水溶性の有機溶剤(例えば、アルコール、アルキルセルソルブ、ケトン系、エーテル系を50質量%未満含む水溶液)または、有機溶剤(例えば、トルエン、酢酸エチル等)に対して溶解または分散したものが使用できる。
【0072】
ポリエステル樹脂を水系塗液として用いる場合には、水溶性あるいは水分散性のポリエステル樹脂が用いられるが、このような水溶性化あるいは水分散化のためには、スルホン酸塩基を含む化合物や、カルボン酸塩基を含む化合物を共重合させることが好ましい。
【0073】
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、塗膜強度、水分散容易性などの面から、5000~40000であることが好ましい。さらに好ましくは10000~30000であり、特に好ましくは12000~25000である。
【0074】
易接着樹脂層の固形分に占める樹脂ポリエステル樹脂の固形分含有量は、密着性と屈折率調整などの面から20質量%以上90質量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、30質量%以上80質量%以下である。なお、ポリエステル樹脂は単一のものであっても良く、2種以上のブレンド物であっても良い。2種以上のブレンド物の場合、ポリエステル樹脂成分の合計として上記の組成であることが好ましい。
【0075】
(ウレタン樹脂)
易接着樹脂層に使用することができるウレタン樹脂は、構成成分として、少なくともポリオール成分、ポリイソシアネート成分を含み、さらに必要に応じて鎖延長剤を含む。上記のウレタン樹脂は、これら構成成分が主としてウレタン結合により共重合された高分子化合物である。ウレタン樹脂の構成成分としてポリカーボネートポリオールを含ませることは塗膜に柔軟性を持たせることができるため好ましい形態の一つである。なお、これらウレタン樹脂の構成成分は、核磁気共鳴分析などにより特定することが可能である。
【0076】
(ポリカーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂)
ポリカーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂の構成成分であるジオール成分には、耐熱、耐加水分解性に優れる脂肪族系ポリカーボネートポリオールを含有させることが好ましい。本発明の光学用途においては、黄変防止の点からも脂肪族系ポリカーボネートポリオールを用いることが好ましい。
【0077】
脂肪族系ポリカーボネートポリオールとしては、脂肪族系ポリカーボネートジオール、脂肪族系ポリカーボネートトリオールなどが挙げられるが、好適には脂肪族系ポリカーボネートジオールを用いることができる。本発明のウレタン樹脂の構成成分である脂肪族系ポリカーボネートジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどのジオール類の1種または2種以上と、例えば、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲンなどのカーボネート類とを反応させることにより得られる脂肪族系ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0078】
本発明のウレタン樹脂の構成成分であるポリイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート等の芳香族脂肪族ジイソシアネート類、イソホロンジイソシアネート及び4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネート、および2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、あるいはこれらの化合物を単一あるいは複数でトリメチロールプロパン等とあらかじめ付加させたポリイソシアネート類が挙げられる。前記のポリイソシアネート類は、黄変の問題がなく、高い透明性が要求される光学用として好ましい。また、かかるポリイソシアネート類は、塗膜が強硬になり過ぎず、光硬化型樹脂等の収縮、膨潤による応力を緩和でき、密着性が保持されて好ましい。
【0079】
ウレタン樹脂に水溶性を付与させるためには、ウレタン分子骨格中にスルホン酸(塩)基又はカルボン酸(塩)基を導入(共重合)することができる。スルホン酸(塩)基は強酸性であり、その吸湿性能により耐湿性を維持するのが困難な場合があるので、弱酸性であるカルボン酸(塩)基を導入するのが好適である。また、ポリオキシアルキレン基などのノニオン性基を導入することもできる。
【0080】
ウレタン樹脂にカルボン酸(塩)基を導入するためには、例えば、ポリオール成分として、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸などのカルボン酸基を有するポリオール化合物を共重合成分として導入し、塩形成剤により中和する。塩形成剤の具体例としては、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミンなどのトリアルキルアミン類、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンなどのN-アルキルモルホリン類、N-ジメチルエタノールアミン、N-ジエチルエタノールアミンなどのN-ジアルキルアルカノールアミン類が挙げられる。これらは単独で使用できるし、2種以上併用することもできる。
【0081】
水溶性を付与するために、カルボン酸(塩)基を有するポリオール化合物を共重合成分として用いる場合は、ウレタン樹脂中のカルボン酸(塩)基を有するポリオール化合物の組成モル比は、ウレタン樹脂の全ポリオール成分を100モル%としたときに、3~60モル%であることが好ましく、5~40モル%であることが好ましい。前記組成モル比が3モル%以上の場合は、水分散性が良好で好ましい。また、前記組成モル比が60モル%以下の場合は、耐水性が保持されて耐湿熱性が保持されるため好ましい。
【0082】
本発明におけるウレタン樹脂のガラス転移点温度は0℃未満が好ましく、より好ましくは-5℃未満である。ガラス転移点温度が0℃未満の場合は塗布層の応力緩和の点から好適な柔軟性を奏しやすく好ましい。
【0083】
易接着樹脂層中に架橋構造を形成させるために、易接着樹脂層は架橋剤が含まれて形成されていてもよい。架橋剤を含有させることにより、高温高湿下での密着性を更に向上させることが可能になる。具体的な架橋剤としては、尿素系、エポキシ系、メラミン系、イソシアネート系、オキサゾリン系、カルボジイミド系等が挙げられる。これらの中で、塗液の経時安定性、高温高湿処理下の密着性向上効果からメラミン系、イソシアネート系、オキサゾリン系、カルボジイミド系の架橋剤が好ましい。また、架橋反応を促進させるため、触媒等を必要に応じて適宜使用することができる。
【0084】
架橋剤を易接着樹脂層中に含んで構成されている場合、その架橋剤の含有量は、塗布層の全固形成分中、5質量%以上50質量%以下が好ましい。より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。10質量%以上であれば、易接着樹脂層の樹脂の強度が保持され、高温高湿下での密着性が良好であり、40質量%以下であれば、塗布層の樹脂の柔軟性が保持され、常温、高温高湿下での繰り返し折りたたみ試験後の密着性が保持されて好ましい。
【0085】
本発明における易接着樹脂層にはチタン化合物、ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有していることが好ましい。ハードコートフィルムの虹彩状色彩(干渉斑)は、基材のポリエステルフィルムの屈折率(例えば1.62~1.65)とアクリル樹脂等からなるハードコート層の屈折率(例えば1.52)との差が大きいため発生するといわれている。積層間の屈折率差を小さくして干渉斑の発生を防止するために、ポリエステルフィルムと易接着樹脂層との屈折率差、易接着樹脂層とハードコート層の屈折率差を小さくするように、易接着樹脂層の屈折率を制御することが重要である。主成分のバインダー樹脂や粒子からなる易接着樹脂層の屈折率を制御する際、屈折率の高い上記化合物を含有させることで、制御が容易となる。チタン化合物としては、例えば、水溶性のチタンキレート化合物や水溶性のチタンアシレート化合物、酸化チタン、塩化チタンなどが挙げられ、中でも二酸化チタン(チタニア)が好ましく用いられる。ジルコニウム化合物としては、例えば水溶性のジルコニウムキレート化合物や水溶性のジルコニウムアシレート化合物、酢酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられ、中でも、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)が好ましく用いられる。前記の屈折率の高い化合物は粒子状のものであることも好ましい。
【0086】
二酸化ジルコニウムなどの金属酸化物粒子の平均粒子径は、5nm以上150nm以下が好ましい。さらに10nm以上100nm以下が好ましく、よりさらに30nm以上70nm以下が好ましい。
【0087】
金属酸化物微粒子の平均粒子径を上記範囲に設計することで、フィルムヘイズを低くすることができる。また粒子状の金属化合物は、繰り返し折りたたみされる際の緩衝効果を得られるために易接着樹脂層の膜厚より粒子径が低く設計されることが望ましく、かつ粒子凝集が起きにくい粒子径が好ましい。粒子凝集を抑制すると折りたたみ時に易接着樹脂層のクラック等の起点にならず好ましい。
【0088】
粒子状の金属化合物の添加量は、易接着樹脂層の折りたたみ時の緩衝効果、また、相反して粒子凝集によるクラック等の起点にならないように、易接着樹脂層に対して、0.1質量%濃度以上15質量%濃度未満で設計することが好ましい。さらに0.5質量%濃度以上14質量%濃度以下が好ましく、より好ましくは1質量%濃度以上13質量%濃度以下である。この範囲内で粒子を添加すると、易接着樹脂層中に凝集粒子が発生しづらく、その凝集粒子による繰り返し折りたたみ時に易接着樹脂層にクラックの発生がないため、折りたたみ試験後も干渉斑を生じにくく好ましい。
【0089】
易接着樹脂層内の粒子状金属化合物は、屈曲方向よりも折りたたみ部の方向の存在割合が少ない方が好ましい。繰り返し折りたたみ時に発生する微細なクラックは、厚み方向に負荷がかかる折りたたみ部方向に発生しやすいため、折りたたみ部の方向の粒子頻度を少なくすることでクラックの発生を抑制できると考えられる。粒子頻度を少なくすることで粒子の凝集割合やクラックが伝播する頻度を低減できると考えられる。各方向別の粒子の存在割合は、断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察等で確認することができる。
【0090】
易接着樹脂層中の粒子状金属化合物の方向別の存在割合を変える方法としては、インラインコート手法による形成が好ましい。インラインコート手法では、易接着樹脂材料を含んだ塗布液を塗工後に少なくとも一方向に延伸する工程が存在するため、延伸倍率を調節することにより、易接着樹脂層の粒子の存在割合を変えることができると考えらえる。
【0091】
粒子状の金属化合物は凝集を防ぐために分散剤を併用しても構わない。本発明に用いる分散剤としては、エマルジョンからなるバインダー樹脂を維持でき、また、後述する架橋剤を溶解あるいは分散できるとともに、金属酸化物微粒子を分散できるポリマー化合物であればよい。
【0092】
具体的には、ポリビニル、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸、ポリウレタン等の公知のポリマー分散剤を使用できる。さらに具体的には、ポリビニルポリマーとして、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルエステル等及びそれらの共重合体、ポリアクリル酸ポリマーとして、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム等及びそれらの共重合体、ポリカルボン酸ポリマーとして、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリカルボン酸アンモニウム等及びそれらの共重合体、ポリウレタンポリマーとして、ポリウレタン等及びそれらの共重合体などが使用でき、またこれらの共重合体やスルホン酸ポリマーとの共重合体なども使用できる。この中でも金属微粒子の分散剤としては、ポリアクリル酸ポリマーのようなアクリル樹脂が好ましい。
【0093】
金属酸化物粒子は、その表面の一部または全部に分散剤を有する粒子であることが、より好ましい。分散剤を含有することで、金属酸化物粒子の凝集を抑制する効果が得られる。易接着樹脂層がかかる粒子を含有することにより、塗膜の透明性を維持しつつ、繰り返し折りたたみ試験時の応力緩和が期待できる。分散剤を含有させることにより、塗膜の形成過程によっては、易接着樹脂層に金属酸化物粒子の凝集が生じづらくクラックを生じづらくなり好ましい。
【0094】
金属酸化物粒子をアクリル樹脂で表面処理する方法は特に限定するものではないが、具体的には、金属酸化物粒子とアクリル樹脂をあらかじめ混合した混合物を溶媒中に添加した後、分散する方法、溶媒中に、金属酸化物粒子とアクリル樹脂を順に添加して分散する方法、などが挙げられる。
【0095】
これらの分散を行う装置としては、ディゾルバー、ハイスピードミキサー、ホモミキサー、ミーダー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、SCミル、アニュラー型ミル、ピン型ミル等が使用できる。
【0096】
金属酸化物粒子に添加する分散剤量としては、金属酸化物粒子の質量を基準に、5質量%濃度以上~40質量%濃度未満が好ましい。分散剤の添加量が5質量%濃度以上の場合は、易接着樹脂層中に金属酸化物粒子の良好な分散状態が得られる点で好適である。分散剤の添加量が40質量%濃度未満の添加量の場合は、金属酸化物粒子の特徴を生かした易接着樹脂層の屈折率の調整が容易になる点で好適である。さらに10質量%濃度以上~30質量%濃度以下の添加量がより好ましい。
【0097】
本発明では、易接着樹脂層の屈折率を一定の範囲に設計し、薄膜干渉原理を満たすことで虹彩状色彩(干渉斑)が低減できる。さらに屈折率調整に用いている金属化合物を易接着樹脂層に一定範囲の量を充填することによって、繰り返し折りたたみされる際の易接着樹脂層へのダメージを緩衝する効果を有すると考えられる。
【0098】
虹彩状色彩(干渉斑)を抑制できる易接着樹脂層の厚みは、2nd=λb/4の式を満たすように、調整すればよい。ここで、nは易接着樹脂層の屈折率、dは易接着樹脂層の厚み、λbは反射スペクトルのボトム波長を示し、450~650nmの範囲で適宜設定できる。
【0099】
本発明における易接着樹脂層を有するポリエステルフィルムは、屈曲方向と折りたたみ部の方向の屈折率が異なる設計となるため、各方向を考慮した易接着樹脂層の屈折率の制御をすることが好ましい。
【0100】
易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの屈曲方向の屈折率に対しては、易接着樹脂層の屈折率は低く制御されることが望ましい。易接着樹脂層と前記屈曲方向との屈折率差の範囲としては、0より大きく0.070以下であることが好ましい。さらに0.005以上0.065以下であることが好ましい。よりさらに、0.010以上0.060以下であることが好ましい。易接着樹脂層の屈折率がポリエステルフィルムの屈曲方向より低いと積層されるハードコート層との屈折率差が小さくなり、虹彩状色彩(干渉斑)が効果的に抑制されるため好ましい。また、前記屈折率差が0.070以下の場合は、ポリエステルフィルムとの前記屈折率差が大きくなり過ぎず、虹彩状色彩(干渉斑)を効果的に抑制できるため好ましい。屈曲方向は、易接着樹脂層を内側に曲げた際は圧縮応力,外側に曲げた際は引張応力がかかるため、結晶構造の多い樹脂成分よりも非晶構造の樹脂多い樹脂成分で設計されることが好ましく、さらに屈折率を補うべく金属化合物を適量添加することが好ましい。
【0101】
易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの折りたたみ部の方向の屈折率に対しても、易接着樹脂層の屈折率は低く制御されることが望ましい。易接着樹脂層と前記折りたたみ部の方向の屈折率との差の範囲としては、0.080以上0.150以下であることが好ましい。さらに0.085以上0.14以下であることが好ましい。よりさらに0.090以上0.13以下であることが好ましい。屈折率がポリエステルフィルムの折りたたみ部の方向より低いと、積層されるハードコート層との屈折率差が小さくなり、虹彩状色彩(干渉斑)が効果的に抑制されるため好ましい。また前記屈折率差が0.150以下の場合は、ポリエステルフィルムとの前記屈折率差が大きくなり過ぎず、虹彩状色彩(干渉斑)を効果的に抑制できるため好ましい。
【0102】
易接着層には易滑性を付与するために粒子を添加することが好ましい。微粒子の平均粒径は2μm以下であることが好ましい。粒子の平均粒径が2μmを超えると、粒子が易接着層から脱落しやすくなる。易接着層に含有させる粒子としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、シリカ、アルミナ、タルク、カオリン、クレー、リン酸カルシウム、雲母、ヘクトライト、ジルコニア、酸化タングステン、フッ化リチウム、フッ化カルシウム等の無機粒子や、スチレン系、アクリル系、メラミン系、ベンゾグアナミン系、シリコーン系等の有機ポリマー系粒子等が挙げられる。これらは、単独で易接着層に添加されてもよく、2種以上を組合せて添加することもできる。塗布層に適度な滑り性を与えるために、平均粒径200nm以上700nm以下のシリカ粒子が特に好ましく使用される。
【0103】
また、易滑性を付与するための粒子の添加量としては、易接着樹脂層に対して1質量%未満が好ましい。1質量%未満であると、易接着樹脂層の厚みよりも大きな粒子が易接着樹脂層中数少なく存在するため、折りたたみ時にクラックが伝播しづらく好ましい。さらに0.5重量パーセント以下が好ましい態様である。
【0104】
塗布液を塗布する方法としては、上記の塗布層と同様に公知の方法を用いることができる。例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、パイプドクター法、などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。
【0105】
(ハードコート層)
本発明のポリエステルフィルムを折りたたみ型ディスプレイの表面に位置させてディスプレイを保護する表面保護フィルムとして用いる場合は、その少なくとも一方の表面にハードコート層を有していることが好ましい。ハードコート層は、ポリエステルフィルム上のディスプレイ表面側に位置させてディスプレイにおいて用いられることが好ましい。ハードコート層を形成する樹脂としては、シロキサン系、無機ハイブリッド系、アクリル系、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系、エポキシ系など特に限定なく使用できる。また、2種類以上の材料を混合して用いることもできるし、無機フィラーや有機フィラーなどの粒子を添加することもできる。
【0106】
ハードコート層を形成する樹脂としては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなど、(メタ)アクリレート系官能基を持つ化合物やアリル基やビニル基などの不飽和二重結合を有する官能基を持つ化合物が挙げられる。また、ハードコート層の硬度を上げるために多官能モノマーを併用してもよい。多官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートが例示される。上記材料は単独で使用してもよいし、2種類以上の材料を混合して用いることもできる。
【0107】
ハードコート層を硬化させる活性エネルギー線が紫外線の場合は、光重合開始剤を加えることが好ましい。光重合開始剤には、ラジカル重合系、カチオン重合系、カチオン重合とラジカル重合の混合系であってもよいが、反応速度が大きく生産性に優れるため、ラジカル重合系が特に好ましい。紫外線ラジカル重合開始剤の例として、アルキルフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3-ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類、チタノセン類、オキシ酢酸フェニル類が挙げられ、単独または2種以上混合して使用しても良い。さらに具体的な例としては、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアセトフェノン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、4,4'-ジクロロベンゾフェノン、4,4'-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、メチルベンゾイルフォメート、p-イソプロピル-α-ヒドロキシイソブチルフェノン、α-ヒドロキシイソブチルフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のカルボニル化合物、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントンなどの硫黄化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等のパーオキサイド化合物が挙げられる。光重合開始剤の添加量は活性エネルギー線硬化型樹脂100質量部に対して、下限が0.1質量部以上、より好ましく1質量部以上、上限が30質量部以下、より好ましくは20質量部以下の範囲で使用することができる。添加量が0.1質量部以上であると、ハードコート層の硬度が高くでき好ましい。また、添加量が30質量部以下であると、ハードコート層が黄変するおそれがなく、ハードコート層の硬化も十分であり好ましい。
【0108】
さらにハードコートの性能を阻害しない範囲で各種添加剤を含有することができる。各種添加剤としては、例えば重合禁止剤、架橋剤、帯電防止剤、接着性向上剤、酸化防止剤、レベリング剤、カップリング剤、消泡剤、充填剤、溶剤、防眩剤、反射防止剤、無機フィラーや有機フィラーなどを挙げることができる。
【0109】
ハードコート層の屈折率は、ハードコートフィルムの虹彩状色彩(干渉斑)を抑制する観点から易接着樹脂層の屈折率より小さいことが好ましい。
【0110】
(ハードコート層の膜厚)
ハードコート層の膜厚としては、1~50μmが好ましい。1μm以上であると十分に硬化することができる。鉛筆硬度を高めるためには、5μm以上であることがさらに好ましい。また厚みを50μm以下にすることで、ハードコートの硬化収縮によるカールを抑制し、フィルムのハンドリング性を向上させることができる。
【0111】
(塗布方法)
ハードコート層の塗布方法としては、マイヤーバー、グラビアコーター、ダイコーター、ナイフコーターなど特に限定なく使用でき、粘度、膜厚に応じて適宜選択できる。
【0112】
(硬化条件)
ハードコート層の硬化方法としては、紫外線、電子線などのエネルギー線や、熱による硬化方法など使用でき、フィルムへのダメージを軽減させるために、紫外線や電子線などによる硬化方法が好ましい。
【0113】
(鉛筆硬度)
ハードコート層の鉛筆硬度としては、3H以上が好ましく、4H以上が更に好ましい。3H以上の鉛筆硬度があれば、容易に傷がつくことはなく、視認性を低下させない。一般にハードコート層の鉛筆硬度は高い方が好ましいが9H以下で構わず、8H以下でも構わず、6H以下でも実用上は問題なく使用できる。
【0114】
(ハードコート層の特性)
本発明におけるハードコート層は、上述のような表面の鉛筆硬度を高めてディスプレイの保護をする目的に使用できるものであり、透過率が高いことが好ましい。ハードコートフィルムの透過率としては、85%以上が好ましく、87%以上がより好ましく、88%以上がさらに好ましい。透過率が85%以上であれば、十分な視認性が得られる。ハードコートフィルムの全光線透過率は、一般的に高いほど好ましいが、安定した生産の面から99%以下が好ましく、97%以下であってもよい。また、ハードコートフィルムのヘイズは、一般的に低いことが好ましく、3%以下が好ましい。ハードコートフィルムのヘイズは2%以下がより好ましく、1%以下が最も好ましい。ヘイズが3%以下であれば、画像の視認性を向上させることができる。ヘイズは一般的には低いほどよいが、安定した生産の面から0.1%以上が好ましく、0.3%以上であってもよい。
【0115】
ハードコート層には、さらに、他の機能が付加されたものであってもよい。例えば、上記のような一定の鉛筆硬度を有する防眩層、防眩性反射防止層、反射防止層、低反射層および帯電防止層などの機能性が付加されたハードコート層も本発明おいては好ましく適用される。
【0116】
またタッチパネルモジュールの基材フィルムとして用いられる場合にもハードコート層が設けられていても良い。タッチパネルモジュールの透明電極層として例えばITO層が用いられる場合には、電極パターンを見えにくくするため、基材フィルムと透明電極層の間に屈折率調整層が設けられることが好ましい。この場合、ハードコート層自体が屈折率調整層を兼ねていてもよく、さらに別途屈折率調整を積層してもよい。
【実施例0117】
次に、本発明について実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明のポリエステルフィルムで実施した特性値の評価方法を下記に示す。
【0118】
(1)極限粘度
フィルムまたはポリエステル樹脂を粉砕して乾燥した後、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒に溶解した。この溶液に遠心分離処理を施して無機粒子を取り除いた後に、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で0.4(g/dl)の濃度の溶液の流下時間及び溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用い、Hugginsの定数が0.38であると仮定して極限粘度を算出した。
【0119】
(2)密度
JIS K7112:1999準拠の方法(密度勾配管法)に従って密度を測定した。(単位:g/cm)。
(3)ポリエステルフィルムや易接着樹脂層中の粒子の平均粒子径
フィルムの断面の粒子を走査型電子顕微鏡で観察を行い、粒子50個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とする方法で行う。球状ではない不定形の粒子の粒子径は円相当径として計算することができる。円相当径は、観察された粒子の面積を円周率(π)で除し、平方根を算出し2倍した値である。(単位は平均粒子径にもよるが、主にnmを使用)。
【0120】
(4)易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの屈折率
JIS K7142:2008「プラスチックの屈折率測定方法(A法)」に準拠して
、アッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)を用いて、易接着樹脂層を有しハードコート層を積層する前のポリエステルフィルムの長手方向の屈折率、幅方向の屈折率、厚み方向の屈折率を求めた。
【0121】
(5)易接着樹脂層の屈折率
易接着樹脂層の屈折率は、分光光度計(製品名「UV-3150」、島津製作所製)を用いて、測定した反射スペクトルと、フレネル係数を用いた薄膜の光学モデルから算出した反射スペクトルとのフィッティングにより算出することができる。PET基材における屈折率を測定しようとする易接着樹脂層を形成した面とは反対側の面(裏面、両面に易接着樹脂層を形成した場合には屈折率を測定しようとしない側の易接着樹脂層の表面)に、裏面反射を防止するために測定スポット面積よりも大きな幅の黒色ビニールテープ(例えば、製品名「ヤマトビニールテープNO200-38-21」、ヤマト社製、38mm幅)を貼り付けてから測定するものとする。
【0122】
(6)ポリエステルフィルムサンプルの耐屈曲性(屈曲半径1.5mm)
幅方向20mm×流れ方向110mmの大きさのポリエステルフィルムサンプルを用意する。無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器社製、DLDMLH-FS)を用いて、屈曲半径1.5mmに設定し、1回/秒の速度で、20万回屈曲させた。その際、サンプルは長辺側両端部10mmの位置を固定して、屈曲する部位は20mm×90mmとした。ここで、図1は、折りたたみ型ディスプレイを折りたたんだ際の屈曲半径を示すための模式図であり、その折りたたんだ態様の内側表面にポリエステルフィルムが配されている場合を考慮して、図1の符号11の個所を1.5mmに設定したものとしてモデル的に屈曲試験をしている。屈曲処理終了後、サンプルの屈曲内側を下にして平面に置き、目視による観察を行った。
○ :サンプルにクラック及び変形を確認できない。
× :サンプルにクラックまたは折跡があり、水平に置いた際、浮き上がり最大高さが5mm以上。
【0123】
(7)ポリエステルフィルムサンプルの耐屈曲性(屈曲半径0.5mm)
上記屈曲試験と同様の方法で、屈曲半径0.5mmに設定し1回/秒の速度で20万回屈曲させた。ここで、図1は、折りたたみ型ディスプレイを折りたたんだ際の屈曲半径を示すための模式図であり、その折りたたんだ態様の内側表面にポリエステルフィルムが配されている場合を考慮して、図1の符号11の個所を0.5mmを設定したものとしてモデル的に屈曲試験をしている。屈曲部の外側のフィルム表面をデジタルマイクロスコープ(HIROX社製RH8800)の700倍で観察し、シワ(クラック)の有無を観察した。上記の屈曲半径1.5mmの耐屈曲性目視テストとは別に、屈曲半径を0.5mmに小さくした本テストを行うことで、ハードコート層や他の部材が積層又は貼着された、折りたたみ型ディスプレイの実際の使用状態に近い状態での評価することを企図している。前記屈曲半径1.5mmによる目視観察とは別に、目視では検出しにくい微細な欠点である、破断しやすいまたはクラックが入りやすい欠点を検出するためのテストである。
○ :屈曲外側のフィルム表面に欠陥がない。
× :破断した、または屈曲外側のフィルム表面にシワ(クラック)が確認できる。
【0124】
(8)試験力除荷後の押し込み深さ
試料を約2cm角に切り取り、マイクロカバーガラス18×18mm(マツナミガラス社製)上に、測定面の反対面を接着剤(セメダイン(登録商標)ハイスーパー30)にて固定した。貼着固定後、12時間以上室温で放置し、その後、ダイナミック超微小硬度計「DUH-211」(島津製作所製)を用いて、次の条件で、試験力除荷後の押し込み深さ(μm)を測定した。
≪測定条件≫
試験モード :負荷-除荷試験
使用圧子 :稜間角115度、三角錐圧子
圧子弾性率:1.140×10N/mm
圧子ポアソン比:0.07
試験力 :50mN
負荷速度 :4.44mN/sec
負荷保持時間 :2sec
除荷保持時間 :0sec
【0125】
(9)全光線透過率、ヘイズ
易接着樹脂層を積層したポリエステルフィルムをサンプルとして、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH5000)を用いて測定した。
【0126】
(10)最大熱収縮率
易接着樹脂層を積層したポリエステルフィルムの試料フィルムをタテ10mm×ヨコ250mmにカットし、長辺を測定したい方向に合わせて、200mm間隔で印をつけ、5gの一定張力下で印の間隔Aを測った。続いて、試料フィルムを無荷重で150℃の雰囲気のオーブン中で30分間放置した後、オーブンから取り出し室温まで冷却した。その後、5gの一定張力下で印の間隔Bを求め、下記式により熱収縮率(%)を求めた。なお、上記熱収縮率は試料フィルムの幅方向に3等分した位置で測定し、3点の平均値を熱収縮率(%)とする
熱収縮率(%)=[(A-B)×100]/A
屈曲方向と折りたたみ方向の双方向についてそれぞれ別個に試料フィルムのタテ、ヨコが異なるようにカットして測定し、測定値が大きい方向のデータを最大熱収縮率(%)とする。
【0127】
(11)ハードコート層の屈折率
ハードコート層の屈折率は、分光光度計(製品名「UV-3150」、島津製作所製)を用いて、測定した反射スペクトルと、フレネル係数を用いた多層薄膜の光学モデルから算出した反射スペクトルとのフィッティングにより算出することができる。ハードコート層の反射率は、易接着樹脂層が施されていない厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材上にハードコート組成物を塗布し、硬化させて1~10μmの厚さのハードコート層を形成し、PET基材におけるハードコート層を形成した面とは反対側の面(裏面)に、裏面反射を防止するために測定スポット面積よりも大きな幅の黒色ビニールテープ(例えば、製品名「ヤマトビニールテープNO200-38-21」、ヤマト社製、38mm幅)を貼り付けてから測定するものとする。
【0128】
(12)ハードコートフィルムの干渉斑改善性(虹彩状色彩)
ハードコートフィルムを50mm(フィルム幅方向)×110mm(フィルム長手方向)の面積に切り出し、試料フィルムを作成した。得られた試料フィルムのハードコート層とは反対面に、黒色光沢テープ(日東電工製、ビニルテープNo21;黒)を張り合わせた。この試料フィルムのハードコート面を上面にして3波長形昼白色(ナショナル パルック、F.L 15EX-N 15W)を光源として斜め上から目視でもっとも反射が強く見える位置関係(光源からの距離40~60cm、フィルム面に対して15~45°の角度)で観察した。
【0129】
目視で観察した結果を、下記の基準でランク分けを行う。なお、観察は該評価に精通した5名で行ない、最も多いランクを評価ランクとする。仮に、2つのランクで同数となった場合には、3つに分かれたランクの中心を採用した。例えば、◎と○が各2名で△が1名の場合は○を、◎が1名で○と△が各2名の場合には○を、◎と△が各2名で○が1名の場合には○を、それぞれ採用する。
◎:あらゆる角度からの観察でも虹彩状色彩が見られない
○:ある角度によっては僅かに虹彩状色彩が見られる
△:僅かに虹彩状色彩が観察される
×:はっきりとした虹彩状色彩が観察される
【0130】
(13)ハードコートフィルムの屈曲試験性
ハードコートフィルムを用いて、幅方向50mm×流れ方向110mmの大きさに切りだして試料フィルムを作製した。得られた試料フィルムを用いて、上述の屈曲試験方法と同様に、易接着樹脂層とハードコート層が内側となるように折りたたむようにして、屈曲半径3.0mmに設定し、1回/秒の速度で、20万回屈曲試験を行った。試験後の試料フィルムの屈曲された部位に対して、サンプルの屈曲内側を下にして平面に置き、目視による観察を行った。
○ :サンプルにクラック及び変形を確認できない。
× :サンプルにクラックまたは折跡が観察される。
【0131】
(14)ハードコートフィルムの屈曲試験後の干渉斑(虹彩状色彩)観察
上述のハードコートフィルムの屈曲試験後の試料フィルムの屈曲された部位に対して、干渉斑改善性と同様の観察を行った。具体的には、得られた試料フィルムのハードコート層とは反対面に、黒色光沢テープ(日東電工製、ビニルテープNo21;黒)を張り合わせた。この試料フィルムのハードコート面を上面にして3波長形昼白色(ナショナル パルック、F.L 15EX-N 15W)を光源として斜め上から目視でもっとも反射が強く見える位置関係(光源からの距離40~60cm、フィルム面に対して15~45°の角度)で観察した。目視で観察した結果を、下記の基準でランク分けを行う。なお、観察は該評価に精通した5名で行ない、最も多いランクを評価ランクとする。仮に、2つのランクで同数となった場合には、3つに分かれたランクの中心を採用した。例えば、◎と○が各2名で△が1名の場合は○を、◎が1名で○と△が各2名の場合には○を、◎と△が各2名で○が1名の場合には○を、それぞれ採用する。
◎:あらゆる角度からの観察でも虹彩状色彩が見られない
○:ある角度によっては僅かに虹彩状色彩が見られる
△:僅かに虹彩状色彩が観察される
×:はっきりとした虹彩状色彩が観察される
【0132】
本テストで干渉斑を評価することで、ハードコート層と易接着樹脂層およびポリエステルフィルム層での界面剥離やクラックなどの微細な密着不良欠点を起因とする干渉斑を検出する目的で本テストを実施している。
【0133】
(15)鉛筆硬度
ハードコートフィルムの鉛筆硬度をサンプルとして、JIS K 5600-5-4:1999に準拠し、荷重750g、速度1.0mm/sで測定した。本発明においては3H以上を合格とした。
【0134】
(ポリエチレンテレフタレートペレット(R1)の調製)
エステル化反応装置として、攪拌装置、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を用い、TPAを2トン/hrとし、EGをTPA1モルに対して2モルとし、三酸化アンチモンを生成PETに対してSb原子が160ppmとなる量とし、これらのスラリーをエステル化反応装置の第1エステル化反応缶に連続供給し、常圧にて平均滞留時間4時間で、255℃で反応させた。次いで、上記第1エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第2エステル化反応缶に供給し、第2エステル化反応缶内に第1エステル化反応缶から留去されるEGを生成ポリマー(生成PET)に対し8質量%供給し、さらに、生成PETに対してMg原子が65ppmとなる量の酢酸マグネシウムを含むEG溶液と、生成PETに対してP原子が20ppmのとなる量のTMPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間1.5時間で、260℃で反応させた。次いで、上記第2エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第3エステル化反応缶に供給し、さらに生成PETに対してP原子が20ppmとなる量のTMPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間0.5時間で、260℃で反応させた。上記第3エステル化反応缶内で生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、さらに、ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度5μm粒子90%カット)で濾過し、極限粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートペレット(R1)を得た。
【0135】
(ポリエチレンテレフタレートペレット(R2)の調製)
ポリエチレンテレフタレートペレット(R1)の製造工程について、第3エステル化反応の滞留時間を調節した他は同様の方法にて極限粘度を0.580dl/gに調整し、ポリエチレンテレフタレートペレット(R2)を得た。
【0136】
(ポリエチレンテレフタレートペレット(R3)の調製)
ポリエチレンテレフタレートペレット(R1)を、回転型真空重合装置を用い、0.5mmHgの減圧下、220℃で時間を変えて固相重合を行い、極限粘度0.75dl/gのポリエチレンテレフタレートペレット(R3)を作成した。
【0137】
(共重合ポリエステル樹脂の重合)
易接着樹脂層形成用の共重合ポリエステル樹脂(a1)~(a3)の重合を以下のようにして行った。
攪拌機、温度計、及び部分還流式冷却器を具備するステンレススチール製オートクレーブに、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル410.3質量部、セバシン酸46.3、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム42.5質量部、エチレングリコール175.6質量部、ジエチレングリコール29.2質量部、1,6-ヘキサンジオール204.2質量部、及びテトラーnーブチルチタネート0.5質量部を仕込み、160℃から220℃まで4時間かけてエステル交換反応を行なった。次いで255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、30Paの減圧下で1時間30分反応させ、共重合ポリエステル樹脂(a1)を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂は、淡黄色透明であった。共重合ポリエステル樹脂(a1)の組成は表1の通りである。
【0138】
また、原料を変更して同様にして表1に記載の組成の共重合ポリエステル樹脂(a2)、(a3)を得た。これらの共重合ポリエステル樹脂に対し、1H-NMRで測定した組成及び重量平均分子量の結果を表1に示す。
【0139】
【表1】
【0140】
(共重合ポリエステル樹脂の水分散液の調整)
攪拌機、温度計と還流装置を備えた反応器に、共重合ポリエステル樹脂(a1)25質量部、エチレングリコールt-ブチルエーテル15質量部を入れ、110℃で加熱、攪拌し樹脂を溶解した。樹脂が完全に溶解した後、水60質量部を上記ポリエステル溶液に攪拌しつつ徐々に添加した。添加後、液を攪拌しつつ室温まで冷却して、固形分25質量%の乳白色の共重合ポリエステルの水分散液(Aw-1)を作製した。同様に共重合ポリエステル樹脂(a1)の代わりに共重合ポリエステル樹脂(a2)~(a3)を使用して、水分散液を作製し、水分散液(Aw-2)~(Aw-3)とした。
【0141】
(ウレタン樹脂の重合)
撹拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管、シリカゲル乾燥管、及び温度計を備えた4つ口フラスコに、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン72.96質量部、ジメチロールプロピオン酸12.60質量部、ネオペンチルグリコール11.74質量部、数平均分子量2000のポリカーボネートジオール112.70質量部、及び溶剤としてアセトニトリル85.00質量部、N-メチルピロリドン5.00質量部を投入し、窒素雰囲気下、75℃において3時間撹拌し、反応液が所定のアミン当量に達したことを確認した。次に、この反応液を40℃にまで降温した後、トリエチルアミン9.03質量部を添加し、ポリウレタンプレポリマー溶液を得た。次に、高速攪拌可能なホモディスパーを備えた反応容器に、水450gを添加して、25℃に調整して、2000min-1で攪拌混合しながら、イソシアネート基末端プレポリマーを添加して水分散した。その後、減圧下で、アセトニトリルおよび水の一部を除去することにより、固形分35質量%の水溶性ポリウレタン樹脂(B-1)を調製した。
【0142】
(自己架橋型ポリウレタン系樹脂水溶液の調製)
アジピン酸、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール(モル比:4/2/3)の組成からなるポリエステルジオール(OHV:2000eq/ton)100質量部と、キシリレンジイソシアネートを41.4質量部混合し、窒素気流下、80~90℃で1時間反応させた後、60℃まで冷却し、テトラヒドロフラン70質量部を加えて溶解し、ウレタンプレポリマー溶液(NCO/OH比:2.2、遊離イソシアネート基:3.30質量%)を得た。引き続き、前記のウレタンプレポリマー溶液を40℃にし、次いで、20質量%の重亜硫酸ナトリウム水溶液を45.5質量部加えて激しく撹拌を行いつつ、40~50℃で30分間反応させた。遊離イソシアネート基含有量(固形分換算)の消失を確認した後、乳化水で希釈し、固形分20質量%の重亜硫酸ソーダでブロックしたイソシアネート基を含有する自己架橋型ポリウレタン系樹脂水溶液(B-2)を得た。
【0143】
(ブロックイソシアネート化合物の重合)
撹拌機、温度計、還流冷却管を備えたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネートを原料としたイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ製、デュラネートTPA)100質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート55質量部、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量750)30質量部を仕込み、窒素雰囲気下、70℃で4時間保持した。その後、反応液温度を50℃に下げ、メチルエチルケトオキシム47質量部を滴下した。反応液の赤外スペクトルを測定し、イソシアネート基の吸収が消失したことを確認し、固形分75質量%のブロックポリイソシアネート液を得た。
【0144】
(水分散性ブロックイソシアネートの調整)
上記で得られたブロックポリイソシアネート液に水を添加し、固形分40質量%のブロックポリイソシアネート水分散液(C-1)を得た。
【0145】
(水溶性カルボジイミド化合物の重合)
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器、滴下ロート、および攪拌機を備えたフラスコにイソホロンジイソシアネート200質量部、カルボジイミド化触媒の3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド4質量部を投入し、窒素雰囲気下、180℃において10時間撹拌し、イソシアネート末端イソホロンカルボジイミド(重合度=5)を得た。次いで、得られたカルボジイミド111.2g、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)80gを100℃で24時間反応させた。これに水を50℃で徐々に加え、固形分40質量%の黄色透明な水溶性カルボジイミド化合物(C-2)を得た。
【0146】
(メラミン系架橋剤)
メラミン系架橋剤として、DIC社製 ベッカミン(登録商標)M-3(固形分濃度60%)を使用した(メラミン系架橋剤(C-3))。
【0147】
(オキサゾリン系架橋剤の重合)
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器、滴下ロート、および攪拌機を備えたフラスコに水性媒体としてのイオン交換水58質量部とイソプロパノール58質量部との混合物、および、重合開始剤(2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)・二塩酸塩)4質量部を投入した。一方、滴下ロートに、オキサゾリン基を有する重合性不飽和単量体としての2-イソプロペニル-2-オキサゾリン16質量部、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(エチレングリコールの平均付加モル数・9モル、新中村化学製)32質量部、およびメタクリル酸メチル32質量部の混合物を投入し、窒素雰囲気下、70℃において1時間にわたり滴下した。滴下終了後、反応溶液を9時間攪拌し、冷却することで固形分濃度40質量%のオキサゾリン基を有する水溶性樹脂(C-4)を得た。
【0148】
(ジルコニア粒子)
3リットルのガラス製容器に、純水2283.6gとシュウ酸二水和物403.4gとを投入し、40℃に加熱して10.72質量%シュウ酸水溶液を調製した。この水溶液を撹拌しながら、オキシ炭酸ジルコニウム粉末(ZrOCO3、AMR International Corp.製、ZrO2に換算して39.76質量%を含有する。)495.8gを徐々に添加し30分間混合した後、90℃で30分の加熱を行った。次いで、25.0質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(多摩化学工業(株)製)1747.2gを1時間かけて徐々に添加した。この時点で混合液はスラリー状であり、ZrO2
換算で4.0質量%含有した。このスラリーをステンレス製オートクレーブ容器に移し替え、145℃で5時間の水熱処理を行った。この水熱処理後の生成物は、未解膠物がなく完全にゾル化した。得られたゾルは、ZrO2として4.0質量%含有し、pH6.8、平均粒子径は19nmであった。また、ゾルをZrO2濃度2.0質量%に純水で調整して測定した透過率は88%であった。透過型電子顕微鏡により粒子を観察したところ、7nm前後のZrO2一次粒子の凝集粒子がほとんどであった。上記の水熱処理を行って得られたZrO2濃度4.0質量%のジルコニアゾル4000gを限外濾過装置を使用して、純水を徐々に添加しながら洗浄及び濃縮を行って、ZrO濃度13.1質量%、pH4.9、ZrO2濃度13.1質量%のときの透過率76%のジルコニアゾル953gが得られた。
【0149】
上記の洗浄及び濃縮を行って得られたZrO2濃度13.1質量%のジルコニアゾル300gに20質量%クエン酸水溶液3.93g及び25質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液11.0gを添加した後、更に限外濾過装置で濃縮を行ったところ、ZrO2濃度30.5質量%の高濃度のジルコニアゾル129g(D-1)が得られた。この得られた高濃度のジルコニアゾルは、pH9.3、平均粒子径19nmであった。また、このジルコニアゾルは沈降物がなく、50℃の条件下で1ヶ月以上安定であった。
【0150】
(ジルコニア水分散体)
上記で得られたジルコニアゾルとポリアクリル酸分散剤(東亜合成(株)製:アロンA-30SL)を混合し、固形分濃度13質量%のジルコニア水分散液を作成した。固形分濃度のうち3質量%は分散剤とし、10%がジルコニアの比率としたジルコニア水分散液D-1を得た。
【0151】
(チタニア粒子)
四塩化チタン(大阪チタニウムテクノロジ-ズ(株)製)をTiO2換算基準で7.75質量%含む四塩化チタン水溶液12.09kgと、アンモニアを15質量%含むアンモニア水(宇部興産(株)製)4.69kgとを混合し、pH9.5の白色スラリー液を調製した。次いで、このスラリーを濾過した後、純水で洗浄して、固形分含有量が10質量%の含水チタン酸ケーキ9.87kgを得た。次に、このケーキに、過酸化水素を35質量%含む過酸化水素水(三菱瓦斯化学(株)製)11.28kgと純水20.00kgとを加えた後、80℃の温度で1時間、撹拌下で加熱し、さらに純水57.52kgを加えて、過酸化チタン酸をTiO2換算基準で1質量%含む過酸化チタン酸水溶液を98.67kg得た。この過酸化チタン酸水溶液は、透明な黄褐色でpHは8.5であった。
【0152】
次いで、前記過酸化チタン酸水溶液98.67kgに陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製)4.70kgを混合して、これに、スズ酸カリウム(昭和化工(株)製)をSnO2換算基準で1質量%含むスズ酸カリウム水溶液12.33kgを撹拌下で徐々に添加した。次に、カリウムイオンなどを取り込んだ陽イオン交換樹脂を分離した後、オートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、120L)に入れて、165℃の温度で18時間、加熱した。
【0153】
次に、得られた混合水溶液を室温まで冷却した後、限外濾過膜装置(旭化成(株)製、ACV-3010)で濃縮して、固形分含有量が10質量%の、チタン系微粒子を含む水分散ゾル9.90kg(D-2)を得た。このようにして得られたゾル中に含まれる固形物を上記の方法で測定したところ、ルチル型の結晶構造を有する、チタニウムおよびスズを含む複合酸化物からなるチタン系微粒子(一次粒子)であった。さらに、このチタン系微粒子中に含まれる金属成分の含有量を測定したところ、各金属成分の酸化物換算基準で、TiO2 87.2質量%、SnO2 11.0質量%、およびK2O 1.8質量%であった。また、該混合水溶液のpHは10.0であった。さらに、前記チタン系微粒子を含む水分散ゾルは透明な乳白色であり、この水分散ゾル中に含まれる前記チタン系微粒子の平均粒子径は35nmであり、さらに100nm以上の粒子径を有する粗大粒子の分布頻度は0%であった。さらに、得られたチタン系微粒子の屈折率は2.42であるとみなすことができた。
【0154】
(チタニア水分散体)
上記で得られたチタン系微粒子とポリアクリル酸分散剤(東亜合成(株)製:アロンA-30SL)を混合し、固形分濃度13質量%のチタニア水分散液を作成した。固形分濃度のうち3質量%は分散剤とし、10%がチタニアの比率としたチタニア水分散液D-2を得た。
【0155】
(ジルコニア/チタニア混合分散体)
上記で得られたジルコニアゾルとチタニア系微粒子およびポリアクリル酸分散剤(東亜合成(株)製:アロンA-30SL)を混合し、固形分濃度13質量%のジルコニア/チタニア混合水分散液を作成した。固形分濃度のうち3質量%は分散剤とし、7.5%がジルコニア、2.5%がチタニアの比率とした混合分散液D-3を得た。
【0156】
(シリカ粒子)
シリカ粒子として、粒子径が40nmで固形分濃度が30質量%であるコロイダルシリカをD-4として用いた。
【0157】
(シリカ粒子)
易滑性を付与するために、粒子径が450nmで固形分濃度が40質量%であるシリカ粒子をD-5として用いた。
【0158】
(界面活性剤)
易接着樹脂層を形成する際の塗膜のレベリング性を向上させるために、固形分濃度が100質量%であるシリコーン系の界面活性剤をE-1として用いた。
【0159】
(易接着層形成用塗布液の調製)
下記の塗剤を混合し、塗布液P-1を作製した。
水 47.52質量部
イソプロパノール 25.00質量部
ポリエステル樹脂(Aw-1) 17.75質量部
水分散性ブロックイソシアネート化合物(C-1) 4.76質量部
ジルコニア/チタニア混合水分散液(D-3) 4.88質量部
シリカ粒子(D-5) 0.06質量部
(平均粒径450nmのシリカゾル、固形分濃度40質量%)
シリコーン系界面活性剤(E-1) 0.03質量部
(シリコーン系、固形分濃度100質量%)
【0160】
同様に各塗剤の配合比を表2のようにして、塗布液P-2~P-14を作製した。
【0161】
【表2】
【0162】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートのペレット(R1)を押出機に供給し、285℃で融解した。このポリマーを、ステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに接触させ冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この未延伸フィルムを加熱ロールを用いて75℃に均一加熱し、非接触ヒーターで85℃に加熱して1.4倍のロール延伸(縦延伸)を行った。得られた一軸延伸フィルムに上記の易接着樹脂層形成用塗布液(P-1)をロールコート法で両面に塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。なお、最終(二軸延伸後)の乾燥後の塗布量が0.09g/m2になるように調整した。その後、テンターに導き105℃で予熱後、95℃で4.0倍に横延伸し、幅固定して230℃で5秒間の熱固定を施し、さらに180℃で幅方向に4%緩和させることにより、厚み50μmポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
【0163】
上記の易接着樹脂層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面にマイヤーバーを用いて、ハードコート塗布液(下記のH-1)を乾燥後の膜厚が10μmになるように塗布し、80℃で1分間乾燥させた後、紫外線を照射し(積算光量200mJ/cm)、ハードコートフィルムを得た。
【0164】
(ハードコート層形成用の塗布液:H-1)
ウレタンアクリレート系ハードコート剤(荒川化学工業社製、ビームセット(登録商標)577、固形分濃度100%)95質量部、光重合開始剤(BASFジャパン社製、イルガキュア(登録商標)184、固形分濃度100%)5質量部、レベリング剤(ビックケミージャパン社製、BYK307、固形分濃度100%)0.1質量部を混合し、トルエン/MEK=1/1の溶媒で希釈して、固形分濃度40%のハードコート層形成用塗布液(H-1)を調製した。
【0165】
(実施例2~3)
表3に記載の長手方向の延伸倍率に変更した他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよびハードコートフィルムを得た。
【0166】
(実施例4)
幅方向の延伸倍率を5.5倍に、熱固定温度を190℃に変更した他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよびハードコートフィルムを得た。
【0167】
(実施例5~14)
表3に記載のように易接着樹脂層形成用塗布液をP-2~P-11に変更した他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよびハードコートフィルムを得た。
【0168】
(実施例15、16)
表4に記載のように、ハードコート塗布液H-1に替えて下記H-2、H-3に変更した他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよびハードコートフィルムを得た。
【0169】
(ハードコート層形成用の塗布液:H-2)
ペンタエリスリトールトリおよびテトラアクリレート(東亞合成社製、アロニックス(登録商標)M-306、固形分濃度100%)30質量部、ポリエステルアクリレート(東亞合成社製、アロニックス(登録商標)M9050、固形分100%)65質量部、光重合開始剤(BASFジャパン社製、イルガキュア(登録商標)907、固形分濃度100%)5質量部、レベリング剤(ビックケミージャパン社製、BYK307、固形分濃度100%)0.1質量部を混合し、トルエン/MEK=1/1の溶媒で希釈して、濃度40質量%のハードコート塗布液(H-2)を調製した。
【0170】
(ハードコート層形成用の塗布液:H-3)
ハードコート材料(JSR社製、オプスター(登録商標)Z7503、濃度75%)100質量部に、レベリング剤(ビックケミージャパン社製、BYK307、濃度100%)0.1質量部を添加し、メチルエチルケトンで希釈して固形分濃度40質量%のハードコート塗布液(H-3)を調製した。
【0171】
(比較例1)
長手方向の延伸を行わずに、幅方向のみ延伸し横1軸延伸とした他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよびハードコートフィルムを得た。
【0172】
(比較例2)
長手方向の延伸を行わずに、幅方向のみ延伸し横1軸延伸とした他は実施例4と同様にしてポリエステルフィルムおよびハードコートフィルムを得た。
【0173】
(比較例3~7)
熱固定温度を220℃に変更し、表1記載のPETペレット、厚みとした他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよびハードコートフィルムを得た。
【0174】
(比較例8)
長手方向の延伸倍率を3.4倍に変更した他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよびハードコートフィルムを得た。
【0175】
(比較例9~11)
表3に記載のように塗布液をP-12~P-14に変更した他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよびハードコートフィルムを得た。
【0176】
評価結果を表3、表4に示す。
【0177】
【表3】
【0178】
【表4】
【0179】
実施例1~16のように易接着層を有するポリエステルフィルムの屈折率が一定範囲であり、かつ易接着樹脂層にチタン化合物、ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物及びポリエステル樹脂を含有する組成物が硬化して形成されるポリエステルフィルムの易接着樹脂層上にハードコート層を設けた場合は、ハードコートの鉛筆硬度も満足し、連続屈曲試験後の干渉斑改善性も良好であった。
【0180】
各実施例において、透過型電子顕微鏡でその断面を観察したところ、易接着樹脂層内に含有されている粒子は、長手方向である屈曲方向よりも幅方向である折りたたみ部の方向の存在割合が少なくなっていた。
【0181】
ポリエステルフィルムの製膜条件を変更した比較例1~8においては、易接着樹脂層を有するポリエステルフィルムの屈折率が最適範囲ではないため、得られるハードコートフィルムの鉛筆硬度が満足できるものが得られなかった。
【0182】
易接着樹脂層を変更した比較例9においては、チタン化合物を、ジルコニア化合物のいずれも非含有であり、易接着樹脂層の屈折率調整が不十分であるため、ハードコートフィルムの屈曲試験前から干渉斑の改善性は見られなかった。また前記金属化合物の代わりに入れているシリカの分散性が悪く、屈曲試験後の干渉斑に関しても悪化が見られた。
【0183】
易接着樹脂層を変更した比較例10においては、屈曲試験前の干渉斑の改善性は見られたが、チタン化合物を、ジルコニア化合物の代わりに入れたシリカの分散性が悪く、屈曲試験後は、易接着樹脂層のクラック等の発生により干渉斑の悪化が見られた。
【0184】
易接着樹脂層を変更した比較例11においては、ポリエステル樹脂を含有しないため、屈折率調整に多くのチタン/ジルコニア混合酸化物の添加が必要になっている。その影響で、塗膜中の金属酸化物にも凝集状態が発生し、屈曲試験後の干渉斑の悪化が見られた。
【0185】
各実施例、比較例によるハードコートフィルムを、25μm厚の粘着層を介して有機ELモジュールに貼合し、図1における屈曲半径の相当する半径が3mmの全体の中央部で二つ折りにできるスマートフォンタイプの折りたたみ型ディスプレイを作成した。ハードコートフィルムは折りたたみ部分を介して連続した1枚のディスプレイの表面に配され、ハードコート層をそのディスプレイの表面に位置するように配されている。各実施例のハードコートフィルムを用いたものは、中央部で二つ折りに折りたたんで携帯できるスマートフォンとして動作及び視認性を満足するものであった。また、外力によって表面が凹むことはなかった。一方、各比較例のハードコートフィルムを使用した折りたたみ型ディスプレイは、使用頻度が増えるに従って、ディスプレイの折りたたみ部で画像の歪を生じてきたように感じ、また、干渉斑が発生して視認性が悪くなるように感じられ、あまり好ましいものではなかった。また、表面に凹み、キズが確認されるものもあった。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明の折りたたみ型ディスプレイ用ハードコートフィルムを用いた折りたたみ型ディスプレイは、量産性を維持しながら、折りたたみ型ディスプレイの表面に位置しているハードコートフィルムが繰り返し折りたたまれた後の変形を起こさないため、ディスプレイの折りたたみ部分での画像の乱れを生じることがない。特に本発明のハードコートフィルムを表面保護フィルムとして使用した折りたたみ型ディスプレイを搭載した携帯端末機器または画像表示装置は、美しい画像を提供し、機能性に富み、携帯性等の利便性に優れたものである。
【符号の説明】
【0187】
1 : 折りたたみ型ディスプレイ
11: 屈曲半径
2 : 折りたたみ型ディスプレイの表面保護フィルム用ポリエステルフィルム
21: 折りたたみ部
22: 屈曲方向(折りたたみ部と直交する方向)
図1
図2