(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160340
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】工作物位置付け方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4093 20060101AFI20241106BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20241106BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G05B19/4093 P
B23Q17/00 F
A61C13/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024134693
(22)【出願日】2024-08-09
(62)【分割の表示】P 2021540912の分割
【原出願日】2019-09-19
(31)【優先権主張番号】18195720.0
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】521117687
【氏名又は名称】ヘルティング トルステン
【氏名又は名称原語表記】HERTING,Torsten
【住所又は居所原語表記】Eschengasse 1 3818 Grindelwald Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】ヘルティング トルステン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の目的は、工作機械における工作物の正確な位置付けを簡易にする。
【解決手段】工作物は、ブランク(3)とカウンター片またはカウンター(25)からなり、カウンター片またはカウンター上に印象が形成される。ブランクとカウンターはキー構造物(9、10;21、22)を備えているので、互いから分離でき、互いに対し同一の配置で再現性をもって再結合できるようになっている。演算を基礎とした他法は、工作物に基準体を設け、工作物を走査することにより基準体の位置を決定し、走査に基づき機械加工工程が生成され、工作機械座標がわかっているキー構造物(9、10)を備えたブランク上で工作機械内の(準備した)工作物を走査することにより、工作機械座標と構成システム座標との両方に関して工作機械内の工作物の位置を決定する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御される工作機械での機械加工に備えて工作物(1)を位置付けする方法において、
前記工作物に複数の基準記号(41)が設けられ、および/または
前記基準記号は、少なくとも一平面、好ましくは空間において前記工作物の向きと位置を決定できるようにする、前記工作物上に存在する構造物から選ばれるものであり、
前記工作物は、機械加工用の基体(3)に取付けられ、
前記工作機械は、構成座標系におけるデータにしたがって複数のキー構造物(9、10)を前記基体に施し、
少なくとも前記基準記号と前記キー構造物が走査されて位置情報が得られ、
前記位置情報により、デザイン座標系において前記工作物を機械加工するためのデータがプログラムの制御下でコンピュータにより前記工作機械を制御するためのデータに変換され、
その結果、前記デザイン座標系において規定された前記工作物に対する変更が前記工作機械により前記工作物に対し実施できる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
それぞれ区別できる箇所に配置された少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個の基準記号(41)が前記工作物(1)に施され、および/または前記工作物(1)上に選択され、好ましくは物体の形態で、より好ましくは基準ビーズ(41)として前記工作物に施される
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載の方法において、
各々の前記キー構造物(9、10)は以下の装備のうちの少なくとも1つからなる:
― 穴、好ましくは直径が最大5mm、好ましくは最大3mm、の穴、
― 円錐、
― 角錐
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
数値制御される工作機械内で工作物(1)を位置付けする方法において、
基体(3)として用いられるブランク上で、前記工作物の少なくとも一部からなる複製物(7)が第1のデータの制御下に前記工作機械により形成され、
少なくとも1個のキー構造物(9、10)が前記ブランクの位置付け部に形成され、
印象材(17)を含むカウンター片(25)が前記基体上に置かれ、前記基体上の少なくとも1個の前記キー構造物(9、10)と、前記カウンター片上のそれぞれの補完的に形成された前記キー構造物(21、22)とは互いに係合されることにより、前記基体と前記カウンター片とが互いに対し所定の相対位置に置かれ、かつ前記複製物の表面の陰型が前記印象材中に形成され、それから前記複製物が前記基体から取り外され、
そのため前記カウンター片が前記基体に同一の相対位置で再現性をもって取付け可能となり、前記工作物は前記陰型に嵌め込まれることにより前記第1のデータに相当する位置で前記ブランクに再現性をもって取り付け可能となる
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、以下の次工程:
取り外された前記複製物(7)の部位で前記工作物(1)を前記基体(3)上に置く工程;
前記基体(3)の少なくとも1個の前記キー構造物(9、10)が前記カウンター片上の少なくとも1個の前記キー構造物(20、21)に係合した状態で、前記カウンター片(25)を取り付け、この際、印象(20)中に前記陰型が形成されている工作物(1)の部分が前記印象中に嵌合するように前記工作物を整合させる工程
を行うことにより前記基体上の前記工作物を前記複製物と同一の位置に置く
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、以下のさらなる工程:
前記工作物(1)を支持する前記基体(3)上に置く前に、前記印象(20)の有効部分と前記印象(20)に相当する前記工作物(1)の領域の有効部分のうちの少なくとも1つに接着促進層を設けることにより、前記印象によりカバーされない部分の上で機械加工されるのに十分な強度で前記工作物が前記印象に接着するようにする工程
を行うことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6のいずれか一項に記載の方法において、
接着促進材料(29)により前記工作物(1)が前記基体(3)に取付けられ、前記接着促進材料は固化されて前記基体(3)と前記工作物との間に結合部を形成する
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記接着促進材料(29)は機械加工された前記工作物の一部を形成するのに適している
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項4から請求項8のいずれか一項に記載の方法において、
前記キー構造物(9、10、20、21)は、前記基体(3)と前記カウンター片(25)とが分離されて、再結合されたとき、分離と再結合の前後で前記工作物(1)またはその前記複製物(7)の最大変位が0.5mm、好ましくは最大で0.2mm、特に好ましくは最大で0.1mmを超えないように設計されている
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の方法において、
前記キー構造物(9、10)は、前記工作物により占められた領域外で前記基体(3)上に形成されている
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
数値制御される工作機械内で工作物(1)を位置付けする装置において、
前記装置は基体(3)とカウンター片(25)からなり、
前記基体と前記カウンター片とは互いに着脱可能に結合され、前記工作物は結合状態にある前記基体と前記カウンター片との間に配置可能であり、
前記基体と前記カウンター片との結合部はキー構造物(9、10、21、22)を含み、前記キー構造物は前記基体と前記カウンター片との互いに対する所定位置での結合を再現性をもって確保し、
前記カウンター片は基準区域を有し、前記基準区域は前記工作物の少なくとも一部に対し補完的であり、所定位置での前記カウンター片への前記工作物の再現性のある取り付けを確保する
ことを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項11に記載の装置において、
前記キー構造物(9、10、21、22)は凸部と凹部からなり、
前記凸部と凹部は、前記基体(3)上と前記カウンター片(25)上に補完的に形成されて、前記基体と前記カウンター片とが結合されるときに互いに係合し、さらに、前記凸部と凹部は、前記基体と前記カウンター片の互いに対する動きが結合運動と分離運動に限定されるような個数と形状で設けられている
ことを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項12に記載の装置において、
前記キー構造物(9、10、21、22)は柱状スタッドからなり、
前記柱状スタッドは、前記基体(3)と前記カウンター片(25)とが組立られると、補完的に形成された前記キー構造物の壁と滑り接触するので、前記柱状スタッドの縦軸を横切る動きが防止される
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に係る工作物位置付け方法に関する。さらに、独立装置請求項の前文に係る工作物位置付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の好適な利用分野と出発点は、歯科用補綴物の製造およびその後の変更である。しかしながら、本発明は、工作物の一般的な製造に適用可能であり、特にその後のそれらの機械加工、例えば、エンジン部品、車両部品、航空機部品、船舶部品、機械部品、模型製作部品、その他の部品、工具等のような機械加工に適用できる。
【0003】
歯科用補綴物は数工程で製造される。例えば、補綴物の基体がまず削合される。次に、歯の層が基体に接合される。そのためには、補綴物が削合機から取り外されなければならないので、その位置が失われる。そのつど、再取付け後に再び照合作業が必要となる。
【0004】
最新技術によると、機械的測定プローブでは上記のことが可能であるが、とりわけ以下の問題がある:
・ プローブのアーム等が機械に強固に連結されなければならない。
・ プローブシステムが検量されなければならない。
・ 温度の変動に敏感である。
・ 機械の中に適切なスペースを必要とする。
・ 技術的に複雑である。
・ 高価である。
【0005】
既存の歯科用補綴物は、様々な理由で再加工と調整を必要とする。ありふれた理由は顎の変化であり、これには、裏装、すなわち歯肉と補綴物との間に発生した窩洞の充填、による歯科用補綴物の調整が必要となる。歯および/または補綴物基体も、1本以上の歯を取り除いた後に変更される必要がある。鉤、インプラント支台、アタッチメントのような保定要素は変更および/または導入されなければならない。新しい歯科用補綴物は製造の過程で、場合により試しに使用、装着されなければならず、患者の反応にしたがい修正されなければならない。
【0006】
歯科用補綴物の変更のため、除去的(研削、削合)および付加的な機械加工方法(3D印刷、特に金属レーザ溶融方法)が使用されつつある。これらの方法のいずれにおいても、補綴物(または一般的に工作物)は、それぞれの工作機械の工作物保持器の定められた位置に正確に挿入されなければならない。しかしながら、所要の精度(通常、0.1mm程度またはそれ以上)でそのような位置付けを行うのは、非常に複雑で時間がかかる。この問題は以下の事実に起因する:
工作機械は構成ソフトウェア(CAMシステム)その他のソースから生じるデータにしたがって機械加工操作を行う。一方、工作機械の座標系の位置とCAMシステムの座標系、すなわち構成座標系、の位置との互いに対する関係は判っていない。
【0007】
通常は、工作物の像、例えば所期の機械加工の前後での当該像、は構成座標系に存在し、特にこの座標系において機械加工の工程(工具の運動等)が規定されている。実際の機械加工工程では、特にコンピュータ制御された自動的実行の場合には、機械加工工程の座標は、構成座標系から工作機械内の工作物の実際の位置に由来する座標系へと相当する高い精度で写像されなければならず、さらに、これは、工作機械が機械加工工程を行う座標系においてなされなければならない。このため、この写像も工作機械における工作物の空間的配置に左右される、というもう一つの問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、工作機械における工作物の正確な位置付けを簡易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
相当する方法が方法請求項1に記載されている。いっそうの請求項類は、当該方法および本方法で用いられる諸装置の好適な実施態様を示している。
【0010】
本方法と本装置の両方とも以下の事実を利用している:
既存のデザインに基づく低価格材料から、すなわち数値制御(コンピュータ制御)される工作機械を制御するデジタルデータから、特定の工作物の形状を有する複製物を製造するのは、あまり努力しなくても可能である。この複製物は、基体または型枠上で製造され、後者と共にいわゆるブランクを形成する。複製物の印象はカウンター片、いわゆるカウンター、上で作成される。この印象は、複製物の選ばれた領域(“基準区域”)に限定できる。当該領域とは、前記複製物が除去され、印象上に戻されたとき、複製物または後の工程では工作物の原物が印象上の同一の位置に再現性をもって係合するのに全体として充分に顕著な領域である。歯科用補綴物の場合、これらの限定的な箇所は、歯の充分に大きな面部分、すなわち歯の咬合面、それだけでなく補綴物の下面またはその外面、である可能性がある。もちろん、歯に対し治療を意図する場合、それらの面を前記基準区域には利用できない。基準区域に加えて、複製物は、工作物のいっそうの部分または工作物全体を含んでいてもよいが、これらの付加的部分が意図した機械加工工程の妨げとならないという条件下である。
【0011】
カウンターは位置付け部を有し、この位置付け部は工作物がカバーする領域外に位置するのが好ましい。この位置付け部には、1つ以上のキー構造物が配置される。これらのキー構造物は、カウンターが基体上、通常はブランク上の所定の位置に正確に装着されることを可能にするように設計されている。カウンター上のキー構造物に対するカウンター片、すなわちブランクキー構造物は、それぞれの工作機械により製造される。したがって、それらの位置は工作機械の座標系からわかる。そのため、工作物、特に歯科用補綴物、の基準である印象に対するカウンター上のキー構造物の位置もわかる。したがって総合的に言って、ブランクやカウンターの印象に取付けられた工作物(歯科用補綴物)の位置を正確に規定することは可能であり、工作機械の座標系に対するブランク上のキー構造物を介するカウンターの正確な位置付けも可能である。複製物を削合することにより、どの位置で機械が工作物を機械加工しているのかを機械が示す。その後、カウンターを用いることにより、工作物が正確にその位置に固定される。
【0012】
上記の事柄を知れば、デザインを工具座標に変換することが可能となるので、正確に所期の箇所で工作物を規定通り機械加工できる。
【0013】
工作機械、デザイン(CAMデータ)および工作物の座標系を互いに対し写像するもう一つの方法は、工作物が工作機械内でブランク上に置かれたときに工作物の走査を行うことであり、この際、基準記号や基準用の特徴的形状を工作物上の定められた位置に事前に施しておき、キー形状(キー構造物)をブランクに施しておく。ここでは、キー構造物は常に、工作機械の所定の座標に相当するように工作機械により形成される。工作物上の基準記号により、走査中の工作物の位置を正確に同定することができる。または、工作物自体の顕著な特徴的形状が使用できる。しかしながら、そうすることにより、空間内の工作物の位置の認識の精度が低下したり、演算量が増大したりすることがしばしば起こる。
【0014】
本発明に係る方法は、以下の利点のうち少なくとも1つを、好適な実施態様においてはこれらの利点の全てをも、実現度に応じてもたらす:
・ 本方法は、移動可能な口内スキャナーで実施できる。そのようなスキャナーはデジタル設備を用いて歯科診療において利用できるので、金銭的に有利となる。
・ 精度がより高い。
・ 温度に左右されない。
・ 機械に左右されない。
・ 機械の構造変更が必要ない(特に金銭的に有利)。
・ 取り扱いがより簡単。
【0015】
本発明を、以下の図面を参照しながら例示的な実施態様(実施例)によりさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】工作物のひな形としての歯科用補綴物の上面図である。
【
図2】カウンター(カウンター片)用の支持板を下から見た図面である。
【
図3】工作物(歯科用補綴物)を装着したブランク(基体)の上面図である。
【
図5】工作物陰型(補綴物の印象)を形成した後の
図2の線V-Vと
図3の線IV-IVに係る断面図である。
【
図6】印象をブランクから持ち上げた状態での
図5と同様の断面図である。
【
図8】
図13の線VIII-VIIIに係るブランクの断面図であり、補綴物用の空間を露出させた状態を示す。
【
図9】
図6に類似した図であり、実際の工作物(歯科用補綴物)が
図8に係る保持器に挿入され、印象を備えたカウンター片がその上に置かれた状態を示す。
【
図10】基準用ビーズを備えた歯科用補綴物の上面図である。
【
図11】キー構造物を有するブランクの上面図である。
【
図13】補綴物用の凹部を持つブランクの上面図である。
【
図14】補綴物が挿入された
図13に係るブランクの上面図であり、
図12に係る理想的な位置が破線で示されている。
【
図16】
図14に類似した上面図であり、基準点が表示されている(略図で示す)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の実施例
第1の実施態様によると、歯科用補綴物、または一般的には工作物、をその位置が既存の数値デザインにぴったり一致するように工作機械に配置できるようにする工具が製造される。このデザインは修正することにより調整または変更でき、その後、実際の標的上のまさに特定の箇所で工作機械を利用して数値制御下にそのような変更がなされる。
【0018】
図1において一例として示した歯2(部分的に参照符号を表示)を備えた歯科用補綴物1が走査され、適当な設計プログラムに記録される。この設計プログラムにより、歯科用補綴物1のデジタル画像に施される所要の変更が計画できる。工作機械において、ブランク3が作成される(付加的または除去的製造)。ブランク3は型枠5からなり、その上で歯科用補綴物1の部分的な複製物7が製造される。基準用構造物または当該複製物をカウンター内に固定するための構造物だけが必要となり、これらは通常は補綴歯の咬合面である。歯科用補綴物1の領域外で、キー構造物9、10も複製物7を製造する工作機械により製造される。キー構造物9は主として、既知の差し込み式ブロックに似た円形の柱状スタッド11(ここでは6本のスタッド)を配列したものからなる。
【0019】
ブランク(基体)3は、寸法安定性のある材料、特に、機械加工後に工作物の部品として役立つ材料からなる。この材料は、例えばピンクプラスチック材料、しばしばPMMAその他の生理的に受容できる重合体または基材でよく、歯科用補綴物において裏装材として用いられるものである。鋼鉄、プラスチック材料、チタン、模型鋳造品、特に繊維補強プラスチック材料、およびセラミック材料も考えられる。さらに、工作機械中、好ましくは正確に定められた位置に装着するのに必要とされる溝、穴等のような必要な装備(ここには図示せず)からなってもよい。
【0020】
補助的に形成されたカウンター片をその上に嵌め込むことができるのは明らかであり、これによりカウンター片の極めて正確な位置付けを回転運動に関しても達成できる。第2のタイプのキー構造物10は他の例を示し、その数個(ここでは2個)がブランク上に製造され、それらは個々に、取付けられた補助的に形成された噛合いキーの自由運動を許容するが、全体として正確な位置付けも成し遂げる。ここでは、円形の柱状スタッド11類が示されているが、他の1個から間隔を置いた少なくとも1個の追加のキー構造物が位置付け精度を高めるのに好都合である。
【0021】
図示したものから逸脱する様々な形状のキー構造物9と10が可能である。以下に説明するように、その上に配置されるカウンター片が正確に1箇所に取付けられることができ、しかもさらに動くことができないようになっていることが極めて重要である。円形柱状スタッドの代わりに、多角形、または楕円形や卵形のような円形から外れる形状が明らかに考えられる。スタッドの代わりに、凹部、すなわち内腔を設けることもできるが、この場合、カウンター片は凹部の代わりにそれに応じて賦形された凸部を有さなければならない。逆もまた同様である。
【0022】
スタッドの数は決定的ではない。可能であるのは少なくとも2個(2個のスタッドは既に変位だけでなく、回転も防ぐ)、3個、4個、5個、6個、7個、8個、それ以上のスタッド、又は、本質的にカウンター片に対し1つの位置しか許容しない変則的形状である。さらに考えられるのは、楕円形、長円形、卵形、多角形のような、円形断面を持たないスタッドであり(好ましくは三角形~六角形;これにより顕著な角部、したがって捩れに対する高い抵抗性が得られる。原則的には、より多数の角部が考えられるが、円形断面を持つスタッドの特性に移行してしまう)、これらのスタッドは個々に、スタッドの縦軸周りの捩れを既に防止する。回転を防ぐには少なくとも2個のスタッドを配列するのが好ましく、複数個のスタッドは原則的にカウンター片上への位置付けの精度をより高める。これは、キー構造物(スタッド配置)の有効面積とブランクまたは補綴物の全面積との比率がより高まるか、又は補綴物あるいはブランク全体の最大直径(ここでは、円形なので、その直径)に対するキー構造物の最大限の直径(例えば、最も離して配列されたスタッドの中心[重心]間の距離)の比率がより高くなるからである。したがって、1個より多いキー構造物の配置、ここでは元々のキー構造物9の配置およびより単純なキー構造物10の配置、も上記の比率を高めるので、より精度の高い位置付けを達成するのに役立つ。
【0023】
さらに、補綴物または一般的に工作物は丸ごと複製される必要はない。それどころか、十分に多くの有意義な部分を形成することで充分であり、これにより複製物で作られた印象中に正確かつ明白に位置付けできる。
図4から判るように、複製物7または特に歯科用補綴物1の咬合面が十分に多数存在できる。明らかに、機械加工を意図した領域は使用できない。
【0024】
適当な鋳造用配合物17(石膏;熱可塑性または永久硬化性(例えば架橋により)重合体材料)および基準用キー保持器19がブランク3に施される(
図5参照)。
【0025】
基準用キー保持器19(
図2参照)はキー構造物21、22を持ち、これらのキー構造物21、22はブランクのキー構造物9、10を補完するものである。開口24は、印象材17が開口を通ることにより、硬化した印象を基準用キー保持器19に固定するのに役立つ。印象材17が硬化した後は、いわゆるカウンター25またはカウンター片が作成される。このカウンター(片)は、基準用キー保持器19と硬化した印象材17から主としてなっており、表面上に少なくとも部分的に複製物7の表面の正確な(陰型の)印象20を有している。
図4に示すように、基準用キー保持器19はブランクに当接しており、特にキー構造物9、10と21、22は互いに係合するので、カウンター25は全く同一の位置でブランクに再取付けできる。間隔は縁26の高さにより決定されるので、キー構造物同士は互いに係合するのに十分な高さを持たなければならないが、それらのキー構造物がブランク3と基準用キー保持器19との間隔を決定しないことは図から明らかである。
【0026】
しかしながら、キー構造物9、10と21、22はブランク3と基準用キー保持器19との間隔を規定すること、すなわちそれらは互いに当接すること、は考えられる。しかしながら、縁26が依然として円周隆起部として存在できるので、例えば固定剤29(以下参照)がブランク3から漏出するのを防ぐ。
【0027】
基準用キー保持器の材料については、上述のブランク3についてと同様の考慮が当てはまる。
【0028】
図6は、カウンター25がブランク3から持ち上げられた状態を示す。
【0029】
複製物7が取外されると、歯科用補綴物1を受け入れるための自由空間27が得られる。流動性材料29が自由空間27に適量で導入される。この流動性材料29は、補綴物1の一部を後に形成するのに用いられる構成材でよい。補綴物1をカウンター25内の印象20に押付けるのに適した他の適当な材料も考えられる。ここで、一例として、
図7に示すように歯科用補綴物1が歯2に整復される。すなわち、裏装用印象材の全てがとにかく除去される。底部まで平らに削合された整復後の補綴物は、接着剤が固定剤29として用いられていることによりブランク3に固定でき、この固定剤自体が歯科用補綴物の材料としての役割を果たしている。ブランク3も模造材料から作られている。この目的のために知られているのはポリメチルメタクリレートで、適宜に着色されて模造歯肉として役立つ。カウンター25を取り付けることにより、固定剤が固化して補綴物をブランク3に固定する前に、補綴物1が印象20により決定された位置に固定される。
【0030】
また、ブランク3上では大量の歯肉模倣材が固定剤29として自由空間27内に過剰に充填でき、(整復された)補綴物31がその上に配置される。その上部にカウンター25が置かれることにより、整復された義歯31が固定剤29中に押し込まれて、その後は歯科用補綴物上の模倣歯肉の原料としても役立つ。
【0031】
比較的大きな層厚さの固定材は一般的に、補綴物を印象材に押付けたり、押し入れるにも役立つので、当接面の変位を埋め合わせ、また、固定剤が固まるまで補綴物をその位置に保持するにも役立つ。固定剤29は少なくとも粘着性があり、こねるように作用する。さらに考えられるのは、チキソトロープ材料;又は例えば振動や変位等の機械的負荷のような外的影響により、または加熱あるいは照射を受けると、粘着性を失うか少なくとも十分に液化し、それ自体で固体状態に戻るその他の材料である。特に固定剤が加工された補綴物の一部を形成するときは、非可逆的な硬化または固化、例えば重合または架橋が起こることが多い。後者は、加熱、照射(光、マイクロ波、X線のような電磁放射線)、粒子放射線(電子のような素粒子)、またはこれらの組合せにより実現できる。添加した重合用触媒の遅延活性化による時間制御された硬化も考えられる。
【0032】
図9に示したように、一方では、補綴物1はここでは咬合面15の少なくとも一部により印象20上にぴったり嵌っているのでカウンター25上の正確に定められた位置にある。他方では、カウンター25自体もブランク3に対しキー構造物9、11や21、22がぴったり嵌っているので正確に定められた位置にある。したがって、歯科用補綴物1は全体として、歯科用補綴物1の複製物7がブランク3上に作られた正確な位置にある。
【0033】
想定できる変形例にしたがうと、さらに加工する場合、カウンター25は、これに適宜に仮止めされた整復後の歯科用補綴物、およびこれに付着した重合物質、すなわち固定剤29、であってブランク3に対して特に接着性がない材料、と共にブランク3から持ち上げられて、基準用キー保持器19により工作機械内に位置付けることができる。カウンター25への補綴物1の取付けは、例えば接着剤(一般的には接着促進物質)により実施でき、この接着剤は印象20と補綴物1との接触区域の少なくとも一部に事前に塗布されたものである。接着促進の強度については、少なくとも、その後の加工工程の要件が満たされる程度の領域がカバーされる。もっとも単純な場合、印象20の接触面全体に接着剤が与えられる。接着剤は、溶解されるか、弱められるか(例えば加熱により)、又は加工後に充分に無効化されるか破壊されて、補綴物が損なわれることなくカウンター25から除去できるように適切に選ばれる。機械(研削)による接合面の除去加工も可能である。
【0034】
溶媒の作用により、例えば溶媒中に浸漬することにより、接着剤を除去することも考えられる。もう一つの可能性は、強力な温度変化、すなわち加熱や冷却で、接着剤が少なくとも部分的に凝着力または接着力のいずれか又は両方を失うような温度範囲に置かれることである。
【0035】
しかしながら、固定剤29が硬化した後にカウンター25が持ち上げられることが好ましい。補綴物1を備えたブランク3は工作機械に固定して、それ自身知られた方法で機械加工される。
【0036】
補綴物1は今や、工作機械内での座標が知られている工作機械内の位置に置かれているので、歯肉模倣物の機械加工は補綴物を損傷することなく実施できる。
【0037】
他方、歯科用補綴物1の咬合面15を変化させる場合、固定剤29はブランク3への安定な結合物として設計でき、後に外すことができる。
図9に係る全ての部品が上記のように正確に位置づけされるので、補綴物は今やブランク3上に正確に位置付けされており、そのために工作機械内で精密に機械加工できる。これは、
図1に係る補綴物の走査の座標が工作機械の座標に変換できるからである。
【0038】
補綴物1を備えたカウンター25またはブランク3を工作機械に正確に配置することが問題である場合、正確に位置付けすることなくそれらを工作機械に取付けることは可能である。機械座標におけるキー構造物9、10または21、22の公称位置が知られていないか、又はキー構造物が例えば走査による正確な位置付けに適していない場合、機械基準記号33を例えば小穴の形態で所定の位置に施すことができる。その後に、ブランク3またはカウンター25が走査される。機械基準記号33とキー構造物9、10または21、22との相対的位置から、デザインデータの機械座標への写像機能も作り出せる。したがって、上記の
図1中の補綴物1の走査を用いて作成されたデザインデータを、工作機械内の補綴物1の実際の位置へぴったりと写像することは可能であり―補綴物1はちょうど複製物の位置で支持体またはカウンター25に位置付けされている―、そのため、工作機械を正確に数値制御して、意図した機械加工操作を補綴物1に対し実施するのは可能となる。
【0039】
第2の実施例
図10に示すように、基準体41(ここではビーズ)が例えばワックスにより補綴物1に接合されている。精度のため、基準ビーズ41ができるだけ離された箇所、本例では前歯の一つと最後部の大臼歯、に取付けられている。ビーズ、すなわち小球はどの位置にも取り付けることができ、あらゆる空間方向からも同一の像をもたらす、という利点がある。しかしながら、容易に認識でき、空間位置を正確に決定できる、その他の小球も考えられる。それらは、それでも容易に認識できる程度の大きさを持つべきであるが、他方では、容易に取り付けられ、しかも今後の工程の妨げとならない程度の小ささである必要がある。好ましいサイズ(直径)は、数ミリメートル、例えば1mm~5mm、好ましくは1mmである。ビーズ、または体全般の材料としては、容易に走査可能であるもの、すなわち明瞭なコントラストと鮮明な輪郭を与えるもの、が考えられる。背景により白または黒が推奨でき、背景に対し高度のコントラストを形成する色も勧められるであろう。周囲からの反射を抑制するには、艶消面が有利である。
【0040】
基準ビーズ41(又は、より一般的に基準体あるいは基準記号)は、区別できる程度に、すなわち球体同士をつなぐ空間内の線の長さと位置が十分な解像度で決定できる程度に、充分異なった箇所に(好ましくは、できるだけ遠く離して)配置されなければならないのは明らかである。一般的に、追加のビーズは2個のビーズの間に既に存在している結合線上に位置していてはならず、又は少なくとも4個のビーズの場合には他の3個のビーズにより形成された平面内に位置してはならない。したがって、一般的に、基準記号の基礎的な1セットは、他の基準記号のサブセットにより規定された幾何学的物体(線、多角形)の一部でない特徴的形状からなる。しかしながら、例えば平均することにより測定精度を高めることに役立つ、追加の実際は余分なビーズを取り付けることは考えられ、これは、ビーズのうち1個が脱落した場合の安全策とも考えられる。
【0041】
画像認識法により認識され、正確に局在化されるほど十分に特徴的な補綴物の表面部分を基準記号として用いることは考えられる。
【0042】
基準ビーズ41を備えた補綴物1が走査される。仮想複製物の作成を可能にする走査データに基づき、CAMシステムのような適切な設計ソフトウェアで所要の機械加工工程が決定される。基本的に、補綴物1、すなわち工作物、を備えたブランク3、さらにはキー構造物9、10や基準体41、の仮想像(
図12参照)が作成される。この像に基づき機械加工工程が規定される。
【0043】
工作機械において、ブランク3(
図11)にキー構造物9、10が設けられる。しかしながら、第1実施例と対照的に、キー構造物は、工作機械の座標系の位置を決定するための機械基準記号として役立つ。何故なら、これらのキー構造物はCAMシステムにより特定されたデータに相当する場所に形成されるからである。好ましい構造物は、走査において容易に目に見え、位置決定において高い精度をもたらすものである。本質的に第1実施例のものに相当する、一例として示した形状に加え、そのような機械基準記号は単に穴(直径は例えば最大5mm、好ましくは最大3mm)からなることもできる。隆起物、例えば円錐体または角錐体、も有利と思われ、この場合には、それぞれの頂点は横腹部を切断することによりさらに正確に決定できる。よりよく区別するためには、キー構造物10と異なる図中のキー構造物9のような配置場所、または異なった種類が使用できる。
【0044】
必要であれば、ブランク3に露出面43を設けると、その上に歯科用補綴物1を配置できる(
図14参照)。
【0045】
補綴物1は第1実施例におけるようにブランクに取付けられるが、取付は、上記露出面43の中に、又は
図12に示すように複製物7を除去(例えば削合により)した後に、行われる。
【0046】
歯科用補綴物1は、
図15に示すように直立位置で、または下面を上向きにして、露出面43に取付けられる。これは、機械加工が必要なのは頂面なのか下面なのかによる。あるいは、カウンター25を上記のように用いて、下面を機械加工できるようにする。
【0047】
図14に誇張して示されているように、ブランク3上の補綴物の位置は、複製物7の輪郭として破線で示したデザイン(
図12参照)にしたがう位置には確かに相当しないか、または少なくとも丁度当てはまるものではない。しかしながら、ブランク3上の補綴物1の位置は今や新たな走査、特に基準ビーズ41の新たな走査、により検出できる。
図16に示すように、構成点(ここでは3点、すなわちP1、P2、P3)のそれぞれの変位ΔP1、ΔP2、ΔP3は今や、本物の補綴物1で測定した位置(P1’、P2’、P3’)に関連して決定できる。デザインのサイズ、すなわち点P1~P3またはP1’~P3’の互いに対する位置、は同一であるという境界条件下で、3点はデザインを
図14に係る本物の補綴物の位置に変換するのに十分である。
【0048】
これは、例えば以下の手順で模式的に推測できる:
1.点P1がP1’に移動される;
2.P1’を通る軸周りの回転が生まれ(P1’はP1と等しくなる)、回転軸はP1’、P2、P2’により形成された三角形と垂直になる。この回転は点P2をP2’へ転向させるので、この操作の後P2はP2’と等しくなる。
3.P1’とP2’を通る軸周りの回転が生まれることにより、P3はP3’に移動される。
【0049】
図の平面に直角の、すなわち実際には型枠5の表面に直角の、変化も考慮に入れられるので、位置の差分ΔP1、ΔP2、ΔP3も図の平面に直角の成分を含む可能性がある。
【0050】
図10に係る補綴物1を走査し、
図14に係るブランク3上の補綴物1を走査する際、基準ビーズ同士の間の距離を決定し、互いに対し設定することにより、相異なる尺度を考慮に入れることができる。これに関し、異なった尺度はいずれの空間方向でも当てはまると想定される。
【0051】
上記の方法により、少なくとも歯科用補綴物の仕上げに所要の精度が維持できる。原則として、現在ではほぼ30μm(0.03mm)の許容差で加工座標がこれらの方法で決定できる。最大0.5mmの偏差は加工精度の下限とみなすことができ、最大0.2mm、特に0.1mmの偏差はより良く、より実用に適している。
【0052】
補綴物、より一般的には工作物、を損傷することなく再加工できるように上記方法を興味深く適用するには、製造に用いることである。特に付加加工方法(3D印刷)においては、必要とされる最終精度を持つ工作機械と、受け入れがたいほど高い許容差を持つ工作機械との間には大きな価格格差がある。上記の方法を利用すれば、より低い精度と相当する大型の工作機械により工作物、特に歯科用その他の模型をまず製造し、その後に工作機械、通常は削合機のような除去加工用工作機械でその製品を仕上げすることにより、削合機内の工作物の正確な位置を本方法により決定することが考えられる。
【0053】
これまでの記載におけるデータ加工工程は、プログラムに基づきコンピュータまたはプロセッサで自動的に実施されるのが好ましい。これは特に、走査像をCAMシステムの表示に変換する場合、およびCAMデータをブランク内と工作機械内で占める位置における実物の補綴物または実物の工作物の座標系へと変換する場合、に当てはまる。
【0054】
実施例における上記の記載から、当業者は、クレームに規定された発明の保護の範囲を逸脱しない限り、本発明を広範に変形および補完できる。幾つかの考えられる変形例は実施例の記載中に述べられている。
【0055】
また、以下のことも考えられる:
・ 本発明はいかなる種類の工作物の仕上げにも適用される。
・ ブランクは工作物の一部にはならないので、もっぱら基体として役立つ。したがって、用いられる機械加工方法において工作物保持器により適する材料から作成できる。
・ キー構造物または機械基準記号の間隔は、ブランクまたは基体に投影されている工作物の最大直径の少なくとも1/3である。
・ 特に、第2の実施例により典型例として表される方法において、キー構造物の1つないし全ては立体的に形成されておらず、二次元的または本質的には一次元的に形成されている。例えば、カラー記号のような印刷された構造物、線構造物、幾何学的形状、およびこれらを混合させた形状である。しかしながら、第1の実施例に類似した方法において、広い意味でのそのようなキー構造物では、キー構造物の所定の相対位置に到達するまでカウンターとブランクとを相互に移動することによりカウンターとブランクとを相互にぴったりと整合させるのに多分大変な努力が必要であろう。