(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160406
(43)【公開日】2024-11-13
(54)【発明の名称】燃料電池用ガス拡散複合材及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20241106BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20241106BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M8/10 101
H01M4/96 B
H01M4/86 B
H01M4/96 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024145171
(22)【出願日】2024-08-27
(62)【分割の表示】P 2024539330の分割
【原出願日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2023042109
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100229389
【弁理士】
【氏名又は名称】香田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 誠
(72)【発明者】
【氏名】野田 志云
(72)【発明者】
【氏名】安武 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】松田 潤子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
(57)【要約】 (修正有)
【課題】薄層であり、接触抵抗等の電気抵抗が低減した燃料電池用ガス拡散複合材及びこれを備えた固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】導電性材料からなる多孔基材シートと、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む微多孔炭素層と、を有し、以下の構造(A)~(E)のいずれかである燃料電池用ガス拡散複合材。(A):微多孔炭素層が多孔基材シートの片面を被覆した構造。(B):微多孔炭素層が多孔基材シートの両面を被覆した構造。(C):微多孔炭素層が多孔基材シートの片面を被覆し、その一部が多孔基材シート内部に浸透した構造。(D):微多孔炭素層が多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、微多孔炭素層の一部が多孔基材シート内部に浸透した構造であって、微多孔炭素層が多孔基材シートの片面から反対面まで到達している構造。(E):微多孔炭素層に前記多孔基材シートの全部が埋設した構造。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料からなる多孔基材シートと、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む微多孔炭素層と、を有し、
前記多孔基材シートの厚みが3μm以上150μm以下であり、
以下の構造(A)~(E)のいずれかである燃料電池用ガス拡散複合材。
構造(A):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆した構造
構造(B):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの両面を被覆した構造
構造(C):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、その一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造
構造(D):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、前記微多孔炭素層の一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造であって、当該微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面から反対面まで到達している構造
構造(E):前記微多孔炭素層に前記多孔基材シートの全部が埋設した構造
【請求項2】
前記多孔基材シートの厚みが5μm以上100μm以下である請求項1に記載のガス拡散複合材。
【請求項3】
全体厚みが3μm以上150μm以下である請求項1に記載のガス拡散複合材。
【請求項4】
全体厚みが20μm以上100μm以下である請求項3に記載のガス拡散複合材。
【請求項5】
前記多孔基材シートの形態が、メッシュシート、パンチングシート又はエキスパンドシートである請求項1に記載のガス拡散複合材。
【請求項6】
前記多孔基材シートの材質が、カーボン材料である請求項1に記載のガス拡散複合材。
【請求項7】
前記多孔基材シートが、カーボンメッシュである請求項1に記載のガス拡散複合材。
【請求項8】
構造(C)から構造(E)のいずれかの構造を有する請求項5に記載のガス拡散複合材。
【請求項9】
構造(C)の構造を有する請求項7に記載のガス拡散複合材。
【請求項10】
前記多孔基材シートが、金属材料からなる請求項1に記載のガス拡散複合材。
【請求項11】
前記多孔基材シートが、ステンレスメッシュである請求項1に記載のガス拡散複合材。
【請求項12】
構造(C)から構造(E)のいずれかの構造を有する請求項11に記載のガス拡散複合材。
【請求項13】
構造(D)の構造を有する請求項11に記載のガス拡散複合材。
【請求項14】
非導電性材料からなる多孔基材シートと、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む微多孔炭素層と、を有し、
前記多孔基材シートの厚みが3μm以上150μm以下であり、
以下の構造(D)及び(E)のいずれかである燃料電池用ガス拡散複合材。
構造(D):前記微多孔炭素層が前記非導電性材料からなる多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、前記微多孔炭素層の一部が前記非導電性材料からなる多孔基材シート内部に浸透した構造であって、当該微多孔炭素層が前記非導電性材料からなる多孔基材シートの片面から反対面まで到達している構造
構造(E):前記微多孔炭素層に前記多孔基材シートの全部が埋設した構造
【請求項15】
前記微多孔炭素層を構成する粒子状及び/又は繊維状の炭素材料が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、及びこれらの混合物である請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散複合材。
【請求項16】
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノード触媒層と、を有する膜電極接合体と、前記カソード触媒層と前記アノード触媒層のそれぞれに積層された一対のガス拡散層と、前記ガス拡散層を介して前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータと、を備え、前記一対のガス拡散層の少なくとも一方が、請求項1から15のいずれかに記載の燃料電池用ガス拡散複合材である固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2023年3月16日に出願された日本国特許出願(特願2023-42109号)の利益および優先権を主張する。前述の特許出願に対する優先権を明示的に主張するものであり、参照により、その出願の全開示内容が、あらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。この日本国特許出願の全内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
本発明は、燃料電池用ガス拡散複合材及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0003】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜と前記電解質膜の両面に積層された電極(アノード及びカソード)とを含む膜電極接合体(MEA)と、前記膜電極接合体の両面に積層されたガス拡散層(GDL)とからなるPEFC単セルを、ガス流路が形成された2つのセパレータで挟んだ構造を基本単位として構成されている。
【0004】
PEFCのガス拡散層には、セパレータから供給されるガスを電極触媒層へと拡散するための高いガス拡散性と、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、および発生した電流を取り出すための高い導電性が必要である。そのため、PEFCのガス拡散層として、炭素繊維からなる炭素シートを基材層としてその表面に、炭素粉末とフッ素樹脂からなるマイクロポーラス層(MPL)を形成したガス拡散層が広く用いられている。MPLは、導電性の炭素材料と撥水性のフッ素樹脂の多孔複合材料からなる層であり、炭素材料が導電ネットワークを作り、フッ素樹脂が接着材となるとともに撥水性を発現させる。
【0005】
上記のとおり、GDLには、セパレータから供給されるガスを電極触媒層へと拡散するための高いガス拡散性が求められ、ガス拡散性が不足すると、特に高電流密度域での発電性能が低下する。また、PEFCにおいて、単セルが薄くなるほど集積性が向上するところ、GDLの厚みは、150μm~1mm程度であり、PEFC単セル全体厚みにおけるGDLの割合が大きい。そのため、ガス拡散層を薄くすることができれば、PEFC単セルを薄くすることができ、集積性が向上して出力向上が見込める。
例えば、特許文献1には、従来に比し、ガス拡散層の厚みを薄くした燃料電池が報告されている。特許文献1の技術は、セパレータのリブ幅に対してガス拡散層の厚みを薄くすることで、高電流密度域でのガス拡散性を向上させ、発電性能を高めたものである。
【0006】
また、本発明者等は、特許文献2において、金属多孔シートからなる多孔金属ガス拡散層を報告している。金属多孔シートには、金属Sn若しくはSn合金またはステンレスからなる金属メッシュシートや金属TiまたはTi合金からなる金属繊維シートが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-11735号公報
【特許文献2】特開2022-145670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のガス拡散層は、構成材料として特殊な炭素繊維を使用することで自立性を有しており、当該文献のガス拡散層は厚み150μm程度が薄層化の限界である。
また、特許文献2の多孔金属ガス拡散層は厚み30μm程度にすることができPEFC単セルの薄層化に有用であるが、接触抵抗等の金属製のガス拡散層に由来する電気抵抗の点で改善の余地があった。
【0009】
かかる状況下、本発明の目的は、薄層であり、接触抵抗等の電気抵抗が低減した燃料電池用ガス拡散複合材及びこれを備えた固体高分子形燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 導電性材料からなる多孔基材シートと、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む微多孔炭素層と、を有し、
前記多孔基材シートの厚みが3μm以上150μm以下であり、
以下の構造(A)~(E)のいずれかである燃料電池用ガス拡散複合材。
構造(A):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆した構造
構造(B):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの両面を被覆した構造
構造(C):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、その一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造
構造(D):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、前記微多孔炭素層の一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造であって、当該微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面から反対面まで到達している構造
構造(E):前記微多孔炭素層に前記多孔基材シートの全部が埋設した構造
<2> 前記多孔基材シートの厚みが5μm以上100μm以下である<1>に記載のガス拡散複合材。
<3> 全体厚みが3μm以上150μm以下である<1>または<2>に記載のガス拡散複合材。
<4> 全体厚みが20μm以上100μm以下である<1>から<3>のいずれかに記載のガス拡散複合材。
<5> 前記多孔基材シートの形態が、メッシュシート、パンチングシート又はエキスパンドシートである<1>から<4>のいずれかに記載のガス拡散複合材。
<6> 前記多孔基材シートの材質が、カーボン材料である<1>から<5>のいずれかに記載のガス拡散複合材。
<7> 前記多孔基材シートが、カーボンメッシュである<1>から<5>のいずれかに記載のガス拡散複合材。
<8> 構造(C)から構造(E)のいずれかの構造を有する<5>から<7>のいずれかに記載のガス拡散複合材。
<9> 構造(C)の構造を有する<7>に記載のガス拡散複合材。
<10> 前記多孔基材シートが、金属材料からなる<1>から<5>のいずれかに記載のガス拡散複合材。
<11> 前記多孔基材シートが、ステンレスメッシュである<1>から<5>のいずれかに記載のガス拡散複合材。
<12> 構造(C)から構造(E)のいずれかの構造を有する<11>に記載のガス拡散複合材。
<13> 構造(D)の構造を有する<11>に記載のガス拡散複合材。
<14> 非導電性材料からなる多孔基材シートと、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む微多孔炭素層と、を有し、
前記多孔基材シートの厚みが3μm以上150μm以下であり、
以下の構造(D)及び(E)のいずれかである燃料電池用ガス拡散複合材。
構造(D):前記微多孔炭素層が前記非導電性材料からなる多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、前記微多孔炭素層の一部が前記非導電性材料からなる多孔基材シート内部に浸透した構造であって、当該微多孔炭素層が前記非導電性材料からなる多孔基材シートの片面から反対面まで到達している構造
構造(E):前記微多孔炭素層に前記多孔基材シートの全部が埋設した構造
<15> 前記微多孔炭素層を構成する粒子状及び/又は繊維状の炭素材料が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、及びこれらの混合物である<1>から<14>のいずれかに記載の燃料電池用ガス拡散複合材。
<16> 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノード触媒層と、を有する膜電極接合体と、前記カソード触媒層と前記アノード触媒層のそれぞれに積層された一対のガス拡散層と、前記ガス拡散層を介して前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータと、を備え、前記一対のガス拡散層の少なくとも一方が、<1>から<15>のいずれかに記載の燃料電池用ガス拡散複合材である固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄層であり、接触抵抗等の電気抵抗が低減した燃料電池用ガス拡散複合材及びこれを備えた固体高分子形燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】従来のガス拡散層を備えた膜電極接合体の模式図である。
【
図3】本発明の燃料電池用ガス拡散複合材の模式図である(多孔基材シートは、(A)MPLが片面に積層、(B)MPLが両面に積層、(C)MPLに一部埋設(裏面に未達)、(D)はMPLが一部埋設(裏面に到達)、(E)はMPLに全部埋設)。
【
図4】ガス拡散部材1(ステンレスメッシュシート、SUS316 977mesh)表面の微細構造写真である。
【
図5】ガス拡散部材2(MPL複合化ステンレスメッシュ)の表面の微細構造写真である。
【
図6】ガス拡散部材2(MPL複合化ステンレスメッシュ)の断面の微細構造写真である。
【
図7】ガス拡散部材3(MPL付ガス拡散層(参考例))の表面の微細構造観察結果である。
【
図8】ガス拡散部材3(MPL付ガス拡散層(参考例))の断面の微細構造観察結果である。
【
図9】ガス拡散部材5(MPL複合化カーボンメッシュ)の外観写真である。
【
図10】ガス拡散部材1~3を用いたPEFC単セルのIV特性である。
【
図11】ガス拡散部材4,5を用いたPEFC単セルのIV特性である。
【
図12】ガス拡散部材6を用いたPEFC単セルのIV特性である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0015】
1.燃料電池用ガス拡散複合材
本発明は、導電性材料からなる多孔基材シートと、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む微多孔炭素層と、を有し、前記多孔基材シートの厚みが3μm以上150μm以下であり、以下の構造(A)~(E)のいずれかである燃料電池用ガス拡散複合材(以下、「本発明のガス拡散複合材」と称する場合がある。)に関する。
【0016】
構造(A):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆した構造
構造(B):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの両面を被覆した構造
構造(C):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、その一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造
構造(D):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、前記微多孔炭素層の一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造であって、当該微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面から反対面まで到達している構造
構造(E):前記微多孔炭素層に前記多孔基材シートの全部が埋設した構造
【0017】
構造(A)~(E)の詳細については「1-3.多孔基材シート及び微多孔炭素層の配置」にて後述する。
【0018】
本発明のガス拡散複合材は、固体高分子形燃料電池のガス拡散層として好適である。
【0019】
以下、固体高分子形燃料電池におけるガス拡散複合材(ガス拡散層)の役割を、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は固体高分子形燃料電池の代表的な構成を示す概念図である。固体高分子形燃料電池において燃料極(アノード)には水素が供給され、(反応1)2H
2 → 4H
++4e
-によって、生成したプロトン(H
+)は固体高分子電解質膜を介して空気極(カソード)に供給され、また、生成した電子は外部回路(図示せず)を介して空気極(カソード)へ供給され、(反応2)O
2+4H
++4e
-→2H
2Oによって、酸素と反応して水を生成する。この燃料極(アノード)と空気極(カソード)の電気化学反応によって両電極間に電位差を発生させる。
【0020】
図2に従来のガス拡散部材を備えた膜電極接合体の模式図を示す。
PEFCのガス拡散部材に求められる主な機能としては、固体高分子電解質膜(厚み10μm程度)の保湿と電極触媒層からの排水、電極触媒層とセパレータの間の電子伝導、そしてガス輸送がある。従来のガス拡散部材は、炭素繊維系ガス拡散層(GDL)と、集電性や保水性を高めるために炭素繊維系ガス拡散層の電極触媒層に接する面に、より細孔が細かい層であるマイクロポーラス層(MPL)を製膜したものが広く使用されている。
また、特に厚さが1mm程度のPEFCの中において、厚さ200μm程度の炭素繊維系ガス拡散層は両電極に隣接して2枚使われているが、薄板化に伴う機械的強度の低下、コストの高さなどを課題として有している。
【0021】
一方、本発明のガス拡散複合材は、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む微多孔炭素層を、機械的強度に優れる、厚み3μm以上150μm以下の多孔基材シート(例えば、金属やカーボンからなる導電性多孔基材シート)によって支持する構造である。このような構造を有することによって本発明のガス拡散複合材は多孔基材シートに由来する十分な機械的強度及び導電性と、微多孔炭素層に由来する導電性及び撥水性とを有するため、ガス拡散複合材の全体厚みを150μm以下(好適には100μm以下、60μm以下)にまで薄くすることができる。
【0022】
本発明のガス拡散複合材は、表面に集電性に優れ、接触抵抗が小さい微多孔炭素層を有するので、本発明のガス拡散複合材を配置することにより、マイクロポーラス層を有さない多孔基材シートのみを使用した場合と比較して、過電圧が低減し、発電特性(IV特性)に優れる。
【0023】
固体高分子形燃料電池は、通常、その基本構成である単セルを発電性能に応じた基数を積層し、燃料電池スタックとして使用されるため、従来のガス拡散部材(MPL付炭素繊維系ガス拡散層)に代えて、導電性材料からなる多孔基材シートと、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む微多孔炭素層とからなる本発明のガス拡散複合材を、燃料電池用のガス拡散部材として使用し、これを電極触媒層とセパレータの間に配置することによって、燃料電池スタックの厚みを大幅に低減することが可能となる。
【0024】
本発明のガス拡散複合材は、カソード側とアノード側の片方、又は両方に配置することができる。
【0025】
以下、本発明の燃料電池用ガス拡散複合材の構成要素について説明する。
なお、本発明に係る固体高分子形燃料電池において、本発明の燃料電池用ガス拡散複合材以外の構成要素については、公知の固体高分子形燃料電池と同様であるため、説明を省略する。
【0026】
(1-1.多孔基材シート)
本発明のガス拡散複合材を構成する多孔基材シートは、導電性材料からなる複数の貫通孔を有するシート状部材である。
【0027】
多孔基材シートの形態は本発明の効果を奏す限り制限されないが、例えば、メッシュシート、パンチングシート又はエキスパンドシートが挙げられる。
【0028】
本明細書において、「メッシュシート」は、構成材料の細線を編んで形成されたシート状部材であり、その編まれた細線の間の空間がメッシュを厚さ方向に貫通する貫通空間(貫通孔)となる。メッシュシートの厚みや貫通孔の孔径、孔密度、大きさは、本発明の目的を損なわず、強度が保てる範囲で適宜設計すればよい。
【0029】
本明細書において、「パンチングシート」は、構成材料のシート(帯状体)をパンチング装置により穴あけすることにより製造される、貫通孔が多数開けられたシート状部材を意味する。パンチングシートの厚みや貫通孔の孔径、孔密度、大きさは、本発明の目的を損なわず、強度が保てる範囲で適宜設計すればよい。
【0030】
本明細書において、「エキスパンドシート」は、構成材料のシートに切れ目を入れて拡げて、その切れ目を菱形や亀甲形等にしたシート状部材であり、切れ目が拡げられて菱形や亀甲形等になった部分が、エキスパンドを厚さ方向に貫通する貫通空間(貫通孔)となる。なお、エキスパンドシートの貫通孔の孔径や密度は、貫通孔の孔径に応じて、本発明の目的を損なわず、強度が保てる範囲で適宜設計すればよい。
【0031】
多孔基材シートの形態の中でもメッシュシートが好ましい。
メッシュシートは、織物組織を有する。織物組織としては、例えば、平織、綾織、平畳織及び綾畳織が挙げられる。
「平織」は、縦線及び横線を1本ずつ交互に交差させて織る方法である。「綾織」は、縦線及び横線を数本おきに交差させて織る方法である。「平畳織」は、畳表のように線を織る方法である。「綾畳織」は、平畳織に綾織を適用した方法である。
【0032】
なお、メッシュシートの単位面積における線(すなわち、線状材料)の数は、「平織<綾織<平畳織<綾畳織」の順に多くなる傾向にある。
メッシュシートの単位面積における線の数が多くなるほど、メッシュシートの表面の平坦性が向上する。メッシュシートの表面の平坦性の向上は、燃料電池における他の構成要素(例えば、電極触媒層及びセパレータ)に対するガス拡散部材の接触面積を増大でき、構成要素間の接触面積の増大は構成要素間の電気接続性の向上に寄与できる。
【0033】
多孔基材シートの厚みは3μm以上150μm以下であり、好適には5μm以上100μm以下、20μm以上100μm以下、5μm以上60μm以下、20μm以上60μm以下である。このような厚みであれば、本発明のガス拡散複合材に機械的強度を付与することができ、微多孔炭素層を設けた際にも自立性を備えることができる。
多孔基材シートの厚みは、例えば、マイクロメータで測定することができる。
【0034】
本発明のガス拡散複合材において、多孔基材シートの構成材料としては、PEFCの運転条件で十分な耐久性と電子伝導性を併せ持つ材料を選択すればよい。多孔基材シートの構成材料として、具体的には、金属材料及びカーボン材料が選択される。
【0035】
なお、本明細書において、PEFCの運転条件は、PEFCのカソード条件及びアノード条件の両方を含む。PEFCのカソード条件とは、PEFCの通常運転時のカソードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、空気等の酸素を含むガスが供給される条件(酸化雰囲気)を意味し、アノード条件とは、PEFCの通常運転時のアノードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、水素を含む燃料ガスが供給される条件(還元雰囲気)を意味する。
【0036】
金属材料としては、本発明の目的を損なわない限り制限はないが、好適には、ステンレス、金属Ti(チタン)またはTi合金が挙げられる。
【0037】
金属材料を使用した多孔基材シートでも、ステンレスメッシュ(例えば、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS340)が好ましい。ステンレスメッシュの厚みや貫通孔の孔径、孔密度、大きさは、本発明の目的を損なわず、強度が保てる範囲で適宜設計すればよい。
【0038】
ステンレスメッシュは自作しても市販品を使用してもよい。
【0039】
また、カーボン材料を使用した多孔基材シートとしては、カーボンメッシュが好ましい。カーボンメッシュは、繊維状のカーボンで構成され、空隙を含む網目構造を有するメッシュシートである。カーボンメッシュの厚みや貫通孔の孔径、孔密度、大きさは、本発明の目的を損なわず、強度が保てる範囲で適宜設計すればよい。
【0040】
カーボンメッシュは自作しても市販品を使用してもよい。
【0041】
多孔基材シートは、必要に応じて導電性材料を表面に固着させていてもよい。
【0042】
なお、微多孔炭素層は、微多孔炭素層の構成成分(MPL成分)を含む塗工液を、多孔基材シートに塗工することによって形成されるが、微多孔炭素層の形成のされ方は、MPL成分のみならず、多孔基材シートの構造や素材に依存する。メッシュシートの織物組織の違いによって表面平滑性やメッシュシート内部への塗工液の浸透性等が変わるため、目的とする構造(構造(A)~(E))に応じて適宜メッシュシートを選択すればよい。
【0043】
(1-2.微多孔炭素層)
本発明のガス拡散複合材において、微多孔炭素層は、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む。微多孔炭素層は、上述した多孔基材シートよりも孔径が小さく高密度で表面平坦性に優れる。そのため、電子伝導性に優れ、電極触媒層又はセパレータとの接触抵抗を低減させることができる。
【0044】
微多孔炭素層を構成する炭素材料として、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料が使用される。これらの炭素材料を配合した微多孔炭素層を有することにより、本発明のガス拡散複合材に優れた導電性を付与することができる。
【0045】
粒子状炭素材料としては、公知又は市販のものを広く使用できる。例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、等のカーボンブラック;黒鉛;活性炭等を1種又は2種以上で用いることができる。粒子状炭素材料の平均粒子径は、通常5nm~200nm程度、好ましくは20~80nm程度である。
【0046】
また、粒子状炭素材料の一部を繊維状炭素材料に置換することで、集電性とガス拡散性をさらに高めることができる。
【0047】
繊維状炭素材料としては、公知又は市販のものを広く使用できる。例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンファイバー(CF)等を1種又は2種以上で用いることができる。
【0048】
前記微多孔炭素層を構成する粒子状及び/又は繊維状の炭素材料が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、及びこれらの混合物であることが好ましい。
【0049】
微多孔炭素層を構成する撥水性樹脂として、フッ素系樹脂が使用できる。フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)やテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルの共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)等が挙げられ、これらを1種又は2種以上で用いることができる。
【0050】
微多孔炭素層を構成する粒子状及び/又は繊維状の炭素材料、撥水性樹脂の割合は、本発明の目的を損なわない範囲で決定される。
【0051】
なお、本発明のガス拡散複合材における微多孔炭素層は、従来公知のMPL付ガス拡散層におけるMPLと同じ材料を用いて形成できることに特徴のひとつがある。すなわち、多孔基材シートを土台に使用することによって、特殊な炭素材料を使用しなくとも、自立性を保てる程度の強度を有し、MPL付ガス拡散層におけるMPL程度の厚み(20μm程度)まで薄層化したガス拡散部材(いわゆる、自立型マイクロポーラス層)を形成できる。
【0052】
本発明の燃料電池用ガス拡散複合材において、全体厚みは、3μm以上150μm以下、好適には5μm以上100μm以下、20μm以上100μm以下、5μm以上60μm以下、20μm以上60μm以下である。ここで「全体厚み」とは多孔基材シート及び微多孔炭素層との合計厚みである。全体厚みは例えば、マイクロメータで測定することができる。
【0053】
(1-3.多孔基材シート及び微多孔炭素層の配置)
本発明のガス拡散複合材は、上述した通り、以下の構造(A)~(E)のいずれかの構造を有する。
構造(A):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆した構造
構造(B):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの両面を被覆した構造
構造(C):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、その一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造
構造(D):前記微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、前記微多孔炭素層の一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造であって、当該微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面から反対面まで到達している構造
構造(E):前記微多孔炭素層に前記多孔基材シートの全部が埋設した構造
【0054】
図3(A)~(E)に、本発明のガス拡散複合材の構造(A)~(E)をそれぞれに示す。
【0055】
本発明のガス拡散複合材が、
図3(A)に示す微多孔炭素層が多孔基材シートの片面を被覆した構造(A)の場合、微多孔炭素層は、通常、電極触媒層側に接触するように配置され、電極触媒層とガス拡散複合材との接触抵抗が低減する。なお、構造(A)の場合も微多孔炭素層をセパレータ側に配置してもよく、この場合にはセパレータとガス拡散複合材との接触抵抗が低減する。
【0056】
本発明のガス拡散複合材が、
図3(B)に示す微多孔炭素層が前記多孔基材シートの両面を被覆した構造(B)の場合、微多孔炭素層は、電極触媒層側及びセパレータ側の両方に接触するように配置され、電極触媒層とガス拡散複合材との接触抵抗、セパレータとガス拡散複合材との接触抵抗が低減する。
【0057】
本発明のガス拡散複合材が、
図3(C)に示す微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、その一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造(C)の場合、構造(A)の場合と同様に、微多孔炭素層は、通常、電極触媒層側に接触するように配置されるため、電極触媒層とガス拡散複合材との接触抵抗が低減する。なお、構造(C)の場合も微多孔炭素層をセパレータ側に配置してもよく、この場合にはセパレータとガス拡散複合材との接触抵抗が低減する。
【0058】
さらに、
図3(D)に示すように、微多孔炭素層が多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、その一部が前記多孔基材シート内部に浸透した構造であって、当該微多孔炭素層が前記多孔基材シートの片面側から反対面まで到達している構造(D)である場合は、微多孔炭素層を構成する成分(MPL成分)が優れた導電性示すため、ガス拡散複合材厚み方向の電気抵抗を低減させることができる。
多孔基材シートがメッシュシートの場合、メッシュシートの織物組織の違いやメッシュ径を変えることでメッシュシート内部への塗工液の浸透性が変わるため、
図3(D)に示す構造のように、多孔基材シート内部でMPL成分が規則的になるように、多孔基材シートの織物組織、孔径等を適宜選択すればよい。
【0059】
また、本発明のガス拡散複合材が、
図3(E)に示す微多孔炭素層に前記多孔基材シートの全部が埋設した構造(E)の場合、微多孔炭素層は、電極触媒層側及びセパレータ側の両方に接触するように配置され、電極触媒層とガス拡散複合材との接触抵抗、セパレータとガス拡散複合材との接触抵抗が低減すると共に、微多孔炭素層を構成する成分(MPL成分)が、多孔基材シートより優れた導電性示すため、ガス拡散複合材厚み方向の電気抵抗を低減させることができる。
【0060】
なお、ガス拡散複合材が、構造(D)や構造(E)である場合には、微多孔炭素層を構成する成分(MPL成分)が多孔基材シートの片面側から反対面側まで連続し、微多孔炭素層に由来して導電性を示すため、導電性の多孔基材シート(金属又はカーボン)に代えて、非導電性の多孔基材シート(例えば、フッ素系樹脂)を使用することもできる。
【0061】
すなわち、本発明の他の態様は、非導電性材料からなる多孔基材シートと、粒子状及び/又は繊維状の炭素材料及び撥水性樹脂を含む微多孔炭素層と、を有し、前記多孔基材シートの厚みが3μm以上150μm以下であり、以下の構造(D)及び(E)のいずれかである燃料電池用ガス拡散複合材である。
構造(D):前記微多孔炭素層が前記非導電性材料からなる多孔基材シートの片面を被覆し、かつ、前記微多孔炭素層の一部が前記非導電性材料からなる多孔基材シート内部に浸透した構造であって、当該微多孔炭素層が前記非導電性材料からなる多孔基材シートの片面から反対面まで到達している構造
構造(E):前記微多孔炭素層に前記多孔基材シートの全部が埋設した構造
【0062】
非導電性材料からなる多孔基材シートの厚みは3μm以上150μm以下であり、好適には5μm以上100μm以下、5μm以上50μm以下である。また、全体厚みは、3μm以上150μm以下、好適には5μm以上100μm以下、20μm以上100μm以下、5μm以上60μm以下、20μm以上60μm以下である。このような厚みであれば、本発明のガス拡散複合材に機械的強度を付与することができ、微多孔炭素層を設けた際にも自立性を備えることができる。非導電性材料からなる多孔基材シートの厚み及び全体厚みは例えば、マイクロメータで測定することができる。
【0063】
2.固体高分子形燃料電池及びガス拡散複合材以外の構成要素
本発明の固体高分子形燃料電池は、カソード側及びアノード側に配置するガス拡散複合材の少なくとも一方として、上述した本発明の燃料電池用ガス拡散複合材(自立型マイクロポーラス層)を使用している。
【0064】
本発明の燃料電池用ガス拡散複合材として、多孔基材シートの片面側に微多孔炭素層を有する場合(構造(A)、構造(C)及び構造(D))、当該燃料電池用ガス拡散複合材を、微多孔炭素層がある一方面が前記カソード触媒層及び/又は前記アノード触媒層に接触し、微多孔炭素層を有さない他方面がセパレータに接触するように配置してもよいし、微多孔炭素層がある一方面がセパレータに接触し、微多孔炭素層を有さない他方面が前記カソード触媒層及び/又は前記アノード触媒層に接触するように配置してもよい。
【0065】
また、本発明の燃料電池用ガス拡散複合材として、多孔基材シートの両面側に微多孔炭素層を有する場合(構造(B)及び構造(E))、当該燃料電池用ガス拡散複合材を、微多孔炭素層がある一方面が前記カソード触媒層及び/又は前記アノード触媒層に接触し、微多孔炭素層がある他方面を前記セパレータに接触するように配置すればよい。
このように配置すると、微多孔炭素層がある面が電極触媒層(カソード触媒層、アノード触媒層)側とセパレータ側の両方に接触することになり、片面に固着された微多孔炭素層がある燃料電池用ガス拡散複合材を使用した場合と比較して接触抵抗が小さくなる。
【0066】
以下、本発明の固体高分子形燃料電池における本発明のガス拡散複合材以外の構成要素について説明するが、本発明のガス拡散複合材以外は、公知の固体高分子形燃料電池と同様であるため、簡略に説明する。
【0067】
本発明の固体高分子形燃料電池を構成する膜電極接合体(MEA)は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソード触媒層と、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノード触媒層と、を有する。
【0068】
アノード触媒層及びカソード触媒層は従来公知の電極触媒層(例えば、貴金属微粒子を担持した炭素系担体、貴金属微粒子を担持した酸化物担体等からなる電極触媒層等)を利用できるため、詳細な説明を省略する。
【0069】
固体高分子電解質膜としては、プロトン伝導性を有し、化学的安定性及び熱的安定性を有するものであれば公知のPEFC用電解質膜を用いればよい。固体高分子電解質膜を構成する電解質材料としては、フッ素系電解質材料、炭化水素系電解質材料が挙げられる。特にフッ素系電解質材料で形成されている電解質膜が、耐熱性、化学的安定性などに優れているため好ましい。
【0070】
セパレータとしては、公知のセパレータを用いることができ、例えば、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ等が挙げられる。
【0071】
本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)は、発電性能に応じた基数だけ積層された燃料電池スタックが形成され、ガス供給装置、冷却装置などその他付随する装置を組み立てることにより使用される。
【0072】
以上、本発明の実施形態について述べたが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、燃料電池の運転条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【実施例0073】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例にいて、ガス拡散複合部材(MPL複合化多孔基材シート)、多孔基材シート(MPL複合化していないもの)、及び従来のガス拡散層(MPL付炭素繊維系ガス拡散層)を総称して、「ガス拡散部材」と記載する。
【0074】
<1.ガス拡散部材>
ガス拡散部材1~6として以下を使用した。なお、ガス拡散部材の厚みはマイクロメータ(株式会社ミツトヨ、クーラントプルーフマイクロメータ MDC-25MX)で5回計測し、その平均から算出した。
【0075】
ガス拡散部材1:ステンレスメッシュ(多孔基材シート)
株式会社ニラコ ステンレスSUS316/金網(977mesh)を使用した。当該ステンレスメッシュシートは、一層の綾織メッシュにより構成されており、線径φ13μm、厚さ28μmである
図4にガス拡散部材1(ステンレスメッシュ)の表面写真を示す。
【0076】
ガス拡散部材2:MPL複合ステンレスメッシュ(MPL複合化多孔基材シート)
以下の手順で、ガス拡散部材2であるMPL複合ステンレスメッシュを得た。
純水300μL(300mg)及びポリエチレングリコール(PEG)1500μL(1695mg)の混合溶媒に、高黒鉛化カーボンブラック(GCB、Cabot社、FCX200)241mg、カーボンナノチューブ分散液(名城ナノカーボン株式会社、MWNT INK)576μL(CNT重量30mg)、及び撥水性樹脂(DAIKIN社、ポリフロンPTFE D-210C)22.5μL(PTFE重量30mg)を入れて、均一になるまで混合することによってMPL形成用分散液を得た。
得られたMPL形成用分散液を、ステンレスメッシュ(ガス拡散部材1)に対し、スクリーン(スクリーン厚:30μm)を用いてスクリーン印刷を行った。スクリーン印刷には、簡易スクリーン印刷機(理想科学工業株式会社製、プリントゴッコ PG-11)を使用し、スクリーンの孔よりも少しだけ大きくカットしたステンレスメッシュ(ガス拡散部材1)に対して行い、ガス拡散部材2(MPL複合ステンレスメッシュ)を得た。ガス拡散部材2の厚みは62μmであった。
【0077】
ガス拡散部材3:MPL付炭素繊維系ガス拡散層(従来のガス拡散層)
ガス拡散部材3として、表面にMPLが形成されたカーボンペーパーからなる市販のMPL付ガス拡散層22BB(ドイツSGL Carbon社製、単位面積質量70gm-2)を使用した。ガス拡散部材3の厚みは206μmであった。
【0078】
ガス拡散部材4:カーボンメッシュ(多孔基材シート)
ガス拡散部材4として、コスモテック製のカーボンメッシュ(バイアス織)を使用した。ガス拡散部材4の厚みは45μmであった。
【0079】
ガス拡散部材5:MPL複合カーボンメッシュ(MPL複合化多孔基材シート)
以下の手順で、ガス拡散部材5であるMPL複合カーボンメッシュを得た。
純水300μL(300mg)及びPEG1500μL(1695mg)の混合溶媒に、GCB241mg、カーボンナノチューブ分散液(CNT重量30mg)、及び撥水性樹脂22.5μL(PTFE重量30mg)を入れて、均一になるまで混合することによってMPL形成用分散液を得た。
得られたMPL形成用分散液を、カーボンメッシュ(ガス拡散部材4)に対し、スクリーン(スクリーン厚:30μm)を用いてスクリーン印刷を行った。スクリーン印刷には、簡易スクリーン印刷機(理想科学工業株式会社製、プリントゴッコ PG-11)を使用し、スクリーンの孔よりも少しだけ大きくカットしたカーボンメッシュ(ガス拡散部材4)に対して行い、ガス拡散部材5(MPL複合カーボンメッシュ)を得た。ガス拡散部材5の厚みは87μmであった。
【0080】
ガス拡散部材6:MPL複合カーボンメッシュ(MPL複合化多孔基材シート)
上記ガス拡散部材5の製造方法において、純水1400μL(1400mg)、PEG750μL(847.5mg)、GCB120.4mg、CNT15mg、PTFE7.12mg、とした以外は同じ方法で、ガス拡散部材6(MPL複合カーボンメッシュ)を得た。ガス拡散部材6の厚みは87μmであった。
【0081】
<2.評価>
2-1.微細構造観察
ガス拡散部材2(MPL複合ステンレスメッシュ)の表面SEM像を
図5、断面SEM像を
図6に示す。また、参考のため、ガス拡散部材3(従来のMPL付ガス拡散層)の表面SEM像を
図7、断面SEM像を
図8に示す。
図5に示されるように、ガス拡散部材2(MPL複合ステンレスメッシュ)においては表面全体に均一にMPLが担持されており、
図7に示すガス拡散部材3(従来のMPL付ガス拡散層)と同様であった。なお、ガス拡散部材2の表面に見られる割れは、熱処理の際に表面の素材が乾燥・硬化して割れたものと判断した。
また、
図6に示す通り、ガス拡散部材2は断面においても成分の分離が起きておらず、
図8に示すガス拡散部材3の断面と同様であった。
また、ガス拡散部材2では表面のみならず裏側にもMPL成分が確認された。
以上から、ガス拡散部材2は、MPL成分がメッシュ内部まで浸透し、MPL成分は表面から裏面まで連続してつながっている構造(D)(
図3参照)と判断した。
【0082】
図9に、ガス拡散部材5(MPL複合化カーボンメッシュ)の外観写真を示す。
図9の通り、表面から基材であるカーボンメッシュは確認することができず、表面に均等にMPLが保持されていることが確認された。また、MPL成分の一部はカーボンメッシュの内部に浸透したが、裏面には到達していないことから、構造(C)(
図3参照)と判断した。
ガス拡散部材6(MPL複合化カーボンメッシュ)についても同様に、表面に均等にMPLが保持されていることが確認され、また、MPL成分の一部はカーボンメッシュの内部に浸透したが、裏面には到達していないことから、構造(C)(
図3参照)と判断した。
【0083】
2-2.電気化学的評価(単セル、初期性能評価)
下記構成のPEFC(単セル)を作製し、発電実験(IV測定)を行った。
(固体電解質膜)
ナフィオン膜(デュポン社製、ナフィオン212 厚さ51μm)
(アノード)
・電極触媒層: Pt/C 触媒(田中貴金属工業株式会社製)
・ガス拡散層:炭素繊維系ガス拡散層(カーボンペーパー)
(カソード)
・電極触媒層:Pt/C 触媒(田中貴金属工業株式会社製)
・ガス拡散層:ガス拡散部材1~5
【0084】
ガス拡散部材1~5を組み込んだ単セル発電評価用治具を80℃に設定した恒温槽内に設置し、以下の条件で発電試験を行った。なお、燃料電池評価装置(東陽テクニカ社製、型番:PE-8900K)およびポテンショ/ガルバノスタット(Solatron社製、型番:SI1287)を用いた。
(アノード条件)
電極面積:1cm2
供給ガス種 :100% H2
ガス供給速度 :139mL/分
供給ガス加湿温度 :80℃(相対湿度:100%)
(カソード条件)
電極面積:1cm2
供給ガス種 :Air
ガス供給速度 :332mL/分
供給ガス加湿温度 :80℃(相対湿度:100%)
【0085】
(ステンレスメッシュ)
図10にガス拡散部材1,2を用いたPEFC(単セル)の電流-電圧(IV)特性の評価結果を示す。参考のため、ガス拡散部材3(従来のMPL付ガス拡散層)を使用した単セルのデータも併せて示す。
【0086】
図10に示す通り、ガス拡散部材1,2を用いたPEFCはいずれも発電することが可能であったが、MPLを複合化したガス拡散部材2を使用したPEFCは、MPLを有さないガス拡散部材1と比較してIV特性の大幅な向上が認められた。ガス拡散部材2は、市販のガス拡散部材3(従来のMPL付ガス拡散層)に準じる性能を示した。また、ガス拡散部材2は、活性化過電圧・抵抗過電圧においてもガス拡散部材3に匹敵する性能を示した(図示せず)。
以上から、ステンレスメッシュとMPLと複合させることによって、発電性能(IV特性)が向上することが確認された。
【0087】
(カーボンメッシュ)
図11にガス拡散部材4,5を用いたPEFC(単セル)のIV特性の評価結果を示す。
図11に示す通り、ガス拡散部材4,5を用いたPEFCはいずれも発電することが可能であり、MPLを複合化したガス拡散部材5を使用したPEFCは、MPLを有さないガス拡散部材4と比較してIV特性の向上が認められた。
【0088】
図12にガス拡散部材6を用いたPEFC(単セル)のIV特性の評価結果を示す。
図12の通り、ガス拡散部材6を使用したPEFCは、MPLを有さないガス拡散部材4と比較してIV特性の向上が認められ、市販のガス拡散部材3(従来のMPL付ガス拡散層)に匹敵する性能を示した。
【0089】
以上から、カーボンメッシュとMPLと複合させることによって、発電性能(IV特性)が向上することが確認された。
【0090】
2-3.電気抵抗及び電気抵抗率の評価
1cm四方の各種ガス拡散部材を、同形状のカーボンペーパー(EC-TPI-060T, ElectroChem Inc., Raynhan MA, USA)2枚の間に挟み込み、フルセル評価用治具に挟んで電気抵抗率の測定評価を行った。まず電気化学特性評価装置を用いた電気化学インピーダンス(EIS)測定によって各種ガス拡散部材の電気抵抗を測定し、ガス拡散部材の厚さをもとに電気抵抗率を算出した。装置内部の加湿や昇温は行わず、いずれの測定も常温・常圧で行った。
【0091】
表1に、各ガス拡散部材(1×1cm(1cm2))の電気抵抗の測定結果、及び各ガス拡散部材の厚み、並びに電気抵抗及び厚みから算出した電気抵抗率を示す。なお、表1にはガス拡散層として汎用されているカーボンペーパー(EC-TPI-060T, ElectroChem Inc., Raynhan MA, USA)についても参考例として併せて示す。
【0092】
【0093】
多孔基材シートがステンレスメッシュであるガス拡散部材1及びガス拡散部材2との対比から、MPLとの複合化によって電気抵抗率が1/10程度にまで小さくなっていることがわかる。上述の通り、ガス拡散部材2ではMPL成分が裏面まで浸潤していたことから、MPL成分によって導電性が向上したと考えられる。
多孔基材シートがカーボンメッシュであるガス拡散部材4及びガス拡散部材5においても同様にMPLとの複合化によって電気抵抗率が小さくなることが確認された。