(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160418
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】片側スポット溶接装置及び片側スポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20241107BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B23K11/11 550Z
B23K11/00 570
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023073473
(22)【出願日】2023-04-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】313015100
【氏名又は名称】OBARA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】木許 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】岸本 匡史
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 信浩
(72)【発明者】
【氏名】寺田 孝志
(72)【発明者】
【氏名】城 敏郎
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AC01
4E165BB02
4E165BB12
4E165BB13
4E165CB02
(57)【要約】
【課題】複数の金属板の接合予定部を裏側(例えば、車体の内部側)からでも容易に溶接できる片側スポット溶接装置を提供する。
【解決手段】第1溶接電極7の軸方向他方側(シリンダ5側)に複数の金属板の接合予定部P1を配した後、シリンダ5のロッド5bを軸方向他方側(後退側)に駆動することにより、複数の金属板の接合予定部P1を第1溶接電極7で軸方向一方側(シリンダ5と反対側)から押圧する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ本体及びロッドを有し、前記ロッドが、軸方向一方側に駆動されることで前記シリンダ本体の内部から突出し、軸方向他方側に駆動されることで前記シリンダ本体の内部側に後退するシリンダと、前記ロッドに固定されたアームと、前記アームに固定され、先端が基端よりも軸方向他方側に配された第1溶接電極とを有する片側スポット溶接装置。
【請求項2】
前記アームに固定され、先端が基端よりも軸方向一方側に配された第2溶接電極を有する請求項1に記載の片側スポット溶接装置。
【請求項3】
前記ロッドと前記アームとの連結部に、前記ロッドと前記アームとの相対的な傾きを許容しながら前記ロッドの軸力を前記アームに伝達可能なフローティングジョイントを設けた請求項1又は2に記載の片側スポット溶接装置。
【請求項4】
シリンダ本体及びロッドを有し、前記ロッドが、軸方向一方側に駆動されることで前記シリンダ本体の内部から突出し、軸方向他方側に駆動されることで前記シリンダ本体の内部側に後退するシリンダと、前記ロッドに固定されたアームと、前記アームに固定された第1溶接電極とを備えた片側スポット溶接装置を用いて複数の金属板の接合予定部を接合するための方法であって、
前記第1溶接電極の軸方向他方側に前記複数の金属板の接合予定部を配する工程と、
前記シリンダの前記ロッドを軸方向他方側に駆動することにより、前記複数の金属板の接合予定部を前記第1溶接電極で軸方向一方側から押圧する工程とを有する片側スポット溶接方法。
【請求項5】
車体を構成する前記複数の金属板の接合予定部を接合するにあたり、
前記シリンダを前記車体の外部に配し、前記第1溶接電極を前記車体の内部に配した状態で溶接を行う請求項4に記載の片側スポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片側スポット溶接装置及び片側スポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の車体の溶接工程では、複数の鋼板の重合部を一対の電極で挟持加圧した状態で通電する、いわゆるダイレクトスポット溶接が適用されることが多い。しかし、一対の電極で挟持できない部位等に対しては、溶接電極を板組みの厚さ方向一方側のみから当接させる片側スポット溶接(インダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接等)が施されることがある。
【0003】
図8は、下記の特許文献1に示されたインダイレクトスポット溶接装置の溶接ガン100である。この溶接ガン100は、溶接電極134と、溶接電極を駆動する駆動ユニット130と、図示しないロボットアーム(多関節ロボット)の先端に取り付けられるブラケット135とを有する。駆動ユニット130は、サーボモータ131と、ケーシング132と、ロッド133とを有する。サーボモータ131を駆動してロッド133をケーシング132から突出させることにより、溶接電極134でワークの接合予定部を押圧する。この状態で、溶接電極134と、ワークの接合予定部以外の場所に接触させたアース電極(図示省略)との間に通電することで、接合予定部にナゲットが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような一般的なインダイレクトスポット溶接装置では、駆動ユニット130のロッド133をケーシング132から押し出す動作により、溶接電極134をワークに押し付ける。このような溶接装置で車体200の内側から溶接を施す場合、例えば
図9に示すように、車体200のドア開口部201から駆動ユニット130を含む溶接ガン100を車体200の内部に侵入させ、車体200の内部で溶接ガン100を反転させて、溶接電極134の先端を接合予定部202に室内側から対向させる必要がある。このような動作は非常に煩雑であるため、サイクルタイムが長くなる。
【0006】
一方、
図10に示すように、図示しない反対側のドア開口部から溶接ガン100を車体200の内部に侵入させれば、車体200の内部で溶接ガン100を反転させることなく、溶接電極134の先端を接合予定部202に室内側から押し付けることができる。しかし、上記のように溶接ガン100を車体の奥部(ドア開口部201付近)まで侵入させると、これ以外の溶接ロボットは、室内で作業中の溶接ガン100との干渉を回避するために車体200の内部への侵入が規制される待ち時間(インターロック)が長くなり、溶接工程のサイクルタイムが長くなる。
【0007】
そこで、本発明は、複数の金属板の接合予定部を裏側(例えば、車体の内部側)からでも容易に溶接できる片側スポット溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、シリンダ本体及びロッドを有し、前記ロッドが、軸方向一方側に駆動されることで前記シリンダ本体の内部から突出し、軸方向他方側に駆動されることで前記シリンダ本体の内部側に後退するシリンダと、前記ロッドに固定されたアームと、前記アームに固定され、先端が基端よりも軸方向他方側に配された第1溶接電極とを有する片側スポット溶接装置を提供する。
【0009】
本発明では、上記のように、溶接電極がシリンダのロッドにアームを介して取り付けられ、溶接電極の先端が基端よりも軸方向他方側(ロッドが後退する側)に配されている。この場合、第1溶接電極の軸方向他方側に複数の金属板の接合予定部を配した後、シリンダのロッドを軸方向他方側に駆動する、すなわち、ロッドをシリンダ本体の内部側に後退させることにより、複数の金属板の接合予定部を軸方向一方側(シリンダと反対側)から第1溶接電極で押圧することができる。
【0010】
上記の片側スポット溶接装置は、前記アームに固定され、先端が基端よりも軸方向一方側に配された第2溶接電極を有することが好ましい。この場合、第2溶接電極の軸方向一方側に複数の金属板の接合予定部を配した後、シリンダのロッドを軸方向一方側に駆動する、すなわち、ロッドをシリンダ本体の内部から突出させることにより、複数の金属板の接合予定部を第2溶接電極で軸方向他方側(シリンダ側)から押圧することができる。このように、シリンダのロッドを引き込んで接合予定部を押圧する第1溶接電極と、シリンダのロッドを押し出して接合予定部を押圧する第2溶接電極とを有することで、一台の溶接装置で様々な部位を溶接することが可能となる。これにより、溶接装置の台数を削減できるため、コストを低減できると共に、溶接装置を設置するためのスペースを削減できる。
【0011】
上記の片側スポット溶接装置では、シリンダのロッドと第1溶接電極とがアームを介して接続されるため、第1溶接電極の先端で複数の金属板の接合予定部を押し込んだときに、アームの根元(シリンダのロッドとの連結部)に大きなモーメントが加わる。このモーメントによりロッドが傾くと、ロッドがスムーズに進退しにくくなり、シリンダの応答性が悪くなる。
【0012】
そこで、ロッドとアームとの連結部に、ロッドとアームとの相対的な傾きを許容しながらロッドの軸力をアームに伝達可能なフローティングジョイントを設けることが好ましい。これにより、溶接電極の押圧力の反力でアームにモーメント荷重が加わった場合でも、フローティングジョイントでこのモーメント荷重が吸収されるため、駆動手段のロッドにモーメント荷重が加わることを回避できる。これにより、ロッドの傾きを防止できるため、ロッドをスムーズに進退させることができ、シリンダの応答性が高められる。
【0013】
上記の片側スポット溶接装置によれば、車体を構成する複数の金属板の接合予定部を接合するにあたり、シリンダを車体の外部に配し、第1溶接電極を車体の内部に配した状態で溶接を行うことができる。これにより、シリンダを含む溶接ガン全体を車体の内部に配する場合と比べて、溶接ガンの取り回しが容易化される。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の片側スポット溶接によれば、複数の金属板の接合予定部を裏側からでも容易に溶接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の一実施形態に係るインダイレクトスポット溶接装置の側面図である。
【
図6】第1溶接電極を用いて溶接する様子を示す断面図である。
【
図7】第2溶接電極を用いて溶接する様子を示す断面図である。
【
図8】従来のインダイレクトスポット溶接装置の溶接ガンの側面図である。
【
図9】従来の溶接ガンで車体の接合予定部を室内側から溶接する例を示す断面図である。
【
図10】従来の溶接ガンで車体の接合予定部を室内側から溶接する他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、自動車の車体の溶接工程の平面図である。この溶接工程では、車体Wの車幅方向両側に、それぞれ複数台(図示例では5台ずつ)の溶接装置が配される。この溶接装置として、本発明の一実施形態に係る片側スポット溶接装置であるインダイレクトスポット溶接装置1が使用される。尚、この溶接工程に設けられる溶接装置の一部を、ダイレクトスポット溶接装置や、従来のインダイレクトスポット溶接装置(
図8参照)としてもよい。
【0018】
本実施形態のインダイレクトスポット溶接装置1(以下、単に「溶接装置1」と言う。)は、
図2に示すように、多軸のロボットアーム2と、ロボットアーム2の先端に取り付けられた溶接ガン3と、アース電極21とを備える。溶接ガン3は、ロボットアーム2の先端に取り付けられる取付部4と、シリンダ5と、アーム6と、第1溶接電極7及び第2溶接電極8とを有する。溶接ガン3は、ロボットアーム2の可動範囲内で任意の三次元位置に任意の姿勢で配される。アース電極21は、車体Wの所定位置に接触させた状態で固定される。第1溶接電極7、第2溶接電極8、及びアース電極21は、トランス22、制御装置23、及び電源24に電気的に接続される。
【0019】
図3に拡大して示すように、シリンダ5は、取付部4に固定されたシリンダ本体5aと、シリンダ本体5aに対して進退可能に設けられたロッド5bとを有する。ロッド5bは、自身の軸心方向に往復動可能とされる。シリンダ5としては、エアシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダ等を使用することができ、本実施形態ではエアシリンダが使用される。以下、ロッド5bの移動方向(
図3の上下方向)を「軸方向」と言う。また、
図3を用いた説明では、軸方向でロッド5bがシリンダ本体5aから突出する側(
図3の下側)を下側、その反対側(
図3の上側)を上側とも言うが、これは溶接ガン3の使用態様を限定する趣旨ではない。
【0020】
本実施形態のシリンダ5は、
図4に示すように、シリンダ本体5aの内部にピストン5cが設けられ、このピストン5cにロッド5bが固定されている。シリンダ本体5aの内部は、ピストン5cにより2つの第1空間5dと第2空間5eとに区画されている。第1供給穴5fから第1空間5dに流体圧(本実施形態ではエア圧)を供給することにより、ピストン5cが下方に移動し、ロッド5bがシリンダ本体5aから突出する側に移動する。一方、第2供給穴5gから第2空間5eに流体圧を供給することにより、ピストン5cが上方に移動し、ロッド5bがシリンダ本体5aの内部側へ後退する。
【0021】
シリンダ5のロッド5bの端部は、アーム6に連結される(
図3参照)。図示例では、ロッド5bの端部が、フローティングジョイント9を介してアーム6に連結される。フローティングジョイント9は、ロッド5bとアーム6との相対的な傾きを許容しながら、ロッド5bの軸力をアーム6に伝達するものである。本実施形態のフローティングジョイント9は、
図5に示すように、ロッド5bの下端に固定された球状部9aと、球状部9aの外周に設けられた受け部9bと、受け部9bが固定されたハウジング9cとを有する。球状部9aの外球面が受け部9bの内球面で摺動支持されることにより、球状部9aに対する受け部9bの傾き(矢印参照)が許容される。また、球状部9aと受け部9bとが軸方向(図中上下方向)で係合することで、ロッド5bを軸方向に移動させる力が、受け部9b及びハウジング9cを介してアーム6に伝達される。
【0022】
溶接ガン3には、アーム6の移動方向をガイドするガイド機構10が設けられる(
図3参照)。図示例では、シリンダ5を挟んだ両側にガイド機構10が設けられる。各ガイド機構10は、アーム6に固定されたガイドピン10aと、取付部4に固定されたガイド部材10bとを有する。ガイド部材10bでガイドピン10aを支持しながら、両者の相対的な軸方向移動が許容されることで、アームの移動方向が軸方向(図中上下方向)にガイドされる。ガイド機構10としては、例えばボールスプライン等の直動案内用のガイド機構を使用できる。
【0023】
アーム6は、金属、例えばアルミニウム合金で形成され、
図3に示す側面視で略C形を成している。具体的に、アーム6は、軸方向と直交する方向に延びる第1部分6aと、第1部分6aの一端から下方に延びる第2部分6bと、第2部分6bの下端から第1部分6aと略平行な方向に延びる第3部分6cとを一体に有する。アーム6がC形を成していることで、アーム6の内側にワークを配するための空間を確保できる。
【0024】
アーム6の第3部分6cには、第1溶接電極7及び第2溶接電極8が固定される。図示例では、アーム6の下端(第3部分6c)に、電極固定部材11を介して両溶接電極7、8が固定される。第1溶接電極7は、電極固定部材11から上側に延びており、先端が、電極固定部材11に固定された基端よりも上側に配される。すなわち、第1溶接電極7は、先端を上側に向けた状態で配される。第2溶接電極8は、電極固定部材11から下側に延びており、先端が、電極固定部材11に固定された基端よりも下側に配される。すなわち、第2溶接電極8は、先端を下側に向けた状態で配される。図示例では、第1溶接電極7及び第2溶接電極8の軸心が軸方向と平行となっている。また、図示例では、第1溶接電極7と第2溶接電極8が同軸上に配されている。
【0025】
第1溶接電極7、第2溶接電極8、及び電極固定部材11の内部には、冷却水が流通するための冷却流路12が設けられる。具体的に、冷却流路12は、第1溶接電極7の内部に設けられた第1流路12aと、第2溶接電極8の内部に設けられた第2流路12bと、電極固定部材11の内部に設けられた第3流路12cとを有する。第3流路12cは、軸方向と直交する方向に延びる横流路12c1と、横流路12c1の端部から分岐して軸方向に延びる縦流路12c2とを有する。本実施形態では、第1溶接電極7及び第2溶接電極8が同軸上に設けられるため、第1流路12a、第2流路12b、及び第3流路12cの縦流路12c2を、一本の軸方向孔で形成することができる。
【0026】
また、両溶接電極7、8が同軸上に配され、且つ軸方向と平行であることで、シリンダ5の軸心L1と各溶接電極7、8の軸心L2との間の距離Lが等しい。これにより、シリンダ5の圧力から、各溶接電極7、8で接合予定部を押圧する圧力を算出しやすくなる。
【0027】
次に、上記の溶接装置1で、車体Wの接合予定部に室内側から溶接を行う方法を説明する。
【0028】
図6を用いて、第1溶接電極7を用いて溶接を行う場合を説明する。まず、車体Wの開口部W1から溶接ガン3の一部を侵入させ、第1溶接電極7を車体Wの内部に配すると共に、シリンダ5を車体Wの外部に配する。そして、第1溶接電極7の軸方向一方側(シリンダ5側、図中右側)に車体Wの接合予定部P1を配し、第1溶接電極7の先端を車体Wの接合予定部P1に室内側から対向させる。
【0029】
そして、シリンダ5のロッド5bを後退させる側に駆動して、第1溶接電極7を軸方向一方側に引き込むことにより(
図6の白抜き矢印参照)、第1溶接電極7の先端で車体Wの接合予定部P1を室内側から押圧する(点線参照)。本実施形態のシリンダ5はエアシリンダであるため、シリンダ5の第2空間5e(
図4参照)に所定のエア圧を供給することで、複雑な制御を要することなく、第1溶接電極7で接合予定部P1を押圧する圧力が一定に維持される。この状態で、
図2に示す電源24から供給された電流を、制御装置23からの指令に基づいてトランス22で増幅して第1溶接電極7に供給することにより、第1溶接電極7、車体W(接合予定部P1)、アース電極21という経路で通電される。これにより、接合予定部P1にナゲットが形成され、複数の金属板が接合される。
【0030】
このように、シリンダ5の引き込み動作により第1溶接電極7を接合予定部P1に室内側から押し付けることで、溶接ガン3全体を車体Wの内部に侵入させることなく、シリンダ5を車体Wの外部に配した状態で、接合予定部P1を室内側から容易に溶接することができる。
【0031】
また、溶接装置1が接合予定部P1の溶接作業を行っている間、他の溶接装置は、上記の溶接装置1の作業エリアへの侵入が規制される(インターロック機能)。本実施形態では、
図6に示すように、溶接ガン3の一部のみが車体Wの内部に配され、シリンダ5やアーム6の第1部分6a等が車体Wの外部に配されている。従って、上記の溶接装置1が接合予定部P1を溶接している間でも、他の溶接装置の溶接ガンを車体の内部に侵入させることができるため、他の溶接装置の待ち時間(インターロック)が少なくなり、溶接工程のサイクルタイムが短縮される。
【0032】
次に、
図7を用いて、第2溶接電極8を用いて溶接を行う場合を説明する。まず、第2溶接電極8の軸方向他方側(シリンダ5と反対側、図中下側)に車体Wの接合予定部P2を配し、第2溶接電極8の先端を車体Wの接合予定部P2に対向させる。そして、シリンダ5のロッド5bを突出する側に駆動して、第2溶接電極8を軸方向他方側に押し出すことにより(
図7の白抜き矢印参照)、第2溶接電極8の先端で車体Wの接合予定部P2を押圧する(点線参照)。この状態で、
図2に示す電源24から供給された電流を、制御装置23からの指令に基づいてトランス22で増幅して第2溶接電極8に供給することにより、第2溶接電極8、車体W(接合予定部P2)、アース電極21という経路で通電される。これにより、接合予定部P2にナゲットが形成され、複数の金属板が接合される。
【0033】
以上のように、溶接装置1が、先端が軸方向他方側(
図3の上側)を向いた第1溶接電極7と、先端が軸方向一方側(
図3の下側)を向いた第2溶接電極8とを有することで、一台の溶接装置1で様々な打点を溶接することができる。これにより、溶接工程で車体Wの周囲に配置する溶接装置1(
図1参照)の台数を減らすことができるため、低コスト化及び省スペース化が図られる。
【0034】
ところで、溶接電極7、8が接合予定部P1、P2を押圧したとき、その反力により、アーム6にモーメントMが加わる(
図6、7参照)。本実施形態では、アーム6を軸方向にガイドするガイド機構10が設けられているため、上記のモーメントMによるアーム6の傾斜を抑えることができる。特に、図示例では、シリンダ5の両側に、軸方向と直交する方向に離間して一対のガイド機構10を設けているため、モーメントMに対するアーム6の剛性が高められる。
【0035】
しかし、ガイド機構10によってもアーム6の傾斜を完全に抑えることはできないため、溶接電極7、8による押圧力の反力でアーム6は僅かに傾斜する。このとき、フローティングジョイント9により、シリンダ5のロッド5bに対するアーム6の傾斜が許容されるため、アーム6に加わるモーメントMがシリンダ5のロッド5bに伝わる事態を防止できる。これにより、シリンダ5のロッド5bが、常に軸方向と平行な状態で往復動するため、ロッド5b及びピストン5cがスムーズに動作し、シリンダ5の応答性が高められる。
【0036】
以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0037】
例えば、上記の溶接装置1の第2溶接電極8を省略し、第1溶接電極7のみを備えた構成としてもよい。
【0038】
また、第1溶接電極7と第2溶接電極8を、同軸上ではなく、軸方向と直交する方向で異なる位置に設けてもよい。また、第1溶接電極7と第2溶接電極8の一方又は双方を複数本設けてもよい。
【0039】
また、第1溶接電極7を軸方向に対して傾斜する方向に延ばしてもよい。この場合、第1溶接電極7の先端は基端よりも軸方向他方側(シリンダ5側)に配される。同様に、第2溶接電極8を軸方向に対して傾斜する方向に延ばしてもよい。この場合、第2溶接電極8の先端は基端よりも軸方向一方側(シリンダ5と反対側)に配される。
【0040】
また、アーム6は、上記以外の形状であってもよく、例えば側面視でL字形状としてもよい。
【0041】
また、本発明は、インダイレクトスポット溶接装置に限らず、複数の金属板の接合予定部に対して厚さ方向一方側のみから溶接電極を当接させる片側スポット溶接装置であれば適用することができる。例えば、本発明は、一対の第1溶接電極を複数の金属板に厚さ方向一方側から当接させるシリーズスポット溶接装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 インダイレクトスポット溶接装置(片側スポット溶接装置)
2 ロボットアーム
3 溶接ガン
4 取付部
5 シリンダ
5b ロッド
6 アーム
7 第1溶接電極
8 第2溶接電極
9 フローティングジョイント
10 ガイド機構
11 電極固定部材
12 冷却流路
21 アース電極
22 トランス
23 制御装置
24 電源
P1、P2 接合予定部
W 車体
【手続補正書】
【提出日】2024-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
以上のように、本発明の片側スポット溶接装置及び片側スポット溶接方法によれば、複数の金属板の接合予定部を裏側からでも容易に溶接することができる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
図1は、自動車の車体の溶接
設備の平面図である。この溶接
設備では、車体Wの車幅方向両側に、それぞれ複数台(図示例では5台ずつ)の溶接装置が配される。この溶接装置として、本発明の一実施形態に係る片側スポット溶接装置であるインダイレクトスポット溶接装置1が使用される。尚、この溶接
設備に設けられる溶接装置の一部を、ダイレクトスポット溶接装置や、従来のインダイレクトスポット溶接装置(
図8参照)としてもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
図6を用いて、第1溶接電極7を用いて溶接を行う場合を説明する。
第1溶接電極7の軸方向一方側は、図6における第1溶接電極7の左側である。まず、車体Wの開口部W1から溶接ガン3の一部を侵入させ、第1溶接電極7を車体Wの内部に配すると共に、シリンダ5を車体Wの外部に配する。そして、第1溶接電極7の軸方向
他方側(シリンダ5側、図中右側)に車体Wの接合予定部P1を配し、第1溶接電極7の先端を車体Wの接合予定部P1に室内側から対向させる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
そして、シリンダ5のロッド5bを後退させる側に駆動して、第1溶接電極7を軸方向
他方側に引き込むことにより(
図6の白抜き矢印参照)、第1溶接電極7の先端で車体Wの接合予定部P1を室内側から押圧する(点線参照)。本実施形態のシリンダ5はエアシリンダであるため、シリンダ5の第2空間5e(
図4参照)に所定のエア圧を供給することで、複雑な制御を要することなく、第1溶接電極7で接合予定部P1を押圧する圧力が一定に維持される。この状態で、
図2に示す電源24から供給された電流を、制御装置23からの指令に基づいてトランス22で増幅して第1溶接電極7に供給することにより、第1溶接電極7、車体W(接合予定部P1)、アース電極21という経路で通電される。これにより、接合予定部P1にナゲットが形成され、複数の金属板が接合される。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
次に、
図7を用いて、第2溶接電極8を用いて溶接を行う場合を説明する。まず、第2溶接電極8の軸方向
一方側(シリンダ5と反対側、図中下側)に車体Wの接合予定部P2を配し、第2溶接電極8の先端を車体Wの接合予定部P2に対向させる。そして、シリンダ5のロッド5bを突出する側に駆動して、第2溶接電極8を軸方向
一方側に押し出すことにより(
図7の白抜き矢印参照)、第2溶接電極8の先端で車体Wの接合予定部P2を押圧する(点線参照)。この状態で、
図2に示す電源24から供給された電流を、制御装置23からの指令に基づいてトランス22で増幅して第2溶接電極8に供給することにより、第2溶接電極8、車体W(接合予定部P2)、アース電極21という経路で通電される。これにより、接合予定部P2にナゲットが形成され、複数の金属板が接合される。