(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160435
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】制御情報修正方法、制御情報修正装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20241107BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20241107BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241107BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20241107BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/095 505Z
B33Y10/00
B33Y50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075407
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕志
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 貴宏
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶接ビードを積層することにより積層造形を行う際に、積層パスの積層開始点を、その積層パスより前に積層される積層パスの軌跡を考慮した適切なシフト位置にシフト可能とする。
【解決手段】溶接ビードを積層することにより行われる積層造形の制御情報を修正する制御情報修正方法であって、溶接ビードの複数の積層パスの軌跡及び順序を取得する工程と、複数の積層パスのうちの第1の積層パスの軌跡である第1の軌跡に基づいて、第1の積層パスの積層開始点の近傍範囲を特定する工程と、複数の積層パスの順序に基づいて、複数の積層パスのうちの第1の積層パスより前に積層される第2の積層パスの軌跡であって近傍範囲と重複する軌跡である第2の軌跡を抽出する工程と、第1の軌跡と第2の軌跡とに基づいて、近傍範囲内に積層開始点のシフト位置を設定する工程と、シフト位置に基づいて、制御情報を修正する工程とを含む、制御情報修正方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ビードを積層することにより行われる積層造形の制御情報を修正する制御情報修正方法であって、
溶接ビードの複数の積層パスの軌跡及び順序を取得する工程と、
前記複数の積層パスのうちの第1の積層パスの軌跡である第1の軌跡に基づいて、当該第1の積層パスの積層開始点の近傍範囲を特定する工程と、
前記複数の積層パスの順序に基づいて、当該複数の積層パスのうちの前記第1の積層パスより前に積層される第2の積層パスの軌跡であって前記近傍範囲と重複する軌跡である第2の軌跡を抽出する工程と、
前記第1の軌跡と前記第2の軌跡とに基づいて、前記近傍範囲内に前記積層開始点のシフト位置を設定する工程と、
前記シフト位置に基づいて、前記制御情報を修正する工程と
を含む、制御情報修正方法。
【請求項2】
前記設定する工程では、前記第1の軌跡と前記第2の軌跡と前記シフト位置との対応関係を用いて当該シフト位置を設定する、請求項1に記載の制御情報修正方法。
【請求項3】
前記設定する工程では、前記対応関係をパターン化したパターンデータを前記第1の軌跡と前記第2の軌跡とを用いて探索することにより、前記シフト位置を設定する、請求項2に記載の制御情報修正方法。
【請求項4】
前記設定する工程では、前記対応関係を学習した機械学習モデルに前記第1の軌跡と前記第2の軌跡とを入力することにより、前記シフト位置を設定する、請求項2に記載の制御情報修正方法。
【請求項5】
前記設定する工程では、前記第1の軌跡と前記第2の軌跡との相対的な位置関係を示す特徴量を算出し、当該特徴量と前記シフト位置との対応関係を用いて当該シフト位置を設定する、請求項1に記載の制御情報修正方法。
【請求項6】
前記設定する工程では、前記対応関係を学習した機械学習モデルに前記特徴量を入力することにより、前記シフト位置を設定する、請求項5に記載の制御情報修正方法。
【請求項7】
前記設定する工程では、前記シフト位置を設定することが禁止された禁止部分を含む前記近傍範囲内の当該禁止部分以外の領域に当該シフト位置を設定する、請求項1に記載の制御情報修正方法。
【請求項8】
前記設定する工程では、前記第1の軌跡と、前記溶接ビードの輪郭を持つ前記第2の軌跡とに基づいて、前記シフト位置を設定する、請求項1に記載の制御情報修正方法。
【請求項9】
溶接ビードを積層することにより行われる積層造形の制御情報を修正する制御情報修正装置であって、
溶接ビードの複数の積層パスの軌跡及び順序を取得する取得部と、
前記複数の積層パスのうちの第1の積層パスの軌跡である第1の軌跡に基づいて、当該第1の積層パスの積層開始点の近傍範囲を特定する特定部と、
前記複数の積層パスの順序に基づいて、当該複数の積層パスのうちの前記第1の積層パスより前に積層される第2の積層パスの軌跡であって前記近傍範囲と重複する軌跡である第2の軌跡を抽出する抽出部と、
前記第1の軌跡と前記第2の軌跡とに基づいて、前記近傍範囲内に前記積層開始点のシフト位置を設定する設定部と、
前記シフト位置に基づいて、前記制御情報を修正する修正部と
を備える、制御情報修正装置。
【請求項10】
溶接ビードを積層することにより行われる積層造形の制御情報を修正する制御情報修正装置に、
溶接ビードの複数の積層パスの軌跡及び順序を取得する機能と、
前記複数の積層パスのうちの第1の積層パスの軌跡である第1の軌跡に基づいて、当該第1の積層パスの積層開始点の近傍範囲を特定する機能と、
前記複数の積層パスの順序に基づいて、当該複数の積層パスのうちの前記第1の積層パスより前に積層される第2の積層パスの軌跡であって前記近傍範囲と重複する軌跡である第2の軌跡を抽出する機能と、
前記第1の軌跡と前記第2の軌跡とに基づいて、前記近傍範囲内に前記積層開始点のシフト位置を設定する機能と、
前記シフト位置に基づいて、前記制御情報を修正する機能と
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御情報修正方法、制御情報修正装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ティーチペンダントが、溶接開始点とは異なる別の位置をアークトライ点として教示し、ハードディスクが、アークトライ点に関する少なくとも位置データを含む諸条件を記憶し、ロボット制御装置が、溶接を行うに際し、溶接トーチを溶接開始点ではなくアークトライ点に移動させ、予め定めた動作パターンによりアークを発生させた後に溶接トーチを溶接開始点に到達させて本来の溶接を行う、アーク溶接装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、アークを用いて溶接ビードを積層することにより積層造形を行う際に、既に形成されている溶接ビードの表面にスラグが付着してアークを発生させることが困難になることがあることから、積層パスの積層開始点をシフトさせる場合がある。このような場合に、ある積層パスの積層開始点を、その積層パスより前に積層される積層パスの軌跡を考慮せずにシフトしたのでは、適切なシフト位置にシフトすることができない。
【0005】
本発明の目的は、溶接ビードを積層することにより積層造形を行う際に、積層パスの積層開始点を、その積層パスより前に積層される積層パスの軌跡を考慮した適切なシフト位置にシフト可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、溶接ビードを積層することにより行われる積層造形の制御情報を修正する制御情報修正方法であって、溶接ビードの複数の積層パスの軌跡及び順序を取得する工程と、複数の積層パスのうちの第1の積層パスの軌跡である第1の軌跡に基づいて、第1の積層パスの積層開始点の近傍範囲を特定する工程と、複数の積層パスの順序に基づいて、複数の積層パスのうちの第1の積層パスより前に積層される第2の積層パスの軌跡であって近傍範囲と重複する軌跡である第2の軌跡を抽出する工程と、第1の軌跡と第2の軌跡とに基づいて、近傍範囲内に積層開始点のシフト位置を設定する工程と、シフト位置に基づいて、制御情報を修正する工程とを含む、制御情報修正方法を提供する。
【0007】
設定する工程では、第1の軌跡と第2の軌跡とシフト位置との対応関係を用いてシフト位置を設定してよい。その場合、設定する工程では、対応関係をパターン化したパターンデータを第1の軌跡と第2の軌跡とを用いて探索することにより、シフト位置を設定してもよいし、対応関係を学習した機械学習モデルに第1の軌跡と第2の軌跡とを入力することにより、シフト位置を設定してもよい。
【0008】
設定する工程では、第1の軌跡と第2の軌跡との相対的な位置関係を示す特徴量を算出し、特徴量とシフト位置との対応関係を用いてシフト位置を設定してよい。その場合、設定する工程では、対応関係を学習した機械学習モデルに特徴量を入力することにより、シフト位置を設定してよい。
【0009】
設定する工程では、シフト位置を設定することが禁止された禁止部分を含む近傍範囲内の禁止部分以外の領域にシフト位置を設定してよい。
【0010】
設定する工程では、第1の軌跡と、溶接ビードの輪郭を持つ第2の軌跡とに基づいて、シフト位置を設定してよい。
【0011】
また、本発明は、溶接ビードを積層することにより行われる積層造形の制御情報を修正する制御情報修正装置であって、溶接ビードの複数の積層パスの軌跡及び順序を取得する取得部と、複数の積層パスのうちの第1の積層パスの軌跡である第1の軌跡に基づいて、第1の積層パスの積層開始点の近傍範囲を特定する特定部と、複数の積層パスの順序に基づいて、複数の積層パスのうちの第1の積層パスより前に積層される第2の積層パスの軌跡であって近傍範囲と重複する軌跡である第2の軌跡を抽出する抽出部と、第1の軌跡と第2の軌跡とに基づいて、近傍範囲内に積層開始点のシフト位置を設定する設定部と、シフト位置に基づいて、制御情報を修正する修正部とを備える、制御情報修正装置も提供する。
【0012】
更に、本発明は、溶接ビードを積層することにより行われる積層造形の制御情報を修正する制御情報修正装置に、溶接ビードの複数の積層パスの軌跡及び順序を取得する機能と、複数の積層パスのうちの第1の積層パスの軌跡である第1の軌跡に基づいて、第1の積層パスの積層開始点の近傍範囲を特定する機能と、複数の積層パスの順序に基づいて、複数の積層パスのうちの第1の積層パスより前に積層される第2の積層パスの軌跡であって近傍範囲と重複する軌跡である第2の軌跡を抽出する機能と、第1の軌跡と第2の軌跡とに基づいて、近傍範囲内に積層開始点のシフト位置を設定する機能と、シフト位置に基づいて、制御情報を修正する機能とを実現させるためのプログラムも提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶接ビードを積層することにより積層造形を行う際に、積層パスの積層開始点を、その積層パスより前に積層される積層パスの軌跡を考慮した適切なシフト位置にシフトすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態における金属積層造形システムの概略構成例を示す図である。
【
図2】本実施の形態における積層計画装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】本実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図4】本実施の形態で造形される積層造形物の一例を示す図である。
【
図5】
図4の積層造形物を造形するために溶接トーチが通る軌跡の一例を示す図である。
【
図6】近傍範囲の幅の設定方法の一例を示す図である。
【
図7】設定された幅に基づいて生成される近傍範囲の一例を示す図である。
【
図8】過去パス及びこれから溶接する溶接パスの抽出方法を示す図である。
【
図9】(a)~(l)は、シフトパターンの例を示す図である。
【
図10】(a)は、シフト位置を設定すべき箇所に下層が存在しないことが起こり得る積層造形物の例を示す図であり、(b)は、シフト位置を設定すべき箇所に下層が存在しない例外的なシフトパターンの例を示す図である。
【
図11】ビード幅の情報を加えたシフトパターンの例を示す図である。
【
図12】(a),(b)は、溶接パスを複数の分割点で分割する場合の分割点の設定について示す図である。
【
図13】本実施の形態における制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図14】本実施の形態における積層計画装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図15】本実施の形態における積層計画装置が行う制御プログラム修正処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示す図である。
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、CAD装置20と、積層計画装置30と、制御装置50とを備える。また、積層計画装置30は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体70に書き込み、制御装置50は、記録媒体70に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0017】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)11を備え、制御装置50が読み込んだ制御プログラムに従って動作することで溶接作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕11の先端に手首部12を介して、積層造形物100を造形するための溶接トーチ13を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、軟鋼製の溶加材(ワイヤ)14を溶融しながら、溶接トーチ13を移動させて、積層造形物100を製造する。具体的には、溶接トーチ13は、溶加材14を供給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶加材14を溶融及び固化し、母材90上に複数層の溶接ビード(以下、単に「ビード」という)101を積層して積層造形物100を製造する。尚、ここでは、溶加材14を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。また、溶接ロボット10は、この他に、溶加材14を送給する送給装置等も含むが、これについては説明を省略する。
【0018】
CAD装置20は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うと共に、設計によって得られた三次元データ(以下、「三次元CADデータ」という)を保持する機能を有している。
【0019】
積層計画装置30は、CAD装置20が保持する三次元CADデータに基づいて積層造形物100の積層計画を作成する。つまり、溶接トーチ13の軌道を決定すると共に、溶接ロボット10が溶接する際の溶接条件を決定する。そして、この決定した軌道に沿って決定した溶接条件でビード101を形成するように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成し、この制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0020】
制御装置50は、記録媒体70から制御プログラムを読み込んで保持する。そして、この制御プログラムを動作させることにより、積層計画装置30で作成された積層計画に従って、つまり、積層計画装置30で決定された軌道に沿って、積層計画装置30で決定された溶接条件でビード101を形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
【0021】
また、金属積層造形システム1は、図示しないが、積層造形物100を造形のために位置付けるポジショナを備えていてもよい。例えば、中心軸のサポート材(図示せず)の周りに複数層のビードを積層して円柱状の積層造形物100を製造する場合、ポジショナは中心軸を中心として積層造形物100を回転させる回転ポジショナであってよい。或いは、ポジショナは、積層造形物100を直線状に移動させるリニアポジショナであってもよい。
【0022】
更に、金属積層造形システム1は、図示しないが、溶接ロボット10を平行移動させるための移動装置を備えていてもよい。
【0023】
[積層計画装置のハードウェア構成]
図2は、積層計画装置30のハードウェア構成例を示す図である。
図示するように、積層計画装置30は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現され、演算手段であるCPU31と、記憶手段であるメインメモリ32及び磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)33とを備える。ここで、CPU31は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行し、積層計画装置30の各機能を実現する。また、メインメモリ32は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、磁気ディスク装置33は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。
また、積層計画装置30は、外部との通信を行うための通信I/F34と、ビデオメモリやディスプレイ等からなる表示機構35と、キーボードやマウス等の入力デバイス36と、記録媒体70に対してデータの読み書きを行うためのドライバ37とを備える。尚、
図2は、積層計画装置30をコンピュータシステムにて実現した場合のハードウェア構成を例示するに過ぎず、積層計画装置30は図示の構成に限定されない。
【0024】
また、
図2に示したハードウェア構成は、制御装置50のハードウェア構成としても捉えられる。但し、制御装置50について述べるときは、
図2のCPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37をそれぞれ、CPU51、メインメモリ52、磁気ディスク装置53、通信I/F54、表示機構55、入力デバイス56、ドライバ57と表記するものとする。
【0025】
[本実施の形態の背景及び概要]
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを複数重ねた積層造形物を製造する場合、ビードを形成する毎にアークを発生させる工程(ア―クスタート)が必要となる。
しかしながら、既に形成されているビードの上に次のビードを形成しようとする場合、既に形成されているビードの表面には、溶加材の溶融および固化に伴ってスラグが付着していることがある。そして、通常、スラグは絶縁体で構成されているため、スラグが付着している部位ではアークを発生させることが困難となり、結果として、アークの発生不良に起因するビードの形成不良が生じることがあった。
特に、同一層内のビードの上に狙い位置が来る場合は、層毎のスラグ除去では回避できない。そのような場合、1パス毎にスラグを除去することは考えられるが、非効率的である。
【0026】
そこで、本実施の形態では、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを層内に複数の溶接パス分形成した積層造形物を製造する場合に、アークの発生不良に起因するビードの形成不良の発生を抑制する。
ロボット溶接では、溶接対象の開先形状と1パス目の軌跡を教示することで、事前に設定された溶接パス数、溶接パス順、相対位置、溶接開始位置のシフト量が反映された溶接を実施する機能が知られている。積層造形においては溶接パスの順序や配置は造形対象によって異なり一律で溶接方向から設定することができないため、個別のシフト方向を決定する必要がある。
【0027】
[積層計画装置の機能構成]
図3は、本実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示すブロック図である。図示するように、本実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、積層計画部43と、制御プログラム生成部44と、制御プログラム修正部45と、制御プログラム出力部46とを備える。
【0028】
CADデータ取得部41は、CAD装置20から、積層造形物100の三次元形状を表す三次元CADデータを取得する。
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41が取得した三次元CADデータを複数の層に分割(スライス)することで、各層の形状をそれぞれが表す複数の層形状データを生成する。その際、CADデータ分割部42は、三次元CADデータを複数の層に分割し易い内部形式に変換してもよい。
【0029】
積層計画部43は、CADデータ分割部42が生成した複数の層形状データの各層の高さ及び幅に合ったビードを溶着する際の溶接トーチ13の位置や溶接条件を含む積層計画を生成する。このような積層計画を生成するには、ビードの高さや幅の他、ビードの断面形状を近似するモデルが必要である。これらは測定実験の実測値や、溶着金属量の断面積から計算して推定したものでもよい。例えば、溶接速度やワイヤ送給速度を数条件振って溶着量を変えつつ、ビードオンプレート溶接や鉛直に数層の積層を行い、各々の条件にて1層当たりの高さや幅を測定した結果をデータベース化する。そして、積層する際に積層する所望の高さや幅を満たす溶接速度と溶着量を選択し、測定した結果から各層の推定形状を随時計算し、溶接トーチ13の位置を決める。尚、溶着断面の計算は溶加材14の材質や、既に積層した部位の形状の状態によって計算方法を変えるようにしてもよい。この計算方法によって造形物を内包する積層を計画していく。
【0030】
制御プログラム生成部44は、積層計画部43が生成した積層計画に従って溶接を行うように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成する。
【0031】
制御プログラム修正部45は、制御プログラム生成部44が生成した制御プログラムを修正する。本実施の形態では、制御情報の一例として、制御プログラムを用いており、制御情報を修正する制御情報修正装置の一例として、制御プログラム修正部45を設けている。
具体的には、制御プログラム修正部45は、パス情報取得部451と、近傍範囲生成部452と、配置情報抽出部453と、シフト位置決定部454と、軌跡分割部455と、シフト位置出力部456とを用いて、制御プログラムを修正する。
【0032】
パス情報取得部451は、制御プログラム生成部44が生成した制御プログラムに含まれる溶接ロボット10の軌跡データから、溶接パスに関する情報(以下、「パス情報」という)を時系列順に取得する。
ここで、パス情報は、溶接パスの軌跡及び積層順序の情報を含み、溶接パスの軌跡の情報は、溶接トーチ13がビードを積層する狙い位置の座標情報を少なくとも含む。
また、パス情報は、ビードを積層する際の溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、溶接トーチ13の移動速度、溶接トーチ13の傾斜角、溶接トーチ13を保持した溶接ロボット10の姿勢等の情報を付加的に含んでもよい。更に、パス情報は、各溶接パスで計画するビード形状(ビード高さ、ビード幅)等の情報を付加的に含んでもよい。
【0033】
図4に、本実施の形態で造形される積層造形物100の一例を示す。図示するように、積層造形物100Aは、枠(壁)110aの内側に充填部110bが充填され、この充填部110bの内側に充填部110c~110eが更に充填された構造を有している。
【0034】
図5に、積層造形物100Aを造形するために溶接トーチ13が通る軌跡の一例を示す。図では、細破線矢印により、溶接トーチ13が、軌跡102aを通ることでビード101aを形成した後、軌跡102bを通ることでビード101bを形成し、その後、軌跡102c,102dを通ることでビード101c,101dを形成したことを示している。また、太破線矢印により、溶接トーチ13が、これから、溶接開始位置Psから溶接方向Dに向けて軌跡102eを通ることを示している。
【0035】
本実施の形態では、溶接ビードの複数の積層パスの軌跡及び順序を取得する取得部の一例として、パス情報取得部451を設けている。
【0036】
近傍範囲生成部452は、指定された積層順序(k)に対応する溶接パスの軌跡から、溶接開始位置の近傍を特定する近傍範囲を生成する。
ここで、近傍範囲の形状は、正方形、長方形、円等の平面図形の形状であってよい。そして、近傍範囲は層毎(高さ毎)に生成されることから、その形状は高さ方向が一定の平面形状又は曲面形状としてよい。例えば、平面上にビードを積層する場合は平面形状を採用し、円筒の側面上にビードを積層する場合は曲面形状を採用するとよい。
また、隣り合うビード同士で積層する高さの設定が異なることがあるので、近傍範囲の形状は、立方体、直方体、球形等の立体図形の形状であってもよい。
但し、以下では、近傍範囲として、高さ方向が一定の平面形状で3×3メッシュに分割された正方形の形状を例にとって説明する。近傍範囲生成部452は、このような場合に、溶接方向とメッシュの並ぶ方向とを一致させるのであれば、指定された積層順序に対応する軌跡から溶接開始位置と溶接方向とを求め、この溶接開始位置と溶接方向とから近傍範囲を算出するとよい。
【0037】
図6に、近傍範囲生成部452が生成する近傍範囲の幅の設定方法の一例を示す。図では、溶接開始位置Psからワイヤの曲がり量(Lw)及び造形に用いる積層条件のビード101の幅(以下、「ビード幅」という)の半分(Lb/2)だけ離れた位置を過去パスの狙い位置Prとし、過去パスの狙い位置Prを含むように近傍範囲を設定している。つまり、近傍範囲の幅の半分(Ln/2)が、ワイヤの曲がり量(Lw)とビード幅の半分(Lb/2)との和よりも大きくなるようにしている。
【0038】
図7に、近傍範囲生成部452がこの設定された幅に基づいて生成する近傍範囲の一例を示す。図では、積層条件のビード幅(Lb)をワイヤの曲がり量(Lw)より長い値に設定し、このビード幅(Lb)の3倍を近傍範囲の幅(Ln)としている。そして、近傍範囲生成部452は、後述する配置情報抽出部453で使用するために、近傍範囲を3×3メッシュに分割している。尚、図では、中央のメッシュに溶接開始位置Psを設定し、紙面下方向に溶接方向Dを設定している。
【0039】
本実施の形態では、複数の積層パスのうちの第1の積層パスの軌跡である第1の軌跡の一例として、指定された積層順序(k)に対応する溶接パスの軌跡を用いており、第1の積層パスの積層開始点の一例として、溶接開始位置を用いている。また、本実施の形態では、第1の軌跡に基づいて、積層開始点の近傍範囲を特定する特定部の一例として、近傍範囲生成部452を設けている。
【0040】
配置情報抽出部453は、指定された積層順序(k)に対応する溶接パス、つまり計算中の溶接パスより前に積層される溶接パス(以下、「過去パス」という)の軌跡のうち、近傍範囲生成部452が生成した近傍範囲と重複する過去パスの軌跡の配置情報を抽出する。
具体的には、配置情報抽出部453は、計算中の溶接パスと同じ層の過去パスの軌跡を分割して得られた過去パスの教示点のうち、近傍範囲生成部452が生成した近傍範囲内の過去パス教示点の有無及び分布を示す配置情報を抽出する。尚、過去パスの軌跡の分割は、後述する軌跡分割部455によって行われる。また、過去パスにおいて溶接開始位置のシフトが実施されている場合、配置情報抽出部453は、そのシフトの情報も含めて配置情報を抽出してよい。
【0041】
図8に、過去パス及びこれから溶接する溶接パスの抽出方法を示す。図では、細破線矢印により、過去パスとして、ビード101b,101c,101dの溶接パス103b,103c,103dが抽出されたことが示されている。また、太破線矢印により、これから溶接する溶接パスとして、溶接開始位置Psから溶接方向Dに向かう溶接パス103eが抽出されたことが示されている。
【0042】
本実施の形態では、複数の積層パスのうちの第1の積層パスより前に積層される第2の積層パスの軌跡であって近傍範囲と重複する軌跡である第2の軌跡の一例として、近傍範囲と重複する過去パスの軌跡を用いている。また、本実施の形態では、複数の積層パスの順序に基づいて、第2の軌跡を抽出する抽出部の一例として、配置情報抽出部453を設けている。
【0043】
シフト位置決定部454は、近傍範囲生成部452が求めた計算中の溶接パスの情報と、配置情報抽出部453が抽出した配置情報とに基づいて、溶接開始位置をシフトしたシフト位置を決定する。
具体的には、シフト位置決定部454は、近傍範囲生成部452が求めた溶接開始位置及び溶接方向と、配置情報抽出部453が抽出した近傍範囲内の過去パスの教示点の有無及び分布とに従い、シフト位置を決定する。ここでは、近傍範囲を3×3メッシュに分割し、メッシュ内の溶接開始位置、溶接方向、過去パスの教示点、シフト位置の組み合わせをシフトパターンとして事前に設定することにより、シフト位置決定部454はシフト位置を決定する。即ち、シフト位置決定部454は、近傍範囲生成部452が求めた溶接開始位置及び溶接方向と、配置情報抽出部453が抽出した過去パスの教示点の分布とを、予め記憶されたシフトパターンと照合することにより、該当するシフトパターンを抽出する。
【0044】
図9(a)~(l)に、シフトパターンの例を示す。各図では、過去パスのビード(以下、「過去ビード」という)Bと、溶接開始位置Psと、溶接方向Dと、シフト位置Ptとの組み合わせが設定されている。
例えば、
図9(a)では、溶接開始位置Psが過去ビードBの右側に設定されているので、シフト位置Ptは溶接開始位置Psの更に右側に設定されている。一方、
図9(b)では、溶接開始位置Psが過去ビードBの左側に設定されているので、シフト位置Ptは溶接開始位置Psの更に左側に設定されている。
また、
図9(c)を180°回転した場合、溶接開始位置Ps及び過去ビードBについては、
図9(e)と同じになる。一方、
図9(c)を180°回転した場合、シフト位置Ptについては、
図9(e)と同じにならない。これは、
図9(c)と
図9(e)とで過去ビードBに対する溶接方向Dが異なっているからである。このように、
図9(a)~(l)では、溶接方向Dも考慮して、シフト位置Ptを設定している。但し、溶接方向Dを考慮せずにシフト位置Ptを設定してもよい。
尚、
図9(k),(l)には、シフト位置Ptが存在しない。これは、溶接開始位置Psをシフトしないことを意味する。
【0045】
本実施の形態では、第1の軌跡と第2の軌跡とに基づいて、近傍範囲内に積層開始点のシフト位置を設定する設定部の一例として、シフト位置決定部454のこの機能を設けている。また、本実施の形態では、第1の軌跡と第2の軌跡とシフト位置との対応関係を用いてシフト位置を設定する設定部の一例として、シフト位置決定部454のこの機能を設けている。更に、本実施の形態では、対応関係をパターン化したパターンデータの一例として、シフトパターンを用いており、パターンデータを第1の軌跡と第2の軌跡とを用いて探索することにより、シフト位置を設定する設定部の一例として、シフト位置決定部454のこの機能を設けている。
【0046】
また、シフト位置決定部454は、溶接開始位置、過去パスの教示点、シフト位置の組み合わせをシフトパターンと照合するのではなく、過去パスの教示点の溶接開始位置に対する相対位置に重み付けをした特徴量を用いて、シフト位置を決定してもよい。ここで、具体的な特徴量としては、過去パスのi番目の教示点について、溶接開始位置に対する相対位置を(Xi,Yi)とし、溶接開始位置との間の距離を距離Liとした場合のΣ{(1/Li)×(Xi,Yi)}等が考えられる。つまり、シフト位置決定部454は、溶接開始位置及び過去パスの教示点からこの特徴量を算出し、特徴量が最も近いシフトパターンを抽出するとよい。このようにすれば、記憶されたシフトパターンの中に完全に一致するものがなかったとしても、類似のシフトパターンを抽出することができる。特に、シフトパターンにおける過去パスの教示点にシフト位置を含めた場合は、組み合わせが膨大となり、全てのシフトパターンを網羅して記憶することが難しくなるので、特徴量による判定方法が好適である。
【0047】
本実施の形態では、第1の軌跡と第2の軌跡との相対的な位置関係を示す特徴量を算出し、特徴量とシフト位置との対応関係を用いてシフト位置を設定する設定部の一例として、シフト位置決定部454のこの機能を設けている。
【0048】
更に、特徴量の定義を省略したい場合は、過去パスの教示点の分布等とシフト位置との対応関係を機械学習させたモデルを生成し、シフト位置決定部454は、そのモデルに溶接開始位置からシフト位置へのシフト方向を出力させてもよい。機械学習の方法としては、ニューラルネットワークを多層に結合した深層学習、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、遺伝的アルゴリズム等、公知の方法を用いるとよい。また、学習データとしては、例えば、各シフトパターンの溶接開始位置、溶接方向、過去パスの教示点の分布、シフト方向との対応関係を用いてもよいし、各シフトパターンの特徴量Σ{(1/Li)×(Xi,Yi)}とシフト方向との対応関係を用いてもよい。或いは、学習データとしては、シフト位置を教示したパターン画像を用いてもよい。
【0049】
本実施の形態では、対応関係を学習した機械学習モデルに第1の軌跡と第2の軌跡とを入力することにより、シフト位置を設定する設定部の一例として、シフト位置決定部454のこの機能を設けている。また、本実施の形態では、対応関係を学習した機械学習モデルに特徴量を入力することにより、シフト位置を設定する設定部の一例として、シフト位置決定部454のこの機能を設けている。
【0050】
ところで、
図9(a)~(l)では考慮しなかったが、ブロックの四隅や端部等、シフト位置を設定すべき箇所に下層が存在しない場合もある。
【0051】
図10(a)に、シフト位置を設定すべき箇所に下層が存在しないことが起こり得る積層造形物100Bの例を示す。
図10(a)では、過去ビードB11~B13が既に形成されており、溶接開始位置Psから溶接方向Dに向けての溶接がこれから行われる場合が示されている。この場合、丸囲みCで示すように、シフト位置は、下層が存在しないブロックの端部に設定することとなる。
【0052】
このように下層がない箇所にシフト位置を設定した場合、すかしが発生し、形状不良につながる。そこで、シフト位置を設定不可としたり、シフト位置へのシフト量を制限したりした例外的なシフトパターンを考慮する必要がある。
【0053】
図10(b)に、このような例外的なシフトパターンの例を示す。
図10(b)では、溶接開始位置Ps及び過去ビードB13が図示する位置に存在し、溶接方向Dが図示する方向に向かっているので、
図9(e)の例に従えば、シフト位置Ptは図示する位置に設定されるはずである。しかしながら、
図10(b)の斜線ハッチングで示す最下行のメッシュには下層が存在しないため、シフト位置Ptは設定されない。このことは、シフト位置Ptから溶接開始位置Psへの矢印のうち最下行のメッシュ内の矢印を破線とすることで示している。そして、溶接開始位置Psからシフト位置Ptの方向へ下層がある範囲内で最大限にシフトしたPtnewを新たなシフト位置として設定している。
このようにすれば、母材の端から積層させる場合やオーバーハング部の積層を行う場合にも対応してシフト位置を調整することが可能となる。
【0054】
本実施の形態では、シフト位置を設定することが禁止された禁止部分を含む近傍範囲の一例として、例外的なシフトパターンを用いており、近傍範囲内の禁止部分以外の領域にシフト位置を設定する設定部の一例として、シフト位置決定部454のこの機能を設けている。
【0055】
また、溶接条件によってビード幅が異なるため、シフト位置決定部454は、過去パスの教示点に加えて、その過去パスの溶接条件やビード幅を計算に加え、過去ビードの輪郭を用いてシフト位置を決定してもよい。
【0056】
図11に、ビード幅の情報を加えたシフトパターンの例を示す。
図11では、過去ビードB21,B22が既に形成されており、溶接開始位置Psから溶接方向Dに向けての溶接がこれから行われる場合が示されている。この場合、ビードB21の輪郭よりもビードB22の輪郭の方が遠い位置にあるので、シフト位置決定部454は、シフト位置Ptを、ビードB22の側に設定することになる。
このようにすれば、ビード形状も考慮してシフト位置を調整することが可能となる。
【0057】
本実施の形態では、第1の軌跡と、溶接ビードの輪郭を持つ第2の軌跡とに基づいて、シフト位置を設定する設定部の一例として、シフト位置決定部454のこの機能を設けている。
【0058】
軌跡分割部455は、シフト位置決定部454がシフト位置を決定した溶接パスと、次の溶接パスとが同じ層である場合に、前者の溶接パスを過去パスとして更新する。
具体的には、軌跡分割部455は、近傍範囲生成部452が処理対象とした溶接パスの軌跡を複数の分割点で分割し、過去パスの教示点のデータに追加する。ここで、近傍範囲の境界をまたぐ軌跡の分割点が近傍範囲内と存在するように、分割点の間隔はビード幅の半分以下とする。特に、シフト位置決定部454がメッシュにて判定を行う場合は、分割点間の間隔をメッシュサイズの1/3以下に設定する。
【0059】
図12(a),(b)に、このような分割点の設定について示す。
図12(a)では、近傍範囲生成部452が処理対象とした溶接パスのビードが過去ビードB31となり、図示するように複数の分割点で分割されている。しかしながら、ここでは、分割点の間隔は、メッシュサイズの1/3より長い。このように軌跡の分割が粗いと、近傍範囲内に入っていると認識されなくなってしまう。そこで、分割点の間隔は、より細かくする必要がある。
そこで、
図12(b)では、分割点の間隔をメッシュサイズの1/3以下としている。これにより、メッシュ内を通過する軌跡を正しく判定することが可能となる。
【0060】
シフト位置出力部456は、シフト位置決定部454が決定したシフト位置を、制御プログラム生成部44が生成した制御プログラムに出力することにより、制御プログラムを修正する。
【0061】
本実施の形態では、シフト位置に基づいて、制御情報を修正する修正部の一例として、シフト位置出力部456を設けている。
【0062】
制御プログラム出力部46は、制御プログラム生成部44が生成し、制御プログラム修正部45が修正した制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0063】
[制御装置の機能構成]
図13は、本実施の形態における制御装置50の機能構成例を示すブロック図である。図示するように、本実施の形態における制御装置50は、制御プログラム取得部61と、制御プログラム記憶部62と、制御プログラム実行部63とを備える。
【0064】
制御プログラム取得部61は、記録媒体70に記録された制御プログラムを取得する。
制御プログラム記憶部62は、制御プログラム取得部61が取得した制御プログラムを記憶する。
制御プログラム実行部63は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出して実行する。これにより、制御プログラム実行部63は、制御プログラム生成部44が生成し、制御プログラム修正部45が修正した制御プログラムを実行することにより、溶接ロボット10を制御する。
【0065】
[積層計画装置の動作]
図14は、本実施の形態における積層計画装置30の動作例を示すフローチャートである。
【0066】
積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20から三次元CADデータを取得する(ステップ301)。
次に、CADデータ分割部42が、ステップ301で取得された三次元CADデータを複数の層に分割して、層形状データを生成する(ステップ302)。
次に、積層計画部43が、ステップ302で生成された層形状データから積層計画を生成する(ステップ303)。
次いで、制御プログラム生成部44が、ステップ303で生成された積層計画に基づいて、制御プログラムを生成する(ステップ304)。具体的には、積層計画に従ってビードを形成するように溶接ロボット10を制御する制御プログラムを生成する。
その後、制御プログラム修正部45が、ステップ304で生成された制御プログラムを修正する制御プログラム修正処理を行う(ステップ305)。この制御プログラム修正処理の詳細については、後述する。
最後に、制御プログラム出力部46が、ステップ304で生成され、ステップ305で修正された制御プログラムを記録媒体70に出力する(ステップ306)。
【0067】
図15は、
図14のステップ305の制御プログラム修正処理の例を示すフローチャートである。
【0068】
図示するように、制御プログラム修正処理を開始すると、制御プログラム修正部45では、まず、パス情報取得部451が、ステップ304で生成された制御プログラムに含まれる軌跡データから、パス情報を取得する(ステップ321)。ここで、パス情報は溶接パスの軌跡及び積層順序の情報を含み、溶接パスの軌跡の情報は溶接パスの溶接開始位置及び溶接方向の情報を含む。
【0069】
次に、制御プログラム修正部45は、溶接パスのインデックスkを1に設定する(ステップ322)。つまり、制御プログラム修正部45は、1つ目の溶接パスに着目する。
そして、制御プログラム修正部45は、溶接パスのインデックスkを溶接パスの個数まで1ずつ増加させながら、各インデックスkについてステップ323~329の処理を行う。
【0070】
即ち、近傍範囲生成部452が、kパス目の溶接開始位置の近傍範囲を生成する(ステップ323)。ここで、近傍範囲生成部452は、例えば、ステップ321で取得された溶接パスの溶接開始位置を中心として、3×3メッシュに分割された正方形の範囲を、近傍範囲として生成する。この場合、近傍範囲の幅は、例えば、積層条件におけるビード幅の3倍とすればよい。
次に、配置情報抽出部453が、kパス目の近傍範囲に含まれる過去パスの教示点の配置情報を抽出する(ステップ324)。ここで、配置情報抽出部453は、例えば、ステップ321で取得された溶接パスの積層順序の情報に基づいて、過去パスの教示点を特定する。そして、配置情報抽出部453は、過去パスの教示点のうち、ステップ323で生成された近傍範囲と重複する過去パスの教示点の有無及び分布を示す配置情報を抽出する。
次に、シフト位置決定部454が、kパス目の溶接開始位置のシフト位置を決定する(ステップ325)。ここで、シフト位置決定部454は、例えば、ステップ321で取得された溶接パスの溶接開始位置及び溶接方向、ステップ324で抽出された過去パスの教示点の配置情報に基づいて、シフト位置を決定する。
【0071】
次いで、制御プログラム修正部45は、次の溶接パス、つまり、(k+1)パス目が存在するか否かを判定する(ステップ326)。
ステップ326で次の溶接パスが存在すると判定すれば、制御プログラム修正部45は、次の溶接パスが同じ層に存在するか否かを判定する(ステップ327)。
ステップ327で次の溶接パスが同じ層に存在すると判定すれば、軌跡分割部455は、kパス目の軌跡を複数の分割点で分割し、この複数の分割点を過去パスの教示点として蓄積する(ステップ328)。
一方、ステップ327で次の溶接パスが同じ層に存在しないと判定すれば、制御プログラム修正部45は、kパス目を含む層における過去パスの教示点をリセット(削除)する(ステップ329)。
【0072】
その後、制御プログラム修正部45は、溶接パスのインデックスkに1を加算する(ステップ330)。つまり、制御プログラム修正部45は、次の溶接パスに着目し、処理をステップ323へ戻す。
【0073】
そして、制御プログラム修正部45が、こうした処理を繰り返し、ステップ326で次の溶接パスが存在しないと判定したとする。すると、シフト位置出力部456が、ステップ325で決定されたシフト位置を、
図14のステップ304で生成された制御プログラムに出力する(ステップ331)。
【0074】
(制御装置の動作)
制御装置50では、まず、制御プログラム取得部61が、記録媒体70から制御プログラムを取得して制御プログラム記憶部62に記憶する。この状態で、溶接ロボット10を用いて実際に積層造形物100を造形する際には、制御プログラム実行部63が制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行する。
【0075】
[変形例]
上記では、積層計画装置30において、制御プログラム生成部44が生成した制御プログラムを、制御プログラム修正部45が修正することとしたが、これには限らない。制御装置50において、制御プログラム取得部61が積層計画装置30から取得した制御プログラムを、造形前に、制御装置50内の制御プログラム修正部が修正することとしてもよい。
【0076】
また、上記では言及しなかったが、各層の一部又は全面のスラグ除去工程と合わせて、修正された制御プログラムに基づく積層造形を行うこととしてもよい。
【0077】
[本実施の形態の効果]
本実施の形態では、造形前に、造形に使用する溶接ロボット10の軌跡データに基づいて各溶接パスとそれ以前に実施される過去パスとの位置関係を計算し、所定の範囲内にある過去パスの有無及び分布によって溶接開始位置のシフト位置を決定するようにした。これにより、狙い位置が隣接ビード上のスラグ上となることで発生する溶接開始不良が低減されることとなった。
【0078】
また、本実施の形態では、予めパターン化されたシフトパターンに基づいて、溶接開始位置のシフト位置を決定することとした。これにより、作業者による負荷を低減しつつ造形中のアークスタートエラーを抑制できるようになった。
【符号の説明】
【0079】
1…金属積層造形システム、10…溶接ロボット、20…CAD装置、30…積層計画装置、41…CADデータ取得部、42…CADデータ分割部、43…積層計画部、44…制御プログラム生成部、45…制御プログラム修正部、451…パス情報取得部、452…近傍範囲生成部、453…配置情報抽出部、454…シフト位置決定部、455…軌跡分割部、456…シフト位置出力部、46…制御プログラム出力部、50…制御装置、61…制御プログラム取得部、62…制御プログラム記憶部、63…制御プログラム実行部、70…記録媒体