(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160445
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】滑り支承
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20241107BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
F16F15/02 E
F16F15/02 L
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075431
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】劉 銘崇
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139CA22
2E139CA23
2E139CA24
2E139CC02
3J048AA07
3J048AD05
3J048BE12
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】高い面圧を有するとともに、容易に製造することができる滑り支承を提供する。
【解決手段】滑り支承100は、下沓本体10と、下沓本体10の上面に形成され水平面に沿う第1方向にV字状の凹部をなす下摺接面11と、有する下沓1と、上沓本体20と、上沓本体20の下面に形成され水平面に沿い第1方向と直交する第2方向にV字状の凹部をなす上摺接面21と、有する上沓2と、下沓1と上沓2との間に配置された摺動子本体30と、摺動子本体30の下面に設けられ下摺接面11に対して第1方向に摺動可能な下摺動面と、摺動子本体30の上面に設けられ上摺接面21に対して第2方向に摺動可能な上摺動面35と、を有する摺動子3と、を備え、下沓本体10及び上沓本体20は、コンクリートで形成され、下摺接面11は、コンクリートで形成された下沓本体10の研磨面であり、上摺接面21は、コンクリートで形成された上沓本体20の研磨面である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の下部構造体の上部に設けられる下沓本体と、前記下沓本体の上面に形成され水平面に沿う第1方向にV字状の凹部をなす下摺接面と、有する下沓と、
前記構造物の上部構造体の下部に設けられる上沓本体と、前記上沓本体の下面に形成され水平面に沿い前記第1方向と直交する第2方向にV字状の凹部をなす上摺接面と、有する上沓と、
前記下沓と前記上沓との間に配置された摺動子本体と、前記摺動子本体の下面に設けられ前記下摺接面に対して前記第1方向に摺動可能な下摺動面と、前記摺動子本体の上面に設けられ前記上摺接面に対して前記第2方向に摺動可能な上摺動面と、を有する摺動子と、を備え、
前記下沓本体及び前記上沓本体は、コンクリートで形成され、
前記下摺接面は、コンクリートで形成された前記下沓本体の研磨面であり、
前記上摺接面は、コンクリートで形成された前記上沓本体の研磨面である滑り支承。
【請求項2】
前記下沓は、前記下沓本体における前記第2方向を向く側面に形成された下側面を有し、
前記上沓は、前記上沓本体における前記第1方向を向く側面に形成された上側面を有し、
前記摺動子は、前記下側面に対して前記第1方向に摺動可能な下側部摺動面と、前記上側面に対して前記第2方向に摺動可能な上側部摺動面と、を有し、
前記下側面は、コンクリートで形成された前記下沓本体の研磨面であり、
前記上側面は、コンクリートで形成された前記上沓本体の研磨面である請求項1に記載の滑り支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り支承に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、傾斜面を利用した傾斜滑り支承が知られている。傾斜滑り支承は、傾斜面が形成され、互いに直角するように配置された2本の案内レール(上沓及び下沓)と、それらを連結しつつ摩擦面をスライドする摺動子と、を備えている。案内レールの傾斜している摺接面と摺動子の傾斜している摺動面とが当接する構成である。案内レール及び摺動子は鋼製であり、案内レールにはステンレス製の滑り板が取り付けられて滑り板の表面が摺接面とされ、摺動子には樹脂製の滑り材が取り付けられて滑り材の表面が摺動面とされている。摺動子が案内レールを摺動する際に、摺動面と摺接面との間で発生する摩擦抵抗力を減衰力とし、構造物の自重が傾斜した摺動面及び摺接面に作用することで傾斜復元力を得ている(下記の特許文献1参照)。
【0003】
ステンレス製の滑り板と樹脂製の滑り材との間の摩擦係数は、例えば、滑り材が低摩擦係数の樹脂材料の場合には0.013であり、滑り材が中摩擦係数の樹脂材料の場合には0.11である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
滑り材に生じる最大面圧は15Mpa(長期荷重)~40Mpa(短期荷重)程度であるのに対して、鋼材の圧縮強度は235Mpaである。滑り材に生じる最大面圧が鋼材の圧縮強度の1/10程度にしかならず、鋼製の案内レールは必要以上の強度を有している。案内レール及び摺動子は、滑り材以外全て厚い鋼材(場合よって100mm)から削り出して製作するため、手間とコストがかかったり、鋼材自体も重いため運送と施工に負担がかかったりするという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い面圧を有するとともに、容易に製造することができる滑り支承を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る滑り支承は、構造物の下部構造体の上部に設けられる下沓本体と、前記下沓本体の上面に形成され水平面に沿う第1方向にV字状の凹部をなす下摺接面と、有する下沓と、前記構造物の上部構造体の下部に設けられる上沓本体と、前記上沓本体の下面に形成され水平面に沿い前記第1方向と直交する第2方向にV字状の凹部をなす上摺接面と、有する上沓と、前記下沓と前記上沓との間に配置された摺動子本体と、前記摺動子本体の下面に設けられ前記下摺接面に対して前記第1方向に摺動可能な下摺動面と、前記摺動子本体の上面に設けられ前記上摺接面に対して前記第2方向に摺動可能な上摺動面と、を有する摺動子と、を備え、前記下沓本体及び前記上沓本体は、コンクリートで形成され、前記下摺接面は、コンクリートで形成された前記下沓本体の研磨面であり、前記上摺接面は、コンクリートで形成された前記上沓本体の研磨面である。
【0008】
このように構成された滑り支承では、下沓及び上沓がコンクリートで形成され、下摺接面及び上摺接面は、コンクリートが研磨された研磨面で形成されている。よって、高い面圧及び低摩擦係数の傾斜滑り支承を。コンクリートを用いて容易に製造することができる。
【0009】
また、本発明に係る滑り支承は、前記下沓は、前記下沓本体における前記第2方向を向く側面に形成された下側面を有し、前記上沓は、前記上沓本体における前記第1方向を向く側面に形成された上側面を有し、前記摺動子は、前記下側面に対して前記第1方向に摺動可能な下側部摺動面と、前記上側面に対して前記第2方向に摺動可能な上側部摺動面と、を有し、前記下側面は、コンクリートで形成された前記下沓本体の研磨面であり、前記上側面は、コンクリートで形成された前記上沓本体の研磨面である。
【0010】
このように構成された滑り支承では、下側面及び上側面もコンクリートを研磨した研磨面で形成することができるため、下側面及び上側面を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る滑り支承によれば、高い面圧を有するとともに、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る滑り支承を示す分解斜視図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る滑り支承の摺動子を下方から見た斜視図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る滑り支承の摺動子を上方から見た斜視図である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験で使用した二軸せん断往復動試験装置を示す図である。
【
図5】本発明の第一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験(樹脂材料Aの場合)の結果を示す図である。
【
図6】本発明の第一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験(樹脂材料Bの場合)の結果を示す図である。
【
図7】本発明の第一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験後(樹脂材料Aの場合)の試験体の状態を示す写真である。
【
図8】本発明の第一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験後(樹脂材料Bの場合)の試験体の状態を示す写真である。
【
図9】本発明の第一実施形態に係る滑り支承の摩擦試験の結果で、摩擦係数の比較を示す図である。
【
図10】本発明の第二実施形態に係る滑り支承を示す模式図である。
【
図11】本発明の第二実施形態に係る滑り支承を示す拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係る滑り支承について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る滑り支承を示す分解斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る滑り支承100は、構造物の上部構造体と地盤に支持された下部構造体との間の免震層に設置される。上部構造体と下部構造体とは、水平方向に相対変位可能に構成されている。免震層には、1以上の滑り支承100が設置されている。
【0014】
滑り支承100は、下沓1と、上沓2と、摺動子3と、を備えている。下沓1は、下部構造体の上部に設けられている。上沓2は、上部構造体の下部に設けられている。下沓1と上沓2とは、上下方向に対向して配置されている。摺動子3は、下沓1と上沓2との間に介装されている。
【0015】
上沓2と下沓1とは、水平方向に相対変位可能に構成されている。上沓2と下沓1との上下方向の相対変位は、水平方向の相対変位により決定される。
【0016】
下沓1の水平面に沿う長手方向を第1方向として、矢印Xで示す。上沓2の水平面に沿う長手方向を第2方向とし、矢印Yで示す。第1方向と第2方向とは、直交している。
【0017】
下沓1は、下沓本体10と、下摺接面11と、下側面12と、を有している。
【0018】
下沓本体10は、第1方向に長い長尺のブロック状の部材である。下沓本体10は、コンクリートで形成されている。
【0019】
下摺接面11は、下沓本体10の上面の少なくとも一部である。下摺接面11は、第1方向の略中央に向かってV字状の凹部をなすように形成されている。本実施形態では、下沓本体10の上面の全てが下摺接面11とされているが、下沓本体10の上面の少なくとも一部が下摺接面11として形成されていればよい。下摺接面11は、2枚の平面11aが第1方向の略中央で接続された形状である。
【0020】
下側面12は、下沓本体10の短手方向となる第2方向の両側の両側面の少なくとも一部である。下側面12は、第2方向を向く面である。下側面12は、第1方向及び上下方向に沿う平面である。本実施形態では、下沓本体10の側面の全てが下側面12とされているが、下沓本体10の側面の少なくとも一部が下側面12として形成されていればよい。
【0021】
上沓2は、上沓本体20と、上摺接面21と、上側面22と、を有している。
【0022】
上沓本体20は、第2方向に長い長尺のブロック状の部材である。上沓本体20は、コンクリートで形成されている。
【0023】
下沓本体10及び上沓本体20を形成するコンクリートは、圧縮強度100Mpa以上及びヤング係数35000N/m2以上の少なくとも一方の条件を満たすものである。基準設計面圧(長期面圧)が15Mpaの場合、コンクリートの材料の圧縮限界は50Mpa以上であることが好ましい。短期面圧は、基準設計面圧の2倍の30Mpaであることが好ましい。
【0024】
上摺接面21は、上沓本体20の下面の少なくとも一部である。上摺接面21は、第2方向の略中央に向かって逆V字状の凹部をなすように形成されている。本実施形態では、上沓本体20の下面の全てが上摺接面21とされているが、上沓本体20の下面の少なくとも一部が上摺接面21として形成されていればよい。
【0025】
上側面22は、上沓本体20の短手方向となる第1方向の両側の両側面の少なくとも一部である。上側面22は、第1方向を向く面である。上側面22は、第2方向及び上下方向に沿う平面である。本実施形態では、上沓本体20の側面の全てが上側面22とされているが、上沓本体20の側面の少なくとも一部が上側面22として形成されていればよい。
【0026】
下沓1の下摺接面11及び下側面12は、下沓本体10を所定の研磨工程によって研磨された研磨面である。上沓2の上摺接面21及び上側面22は、上沓本体20を所定の研磨工程によって研磨された研磨面である。例えば、上沓本体20及び摺動子本体30を、それぞれコンクリートを打設して形成して、1週間の養生した後に、#800、#1500~#6000の順で研磨を行う。
【0027】
摺動子3は、摺動子本体30と、下ガイド部31と、上ガイド部32と、滑り材331~334と、を有している。
【0028】
摺動子本体30は、平面視形状が略正方形のブロック体である。摺動子本体30を形成する材料は、適宜設定可能であり、下沓1及び上沓2のようなコンクリートで形成されていてもよく、鋼材で形成されていてもよい。
【0029】
図2は、摺動子3を下方から見た斜視図である。
図3は、摺動子3を上方から見た斜視図である。
図2及び
図3に示すように、摺動子本体30の下面301は、第1方向の両端部から中央部に向かうにしたがって突出する緩やかなV字形の凸状に形成されている。摺動子本体30の上面302は、第2方向の両端部から中央部に向かうにしたがって突出する緩やかな逆V字形の凸状に形成されている。摺動子本体30の下面301は、下沓1の下摺接面11と上下方向に対向する。摺動子本体30の上面302は、上沓2の上摺接面21と上下方向に対向する。
【0030】
下ガイド部31は、摺動子本体30の下面301の第2方向の両縁部それぞれから下方に突出している。下ガイド部31は、壁状である。下ガイド部31は、第1方向に延びている。下ガイド部31は、摺動子本体30の下面301の第2方向の縁部全体にわたって設けられている。摺動子本体30の下面301の第2方向の一方側に設けられた下ガイド部31と、他方側に設けられた下ガイド部31とは、第2方向に対向している。一対の下ガイド部31の間には、下沓1が配置される。一対の下ガイド部31の互いに対向する側の側面311は、下沓1の下側面12と対向する。
【0031】
上ガイド部32は、摺動子本体30の上面302の第1方向の両縁部それぞれから上方に突出している。上ガイド部32は、壁状である。上ガイド部32は、第2方向に延びている。上ガイド部32は、摺動子本体30の上面302の第1方向の縁部全体にわたって設けられている。摺動子本体30の上面302の第1方向の一方側に設けられた上ガイド部32と、他方側に設けられた上ガイド部32とは、第1方向に対向している。一対の上ガイド部32の間には、上沓2が配置される。一対の上ガイド部32の互いに対向する側の側面321は、上沓2の上側面22と対向する。
【0032】
滑り材331は、摺動子本体30の下面301に貼り付けられている。滑り材331は、摺動子本体30の下面301におけるV字形の先端(下端)を挟んだ第1方向の両側それぞれに貼り付けられる。滑り材331の下面である下摺動面34は、下沓1の下摺接面11と接触し、下摺接面11に沿って第1方向に摺動する。
【0033】
滑り材332は、摺動子本体30の上面302に貼り付けられている。滑り材332は、摺動子本体30の上面302における逆V字形の先端(上端)を挟んだ第2方向の両側それぞれに貼り付けられる。滑り材332の上面である上摺動面35は、上沓2の上摺接面21と接触し、上摺接面21に沿って第2方向に摺動する。
【0034】
滑り材333は、摺動子本体30の一対の下ガイド部31の互いに対向する側面に貼り付けられている。滑り材333の対向する面である下側部摺動面36は、下沓1の下側面12と接触し、下沓1の下側面12に沿って第1方向に摺動する。滑り材333は、下ガイド部31の側面から下面に連続して貼り付けられているが、少なくとも下ガイド部31の側面に貼り付けられていればよい。滑り材333は、1つの下ガイド部31につき2個貼り付けられているが、滑り材333の個数は適宜設定可能である。
【0035】
滑り材334は、摺動子本体30の一対の上ガイド部32の互いに対向する側面に貼り付けられている。滑り材334の対向する面である上側部摺動面37は、上沓2の上側面22と接触し、上沓2の上側面22に沿って第2方向に摺動する。滑り材334は、上ガイド部32の側面から上面に連続して貼り付けられているが、少なくとも上ガイド部32の側面に貼り付けられていればよい。滑り材334は、1つの上ガイド部32につき2個貼り付けられているが、滑り材333の個数は適宜設定可能である。
【0036】
滑り材331~334は、摩擦減衰作用を持つ板状の部材である。滑り材331~334は、樹脂材料で形成されている。滑り材331~334のヤング係数は、ヤング係数400N/m2以下であることが好ましい。滑り材333,334の摩擦係数は、滑り材331,332の摩擦係数と同等または滑り材331,332の摩擦係数よりも低いことが好ましい。滑り材331~334の表面に、複数の小さな凹部(ディンプル)が設けて、凹部内に油を充填することで、摩擦係数を低減してもよい。凹部は、例えば直径10mm、深さ0.5mm以下程度である。
【0037】
滑り支承100は、初期状態では、下沓1の第1方向の中央部と上沓2の第2方向の中央部とが上下方向に対向し、下沓1の中央部と上沓2の中央部との間に摺動子3が配置される。摺動子3の下摺動面34と下沓1の下摺接面11とが上下方向に重なり、摺動子3の上摺動面35と上沓2の上摺接面21とが上下方向に重なる。摺動子3の下側部摺動面36と下沓1の下側面12とが第2方向に重なり、摺動子3の上側部摺動面37と上沓2の22とが第1方向に重なる。
【0038】
下沓1、上沓2及び摺動子3を製造する際には、以下の手順で行う。摺動子3もコンクリートで製造する際には、下沓1、上沓2及び摺動子3のそれぞれの型枠を製作する。型枠内にコンクリートを打設する。コンクリートが硬化した後に、脱枠する。下沓1の下摺接面11、下沓1の下側面12、上沓2の上摺接面21及び上沓2の上側面22を、所定の研磨工程で研磨する。摺動子3に下ガイド部31、上ガイド部32、下摺動面34、上摺動面35及び滑り材331~334を貼り付ける。下沓1、上沓2及び摺動子3を組み立てて完成する。
【0039】
次に、摩擦試験結果について説明する。
【0040】
<材料>
[コンクリート材料試験体]
・サイズ:50cm×20cm×5cm
・高強度コンクリート(圧縮強度120Mpa)
・試験体打設して1週間の養生後、#800、#1500~#6000の順で研磨を行う
・上記の内容で摩擦試験用50cm×20cm×5cmのコンクリート板を製作した
[滑り材]
・直径:90mm、面積:6361.7mm
2
・樹脂材料A,Bの2種類
・樹脂材料A,Bともヤング係数400N/m
2以下
・樹脂材料Aの表面には複数の小さな凹部(ディンプル)が設けられ、凹部内に油を充填している(
図7参照)
・樹脂材料Aは低摩擦係数の樹脂材料
・樹脂材料Bは中摩擦係数の樹脂材料
【0041】
<試験条件>
[試験機]
・
図4に示す二軸せん断往復動試験装置を使用し、試験体の上側に滑り材を設置し、下側にコンクリートを設置
[パラメータ]
・a コンクリート板:1種類(同じ配合、同じ研磨工程)
・b 滑り材:2種類(低摩擦係数の樹脂材料A、中摩擦係数の樹脂材料B)
・c 面圧:2.5Mpa,5Mpa,10Mpa,15Mpa,20Mpa,30Mpa,40Mpa
・d 加振速度:1cm/s,10cm/s
また、同じ樹脂材料Bを使用して、コンクリート板とステンレスSUS研磨板に対する摩擦係数の比較も行った。
【0042】
<試験結果>
(1)摩擦係数と速度との関係
摩擦試験の結果を
図5及び
図6に示す。
・縦軸:摩擦係数=鉛直荷重/最大水平荷重(両方とも摩擦試験での実測値)
・横軸:面圧(=鉛直荷重/滑り材面積)
傾斜滑り支承と同じ高面圧(基準面圧15Mpa)で得た摩擦係数は、樹脂材料Aは約0.01であり(ステンレスの場合0.013)、樹脂材料Bは約0.08である(ステンレスの場合0.11)。樹脂材料A,Bの両方ともステンレスの摩擦係数より小さいことが分かった。また、静摩擦係数と動摩擦係数は同じであることが分かった。
【0043】
(2)試験後の写真
図7及び
図8に示すように、面圧が高くてもコンクリート板の表面が削られた痕跡が全くなく、健全であった。滑り材の方で摩耗を生じたが、摩擦性能への影響はない。
【0044】
(3)コンクリートとステンレスとの比較
摩擦試験の結果を
図9に示す。コンクリート板の方の摩擦係数は、ステンレス(SUS研磨板)よりも小さいことが分かった。本実施形態であるコンクリートの配合、研磨工程、滑り材等の組み合わせで、ステンレスと近い摩擦係数が得られることが分かった。
【0045】
このように構成された滑り支承100では、下沓1及び上沓2がコンクリートで形成され、下摺接面11及び上摺接面21は、コンクリートが研磨された研磨面で形成されている。よって、高い面圧及び低摩擦係数の滑り支承100を、コンクリートを用いて容易に製造することができる。
【0046】
また、下側面12及び上側面22もコンクリートを研磨した研磨面で形成することができるため、下側面12及び上側面22を容易に製造することができる。
【0047】
下沓1及び上沓2をコンクリートで製造することができるため、免震すべり支承の性能を保持したままで、大幅なコストダウンが実現することができる。耐荷重が増大し支承サイズが大きいほどコストの削減効果が大きくなる。
【0048】
鋼材の密度は7850Kg/m3ある対してセメントモルタルの密度は2100Kg/m3と軽量である。同じ形状寸法なら重量を従来のの約1/3以下まで軽量化することができる。
【0049】
摩擦係数はステンレスよりもコンクリートの方のが小さいため、従来のステンレス板を貼り付けた傾斜滑り支承よりも免震効果を向上させることができる。
【0050】
下沓1及び上沓2の材料はコンクリートであるため、鉄板を介さずにコンクリート基礎に直接設置することができる。下沓1を下部構造体と同時に施工することができ、上沓2を上部構造体と同時に施工することができ、施工の手間を削減することができる。
【0051】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係る滑り支承について、主に
図10及び
図11を用いて説明する。
図10は、本発明の第二実施形態に係る滑り支承を示す模式図である。
図11は、本発明の第二実施形態に係る滑り支承を示す拡大模式図である。以下の実施形態の説明において、上述の実施形態と同一又は同様な部材及び部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施形態と異なる構成について説明する。
【0052】
図10に示すように、滑り支承100Aは、下沓1Aと、上沓2Aと、摺動子3Aと、を備えている。下沓1は下部構造体101の上部に設けられている。上沓2Aは、上部構造体102の下部に設けられている。
【0053】
図11に示すように、下沓1Aは、下沓本体10Aと、下摺接面11Aと、を有している。下沓本体10Aは、平面視円形状である。下沓本体10Aは、コンクリートで形成されている。下摺接面11Aは、第1方向の略中央に向かってV字状の凹部をなすように形成されている。本実施形態では、下摺接面11Aは、下方に凹む球面状に形成されている。
【0054】
上沓2Aは、上沓本体20Aと、上摺接面21Aと、を有している。上沓本体20Aは、平面視円形状である。上沓本体20Aは、コンクリートで形成されている。上摺接面21Aは、上摺接面21は、第2方向の略中央に向かって逆V字状の凹部をなすように形成されている。本実施形態では、上摺接面21Aは、上方に凹む球面状に形成されている。
【0055】
下沓1Aの下摺接面11Aは、下沓本体10Aを所定の研磨工程によって研磨された研磨面である。上沓2Aの上摺接面21Aは、上沓本体20Aを所定の研磨工程によって研磨された研磨面である。
【0056】
摺動子3Aは、摺動子本体30Aと、滑り材331A、332Aと、を有している。平面視で、摺動子本体30Aは、円形状である。摺動子本体30Aの径は、下沓本体10A及び上沓本体20Aの径よりも小さい。摺動子本体30Aを形成する材料は、適宜設定可能であり、下沓1及び上沓2のようなコンクリートで形成されていてもよく、鋼材で形成されていてもよい。摺動子本体30Aの下面301Aは、下方に凸状の湾曲した形状である。摺動子本体30Aの上面302Aは、上方に凸状の湾曲した形状である。滑り材331Aは、摺動子本体30Aの下面301Aに貼り付けられている。滑り材331Aの下面である下摺動面34Aは、下方に凸状の湾曲した形状である。滑り材332Aは、摺動子本体30Aの上面302Aに貼り付けられている。滑り材332Aの上面である上摺動面35Aは、上方に凸状の湾曲した形状である。滑り材331A、332Aは、第一実施形態の滑り材331~334と同じ材料で形成されている。
【0057】
下摺動面34Aは、下摺接面11Aの曲率と同じ曲率となる球面形状に形成されている。下摺動面34Aは、下摺接面11Aに摺動自在に当接している。上摺動面35Aは、上摺接面21Aの曲率と同じ曲率となる球面形状に形成されている。上摺動面35Aは、上摺接面21Aに摺動自在に当接している。
【0058】
このように構成された滑り支承100Aでは、下沓1A及び上沓2Aがコンクリートで形成され、下摺接面11A及び上摺接面21Aは、コンクリートが研磨された研磨面で形成されている。よって、高い面圧及び低摩擦係数の滑り支承100Aを、コンクリートを用いて容易に製造することができる。
【0059】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0060】
上記に示す実施形態では、摺動子3には滑り材331~334が設けられていて、その一面が摺動面34~37とされているが、これに限られない。摺動子3の下摺動面、上摺動面、下側部摺動面及び上側部摺動面は、それぞれ摺動子3を形成するコンクリートが研磨されて面であってもよい。
【0061】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施形態に係る滑り支承100は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0062】
1,1A 下沓
2,2A 上沓
3,3A 摺動子
10,10A 下沓本体
11,11A 下摺接面
12 下側面
20,20A 上沓本体
21,21A 上摺接面
22 上側面
30,30A 摺動子本体
34,34A 下摺動面
35,35A 上摺動面
36 下側部摺動面
37 上側部摺動面
100,100A 滑り支承