IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マサチューセッツ・アイ・アンド・イア・インファーマリーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016045
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】加齢黄斑変性のための高用量スタチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/40 20060101AFI20240130BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
A61K31/40
A61P27/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023177353
(22)【出願日】2023-10-13
(62)【分割の表示】P 2021147620の分割
【原出願日】2016-10-14
(31)【優先権主張番号】62/241,522
(32)【優先日】2015-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】596114853
【氏名又は名称】マサチューセッツ・アイ・アンド・イア・インファーマリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デミトリオス・ババス
(72)【発明者】
【氏名】ジョーン・ダブリュ・ミラー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】加齢黄斑変性の処置のための方法を提供する。
【解決手段】患者においてAMDの処置のため高用量スタチンを使用する方法を使用して、ドルーゼンおよび/またはドルーゼノイド色素上皮剥離(PED)を退縮させ、RPEおよび/または1つもしくは複数の光受容器の萎縮を予防し、視力喪失を予防し、ならびに/あるいは視力を改善し、ならびに/あるいはドライAMDからウェットAMDへの進行を予防することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法であって、
前記患者をAMDを有すると同定すること;および
前記患者に高用量スタチンを投与することを含み、
前記高用量スタチンが、前記患者においてドルーゼンの退縮を引き起こすのに有効である、方法。
【請求項2】
ドルーゼン退縮について前記患者をモニタリングすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ドルーゼン退縮が、少なくとも85%の低減したドルーゼンサイズを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ドルーゼン退縮が完全な退縮である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法であって、
前記患者をAMDを有すると同定すること;および
前記患者に高用量スタチンを投与することを含み、前記高用量スタチンが、前記患者においてウェットAMDへの進行を予防するのに有効である、方法。
【請求項6】
患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法であって、
前記患者をAMDを有すると同定すること;および
前記患者に高用量スタチンを投与することを含み、
前記高用量スタチンが、前記患者において網膜色素上皮(RPE)の萎縮を予防するのに有効である、方法。
【請求項7】
患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法であって、
前記患者をAMDを有すると同定すること;および
前記患者に高用量スタチンを投与することを含み、
前記高用量スタチンが、前記患者において1つまたは複数の光受容器の萎縮を予防するのに有効である、方法。
【請求項8】
患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法であって、
前記患者をAMDを有すると同定すること;および
前記患者に高用量スタチンを投与することを含み、
前記高用量スタチンが、地図状萎縮を予防するのに有効である、方法。
【請求項9】
患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法であって、
前記患者をAMDを有すると同定すること;および
前記患者に高用量スタチンを投与することを含み、
前記高用量スタチンが、前記患者において視力喪失を予防するのに有効である、方法。
【請求項10】
患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法であって、
前記患者をAMDを有すると同定すること;および
前記患者に高用量スタチンを投与することを含み、前記高用量スタチンが、前記患者において視力を改善するのに有効である、方法。
【請求項11】
視力が少なくとも3文字改善される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
視力が少なくとも12文字改善される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が哺乳類である、請求項1または5~10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記患者がヒトである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒトが、片眼または両眼において巨大なソフトドルーゼンおよび/もしくはドルーゼノイドPEDを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記高用量スタチンが、少なくとも12ヶ月間投与される、請求項1または5~10のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記高用量スタチンが、少なくとも36ヶ月間投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記高用量スタチンが、経口で、または眼に投与される、請求項1または5~10のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記高用量スタチンが、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、およびその類似体からなる群から選択される、請求項1または5~10のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記高用量スタチンが、アトルバスタチン少なくとも40mgの用量均等物を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記高用量スタチンが、アトルバスタチン少なくとも40mgである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記高用量スタチンが、アトルバスタチン少なくとも80mgの用量均等物を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記高用量スタチンが、アトルバスタチン少なくとも80mgである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
抗炎症剤、血管新生抑制剤、抗酸化剤、オメガ3脂肪酸、およびビタミン/ミネラルからなる群から選択される追加の治療剤を投与することをさらに含む、請求項1または5~10のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2015年10月14日付けで出願された、米国特許出願第62/241,522号に対する、米国特許法第119条(e)下の優先権を主張する。前述のものの全内容は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
本開示は、加齢黄斑変性の処置のための物質および高用量スタチンの使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
加齢黄斑変性(AMD)は、文献において報告された少なくとも100種の異なる危険な遺伝子を有し、ならびにドルーゼンのタイプおよびサイズを含む、幾つかの異なる表現型を有する、多因子の不均一な疾患である(Miller, 2013 Am J Ophthalmol 155(1): 1-35.e13)。AMDは、先進国世界における不可逆的な視力喪失の主因であり、萎縮または「ドライ」型、および新生血管または「ウェット」型に大まかに分類される。
【発明の概要】
【0004】
加齢黄斑変性の処置のための物質および高用量スタチンの使用方法が、本明細書において提供される。新生血管AMDのための有効な血管新生抑制処置は存在するが、より蔓延しているドライ型のための有効な処置は足りない。
【0005】
幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法は、患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法を含む。方法は、患者をAMDを有すると同定すること、および患者に高用量スタチンを投与することを含む。高用量スタチンは、患者においてドルーゼンの退縮を引き起こすのに有効である。方法は、ドルーゼン退縮について患者をモニタリングすることを含み得る。ドルーゼン退縮は、少なくとも85%の低減したドルーゼンサイズ、または完全な退縮であり得る。
【0006】
幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法は、患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法を含む。方法は、患者をAMDを有すると同定すること、および患者に高用量スタチンを投与することを含む。高用量スタチンは、患者において網膜色素上皮(RPE)の萎縮を予防するのに有効である。
【0007】
幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法は、患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法を含む。方法は、患者をAMDを有すると同定すること、および患者に高用量スタチンを投与することを含む。高用量スタチンは、患者において1つまたは複数の光受容器の萎縮を予防するのに有効である。
【0008】
幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法は、患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法を含む。方法は、患者をAMDを有すると同定すること、および患者に高用量スタチンを投与することを含む。高用量スタチンは、地図状萎縮を予防するのに有効である。
【0009】
幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法は、患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法を含む。方法は、患者をAMDを有すると同定すること、および患者に高用量スタチンを投与することを含む。高用量スタチンは、患者において視力喪失を予防するのに有効である。
【0010】
幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法は、患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法を含む。方法は、患者をAMDを有すると同定すること、および患者に高用量スタチンを投与することを含み、高用量スタチンは、患者において視力を改善するのに有効である。視力は、少なくとも3文字改善され得る。視力は、少なくとも12文字改善され得る。
【0011】
幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法は、患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法を含む。方法は、患者をAMDを有すると同定すること、および患者に高用量スタチンを投与することを含む。高用量スタチンは、患者においてウェットAMDへの進行を予防するのに有効である。
【0012】
本明細書において提供される方法のいずれにおいても、患者は哺乳類であり得る。例えば、患者はヒトであり得る。幾つかの実施態様において、ヒトは、片眼または両眼において巨大なソフトドルーゼンおよび/もしくはドルーゼノイドPEDを有する。
【0013】
本明細書において提供される方法のいずれにおいても、高用量スタチンは、少なくとも12ヶ月間投与され得る。幾つかの実施態様において、高用量スタチンは、少なくとも36ヶ月間投与され得る。
【0014】
本明細書において提供される方法のいずれにおいても、高用量スタチンは、経口投与され得る。
【0015】
本明細書において提供される方法のいずれにおいても、高用量スタチンは、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、およびその類似体からなる群から選択され得る。幾つかの実施態様において、高用量スタチンは、アトルバスタチン少なくとも40mgの用量均等物を含み得る。高用量スタチンは、アトルバスタチン少なくとも40mgであり得る。幾つかの実施態様において、高用量スタチンは、アトルバスタチン少なくとも80mgの用量均等物を含み得る。高用量スタチンは、アトルバスタチン少なくとも80mgであり得る。
【0016】
本明細書において提供される方法のいずれにおいても、方法は、抗炎症剤、血管新生抑制剤、抗酸化剤、オメガ3脂肪酸、およびビタミン/ミネラルからなる群から選択される、追加の治療剤を投与することをさらに含み得る。
【0017】
別段定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本開示における使用のための方法および物質が本明細書において記載され、当該技術分野において公知の他の適当な方法および物質もまた使用され得る。物質、方法、および実施例は、一例に過ぎず、制限することを意図されない。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース入力、および他の参考文献は、全体として参照により取り込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が支配する。加えて、物質、方法、および実施例は、一例に過ぎず、制限することを意図しない。
【0018】
本発明の1つまたは複数の実施態様の詳細は、添付の図面および以下の記載において説明される。本発明の他の特性、対象、および利点は、記載および図面から、ならびに請求項から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、一連の眼底検査画像である。試験の開始時、両側性の広範な集密的巨大ソフトドルーゼンおよび色素性変化が見られる(上部の列)。加齢眼疾患研究(AREDS)補給の投与は、ドルーゼンに影響しなかった(中央の列)。アトルバスタチン80mgの6ヶ月間後、ドルーゼンの消失が見られる(下部の列)。
図2図2は、スペクトル領域光干渉断層撮影(SD-OCT)である。試験の開始時、覆っているRPEと光受容器の構造上の歪みが見られる(上部の列)。アトルバスタチン80mgの6ヶ月後、RPEの萎縮に付随することなく、ドルーゼンの完全な消失(図1)が見られる(下部の列)。
図3-1】図3は、親油性スタチンがARPE-19細胞の貪食機能を増大することを示す。(A~C)は、カルボキシレート微粒子(5×10ビーズ/ml)と共に6時間インキュベーションし、次に、大量の50枚の画像を収集する共焦点顕微鏡を使用して画像化した、ARPE-19細胞の顕微鏡画像である。(A)フルオレセイン標識ビーズ、およびDAPI標識核を有するARPE-19細胞を示す、共焦点画像スタック。スタック内の画像Aの深さを、BおよびC中の青線により示す。(B)は、A中の垂直線により示した場所における同じスタックを介した光景である。(C)は、A中の水平線により示した場所における同じスタックを介した光景である。(D)は、フルオレセイン標識カルボキシレート微粒子と共にインキュベーションし、6時間、50μΜアトルバスタチン(ATV)、ロバスタチン(LOV)もしくはシンバスタチン(SIMV)で処理したARPE-19細胞のフローサイトメトリーにより決定した、ビーズ陽性細胞またはY軸が表す貪食細胞のパーセント、あるいは蛍光強度またはX軸が表す、貪食指数を示すグラフである。
図3-2】図3は、親油性スタチンがARPE-19細胞の貪食機能を増大することを示す。(E)は、貪食細胞のパーセントを計るグラフである。(F)は、平均蛍光強度(または貪食指数)を計るグラフである。データを平均±SEとして表す。p<0.05対対照群。
図4図4は、アトルバスタチンがARPE-19細胞の貪食機能を増大することを示すグラフを含む。(A)フルオレセイン標識カルボキシレート微粒子と共にインキュベーションし、6時間、1、25、50、または75μΜアトルバスタチンで処理したARPE-19細胞のフローサイトメトリーにより決定した、ビーズ陽性細胞またはY軸が表す貪食細胞のパーセント、および蛍光強度またはX軸が表す貪食指数、(B)貪食細胞のパーセントの数量化。(C)平均蛍光強度(または貪食指数)の数量化。各実験を、3つの独立した回数繰り返した。データを平均±SEとして表す。p<0.05対対照群。
図5-1】図5は、アトルバスタチンが、光退色後にARPE19細胞の膜において蛍光の回復を増大させることを示すグラフを含む。50μΜアトルバスタチンでの処理の3時間後、色素BODIPY(登録商標)FL C 12を使用することで、ARPE-19のFRAP測定を行った。(A)2つの独立した実験由来の対照(n=16細胞)またはアトルバスタチン処理(n=16細胞)ARPE-19細胞におけるBODIPY(登録商標)FL C 12の平均回復曲線。
図5-2】図5は、アトルバスタチンが、光退色後にARPE19細胞の膜において蛍光の回復を増大させることを示すグラフを含む。50μΜアトルバスタチンでの処理の3時間後、色素BODIPY(登録商標)FL C 12を使用することで、ARPE-19のFRAP測定を行った。(B)2つの独立した実験由来の対照(n=16細胞)またはアトルバスタチン処理(n=16細胞)ARPE19細胞におけるBODIPY(登録商標)FL C 12の平衡の正規化半減時間の平均。データを平均±SEとして表す。p<0.05対対照群。
図6図6は、アトルバスタチンが、ARPE-19細胞においてコレステロール結晶およびox-LDLにより誘導される低下した貪食機能を回復させることを示す一連のグラフである。(A)ARPE-19細胞を、カルボキシレート微粒子(5×10ビーズ/ml)、1または2mg/mlコレステロール結晶と共に、50μΜアトルバスタチンありまたはなしで6時間インキュベーションし、ビーズ陽性細胞が表す、貪食細胞のパーセントの数量化、(B)フルオレセイン標識カルボキシレート微粒子と共にインキュベーションし、6時間、50μΜアトルバスタチンとの同時インキュベーションありまたはなしで、1または2mg/ml CHLで処理したARPE-19細胞のフローサイトメトリーにより決定した、平均蛍光強度(または貪食指数)の数量化。(C)ARPE-19細胞を、300μg/ml ox-LDLで18時間処理し、次に、50μΜアトルバスタチンありまたはなしで、カルボキシレート微粒子(5×10ビーズ/ml)と共に6時間インキュベーションした。ビーズ陽性細胞が表す、貪食細胞のパーセントの数量化、(D)フルオレセイン標識カルボキシレート微粒子と共にインキュベーションし、18時間、50μΜアトルバスタチンありまたはなしでoxLDLで処理したARPE-19細胞のフローサイトメトリーにより決定した、平均蛍光強度(または貪食指数)の数量化。データを平均±SEとして表す。p<0.05対対照群。§p<0.05対2mg/ml CHL群またはoxLDL群。
図7-1】図7は、アトルバスタチンが、ARPE-19細胞においてコレステロール結晶およびoxLDLにより誘導されるIL-6ならびにIL-8分泌を阻害することを示す、一連のグラフである。0.1、0.5、もしくは1μΜアトルバスタチンでの前処理ありまたはなしでのCHL処理の6時間後の培養液のウェスタンブロットにより決定したARPE-19細胞由来のIL-6(A)およびIL-8(B)分泌。データを平均±SEとして表す。p<0.05対CHL処置群。
図7-2】図7は、アトルバスタチンが、ARPE-19細胞においてコレステロール結晶およびoxLDLにより誘導されるIL-6ならびにIL-8分泌を阻害することを示す、一連のグラフである。0.1、0.5、もしくは1μΜアトルバスタチンでの前処理ありまたはなしでのoxLDL処理の18時間後の、それぞれ、ウェスタンブロットおよびELISAにより決定したARPE-19細胞由来のIL-6(C)ならびにIL-8(D)分泌。データを平均±SEとして表す。p<0.05対CHL処置群。
【発明を実施するための形態】
【0020】
加齢黄斑変性(AMD)は、西欧諸国における成人での不可逆的な視力喪失の主因である(Wong et al., 2014 Lancet Glob Health 2(2):e106-16)。
【0021】
AMDは、2つのタイプに大まかに分類される。萎縮または「ドライ」型は、最も蔓延しており、網膜色素上皮(RPE)と脈絡膜との間のドルーゼンと呼ばれる細胞外沈着物の蓄積により特徴付けられる。進行性AMDへの進行は、例えば、RPEおよび/または1つもしくは複数の光受容器の萎縮、ならびに/または異常な脈絡膜の血管新生(新生血管または「ウェット」AMD)を含んでもよい。それはドライ型より蔓延してはいないが、新生血管AMDは、急激な視力喪失と関連付けられる。しかしながら、新生血管AMDのための有効な血管新生抑制処置をよそに、より蔓延しているドライ型のための有効な処置は足りない。
【0022】
患者においてAMDの処置のため高用量スタチンを使用する方法が、本明細書において提供される。例えば、提供される方法を使用して、ドルーゼン(例えば、ソフトドルーゼン)を退縮させ、ドルーゼノイド色素上皮剥離(PED)を退縮させ、RPEの萎縮を予防し、1つもしくは複数の光受容器の萎縮を予防し、視力喪失を予防し、視力を改善し、および/またはドライAMDからウェットAMDへの進行を予防することができる。
【0023】
ドルーゼン
ドライAMDの顕著な徴候の1つは、局所組織(RPE/網膜)から、および循環からもたらされる成分である、ドルーゼンの蓄積である(Curcio et al., 2011 Br J Ophthalmol 95(12):1638-45;Wu et al., 2010 J Neurochem 114(6):1734-44)。ドルーゼノイド色素上皮剥離(PED)もまたAMDと関連付けられ、そこでは、網膜色素上皮が、1つまたは複数のドルーゼンの存在に起因して下層のブルッフ膜から離れている。
【0024】
ドルーゼンは、ハードドルーゼンまたはソフトドルーゼンであり得る。「ハード」ドルーゼンは小さく、明らかであり、互いに遠く離れており、仮にあったとしても、長期間視力の問題を引き起こさないかもしれない。「ソフト」ドルーゼンは、不明瞭な辺縁を有し、巨大であり、まとまって密に群がる。脂質は、ドルーゼンの主要な構成物質であり、エステル型コレステロール(EC)、非エステル型コレステロール(UC)、およびハードドルーゼンの体積の40%を構成するホスファチジルコリンを有する。ソフトドルーゼンは、ハードドルーゼンよりもろく、高い脂質構成と一致して、切開の際に油状である。ソフトドルーゼンの存在は、進行性ドライまたはウェットAMDの連続的発症の主要なリスク因子の1つである。幾つかの実施態様において、本明細書において記載される方法により処置されるドルーゼンは、ソフトドルーゼンである。
【0025】
スタチン
本明細書において記載される方法は、高用量スタチンの投与を含む。スタチン(またはHMG-CoA還元酵素阻害剤)は、コレステロールを低下させる薬物の一種であり、構造上HMG-CoAに類似し、以下に示される。
【化1】
【0026】
スタチンは、HMG-CoA活性部位においてHMG-CoA還元酵素に競合的に結合することにより、酵素HMG-CoA還元酵素を阻害する。いずれのスタチンが、本明細書において記載される方法において使用されてもよい。スタチンの非限定的な例は、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標))、セリバスタチン、フルバスタチン(LESCOL(登録商標))、ロバスタチン(MEVACOR(登録商標)、ALTOCOR(商標))、ピタバスタチン(LIVALO(登録商標))、プラバスタチン(PRAVACHOL(登録商標)、SELEKTINE(登録商標))、ロスバスタチン(CRESTOR(登録商標))、シンバスタチン(ZOCOR(登録商標))、その類似体、およびその組み合わせを含む。幾つかの実施態様において、スタチンはアトルバスタチンである。
【0027】
スタチンは、親油性または親水性のいずれかであり得る。親油性スタチンは、例えば、アトルバスタチン、ロバスタチン、およびシンバスタチンを含む。親水性スタチンは、例えば、フルバスタチン、ロスバスタチン、およびプラバスタチンを含む。幾つかの実施態様において、スタチンは、親油性(例えば、アトルバスタチン)である。
【0028】
本明細書において使用される用語「高用量」は、世界保健機関(WHO)に従い定義された1日用量(DDD)より過剰である、任意の用量を言う。2015 ATC/DDD Indexは、アトルバスタチンについて20mg、セリバスタチンについて0.2mg、フルバスタチンについて60mg、ロバスタチンについて45mg、ピタバスタチンについて2mg、プラバスタチンについて30mg、ロスバスタチンについて10mg、およびシンバスタチンについて30mgとして、DDDを示す(例えば、whocc.no/atc_ddd_index/を参照)。例えば、スタチンがアトルバスタチン(20mgのDDDを有する)である実施態様において、アトルバスタチンの高用量は、少なくとも40mg、少なくとも50mg、少なくとも60mg、少なくとも70mg、少なくとも80mg、少なくとも90mg、または少なくとも100mgであり得る。幾つかの実施態様において、高用量スタチンは、アトルバスタチン少なくとも80mgである。
【0029】
他の実施態様において、高用量アトルバスタチンの用量均等物が使用され得る。他のスタチンの均等な用量は、当業者により容易に決定され得る。例えば、スタチンのDDDに基づき、アトルバスタチン80mgの均等な用量は、セリバスタチンについて0.8mg、フルバスタチンについて240mg、ロバスタチンについて180mg、ピタバスタチンについて8mg、プラバスタチンについて120mg、ロスバスタチンについて40mg、およびシンバスタチンについて120mgであり得る。
【0030】
維持用量スタチンを使用する方法もまた、本明細書において提供される。例えば、AMDの有効な処置に従い、投与されるスタチンの量は、高用量スタチンから維持用量のスタチンまで低減され得る。本明細書において使用される「維持用量」は、高用量より少なく、スタチンのWHOによるDDDとほぼ等しい、スタチンの用量を示す。例えば、アトルバスタチン(20mgのDDDを有する)の維持用量は、約15mg、約20mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、または約60mgであり得る。幾つかの実施態様において、維持用量スタチンは、アトルバスタチン約60mgである。幾つかの実施態様において、維持用量スタチンは、アトルバスタチン約40mgである。
【0031】
他の実施態様において、維持用量アトルバスタチンの用量均等物が使用され得る。他のスタチンの均等な用量は、当業者により容易に決定され得る。例えば、スタチンのDDDに基づき、アトルバスタチン40mgの均等な維持用量は、セリバスタチンについて0.4mg、フルバスタチンについて120mg、ロバスタチンについて90mg、ピタバスタチンについて4mg、プラバスタチンについて60mg、ロスバスタチンについて20mg、およびシンバスタチンについて60mgであり得る。
【0032】
使用方法
患者においてAMDの処置のため高用量スタチンを使用する方法が、本明細書において提供される。幾つかの実施態様において、本開示は、患者においてドルーゼン(例えば、ソフト)および/またはドルーゼノイドPEDを退縮させる方法を提供する。幾つかの実施態様において、本開示は、患者においてRPEおよび/または1つもしくは複数の光受容器の萎縮を予防する(すなわち、そのリスクを低減する)方法を提供する。幾つかの実施態様において、本開示は、患者において視力喪失を予防する(すなわち、そのリスクを低減する)、および/または視力を改善する方法を提供する。幾つかの実施態様において、本開示は、患者においてAMD進行(例えば、ドライAMDからウェットAMDへの)を予防する(すなわち、そのリスクを低減する)方法を提供する。本明細書において提供される方法は、患者に本明細書において記載される高用量スタチンを投与することを含み得る。本明細書において提供される方法はまた、患者に本明細書において記載される維持用量スタチンを連続投与することも含み得る。本明細書において提供される方法はまた、患者をAMD(例えば、ドライAMD)またはソフトドルーゼンを有すると同定すること、および場合により、患者を、彼らがAMDまたはソフトドルーゼンを有するという基準に基づき選択することも含み得る。患者においてAMDおよびドルーゼンを診断する方法は、当該技術分野において公知である。本明細書において提供される方法はまた、患者に本明細書において記載される高用量スタチンを投与することの有効性について患者をモニタリングすること(例えば、ドルーゼン退縮、RPEおよび/または1つもしくは複数の光受容器の萎縮、視力喪失および/または視力、AMD進行について患者をモニタリングすること)も含み得る。
【0033】
患者は、哺乳類と非哺乳類の両方を含み得る。哺乳類の非限定的な例は、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、類人猿およびサル)、ウシ、ウマ、ヒツジ、ラット、マウス、ブタ、およびヤギを含む。非哺乳類の非限定的な例は、例えば、サカナおよびトリを含む。幾つかの実施態様において、患者はヒトである。幾つかの実施態様において、患者は、進行の高いリスク特性(例えば、片眼または両眼における多くの巨大なソフトドルーゼンおよび/またはドルーゼノイドPEDの存在)を持つAMDを有するヒトである。
【0034】
本明細書において記載される高用量および/または維持用量スタチンの患者への投与は、スタチンを適当な時間投与することを含み得る。例えば、本明細書において記載される高用量スタチンは、患者に、少なくとも12ヶ月間、少なくとも15ヶ月間、少なくとも18ヶ月間、少なくとも21ヶ月間、少なくとも24ヶ月間、少なくとも30ヶ月間、少なくとも33ヶ月間、少なくとも36ヶ月間、少なくとも39ヶ月間、少なくとも42ヶ月間、少なくとも45ヶ月間、または少なくとも48ヶ月間投与され得る。幾つかの実施態様において、本明細書において記載される高用量および/または維持用量スタチンが、患者に少なくとも36ヶ月間投与される。
【0035】
本明細書において記載される高用量および/または維持用量スタチンの患者への投与は、総1日量が本明細書において記載される1日用量に従うという条件で、スタチンを毎日1回または複数回(例えば、1日1回、1日2回、1日3回など)投与することを含み得る。例えば、高用量スタチン(例えば、アトルバスタチン80mg)は、完全な高用量スタチンにて毎日1回、2回の投与の組み合わせが合計で完全な高用量スタチンとなる1日2回、3回の投与の組み合わせが合計で完全な高用量スタチンとなる1日3回などで投与され得る。幾つかの実施態様において、本明細書において記載される高用量および/または維持用量スタチンは、患者に毎日1回投与される。
【0036】
本明細書において記載される高用量および/または維持用量スタチンは、任意の経路;例えば、静脈内(IV)、眼性(例えば、硝子体内、局所滴下、または局所軟膏)、筋肉内、皮下、経口、鼻腔内、吸入、経皮、および非経口により投与され得る。幾つかの実施態様において、本明細書において記載されるスタチンは、経口投与される。幾つかの実施態様において、本明細書において記載されるスタチンは、静脈内投与される。
【0037】
経口投与のため、本明細書において記載される高用量および/または維持用量スタチンは、ピル、錠剤、粉剤、液剤、カプセル剤の形態、または他の適当な経口投薬形態であり得る。錠剤またはカプセル剤は、結合剤、充填剤、滑沢剤、崩壊剤、または湿潤剤のような薬学的に許容し得る賦形剤と共に調製され得る。経口投与のための液体調製物は、例えば、溶液、シロップ、もしくは懸濁液の形態をとり得るか、またはそれらは、使用前に食塩水もしくは他の適当な液体ビークルと構成するための乾燥製品として提供され得る。
【0038】
本明細書において記載される高用量および/または維持用量スタチンの具体的な用量は、当然、患者の大きさ、体重、年齢および性別を含む個々の患者の特定の状況、処置される疾患の性質およびステージ、疾患異常の攻撃性、ならびに化合物の投与の経路により決定される。
【0039】
本明細書において記載される高用量スタチン(例えば、高用量アトルバスタチン)の「治療上有効量」は、典型的には、所望の効果(例えば、ドルーゼンおよび/またはドルーゼノイドPEDを退縮させること、量免疫原性および/または毒性物質を低減すること、萎縮を予防すること、視力喪失を予防すること、視力を改善すること、進行を予防することなど)を達成するのに十分であるものであり、AMDの性質および重症度、ならびに本明細書において記載される高用量スタチンの効力に従い変動してもよい。
【0040】
本明細書において記載される維持用量スタチン(例えば、維持用量アトルバスタチン)の「有効量」は、典型的には、測定されたパラメーターにおけるいずれかのさらなる変化を予防するのに十分であるものであり、AMDの性質および重症度、ならびに本明細書において記載される維持用量スタチンの効力に従い変動してもよい。
【0041】
本明細書において使用される「予防すること」は、治療的処置が、対象または症状の100%を有効かつ臨床上有用であるまで治癒させる必要はなく、予防的処置が、対象において状態の発症または進行の全リスクの100%を取り除く必要がないことと同様に、対象において状態の発症または進行のリスクを低減することを言う。従って、RPEの萎縮、1つもしくは複数の光受容器の萎縮、視力喪失、および/またはドライAMDからウェットAMDへの進行を「予防する」処置は、RPEの萎縮、1つもしくは複数の光受容器の萎縮、視力喪失、および/またはドライAMDからウェットAMDへの進行の対象におけるリスクを低減するものである。
【0042】
患者当たりのドルーゼンおよび/またはドルーゼノイドPEDを退縮させる方法は、患者に本明細書において記載される高用量スタチンを投与することを含み得る。ドルーゼンおよび/またはドルーゼノイドPEDの退縮は、例えば、生体顕微鏡検査、3次元眼底検査(例えば、カラー眼底撮影)、黄斑機能評価、光干渉断層撮影(OCT)、自己蛍光、および/または血管造影(例えば、蛍光血管造影)のような眼の検査を含む、任意の適当な方法により、評価され得る。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、本明細書において記載される高用量スタチンを受け取っていないAMDを有する患者と比べて、患者においてドルーゼンの大きさを低減するのに有効であり得る。例えば、ドルーゼン退縮は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、20%にて、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%であり得る。ドルーゼンは、例えば、体積、高さ、直径、および/または数のようなパラメーターを測定することにより、評価され得る。従って、ドルーゼン退縮は、第1の時間ポイントにて(例えば、高用量スタチンの投与に先立ち)、患者においてドルーゼンの特定のパラメーターを決定すること、第2の時間ポイントにて(例えば、高用量スタチンの投与後)、同一患者において同じパラメーターを決定すること、および第1の時間ポイントと第2の時間ポイントにて測定されたパラメーターを比較することにより、評価され得る。第1の時間ポイントから第2の時間ポイントまでの測定されたパラメーターの低減は、ドルーゼン退縮の指標である。幾つかの実施態様において、高用量スタチンの投与は、少なくとも40%、ドルーゼンを低減するのに有効であり得る。幾つかの実施態様において、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、完全な退縮(すなわち、100%退縮)ドルーゼンを引き起こすのに有効であり得る。本明細書において記載される維持用量スタチンの投与は、患者においてドルーゼンが拡大すること、および/または形成することを予防するのに有効であり得る。
【0043】
網膜色素上皮が、1つまたは複数のドルーゼンの存在に起因して下層のブルッフ膜から離れているドルーゼノイド色素上皮剥離(PED)もまた、AMDと関連付けられる。ドルーゼノイドPEDを退縮させる方法は、PED平常化および/またはブルッフ膜への再接着によるドルーゼノイドPEDの解消をもたらし得る。ドルーゼノイドPEDの解消は、例えば、OCT、血管造影(例えば、蛍光血管造影)、自己蛍光、および/または黄斑の状態を含む任意の適当な方法により評価され得る。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、本明細書において記載される高用量スタチンを受け取っていないAMDを有する患者と比べて、患者においてドルーゼノイドPEDを退縮させるのに有効であり得る。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、PEDを平常化し、および/またはPEDをブルッフ膜に再接着させるのに有効であり得る。例えば、PEDは、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、20%にて、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%、平常化され得る。例えば、PEDとブルッフ膜の分離は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、20%にて、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%、低減され得る。PEDは、例えば、体積、高さ、および/または直径のようなパラメーターを測定することにより、平常化について評価され得るし、例えば、分離の距離のようなパラメーターを測定することにより、ブルッフ膜への再接着について評価され得る。従って、PED平常化、および/またはブルッフ膜への再接着は、第1の時間ポイントにて(例えば、高用量スタチンの投与に先立ち)、患者においてドルーゼンの特定のパラメーターを決定すること、第2の時間ポイントにて(例えば、高用量スタチンの投与後)、同一患者において同じパラメーターを決定すること、および第1の時間ポイントと第2の時間ポイントにて測定されたパラメーターを比較することにより、評価され得る。第1の時間ポイントから第2の時間ポイントまでに測定されたパラメーターの低減は、ドルーゼノイドPEDの退縮(例えば、PED平常化、および/またはブルッフ膜への再接着)の指標である。幾つかの実施態様において、PEDとブルッフ膜の間の分離は、少なくとも30%、低減され得る。本明細書において記載される維持用量スタチンの投与は、患者においてPEDが拡大すること、および/または形成することを予防するのに有効であり得る。
【0044】
理論により結び付けられることなく、起因するドルーゼンおよび/またはドルーゼノイドPEDを退縮させることが、RPE細胞の貪食機能を増強すると信じられている。貪食機能は、例えば、フローサイトメトリーを含む任意の適当な方法により評価され得る。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、本明細書において記載される高用量スタチンを受け取っていないAMDを有する患者と比べて、患者のRPE細胞における貪食機能を増強するのに有効であり得る。例えば、貪食細胞の割合は、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%、増大され得る。本明細書において記載される維持用量スタチンの投与は、患者においてPEDが拡大すること、および/または形成されることを予防するのに有効であり得る。
【0045】
補体(Crabb, 2014 Cold Spring Harb Perspect Med 4(7):a017194-4)、7-ケトコレステロール(Rodriguez et al., 2014 Exp Eye Res 128:151-5)、およびアミロイド(Luibl et al., 2006 J Clin Invest 116(2):378-85)のような、幾つかの免疫原性および毒性物質を含有するドルーゼンが公知である。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、本明細書において記載される高用量スタチンを受け取っていないAMDを有する患者と比べて、患者において免疫原性および/または毒性物質の量を低減するのに有効であり得る。本明細書において記載される維持用量スタチンの投与は、患者において免疫原性および/または毒性物質の量の増大を予防するのに有効であり得る。
【0046】
患者においてRPEおよび/または1つもしくは複数の光受容器の萎縮を予防する方法は、患者に本明細書において記載される高用量スタチンを投与することを含み得る。RPEは、光受容器と密接に相互作用し、栄養を供給する。ドルーゼンは、RPEとその血管性供給である、脈絡毛細管の間の位置にある。理論により結び付けられることなく、ドルーゼンが、RPEおよび光受容器細胞から酸素および栄養を奪い、それがRPEと光受容器の両方の萎縮をもたらす可能性がある。RPEと光受容器の両方の萎縮は、典型的には、地図状萎縮として言及される。萎縮の予防は、例えば、生体顕微鏡検査、3次元眼底検査(例えば、カラー眼底撮影)、黄斑機能評価、OCT、自己蛍光、および/または血管造影(例えば、蛍光血管造影)のような眼の検査を含む、任意の適当な方法により評価され得る。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、本明細書において記載される高用量スタチンを受け取っていないAMDを有する患者と比べて、患者においてRPEおよび/または1つもしくは複数の光受容器の萎縮の量を低減するのに有効であり得る。例えば、萎縮の量は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、20%にて、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%、低減され得る。萎縮は、例えば、自己蛍光または網膜の厚さのようなパラメーターを測定することにより、評価され得る。従って、萎縮の量は、第1の時間ポイントにて(例えば、高用量スタチンの投与に先立ち)、患者においてドルーゼンの特定のパラメーターを決定すること、第2の時間ポイントにて(例えば、高用量スタチンの投与後)、同一患者において同じパラメーターを決定すること、および第1の時間ポイントと第2の時間ポイントにて測定されたパラメーターを比較することにより、評価され得る。第1の時間ポイントから第2の時間ポイントまでに測定されたパラメーターの維持または低減は、萎縮(例えば、RPEおよび/または1つもしくは複数の光受容器の萎縮)の予防の指標である。幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法を使用して、患者においてRPEと光受容器の両方の萎縮を予防することができる。本明細書において記載される維持用量スタチンの投与は、患者においてRPEおよび/または1つもしくは複数の光受容器の萎縮の量の増大を予防するのに有効であり得る。
【0047】
幾つかの実施態様において、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、患者においてドルーゼンの完全な消失(すなわち、100%退縮)を引き起こし、RPEと光受容器の両方の萎縮(すなわち、地図状萎縮)を予防するのに有効であり得る。
【0048】
患者において視力喪失を予防する、および/または視力を改善する方法は、患者に本明細書において記載される高用量スタチンを投与することを含み得る。視力は、例えば、約20フィート離れて持たれた標準表(例えば、スネレン表)またはカード上の、患者が読むことができる最小文字を決定することを含む、任意の適当な方法により評価され得る。幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法を使用して、患者において視力喪失を予防することができる。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、本明細書において記載される高用量スタチンを受け取っていないAMDを有する患者と比べて、患者において視力喪失を予防するのに有効であり得る。例えば、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、5文字以下、4文字以下、3文字以下、2文字以下、1文字以下を喪失することにより、視力喪失を予防するのに有効であり得る。幾つかの実施態様において、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、2文字以下を喪失することにより、視力喪失を予防するのに有効である。幾つかの実施態様において、本明細書において記載されるスタチンの投与は、視力を維持すること(すなわち、視力の低下が検出できない)により、視力喪失を予防するのに有効である。本明細書において記載される維持用量スタチンの投与は、患者において視力喪失を予防するのに有効であり得る。
【0049】
幾つかの実施態様において、本明細書において提供される方法を使用して、患者において視力を改善することができる。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、本明細書において記載される高用量スタチンを受け取っていないAMDを有する患者と比べて、患者において視力を改善するのに有効であり得る。例えば、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、少なくとも2文字、少なくとも3文字、少なくとも4文字、少なくとも5文字、少なくとも6文字、少なくとも7文字、少なくとも8文字、少なくとも9文字、少なくとも10文字、少なくとも11文字、少なくとも12文字、少なくとも13文字、少なくとも14文字、少なくとも15文字、視力を改善するのに有効であり得る。幾つかの実施態様において、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、3文字、視力を改善するのに有効である。幾つかの実施態様において、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、12文字、視力を改善するのに有効である。
【0050】
患者においてAMD進行(例えば、ドライAMDからウェットAMDへの)を予防する方法は、患者に本明細書において記載される高用量スタチンを投与することを含み得る。AMD進行の予防は、例えば、生体顕微鏡検査、眼圧測定、3次元眼底検査(例えば、カラー眼底撮影)、黄斑機能評価、OCT、ならびに/または血管造影(例えば、蛍光血管造影、およびOCTベースの血管造影(OCTA))のような眼の検査を含む、任意の適当な方法により評価され得る。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、本明細書において記載される高用量スタチンを受け取っていないAMDを有する患者と比べて、患者においてウェットAMDへの進行を予防するのに有効であり得る。幾つかの実施態様において、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、ドライAMDからウェットAMDへの進行を予防するのに有効であり得る。本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、ウェットAMDへの進行を予防するのに有効であることができ得る。例えば、ウェットAMDへの進行は、例えば、異常な脈絡膜の血管新生を含んでもよい。例えば、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、脈絡膜の血管新生を低減し、および/または予防するのに有効であり得る。AMDの進行は、例えば、血管新生のようなパラメーターを測定することにより、評価され得る。従って、AMDの進行は、第1の時間ポイントにて(例えば、高用量スタチンの投与に先立ち)、患者においてドルーゼンの特定のパラメーターを決定すること、第2の時間ポイントにて(例えば、高用量スタチンの投与後)、同一患者において同じパラメーターを決定すること、および第1の時間ポイントと第2の時間ポイントにて測定されたパラメーターを比較することにより、評価した。第1の時間ポイントから第2の時間ポイントまでに測定されたパラメーターの維持または低減は、AMD進行(例えば、ドライAMDからウェットAMDへの)の予防の指標である。
【0051】
本明細書において提供される方法はまた、スタチンに加えて、追加の治療剤の投与も含み得る。本明細書において使用される、追加の治療剤は、AMDに対する治療効果を有し得るいずれの分子を含む。治療剤の例は、抗炎症剤(例えば、抗IL-6剤、抗IL-8剤、アスピリン、イブプロフェン、およびナプロキセン)、血管新生抑制剤(例えば、抗VEGF剤、ラニビズマブ、ベバシズマブ、アカデシン、およびAMPK活性化因子)、抗酸化剤(例えば、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、グルタチオン、カタラーゼなど)、オメガ3脂肪酸(例えば、α-リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、およびドコサヘキサエン酸(DHA))、ならびにビタミン/ミネラル(例えば、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、ルテイン、ゼアキサンチン、亜鉛、および銅)を含む。
【0052】
本明細書において記載される治療剤は、任意の経路(例えば、眼内、静脈内(IV)、筋肉内、皮下、経口、眼性(例えば、硝子体内、局所滴下、または局所軟膏)、鼻腔内、吸入、経皮、および非経口)により、ならびに任意の方法(例えば、注射、ポンプ(例えば、埋め込みポンプ)など)により、投与され得る。幾つかの実施態様において、本明細書において記載される活性薬剤は、経口投与される。
【0053】
本明細書において記載される高用量スタチン(例えば、高用量アトルバスタチン)、および治療剤は、患者に独立して投与されるか、または患者に同時に投与され得る。高用量スタチンおよび治療剤が患者に同時に投与される場合において、高用量スタチンおよび治療剤は、単一の投薬形態であり得るか、または高用量スタチンおよび活性薬剤は、別個の投薬形態であり得る。
【0054】
本明細書において提供される方法はまた、スタチンの維持用量の投与も含み得る。例えば、AMDの有効な処置(例えば、ドルーゼンの退縮)後、本明細書において記載される高用量スタチンの投与は、スタチンの維持用量の投与と置き換えられ得る。
【0055】
本発明は、以下の実施例においてさらに記載され、それらは、請求項に記載される発明の範囲を制限しない。
【実施例0056】
実施例1:ドルーゼンの退縮および視力の改善のための高用量スタチン
【0057】
本実施例は、高用量アトルバスタチンでの処置が、進行の高いリスク特性を持つAMDを有する患者においてドルーゼンの退縮および視力の改善をもたらすという最初の証拠を提示する。
【0058】
方法
IRB認可を有する、症例報告およびパイロット多施設前向き介入研究を行った。試験対象患者基準は、AMDの診断を有し、かつ両眼における多くの巨大なソフトドルーゼン/ドルーゼノイドPEDの存在を有する年齢50歳を超える患者であった。除外基準は、以下の通りであった:どちらかの眼における有意な地図状萎縮または脈絡膜の血管新生の存在(もしくは既往歴);視力を低減し得る他の眼疾患(軽度の白内障を除く);眼科手術(白内障摘出以外)の既往歴;アトルバスタチン40mgに均等な用量でのスタチン療法を現在または最近(2年以内)受けた患者;肝疾患、横紋筋融解症、またはスタチンに対するアレルギーの既往歴;妊娠または授乳;スタチンと相互作用することが公知の医薬(例えば、シクロスポリン、全身イトラコナゾール、クラリスロマイシン、HIVタンパク質分解酵素阻害剤)の現在の使用;およびベースライン時の上昇したアミノ基転移酵素またはクレアチニンキナーゼ。有意な後嚢混濁が伴わない限り、偽水晶体は除外の理由ではなかった。
【0059】
結果
初期事象の報告
AMDを有するその他は健常な63歳の男性は、悪化している視力を提示した。彼のベースラインの視力は、20/25であり、有意な歪みを伴い;彼は、加齢眼疾患研究(AREDS)補給を既に受けていた。眼底検査により、両側性の広範な集密的巨大ソフトドルーゼンおよび色素性変化が明らかになった(図1、上部の列)。スペクトル領域光干渉断層撮影(SD-OCT)は、有意な程度のこれらの沈着物および色素上皮剥離ならびに覆っているRPEおよび光受容器の構造上の歪みを裏付けた(図2、上部の列)。網膜下または網膜内体液は存在しなかった。標準的AREDS補給を継続した。1年後、患者はより症状を示し、VAは20/30まで有意に低下した。患者は、9ヶ月かけて、開始時の1日試験用量10mgから標的の1日用量80mgまで投薬量を段階的に計画して増やしながら、アトルバスタチンを始めた。アトルバスタチン80mgの6ヶ月後、視力は、12文字、20/20まで改善し、眼底検査およびSD-OCTでの検査は、RPEの萎縮を付随することなく(図2)、ドルーゼンの完全な消失(図1)を明らかにした。
【0060】
パイロット研究
パイロット研究において登録した26人の患者のうち、23人がこれを達成した。3人の患者が研究を降り、1人は筋痙攣のため、1人は筋痛のため、1人は、その患者が、薬物が抜け毛を誘発していると感じたためであった。
【0061】
23人(表1)の患者のうち10人が、処置に応答し、ドルーゼン沈着物の退縮を示し、8人の患者がほぼ完全な退縮を示した。平均で、応答者は3文字獲得した一方、非応答者は2.2文字を喪失した。応答までの平均時間は、11.7ヶ月(範囲3~22)であった。追跡調査の平均人年は、約30であった。新生血管AMDに転換した患者はいなかった。オンラインのリスク計算機(Klein et al., 2011 Arch Ophthalmol. 129(12):1543-50に基づき、caseyamdcalc.ohsu.eduにてワールド・ワイド・ウェブ上にて入手可能)によると、本発明者らは、本発明者らのケースの14%(23人のうち3~4人の患者)が新生血管AMDに転換すると予想すべきであった。
【表1】
【0062】
応答者は、非応答者より高齢であり(平均年齢70.6対66.2)、同等のベースラインコレステロールレベルを有していた。コレステロールレベルの低減は、応答状態と相関しないように思われた。応答者では、マルチビタミン使用が多く、アルコール消費が少ない傾向である一方、アスピリン使用、魚油消費、または抗高血圧薬に明らかな差はなかった。本発明者らの研究において喫煙者はほぼおらず、従って、本発明者らは、喫煙の効果を評価する術がなかった。高用量アトルバスタチンは、色素変化または既存の萎縮の進行に対する正または負の効果を有しないように思われた。
【0063】
本発明者らの患者コホートの高いリスク特性にも関わらず、彼らのいずれも新生血管またはウェットAMDに進行しなかった。
【0064】
考察
これらの結果は、高用量スタチン処置を使用して、高いリスク特性のドライAMDを処置し、萎縮または視力喪失への進行を予防することができることを示す。
実施例2:アトルバスタチンはヒト網膜色素上皮細胞において貪食を促進し、炎症促進性応答を減弱する
【0065】
方法および材料
材料
ヒトRPE細胞株ARPE-19を、ATCC(マナッサス、バージニア州、米国)から購入した。DMEM/F-12, HEPES培地、ウシ胎児血清(FBS)、およびペニシリン-ストレプトマイシンを、ライフテクノロジーズ(グランドアイランド、ニューヨーク州、米国)から得た。組み換えヒトIL-1αを、R&Dシステムズ(ミネアポリス、ミネソタ州、米国)から得た。コレステロール結晶を、シグマアルドリッチ(セントルイス、ミズーリ州、米国)から購入した。抗IL-18抗体、抗IL-6抗体、および抗β-アクチン抗体を、アビーム(ケンブリッジ、マサチューセッツ州、米国)から得た。抗IL-1β抗体および抗IL-8抗体を、R&Dシステムズ(ミネアポリス、ミネソタ州、米国)から購入した。HRP結合2次抗体を、セル・シグナリング・テクノロジー(ダンバーズ、マサチューセッツ州、米国)から得た。
【0066】
スタチン
アトルバスタチン(アトルバスタチンカルシウム三水和物)、シンバスタチン、およびロバスタチン(アスペルギルス種由来のメビノリン)を、シグマアルドリッチ(セントルイス、ミズーリ州、米国)から購入した。それらを、ジメチルスルホキシド(DMSO;ATCC、マナッサス、バージニア州、米国)中にて再構成した。5mMの各スタチンのストック溶液を調製し、さらなる希釈液を培地中にて作製した。対照培養物を、スタチンと共に加えた最高濃度に対応する終濃度にてDMSOと共にインキュベーションした。
【0067】
細胞培養
ARPE-19細胞を、10%FBS、100U/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを添加したDMEM/F-12, HEPES培地において維持した。細胞を、加湿5%COにおいて37℃にて成長させ、80%コンフルエントに達したとき、継代した。
【0068】
コレステロール結晶溶液の調製
コレステロール結晶をグラインダーで微粉砕し、続いて、紫外線で30分間滅菌した。ARPE-19培養液をコレステロール結晶に加えて、6mg/mLストック溶液を作製した。コレステロール結晶が培養液中にて一様に懸濁されるまで、ストック溶液を超音波処理した。
【0069】
酸化LDLの調製
他で(Hendriks et al., 1996 Biochem J 314 (Pt 2):563-8)記載された通り、CuSO(シグマ、セントルイス、ミズーリ州、米国)を使用して、LDL(リーバイオソリューションズ、メアリーランドハイツ、ミズーリ州、米国)を酸化した。簡単に言うと、LDL(600μ1、0.25mg/ml)、CuSO(22.5μl、1.6mM)、およびPBS(277.5μl)を混合し、37℃にてインキュベーションした。インキュベーションの24時間後、1mM EDTAを使用して、酸化反応を停止させた。酸化の直後、PD-10 disposable desalting columns(GEヘルスケア、バッキンガムシャー州、英国)を使用して、リポタンパク質を脱塩した。
【0070】
フローサイトメトリーによる貪食解析
Pranabにより記載された(Mukherjee et al., 2007 Proc Natl Acad Sci USA 104:13158-63)プロトコールに従い、フローサイトメトリーアッセイを使用して、細胞貪食を評価した。簡単に言うと、ARPE-19細胞を12ウェルプレート内に播種し、90%コンフルエントまで培養した。5×10/ml直径1μm Fluoresbrite(登録商標)YG Carboxylate Microspheres(ポリサイエンス、ペンシルベニア州、米国)単独、あるいはスタチン(アトルバスタチン、ロバスタチン、もしくはシンバスタチン)、コレステロール結晶またはox-LDLとの組み合わせで、細胞をインキュベーションし、使用した薬物の濃度および処置の正確な期間を、結果のセクションにおいて各実験について別々に記載する。インキュベーション後、細胞をPBSで3回洗浄して、全ての細胞外ビーズを取り除き、次に、1分間、トリプシン処理(0.25% trypsin-EDTA、ギブコ、米国)し、予め温めた培養液で中和した。細胞懸濁液を回収し、遠心分離した(241g、5分)。各試料について、細胞ペレットをPBS0.5ml中にて再懸濁した。続いて、CellQuest 3.0.1(ベクトン・デッキンソン、マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)およびFlowJo 10.0ソフトウェアを使用して、FACScaliburフローサイトメーターで緑色の貪食された蛍光ビーズ(励起波長441nm、および発光波長486nm)について、細胞を解析した。各群に存在する貪食細胞の割合、ならびに囲まれた粒子の平均蛍光強度を記録した。
【0071】
細胞膜流動性を評価するための光退色(FRAP)後の蛍光回復
35mmのガラス底ディッシュ(マットテック・コーポレーション、マサチューセッツ州)上、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM/F12培地中で、ARPE-19細胞を培養した。70~80%のコンフルエントな細胞を、50μΜアトルバスタチンで3時間処理した。膜流動性を測定する30分前に、FluoroBrite(商標)DMEM medium(サーモフィッシャーサイエンティフィック)中に溶解した、5μΜ4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a、4a-ジアザス-インダセン-3-ドデカン酸(BODIPY(登録商標)FL C12)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、炭素数12の飽和炭化水素末端と合わせた緑色フルオロフォアと共に、細胞をインキュベーションした。次に、細胞を、FluoroBrite(商標)DMEM mediumで洗浄して、取り込まれていない色素を全て取り除き、FRAP測定のため顕微鏡台に取り付けた環境室を使用して、37℃および5%COにて維持した。Zeiss LSM 510 Axiovert 200M共焦点レーザー走査顕微鏡の、追加の2×デジタルズーム(総拡大率=[10×][63×][2×]=1,260×)での、63×、1.4数値開口部油浸レンズを介したアルゴンレーザーからの光の短い(2秒)集中パルス(透過率100%にて同時に458、477、488、および514nmのライン)で、細胞膜の微細領域を光退色させることにより(bleach Regions of Interest(ROI)を7×7画素スクエアを使用して描いた)、FRAP測定を行った。隣接したインタクトなフルオロフォアの側方拡散に起因する、光退色した領域内の蛍光の回復を、減弱レーザービーム(透過率3%にて488nmのライン)で細胞表面(500ms毎)を反復走査することにより、評価した。
【0072】
ウェスタンブロット
6ウェルプレートにおいて、1×10細胞/ウェルの密度にて、ARPE-19細胞を播種した。24時間後、細胞を、IL-1α(5ng/ml)で8時間刺激し、アトルバスタチン(0.1、0.5、または5μΜ)で16時間処理し、次に、アトルバスタチンを含む、もしくは含まない、2mg/mlコレステロール結晶と共に6時間、または300μg/ml oxLDLと共に18時間のいずれかでインキュベーションした。処置後、培養液を回収し、4℃にて13.3gで15分間遠心分離した。上清を回収し、-80℃にて保存した。培養液(IL-6、IL-8用)を各レーンに添加し、試料を電気泳動により泳動させた。タンパク質をPVDF膜に移し、膜を無脂肪乳でブロッキングし、IL-6に対する1次抗体およびIL-8に対する1次抗体と共にインキュベーションした。次に膜を洗浄し、2次抗体と共にインキュベーションした。膜を、増強した化学発光で現像した。タンパク質バンドの強度を、software Image Lab 4.1(バイオ・ラッド、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)を使用して測定した。
【0073】
酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)
oxLDLにより誘導されたIL-8を、製造元の指示に従い、ELISAキット(IL-8、R&Dシステムズ、ミネアポリス、ミネソタ州、米国)を使用して、ARPE-19細胞の条件培地の分析により測定した。
【0074】
統計解析
全実験を、トリプリケートで行った。統計解析を、GraphPad Prism 5.0aを使用して行った。結果を平均±SEとして表す。2つの処置群間の統計上有意な差を、独立t検定により解析した。p<0.05値を、統計上有意と設定した。
【0075】
結果
親油性スタチンはARPE-19細胞の貪食機能を増大する
ARPE-19の貪食機能を確実に測定する方法を立証するために、細胞を、カルボキシレート微粒子と共に6時間インキュベーションし、次に、大量の50枚の画像を収集する共焦点顕微鏡を使用して画像化した。細胞は、粒子を活発に吸収することができ、それは核の近位に位置し(図3A~C)、これは、ポリスチレン微粒子がこれらの確立した条件下でARPE-19細胞により貪食され得ること、およびこの方法がARPE-19細胞の貪食機能を正しく評価することができることを示している。
【0076】
ヒトRPE細胞の貪食機能に対する親油性だが親水性ではないスタチンの効果を調べるために、ARPE-19細胞を、50μΜアトルバスタチン、ロバスタチン、またはシンバスタチンのいずれかと一緒にポリスチレン微粒子と共にインキュベーションした。1群当たりの貪食ARPE-19細胞の割合および囲まれた粒子の平均蛍光強度を、処置の6時間後にフローサイトメトリーにより測定した。図3DおよびEにおいて示す通り、アトルバスタチン、ロバスタチン、またはシンバスタチンでの処理は、ARPE-19貪食細胞の割合を、ぞれぞれ、31%から43%、53%および56%に有意に増大した(p<0.05)。同様に、それぞれ、332から455、502および513までの、ARPE-19細胞内での平均蛍光強度の増大(p<0.05)(図3F)を示した。これは、全3種のスタチンが、ARPE-19細胞の貪食機能を増大し、シンバスタチンが最も強力な効果を有し、ロバスタチンおよびアトルバスタチンが続くことを示した。
【0077】
アトルバスタチンは用量に依存した方法でARPE-19細胞の貪食機能を増大する
高用量アトルバスタチンは、選択AMD患者においてドルーゼン沈着物の退縮および視力の改善をもたらした(実施例1;Vavvas et al., 2016 EBioMedicine 5:198-203)。ARPE-9細胞の貪食機能に対する高用量アトルバスタチンの効果をさらに調査するために、細胞を、微粒子と異なる用量のアトルバスタチンの両方と共に6時間インキュベーションし、貪食RPE細胞の割合を、既に記載した通り、フローサイトメトリーにより評価した。図4AおよびBにおいて示す通り、1、25、50、または75μΜアトルバスタチンは、貪食ARPE-19細胞の割合を、DMSO対照群のベースラインの割合(31%)と比較して、それぞれ、35%、40%、42%、および46%まで増大した(p<0.05)。加えて、1、25、50、または75μΜアトルバスタチンでの細胞の処理は、細胞の平均蛍光強度を、対照群における340から、それぞれ、368、443、453および467まで有意に増大した(p<0.05)(図4C)。これらのデータは、アトルバスタチンが、貪食細胞の割合およびARPE-19細胞の貪食活性を用量に依存した方法で増大することを明らかに示す。
【0078】
アトルバスタチンはARPE-19細胞膜流動性を増大する
RPE細胞膜流動性に対するアトルバスタチンの効果を試験するために、ARPE-19細胞を、50μΜアトルバスタチンと共に3時間、およびBODIPY(登録商標)FL C12と共に30分間インキュベーションした。細胞膜の微細領域を光退色させることにより、FRAP測定を行い、退色させた領域内の蛍光の回復を、方法において記載した通り、減弱レーザービームで細胞表面を反復走査することにより評価した。結果は、アトルバスタチン処置が、光退色後、ARPE19細胞の膜において蛍光の回復を増大したことを示した(図5A)。加えて、それは、対照群と比較して、蛍光平衡の半減時間を低下した(p<0.05)(図5B)。知見の両方が、アトルバスタチンがARPE-19細胞の膜流動性を増大することを示す。この増大は、アトルバスタチン処置後のARPE-19細胞の貪食機能の増大を少なくとも部分的に説明することができた。
【0079】
アトルバスタチンはARPE-19貪食機能をコレステロール結晶およびox-LDLにより誘導される機能障害から保護する
RPE細胞の貪食機能に対するコレステロール結晶およびox-LDLの効果を、この機能の機能障害がAMDと結び付けられることから、研究した(Nandrot et al., 2007 Adv Exp Med Biol 801:978-l)。ARPE-19細胞を、2mg/mlコレステロール結晶で6時間、または300μg/ml oxLDLで18時間処理した。次に、貪食機能を、方法において記載した通り、フローサイトメトリーにより評価した。コレステロール結晶は、貪食細胞の割合を31%から22%に(p<0.05)(図6A)、およびARPE-19細胞の平均蛍光強度を332から280に(p<0.05)(図6B)有意に低下した。同様に、ox-LDLは、貪食細胞の割合を31%から26%に(p<0.05)(図6C)、および細胞の平均蛍光強度を325から290に(p<0.05)(図6D)低下した。
【0080】
アトルバスタチンはARPE-19の貪食機能を増大するので、それが、コレステロール結晶およびox-LDLにより誘導される機能障害にも関わらず、これらの細胞の貪食特性を助けて保存することができるかどうかを調べた。50μΜアトルバスタチンでの6時間の細胞の事前処理は、コレステロール結晶(図6AおよびB)およびox-LDL(図6CおよびD)により誘導される貪食細胞の割合ならびに平均蛍光強度の低下を完全に逆転させた。
【0081】
まとめると、これらの結果は、アトルバスタチンが、ARPE-19細胞の貪食機能を、コレステロール結晶およびox-LDLにより誘導される機能障害から保護することを示唆する。
【0082】
アトルバスタチンはARPE-19細胞においてコレステロール結晶およびox-LDLにより誘導されるIL-6ならびにIL-8分泌を阻害する
コレステロール結晶は、ARPE-19細胞において炎症性サイトカインIL-6およびIL-8の分泌を誘導する(Hu et al., 2014 Discovery Med. 18(97):7-14)。これらのサイトカインはAMDの発症および進行と関連するので、アトルバスタチンがこの効果を阻害することができるかどうかを調べた。ARPE-19細胞を、IL-1αで刺激し、異なる濃度のアトルバスタチンで処理し、次に、コレステロール結晶と共にインキュベーションした。IL-6およびIL-8のレベルを、ウェスタンブロットまたはELISAを使用して評価した。予想通り、コレステロール結晶は、対照処置と比較して、IL-6およびIL-8のARPE-19分泌を、それぞれ、3.2倍および2.5倍増大した(図7AおよびB)。しかしながら、0.1、0.5または1μΜアトルバスタチンでの細胞の事前処理は、対照と比較して、IL-6のレベルを、ぞれぞれ、1.7倍、1.-1倍、および0.8倍、IL-8のレベルを、それぞれ、1.8倍、1.6倍および1.1倍有意に低減した(p<0.05)(図7AおよびB)。加えて、本発明者らは、ARPE-19細胞においてIL-6およびIL-8に対するox-LDLの効果、および生じた結果に対するアトルバスタチンの効果を調べることを望んだ。コレステロール結晶と同様に、ox-LDLとのARPE-19のインキュベーションは、分泌されたIL-6およびIL-8において、それぞれ、2.6倍および1.3倍の増大を導いた。しかしながら、0.1、0.5または1μΜアトルバスタチンでの細胞の事前処理は、対照と比較して、IL-6のレベルを、それぞれ、1.9倍、1.3倍および1.4倍、ならびにIL-8のレベルを、それぞれ、1.2倍、1.02倍および0.99倍低減することができた(p<0.05)(図7CおよびD)。結果の両方が、アトルバスタチンが、ARPE-19細胞においてコレステロール結晶およびox-LDLにより誘導されるIL-6ならびにIL-8の分泌を、用量に依存した方法で、阻害し得ることを示す。
【0083】
まとめると、これらのデータは、アトルバスタチンが、炎症性インデューサーを試したヒトRPE細胞において、抗炎症性の役割を有することを高度に示唆する。
【0084】
考察
本発明者らの研究は、親油性スタチンが、ARPE-19細胞の貪食機能を増強すること、ならびにアトルバスタチンが、これらの細胞を、コレステロール結晶およびox-LDLにより誘導される貪食機能ならびに炎症性効果の機能障害から保護し得るという証拠を提供する。加えて、アトルバスタチンは、ARPE-19細胞の膜流動性を増大し、それは、これらの細胞の貪食機能に対するスタチンの正の効果を少なくとも部分的に説明する。
【0085】
本発明者らは、本発明者らの臨床研究においてアトルバスタチンを使用したので、本発明者らは、ARPE-19細胞に対するそのインビトロ効果にさらに焦点を当てた。興味深いことに、アトルバスタチンは、ARPE-19細胞のベースラインの貪食機能を増大したばかりでなく、細胞を、コレステロール結晶およびox-LDLに誘導される貪食機能の機能障害に対して保護した。これは、AMDに対する予防的役割を果たすことに加えて、ドライAMDの特性を逆転することに対するアトルバスタチンの観察した効果を、RPE細胞による既存のドルーゼンのより多くの貪食を誘導するその能力により部分的に説明することができる。
【0086】
要約すれば、本研究は、親油性スタチンであるアトルバスタチン、ロバスタチンおよびシンバスタチンが、ARPE-19細胞の貪食機能に対する同様の増強する効果を示す。それはまた、アトルバスタチンが、ARPE-19細胞を、コレステロール結晶およびox-LDLにより誘導される貪食の機能障害ならびに炎症作用に対して保護するのに有効な薬物であることも示す。加えて、本発明者らの研究は、細胞膜流動性の増大を、ARPE-19の貪食機能に対するスタチンの観察した効果についての重要なメカニズムであるとして示唆する。より重要なことに、本発明者らの結果は、重篤な副作用をほぼ伴わず、広く使用され、かつ十分に認容された種類の薬物であるスタチンを、AMDを予防し、処置するための潜在的に有効な医薬として導入する。
【0087】
他の実施態様
本開示は、その詳細な説明と合わせて記載される一方、前述の記載は、説明することを意図され、添付の請求の範囲により定義される、開示の範囲を制限しないことは理解されるべきである。他の態様、利点、および修飾は、以下の請求の範囲内である。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
【手続補正書】
【提出日】2023-11-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において加齢黄斑変性(AMD)を処置する方法であって、
前記患者をAMDを有すると同定すること;および
前記患者に高用量スタチンを投与することを含み、
前記高用量スタチンが、前記患者においてドルーゼンの退縮を引き起こすのに有効である、方法。
【外国語明細書】