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特開2024-160460リニアモータ、位置決め装置、処理装置、デバイス製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160460
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】リニアモータ、位置決め装置、処理装置、デバイス製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/02 20060101AFI20241107BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H02K41/02 A
H02K9/19 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075472
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】和田 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達矢
(72)【発明者】
【氏名】篠平 大輔
【テーマコード(参考)】
5H609
5H641
【Fターム(参考)】
5H609BB08
5H609PP09
5H609QQ04
5H641GG02
5H641GG03
5H641GG17
5H641HH02
5H641HH03
(57)【要約】
【課題】冷媒からの拡張方向の力による容器の変形を効果的に抑制できるリニアモータ等を提供する。
【解決手段】リニアモータは、流される電流に応じて動力を発生させる複数のコイルを備えるコイル部と、コイル部を収容する容器と、コイル部の外周面と容器の内周面の間の冷媒空間6に冷媒を流す冷媒流通部と、冷媒空間6においてコイル部の外周面と容器の内周面の間に延び、当該容器の内周面を当該コイル部の外周面に対して固定する固定部73、74と、を備える。固定部73、74は、コイル部の外周面と容器の内周面の間を連結する。コイル部は、複数のコイルを被覆して絶縁する被覆絶縁部材42を備え、被覆絶縁部材42の一部はコイル部の外周面から突出し、その先端部が容器の内周面に固定されることで固定部73、74が構成される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流される電流に応じて動力を発生させる複数のコイルを備えるコイル部と、
前記コイル部を収容する容器と、
前記コイル部の外周面と前記容器の内周面の間の冷媒空間に冷媒を流す冷媒流通部と、
前記冷媒空間において前記コイル部の外周面と前記容器の内周面の間に延び、当該容器の内周面を当該コイル部の外周面に対して固定する固定部と、
を備えるリニアモータ。
【請求項2】
前記固定部は、前記コイル部の外周面と前記容器の内周面の間を連結する、請求項1に記載のリニアモータ。
【請求項3】
前記コイル部は、前記複数のコイルを被覆して絶縁する被覆絶縁部材を備え、
前記被覆絶縁部材の一部は前記コイル部の外周面から突出し、その先端部が前記容器の内周面に固定されることで前記固定部が構成される、
請求項2に記載のリニアモータ。
【請求項4】
前記固定部は、前記コイル部における前記コイルの内側を貫通し、前記コイル部を挟んで対向する前記容器の内周面の間を連結する、請求項1に記載のリニアモータ。
【請求項5】
前記固定部は、少なくとも前記コイルの端面に対応する位置に設けられる、請求項1から4のいずれかに記載のリニアモータ。
【請求項6】
前記固定部は、少なくとも前記コイルの中央に対応する位置に設けられる、請求項5に記載のリニアモータ。
【請求項7】
前記固定部は、少なくとも前記コイルの周縁部に対応する位置に設けられる、請求項1から4のいずれかに記載のリニアモータ。
【請求項8】
前記固定部は、前記コイル部の外周面から離れる方向の前記容器の内周面の移動を制限する、請求項1から4のいずれかに記載のリニアモータ。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載のリニアモータを動力源とする位置決め装置。
【請求項10】
請求項9に記載の位置決め装置によって位置決めされた被処理物を処理する処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載の処理装置による前記被処理物の処理を通じてデバイスを製造するデバイス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リニアモータ等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2には、コイル部と容器の間の空間に冷媒を流すリニアモータが開示されている。特許文献1では、コイル部の外周面と容器の内周面の間に所期の間隔を実現するためのスペーサ(調整部材73)が設けられている。特許文献2では、コイル部の外周面と容器の内周面の間に所期の冷媒流路を形成するための流路絞り部(突起11a、11b)が設けられている。各突起11a、11bの先端には、各冷媒流路の気密性(または液密性)を確保するためのシール部材12が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-180361号公報
【特許文献2】特開2010-166705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、特許文献1および特許文献2には、コイル部の外周面と容器の内周面の間に延在する構造(調整部材73、突起11a、11b/シール部材12)が開示されている。これらの構造は、容器の内周面がコイル部の外周面に近づく方向(以下では、便宜的に収縮方向とも表される)の容器の変形を抑制しうるが、容器の内周面がコイル部の外周面から離れる方向(以下では、便宜的に拡張方向とも表される)の容器の変形を抑制できない。製品の製造に利用される近年のリニアモータでは、タクトタイム(一つの製品の製造に要する時間)の低減が求められており、頻繁な加減速に伴う温度上昇を抑えるために冷媒の量や圧力の増加が必要になる可能性もある。このような場合、内部の冷媒からの拡張方向の力によって、容器が変形してしまう恐れがある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、冷媒からの拡張方向の力による容器の変形を効果的に抑制できるリニアモータ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のリニアモータは、流される電流に応じて動力を発生させる複数のコイルを備えるコイル部と、コイル部を収容する容器と、コイル部の外周面と容器の内周面の間の冷媒空間に冷媒を流す冷媒流通部と、冷媒空間においてコイル部の外周面と容器の内周面の間に延び、当該容器の内周面を当該コイル部の外周面に対して固定する固定部と、を備える。
【0007】
本態様では、容器の内周面をコイル部の外周面に対して固定する固定部によって、冷媒からの拡張方向の力による容器の変形を効果的に抑制できる。
【0008】
本開示の更に別の態様は、位置決め装置である。この装置は、上記のリニアモータを動力源とする。
【0009】
本開示の更に別の態様は、処理装置である。この装置は、上記の位置決め装置によって位置決めされた被処理物を処理する。
【0010】
本開示の更に別の態様は、デバイス製造方法である。この方法は、上記の処理装置による被処理物の処理を通じてデバイスを製造する。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、冷媒からの拡張方向の力による容器の変形を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ステージ装置を模式的に示す平面図である。
図2】リニアモータの電機子を示す平面図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4】鞍形のコイルによって形成されるコイル列を示す。
図5図4に示されるようなコイル列にも適用可能な固定部の例を示す。
図6】流れ形成部としても機能する固定部の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では実施形態とも表される)について詳細に記述する。記述および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する記述を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、記述の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態において提示される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。実施形態は、便宜的に、それを実現する機能毎および/または機能群毎の構成要素に分解されて提示される。但し、実施形態における一つの構成要素が、実際には別体としての複数の構成要素の組合せによって実現されてもよいし、実施形態における複数の構成要素が、実際には一体としての一つの構成要素によって実現されてもよい。
【0015】
図1は、本開示に係るリニアモータを適用可能な位置決め装置または駆動装置としてのステージ装置100を模式的に示す平面図である。ステージ装置100は、半導体ウエハ等の被処理物を載置する被駆動体としてのテーブルをX軸方向(図1における左右方向)およびY軸方向(図1における上下方向)に位置決めするXYステージである。ステージ装置100は、Y軸方向に延びてテーブルをY軸方向に駆動する一対のYステージ120と、X軸方向に延びてテーブルをX軸方向に駆動する、当該テーブルと一体化されたXステージ130と、定盤140を備える。一対のYステージ120は、Xステージ130のX軸方向の両端に、スライダ124を介して連結されている。Yステージ120およびXステージ130は上面視でH型をなす。
【0016】
ステージ装置100の構成のうち、少なくともテーブル、Yステージ120、Xステージ130は、内部が真空状態に保たれた真空チャンバに収容されてもよい。本明細書において「真空」とは、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態を表す。真空は圧力領域によって、低真空(100kPa~100Pa)、中真空(100Pa~0.1Pa)、高真空(0.1Pa~10-5Pa)、超高真空(10-5Pa~10-8Pa)、極高真空(10-8Pa以下)等のように区分される。本実施形態のステージ装置100は、以上のいずれの区分の真空環境で使用されてもよい。また、本実施形態のステージ装置100は、以上のいずれの区分にも該当しない非真空環境で使用されてもよい。
【0017】
Xステージ130およびYステージ120には、後述するリニアモータ2Xおよび2Yがそれぞれ設けられる。各リニアモータ2X、2Yが発生させるX軸方向またはY軸方向の直線動力は、被駆動体としてのテーブルをX軸方向またはY軸方向に直線駆動する。X軸方向の直線駆動を担うリニアモータ2Xは、固定子およびX軸方向の軌道を構成する界磁3と、当該界磁3に沿ってX軸方向に移動可能な可動子20を備える。この可動子20には被駆動体としてのテーブルが固定されて、一体的に移動する。Y軸方向の直線駆動を担う一対のリニアモータ2Yは、固定子およびY軸方向の軌道を構成する界磁3と、当該界磁3に沿ってY軸方向に移動可能な可動子20を備える。この可動子20にはスライダ124が固定されて、一体的に移動する。ここで、一対のスライダ124がリニアモータ2Xの界磁3の両端に連結されているため、一対のリニアモータ2Yは、リニアモータ2Xの界磁3を一対のスライダ124ごとY軸方向に直線駆動する。そして、リニアモータ2Xの界磁3(軌道)上にはテーブルがあるため、一対のリニアモータ2Yは、テーブルをY軸方向に直線駆動することになる。
【0018】
以上のように真空環境下および非真空環境下を問わず高精度な位置決めまたは駆動を実現できる本実施形態のステージ装置100(リニアモータを動力源とする位置決め装置)は、例えば、露光装置、イオン注入装置、熱処理装置、アッシング装置、スパッタリング装置、ダイシング装置、検査装置、洗浄装置等の半導体製造装置やFPD(Flat Panel Display)製造装置等のデバイス製造装置において、非処理物としての半導体ウエハ等を載置するテーブルを被駆動体として位置決めまたは駆動する用途に好適である。なお、本実施形態のステージ装置100を適用可能な処理装置は、当該ステージ装置100または位置決め装置によって任意の被処理物を処理のために位置決めする任意の装置でよく、例えば、任意の製造装置、任意の加工装置(例えば、工作機械)、任意の検査装置でよい。
【0019】
図2は、Xステージ130およびYステージ120にそれぞれ設けられるリニアモータ2X、2Yの電機子2を示す平面図である。図3は、図2のA-A断面図である。これらの図の説明において、「上」「下」「左」「右」等の方向を表す語を使用するが、これらは各図における相対的な方向を便宜的に表すものであって、鉛直方向や水平方向等の絶対的な方向を限定的に表すものではない。つまり、電機子2は任意の方向または姿勢で配置される。
【0020】
リニアモータは、永久磁石または電磁石によって構成される界磁3(図1)と、図2に示されるように複数のコイル41(以下では、総称してコイル列41とも表される)を含むコイル部4によって構成される電機子2を備える。電機子2は長尺の略矩形板状であり、その長手方向(図2における左右方向)に沿ってコイル列41が形成されている。コイル列41は、電機子2の長手方向に沿って略隙間なく略等間隔に配列された複数のコイル41によって形成される。図2の例ではコイル列41が12個のコイル41を備えるため、当該コイル列41に三相交流が印加される場合は12個のコイル41が4組の三相コイルに区分される。図2の紙面に垂直な方向(すなわち、図3の左右方向)に沿って、複数のコイル列41が並んで配置されてもよい。
【0021】
コイル列41には、永久磁石または電磁石によって構成される界磁3(図1)が対向している。具体的には、界磁3は、図2の紙面より手前側(図3における右側)および/または奥側(図3における左側)において、複数のコイル41の端面またはコイル面に対向する位置に設けられる。三相交流等の駆動電流が流されたコイル列41は、当該コイル列41に対向する界磁3および/または当該コイル列41自体に直線動力を及ぼす。この直線動力の方向はコイル列41の配列方向(すなわち、電機子2の長手方向または図2における左右方向)と略同じであり、当該方向に界磁3および電機子2が相対的に直線移動する。界磁3および電機子2は、いずれを可動子または固定子としてもよい。すなわち、界磁3を可動子として電機子2を固定子としてもよいし、図1に示されるように界磁3を固定子として電機子2を可動子20としてもよいし、界磁3および電機子2を共に可動子としてもよい。
【0022】
コイル部4は、上述のように流される電流に応じて動力を発生させるコイル列41(複数のコイル41)と、コイル列41を被覆して絶縁する被覆絶縁部材42を備える。被覆絶縁部材42は、例えば、エポキシ樹脂等の絶縁性を有する樹脂材料によって形成される成形物またはモールドである。図3に示されるように、被覆絶縁部材42はコイル部4の外周面または外表面を構成し、被覆絶縁部材42によって外側から固められたコイル列41はコイル部4の外周面に露出しない。なお、本実施形態に係るコイル部4は、各コイル41を巻くための磁性部材(一般的にコアと呼ばれる)を有しない。従って、本実施形態に係るリニアモータは、いわゆるコアレスリニアモータである。但し、本開示に係る技術は、各コイル41がコアに巻かれるリニアモータにも適用可能である。
【0023】
コイル部4は、容器5の内部に収容される。図3に示されるように、容器5は、コイル部4に上方からかぶせられるキャップ状のシェル51と、シェル51の下部に溶接等によって接合されるホルダ52と、容器5の内部においてホルダ52上に固定される台座状のサブホルダ53を備える。サブホルダ53上にはコイル部4が固定される。このように、コイル部4、サブホルダ53、ホルダ52が一体化された状態で、シェル51が上方からかぶせられる。そして、シェル51とホルダ52の接合部に溶接等が施されることで、容器5内でコイル部4が固定された図示の構造が形成される。
【0024】
コイル部4の外周面(すなわち、被覆絶縁部材42の外周面)と容器5の内周面(特に、シェル51の内周面)の間には、冷却水等の冷媒が流れる冷媒空間6が形成されている。換言すれば、コイル部4の外周面と容器5の内周面の間には空間または間隔が形成されているため、そこにコイル部4(特に、コイル列41)を冷却するための冷媒を流せる。
【0025】
図2に示されるように、容器5の長手方向の各端部には、エンドリブ61、62が設けられる。エンドリブ61、62はブロック状でもよく、電機子2の剛性を高める機能を果たしてもよい。電機子2の長手方向の一端部の第1エンドリブ61には、コイル列41を冷却する冷媒を供給する冷媒供給口611が設けられる。また、電機子2の長手方向の他端部の第2エンドリブ62には、コイル列41を冷却する冷媒を排出する冷媒排出口621が設けられる。冷媒供給口611および冷媒排出口621は、コイル部4の外周面(すなわち、被覆絶縁部材42の外周面)と容器5の内周面(特に、シェル51の内周面)の間の冷媒空間6に冷媒を流す冷媒流通部を構成する。なお、冷媒供給口611および/または冷媒排出口621は、冷媒空間6との間で冷媒を給排できれば位置は任意であり、例えば、前述のホルダ52に設けられてもよい。
【0026】
冷媒供給口611から冷媒空間6内に供給された冷媒は、電機子2の長手方向の一端側(図2における右側)から他端側(図2における左側)に向かって流れながらコイル列41を冷却し、冷媒排出口621から冷媒空間6外に排出される。このため、冷媒供給口611が設けられる電機子2の長手方向の一端側は(冷媒の)上流側とも表され、冷媒排出口621が設けられる電機子2の長手方向の他端側は(冷媒の)下流側とも表される。
【0027】
なお、図3に示されるように、コイル列41は絶縁性を有する被覆絶縁部材42によってモールドされているため、冷媒空間6内の冷媒と各コイル41の間の絶縁性を確保できる。このため、冷媒は水等の導電性を有するものでもよいが、より絶縁性を高めるために絶縁性を有する冷媒を利用してもよい。更に、コイル列41によって構成される電磁石の作用や、当該電磁石と対向する界磁3の作用を妨げないように、磁性を有しない非磁性の冷媒を利用するのが好ましい。
【0028】
図3に示されるように、冷媒空間6においてコイル部4の外周面(すなわち、被覆絶縁部材42の外周面)と容器5の内周面(特に、シェル51の内周面)の間に延び、当該容器5の内周面を当該コイル部4の外周面に対して固定する固定部71が設けられる。図3の例における固定部71は、図2にも示されるようにコイル部4におけるコイル41の内側を貫通し、コイル部4を挟んで対向するシェル51の左右両側における内周面の間を連結する。この固定部71は、例えば、SUS(ステンレス鋼)等の金属材料や樹脂材料によって形成される。
【0029】
このような柱状またはピン状の固定部71が貫通できるように、被覆絶縁部材42には、コイル41の内側(例えば、コイル41(コイル面)の中央)においてコイル41の軸方向(図3における左右方向)に貫通する貫通孔が設けられている。固定部71は、被覆絶縁部材42に挿入された図示の状態において、接着剤等によって被覆絶縁部材42に固定されてもよい。また、凸状の固定部71の先端部を受けるシェル51の内周面は、エンボス加工等によって凹状に形成されるのが好ましい。
【0030】
固定部71の両端部(図3における左端部および右端部)は、それぞれ、シェル51の内周面に固定または連結される。図示の例では、連結部材としてのねじ72が、シェル51の外周側から当該シェル51を貫通し、固定部71の両端部におけるねじ穴に挿入されることで、固定部71の両端部をシェル51の左右両側における内周面に強固に固定する。なお、固定部71およびシェル51は、スポット溶接等の溶接や接着剤によって固定されてもよい。
【0031】
このようにシェル51の内周面に強固に固定された固定部71は、コイル部4の外周面(すなわち、被覆絶縁部材42の外周面)から離れる方向の容器5の内周面(特に、シェル51の内周面)の移動を制限する。換言すれば、シェル51の左右両側における内周面を連結して支持する固定部71によって、シェル51の拡張方向の変形が効果的に抑制される。
【0032】
製品の製造に利用される近年のリニアモータでは、タクトタイムの低減が求められており、頻繁な加減速に伴う温度上昇を抑えるために冷媒空間6に流す冷媒の量や圧力の増加が必要になる可能性もある。このような場合、シェル51は、冷媒空間6内の冷媒から拡張方向に大きな力を受ける。しかし、本実施形態によれば、容器5の内周面をコイル部4の外周面に対して固定する固定部71によって、冷媒からの拡張方向の力による容器5の変形を効果的に抑制できる。なお、固定部71は、シェル51の収縮方向の変形も効果的に抑制できる。
【0033】
以上のように、本実施形態におけるシェル51は、冷媒からの拡張方向の力に対して強くなるため、従来よりシェル51を薄くできる(厚さを小さくできる)。このようにコイル部4と界磁3(図1)の間に介在するシェル51を薄くすることで、コイル部4と界磁3を近接配置でき(固定部71によってシェル51の拡張が抑制されるため、シェル51が拡張して界磁3に接触する可能性も低い)、シェル51における磁気損失も低減できるため、コイル部4と界磁3が発生させる直線動力の強度や制御性を高められる。
【0034】
図2に例示されるように、固定部71は、容器5の拡張変形を効果的に抑制するために、コイル列41に含まれる一部(好ましくは複数)または全部のコイル41の端面に対応する位置に設けられる。ここで、コイル41の端面とは、図2における紙面に平行な面においてコイル41に囲まれた領域(換言すれば、コイル41(巻き線)が存在しない領域)を表す。固定部71は、図3の例にもあるようにコイル41の中央に対応する位置に設けられてもよいし、図2に例示されるようにコイル41の端面において中央より周縁側(図2における上側および/または下側)に設けられてもよい。また、一つのコイル41に対して複数の固定部71が設けられてもよい。
【0035】
以上の実施形態では、一つのコイル列41を構成する複数のコイル41が、図2のように電機子2の長手方向に並んで配置されているため、各コイル41の端面を貫通する固定部71を形成できた。一方、図4に示されるような、いわゆる鞍形のコイル41によって形成されるコイル列41では、各コイル41の端面が隣接する他のコイル41によって塞がれるため、各コイル41の端面を貫通する固定部71を形成できない。図5は、図4に示されるようなコイル列41にも適用可能な固定部73、74の例を示す。
【0036】
図5に示されるように、冷媒空間6においてコイル部4(コイル41の図示は省略する)の外周面(すなわち、被覆絶縁部材42の外周面)と容器5の内周面(特に、シェル51の内周面)の間に延び、当該容器5の内周面を当該コイル部4の外周面に対して固定する固定部73、74が設けられる。図5の例における固定部73、74は、被覆絶縁部材42の外周面とシェル51の内周面の間を連結する。
【0037】
具体的には、固定部73、74は、被覆絶縁部材の42の一部が外周面から突出し、その先端部がシェル51の内周面に固定されることで構成される。すなわち、固定部73、74は、被覆絶縁部材42の一部である。逆に、固定部73、74は、シェル51の一部がエンボス加工等によって内周面から突出し、その先端部が被覆絶縁部材42の外周面に固定されることで構成されてもよい。この場合、固定部73、74は、シェル51の一部である。いずれの場合でも、凸状の固定部73、74の先端部を受けるシェル51の内周面または被覆絶縁部材42の外周面は、エンボス加工等によって凹状に形成されるのが好ましい。このように、図5における固定部73、74は、図3における固定部71のように、コイル41の端面を貫通する必要がないため、図4のような隙間のない鞍形のコイル41にも適用できる。
【0038】
固定部73、74の先端部は、シェル51の内周面に固定または連結される。図示の例では、連結部材としてのねじ72が、シェル51の外周側から当該シェル51を貫通し、固定部73、74の先端部におけるねじ穴に挿入されることで、固定部73、74(被覆絶縁部材42)の先端部をシェル51の内周面に強固に固定する。なお、固定部73、74およびシェル51は、スポット溶接等の溶接や接着剤によって固定されてもよい。
【0039】
このようにシェル51の内周面に強固に固定された固定部73、74は、コイル部4の外周面(すなわち、被覆絶縁部材42の外周面)から離れる方向の容器5の内周面(特に、シェル51の内周面)の移動を制限する。換言すれば、被覆絶縁部材42の外周面とシェル51の内周面を連結して支持する固定部73、74によって、シェル51の拡張方向の変形が効果的に抑制される。
【0040】
図5における固定部73は、コイル41(図5では不図示)の中央に対応する位置に設けられる。図5における固定部74は、コイル41またはコイル部4の周縁部(図5における上部)に対応する位置に設けられる。図5における固定部73、74は、図3における固定部71のように、コイル41の端面を貫通する必要がなく、各コイル列41の配置からの制約が少ないため、配置の自由度が高い。そこで、図2と同様の電機子2の平面図である図6に模式的に示されるように、冷媒空間6において冷媒の所望の流れを形成するための任意の形状を有する固定部73が設けられてもよい。すなわち、この固定部73は、流れ形成部としても機能する。また、この固定部73は、複数のコイル41(図6では不図示)に跨って形成されてもよい。
【0041】
以上、本開示を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本開示の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0042】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0043】
2 電機子、3 界磁、4 コイル部、5 容器、6 冷媒空間、41 コイル、42 被覆絶縁部材、51 シェル、71、73、74 固定部、100 ステージ装置、120 Yステージ、130 Xステージ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6