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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160461
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】ガラス熔解装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/42 20060101AFI20241107BHJP
   C03B 5/027 20060101ALI20241107BHJP
   C03B 5/167 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C03B5/42
C03B5/027
C03B5/167
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075476
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】丸子 智弘
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 智明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 厚
(72)【発明者】
【氏名】渡会 惇基
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AD01
(57)【要約】
【課題】本開示は、ガラス熔解装置において、イリジウム系材料を含む部材同士の溶接部における熱膨張・熱収縮による亀裂、破損又は変形を抑制することを目的とする。
【解決手段】本開示に係るガラス熔解装置100は、少なくとも、ガラス融液と接触する熔融槽1と、熔融槽に設けられた、ガラス融液を排出するための排出口2と、排出口に接合された排出管3と、を含むガラス熔解装置であって、ガラス熔解装置は、イリジウム系材料を含む板材及び管材の群から選ばれる3つ以上の部材を組み合わせて構成され、かつ、接し合う部材同士を接合している溶接部4を含み、溶接部によって接合された部材同士のうち、少なくとも一つの部材同士がなす角度が鈍角θを含んでいる。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ガラス融液と接触する熔融槽と、該熔融槽に設けられた、前記ガラス融液を排出するための排出口と、該排出口に接合された排出管と、を含むガラス熔解装置であって、
該ガラス熔解装置は、イリジウム系材料を含む板材及び管材の群から選ばれる3つ以上の部材を組み合わせて構成され、かつ、接し合う部材同士を接合している溶接部を含み、前記溶接部によって接合された部材同士のうち、少なくとも一つの部材同士がなす角度が鈍角を含んでいることを特徴とするガラス熔解装置。
【請求項2】
前記溶接部によって接合された部材同士の組み合わせは、
板材と板材、板材と管材、及び、管材と管材の群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のガラス熔解装置。
【請求項3】
前記ガラス熔解装置を収納するためのケーシングと、
該ケーシングの内部空間を不活性ガス雰囲気とする雰囲気ガス制御部と、をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のガラス熔解装置。
【請求項4】
前記雰囲気ガス制御部は、前記ケーシングの内部空間の酸素濃度を0.1質量%以下の不活性ガス雰囲気に制御することを特徴とする請求項3に記載のガラス熔解装置。
【請求項5】
前記ガラス融液を加熱するための加熱装置は、前記ガラス融液の温度を1500℃以上に加熱する加熱能力を有することを特徴とする請求項1に記載のガラス熔解装置。
【請求項6】
前記ガラス熔解装置は、熱電対または放射温度計のいずれか一方または両方によって前記熔融槽を構成する部材温度、前記熔融槽の内部空間の温度または前記ガラス融液の温度の少なくとも1箇所を測定する温度計測装置を含むことを特徴とする請求項1に記載のガラス熔解装置。
【請求項7】
前記熱電対は、イリジウム-イリジウム・ロジウム熱電対またはタングステン-タングステン・レニウム熱電対、白金-白金・ロジウム熱電対、白金・ロジウム-白金・ロジウム熱電対及び強化白金熱電対の群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6に記載のガラス熔解装置。
【請求項8】
前記熔融槽は、ガラス原料を前記ガラス融液とするための加熱装置として、高周波誘導加熱装置、直接通電加熱装置及び間接抵抗加熱装置の群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載のガラス熔解装置。
【請求項9】
前記熔融槽若しくは前記排出管又は前記熔融槽と前記排出管の両方は、前記ガラス融液を加熱するための加熱装置として、高周波誘導加熱装置、直接通電加熱装置、電極通電加熱装置及び間接抵抗加熱装置の群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載のガラス熔解装置。
【請求項10】
前記電極通電加熱装置は、前記熔融槽に電極が2本以上挿入される構造と、該電極の電源と、を含み、該電極による前記ガラス融液への通電によって該ガラス融液を直接加熱することを特徴とする請求項9に記載のガラス熔解装置。
【請求項11】
前記電極通電加熱装置の電極の材質はイリジウム系材料を含むことを特徴とする請求項9に記載のガラス熔解装置。
【請求項12】
前記間接抵抗加熱装置の発熱部の材質は、イリジウム系材料、炭化ケイ素または二珪化モリブデンを含むことを特徴とする請求項8または9に記載のガラス熔解装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イリジウム系材料を含む部材を組み合わせて構成されたガラス熔解装置に関し、例えば、熱膨張・熱収縮による接合箇所にかかる応力の影響を低減させたガラス熔解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラス,光ファイバーガラス等その他、着色や不純物を嫌う高品位ガラス、特に1000~2000℃位迄の融解温度(融点)を必要とする高品位ガラスの熔解装置に関する技術がある(例えば特許文献1を参照。)。特許文献1に記載の熔解装置は、不純物の混入を抑制して高品位ガラスの熔解を長期間に亘って可能にすることを課題としている。この課題を解決するために、この熔解装置に講じられた技術的手段は、熔解炉,スリーブ,ポット等の少なくとも熔融ガラスが接する装置本体構成部材を、1000~2000℃位迄の高温度域において、強度,引張り強さ,ビッカース硬さ,クリープ破断強度などの機械的性質に優れ且つ熔融ガラスに対し濡れ性が悪く、又、反応性に優れたイリジウム又はイリジウム基合金にて形成したことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2‐22132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イリジウム又はイリジウム基合金は、特許文献1で開示されているように、1000~2000℃位迄の高温度域において機械的性質に優れている一方で、曲げ加工等の加工性に劣るため、ガラス熔解装置の製造において設計の自由度が小さい。また、ガラス熔解装置では、連続使用することで、熱膨張・熱収縮を繰り返すため、基材の溶接箇所での亀裂若しくは破損、又は、基材の変形が発生しやすかった。特に、基材の溶接箇所には、熱膨張による応力が集中しやすいため、溶接箇所における亀裂、破損又は変形が生じやすかった。
【0005】
そこで本開示の目的は、ガラス熔解装置において、イリジウム系材料を含む部材同士の溶接部における熱膨張・熱収縮による亀裂、破損又は変形を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ガラス熔解装置において、イリジウム系材料を含む部材同士の溶接部を含む部位に、熱膨張・熱収縮を緩衝する構造を含ませることで、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るガラス熔解装置は、少なくとも、ガラス融液と接触する熔融槽と、該熔融槽に設けられた、前記ガラス融液を排出するための排出口と、該排出口に接合された排出管と、を含むガラス熔解装置であって、該ガラス熔解装置は、イリジウム系材料を含む板材及び管材の群から選ばれる3つ以上の部材を組み合わせて構成され、かつ、接し合う部材同士を接合している溶接部を含み、前記溶接部によって接合された部材同士のうち、少なくとも一つの部材同士がなす角度が鈍角を含んでいることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記溶接部によって接合された部材同士の組み合わせは、板材と板材、板材と管材、及び、管材と管材の群から選ばれる少なくとも一つである形態を包含する。
【0008】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記ガラス熔解装置を収納するためのケーシングと、該ケーシングの内部空間を不活性ガス雰囲気とする雰囲気ガス制御部と、をさらに有することが好ましい。イリジウムは、高温下で大気雰囲気に晒されると、酸化揮発しやすい。そこで、イリジウムの酸化揮発を抑制し、装置の寿命を延ばすことができる。
【0009】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記雰囲気ガス制御部は、前記ケーシングの内部空間の酸素濃度を0.1質量%以下の不活性ガス雰囲気に制御することが好ましい。イリジウムの酸化揮発をより抑制することができる。
【0010】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記ガラス融液を加熱するための加熱装置は、前記ガラス融液の温度を1500℃以上に加熱する加熱能力を有することが好ましい。ガラス熔解装置は1500℃未満でも使用することは可能であるものの、ガラス融液の温度が1500℃以上となる高温での使用において、主成分がイリジウム以外の材料で形成されたガラス熔解装置では基材の変形、劣化やインクルージョンなどが懸念されるため、高品位なガラスを熔解することができない。本実施形態に係るガラス熔解装置は、特許文献1に記載された性能を十分に発揮することに加え、特許文献1では解決されない溶接部における熱膨張・熱収縮による亀裂、破損又は変形を抑制することができる。
【0011】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記ガラス熔解装置は、熱電対または放射温度計のいずれか一方または両方によって前記熔融槽を構成する部材温度、前記熔融槽の内部空間の温度または前記ガラス融液の温度の少なくとも1箇所を測定する温度計測装置を含むことが好ましい。測温箇所の制限がある中で、ガラスを熔解するための温度制御を良好に行うことができる。
【0012】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記熱電対は、イリジウム-イリジウム・ロジウム熱電対またはタングステン-タングステン・レニウム熱電対、白金-白金・ロジウム熱電対、白金・ロジウム-白金・ロジウム熱電対及び強化白金熱電対の群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。温度を長期に渡り安定して計測することができる。
【0013】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記熔融槽は、ガラス原料を前記ガラス融液とするための加熱装置として、高周波誘導加熱装置、直接通電加熱装置及び間接抵抗加熱装置の群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。ガラス原料をガラス融液とするときに、エネルギーロスを少なくできる。
【0014】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記熔融槽若しくは前記排出管又は前記熔融槽と前記排出管の両方は、前記ガラス融液を加熱するための加熱装置として、高周波誘導加熱装置、直接通電加熱装置、電極通電加熱装置及び間接抵抗加熱装置の群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。ガラス融液を維持するときに、エネルギーロスを少なくできる。また、熔融槽及び排出管のうちの特定箇所を重点的に加熱することもできる。
【0015】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記電極通電加熱装置は、前記熔融槽に電極が2本以上挿入される構造と、該電極の電源とを含み、該電極による前記ガラス融液への通電によって該ガラス融液を直接加熱することが好ましい。ガラス融液をより均等に加熱することができる。
【0016】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記電極通電加熱装置の電極の材質はイリジウム系材料を含むことが好ましい。不純物の混入を抑制して高品位ガラスの熔解を長期間に亘って可能とすることができる。
【0017】
本発明に係るガラス熔解装置では、前記間接抵抗加熱装置の発熱部の材質は、イリジウム系材料、炭化ケイ素または二珪化モリブデンを含むことが好ましい。赤外線を効率的に放射することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示のガラス熔解装置は、イリジウム系材料を含む部材同士の溶接部における熱膨張・熱収縮による亀裂、破損又は変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るガラス熔解装置の一例を示す概略正面図である。
図2】本実施形態に係るガラス熔解装置の一例を示す概略平面図である。
図3】一例における鈍角θを説明する概略図である。
図4】本実施形態に係るガラス熔解装置の別例を示す概略正面図である。
図5】本実施形態に係るガラス熔解装置の別例を示す概略平面図である。
図6】別例における鈍角θを説明する概略図である。
図7】板材-板材-排出管用管材の部材を組み合わせて構成されるガラス熔解装置の概略図である。
図8図7の概略断面図である。
図9】別例における別の箇所の鈍角θを説明する概略図である。
図10】溶接部によって接合された部材同士の組み合せのうち、排出管のパイプとパイプの組み合わせを示す概略図である。
図11】ケーシングを有するガラス熔解装置の一例を示す概略図である。
図12】A-A断面の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0021】
図1及び図2に、本実施形態に係るガラス熔解装置の一例を示した。図4及び図5に、本実施形態に係るガラス熔解装置の別例を示した。図1及び図2並びに図4及び図5に示されたガラス熔解装置は例示であり、本発明はこの形状に限定されるものではない。本実施形態に係るガラス熔解装置100又は本実施形態に係るガラス熔解装置200は、少なくとも、ガラス融液と接触する熔融槽1と、熔融槽1に設けられた、ガラス融液を排出するための排出口2と、排出口2に接合された排出管3と、を含むガラス熔解装置であって、ガラス熔解装置100又はガラス熔解装置200は、イリジウム系材料を含む板材及び管材の群から選ばれる3つ以上の部材を組み合わせて構成され、かつ、接し合う部材同士を接合している溶接部4を含み、溶接部4によって接合された部材同士のうち、少なくとも一つの部材同士がなす角度が鈍角θを含んでいる。
【0022】
熔融槽1は、熔解槽、清澄槽、攪拌槽、クーリング槽などを含む。熔解槽はガラス原料を熔解し、ガラス融液とするための槽である。清澄槽はガラス融液からガス気泡を除去(清澄)するための槽である。攪拌槽はガラス融液を攪拌することで融液を均質化するための槽である。クーリング槽はガラス融液を排出するために温度制御(冷却)をするための槽である。各槽を一つの槽として一体化させて、役割を共有してもよい。例えば、熔解槽と清澄槽との一体槽がある。この場合、原料熔解中にガラス融液が脱泡(清澄)する。また、清澄槽とクーリング槽との一体槽がある。この場合、クーリング槽にて冷却しながら清澄する。また、攪拌槽と、熔解槽、清澄槽又はクーリング槽との一体槽がある。この場合、どの槽においても攪拌のためのスターラーを設置することで攪拌が可能である。
【0023】
図1に示したガラス熔解装置100又は図2に示したガラス熔解装置200は、熔融槽1として、熔解槽1aを例示的に示している。また、熔解槽1aの底壁には、排出口2と、排出口2に接合された排出管3を有している。
【0024】
ガラス熔解装置100又はガラス熔解装置200は、イリジウム系材料を含む板材及び管材の群から選ばれる3つ以上の部材を組み合わせて構成されている。具体的には、ガラス熔解装置100又はガラス熔解装置200は、熔解槽1aを構成する複数の板材と、排出管3を構成する排出管用管材と、が組み合わされて構成されている。排出管用管材は、さらに、排出口2への接続部としてテーパー管材5が組み合わされている。すなわち排出管3は、テーパー管材5が接合されており、テーパー管材5が排出口2に接合されている。
【0025】
イリジウム系材料とは、例えば、イリジウム又はイリジウム基合金である。イリジウム基合金は、主成分をイリジウムとする合金である。イリジウム基合金においてイリジウムと合金を構成する金属成分は、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。イリジウム基合金中のイリジウムの含有量は、例えば50質量%以上である。
【0026】
部材を組み合わせることによって部材同士が接し合う箇所が生じ、接し合う部材同士は溶接され、溶接部4が形成される。溶接方法としては、例えば、TIG溶接、MIG溶接、レーザー溶接、プラズマ溶接などである。図において、面とその隣の面とが形成する辺は板材の折れ辺であるか、又は、溶接部であり、溶接部4は複数存在するが、代表的な箇所のみ符号4を付した。折れ辺を設けず、すべて溶接部としてもよい。
【0027】
溶接部4によって接合された部材同士のうち、少なくとも一つの部材同士がなす角度が鈍角θを含んでいる。
【0028】
「鈍角θ」について、図3を参照しながら説明する。図1及び図2に示された熔解槽1aは、長手方向の側壁の板材11aと短手方向の側壁の板材11bとの間に隅部の板材11c(以降、「隅板」ともいう。)が配置されている。図2に示すように、短手方向の側壁の板材11bと隅部の板材11cとがなす角度は鈍角θを含んでいる。また、長手方向の側壁の板材11aと隅部の板材11cとがなす角度は鈍角を含んでいる。代表例として、図3に熔解槽1aの短手方向の側壁の板材11bと隅部の板材11cとの溶接部4の部分拡大断面図を示した。短手方向の側壁の板材11bと隅部の板材11cとはZ軸方向に沿って溶接ラインが形成されている。図3の断面は、この溶接ラインの横断面である。ここで、図3に示すように、短手方向の側壁の板材11bと隅部の板材11cとの部材同士を接合する溶接部4(この場合、Z軸方向である)に対して垂直方向の横断面において、溶接部4を頂点とし、部材を辺として形成される共役角のうち劣角側が鈍角θとなっている。図1及び図2に示した熔解槽1aでは、Z軸方向の横断面のいずれにおいても鈍角θを含んでいる。
【0029】
本実施形態に係るガラス熔解装置では、部材同士の接合部が複数ある場合、そのうち少なくとも一つにおいて、または、部材同士の接合部が1箇所だけの場合にはその接合部において、鈍角θをなしている。図1及び図2に示した熔解槽1aでは、側壁の4隅にそれぞれ隅部を有し、側壁の4隅において2箇所(2つの辺)ずつ、合計8箇所(合計8つの辺)が「鈍角θ」となっている。図3は、そのうちの1箇所について、例示として、鈍角θを図示している。なお、少なくとも1箇所で鈍角θをなしていれば良く、全ての溶接部において鈍角θをなしている必要はなく、直角、ほぼ直角の箇所があってもよい。
【0030】
熔融槽1において、槽壁面の外側全体の面積に対して隅板の外側全体の面積の割合は、1~20%であることが好ましく、3~15%であることが好ましく、5~12%であることがより好ましい。熔解槽、清澄槽、攪拌槽又はクーリング槽を設けられる場合には、各槽において、槽壁面の外側全体の面積に対して隅板の外側の合計面積の割合は、1~20%であることが好ましく、3~15%であることが好ましく、5~12%であることがより好ましい。この割合が1%未満であると、隅板による熱膨張・熱収縮に伴う応力の分散の効果が少なくなる。一方、20%を超えると、各槽の容積が小さくなり、効率が劣る恐れがある。隅板を複数設ける場合には、最小の隅板の外側面積を基準として、最大の隅板の外側面積が120%以下であることが好ましく、110%以下であることがより好ましく、各隅板の外側面積が実質的に等しいことがさらに好ましい。熱膨張・熱収縮に伴う応力が均等に分散されやすくなる。
【0031】
さらに、図6を参照しながら「鈍角θ」について説明する。図4及び図5に示された熔解槽1aは、4枚の側壁の板材11が角筒をなすように縁辺同士が接合されている。側壁の板材11のそれぞれの下方には、隅部の板材15(隅板15)が接合されている。4枚の隅板15の下方の縁辺は、正方形の底壁の板材14の縁辺と接合されている。側壁の板材11と隅板15とが接合されている4箇所(4つの辺)と底壁の板材14と隅板15とが接合されている4箇所(4つの辺)との合計8箇所(合計8つの辺)が「鈍角θ」となっている。図4に示すように、隅板15と側壁の板材11とがなす角度は鈍角θを含んでいる。また、隅板15と底壁の板材14とがなす角度は鈍角θを含んでいる。代表例として、図6に隅板15と底壁の板材14との溶接部4及びその付近の部分拡大断面図を示した。隅板15と底壁の板材14とはZ軸方向に直交する方向に沿って溶接ラインが形成されている。図6の断面は、この溶接ラインの横断面である。ここで、図6に示すように、隅板15と底壁の板材14との部材同士を接合する溶接部4(この場合、Z軸方向に直交する方向である)に対して垂直方向の横断面において、溶接部4を頂点とし、部材を辺として形成される共役角のうち劣角側が鈍角θとなっている。図4及び図5に示した熔解槽1aでは、4つの隅板15の上下の縁辺(合計8つの縁辺)の溶接部のいずれにおいても鈍角θを含んでいる。なお、少なくとも1箇所で鈍角θをなしていれば良く、全ての溶接部において鈍角θをなしている必要はなく、直角、ほぼ直角をなす箇所があってもよい。
【0032】
部材同士の接合部が複数ある場合に鈍角θをなすことが好ましい箇所は、例えば、図1及び図2の熔解槽1aで例示的に説明すると、槽の壁、具体的には、側壁又は底壁の長手方向と交わる縁辺6の溶接部である。壁の板材の熱膨張による応力を効率的に分散・緩和することができる。また、部材同士の溶接部周辺が耐火物で拘束される箇所も好ましい。熱膨張が耐火物により拘束され、溶接部や部材に応力集中する可能性があるところ、効率的に分散・緩和することができる。さらに、ガラス融液に接触している箇所も好ましい。熱膨張による変形や割れが装置寿命に影響する箇所であり、融液漏れの可能性があるところ、効率的に分散・緩和することができる。
【0033】
本実施形態に係るガラス熔解装置は、ガラス熔解装置100又はガラス熔解装置200の形態に限定されず、各種の部材を組み合わせて構成されていてもよい。例えば、ガラス熔解装置は、図7及び図8に示すように板材-板材-排出管用管材、板材-管材-排出管用管材、又は、管材-管材-排出管用管材のように、少なくとも3つ部材を組み合わせて構成される(「‐」は組み合わせを示す。)。ガラス熔解装置のうち、熔融槽1は、板材-板材、より具体的には図7に示すようにL字板材-コの字板材、管材-板材、又は、管材-管材のように、少なくとも2つ部材を組み合わせて構成される。ガラス熔解装置100又はガラス熔解装置200のうち、排出管3の排出管用管材は、1枚の板材を丸めて溶接することで作製できる。排出管用管材を2つ以上の部材を組み合わせて構成してもよく、例えば、板材-板材を組み合わせて断面四角のパイプが得られ、管材-板材を組み合わせて断面半円状のパイプが得られ、管材-管材を組み合わせて異径の接合管材が得られる。排出管用管材とは、パイプ(管)・継ぎ手を含む液体又は気体の搬送経路を構成する部材をいうが、テーパー管材などの異形管継手も含む。
【0034】
上記の通り、ガラス熔解装置100又はガラス熔解装置200は、各種の部材を組み合わせて構成されているが、部材同士が接触し合う箇所は、溶接により接合されることが好ましい。本実施形態に係るガラス熔解装置では、溶接部4によって接合された部材同士の組み合わせは、板材と板材、板材と管材、及び、管材と管材の群から選ばれる少なくとも一つである形態を包含する。例えば、溶接部4によって接合された部材同士の組み合わせは具体的には次のとおりである。熔融槽の側壁の板材と隣の側壁の板材の組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽の側壁の板材と隣の側壁の板材とが鈍角θをなしている。熔融槽の側壁の板材と隣の隅部の板材の組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽の側壁の板材と隣の隅部の板材とが鈍角θをなしている。熔融槽の側壁の板材と隣の底壁の板材の組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽1の側壁の板材と隣の底壁の板材とが鈍角θをなしている。熔融槽の底壁の板材と隣の隅部の板材の組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽の底壁の板材と隣の隅部の板材とが鈍角θをなしている。熔融槽の底壁の板材と隣の底壁の板材の組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽の底壁の板材と隣の底壁の板材とが鈍角θをなしている。熔融槽の隅部の板材と隣の隅部の板材の組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽の隅部の板材と隣の隅部の板材とが鈍角θをなしている。熔融槽の側壁の板材とパイプの組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽の側壁の板材とパイプとが鈍角θをなしている。なお、前記パイプは、一方の端部が末広がりのテーパー状に加工されており、管部とテーパー部を有し、一体物である。熔融槽の底壁の板材とパイプの組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽の底壁の板材とパイプとが鈍角θをなしている。なお、前記パイプは、一方の端部が末広がりのテーパー状に加工されており、管部とテーパー部を有し、一体物である。熔融槽の隅部の板材とパイプの組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽の隅部の板材とパイプとが鈍角θをなしている。なお、前記パイプは、一方の端部が末広がりのテーパー状に加工されており、管部とテーパー部を有し、一体物である。熔融槽の側壁の板材、底壁の板材または隅部の板材とテーパー管の組み合わせでは、溶接部を介して熔融槽の側壁の板材、底壁の板材または隅部の板材とテーパー管とが鈍角θをなしている。図9では、熔融槽の底壁の板材とテーパー管の組み合わせにおいて、溶接部を介して熔融槽の底壁の板材とテーパー管とが鈍角θをなしている形態を示した。排出管のパイプとテーパー管の組み合わせでは、排出管のパイプとテーパー管とが溶接されており、溶接部の溶接ラインが環状で、鈍角θをなしている。なお、テーパー管はパイプに溶接されている。図10に示すように、排出管3の上側パイプ20と下側パイプ21の組み合わせでは、排出管3の上側パイプ20と下側パイプ21とが溶接されており、溶接部の溶接ラインが環状で、鈍角θをなしている。排出管のテーパー管とテーパー管の組み合わせでは、排出管の上側テーパー管と下側テーパー管とが溶接されており、溶接部の溶接ラインが環状で、鈍角θをなしている。
【0035】
溶接ラインに沿ってすべての領域で鈍角θをなしていることが好ましいが、溶接ラインに沿って、一部分において鈍角θをなしており、残りの部分において直角又はほぼ直角となっていてもよい。例えば、部材同士の組み合わせ方によっては、溶接ラインが直線状だけでなく、折れ線状になる場合がある。図7に示した熔融槽のように、L字板材とコの字板材とを組み合わせた熔融槽の場合、溶接ラインが折れ線状になる。折れ線において、末端と折れ箇所との間又は折れ箇所と折れ箇所との間では直線となる。折れ線を含む溶接ラインは、鈍角θをなしている直線領域と、直角又はほぼ直角をなしている直線領域を含んでいてもよい。図7に示したL字板材とコの字板材とを組み合わせた熔融槽では、図8に示すように溶接部4を介して側壁の板材と底壁の板材とが鈍角θをなしている。折れ箇所において、破壊・亀裂を生じさせる応力の伝達が阻止される場合があり、このような溶接ラインでは、全領域において鈍角θをなしていなくてもよい。また、部材同士の組み合わせ方によっては、溶接ラインが環状になる場合がある。環状の溶接ラインの場合は、環状全体にわたって鈍角θをなしていることが好ましい。効率的に分散・緩和することができる。例えば、図9又は図10に示した形態は、環状の溶接ラインを有し、環状全体にわたって鈍角θをなしている。
【0036】
鈍角θは、90°<θ<180°であるが、好ましくは100°≦θ≦170°であり、より好ましくは、110°≦θ≦160°である。
【0037】
板材と板材とが直交またはほぼ直交する位置関係にある場合、例えば、図1及び図2に示すように隅板を介在させると鈍角θを含ませることができる。あるいは、平板状の板材の一方の端部を少し丸める若しくは折部を設けることによって当該板材と隣の平板状の板材との間で鈍角θを含ませることができる。
【0038】
本実施形態に係るガラス熔解装置では、図11及び図12に示すように、ガラス熔解装置300を収納するためのケーシング30と、ケーシング30の内部空間を不活性ガス雰囲気とする雰囲気ガス制御部と、をさらに有することが好ましい。なお、図11及び図12において、ガラス熔解装置300の一例として、図1及び図2に示したガラス熔解装置100と同様の形態を図示したが、ガラス熔解装置200と同様の形態としてもよく、その他の形態であってもよい。イリジウムは、高温下で大気雰囲気に晒されると、酸化揮発しやすい。そこで、イリジウムの酸化揮発を抑制し、装置の寿命を延ばすことができる。ケーシングの内部又は外部には、耐熱煉瓦などの断熱材が配置されていることが好ましい。断熱材によって保温することができ、さらに、ガラス熔解装置300を側面側または底面側から支えることによってガラス熔解装置300の変形を抑制するように補強することが好ましい。雰囲気ガス制御部は、例えば、アルゴン・窒素等の不活性ガスのガス供給部を含むことが好ましく、ケーシングの内部空間の内部ガスの排出速度を調整するガス排出部をさらに有していてもよい。さらにガス強制排気部を有していてもよい。ガス強制排気部によって、ケーシングの内部空間を減圧可能としてもよい。排出管はケーシングの外部に導き出されていることが好ましい。
【0039】
ガラス熔解装置300は、熔解槽と同材の蓋31を有することが好ましい。蓋31は、原料投入口32を有することが好ましい。
【0040】
本実施形態に係るガラス熔解装置では、雰囲気ガス制御部は、ケーシングの内部空間の酸素濃度を0.1質量%以下の不活性ガス雰囲気に制御することが好ましい。イリジウムの酸化揮発をより抑制することができる。雰囲気の制御は、減圧後に不活性ガスを内部空間に流す制御、または、立ち上げ時に不活性ガスを大量に流して酸素濃度を0.1質量%まで低減させたのち、ガス流量を調整する制御を含む。
【0041】
本実施形態に係るガラス熔解装置では、ガラス融液を加熱するための加熱装置は、ガラス融液の温度を1500℃以上に加熱する加熱能力を有することが好ましい。ガラス熔解装置は1500℃未満でも使用することは可能であるものの、ガラス融液の温度が1500℃以上となる高温での使用において、主成分がイリジウム以外の材料で形成されたガラス熔解装置では基材の変形、劣化やインクルージョンなどが懸念されるため、高品位なガラスを熔解することができない。本実施形態に係るガラス熔解装置は、特許文献1に記載された性能を十分に発揮することに加え、特許文献1では解決されない溶接部における熱膨張・熱収縮による亀裂、破損又は変形を抑制することができる。
【0042】
本実施形態に係るガラス熔解装置では、ガラス熔解装置は、熱電対または放射温度計のいずれか一方または両方によって熔融槽1を構成する部材温度、熔融槽1の内部空間の温度またはガラス融液の温度の少なくとも1箇所を測定する温度計測装置を含むことが好ましい。測温箇所の制限がある中で、ガラスを熔解するための温度制御を良好に行うことができる。例えば、熔融槽1を構成する部材温度、熔融槽1の内部空間の温度またはガラス融液の温度、具体的には、熔解槽、清澄槽、攪拌槽、クーリング槽の各槽を構成する部材温度、熔融槽1の内部空間の温度またはガラス融液の温度である。すでに説明したように、各槽が一体化槽とされた場合には、一体化槽を構成する部材温度、熔融槽1の内部空間の温度またはガラス融液の温度である。これらの箇所の少なくとも1箇所に熱電対または放射温度計を設置することが好ましい。
【0043】
熱電対は、イリジウム-イリジウム・ロジウム熱電対またはタングステン-タングステン・レニウム熱電対、白金-白金・ロジウム熱電対、白金・ロジウム-白金・ロジウム熱電対及び強化白金熱電対の群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。温度を長期に渡り安定して計測することができる。
【0044】
熔融槽は、ガラス原料をガラス融液とするための加熱装置として、高周波誘導加熱装置、直接通電加熱装置及び間接抵抗加熱装置の群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。ガラス原料をガラス融液とするに際して、エネルギーロスを少なくできる。
【0045】
熔融槽1若しくは排出管3又は熔融槽1と排出管3の両方は、ガラス融液を加熱するための加熱装置として、高周波誘導加熱装置、直接通電加熱装置、電極通電加熱装置及び間接抵抗加熱装置の群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。ガラス融液を維持するに際して、エネルギーロスを少なくできる。また、熔融槽1及び排出管3のうちの特定箇所を重点的に加熱することもできる。
【0046】
電極通電加熱装置は、熔融槽1に電極が2本以上挿入される構造と、電極の電源とを含み、電極によるガラス融液への通電によってガラス融液を直接加熱することが好ましい。ガラス融液をより均等に加熱することができる。電極は熔融槽1の上部から差し込み、同じ浸漬深さになるように設置することが好ましい。例えば、4本の電極を設置する場合、襷掛けとなるように対角で設置することが好ましい。浸漬深さは4本すべて同じとすることが好ましい。電極は、熔融槽1に対して対称となるようにバランスよく設置することが好ましい。
【0047】
電極通電加熱装置の電極の材質はイリジウム系材料を含むことが好ましい。不純物の混入を抑制して高品位ガラスの熔解を長期間に亘って可能とすることができる。
【0048】
間接抵抗加熱装置の発熱部の材質は、イリジウム系材料、炭化ケイ素または二珪化モリブデンを含むことが好ましい。赤外線を効率的に放射することができる。
【0049】
排出管3は、直接通電して排出管自体を加熱する(発熱させる)ことが好ましい。
【符号の説明】
【0050】
100,200,300 ガラス熔解装置
1 熔融槽
1a 熔解槽
2 排出口
3 排出管
4 溶接部
5 テーパー管材
6 側壁又は底壁の長手方向と交わる縁辺
11 側壁の板材
11a 長手方向の側壁の板材
11b 短手方向の側壁の板材
11c,15 隅部の板材
14 底壁の板材
20,21 パイプ
30 ケーシング
31 蓋
32 原料投入口
Z Z軸方向
θ 鈍角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12