(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160484
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】車両用前照灯の制御装置、車両用前照灯システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
B60Q1/14 A
B60Q1/14 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075527
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】三田 将大
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339BA01
3K339BA21
3K339BA25
3K339CA01
3K339DA01
3K339DA05
3K339GB01
3K339HA01
3K339HA04
3K339KA07
3K339KA29
3K339LA06
3K339LA33
3K339LA34
3K339MA01
3K339MA07
3K339MC02
3K339MC04
3K339MC05
3K339MC36
3K339MC88
3K339MC90
(57)【要約】 (修正有)
【課題】前方車両の状況に応じた減光範囲をより適切に設定すること。
【解決手段】前方車両100の第1発光部位101Rの位置を示す第1位置θR1と前方車両100の右端位置θR2との差が第1基準値以下である場合又は第1位置θR1と前方車両100の左端位置θL2との差が第2基準値以下である場合に、前方車両100において未検出の第2発光部位101Lの位置を示す第2位置θL1を第1位置θR1、右端位置θR2、左端位置θL2、前方車両100と自車両との相対距離に基づいて求め、第1位置θR1及び第2位置θL1を用いて前方車両100の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して車両用前照灯へ供給する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配光パターンが可変である車両用前照灯の制御装置であって、
少なくとも前方車両の第1発光部位の位置を示す第1位置を検出する第1センサと、
自車両から見た前記前方車両の右端位置及び左端位置と、当該右端位置と前記自車両との相対距離を示す第1距離と、当該左端位置と前記自車両との相対距離を示す第2距離とを検出する第2センサと、
前記第1センサ、前記第2センサ、前記車両用前照灯の各々と接続されており前記車両用前照灯の動作を制御するコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、前記第1位置と前記右端位置との差が第1基準値以下である場合又は前記第1位置と前記左端位置との差が第2基準値以下である場合に、前記第1センサによって検出されていない前記前方車両の第2発光部位の位置を示す第2位置を前記第1位置、前記右端位置、前記左端位置、前記第1距離及び前記第2距離に基づいて求め、前記第1位置及び前記第2位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給する、
車両用前照灯の制御装置。
【請求項2】
前記第1センサは、前記第1発光部位と前記自車両との相対距離を示す第3距離を更に検出するものであり、
前記コントローラは、前記第3距離と前記第1距離との差が第3基準値以下である場合又は前記第3距離と前記第2距離との差が第4基準値以下である場合に、前記第1位置及び前記第2位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給する、
請求項1に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記第1位置と前記右端位置との差が第1基準値以下ではない場合又は前記第1位置と前記左端位置との差が第2基準値以下ではない場合に、前記第1位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給する、
請求項1に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記第3距離と前記第1距離との差が第3基準値以下ではない場合又は前記第3距離と前記第2距離との差が第4基準値以下ではない場合に、前記第1位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給する、
請求項2に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項5】
前記第1位置は、前記第1発光部位の左右方向の略中心に対応する位置を示し、
前記第2位置は、前記第2発光部位の左右方向の略中心に対応する位置を示す、
請求項1に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項6】
前記右端位置及び前記左端位置は、前記自車両から見た前記前方車両の外縁部分に基づいて検出される、
請求項1に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項7】
前記第1センサ及び/又は前記第2センサは、画像処理機能を有するカメラである、
請求項1に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項8】
前記第1センサと前記第2センサとが一体に構成される、
請求項7に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項9】
可変配光パターンの車両用前照灯と接続されたコントローラによって実行される制御方法であって、
前記コントローラは、前方車両の第1発光部位の位置を示す第1位置を検出する第1センサ、並びに、自車両から見た前記前方車両の右端位置及び左端位置と、当該右端位置と前記自車両との相対距離を示す第1距離と、当該左端位置と前記自車両との相対距離を示す第2距離とを検出する第2センサと接続されており、
前記コントローラは、
前記第1位置と前記右端位置との差が第1基準値以下である場合又は前記第1位置と前記左端位置との差が第2基準値以下である場合に、前記第1センサによって検出されていない前記前方車両の第2発光部位の位置を示す第2位置を前記第1位置、前記右端位置、前記左端位置、前記第1距離及び前記第2距離に基づいて求めること、
前記第1位置及び前記第2位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定すること、及び、
前記配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給すること、
を実行する、車両用前照灯の制御方法。
【請求項10】
請求項1に記載の制御装置と、
前記制御装置によって制御される車両用前照灯と、
を含む、車両用前照灯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用前照灯の制御装置、車両用前照灯システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用前照灯の配光を制御する技術として、主にハイビームの照射範囲内において、自車両の前方に存在する他車両(先行車両、対向車両など)の位置に応じた一定範囲を減光する技術が知られている(例えば、特開2020-026248号参照)。一般には、他車両の前照灯や尾灯といった光源の位置を画像処理などで検出し、それら光源の位置に基づいて減光範囲が設定される。このとき、対をなす光源が検出された場合にはその他車両が四輪車両であり、対をなさない1つの光源が検出された場合にはその他車両が二輪車であると判断できるので、それぞれに応じて減光範囲の幅などが設定される。それにより、他車両へ与えるグレアが軽減される。
【0003】
ところで、例えば四輪車両の前照灯や尾灯のうち片方が故障した場合や何らの原因で遮蔽された場合などにおいては、対をなす光源として検出されず1つの光源として検出されることで二輪車両に対応した減光範囲が設定されるため、四輪車両に対する減光範囲としては適切でない場合が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示に係る具体的態様は、減光範囲をより適切に設定し得る配光制御技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示に係る一態様の制御装置は、配光パターンが可変である車両用前照灯の制御装置であって、(a)少なくとも前方車両の第1発光部位の位置を示す第1位置を検出する第1センサと、(b)自車両から見た前記前方車両の右端位置及び左端位置と、当該右端位置と前記自車両との相対距離を示す第1距離と、当該左端位置と前記自車両との相対距離を示す第2距離とを検出する第2センサと、(c)前記第1センサ、前記第2センサ、前記車両用前照灯の各々と接続されており前記車両用前照灯の動作を制御するコントローラと、を含み、(d)前記コントローラは、前記第1位置と前記右端位置との差が第1基準値以下である場合又は前記第1位置と前記左端位置との差が第2基準値以下である場合に、前記第1センサによって検出されていない前記前方車両の第2発光部位の位置を示す第2位置を前記第1位置、前記右端位置、前記左端位置、前記第1距離及び前記第2距離に基づいて求め、前記第1位置及び前記第2位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給する、車両用前照灯の制御装置である。
[2]本開示に係る一態様の制御方法は、可変配光パターンの車両用前照灯と接続されたコントローラによって実行される制御方法であって、(a)前記コントローラは、前方車両の第1発光部位の位置を示す第1位置を検出する第1センサ、並びに、自車両から見た前記前方車両の右端位置及び左端位置と、当該右端位置と前記自車両との相対距離を示す第1距離と、当該左端位置と前記自車両との相対距離を示す第2距離とを検出する第2センサと接続されており、(b)前記コントローラは、(b1)前記第1位置と前記右端位置との差が第1基準値以下である場合又は前記第1位置と前記左端位置との差が第2基準値以下である場合に、前記第1センサによって検出されていない前記前方車両の第2発光部位の位置を示す第2位置を前記第1位置、前記右端位置、前記左端位置、前記第1距離及び前記第2距離に基づいて求めること、(b2)前記第1位置及び前記第2位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定すること、及び、(b3)前記配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給すること、を実行する、車両用前照灯の制御方法である。
[3]本開示に係る一態様の車両用前照灯システムは、前記[1]に記載の制御装置と、前記制御装置によって制御される車両用前照灯とを含む、車両用前照灯システムである。
【0007】
上記構成によれば、減光範囲をより適切に設定し得る配光制御技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(A)は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図1(B)は、コンピュータシステムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2(A)は、カメラによって検出される前方車両の光源情報について説明するための図である。
図2(B)は、カメラによって検出される前方車両のオブジェクト情報について説明するための図である。
【
図3】
図3(A)は、光源情報について具体的に説明するための図である。
図3(B)は、オブジェクト情報について具体的に説明するための図である。
図3(C)は、光源情報及びオブジェクト情報のデータ構造を説明するための図である。
【
図4】
図4(A)は、光源情報の送信データ例を説明するための図である。
図4(B)は、オブジェクト情報の送信データ例を説明するための図である。
【
図5】
図5(A)~
図5(D)は、光源情報として「一灯」が検出された場合に想定される状況を説明するための図である。
【
図6】
図6は、車両用前照灯システムの動作手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、ステップS14において実行される配光制御の具体例を説明するための図である。
【
図8】
図8(A)は、本実施形態により実現される配光パターンの一例を説明するための図である。
図8(B)は、比較例の配光パターンを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1(A)は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図示の車両用灯具システムは、コントローラ10、カメラ11、一対の前照灯ユニット12L、12Rを含んで構成されている。この車両用灯具システムは、車両前方へ光照射を行うためのものである。なお、本明細書においては、コントローラ10、カメラ11を含んで車両用灯具の制御装置が構成されている。
【0010】
コントローラ10は、各前照灯ユニット12L、12Rによる光照射の動作を制御するものである。このコントローラ10は、例えば
図1(B)に示すようなコンピュータシステム、すなわちプロセッサ(CPU:Centra Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、フラッシュメモリ等の記憶デバイス204、入出力インターフェース205などを備えたコンピュータシステムを用いて構成することができる。本実施形態のコントローラ10は、予め記憶デバイス204に記憶されたプログラム206がプロセッサによって読み出されて実行されることにより、後述する各機能を発揮できる状態となる。
【0011】
カメラ11は、自車両前方の空間を撮影して得られる画像データに基づいて所定の画像認識処理を行うことにより、前方車両(先行車両、対向車両)や歩行者の位置などの状況を検出するものである。
【0012】
なお、画像認識処理の機能の一部又は全部はコントローラ10側に設けられていてもよい。その場合には、カメラ11から画像データがコントローラ10へ供給され、コントローラ10において所定のプログラムを実行することで画像認識処理が行われる。
【0013】
コントローラ10は、プログラム実行によって実現される機能ブロックとしての車両検出部20、配光パターン設定部21、制御信号生成部22を含む。
【0014】
車両検出部20は、カメラ11による前方車両等の検出結果に基づいて、前方車両等の実際の位置を示す情報を検出する。
【0015】
配光パターン設定部21は、車両検出部20による前方車両等の検出結果に基づいて各前照灯ユニット12L、12Rによる照射光の配光パターンを設定する。
【0016】
制御信号生成部22は、配光パターン設定部21によって設定される配光パターンに応じた照射光を各前照灯ユニット12L、12Rに形成させるための制御信号を生成し、各前照灯ユニット12L、12Rへ供給する。
【0017】
一対の前照灯ユニット12L、12Rは、自車両前部の左右の所定位置に搭載されており、コントローラ10から与えられる制御信号に応じて動作して自車両前方へ照射される光を形成する。本実施形態の前照灯ユニット12L、12Rは、配光パターンが可変に設定できるものであり、ロービーム(すれ違い灯)、ハイビーム(走行灯)の各照射光を形成可能であるとともに、後述する
図8(A)に示すように、ハイビームの照射範囲内において前方車両の位置等に応じた減光範囲151を設けて構成された照射光150であるアダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能である。
【0018】
各前照灯ユニット12L、12Rとしては公知の種々の構成を採用することができる。例えば、光源バルブと反射鏡や遮蔽板を組み合わせた構成のランプユニットによりハイビーム、ロービーム、追加的ビームを形成することができる。また、LED(Light Emitting Diode)などの発光素子が一方向または二方向に配列されており、各発光素子の点灯状態を個別に制御可能なランプユニットを用いてアダプティブドライビングビームを形成することもできる。また、光源と液晶素子などを備え、液晶素子の各画素の光透過状態を個別に制御可能なランプユニットを用いてアダプティブドライビングビームを形成することもできる。また、レーザダイオードなどの発光素子と、この発光素子から出射する光を走査するミラーデバイス等の走査素子などを備え、発光素子の点消灯のタイミングと走査素子による走査タイミングを制御可能なランプユニットを用いてアダプティブドライビングビームを形成することも可能である。さらに、これらの構成のランプユニットにおいてアダプティブドライビングビームに加えてハイビーム、ロービームが形成されてもよい。
【0019】
図2(A)は、カメラによって検出される前方車両の光源情報について説明するための図である。ここでは前方車両の一例として先行車両の後部を自車両から見た様子が模式的な平面図で示されている。先行車両100は、後部左右に配置された一対の尾灯101L、101Rを備えている。カメラ11は、自車両の前方空間を撮影して得られた画像に対して画像処理を行うことにより、所定値以上の輝度を有する画素群を光源(発光部位)として抽出する。それにより、一対の尾灯101L、101Rの位置が検出される。また、抽出された画素群のステレオ画像上における視差に基づいて、公知の三角測量の原理により、自車両から先行車両100までの相対距離が検出される。なお、図示及び詳細な説明を省略するが対向車両の場合も同様にして、対向車両の備える一対の前照灯の位置が検出されるとともにこの対向車両と自車両との相対距離が検出される。
【0020】
図2(B)は、カメラによって検出される前方車両のオブジェクト情報について説明するための図である。ここでは前方車両の一例として先行車両の後部を自車両から見た様子が模式的な平面図で示されているが対向車両の場合も同様である。カメラ11は、自車両の前方空間を撮影して得られた画像に対して画像処理を行うことにより、先行車両100の外縁部分(輪郭部分)を抽出する。例えば、予め、水平線特徴、垂直線特徴、輝度、色、コントラストなどの情報から特徴を抽出して機械学習させておくことで車両の形状検出が可能となる。抽出された外縁部分から、例えば先行車両100の左端部102L、右端部102Rが先行車両100の左右位置として検出される。
【0021】
図3(A)は、光源情報について具体的に説明するための図である。ここでは先行車両100が模式的な上面図で示されている。図示のように、光源情報としては、左角度θ
L1、右角度θ
R1、左縦距離D
L1、右縦距離D
R1が検出される。左角度θ
L1は、カメラ11の位置Pを基準とした尾灯101Lの相対的な位置を示す角度であり、具体的には尾灯101Lの左右方向の略中心の位置を示す角度である。右角度θ
R1は、カメラ11の位置Pを基準とした尾灯101Rの相対的な位置を示す角度であり、具体的には尾灯101Rの左右方向の略中心の位置を示す角度である。左縦距離D
L1は、カメラ11の位置Pを基準とした尾灯101Lとの間の相対的な距離である。右縦距離D
R1は、カメラ11の位置Pを基準とした尾灯101Rとの間の相対的な距離である。なお、図示及び詳細な説明を省略するが対向車両の場合も同様にして、対向車両の備える一対の前照灯の位置に対応する左角度、右角度が検出されるとともにこの対向車両と自車両との相対距離である左縦距離、右縦距離が検出される。
【0022】
図3(B)は、オブジェクト情報について具体的に説明するための図である。ここでは先行車両100が模式的な上面図で示されている。図示のように、オブジェクト情報としては、左角度θ
L2、右角度θ
R2、左縦距離D
L2、右縦距離D
R2が検出される。左角度θ
L2は、カメラ11の位置Pを基準とした尾灯101Lの相対的な位置を示す角度であり、具体的には先行車両100の左端部102L(
図2(B)参照)の位置を示す角度である。右角度θ
R2は、カメラ11の位置Pを基準とした尾灯101Rの相対的な位置を示す角度であり、具体的には先行車両100の右端部102R(
図2(B)参照)の位置を示す角度である。左縦距離D
L2は、カメラ11の位置Pを基準とした尾灯100Lとの間の相対的な距離である。右縦距離D
R2は、カメラ11の位置Pを基準とした尾灯100Lとの間の相対的な距離である。なお、図示及び詳細な説明を省略するが対向車両の場合も同様にして、対向車両の備える一対の前照灯の位置に対応する左角度、右角度が検出されるとともにこの対向車両と自車両との相対距離である左縦距離、右縦距離が検出される。
【0023】
図3(C)は、光源情報及びオブジェクト情報のデータ構造を説明するための図である。光源情報としては、上記した右縦距離、左縦距離、右角度、左角度、並びに光源種別が含まれる。光源種別とは検出された光源の種別を示すものであり、例えば一灯、二灯といった内容である。通常、一灯は二輪車両に対応し、二灯は四輪車両に対応する。これらのデータが1つの車両に対応する1組の光源情報として検出される。また、オブジェクト情報としては、上記した右縦距離、左縦距離、右角度、左角度、並びにオブジェクト種別が含まれる。オブジェクト種別とは、検出されたオブジェクトの種別を示すものであり、例えば四輪車両、二輪車両、歩行者といった内容である。これらのデータが1つの車両に対応する1組のオブジェクト情報として検出される。
【0024】
図4(A)は、光源情報の送信データ例を説明するための図である。光源情報は、検出された対象物ごとにパッケージングされて1つのメッセージとしてカメラ11からコントローラ10へ送信される。例えば、1つめの対象物(対象物1)に対応したメッセージ1が送信され、次いで2つめの対象物(対象物2)に対応したメッセージ2が送信される。図示の例では、メッセージ1は、右縦距離「20m」、左縦距離「20m」、右角度「2.0°」、左角度「-2.0°」、光源種別「二灯」というデータを含み、メッセージ2は、右縦距離「25m」、左縦距離「25m」、右角度「3.0°」、左角度「3.0°」、光源種別「一灯」というデータを含む。
【0025】
図4(B)は、オブジェクト情報の送信データ例を説明するための図である。オブジェクト情報は、検出された対象物ごとにパッケージングされて1つのメッセージとしてカメラ11からコントローラ10へ送信される。例えば、1つめの対象物(対象物1)に対応したメッセージ1が送信され、次いで2つめの対象物(対象物2)に対応したメッセージ2が送信される。図示の例では、メッセージ1は、右縦距離「20.1m」、左縦距離「20.1m」、右角度「2.2°」、左角度「-2.2°」、オブジェクト種別「四輪」というデータを含み、メッセージ2は、右縦距離「25.2m」、左縦距離「25.2m」、右角度「3.2°」、左角度「3.2°」、光源種別「二輪」というデータを含む。
【0026】
ここで、本実施形態では光源情報とオブジェクト情報との間での紐付けはなされていない。つまり、例えば、光源情報における「対象物1」とオブジェクト情報における「対象物1」とが必ずしも同一の対象物を示しているとは限らず、異なる対象物を示している場合もあり得る。このため、詳細を後述するように、本実施形態ではコントローラ10側で光源情報とオブジェクト情報との同一性を判断する。
【0027】
図5(A)~
図5(D)は、光源情報として「一灯」が検出された場合に想定される状況を説明するための図である。
図5(A)は、実際の対象物が四輪車両であり、オブジェクト種別としては「四輪」と検出されているが、尾灯101Rが故障や遮蔽などの原因で光源として検出されておらず、光源種別としては「一灯」と検出される状況を示している。同様に、
図5(B)は、実際の対象物が四輪車両であり、オブジェクト種別としては「四輪」と検出されているが、尾灯101Lが故障や遮蔽などの原因で光源として検出されておらず、光源種別としては「一灯」と検出される状況を示している。これらの状況においては、「一灯」に対応する減光範囲を設定するとグレアを生じ得るため、補正が必要となる。
【0028】
他方、
図5(C)に示すように、実際の対象物が二輪車両であってその尾灯111が検出されることで光源種別が「一灯」となっており、かつオブジェクト種別が「二輪」である状況では、「一灯」に対応する減光範囲を設定すればよいため、補正は必要ない。また、
図5(D)に示すように、例えば道路脇の照明などが検出されることで光源種別が「一灯」となっており、オブジェクト種別としては「無し」である状況では、減光範囲を設定する必要がない。
【0029】
図6は、車両用前照灯システムの動作手順を示すフローチャートである。なお、ここに示す各処理については情報処理の結果に矛盾や不整合を生じない限りにおいて、それらの順序を入れ替えることも可能であり、またここでは明示しない他の処理を追加することも可能である。ここでは主に、オブジェクト種別としては「四輪」が得られているが光源種別としては「一灯」が得られている場合の動作手順を説明する。
【0030】
コントローラ10の車両検出部20は、カメラ11から送信される光源情報、オブジェクト情報の各データを随時受信する。カメラ11から受信した対象物1のオブジェクト情報に含まれるオブジェクト種別が「四輪」である場合に(ステップS11;YES)、車両検出部20は、対象物1のオブジェクト情報に含まれる右角度と、受信した全ての対象物(例えば、対象物1、2)の光源情報に含まれる右角度との差を求める。
【0031】
右角度同士の差が所定の基準値(第1基準値)以下の光源情報がある場合には(ステップS12;YES)、車両検出部20は、当該光源情報の右縦距離と、対象物1のオブジェクト情報に含まれる右縦距離との差を求める。基準値については実験やシミュレーションなどの結果に基づいて適宜設定される(以下に示す各基準値についても同様)。
【0032】
なお、対象物1のオブジェクト情報との間で右角度同士の差が基準値以下である光源情報が複数存在した場合には、右角度同士の差が最も小さい光源情報を同一の対象物に対応するものと特定し、その後は当該特定された光源情報が対象物1に対応するものとして用いられる。
【0033】
右縦距離同士の差が所定の基準値(第3基準値)以下である場合には(ステップS13;YES)、車両検出部20は、詳細を後述する所定の演算を行って前方車両の左右の光源位置を求め、当該光源位置に関するデータを配光パターン設定部21へ出力する。配光パターン設定部21は、入力された前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、制御信号生成部22へ出力する。それにより、二灯の光源を有する前方車両に対応した減光範囲を有する配光制御が実現される(ステップS14)。その後、ステップS11へ戻る。
【0034】
他方で、右角度同士の差が基準値以下ではない場合には(ステップS12;NO)、車両検出部20は、対象物1のオブジェクト情報に含まれる左角度と、受信した全ての対象物(例えば、対象物1、2)の光源情報に含まれる左角度との差を求める。
【0035】
左右角度同士の差が所定の基準値(第2基準値)以下の光源情報がある場合には(ステップS15;YES)、車両検出部20は、当該光源情報の左縦距離と、対象物1のオブジェクト情報に含まれる左縦距離との差を求める。
【0036】
なお、対象物1のオブジェクト情報との間で左角度同士の差が基準値以下である光源情報が複数存在した場合には、左角度同士の差が最も小さい光源情報を同一の対象物に対応するものと特定し、その後は当該特定された光源情報が対象物1に対応するものとして用いられる。
【0037】
左縦距離同士の差が所定の基準値(第4基準値)以下である場合には(ステップS16;YES)、車両検出部20は、詳細を後述する所定の演算を行って前方車両の左右の光源位置を求め、当該光源位置に関するデータを配光パターン設定部21へ出力する。配光パターン設定部21は、入力された前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、制御信号生成部22へ出力する。それにより、二灯の光源を有する前方車両に対応した減光範囲を有する配光制御が実現される(ステップS14)。その後、ステップS11へ戻る。
【0038】
他方で、オブジェクト種別が「四輪」ではなく「二輪」の場合(ステップS11;NO)、右縦距離同士の差が基準値以下ではない場合(ステップS13;NO)、左角度同士の差が基準値以下ではない場合(ステップS15;NO)、左縦距離同士の差が基準値以下ではない場合(ステップS16;NO)のそれぞれにおいては、車両検出部20は、前方車両の左右の光源位置に関するデータを配光パターン設定部21へ出力する。配光パターン設定部21は、入力された前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、制御信号生成部22へ出力する。それにより、一灯の光源を有する前方車両に対応した減光範囲を有する配光制御が実現される(ステップS17)。その後、ステップS11へ戻る。
【0039】
図7は、上記したステップS14において実行される配光制御の具体例を説明するための図である。ここでは、光源情報における尾灯101Lの左角度θ
L1と左縦距離D
L1が検出されていない状況を想定する。詳細には、光源種別が「一灯」であるので左角度θ
L1は右角度θ
R1と同一値で検出されるが、オブジェクト情報における左角度との差が基準値以下ではないことに基づき、この左角度θ
L1は不正確であり使用できないと判断した状況を想定する。また、同様の理由から左縦距離D
L1についても使用できないと判断した状況を想定する。また、前提として、D
R1=D
R2、D
L1=D
L2と仮定する。これらは両者の差が基準値以下であることが確認できているので、計算の簡素化のためにこれらを同一値とする。
【0040】
なお、ここでは尾灯101Rが「第1発光部位」に対応し、右角度θR1が「第1位置」に対応し、尾灯101Lが「第2発光部位」に対応し、後述の演算で求められる左角度θL1が「第2位置」に対応し、右角度θR2が「右端位置」に対応し、左角度θL2が「左端位置」に対応し、右縦距離DR1が「第3距離」に対応し、右縦距離DR2が「第1距離」に対応し、左縦距離DL2が「第2距離」に対応する。
【0041】
図示のように、カメラ11の位置Pを通る自車両進行方向を基準として、当該基準から尾灯101Rの中心までの距離をA1、前方車両100の右端部までの距離をA2、当該基準から尾灯101Lの中心までの距離をB1、前方車両100の左端部までの距離をB2、A1とA2の差をA3、B1とB2の差をB3とすると、それぞれ以下のように表せる。
【0042】
A1=tanθR1×DR1
=tanθR1×DR2
A2=tanθR2×DR2
A3=A2-A1
B2=tanθL2×DL2
B3≒A3
B1=B2-B3
=B2-A3
【0043】
従って、θL1は以下のように求められる。
θL1=tan-1(B1/DL1)
=tan-1(B1/DL2)
【0044】
なお、光源情報における尾灯101Rの右角度θR1と右縦距離DR1が検出されていない状況については、上記した計算における幾何学配置が左右逆になるだけであるので、同様に計算することができる。光源情報が前方車両の前照灯に対応するものである場合も同様である。
【0045】
このような計算に基づけば、尾灯101L、101Rの中心位置を示す角度であるθL1とθR1が得られるので、これらを用いることでより適切な減光範囲を設定することができる。尾灯101L、101Rの中心位置を示す角度であるθL1とθR1を用いた配光パターン設定には公知の方法(例えば、特開2022-167566号公報に記載の方法)を適宜用いることができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0046】
なお、オブジェクト種別が「四輪」であって光源種別が「二灯」である場合には、公知の方法(例えば、前述の特開2022-167566号公報に記載の方法)を適宜用いて、前方車両の位置に対応した減光範囲を有する配光パターンが設定された配光制御が実行される。同様に、オブジェクト種別が「二輪」であって光源種別が「一灯」である場合にも、公知の方法を適宜用いて、前方車両の位置に対応した減光範囲を有する配光パターンが設定された配光制御が実行される。
【0047】
図8(A)は、本実施形態により実現される配光パターンの一例を説明するための図である。
図8(A)に例示するように、本実施形態の車両用前照灯システムでは、前方車両の光源(図示の例では尾灯だが、前照灯であってもよい)の片方が故障等で消灯しているか、あるいは何かで遮蔽されたことで対をなす光源として検出されていない場合であっても、オブジェクト種別を合わせて判断することで、前方車両の位置に応じた適切な減光範囲151を有する照射光150が形成される。それにより、前方車両へのグレアが防止され、あるいは軽減される。なお、「減光」には消灯することも含む。
【0048】
図8(B)は、比較例の配光パターンを説明するための図である。
図8(B)に示す比較例では、前方車両の一対の光源のうち片方のみが検出されることで、その光源の位置に応じた相対的に狭い範囲の減光範囲151aを有する照射光150aが形成される。このため、前方車両へグレアを与える可能性がある。
【0049】
以上のような本実施形態によれば、前方車両の状況に応じた減光範囲をより適切に設定し得る配光制御技術が得られる。
【0050】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では前方車両の位置等を検出するための第1センサ及び第2センサが一体に構成されたセンサの例としてカメラ11を挙げていたが、センサの構成はこれに限定されない。例えばLIDAR(Light Detection And Ranging)などの光センシング技術によるセンサが用いられてもよいし、ミリ波レーダなどのセンサが用いられてもよい。また、これらのセンサを併用し、光源情報とオブジェクト情報が別々のセンサによって検出されてもよい。
【0051】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
(付記1)
配光パターンが可変である車両用前照灯の制御装置であって、
少なくとも前方車両の第1発光部位の位置を示す第1位置を検出する第1センサと、
自車両から見た前記前方車両の右端位置及び左端位置と、当該右端位置と前記自車両との相対距離を示す第1距離と、当該左端位置と前記自車両との相対距離を示す第2距離とを検出する第2センサと、
前記第1センサ、前記第2センサ、前記車両用前照灯の各々と接続されており前記車両用前照灯の動作を制御するコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、前記第1位置と前記右端位置との差が第1基準値以下である場合又は前記第1位置と前記左端位置との差が第2基準値以下である場合に、前記第1センサによって検出されていない前記前方車両の第2発光部位の位置を示す第2位置を前記第1位置、前記右端位置、前記左端位置、前記第1距離及び前記第2距離に基づいて求め、前記第1位置及び前記第2位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給する、
車両用前照灯の制御装置。
(付記2)
前記第1センサは、前記第1発光部位と前記自車両との相対距離を示す第3距離を更に検出するものであり、
前記コントローラは、前記第3距離と前記第1距離との差が第3基準値以下である場合又は前記第3距離と前記第2距離との差が第4基準値以下である場合に、前記第1位置及び前記第2位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給する、
付記1に記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記3)
前記コントローラは、前記第1位置と前記右端位置との差が第1基準値以下ではない場合又は前記第1位置と前記左端位置との差が第2基準値以下ではない場合に、前記第1位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給する、
付記1又は2に記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記4)
前記コントローラは、前記第3距離と前記第1距離との差が第3基準値以下ではない場合又は前記第3距離と前記第2距離との差が第4基準値以下ではない場合に、前記第1位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定し、当該配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給する、
付記2に記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記5)
前記第1位置は、前記第1発光部位の左右方向の略中心に対応する位置を示し、
前記第2位置は、前記第2発光部位の左右方向の略中心に対応する位置を示す、
付記1~4の何れかに記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記6)
前記右端位置及び前記左端位置は、前記自車両から見た前記前方車両の外縁部分に基づいて検出される、
付記1~5の何れかに記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記7)
前記第1センサ及び/又は前記第2センサは、画像処理機能を有するカメラである、
付記1~6の何れかに記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記8)
前記第1センサと前記第2センサとが一体に構成される、
付記7に記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記9)
可変配光パターンの車両用前照灯と接続されたコントローラによって実行される制御方法であって、
前記コントローラは、前方車両の第1発光部位の位置を示す第1位置を検出する第1センサ、並びに、自車両から見た前記前方車両の右端位置及び左端位置と、当該右端位置と前記自車両との相対距離を示す第1距離と、当該左端位置と前記自車両との相対距離を示す第2距離とを検出する第2センサと接続されており、
前記コントローラは、
前記第1位置と前記右端位置との差が第1基準値以下である場合又は前記第1位置と前記左端位置との差が第2基準値以下である場合に、前記第1センサによって検出されていない前記前方車両の第2発光部位の位置を示す第2位置を前記第1位置、前記右端位置、前記左端位置、前記第1距離及び前記第2距離に基づいて求めること、
前記第1位置及び前記第2位置を用いて前記前方車両の位置に応じた減光範囲を有する配光パターンを設定すること、及び、
前記配光パターンに応じた制御信号を生成して前記車両用前照灯へ供給すること、
を実行する、車両用前照灯の制御方法。
(付記10)
付記1~8の何れかに記載の制御装置と、
前記制御装置によって制御される車両用前照灯と、
を含む、車両用前照灯システム。
【符号の説明】
【0052】
10:コントローラ、11:カメラ、12L、12R:前照灯ユニット、20:車両検出部、21:配光パターン設定部、22:制御信号生成部