(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160499
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】オリゴ糖組成物及びマンノオリゴ糖含有水
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20241107BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20241107BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241107BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/00 B
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075563
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中室 賢一
(72)【発明者】
【氏名】金谷 華帆
(72)【発明者】
【氏名】萩野 武史
(72)【発明者】
【氏名】熊王 俊男
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE05
4B018MD31
4B018MD57
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF14
4B117LC02
4B117LG17
4B117LK13
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】マンノオリゴ糖を含有するが、味や臭いは水と同等の機能性水を調製するためのオリゴ糖組成物、当該オリゴ糖組成物の製造方法、当該オリゴ糖組成物からマンノオリゴ糖を含有する水を製造する方法の提供。
【解決手段】固形分当たりのマンノオリゴ糖の含有率が70質量%以上であり、イオン交換水に溶解させることにより、420nmの吸光度がBrix10%換算で0.05以下、電気伝導度が200mS/m以下である水溶液が得られることを特徴とする、オリゴ糖組成物、及び、焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣の加水分解物を、活性炭処理した後、両イオン交換処理することにより、固形分当たりのマンノオリゴ糖の含有率が70質量%以上であり、かつ固形分当たりの糖質の含有率が90質量%以上であるオリゴ糖組成物を調製することを特徴とする、オリゴ糖組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分当たりのマンノオリゴ糖の含有率が70質量%以上であり、
イオン交換水に溶解させることにより、420nmの吸光度がBrix10%換算で0.05以下、電気伝導度が200mS/m以下である水溶液が得られることを特徴とする、オリゴ糖組成物。
【請求項2】
固形分当たりの糖質の含有率が90質量%以上である、請求項1に記載のオリゴ糖組成物。
【請求項3】
前記マンノオリゴ糖がコーヒー豆由来である、請求項1に記載のオリゴ糖組成物。
【請求項4】
焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣を分解して得られたマンノオリゴ糖を含有する組成物を、活性炭処理した後、両イオン交換処理することにより得られる、請求項1に記載のオリゴ糖組成物。
【請求項5】
焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣の加水分解物を、活性炭処理した後、両イオン交換処理することにより、固形分当たりのマンノオリゴ糖の含有率が70質量%以上であり、かつ固形分当たりの糖質の含有率が90質量%以上であるオリゴ糖組成物を調製することを特徴とする、オリゴ糖組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のオリゴ糖組成物を、水に溶解させることによって、コーヒー豆マンノオリゴ糖の濃度が0.25g~2.0g/L、420nmの吸光度がBrix10%換算で0.05以下、電気伝導度が200mS/m以下であるマンノオリゴ糖含有水を調製することを特徴とする、マンノオリゴ糖含有水の製造方法。
【請求項7】
前記水が、イオン交換水又はRO水である、請求項6に記載のマンノオリゴ糖含有水の製造方法。
【請求項8】
コーヒー豆マンノオリゴ糖の濃度が0.25g~2.0g/L、420nmの吸光度がBrix10%換算で0.05以下、電気伝導度が200mS/m以下であることを特徴とする、マンノオリゴ糖含有水。
【請求項9】
pHが3.0~4.6である、請求項8に記載のマンノオリゴ糖含有水。
【請求項10】
色、味、及び臭いが、イオン交換水と同等である、請求項8に記載のマンノオリゴ糖含有水。
【請求項11】
内容積が1~10Lである合成樹脂製の容器に充填されている、請求項8に記載のマンノオリゴ糖含有水。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性成分であるマンノオリゴ糖を含有する水、及び当該水を製造するためのオリゴ糖組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト腸内にある腸内細菌の集団は、腸内細菌叢と呼ばれており、腸内細菌叢の維持及び健全化が、ヒトの健康に重要と考えられている。腸内細菌叢の維持及び健全化に有効な方法として、プレバイオティクスの摂取が挙げられる。プレバイオティクスとしては、イヌリンなどの食物繊維や、ガラクトオリゴ糖やフラクトオリゴ糖などのオリゴ糖が知られている。
【0003】
プレバイオティクスの1つとして、D-マンノースを主たる構成とするオリゴ糖が挙げられる(特許文献1)。コーヒー抽出残渣には不溶性のマンナンが多く含まれており、酵素加水分解法(非特許文献1)、熱加水分解法(非特許文献2)などを用いて、当該オリゴ糖を産生する方法が開発されている。さらに、D-マンノースを主たる構成とするオリゴ糖を被験者に長期間摂取させた場合、当該オリゴ糖の摂取量に比例して、試験期間中の排便回数及び排便日数において増加する傾向が見られ、ビフィドバクテリウム属菌における占有率も有意に上昇していることが報告されている(非特許文献3)。
【0004】
また、人間の糖タンパク質の糖鎖の重要な部分構造にはD-マンノースがβ-1,4結合したオリゴ糖が含まれており、飲食品原料としてのみならず、医薬品の原料としての応用も期待されている。例えば、マンノースを構成糖とするオリゴ糖類を経口摂取することにより、血清中の総コレステロールや中性脂肪の量が低下することが報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
プレバイオティクスをはじめとする健康機能性素材による健康促進効果を得るためには、習慣的な毎日の摂取が重要である。しかし、健康機能性素材の多くは、原料自体に味や香りがあるために摂取の形態や機会が限定されてしまう問題がある。
【0006】
飲料水(直接飲むものに限らず、飲料を調製するための湯や水を含む)や調理用水の中に健康機能性素材を含有させることによって、日常生活の中で機能性成分が自然な形で摂取できる。例えば、整腸作用等を有する難消化性デキストリンを溶解させた機能性水として、特許文献3には、イオン交換又は電気分解で生成させた酸性イオン水に溶解させて低温殺菌処理を施した機能性水が開示されており、特許文献4には、着色を防ぐために還元タイプの難消化性デキストリンを用い、更に海洋深層水を利用した機能性水が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3553866号公報
【特許文献2】特開2006-169256号公報
【特許文献3】特許第3545742号公報
【特許文献4】特開2009-286697号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sachslehner, et al., Journal of Biotechnology, 2000,vol.80, p.127-134.
【非特許文献2】浅野一朗ら、日本農芸化学会誌、2001年、第75巻、第10号、第1077~1083ページ。
【非特許文献3】Asano, et al., Food Science and Technology Research, 2004, vol.10(1), p.93-97.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、マンノオリゴ糖を含有するが、味や臭いは水と同等の機能性水を調製するためのオリゴ糖組成物、当該オリゴ糖組成物の製造方法、当該オリゴ糖組成物からマンノオリゴ糖を含有する水を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、コーヒー抽出残渣を分解して得られたマンノオリゴ糖を含有する組成物を固形分当たりの糖質の含有率が90質量%以上となるまで精製して得られたオリゴ糖組成物は、イオン交換水に溶解させることで、味や臭いに影響を与えることなく、マンノオリゴ糖を含有する水が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
[1] 固形分当たりのマンノオリゴ糖の含有率が70質量%以上であり、
イオン交換水に溶解させることにより、420nmの吸光度がBrix10%換算で0.05以下、電気伝導度が200mS/m以下である水溶液が得られることを特徴とする、オリゴ糖組成物。
[2] 固形分当たりの糖質の含有率が90質量%以上である、前記[1]のオリゴ糖組成物。
[3] 前記マンノオリゴ糖がコーヒー豆由来である、前記[1]又は[2]のオリゴ糖組成物。
[4] 焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣を分解して得られたマンノオリゴ糖を含有する組成物を、活性炭処理した後、両イオン交換処理することにより得られる、前記[1]~[3]のいずれかのオリゴ糖組成物。
[5] 焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣の加水分解物を、活性炭処理した後、両イオン交換処理することにより、固形分当たりのマンノオリゴ糖の含有率が70質量%以上であり、かつ固形分当たりの糖質の含有率が90質量%以上であるオリゴ糖組成物を調製することを特徴とする、オリゴ糖組成物の製造方法。
[6] 請求項1~4のいずれか一項に記載のオリゴ糖組成物を、水に溶解させることによって、コーヒー豆マンノオリゴ糖の濃度が0.25g~2.0g/L、420nmの吸光度がBrix10%換算で0.05以下、電気伝導度が200mS/m以下であるマンノオリゴ糖含有水を調製することを特徴とする、マンノオリゴ糖含有水の製造方法。
[7] 前記水が、イオン交換水又はRO水である、前記[6]のマンノオリゴ糖含有水の製造方法。
[8] コーヒー豆マンノオリゴ糖の濃度が0.25g~2.0g/L、420nmの吸光度がBrix10%換算で0.05以下、電気伝導度が200mS/m以下であることを特徴とする、マンノオリゴ糖含有水。
[9] pHが3.0~4.6である、前記[8]のマンノオリゴ糖含有水。
[10] 色、味、及び臭いが、イオン交換水と同等である、前記[8]又は[9]のマンノオリゴ糖含有水。
[11] 内容積が1~10Lである合成樹脂製の容器に充填されている、前記[8]~[10]のいずれかのマンノオリゴ糖含有水。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、マンノオリゴ糖を含有するが、味や臭いは水と同等であるマンノオリゴ糖含有水を、容易に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明及び本願明細書において、「オリゴ糖」とは、単糖同士がグリコシド結合によって2~20個程度結合したものをいう。本発明及び本願明細書において、「オリゴ糖」は、単一種類のオリゴ糖のみからなるもののみならず、重合度の異なる複数種のオリゴ糖の混合物(組成物)も含む。重合度の異なる複数種のオリゴ糖の混合物である場合、当該オリゴ糖の重合度は、当該混合物に含まれているオリゴ糖の平均重合度を意味する。すなわち、平均重合度が2~20の混合物は、本発明及び本願明細書における「オリゴ糖」に相当する。
【0014】
本発明及び本願明細書において、オリゴ糖の重合度を表すために「DP」と記載することがある。DPとは、オリゴ糖を構成している単糖の数を意味する。4つのマンノースから構成されたオリゴ糖は重合度4、すなわち「DP4」と表される。
【0015】
本発明及び本願明細書において、「マンノオリゴ糖」とは、構成単糖全体に占めるマンノースの割合(オリゴ糖中のマンノース残基の割合。以下、「マンノース比率」ということがある。)が50%以上であるオリゴ糖(マンノースを主体とした単糖類が2~20分子結合したオリゴ糖)を意味する。
【0016】
本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」の各単糖同士の結合様式は、特に限定されるものではなく、一分子中の結合様式が全て同種であってもよく、異種であってもよい。本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」としては、1分子中の大部分の結合様式が、ヒトの消化管上部で加水分解・吸収されない結合様式からなるものが好ましく、1分子中の大部分の結合様式がβ-1,4結合であるものがより好ましい。中でも、本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」としては、マンノース残基同士がβ-1,4結合で結合されている構造を、1分子中少なくとも1つ有するマンノオリゴ糖が好ましく、1分子中の全てのマンノース残基同士がβ-1,4結合で結合されているマンノオリゴ糖がより好ましく、マンノース比率が100%であり、かつ1分子中の全てのマンノース残基同士がβ-1,4結合で結合されているマンノオリゴ糖(β-1,4-マンノオリゴ糖)が特に好ましい。
【0017】
本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」の重合度は、2~20の範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明に係るオリゴ糖組成物の有効成分としては、重合度が2~15の範囲内のマンノオリゴ糖が好ましく、重合度が2~10の範囲内のマンノオリゴ糖がより好ましく、重合度が2~6の範囲内のマンノオリゴ糖がさらに好ましい。
【0018】
本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」としては、マンノース比率が60質量%以上であるマンノオリゴ糖が好ましく、マンノース比率が70質量%以上であるマンノオリゴ糖がより好ましい。マンノース残基の割合が充分に高いことにより、マンノオリゴ糖による作用をより効果的に得ることができ、また、グルコース等の他の単糖類の含有割合が比較的低いことにより、甘味度等を低く抑えることができ、飲食品やサプリメント、医薬品等へ幅広く適用しやすくなる。
【0019】
本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」が、マンノース比率が100%未満である場合、マンノース以外の構成単糖としては、特に限定されるものではなく、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース、トレオース、リボース、キシロース、アラビノース、アルドヘキソース、リブロース、プシコース、及びソルボース等の各種の単糖を適宜組み合わせて用いることができる。本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」としては、マンノース以外の構成単糖が、グルコース、ガラクトース及びフルクトースからなる群より選択される1種以上であるマンノオリゴ糖が好ましい。
【0020】
本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」としては、構成単糖がマンノースのみからなる(マンノースのみを構成単位とする)マンノオリゴ糖類、すなわち、マンノースのみが2~20分子結合したオリゴ糖であることも好ましい。この場合には、2~20分子の全てのマンノースがβ-1,4結合で結合したβ-1,4-マンノオリゴ糖であることがより好ましい。
【0021】
本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」としては、マンナンを加水分解処理することによって得られるものが好ましい。なお、本発明及び本願明細書において、単に「マンナン」という場合は、D-マンノースのみを構成単位とする多糖であるマンナンの他、マンノースとガラクトース又はグルコースと構成単位とした多糖であるガラクトマンナン、グルコマンナンも広義に含めるものとする。D-マンノースはアルドヘキソースであり、D-グルコース中のカルボキシル基に隣接する炭素に結合している水酸基の立体配置が逆になっているものである。
【0022】
ここで、原料のマンナンは、例えばココナッツ椰子から得られるコプラミール、フーク、南アフリカ産椰子科植物HuacraPalm、ツクネイモマンナン、ヤマイモマンナンより抽出することにより得ることができる。このように得たマンナンを、酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、好ましくは活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製して、糖混合物を得ることができる。かかる当混合物中には、上述した「マンノオリゴ糖」が含まれている。したがって、このようにして得た組成物は、本発明に係るオリゴ糖組成物の原料として用いられる。さらに、「マンノオリゴ糖」は、コンニャクイモ、ユリ、スイセン、ヒガンバナ等に含まれるグルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム等に含まれるガラクトマンナンを酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で分離精製し構成糖としてマンノースの比率を高めることにより製造したものであってもよい。
【0023】
本発明において用いられる「マンノオリゴ糖」としては、コーヒー豆由来のものが好ましい。具体的には、例えば、コーヒー生豆又は焙煎したコーヒー豆を酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製することによって得ることができる。あるいは、使用済みのコーヒー抽出残渣を、酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製することによって得ることも可能である。一般に、焙煎コーヒー豆の粉砕物を商業用の抽出器にて抽出すると、その際に焙煎コーヒーに含まれるガラクトマンナンの側鎖であるガラクトースが可溶化したり、アラビノガラクタンが加水分解によって可溶化する。従って、コーヒー抽出残渣中にはマンナンが豊富であり、しかも直鎖構造をとっているものと推定される。一方、セルロースは分解されにくく残渣として残っているが、セルロースを分解せずにマンナンを特異的に加水分解する条件を適宜選択することにより、マンノオリゴ糖を得ることができる。
【0024】
特にコーヒー抽出残渣を分解する方法としては、酸及び/又は高温により加水分解する方法、酵素により分解する方法、微生物発酵により分解する方法が挙げられるが、これらに限定されない。酸及び/又は高温により加水分解する方法としては特開昭61-96947号公報、特開平2-200147号公報等に開示されている。商業用のコーヒー多段式抽出系において出てくる使用済みのコーヒー抽出残渣を反応容器中において酸触媒を添加して加水分解することもでき、酸触媒を添加せずに高温で短時間処理して加水分解することによっても得ることができる。管形栓流反応器を使用する方法が便利であるが、比較的高温で短時間の反応を行わせる方法に向いているものであれば、いかなる反応器を使用しても良好な結果が得られる。反応時間と反応温度を調節し、可溶化して加水分解させることによってDP10~40のマンナンをDP2~20のマンノオリゴ糖に分解し、その後コーヒー抽出残渣と分離してマンノオリゴ糖を得ることができる。例えば、加水してスラリー状にしたコーヒー残渣を200~260℃程度に加熱した管式熱栓流反応器を通過させて熱加水分解を行うことにより、コーヒーの残渣に含まれているマンノース、アラビノース、グルコースなど多岐にわたる複合体を効率的に抽出でき、固形分当たりマンノオリゴ糖を50質量%以上含む抽出液を得ることができる。なお、ここでコーヒー抽出残査とは、大気中あるいは加圧条件下で焙煎コーヒー豆の粉砕物を水などの溶媒で抽出した後の固形分(いわゆるコーヒー抽出粕)を意味する。
【0025】
「マンノオリゴ糖」として、コーヒー豆由来のもの、すなわち、コーヒー豆(焙煎コーヒー豆、及び焙煎コーヒー豆の粉砕物を含む。)及び/又はコーヒー抽出残渣の加水分解処理により得られたものを用いる場合、使用するコーヒー豆の種類や産地に特に制限はなく、アラビカ種、ロバスタ種、リベリカ種等いずれのコーヒー豆でもよく、さらにブラジル、コロンビア産等いずれの産地のコーヒー豆も使用することができ、1種類の豆のみを単独で使用してもよく、ブレンドした2種以上の豆を使用してもよい。通常、商品価値がないとして廃棄処分されるような品質の悪いコーヒー豆又は小粒のコーヒー豆であっても使用することができる。上記コーヒー豆を一般的に用いられている焙煎機(直火、熱風、遠赤、炭火式など)による極浅炒り、浅炒り、中炒り、深炒りに焙煎したコーヒー豆、及びこの焙煎コーヒー豆を、一般的な粉砕機、ロールミルなどを用いて粉砕することにより得た、焙煎コーヒー豆の粉砕物(粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状のものを含む)を用いることもできる。
【0026】
また、コーヒー抽出残渣としては、通常の液体コーヒーあるいはインスタントコーヒー製造工程において、焙煎コーヒー豆の粉砕物を抽出処理した後のものであれば、常圧下、加圧下抽出であろうと、またいかなる起源、製法のコーヒー抽出残渣であっても使用することができる。
【0027】
ここで、上記加水分解処理について、いくつか詳細に説明する。酵素により分解する方法としては、例えばコーヒー抽出残渣を水性媒体に懸濁させ、ここへ、例えば市販のセルラーゼ及びヘミセルラーゼ等を加えて撹拌しながら懸濁させればよい。酵素の量、作用させる温度及びその他の条件としては、通常の酵素反応に用いられる量、温度、条件であれば特に問題はなく、使用する酵素の最適作用量、温度、条件及びその他の要因によって適宜選択すればよい。
微生物発酵により分解する方法としては、例えば水性媒体に懸濁させたコーヒー抽出残渣にセルラーゼ、ヘミセルラーゼなどを産出する微生物を植菌して培養させればよい。使用する微生物は、細菌類や担子菌類などコーヒー抽出残渣中のマンナンを分解する酵素を産出するものであれば良く、使用する微生物によって培養条件などは適宜選択すればよい。
その他、単にコーヒー抽出残渣を180~250℃で加熱処理した後に得られたオリゴ糖組成物を、本発明に係るオリゴ糖組成物の原料とすることもできる。
【0028】
上記の方法によって得られた「マンノオリゴ糖」を含む組成物は、原料に由来する糖以外の成分も含まれている。例えば、焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣を分解して得られたマンノオリゴ糖を含有する組成物には、コーヒーの色や香りといった成分も含まれているため、このまま水に溶解させると、色、味、臭いが水としては違和感のある水しか得られない。本発明に係るオリゴ糖組成物は、焙煎コーヒー豆抽出残渣等から調製されたマンノオリゴ糖を含む組成物を、水に溶解させても異味異臭の感じられないマンノオリゴ糖含有水を調製できるまで精製したものである。一般的に、精製法としては、骨炭、活性炭、炭酸飽充法、吸着樹脂、マグネシア法、溶剤抽出法等で脱色・脱臭を行い、イオン交換樹脂、イオン交換膜、電気透析等で脱塩、脱酸を行うことが挙げられる。精製法の組み合わせ及び精製条件としては、マンノオリゴ糖を含む反応液中の色素、塩、及び酸等の量や、その他の要因に応じて適宜選択すればよい。
【0029】
本発明に係るオリゴ糖組成物は、マンナンを分解して得られたマンノオリゴ糖を含有する組成物を原料とし、この組成物を固形分当たりの糖質の含有率が90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上となるまで精製することにより製造できる。例えば、原料とするマンノオリゴ糖を含有する組成物を、活性炭処理した後、両イオン交換処理することにより、固形分当たりのマンノオリゴ糖の含有率が70質量%以上であり、かつ固形分当たりの糖質の含有率が90質量%以上であるオリゴ糖組成物を調製することができる。原料の組成物としては、前記で挙げられた組成物を用いることができ、特に、焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣の加水分解物を用いることが好ましい。焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣の加水分解物を活性炭処理した後に両イオン交換処理することにより、精製度の高いほぼ無味無臭の液体を得ることができる。
【0030】
本発明及び本願明細書において、「糖質」とは、炭水化物から食物繊維を除いたものである。オリゴ糖組成物やこれを溶解させた水溶液中の糖質の量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定される。
【0031】
原料とするマンノオリゴ糖を含有する組成物の活性炭処理には、一般的な活性炭処理に使用される活性炭を適宜用いることができる。例えば、粒状と粉状のどちらの形状の活性炭も使用することができる。
【0032】
活性炭処理後の組成物を両イオン交換処理する際に用いられるイオン交換樹脂としては、弱塩基陰イオン交換樹脂、強塩基陰イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂のいずれを用いてもよく、これらのイオン交換樹脂としては、汎用されているものの中から適宜選択して用いることができる。本発明に係るオリゴ糖組成物の製造においては、精製効率をより高められることから、2種以上のイオン交換樹脂を組み合わせて用いることが好ましく、特に、弱塩基陰イオン交換樹脂、強塩基陰イオン交換樹脂、及び強酸性陽イオン交換樹脂を組み合わせて使用するのが最適である。
【0033】
原料とするマンノオリゴ糖を含有する組成物を活性炭処理及び両イオン交換処理により精製することにより、固形分当たりのマンノオリゴ糖の含有率が60質量%以上、かつ固形分当たりの糖質の含有率が90質量%以上にまで精製されたオリゴ糖組成物が得られる、これを本発明に係るオリゴ糖組成物とすることができる。本発明に係るオリゴ糖組成物は、糖以外の成分、特に、有色物質、タンパク質、塩類、酸等の大部分が除去されているため、イオン交換水に溶解させることにより、無色、無味、無臭の水溶液(オリゴ糖含有水)が得られる。なお、「無色、無味、無臭の水溶液」とは、色、味、及び臭いが、イオン交換水と同等の水溶液、すなわち、ヒトが飲んだ時にイオン交換水と区別できない水溶液、を意味する。
【0034】
本発明及び本願明細書において、「イオン交換水」とは、イオン交換樹脂を用いて水中の陰イオン・陽イオンを除去した水(脱イオン水)をいう。本発明において用いられるイオン交換水としては、電気導電率が0.1μS/m程度以下であることが好ましい。
【0035】
本発明に係るオリゴ糖組成物をイオン交換水に溶解させて得られるオリゴ糖含有水は、色価(420nmの吸光度)がBrix10%換算で0.05以下、電気伝導度が200mS/m以下である水溶液である。当該オリゴ糖含有水の420nmの吸光度としては、Brix10%換算で0.05以下であれば特に限定されるものではないが、Brix10%換算で、0.03以下が好ましく、0.02以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。また、当該オリゴ糖含有水の電気伝導度としては、200mS/m以下であれば特に限定されるものではないが、160mS/m以下が好ましく、120mS/m以下がより好ましく、100mS/m以下がさらに好ましく、60mS/m以下がよりさらに好ましく、40mS/m以下が特に好ましい。
【0036】
本発明に係るオリゴ糖組成物の固形分当たりのマンノオリゴ糖の含有率は、70質量%以上であれば特に限定されるものではないが、マンノオリゴ糖による機能性をより充分に発揮できる点から、75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0037】
本発明及び本願明細書において、オリゴ糖組成物やオリゴ糖含有水中のマンノオリゴ糖や糖の含有量は、例えば、HPLC法により測定することができる。
【0038】
本発明に係るオリゴ糖組成物は、イオン交換水に溶解させることで無色、無味、無臭のオリゴ糖含有水が得られる限りにおいて、その他の成分を含有していてもよい。例えば、賦形剤、結合剤、流動性改良剤(固結防止剤)、安定剤、保存剤、pH調整剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤、矯味剤、甘味料、酸味料、香料等として用いられている各種物質を、所望の製品品質に応じて適宜含有させてもよい。
【0039】
本発明に係るオリゴ糖組成物の剤型は、特に限定されるものではなく、各種の剤型を適用できる。本発明に係るオリゴ糖組成物は、水に溶解させてマンノオリゴ糖を含有する機能性水を調製するためのものであるため、水への添加や溶解に適した剤型が好ましい。当該剤型としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤等が挙げられる。
【0040】
本発明に係るオリゴ糖組成物を、水に溶解させることによって、コーヒー豆マンノオリゴ糖の濃度が0.25g~2.0g/L、420nmの吸光度がBrix10%換算で0.05以下、電気伝導度が200mS/m以下であるマンノオリゴ糖含有水を調製することができる。当該水としては、イオン交換水やRO水(逆浸透膜濾過処理された水)のような精製水が好ましい。精製水に溶解させることにより、色、味、及び臭いが、イオン交換水と同等であるマンノオリゴ糖含有水が得られる。
【0041】
本発明に係るオリゴ糖組成物を水に溶解させて得られたマンノオリゴ糖含有水は、保存安定性等の点から、pHが3.0~4.6に調整されていることも好ましい。pHの調整は、一般的な飲料と同様に、酸味料やpH調整剤を用いて行うことができる。本発明に係るオリゴ糖組成物は、イオン性物質の含有量が非常に低く抑えられているため、少量の酸を添加するだけでpHを3.0~4.6に調整することができ、これにより、酸味が抑えられ、水としての嗜好性が損なわれ難い。
【0042】
本発明に係るオリゴ糖組成物を水に溶解させて得られたマンノオリゴ糖含有水は、例えば、他の飲料水と同様に、容器に充填して保存させることができる。マンノオリゴ糖含有水を充填させる容器としては、特に限定されるものではなく、一般的に飲料水を充填させる容器を使用することができる。当該容器としては、例えば、内容積が1~10Lである合成樹脂製の容器が挙げられる。本発明に係るオリゴ糖組成物を水に溶解させて得られたマンノオリゴ糖含有水は、例えば、容器に充填させて、ウォーターサーバー用の水や、ボトル詰めの飲用水として好適に用いられる。
【0043】
本発明に係るオリゴ糖組成物を水に溶解させて得られたマンノオリゴ糖含有水は、色、味、及び臭いが、イオン交換水と同等であるため、飲料水として好適に用いられる。当該マンノオリゴ糖含有水は、そのまま喫飲されてもよく、飲料を調製するための原料水として使用することもでき、調理に使用することもできる。
【実施例0044】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣を加水分解してマンノオリゴ糖を含有する組成物を調製し、得られた組成物を活性炭処理、又は活性炭処理と両イオン交換処理とを組み合わせて精製し、得られたオリゴ糖組成物を水に溶解してマンノオリゴ糖含有水を調製した。
【0046】
<焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣の加水分解物>
粉砕して粒径を約1mmにしたコーヒー抽出残渣を、総固形分濃度が約14質量%の水と粉砕物からなるスラリーに調製した後、4mの管式熱栓流反応器内において熱処理した。当該熱処理においては、当該スラリーを、滞留時間8分間に対応する速度で高圧蒸気とともに栓流反応器にポンプ輸送し、6.35mmφオリフィスを用いて約210℃に維持した。その後、当該スラリーを大気圧下に噴出することによって、反応を急止した。得られたスラリーを濾過して、不溶性固形分から可溶性固形分を含む液を分離した。この液を、焙煎コーヒー豆の粉砕物の抽出残渣の加水分解物(コーヒー抽出残渣分解物)として、以降に用いた。
【0047】
<活性炭処理したマンノオリゴ糖液(活性炭処理MOS糖液)>
コーヒー抽出残渣分解物を、市販の活性炭処理した後、濃縮することによって、マンノースを主体とする単糖類とこれらが2~10分子結合したオリゴ糖の混合物を含む糖液(固形分20質量%:以下、「活性炭処理MOS糖液」ということがある。)を得た。得られた活性炭処理MOS糖液のうち、55質量%がDP2~DP10のβ-1,4-マンノオリゴ糖であり、18質量%がマンノースを主とする糖質であり、12質量%が塩類と酸であり、6質量%がタンパク質であり、9質量%が褐色物質であった。
【0048】
<イオン交換処理したマンノオリゴ糖液(イオン交換処理MOS糖液)>
活性炭処理MOS糖液を、弱塩基陰イオン交換樹脂により処理した後、強塩基陰イオン交換樹脂により処理し、更にその後、市販の活性炭を用いてカラム処理した。得られた処理物を濃縮することによって、マンノースを主体とする単糖類とこれらが2~10分子結合したオリゴ糖の混合物を含む糖液(固形分20質量%:以下、「イオン交換処理MOS糖液」ということがある。)を得た。得られたイオン交換処理MOS糖液のうち、75質量%がDP2~DP10のβ-1,4-マンノオリゴ糖であり、25質量%がマンノースを主とする糖質であった。その他の成分は検出されなかった。
【0049】
<オリゴ糖含有水の調製>
前記で製造した活性炭処理MOS糖液及びイオン交換処理MOS糖液を、それぞれ、マンノオリゴ糖濃度が0.5g/100mLとなるようにイオン交換水に希釈して、オリゴ糖含有水A及びBを製造した。
【0050】
得られたマンノオリゴ糖含有水A及びBと、市販の飲料水(飲料水A(軟水)及び飲料水B(硬水))について、Brix(%)、色価(420nmの吸光度)、電気伝導度(mS/m)を測定した。Brixの測定はデジタル屈折計(「RX-5000α-Plus」、アタゴ社製)を使用し、吸光度の測定は紫外可視分光光度計(「UV-2600」、島津製作所製)を使用し、電気伝導度の測定は導電率計(「ASCON2」、アズワン社製)を使用した。
【0051】
さらに、マンノオリゴ糖含有水等について、外観の色の濃さ、外観の濁り、味の強さ、及び香りの強さを、0~9の十段階評価で評価した。外観の色の濃さは、0が無色、9が濃褐色とし、濁りは、0が透明、9が濁りが非常に強い、とした。味と香りは、0が感じられない、9が非常に強く感じる、とした。
【0052】
【0053】
評価結果を表1に示す。この結果、活性炭処理MOS糖液を含有させたマンノオリゴ糖含有水Aは、褐色でやや濁りがあり、コーヒーに由来する味や香りが感じられた。これに対して、イオン交換処理MOS糖液を含有させたマンノオリゴ糖含有水Bは、市販の飲料水と同様に、無色透明で、無味無臭であった。