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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160507
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】前処理キット及び前処理装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/28 20060101AFI20241107BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C12M1/28
C12N1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075584
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】509352897
【氏名又は名称】ジーニアルライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】下北 良
(72)【発明者】
【氏名】藤田 達之
(72)【発明者】
【氏名】山内 太介
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳厚
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貴
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB01
4B029DG08
4B029GA08
4B029GB05
4B029HA06
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AC20
4B065BD14
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】簡便な前処理キットを用いて、被検液ごとに行う前処理の効率を向上させる。
【解決手段】被検液に含まれる菌を捕集する前処理キットであって、前記被検液ごとに使い捨てされるものであり、前記被検液を貯留する貯留部と、前記貯留部に貯留された前記被検液が流出する流出口とを有する前処理容器と、前記前処理容器内に設けられ、前記菌を捕集するフィルタと、前記フィルタを通電するための電力を供給する外部電源に接続される外部端子とを備え、前記外部端子が前記外部電源に接続されて前記フィルタが通電された状態で、前記被検液が前記フィルタを通過することによって前記菌が前記フィルタに捕集され、前記被検液が前記流出口から流出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液に含まれる菌を捕集する前処理キットであって、
前記被検液ごとに使い捨てされるものであり、
前記被検液を貯留する貯留部と、前記貯留部に貯留された前記被検液が流出する流出口とを有する前処理容器と、
前記前処理容器内に設けられ、前記菌を捕集するフィルタと、
前記フィルタを通電するための電力を供給する外部電源に接続される外部端子とを備え、
前記外部端子が前記外部電源に接続されて前記フィルタが通電された状態で、前記被検液が前記フィルタを通過することによって前記菌が前記フィルタに捕集され、前記被検液が前記流出口から流出される、前処理キット。
【請求項2】
前記菌が前記フィルタに捕集された状態で、前記フィルタを押すシリンジをさらに備える、請求項1に記載の前処理キット。
【請求項3】
前記被検液が前記貯留部に貯留される前に、前記シリンジが前記前処理容器内に設けられている、請求項2に記載の前処理キット。
【請求項4】
前記シリンジは、前記貯留部の開口を塞いで前記前処理容器内に設けられており、
前記シリンジには、前記貯留部に前記被検液を導入する導入孔が形成されている、請求項3に記載の前処理キット。
【請求項5】
前記外部端子に接続されて前記フィルタを通電する電極をさらに備え、
前記電極は、陰極及び陽極を有するものであり、
前記陰極は前記被検液に満たされる前記導入孔の内壁に設けられ、前記陽極は前記フィルタに接続されている、請求項4に記載の前処理キット。
【請求項6】
前記導入孔における前記フィルタと反対側に設けられた外側開口を塞ぐ蓋体をさらに備える、請求項4に記載の前処理キット。
【請求項7】
前記導入孔は、前記フィルタに面した内側開口から前記外側開口に亘って直線状をなすものであり、
前記蓋体には、前記導入孔に差し込まれて前記フィルタを押すプランジャが設けられている、請求項6に記載の前処理キット。
【請求項8】
前記流出口を開閉する開閉機構をさらに備える、請求項1に記載の前処理キット。
【請求項9】
前記前処理キットは、前記菌が前記フィルタに捕集された状態で、前記菌を処理する処理液が導入されて、前記菌を構成する生体物質を含む液である生体物質含有液を抽出するものであり、
前記流出口は、
前記処理液が前記菌を処理することによって発生する廃液を流出させるための流出口である廃液流出口と、
前記生体物質含有液を抽出するための流出口である生体物質含有液流出口とを有する、請求項8に記載の前処理キット。
【請求項10】
前記廃液流出口から流出した前記廃液を貯留する廃液貯留部と、
前記廃液貯留部とは別に設けられ、前記生体物質含有液流出口から流出した前記生体物質含有液を貯留する生体物質含有液貯留部とを有する、請求項9に記載の前処理キット。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の前処理キットと、
前記前処理キットが設置されるキット設置部と、
前記前処理キットに電力を供給する電力供給部とを備える、前処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理キット及び前処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検液に含まれる菌を捕集する前処理を行う前処理装置が種々提案されている。例えば、非特許文献1に示すように、この種の前処理装置は、菌を捕集する炭素繊維が内部に設けられた円柱状セルを用いるものが挙げられる。この前処理装置では、菌を含んだ被検液を循環させることによって、被検液が円柱状セルに流れており、その際に、炭素繊維が通電されている。その結果、被検液が炭素繊維を通過する際に、菌は炭素繊維に捕集される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】栗原英紀、近藤康人、「集菌技術に関する研究」、埼玉県産業技術総合センター研究報告第2巻(2004年)
【発明の概要】
【0004】
一方、上記の前処理装置では、円柱状セルが、被検液を循環させるポンプに直接接続されており、その状態で被検液が循環されている。したがって、被検液ごとに前処理を行う場合、円柱状セルをポンプから取り外して再度円柱状セルをポンプに直接接続する必要があり、ユーザの手間が増えてしまう。その結果、上記の前処理装置では前処理の効率が低下してしまう。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、簡便な前処理キットを用いて、被検液ごとに菌を捕集する前処理の効率を向上させることを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る前処理キットは、被検液に含まれる菌を捕集する前処理キットであって、前記被検液ごとに使い捨てされるものであり、前記被検液を貯留する貯留部と、前記貯留部に貯留された前記被検液が流出する流出口とを有する前処理容器と、前記前処理容器内に設けられ、前記菌を捕集するフィルタと、前記フィルタを通電するための電力を供給する外部電源に接続される外部端子とを備え、前記外部端子が前記外部電源に接続されて前記フィルタが通電された状態で、前記被検液が前記フィルタを通過することによって前記菌が前記フィルタに捕集され、前記被検液が前記流出口から流出されることを特徴とする。
【0007】
このような前処理キットであれば、被検液ごとに使い捨てされるので、前処理キットを交換するだけで次の被検液に対して前処理を行うことができ、被検液ごとに行う前処理の効率を向上させることができる。
また、フィルタが通電された状態で被検液がフィルタを通過するので、被検液に含まれている菌はフィルタに捕集されやすくなり、前処理の際の集菌効率を向上させることができる。
【0008】
前記前処理キットは、前記菌が前記フィルタに捕集された状態で、前記フィルタを押すシリンジをさらに備えることが望ましい。
このような構成であれば、シリンジがフィルタを押すことによって、フィルタから被検液を抽出することができるので、菌の捕集から被検液の抽出までを一つの前処理キット内で行うことができる。
【0009】
前記被検液が前記貯留部に貯留される前に、前記シリンジが前記前処理容器内に設けられていることが好ましい。
このような構成であれば、前処理キットを出荷する際にシリンジが前処理容器に取り付けられた状態となるので、前処理キットを持ち運びすることが容易になる。その結果、ユーザは、被検液ごとに前処理キットを簡単に交換することができる。
また、シリンジが前処理容器内で予め位置決めされているので、被検液が貯留部に貯留された後にシリンジを前処理容器内に設ける場合と比較して、シリンジを位置決めする必要がなく、シリンジによってフィルタを押すだけで、フィルタから被検液を抽出することができる。
【0010】
前記シリンジは、前記貯留部の開口を塞いで前記前処理容器内に設けられており、前記シリンジには、前記貯留部に前記被検液を導入する導入孔が形成されていることが望ましい。
このような構成であれば、被検液が貯留部に貯留される前にシリンジが前処理容器内に設けられた場合に、導入孔を通じて被検液を貯留部に導入することができる。
【0011】
前記外部端子に接続されて前記フィルタを通電する電極をさらに備え、前記電極は、陰極及び陽極を有するものであり、前記陰極は前記被検液に満たされる前記導入孔の内壁に設けられ、前記陽極は前記フィルタに接続されていることが好ましい。
このような構成であれば、被検液が貯留部に貯留された場合に、陰極及び陽極が被検液に浸されているので、フィルタが通電されて被検液に含まれる菌をフィルタに捕集することができる。
【0012】
前記導入孔における前記フィルタと反対側に設けられた外側開口を塞ぐ蓋体をさらに備えることが望ましい。
このような蓋体であれば、導入孔の外側開口を塞いでいるので、シリンジによってフィルタを押した際に、導入孔を通じて被検液が外部に漏れることを防ぐことができる。
【0013】
前記導入孔は、前記フィルタに面した内側開口から前記外側開口に亘って直線状をなすものであり、前記蓋体には、前記導入孔に差し込まれて前記フィルタを押すプランジャが設けられていることが望ましい。
このような構成であれば、導入孔の内側開口に面したフィルタがプランジャによって押されるので、フィルタ全体に亘って被検液を抽出することができる。
【0014】
前記前処理キットは、前記流出口を開閉する開閉機構をさらに備えることが望ましい。
このような構成であれば、開閉機構によって任意のタイミングで前処理容器に被検液を貯留したり、流出口から被検液を流出させることができる。
【0015】
前記前処理キットは、前記菌が前記フィルタに捕集された状態で、前記菌を処理する処理液が導入されて、前記菌を構成する生体物質を含む液である生体物質含有液を抽出するものであり、前記流出口は、前記処理液が前記菌を処理することによって発生する廃液を流出させるための流出口である廃液流出口と、前記生体物質含有液を抽出するための流出口である生体物質含有液流出口とを有することが好ましい。
このような構成であれば、廃液及び生体物質含有液はそれぞれ廃液流出口及び生体物質含有液流出口から流出するので、廃液及び生体物質含有液が混ざり合うことを防ぐことができる。また、被検液に含まれる菌の捕集から生体物質含有液を抽出するまでの前処理を一つの前処理キット内で行うことができる。
【0016】
前記廃液流出口から流出した前記廃液を貯留する廃液貯留部と、前記廃液貯留部とは別に設けられ、前記生体物質含有液流出口から流出した前記生体物質含有液を貯留する生体物質含有液貯留部とを有することが望ましい。
このような構成であれば、廃液及び生体物質含有液はそれぞれ別の貯留部に貯留されるので、前処理の際に貯留部を交換する必要がない。また、前処理が完了して生体物質含有液を検査する場合に、生体物質含有液貯留部だけを前処理キットから取り出して検査を行うことができる。
【0017】
前処理装置は、前記前処理キットと、前記前処理キットが設置されるキット設置部と、前記外部端子に電力を供給する電力供給部とを備えるものが挙げられる。
このような構成であれば、上記の前処理キットと同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、簡便な前処理キットを用いて、被検液ごとに菌を捕集する前処理の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る前処理装置の概略構成図である。
図2】同実施形態に係る前処理キットの断面図であり、(a)集菌、(b)タンパク質遊離、(c)タンパク質抽出のそれぞれの場合における前処理キットの断面図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る同実施形態に係る前処理キットの断面図であり、(a)集菌、(b)タンパク質遊離、(c)タンパク質抽出のそれぞれの場合における前処理キットの断面図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る同実施形態に係る前処理キットの断面図であり、(a)集菌、(b)タンパク質遊離、(c)タンパク質抽出のそれぞれの場合における前処理キットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る前処理装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に示すいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し又は誇張して模式的に描かれている場合がある。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0021】
<前処理装置の基本構成>
本実施形態の前処理装置100は、被検液に含まれる菌を捕集するものである。具体的にこの前処理装置100は、被検液に含まれる結核菌を捕集して、当該結核菌を構成するタンパク質を抽出するものである。
【0022】
ここで前処理装置100は、図1に示すように、被検液に含まれる菌を捕集する前処理キット10と、前処理キット10が設置されるキット設置部20と、前処理キット10に電力を供給し、外部電源である電力供給部30と、キット設置部20又は電力供給部30を制御する制御装置40とを備える。以下、各部の説明をする。
【0023】
前処理キット10は、被検液ごとに使い捨てされるものである。ここで、前処理キット10は、被検液を貯留する前処理容器11と、被検液に含まれる菌を捕集するフィルタ12と、外部電源である電力供給部30に接続される外部端子13と、フィルタ12を押すシリンジ14とを有するものである。
【0024】
前処理容器11は、被検液を貯留する貯留部111と、貯留部111に貯留された被検液が流出する流出口112とを有するものである。本実施形態において、前処理容器11は例えば概略中空円筒状をなしている。具体的には、前処理容器11の内部空間が貯留部111を形成し、前処理容器11の底面には流出口112が1つ形成されており、前処理容器11の上部は開放されている。なお、流出口112に対応して、流出口112から流出した被検液を貯留する容器Cが設けられる。
【0025】
フィルタ12は、通電された状態で被検液に含まれる菌を捕集するものである。本実施形態において、フィルタ12は、前処理容器11内に設けられており、その状態において、全体として概略円柱状をなしている。より詳細には、フィルタ12の底面は、流出口112が形成された貯留部111の底面全体と接しており、フィルタ12の側面は、貯留部111の内壁に接している。また本実施形態において、フィルタ12は、炭素繊維フィルタである。
【0026】
外部端子13は、フィルタ12と電力供給部30とを電気的に接続するものである。外部端子13が電力供給部30に接続されることによって、フィルタ12が通電される。
【0027】
シリンジ14は、菌がフィルタ12に捕集された状態で、フィルタ12を押すものである。本実施形態においてシリンジ14は、互いに径が異なる2つの円筒状をなすものが軸方向に沿って接続されたものである。ここで、径が大きいシリンジ14の部分を大径部14a、径が小さいシリンジ14の部分を小径部14bとする。
【0028】
大径部14aは、貯留部111の開口を塞いで前処理容器11内に設けられている。より詳細には、大径部14aの外径は、前処理容器11の内径と略一致しており、大径部14aの底面は、フィルタ12の上面全体と接している。また、小径部14bは、大径部14aの上面に設けられており、小径部14bの外径は、前処理容器11の内径よりも小さい。
【0029】
さらに、シリンジ14には、被検液を貯留部111に導入する導入孔141が形成されている。具体的に導入孔141は、フィルタ12に面した内側開口141aからフィルタ12と反対側に設けられた外側開口141bに亘って直線状をなすものである。本実施形態において、内側開口141aは、大径部14aの底面の略中心に設けられており、外側開口141bは、小径部14bの上面の略中心に設けられている。なお、本実施形態において、内側開口141a及び外側開口141bの形状は例えば円形状をなしているが、他の形状であってもよく、互いに異なる形状であってもよい。
【0030】
さらに、前処理キット10は、フィルタ12を通電する電極15と、導入孔141の外側開口141bを塞ぐ蓋体16と、流出口112を開閉する開閉機構17とを備える。
【0031】
電極15は、外部端子13に接続され、陰極151及び陽極152を有するものである。陰極151は、被検液に満たされる導入孔141の内壁に設けられ、本実施形態では円筒状をなす金属筒である。陰極151の一端部は、例えばフレキシブル基板(FPC)を介して外部端子13に接続される。
【0032】
陽極152は、フィルタ12又は外部端子13に接続されており、例えば導電性両面テープ又は導電性接着剤である。具体的に陽極152は、貯留部111の内壁に沿って設けられており、一端部が例えばFPCを介して外部端子13に接続され、もう一方の端部が貯留部111の内側面から貯留部111の底面へと屈曲した形状をなしている。
【0033】
蓋体16は、シリンジ14に対応した円筒状をなすキャップである。具体的に蓋体16は、導入孔141の外側開口141bの全体を塞いでおり、蓋体16の内面は、シリンジ14の外面と嵌り合っている。なお、蓋体16はキャップに限られず、外側開口141bを塞ぐシール部材であってもよい。
【0034】
また、蓋体16には、導入孔141に差し込まれてフィルタ12を押すプランジャ161が設けられている。プランジャ161は、外側開口141bに面した蓋体16の底面に設けられ、外側開口141bから内側開口141aに亘って例えば円柱状をなしているが、他の形状であってもよい。
【0035】
開閉機構17は、流出口112に対応して設けられる。本実施形態において開閉機構17は、球状をなす磁性体171と、通電されて磁性体171を磁力により引き寄せる電磁石172とを有する。磁性体171の直径は、流出口112の幅よりも長く、電磁石172が通電されていない状態で、流出口112を塞いでいる。なお、磁性体171の形状は球状に限られない。
【0036】
キット設置部20は、前処理容器11の外面に設けられている。本実施形態において、キット設置部20は、フィルタ12を加熱するヒータであり、フィルタ12に対応して設けられる。
【0037】
電力供給部30は、外部端子13を介してフィルタ12を通電するものである。本実施形態において、電力供給部30は、直流電流を供給する外部電源であり、被検液に含まれる菌を生きたまま捕集するために、例えば1mA以下の直流電流を供給することが好ましい。なお、電力供給部30は、外部電源に限られず、コンセントであってもよい。
【0038】
制御装置40は、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース又はA/Dコンバータ等を備えたコンピュータであり、内部メモリに格納されたプログラムに基づき、CPU及び周辺機器が協働することによって、開閉機構17、キット設置部20又は電力供給部30を制御する。本実施形態において、制御装置40は、開閉機構17の電磁石のON/OFF制御、キット設置部20を構成するヒータのON/OFF制御、又は、電力供給部30が前処理キット10に供給する電流の制御を行う。
【0039】
<前処理方法>
次に、本実施形態の前処理装置100を用いた前処理方法について、図2を参照しつつ説明する。なお、本実施形態における前処理方法は、結核菌を構成するタンパク質を分離するものであるが、菌は結核菌に限られず、また、菌から分離される生体物質はタンパク質に限られない。
【0040】
(1)集菌
図4(a)に示すように、ユーザは、前処理キット10をキット設置部20に設置する。ユーザは、導入孔141を通じて被検液を貯留部111に導入すると、フィルタ12又は陰極151の一端部は被検液に浸される。
【0041】
ユーザは、外部端子13を電力供給部30に接続すると、制御装置40が電力供給部30を制御して、フィルタ12を通電させた状態にする。この状態で被検液がフィルタ12を通過すると、フィルタ12に結核菌が捕集される。なおこの際、開閉機構17は、流出口112を閉止している。
【0042】
被検液が貯留部111に導入され、フィルタ12が被検液に浸された後、ユーザは、結核菌を処理する処理液を、導入孔141を通じて貯留部111に導入する。ここで処理液は、プロテアーゼ溶液(以下、処理液A)、4M尿素溶液(以下、処理液B)、NアセチルLシステイン溶液(以下、処理液C)、又は、リン酸緩衝液(ポリオキシエチレンソルピタンモノラウラ―ト80、以下、SW液)である。
【0043】
処理液A、処理液B、処理液C又はSW液がこの順で貯留部111に導入される。具体的には、制御装置40が開閉機構17を制御することによって、新たな処理液が導入される前に流出口112が開放されて、前に導入された処理液により発生した廃液が流出する。廃液が容器Cに貯留された後、開閉機構17によって流出口112が閉止されて、ユーザは、新たな処理液を導入する。この開閉機構17の動作を、処理液Aを導入してからSW液を導入するまで繰り返す。
【0044】
全ての処理液が導入された後、ユーザは、廃液が貯留された容器Cを新たな容器Cと交換する。なお、容器Cの交換は、前処理装置100に備えられたアクチュエータ(不図示)によって行われるものであってもよい。
【0045】
(2)タンパク質遊離
図4(b)に示すように、フィルタ12を通電させ、流出口112を閉止した状態で、ユーザは、熱処理緩衝液(ポリオキシエチレンソルピタンモノラウラ―ト20、以下、熱処理液)を、導入孔141を通じて貯留部111に導入する。その後、制御装置40がキット設置部20のヒータを制御して、フィルタ12の加熱を開始する。これにより、結核菌を構成するタンパク質(生体物質)がフィルタ12から遊離されて、タンパク質を含む液である生体物質含有液が生成される。なお、タンパク質遊離の際、陰極151の一端部は、被検液に浸されている。
【0046】
(3)タンパク質抽出
フィルタ12を通電させた状態で、制御装置40がキット設置部20のヒータを制御して、フィルタ12の加熱が終了される。図4(c)に示すように、前処理装置100に備えられたアクチュエータ(不図示)が、プランジャ161を導入孔141に差し込んで、蓋体16によって外側開口141bを塞ぐ。
【0047】
制御装置40が開閉機構17を制御することによって流出口112が開放されて、アクチュエータ(不図示)は、蓋体16をフィルタ12に向かって押圧する。この際、大径部14aの側面は、貯留部111の内壁に接しているので、フィルタ12を押した際に生体物質含有液がシリンジ14から溢れることを防止している。さらに、陽極152の一端部が屈曲して貯留部111の底面に設けられるので、フィルタ12を押した際に陽極152がフィルタ12から外れることを防止している。その結果、生体物質含有液がフィルタ12から抽出されて流出口112から流出し、容器Cに貯留される。なお、蓋体16の押圧は、ユーザによって行われるものであってもよい。
【0048】
容器Cに貯留された生体物質含有液は、前処理装置100から取り出されて冷凍保存される。そして、前処理キット10は、キット設置部20から取り外されて使い捨てられて、別の前処理キット10がキット設置部20に設置される。
【0049】
<本実施形態の効果>
このような前処理キット10であれば、被検液ごとに使い捨てされるので、前処理キット10を交換するだけで次の被検液に対して前処理を行うことができ、被検液ごとに行う前処理の効率を向上させることができる。
また、フィルタ12が通電された状態で被検液がフィルタ12を通過するので、被検液に含まれる菌はフィルタ12に捕集されやすくなり、前処理の際の集菌効率を向上させることができる。
【0050】
また本実施形態よれば、シリンジ14がフィルタ12を押すことによって、フィルタ12から被検液を抽出することができるので、菌の捕集から被検液の抽出までを一つの前処理キット10内で行うことができる。特に本実施形態では、フィルタ12による菌の捕集から菌を構成するタンパク質の抽出までの前処理を一つの前処理キット10内で行うことができる。
【0051】
さらに、前処理キット10を出荷する際にシリンジ14が前処理容器に取り付けられた状態であるので、前処理キット10を持ち運びすることが容易になる。その結果、ユーザは、被検液ごとに前処理キット10を簡単に交換することができる。
そして、シリンジ14が前処理容器11内で予め位置決めされているので、被検液が貯留部111に貯留された後にシリンジ14を前処理容器11内に設ける場合と比較して、シリンジ14を位置決めする必要がなく、シリンジ14によってフィルタを押すだけで、フィルタ12から被検液を抽出することができる。
【0052】
また、シリンジ14には導入孔141が設けられているので、被検液が貯留部111に貯留される前にシリンジ14が前処理容器11内に設けられた場合に、導入孔141を通じて被検液を貯留部111に導入させることができる。
【0053】
また、被検液が貯留部111に貯留された場合に、陰極151及び陽極152が被検液に浸されているので、フィルタ12を通電して被検液に含まれる菌をフィルタ12に捕集することができる。
【0054】
また、蓋体16が導入孔141の外側開口141bを塞いでいるので、シリンジ14によってフィルタ12を押した際に、導入孔141を通じて被検液が外部に漏れることを防ぐことができる。
【0055】
また、導入孔141の内側開口141aに面したフィルタ12はプランジャ161によって押されるので、フィルタ12全体に亘って被検液を抽出することができる。
【0056】
その上、開閉機構17によって任意のタイミングで貯留部111に被検液を貯留したり、流出口112から被検液を流出させたりすることができる。
【0057】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0058】
本実施形態において、流出口112の数は1つであったが、流出口112の数はこれに限られない。例えば図3又は図4に示すように、前処理キット10は、廃液を流出させるための流出口である廃液流出口1121と、生体物質含有液を抽出するための流出口である生体物質含有液流出口1122とを有するものであってもよい。この場合、前処理キット10は、廃液流出口1121から流出した廃液を貯留する廃液貯留部18と、廃液貯留部18とは別に設けられ、生体物質含有液流出口1122から流出した生体物質含有液を貯留する生体物質含有液貯留部19とを有するものが挙げられる。
【0059】
ここで、図3に示すように、開閉機構17は、廃液流出口1121又は生体物質含有液流出口1122のそれぞれに対応して設けられるものが挙げられる。この場合、前処理方法の際のそれぞれの開閉機構17の動作は以下の通りとなる。
【0060】
集菌の際、生体物質含有液流出口1122は常に閉止されている。一方、廃液流出口1121は、新たな処理液が導入される前に開閉機構17によって開放されて、廃液を流出させる。廃液が廃液貯留部18に貯留された後、開閉機構17によって廃液流出口1121が閉止されて、新たな処理液が導入される。
【0061】
タンパク質遊離の際、廃液流出口1121及び生体物質含有液流出口1122は閉止されている。
【0062】
タンパク質抽出の際、廃液流出口1121は常に閉止されている。一方、生体物質含有液流出口1122は、開閉機構17によって開放されて、生体物質含有液が流出して、生体物質含有液貯留部19に貯留される。
【0063】
開閉機構17の他の形態として、図4に示すように、開閉機構17は、1つの磁性体171と、廃液流出口1121に対応して設けられる電磁石171aと、生体物質含有液流出口1122に対応して設けられる電磁石171bと、廃液流出口1121及び生体物質含有液流出口1122の間に設けられる電磁石171cとを有するものであってもよい。この場合、前処理方法の際の開閉機構17の動作は以下の通りとなる。
【0064】
集菌の際、新たな処理液が導入される前に、電磁石171cに電流が流れて、磁性体171は電磁石171bに引き寄せられる。これにより、生体物質含有液流出口1122は閉止され、廃液流出口1121は開放されて、廃液が廃液貯留部18へと流出される。廃液が廃液貯留部18に貯留された後、電磁石171cに電流が流れて、廃液流出口1121及び生体物質含有液流出口1122が閉止されて新たな処理液が導入される。
【0065】
タンパク質遊離の際、電磁石171cに電流が流れて、磁性体171は電磁石171cに引き寄せられる。これにより、廃液流出口1121及び生体物質含有液流出口1122は閉止される。
【0066】
タンパク質抽出の際、電磁石171aに電流が流れて、磁性体171は電磁石171aに引き寄せられる。これにより、廃液流出口1121は閉止され、生体物質含有液流出口1122は開放される。その結果、生体物質含有液が生体物質含有液流出口1122から流出して、生体物質含有液貯留部19に貯留される。
【0067】
図3または図4のように、廃液流出口1121及び生体物質含有液流出口1122を有する場合、廃液及び生体物質含有液はそれぞれ廃液流出口1121及び生体物質含有液流出口1122から流出するので、廃液及び生体物質含有液が混ざり合うことを防ぐことができる。また、被検液に含まれる菌の捕集から生体物質含有液を抽出するまでの前処理を一つの前処理キット10で一気通貫に行うことができる。さらに、廃液貯留部18及び生体物質含有液貯留部19を有する場合、廃液及び生体物質含有液はそれぞれ別の貯留部に貯留されるので、前処理の際に容器を交換する必要がない。その上、前処理が完了して生体物質含有液を検査する場合に、生体物質含有液貯留部19だけを前処理キット10から取り出して検査を行うことができる。
【0068】
本実施形態において、流出口112は、前処理容器11の底面に形成されるものであったが、前処理容器11の側面に形成されるものであってもよい。
【0069】
本実施形態において、シリンジ14は、被検液が貯留部111に貯留される前に前処理容器11内に設けられるものであったが、被検液が貯留部111に貯留された後に前処理容器11内に設けられるようにしてもよい。この場合、シリンジ14がフィルタ12を押す際に、陰極151とシリンジ14とが物理的に干渉するので、陰極151を前処理容器11から取り外した後に、シリンジ14を前処理容器11内に設ける必要がある。
【0070】
本実施形態において、導入孔141は、シリンジ14の中心に形成されていたが、導入孔141が形成される位置は特に限定されない。
【0071】
本実施形態において、フィルタ12又はシリンジ14は、貯留部111の底面全体に接して設けられているものであったが、フィルタ12又はシリンジ14は、貯留部111の底面14の一部と接して設けられていてもよい。
【0072】
本実施形態において、陰極151は、金属筒であったが、FPCであってもよい。この場合、陰極151を構成するFPCは、導入孔141の内壁に直接設けられている。
【0073】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0074】
100 ・・・前処理装置
10 ・・・前処理キット
11 ・・・前処理容器
111 ・・・貯留部
112 ・・・流出口
12 ・・・フィルタ
13 ・・・外部端子
14 ・・・シリンジ
141 ・・・導入孔
15 ・・・電極
151 ・・・陰極
152 ・・・陽極
16 ・・・蓋体
161 ・・・プランジャ
17 ・・・開閉機構
20 ・・・キット設置部
30 ・・・電力供給部
40 ・・・制御装置
図1
図2
図3
図4