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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160514
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】蒸着マスクのためのマスクフレーム
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20241107BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20241107BHJP
   H10K 71/16 20230101ALI20241107BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H10K50/10
H10K71/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075605
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】522277722
【氏名又は名称】株式会社ブイ・イー・ティー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】塩尻 和也
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107FF15
3K107GG04
3K107GG33
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029CA01
4K029DB06
4K029HA02
4K029HA03
4K029HA04
(57)【要約】
【課題】輸送に適した蒸着マスクのためのマスクフレームを提供する。
【解決手段】蒸着マスクのためのマスクフレームは、第1のフレームと、第2のフレームと、第3のフレームとを備えている。第1のフレームは、蒸着マスクが接合される第1の開口を有する。第2のフレームは、蒸着マスクが接合された第1のフレームが設置される第2の開口を有する。第2のフレームには、第2の開口の面内方向における第2のフレームに対する第1のフレームの位置を調整する位置調整機構が設けられている。第3のフレームは、第1のフレームが設置された第2のフレームが設置される第3の開口を有する。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着マスクが接合される第1の開口を有する第1のフレームと、
前記蒸着マスクが接合された前記第1のフレームが設置される第2の開口を有する第2のフレームであって、前記第2の開口の面内方向における前記第2のフレームに対する前記第1のフレームの位置を調整する位置調整機構が設けられた第2のフレームと、
前記第1のフレームが設置された前記第2のフレームが設置される第3の開口を有する第3のフレームと、
を備えた蒸着マスクのためのマスクフレーム。
【請求項2】
前記第1のフレームと、前記第2のフレームと、前記第3のフレームの各辺とには、被蒸着基板の搬送のための複数の切り欠き部が等間隔で形成され、
前記位置調整機構は、前記第2のフレームの前記切り欠き部の間の位置に設けられている、
請求項1に記載のマスクフレーム。
【請求項3】
前記第3のフレームは、前記第1のフレームと前記第2のフレームに比べて幅広、かつ、厚肉に形成されている、
請求項1に記載のマスクフレーム。
【請求項4】
前記第2のフレームには前記第1のフレームが設置されたときに前記第1のフレームと係合する凸部が形成され、
前記凸部の形成位置は、前記蒸着マスクが前記第1のフレームに接合されたときに前記第1のフレームが前記蒸着マスクから受ける応力の発生基点から応力の発生方向側の位置である、
請求項1に記載のマスクフレーム。
【請求項5】
蒸着マスクが接合される複数の棒状フレームと、
前記蒸着マスクが接合された前記棒状フレームが設置される第1の開口を有する第2のフレームであって、前記第1の開口の面内方向における前記第2のフレームに対する前記棒状フレームの位置を調整する位置調整機構が設けられた第2のフレームと、
前記棒状フレームが設置された前記第2のフレームが設置される第2の開口を有する第3のフレームと、
を備えた蒸着マスクのためのマスクフレーム。
【請求項6】
前記第2のフレームと、前記第3のフレームの各辺とには、被蒸着基板の搬送のための複数の切り欠き部が等間隔で形成され、
前記位置調整機構は、前記第2のフレームの前記切り欠き部の間の位置に設けられている、
請求項5に記載のマスクフレーム。
【請求項7】
前記第3のフレームは、前記第2のフレームに比べて幅広、かつ、厚肉に形成されている、
請求項5に記載のマスクフレーム。
【請求項8】
前記第2のフレームには前記棒状フレームが設置されたときに前記棒状フレームと係合する凸部が形成され、
前記凸部の形成位置は、前記蒸着マスクが前記棒状フレームに接合されたときに前記棒状フレームが前記蒸着マスクから受ける応力の発生基点から応力の発生方向側の位置である、
請求項5に記載のマスクフレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、蒸着マスクのためのマスクフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(electro-luminescence)ディスプレイの製造工程の1つである真空蒸着工程では、有機物等の蒸着物質を蒸着させる際に蒸着マスクが使用される。蒸着マスクのずれは、成膜位置のずれにつながる。したがって、通常、蒸着マスクは、マスクフレームによって保持された状態で使用される。ここで、プロセス温度によってはマスクフレーム及び蒸着マスクが熱膨張を起こし、これによってアライメントのずれ及びサイズのずれが生じることがある。したがって、マスクフレームは、熱膨張率の小さい材料によって製造される。また、同時に蒸着マスクの変形防止策として、蒸着マスクを架張してマスクフレームに溶接することで接合する方法が用いられている。この場合、マスクフレームには、蒸着マスクの架張時の応力に耐えうる剛性が求められる。このような剛性を得るために、マスクフレームは、幅広、かつ、厚肉となる。したがって、マスクフレームは、通常、高重量である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6160356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、蒸着マスクのマスクフレームへの接合と、蒸着マスクが接合されたマスクフレームの利用とが別の場所で行われることがある。この場合、蒸着マスクが接合されたマスクフレームを所定の場所まで輸送する必要が生じる。しかしながら、前述したようにマスクフレームは、高重量のため、輸送のためのコストがかかりやすい。
【0005】
実施形態は、輸送に適した蒸着マスクのためのマスクフレームを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様の蒸着マスクのためのマスクフレームは、第1のフレームと、第2のフレームと、第3のフレームとを備えている。第1のフレームは、蒸着マスクが接合される第1の開口を有する。第2のフレームは、蒸着マスクが接合された第1のフレームが設置される第2の開口を有する。第2のフレームには、第2の開口の面内方向における第2のフレームに対する第1のフレームの位置を調整する位置調整機構が設けられている。第3のフレームは、第1のフレームが設置された第2のフレームが設置される第3の開口を有する。
【発明の効果】
【0007】
実施形態は、輸送に適した蒸着マスクのためのマスクフレームを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、実施形態におけるマスクフレームの構成を示す斜視図である。
図1B図1Bは、マスクフレームの構成を示す分解斜視図である。
図2図2は、位置調整機構について説明するための、第2のフレームのIII-III線断面図である。
図3図3は、一例の蒸着マスクの構成を示す正面図である。
図4図4は、実施形態に係るマスクアセンブリの製造方法を示すフローチャートである。
図5A図5Aは、蒸着マスクが接合された第1のフレームを示す図である。
図5B図5Bは、図5AのVB-VB線断面図である。
図6A図6Aは、第1のフレームの位置調整がされた後の第2のフレームを示す図である。
図6B図6Bは、図6AのVIB-VIB線断面図である。
図7A図7Aは、第2のフレームの設置された後の第3のフレームを示す図である。
図7B図7Bは、図7AのVIIB-VIIB線断面図である。
図8図8は、変形例1のマスクフレームの構成を示す分解斜視図である。
図9図9は、変形例2における図6AのVIB-VIB線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1. 実施形態
実施形態に係るマスクフレームについて説明する。実施形態に係るマスクフレームは、有機ELパネルの製造工程において被蒸着基板に蒸着パターンを形成するために使用される蒸着マスクを保持するためのフレームである。蒸着マスクと接合されることによって、被蒸着基板に対する蒸着マスクの正確な位置決めを行えるようにする。実施形態におけるマスクフレームでは、蒸着マスクが接合された状態での位置調整がされ得る。
【0010】
なお、有機ELパネルの表示方式としては、各々が独立に蒸着された赤、青、緑の3原色の有機EL層を個別に発光させて有色表示する方式と、一面に蒸着された白色の有機EL層の白色発光を、カラーフィルタを介して有色表示する方式と、があり得る。実施形態に係るマスクフレームは、上述したいずれの表示方式の有機ELパネルの製造工程においても、適用可能である。
【0011】
1.1 構成
まず、実施形態に係るマスクフレームの構成について説明する。
【0012】
1.1.1 マスクフレーム
図1Aは、実施形態におけるマスクフレームの構成を示す斜視図である。図1Aに示すように、マスクフレーム1は、第1のフレーム10と、第2のフレーム20と、第3のフレーム30とを備える。蒸着は、マスクフレーム1に蒸着マスクが接合されたマスクアセンブリの状態で実施される。蒸着は、蒸着マスクの接合面と逆側の面、図1Aでは矢印Vの方向から行われる。つまり、蒸着は、第3のフレーム30の側から行われる。
【0013】
図1Bは、マスクフレームの構成を示す分解斜視図である。以下、第1のフレーム10、第2のフレーム20、第3のフレーム30のそれぞれについて説明する。
【0014】
1.1.1.1 第1のフレーム
第1のフレーム10は、一体に成型された例えば矩形状の枠である。前述したように、蒸着マスクは、第1のフレーム10に接合される。このため、第1のフレーム10によって形成される開口の寸法は、適用される蒸着マスクの寸法と同程度である。また、第1のフレーム10の板厚、すなわち高さ方向の長さは5-15mm程度であって、後で説明される第3のフレーム30の板厚に比べて十分に薄い。第1のフレーム10は、蒸着マスクに接合されることにより、薄膜の蒸着マスクの変形を抑制する機能を主に担う。したがって、第1のフレーム10の材料には、小さい熱膨張率の材料が用いられることが望ましい。例えば、第1のフレーム10の材料には、低膨張Fe-Ni合金、所謂インバー合金が用いられ得る。また、第1のフレーム10の材料には、低膨張Ni鋳鉄鋳造品、所謂ノビナイト又はニレジストが用いられてもよい。
【0015】
第1のフレーム10の各辺には、複数の切り欠き部11が例えば等間隔に設けられている。切り欠き部11の間隔は、例えば20mm-30mmといった間隔である。切り欠き部11は、第2のフレーム20に設けられる切り欠き部21及び第3のフレーム30に設けられる切り欠き部31とともに1つの切り欠き部を形成している。切り欠き部11、21、31は、マスクフレーム1に被蒸着基板を設置する際に、被蒸着基板の搬送用のロボットアームの爪がマスクフレーム1と干渉しないようにするために設けられている。それぞれの切り欠き部11、21、31に形成される切り欠きのサイズは、ロボットアームのハンドの爪のサイズによって決められる。また、切り欠き部11、21、31の数は、被蒸着基板のサイズによって決められる。例えば、大型のディスプレイパネルの製造が必要な場合等で大型の被蒸着基板が必要となる場合には、多くの爪のあるロボットアームで被蒸着基板が把持される必要がある。この場合、切り欠き部11、21、31の数は多いことが望ましい。
【0016】
また、第1のフレーム10の各辺には、ねじ穴12が形成されている。ねじ穴12は、後で説明するロックねじ22のためのねじ穴である。ねじ穴12は、第1のフレーム10が第2のフレーム20に設置されたときに第2のフレーム20と当接する位置に形成されている。
【0017】
1.1.1.2 第2のフレーム
第2のフレーム20は、第1のフレーム10と同様、一体に成型された例えば矩形状の枠である。第2のフレーム20には、蒸着マスクが接合された第1のフレーム10が設置される。このため、第2のフレーム20によって形成される開口の寸法は、枠体を含む第1のフレーム10の寸法と同程度である。また、第2のフレーム20の板厚は5mm程度であって、後で説明される第3のフレーム30の板厚に比べて十分に薄い。第2のフレーム20は、第1のフレーム10の位置調整により、蒸着マスクが第1のフレーム10に接合されることによる第1のフレーム10の変形を抑制する機能を主に担う。第2のフレーム20の材料には、第1のフレーム10と同様に、インバー合金、ノビナイト又はニレジストが用いられ得る。
【0018】
第2のフレーム20の各辺には、複数の切り欠き部21が例えば等間隔に設けられている。切り欠き部21の形成位置は、第2のフレーム20に第1のフレーム10が設置されたときに切り欠き部11と接する位置である。前述したように、切り欠き部21は、切り欠き部11及び31とともに、マスクフレーム1に被蒸着基板を設置する際に、被蒸着基板の搬送用のロボットアームの爪がマスクフレーム1と干渉しないようにするために設けられている。
【0019】
第2のフレーム20の切り欠き部21の間の位置には、位置調整機構が設けられている。
【0020】
図2は、位置調整機構について説明するための、第2のフレーム20のIII-III線断面図である。位置調整機構は、ロックねじ22と、調整ねじ23とを備える。
【0021】
ロックねじ22は、第1のフレーム10のねじ穴12を介して第2のフレーム20の高さ方向に沿って第2のフレーム20に取り付けられるねじである。ロックねじ22は、締め付けられた際の締め付けトルクによって第2のフレーム20に第1のフレーム10を固定する機能を主に担う。
【0022】
調整ねじ23は、第2のフレーム20の幅方向に沿って第2のフレーム20に取り付けられるねじである。調整ねじ23を取り付けるためのねじ穴は、切り欠き部21の間の位置であって、かつ、第1のフレーム10が第2のフレーム20に設置されたときに第1のフレーム10の側面に当接する位置に形成されている。調整ねじ23は、締め付けられた際の締め付けトルクによって第1のフレーム10を第2のフレームの開口面と平行な方向に引っ張ることによって、第2のフレーム20に対する第1のフレーム10の開口面内方向の位置を調整する機能を主に担う。ここで、調整ねじ23は、ロックねじ22によって第2のフレーム20に第1のフレーム10が固定されているときには機能しない。
【0023】
1.1.1.3 第3のフレーム
第3のフレーム30は、第1のフレーム10、第2のフレーム20と同様、一体に成型された例えば矩形状の枠である。第3のフレーム30には、第1のフレーム10が設置された第2のフレーム20が設置される。このため、第3のフレーム30によって形成される開口の寸法は、第2のフレーム20の開口の寸法と同程度である。また、第3のフレーム20の板厚は20mm程度であって、第1のフレーム10、第2のフレーム20に比べて厚い。第3のフレーム30は、位置調整がされた第1のフレーム10の変形を抑制する機能、及び蒸着の際の熱膨張によるアライメントのずれを抑制する機能を主に担う。したがって、第1のフレーム10と同様に、第3のフレーム30の材料にも、小さい熱膨張率の材料が用いられることが望ましい。例えば、第3のフレーム30の材料には、インバー合金が用いられ得る。また、第3のフレーム30の材料には、低膨張Ni鋳鉄鋳造品、所謂ノビナイト又はニレジストが用いられてもよい。さらには、第3のフレーム30は、高い剛性を有していることが望ましい。したがって、第3のフレーム30は、第1のフレーム20及び第3のフレーム30に比べて、幅広、かつ、厚肉である。このため、第3のフレーム30は、第1のフレーム10及び第2のフレーム20に比べて高重量である。例えば、G6Halfサイズの蒸着基板用のマスクフレーム1の重量は、80kg程度になる。このうちの50%-70%程度、すなわち40kg-56kg程度が第3のフレーム30の重量である。
【0024】
第3のフレーム30の各辺には、複数の切り欠き部31が例えば等間隔に設けられている。切り欠き部31の形成位置は、第3のフレーム30に第2のフレーム20が設置されたときに切り欠き部21と接する位置である。前述したように、切り欠き部31は、切り欠き部11及び21とともに、被蒸着基板の搬送用のロボットアームの爪がマスクフレーム1と干渉しないようにするために設けられている。
【0025】
また、第3のフレーム30には、複数のねじ穴32が形成されている。ねじ穴32は、第2のフレーム20を第3のフレーム30に固定するためのロックねじの取り付けのためのねじ穴である。
【0026】
1.1.1.3 蒸着マスク
次に、蒸着マスクの構成について説明する。図3は、一例の蒸着マスクの構成を示す正面図である。図3に示すように、蒸着マスク40は、マスクフレーム1の第1のフレーム10に形成される開口である内部領域を覆うように固定部としての接合スポット42において接合される。蒸着マスク40は、例えば、第1のフレーム10と同じ矩形状であり、2μm-50μm程度の厚さを有する。蒸着マスク40のサイズは、例えば被蒸着基板のサイズに応じて適宜に決められてよい。
【0027】
蒸着マスク40には、各々が被蒸着基板に蒸着パターンを与えるための複数の開口41が形成されている。蒸着マスク40は、金属層に開口41が形成されることで構成されたメタルマスクであってよい。または、蒸着マスク40は、金属層と樹脂層が積層され、これらの金属層と樹脂層に開口41が形成されることで構成されたハイブリッドマスクであってもよい。メタルマスク又はハイブリッドマスクの金属層に使用される材料は、特に限定されない。金属層に使用される材料は、ステンレス鋼、鉄ニッケル合金、アルミニウムといった材料であってよい。例えば、鉄とニッケルを主とする合金である低膨張Fe-Ni合金、所謂インバー合金は熱膨張率が小さいために熱変形によるアライメントのずれが生じにくい。この他、Ni-Co合金等が蒸着マスク40の金属材料として用いられ得る。また、ハイブリッドマスクに使用される樹脂層の材料についても特に限定は無いが、例えば、レーザ加工等によって高精細に開口を形成でき、かつ熱変形に伴う位置ずれを抑制するために小さい熱膨張率及び吸湿率を有する材料が望ましい。このような樹脂層の材料として、例えばポリイミドが用いられる。
【0028】
1.2 製造方法
次に、実施形態に係るマスクアセンブリの製造方法について説明する。図4は、実施形態に係るマスクアセンブリの製造方法を示すフローチャートである。
【0029】
ステップS1において、蒸着マスク40が第1のフレーム10に架張された状態で溶接によって接合される。さらに、第1のフレーム10への蒸着マスク40の接合のために蒸着マスク40を保持していたキャリアガラスがLLO(Laser Lift-Off)処理によって蒸着マスク40から剥離される。
【0030】
図5Aは、蒸着マスク40が接合された第1のフレーム10を示す図である。蒸着マスク40が接合された第1のフレーム10には、蒸着マスク40の膜応力が働く。蒸着マスク40の変形状態の一例は、図5Aにおいて破線で示されている。図5Aに示すように、第1のフレーム10の長辺の側については、蒸着マスク40の収縮による引張応力が働く。一方、第1のフレーム10の短辺の側については長辺側の変形状態と関係して連動して膨張傾向を示す。
【0031】
図5Bは、図5AのVB-VB線断面図である。蒸着マスク40は、第1のフレーム10に固定されているものの、図5Aで示した応力によって、第1のフレーム10の変形が生じ得る。第1のフレーム10の変形により、蒸着マスク40の位置ずれが生じ得る。
【0032】
ステップS2において、蒸着マスク40が接合された第1のフレーム10が第2のフレーム20に設置される。ここで、ステップS2の時点では、第2のフレーム20のロックねじ22は緩められており、調整ねじ23によって第1のフレーム10の開口面内方向の位置が調整できる状態である。
【0033】
ステップS3において、必要に応じて調整ねじ23によって第1のフレーム10の位置が調整される。第1のフレーム10の位置調整後、ロックねじ22が締められて第2のフレーム20に第1のフレーム10が固定される。
【0034】
図6Aは、第1のフレーム10の位置調整がされた後の第2のフレーム20を示す図である。調整ねじ23による第1のフレーム10の位置調整により、第1のフレーム10の長辺側は、蒸着マスク40による引張応力とは逆方向に引っ張られる。同様に、第1のフレーム10の短辺側については、蒸着マスク40による圧縮応力とは逆方向に圧縮される。この結果、第1のフレーム10に働く応力は、抑制される。
【0035】
図6Bは、図6AのVIB-VIB線断面図である。調整ねじ23によって第1のフレーム10に働く引張力によって、蒸着マスク40の膜応力が打ち消される。この状態でロックねじ22によって第1のフレーム10が第2のフレーム20に固定されることにより、蒸着マスク40の位置が固定される。
【0036】
以上のステップS1-S3までの工程は、例えば蒸着マスクの製造工場内といった同一の工場内で行われ得る工程である。続くステップS4の工程は、実際に有機ELパネルを製作する工場内で行われ得る工程である。前述したように、第1のフレーム10と第2のフレーム20を合わせた重量は、第3のフレーム30の30%-50%程度である。したがって、第1のフレーム10が設置された第2のフレーム20の輸送は、低コストで行えることが期待される。
【0037】
ステップS4において、第1のフレーム10が固定された状態の第2のフレーム20が第3のフレーム30に設置される。前述したように、第1のフレーム10は、位置調整された状態で第2のフレーム20に固定されている。このため、基本的には、有機ELパネルを製作する工場での再度の位置調整は必要ない。したがって、第2のフレーム20は、基本的には、そのまま第3のフレーム30に固定される。ただし、第3のフレーム30に設置された状態においても位置調整が実施されてよい。
【0038】
図7Aは、第2のフレーム20の設置された後の第3のフレーム30、すなわちマスクアセンブリを示す図である。第1のフレーム10の位置調整により、蒸着マスク40の位置ずれは抑制されている。
【0039】
図7Bは、図7AのVIIB-VIIB線断面図である。蒸着マスク40の位置が調整された状態の第2のフレーム20は、第3のフレーム30に設置された後、第3のフレーム30に設けられたロックねじ33によって第3のフレームに固定される。このようにして、蒸着マスク40の位置が調整された状態のマスクフレーム1を用いて被蒸着基板に対する蒸着が実施され得る。
【0040】
1.2 本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、マスクフレーム1が3つのフレームに分けられている。第1のフレーム10は、蒸着マスク40が接合されるフレームである。第2のフレーム20は、蒸着マスク40の応力による位置ずれを抑制する位置調整用のフレームである。第3のフレーム30は、第1のフレーム10が固定された第2のフレームを設置して蒸着を実施するためのフレームである。マスクフレームは、蒸着マスクの応力に耐えうるために高い剛性を有していることが望ましい。マスクフレームに高い剛性を持たせるためには、マスクフレームは幅広、かつ、厚肉となる。実施形態では、第3のフレーム30だけが幅広、かつ、厚肉である。このため、第1のフレーム10及び第2のフレーム20は、第3のフレーム30に比べて軽量にし得る。したがって、実際にマスクフレーム1が利用される工場等に予め第3のフレームだけ輸送しておけば、それ以後の第1のフレーム10及び第2のフレーム20の輸送だけでよい。このため、輸送のコストが削減され得る。
【0041】
また、第1のフレーム10、第2のフレーム20及び第3のフレーム30のそれぞれの辺には、切り欠き部が等間隔で設けられている。多数の切り欠き部が設けられていることにより、大型の被蒸着基板であっても搬送ロボットによる搬送が高い信頼性で行われ得る。したがって、実施形態のマスクフレームは、大画面のディスプレイの製造にも対応し得る。また、実施形態において、第2のフレーム20に設けられる位置調整機構は、切り欠き部の間に設けられている。位置調整機構は、2つのねじを設けるだけの単純な構成である。したがって、切り欠き部の間だけであっても、位置調整機構が設けられ得る。また、位置調整機構が第2のフレーム20に設けられていることにより、輸送の前段階で位置調整が実施され得る。また、第2のフレーム20が第3のフレーム30に固定される前であれば、輸送の後にも位置調整が実施され得る。
【0042】
2. 変形例
以下、実施形態の各種の変形例を説明する。
【0043】
2.1 変形例1
前述した実施形態では、マスクフレーム1に接合される蒸着マスク40は1つであるとされている。蒸着マスクとしては、複数の棒状フレームに分けられているものもある。実施形態の技術は、蒸着マスクが複数の棒状フレームに分けられていても適用され得る。
【0044】
図8は、変形例1のマスクフレームの構成を示す分解斜視図である。図8に示すように、変形例1の第1のフレーム10は、4つの棒状フレーム10aが組み合わされることで枠体を構成している。変形例1においては、棒状フレーム10aのそれぞれにロックねじ22を取り付けるためのねじ穴が形成されることが望ましい。
【0045】
2.2 変形例2
実施形態で説明したように、第1のフレーム10は、蒸着マスク40の接合の際に蒸着マスク40から応力を受ける。第1のフレーム10の受ける蒸着マスク40からの応力は、第2のフレーム20に設けられた位置調整機構によって抑制され得る。ここで、蒸着マスク40からの応力をさらに抑制するために、第2のフレーム20に位置調整機構とは別の応力規制部が設けられていてもよい。
【0046】
図9は、変形例2における図6AのVIB-VIB線断面図である。応力規制部は、例えば蒸着マスク40からの応力の発生基点よりも応力の発生方向の側に設けられた凸部20aである。例えば、第1のフレーム10の長辺のように引張応力が発生する場合には、凸部20aは、例えば第2のフレーム20の開口端の近傍に形成される。なお、蒸着マスク40からの応力は、応力シミュレーション等で計算され得る。また、凸部20aは、第2のフレーム20と一体的に形成されてもよいし、一体的に形成されていなくてもよい。
【0047】
第2のフレーム20に応力規制部としての凸部20aが設けられていることにより、第1のフレーム10が第2のフレーム20に設置された際に第1のフレーム10は凸部20aと係合する。これにより、蒸着マスク40から第1のフレーム10に対して発生した応力は、凸部20aから第1のフレーム10が受ける抵抗力によって打ち消される。結果として、蒸着マスク40からの応力は、規制される。凸部20aによって応力が規制されることにより、位置調整の量が少なくなり得る。
【0048】
ここで、図9の凸部は、第1のフレーム10の長辺方向に発生する引張応力に対する抵抗力を生むために第2のフレーム20の開口端の位置に形成される。これに対し、第1のフレーム10の短辺方向に発生する圧縮応力に対する抵抗力を生むためには、凸部20aは、応力の発生基点に対して第2のフレーム20の開口端と逆側の位置に形成される。
【0049】
また、凸部20aは、図8で示した棒状フレーム10aの構成にも適用され得る。凸部20aは、棒状フレーム10aが第2のフレーム20に設置されたときにそれぞれの棒状フレーム10aと係合するように設けられる。凸部20aを設けることによる第1のフレームの抑制効果は、棒状フレーム10aのほうが高い。
【0050】
2.3 変形例3
実施形態では、第3のフレーム30は、第2のフレーム20の下に位置する枠である。したがって、第2のフレーム20が第3のフレーム30に固定された後であっても、ロックねじ22が緩められていれば、調整ねじ23を回すためのねじ回しが調整ねじ23まで侵入し得る。これに対し、第3のフレーム30の開口内に、第2のフレーム20が設置されることもあり得る。この場合、調整ねじ23を回すためのねじ回しが調整ねじ23まで進入し得ない。このような場合には、第3のフレーム30にねじ回しの進入用の開口が形成されていてもよい。このような開口により、第3のフレーム30の形状によらずに、第2のフレーム20が第3のフレーム30に固定された後の第1のフレーム10の位置調整が行われ得る。
【0051】
3.その他の変形例
前述した実施形態では、マスクフレーム1に接合される蒸着マスク40は1つであるとされている。蒸着マスクとしては、複数のサブマスクに分けられているものもある。実施形態の技術は、蒸着マスクが複数のサブマスクに分けられていても適用され得る。
【0052】
蒸着マスクが複数のサブマスクに分けられている場合、第2のフレーム20におけるそれぞれのサブマスクの接合位置と対応する位置に、位置調整機構が設けられていることが望ましい。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0054】
1 マスクフレーム、10 第1のフレーム、10a 棒状フレーム、11 切り欠き部、12 ねじ穴、20 第2のフレーム、20a 凸部、21 切り欠き部、22 ロックねじ、23 調整ねじ、30 第3のフレーム、30a 凸部、30b 開口、31 切り欠き部、32 ねじ穴、33 ロックねじ、40 蒸着マスク、41 開口、42 接合スポット。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9