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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160533
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/02 20160101AFI20241107BHJP
【FI】
C08G75/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075639
(22)【出願日】2023-05-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(さきがけ)/持続可能な材料設計に向けた確実な結合とやさしい分解/オンデマンド合成&解体を実現するビニルポリマーの高速分解技術、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】永沼 亘貴
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA04
4J030BA10
4J030BA42
4J030BA43
4J030BA48
4J030BB02
4J030BC02
4J030BC08
4J030BC36
4J030BF04
4J030BG03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環状ケテンアセタールに代わるラジカル開環重合が可能な環状アクリルモノマーを用いた、新規なポリマーを提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表される環状アクリルモノマーに由来する繰り返し単位と、一般式(2)で表されるアリルアルコール系モノマーに由来する繰り返し単位と、を有することを特徴とするポリマー。


【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される環状アクリルモノマーに由来する繰り返し単位と、
下記一般式(2)で表されるアリルアルコール系モノマーに由来する繰り返し単位と、
を有することを特徴とするポリマー。
【化1】
[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
Xは、硫黄原子、スルホニル基、またはジスルフィド基を示す。
Yは、酸素原子、炭素原子、硫黄原子、または-NR-を示し、Rは、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
Zは、二価の連結基であり、7~15員環を形成する。]
【化2】
[式中、Rは、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
Wは、水素原子、またはトリアルキルシリル基を示す。]
【請求項2】
下記一般式(3)で表される構造を有することを特徴とする請求項1に記載のポリマー。
【化3】
【請求項3】
Xが硫黄原子、Yが酸素原子または硫黄原子であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項4】
Wが水素原子であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物の化学分解は、その分解の前後での物性変化を利用した解体性接着材料、レジスト材料、自己修復材料といった先端機能材料、生体適合性材料や薬物輸送などの医療材料として応用されている。さらに、近年、高分子化合物の化学分解を利用することにより、ケミカルリサイクルの高効率での実現や、自然界における分解を促進することが求められており、環境調和型材料として期待されている。
こうした背景から、高分子化合物の主鎖に、光・熱・酸・塩基といった特定の刺激に応答して切断する、エステル結合やアセタール結合のような弱い共有結合を導入する分子設計が検討されている。
【0003】
そのため、環状ケテンアセタール(以下、CKAともいう)をモノマーとしてラジカル開環重合を行い、主鎖にエステル結合を導入する手法が注目を集めている(非特許文献1)。CKAとビニルモノマーとをラジカル共重合することにより、主鎖にエステル結合を導入することができ、このエステル結合は、強塩基を用いた加水分解により切断することができる。また、本発明者らは、主鎖を直接切断するのではなく、隣接する単位の側鎖に求核性基を発生させ、主鎖-側鎖間のエステル交換反応により主鎖切断を誘導することを提案している(非特許文献2)。
しかし、CKAは、水酸基により失活してしまうため、CKAが保存中に水と反応して失活する、CKAと共重合するモノマーが限定される等の問題があった(非特許文献1のFig.88(b)等)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Antoine Tardy,Julien Nicolas,Didier Gigmes,Catherine Lefay,Yohann Guillaneuf、“Radical Ring-Opening Polymerization:Scope,Limitations,and Application to (Bio)Degradable Materials”、Chem Rev.、2017 Feb 8、117(3)、1319-1406
【非特許文献2】外山果歩、高坂泰弘、「アリルアルコール誘導体と環状ケテンアセタールの共重合を鍵とする易分解性ビニルポリマーの合成」、高分子学会予稿集、第71巻、1号、2C10、2022年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
環状ケテンアセタールに代わるラジカル開環重合が可能な環状アクリルモノマーを用いた、新規なポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.下記一般式(1)で表される環状アクリルモノマーに由来する繰り返し単位と、
下記一般式(2)で表されるアリルアルコール系モノマーに由来する繰り返し単位と、
を有することを特徴とするポリマー。
【化1】
[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
Xは、硫黄原子、スルホニル基、またはジスルフィド基を示す。
Yは、酸素原子、炭素原子、硫黄原子、または-NR-を示し、Rは、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
Zは、二価の連結基であり、7~15員環を形成する。]
【化2】
[式中、Rは、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
Wは、水素原子、またはトリアルキルシリル基を示す。]
2.下記一般式(3)で表される構造を有することを特徴とする1.に記載のポリマー。
【化3】
3.Xが硫黄原子、Yが酸素原子または硫黄原子であることを特徴とする1.または2.に記載のポリマー。
4.Wが水素原子であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のポリマー。
5.2.に記載のポリマーを、塩基の存在下で分解する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリマーは、安定な環状アクリルモノマーを原料とし、原料であるモノマーを活性を維持した状態で長期間に亘って保管することが容易であり、ポリマー製造の直前にモノマーを合成する必要がないため、ポリマーの製造が容易である。本発明のポリマーが原料とする環状アクリルモノマーは、ラジカル開環重合以外の反応が進行しにくいため、共重合する他のモノマーが特に制限されず、多様なポリマーを得ることができる。
【0008】
一般式(3)で表される構造を有する本発明のポリマーは、主鎖-側鎖間のエステル交換反応により主鎖を切断することができる。
本発明のポリマーは、接着剤、塗料、成形体用途等に用いることができる。特に、一般式(3)で表される構造を有する本発明のポリマーは、主鎖を切断することができ、分解のタイミングを制御することができるため、解体性接着剤、分解性塗料、レジスト等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で得られた二元共重合体のH-NMRスペクトル。
図2】実施例1で得られた二元共重合体にDBUを加えた際のサイズ排除クロマトグラムの経時変化を示すグラフ。
図3】実施例1で得られた二元共重合体のDBUによる分解反応前後のH-NMRスペクトル。
図4】実施例1で得られた二元共重合体にTBDを加えた際のサイズ排除クロマトグラムの経時変化を示すグラフ。
図5】参考例1で得られた二元共重合体のH-NMRスペクトル。
図6】参考例1で得られた二元共重合体にDBUを加えた際のサイズ排除クロマトグラムの経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
本発明は、下記に記載された実施態様に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の技術的思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。また、本明細書において「A~B(A、Bは数値)」との表記は、その両端を含む数値範囲、すなわち、A以上B以下を意味する。
【0011】
・環状アクリルモノマー
本発明で使用する環状アクリルモノマーは、下記一般式(1)で表される。
【化4】
[式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
Xは、硫黄原子、スルホニル基、またはジスルフィド基を示す。
Yは、酸素原子、炭素原子、硫黄原子、または-NR-を示し、Rは、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
Zは、二価の連結基であり、7~15員環を形成する。]
【0012】
本明細書において、置換フェニル基とは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ハロアルケニル基、ハロアルキニル基、ハロアリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、ハロアルコキシ基、ハロアルケニルオキシ基、ハロアリールオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アロイル基、アリールアシル基、アシルアミノ基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルフェニルオキシ基、ヘテロシクリル基、ヘテロシシルオキシ基、ヘテロシシルアミノ基、ハロヘテロシクリル基、アルコキシカルボニル基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、アリールチオ基、アリールスルホニル基、アミノスルホニル基、ジアルキルアミノ基、ジアルキルスルホニル基から選択される1個またはそれ以上の基が置換されたフェニル基を意味する。
【0013】
1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。これらの中で、重合性および生成ポリマーへの連鎖移動反応防止の観点から、フェニル基、メチル基または水素原子が好ましく、重合性の観点から、メチル基および水素原子がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
Xは、硫黄原子、スルホニル基、またはジスルフィド基を示す。これらの中で、合成が容易であるため、硫黄原子およびスルホニル基が好ましく、硫黄原子がより好ましい。
Yは、酸素原子、炭素原子、硫黄原子、または-NR-を示し、Rは、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。これらの中で、合成が容易であるため、酸素原子、硫黄原子、または-NR-が好ましく、酸素原子または硫黄原子がより好ましい。
【0014】
Zは、二価の連結基である。
本明細書において、二価の連結基は、-CH-、-CHR-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-、-S-から選択される1または2以上の組み合わせである。Rは、水素原子、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
二価の連結基(左側がX、右側がYとして表記する)としては、例えば、-(CH-、-CH-CH(CH)-、-(CH-、-(CH-O-(CH、-(CH-、-(CH-C(=O)-O-(CH-(CH-C(=O)-O-(CH-、-(CH-C(=O)-O-(CH-S-S-(CH-等が挙げられる。
【0015】
本発明で使用する環状アクリルモノマーは、7~15員環である。これらの中で、開環重合性確保のため、7~13員環が好ましく、7~11員環がより好ましい。
【0016】
環状アクリルモノマーとしては、具体的には以下の一般式(1)-1~(1)-11に示す化合物を好適に用いることができる。
【化5】
【0017】
【化6】
【0018】
【化7】
【0019】
・アリルアルコール系モノマー
本発明で使用するアリルアルコール系モノマーは、下記一般式(2)で表される。
【化8】
[式中、Rは、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。
Wは、水素原子、またはトリアルキルシリル基を示す。]
【0020】
は、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、C-Cヒドロキシアルキル基、フェニル基、または置換フェニル基を示す。これらの中で、モノマー合成の容易さから、C-Cアルキル基が好ましく、エチル基またはメチル基がより好ましい。
Wは、水素原子、またはトリアルキルシリル基を示す。トリアルキルシリル基のアルキル基としては、C-Cアルキル基が挙げられ、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基が挙げられる。これらの中で、水素原子またはトリメチルシリル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0021】
「ポリマー」
本発明のポリマーは、一般式(1)で表される環状アクリルモノマーに由来する繰り返し単位と、一般式(2)で表されるアリルアルコール系モノマーに由来する繰り返し単位とを有する。
本発明のポリマーは、上記した環状アクリルモノマーとアリルアルコール系モノマー以外の他のコモノマーを用いることもできる。他のコモノマーとしては、環状アクリルモノマーとアリルアルコール系モノマーとラジカル共重合可能なものであれば特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0022】
本発明のポリマーは、下記一般式(3)で表される構造を有することが好ましい。
【化9】
【0023】
・ポリマーの分解
一般式(3)で表される構造を有する本発明のポリマーは、アリルアルコール系モノマーに由来する側鎖をアルコキシド基とすることにより、主鎖-側鎖間のエステル交換反応が進行して主鎖を切断することができる。反応式を以下に示す。このエステル交換反応により安定な六員環が形成されるため、反応は不可逆的であり、また、効率よく進行する。
【0024】
【化10】
【0025】
分解を開始するには、アリルアルコール系モノマーに由来する側鎖をアルコキシド基とすればよく、例えば、塩基性化合物、フッ化物イオンを分解開始剤とすることができる。分解開始剤としては、TBD(1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン)、DBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン)、DBN(1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5)、フッ化テトラブチルアンモニウム等を用いることができる。これらの中で、エステル交換反応の触媒でもあるTBDは、特に分解を迅速に進めることができる。
【0026】
分解を行う温度は特に制限されるものではないが、取扱いの容易さから、20~100℃が好ましく、20~50℃がより好ましく、20~25℃が特に好ましい。
分解を行う溶媒は特に制限されず、また溶媒を使用しなくともよいが、アルコキシドを円滑に発生させる観点から、本発明のポリマーが溶解する溶媒が好ましく、アセトン、クロロホルム、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、メタノール、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-ブタノンが好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。
分解を行うpHは特に制限されないが、溶媒が水やメタノールなど、本発明のポリマー主鎖のエステル結合を分解し得る場合は、その加水分解を抑制するため、pH5~9が好ましい。
【0027】
・ポリマーの製造方法
本発明のポリマーは、従来公知のラジカル重合反応により製造することができる。一般式(1)で表される環状アクリルモノマーは、環状ケテンアセタール(CKA)と異なり水酸基で失活しないため、モノマーを活性を維持した状態で長期間に亘って保管することができ、ポリマー製造の直前にモノマーを合成する必要がない。
上記したように、一般式(3)で表される構造を有する本発明のポリマーは、環状アクリルモノマーとアリルアルコール系モノマーが特定の順序で結合した一般式(3)で表される箇所で主鎖を切断することができる。そのため、環状アクリルモノマーとアリルアルコール系モノマーとのモル比により分解性を調整することができ、具体的には、環状アクリルモノマーに由来する繰り返し単位とアリルアルコール系モノマーに由来する繰り返し単位との組成比が等モルに近いほど、上記した一般式(3)で表される構造が多く形成される。そのため、モノマーの仕込み比により、得られるポリマーの分解性を制御することができる。
【0028】
本発明のポリマーは、接着剤、塗料、成形体用途等に用いることができる。一般式(3)で表される構造を有するポリマーは、塩基性化合物等により主鎖を切断することができ、分解のタイミングを制御することができるため、解体性接着剤、分解性塗料、レジスト等に用いることができる。
【実施例0029】
<分析機器>
(NMRスペクトル)
核磁気共鳴(NMR)分光計「AVANCE NEO」(ブルカー)を用いて25℃で測定した。測定溶媒は、重クロロホルムを用い、内部標準は、テトラメチルシランを用いた。
(分子量)
EXTREMAクロマトグラフ(日本分光)にサイズ排除カラム「Shodex HK-404L」(昭和電工)を2本直列に接続し、40℃に加熱した。溶離液としてN,N-ジメチルホルムアミド(GPC用、和光純薬工業)を0.8mL/minで流し、紫外吸収分光計「UV-4070」(280nmで検出、日本分光)および示差屈折率計(RI-4035、日本分光)で検出した。分子量は、標準ポリメタクリル酸メチル(TSKゲルオリゴマーキット、東ソー、MW:6.48×10、2.52×10、1.42×10、2.91×10、8.59×10、4.25×10)による五次曲線で較正した。
【0030】
<実施例1:2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルと3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オンの二元共重合体の合成>
2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル(0.776g,5.96mmol)、3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オン(0.273g,1.18mmol)を1,4-ジオキサン(2.35mL)に溶かし、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(22mg,0.13mmol)を加えて3回の凍結脱気後、70℃で5時間加熱した。室温に冷却後、液体窒素で冷却したジエチルエーテル(50mL)に滴下した。デカンテーションにより回収した沈殿物をクロロホルム(1.5mL)に溶かし、液体窒素で冷却したジエチルエーテル(30mL)に滴下した。沈殿物をデカンテーションにより回収し、再びクロロホルム(1.0mL)に溶かし、液体窒素で冷却したジエチルエーテル(30mL)に滴下した。沈殿物をデカンテーションにより回収し、真空乾燥して、二元共重合体を透明ガラス状固体として得た(0.292g,収率29.2%)。
【0031】
図1に示す二元共重合体のH-NMRスペクトルでは、全ての信号が2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルおよび3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オンに由来する単位に帰属された。このうち、1.3ppm付近に観測される、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル由来の単位に含まれるメチル基の信号と、3.4~4.4ppmに観測されるO-メチレン基の信号の積分強度比から、共重合組成は[2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル]:[3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オン]=74:26と求められた。サイズ排除クロマトグラムにより求めたポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量(Mn)は10400、分子量分散度(Mw/Mn)は1.65であった。
【0032】
<実施例2:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)を利用した二元共重合体の溶液分解>
実施例1で合成した二元共重合体(30mg)をテトラヒドロフラン(0.30mL)に溶かし、25℃のオイルバス中で攪拌しながら、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(25μL,167μmol)を加えた。5分後、サイズ排除クロマトグラフィー測定用に試料を25μL分取した。分取した試料に酢酸2μLを加えて反応を停止させた後、クロロホルム0.5mLで希釈した。これを蒸留水0.5mLで洗浄し、有機層を回収後、濃縮してサイズ排除クロマトグラムを測定した。さらに、反応開始から1時間後に、反応混合物から100μL分取して、酢酸9μLを加えて反応停止してから、同様の操作を行い、サイズ排除クロマトグラムとH-NMRスペクトルを測定した。反応開始から24時間後、残った試料についてサイズ排除クロマトグラムとH-NMRスペクトルを測定した。
【0033】
反応時間経過に伴うサイズ排除クロマトグラムの変化を図2に示す。反応前のピークトップ分子量(Mp)は15400であったが、反応開始5分後には5300に、24時間後には800に減少した。分子量が減少しており、主鎖切断が確認でき、また、実施例1で得られた二元共重合体が一般式(3)で表される構造を有することが確認できた。
反応前と反応開始24時間後のH-NMRスペクトルの比較を図3に示す。3.6ppm付近にあった、側鎖のOH基に隣接するO-メチレン基由来の信号が鋭い形状に変化するとともに、4.2ppm付近にあった、エステル結合に隣接するO-メチレン基の信号が減少した。また、4.4~4.6ppm付近に、主鎖-側鎖間のエステル交換反応によって形成されるラクトン環に由来する鋭い信号が出現した。これらの変化は、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルに由来する単位と、3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オンに由来する単位が連続したヘテロ連鎖において、主鎖-側鎖間のエステル交換反応が生じて、5員環ラクトンが形成されるとともに、主鎖切断に伴いアルコール末端が生成したことに由来する。
【0034】
<実施例3:1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)を利用した二元共重合体の溶液分解>
実施例1で合成した二元共重合体(11mg)をテトラヒドロフラン(0.20mL)に溶かし、室温中で攪拌しながら、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(8mg,57μmol)を加えた。5分後、サイズ排除クロマトグラフィー測定用に試料を0.10mL分取し、N,N-ジメチルホルムアミドで希釈してサイズ排除クロマトグラムを測定した。
反応前と5分経過後のサイズ排除クロマトグラムを図4に示す。反応前のピークトップ分子量(Mp)は15400であったが、5分後には検量線の最小値以下の領域まで分子量が低下した。検量線を補外して見積もったMpは170であった。
【0035】
<参考例1:メタクリル酸メチルと3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オンの二元共重合体の分解>
(二元共重合体の合成)
メタクリル酸メチル(0.253g,2.53mmol)、3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オン(0.101g,0.504mmol)を1,4-ジオキサン(1.0mL)に溶かし、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(11mg,67mmol)を加え、3回の凍結脱気後、70℃で15時間加熱した。室温に冷却後、ドライアイスで冷却したメタノール(20mL)に滴下した。デカンテーションにより回収した沈殿物をジクロロメタン(1.0mL)に溶かし、ドライアイスで冷却したメタノール(20mL)に滴下した。遠心分離、デカンテーションによって沈殿物を回収し、真空乾燥して、二元共重合体を透明ガラス状固体として得た(97mg,収率:27.4%)。
【0036】
図5に、得られた二元共重合体のH-NMRスペクトルを示す。全ての信号が、メタクリル酸メチルおよび3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オンに由来する単位に帰属された。0.8~1.3ppm付近に観測される、メタクリル酸メチル由来の単位に含まれるメチル基の信号と、4.0~4.4ppmに観測されるO-メチレン基の信号の積分強度比から、共重合組成は[メタクリル酸メチル]:[3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オン]=79:21と求められた。サイズ排除クロマトグラムにより求めたポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量(Mn)は11800、分子量分散度(Mw/Mn)は1.59であった。
【0037】
(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)を利用した二元共重合体の分解)
参考例1で得られたメタクリル酸メチルと3-メチレン-1-オキサ-5-チアシクロウンデカン-2-オンの二元共重合体(10mg)について、テトラヒドロフランを0.1mL、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンを7.8μL(52.3μmol)としたこと以外は、実施例2と同様に実施した。
反応前と反応開始24時間後のサイズ排除クロマトグラムを図6に示す。反応前のピークトップ分子量(Mp)は15300であったのに対し、反応開始24時間後には12800であり、ピークより高分子側の波形は反応前後で変化がなかった。すなわち、実施例2で観測されたような顕著な分子量の低下は確認されなかった。したがって、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンの存在下であっても、主鎖中のエステル結合と結合交換が可能なアルコールが側鎖に存在しない限りは、主鎖切断を効果的に誘導できないことが確かめられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6