IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田淵電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-内燃機関用点火装置 図1
  • 特開-内燃機関用点火装置 図2
  • 特開-内燃機関用点火装置 図3
  • 特開-内燃機関用点火装置 図4
  • 特開-内燃機関用点火装置 図5
  • 特開-内燃機関用点火装置 図6
  • 特開-内燃機関用点火装置 図7
  • 特開-内燃機関用点火装置 図8
  • 特開-内燃機関用点火装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160545
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】内燃機関用点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/04 20060101AFI20241107BHJP
   F02P 3/00 20060101ALI20241107BHJP
   F02P 3/045 20060101ALI20241107BHJP
   F02P 3/05 20060101ALI20241107BHJP
   F02P 3/055 20060101ALI20241107BHJP
   F02P 15/10 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
F02P3/04 301B
F02P3/00 B
F02P3/045 301B
F02P3/045 303Z
F02P3/045 314C
F02P3/05 D
F02P3/055 C
F02P15/10 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075666
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】泉 光宏
【テーマコード(参考)】
3G019
【Fターム(参考)】
3G019AA02
3G019AA07
3G019BA01
3G019BB02
3G019BB09
3G019EA13
3G019EA15
3G019EA16
3G019EA17
3G019EA18
3G019EA19
3G019EA20
(57)【要約】
【課題】点火コイルに大きな1次電流が生じる点火装置において、イグナイタの温度上昇を抑制しつつ、複数のイグナイタに流れる電流値の差を抑制する技術を提供する。
【解決手段】この内燃機関用点火装置1は、トランス20の1次コイルL1に並列に接続される第1イグナイタ41および第2イグナイタ42と、2次コイルL2に接続される点火プラグ90と、ECU32とを有する。ECU32は、気筒20内に燃料が導入されない状態で第1イグナイタ41および第2イグナイタ42を流れる電流値の検出結果に基づいて各イグナイタ41,42のON時刻を調整する初期通電調整工程と、調整後のON時刻を用いて各イグナイタ41,42のON/OFFを行う運転工程と、を実行する。これにより、各イグナイタ41,42を流れる電流の大きさの差を抑制しつつ、流れる電流の大きさや使用頻度を抑制し、イグナイタ41,42の劣化や破損を抑制できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用点火装置であって、
電磁結合された1次コイルおよび2次コイルを有するトランスと、
前記1次コイルの一端へ電力を供給するバッテリと、
前記1次コイルの他端とグラウンドとの間に、並列に接続される第1イグナイタおよび第2イグナイタと、
前記2次コイルとグラウンドとの間に電気的に接続され、プラグギャップが気筒内に配置される点火プラグと、
前記第1イグナイタを流れる電流値を検出する第1電流検出部と、
前記第2イグナイタを流れる電流値を検出する第2電流検出部と、
前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのON/OFFを制御するECUと、
を有し、
前記ECUは、
前記気筒内に燃料が導入されない状態で前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタをON/OFFさせ、前記第1電流検出部および前記第2電流検出部の検出結果に基づいて、前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのON時刻を調整する初期通電調整工程と、
前記初期通電調整工程の後に、前記気筒内に前記燃料が導入された状態で、調整後の前記ON時刻を用いて前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのON/OFFを行い、前記1次コイルへの通電/遮断により前記点火プラグの放電を行う運転工程と、
を実行する、内燃機関用点火装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記ECUは、前記初期通電調整工程において、
前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのうち、流れる電流値が大きい一方の前記ON時刻を遅角させる、内燃機関用点火装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記ECUは、前記初期通電調整工程において、
前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのうち、流れる電流値が小さい一方の前記ON時刻を進角させる、内燃機関用点火装置。
【請求項4】
請求項1に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記ECUは、前記初期通電調整工程において、
前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのうち、流れる電流値が大きい一方の前記ON時刻を遅角させるとともに、
前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのうち、流れる電流値が小さい他方の前記ON時刻を進角させる、内燃機関用点火装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記運転工程において、前記ECUは、前記1次コイルへの全ての通電期間に対して、前記初期通電調整工程において調整された前記ON時刻を用いて前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタをON/OFFさせる、内燃機関用点火装置。
させる)
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記運転工程において、前記ECUは、
奇数回目のサイクルでは、前記第1イグナイタをON/OFFさせるとともに、前記第2イグナイタをOFF状態に保ち、
偶数回目のサイクルでは、前記第1イグナイタをOFF状態に保つとともに、前記第2イグナイタをON/OFFさせる、内燃機関用点火装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記運転工程において、前記ECUは、
奇数回目のサイクルの奇数回目の通電期間および偶数回目のサイクルの偶数回目の通電期間では、前記第1イグナイタをON/OFFさせるとともに、前記第2イグナイタをOFF状態に保ち、
奇数回目のサイクルの偶数回目の通電期間および偶数回目のサイクルの奇数回目の通電期間では、前記第1イグナイタをOFF状態に保つとともに、前記第2イグナイタをON/OFFさせる、内燃機関用点火装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記燃焼室内に導入される燃料は、難燃性燃料を含む、内燃機関用点火装置。
【請求項9】
請求項8に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記難燃性燃料はアンモニアである、内燃機関用点火装置。
【請求項10】
内燃機関用点火装置であって、
電磁結合された1次コイルおよび2次コイルを有するトランスと、
前記1次コイルの一端へ電力を供給するバッテリと、
前記1次コイルの他端とグラウンドとの間に、並列に接続される3つ以上のイグナイタと、
前記2次コイルとグラウンドとの間に電気的に接続され、プラグギャップが気筒内に配置される点火プラグと、
前記第1イグナイタを流れる電流値を検出する第1電流検出部と、
前記第2イグナイタを流れる電流値を検出する第2電流検出部と、
複数の前記イグナイタのON/OFFを制御するECUと、
を有し、
前記ECUは、
前記気筒内に燃料が導入されない状態で前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタをON/OFFさせ、前記第1電流検出部および前記第2電流検出部の検出結果に基づいて、複数の前記イグナイタのそれぞれのON時刻を調整する初期通電調整工程と、
前記初期通電調整工程の後に、前記気筒内に前記燃料が導入された状態で、調整後の前記ON時刻を用いて複数の前記イグナイタのON/OFFを行い、前記1次コイルへの通電/遮断により前記点火プラグの放電を行う運転工程と、
を実行する、内燃機関用点火装置。
【請求項11】
請求項10に記載の内燃機関用点火装置であって、
前記ECUは、前記初期通電調整工程において、
複数の前記イグナイタのうち、流れる電流値が比較的大きな前記イグナイタの前記ON時刻を遅角させるとともに、
複数の前記イグナイタのうち、流れる電流値が比較的小さな前記イグナイタの前記ON時刻を進角させる、内燃機関用点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用点火コイルにおいては、コイルアセンブリの1次コイルに電流を流して磁界を発生させた後に電流を遮断することにより、自己誘導作用により2次コイルに高電圧を発生させる。このとき2次コイルに発生した高電圧によって、点火プラグにおいて放電が行われる。
【0003】
ガソリンのリーンバーンエンジンや、ガソリンよりも着火し難い難燃性燃料を用いた内燃機関では、点火プラグにおける放電エネルギーを大きくすることが求められる。放電エネルギーを大きくする方法として、従来、複数の点火コイル(トランス)の出力を集約して、放電エネルギーを大きくする方法が知られている。この方法では、複数のコイルを配置するための空間を確保する必要があるとともに、高コストとなるという問題がある。
【0004】
1つの点火コイルで大きな放電エネルギーを出力するためには、1次コイルに大きな電流を与える必要がある。その場合、イグナイタに流れる1次電流が大電流となり、自己発熱によってイグナイタのジャンクション温度を超えて破損する可能性が高くなるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-177705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、特許文献1に記載の点火装置では、1次コイルへの通電制御部として、2つのイグナイタを並列に接続したものを用いている。このようにすれば、1次電流を2つに分けて、各イグナイタに流れる電流を抑制できるため、各イグナイタの温度上昇を抑制できる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の点火装置では、同スペックのイグナイタを用いたとしても、製造上の個体差によって、並列に接続された2つのイグナイタに流れる電流は同じとならず、一方のイグナイタに電流が偏る。そうすると、大きな電流が流れるイグナイタの劣化が速く進み、イグナイタ間の個体差がより大きくなるという問題が生じる。また、1次電流値を正確に制御することが困難になるという問題も生じる。
【0008】
また、特許文献1に記載の点火装置と同じ構成を用いて、並列に接続した2つのイグナイタを交互に用いることでも、単一のイグナイタを用いる場合と比べてイグナイタの温度上昇を抑制できる。しかしながら、同じスイッチング制御を行った場合でも、イグナイタ間の製造上の個体差によって、生じる1次電流の値が異なる場合がある。
【0009】
本発明の目的は、点火コイルに大きな1次電流が生じる点火装置において、イグナイタの温度上昇を抑制しつつ、複数のイグナイタのそれぞれに流れる電流値の差を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、内燃機関用点火装置であって、電磁結合された1次コイルおよび2次コイルを有するトランスと、前記1次コイルの一端へ電力を供給するバッテリと、前記1次コイルの他端とグラウンドとの間に、並列に接続される第1イグナイタおよび第2イグナイタと、前記2次コイルとグラウンドとの間に電気的に接続され、プラグギャップが気筒内に配置される点火プラグと、前記第1イグナイタを流れる電流値を検出する第1電流検出部と、前記第2イグナイタを流れる電流値を検出する第2電流検出部と、前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのON/OFFを制御するECUと、を有し、前記ECUは前記気筒内に燃料が導入されない状態で前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタをON/OFFさせ、前記第1電流検出部および前記第2電流検出部の検出結果に基づいて、前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのON時刻を調整する初期通電調整工程と、前記初期通電調整工程の後に、前記気筒内に前記燃料が導入された状態で、調整後の前記ON時刻を用いて前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのON/OFFを行い、前記1次コイルへの通電/遮断により前記点火プラグの放電を行う運転工程と、を実行する。
【0011】
本願の第2発明は、第1発明の内燃機関用点火装置であって、前記ECUは、前記初期通電調整工程において、前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのうち、流れる電流値が大きい一方の前記ON時刻を遅角させる。
【0012】
本願の第3発明は、第1発明の内燃機関用点火装置であって、前記ECUは、前記初期通電調整工程において、前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのうち、流れる電流値が小さい一方の前記ON時刻を進角させる。
【0013】
本願の第4発明は、第1発明の内燃機関用点火装置であって、前記ECUは、前記初期通電調整工程において、前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのうち、流れる電流値が大きい一方の前記ON時刻を遅角させるとともに、前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタのうち、流れる電流値が小さい他方の前記ON時刻を進角させる。
【0014】
本願の第5発明は、第1発明ないし第4発明のいずれか一項の内燃機関用点火装置であって、前記運転工程において、前記ECUは、前記1次コイルへの全ての通電期間に対して、前記初期通電調整工程において調整された前記ON時刻を用いて前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタをON/OFFさせる。
【0015】
本願の第6発明は、第1発明ないし第4発明のいずれか一項の内燃機関用点火装置であって、前記運転工程において、前記ECUは、奇数回目のサイクルでは、前記第1イグナイタをON/OFFさせるとともに、前記第2イグナイタをOFF状態に保ち、偶数回目のサイクルでは、前記第1イグナイタをOFF状態に保つとともに、前記第2イグナイタをON/OFFさせる。
【0016】
本願の第7発明は、第1発明ないし第4発明のいずれか一項の内燃機関用点火装置であって、前記運転工程において、前記ECUは、奇数回目のサイクルの奇数回目の通電期間および偶数回目のサイクルの偶数回目の通電期間では、前記第1イグナイタをON/OFFさせるとともに、前記第2イグナイタをOFF状態に保ち、奇数回目のサイクルの偶数回目の通電期間および偶数回目のサイクルの奇数回目の通電期間では、前記第1イグナイタをOFF状態に保つとともに、前記第2イグナイタをON/OFFさせる。
【0017】
本願の第8発明は、第1発明ないし第4発明のいずれか一項の内燃機関用点火装置であって、前記燃焼室内に導入される燃料は、難燃性燃料を含む。
【0018】
本願の第9発明は、第8発明の内燃機関用点火装置であって、前記難燃性燃料はアンモニアである。
【0019】
本願の第10発明は、内燃機関用点火装置であって、電磁結合された1次コイルおよび2次コイルを有するトランスと、前記1次コイルの一端へ電力を供給するバッテリと、前記1次コイルの他端とグラウンドとの間に、並列に接続される3つ以上のイグナイタと、前記2次コイルとグラウンドとの間に電気的に接続され、プラグギャップが気筒内に配置される点火プラグと、前記第1イグナイタを流れる電流値を検出する第1電流検出部と、前記第2イグナイタを流れる電流値を検出する第2電流検出部と、複数の前記イグナイタのON/OFFを制御するECUと、を有し、前記ECUは、前記気筒内に燃料が導入されない状態で前記第1イグナイタおよび前記第2イグナイタをON/OFFさせ、前記第1電流検出部および前記第2電流検出部の検出結果に基づいて、複数の前記イグナイタのそれぞれのON時刻を調整する初期通電調整工程と、前記初期通電調整工程の後に、前記気筒内に前記燃料が導入された状態で、調整後の前記ON時刻を用いて複数の前記イグナイタのON/OFFを行い、前記1次コイルへの通電/遮断により前記点火プラグの放電を行う運転工程と、を実行する。
【0020】
本願の第11発明は、第10発明の内燃機関用点火装置であって、前記ECUは、前記初期通電調整工程において、複数の前記イグナイタのうち、流れる電流値が比較的大きな前記イグナイタの前記ON時刻を遅角させるとともに、複数の前記イグナイタのうち、流れる電流値が比較的小さな前記イグナイタの前記ON時刻を進角させる。
【発明の効果】
【0021】
本願の第1発明~第11発明によれば、1次コイルに大きな電流を供給する場合であっても、電流を複数のイグナイタに分岐させて各イグナイタを流れる電流を小さくしたり、複数のイグナイタを交互に使用して各イグナイタの使用頻度を抑制したりすることができる。これにより、イグナイタの温度上昇が抑制され、イグナイタの劣化や破損を抑制できる。また、初期通電調整工程を行うことにより、各イグナイタに流れる電流の大きさの差を抑制し、イグナイタの発熱量の差が生じるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の回路図である。
図2】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の点火動作の流れを示すフローチャートである。
図3】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の初期通電調整工程における点火信号および1次側の電流値の例を示した図である。
図4】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の第1の通電方法の運転工程における点火信号および1次側の電流値の例を示した図である。
図5】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の第2の通電方法の運転工程における点火信号および1次側の電流値の例を示した図である。
図6】第1実施形態に係る内燃機関用点火装置の第3の通電方法の運転工程における点火信号および1次側の電流値の例を示した図である。
図7】第2実施形態に係る内燃機関用点火装置の回路図である。
図8】第2実施形態に係る内燃機関用点火装置の初期通電調整工程における点火信号、分配信号および1次側の電流値の例を示した図である。
図9】第2実施形態に係る内燃機関用点火装置の第2の通電方法の運転工程、および第3の通電方法の運転工程における点火信号および分配信号の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
<1.第1実施形態>
<1-1.内燃機関用点火装置の構成>
本発明の一実施形態となる内燃機関用点火装置1の構成について、図面を参照しつつ説明する。図1は、第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1の回路図である。なお、図1において、1次側の詳しい回路は省略している。
【0025】
本実施形態の内燃機関用点火装置1は、例えば、自動車等の車両の車体に搭載され、内燃機関用の点火プラグ90に火花放電を発生させるための高電圧を印加する装置である。図1に示すように、内燃機関用点火装置1は、点火コイル20と、通電制御部30と、点火プラグ90とを有する。
【0026】
内燃機関用点火装置1が複数気筒の内燃エンジンに用いられる場合、通電制御部30の後述するバッテリ31およびECU32は複数の気筒に対して共通であってもよい。一方、点火コイル20と、通電制御部30の後述する第1イグナイタ41および第2イグナイタ42と、点火プラグ90とは、それぞれの気筒に対して備えられている。例えば、4気筒の内燃エンジンにおいて、1つのバッテリ31および1つのECU32と、4組の点火コイル20、第1イグナイタ41、第2イグナイタ42、および点火プラグ90が備えられる。
【0027】
本実施形態の内燃機関用点火装置1が用いられる内燃エンジンにおいて、各気筒の燃焼室内に導入される燃料は、例えば、アンモニアガスを主な成分とする気体燃料である。アンモニアガスは、ガソリン等の従来の燃料に比べて着火しにくく、燃焼速度が遅い。このため、点火プラグ90における着火動作において、従来のガソリンエンジンの点火装置よりも高い放電エネルギーを供給することが必要である。
【0028】
点火コイル20は、電磁結合された1次コイルL1および2次コイルL2を有するトランスである。2次コイルL2は、1次コイルL1よりも巻き数が大きい。1次コイルL1は、その両端部に、第1端子21と、第2端子22とを有する。2次コイルL2は、その両端部に、高圧側端子23と、低圧側端子24とを有する。第1端子21と低圧側端子24との間には、低圧側端子24から第1端子21へ向かう方向を順方向とするダイオード25が接続されている。
【0029】
通電制御部30は、1次コイルL1への通電を制御する。通電制御部30は、バッテリ31と、ECU(Engine Control Unit)32と、第1イグナイタ41と、第2イグナイタ42と、第1抵抗51と、第2抵抗52とを有する。
【0030】
バッテリ31は、直流電力を充放電可能な電源装置(蓄電池)である。本実施形態では、バッテリ31は、点火コイル20の1次コイルL1と、第1イグナイタ41と、第2イグナイタ42と、第1抵抗51と、第2抵抗52と電気的に接続される。具体的には、バッテリ31の出力端子が、1次コイルL1の第1端子21と接続される。これにより、バッテリ31は、点火コイル20の1次コイルL1に直流電圧を供給する。
【0031】
ECU32は、車体のトランスミッションやエアバックの作動等を総合的に制御するコンピュータである。ECU32は、第1イグナイタ41に対して第1点火信号S1を出力し、第1イグナイタ41のON/OFF動作を制御する。また、ECU32は、第2イグナイタ42に対して第2点火信号S2を出力し、第2イグナイタ42のON/OFF動作を制御する。
【0032】
第1イグナイタ41と第1抵抗51とは、1次コイルL1の第2端子22とグラウンドとの間において、直列に接続されている。また、第2イグナイタ42と第2抵抗52とは、1次コイルL1の第2端子22とグラウンドとの間において、直列に接続されている。そして、第1イグナイタ41および第1抵抗51と、第2イグナイタ42および第2抵抗52とは、1次コイルL1の第2端子22とグラウンドとの間において、並列に接続されている。
【0033】
第1イグナイタ41および第2イグナイタ42は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのスイッチング素子である。第1イグナイタ41および第2イグナイタ42はそれぞれ、ECU32から供給される第1点火信号S1および第2点火信号S2に従ってON/OFFし、1次コイルL1の通電を制御する。
【0034】
具体的には、第1イグナイタ41は、コレクタ端子が1次コイルL1の第2端子22と接続され、エミッタ端子が第1抵抗51の一端と接続され、ゲート端子にECU32から第1点火信号S1が入力される。第1イグナイタ41がONになると、バッテリ31、1次コイルL1、第1イグナイタ41および第1抵抗51が、グラウンドを介して第1のループを形成し、1次コイルL1に電流が流れる。
【0035】
また、第2イグナイタ42は、コレクタ端子が1次コイルL1の第2端子22と接続され、エミッタ端子が第2抵抗52の一端と接続され、ゲート端子にECU32から第2点火信号S2が入力される。第2イグナイタ42がONになると、バッテリ31、1次コイルL1、第2イグナイタ42および第2抵抗52が、グラウンドを介して第2のループを形成し1次コイルL1に電流が流れる。
【0036】
第1イグナイタ41および第2イグナイタ42の両方がONになると、上記の第1のループと第2のループとの双方に電流が流れる。以下では、1次コイルL1を流れる電流を1次電流I1、第1イグナイタ41および第1抵抗51を流れる電流を第1分岐電流I1a、第2イグナイタ42および第2抵抗52を流れる電流を第2分岐電流I1bと称する。なお、1次電流I1は、第1分岐電流I1aと第2分岐電流I1bとを合計したものとなる。
【0037】
第1抵抗51の両端の電位差Vaと、第2抵抗52の両端の電位差Vbとは、ECU32に入力される。これにより、ECU32は、第1抵抗51を流れる第1分岐電流I1aの電流値と、第2抵抗52を流れる第2分岐電流I1bの電流値とを計測することができる。すなわち、第1抵抗51は、第1分岐電流I1aを検出する第1電流検出部であり、第2抵抗52は、第2分岐電流I1bを検出する第2電流検出部である。なお、本実施形態では、第1抵抗51の他端および第2抵抗52の他端は接地されているため、ECU32は、第1抵抗51の一端および第2抵抗52の一端における電圧値のみを計測すればよい。
【0038】
点火プラグ90は、内燃機関の燃焼室の内部に配置され、内燃機関の燃焼室で着火動作を実現するための装置である。点火プラグ90は、電位差によって放電を生じるプラグギャップを有する。点火プラグ90は、点火コイル20の2次コイルL2の高圧側端子23と、グラウンドとの間に電気的に接続される。すなわち、点火プラグ90の一端は、高圧側端子23に接続され、点火プラグ90の他端は、接地される。
【0039】
ECU32からの点火信号S1,S2に従って、第1イグナイタ41および第2イグナイタ42のいずれか一方または両方がONになると、1次コイルL1の両端に電圧がかかり、1次側の回路に電流が生じる。これにより、点火コイル20内に磁束が形成される。その後、ECU32からの点火信号S1,S2に従って、第1イグナイタ41および第2イグナイタ42の両方がOFFになると、点火コイル20内に形成された磁束による電磁誘導により、2次コイルL2の両端部に、バッテリ31によって供給された電圧とは逆向きの高電圧が誘起される。これにより、低圧側端子24に対して高圧側端子23が大きくマイナス電位となる。
【0040】
その結果、点火プラグ90と接続される高圧側端子23が、絶対値の大きなマイナス電位となる。このため、点火プラグ90のギャップにおいて放電が起こり、火花が発生する。これにより、内燃機関に充填された燃料に点火される。
【0041】
<1-2.第1の通電方法>
上記の内燃機関用点火装置1における、第1イグナイタ41および第2イグナイタ42に対する第1の通電方法について、図2図4を参照しつつ説明する。図2は、内燃機関用点火装置1の点火動作の流れを示すフローチャートである。図3は、初期通電調整工程における、ECU32から出力される点火信号、および、点火コイル20の1次側の電流値の例を示した図である。図4は、第1の通電方法の運転工程における、ECU32から出力される点火信号S1,S2、および、点火コイル20の1次側の電流値I1,I1a,I1bの例を示した図である。なお、図2に示すフローチャートは、第1の通電方法だけでなく、後述する第2の通電方法および第3の通電方法においても共通する。
【0042】
図2に示すように、この内燃機関用点火装置1では、内燃機関の運転開始時に、まず、気筒内に燃料を導入しない初期通電調整工程(ステップST11~ST14)を行い、その後、燃料を導入した運転工程(ステップST20)を行う。初期通電調整工程では、気筒内に燃料が導入されない状態で第1イグナイタ41および第2イグナイタ42をON/OFFさせ、第1分岐電流I1aおよび第2分岐電流I1bの検出結果に基づいて、イグナイタ41,42のそれぞれのON時刻を調整する。
【0043】
初期通電調整工程では、まず、点火信号の初期設定を行う(ステップST11)。1次コイルL1に接続されるイグナイタが単一である従来の点火装置では、ECU32が図3の(A)に示すような点火信号S0を単一のイグナイタに入力することにより、図3の(B)に示すような1次電流I1を得ることができる。この例では、点火プラグ90において、1回のサイクルにおいて、時刻T1に本放電を行った後に、時刻T2,T3,T4において追加放電を生じさせるように制御を行っている。すなわち、1サイクルに4回の放電を行っている。なお、本放電を行う時刻T1は、放電を行う気筒においてピストンが圧縮上死点に達する時刻の近傍である。
【0044】
図3(B)の例では、具体的には、点火信号S0は、時刻T1に1次電流I1が電流値Ipに達するように、ON時刻t1を定め、時刻T1をOFF時刻とする。これにより、時刻t1~T1の間に1次電流I1が上昇し、時刻T1に1次コイルL1の通電がOFFされることで、点火プラグ90のギャップ間に大きな電位差が発生し、本放電が起こる。同様に、時刻T2,T3,T4のそれぞれに1次電流I1が電流値Iqに達するようにON時刻t2,t3,t4を定める。これにより、時刻T2,T3,T4のそれぞれにおいて、点火プラグのギャップ間に大きな電位差が発生し、追加放電が起こる。
【0045】
難燃性燃料を用いる場合や、ガソリンを燃料としたリーンバーンエンジンの点火を行う場合には、通常のガソリンエンジンと比べて大きな放電エネルギーが必要となる。このため、1次電流I1のピーク電流値Ip,Iqを大きくする必要がある。
【0046】
従来の単一のイグナイタを有する点火装置において、単に1次電流I1のピーク電流値を大きくすると、イグナイタに高電流が頻回に流れるため、発熱によりイグナイタが破損する虞がある。そこで、本実施形態の内燃機関用点火装置1では、2つのイグナイタ41,42を並列に接続することで、イグナイタ41,42の発熱を抑制することができる。その場合、大きく分けて2つの方法を用いることができる。
【0047】
1つ目は、2つのイグナイタ41、42を同時にONにすることによって1次電流I1を2つに分流させ、各イグナイタ41,42を流れる電流を小さくしてイグナイタ41,42の発熱を抑制する方法である。また、2つ目は、2つのイグナイタ41、42の一方をONしている間は他方をOFFとして放熱させ、また他方をONしている間は一方をOFFとして放熱させることで、各イグナイタ41,42が発熱するON期間を短くし、放熱するOFF期間を長くすることでイグナイタ41,42の温度上昇を抑制する方法である。
【0048】
どちらの方法においても、第1イグナイタ41と第2イグナイタ42との製造上の個体差によって、2つのイグナイタ41,42を流れる電流値に差が出てしまう。ひいては、2つのイグナイタ41,42の発熱量、温度上昇、および劣化度合いに差が出てしまう。
【0049】
図4に示す第1の方法は、前者の方法である。また、後述する、図5に示す第2の方法と、図6に示す第3の方法とは、後者の方法である。これらの方法においては、各気筒内に燃料を導入する前に、図2および図3に示す初期通電調整を行うことによって、2つのイグナイタ41,42を流れる電流値の差を抑制することができる。
【0050】
初期通電調整工程においては、まず、図3の(C)の左側に示すように、1回目のサイクルについて、第1点火信号S1と第2点火信号S2とを、同じ信号とする。この場合、第1点火信号S1および第2点火信号S2は、単一のイグナイタを用いる場合の点火信号S0と同じ信号とする。
【0051】
続いて、初期設定T11で設定された、第1点火信号S1および第2点火信号S2を用いて、気筒内に燃料を導入せずに、点火コイル20への通電を行う(ステップST12)。これにより、図3の(D)の左側に示すように、第1イグナイタ41には第1分岐電流I1aが流れ、第2イグナイタ42には第2分岐電流I1bが流れる。このとき、第1分岐電流I1aおよび第2分岐電流I1bはそれぞれ、1次電流I1の1/2に近い値となるものの、2つのイグナイタ41、42の個体差により、差が生じる。図3の(D)の例では、第1分岐電流I1aが第2分岐電流I1bよりも大きくなっている。このとき、第1分岐電流I1aに比例する電位差Vaと、第2分岐電流I1bに比例する電位差Vbとが、ECU32に入力されている。これにより、ECU32は、第1分岐電流I1aと第2分岐電流I1bとの差を検知できる。
【0052】
ECU32は、電位差Va,Vbに基づいて、第1分岐電流I1aと第2分岐電流I1bとに差があるか否かを判断する(ステップST13)。第1分岐電流I1aと第2分岐電流I1bとに所定の閾値以上の差があると判断した場合(ステップST13:Yes)、ECU32は、第1点火信号S1と第2点火信号S2とを変更させる(ステップST14)。
【0053】
ステップST14では、具体的には、2つのイグナイタ41,42のうち、電流が多く流れる一方のON時刻を遅角させるとともに、電流が少なく流れる他方のON時刻を進角させる。なお、2つのイグナイタ41,42のいずれについても、点火タイミングに変更は無いため、OFF時刻は変更しない。
【0054】
これにより、図3の(D)の右側に示すように、電流が多く流れる第1イグナイタ41に対する第1点火信号S1の変更後のON時刻t1a,t2a,t3a,t4aはそれぞれ、初期設定におけるON時刻t1,t2,t3,t4よりも遅い時刻に設定される。また、電流が少なく流れる第2イグナイタ42に対する第2点火信号S2の変更後のON時刻t1b,t2b,t3b,t4bはそれぞれ、初期設定におけるON時刻t1,t2,t3,t4よりも早い時刻に設定される。
【0055】
なお、本実施形態では、ステップST14において、2つのイグナイタ41,42の双方のON時刻を変更したが、本発明はこれに限られない。ステップST14では、2つのイグナイタ41,42の一方のみのON時刻を変更してもよい。例えば、2つのイグナイタ41,42のうち、電流が多く流れる一方のON時刻を遅角させ、電流が少なく流れる他方のON時刻は変更しないこととしてもよい。また、2つのイグナイタ41,42のうち、電流が少なく流れる一方のON時刻を進角させ、電流が多く流れる他方のON時刻は変更しないこととしてもよい。
【0056】
その後、ステップST12に戻り、ECU32は、変更後の点火信号S1,S2を用いて通電を行う。これにより、図3の(D)の右側に示すように、ON時刻を遅角させた第1イグナイタ41に流れる第1分岐電流I1aのOFF時刻におけるピーク電流値が小さくなる。また、ON時刻を進角させた第2イグナイタ42に流れる第2分岐電流I1bのOFF時刻におけるピーク電流値が大きくなる。これにより、第1分岐電流I1aのピーク電流値と、第2分岐電流I1bのピーク電流値との差が小さくなる。
【0057】
このように、ステップST12~ST14を繰り返し、第1分岐電流I1aのピーク電流値と、第2分岐電流I1bのピーク電流値との差を小さくする。そして、ステップST13において、第1分岐電流I1aのピーク電流値と、第2分岐電流I1bのピーク電流値との差が閾値未満であると判断した場合(ステップST13:No)、ECU32は、初期通電調整工程(ステップST11~ST14)を終了し、燃料を導入する運転工程(ステップST20)を行う。
【0058】
図4の(E)および(F)に示すように、第1の通電方法では、1次コイルL1への1サイクル4回の全ての通電期間(時刻t1~T1,時刻t2~T2,時刻t3~T3,時刻t4~T4)に対して、初期通電調整工程において調整したON時刻を用いて、第1イグナイタ41および第2イグナイタ42をON/OFFさせる。
【0059】
具体的には、ECU32は、初期通電調整工程において調整したON時刻t1a,t2a,t3a,t4aに第1イグナイタ41をONにし、放電開始時刻となるOFF時刻T1,T2,T3,T4に第1イグナイタ41をOFFにする。また、ECU32は、初期通電調整工程において調整したON時刻t1b,t2b,t3b,t4bに第2イグナイタ42をONにし、放電開始時刻となるOFF時刻T1,T2,T3,T4に第2イグナイタ42をOFFにする。
【0060】
これにより、それぞれの通電期間について、第2イグナイタ42の通電開始後、第1イグナイタ41の通電が開始し、第1イグナイタ41および第2イグナイタ42の通電が同時に遮断される。具体的には、本放電の場合、初期設定におけるON時刻t1よりも前の時刻t1bに第2イグナイタ42がONとなり、時刻t1よりも後の時刻t1aに第1イグナイタ41がONとなる。その後、初期設定と同じOFF時刻T1において、第1イグナイタ41および第2イグナイタ42の双方がOFFとなる。3回の追加放電についても、同様である。
【0061】
このように、電流が多く流れやすい第1イグナイタ41のON時刻を遅角させ、電流が第1イグナイタ41よりも流れにくい第2イグナイタ42のON時刻を進角させることにより、第1イグナイタ41のOFF時刻におけるピーク電流値と、第2イグナイタ42のOFF時刻におけるピーク電流値との差がほぼ同じとなるまで、ON時刻を調整する。これにより、2つのイグナイタ41,42の一方に他方よりも大きな電流が繰り返し流れることで、イグナイタ41,42の一方の発熱量が他方よりも大きくなることが抑制される。その結果、イグナイタ41,42の一方の劣化が他方よりも進んだり、発熱によって破損するのを抑制できる。
【0062】
<1-3.第2の通電方法>
次に、図5を参照しつつ、第2の通電方法について説明する。図5は、第2の通電方法における点火信号S1,S2の例と、点火コイル20の1次側の電流値I1a、I1bの例を示した図である。第2の通電方法では、初期通電調整工程(ステップST11~ST14)は、第1の通電方法と同じである。すなわち、第2の通電方法は、第1の通電方法と、燃料を導入する運転工程(ステップST20)における通電のやり方が異なる。
【0063】
図5の(G)および(H)に示すように、第2の通電方法では、運転工程(ステップST20)において、ECU32は、サイクル毎に、2つのイグナイタ41,42を交互に使用する。
【0064】
具体的には、ECU32は、奇数回目のサイクルでは、第2イグナイタ42をOFF状態に保つとともに、第1イグナイタ41をON/OFFさせて1次コイルL1の通電/遮断を行う。一方、ECU32は、偶数回目のサイクルでは、第1イグナイタ41をOFF状態に保つとともに、第2イグナイタ42をON/OFFさせて1次コイルL1の通電/遮断を行う。
【0065】
すなわち、ECU32は、奇数回目のサイクルにおいて、初期通電調整工程において調整したON時刻t1a,t2a,t3a,t4aに第1イグナイタ41をONにし、放電開始時刻となるOFF時刻T1,T2,T3,T4に第1イグナイタ41をOFFにする。また、ECU32は、偶数回目のサイクルにおいて、初期通電調整工程において調整したON時刻t1b,t2b,t3b,t4bに第2イグナイタ42をONにし、放電開始時刻となるOFF時刻T1,T2,T3,T4に第2イグナイタ42をOFFにする。
【0066】
これにより、奇数回目のサイクルの本放電に対するOFF時刻T1におけるピーク電流値と、偶数回目のサイクルの本放電に対するOFF時刻T1におけるピーク電流値とをほぼ同じとすることができる。同様に、奇数回目のサイクルの追加放電に対するOFF時刻T2,T3,T4におけるピーク電流値と、偶数回目のサイクルの追加放電に対するOFF時刻T2,T3,T4におけるピーク電流値とをほぼ同じとすることができる。
【0067】
また、奇数回目のサイクルにおいて第2イグナイタ42はOFF状態を保つ。このため、偶数回目のサイクルにおいて第2イグナイタ42で発生した熱が、奇数回目のサイクル中に発散される。同様に、偶数回目のサイクルにおいて第1イグナイタ41はOFF状態を保つ。このため、奇数回目のサイクルにおいて第1イグナイタ41で発生した熱が、偶数回目のサイクル中に発散される。このように、サイクル毎に、2つのイグナイタ41,42を交互に使用することにより、イグナイタ41,42の温度の上昇が抑制される。その結果、イグナイタ41,42が発熱によって劣化したり破損したりするのを抑制できる。
【0068】
<1-4.第3の通電方法>
次に、図6を参照しつつ、第2の通電方法について説明する。図6は、第3の通電方法における点火信号S1,S2の例と、点火コイル20の1次側の電流値I1a、I1bの例を示した図である。第3の通電方法では、初期通電調整工程(ステップST11~ST14)は、第1の通電方法および第2の通電方法と同じである。すなわち、第3の通電方法は、第1の通電方法および第2の通電方法と、燃料を導入する運転工程(ステップST20)における通電のやり方が異なる。
【0069】
図6の(I)および(J)に示すように、第3の通電方法では、運転工程(ステップST20)において、ECU32は、サイクル毎に、最初の通電期間に使用するイグナイタ41,42を変更する。また、1つのサイクルにおいて、通電期間毎に、2つのイグナイタ41,42を交互に使用する。
【0070】
具体的には、ECU32は、奇数回目のサイクルの奇数回目の通電期間および偶数回目のサイクルの偶数回目の通電期間では、第2イグナイタ42をOFF状態に保つとともに、第1イグナイタ41をON/OFFさせて1次コイルL1の通電/遮断を行う。一方、ECU32は、奇数回目のサイクルの偶数回目の通電期間および偶数回目のサイクルの奇数回目の通電期間では、第1イグナイタ41をOFF状態に保つとともに、第2イグナイタ42をON/OFFさせて1次コイルL1の通電/遮断を行う。
【0071】
すなわち、図6の例のように、1サイクルに4回の通電期間がある場合、奇数回目のサイクルの1回目の通電期間では第1イグナイタ41、2回目の通電期間では第2イグナイタ42、3回目の通電期間では第1イグナイタ41、4回目の通電期間では第2イグナイタ42をON/OFFする。また、偶数回目のサイクルの1回目の通電期間では第2イグナイタ42、2回目の通電期間では第1イグナイタ41、3回目の通電期間では第2イグナイタ42、4回目の通電期間では第1イグナイタ41をON/OFFする。
【0072】
このとき、第1イグナイタ41をONする時刻には、初期通電調整工程において調整したON時刻t1a,t2a,t3a,t4aが用いられる。また、第2イグナイタ42をONする時刻には、初期通電調整工程において調整したON時刻t1b,t2b,t3b,t4bが用いられる。これにより、奇数回目のサイクルの本放電に対するOFF時刻T1におけるピーク電流値と、偶数回目のサイクルの本放電に対するOFF時刻T1におけるピーク電流値とをほぼ同じとすることができる。同様に、奇数回目のサイクルの追加放電に対するOFF時刻T2,T3,T4におけるピーク電流値と、偶数回目のサイクルの追加放電に対するOFF時刻T2,T3,T4におけるピーク電流値とをほぼ同じとすることができる。
【0073】
最も期間が長く、発熱量が多い1回目の通電期間について、サイクル毎に、2つのイグナイタ41,42を交互に使用することにより、イグナイタ41,42の温度の上昇が抑制される。さらに、1つのサイクル中、4回の通電期間について、通電期間毎に、2つのイグナイタ41,42を交互に使用することにより、イグナイタ41,42の温度の上昇が抑制される。その結果、イグナイタ41,42が発熱によって劣化したり破損したりするのを抑制できる。
【0074】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態となる内燃機関用点火装置1Aの構成について、図面を参照しつつ説明する。図7は、第2実施形態に係る内燃機関用点火装置1Aの回路図である。なお、図7において、1次側の詳しい回路は省略している。また、図7中、上記の第1実施形態と同様の構成については、説明を省略するとともに、図1中と同じ符号を付している。
【0075】
上記の第1実施形態では、ECU32が、第1イグナイタ41および第2イグナイタ42にそれぞれ異なる2つの点火信号S1,S2を出力していた。これに対し、図7に示す第2実施形態では、内燃機関用点火装置1Aは、ECU32から入力される点火信号S0を第1イグナイタ41および第2イグナイタ42に分配して出力する分配器40を有する。なお、図7において、分配器40はECU32から独立しているが、分配器40はECU32に内蔵されていてもよい。
【0076】
ECU32からは、1つの点火信号S0と、分配信号Sdとが分配器40へ出力される。そして、分配器40は、分配信号Sdに従って、点火信号S0を第1イグナイタ41と第2イグナイタ42とに分配して出力する。このため、第1イグナイタ41と第2イグナイタ42とに同時に異なる信号を送出することができないため、第1実施形態と同じ方法で初期通電調整を行うこと、および、第1実施形態で説明した第1の方法を行うことは難しい。
【0077】
そこで、内燃機関用点火装置1Aにおいても、点火動作の流れは第1実施形態と同様であるため、図2を参照しつつ説明する。また、図8は、第2実施形態の初期通電調整工程における、ECU32から出力される点火信号S0,S1,S2、分配信号Sd、および、点火コイル20の1次側の電流値I1a,I1bの例を示した図である。図9は、第2実施形態の第2の通電方法および第3の通電方法の運転工程における、ECU32から出力される点火信号S0,S1,S2および分配信号Sdの例を示した図である。
【0078】
図2に示すように、初期通電調整工程では、まず、点火信号の初期設定を行う(ステップST11)。図8の(K)に示すように、本実施形態において、この時設定される分配前の点火信号S0は、第1実施形態において最初に設定される第1点火信号S1および第2点火信号S2と同等のものである。このとき、分配信号Sdは、1回目のサイクルでは第1イグナイタ41のみに点火信号S0を分配し、2回目のサイクルでは第2イグナイタ42のみに点火信号S0を分配するように設定される。
【0079】
これにより、第1イグナイタ41に入力される第1点火信号S1は、1回目のサイクルにおいて、初期設定におけるON時刻t1,t2,t3,t4にONとなり、OFF時刻T1,T2,T3,T4にOFFとなる。また、第1点火信号S1は、2回目のサイクルではOFF状態を保つ。
【0080】
また、第2イグナイタ42に入力される第2点火信号S2は、1回目のサイクルではOFF状態を保つ。また、第2点火信号S2は、2回目のサイクルにおいて、初期設定におけるON時刻t1,t2,t3,t4にONとなり、OFF時刻T1,T2,T3,T4にOFFとなる。
【0081】
初期設定T11で設定された、このような第1点火信号S1および第2点火信号S2を用いて、気筒内に燃料を導入せずに、点火コイル20への通電を行う(ステップST12)。これにより、図8の(L)に示すように、1回目のサイクルにおいては第1イグナイタ41に第1分岐電流I1aが流れ、2回目のサイクルにおいては第2イグナイタ42に第2分岐電流I1bが流れる。このとき、1回目のサイクルにおける第1分岐電流I1aと、2回目のサイクルにおける第2分岐電流I1bとは、2つのイグナイタ41、42の個体差により、差が生じる。図8の(L)の例では、1回目のサイクルにおける第1分岐電流I1aの各ピーク電流値が、2回目のサイクルにおける第2分岐電流I1bの各ピーク電流値よりも大きくなっている。このとき、第1分岐電流I1aに比例する電位差Vaと、第2分岐電流I1bに比例する電位差Vbとが、ECU32に入力されている。
【0082】
ECU32は、電位差Va,Vbに基づいて、1回目のサイクルにおける第1分岐電流I1aと、2回目のサイクルにおける第2分岐電流I1bとに差があるか否かを判断する(ステップST13)。第1分岐電流I1aと第2分岐電流I1bとに所定の閾値以上の差があると判断した場合(ステップST13:Yes)、ECU32は、第1イグナイタ41に入力する奇数サイクル目の点火信号S0と、第2イグナイタ42に入力する偶数サイクル目の点火信号S0とを変更させる(ステップST14)。
【0083】
ステップST14では、具体的には、2つのイグナイタ41,42のうち、ピーク電流値が大きな一方のON時刻を遅角させるとともに、ピーク電流値が小さな他方のON時刻を進角させる。なお、2つのイグナイタ41,42のいずれについても、点火タイミングに変更は無いため、OFF時刻は変更しない。
【0084】
これにより、図9の(M)に示すように、電流が多く流れる第1イグナイタ41に対する奇数回目のサイクルの点火信号S0の変更後のON時刻t1a,t2a,t3a,t4aはそれぞれ、初期設定におけるON時刻t1,t2,t3,t4よりも遅い時刻に設定される。また、電流が少なく流れる第2イグナイタ42に対する偶数回目のサイクルの点火信号S0の変更後のON時刻t1b,t2b,t3b,t4bはそれぞれ、初期設定におけるON時刻t1,t2,t3,t4よりも早い時刻に設定される。
【0085】
その後、ステップST12に戻り、ECU32は、変更後の点火信号S0を用いて通電を行う。これにより、奇数回目のサイクルにおける第1分岐電流I1aのピーク電流値と、偶数回目のサイクルにおける第2分岐電流I1bのピーク電流値との差が小さくなる。
【0086】
このようなステップST12~ST14を繰り返し、奇数回目のサイクルにおける第1分岐電流I1aのピーク電流値と、偶数回目のサイクルにおける第2分岐電流I1bのピーク電流値との差を小さくする。そして、ステップST13において、第1分岐電流I1aのピーク電流値と、第2分岐電流I1bのピーク電流値との差が閾値未満であると判断した場合(ステップST13:No)、ECU32は、初期通電調整工程(ステップST11~ST14)を終了し、燃料を導入する運転工程(ステップST20)を行う。
【0087】
運転工程において第2の通電方法を行う場合は、図9の(M)に示すような、初期通電調整工程で最後に設定された点火信号S0および分配信号Sdをそのまま使用すればよい。これにより、図5に示す第1実施形態の第2の通電方法と同様の第1点火信号S1および第2点火信号S2が得られる。したがって、図5に示す第1実施形態の第2の通電方法と同様の第1分岐電流I1aおよび第2分岐電流I1bが得られる。
【0088】
一方、運転工程において第3の方法を行う場合は、図9(N)に示すように、通電期間毎に、使用するイグナイタ41,42を切り替える。このため、点火信号S0のON時刻として、同サイクル内で第1イグナイタ41用のON時刻と第2イグナイタ42用のON時刻とを交互に設定するとともに、通電期間毎に分配信号Sdを切り替える。これにより、図6に示す第1実施形態の第3の通電方法と同様の第1点火信号S1および第2点火信号S2が得られる。したがって、図6に示す第1実施形態の第3の通電方法と同様の第1分岐電流I1aおよび第2分岐電流I1bが得られる。
【0089】
<3.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0090】
本発明の内燃機関用点火装置は、自動車等の車両のみならず、発電機等の様々な装置や産業機械に搭載されて、内燃機関の点火プラグに電気火花を発生させて燃料を点火させるために使用されるものであればよい。
【0091】
上記の実施形態において、使用される燃料はアンモニアガスを主な成分とする気体燃料であったが、本発明はこれに限られない。本発明は、通常のガソリンエンジンに適用されてもよいし、ガソリンのリーンバーンエンジンに適用されてもよい。
【0092】
また、上記の実施形態において、並列に接続されるイグナイタの数は2つであった。しかしながら、並列に接続されるイグナイタの数は3つ以上であってもよい。その場合、第1の通電方法として、全てのイグナイタに同時に通電を行ってもよいし、第2の通電方法のように、サイクル毎に通電させるイグナイタを順に交代させてもよい。また、第3の通電方法のように、通電期間毎に通電させるイグナイタを順に交代させてもよい。
【0093】
また、上記の実施形態において、1サイクルに1回の本放電と3回の追加放電を行ったが、本発明はこれに限られない。例えば、本放電の前に、事前放電を1回または複数回行ってもよい。また、本放電の後に行う追加放電は、行わなくてもよいし、1~2回行ってもよいし、4回以上行ってもよい。
【0094】
上記の内燃機関用点火装置の細部の形状や構造は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1,1A 内燃機関用点火装置
20 点火コイル
30 通電制御部
31 バッテリ
32 ECU
40 分配器
41 第1イグナイタ
42 第2イグナイタ
51 第1抵抗
52 第2抵抗
90 点火プラグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9