(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160547
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】素子の転写方法及び素子転写装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20241107BHJP
H01L 21/603 20060101ALI20241107BHJP
H05K 13/02 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H01L21/60 311T
H01L21/603 C
H05K13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075668
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】鎌谷 淳一
【テーマコード(参考)】
5E353
5F044
【Fターム(参考)】
5E353BB03
5E353EE02
5E353GG29
5E353JJ02
5E353JJ13
5E353JJ21
5E353JJ28
5E353JJ60
5E353KK02
5E353QQ12
5F044PP16
5F044PP17
(57)【要約】
【課題】簡易な構成でスタンプからの素子の脱落及び残存を防止するとともに、素子とターゲット基板の位置ズレを抑制し、高精度な転写を実現できる素子の転写方法及び素子転写装置を提供する。
【解決手段】素子の転写方法は、ソース基板1上の素子10とスタンプ3の位置をアライメントし、ソース基板とスタンプとを相対的に接近離間させて素子をスタンプの粘着力でスタンプにピックアップし、スタンプヘッドに設けられた入れ子状の押圧体31,32,33に少なくとも1つ以上の突起71,72,73を有する押圧ピン70を接触させることでスタンプの粘着力を低減させ、ターゲット基板2と素子の位置をアライメントし、ターゲット基板とスタンプとを相対的に接近離間させて素子をスタンプからターゲット基板に転写する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース基板上の素子とスタンプとの位置をアライメントし、
前記ソース基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプの粘着力で前記スタンプにピックアップし、
前記スタンプを保持するスタンプヘッドに設けられた入れ子状の押圧体に少なくとも1つ以上の突起を有する押圧ピンを接触させることで前記スタンプの前記粘着力を低減させ、
ターゲット基板と前記素子との位置をアライメントし、
前記ターゲット基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプから前記ターゲット基板に転写する、素子の転写方法。
【請求項2】
前記ソース基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプの前記粘着力で前記スタンプにピックアップするとき、前記ソース基板を上昇し、接触検知部により前記素子と前記スタンプとの接触を検知し、前記ソース基板を降下することで、前記素子を前記スタンプの前記粘着力で前記スタンプにピックアップし、
前記スタンプヘッドに設けられた入れ子状の前記押圧体に前記少なくとも1つ以上の突起を有する前記押圧ピンを接触させることで前記スタンプの前記粘着力を低減させるとき、前記スタンプのZ軸方向の上方に設けられた入れ子状の前記押圧体に対して、前記少なくとも1つ以上の突起を有する前記押圧ピンを降下させることで前記スタンプの前記粘着力を低減させ、
前記ターゲット基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプから前記ターゲット基板に転写するとき、前記ターゲット基板を上昇し、前記接触検知部により前記ターゲット基板と前記素子との接触を検知し、前記ターゲット基板を降下することで、前記素子を前記ターゲット基板に転写する、
請求項1に記載の素子の転写方法。
【請求項3】
前記押圧ピンの降下は、前記スタンプを保持しているスタンプヘッドに設けられた入れ子状の前記押圧体を押圧し、前記スタンプを弾性変形させて前記素子と前記スタンプとの接触面積を減らすことで前記スタンプの前記素子への前記粘着力を低減させる、
請求項2に記載の素子の転写方法。
【請求項4】
素子が形成されたソース基板を設置するソース基板設置台と、
ターゲット基板を設置するターゲット基板設置台と、
前記素子を粘着力でピックアップ可能なスタンプを有するスタンプヘッドと、
前記スタンプが前記ソース基板設置台と前記ターゲット基板設置台とにそれぞれ対向可能に前記スタンプヘッドを保持するフレームと、
前記スタンプに対する前記ソース基板と前記ターゲット基板との位置をそれぞれ調整可能とするとともに前記ソース基板と前記スタンプとを相対的に接近離間可能にかつ前記ターゲット基板と前記スタンプとを相対的に接近離間可能な基板位置調整機構と、
前記素子と前記スタンプとを撮像するとともに前記素子と前記ターゲット基板とを撮像することにより前記素子と前記スタンプとの位置ズレ量及び前記素子と前記ターゲット基板との位置ズレ量をそれぞれ検出可能とする撮像部と、
前記スタンプヘッドに設けられた入れ子状の押圧体に少なくとも1つ以上の突起が押圧可能な押圧ピンと、
前記スタンプヘッドの前記押圧体に対する前記押圧ピンの位置を調整する押圧ピン調整機構と、
前記素子と前記スタンプとの接触を検知するとともに前記素子と前記ソース基板との接触を検知する接触検知部と、
前記位置ズレ量が減少するように前記基板位置調整機構を制御し、前記スタンプヘッドの前記押圧体に対して前記押圧ピンの押圧及び押圧解除するように前記押圧ピン調整機構を制御し、前記ソース基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプの粘着力で前記スタンプにピックアップするとともに、前記ターゲット基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプから前記ターゲット基板に転写するように前記基板位置調整機構を制御する制御部と、を備える素子転写装置。
【請求項5】
前記制御部により前記基板位置調整機構を制御して、前記ソース基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプの前記粘着力で前記スタンプにピックアップするとき、前記ソース基板を上昇し、接触検知部により前記素子と前記スタンプの接触を検知し、前記ソース基板を降下することで、前記素子を前記スタンプの前記粘着力で前記スタンプにピックアップし、
前記制御部により前記押圧ピン調整機構を制御して、前記スタンプヘッドに設けられた入れ子状の前記押圧体に前記少なくとも1つ以上の突起を有する前記押圧ピンを接触させることで前記スタンプの前記粘着力を低減させるとき、前記スタンプのZ軸方向の上方に設けられた入れ子状の前記押圧体に対して、前記少なくとも1つ以上の突起を有する前記押圧ピンを降下させて前記スタンプを弾性変形させて前記素子と前記スタンプとの接触面積を減らすことで前記スタンプの前記粘着力を低減させ、
前記制御部により前記基板位置調整機構を制御して、前記ターゲット基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプから前記ターゲット基板に転写するとき、前記ターゲット基板を上昇し、前記接触検知部により前記ターゲット基板と前記素子の接触を検知し、前記ターゲット基板を降下することで、前記素子を前記ターゲット基板に転写する、請求項4に記載の素子転写装置。
【請求項6】
前記スタンプは、粘弾性を有する材料である、請求項5に記載の素子転写装置。
【請求項7】
前記押圧ピンは、前記押圧体に対応して前記押圧体と相対する面に多段構造を有している、請求項5に記載の素子転写装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、素子の転写方法及び素子転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速通信、大容量通信及びセンシングの分野において、光の活用が検討されている。特に、半導体電子回路と同様に、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)プロセスでシリコン基板上に光回路を形成する「シリコンフォトニクス」と呼ばれる技術が注目を集めている。シリコンフォトニクスにより形成される光回路は、光制御機能を有する微細なサイズの回路であり、光入出力部及び光変調器などが形成される。これらは、サブミクロンオーダーの微細な光導波路で互いに接続されている。通常、光回路を機能させる際はLD等の光源からの光を光ファイバ等の外部伝送体を介して、光入力部に高精度に接続させる必要があるが、LDチップ又は光学素子自体を直接光回路基板上に直接配置し、光接続させることにより、省スペース且つ部品点数が少なく、光回路を機能させることが可能である。
【0003】
同じく、微小チップを配置する必要があるデバイスとして、マイクロLEDディスプレイがある。従来、マイクロLEDディスプレイを製造する際は、ウエハを個片化して形成された複数のマイクロLEDをピックアンドプレイス工程により、1つずつ回路基板に配置する手法がとられていた。このような製造方法では、ピックアンドプレイス工程を数万回以上繰り返す必要があるため、工程に時間がかかり、製造コストが上昇してしまう。
【0004】
特許文献1には、粘着スタンプ等の一時保持部材を用いて、1回のピックアンドプレイス工程で複数の素子をターゲット基板に転写する方法が開示されている。したがって、工程に要する時間を短縮し製造コストを削減することができる。
【0005】
ところで、このような保持部材が素子を保持するための粘着力が弱い場合、保持された素子が保持部材から脱落することで、ターゲット基板の所望の位置に素子が転写されず、動作不具合が生じ得る。そのため、保持部材は素子を保持するための粘着力を強くすることが求められる。一方で、保持部材が素子を保持するための粘着力が強すぎる場合、保持された素子がターゲット基板上に転写されず、保持部材に保持されたまま残ってしまう。これにより、ターゲット基板の所望の位置に素子が転写されず、動作不具合が生じる。また、保持部材に素子が残ったままピックアンドプレイス工程を進めると、基板上の素子と保持部材に残った素子が衝突してしまい、素子が破損してしまう。
【0006】
そのため、特許文献1には、プラズマ処理により素子の転写を容易にさせる方法又は、熱処理により保持部材の粘着力を低減させることで素子の転写を容易にする方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている従来技術では、プラズマを発生させる高価な装置が必要であり、プラズマ処理中の光学素子の脱落が生じ得る。また、熱処理による光学素子、保持部材及びターゲット基板の熱膨張係数の違いにより、所望の位置に転写されない。つまり、素子とターゲット基板の相対的な位置ズレが生じ得る。
【0009】
本開示の非限定的な実施例は、簡易な構成で素子の脱落及び保持部材への残存を防止するとともに、素子とターゲット基板の位置ズレを抑制し、高精度な転写を実現できる素子の転写方法及び素子転写装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る素子の転写方法は、
ソース基板上の素子とスタンプとの位置をアライメントし、
前記ソース基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプの粘着力で前記スタンプにピックアップし、
前記スタンプを保持するスタンプヘッドに設けられた入れ子状の押圧体に少なくとも1つ以上の突起を有する押圧ピンを接触させることで前記スタンプの前記粘着力を低減させ、
ターゲット基板と前記素子との位置をアライメントし、
前記ターゲット基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプから前記ターゲット基板に転写する。
【0011】
本開示の一態様に係る素子転写装置は、
素子が形成されたソース基板を設置するソース基板設置台と、
ターゲット基板を設置するターゲット基板設置台と、
前記素子を粘着力でピックアップ可能なスタンプを有するスタンプヘッドと、
前記スタンプが前記ソース基板設置台と前記ターゲット基板設置台とにそれぞれ対向可能に前記スタンプヘッドを保持するフレームと、
前記スタンプに対する前記ソース基板と前記ターゲット基板との位置をそれぞれ調整可能とするとともに前記ソース基板と前記スタンプとを相対的に接近離間可能にかつ前記ターゲット基板と前記スタンプとを相対的に接近離間可能な基板位置調整機構と、
前記素子と前記スタンプとを撮像するとともに前記素子と前記ターゲット基板とを撮像することにより前記素子と前記スタンプとの位置ズレ量及び前記素子と前記ターゲット基板との位置ズレ量をそれぞれ検出可能とする撮像部と、
前記スタンプヘッドに設けられた入れ子状の押圧体に少なくとも1つ以上の突起が押圧可能な押圧ピンと、
前記スタンプヘッドの前記押圧体に対する前記押圧ピンの位置を調整する押圧ピン調整機構と、
前記素子と前記スタンプとの接触を検知するとともに前記素子と前記ソース基板との接触を検知する接触検知部と、
前記位置ズレ量が減少するように前記基板位置調整機構を制御し、前記スタンプヘッドの前記押圧体に対して前記押圧ピンの押圧及び押圧解除するように前記押圧ピン調整機構を制御し、前記ソース基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプの粘着力で前記スタンプにピックアップするとともに、前記ターゲット基板と前記スタンプとを相対的に接近離間させて前記素子を前記スタンプから前記ターゲット基板に転写するように前記基板位置調整機構を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示の前記態様によれば、押圧体と突起との簡易な構成でスタンプからの素子の脱落及び残存を防止するとともに、素子とターゲット基板の位置ズレを抑制し、高精度な転写を実現できる素子の転写方法及び素子転写装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施の形態に係る素子転写装置の構成例を示す図
【
図2】本開示の実施の形態に係る素子転写装置のスタンプヘッド及び押圧ピンを示す図
【
図3】本開示の実施の形態に係る素子の転写方法を示すフローチャート
【
図4A】本開示の実施の形態に係る素子の転写方法を説明するための図
【
図4B】本開示の実施の形態に係る素子の転写方法を説明するための図
【
図4C】本開示の実施の形態に係る素子の転写方法を説明するための図
【
図4D】本開示の実施の形態に係る素子の転写方法を説明するための図
【
図4E】本開示の実施の形態に係る素子の転写方法を説明するための図
【
図4F】本開示の実施の形態に係る素子の転写方法を説明するための図
【
図4G】本開示の実施の形態に係る素子の転写方法を説明するための図
【
図4H】本開示の実施の形態に係る素子の転写方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。以下の図において、それぞれに示される構成部材の形状、厚み、又は長さなどは、図面の作成上、実際の構成部材の形状、厚み、又は長さなどと異なる。さらに、各構成部材の材質は、本実施の形態に記載される材質に限定されるものではない。
【0015】
図1以降において、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向を表す。X軸方向とY軸方向は、互いに直交する。X軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。Y軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。XY平面は、X軸方向及びY軸方向に平行な仮想平面を表す。XZ平面は、X軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面を表す。YZ平面は、Y軸方向及びZ軸方向に平行な仮想平面を表す。また、
図1以降において、X軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスX軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスX軸方向とする。また、
図1以降において、Y軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスY軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスY軸方向とする。また、
図1以降において、Z軸方向のうち、矢印で示す方向はプラスZ軸方向とし、当該方向とは逆の方向はマイナスZ軸方向とする。Z軸方向は、例えば鉛直方向、又は上下方向に等しく、X軸方向及びY軸方向は、例えば水平方向又は左右方向に等しい。
【0016】
[実施の形態1]
<素子転写装置>
まず、
図1及び
図2を参照して、本開示の実施の形態に係る素子転写装置D1について説明する。
図1は、本開示の実施の形態に係る素子転写装置D1の構成例を示す図であり、
図2は本開示の実施の形態に係る素子転写装置D1のスタンプヘッド30及び押圧ピン70を示す図である。
【0017】
素子転写装置D1は、ソース基板設置台11、ターゲット基板設置台21、スタンプヘッド30、フレーム40、基板位置調整機構51、撮像部60、撮像部調整機構61、押圧ピン70、押圧ピン調整機構74、接触検知部80、及び制御部C1を少なくとも備えている。素子転写装置D1は、ソース基板1から素子10をスタンプ3の粘着力でピックアップし、粘着力を低減したのち、スタンプ3の素子10をターゲット基板2に転写するものである。
【0018】
ソース基板設置台11は、一例として四角形板状の、ソース基板1を設置する台である。ソース基板設置台11は、ソース基板1を設置できるものであればよく、その種類は問わない。ソース基板設置台11は、例えばソース基板1を吸着させるための吸着孔を設けて、吸着孔に負圧を与えることでソース基板1をソース基板設置台11に密着させてもよい。
【0019】
ここで、ソース基板1は、一例として四角形板状の部材であって、その表面に素子10が形成されている。素子10は、例えば、CMOSプロセスによりソース基板1上に形成された光学素子である。素子10の形成方法は、所望の性能が得られる手法で形成されていればよく、その種類は問わない。ソース基板1及び素子10は、スタンプ3によりソース基板1からピックアップされる際に、スタンプ3と素子10との位置合わせを行う目的で、アライメントマークが形成されていてもよい。
【0020】
ターゲット基板設置台21は、一例として四角形板状の、ターゲット基板2を設置する台である。ターゲット基板設置台21は、ターゲット基板2を設置できるものであればよく、その種類は問わない。ターゲット基板設置台21は、例えばターゲット基板2を吸着させるための吸着孔を設けて、吸着孔に負圧を与えることでターゲット基板2をターゲット基板設置台21に密着させてもよい。
【0021】
ここで、ターゲット基板2は、一例として四角形板状の部材であって、その表面に、ソース基板1に形成された素子10が転写される基板である。ターゲット基板2は、素子10が転写された際に、所望の性能が得られるように、不図示の電気回路又は光回路が形成されていてもよい。ターゲット基板2は、素子10をソース基板1からピックアップして転写する際に、素子10とターゲット基板2との位置合わせを行う目的で、アライメントマークを設けていてもよい。
【0022】
スタンプヘッド30は、フレーム40の天板40bの中央部の貫通穴40aの下面に保持され、スタンプ3を保持するための、一例として四角形板状の台である。スタンプヘッド30は、例えば側面T字状の、言い換えれば、中央部3aが下向きに四角形板状に突出した四角形板状のスタンプ3を保持できるものであればよく、その種類は問わない。スタンプヘッド30は、例えばスタンプ3を吸着させるための吸着孔を設けて、吸着孔に負圧を与えることでスタンプ3をスタンプヘッド30に密着させてもよい。
【0023】
ここで、スタンプ3は、粘弾性を有し、その粘弾性すなわち粘着力で、ソース基板1に形成された素子10をスタンプ3の中央部3aによりピックアップし、ターゲット基板2の所望の位置に素子10を転写するための部材である。スタンプ3は、粘弾性を有する、シリコーンゴムなどである。スタンプ3は、粘弾性を有するものであればよく、その種類を問わない。但し、スタンプ3を、透明とすることにより、後述する撮像部60で撮像するときZ軸方向上方からスタンプ3と素子10との位置、又は、スタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2との位置を同時に観察することができる。スタンプ3は、突出した中央部3aのように、素子10と相対する面に素子10とX軸方向及びY軸方向に同じ大きさの凸構造を設けてもよい。これにより、素子10とスタンプ3とが接触する際に、ソース基板1に形成されている他の素子のピックアップを防止することができる。スタンプ3の凸構造は、素子10とX軸方向及びY軸方向に同じ大きさに限らず、素子10よりもX軸方向及びY軸方向に大きい寸法でもよいし、素子10よりもX軸方向及びY軸方向に小さい寸法でもよい。スタンプ3の凸構造のZ軸方向の寸法は、素子10のZ軸方向の寸法の2倍以上の寸法にすることで、素子10とスタンプ3とが接触する際に、他の素子のピックアップを容易に防止することができる。
【0024】
図2に示すように、スタンプヘッド30は、押圧体の例として、第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33を備えている。第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33は、例えばスタンプヘッド30とZ軸方向の寸法が同じでかつスタンプヘッド30内に入れ子状に備わっている部材である。すなわち、スタンプヘッド30内の中央に四角柱状の第一押圧体31がZ軸方向に上下可能に配置されている。第一押圧体31の外側に四角筒状の第二押圧体32がZ軸方向に上下可能に配置されている。第二押圧体32の外側に四角筒状の第三押圧体33がZ軸方向に上下可能に配置されている。第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33は、それぞれ、独立してZ軸方向に上下可能となっている。第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33の3個の部材の下端にはスタンプ3の中央部3aが配置されて、第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33がZ軸方向の下方に下降すると、スタンプ3の中央部3aが下向き凸に弾性変形可能としている。
【0025】
第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33は、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルエポキシ樹脂、又は、シリコン樹脂などでそれぞれ形成されている。第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33は、スタンプヘッド30に入れ子状に備えられていればよく、その種類又は形状は問わない。但し、第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33を透明とすることにより、後述する撮像部60で撮像するとき、Z軸方向の上方からスタンプ3と素子10との位置又はスタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2との位置をそれぞれ同時に観察することができる。第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33のX軸方向及びY軸方向の幅は、第一押圧体31から第三押圧体33に向けて順に小さくなるように設けられている。押圧体は、1つのみ設けられていてもよいが、押圧体を複数設けることにより、後述する押圧ピン70により、押圧された際に、素子10を保持しているスタンプ3の変形量が押圧ピン70により押圧された中心から外側に向かってなだらかに変化させるようにすることができ、スタンプ3の変形による素子10の脱落を防止することができる。また、押圧体はスタンプヘッド30のXY平面内に複数設けられていてもよい。
【0026】
フレーム40は、下向きC字状の部材であって、スタンプヘッド30を天板40bの中央部の貫通穴40aの下面の位置に保持している。フレーム40の貫通穴40aの上方には、後述する撮像部60を配置し、撮像部60で貫通穴40aの下方のスタンプヘッド30側を撮像することにより、Z軸方向上方からスタンプ3と素子10との相対位置又はスタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2との相対位置をそれぞれ観察できるようにしている。フレーム40の材質は、ステンレスなどである。
【0027】
基板ステージ50は、フレーム40の天板40bの下方に配置された台であり、基板位置調整機構51で支持されている。基板ステージ50の上面には、ソース基板設置台11及びターゲット基板設置台21が設置されている。基板ステージ50は、ソース基板設置台11及びターゲット基板設置台21と一体となっていてもよいし、別部材としてねじなどでソース基板設置台11及びターゲット基板設置台21が固定されていてもよい。
【0028】
基板位置調整機構51は、基板ステージ50の位置をX軸方向及びY軸方向及びZ軸方向に調整するための可動ステージである。具体的には、ピックアップ時に基板ステージ50上のソース基板設置台11に設置されたソース基板1の素子10とスタンプ3とのX軸方向及びY軸方向の相対位置がおおよそ一致するように基板位置調整機構51により基板ステージ50の位置をX軸方向及びY軸方向に調整可能とする。また、転写時に基板ステージ50上のターゲット基板設置台21に設置されたターゲット基板2と、スタンプ3にピックアップされた素子10とのX軸方向及びY軸方向の相対位置がおおよそ一致するように基板位置調整機構51により基板ステージ50の位置をX軸方向及びY軸方向に調整可能とする。さらに、基板位置調整機構51は、ピックアップ時に基板ステージ50上のソース基板設置台11に設置されたソース基板1の素子10とスタンプ3とが接触及び離間してピックアップ動作ができるように基板ステージ50のZ軸方向の位置を制御する。また、基板位置調整機構51は、転写時に基板ステージ50上のターゲット基板設置台21に設置されたターゲット基板2と、スタンプ3にピックアップされた素子10とが接触及び離間して転写動作ができるように基板ステージ50のZ軸方向の位置を制御する。基板位置調整機構51は、例えばリニアボールガイドを用いた直動ステージ、ゴニオステージなどを組み合わせることで実現される。
【0029】
基板ステージ50の位置調整のときの位置ズレ検出には、後述する撮像部60が用いられる。基板位置調整機構51は、少なくともそれぞれ互いに異なる4軸方向に可動できるように構成されている。4軸方向には、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向とZ軸回りの回転方向とが含まれる。これにより、後述する素子の転写方法における各工程で、細かな動作を実現できるため、転写精度が向上し、高品質な転写を実現できる。なお、基板位置調整機構51の可動方向は、X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向と、これらの各軸を中心とする回転方向の6軸であってもよい。基板位置調整機構51には、不図示のモータ及び不図示のエンコーダが設けられ、不図示のエンコーダによって検出される位置情報は、制御部C1に入力される。
【0030】
撮像部60は、フレーム40の貫通穴40aの上方に上下方向沿いに配置され、スタンプ3とソース基板1上の素子10とを撮像するとともに、スタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2とを撮像することにより、スタンプ3とソース基板1上の素子10との位置ズレ量及びスタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2との位置ズレ量をそれぞれ検出可能とするユニットである。撮像部60は、例えば、レンズとカメラで構成されており、カメラで撮像した情報が制御部C1に入力され、制御部C1の演算部C2で位置ズレ量を算出している。
【0031】
撮像部調整機構61は、撮像部60の位置を調整するための可動ステージである。具体的には、ピックアップ時にスタンプ3とソース基板1上の素子10とが撮像部60で観察できるとともに、転写時にスタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2が撮像部60で観察できる位置に、撮像部60の位置をそれぞれ調整する。撮像部調整機構61は、例えばリニアボールガイドを用いた直動ステージなどを組み合わせることで実現される。撮像部調整機構61は、少なくともそれぞれ互いに異なる3軸方向に可動できるように構成されている。3軸方向には、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向が含まれる。撮像部調整機構61には、不図示のモータ及び不図示のエンコーダが設けられ、不図示のエンコーダによって検出される位置情報は、制御部C1に入力される。
【0032】
押圧ピン70は、フレーム40の貫通穴40aの上方に上下方向沿いに配置され、スタンプヘッド30に設けられた入れ子状の第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33を押圧する部材である。押圧ピン70は、入れ子状の第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33をそれぞれ押圧するために、例えば、四角形板状の第一突起71、四角形板状の第二突起72、及び四角形板状の第三突起73の多段構造を備えている。すなわち、一例として、第一突起71が第一押圧体31の上面にのみ接触押圧可能に配置され、第二突起72が第二押圧体32の上面にのみ接触押圧可能に配置され、第三突起73が第三押圧体33の上面にのみ接触押圧可能に配置されている。第一突起71、第二突起72、及び第三突起73は、押圧ピン本体70aの下端面に、第三突起73の下端面、第二突起72の下端面、第一突起71の下端面の順に下向きに突出するように固定されている。
【0033】
押圧ピン70の第一突起71のX軸方向とY軸方向の寸法は、第一押圧体31のX軸方向とY軸方向の寸法と同じか僅かに小さく設けられている。また、押圧ピン70の第二突起72のX軸方向とY軸方向の寸法は、第二押圧体32のX軸方向とY軸方向の寸法と同じか僅かに小さく設けられている。また、押圧ピン70の第三突起73のX軸方向とY軸方向の寸法は、第三押圧体33のX軸方向とY軸方向の寸法と同じか僅かに小さく設けられている。各突起の寸法を各押圧体の寸法よりも僅かに小さくすることで、後述する押圧ピン調整機構74により行われる押圧ピン70の位置の調整が容易になる。押圧ピン70の第一突起71、第二突起72、及び第三突起73のZ軸方向の寸法は、徐々に小さくなるように設けられている。つまり、第一突起71、第二突起72、及び第三突起73のZ軸方向の寸法は、第一突起71が最も大きく、第三突起73が最も小さくなるように設けられている。また、第一突起71、第二突起72、及び第三突起73のZ軸方向の寸法は、1[μm]~5[mm]の間で設計される。押圧ピン70は、スタンプヘッド30に設けられた入れ子状の第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33を押圧できるものであればよく、その種類又は形状は問わないが、例えばステンレスを切削加工することにより得ることができる。また、押圧ピン70は、スタンプヘッド30のXY平面内に複数の押圧体が設けられている場合、同数の押圧ピン70を設けてもよい。
【0034】
押圧ピン調整機構74は、押圧ピン70の位置をX軸方向及びY軸方向及びZ軸方向に調整するための可動ステージである。具体的には、押圧ピン調整機構74は、スタンプ3に素子10がピックアップされた状態において、押圧ピン70をスタンプヘッド30に設けられている第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33のX軸方向及びY軸方向の位置に調整するとともに、押圧ピン70をZ軸方向下方に移動させる。押圧ピン70をZ軸方向下方に移動させることで、押圧ピン70がスタンプヘッド30に設けられている第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33を押圧し、スタンプ3に弾性変形が生じるとともに、スタンプ3と素子10の接触面積が減少し、スタンプ3と素子10に働く粘着力を低減させることができる。また、押圧ピン調整機構74は、素子10がターゲット基板2に転写され、基板位置調整機構51により、ターゲット基板2とスタンプ3が離間した状態において、押圧ピン70をZ軸方向上方に移動させる。これにより、押圧ピン70によって押圧されていたスタンプヘッド30に設けられている第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33から、下向きに押圧する外力が取り除かれ、スタンプ3が弾性変形状態から元の状態すなわち非変形状態に戻るとともに、スタンプ3の復元力に伴って、第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33も元の位置に移動する。押圧ピン調整機構74は、例えばリニアボールガイドを用いた直動ステージ、ゴニオステージなどを組み合わせることで実現される。押圧ピン調整機構74は、少なくともそれぞれ互いに異なる3軸方向に可動できるように構成されている。3軸方向には、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向が含まれる。なお、押圧ピン調整機構74の可動方向は、X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向と、これらの各軸を中心とする回転方向の6軸であってもよい。押圧ピン調整機構74の可動方向が6軸の場合、押圧ピン70の細かな動作を実現できるため、押圧ピン70の位置決め精度が向上し、スタンプヘッド30に設けられている第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33を確実に押圧することができる。押圧ピン調整機構74には、不図示のモータ及び不図示のエンコーダが設けられ、不図示のエンコーダによって検出される位置情報は、制御部C1に入力される。
【0035】
接触検知部80は、スタンプヘッド30とフレーム40との間に配置されて、スタンプ3の接触を検知するセンサである。具体的には、例えば、ピックアップ時にスタンプ3とソース基板1上の素子10との接触、及び、転写時にスタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2との接触をそれぞれ検知する。接触検知部80は、例えば、圧電式の力センサである。接触検知部80で測定された電圧及び力情報は、制御部C1に入力される。接触検知部80で検知した力情報を制御部C1でモニタすることにより、素子10への過剰な圧力付与を制御部C1で検知することができるため、素子10の破損を防止することができる。
【0036】
制御部C1は、素子転写装置D1を構成する部材の動作を制御する、マイクロコンピュータなどであり、各種の演算、例えば、撮像した情報からの位置ズレ量の算出などを実行する演算部C2を有している。制御部C1は、撮像部60で撮像することにより、ピックアップ時にスタンプ3とソース基板1上の素子10とが観察できるとともに転写時にスタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2とが観察できるように撮像部調整機構61をそれぞれ制御する。また、制御部C1は、ピックアップ時に撮像部60で検出されたスタンプ3と素子10とのX軸方向及びY軸方向の位置ズレ量、及び、転写時にスタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2とのX軸方向及びY軸方向の位置ズレ量がそれぞれ限りなく0に近づくように、基板位置調整機構51をそれぞれ制御する。また、制御部C1は、粘着力低減時にスタンプ3に素子10がピックアップされた状態において、押圧ピン70とスタンプヘッド30に設けられている第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33のX軸方向、及びY軸方向の相対位置が限りなく0に近づくように、押圧ピン調整機構74を制御する。また、制御部C1は、粘着力低減時に前述の押圧ピン70の位置が調整された状態において、押圧ピン70をZ軸方向に移動するように押圧ピン調整機構74を制御する。また、制御部C1は、接触検知部80で検知された力情報により、ピックアップ時にスタンプ3とソース基板1上の素子10との接触、及び、転写時にスタンプ3にピックアップされた素子10とターゲット基板2との接触を検知し、基板位置調整機構51をそれぞれ制御する。
【0037】
<素子の転写方法>
次に、素子10の転写方法は、少なくとも、以下のステップS101~S105で実施される。
【0038】
まず、ステップS101において、撮像部60で撮像した情報を基に制御部C1により基板位置調整機構51を動作制御して、ソース基板1上の素子10とスタンプ3の位置をアライメントする(下記のステップS10に対応)。
【0039】
次いで、ステップS102において、制御部C1により基板位置調整機構51を動作制御して、ソース基板1とスタンプ3とを相対的に接近離間させて素子10をスタンプ3の粘着力でスタンプ3にピックアップする(下記のステップS20、S21、S30に対応)。
【0040】
次いで、ステップS103において、制御部C1により押圧ピン調整機構74を動作制御して、スタンプヘッド30に設けられた入れ子状の押圧体31,32,33に少なくとも1つ以上の突起71,72,73を有する押圧ピン70を接触させてスタンプ3を弾性変形させ、素子10とスタンプ3との接触面積を減らすことで、スタンプ3の粘着力を低減させる(下記のステップS40に対応)。
【0041】
次いで、ステップS104において、撮像部60で撮像した情報を基に制御部C1により基板位置調整機構51を動作制御して、ターゲット基板2と素子10の位置をアライメントする(下記のステップS50に対応)。
【0042】
次いで、ステップS105において、制御部C1により基板位置調整機構51を動作制御して、ターゲット基板2とスタンプ33とを相対的に接近離間させて素子10をスタンプ3からターゲット基板2に転写する(下記のステップS60、S61、S70に対応)。
【0043】
これらのステップについて、以下に詳しく説明する。
【0044】
【0045】
まず、
図4Aに示すように、素子10とスタンプ3とのアライメント動作を実行する(ステップS10)。ステップS10では、ソース基板1がソース基板設置台11に設置され、ターゲット基板2がターゲット基板設置台21に設置されている。
【0046】
ここで、アライメント動作とは、制御部C1により基板位置調整機構51を動作制御して、基板ステージ50をXY平面における所定の位置に移動させることである。ステップS10において所定の位置とは、例えば、XY平面におけるソース基板1上の素子10とスタンプ3の位置が一致する基板ステージ50の位置である。ここで、素子10とスタンプ3の位置が一致するとは、アライメントマークが互いに一致するか、又は外形が互いに一致する場合などを意味する。従って、ステップS10では、撮像部60により、ソース基板1上の素子10とスタンプ3とを撮像して、撮像した情報を基に所定の位置に対するソース基板1上の素子10とスタンプ3の位置ズレ量を演算部C2で算出することにより検出し、検出した位置ズレ量を基に、位置ズレ量が小さくなるように制御部C1での制御の下に基板位置調整機構51によって、基板ステージ50の位置が調整される。基板ステージ50の位置が調整されることで、ソース基板1の位置が調整されるとともに、ソース基板1上の素子10の位置が調整される。また、撮像部60の位置の調整が必要な場合は、制御部C1での制御の下に撮像部調整機構61により撮像部60の位置の調整が行われてもよい。ステップS10の動作による、基板位置調整機構51の位置調整精度は、ナノメートルオーダーである。なお、ステップS10の動作における位置調整の精度は、ナノメートルオーダーに限定されず、マイクロメートルオーダーとなるように実行されてもよい。
図4Aは、素子10とスタンプ3のアライメント動作が完了した状態が示されている。
【0047】
次に、
図4Bに示すように、基板ステージ50を上昇する(ステップS20)。基板ステージ50の上昇には、制御部C1の制御の下に基板位置調整機構51が用いられる。基板ステージ50の上昇に伴い、ソース基板1上の素子10とスタンプ3のZ軸方向の距離が小さくなる。基板ステージ50の上昇開始後、接触検知部80での検知情報を基に制御部C1で接触検知部80が素子10とスタンプ3の接触を検知していないと判断した場合(ステップS21、NO)、制御部C1の制御の下に基板位置調整機構51により基板ステージ50は上昇し続ける。接触検知部80での検知情報を基に制御部C1で接触検知部80が素子10とスタンプ3との接触を検知したと判断した場合(ステップS21、YES)、制御部C1の制御の下に基板位置調整機構51により基板ステージ50の上昇は停止する。接触検知部80により接触したと判断する閾値は、素子10及びスタンプ3の物性及び形状等により適切に設定される。例えば、接触検知部80に圧電式の力センサを用いる場合、接触したと判断する閾値は、1[nN]~10[N]である。ステップS20において、制御部C1の制御の下に基板位置調整機構51による基板ステージ50の上昇速度は、例えば、1[nm/sec]~1000[um/sec]である。なお、接触検知部80で接触したと判断する閾値を低くする、また基板ステージ50の上昇速度を低速にすることで、基板ステージ50の過剰な上昇を抑制することができるため、素子10の破損を防止することができる。
図4Bは、基板ステージ50が上昇し、素子10とスタンプ3が接触した状態が示されている。
【0048】
次に、
図4Cに示すように、基板ステージ50を降下する(ステップS30)。基板ステージ50の降下には、制御部C1の制御の下に基板位置調整機構51が用いられる。素子10とスタンプ3が接触した状態で、制御部C1の制御の下に基板ステージ50を降下することで、スタンプ3の粘着力により、素子10がソース基板1から剥がれ、スタンプ3にピックアップされる。ここで、スタンプ3の粘着力は、素子10及び後述するターゲット基板2の物性等によって適切に選択される。ステップS30において、制御部C1の制御の下での基板位置調整機構51による基板ステージ50の降下速度は、例えば、10[μm/sec]~1000[mm/sec]である。スタンプ3のような粘弾性材料の粘着力は、一部の速度領域においては、引き剥がしの速度に依存して大きくなることが知られている。従って、素子10とスタンプ3とが接触した状態で、基板ステージ50の降下する速度を速くするほど、スタンプ3の粘着力は高くなり、素子10をソース基板1から剥がす力が強くなる。つまり、素子10をスタンプ3に容易にピックアップできる。
図4Cは、素子10とスタンプ3の接触検知後、上昇していた基板ステージ50を降下した状態が示されている。
【0049】
次に、
図4Dに示すように、押圧ピン70を降下する(ステップS40)。ステップS40では、押圧ピン70が、撮像部60により取得した位置情報を基に、制御部C1により押圧ピン調整機構74を動作制御して、適切な位置に移動している。ここで適切な位置とは、例えば、XY平面上における押圧ピン70の中心位置が、スタンプヘッド30に設けられた、第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33の中心位置と一致する押圧ピン70の位置である。押圧ピン70の移動及び降下には、制御部C1の制御の下に押圧ピン調整機構74が用いられる。押圧ピン70が降下すると、押圧ピン70に設けられた第一突起71、第二突起72、及び第三突起73により、スタンプヘッド30に設けられた、第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33がそれぞれ押圧され、Z軸方向の下方へ移動する。第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33がZ軸方向の下方へ移動すると、スタンプ3にZ軸方向の下向きに凸となるような弾性変形が生じて、素子10とスタンプ3の接触面積が減少し、素子10とスタンプ3に働く粘着力を低減させることができる。
図4Dは、押圧ピン70が降下した状態が示されている。
【0050】
次に、
図4Eに示すように、素子10とターゲット基板2のアライメント動作を実行する(ステップS50)。ここで、アライメント動作とは、制御部C1により基板位置調整機構51を動作制御して、基板ステージ50をXY平面における所定の位置に移動させることである。ステップS50において所定の位置とは、例えば、XY平面におけるターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10の位置が一致する基板ステージ50の位置である。ここで、ターゲット基板2と素子10の位置が一致するとは、アライメントマークが互いに一致するか、又は外形が互いに一致する場合などを意味する。従って、ステップS50では、撮像部60により、ターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10とを撮像して、撮像した情報を基に所定の位置に対するターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10との位置ズレ量を演算部C2で算出することにより検出し、検出した位置ズレ量を基に、位置ズレ量が小さくなるように制御部C1での制御の下に基板位置調整機構51によって、基板ステージ50の位置が調整される。基板ステージ50の位置が調整されることで、ターゲット基板2の位置が調整される。また、撮像部60の位置の調整が必要な場合は、制御部C1での制御の下に撮像部調整機構61により撮像部60の位置の調整が行われてもよい。ステップS50の動作による、基板位置調整機構51の位置調整精度は、ナノメートルオーダーである。なお、ステップS50の動作における位置調整の精度は、ナノメートルオーダーに限定されず、マイクロメートルオーダーとなるように実行されてもよい。
図4Eは、ターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10のアライメント動作が完了した状態が示されている。
【0051】
次に、
図4Fに示すように、基板ステージ50を上昇する(ステップS60)。基板ステージ50の上昇に伴い、ターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10のZ軸方向の距離が小さくなる。基板ステージ50の上昇開始後、接触検知部80での検知情報を基に制御部C1で接触検知部80がターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10の接触を検知していないと判断した場合(ステップS60、NO)、制御部C1の制御の下に基板位置調整機構51により基板ステージ50は上昇し続ける。接触検知部80での検知情報を基に制御部C1で接触検知部80がターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10の接触を検知したと判断した場合(ステップS60、YES)、制御部C1の制御の下に基板位置調整機構51により基板ステージ50の上昇は停止する。接触検知部80により接触したと判断する閾値は、ターゲット基板2、スタンプ3、及び素子10の機械的物性及び形状等により適切に設定される。例えば、接触検知部80に圧電式の力センサを用いる場合、接触したと判断する閾値は、1[nN]~10[N]である。ステップS60において、基板位置調整機構51による基板ステージ50の上昇速度は、例えば、1[nm/sec]~1000[um/sec]である。なお、接触検知部80で接触したと判断する閾値を低くする、また基板ステージ50の上昇速度を低速にすることで、基板ステージ50の過剰な上昇を抑制することができるため、素子10の破損を防止することができる。
図4Fは、基板ステージ50が上昇し、ターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10が接触した状態が示されている。
【0052】
次に、
図4Gに示すように、基板ステージ50を降下する(ステップS70)。制御部C1の制御の下に、ターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10が接触した状態で、基板ステージ50を降下することで、ターゲット基板2と素子10に働くファンデルワールス力により、素子10がスタンプ3から剥がれ、ターゲット基板2に転写される。ステップS40において、素子10とスタンプ3に働く粘着力を低減させているため、ターゲット基板2と素子10に働く力が弱い場合であっても、確実に転写することができる。ステップS70において、基板位置調整機構51による基板ステージ50の降下速度は、例えば、1[nm/sec]~100[μm/sec]である。スタンプ3のような粘弾性材料の粘着力は、一部の速度領域においては、引き剥がしの速度に依存して大きくなることが知られている。従って、ターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10が接触した状態で、基板ステージ50を降下する速度を遅くするほど、スタンプ3の粘着力は弱くなり、スタンプ3が素子10を保持できる力が弱くなる。但し、降下速度の効果は限定的なものであるため、ステップS40において、素子10とスタンプ3に働く粘着力を低減させていることでターゲット基板2に素子10を確実に転写できる。
図4Gは、ターゲット基板2とスタンプ3にピックアップされた素子10の接触検知後、上昇していた基板ステージ50を降下した状態が示されている。
【0053】
次に、
図4Hに示すように、押圧ピン70を上昇する(ステップS80)。制御部C1により押圧ピン調整機構74を動作制御して、押圧ピン70が上昇すると、押圧ピン70によって押圧されていたスタンプヘッド30に設けられている第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33から外力が取り除かれ、スタンプ3が弾性変形状態(例えばZ軸方向の下向きに凸の状態)から元の状態(例えばZ軸方向の下向きの凸が無い状態)に戻るとともに、スタンプ3の復元力に伴って、第一押圧体31、第二押圧体32、及び第三押圧体33も元の位置に移動する。
図4Hは、降下していた押圧ピン70を上昇した状態が示されている。
【0054】
以上の工程により、素子10の転写が実現される。
【0055】
前述の通り、素子10の転写において、ステップS40においてスタンプヘッド30に設けられた入れ子状の押圧体31,32,33に少なくとも1つ以上の突起71,72,73を有する押圧ピン70を接触させてスタンプ3を弾性変形させて素子10とスタンプ3との接触面積を減らすことにより、素子10とスタンプ3に働く粘着力を低減させたのちに、ターゲット基板2と素子10とのアライメントを行っている。このため、ターゲット基板2に素子10を容易且つ高精度に転写することができる。
【0056】
よって、前記実施の形態によれば、プラズマ処理も熱処理も不要で、押圧体31,32,33と突起71,72,73との簡易な構成でスタンプ3からの素子10の脱落及び残存を防止するとともに、素子10とターゲット基板2の位置ズレを抑制し、高精度な転写を実現することができる。
【0057】
また、スタンプヘッド30に、入れ子状の複数の押圧体31,32,33を設けることで、ステップS40により素子10とスタンプ3に働く粘着力を低減させる際に、素子10の脱落を防止することができる。
【0058】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【0059】
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形又は修正は明白である。そのような変形又は修正は、添付した特許請求の範囲による本開示の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。また、実施形態における要素の組み合わせ又は順序の変化は、本開示の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示の一実施例は、素子の転写方法及び素子転写装置に好適に利用できる。また、本開示の前記態様に係る素子の転写方法及び素子転写装置は、光学素子をターゲット基板に高精度に転写できるため、マイクロLEDディスプレイ又は、シリコンフォトニクスに代表される高速光通信及びレーザ光を用いた高精度センシング等の分野で応用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 ソース基板
2 ターゲット基板
3 スタンプ
3a 中央部
10 素子
11 ソース基板設置台
21 ターゲット基板設置台
30 スタンプヘッド
31 第一押圧体
32 第二押圧体
33 第三押圧体
40 フレーム
40a 貫通穴
40b 天板
50 基板ステージ
51 基板位置調整機構
60 撮像部
61 撮像部調整機構
70 押圧ピン
70a 押圧ピン本体
71 第一突起
72 第二突起
73 第三突起
74 押圧ピン調整機構
80 接触検知部
C1 制御部
C2 演算部
D1 素子転写装置