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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160561
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】光学部材の製造方法及び光学部品
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/113 20150101AFI20241107BHJP
【FI】
G02B1/113
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075695
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】523164160
【氏名又は名称】KOIDE JAPAN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180275
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 倫太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161861
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194836
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 優一
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】中田 雄己
(72)【発明者】
【氏名】栗原 勉
(72)【発明者】
【氏名】関根 康弘
【テーマコード(参考)】
2K009
【Fターム(参考)】
2K009AA04
2K009AA12
2K009BB11
2K009CC03
2K009DD04
2K009DD17
(57)【要約】
【課題】合成樹脂の基材表面に形成された微細凹凸構造に保護膜を形成して、高温環境下で反射防止効果の高い光学部品を製造する。
【解決手段】本開示に係る光学部品の製造方法は、イオン照射により基材の表面を変化させて、基材の表面に微細凹凸構造を形成する微細凹凸構造形成工程と、蒸着材を蒸発させ、基材の表面に蒸着させて、基板の表面に形成された微細凹凸構造に保護膜を形成する保護膜形成工程とを備えることを特徴とする。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン照射により基材の表面を変化させて、前記基材の表面に微細凹凸構造を形成する微細凹凸構造形成工程と、
蒸着材を蒸発させ、前記基材の表面に蒸着させて、前記基板の表面に形成された前記微細凹凸構造に保護膜を形成する保護膜形成工程と
を備えることを特徴とする光学部材の製造方法。
【請求項2】
前記微細凹凸構造形成工程は、減圧した容器内でプラズマを放出し、そのプラズマ雰囲気中でイオン照射することにより、前記基材の表面に前記微細凹凸構造を形成し、
前記保護膜形成工程は、前記微細凹凸構造形成工程と同じ容器内で、酸化シリコンを前記蒸着材とし、真空蒸着により前記基材の表面に酸化シリコンを付着させて、前記基材の表面の前記微細凹凸構造に酸化シリコン膜を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部材の製造方法。
【請求項3】
前記微細凹凸構造形成工程は、減圧した容器内でプラズマを放出して、そのプラズマ雰囲気中でイオン照射することにより、前記基材の表面に前記微細凹凸構造を形成し、
前記保護膜形成工程は、前記微細凹凸構造形成工程と同じ容器内で、有機ケイ素化合物を前記蒸着材とし、化学蒸着により前記有機ケイ素化合物をガス化させて、前記基材の表面の前記微細凹凸構造に酸化シリコン混合膜を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記微細凹凸構造形成工程は、減圧した容器内でプラズマを放出して、そのプラズマ雰囲気中でイオン照射することにより、前記基材の表面に前記微細凹凸構造を形成し、
前記保護膜形成工程は、前記微細凹凸構造形成工程と異なる容器内で、有機ケイ素化合物を前記蒸着材とし、化学蒸着により前記有機ケイ素化合物をガス化させて、前記基材の表面の前記微細凹凸構造に酸化シリコン混合膜を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項5】
前記微細凹凸構造形成工程は、減圧した容器内でプラズマを放出して、そのプラズマ雰囲気中でイオン照射することにより、前記基材の表面に前記微細凹凸構造を形成し、
前記保護膜形成工程は、前記微細凹凸構造形成工程と異なる容器内で、酸化シリコンを前記蒸着材とし、真空蒸着により前記基材の表面に酸化シリコンを付着させて、前記基材の表面の前記微細凹凸構造に酸化シリコン膜を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項6】
前記蒸着材の屈折率は1.6以下の材料であり、波長550nmを照射したときの前記保護膜の光学膜厚がλ/50~λ/16であることを特徴とする請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項7】
前記保護膜形成工程において、波長550nmを照射したときの前記酸化シリコン膜の光学膜厚がλ/50~λ/3であることを特徴とする請求項2又は5に記載の光学部品の製造方法。
【請求項8】
前記保護膜形成工程において、波長550nmを照射したときの前記酸化シリコン混合膜の光学膜厚がλ/50~λ/8であることを特徴とする請求項3又は4に記載の光学部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学部材の製造方法に関し、例えば、プラスチック(合成樹脂)基材の表面に形成した微細凹凸構造に保護膜を形成して、高温環境下で反射防止効果の高い光学部品を製造する方法に適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
透光性に優れたプラスチックは、軽量で機械的強度に優れており、加工性が良くかつ自由にデザイン設計ができることから、特に硝子の代替材料として利用されている。特に光学分野においてプラスチックが用いられており、近年では、自動車のヘッドライト等の幅広い部品にプラスチックが用いられている。
【0003】
現在多く使用されている透明プラスチックとしては、熱可塑性のポリ塩化ビニル(PVC:Polyvinyl Chloride)、ポリスチレン(PS:Polystyrene)、ポリカーボネイト(PC:Polycarbonate)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Poly Methyl Methacrylate))、熱硬化性のポリエチレングリコールビスアリルカーボネイト(CR39)等がある。
【0004】
これらプラスチック類のうち、PMMAは、光学部品として透明性、軽量性、易加工性、耐衝撃性などに優れており、特に光の透過率は他の樹脂と比べて最もよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-15826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いた光学部品の透過性を向上させるため、PMMA基材表面に、表面反射を抑止するための反射防止膜を形成する場合、以下のような課題がある。
【0007】
例えば、民生機器のプロジェクター等の光学分野では、70℃前後の信頼性条件が要求されているため、真空蒸着により、PMMA基材の表面に反射防止膜を成膜することができる。他方、自動車分野の照明システムは、90~100℃の高温対応(以下、高温環境は90~100℃前後の環境を意図する。)が信頼性条件となっているので、基材の線膨張率と反射防止膜の線膨張率との差より、成膜した反射防止膜にひび割れなどが生じてしまうという課題がある。
【0008】
また、自動車のヘッドライトは、当初1枚レンズが使用されているが、複数のレンズを使用して、より高精度なものが要求されている。複数のレンズを使用する場合、収差補正が必要となるのでレンズ枚数が多くなってしまい、それに伴い表面反射も多くなってしまうという課題もある。
【0009】
そこで、本開示は、上述した課題に鑑み、目的の高温環境下で耐熱性があり、光量損失を防ぐことを目的として、ポリメタクリル酸メチル樹脂等の合成樹脂の基材表面に形成された微細凹凸構造に保護膜を形成して、高温環境下で反射防止効果の高い光学部品を製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために、本開示に係る光学部品の製造方法は、(1)イオン照射により基材の表面を変化させて、基材の表面に微細凹凸構造を形成する微細凹凸構造形成工程と、(2)蒸着材を蒸発させ、基材の表面に蒸着させて、基板の表面に形成された微細凹凸構造に保護膜を形成する保護膜形成工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、合成樹脂の基材表面に形成された微細凹凸構造に保護膜を形成して、高温環境下で反射防止効果の高い光学部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】工程Aによる微細な凹凸構造の形成条件と、微細な凹凸構造を有する基材の分光特性を示す図である。
図2】工程Cによる微細な凹凸構造の形成条件と、微細な凹凸構造を有する基材の分光特性を示す図である。
図3】実施例1の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。
図4】実施例2の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。
図5】実施例3の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。
図6】実施例4の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。
図7】実施例5の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。
図8】工程Aで微細な凹凸構造を形成した基材を用いて、高温試験前の基材の分光特性と、高温環境下での基材の分光特性とを示す結果である。
図9】実施例1の基材を用いて、高温試験前の分光特性と、高温環境下での分光特性とを示す結果である。
図10】実施例3の基材を用いて、高温試験前の分光特性と、高温環境下での分光特性とを示す結果である。
図11】実施例1と、他の反射防止膜との反射防止効果の比較結果である。
図12】実施例1と、他の反射防止膜との分光特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(A)実施形態
以下では、本開示の光学薄膜製造方法の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
(A-1)概要
近年、硝子を用いた光学部品の代替として、プラスチックを用いたものの需要が増大している。例えば、光学レンズの表面反射を防止するため、基材の表面に微細な凹凸構造を形成させる方法が知られている。
【0015】
このような微細な凹凸構造の1つとしてモスアイ(蛾の目の表面にある微細な突起を模しているのでMoth-eyeと呼ばれている。)構造と呼ばれるものがある。本開示では、微細な凹凸構造の一例としてモスアイ構造を例示するが、モスアイ構造に限定されるものではない。
【0016】
従来、プラスチック基材の表面にモスアイ構造を形成する方法として、例えば、金型を用いて射出成型により微細な凹凸構造を成形する方法がある。
【0017】
しかし、この方法は、金型から成形品を抜く際に、樹脂が金型に貼り付いい、微細な凹凸構造が壊れてしまうおそれがあり、製品の生産方法としての採用が難しい。
【0018】
また、別の方法として、イオンスパッタリングを利用した方法がある。イオンスパッタリングはイオン照射によって生じる現象の1つであり、PMMAの基材表面をイオン照射することで、表面が改質し、表面形状を変形させる方法がある。従来、例えば、真空蒸着装置にプラズマガンを搭載して、成膜時にイオンを照射し、蒸発分子を活性化し、膜強度を向上させている。
【0019】
本願発明者らは、基材表面に多層膜を成膜(積層)しないで、PMMA基材をイオン照射することで、PMMA基材表面にモスアイ形状(微細な凹凸構造を有する形状)が形成されることを確認し、モスアイ形状を有するPMMA基材の反射防止効果及び分光特性を確認した。
【0020】
PMMAは鎖状結合をしており、C-OOCH3のC-O部分がプラズマにより断絶が行なわれ、モスアイ形状が形成される。実際に、この手法を参考にプラズマガンを使用して、アルゴンガス流量、酸素流量、イオン照射電力の調整などの条件を変えることで、基材表面にモスアイ形状を形成することができた。また、他の手法であるCVD(化学蒸着装置)でも、アルゴンガス流量、酸素流量、高周波電力を調整するプラズマ放電によっても、モスアイを形成することができた。これら基材表面に微細な凹凸構造が形成されることにより、反射防止効果もしくは増透の分光特性効果を確認することができた。
【0021】
しかし、自動車分野で要求されている高温環境下で試験を行なうと、分光特性に変化が生じて、元のレンズの表面反射に戻ってしまい、目的を達成することができない結果となった。これは、高温環境下では、微細凹凸構造であるモスアイ形状が崩れてしまったものと考える。
【0022】
そこで、本願発明者らは、鋭意研究を重ね、従来の多層膜による反射防止膜を基材に成膜(積層)するのではなく、合成樹脂の基板表面の微細な凹凸構造形状(例えば、モスアイ形状)に、膜(保護膜)の応力を発生させない程度の薄い保護膜を形成させることを提案する。
【0023】
その結果、高温環境下で微細な凹凸構造形状を維持させることができ、光学部品の耐熱性を向上させ、表面反射防止機能と分光特性とを確認することができた。
【0024】
保護膜は、微細な凹凸構造を維持させ、耐熱性を向上させた。保護膜の材料は、基材の合成樹脂よりも屈折率が低い酸化シリコンが望ましい。高い屈折率だと光の干渉で反射が増加してしまうので、中間の屈折率の材料が望ましく、例えば、屈折率が1.6以下の材料が良好であり、更に1.65以下が望ましい。波長550nmを照射したときの保護膜の光学膜厚がλ/50~λ/16であることが望ましい。
【0025】
保護膜は、基材表面の反射を抑制する反射防止膜として機能し、これに加えて光の波長を分波する分光特性を有する。さらに、保護膜は、高温環境下でも、微細な凹凸構造の形状を維持する膜として機能する。本開示では保護膜が、酸化シリコン(SiO)膜、又は酸化シリコン混合(SiOx)膜である場合を例示するが、これに限定されない。
【0026】
(A-2)光学薄膜製造方法
以下に、この実施形態に係る光学薄膜製造方法を説明する。
【0027】
この実施形態に係る光学薄膜製造方法は、イオン照射により基材の表面に微細な凹凸構造を形成し、基材表面の微細な凹凸構造に対して保護膜を形成する。
【0028】
(1)基材
基材は、透明性に優れたプラスチック(合成樹脂)を材料としたプラスチック基材(透明基材)とした。透明基材のプラスチックとして、透明性に優れた、鎖状結合しているポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いるものとする。
【0029】
本開示は、イオン照射による基材の表面改質により、表面が変化し、基材表面にモスアイ形状が形成されるというPMMAの特性を利用する。そのため、イオン照射により微細な凹凸構造が表面に形成される合成樹脂であれば、PMMAに限定されず、他の合成樹脂を広く用いることができる。
【0030】
なお、ベンゼン環を有したポリカーボネイト(PC)、環式化合物のシクロオレフィンポリマー(COP:Cycro Olefin Polymer)は、イオン照射で、その基材表面に微細な凹凸構造形状が形成されず、これらは基材として用いることが難しいと考えられる。
【0031】
(2)材料(蒸着材)
材料は、基材に用いられるプラスチック(合成樹脂)の屈折率よりも低いものが望ましい。基材の合成樹脂の屈折率が高いものを材料とすると、光の干渉で反射が増大してしまうおそれがあるからである。
【0032】
この実施形態では、材料(蒸着材)は酸化シリコンとした。なお、材料(蒸着材)は、酸化シリコンに限定されず、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム等を用いてもよい。
【0033】
(3)形成方法
基材表面に保護膜を形成する形成方法は、概ね、(a)材料である酸化シリコンをそのまま蒸着させる方法と、(b)ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)をプラズマ放電(重合)によりSi+SiO+SiO混合膜材料(以下、「SiOx」と表記する。)を形成させる方法がある。
【0034】
(3-1)前工程
まず、基材に微細な凹凸構造を施す際、基材の表面に、やけ、指紋、油などの汚れが存在する場合があるため、超音波洗浄機に純粋と中性洗剤を加えて、その中に基材を入れて、超音波洗浄を行う。また、PMMAは吸水率が高いため、基材を予備乾燥しておくことも望ましい。
【0035】
(3-2)真空装置に基材をセットする。
上述した前工程を終えた後、真空装置に基材を設置する。ここで、真空装置の排気系は、特に限定されず、例えば、拡散ポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを用いることができる。
【0036】
光学薄膜形成方法で使用する装置は、プラズマガン搭載の真空蒸着装置と、化学蒸着装置とのいずれか又は両方を使用する場合を例示する。
【0037】
プラズマガン搭載の真空蒸着装置を用いる場合、基材表面に微細な凹凸構造を形成する「工程A」と、基材表面の微細な凹凸構造に保護膜を形成する「工程B」とが考えられる。
【0038】
化学蒸着装置を用いる場合も同様に、基材表面にモスアイ形状を形成する「工程C」と、基板表面のモスアイ形状に保護膜を形成する「工程D」とが考えられる。
【0039】
以下の実施例(実施例1~5)では、「工程A」~「工程D」のうち、有効な工程の組み合わせることができる。
【0040】
詳細は後述するが、工程の組み合わせによって、真空蒸着装置と化学蒸着装置の両方を用いて「モスアイ形状」と「保護膜」とを形成する方法もあれば、真空蒸着装置又は化学蒸着装置の一方の装置で「モスアイ形状」と「保護膜」とを形成する方法もある。
【0041】
換言すると、前者の方法(すなわち、2台の装置を用いる方法)は2段階で「モスアイ形状」と「保護膜」とを形成する方法と言える。
【0042】
逆に、後者の方法(すなわち、1台の装置を用いる方法)は1段階で「モスアイ形状」と「保護膜」とを形成する方法と言える。すなわち、1台の装置で、連続して工程を進めることができるので、光学部品の生産性を向上させ、効率的な製造が期待される。
【0043】
(3-3)プラズマガン搭載の真空蒸着装置
プラズマガン搭載の真空蒸着装置は、概ね、真空チャンバーと、真空チャンバー内で基材を設置する基材設置部(ラック)と、蒸着材としての材料を設置するためのルツボが設けられた蒸着源と、電子銃と、プラズマガンと、基板を加熱するためのヒーターと、排気系としての真空ポンプとを備える。
【0044】
[工程A]
基材の表面が蒸着源に向くようにラックに設置し、また蒸着材としての材料をルツボに設置する。続いて真空ポンプにより真空チャンバー内を減圧した後、必要に応じてヒーターにより基材を加熱する。そして、真空チャンバー内に蒸発及び昇華した材料物質(蒸着物質)をプラズマガンでイオン照射し、基材の表面の形状が変化し、基材表面に、微細な凹凸構造の形状を形成する。つまり、モスアイ形状を基材表面に形成する。この工程を「工程A」と呼ぶ。工程Aによれば、イオン照射することにより物質を活性化させ膜強度を向上させる。
【0045】
なお、蒸着物質の蒸発及び昇華は必須でなく、この実施形態で例示する以下の実施例1~5では、蒸着物質の蒸発及び昇華を実施しなかった場合を例示する。
【0046】
[工程B]
基材の表面が蒸着源に向くように基材をラックに設置し、また蒸着材としての材料をルツボに設置する。続いて真空ポンプにより真空チャンバー内を減圧した後、必要に応じてヒーターにより基材を加熱する。ここまでは、工程Aの一部と重複している。
【0047】
そして、真空チャンバー内において、電子銃で蒸着物質を溶解させて蒸発させ、蒸発した蒸着材が基材表面に蒸着し、基材の表面に保護膜を形成する。この工程を「工程B」と呼ぶ。
【0048】
(3-4)化学蒸着装置(CVD)
化学蒸着装置は、概ね、反応室と、反応室内で基材を設置する基材設置部と、高周波電源と、高周波によりプラズマ放電させてガス化した材料を反応室に供給する材料供給部と、反応室にガス(キャリアガス)を供給する供給部と、反応室内を排気する排気系として真空ポンプとを備える。
【0049】
[工程C]
基材を基材設置部に設置し、材料を材料供給部に設置する。続いて真空ポンプにより反応室内を排気して、供給部によりガスを供給して、反応室内でガスが供給部から真空ポンプに向けて流れるようにする。そして、高周波(例えば、36.56MHz)でプラズマを発生させて、材料供給部が蒸発した材料を反応室内に供給し、基板表面に、微細な凹凸構造の形状を形成する。この工程を「工程C」と呼ぶ。
【0050】
ここで、供給部が反応室内に供給するガスの種類は、アルゴンガス、酸素ガス、窒素ガスなどとすることができる。
【0051】
[工程D]
基材を基材設置部に設置し、材料を材料供給部に設置する。続いて真空ポンプにより反応室内を排気して、供給部によりガスを供給して、反応室内でガスが供給部から真空ポンプに向けて流れるようにする。ここまでは工程Cの一部と重複している。
【0052】
そして、材料供給部で、高周波によりプラズマ放電させて、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリエトキシシラン(TRIES)などの有機性珪素をガス化させ、高周波によりガス化した材料を重合させて、SiOxを形成する。そして、材料供給部が、SiOxを反応室内に供給し、基材の表面に保護膜を形成する。この工程を「工程D」と呼ぶ。
【0053】
(3-5)基材表面への微細な凹凸構造の形成条件
微細な凹凸構造形状を基材表面に形成する「工程A」及び「工程C」のそれぞれの形成条件を、図1及び図2を参照して説明する。
【0054】
図1(A)は、工程Aによる微細な凹凸構造の形成条件であり、図1(B)は、各条件で微細な凹凸構造を有する基材の透過特性を確認した結果である。
【0055】
図1(B)において、横軸は波長[nm]、縦軸は透過率[%]を示しており、400nmから750nmまで波長(λ)を変化させながら、基材に光を透過させて、各波長の透過率を確認した。
【0056】
図1(B)より、条件番号102の結果が、400nmから750nmまでの各波長で、95%~97%程度の透過率を維持しており、良好な結果であった。したがって、以下の実施例及び比較例で、工程Aで微細な凹凸構造を基材表面に形成する場合に、条件番号102の条件で形成することとする。
【0057】
図2(A)は、工程Cによる微細な凹凸構造の形成条件であり、図1(B)は、各条件で微細な凹凸構造を有する基材の透過特性を確認した結果である。
【0058】
図2(B)より、条件番号111の結果が、400nmから750nmまでの各波長で高い透過率を維持しており、特に、470nm~750nmの波長の光に対しては、約90%~97%程度の透過率を維持していることがわかる。したがって、以下の実施例及び比較例では、条件番号111の条件で、微細な凹凸構造を基材表面に形成することとする。
【0059】
(A-3)実施例の説明
(A-3-1)実施例1(工程A+工程B)
図3は、実施例1の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。実施例1は、工程Aと工程Bの組み合わせである。
【0060】
工程Aでは、真空蒸着装置のラックに基材を設置し、真空ポンプで真空チャンバー内の気圧を5×10-3(5E-3)Paまで排気して、イオン照射を行った。なお、真空蒸着装置はドーム型ものを使用して、装置径(真空チャンバーの径)が1600φのものを使用した。
【0061】
工程Bは、工程Aの真空蒸着装置を使用した。つまり、真空チャンバーを開放せず、材料としてのSiOを電子銃で蒸発させて、基材表面にSiO膜を成膜した。
【0062】
実施例1では、基材表面上に成膜するSiOの光学膜厚を変えて、各サンプル基材に、400nmから750nmまでの各波長の光を照射して透過特性を測定した。
【0063】
SiOの膜条件は、基材に照射する光波長λを550nmとしたとき、光学膜厚がλ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3、λ/2となるようにした。これら6個の基材と、SiOを成膜していないもの(コート無し)をサンプルとした。
【0064】
図3の結果より、400nmから750nmまでの各波長で、光学膜厚λ/32~λ/2(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3、λ/2)とした基材のいずれも、透過率が約90%以上であり、いずれの基材も高い透過率を維持していうことが分かる。
【0065】
図3において、6個の基材の中でも、λ/32~λ/3(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3)の各基材は、470nm~750nmの各波長の光に対して、約92%以上の透過率を維持しており、反射防止効果が良好であり、更に、λ/32~λ/4(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4)の各基材は、約95%~99%程度の透過率を維持しており、高い反射防止効果があることが分かる。
【0066】
また、6個の基材の中でも、λ/3、λ/2の各基材は、波長の値が大きくなるに従い透過率が高くなる傾向にあることが分かる。
【0067】
さらに、6個の基材の中でも、λ/32~λ/3(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3)の各基材は、470nm~750nmの各波長の光に対していずれも高い透過率ではあるが、550nmよりも低い波長に対して透過率が高い傾向にあることが分かる。
【0068】
(A-3-2)実施例2(工程A+工程D)
図4は、実施例2の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。実施例2は、工程Aと工程Dの組み合わせである。
【0069】
工程Aでは、真空蒸着装置(ドーム型1600φ)のラックに基材を設置し、真空チャンバー内の気圧を5×10-3(5E-3)Paまで排気して、イオン照射を行った。
【0070】
工程Dは、化学蒸着装置の基材設置部に基材を再設置し、反応室内の気圧を0.2Paまで排気し、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)をプラズマ放電して重合したSiOx膜を基材表面に形成した。なお、工程Dに移動させるために、真空蒸着装置の真空チャンバーを開放して基材を取り出し、その基材を化学蒸着装置内に再セットしている。
【0071】
実施例2では、基材表面上に成膜するSiOxの光学膜厚を変えて、各サンプル基材に、400nmから750nmまでの各波長の光を照射して透過特性を測定した。
【0072】
SiOxの膜条件は、基材に照射する光波長λを550nmとしたとき、光学膜厚がλ/32、λ/16、λ/8、λ/4となるようにした。これら4個の基材と、SiOを成膜していないもの(コート無し)をサンプルとした。
【0073】
図4の結果より、400nmから750nmまでの各波長で、光学膜厚λ/32~λ/4(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4)とした基材のいずれも、透過率が約92%以上であり、いずれの基材も高い透過率を維持していうことが分かる。
【0074】
また、4個の基材の中でも、λ/32~λ/8(λ/32、λ/16、λ/8)の各基材は、470nm~750nmの各波長の光に対して、約約94%~97%程度の透過率を維持して、さらには、λ/32、λ/16の各基材は、470nm~750nmの各波長の光に対して、約約95%以上の透過率を維持しておち、高い反射防止効果があることが分かる。
【0075】
さらに、4個の基材の中でも、λ/32、λ/16の各基材は、470nm~750nmの各波長の光に対していずれも高い透過率ではあるが、550nmよりも低い波長に対して透過率が高い傾向にあることが分かる。
【0076】
(A-3-3)実施例3(工程C+工程D)
図5は、実施例3の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。実施例3は、工程Cと工程Dの組み合わせである。
【0077】
工程Cでは、化学蒸着装置の基材設置部に基材を設置し、反応室内の気圧を0.2Paまで排気し、プラズマ放電を行なった。
【0078】
工程Dは、工程Cの化学蒸着装置をそのまま使用し、反応室を開放せず、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)をプラズマ放電して重合したSiOx膜を基材表面に形成した。
【0079】
実施例3では、基材表面上に成膜するSiOxの光学膜厚を変えて、各サンプル基材に、400nmから750nmまでの各波長の光を照射して透過特性を測定した。
【0080】
SiOxの膜条件は、基材に照射する光波長λを550nmとしたとき、光学膜厚がλ/32、λ/16、λ/8、λ/4となるようにした。これら4個の基材と、SiOを成膜していないもの(コート無し)をサンプルとした。
【0081】
図5の結果より、測定に使用した波長のうち、480nm~750nmの各波長で、光学膜厚λ/32~λ/4(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4)の各基材はいずれも、透過率が約90%以上であり、いずれの基材も高い透過率を維持していうことが分かる。
【0082】
また、4個の基材の中でも、λ/32~λ/8(λ/32、λ/16、λ/8)の各基材は、約520nm以上の波長で、透過率が約93%以上であり、高い反射防止効果があることが分かる。
【0083】
(A-3-4)実施例4(工程C+工程B)
図6は、実施例4の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。実施例4は、工程Cと工程Bの組み合わせである。
【0084】
工程Cでは、化学蒸着装置の基材設置部に基材を設置し、反応室内の気圧を0.2Paまで排気し、プラズマ放電を行なった。
【0085】
工程Bは、真空蒸着装置(ドーム型1600φ)のラックに基材を設置し、真空チャンバー内の気圧を2×10-3(2E-3)Paまで排気して、材料としてのSiOを電子銃で蒸発させて、基材表面にSiO膜を成膜した。なお、工程Bに移動させるために、化学蒸着装置の反応室を開放して基材を取り出し、その基材を真空蒸着装置内に再セットしている。
【0086】
実施例4では、基材表面上に成膜するSiOの光学膜厚を変えて、各サンプル基材に、400nmから750nmまでの各波長の光を照射して透過特性を測定した。
【0087】
SiOの膜条件は、基材に照射する光波長λを550nmとしたとき、光学膜厚がλ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3、λ/2となるようにした。これら6個の基材と、SiOを成膜していないもの(コート無し)をサンプルとした。
【0088】
図6の結果より、測定に使用した波長のうち、約470nm~750nmの各波長で、光学膜厚λ/32~λ/2(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3、λ/2)の各基材はいずれも、透過率が約90%以上であり、いずれの基材も高い透過率を維持していうことが分かる。
【0089】
また、4個の基材の中でも、λ/32~λ/3(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3)の各基材は、約500nm以上の波長で、透過率が約93%以上であり、高い反射防止効果があることが分かる。
【0090】
(A-3-5)実施例5(工程A+工程B)
図7は、実施例5の工程で微細な凹凸構造及び保護膜を形成した基材の分光特性を示す図である。
【0091】
実施例5は、工程Aと工程Bの組み合わせであり、保護膜の材料(蒸着材)として酸化アルミニウムとした。
【0092】
工程Aでは、真空蒸着装置のラックに基材を設置し、真空ポンプで真空チャンバー内の気圧を5×10-3(5E-3)Paまで排気して、イオン照射を行った。なお、真空蒸着装置はドーム型ものを使用して、装置径(真空チャンバーの径)が1600φのものを使用した。
【0093】
工程Bは、工程Aの真空蒸着装置を使用した。つまり、真空チャンバーを開放せず、材料としてのAlを電子銃で蒸発させて、基材表面にAl膜を成膜した。
【0094】
実施例5では、基材表面上のAlの光学膜厚を変えて、各サンプル基材に、400nmから750nmまでの各波長の光を照射して透過特性を測定した。
【0095】
Alの膜条件は、基材に照射する光波長λを550nmとしたとき、光学膜厚がλ/32、λ/16、λ/8となるようにした。これら6個の基材と、Alを成膜していないもの(コート無し)をサンプルとした。
【0096】
図7の結果より、3個の基材の中で、λ/32~λ/16(λ/32、λ/16)の各基材は、400nm~750nmの各波長の光に対して、約91%以上であり、高い透過率を維持してことが分かる。特に、3個の基材の中で、λ/32の基材は、400nm~750nmの各波長の光に対して、約94%以上であり、高い透過率を維持してことが分かる。
【0097】
(A-3-6)比較例1(工程A)
図8は、工程Aで微細な凹凸構造を形成した基材を用いて、高温試験前の基材の分光特性と、高温環境下での基材の分光特性とを示す結果である。
【0098】
比較例1は、工程Aで基材表面に微細な凹凸構造を形成し、高温環境下で、基材の透過特性を測定して確認した。
【0099】
工程Aでは、真空蒸着装置のラックに基材を設置し、真空ポンプで真空チャンバー内の気圧を5×10-3(5E-3)Paまで排気して、イオン照射を行った。
【0100】
図8において、点線は高温試験前の基材の分光特性の結果を示し、実線は高温試験での基材の分光特性の結果を示している。
【0101】
図8の結果より、400nm~750nmの各波長において、高温試験をした基材の透過率は、高温試験前の基材のそれよりも低くなっている。つまり、基材表面に形成された微細な凹凸構造は、高温環境に置かれることにより、透過率(分光特性)が低下したことが分かる。
【0102】
(A-3-7)実施例1(工程A+工程B)の高温試験結果
図9は、実施例1の基材を用いて、高温試験前の分光特性と、高温環境下での分光特性とを示す結果である。ここでは、SiOの膜厚がλ/8であるものを使用した。
【0103】
図9の結果より、高温環境下で、400nm~750nmの各波長において、高温試験後の基材の透過率は、高温試験前の基材のそれと、ほぼ同じ値であることが分かる。つまり、高温環境下でも、透過率(分光特性)は低下せず、高い反射防止効果があることが分かる。
【0104】
従来、高温になると基材表面の微細な凹凸構造が崩れてしまい、反射防止効果及び分光特性が低下してしまっていた(比較例1参照)。
【0105】
これに対して、実施例1のように、工程Bにより、基材表面の微細な凹凸構造に対して、保護膜としてSiO膜を形成することにより、高温であっても、反射防止効果及び分光特性を維持させることができる。これは、換言すると、目的とする高温環境下であっても、保護膜が微細な凹凸構造の崩れを抑え、反射防止効果及び分光特性を維持させている。
【0106】
また、実施例1は、同じ真空蒸着装置を用いて、工程Aと工程Bとを連続して実施できるので、光学部品の製造効率を良好にすることができる。
【0107】
(A-3-8)実施例3(工程C+工程D)の高温試験結果
図10は、実施例3の基材を用いて、高温試験前の分光特性と、高温環境下での分光特性とを示す結果である。ここでは、SiOxの膜厚がλ/16であるものを使用した。
【0108】
図10の結果より、高温環境下で、約480nm~750nmの各波長において、高温試験後の基材の透過率は、高温試験前の基材のそれと、ほぼ同じ値であることが分かる。つまり、高温環境下でも、透過率(分光特性)は低下せず、高い反射防止効果があることが分かる。
【0109】
実施例3の場合も、(A-3-7)の場合と同様に、工程Dにより、基材表面の微細な凹凸構造に対して、保護膜としてSiOx膜を形成することにより、高温であっても、反射防止効果及び分光特性を維持させることができる。これは、目的とする高温環境下であっても、保護膜が微細な凹凸構造の崩れを抑え、反射防止効果及び分光特性を維持させている。
【0110】
また、実施例3も、同じ化学蒸着装置を用いて、工程Cと工程Dとを連続して実施できるので、光学部品の製造効率を良好にすることができる。
【0111】
(A-3-9)他の反射防止膜との比較
図11は、実施例1と他の反射防止膜との反射防止効果の比較結果である。図12は、実施例1と他の反射防止膜との分光特性を示す図である。
【0112】
図11に示すように、他の反射防止膜は、「真空蒸着法による4層反射防止膜」、「真空蒸着法による単層反射防止膜」の2例を挙げる。
【0113】
また、図11に示すように、450nmから650nmまでの平均透過率を示す分光特性、高温試験(90℃)、高温試験(100℃)を試験内容とした。なお、分光特性は、図12の分光特性の結果を利用した。
【0114】
真空蒸着法による4層反射防止膜は、450nmから650nmまでの平均透過率が約98%であり、優れた分光特性を有している。自動車分野で、光学分野に要求されている高温試験(90℃)及び高温試験(100℃)で、マイクロクラックが発生し外観上NGとなるため「×」とした。
【0115】
真空蒸着法による単層膜は、高温試験(90℃)では問題ないが、高温試験(100℃)ではクラックが発生し「×」となった。
【0116】
実施例1は、図9の結果より、450nmから650nmまでの平均透過率が約98%以上であった。また高温試験、高温高湿試験において変化の無い優れた結果を示した。実施例1は同一装置で製造するため、連続生産が可能であり、量産性も期待できる。
【0117】
(A-4)実施形態の効果
以上のように、この実施形態によれば、合成樹脂の基材表面に形成された微細凹凸構造に保護膜を形成して、高温環境下で反射防止効果の高い光学部品を製造することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-05-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
従来、プラスチック基材の表面にモスアイ構造を形成する方法として、例えば、金型を用いて射出成形により微細な凹凸構造を成形する方法がある。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
しかし、この方法は、金型から成形品を抜く際に、樹脂が金型に貼り付き、微細な凹凸構造が壊れてしまうおそれがあり、製品の生産方法としての採用が難しい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
また、別の方法として、イオンスパッタリングを利用した方法がある。イオンスパッタリングはイオン照射によって生じる現象の1つであり、PMMAの基材表面をイオン照射することで、表面が改質し、表面形状を変形させる方法ある。従来、例えば、真空蒸着装置にプラズマガンを搭載して、成膜時にイオンを照射し、蒸発分子を活性化し、膜強度を向上させている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
(3)形成方法
基材表面に保護膜を形成する形成方法は、概ね、(a)材料である酸化シリコンをそのまま蒸着させる方法と、(b)ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)をプラズマ放電(重合)によりSi+SiO+SiO混合膜材料(以下、「SiOx」と表記する。)を基材に形成させる方法がある。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
(3-1)前工程
まず、基材に微細な凹凸構造を施す際、基材の表面に、やけ、指紋、油などの汚れが存在する場合があるため、超音波洗浄機に純水と中性洗剤を加えて、その中に基材を入れて、超音波洗浄を行う。また、PMMAは吸水率が高いため、基材を予備乾燥しておくことも望ましい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
以下の実施例(実施例1~5)では、「工程A」~「工程D」のうち、有効な工程組み合わせることができる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
図2(A)は、工程Cによる微細な凹凸構造の形成条件であり、図(B)は、各条件で微細な凹凸構造を有する基材の透過特性を確認した結果である。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0064
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0064】
図3の結果より、400nmから750nmまでの各波長で、光学膜厚λ/32~λ/2(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3、λ/2)とした基材のいずれも、透過率が約90%以上であり、いずれの基材も高い透過率を維持していることが分かる。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0073
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0073】
図4の結果より、400nmから750nmまでの各波長で、光学膜厚λ/32~λ/4(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4)とした基材のいずれも、透過率が約92%以上であり、いずれの基材も高い透過率を維持していることが分かる。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0074
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0074】
また、4個の基材の中でも、λ/32~λ/8(λ/32、λ/16、λ/8)の各基材は、470nm~750nmの各波長の光に対して、約94%~97%程度の透過率を維持して、さらには、λ/32、λ/16の各基材は、470nm~750nmの各波長の光に対して、約95%以上の透過率を維持しており、高い反射防止効果があることが分かる。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0081
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0081】
図5の結果より、測定に使用した波長のうち、480nm~750nmの各波長で、光学膜厚λ/32~λ/4(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4)の各基材はいずれも、透過率が約90%以上であり、いずれの基材も高い透過率を維持していることが分かる。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0088
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0088】
図6の結果より、測定に使用した波長のうち、約470nm~750nmの各波長で、光学膜厚λ/32~λ/2(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3、λ/2)の各基材はいずれも、透過率が約90%以上であり、いずれの基材も高い透過率を維持していることが分かる。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0089
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0089】
また、個の基材の中でも、λ/32~λ/3(λ/32、λ/16、λ/8、λ/4、λ/3)の各基材は、約500nm以上の波長で、透過率が約93%以上であり、高い反射防止効果があることが分かる。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0091
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0091】
実施例5は、工程Aと工程Bの組み合わせであり、保護膜の材料(蒸着材)として酸化アルミニウム(Al とした。
【手続補正15】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0092
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0092】
工程Aでは、真空蒸着装置のラックに基材を設置し、真空ポンプで真空チャンバー内の気圧を5×10-3(5E-3)Paまで排気して、イオン照射を行った。なお、真空蒸着装置はドーム型ものを使用して、装置径(真空チャンバーの径)が1600φのものを使用した。
【手続補正16】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0095
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0095】
Alの膜条件は、基材に照射する光波長λを550nmとしたとき、光学膜厚がλ/32、λ/16、λ/8となるようにした。これら個の基材と、Alを成膜していないもの(コート無し)をサンプルとした。
【手続補正17】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0096
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0096】
図7の結果より、3個の基材の中で、λ/32~λ/16(λ/32、λ/16)の各基材は、400nm~750nmの各波長の光に対して、約91%以上であり、高い透過率を維持していることが分かる。特に、3個の基材の中で、λ/32の基材は、400nm~750nmの各波長の光に対して、約94%以上であり、高い透過率を維持していることが分かる。
【手続補正18】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0099
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0099】
工程Aでは、真空蒸着装置のラックに基材を設置し、真空ポンプで真空チャンバー内の気圧を5×10 -3 (5E-3)Paまで排気して、イオン照射を行った。
【手続補正19】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0114
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0114】
真空蒸着法による4層反射防止膜は、450nmから650nmまでの平均透過率が約99%であり、優れた分光特性を有している。自動車分野で、光学分野に要求されている高温試験(90℃)及び高温試験(100℃)で、マイクロクラックが発生し外観上NGとなるため「×」とした。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン照射により基材の表面を変化させて、前記基材の表面に微細凹凸構造を形成する微細凹凸構造形成工程と、
蒸着材を蒸発させ、前記基材の表面に蒸着させて、前記基材の表面に形成された前記微細凹凸構造に保護膜を形成する保護膜形成工程と
を備え
90℃~100℃の高温環境下で550nm付近の波長の透過率が95%以上である
ことを特徴とする光学部材の製造方法。
【請求項2】
前記微細凹凸構造形成工程は、減圧した容器内でプラズマを放出し、そのプラズマ雰囲気中でイオン照射することにより、前記基材の表面に前記微細凹凸構造を形成し、
前記保護膜形成工程は、前記微細凹凸構造形成工程と同じ容器内で、酸化シリコンを前記蒸着材とし、真空蒸着により前記基材の表面に酸化シリコンを付着させて、前記基材の表面の前記微細凹凸構造に酸化シリコン膜を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部材の製造方法。
【請求項3】
前記微細凹凸構造形成工程は、減圧した容器内でプラズマを放出して、そのプラズマ雰囲気中でイオン照射することにより、前記基材の表面に前記微細凹凸構造を形成し、
前記保護膜形成工程は、前記微細凹凸構造形成工程と同じ容器内で、有機ケイ素化合物を前記蒸着材とし、化学蒸着により前記有機ケイ素化合物をガス化させて、前記基材の表面の前記微細凹凸構造に酸化シリコン混合膜を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記微細凹凸構造形成工程は、減圧した容器内でプラズマを放出して、そのプラズマ雰囲気中でイオン照射することにより、前記基材の表面に前記微細凹凸構造を形成し、
前記保護膜形成工程は、前記微細凹凸構造形成工程と異なる容器内で、有機ケイ素化合物を前記蒸着材とし、化学蒸着により前記有機ケイ素化合物をガス化させて、前記基材の表面の前記微細凹凸構造に酸化シリコン混合膜を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項5】
前記微細凹凸構造形成工程は、減圧した容器内でプラズマを放出して、そのプラズマ雰囲気中でイオン照射することにより、前記基材の表面に前記微細凹凸構造を形成し、
前記保護膜形成工程は、前記微細凹凸構造形成工程と異なる容器内で、酸化シリコンを前記蒸着材とし、真空蒸着により前記基材の表面に酸化シリコンを付着させて、前記基材の表面の前記微細凹凸構造に酸化シリコン膜を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項6】
前記蒸着材の屈折率は1.6以下の材料であり、波長550nmを照射したときの前記保護膜の光学膜厚がλ/50~λ/16であることを特徴とする請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項7】
前記保護膜形成工程において、波長550nmを照射したときの前記酸化シリコン膜の光学膜厚がλ/50~λ/3であることを特徴とする請求項2又は5に記載の光学部品の製造方法。
【請求項8】
前記保護膜形成工程において、波長550nmを照射したときの前記酸化シリコン混合膜の光学膜厚がλ/50~λ/8であることを特徴とする請求項3又は4に記載の光学部品の製造方法。
【請求項9】
基材と、前記基材の表面に形成された微細凹凸構造と、前記微細凹凸構造に形成された保護膜とを有し、
90℃~100℃の高温環境下で550nm付近の波長の透過率が95%以上である
ことを特徴とする光学部品。
【請求項10】
前記保護膜は屈折率が1.6以下の材料で形成されており、波長550nmを照射したときの前記保護膜の光学膜厚がλ/50~λ/16であることを特徴とする請求項9に記載の光学部品。
【請求項11】
前記保護膜が酸化シリコン膜であり、波長550nmを照射したときの前記酸化シリコン膜の光学膜厚がλ/50~λ/3であることを特徴とする請求項9に記載の光学部品。
【請求項12】
前記保護膜が酸化シリコン混合膜であり、前記酸化シリコン混合膜の光学膜厚がλ/50~λ/8であることを特徴とする請求項9に記載の光学部品。
【請求項13】
前記基材がポリメタクリル酸メチル樹脂であることを特徴とする請求項9に記載の光学部品。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本開示は、光学部材の製造方法及び光学部品に関し、例えば、プラスチック(合成樹脂)基材の表面に形成した微細凹凸構造に保護膜を形成して、高温環境下で反射防止効果の高い光学部品を製造する方法に適用し得るものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
そこで、本開示は、上述した課題に鑑み、目的の高温環境下で耐熱性があり、光量損失を防ぐことを目的として、ポリメタクリル酸メチル樹脂等の合成樹脂の基材表面に形成された微細凹凸構造に保護膜を形成して、高温環境下で反射防止効果の高い光学部品を製造する方法及び光学部品を提供しようとするものである。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
かかる課題を解決するために、第1の本開示に係る光学部品の製造方法は、(1)イオン照射により基材の表面を変化させて、基材の表面に微細凹凸構造を形成する微細凹凸構造形成工程と、(2)蒸着材を蒸発させ、基材の表面に蒸着させて、基材の表面に形成された微細凹凸構造に保護膜を形成する保護膜形成工程とを備え、90℃~100℃の高温環境下で550nm付近の波長の透過率が95%以上であることを特徴とする光学部材の製造方法。
第2の本開示に係る光学部品は、(1)基材と、(2)基材の表面に形成された微細凹凸構造と、微細凹凸構造に形成された保護膜とを有し、90℃~100℃の高温環境下で550nm付近の波長の透過率が95%以上であることを特徴とする。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
(A)実施形態
以下では、本開示の光学部品の製造方法及び光学部品の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】手続補正書
【補正対象項目名】手続補正6
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
(A)実施形態
以下では、本開示の光学部品の製造方法及び光学部品の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。