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2024-160567シリコンクラスレート電極活物質、負極合材、負極活物質層、固体リチウムイオン電池、及び負極活物質層の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160567
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】シリコンクラスレート電極活物質、負極合材、負極活物質層、固体リチウムイオン電池、及び負極活物質層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20241107BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241107BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241107BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241107BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241107BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/052
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075707
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】新美 知宏
(72)【発明者】
【氏名】湯川 加代子
(72)【発明者】
【氏名】浦部 晃太
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ01
5H050AA07
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050DA13
5H050EA08
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】本開示は、充電時の膨張が小さいシリコンクラスレート電極活物質、及びそのようなシリコンクラスレート電極活物質を有する固体リチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】本開示のシリコンクラスレート電極活物質は、ナトリウム化合物を含む。また、本開示のシリコンクラスレート電極活物質は、ナトリウム化合物の質量のシリコンクラスレート電極活物質及びナトリウム化合物の合計質量に対する割合が、0.1質量%以上5.0質量%以下である。本開示の固体リチウムイオン電池は、本開示の負極活物質層を有する。本開示の負極活物質層は、本開示の負極合材を含有している。本開示の負極合材は、本開示のシリコンクラスレート電極活物質、及び固体電解質を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム化合物を含むシリコンクラスレート電極活物質であって、
前記ナトリウム化合物の質量の前記シリコンクラスレート電極活物質及び前記ナトリウム化合物の合計質量に対する割合が、0.1質量%以上5.0質量%以下である、
シリコンクラスレート電極活物質。
【請求項2】
前記割合が、0.5質量%以上3.0質量%以下である、請求項1に記載のシリコンクラスレート電極活物質。
【請求項3】
前記ナトリウム化合物は、酸化ナトリウム及び/又はケイ酸ナトリウムである、請求項1に記載のシリコンクラスレート電極活物質。
【請求項4】
少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有する、請求項1に記載のシリコンクラスレート電極活物質。
【請求項5】
請求項1に記載のシリコンクラスレート電極活物質、及び固体電解質を含む、負極合材。
【請求項6】
前記固体電解質が硫化物固体電解質である、請求項5に記載の負極合材。
【請求項7】
請求項5に記載の負極合材を含有している、負極活物質層。
【請求項8】
請求項7に記載の負極活物質層を有する、固体リチウムイオン電池。
【請求項9】
請求項1に記載のシリコンクラスレート電極活物質、固体電解質、及び有機溶媒を混合すること、並びに
前記混合により得られたスラリーを乾燥すること
を含む、請求項7に記載の負極活物質層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリコンクラスレート電極活物質、負極合材、負極活物質層、固体リチウムイオン電池、及び負極活物質層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池の開発が盛んに行われている。例えば、自動車産業界では、電気自動車又はハイブリッド自動車に用いられる電池の開発が進められている。また、電池、特にリチウムイオン電池に用いられる電極活物質として、シリコンが知られている。
【0003】
シリコン電極活物質は理論容量が大きく、電池の高エネルギー密度化に有効である。その反面、シリコン電極活物質は、充電時の膨張が大きいという問題を有する。これに対して、シリコン電極活物質としてシリコンクラスレート電極活物質を用いることによって、充電時の膨張を抑制することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、NaSi136(1.98<x<2.54)の組成を有する、シリコンクラスレート電極活物質を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-158003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコンクラスレート電極活物質は通常のシリコン電極活物質と比較して充電時の膨張を抑制できるものの、シリコンクラスレート電極活物質の充電時の膨張を更に抑制することが求められている。
【0007】
本開示は、充電時の膨張が小さいシリコンクラスレート電極活物質、及びそのようなシリコンクラスレート電極活物質を有する固体リチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示者は、以下の手段により上記課題を解決することができることを見出した。
〈態様1〉
ナトリウム化合物を含むシリコンクラスレート電極活物質であって、
前記ナトリウム化合物の質量の前記シリコンクラスレート電極活物質及び前記ナトリウム化合物の合計質量に対する割合が、0.1質量%以上5.0質量%以下である、
シリコンクラスレート電極活物質。
〈態様2〉
前記割合が、0.5質量%以上3.0質量%以下である、態様1に記載のシリコンクラスレート電極活物質。
〈態様3〉
前記ナトリウム化合物は、酸化ナトリウム及び/又はケイ酸ナトリウムである、態様1又は2に記載のシリコンクラスレート電極活物質。
〈態様4〉
少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有する、態様1~3のいずれか一項に記載のシリコンクラスレート電極活物質。
〈態様5〉
態様1~4のいずれか一項に記載のシリコンクラスレート電極活物質、及び固体電解質を含む、負極合材。
〈態様6〉
前記固体電解質が硫化物固体電解質である、態様5に記載の負極合材。
〈態様7〉
態様5又は6に記載の負極合材を含有している、負極活物質層。
〈態様8〉
態様7に記載の負極活物質層を有する、固体リチウムイオン電池。
〈態様9〉
態様1~4のいずれか一項に記載のシリコンクラスレート電極活物質、固体電解質、及び有機溶媒を混合すること、並びに
前記混合により得られたスラリーを乾燥すること
を含む、態様7に記載の負極活物質層の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、充電時の膨張が小さいシリコンクラスレート電極活物質、及びそのようなシリコンクラスレート電極活物質を有する固体リチウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1~3及び比較例1における、X線光電子分光法(XPS)による結合エネルギーの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
《シリコンクラスレート電極活物質》
本開示のシリコンクラスレート電極活物質は、ナトリウム化合物を含む。また、本開示のシリコンクラスレート電極活物質は、ナトリウム化合物の質量のシリコンクラスレート電極活物質及びナトリウム化合物の合計質量に対する割合が、0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0013】
シリコンクラスレートは、任意の方法で得ることができる。一般的に、ナトリウムシリコン(NaSi)合金からナトリウムを除去することによって、シリコンクラスレートを形成することができる。
【0014】
例えば、シリコンクラスレートの製造においては、まずシリコンと水素化ナトリウムを反応させることにより、NaSi合金を調製する。その後、このようにして調製されたNaSi合金を加熱して、NaSi合金からナトリウムを除去してクラスレート化することにより、シリコンクラスレートを調製することができる。あるいは、このようにして調製されたNaSi合金とナトリウムトラップ剤としてのフッ化アルミニウムとを反応させてNaSi合金からナトリウムを除去してクラスレート化することにより、シリコンクラスレートを調製することができる。
【0015】
このとき、シリコンクラスレートの他に、ナトリウム化合物が生成するが、このナトリウム化合物はその後の処理によって除去することができる。
【0016】
これに対して、本件開示者等は、予想外に、ナトリウム化合物に由来する少量のナトリウムを含有するシリコンクラスレート電極活物質は、充電時の膨張が小さいことを見出した。
【0017】
この理由としては、何らの理論に束縛されることを意図しないが、以下のように推定される。すなわち、ナトリウム化合物に由来する少量のナトリウムが、シリコンクラスレート電極活物質と固体電解質の界面で進行するシリコンクラスレート電極活物質の酸化反応及び固体電解質の還元反応を抑えることができ、これにより充電に利用されるシリコンクラスレート電極活物質の減少が抑制され、充電反応が均一に進行して充電時の膨張が抑制されると考えられる。
【0018】
なお、本開示に関して、「電極活物質」は、「正極活物質」としても「負極活物質」としても使用でき、特に「負極活物質」として用いられる。
【0019】
本開示のシリコンクラスレート電極活物質は、ナトリウム化合物を含む。
【0020】
本開示において、ナトリウム化合物の質量のシリコンクラスレート電極活物質及びナトリウム化合物の合計質量に対する割合は、0.1質量%以上5.0質量%未満である。この割合が上記範囲内であると、充電時の膨張を十分に抑制するために好ましい。
【0021】
この割合は、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、又は0.8質量%以上であってよく、4.5質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、3.3質量%以下3.2質量%以下、3.1質量%以下、3.0質量%以下、2.9質量%以下、又は2.8質量%以下であってよい。
【0022】
この割合は、シリコンクラスレート電極活物質のX線光電子分光法(XPS)測定結果における、1072eV~1076eVの範囲の面積の、1070eV~1076eVの範囲の面積に対する割合として算出することができる。XPS測定における装置としては、アルバックファイ社のVersaProbe IIを使用することができる。
【0023】
本開示におけるナトリウム化合物は、酸化ナトリウム及び/又はケイ酸ナトリウムであってもよい。
【0024】
本開示のシリコンクラスレート電極活物質は、少なくとも部分的にクラスレートII型構造を有することができる。この場合、充電時の膨張をより低減することができる。
【0025】
シリコンクラスレート電極活物質において、ナトリウム化合物の質量のシリコンクラスレート電極活物質及びナトリウム化合物の合計質量に対する割合を調節するためには、シリコンクラスレート電極活物質の表面の酸化物を除去する処理を行うことができる。
【0026】
酸化物除去処理は、酸化シリコンを溶解除去できる溶液、例えばフッ化水素(HF)水溶液に、シリコンクラスレート電極活物質を浸漬し、酸化シリコンを溶解除去することによって、シリコンクラスレート電極活物質の表面に存在するナトリウム化合物を合わせて除去することができる。また、シリコンクラスレート電極活物質がナトリウム化合物としてケイ酸ナトリウム(NaSiO)を有している場合、塩化水素水溶液(塩酸)を用いて、ケイ酸ナトリウムを可溶性のケイ酸(HSiO)に変換し、このケイ酸を除去して、シリコンクラスレート電極活物質におけるナトリウム原子を減少させることもできる(NaSiO+2HCl→2NaCl(溶解)+HSiO(溶解))。
【0027】
上記の酸化物除去処理の前に予め酸化処理を行うことによって、酸化物除去処理を促進することができる。具体的な酸化処理としては、シリコンクラスレート電極活物質を酸化雰囲気に置き、随意に加熱を行うことができる。酸化雰囲気に置く方法としては、減圧及びガス置換可能な装置に入れ、装置内を常温にて減圧した後、大気導入する方法が例示される。
【0028】
一方で、酸化処理を行うと、シリコンクラスレート電極活物質の表面に酸化ケイ素(SiO)の酸化被膜が形成され、HFで洗浄した際に、ナトリウム化合物がともに洗い流されてしまう。酸化処理における酸化の程度が小さい場合には、SiOの生成量が少ないために、ナトリウム化合物の減少が抑制される。酸化処理を実施しない場合は、生成するナトリウム化合物が少ないため、ナトリウム化合物の質量のシリコンクラスレート電極活物質及びナトリウム化合物の合計質量に対する割合が小さくなる。
【0029】
本開示においては、酸化処理を実施しないか、或いは酸化処理をする場合には大気導入量を適宜調整することが好ましい。
【0030】
《負極合材》
本開示の負極合材は、負極活物質としてのシリコンクラスレート電極活物質、及び固体電解質を含む。また、本開示の負極合材は、随意に導電助剤、及びバインダーを含む。
【0031】
なお、本開示に関して、「負極合材」は、そのままで又は他の成分を更に含有することによって、負活物質層を構成することができる組成物を意味している。また、本開示に関して、「負極合材スラリー」は、「負極合材」に加えて分散媒を含み、それによって塗布及び乾燥して負極活物質層を形成できるスラリーを意味している。
【0032】
〈シリコンクラスレート電極活物質〉
シリコンクラスレート電極活物質については、本開示のシリコンクラスレート電極活物質に関する上記の記載を参照できる。
【0033】
〈固体電解質〉
固体電解質の材料は、特に限定されず、リチウムイオン電池に用いられる固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。例えば、固体電解質は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、又はポリマー電解質等であってよく、好ましくは硫化物固体電解質である。
【0034】
硫化物固体電解質の例として、硫化物非晶質固体電解質、硫化物結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、LiS-P系(Li11、LiPS、Li等)、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-P-GeS(Li13GeP16、Li10GeP12等)、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li7-xPS6-xCl等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0035】
酸化物固体電解質の例として、LiLaZr12、Li7-xLaZr1-xNb12、Li7-3xLaZrAl12、Li3xLa2/3-xTiO、Li1+xAlTi2-x(PO、Li1+xAlGe2-x(PO、LiPO、又はLi3+xPO4-x(LiPON)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
硫化物固体電解質及び酸化物固体電解質は、ガラスであっても、結晶化ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。
【0037】
ポリマー電解質としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、及びこれらの共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
なお、負極合材中におけるシリコンクラスレート電極活物質と固体電解質との質量比(シリコンクラスレート電極活物質の質量:固体電解質の質量)は、85:15~30:70が好ましく、より好ましくは80:20~40:60である。
【0039】
〈導電助剤〉
導電助剤は、特に限定されない。例えば、導電助剤は、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)及び、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)、及びカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材、並びに金属材等であってよいが、これらに限定されない。
【0040】
〈バインダー〉
バインダーとしては、特に限定されない。例えば、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0041】
《負極活物質層》
本開示の負極活物質層は、本開示の負極合材を含有している。負極合材については、本開示の負極合材に関する上記の記載を参照できる。
【0042】
負極活物質層の厚さは、例えば、0.1~1000μmであってよい。
【0043】
《負極活物質層の製造方法》
負極活物質層を製造する本開示の方法は、本開示のシリコンクラスレート電極活物質、固体電解質、及び有機溶媒を混合すること、並びに混合により得られたスラリーを乾燥することを含む。
【0044】
固体電解質については、本開示の負極合材に関する上記の記載を参照できる。
【0045】
有機溶媒としては、無極性溶媒、例えば、ヘプタン、キシレン、及びトルエン等、並びに極性溶媒、例えば、エステル系溶媒、三級アミン系溶媒、エーテル系溶媒、チオール系溶媒、及びケトン系溶媒を挙げることができる。有機溶媒は、好ましくは極性溶媒であり、より好ましくはケトン系溶媒である。
【0046】
《固体リチウムイオン電池》
本開示の固体リチウムイオン電池は、本開示の負極活物質層を有する。また、本開示の固体リチウムイオン電池は、負極集電体層、本開示の負極活物質層、固体電解質層、及び正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に有していてもよい。更に、本開示のリチウムイオン電池は、上記各層の積層方向の両側からエンドプレート等の拘束部材によって拘束されていることができる。
【0047】
なお、本開示に関して、「固体電池」は、電解質として少なくとも固体電解質を用いる電池を意味しており、したがって固体電池は、電解質として、固体電解質と液体電解質との組み合わせを用いていてもよい。また、本開示の固体電池は、全固体電池、すなわち電解質として固体電解質のみを用いる電池であってもよい。
【0048】
本開示のリチウムイオン電池は、負極活物質層が本開示のシリコンクラスレート電極活物質を含有しているため、充電に伴う膨張が低減されることにより、充電に伴う拘束圧の上昇が抑制される。
【0049】
〈負極集電体層〉
負極集電体層に用いられる材料は、特に限定されず、電池の負極集電体として使用できるものを適宜採用することができ、例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン、樹脂集電体等であってよいが、これらに限定されない。
【0050】
負極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0051】
〈負極活物質層〉
負極活物質層については、本開示の負極活物質層に関する上記の記載を参照できる。
【0052】
〈固体電解質層〉
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。また、固体電解質層は、固体電解質以外に、必要に応じてバインダー等を含んでもよい。固体電解質及びバインダーについては、本開示の負極合材に関する上記の記載を参照できる。
【0053】
なお、固体電解質層は、リチウムイオン伝導性を有する電解液が含浸していてもよい。
【0054】
電解液は、電解液支持塩及び溶媒を含有することが好ましい。リチウムイオン伝導性を有する解液の支持塩(リチウム塩)としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF等の無機リチウム塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(FSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩が挙げられる。電解液に用いられる溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状エステル(環状カーボネート)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状エステル(鎖状カーボネート)が挙げられる。電解液は、2種以上の溶媒を含有することが好ましい。
【0055】
固体電解質層の厚さは、例えば、0.1~1000μmである。固体電解質層の厚さは、0.1~300μmであることが好ましく、更には0.1~100μmであることが特に好ましい。
【0056】
〈正極活物質層〉
正極活物質層は、正極活物質、並びに随意の固体電解質、導電助剤、及びバインダー等を含有している層である。
【0057】
正極活物質の材料は、特に限定されない。例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1+xMn2-x-yMyO(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等であってよいが、これらに限定されない。
【0058】
正極活物質は、被覆層を有していることができる。被覆層は、リチウムイオン伝導性能を有し、正極活物質や固体電解質との反応性が低く、かつ活物質や固体電解質と接触しても流動しない被覆層の形態を維持し得る物質を含有している層である。被覆層を構成する材料の具体例としては、LiNbOの他、LiTi12、LiPO等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0059】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0060】
固体電解質、導電助剤、及びバインダーについては、本開示の負極合材に関する上記の記載を参照できる。
【0061】
なお、正極活物質層が固体電解質を含有している場合、正極活物質層中における正極活物質と固体電解質との質量比(正極活物質の質量:固体電解質の質量)は、85:15~30:70が好ましく、より好ましくは80:20~40:60である。
【0062】
正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0063】
〈正極集電体層〉
正極集電体層に用いられる材料及び形状は、特に限定されず、本開示の負極活物質層に関する上記の記載を参照できる。なかでも、正極集電体層の材料は、アルミニウムであることが好ましい。また、形状は、箔状が好ましい。
【実施例0064】
《シリコンクラスレート電極活物質の合成》
〈合金化〉
(比較例1)
シリコン(Si)源として、Si粉末(高純度科学、SIEPB32)を準備した。このSi粉末及び金属リチウム(Li)を、Li/Si=4.0のモル比で秤量し、秤量したSi粉末及びLiを、アルゴン雰囲気において乳鉢で混合して、リチウムシリコン合金を得た。得られたリチウムシリコン合金を、アルゴン雰囲気においてエタノールと反応させて、更にフッ化水素(HF)で処理することで、一次粒子の内部に空隙を有する粉末、すなわちポーラス構造を有するSi粉末を得た。
【0065】
ポーラス構造を有するSi粉末及び、ナトリウム(Na)源としての水素化ナトリウム(NaH)を用いて、ナトリウムシリコン(NaSi)合金を製造した。なお、NaHとしては、予めヘキサンで洗浄したものを用いた。NaH及びポーラス構造を有するSi粉末をモル比で1.05:1となるように秤量し、秤量したNaH及びポーラス構造を有するSi粉末を、カッターミルで混合した。得られた混合物を、加熱炉にてアルゴン雰囲気下、500℃、40時間の条件で加熱することにより、粉末状のNaSi合金を得た。
【0066】
〈クラスレート化〉
得られたNaSi合金及びフッ化アルミニウム(AlF)をモル比で1:0.35となるように秤量し、秤量したNaSi合金及びAlFをカッターミルで混合して、反応原料を得た。得られた粉末状の反応原料をステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にてアルゴン雰囲気下、310℃、60時間の条件で加熱して、シリコンクラスレートを含む反応生成物を得た。得られた反応生成物を、減圧及びガス置換可能な装置に入れ、装置内を常温にて減圧した後、大気導入して酸化させた。酸化した反応生成物を、HNO及びHOを体積比10:90で混合した混合溶媒を用いて酸洗浄して、反応生成物中の副生成物を除去した。洗浄後、濾過し、濾別された固形分を120℃で3時間以上乾燥して、粉末状のシリコンクラスレート電極活物質を得た。更に得られた物質を3wt%HF溶液にて洗浄し、濾過した後、120℃で3時間以上乾燥することで、比較例1のシリコンクラスレート電極活物質を得た。
【0067】
(実施例1)
クラスレート化における加熱時間を20時間としたこと、及び酸化を実施しなかったこと以外は比較例1と同様にして、実施例1のシリコンクラスレート電極活物質を得た。
【0068】
(実施例2)
クラスレート化における酸化を実施しなかったこと以外は比較例1と同様にして、実施例2のシリコンクラスレート電極活物質を得た。
【0069】
(実施例3)
クラスレート化において、大気流入量が比較例1の1/100となるように大気を導入して酸化させたこと以外は比較例1と同様にして、実施例3のシリコンクラスレート電極活物質を得た。
【0070】
各例のシリコンクラスレート電極活物質は、クラスレートII型の結晶相を有していた。
【0071】
《リチウムイオン電池の作製》
各例のシリコンクラスレート電極活物質を用いて、以下のようにして各例のリチウムイオン電池を作製した。
【0072】
〈負極合材の調製〉
ポリプロピレン製容器にケトン系溶媒、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダーの5wt%ケトン系溶液、導電助剤としての気相法炭素繊維(VGCF)、合成したシリコンクラスレート電極活物質、及び硫化物固体電解質としてのLiS-P系ガラスセラミックを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間攪拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせて、スラリー状の負極合材(負極合材スラリー)を得た。
【0073】
〈負極活物質層の形成〉
得られた負極合材スラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて負極集電体層としての銅(Cu)箔上に塗工し、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥させることで、負極集電体層上に負極活物質層を形成した。
【0074】
〈固体電解質層の形成〉
ポリプロピレン製容器にヘプタン、ブチレンゴム(BR)系バインダーの5wt%ヘプタン溶液、及び硫化物固体電解質としてのLiSP系ガラスセラミックを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間攪拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせて、固体電解質スラリーを得た。
【0075】
得られた固体電解質スラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて剥離シートとしてのアルミニウム(Al)箔上に塗工し、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥させることによって固体電解質層を形成した。固体電解質層は、3つ作製した。
【0076】
〈正極合材の調製〉
ポリプロピレン製容器にケトン系溶媒、PVDF系バインダーの5wt%ケトン系溶液、正極活物質としての平均粒径6μmのLiNi1/3Co1/3Mn1/3、硫化物固体電解質としてLiS-P系ガラスセラミック、導電助剤としてVGCFを容器に加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間攪拌した。
次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で3分間振とうさせ、更に超音波分散装置で30秒間攪拌し、振とう器で3分間振とうして、正極合材スラリーを得た。
【0077】
〈正極活物質層の形成〉
得られた正極合材スラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて正極集電体層としてのAl箔上に塗工し、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥させることによって、正極集電体層上に正極活物質層を形成した。
【0078】
〈電池の組立て〉
正極集電体層、正極活物質層、及び1つ目の固体電解質層をこの順で積層した。この積層物をロールプレス機にセットし、100kN/cmのプレス圧力及び165℃のプレス温度でプレスすることによって、正極積層体を得た。
【0079】
負極集電体層、負極活物質層、及び2つ目の固体電解質層をこの順で積層した。この積層物をロールプレス機にセットし、60kN/cmのプレス圧力及び25℃のプレス温度でプレスすることによって、負極積層体を得た。
【0080】
更に、正極積層体及び負極積層体の固体電解質層表面から、剥離シートとしてのAl箔を剥離させた。次いで、3つ目の固体電解質層から剥離シートとしてのAl箔を剥離させた。
【0081】
正極積層体及び負極積層体それぞれの固体電解質層と3つ目の固体電解質層とが対向するようにして、これらを互いに積層し、この積層体を平面一軸プレス機にセットし、100MPa及び25℃で、10秒にわたって仮プレスし、最後にこの積層体を平面一軸プレス機にセットし、200MPaのプレス圧力及び120℃のプレス温度で、1分間にわたってプレスした。これによって、全固体電池を得た。
【0082】
《評価〉
〈ナトリウム化合物の質量のシリコンクラスレート電極活物質及びナトリウム化合物の合計質量に対する割合〉
比較例1及び実施例1~3で得られたシリコンクラスレート電極活物質に対して、X線光電子分光装置(アルバックファイ社、VersaProbe II)を用いてXPS測定を行った。ナトリウム化合物の質量のシリコンクラスレート電極活物質及びナトリウム化合物の合計質量に対する割合は、XPS測定結果における、1072eV~1076eVの範囲の面積の、1070eV~1076eVの範囲の面積に対する割合として算出した。また、得られたピークから、ナトリウム化合物は少なくとも酸化ナトリウム及びケイ酸ナトリウムのいずれか一方であると推定された。
【0083】
〈膨張量〉
各例の全固体電池を、拘束治具を用いて所定の拘束圧にて拘束し、10時間率(1/10C)で4.55Vまで定電流-定電圧充電した際の、拘束圧変動量を測定した。この拘束圧変動量を本開示における膨張量とした。なお、拘束圧変動量は、拘束圧の最高値と最低値の差であり、実施例の値は、比較例1の値を100とした場合の相対値として示している。
【0084】
《結果》
各例のシリコンクラスレート電極活物質及びナトリウム化合物の合計質量に対するナトリウム化合物の質量の割合(ナトリウム化合物の質量分率)、及びシリコンクラスレート電極活物質の膨張量を、表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示されるように、ナトリウム化合物の質量のシリコンクラスレート電極活物質及びナトリウム化合物の合計質量に対する割合が本開示の範囲内である実施例1~3の電池は、比較例1の電池よりも膨張量が小さかった。
図1