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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160584
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び固定円板
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075742
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 謙太
(72)【発明者】
【氏名】中辻 重義
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA02
3H131CA01
3H131CA35
(57)【要約】
【課題】複数の固定円板間の熱の移動を抑制できる真空ポンプ及び固定円板を提供する。
【解決手段】外筒(ケーシング)127と、外筒127の内部で回転自在に支持されたロータ軸(回転軸)113と、ロータ軸113と共に回転する複数の回転円板200と、複数の回転円板200の間に交互に配置される複数の固定円板201と、を備え、複数の回転円板200と複数の固定円板201との相互作用により、ガスを排気するターボ分子ポンプ(真空ポンプ)100であって、複数の固定円板201は、第1固定円板201aと、第1固定円板201aと軸方向において隣り合う第2固定円板201bとを含み、第1固定円板201aは、第2固定円板201bと当接して軸方向の位置決めを行う外周側凸部(第1当接部)210を有し、外周側凸部210は、第2固定円板201bとの間に設けられた空間部216を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、
前記回転軸と共に回転する複数の回転円板と、
前記複数の回転円板の間に交互に配置される複数の固定円板と、を備え、
前記複数の回転円板と前記複数の固定円板との相互作用により、ガスを排気する真空ポンプであって、
前記複数の固定円板は、第1固定円板と、前記第1固定円板と軸方向において隣り合う第2固定円板とを含み、
前記第1固定円板は、前記第2固定円板と当接して、前記第2固定円板との少なくとも前記軸方向の位置決めを行う第1当接部を有し、
前記第1当接部は、前記第2固定円板との当接箇所に設けられた空間部を有する、
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記第1当接部は、
前記第1固定円板の周縁に沿って設けられ、前記第2固定円板と当接して前記第2固定円板との前記軸方向の位置決めを行う円環状の第1外周側凸部と、
前記第1外周側凸部より径方向内側に設けられ、前記第2固定円板と係合して前記第2固定円板との径方向及び周方向の少なくとも一方向の位置決めを行う円環状の第1内周側凸部と、を含み、
前記空間部は、前記第1外周側凸部と前記第1内周側凸部との間に形成された第1凹部である、
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の真空ポンプにおいて、
前記第2固定円板は、前記第1当接部と当接する第2当接部を有し、
前記第2当接部は、
前記第2固定円板の周縁に沿って設けられた円環状の第2外周側凸部と、
前記第2外周側凸部より径方向内側に設けられた円環状の第2内周側凸部と、
前記第2外周側凸部と前記第2内周側凸部との間に形成された第2凹部と、を含み、
前記第1外周側凸部が前記第2外周側凸部と当接することで、前記第1固定円板と前記第2固定円板とが前記軸方向に対して位置決めされ、
前記第1内周側凸部が前記第2内周側凸部と係合することで、前記第1固定円板と前記第2固定円板とが径方向及び周方向に対して位置決めされる、
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の真空ポンプにおいて、
前記複数の回転円板のうち少なくとも1つと、当該少なくとも1つの回転円板と対面する前記複数の固定円板のうち少なくとも1つとのどちらか一方の対向面には、渦巻き状溝が設けられたシグバーン排気機構を備える、
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の真空ポンプにおいて、
前記第1固定円板及び前記第2固定円板は、それぞれ複数に分割されている、
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項6】
請求項4に記載の真空ポンプにおいて、
前記第1内周側凸部または前記第2内周側凸部の少なくとも一方に設けられた周方向位置決め部を備え、
前記周方向位置決め部によって、折り返し部の前記渦巻き状溝のうち少なくとも1つの出口側開口部と入口側開口部が軸方向からみて一致する、
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項7】
真空ポンプの回転軸と共に回転する複数の回転円板の間に配置される固定円板であって、
前記固定円板は、軸方向において隣り合う別の固定円板と当接して、少なくとも前記軸方向の位置決めを行う当接部を有し、
前記当接部は、前記別の固定円板との当接箇所に設けられた空間部を有する、
ことを特徴とする固定円板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ及び固定円板に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1には、「複数段の動翼が形成されたロータと、動翼に対して交互に配置される複数段の静翼と、吸気口フランジが形成されたポンプケーシングと、ポンプケーシングのスペーサ係止部とポンプベースとの間に積層されるように挟持され、複数段の静翼を所定位置に保持する複数のスペーサとを備えたターボ分子ポンプにおいて、複数段の静翼の一段分を挟む一対のスペーサの接触面の一方を凹凸面としたことを特徴とするターボ分子ポンプ」が記載されている。
【0003】
そして、特許文献1によれば、「静翼を挟む一対のスペーサの接触面の一方を凹凸面としてスペーサ間の接触面積を小さくしたり、スペーサ係止部のスペーサとの接触面を凹凸面としてスペーサとの接触面積を小さくしたことにより、ポンプケーシングからスペーサへの伝導熱を低減することができる。その結果、スペーサや静翼の温度上昇が抑えられ、静翼からの熱輻射によるロータ温度の温度上昇を抑制することができる」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-152958号公報
【特許文献2】特許第6353195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、真空ポンプには、シグバーン排気機構を備えた構成のものがある(特許文献2参照)。シグバーン排気機構とは、スパイラル状溝が形成された複数の固定円板と、複数の回転円板との相互作用によりガスを排気する機構である。シグバーン排気機構において、ガスの流れの下流側はヒータにより加熱されているのに対して、上流側は冷却媒体により冷却されている。そのため、複数の固定円板を介して熱が高温側から低温側に移動するのを防止することは非常に重要である。しかしながら、特許文献1では、スペーサや静翼の温度上昇を抑制することについて言及されているものの、複数の固定円板間の熱の移動を抑制することについて何ら言及されていない。
【0006】
そこで、本発明は、複数の固定円板間の熱の移動を抑制できる真空ポンプ及び固定円板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、ケーシングと、前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸と共に回転する複数の回転円板と、前記複数の回転円板の間に交互に配置される複数の固定円板と、を備え、前記複数の回転円板と前記複数の固定円板との相互作用により、ガスを排気する真空ポンプであって、前記複数の固定円板は、第1固定円板と、前記第1固定円板と軸方向において隣り合う第2固定円板とを含み、前記第1固定円板は、前記第2固定円板と当接して、前記第2固定円板との少なくとも前記軸方向の位置決めを行う第1当接部を有し、前記第1当接部は、前記第2固定円板との当接箇所に設けられた空間部を有する、ことを特徴とする。
【0008】
上記構成において、前記第1当接部は、前記第1固定円板の周縁に沿って設けられ、前記第2固定円板と当接して前記第2固定円板との前記軸方向の位置決めを行う円環状の第1外周側凸部と、前記第1外周側凸部より径方向内側に設けられ、前記第2固定円板と係合して前記第2固定円板との径方向及び周方向の少なくとも一方向の位置決めを行う円環状の第1内周側凸部と、を含み、前記空間部は、前記第1外周側凸部と前記第1内周側凸部との間に形成された第1凹部である、ことを特徴とする。
【0009】
上記構成において、前記第2固定円板は、前記第1当接部と当接する第2当接部を有し、前記第2当接部は、前記第2固定円板の周縁に沿って設けられた円環状の第2外周側凸部と、前記第2外周側凸部より径方向内側に設けられた円環状の第2内周側凸部と、前記第2外周側凸部と前記第2内周側凸部との間に形成された第2凹部と、を含み、前記第1外周側凸部が前記第2外周側凸部と当接することで、前記第1固定円板と前記第2固定円板とが前記軸方向に対して位置決めされ、前記第1内周側凸部が前記第2内周側凸部と係合することで、前記第1固定円板と前記第2固定円板とが径方向及び周方向に対して位置決めされる、ことを特徴とする。
【0010】
上記構成において、前記複数の回転円板のうち少なくとも1つと、当該少なくとも1つの回転円板と対面する前記複数の固定円板のうち少なくとも1つとのどちらか一方の対向面には、渦巻き状溝が設けられたシグバーン排気機構を備える、ことを特徴とする。
【0011】
上記構成において、前記第1固定円板及び前記第2固定円板は、それぞれ複数に分割されている、ことを特徴とする。
【0012】
上記構成において、前記第1内周側凸部または前記第2内周側凸部の少なくとも一方に設けられた周方向位置決め部を備え、前記周方向位置決め部によって、折り返し部の前記渦巻き状溝のうち少なくとも1つの出口側開口部と入口側開口部が軸方向からみて一致する、ことを特徴とする。
【0013】
また、上記目的を達成するために、本発明の別態様は、真空ポンプの回転軸と共に回転する複数の回転円板の間に配置される固定円板であって、前記固定円板は、軸方向において隣り合う別の固定円板と当接して、少なくとも前記軸方向の位置決めを行う当接部を有し、前記当接部は、前記別の固定円板との当接箇所に設けられた空間部を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の固定円板間の熱の移動を抑制することができる。なお、上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図である。
図2図1に示すターボ分子ポンプのアンプ回路の回路図である。
図3】電流指令値が検出値より大きい場合におけるアンプ制御回路の制御を示すタイムチャートである。
図4】電流指令値が検出値より小さい場合におけるアンプ制御回路の制御を示すタイムチャートである。
図5図1に示すA部の拡大図である。
図6】固定円板の平面図である。
図7】固定円板の裏面図である。
図8】固定円板が有する内周側凸部を示す説明図である。
図9図5に示すB部の拡大図である。
図10図6に示すC部の拡大図である。
図11図7に示すD部の拡大図である。
図12】固定円板の周方向の位置決め状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る真空ポンプの実施形態について、ターボ分子ポンプを例に挙げて、図面を参照しながら説明する。
【0017】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金、あるいはステンレスなどの金属によって構成されている。
【0018】
また、図1に示すように、回転体103の外周側には、外周部品である水冷スペーサ128及びアウターウォール126が配置されている。水冷スペーサ128は、温度調整手段である円環状の冷却管110と、温度センサ(不図示)とが内蔵されたリング状の部材である。この冷却管110に冷却水が供給されることで、水冷スペーサ128の周辺の部品が冷却される。すなわち、回転体103の回転により発生した熱は、水冷スペーサ128によって冷却される。アウターウォール126は、ターボ分子ポンプ100の略下半分を囲う円筒状の部材である。水冷スペーサ128とアウターウォール126とは、外筒127の下方に、外筒127と同軸上に順に並べて配置される。これら外筒127、水冷スペーサ128、及びアウターウォール126は、複数のボルト115により締結されて一体化されており、ベース部129と共に回転体103を収容するターボ分子ポンプ100の外装体(ケーシング)を構成している。
【0019】
ここで、水冷スペーサ128は、後述する固定翼スペーサ125としての機能も備えている。すなわち、水冷スペーサ128(特定スペーサ)は、複数の固定翼スペーサ125のうちの1つ(1段)を構成している。なお、水冷スペーサ128は、外筒127やアウターウォール126より熱伝導率の高い部材、例えば、アルミ材からなる。
【0020】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置195に送るように構成されている。
【0021】
この制御装置195においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0022】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0023】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置195に送られるように構成されている。
【0024】
そして、制御装置195において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0025】
このように、制御装置195は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0026】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置195によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0027】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置195では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0028】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。これら複数段の回転翼102と複数段の固定翼123とにより、ターボポンプ部が構成される。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。なお、前述した水冷スペーサ128は、内装部品である複数の固定翼123の1つと熱的に接触している。
【0029】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0030】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部(より詳細には、アウターウォール126の底部)にはベース部129が配設されている。ベース部129の上方には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に向かって移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0031】
さらに、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、シグバーン型ポンプ部131が配設される。シグバーン型ポンプ部131は、回転翼102(102a、102b、102c・・・)や固定翼123(123a、123b、123c・・・)等により構成される上方のターボポンプ部の次段に、空間的に連続するように形成されている。
【0032】
シグバーン型ポンプ部131は、ロータ軸113と共に回転する複数の回転円板200と、複数の回転円板200の間に交互に配置される複数の固定円板201とを有している。これら回転円板200及び固定円板201は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0033】
回転円板200は、筒状の回転体103に一体に形成されており、回転体103の回転に伴い、ロータ軸113及び回転体103と同じ方向に回転する。つまり、回転円板200は、回転翼102(102a、102b、102c・・・)とも一体的に回転する。
【0034】
固定円板201は、本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)に一体的に設けられている。そして、ロータ軸113の軸方向に並ぶ上下の2段の回転円板200の間に、1段の固定円板201が入り込んでいる。
【0035】
詳細については後述するが、固定円板201と回転円板200との間には、断面形状が組形状な多数の山部202が突出するように形成されている。さらに、隣り合った山部202の間には、渦巻き状溝流路であるシグバーン渦巻き状溝部203が形成されている。回転翼102及び固定翼123によって移送されてきた排気ガスは、シグバーン型ポンプ部131のシグバーン渦巻き状溝部203に案内されつつベース部129へと送られる。
【0036】
そして、シグバーン渦巻き状溝部203に案内された排気ガスは、ベース部129の上方に形成された環状空間135へと送られ、環状空間135を周回しながら排気口133を介して外部に排出される。この環状空間135は、シグバーン型ポンプ部131の固定円板201、ヒータスペーサ153、及びベース部129とで仕切られた環状の空間である。
【0037】
ここで、固定部品であるヒータスペーサ153は、円筒状に形成された部材であり、本実施形態ではシグバーン型ポンプ部131と別体で構成される。勿論、ヒータスペーサ153はシグバーン型ポンプ部131と一体で構成されて、シグバーン型ポンプ部131の一部を構成しても良い。ヒータスペーサ153は、例えばアルミニウムやステンレス等の金属により構成される。ヒータスペーサ153には加熱手段としてのヒータ190が差し込まれており、ヒータ190が発熱することで、ヒータスペーサ153を介してシグバーン型ポンプ部131が加熱される。また、ヒータ190により、環状空間135を流れる排気ガスも加熱される。これにより、排気ガスの温度低下による堆積物の生成が抑制される。また、インナースペーサ154は、例えばステンレスなどの金属によって構成された円筒状の部材であり、水冷スペーサ128と水冷スペーサ128より下側の固定翼スペーサ125及びシグバーン型ポンプ部131との間を断熱する。
【0038】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0039】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、シグバーン型ポンプ部131に到達する。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0040】
また、シグバーン型ポンプ部131に到達したガスは、最上流のシグバーン渦巻き状溝部203に流入し、深さ方向(ロータ軸113の軸方向)において徐々に狭まる通路を通る。その後のガスは、折り返し部(図5参照)や一定深さのシグバーン渦巻き状溝部203を経て、ベース部129へと移送される。
【0041】
なお、固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0042】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0043】
この場合には、ベース部129に設けられたパージポート160を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通り、排気口133から外へ送出される。なお、図1に示す通り、ステータコラム122は、ベース部129の中心位置に立設している。また、本実施形態では、ベース部129に冷却手段としての水冷管149が設けられている。この水冷管149に冷却水が供給されることで、ベース部129及びステータコラム122は好適な温度に保たれている。
【0044】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0045】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0046】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やシグバーン型ポンプ部131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0047】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0048】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0049】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0050】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0051】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0052】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0053】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置195の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0054】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0055】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0056】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0057】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0058】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0059】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0060】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0061】
次に、本実施形態に係るターボ分子ポンプ100の特徴部分であるシグバーン型ポンプ部131について、詳しく説明する。
【0062】
図5は、図1に示すA部の拡大図であり、シグバーン型ポンプ部131のガス流路を示している。図6は、固定円板201の平面図である。図7は、固定円板201の裏面図である。図8は、固定円板201が有する内周側凸部を示す説明図である。図9は、図5に示すB部の拡大図である。図10は、図6に示すC部の拡大図である。図11は、図7に示すD部の拡大図である。図12は、固定円板201の周方向の位置決め状態を示す説明図である。
【0063】
シグバーン型ポンプ部131は、ロータ軸113の軸方向に沿って重なる複数枚の固定円板201を備えている。以下の説明では、軸方向に重なる3枚の固定円板201について、上段から順に201a、201b、201cの符号を付して説明する。ここで、最下段の固定円板201cは円環状の一体品として形成されており、この固定円板201cはヒータスペーサ153上に周方向に位置決めされた状態で固定されている。ここで、周方向の位置決めには、例えば位置決めピンが用いられて良い。また、残りの最上段と2段目の固定円板201a、201bは、2分割された半割形状の分割品として形成されている。このように固定円板201a、201bを分割品として形成すると、分割された各固定円板201をロータ軸113の側方から組み込むことが可能となり、組立作業性が良好となる。
【0064】
固定円板201の板面には、断面形状が矩形状な多数の山部202が突出するように形成されている。さらに、隣り合った山部202の間には、渦巻き状溝流路であるシグバーン渦巻き状溝部203が形成されている。最上段と2段目の固定円板201a、201bについては、表裏両方の板面に多数の山部202が形成されている。また、最下段の固定円板201cについては、表側の板面にのみ多数の山部202が形成されている。
【0065】
そして、ロータ軸113の軸方向に並ぶ上下2段の回転円板200の間に、1段の固定円板201が入り込むことにより、図5の矢印で示すように、シグバーン型ポンプ部131の内部を通るガス流路が形成される。すなわち、シグバーン型ポンプ部131に到達したガスは、最上段の回転円板200と最上段の固定円板201aの外周側からシグバーン渦巻き状溝部203に流入し、シグバーン渦巻き状溝部203を通って最上段の折り返し部(図5のB部)に至る。その後のガスは、最上段の折り返し部からシグバーン渦巻き状溝部203を通って次段の折り返し部に至り、さらに、次段の折り返し部からシグバーン渦巻き状溝部203を通ってベース部129へと移送される。
【0066】
図6図7に示すように、固定円板201の板面には、周縁に沿って配置される外周側凸部210が形成されている。前述したように、最上段と2段目の固定円板201a、201bは2分割品であり、2分割品を組み合わせた状態の固定円板201a、201bにおいて、表裏両側の板面の周縁に沿って外周側凸部210が円環状に形成されている。
【0067】
固定円板201の表側の板面には、外周側凸部210より径方向内側に配置される内周側凸部211が形成されている。また、固定円板201の裏側の板面には、外周側凸部210より径方向内側に配置される内周側凸部212が形成されている。表側の内周側凸部211は、断面形状がL字状に形成されており、裏側の内周側凸部212は、断面形状が逆L字状に形成されている。すなわち、2分割品を組み合わせた状態の固定円板201a、201bにおいて、表側の板面の周縁に沿って外周側凸部210が円環状に形成され、外周側凸部210より径方向内側に内周側凸部211が円環状に形成されている。また、裏側の板面の周縁に沿って外周側凸部210が円環状に形成され、外周側凸部210より径方向内側に内周側凸部212が円環状に形成されている。さらに、最下段の固定円板201cについては、表側の板面の周縁に沿って外周側凸部210が円環状に形成され、外周側凸部210より径方向内側に内周側凸部211が円環状に形成されている。
【0068】
表側の外周側凸部210と内周側凸部211との間、及び、裏側の外周側凸部210と内周側凸部212との間には、それぞれ環状の凹部213が形成されている。また、図8図12に示すように、固定円板201の表側の内周側凸部211には、位置決め溝214が形成されている。さらに、図8図12に示すように、固定円板201の裏側の内周側凸部212には、位置決め溝214と対向する部位に位置決め突部215が形成されている。図6図10に示される半割形状の固定円板201には、位置決め溝214と位置決め突部215が1つずつ形成されているが、2分割品を組み合わせた固定円板201の表側の板面には、180度離れた2か所に位置決め溝214が形成され、固定円板201の裏側の板面には、位置決め溝214と対向する2か所に位置決め突部215が形成されている。なお、これとは逆に、固定円板201の表側の板面に位置決め突部215を形成し、裏側の板面に位置決め溝214を形成しても良い。また、位置決め溝214と位置決め突部215の対は、固定円板201の少なくとも2か所に形成されていれば良く、例えば、位置決め溝214と位置決め突部215の対を、固定円板201の板面に120度の間隔を存して形成しても良い。
【0069】
図5図9に示すように、軸線方向に重なる2枚の固定円板201は、下段側と上段側の固定円板201に形成された外周側凸部210どうしが当接することにより、軸方向の位置決めが行われている。また、下段側の固定円板201に形成された内周側凸部211と上段側の固定円板201に形成された内周側凸部212とが凹凸係合することにより、径方向の位置決めが行われている。ただし、内周側凸部211と内周側凸部212は、軸方向については非接触(すなわち、僅かの隙間を有している)となっており、軸方向の位置決めには関与していない。
【0070】
さらに、図12に示すように、軸線方向に重なる2枚の固定円板201は、下段側の固定円板201の内周側凸部211に形成された位置決め溝214に、上段側の固定円板201の内周側凸部212に形成された位置決め突部215が嵌まり込むことにより、周方向の位置決めが行われている。このように上下2段の固定円板201が周方向の位置決めされると、図5に示すガス流路の折り返し部において、シグバーン渦巻き状溝部203の出口側開口部と入口側開口部を軸方向からみて一致させることができる。なお、位置決め溝214と位置決め突部215も軸方向については非接触となっており、軸方向の位置決めには関与していない。したがって、固定円板201に多少の寸法誤差があったとしても、軸線方向に重なる2枚の固定円板201は、互いの外周側凸部210の当接箇所で軸方向の位置決めが行われると共に、互いの内周側凸部211,212の係合箇所で径方向の位置決めが行われ、かつ、位置決め溝214と位置決め突部215の嵌合箇所で周方向の位置決めがそれぞれ確実に行われる。
【0071】
そして、外周側凸部210の径方向位置は、外筒127と固定翼スペーサ125との当接位置および固定翼スペーサ125どうしの当接位置および固定翼スペーサ125と水冷スペーサ128との当接位置および固定翼スペーサ125と固定円板201との当接位置が全て径方向位置で同じになっている。これにより、外筒127をボルト115で固定した際に掛かる荷重が、前述の径方向位置において、軸方向に一直線に掛かるため、断熱のために接触面積を限定している構造であっても、固定円板201に傾きを生じさせる力が作用せず、安定して固定をすることが可能となる。
【0072】
このように軸方向と径方向及び周方向に位置決めされた状態で重ねられた複数段の固定円板201においては、外周側凸部210と内周側凸部211間、及び外周側凸部210と内周側凸部212間に存する凹部213が上下で繋がることにより、軸線方向に沿って並ぶ複数の空間部216が形成される。これら空間部216は断熱部として機能し、ヒータスペーサ153からの熱が複数段の固定円板201を介してシグバーン型ポンプ部131の上方の冷却部分に伝わるのを抑制する。
【0073】
すなわち、シグバーン型ポンプ部131の下面はヒータスペーサ153に接触しており、ヒータ190からの熱がヒータスペーサ153を介して固定円板201を加熱することにより、シグバーン型ポンプ部131のガス流路を流れるガスが過熱される。これにより、ガス流路を流れるガスの液化や固化を防止でき、特に、ガス流路内に個体生成物としてのガス分子が堆積することを防止できる。ただし、シグバーン型ポンプ部131は、複数段の固定円板201を軸方向に重ねた構造となっているため、ヒータスペーサ153からの熱が複数段の固定円板201を介して水冷スペーサ128に伝わると、水冷スペーサ128によるターボ分子ポンプ100の上流側内部の冷却効果が低下してしまう。
【0074】
本実施形態では、複数段に重ねられた固定円板201の外周側凸部210と内周側凸部211,212と間に、軸線方向に沿って並ぶ複数の空間部216が形成されているため、ヒータスペーサ153からの熱が空間部216によって水冷スペーサ128に伝わり難いものとなっている。
【0075】
次に、このように構成された本実施形態の効果について説明する。
【0076】
本実施形態に係るターボ分子ポンプ100は、回転翼102や固定翼123等からなるポンプ部の下方に配置されるシグバーン型ポンプ部131が、ロータ軸113と共に回転する複数の回転円板200と、複数の回転円板200の間に交互に配置される複数の固定円板201とを有し、複数段に重ねられた固定円板201に軸線方向に沿って並ぶ複数の空間部216が形成されているため、ヒータスペーサ153からの熱が水冷スペーサ128に伝わり難い構造となっている。したがって、ヒータスペーサ153による固定円板201の加熱効果を確保しつつ、水冷スペーサ128による冷却効果の低下を抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態では、シグバーン型ポンプ部131の構成部材である固定円板201の組立体に関し、軸方向に重なる2枚の固定円板201を、軸方向だけでなく径方向及び周方向にも位置決めした状態で積層することができる。具体的には、下段側と上段側の固定円板201に形成された外周側凸部210どうしが当接することで軸方向の位置決めを行い、下段側の固定円板201に形成された内周側凸部211と上段側の固定円板201に形成された内周側凸部212とが凹凸係合することで径方向の位置決めを行っている。さらに、下段側の固定円板201に形成された内周側凸部211と上段側の固定円板201に形成された内周側凸部212とが凹凸係合することで径方向の位置決めを行っている。
【0078】
しかも、径方向の位置決めを行う内周側凸部211と内周側凸部212は、軸方向については非接触となっており、同様に、周方向の位置決めを行う位置決め溝214と位置決め突部215も、軸方向については非接触となっており、いずれも軸方向の位置決めには関与しない構造となっている。したがって、固定円板201に多少の寸法誤差があったとしても、軸線方向に重なる2枚の固定円板201は、互いの外周側凸部210の当接箇所で軸方向の位置決めが行われると共に、互いの内周側凸部211,212の係合箇所で径方向の位置決めが行われ、かつ、位置決め溝214と位置決め突部215の係合箇所(嵌合箇所)で周方向の位置決めがそれぞれ確実に行われることになる。なお、本実施形態では、内周側凸部211,212の係合により径方向及び周方向の位置決めを同時に行っているが、内周側凸部211,212にて径方向と周方向のうち一方向の位置決めを行い、他方向の位置決めは別の部材により行っても良い。
【0079】
また、本実施形態では、複数枚の固定円板201のうち、最下段の固定円板201cを除く残りの固定円板201a、201bが2分割された半割形状の分割品として形成されているため、分割された各固定円板201をロータ軸113の側方から組み込むことが可能となり、組立作業性が良好となる。なお、積層される固定円板201の数は3枚に限定されず、そのうち分割される固定円板201の数も特に限定されるものではない。また、固定円板201の分割数も2分割に限定されず、3分割以上としても良い。
【0080】
なお、本実施形態においては、軸方向に重なる2枚の固定円板201のうち、上段側の固定円板201が第1固定円板で、下段側の固定円板201が第2固定円板となる。すなわち、最上段の固定円板201aと2段目の固定円板201bについてみると、最上段の固定円板201aが第1固定円板で、2段目の固定円板201bが第2固定円板に相当する。また、2段目の固定円板201bと3段目の固定円板201bについてみると、2段目の固定円板201bが第1固定円板で、3段目の固定円板201bが第2固定円板に相当する。
【0081】
そして、第1固定円板に相当する固定円板201(例えば固定円板201a)のうち、外周側凸部210(第1外周側凸部)と、内周側凸部212(第1内周側凸部)と、凹部213(第1凹部)とが本発明の第1当接部に相当する(図9参照)。このうち外周側凸部210が下段側の第2固定円板に相当する固定円板201(例えば固定円板201b)の外周側凸部210に当接して軸方向の位置決めを行い、内周側凸部212が固定円板201bの内周側凸部211と係合して周方向及び径方向の位置決めを行う。そして、凹部213が、固定円板201aと固定円板201bとの当接箇所に設けられた空間部216である。
【0082】
また、第2固定円板に相当する固定円板201(例えば固定円板201b)のうち、外周側凸部210(第2外周側凸部)と、内周側凸部211(第2内周側凸部)と、凹部213(第2凹部)とが本発明の第2当接部に相当する(図9参照)。このうち外周側凸部210が上段側の第1固定円板に相当する固定円板201(例えば固定円板201a)の外周側凸部210に当接して軸方向の位置決めを行い、内周側凸部211が固定円板201aの内周側凸部212と係合して周方向及び径方向の位置決めを行う。そして、凹部213が、固定円板201bと固定円板201aとの当接箇所に設けられた空間部216である。
【0083】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例や組合せ例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
100 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
101 吸気口
102 回転翼
103 回転体
113 ロータ軸(回転軸)
123 固定翼
127 外筒(ケーシング)
128 水冷スペーサ
129 ベース部
131 シグバーン型ポンプ部
133 排気口
153 ヒータスペーサ
190 ヒータ
200 回転円板
201(201a、201b、201c) 固定円板
202 山部
203 シグバーン渦巻き状溝部
210 外周側凸部(第1当接部、第2当接部)
211、212 内周側凸部(第1当接部、第2当接部)
213 凹部(第1当接部、第2当接部)
214 位置決め溝
215 位置決め突部
216 空間部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12