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特開2024-160593回転容積型の一軸偏心ポンプを用いた解析システム、方法、及びコンピュータプログラム、並びに、解析システムに用いる解析装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160593
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】回転容積型の一軸偏心ポンプを用いた解析システム、方法、及びコンピュータプログラム、並びに、解析システムに用いる解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/00 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
G01N19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075762
(22)【出願日】2023-05-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年1月25日 AROB-ISBC-SWARM 2023(オンライン学会)における公開
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100167911
【弁理士】
【氏名又は名称】豊島 匠二
(72)【発明者】
【氏名】小川 純
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】川上 勝
(72)【発明者】
【氏名】古川 英光
(57)【要約】
【課題】物体の移送時にポンプから得られる情報を利用して、物体の特性を解析するシステム、方法、及びコンピュータプログラム等を提供する。
【解決手段】雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、挿通孔に挿通された状態で偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプと、一軸偏心ポンプによる物体の移送時にステータに生じる挙動を感知するセンサと、センサを通じて得られたセンサ情報を利用して物体の特性を解析する解析装置と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、
前記挿通孔に挿通された状態で偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプと、
前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサと、
前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析する解析装置と、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記物体の粘度が67~6641mPa・sの場合、前記ステータのヤング率を90~177kPaに設定し、前記物体の粘度が2.0×105 ~7.0×105mPa・sの場合、前記ステータのヤング率を83~817kPaに設定した、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記センサは、前記ステータに生じる振動を感知する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記解析装置は、
前記センサを通じて得られた振動波形をデジタル変換するデジタル変換部と、
前記デジタル変換器でデジタル変換された振動波形をフーリエ変換するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換部でフーリエ変換することにより得られた振幅スペクトルの複数個のピークの中のn%に相当する個数分の振幅スペクトルを、より小さなピークを示す振幅スペクトルを優先しつつ除去するノイズ処理部と、
前記ノイズ処理部でノイズを除去した振幅スペクトルを逆フーリエ変換することで前記振動波形を復元する逆フーリエ変換部と、
を備える請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記センサは、圧電素子である、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記圧電素子は、前記ステータの外表面に設置される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記解析装置は、解析された前記物体の特性に応じて前記一軸偏心ポンプの動作を調整する調整部を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記解析装置は、
前記センサ情報を取得するセンサ情報取得部と、
前記物体に関する物体情報を取得する物体情報取得部と、
訓練データとしての前記センサ情報及び前記物体情報に基づき、前記センサ情報が入力されたことに応じて前記物体の特性を出力する学習モデルを生成する学習モデル生成部を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記学習モデル生成部によって生成された学習モデルを管理サーバへ送信する通信部を備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記解析装置は、
前記センサ情報を取得するセンサ情報取得部と、
前記物体に関する物体情報を取得する物体情報取得部と、
訓練データとしての前記センサ情報及び前記物体情報に基づいて生成された、前記センサ情報が入力されたことに応じて前記物体の特性を出力する学習モデルを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記学習モデルが他のシステムで生成された学習モデルである、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
請求項1に記載のシステムに用いる前記解析装置。
【請求項13】
雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、
前記挿通孔に挿通された状態で偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプに使用される方法であって、
前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動をセンサによって感知する段階と、
前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析装置によって解析する段階と、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項14】
雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、
前記挿通孔に挿通された状態で前記ステータに対して偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプと、
前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサと、
前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析する解析装置と、
を備えるシステムに使用される方法であって、
前記センサ情報を取得する段階と、
前記物体に関する物体情報を取得する段階と、
訓練データとしての前記センサ情報及び前記物体情報に基づき、前記センサ情報が入力されたことに応じて前記物体の特性を出力する学習モデルを生成する段階と、
を備える方法。
【請求項15】
生成された前記学習モデルを管理サーバへ送信する段階を備える、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、
前記挿通孔に挿通された状態で前記ステータに対して偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプと、
前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサと、
前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析する解析装置と、
を備えるシステムに使用される方法であって、
前記センサ情報を取得する段階と、
前記物体に関する物体情報を取得する段階と、
訓練データとしての前記センサ情報及び前記物体情報に基づいて生成された学習モデルを用いて、前記センサ情報が入力されたことに応じて前記物体の特性を出力する段階と、
を備える方法。
【請求項17】
前記学習モデルが他のシステムで生成された学習モデルである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記センサを通じて得られた振動波形をデジタル変換する段階と、
前記デジタル変換器でデジタル変換された振動波形をフーリエ変換する段階と、
前記フーリエ変換することにより得られた振幅スペクトルの複数個のピークの中のn%に相当する個数分の振幅スペクトルを、より小さなピークを示す振幅スペクトルを優先しつつ除去する段階と、
前記ノイズを除去した振幅スペクトルを逆フーリエ変換することで前記振動波形を復元する段階と、
を備える請求項13乃至17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、
前記挿通孔に挿通された状態で偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプに使用されるコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析させる、
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項20】
雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、
前記挿通孔に挿通された状態で偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプと、
前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサと、
前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析する解析装置と、
を備えるシステムに使用されるコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記センサ情報を取得し、
前記物体に関する物体情報を取得し、
訓練データとしての前記センサ情報及び前記物体情報に基づき、前記センサ情報が入力されたことに応じて前記物体の特性を出力する学習モデルを生成させる、
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転容積型の一軸偏心ポンプによって移送される物体の特性を解析するシステム、方法、及びコンピュータプログラム等に関する。
【背景技術】
【0002】
回転容積型の一軸偏心ポンプ(Progressive Cavity Pumps、 PCPs)(以下、単に「ポンプ」と記載した場合は、回転容積型の一軸偏心ポンプを意味するものとする)は、ステータとロータを備え、ステータ内でロータを回転させることによって、一定量の液体、スラリー、粉体等を移送することができる。この型のポンプは、個体粒子を液中に含むスラリー液を代表とする様々な物体を移送することができるため、様々な分野で従来から広く使用されてきた。しかしながら、その使用目的は、本来の目的である物体の移送それ自体であったことから、研究テーマは、主として、ステータのキャビティ形状、物体の移送精度等、ポンプの移送構造それ自体にのみ向けられてきた。
【0003】
本発明は、ポンプの移送構造それ自体ではなく、ポンプによって移送される物体の特性を解析することに向けられたものであって、新たな視点に基づく発明であり、従って、先行技術文献は特に存在しない。尚、以下に記載した非特許文献1、2は、後述する物理リザバーに関する文献、非特許文献3は、特徴量を抽出するために使用されるソフトウェアに関する文献である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「リザバーコンピューティング」、田中剛平、中根了昌、廣瀬明(森北出版株式会社、2021年3月)
【非特許文献2】「ソフトロボット学入門」、新学術領域「ソフトロボット学」研究班監修、日本ロボット学会監修、鈴森 康一等編著(オーム社、2021年1月)
【非特許文献3】Christ, M., Braun, N., Neuffer, J., & Kempa-Liehr, A. W. (2018). Time series feature extraction on basis of scalable hypothesis tests (tsfresh-a python package). Neurocomputing, 307, 72-77.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等の重要な研究テーマの1つでもある食品加工技術では、3Dフードプリンティングといった新たな食品製造方法の開発が日々進められている。3Dフードプリンティングによれば、形状の自由度が高い様々な食品を容易に製造することができるが、このような方法で製造された食品の品質、再現性等は、その加工材料である食材の特性(ex. 種別、粘度、濃度)に大きく左右される。本発明者等は、特に、ポンプを用いた食材の移送工程に着目しつつ、鋭意研究を重ね、この結果、食材そのものからではなく、食材の移送時にポンプから得られる情報を利用して、食材の特性を解析できることを発見した。この解析結果は、食材そのものは勿論、そのような食材を用いて加工された最終製品である食品の品質維持、再現性向上等に大きく貢献し得るものとなる。したがって、本発明の目的は、物体の移送時にポンプから得られる情報を利用して、物体の特性を解析するシステム、方法、及びコンピュータプログラム等を提供することにある。尚、念のため付言しておくと、流体の状態を計算する従来の一般的な流体の数値解析技術でも、レオロジー特性やダイナミクスを求めることが可能であり、詳細かつ動的に流体状態を可視化できるが、これらのアプローチは、輸送される流体の種類を単にマッピングする目的においては、計算量が多く、複雑な定量評価が必ずしも有効とはいえないのが現状である。したがって、従来の一般的な知識は、本発明の問題を解決するには不十分なものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様によるシステムは、雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、前記挿通孔に挿通された状態で偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプと、前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサと、前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析する解析装置と、を備えることを特徴として有する。
この態様のシステムによれば、物体の移送時にポンプから得られる情報を利用して、物体の特性を解析することができる。
【0007】
本発明の一態様による方法は、雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、前記挿通孔に挿通された状態で偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプに使用される方法であって、前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動をセンサによって感知する段階と、前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析装置によって解析する段階と、を備えることを特徴として有する。
【0008】
また、本発明の他の態様による方法は、雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、前記挿通孔に挿通された状態で前記ステータに対して偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプと、前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサと、前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析する解析装置と、を備えるシステムに使用される方法であって、前記センサ情報を取得する段階と、前記物体に関する物体情報を取得する段階と、訓練データとしての前記センサ情報及び前記物体情報に基づき、前記センサ情報が入力されたことに応じて前記物体の特性を出力する学習モデルを生成する段階と、を備えることを特徴として有する。
【0009】
更に、本発明の他の態様による方法は、雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、前記挿通孔に挿通された状態で前記ステータに対して偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプと、前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサと、前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析する解析装置と、を備えるシステムに使用される方法であって、前記センサ情報を取得する段階と、前記物体に関する物体情報を取得する段階と、訓練データとしての前記センサ情報及び前記物体情報に基づいて生成された学習モデルを用いて、前記センサ情報が入力されたことに応じて前記物体の特性を出力する段階と、を備えることを特徴として有する。
【0010】
本発明の一態様によるコンピュータプログラムは、雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、前記挿通孔に挿通された状態で偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプに使用されるコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析させる、ことを特徴として有する。
【0011】
また、本発明の他の態様によるコンピュータプログラムは、雌ねじ型の挿通孔を有するステータと、前記挿通孔に挿通された状態で偏心回転を行う雄ねじ型のロータと、を有する回転容積型の一軸偏心ポンプと、前記一軸偏心ポンプによる物体の移送時に前記ステータに生じる挙動を感知するセンサと、前記センサを通じて得られたセンサ情報を利用して前記物体の特性を解析する解析装置と、を備えるシステムに使用されるコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記センサ情報を取得し、前記物体に関する物体情報を取得し、訓練データとしての前記センサ情報及び前記物体情報に基づき、前記センサ情報が入力されたことに応じて前記物体の特性を出力する学習モデルを生成させる、ことを特徴として有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、物体の移送時にポンプから得られる情報を利用して、物体の特性を解析するシステム、方法、及びコンピュータプログラム等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本システムの構成例を示すブロック図である。
図2】本システムの外観の一例を周辺機器とともに示した斜視図である。
図3】本システムに含まれるポンプの基本構成の一例を該ポンプに設置されたセンサとともに示した概略斜視図である。
図4】任意構成をも含めたポンプの外観の一例を示した正面図である。
図5】任意構成をも含めたポンプの分解斜視図である。
図6図4に示したポンプの底面図である。
図7】底部側のスペーサを取り除いたポンプの底面図である。
図8】振動波形処理部の働きを説明する図である。
図9】フーリエ変換された振幅スペクトルの一例を示す図である。
図10】フーリエ変換された振幅スペクトルの一例を示す図である。
図11】物理レザバー計算の概念図を示す図である。
図12】ロータの側面図である。
図13】ロータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図14】ロータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図15】ロータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図16】ロータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図17】ロータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図18】ステータの側面図である。
図19】ステータの底面図である。
図20】ステータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図21】ステータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図22】ステータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図23】ステータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図24】ステータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図25】ステータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図26】ステータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図27】ステータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図である。
図28】実施例1のゲルステータの造形手順を説明する図である。
図29】実施例2乃至4のシリコーンゴムステータの造形手順を説明する図である。
図30】実施例で用いたセンサの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態で説明する材料、大きさ、形状、及び構成要素の相対的な位置等は、本発明にとって必須の事項でない限り任意であり、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「側」、「端」を含む用語)を使用するが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。したがって、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されるものではない。
【0015】
1.システム構成
図1に、本システムの構成例をブロック図で示し、図2に、本システムの外観の一例を周辺機器とともに斜視図で示す。また、図3に、図2に示した本システムに含まれるポンプの基本構成の一例を、当該ポンプに設置されたセンサとともに概略斜視図で示し、更に、図4に、任意構成をも含めたポンプの外観の一例を示す正面図を、図5に、その分解斜視図を、それぞれ示す。
【0016】
図1図2によく示されるように、本システム1は、スラリー液等の物体を移送することができる回転容積型の一軸偏心ポンプ2、及び、制御装置3(図1)を含む。制御装置3は、ポンプ2の制御に加え、ポンプ2に設置されたセンサ4を通じて得られたセンサ情報を利用して、物体の特性を解析する解析装置としても機能する。
【0017】
2.ポンプ
図3によく示されているように、ポンプ2は、一般に市販されている回転容積型の一軸偏心ポンプと同様に、基本構成としてステータ21とロータ22を含む。更に、これらの基本構成(必須構成)に加え、例えば、図2図4図5に示されている任意構成(便宜上、ステータ21も図示されている)を含む。これら基本構成及び任意構成に含まれる各部材は、いずれも、実質的に左右対称形状を有する。
【0018】
ステータ21は、全体として略矩形状を成し、頂部21aと底部21bは略正方形状を成している。ステータ21には、頂部21aと底部21bを繋ぐ長手方向に沿って、ステータ21の略中心を貫通した状態で、雌ねじ型の挿通孔210が設けてある。ロータ22は、この挿通孔210に挿通された状態で偏心回転を行う。
【0019】
ロータ22の回転に伴って、ステータ21の挿通孔210の内表面211と、ロータ22の外表面221との間には一連の密閉空間(キャビティー)212が形成され、吸引力を発生させながら、順次に新たな密閉空間が生み出される。物体は、これら密閉空間212の移動に伴って、流入側から吐出側へ、本システム1ではステータ21の上側から下側に向かって移送される。
【0020】
ロータ22の回転力は、例えば、ポンプ10の上方に位置するモータ装置5を通じて得ることができる。モータ装置5は、ポンプ10とともに作業台11に載置されてもよい。モータ装置5から延びるシャフト51は、ロータ22の端部22aに接続されている。モータ装置5に並設してトルク測定装置12を設けてもよい。トルク測定装置12は、ロータ22を回転させる際にシャフト51に生じたトルクを測定する。測定されたトルクは、例えば、物体の粘度を測定するために利用することもできる。
【0021】
ステータ21は、ケーシング23とスペーサ24a乃至24cによって、その全体を取り囲まれている。スペーサ24aとスペーサ24bは同部材とした、即ち、これらは、同じ大きさ、形状を有し、且つ、同じ材料から成る。装置の組立時には、スペーサ24a及びスペーサ24bの一部(241a、241b)は、ケーシング23の内部に取り込まれた状態で、ケーシング23の頂部及び底部にそれぞれ設置される。一方、スペーサ24cは、ケーシング23の底部側において、スペーサ24bの一部(241b)とともに、ケーシング23の内部に完全に収容される。スペーサ24aの上部には更に、物体を貯めることができる貯留部材27が設けられている。
【0022】
ケーシング23は、主に、ステータ21の側面を取り囲む4枚の板状部230と、ステータ21の頂部21aの側に設けた環状フランジ部23a、及び、ステータ21の底部21bの側に設けた環状フランジ部23bを含む。環状フランジ部23aと環状フランジ部23bは、同じ大きさ及び形状とされている。環状フランジ部23a、23bにはそれぞれ、対向する縁部に一対の耳部232a、232bが設けられている。
【0023】
ステータ21の底部21bは、ケーシング23内部において、スペーサ24b及び24cによって弾性支持されている。スペーサ24bは、ケーシング23の環状フランジ部23bに対応する外径及び形状を有した環状フランジ部240bを有する。環状フランジ部240bには、対向する縁部に一対の耳部242bが設けられており、また、環状フランジ部240bの中心位置には、更に、上方に向かって突出する環状矩形部材241bが設けられている。更に、環状矩形部材241bに積層された状態で、スペーサ24cが設けられている。スペーサ24cは、環状矩形部材241bに対応する外径及び形状を有し、環状矩形部材241bとともにケーシング25の内部に挿入される。一方、ステータ21の頂部は、スペーサ24aによって弾性支持されている。スペーサ24aは、ケーシング23の環状フランジ部23aに対応する外径及び形状を有した環状フランジ部240aを有する。環状フランジ部240aには、対向する縁部に一対の耳部242aが設けられており、環状フランジ部240aの中心位置には、更に、底部に向かって突出する環状矩形部材241aが設けられている。環状矩形部材241aは、上下方向におけるスペーサ24b及びスペーサ24cの対向位置において、ステータ21を挟みこんだ状態で、ケーシング25の内部に挿入される。結果、ステータ21は、これらスペーサ25a乃至25cを利用して、ケーシング23内部に安定的に弾性収容される。
【0024】
貯留部材27は、本体部28と環状フランジ部29を含む。本体部28は、略円筒状部分28aと、下流に向かって、即ち、ステータ21の上側から下側に向かって先細る漏斗状部分28bから成る。環状フランジ部29は、ケーシング23の環状フランジ部23a、及び、スペーサ24aの環状フランジ部240aに対応する外径及び形状を有し、環状フランジ部23a及び環状フランジ部240aと同様に、対向する縁部に一対の耳部292aを有する。
【0025】
ケーシング23、スペーサ24a、24b、及び貯留部材27は、それぞれの環状フランジ部に設けた耳部232a、242a、292aの貫通穴233a、243a、293aを通じて上側において、同様に、耳部232b、242bの貫通穴233b、243bを通じて底側において、ネジ留めされることにより整列される。整列された状態にあるとき、貯留部材27は、漏斗部分28bに設けた貫通穴280aを通じて、スペーサ24aの環状矩形部材241aに設けた貫通穴244a、及び、ステータ21の挿通孔210と連通し、更に、スペーサ24cに設けた貫通穴244c、及び、スペーサ24bに設けた貫通穴244bと連通する。
【0026】
図6に、図4に示したポンプの底面図を、図7に、このポンプからスペーサ24bを取り除いたときの底面図をそれぞれ示す。これらの図から明らかなように、スペーサ24cに設けた矩形の貫通穴244c(図7参照)、及び、スペーサ24bに設けた円形の貫通穴244b(図6参照)は、共に、ステータ21の挿通孔210より有意に大きい。よって、物体は、これらの貫通穴を通じて、流入側から吐出側へとスムーズに移送される。ロータ22は、ステータ21の挿通孔210、及び、スペーサ24aの貫通穴244aを挿通した状態で、貯留部材27の貫通穴280aの略流入側の位置にまで延びている。実際の使用時には、ロータ22の上端223に、モータ装置5から延びるシャフト51が接続される。
【0027】
3.センサとステータ及びロータの材料
本ポンプ2のステータ21には、一般のポンプと異なり、センサ4が設置されている。センサ4により、ポンプ2による物体の移送時にステータ21に生じる挙動、例えば、振動を感知することができる。振動には、移送物体の種別の相違、濃度、粘度の相違等に応じて生じる物体の特性に関する情報が含まれる。センサ4を設置する位置は、これらの情報を感知しやすい位置とする。例えば、ステータ21の外表面、即ち、ステータ21の外表面とケーシング23との間とするのが好ましい。センサ4は、図3に示すように、ステータの頂部21a及び底部21bに形成された楕円状の挿通孔210の長径に対して直交する側面に設置してもよいし、短径に対して直交する側面に設置してもよい。センサ4は、ステータ21の一の側面に設ければ足りるが、対向側にも設けて一対としてもよい。製造コストは増加するが、挙動をより正確に感知できる。勿論、全ての側面に設けてもよい。
【0028】
センサ4には、例えば、圧縮や伸張によって電圧が発生する圧電効果を検出する圧電素子を使用する。圧電素子の中でも、取り分け、圧電フィルムセンサのような薄型のものが好ましい。薄型のものを用いることにより、圧電素子をステータ21の外表面とケーシング23との間に設置する場合であっても組み込みが容易となり、また、装置が大型になることを防ぐことができる。但し、ポンプ2による物体の移送時にステータ21に生じる挙動を感知することができれば、圧電素子以外の様々なセンサを用いることもできる。
【0029】
センサ4による挙動の感知を容易にするため、ステータ21の材質は、分析に必要な挙動を生じさせ易く、且つ、挙動を伝播させ易いものが好ましい。このような理由から、本システムでは、ステータ21の材料を選択するに際し、ステータ21のヤング率に着目し、更に、移送すべき物体の粘度との関係にも着目した。本システムでは、ステータ21とロータ22との間に若干の重なり(後述する実施例でいうところの、重なり「δ」を意味する)を設けており、この重なりを利用して、ロータ22によって移送される物体がステータ21を押す圧力を正確に計測できるものとなっている。尚、従来のポンプの中にも、このような重なりを設けたものはあるが、必ずしも設けられているわけではない。この圧力は、ステータ21のヤング率と、更に、移送すべき物体の粘度の影響を受け易いことから、本発明者等は、これらの値にも着目しつつ開発を行った。従来のステータは、ゴム及び樹脂を材料とするもの、より具体的には、材質を重視し、アクリロリトリルブタジエンゴム、水素化アクリロリトリルブタジエンゴム、塩素化ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、パーフルオロゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等から選択して使用されていたが、本システム1では、上記理由から、材質のみならず、ステータ21のヤング率と移送すべき物体の粘度との関係に着目した。一方、ロータ22の製造材料については、本システムにおける挙動の感知に大きな影響を与えないことから、一般に使用されている材料、例えば、ステンレス鋼、チタン、セラミックス、ハステロイ(登録商標)、カーペンター(登録商標)、シリコロイ(登録商標)等、様々な材料を使用することができる。
【0030】
4.制御装置
(1)概要
制御装置3は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成されてもよい。ソフトウェアによって構成する場合、例えば、クラウドサーバ、コンピュータのGPU、CPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶されたコンピュータプログラムが動作することによって実現される。更に詳細には、本システムで用いるコンピュータプログラムは、1つ又は複数の電子データ処理装置を制御するソフトウェアを含む非一時なコンピュータ可読記憶媒体に記憶された状態で提供されてもよい。コンピュータ可読記憶媒体には、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気ハードディスクドライブ、固体状態ハードディスク、フラッシュメモリ、USBサムドライブ、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、光ディスク、光磁気ディスク、及びプロセッサのレジスタファイルが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、例えば、コンピュータ可読記憶媒体という用語は、ネットワーク又は通信リンクを介してコンピュータによりアクセスすることができる様々なタイプの記録媒体も含む。
【0031】
制御装置3は、装置全体を制御する制御部300、センサ情報を生成するセンサ情報生成部305、センサ情報を取得するセンサ情報取得部320、物体に関する物体情報を取得する物体情報取得部330、学習モデル341を生成する学習モデル生成部340、及び、ポンプ2の動作を調整する調整部360に加え、記憶部350、通信部351、入出力部352、表示部353、読取部354を備える。
【0032】
制御部300は、CPU、GPU、ROM及びRAM等で構成することができる。
記憶部350は、ハードディスク又はフラッシュメモリ等で構成され、本システムによって生成される学習モデルのような制御装置3内部での処理結果等の情報、外部インターネットから取得した情報等を記憶することができる。
読取部354は、制御装置3の処理を定めたコンピュータプログラムを記録した記憶部350、及び記録媒体等(図示していない)から、記録されたコンピュータプログラム等を読み取ることができる。
【0033】
(2)センサ情報の生成
センサ情報生成部305は、振動波形処理部310、ピーク抽出部315、及び特徴量抽出部316を含む。
【0034】
振動波形処理部310は、入出力部352を通じてセンサ4から得た振動波形に対して前処理を行う。振動波形処理部310は、デジタル変換部311、フーリエ変換部312、ノイズ処理部313、及び逆フーリエ変換部314を含む。
【0035】
図8乃至図10を参照しつつ、振動波形処理部310の働きを説明する。図8の(a)は、圧電素子であるセンサ4を通じて得られた振動波形、言い換えれば、前処理を行う前の振動波形61の一例を示したものである。尚、図8の(a)に示した波形の他、図8の(b)乃至(d)に示した波形は、表示部353によってユーザに表示される。ユーザは、表示部353を通じて波形を確認しながら、処理を行うことができる。
【0036】
先ず、デジタル変換部311により、振動波形61をデジタル変換する。
【0037】
次いで、フーリエ変換部312により、デジタル変換された振動波形をフーリエ変換し、複数の振幅スペクトルを含む周波数成分に分解する。図8の(b)、図9、及び図10に、フーリエ変換された振幅スペクトル62、62-1~62-4の一例を示す。
【0038】
次いで、ノイズ処理部313により、フーリエ変換された振幅スペクトル62、62-1~4からノイズを除去する。ノイズの除去は、例えば、図8の(b)及び図9に示した振幅スペクトル62、62-1、62-2については、一般的な方法で、即ち、適当な閾値、例えば、0.0012を設定し、この設定した閾値以下の振幅を有する振幅スペクトル62を除去する方法で行う。
【0039】
これに対し、例えば、図10に示した振幅スペクトル62-3、62-4については、振幅スペクトル同士の差が小さいため、上述した一般的な方法を使用すると、ほとんどの振幅スペクトルが除去されてしまい、解析が不可能となってしまう。このため、このような振幅スペクトルについては、一般的な方法に代え、複数個のピークの中の「n%」に相当する個数分の振幅スペクトルを、より小さなピークを示す振幅スペクトルを優先しつつ除去するといった方法を採用した。ここで「n」は、ユーザが適当に設定すべき数値であって、例えば、後述する方法に従って生成した学習モデルを用いて、未学習の評価用データについても、全ての物体について正しく分類できた「n」の値を使用する。尚、「n」の値を探索する際は、例えば、1%、10%、20%・・・のように、10%毎に探索を行うものとする。
【0040】
最後に、図8の(c)に示すように、ノイズ処理部313でノイズを除去した振幅スペクトルを、逆フーリエ変換部314によって逆フーリエ変換することで振動波形を復元する。
【0041】
ピーク抽出部315では、機械学習を行うため、振動波形処理部310によって処理された振動波形から複数個のピーク(図8の(c)中の640)を抽出する。
【0042】
特徴量抽出部316は、抽出した複数個のピーク640から、センサ情報として用いる特徴量を抽出する(図8の(d))。抽出の際、特徴量抽出部316は、前述した複数個のピーク640の各々から更に、複数個の特徴量を抽出するようにしてもよい。抽出したこれらの特徴量を、学習モデルの作成等に使用する「センサ情報」として用いる。
【0043】
(3)センサ情報の取得
センサ情報取得部320は、センサ情報生成部305によって生成されたセンサ情報を取得する。
【0044】
(4)物体情報の取得
物体情報取得部330は、入出力部352を通じてユーザから取得した物体に関する物体情報、例えば、物体の種別、粘度、濃度等を、正解ラベルとして取得する。
【0045】
(5)学習モデルの生成
学習モデル生成部340は、センサ情報取得部320及び物体情報取得部330から取得した、学習用データとしてのセンサ情報及び物体情報に基づき、学習モデル341を生成する。この学習モデル341は、センサ情報取得部320からセンサ情報が入力されたことに応じて、物体情報に対応する物体の特性、例えば、物体の種別(例えば、種別の判断を可能とする推定精度)、粘度、濃度等を出力するように、教師あり機械学習によって学習(訓練)される。生成された学習モデル341は、記憶部350に記憶される。更に、学習モデル341は、通信部351を利用して、外部インターネット13を通じて管理サーバ15へ送信されてもよい。
【0046】
学習モデル341は、物理レザバー計算を含むニューラルネットワークなどの公知の機械学習アルゴリズムを利用して生成することができる。
尚、非特許文献1及び2その他多くの文献に開示されているように、物理レザバー計算は公知の技術であるが、念のため、概要を以下に説明する。
図11に、物理レザバー計算を、従来のリカレントニューラルネットワークと比較した概念図で示す。時系列変化データに対する機械学習方式には、従来、リカレントニューラルネットワーク(RNN)が適していると考えられてきた。物理レザバー計算は、このリカレントニューラルネットワークから導出されたものであり、リカレントニューラルネットワークの学習において、最後の出力層付近以外を学習しない機械学習手法、言い換えれば、レザバー計算の非線形変換関数を時系列データの高速機械学習に適した計算を行う物理システムに置き換える手法である。更に言えば、ニューラルネットワークの構造自体が十分な汎化性を持つため、最後の出力層においてのみ帳尻合わせるだけで十分な計算が可能であることが明らかになったことにより開発された技術である。物理レザバー計算は、ソフトウェアで実装するよりも高速かつ低電力であり、特に、物理システムから取得した時系列データをリアルタイムに処理する能力については、産業応用への期待が高まっており、様々な研究が報告されている。特に、ソフトマター物理レザバー計算は、実際の物理系をソフトマター材料に置き換えたもの、一方、マルチソフトマター物理レザバー計算は、実際の物理系を複数のソフトマター材料に置き換えたものであり、本装置では、物理記憶計算とソフトマターの食感評価を組み合わせることで、食品の微細な違いも高精度に検出することができる新しいソフトマシンを構成している。
【0047】
(6)制御装置の動作
学習モデル341の生成後、制御装置3は、センサ情報取得部321を通じて取得したセンサ情報を利用して物体の特性を出力することができる、言い換えれば、物体の特性を解析することができる。制御装置3によって使用される学習モデル341は、自身の学習モデル生成部340によって生成されたものであってもよいし、外部インターネット13を通じて管理サーバ15を通じて取得したものであってもよい。更に、一旦取得した学習モデル341を、管理サーバ15によって管理されている他の学習モデルによって変更、更新等してもよい。
【0048】
制御装置3は更に、物体の特性に応じて、ポンプ2の動作を調整することもできる。例えば、解析の結果、物体の濃度に異常が認められた場合等には、ポンプ2を緊急停止させる、ユーザに警告を出す等の処理を行うことができる。
【0049】
5.実施例
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。実施例のシステムは、物体の種別を解析するためのものである。
[実施例1]
(1)ポンプ
以下の方法でポンプを製造した。
1)ロータの製造
図12に、ロータの側面図を示し、更に、図13乃至図17に、ロータを製造するために使用したモデリング手順の説明図を示す。尚、これらの図及び以下の説明において、
・「d (= D+2δ)」:ロータの直径(mm)、6.20mm
(「D」:ステータの直径(mm)、6.00mm / 「δ」:ロータとステータの重なり(mm)、0.100mm)
・「λR」:ロータのピッチ(mm)、10.00mm
・「LR」:ロータの長手方向における長さ(mm)、40.00mm
・「e」:偏心量(mm)、1.00mm
を意味する。
【0050】
先ず、中心Oを設定し、直径dの円CRを描く(図13)。次に、中心Oから円CRと垂直方向に長さLRの直線Hを描く(図14)。その後、円CRを中心Oからeだけ移動する(図15)。ここでは、直線Hをパスとして円CRをスイープで押し出す。この際、ねじり角度として360*LRR degねじりながら押し出して(図16)、図17に示すロータとする。
【0051】
上記モデリングに従って、また、樹脂材料、即ち、CLEAR RESIN(型番:22343、Wanhao社製)を材料として、光造形プリンタShuffle 4K(Phrozen社製)により、ロータを造形した。
【0052】
2)ステータの製造
図18に、ステータの側面図、図19に、その底面図を示し、更に、図20乃至図27に、ステータを製造するために使用したモデリング手順を説明する図を示す。尚、これらの図及び以下の説明において、
・「l S 」:ステータの短手方向における(底部及び頂部の)一辺の長さ(mm)、20.00mm
・「D」:ステータの直径(mm)、6.00mm
・「δ」:ロータとステータの重なり(mm)、0.100mm
・「λS (= 2λR )」:ステータのピッチ(mm)、20.00mm
・「LS」:ステータの長手方向における長さ(mm)、30.00mm
・「e」:偏心量(mm)、1.00mm
を意味する。
【0053】
先ず、中心Oを設定し、直径Dの円CS1、及び円CS2を描く(図20)。次に、中心Oから円CS1と垂直方向に長さLSの直線Hを描く(図21)。その後、円CS1を中心Oから2e 移動し、円CS2を中心Oから円CS1と反対方向へ2e移動する(図22)。更に、移動した円CS1と円CS2を繋ぐ接線を描く(図23)。これにより、ステータの断面形状に対応し得る長径4e+D、短径Dの楕円Ceが完成する(図23)。ここからステータにするために、先ず、中心O である一辺の長さがl S の正方形を描き(図25)、直線H(図21参照)をパスとして押し出しボディを作製する(図21)。次に、直線Hをパスとして楕円Ceをスイープで、先ほど作製したボディから切り取る(図27)。この際、ねじり角度として360*LSS degねじりながら切り取る。
【0054】
上記モデリングに従い、以下の方法により作成したEGゲルを材料として、ゲルステータを造形した。
先ず、モノマーであるN,N-ジメチルアクリルアミド(KJケミカルズ)を用意し、マグネチックスターラーで常温かつ約400rpmで攪拌中のN,N-ジメチルアクリルアミドに架橋剤であるN,N'-メチレンビス(アクリルアミド)(富士フィルム和光純薬)を加えた。N,N'-メチレンビス(アクリルアミド)が溶解するまで攪拌した後、光開始重合剤である2-オキソグルタル酸(富士フィルム和光純薬)を加え、同様に溶解するまで攪拌した。その後、溶媒としてエチレングリコール(富士フィルム和光純薬)を加えた。エチレングリコールを加えた後、約30分間攪拌することにより、EGゲルの溶液を得た。得られた溶液は、N,N-ジメチルアクリルアミド(KJケミカルズ)を49.25重量%、N,N'-メチレンビス(アクリルアミド)を0.38重量%、2-オキソグルタル酸を0.36重量%、エチレングリコール(富士フィルム和光純薬)を50.00重量%含有するものとなっている。
【0055】
図28を参照して、上記EGゲル材料を用いたゲルステータの造形手順を説明する。先ず、マスター(型の型)を作製した(図28の(a))。このマスターは内部に螺旋状を有するマスターAと、ボックス状のマスターBから構成される。CLEAR RESINを材料として用いて、マスターAを光造形プリンタShuffle 4により造形した。上記と同様に、造形したマスターAは、IPA(イソプロピルアルコール)に5日間浸した。一方、マスターBは厚さ3mmのアクリル板をレーザーカットし作製した。これらマスターA+Bに、シリコーンゴム(Ecoflex(登録商標)00-30) (Smooth-On社製)を流し込み(図28の(b))、マスターA+Bを取り除いて、シリコーンゴムの型を作製した(図28の(c))。その後、完成したシリコーンゴムの型にEGゲルの溶液を流し込み、UV照射することでゲルステータを造形した(図28の(d)及び(e))。
【0056】
造形したステータについて、圧縮試験によりヤング率を測定した。測定対象である試験片は、ステータと同じ方法により製造し、直径29mm、高さ12.5mmの円柱状とした。試験器機として卓上材料試験機SAT-1150 (エー・アンド・デイ社製)を使用し、最大許容500Nのロードセルを用いた。試験は圧縮速度5mm/minで行い、試験片は3つ用意した。それぞれヤング率を算出し、3つの平均値を求めた。この結果、91kPaという値を得た。
【0057】
3)任意構成
ポンプの任意構成は、図4及び図5に示すものとした。
ケーシング23を構成するアクリル板には、厚さ3mmのものを使用し、移送中の物体の様子が観察できるよう透明なものを用いた。このアクリル板から、レーザー加工機を用いて4枚の板状部品を切り出し、ステータの周囲を取り囲むように互いの縁を接着して、ケーシング23の形とした。尚、ケーシング23は、ステータの周囲を取り囲むように設置されているだけで、ステータ及びセンサに対して接着はされていない。このように、ステータ又はセンサに対して、取り分け、センサに対して、ケーシング23を固定しない構造を採用していることから、センサによるステータからの挙動の感知を妨げることを実質的に防ぐことができる。
【0058】
スペーサ24a乃至24cは、FDM式3Dプリンタを使用して型を作製した後、この型にシリコーンゴム(Ecoflex(登録商標)00-30)を充填することで作製した。
ケーシング23の底側に設けたスペーサ24bの環状フランジ部240bの厚み(図5参照)は2mmに設定した。また、環状フランジ部240bから突出する環状矩形部材241bの厚み(図5参照)は5mmとし、その外枠は、縦方向及び横方向共に20mmとした。外枠の大きさは、ステータ21の短手方向における(底部及び頂部の)一辺の長さ(mm)に相当している。更に、環状フランジ部240b及び環状矩形部材241bの中心を貫通する円形の貫通穴244b(図6参照)の直径は14mmに設定した。また、スペーサ24cの厚み(図5参照)は、環状矩形部材241bと同様に5mmとし、その外枠も同様に、縦方向及び横方向共に20mmとした。更に、スペーサ24cの中心を貫通する矩形の貫通穴244c(図7参照)は、ステータ21の底部21bに形成された楕円状の挿通孔210の長径に沿う縦方向の長さを14mm、一方、短径に沿う横方向の長さを10mmとした。
【0059】
(2)センサ及びセンサ情報の取得
センサには、柔軟性と応答性に優れた薄膜状のピエゾフィルムセンサであるDT1-028K(TE Connectivity Measurement Specialties社製)を用いた。詳細は、下記URL(出願日現在におけるもの)を通じて取得することもできる。参考のため、明細書の最後に、当該URL中の資料を添付した。
https://www.digikey.jp/ja/datasheets/te-connectivity-measurement-specialties/te-connectivity-measurement-specialties-piezo_film_guide
図30は、上記URLを通じて取得した、センサ構造の概略分解斜視図を示したものである。センサは、全体として縦長の矩形シート状を成す。図中の各記号によって示された寸法は以下の通りである。

【0060】
図3に示すように、センサは、ステータの一の側面、更に詳細には、ステータの頂部21a及び底部21bに形成された楕円状の挿通孔210の長径に対して直交する一方の側面に、該側面の略全体に亘って取り取り付けた。取り付け位置は、左右方向については中央に揃え、上下方向については、配線部41(図3参照)よりも下側、即ち、センサ4の上縁から約11mmの部分を、ステータ上面縁に合わせるようにした。この場合、センサは、ロータによって移送される物体の移送方向に沿って、且つ、移送方向と直交する幅方向においてその中心に挿通孔210を含んだ状態で左右対称に配置されることになり、この結果、ポンプ2による物体の移送時にステータに生じる挙動である、例えば、振動を、より効率的に且つより正確に感知することができる。ステータに対するセンサの取り付けには、着脱可能な両面テープを使用した。
上記のセンサを用いて、当該センサから毎秒120回データが送信されるよう設定した。
【0061】
(3)制御装置(解析装置)による処理
1)解析対象
7種類の物体、即ち、 (a) バター、(b) ハチミツ、(c) マヨネーズ、(d) メレンゲ、(e) オリーブオイル、(f) シリコーンオイル、(g) 砂糖水について、これらの特性、ここでは、これらの物体の種別を解析するため、各物体について推定精度を求めた。
メレンゲと砂糖水は自ら調製し、それ以外は市販品を使用した。メレンゲの作製は、攪拌した卵白1つに対し砂糖10gを加えることで調製した。更に詳細には、卵白を撹拌し、ある程度の泡立ち後、砂糖を1/3加え、更に攪拌し、きめ細かくなった後、残りの2/3を加えて、更に攪拌した。砂糖水の作製は、水100gに対し砂糖200gを混合することで調製した。
【0062】
更に、これらの各物体について粘度測定を行った。測定には、音叉振動式粘度計SVー10A(エー・アンド・デイ社製)を使用した。測定の結果、常温(約25度)において、(a) バターについては、3200 mPa・s、(b) ハチミツについては、6640 mPa・s、(c) マヨネーズについては、3740 mPa・s、(d) メレンゲについては、2920 mPa・s、(e) オリーブオイルについては、67.4 mPa・s、(f) シリコーンオイルについては、618 mPa・s、(g) 砂糖水については、304 mPa・sという値を得た。
【0063】
2)センサ情報の生成
各物体でステータを満たした後、最大回転速度20rpmでロータを約30回回転させ、センサを通じて、各物体について3セットのデータ(振動波形)を取得した。各セットには、ほぼ8000個のデータが含まれる。尚、ステータ内の物体は、この約30回のロータの回転により、略一巡するものとなっている。ロータ22の回転には、上下回転型試験機TL901(トリニティーラボ社製)を用いた。各物体について取得した3セットのデータのうち2つは、学習モデルを生成するための学習用データとして使用し、残る1セットは、生成した学習モデルの性能を評価するための評価用データとして使用した。また、必要に応じて、評価用データについては、前述した「n」の値を求めるためにも使用した。
【0064】
センサを通じて取得した学習用データ及び評価用データ(図8の(a)に示した振動波形61に相当)は、デジタル変換部311の一例であるTEXASINSTRUMENTSS社製のA/DコンバータADS1015を使用して12進数へデジタル変換した。但し、変換後のデータの範囲は-2048~+2048に及ぶため、機械学習に適応させるため-1~+1の範囲に正規化した。
【0065】
次いで、フーリエ変換部312により、デジタル変換された振動波形をフーリエ変換して、周波数成分に、言い換えれば、複数の振幅スペクトル(図8の(b)に示した振幅スペクトル62に相当)に分解した。
【0066】
次いで、ノイズ処理部313によりノイズを除去した。ノイズの除去は、0.001を閾値として、閾値以下の振幅を有する振幅スペクトルを除去する方法で行った。
【0067】
最後に、ノイズ処理部313でノイズを除去した振幅スペクトルを、逆フーリエ変換部314によって逆フーリエ変換することで振動波形を復元した。
【0068】
ピーク抽出部315は、振動波形処理部310によって処理した振動波形64から、約470個のピーク(図8の(c)中の640に相当)を抽出する。
【0069】
特徴量抽出部316(図8の(d)に相当)は、これら抽出されたそれぞれのピークから更に、約40個の特徴量を抽出し、特徴量を増加させてセンサ情報を得る。特徴量抽出部316には、tsfresh(非特許文献3参照)を使用した。tsfreshを適用することにより得られたセンサ情報、即ち、各ピークから得た特徴量は、更に、tsfreshのStandardScaler()を用いて特徴量の比率を標準化した。
【0070】
3)物体情報の取得
物体情報は、入出力部352を通じてユーザから取得した。物体情報は、7種類の物体、即ち、 (a) バター、(b) ハチミツ、(c) マヨネーズ、(d) メレンゲ、(e) オリーブオイル、(f) シリコーンオイル、(g) 砂糖水である。学習モデルにおいて、これらを正解ラベルとして使用した。
【0071】
4)学習モデルの生成
学習モデル生成部340により、センサ情報取得部320及び物体情報取得部330から、学習用データについてのセンサ情報及び物体情報を取得し、これらに基づき、学習モデル341を生成した。学習用データのうち80%は訓練に使用し、残りの20%はテストに使用した。
【0072】
学習モデル341は、センサ情報取得部320からセンサ情報が入力されたことに応じて物体の特性を出力するように学習させた。より詳細には、ポンプによって移送された物体が上記7種類の物体の中のいずれの物体であるかを、他の物体との関係において推定精度に相当する「割合(%)」で表示するよう設定し(各物体について表示された割合を合計すると100%となる)、学習後は、当該割合に基づいて全ての物品について正しく分類することができるように、言い換えれば、物体情報取得部330から取得した物体情報と一致する物体が最も大きな上記「割合(%)」を表示するように学習を行った。
【0073】
学習モデルの生成時点における、学習用データについての平均正解率(accuracy)、更に言えば、7種類の物体についての正解率の平均は、88.0%であった。ここでは、最も低いバターにおいても、75%という高い値を得た。
【0074】
5)解析結果
学習済の学習モデル341を備えたシステムを用いて、評価用データについて上記「割合(%)」を表示させ、当該割合に基づいて分類を行ったところ、いずれについても比較的高い推定精度が得られ、結果、全ての物体について正しく分類することができた。最も推定精度が低かった(d)メレンゲの割合についても、44.0%の値を得、29.0%であった二番目に高い(c)マヨネーズからも、明確に分類することができた。
【0075】
[実施例2]
以下に特記する事項を除き、実施例1と同じものと考えてよい。
【0076】
1)ステータ
実施例1で用いたEGゲルのステータに代え、シリコーンゴム(Ecoflex(登録商標)00-30)のステータを使用した。
図29を参照して、このシリコーンゴムステータの造形手順を説明する。先ず、螺旋状を有する型Aと、ボックス状の型Bを準備する(図29の(a))。CLEAR RESINを材料として用いて、型Aを光造形プリンタShuffle 4Kにより造形した。その後、造形したマスターAを、IPA(イソプロピルアルコール)に5日間浸した。尚、この処理を怠ると、後にシリコーンゴムを流し込んだ際に、シリコーンゴムが硬化しない現象が見られた。一方、型Bは厚さ3mmのアクリル板をレーザーカットし作製した。この型にシリコーンゴム(Ecoflex(登録商標)00-30)を流し込んで(図29の(b))、シリコーンゴムステータを造形した(図29の(c))。
造形したステータについて、圧縮試験によりヤング率を測定し、この結果、176kPaという値を得た。
【0077】
2)センサ情報の生成
振動波形処理部310から得られた振幅スペクトル同士の差が小さかったことから、ノイズ処理部313において、一般的なノイズ除去方法は使用せず、複数個のピークの中の「n%」に相当する個数分の振幅スペクトルを、より小さなピークを示す振幅スペクトルを優先しつつ除去する方法を用いた。より具体的には、後述する方法に従って生成した学習モデルを用いて、未学習の評価用データにつき、全ての物体について正しく分類できた「n」の値、本実施例では「10」という値を用い、複数のピークの中の「10%」に相当する個数分の小さな振幅スペクトルを除去した。
【0078】
3)学習モデルの生成
学習モデルの生成時点における、学習用データについての平均正解率は、77.0%であった。但し、(f)シリコーンオイルについての正解率は58%、(g)砂糖水についての正解率は36%と、若干低い値であった。
【0079】
4)解析結果
学習済の学習モデル341を備えたシステムを用いて、評価用データについて上記「割合(%)」を表示させ、当該割合に基づいて分類を行ったところ、一部において推定精度が低く、このため、(a)バターを誤って、(d)メレンゲに分類し、(b)ハチミツを誤って、(e)オリーブオイルに分類した。しかしながら、他の物体については、正しく分類することができた。このように、分類結果の一部に誤りを含んでいたものの、(a)バターについての上記「割合(%)」は39.0%であるのに対し、(d)メレンゲについての上記「割合(%)」は40.0%であり、推定精度はそれ程低いものではなく誤りの程度はそれほど大きいものではなかった。一方、(b)ハチミツについての上記「割合(%)」は0.0%であるのに対し、(e)オリーブオイルについての上記「割合(%)」は77.0%であり、推定精度が著しく低かった。但し、全体としてみれば、実用可能なものであり、更に、上記の誤りは、学習方法を工夫すること、ノイズ処理部において設定した「n」の値を適当に調整すること等によって、容易に改良可能なものである。
【0080】
以下の表1に、結果をまとめている。表1中の「割合(%)」は、7種類の各物体について表示された割合(推定精度に相当)を示す。(a) 及び(b)については、誤分類した (d) 、(e)についての割合も追記した。尚、これら実施例1及び2の結果から、物体の粘度が67~6641mPa・s程度である場合の未学習データに対する推定(分類)では、ステータのヤング率を90~177kPa程度に設定することが好ましいと推察される。
【0081】
【表1】
【0082】
[実施例3]
以下に特記する事項を除き、実施例1と同じものと考えてよい。
(1)ステータ
実施例1で用いたEGゲルのステータに代え、シリコーンゴム(HTV-2000)(エングレービングジャパン社製)のステータを使用した。造形手順は、実施例2で説明したシリコーンゴム(Ecoflex(登録商標)00-30)についての手順と同じである。上述した圧縮試験により、HTV-2000のヤング率については、816kPaという値を得た。
【0083】
(2)制御装置(解析装置)による処理
1)解析対象
5種類の物体、即ち、(h) ブロッコリー、(i) ニンジン、(j) 小松菜、(k) カボチャ、(l) トマト、それぞれのインク材料((h) ブロッコリー:ブロッコリーファインパウダー 三笠産業社製、(i) ニンジン:にんじんファインパウダー 三笠産業社製、(j) 小松菜:小松菜ファインパウダー 三笠産業社製、(k) カボチャ:かぼちゃファインパウダー 三笠産業社製、(l) トマト:完熟トマトパウダー タマチャンショップ社製)について、実施例1と同様に、これらの物体の種別を解析するため、各物体について推定精度を求めた。
各インク材料は食品の粉末に水を加えることで作製した。粉:水の割合を1:3とし、攪拌することで100gのインク材料である物体を用意した。
また、これらの物体について粘度測定を行った。測定には、粘弾性計測装置MCR-302E(Anton Paar)(アントンパール社製)を使用し、また、測定の際、せん断速度は0.1~0.5 [1/s]に設定し、粘度測定をした。更に、rpm換算で20rpmのせん断速度での粘度を測定した。これは、センシングを行う際にロータを20rpmで回転させたためである。この結果、(h) ブロッコリーについては、7.13×105 mPa・s、(i) ニンジンについては、2.02×105mPa・s、(j) 小松菜については、3.41×105mPa・s、(k) カボチャについては、2.15×105mPa・s、(l) トマトについては、2.68×105 mPa・sという値を得た。
【0084】
2)物体情報の取得
物体情報は、入出力部352を通じてユーザから取得した。物体情報は、5種類の物体、即ち、(h) ブロッコリー、(i) ニンジン、(j) 小松菜、(k) カボチャ、(l) トマトである。学習モデルにおいて、これらを正解ラベルとして使用した。
【0085】
3)学習モデルの生成
学習モデルの生成時点における、学習用データについての平均正解率、更に言えば、5種類の物体についての正解率の平均は82.0%であった。但し、最も低かったニンジンについての正解率は、58%であった。
【0086】
4)解析結果
学習済の学習モデル341を備えたシステムを用いて、評価用データについて上記「割合(%)」を表示させ、当該割合に基づいて分類を行ったところ、いずれについても良好な推定精度が得られ、結果、全ての物体について正しく分類することができた。但し、分類は正しかったものの、(h) ブロッコリーについての上記「割合(%)」は45.1%であるのに対し、(j) 小松菜についての上記「割合(%)」は43.1%であり、推定精度はそれほど大きくはなかった。但し、学習方法を工夫すること等により、精度を上げることは比較的容易であろう。
【0087】
[実施例4]
以下に特記する事項を除き、実施例3と同じものと考えてよい。
1)ステータ
実施例3で用いたシリコーンゴム(HTV-2000)のステータに代え、シリコーンゴム(Ecoflex(登録商標)00-10)(Smooth-On社製)のステータを使用した。造形手順は、実施例2で説明したシリコーンゴム(Ecoflex(登録商標)00-30)についての手順と同じである。上述した圧縮試験により、Ecoflex(登録商標)00-10のヤング率については、84kPaという値を得た。
【0088】
2)学習モデルの生成
学習モデルの生成時点における、学習用データに対する平均正解率は97%であった。最も低いニンジンにおいても、83%という高い値を得た。
【0089】
3)解析結果
学習済の学習モデル341を備えたシステムを用いて、評価用データについて上記「割合(%)」を表示させ、当該割合に基づいて分類を行ったところ、いずれについても比較的高い推定精度が得られ、結果、全ての物体について正しく分類することができた。最も推定精度が低かった(l)トマトの上記「割合(%)」についても、54.8%の値を得、上記「割合(%)」が「43.7%」と二番目に高い(h)ブロッコリーから、明確に分類することができた。
【0090】
以下の表2に、結果をまとめている。表2中の「割合(%)」は、表1と同様に、5種類の各物体について表示された割合(推定精度に相当)を示す。尚、これら実施例3及び4の結果から、物体の粘度が2.0×105 ~7.0×105mPa・s程度である場合の未学習データに対する推定(分類)では、ステータのヤング率を83~817kPa程度に設定することが好ましいと推察される。
【0091】
【表2】
【0092】
本発明の更に別の態様、特徴及び効果は、本発明を実施するよう意図された最良の態様を含めて、多数の特定の実施形態及び実施例を示すだけで、以下の詳細な説明から容易に明らかとなろう。又、本発明は、他の及び異なる実施形態で構成することもでき、そしてその多数の細部は、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、種々の明らかな観点において変更することができる。従って、図面及び説明は、例示に過ぎず、これに限定されるものではない。
【0093】
例えば、上に説明した実施形態では、本システムによる解析対象として、物体の種別を例示したが、本システムを、物体の粘度、濃度、その他の特性の解析に使用することもできる。例えば、ある一種類の物体の移送時に、物体の粘度や濃度に変化が生じたことを感知することができるようにして、物体の品質管理を行うシステムとして使用することもできる。従って、本システムの解析対象は、物体の種別に限定されない。
【0094】
また、上に説明した実施形態では、ステータ21の材料として、EGゲル、及び、シリコーンゴム(HTV-2000、Ecoflex(登録商標)00-10、Ecoflex(登録商標)00-30)を用いているが、分析に必要な振動を生じさせ、且つ、この振動を伝播させることができるような材料であれば、他の材料を使用することもできる。従って、本発明のステータ21の材料は、これらに限定されるものではない。
【0095】
更に、上に説明した実施形態では、ロータ22の材料として、樹脂材料を用いているが、既に説明したように、ロータ22の製造材料は、本システムにおける挙動の感知に大きな影響を与えないことから、一般に使用されている他の様々な材料を使用することができる。
【符号の説明】
【0096】
1 システム
2 ポンプ
3 制御装置(解析装置)
4 センサ
5 モータ装置
13 ネットワーク
15 管理サーバ
21 ステータ
22 ロータ
23 ケーシング
25a、b、c スペーサ
27 貯留部材
300 制御部
305 センサ情報生成部
310 振動波形処理部
311 デジタル変換部
312 フーリエ変換部
313 ノイズ処理部
314 逆フーリエ変換部
315 ピーク検出部
316 特徴量抽出部
320 情報取得部
321 センサ情報取得部
322 物体情報取得部
340 学習モデル生成部
341学習モデル
350 記憶部
351 通信部
360 調整部
図1
図2
図3
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