(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160601
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】感光性絶縁ペーストおよび電子部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/02 20060101AFI20241107BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20241107BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20241107BHJP
C03C 8/14 20060101ALI20241107BHJP
C03C 8/20 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H01F17/02
H01F17/00 D
C03C8/16
C03C8/14
C03C8/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075785
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100188802
【弁理士】
【氏名又は名称】澤内 千絵
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健太
【テーマコード(参考)】
4G062
5E070
【Fターム(参考)】
4G062AA09
4G062BB01
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5E070AB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】解像性、誘電率および線膨張係数のバランスが良好な感光性絶縁ペーストならびに感光性絶縁ペーストを用いた電子部品を提供する。
【解決手段】ガラスフリット、第1の無機フィラー、第2の無機フィラー、アルカリ可溶ポリマー、感光性モノマー、光重合開始剤および溶剤を含む感光性絶縁ペーストであって、ガラスフリットは、主成分としてSiO2およびB2O3を含み、副成分としてアルミニウム元素、ナトリウム元素およびリン元素の少なくとも1つを含む。第1の無機フィラーは、結晶性を有するケイ素酸化物であり、第2の無機フィラーは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、フォルステライトおよび無機酸化物顔料のうち少なくとも1種を含み、ガラスフリット、第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、第1の無機フィラーを10体積%以上40体積%以下、第2の無機フィラーを0体積%以上30体積%以下含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフリット、第1の無機フィラー、第2の無機フィラー、アルカリ可溶ポリマー、感光性モノマー、光重合開始剤および溶剤を含み、
前記ガラスフリットは、主成分としてSiO2およびB2O3を含み、副成分としてアルミニウム元素、ナトリウム元素およびリン元素の少なくとも1つを含み、
前記第1の無機フィラーは、結晶性を有するケイ素酸化物であり、
前記第2の無機フィラーは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、フォルステライトおよび無機酸化物顔料のうち少なくとも1種を含み、
前記ガラスフリット、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーを10体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーを0体積%以上30体積%以下含む、感光性絶縁ペースト。
【請求項2】
前記ガラスフリットの軟化点は、700℃以上900℃未満である、請求項1に記載の感光性絶縁ペースト。
【請求項3】
前記ガラスフリット、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーを20体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーを0体積%以上20体積%以下含む、請求項1または2に記載の感光性絶縁ペースト。
【請求項4】
前記ガラスフリット、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーを30体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーを10体積%以上20体積%以下含む、請求項1または2に記載の感光性絶縁ペースト。
【請求項5】
前記ガラスフリットの副成分は、リン元素を含む、請求項1または2に記載の感光性絶縁ペースト。
【請求項6】
前記リン元素は、0.1質量%以上10質量%以下含まれる、請求項5に記載の感光性絶縁ペースト。
【請求項7】
素体と、
前記素体内に設けられ、軸に沿って巻き回されたコイルと、
を備え、
前記コイルは、複数のコイル配線を有し、
前記素体は、ガラス材と第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを含み、
前記ガラス材は、主成分としてSiO2およびB2O3を含み、副成分としてアルミニウム元素、ナトリウム元素およびリン元素の少なくとも1つを含み、
前記第1の無機フィラーは、結晶性を有するケイ素酸化物であり、
前記第2の無機フィラーは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、フォルステライトおよび無機酸化物顔料のうち少なくとも1種を含み、
前記ガラス材、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーは10体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーは0体積%以上30体積%以下含む、電子部品。
【請求項8】
前記素体における隣り合う前記コイル配線間の部分の前記軸方向の厚みに対する、前記コイル配線の前記軸方向の厚みの比は、1.0以上3.0以下の範囲にある、請求項7に記載の電子部品。
【請求項9】
前記コイル配線の前記軸方向の厚みの平均値は、3μm以上15μm以下である、請求項7または8に記載の電子部品。
【請求項10】
前記コイル配線の巻回数は、1周以上である、請求項7または8に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、感光性絶縁ペーストおよび電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インダクタ部品の形成に感光性絶縁ペーストが用いられてきた。例えば、特開2012-246176号公報(特許文献1)には、ガラスフリットとして酸化ケイ素、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムを50質量%以上90質量%以下含む感光性絶縁ペーストが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記公報に記載された感光性絶縁ペーストでは、解像性が高くなった。しかしながら、感光性絶縁ペーストから形成された絶縁層の線膨張係数とコイル配線の線膨張係数との間の差が大きくなり、その結果、クラックなどが生じることがあった。また、絶縁層において、誘電率が高くなり、その結果、絶縁層の厚みを大きくする必要があった。このような場合、コイル配線の数を増やすことは容易ではなかった。
【0005】
したがって、本開示の目的は、解像性、誘電率および線膨張係数のバランスが良好な感光性絶縁ペーストおよび感光性絶縁ペーストを用いた電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本開示の一態様である感光性絶縁ペーストは、
ガラスフリット、第1の無機フィラー、第2の無機フィラー、アルカリ可溶ポリマー、感光性モノマー、光重合開始剤および溶剤を含み、
前記ガラスフリットは、主成分としてSiO2およびB2O3を含み、副成分としてアルミニウム元素、ナトリウム元素およびリン元素の少なくとも1つを含み、
前記第1の無機フィラーは、結晶性を有するケイ素酸化物であり
前記第2の無機フィラーは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、フォルステライトおよび無機酸化物顔料のうち少なくとも1種を含み、
前記ガラスフリット、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーを10体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーを0体積%以上30体積%以下含む。
【0007】
ガラスフリットと第1のフィラーと第2のフィラーとを上記の範囲含むことにより、解像性、誘電率および線膨張係数のバランスが良好な感光性絶縁ペーストを形成できる。
【0008】
感光性絶縁ペーストの一態様では、前記ガラスフリットの軟化点は、700℃以上900℃未満である。
【0009】
上記構成を有することにより、インダクタ部品が含むコイル配線の金属材料の焼結温度よりも低い温度で、ガラスフリットが溶融し、ガラスフリットを含む感光性絶縁ペーストから形成される素体と、コイル配線との密着性が良好になる。
【0010】
感光性絶縁ペーストの一態様では、前記ガラスフリット、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーを20体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーを0体積%以上20体積%以下含む。
【0011】
第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを上記範囲含むことにより、素体の強度を高くすることができ、かつ、素体と金属材料との線膨張係数差が小さくなることにより、インダクタ部品の信頼性が向上する。また、素体の誘電率も低減できる。したがって、解像性、誘電率および線膨張係数のバランスがより良好となる。
【0012】
感光性絶縁ペーストの一態様では、前記ガラスフリット、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーを30体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーを10体積%以上20体積%以下含む。
【0013】
第1の無機フィラーを上記の範囲含むことにより、感光性絶縁ペーストから形成される素体の線膨張係数は大きくなり、素体と金属材料との間の線膨張係数差を小さくすることができ、クラックの発生を抑制できる。第2の無機フィラーを上記範囲含むことにより、素体の強度は高くなる。これにより、インダクタ部品の信頼性はさらに向上する。
【0014】
感光性絶縁ペーストの一態様では、前記ガラスフリットの副成分は、リン元素を含む。
【0015】
上記構成を有することにより、ガラスフリットの融点は比較的低くなり、線膨張係数が大きくなる。これにより、コイル配線と素体との間の線膨張係数差を小さくすることができる。さらに、線膨張係数差に起因する応力の発生を抑制でき、クラックの発生を抑制できる。
【0016】
感光性絶縁ペーストの一態様では、前記リン元素は、0.1質量%以上10質量%以下含まれる。
【0017】
上記構成を有することにより、コイル配線と素体との間の線膨張係数差をより小さくすることができる。さらに、線膨張係数差に起因する応力の発生をより抑制でき、クラックの発生をさらに抑制できる。
【0018】
前記課題を解決するため、本開示の一態様である電子部品は、
素体と、
前記素体内に設けられ、軸に沿って巻き回されたコイルと、
を備え、
前記コイルは、複数のコイル配線を有し、
前記素体は、ガラス材と第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを含み、
前記ガラス材は、主成分としてSiO2およびB2O3を含み、副成分としてアルミニウム元素、ナトリウム元素およびリン元素の少なくとも1つを含み、
前記第1の無機フィラーは、結晶性を有するケイ素酸化物であり、
前記第2の無機フィラーは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、フォルステライトおよび無機酸化物顔料のうち少なくとも1種を含み、
前記ガラス材、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーは10体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーは0体積%以上30体積%以下含む。
【0019】
ガラス材と第1の無機ペーストと第2の無機ペーストを上記範囲含むことにより、解像性、誘電率および線膨張係数のバランスが良好な素体を形成できる。
【0020】
電子部品の一態様では、前記素体における隣り合う前記コイル配線間の部分の前記軸方向の厚みに対する、前記コイル配線の前記軸方向の厚みの比は、1.0以上3.0以下の範囲にある。
【0021】
上記構成を有することにより、素体における隣り合うコイル配線間の部分の厚みが小さくなり、その結果、コイル配線の数を多くでき、インダクタンス値を大きくできる。上記比が小さくなりすぎると、素体における隣り合うコイル配線間の部分の厚みが大きくなり、コイル配線の数が少なくなり、コイルの巻き数が少なくなる。その結果、電子部品においてインダクタンス値(L値)が小さくなる。前記比が大きくなりすぎると、素体における隣り合うコイル配線間の部分の厚みが小さくなりすぎ、コイル配線間の距離が近づき、浮遊容量が大きくなりQ値が低下するおそれがある。
【0022】
ここで、素体における隣り合うコイル配線間の部分の軸方向の厚みは、素体の中心を通り、コイル配線の延びる方向に直交する断面において、隣り合うコイル配線間の最短距離の値である。コイル配線の軸方向の厚みは、素体の中心を通り、コイル配線の延びる方向に直交する断面において、軸方向のコイル配線の最大値である。
【0023】
電子部品の一態様では、前記コイル配線の前記軸方向の厚みの平均値は、3μm以上15μm以下である。
【0024】
上記構成を有することにより、直流電気抵抗(Rdc)を抑制し、コイル配線の数を増やすことができ、インダクタンス値を大きくすることができる。上記平均値が小さくなりすぎると、直流電気抵抗が大きくなる。上記平均値が大きくなりすぎると、コイル配線の数が少なくなり、即ち、コイルの巻き数が少なくなり、インダクタンス値が低下する。
【0025】
電子部品の一態様では、前記コイル配線の巻回数は、1周以上である。
【0026】
上記構成を有することにより、インダクタンス値を向上できる。特に、素体の誘電率を抑えていることにより、コイル配線が1周以上となって、並走する部分が生じても、浮遊容量の増加を抑制することができ、電子部品の特性を向上できる。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、解像性、誘電率および線膨張係数のバランスが良好な感光性絶縁ペーストおよび感光性絶縁ペーストを用いた電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態のインダクタ部品を模式的に示す上面斜視図である。
【
図2】第1実施形態のインダクタ部品の分解斜視図である。
【
図3】第1実施形態のインダクタ部品のXY断面図である。
【
図4A】インダクタ部品の製造方法を説明する説明図である。
【
図4B】インダクタ部品の製造方法を説明する説明図である。
【
図4C】インダクタ部品の製造方法を説明する説明図である。
【
図4D】インダクタ部品の製造方法を説明する説明図である。
【
図4E】インダクタ部品の製造方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本開示の一態様である電子部品を図示の実施の形態により詳細に説明する。なお、図面は一部模式的なものを含み、実際の寸法や比率を反映していない場合がある。また、以下では、電子部品の一例であるインダクタ部品について説明しているが、電子部品はインダクタ部品以外の電子部品であってもよい。
【0030】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のインダクタ部品を模式的に示す上面斜視図である。
図2は、インダクタ部品の分解斜視図である。
図3は、インダクタ部品のXY断面図である。
図1では、素体10は、構造を容易に理解できるよう、透明に描かれているが、半透明や不透明であってもよい。
図3では、構造を容易に理解できるよう、ビア配線の記載を省略している。
【0031】
インダクタ部品1は、第1、第2外部電極30,40を介して、図示しない回路基板の配線に電気的に接続される。インダクタ部品1は、例えば、高周波回路のインピーダンス整合用コイル(マッチングコイル)として用いられ、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器に用いられる。ただし、インダクタ部品1の用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
【0032】
素体10は、複数の絶縁層11を積層して構成される。絶縁層11は、例えば、感光性絶縁ペーストを塗布し、必要に応じて乾燥する工程を複数回繰り返して積層体を形成し、その後焼成を行うことにより得られる。素体10は、略直方体状に形成されている。素体10の表面は、第1側面13と、第1側面に対向する第2側面14と、第1端面15と、第1端面15に対向する第2端面16と、第1端面15と第2端面16の間に接続された底面17と、底面17に対向する天面18とを有する。第1端面15、第2端面16、底面17および天面18は、絶縁層11の積層方向に平行な面となる。ここで、本願における「平行」とは、厳密な平行関係に限定されず、現実的なばらつきの範囲を考慮し、実質的な平行関係も含む。なお、素体10は、焼成などによって、複数の絶縁層11同士の界面が明確となっていない場合がある。
【0033】
なお、図面に示すように、以下では、説明の便宜上、第1端面15から第2端面16に向かう方向をX方向とする。第2側面14から第1側面13に向かう方向をY方向とする。底面17から天面18に向かう方向をZ方向とする。X方向、Y方向及びZ方向は、互いに直交する方向であって、X,Y,Zの順に並べたとき、左手系を構成する。
【0034】
第1外部電極30および第2外部電極40は、例えば、AgまたはCuなどの導電性材料、及び、ガラス粒子から構成される。第1外部電極30は、第1端面15と底面17に渡って設けられたL字形状である。第2外部電極40は、第2端面16と底面17に渡って設けられたL字形状である。なお、第1実施形態では、第1外部電極30および第2外部電極40は、L字形状を有しているが、他の形状を有してもよい。例えば、第1外部電極30および第2外部電極40は、底面のみに設けられる形状を有してもよい。または、第1外部電極30は、素体10の第1端面15および第1端面15に隣接する第1側面13、第2側面14、底面17および天面18の一部に設けられ、第2外部電極40は、第2端面16および第2端面16に隣接する第1側面13、第2側面14、底面17および天面18の一部に設けられてもよい。
【0035】
コイル20は、例えば、第1、第2外部電極30,40と同様の導電性材料及びガラス粒子から構成される。コイル20は、絶縁層11の積層方向に沿って、螺旋状に巻き回されている。コイル20の第1端は、第1外部電極30に接続され、コイル20の第2端は、第2外部電極40に接続されている。なお、本実施形態では、コイル20と第1、第2外部電極30,40とは一体化されており、明確な境界は存在しないが、これに限られず、コイルと外部電極とが異種材料や異種工法で形成されることにより、境界が存在していても良い。
【0036】
コイル20は、軸方向Lからみて、略長円形に形成されているが、この形状に限定されない。コイル20の形状は、例えば、円形、楕円形、長方形、その他の多角形などであってもよい。コイル20の軸方向Lとは、コイル20が巻き回された螺旋の中心軸に平行な方向を指す。コイル20の軸方向Lと絶縁層11の積層方向とは、同方向(Y方向)を指す。
【0037】
コイル20は、絶縁層11上に巻回された複数のコイル配線25を含む。積層方向に隣り合うコイル配線25は、絶縁層11を厚み方向に貫通するビア配線26を介して、電気的に直列に接続される。このように、複数のコイル配線25は、互いに電気的に直列に接続されながら、螺旋を構成している。具体的には、コイル20は、互いに電気的に直列に接続され、巻回数が1周未満の複数のコイル配線25が積層された構成を有し、コイル20はヘリカル形状である。なお、コイル20の巻回数は1周以上であってもよく、1周未満および1周以上を組み合わせてもよい。
【0038】
好ましくは、素体10における隣り合うコイル配線25間の部分の軸方向Lの厚みD1に対する、コイル配線25の軸方向Lの厚みD2の比は、1.0以上3.0以下の範囲にある。上記構成を有することにより、厚みD1が小さくなり、その結果、コイル配線25の数を多くでき、インダクタンス値を大きくできる。上記比が小さくなりすぎると、厚みD1が大きくなり、コイル配線25の数が少なくなり、コイル20の巻き数が少なくなる。その結果、インダクタ部品1においてインダクタンス値が小さくなる。前記比が大きくなりすぎると、厚みD1が小さくなりすぎ、コイル配線25間の距離が近づき、浮遊容量が大きくなりQ値が低下するおそれがある。
【0039】
ここで、厚みD1は、素体10の中心を通り、コイル配線25の延びる方向に直交する断面において、隣り合うコイル配線25間の最短距離の値である。厚みD2は、素体10の中心を通り、コイル配線25の延びる方向に直交する断面において、軸方向Lのコイル配線25の最大値である。
【0040】
好ましくは、コイル配線25の軸方向Lの厚みの平均値は、3μm以上15μm以下である。上記構成を有することにより、直流電気抵抗(Rdc)を抑制し、コイル配線25の数を増やすことができ、インダクタンス値(L値)を大きくすることができる。上記平均値が小さくなりすぎると、直流電気抵抗が大きくなる。上記平均値が大きくなりすぎると、コイル配線25の数が少なくなり、即ち、コイル20の巻き数が少なくなり、インダクタンス値が低下する。
【0041】
好ましくは、コイル配線25の巻回数は、1周以上である。上記構成を有することにより、インダクタ部品1のインダクタンス値を向上できる。特に、素体10の誘電率を抑えていることにより、コイル配線25が1周以上となって、並走する部分が生じても、浮遊容量の増加を抑制することができ、インダクタ部品1の特性を向上できる。
【0042】
(感光性絶縁ペーストおよび絶縁層11)
感光性絶縁ペーストおよび絶縁層11について、説明する。
【0043】
感光性絶縁ペーストは、ガラスフリット、第1の無機フィラー、第2の無機フィラー、アルカリ可溶ポリマー、感光性モノマー、光重合開始剤および溶剤を含む。ガラスフリットは、主成分としてSiO2およびB2O3を含み、副成分としてアルミニウム元素、ナトリウム元素およびリン元素の少なくとも1つを含む。第1の無機フィラーは、結晶性を有するケイ素酸化物である。第2の無機フィラーは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、フォルステライトおよび無機酸化物顔料のうち少なくとも1種を含む。ガラスフリット、第1の無機フィラー、および、第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、第1の無機フィラーを10体積%以上40体積%以下、第2の無機フィラーを0体積%以上30体積%以下含む。
【0044】
本発明者の検討により、ガラスフリットと、第1の無機フィラーと、第2の無機フィラーとを、上記の範囲含むことにより、解像性、誘電率および線膨張係数のバランスが良好な感光性絶縁ペーストを形成できることが分かった。具体的には、ガラスフリットを上記の範囲含むことにより、解像性の高い感光性絶縁ペーストが得られ、この感光性絶縁ペーストにより高精度のインダクタ部品1を形成できる。ガラスフリットの含有率が多くなると、感光性絶縁ペーストから形成される素体10(絶縁層11)に含まれるフィラーによるクラック伸展防止効果を得られず、強度が低下し、素体10にクラックが生じることがある。ガラスフリットの含有率が少なくなると、ガラスフリットは密に焼成できなくなり、その結果、素体10は脆くなり、割れやすくなる。第1の無機フィラーを上記範囲含むことにより、素体10を密に焼結させながら、素体10と上記インダクタ部品1が含むコイル配線25の金属材料との間の線膨張係数差を小さくすることが可能になり、クラックの発生を抑制できる。さらに、素体10の誘電率を小さくすることが可能になり、インダクタ部品1の電気特性を向上させることができる。なお、第1の無機フィラーの含有率が大きくなりすぎると、ガラスフリットの含有率が低減し密に焼結できなくなる結果、素体10が脆くなる。また、第1のフィラーの含有率が小さくなりすぎると、上述の線膨張係数差や誘電率の低減効果が得られなくなる。第2の無機フィラーを加えることにより、素体10の強度をより高くすることができ、素体10とコイル配線25との間に生じる応力に耐えることができる。その結果、第2の無機フィラーを上記範囲含むことにより、クラックは生じにくくなる。第2の無機フィラーの含有率が大きくなりすぎると、感光性ペーストの光透過性が低下し、解像性が悪化する。さらに、素体10が密に焼結しにくくなり脆くなることに加え、素体10の誘電率が上昇し、インダクタ部品1の電気特性が低下する。また、ガラスフリットと第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを上記範囲含むことにより、素体10の厚みを小さくでき、コイル配線25の数を増加することができ、その結果、インダクタ部品1のインダクタンス値は大きくなる。また、ガラスフリットと第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを上記範囲含むことにより、素体10の誘電率が低くなる。これにより、素体10における隣り合うコイル配線25間の部分の厚みを小さくでき、コイル配線25の数を増加することができ、その結果、インダクタ部品1のインダクタンス値は大きくなる。以上のように、ガラスフリットと第1のフィラーと第2のフィラーとを上記の範囲含むことにより、解像性、誘電率および線膨張係数のバランスが良好な素体10を形成できる。
【0045】
ガラスフリットとしては、ホウケイ酸ガラスを用いることができる。なお、ガラスフリットとしては、ホウケイ酸ガラス以外に、例えば、SiO2、B2O3、K2O、Li2O、CaO、ZnO、Bi2O3、P2O5および/またはAl2O3などを含むガラス、例えば、SiO2-B2O3-K2O系ガラス、SiO2-B2O3-Li2O-CaO系ガラス、SiO2-B2O3-Li2O-CaO-ZnO系ガラス、SiO2-B2O3-P2O5系ガラスおよびBi2O3-B2O3-SiO2-Al2O3系ガラスであってもよい。これらの無機成分は、2種以上を組み合わせてもよい。
【0046】
ガラスフリットの軟化点は700℃以上900℃未満である。上記構成を有することにより、インダクタ部品1が含むコイル配線25の金属材料の焼結温度よりも低い温度においてガラスフリットが溶融し、ガラスフリットを含む感光性絶縁ペーストから形成される素体10と、コイル配線25との密着性が良好になる。軟化点は、熱機械分析装置(TMA)を用いて測定した値である。
【0047】
第1の無機フィラーとして、例えば、クオーツ、シリカを挙げることができ、好ましくはクオーツを用いることができる。上記構成を有することにより、線膨張係数が高くなり、感光性絶縁ペーストから形成される絶縁層11とコイル配線25との間の線膨張係数差はさらに小さくなる。これにより、絶縁層11とコイル配線25との間にクラックが発生することを抑制できる。クオーツは、結晶石英であり、クオーツの結晶化度は、特に限定されない。
【0048】
好ましくは、第2の無機フィラーは、アルミナである。
【0049】
第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーのそれぞれの平均粒径は、例えば、0.1μm以上5.0μm以下であり、具体的には0.3μm以上3.0μm以下である。平均粒径が小さすぎると、感光性絶縁ペーストの分散が困難になる。平均粒径が大きくなりすぎると、絶縁層11の平滑性が低下することがある。
【0050】
アルカリ可溶ポリマーは、例えば、側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系重合体を含む。側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体を含む前記樹脂は、例えば、不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物を共重合させることにより製造することができる。
【0051】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル酢酸およびこれらの無水物などが挙げられる。エチレン性不飽和化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステル、フマル酸モノエチルなどのフマル酸エステルなどが挙げられる。
【0052】
側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体としては、以下のような形態の不飽和結合を導入したものを用いてもよい。
(1)アクリル系共重合体の側鎖のカルボキシル基に、これと反応可能な、例えばエポキシ基などの官能基を有するアクリル系モノマーを付加する。
(2)側鎖のカルボキシル基の代わりにエポキシ基が導入されてなる前記アクリル系共重合体に、不飽和モノカルボン酸を反応させた後、さらに飽和または不飽和多価カルボン酸無水物を導入する。
【0053】
側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体としては、重量平均分子量(Mw)が50,000以下、かつ酸価が30以上150以下のものを用いてもよい。
【0054】
感光性モノマーとしては、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートを用いることができる。なお、感光性モノマーとして、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート以外にも、ヘキサンジオールトリアクリレート、トリプロピレングリコールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウリルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、トリデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、エトキシ化ノニルフェノールアクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールA ジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどを用いることができる。また、上記化合物の分子内のアクリレートの一部もしくは全てをメタクリレートに変えたものを用いることができる。
【0055】
光重合開始剤としては、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、アシルホスフィン系化合物、オキシムエステル系化合物を用いることができる。
【0056】
溶剤としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、エチルアセテート、ブチルアセテート、ペンチルアセテート、ヘキシルアセテート、シクロヘキサノールアセテートを用いることができる。
【0057】
感光性絶縁ペーストは、さらに有機染料を含んでいてもよい。有機染料としては、アゾ系化合物を用いることができる。有機染料は、フォトリソパターニングのために感光性絶縁ペーストを使用する場合に、紫外線透過率を微調整するための紫外線吸収剤として機能する。
【0058】
好ましくは、ガラスフリット、第1の無機フィラー、および、第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、第1の無機フィラーを20体積%以上40体積%以下、第2の無機フィラーを0体積%以上20体積%以下含む。第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを上記範囲含むことにより、素体10の強度を高くすることができ、かつ、素体10と金属材料との線膨張係数差が小さくなることにより、インダクタ部品1の信頼性が向上する。また、素体10の誘電率も低減できる。したがって、解像性、誘電率および線膨張係数のバランスがより良好となる。
【0059】
好ましくは、ガラスフリット、第1の無機フィラー、および、第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、第1の無機フィラーを30体積%以上40体積%以下、第2の無機フィラーを10体積%以上20体積%以下含む。第1の無機フィラーを上記の範囲含むことにより、感光性絶縁ペーストから形成される素体10の線膨張係数は大きくなり、素体10と金属材料との間の線膨張係数差を小さくすることができ、クラックの発生を抑制できる。第2の無機フィラーを上記範囲含むことにより、素体10の強度は高くなる。これにより、インダクタ部品1の信頼性はさらに向上する。
【0060】
なお、ガラスフリット、第1の無機フィラー、および、第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、第1の無機フィラーを10体積%以上40体積%以下、第2の無機フィラーを0体積%含んでいてもよく、第1の無機フィラーを20体積%以上40体積%以下、第2の無機フィラーを0体積%含んでいてもよい。
【0061】
好ましくは、ガラスフリットは、副成分としてリン元素を含む。上記構成を有することにより、ガラスフリットの融点は比較的低くなり、線膨張係数が大きくなる。これにより、コイル配線25と素体10との間の線膨張係数差を小さくすることができる。さらに、線膨張係数差に起因する応力の発生を抑制でき、クラックの発生を抑制できる。
【0062】
好ましくは、ガラスフリットは、リン元素を、0.1質量%以上10質量%以下含む。リン元素の含有量は、波長分散型蛍光X線分析装置(WDX)もしくは高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて測定する。
【0063】
絶縁層11は、ガラス材と、第1の無機フィラーと、第2の無機フィラーとを含む。ガラス材は、主成分としてSiO2およびB2O3を含み、副成分としてアルミニウム元素、ナトリウム元素およびリン元素の少なくとも1つを含む。第1の無機フィラーは、結晶性を有するケイ素酸化物である。第2の無機フィラーは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、フォルステライトおよび無機酸化物顔料のうち少なくとも1種を含む。ガラス材、第1の無機フィラー、および、第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、第1の無機フィラーは10体積%以上40体積%以下、第2の無機フィラーは0体積%以上30体積%以下含む。即ち、ガラス材、第1の無機フィラー、および、第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、ガラス材は30体積%以上90体積%以下、第1の無機フィラーは10体積%以上40体積%以下、第2の無機フィラーは0体積%以上30体積%以下含む。なお、主成分とは、ガラス材100体積%に対し、60体積%以上含まれる成分をいう。主成分の上限値は特に限定されないが、例えば、99体積%以下である。副成分とは、ガラス材100体積%に対し、40体積%以下含まれる成分をいう。副成分の下限値は特に限定されないが、例えば、0.1体積%以上である。絶縁層11に含まれるガラス材、第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーの比率は、感光性絶縁ペーストに含まれるガラスフリット、第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーの比率と実質的に同じである。絶縁層11に含まれるガラス材は、感光性絶縁ペーストに含まれるガラスフリットを焼成することにより得られる。絶縁層11に含まれる第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーの種類および組成は、感光性絶縁ペーストに含まれる第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーの種類および組成と同じである。
【0064】
感光性絶縁ペーストのガラスフリットと第1の無機ペーストと第2の無機ペーストと同様に、ガラス材と第1の無機ペーストと第2の無機ペーストを上記範囲含むことにより、解像性、誘電率および線膨張係数のバランスが良好な絶縁層11(素体10)を形成できる。
【0065】
(製造方法)
次に、インダクタ部品1の製造方法について説明する。
【0066】
まず、ネガ型の感光性絶縁ペーストと導電ペーストとを準備する。
【0067】
図4Aに示すように、感光性絶縁ペーストを塗布して外側絶縁層11aを形成する。感光性絶縁ペーストは、例えば、スクリーン印刷により塗布される。なお、
図4Aから
図4Eは、XY方向の断面図である。
【0068】
図4Bに示すように、外側絶縁層11aに感光性絶縁ペーストを塗布して第1絶縁層11bを形成する。その後、第1絶縁層11bの第1部分111(二点鎖線に示される)をマスク110により遮光した状態で、第1絶縁層11bを露光する。
図4Cに示すように、第1絶縁層11bの第1部分111を現像により除去して、第1部分111に対応する位置に溝112を形成する。
図4Dに示すように、コイル配線25は、溝112内に形成される。
【0069】
図4Eに示すように、第1絶縁層11b上およびコイル配線25上に感光性絶縁ペーストを塗布して、第2絶縁層11cを形成する。以上の工程を複数繰り返して、積層体を形成し、その後、焼成を行い、インダクタ部品1を製造する。
【実施例0070】
本発明について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1~9、比較例1~3)
ガラスフリットとしてリン元素含有ホウケイ酸ガラスを、第1の無機フィラーとしてクオーツを、第2の無機フィラーとしてアルミナを、それぞれ表1の比率で混合し、感光性絶縁ペーストを形成した。
【0072】
得られた感光性絶縁ペーストを用いて、インダクタ部品1を形成した。また、インダクタ部品1の形成時に、解像性、誘電率、クラック防止効果を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
(解像性)
スクリーン印刷でペーストを20μmの厚みで印刷し、セーフティーオーブンで乾燥後、種々の寸法の開口部を有するフォトマスクを介して露光処理し、アルカリ水溶液で現像を行うことで配線パターンを形成した。残渣やパターンの欠落なく作製できたパターンの幅と厚みを測定し、アスペクト比(厚み/幅)を算出した。
◎:解像性が1.0以上である。
〇:解像性が0.5以上1.0未満である。
×:解像性が0.5未満である。
【0074】
(誘電率)
感光性絶縁ペーストから絶縁層を形成し、誘電率を測定した。誘電率は、シグナルアナライザ(キーサイト社製)を用いて測定した。
◎:誘電率が6.0以上である。
〇:誘電率が6.0以上7.0未満である。
×:誘電率が7.0未満である。
【0075】
(クラック防止効果)
クラック防止効果は、以下のように測定した。
【0076】
絶縁ペーストから作製したインダクタ部品を基板上に固定し、インダクタ部品の素体部にナノインデンターの測定圧子を押し当てた際の試験荷重(p)-変位(h)プロットを取得した。得られた試験荷重(p)-変位(h)データから荷重増加時の接触剛性(S=dp/dh)を算出し、接触剛性(S)-試験荷重(p)のプロットを作成した。作成したプロットで接触剛性の低下の見られるピークのうち、最も低い荷重別にあるピークが部品素体部に初めて入ったクラックと判断し、そのときの荷重を「クラック発生荷重」と定義した。
ナノインデンターの装置および測定条件は、以下のとおりである。
・設備:ナノインデンターENT-1100a(エリオニクス社製)
・試験荷重:100gf
・ステップインターバル:20msec
◎:クラック発生荷重が70N以上である。
〇:クラック発生荷重が30N以上、70N未満である。
×:クラック発生荷重が30N未満である。
【0077】
【0078】
実施例1から4では、ガラスフリットと第1の無機フィラーとを含む感光性絶縁ペーストを用いた。実施例1から4において、感光性絶縁ペーストの解像性、誘電率、クラック防止効果は、全て良好であった。特に、第1の無機フィラーを20体積%以上40体積%以下含むことにより、誘電率がさらに良好となった。
【0079】
実施例5から9では、ガラスフリットと第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを含む感光性絶縁ペーストを用いた。実施例5から9において、感光性絶縁ペーストの解像性、誘電率、クラック防止効果は、全て良好であった。特に、クラック防止効果において、実施例5から9は、実施例1から4よりも良好となった。これは、第2の無機フィラーを含むことにより、素体の強度が向上したためと考えられる。また、実施例5および6では、感光性絶縁ペーストの解像性、インダクタ部品の誘電率、クラック防止効果は、全て特に良好となった。
【0080】
比較例1では、ガラスフリットのみを含む感光性絶縁ペーストを用いた。比較例1では、解像性および誘電率は良好であったが、クラック防止効果は×と評価された。比較例2では、第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーを共に40体積%含む感光性絶縁ペーストを用いた。しかしながら、解像性、誘電率、クラック防止効果の全てにおいて、×と評価された。比較例2では、第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーの含有率が高くなることにより、ガラスフリットの含有率が低下し、形成された絶縁層が脆くなったためと考えられる。比較例3では、ガラスフリットの含有率は比較例2と同じ20体積%であるが、第1の無機フィラーを50体積%、第2の無機フィラーを30体積%として、感光性絶縁ペーストを形成した。解像性、誘電率の評価は良好であったが、クラック防止効果の評価は×であった。これは、ガラスフリットの含有率が適切な範囲になかったためであると考えられる。
【0081】
以上のように、ガラスフリットと第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを、それぞれ適切な範囲で含む感光性絶縁ペーストを用いることにより、解像性、誘電率、クラック防止効果の全てで良好な結果が得られることが分かった。
【0082】
なお、本開示は上述の実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。コアの形状は、本実施形態に限定されず、設計変更可能である。また、コイルの数量は、本実施形態に限定されず、設計変更可能である。
【0083】
本開示は以下の態様を含む。
<1>
ガラスフリット、第1の無機フィラー、第2の無機フィラー、アルカリ可溶ポリマー、感光性モノマー、光重合開始剤および溶剤を含み、
前記ガラスフリットは、主成分としてSiO2およびB2O3を含み、副成分としてアルミニウム元素、ナトリウム元素およびリン元素の少なくとも1つを含み、
前記第1の無機フィラーは、結晶性を有するケイ素酸化物であり、
前記第2の無機フィラーは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、フォルステライトおよび無機酸化物顔料のうち少なくとも1種を含み、
前記ガラスフリット、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーを10体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーを0体積%以上30体積%以下含む、感光性絶縁ペースト。
<2>
前記ガラスフリットの軟化点は、700℃以上900℃未満である、<1>に記載の感光性絶縁ペースト。
<3>
前記ガラスフリット、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーを20体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーを0体積%以上20体積%以下含む、<1>または<2>に記載の感光性絶縁ペースト。
<4>
前記ガラスフリット、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーを30体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーを10体積%以上20体積%以下含む、<1>から<3>のいずれか1つに記載の感光性絶縁ペースト。
<5>
前記ガラスフリットの副成分は、リン元素を含む、<1>から<4>のいずれか1つに記載の感光性絶縁ペースト。
<6>
前記リン元素は、0.1質量%以上10質量%以下含まれる、<5>に記載の感光性絶縁ペースト。
<7>
素体と、
前記素体内に設けられ、軸に沿って巻き回されたコイルと、
を備え、
前記コイルは、複数のコイル配線を有し、
前記素体は、ガラス材と第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを含み、
前記ガラス材は、主成分としてSiO2およびB2O3を含み、副成分としてアルミニウム元素、ナトリウム元素およびリン元素の少なくとも1つを含み、
前記第1の無機フィラーは、結晶性を有するケイ素酸化物であり、
前記第2の無機フィラーは、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、フォルステライトおよび無機酸化物顔料のうち少なくとも1種を含み、
前記ガラス材、前記第1の無機フィラー、および、前記第2の無機フィラーの合計100体積%に対し、前記第1の無機フィラーは10体積%以上40体積%以下、前記第2の無機フィラーは0体積%以上30体積%以下含む、電子部品。
<8>
前記素体における隣り合う前記コイル配線間の部分の前記軸方向の厚みに対する、前記コイル配線の前記軸方向の厚みの比は、1.0以上3.0以下の範囲にある、<7>に記載の電子部品。
<9>
前記コイル配線の前記軸方向の厚みの平均値は、3μm以上15μm以下である、<7>または<8>に記載の電子部品。
<10>
前記コイル配線の巻回数は、1周以上である、<7>から<9>のいずれか1つに記載の電子部品。